公開日: 2017/09/28 (掲載号:No.237)
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〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第19回】「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」〈その2〉

筆者: 菊地 康夫

〈事例で学ぶ〉
法人税申告書の書き方

【第19回】

「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」
〈その2〉

 

公認会計士・税理士
菊地 康夫

 

Ⅰ はじめに

本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。

前回は「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」を採り上げたが、今回は同じ別表のうち、「Ⅱ 特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」の部分を採り上げる。

 

Ⅱ 概要

本明細書は、法人が、特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(措置法第65条の3)、特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(第65条の4)、農地保有の合理化のために農地等を譲渡した場合の所得の特別控除(第65条の5)の規定の適用を受ける場合に記載する。

本制度は、前回説明した収用換地等の場合の5,000万円の特別控除以外にも、法人の有する土地等が特定の事業のために買い取られた場合に認められる所得の特別控除制度である。

そもそも法人が所有する土地等の資産の譲渡益があった場合には、その収益は課税所得となるのが原則である。しかし、特定の公共事業等による買取りの利益までをも課税対象とすると企業は代替資産の取得が困難となり、事業継続に支障をきたす恐れが生じてしまう。

そこで公共事業等の施行を円滑に進めることができるように、一定の要件のもと譲渡益について以下のような特別控除の制度が設けられたのである。

(1) 国、地方公共団体、独立行政法人都市再生機構等が行う特定土地区画整理事業等の事業の用に供するために買い取られた場合(措置法65の3)
2,000万円の特別控除

(2) 地方公共団体、独立行政法人都市再生機構等が行う特定住宅地造成事業等の事業の用に供するために買い取られた場合(措置法65の4)
1,500万円の特別控除

(3) 農業生産法人が農地保有の合理化のために農地等を譲渡した場合(措置法65の5)800万円の特別控除

なお本明細書では、上記の場合の他、特定の長期所有土地等の所得の特別控除(措置法第65条の5の2)の場合にも記載することになる。

この制度は、法人が平成21年1月1日から平成22年12月31日までの期間内に取得をした国内にある土地等について、その取得をした日から引き続き所有し、かつ取得をした日の翌日からその土地等の譲渡をした日の属する年の1月1日までの所有していた期間が5年を超えるものの譲渡をした場合で、一定の要件を満たしている場合には、その譲渡益の額のうち年1,000万円までは、その譲渡の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することを認めるものである。

これは対象となる土地等の取得を平成21年と22年の2年間に限定し、集中的な土地取得を促進することで、当時の低迷する市場の土地需要を喚起し、土地の流動化を図るための臨時的な特例措置であることに留意する必要がある。

▼ 注意!▼

これらの特別控除が同一暦年中に2つ以上適用される場合には、特別控除の合計額は5,000万円が限度とされる。この限度額の計算は、事業年度単位ではなく、あくまで暦年単位で判定することになる。

 

Ⅲ 「別表10(5)」の書き方と留意点

(1) 設例

▷ 会社名:(株)プロネット工業

▷ 事業年度:平成28年10月1日~平成29年9月30日

平成28年11月25日に、当社所有の土地について、特定土地区画整理事業の用地買収のためにA県に土地を引き渡した。一部は他の土地と交換され、残りは現金で対価を取得した。

詳細は次の通り。
  • 買収された土地の直前の帳簿価額:50,000千円(時価70,000千円)
  • 交換取得した土地の時価:30,000千円
  • 取得した対価の金額:40,000千円
  • 買収された土地の上に存する建物の取壊し費用等:5,000千円
  • 上記取壊し費用に充てるために交付された補償金:4,000千円

なお、特定土地区画整理事業等のために平成28年4月21日に他の土地を譲渡しており、前期(平成28年9月期)の決算において10,000千円の特別控除を受けている。

(2) 今回の別表が適用される事業年度

平成29年4月1日以後終了する事業年度。

(3) 別表の記載例

※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。

(4) 別表の各記載欄の説明

Ⅱ 特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書

〔19欄〕〔28欄〕については、各特別控除制度とも共通で記入し、その後適用を受ける制度に応じて、
「特定土地区画整理事業等の譲渡」〔29欄〕〔33欄〕
「特定住宅地造成事業等の譲渡」〔34欄〕〔38欄〕
「農地保有の合理化のための譲渡」〔39欄〕〔43欄〕
「特定の長期所有土地等の譲渡」〔44欄〕〔48欄〕
の各欄に記載する。なお、複数の制度を同時に適用する場合には、別表もその都度分けて記載することになる。

〔19欄〕事業施行者等の名称

売買契約書等に記載されている、用地買収等を行う事業施行者等の名称を記載。事例では、「A県」と記入。ただし、「特定の長期所有土地等を譲渡した場合の特別控除額」の規定を受ける場合には、記載をする必要はない。

〔20欄〕特定事業の用地買収等により譲渡した年月日

用地買収等により譲渡した資産の譲渡年月日(売買契約等の効力発生日)を記載。事例では、「28.11.25」と記入。

また、「特定の長期所有土地等を譲渡した場合の特別控除額」の規定を受ける場合には、上段の括弧(平 ・ ・ )内にその譲渡をした特定の長期所有土地等の取得年月日を記載。

