事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第8回】 「買収先による法令違反 -インターネット会社によるキュレーション事業の停止」 弁護士 原 正雄 1 本件の概要 D社は、1999年にインターネットオークションを行う会社として創業し、以後、ゲームを主力事業として、様々なインターネットサービスを展開している企業である。 D社の事業の一つに、キュレーション事業があった(以下「本件キュレーション事業」という)。D社は、本件キュレーション事業として、「MERY」、「iemo」、「WELQ」など、合計10サイトを展開していた(以下「本件サイト」という)。 「キュレーション」とは、インターネット上のコンテンツを特定のテーマなどに沿って読みやすく編集し、共有ないし公開することをいう。明確な定義はないが、ときには「まとめサイト」と呼ばれることもある。 そうしたところ、2016年秋ころから、D社に対して、本件サイトに根拠がない医療情報を掲載しているのではないか、という指摘が多数寄せられるようになった。また、本件サイトの記事が第三者の著作権を侵害しているのではないか、との指摘も多数寄せられた。 D社は、2016年11月29日から同年12月5日にかけて順番に、10のサイト全てを非公開化した。そのうえで、本件問題の調査のため、第三者委員会を設置した。約3ヶ月後の2017年3月13日、第三者委員会は、調査報告書を公表した。 2 問題の所在 本件では、法的には、以下の点が懸念されていた。 ① 著作権を侵害する記事 第三者が著作権を有する文章や画像が、当該第三者に無断で、本件サイトの記事に挿入されていたのではないか。 ② 医療関係法令に違反する記事 本件サイトに掲載された美容、健康、医療に関する記事には、根拠がないものや不正確なものが多数あるのではないか。そうだとすれば、医薬品医療機器等法、医療法、健康増進法に違反するのではないか。 ③ D社による記事の作成 D社は、本件サイトをプラットフォームとして位置付けようとしていた。プラットフォームとは、サービス提供者とサービス利用者の間を仲介する基盤のことである。本件キュレーション事業において、D社は単に本件サイトを運営するだけで、そのサイト上で、投稿者が記事を投稿し、読者が記事を読むということであれば、プラットフォームに該当する。 しかし、D社は、かなりの部分で、自ら記事を作成し、または外部者に委託して記事を作成させていた。その場合、D社は、上記の著作権を侵害する記事や、医療関係法令に違反する記事について、直接に責任を負うのではないか。 第三者委員会の調査の結果、上記3点の懸念は、全て現実の問題として妥当することが明らかとなった。 3 問題が生じた理由 上記3点の問題は、以下の理由から発生したものと考える。 (1) 買収過程における法務DDの軽視 全部で10ある本件サイトのうち、「iemo」、「Find Travel」、「MERY」の3サイトは、買収によって開始したものである。D社は、他社を買収することで、本件キュレーション事業を開始した。 2014年9月18日、D社は、最初のキュレーション事業会社の買収として、ベンチャー企業であるI社を買収した。社長が既に買収の決意を固めていたため、社内では、買収の是非そのものが問題にされることはなかった。 買収の過程で実施した法務デューディリジェンスでは、画像に関する著作権侵害の可能性が指摘されていた。戦略投資推進室の担当者からも、著作権侵害について懸念が示されていた。しかし、最終的には、一応の手立てを講じれば足りるとして、深く検討するには至らなかったようである。その後、D社は、さらにキュレーション事業を行う会社を複数買収した。その際にも、著作権侵害のリスクは指摘されたが、同様に、深く検討するには至らなかった。 第三者委員会は、買収をしたこと自体に関して「特段の問題があったとは認められない」としている。が、他方において「著作権法違反のリスクを完全に払拭できなくとも、(一応の手立てを講じることで)少なくとも『黒』ではない状態になれば、事業に乗り出してよいという判断をした」と指摘している。 近年、買収における法務リスクの重大性は、さらに注目されるようになっている。大規模な簿外債務が発覚した電機メーカーにおいても、デューディリジェンスやその結果の評価が十分であったのかが一つの問題となっている。 こうしたことについて問題提起するのは、法務部など管理部門の役割である。場合によっては、買収そのものにストップをかけなければならない場合もある。社長肝入りの買収事案であったとしても、こうした役割を自覚のうえで、法務デューディリジェンスに臨まなくてはならない。 (2) 買収後、法務DDの結果を活用しなかったこと D社は、本件キュレーション事業を大きく展開した。しかし、D社では、買収の際に一応の手立てを講じたと考えていた。そのため、著作権侵害の懸念を払拭するための積極的な施策をとることはなかった。 せっかく、法務デューディリジェンスで事業上のリスクがあるとの指摘を受けたにもかかわらず、D社は、その指摘を活かすことができなかった。同様に、自社独自に立ち上げたサイトについても、買収の際の法務デューディリジェンスで学んだことを反映しなかった。 法務デューディリジェンスは、買収が完了したら終わり、ではない。買収が完了したからこそ、買収後の統合プロセスであるポスト・マージャー・インテグレーションにおいて、法務デューディリジェンスで指摘されたリスクを重く受け止め、継続的に改善し続けなければならないのである。 (3) 現場マニュアルのリスク D社では、安定的で一定の質が確保された記事を作成してもらうため、各サイトを運営する現場それぞれで、記事の執筆者向けのマニュアルが独自に作られていた。現場は、技術的な内容ばかりであると考え、法務部への内容確認の依頼をしなかった。法務部としても、マニュアルが正式な規程類に含まれるとは整理していなかったとのことである。そのため、法務部が網羅的にマニュアルをチェックすることはしていなかった。 しかし、実際には、こうしたマニュアルには、文章の「コピペ」を推奨するかのような記載も含まれていた。コピペとは、コピー&ペーストの略語で、文章をコピーし、別の場所に複製して貼り付ける(ペーストする)という行為のことである。 こうした現場マニュアルは、極めて危険である。法務部などの本部の監修を経ないで作られた現場マニュアルは、不適切な記載が紛れ込むリスクが高い。万一、不適切な記載が紛れ込んでしまった場合、マニュアルが守られることで、その不適切な記載に基づく問題行動が多数発生する。そして、その後、問題行動が止むことはなく、拡大し続けることになってしまうからである(中島茂『最強のリスク管理』(きんざい、2013年))。 実際、不適切な現場マニュアルが原因で重大事故に至った実例は多い。例えば、1999年に東海村の原子力施設で起きた臨界事故は、現場の「裏マニュアル」が原因であった。同事故の現場マニュアルには、ウラン化合物の粉末の溶解を「バケツ」で行うように記載されていた。本来のマニュアルでは専用容器を使うよう指定していたが、専用容器では手間がかかるため、現場では「バケツ」の利用を推奨していたのである。その結果、核分裂の連鎖反応が起き、大量の放射線が拡散されるという、臨界事故が発生した。この事故によって、3名の作業員が被曝し、うち2名が亡くなった。 したがって、内部監査をするにあたっては、本部の関知しない現場マニュアルが作られていないか、などもチェックする必要がある。 (4) マニュアルの記載が誤解されるリスク とはいえ、D社の現場マニュアルにおいて、画像の利用や文章のコピペを推奨する文言が直接的に記載されていたわけではない。 にもかかわらず、本件では記事の執筆者から「文章のコピペを推奨している」と誤解されてしまった。文章のコピペを推奨すると誤解されたマニュアルの記載とは、例えば、サイト「WELQ」の場合、以下のとおりである。 「他のサイト様のコピペで記事を執筆するのは著作権法にふれるため、厳禁です」 「(他のサイトの)『結論』のみ参考にし、伝え方は独自の表現で考えてください」 「中見出しごとに複数サイトを参考して複数意見を寄せ集めれば、“どこを参考にしたかすぐ分かる”状態ではなくなり、独自性の高い記事になります」 「事実を参考にするのはOKですが、表現は参考にせずご自分の言葉、説明の順序で説明してください。執筆前に(他のサイトの)内容を『事実』と『表現』に単語単位で分解してみてください」 以上の記載は、オリジナルの意見でなくてもよいとするもので、文章を執筆する者として道義上許されるのか、という論点はある。とはいえ、著作権の観点からは、直接的な侵害とならないように伝えるもので、文章のコピペを推奨するとまでは言えないようにも思える。 しかし、以上の記載の結果、同サイトで執筆した経験があるとアンケートに回答した外部者18名中8名が「マニュアルはコピペ推奨であると感じた」と回答した。他方、4名が「そうは感じなかった」と回答し、残りの6名は無回答であった。アンケートに回答した者の内、3分の2に当たる者が「コピペ推奨であると感じた」としている。 マニュアル作成者としては、コピペにならないよう工夫する方法を記載したつもりかもしれないが、現実には、むしろ推奨していると受け止められてしまった。 こうしたリスクは、本件に限られない。 例えば、コンプライアンスや法令に関するマニュアルを作成している企業は多い。そうしたマニュアルにおいて、具体的に「こうすれば、適法である」「このようにすれば、違法ではない」と記載する例は多い。こうした記載は、法令に抵触することがないよう、慎重に検討した結果のはずである。 しかし、そうであっても、実際にマニュアルを使用する従業員は、もしかすると「このマニュアルは、ぎりぎりの違法行為を推奨しているのでは」と間違って受け止めてしまうかもしれない。コンプライアンスに関わる者として、心して受け止める必要がある。 (5) 法務部の牽制が働かなかったこと 本件サイトに掲載された記事の多くは、D社が作成に関わっていた。本件サイトは、単なるプラットフォーム(一般ユーザーが記事を投稿する場)ではなく、メディア(自らが情報発信者となる事業)であった。内容について責任を負うべきは、D社であった。 ところが、D社は、カスタマーサービスへの問い合わせや、プロバイダー責任法の適用に関して、D社が責任を負うことはないとして対応していた。これは、本件サイトが単なるプラットフォームであるとするもので、法務部の助言に基づく対応であった。 例えば、2015年2月、サイト「MERY」に関して、画像が無断利用されているとのクレームがあった。