〔21欄〕取得した対価の額

用地買収等又は特定の長期所有土地等の譲渡により取得した対価の額を記載。事例では、「40,000,000」と記入。

〔22欄〕交換取得資産の価額

用地買収等により取得した交換取得資産がある場合には、その時価の金額を記載。事例では、「30,000,000」と記入。

〔23欄〕交換取得資産につき支払った交換差金の額

用地買収等により取得した交換取得資産がある場合で、その取得に伴って支払った交換差金がある場合には、その金額を記載。事例では該当がないので空欄のまま。

〔24欄〕特定事業の用地買収等により譲渡した部分の帳簿価額

用地買収等又は特定の長期所有土地等の譲渡により譲渡した資産について、譲渡直前の帳簿価額を記載。なお資産の一部を譲渡した場合には、当該譲渡部分に対応する帳簿価額を計算して記載する。事例では、「50,000,000」と記入。

▼ 注意!▼

譲渡資産に減価償却超過額等の税務上の否認額がある場合には、この金額を帳簿価額に加算すること。

「譲渡経費の額の計算」

〔25欄〕支出した譲渡経費の額

対象資産の譲渡に関連して支出した費用(斡旋手数料、立退料、建物等の取壊し費用や移設費用等)の合計金額を記載。事例では、「5,000,000」を記入。

〔26欄〕譲渡経費に充てるため交付を受けた金額

対象資産の譲渡に関連して支出した費用の額に充てるために交付を受けた補償金等の額を記載。事例では、「4,000,000」を記入。

〔27欄〕差引譲渡経費の額

〔25欄〕〔26欄〕の計算結果を記載(マイナスは0)。事例では5,000,000-4,000,000の計算結果である「1,000,000」を記入。

〔28欄〕譲渡益の額

〔21欄〕〔22欄〕〔23欄〕〔24欄〕〔27欄〕の計算結果を記載。

事例では、40,000,000+30,000,000-0-50,000,000-1,000,000の計算結果である「19,000,000」を記入。

「特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の特別控除額の計算」

事例では、特定土地区画整理事業等の譲渡のため、以下〔29欄〕〔33欄〕に記載していく。

〔29欄〕当該譲渡の日の属する年において譲渡した他の資産につき、2,000万円特別控除の規定の適用を受けた金額

特別控除を受ける資産を譲渡した年と同一年に他の譲渡した資産について同じ特別控除をすでに受けている場合に、その特別控除を受けた金額を記載。事例では、同じ平成28年中に他の資産で同じ特定土地区画整理事業等の場合の1,000万円の特別控除を受けているので、「10,000,000」と記入。

〔30欄〕2,000万円-(29)

2,000万円-〔29欄〕の計算結果を記載。事例では20,000,000-10,000,000の計算結果である「10,000,000」を記入。

〔31欄〕当該譲渡の日の属する年において譲渡した他の資産につき、5,000万円、2,000万円、1,500万円及び800万円特別控除の規定並びに1,000万円特別控除の規定の適用を受けた金額

特別控除を受ける資産を譲渡した年と同一年に他の譲渡した資産について、収用換地等の場合の特別控除を含むすべての特別控除についてすでに受けている場合に、その特別控除を受けた金額を記載。事例では、同じ平成28年中に他の資産で1,000万円の特別控除を受けているので、「10,000,000」と記入。

〔32欄〕特別控除残額

5,000万円-〔31欄〕の計算結果を記載。事例では50,000,000-10,000,000の計算結果である「40,000,000」を記入。

〔33欄〕特別控除額

〔28欄〕〔30欄〕〔32欄〕の金額のうち最も少ない金額を記載。事例では「10,000,000」を記入。

「特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の特別控除額の計算」

事例では、該当がないため、以下〔34欄〕〔38欄〕の説明を省略するが、上記の〔29欄〕〔33欄〕の記載の仕方に準じて記載することになる。

「農地保有の合理化のために農地等を譲渡した場合の特別控除額の計算」

事例では、該当がないため、以下〔39欄〕〔43欄〕の説明を省略するが、上記の〔29欄〕〔33欄〕の記載の仕方に準じて記載することになる。

「特定の長期所有土地等を譲渡した場合の特別控除額の計算」

事例では、該当がないため、以下〔44欄〕〔48欄〕の説明を省略するが、上記の〔29欄〕〔33欄〕の記載の仕方に準じて記載することになる。

(了)

「〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方」は、毎月最終週に掲載されます。

〈事例で学ぶ〉
法人税申告書の書き方

【第19回】

「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」
〈その2〉

 

公認会計士・税理士
菊地 康夫

 

Ⅰ はじめに

本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。

前回は「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」を採り上げたが、今回は同じ別表のうち、「Ⅱ 特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」の部分を採り上げる。

 

Ⅱ 概要

本明細書は、法人が、特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(措置法第65条の3)、特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(第65条の4)、農地保有の合理化のために農地等を譲渡した場合の所得の特別控除(第65条の5)の規定の適用を受ける場合に記載する。

連載目次

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方

第1回~第30回 ※クリックするとご覧いただけます。

第31回~

筆者紹介

菊地 康夫

(きくち・やすお)

公認会計士・税理士

平成6年、公認会計士2次試験合格。平成12年、税理士登録。
これまで上場会社等の会計監査業務から中小企業・個人事業者の税務顧問、決算書の分析をもとにした経営診断・コンサルティング業務、セミナー講師など幅広い業務に従事。

【主な著作】
『記載例でわかる法人税申告書 プロの読み方・作り方』(清文社)
『決算書の数字から見える 経営判断のヒント』(清文社)
ほか

関連書籍

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