法務部は、画像がD社側のサーバで保存されていること、記事を作成したのはD社側のインターンであることを把握した。しかし、法務部は、記事を作ったのはユーザーであり、サイトはプラットフォームにすぎないとのテンプレート回答を伝えるよう助言していた。 D社の法務部がこのような結果に至った理由は明らかではない。が、調査報告書を読む限り、以下の理由が考えられる。 ① 本件キュレーション事業への理解が不十分であったこと ② 買収による他の文化を持つ者たちへの遠慮 ③ 本件キュレーション事業を強力に推進しようとする経営陣への遠慮 法務部は、その回答次第で会社の経営を左右してしまうという、重い責務を負っていることが分かる。事業全体を正しく理解し、現場に遠慮せず、また、経営陣にも遠慮せず、自信を持って回答することが要求されている。 4 グループコンプライアンス 会社は、自社において、また子会社を含めた企業集団において、業務の適正を確保するための体制を構築しなければならない(会社法362条4項6号、会社法施行規則100条1項)。 ところが、D社は、本件キュレーション事業においては、適正を確保する体制を構築していなかった。それどころか、キュレーション事業を行う子会社ないし社内部門に対して、広範な裁量を与えてしまっていた。第三者委員会によれば、D社には「大企業病に陥っているD社に、買収したベンチャー企業のスタートアップマインドを浸透させる」という狙いがあったとのことである。 確かに、箸の上げ下ろしにまで口出しをするのでは、せっかくベンチャー企業を買収したのに、その長所がなくなってしまうおそれがある。 しかし、会社法は、何も箸の上げ下ろしレベルまで介入せよ、と求めているわけではない。会社法が求めているのは、コンプライアンス違反を防止しうるシステムが構築されているかを確認せよ、ということである。そのシステムが適正に構築されていれば、その運用そのものは、子会社なり現場に一任することができる。 そして、コンプライアンス違反を防止しうるシステムとは何かと言えば、①ルール、②組織、③手続が備わっていることをいう。本件でいえば、以下の3点を本部が確認する必要があった。 コンプライアンス部門は、現場から「迅速な意思決定の妨げではないか」、「チャンスをつぶしているのではないか」との抵抗を受けることがある。 しかし、コンプライアンスこそが、会社が存立する前提であって基盤である。コンプライアンス部門は、その点を確信し、こうした抵抗に対して、誤解を解くために丁寧に説明し、ときには立ち向かわなければならない。 5 何のための事業か 第三者委員会は「D社は、キュレーション事業によっていったい何をやろうとしていたのか」という問題提起をしている。これは、非常に重い問題提起である。 コンプライアンスとは「相手の期待に応えること」をいう。企業が事業を行うとき、その事業が世間の期待に応えているのか、という視点が欠かせない。世間の期待に応えていくことは、企業が存続する大前提であり、コンプライアンス経営そのものである。 D社は、本件キュレーション事業を通じて、情報を発信していた。仮に、必要かつ有益な情報をうまく収集して整理することを通じて、世間の利便性を高めたいという熱い思いを持っていたのであれば、不適切な情報を発信することがいかに問題か、気付くことができたはずである。 企業が事業を行うに当たっては、いったい何を目指して、どのように世間の役に立っていくのか、役職員全員が共通認識を持つことが極めて重要である。そして、その共通認識を持たせるのは、トップをはじめとする経営層の役割である。役職員全員が共通認識を持つことができれば、企業がコンプライアンス上の大きな失敗をすることはなくなり、ますます世間から必要とされる企業になることができる。 (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第11回】 「家族信託に関する専門家の活用」 弁護士 荒木 俊和 前回までは家族信託に関する「よくある質問」について解説してきたが、今回は実際に財産を持っている方が家族信託を活用しようとした場合に、どのように専門家を活用すればよいか、専門家に委託すべき業務、スキーム策定、信託契約書作成にあたっての弁護士・税理士・司法書士・行政書士等の専門家の活用、専門家の選び方について解説する。 1 家族信託の組成において必要となる事項 (1) 信託契約書の作成 家族信託を組成するにあたってまず必要となるのは、信託契約書の作成である。 信託の組成にあたっては、遺言による信託(信託法第3条第2号)、自己信託(信託宣言、同条第3号)による方法もあるが、家族信託においてこれらの方法を取ることはまれであると思われる。 また、これまで述べてきたとおり、信託契約の内容は通常、オーダーメイドで作られるため、信託契約の内容を確定させる前提として、専門家によるコンサルティングを受けることが望ましい。 (2) タックス・プランニング 信託を設定することによって直接的に節税効果が発生することはない反面、信託と税務の関係性を十分に理解していないと、思わぬところで税負担が発生する恐れがあるため、注意が必要である。 信託の設定時、受益権の移転時、信託の終了時等の権利変動のあるタイミングにおける課税の有無はもちろん、信託継続中において、誰が、いかなる税金を支払う必要があるのかも把握しておく必要がある。 筆者が不動産についての家族信託設定時に意外と多く受ける質問であるが、依頼者から「固定資産税は誰が支払うのか。」と訊かれることがある。 回答としては、「不動産の所有者たる受託者が納税義務者になるが、信託財産から支払うことができるため、個人財産としての負担はない。」というものになると思われるが、専門家としては、依頼者側からするとこのような部分まで気になることがあるという点に留意が必要である。 (3) 登記・登録 信託契約により、対象財産は信託財産となるが、登記・登録制度がある財産は、信託の登記・登録をしなければ第三者に対抗できないとされている(信託法第14条)。 ここで第三者との対抗関係が生じる典型的な場面としては、受託者固有の債務について、信託財産に対して強制執行がなされるような場合であり、登記・登録がなければ第三者たる債権者に対して異議を述べることができない。 信託財産について登記・登録を行う典型的な場面としては、不動産についての信託登記が挙げられる。しかし、これまで行われてきた信託登記の大半はいわゆる商事信託であり、家族信託による信託登記は必ずしも一般的ではないのが現状である。 その他の場面としては、非公開株式を信託する場合の株主名簿への記載が挙げられる(会社法第154条の2)。 (4) その他 上記の他、公正証書で信託契約書を作成する場合には、公証人への依頼が必要となる。 また、信託設定に付随して受益権を譲渡する場合には受益権譲渡契約書が必要となるし、信託財産以外について遺贈を行うような場合には遺言を併用することもある。 さらに、信託監督人や受益者代理人への就任を専門家に依頼する場合もある。 2 各専門家が対応できる「独占業務」 家族信託の組成にあたっては上記のような各事項への対応が必要となるが、一方で、弁護士、税理士、司法書士、行政書士等には各業法で定められた独占業務というものが存在する。 例えば、弁護士であれば「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務」(弁護士法第3条)であり、税理士であれば「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」等(税理士法第2条)、司法書士であれば「登記又は供託に関する手続について代理すること」等(司法書士法第3条)である。 このように各士業においてその職分範囲が定められているため、依頼者としてはそれぞれの範囲において依頼しなければならないし、各士業としてはそれぞれの範囲を超える業務を行ってはならないという規制が設けられている。 3 相談の窓口 このような事情を踏まえると、家族信託を検討している依頼者としては、「まず誰に相談すればよいか」ということに悩まれるのではないだろうか。 実際に家族信託を設定するにあたっては、これらの士業に依頼して対応してもらうことが通常であろうと思われるが、士業にいきなり相談しに行くことがはばかられるという方も多いものと思われる。 そこで必要とされているのが、「コーディネーター」としての役割を持つ業種の存在である。 例えば、不動産業者、生命保険のセールスパーソン、ファイナンシャルプランナー、金融機関の担当者、介護福祉施設の担当者等、依頼者からすると日常的な接点があり、気軽に相談のできる関係の方である。 これらの方々において、依頼者から家族関係、財産関係、資産承継に関する問題点や希望を聞き取り、その情報をまとめて各士業に伝えることが、スムーズな進め方の1つではないかと思われる。 4 各専門家間の連携の必要性 依頼者からコーディネーターを経由し、又は直接に各士業のところに持ち込まれた相談については、上記1で記載した内容を網羅的に検討する必要がある。 このとき、相談を受けた各士業が、自分の専門分野だけにおいて分析・検討し、スキームを策定することにはリスクが存在するといえる。 すなわち、弁護士や行政書士が契約書の作り込みだけを検討していたのでは税務リスクが回避できないし、税理士が税務リスクの回避だけを目的にスキームを作ると契約上の問題が生じるような恐れがある。 また、家族信託は未だ完全に定着している制度ではないため、それぞれの士業といえども、信託に関する知識やノウハウが十分でない専門家も多く存在する。 このため、家族信託の実効性確保のためには、各士業が適切な人員を集め、アライアンスを構築することが望ましく、依頼者側からすると、家族信託の組成実績やアライアンスの有無等を考慮要素として選択する必要があるのではないかと考えられる。 (了)
海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第1回】 「遠慮のない質問をする人は強い」 中小企業診断士 西田 純 ● ○ ● はじめに ● ○ ● プラザ合意以降の円高から30年を経て、今や中小企業であっても、ごく普通に海外へと進出する時代になりました。 他方で、限られた経営資源しか持たない中小企業経営者・人事担当者にとっては「海外勤務者として誰を派遣すればよいか?」という、その人選が悩みのタネです。 なぜなら必ずしも「国内で仕事ができる人=海外で活躍できる人」とはいえず、文化やお作法など、ビジネス的な土壌の差が大きく影響するからです。 私はこれまで、中小企業向けの海外支援を通じて、現地で伸び伸び活躍する人や、逆に、思ったように活躍できず苦しんでいる人を見てきました。 この連載ではその経験を通じて、実際にどのような人材が海外勤務に適任といえるのか、ヒントとなるお話をさせていただきたいと思います。 1 尋ねたいことはそのまま尋ねよ イスラム教徒は酒を飲まない、あるいは豚肉を食べないということは、日本でもすでによく知られたところだと思います。 とはいえ東南アジア諸国では、国や地方によって戒律の厳しさも違い、会食などでイスラム教徒と非イスラム教徒が同席する場合など、どのような饗応がふさわしいのか?という問題に直面することがよくあります。 間違いのない答えを得るには、当事者に聞いてみるのが最も確かです。 果たして酒は出して良いものか? 豚肉は食べられるのか? このような場合の質問として、ちょっと考えればわかることですが、 何か食べられないものはありますか? という尋ね方の落とし穴については、理解しておく必要があります。 すなわち、イスラム教徒からすると豚肉は食べ物のうちに入っていないので、そう聞かれて「何でも食べますよ」と答える人が、実はけっこういるのです。 「あれ、不思議だなぁ」と思ったあなた、あなたはまだ日本人の目線でモノを考えている、ということですね。 この場合、決して失礼には当たらないので、豚肉についてなら「ポークは食べられますか?」と直接的に聞くべきなのです。同様に、「何か飲めないものはありますか?」ではなく、「アルコールは飲めますか?」と聞くのが正しいと言えます。 日本では表現をぼかして尋ねるほうが一般的なのかもしれませんが、宗教に関して食べられないものを聞くときの「婉曲な聞き方」は、誤解の元だと認識してください。 2 みておくべき点 ① 譲りすぎるのはダメ 日本人同士でも、何らかの上下関係があると、下が上に気を使った会話しか成り立たない、というような場面に出くわすことがありますが、そのせいか「気を遣う人」は、生理的に直接的な質問ができないというような事例をしばしば目にします。 ② 「ピンポイント」の重要性 一時期ビジネス社会でもてはやされた「ロジカル・シンキング」は、物事の見方が包括的・網羅的であることを評価する考え方でした。そこから導き出される質問は、常に漏れ・ダブりのない網掛け型の言い方になりがちです。 質問の場面が全体像を確かめる段階なら有効に働く考え方ですが、上の事例のように問題が特定されている段階に至ってもまだ同じような物言いをしてしまうと、今度は焦点がボケることにつながります。 問題が絞り込まれているならば、その段階で包括性・網羅性へのこだわりを捨て、ピンポイントで質問を絞り込むべきである、という判断が求められるのです。 ③ 変化への耐性 宗教や文化の差は、時にこちら側の想像力をはるかに超えた変化を引き起こします。 21世紀の今でも、国によっては、王様や大統領の一声でいきなり翌日が祝日になったり、突然ある地域で携帯電話が全面的に規制され、連絡したくても電話がつながらなくなったり、さまざまな“ビックリ”が、仕事にも影響する形で現れることがあります。 うまく説明しづらいのですが、そういう場面で普通にしていられるほうが、トラブルに遭遇するリスクが小さいように思います。 環境変化によって喜怒哀楽を左右される要素が大きいと、質問する能力もまたそれに影響されるということではないかと思います。 3 人材育成上のポイント 「遠慮せず、ピンポイントで質問できる人材が優れていることは分かった。でも遠慮のない人材が社内にいない場合はどうすればよいか?」という疑問に対しては、「人材育成の努力を続けること」という答えしかありません。 ヒントを申し上げると、以下の2点です。 ① 事例を使って「トラブルのタネ」がどこにあるか理解させる 上で触れた豚肉についての質問は、文化的な均質社会である日本ではまず経験できない事例だと思います。これら直接的な事例を素材として、海外勤務で発生しうるトラブルのタネがどこにあるのか、派遣候補者となる人材に理解させることが重要です。 今回を含め、この連載では「事例として使えるさまざまなエピソード」をお届けしますので、それらを社内の人材育成にそのままお使いいただければと思います。 ② 判断は「ロジックとスピードの組み合わせ」であることを理解させる 自らが対応すべき環境の変化が起こったとき、それについて「環境が〇〇〇なので、自分は〇〇〇しよう」というふうに理由をつけて(ロジック化)自らの行動指針を決めることを「判断」といいます。 海外勤務先という現場で判断業務を任される人にとって、最大のポイントは、『正しい判断を適切なスピードで行えるか』ということです。 このプロセスを理解し実践できれば、結果として「遠慮のない質問」ができる人を育てることも可能となります。 * * * 限られた経営資源の中、なんとか海外進出に使える人材を確保することは、経営者・人事担当者にとって焦眉の急だと思います。 この連載から少しでもヒントをくみ取っていただければ幸いです。 (了)
《速報解説》 中小企業経営強化税制、設備取得後に計画認定を受ける 「例外」にも留意が必要 ~固定資産税軽減特例とは認定期限に差異あるケースも Profession Journal編集部 既報の通り4月1日から適用がスタートした中小企業経営強化税制だが、固定資産税の軽減特例と同様、中小企業等経営強化法の制度下に置かれ、対象となる設備を取得・事業供用する前に、対象設備に係る経営力向上計画の認定を受ける必要がある。 中小企業庁のホームページでは、平成29年度税制改正に合わせて経営強化法に関するパンフレットや手引き、Q&A、申請書の様式・記載例等が順次アップデートされており、認定を受けるまでの手順や、例外として「設備取得後に経営力向上計画を申請する場合」が紹介されている。 以下、それらもとに、中小企業経営強化法の適用を受けるまでの手順と留意点を確認していきたい。 認定を受けるまでの原則的な手続としては、A類型・B類型ごとに次の通り。 より詳しい手順を図示すると、次のようになる。 〈A類型の手続スキーム図〉 (※) 中小企業庁「工業会証明書の取得の手引き」より 次に、収益力強化設備(B類型)の手続は以下の通り。 こちらも詳しい手順を図示すると次のようになる。 〈B類型の手続スキーム図〉 (※) 中小企業庁「経済産業局による確認書の取得の手引き」より 上記の手続を時系列にまとめると下図のようになる。 【原則】 経営力向上計画の認定を受けてから設備を取得 (※) 中小企業庁ホームページ「経営力向上設備等の取得時期・税制の特例適用等について」より このようにA類型、B類型共に、経営力向上設備等は、経営力向上計画認定後に取得することが【原則】となるが、【例外】として、設備取得後に経営力向上計画を申請する場合においても、一定の条件で中小企業経営強化税制を適用することができる。 この場合の「一定の条件」とは、まず1つ目が「設備取得日から60日以内に経営力向上計画が受理される必要がある」というもの。こちらは昨年の固定資産税軽減特例と同じ取扱いとなる。 2つ目の条件が、中小企業経営強化法は制度の適用を年度単位で見ることから、「対象となる設備を事業供用した年度内に計画の認定を受ける必要がある」というもの。例えば3月決算法人の場合、事業年度末である3月31日までに認定を受ける必要があり、供用年度を超えて認定を受けた場合、税制の適用を受けることはできない。経営力向上計画の申請(受理)から認定までには1ヶ月程度を要するとされていることから、この期間を加味した上で手続を進めなければならない。 【例外】 設備取得後に経営力向上計画を申請する場合 (中小企業経営強化税制(国税)の場合) (※) 中小企業庁ホームページ「経営力向上設備等の取得時期・税制の特例適用等について」より ここで注意したいのが、A類型の場合は、同じ手続(工業会証明書(※1)、経営力向上計画(※2))で固定資産税の軽減特例も合わせて適用できるが、固定資産税の賦課期日は毎年1月1日であるため、「対象となる設備を取得した年の12月31日までに認定を受ける必要がある」という点だ。 (※1) 1枚の工業会証明書で中小企業経営強化税制及び固定資産税の軽減特例の利用が可能(ただし医療機器等、対象設備の際に留意)(Q&A集 A-15)。 (※2) 同一の「経営力向上計画に係る認定申請書」内で両制度の適用を申請可能(申請書記載例の「8 経営力向上設備等の種類」欄を参照)。 【例外】 設備取得後に経営力向上計画を申請する場合 (固定資産税特例(地方税)の場合) (※) 中小企業庁ホームページ「経営力向上設備等の取得時期・税制の特例適用等について」より つまり3月決算法人が本年度中に、対象設備を取得した後に計画の認定を受ける【例外】のケースで、平成29年12月31日を過ぎ平成30年(2018年)1月1日~3月31日の間に認定を受けた場合、中小企業経営強化税制の適用は受けられるものの、固定資産税の軽減特例は、軽減の期間が3年ではなく2年になってしまう。 このように、法人の決算月によって計画の認定を受ける期限に差異が生じることから、A類型の設備投資を計画する場合は平成29年中に計画の認定を受けることを前提としてスケジュールを立案するほうが、各制度をフルに活用できるといえよう。 (了)
2017年4月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.214を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第52回】 「国会審議から租税法条文を読み解く(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 租税法の解釈は文理解釈を第一として行われなければならないといわれることが多く(酒井克彦『レクチャー租税法解釈入門』6頁(弘文堂2015))、また、文理解釈は租税法律主義の考え方に最も合致しているともいえよう。 租税は、国民の財産権を侵害するものであるから、租税法の解釈において恣意性や揺らぎができるだけ排除されなければならないことはいうまでもない。 もっとも、租税法には侵害規範的性質を有するものと、そうではない非課税や減免、控除などの規定もあることからすれば、財産権の侵害規範という性質論のみで、文理解釈を導き出すことには無理があるともいい得るが、他方で、特定の納税者に有利に働く租税特別措置といった減免規定こそ、例外的取扱いであるから文理に忠実な厳格な解釈がなされなければならないという考え方もある。 いずれにせよ、租税法においては文理解釈が第一義的に優先されるべき解釈姿勢であるとしても、さりとて、租税法が法である限り、その法の趣旨や目的を無視した解釈が許されないことも当然である。 文理解釈によって導出された結論の妥当性を判断するに当たって、法の趣旨や目的を確認することもまた重要である。そのような意味では、ただ単に「法律解釈は文理解釈によるべき」と強調しすぎることにも問題があるように思われる。 もっとも、文理解釈においても、法条に用いられている用語(概念)や文章の意義を明らかにするためには、さまざまなリーガルリサーチに基づいたアシストを必要とするのが常である。 すなわち、例えば、学説や判例の確認はもとより、通達や文書回答手続の回答結果等によって政府の見解を調査することも重要であろう。そのほか、立法当時の国会における審議や法条の解釈を巡る答弁なども極めて重要なリーガルアシストを提供するといえよう。 本稿においては、「国会審議を確認することによって租税法条文を読み解く」方法を検討してみたい。その一つの例として、実際の国会審議を参照し、所得税法72条《雑損控除》の規定の解釈に係るヒントを得てみたい。 Ⅰ 雑損控除の意義 所得税法72条1項は、次のように雑損控除を規定している。 このように、所得税法は、居住者らの有する資産について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合に、当該損失の金額のうちの一定額をその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除することとしている。なお、損失が生じた場合とは、その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が「政令で定めるやむを得ない支出」をした場合を含むとされている。 かかる「政令で定めるやむを得ない支出」は、所得税法施行令206条《雑損控除の対象となる雑損失の範囲等》において、次に掲げる支出が明定されている。 なお、雑損控除の趣旨は、「災害、盗難、横領という異常な損失により減少した担税力に即応して課税すること」にあるといわれている(前橋地裁昭和53年7月13日判決・訟月24巻9号1857頁)。 Ⅱ 雪下ろし費用に係る雑損控除の適用-国会答弁で国税庁の取扱いが決定 ところで、豪雪地域などでは家屋の倒壊を防ぐため屋根の雪下ろしは欠かせないと思われるが、かかる雪下ろしに要した費用(以下「雪下ろし費用」という)は雑損控除の適用対象となるのであろうか。この点について考えてみたい。 雪下ろし費用は、「災害による損失」とはいえないのではないかという疑問である。 雪下ろし費用が「災害による損失」に当たるといえるか否かについては疑問の余地があるところであるが、実は、すでに、昭和49年2月22日付け第72回国会衆議院・災害対策特別委員会において、国税庁の水口昭所得税課長(当時)が、雪下ろし費用の雑損控除の適用を認める趣旨の答弁を行っている。 そして、その翌日、同年2月23日付け国税庁直税部所得税課情報第309号「豪雪の場合の除雪費についての雑損控除の適用について」が連絡されていることは興味深い。 また、昭和52年3月31日付け第80回国会参議院・地方行政委員会においても、国税庁の高橋俊雄企画官(当時)が、豪雪の場合の雪おろし費用を雑損控除の対象としていたと説明している。 その際の答弁を確認してみたい。 豪雪の場合の雑損控除の適用対象をさらに拡大すべきとの意見に対して、「できるだけ弾力的な取り扱いをする」と答弁していることからも明らかなように、かかる国会審議が所得税法72条の解釈に極めて大きな影響を及ぼしていることが判然とする。 なるほど、国会は立法府であるから租税法律主義の下で法律の制定に専権を有するものの、そのことは必ずしも、法解釈における影響という意味ではない。 しかし、かかる国会でのやり取りを無視しては、その後の国税庁の法解釈を理解することはできないといっても過言ではない。 現に、その後、昭和52年10月27日に、国税庁長官通達(直所3-21)「豪雪の場合における雪下ろし費用等に係る雑損控除の取扱いについて」が発遣され、前掲した昭和52年3月31日付け第80回国会参議院・地方行政委員会における国税庁企画官の答弁のとおり、雑損控除の範囲が拡大されている。 すなわち、雪下ろし費用、家屋の外回りの雪の取除き費用、雪捨て費用について雑損控除が適用できる旨通達されたのである。 ここでは、国会での議論が雑損控除の拡張的取扱いに係る解釈を主導した点を確認することができよう。 前述のとおり、そもそも「雪下ろし費用」が雑損控除の対象となるかについては疑問を挟む余地があると思われるところ、国会での議論を受けて、雪下ろし費用はおろか関連費用にまで、さらにその範囲を拡大した取扱いがなされてきたのである。 この解釈による取扱いが先行する形で、雪下ろし費用とそれに関連する費用について雑損控除が適用される運営がなされてきたのである。 国会議員の意見や発言を受けて、政府が参考人答弁の形で雑損控除の範囲を答弁し、それが契機となって通達が発遣されて全国に取扱いが命令されるという構図があるといえようか。 なお、その後、昭和56年度税制改正において、「まさに被害が生じるおそれ」がある場合の緊急必要措置を講ずるための支出についても雑損控除が適用されることとなり(所令206①三)、これを受けて、昭和56年1月29日付け国税庁長官通達(直所3-2)「豪雪の場合における雪下ろし費用等に係る雑損控除の取扱いについて」が発遣されているのである。 (続く)
平成29年度税制改正における 『組織再編税制』改正事項の確認 【第1回】 公認会計士 佐藤 信祐 1 概要 本誌198号で述べたように、平成28年12月8日に公表された与党税制改正大綱では、組織再編税制を大幅に見直すこととされており、具体的には、以下の点を改正することが明記されていた。 このうち、(2)から(5)までの改正は、平成29年10月1日の施行が予定されており、それ以外は、平成29年4月1日に施行されている。そして、平成29年3月31日の官報では、改正法人税法施行令が公表され、改正内容の全貌が明らかになった。 本稿は全5回にわたり、改正組織再編税制の解説を行うこととする。 2 スピンオフ税制 改正前法人税法では、支配株主の存在しない新設分割型分割や子会社株式の現物分配は、グループ内の組織再編にも該当せず、共同事業を営むための組織再編にも該当しないことから、非適格組織再編として取り扱われている。これに対し、改正法人税法では、以下の組織再編を対象としてスピンオフ税制が導入された。 本誌198号で述べたように、これらはいずれも、他の者による支配関係がないことを前提としていることから、非上場会社で適用されることは稀であり、実務上、上場会社がbad事業を切り離す場合にのみ適用される手法であると思われる。 まず、(1)単独新設分割型分割であるが、法人税法2条12号の11ニにおいて、 と規定したうえで、同法施行令4条の3第9項において以下の要件が定められている。 なお、上記①であるが、「他の者」には、親族が保有している株式、組合契約に係る他の組合員が保有している株式を含めて判定することとしている。すなわち、任意組合形式のファンドが支配している会社に対しては、スピンオフ税制を適用することができないこととなる。 次に、(2)100%子会社株式を対象とした現物分配であるが、法人税法2条12号の15の2において、株式分配の定義を と規定している。 なお、完全支配関係のある株主のみに対して現物分配を行うものは、株式分配に該当しないことから、同法2条12号の15に規定する適格現物分配に該当するかどうかを検討することになる。そのため、支配株主が法人である場合には適格現物分配、支配株主が個人である場合には非適格現物分配として処理されることになる。 このように定義された株式分配に対して、同法2条12号の15の3において、適格株式分配の定義を と規定したうえで、同法施行令4条の3第16項において以下の要件が定められている。 なお、①の「他の者」については、(1)と同様に、親族が保有している株式、組合契約に係る他の組合員が保有している株式を含めて判定することとしている。 最後に、(3)であるが、単独新設分社型分割については、法人税法施行令4条の3第6項1号ハにおいて、単独新設現物出資については、同条第13項において、それぞれ、完全支配関係継続要件の特例が定められている。 すなわち、適格株式分配を行うことが見込まれている場合には、その直前の時まで完全支配関係が継続していればよく、その後の完全支配関係の継続は要求されないこととされた。 (次号(4/20)に続く)
「配偶者控除・配偶者特別控除の見直しによる総務実務の留意点」に関する正誤のお詫びとお知らせ
特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第10回】 「居住用家屋の取得に伴って建物附属設備や応接セット等を取得した場合」 -買換資産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、居住用財産の買換資産として家屋を新築した際に、セントラルヒーティング設備を建物の請負先とは異なる他の業者に注文して取り付けました。 また、新築に際し、応接セットや書斎の家具、台所の電気器具を新調しました。 この場合、Xは、すべてが家屋に係る買換資産として「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用対象とすることができるでしょうか。 A セントラルヒーティング設備は「買換えの特例」の適用対象となる買換資産に該当しますが、応接セット等は適用対象となる買換資産に該当しません。 ●○●○解説○●○● セントラルヒーティング設備は、建物とは別の「建物附属設備」に属するものです。居住用家屋の取得に伴って買換資産の取得期間内に取得されている場合には、その「建物附属設備」も買換資産に該当するものとして取り扱われています(措通36の2-12(買換資産の改良、改造等))。 しかし、応接セットや電気器具のような本来の家屋とは別の、しかも移動可能な家具類は、たとえ居住用家屋の取得に伴って、買換資産の取得期間内に取得したものであっても、買換資産に含めることはできません。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第25回】 「ペット葬祭業事件」 ~最判平成20年9月12日(集民228号617頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)