〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第22話】 「相互持合の株式の評価」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「田中統括官・・・会社が株式を互いに持ち合っている場合の株式の評価って・・・どうするんでしたっけ?」 谷垣調査官は頭を掻きながら尋ねる。 「会社がそれぞれ、株式を持っているケース・・・???」 田中統括官は谷垣調査官を見た。 「・・・具体的には、どんな持合の会社の株式なんだ?」 「ええ、このような関係なんですけど・・・」 そう言いながら、谷垣調査官は2社の貸借対照表と株式評価の資料を分厚いファイルから取り出して、田中統括官に見せる。 「なるほど・・・それで、負債に関しては、帳簿価額は変わらないと思うけれど・・・それぞれの会社の「その他資産」の相続税評価額はいくらになるんだ?」 田中統括官が尋ねる。 「甲社と乙社のその他資産の相続税評価額は、これです。」 そう言って、谷垣調査官は2枚目の資料を示した。 田中統括官は暫く考える。 「ということは・・・甲社株式の相続税評価額をYとし、乙社株式の相続税評価額をXとして・・・甲社が所有する乙社株式評価額は・・・」 そう言いながら、田中統括官は罫紙に図を描く。 「これで・・・甲社が所有する乙社株式の株価(X)と乙社が所有する甲社株式(Y)の連立方程式を計算すると、それぞれの相続税評価額が算出される・・・」 田中統括官は算式を罫紙に書く。 「乙社は小会社だから純資産価額方式で計算することになるが、甲社は中会社で、Lの割合が75%だから、こんな計算式になるだろう・・・」 そう言って、田中統括官は自分が書いた計算式を確認する。 暫くして、田中統括官は「・・・これでXとYを解くと・・・谷垣君、いくらになる?」と尋ねる。 谷垣調査官は計算式を見ながら、素早く電卓を叩き始める。 「谷垣君は電卓のスピードが速いんだね。」 田中統括官は腕を組んで、谷垣調査官を見ている。 「・・・。統括官、計算できました。」 谷垣調査官は、褒められてうれしかったのか頬を赤らめて、田中統括官に言う。 「Xが107,574千円で・・・Yが514,025千円になります。」 田中統括官は、谷垣調査官の書いた計算の数値を辿って確認する。 「・・・ということは、乙社の1株の価額は、107,574千円を3,780株で除せば、28,458円になるということか・・・」 田中統括官も机の上に置かれている電卓を素早く叩く。 「そうですね・・・甲社は、514,025千円を26,740株で除すると、19,223円になります。」 谷垣調査官は「19,223」の数値が示されている電卓を見せる。 「どうだい、簡単に相互持合の株式の評価ができるだろう。」 田中統括官は笑いながら、谷垣調査官を見る。 「ええ、この程度の連立方程式であれば、簡単に計算できますね。」 谷垣調査官も頷く。 「君のようなスピードで電卓を叩くことができれば、こんな連立方程式の解なんてあっという間に出せるだろう・・・ただし、計算式さえ間違わなければね・・・」 田中統括官が言う。 「田中統括官の電卓の腕も年に似合わぬ早さですね。」 谷垣調査官の意外な言葉に、田中統括官は思わず笑った。 (つづく)
《速報解説》 会計士協会、監査人の交代理由等の開示の充実に向けた施策を公表 ~具体的な交代理由の適時な把握・交代に関する質問等を実施~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年6月30日、日本公認会計士協会は、会員に対して、副会長通知「監査人の交代理由等の開示の充実に係る日本公認会計士協会の取組について」を公表した。 これは、会計監査の在り方に関する懇談会の提言において、株主等にとってより有用な情報の提供を確保するという観点から、監査人の交代時における開示の充実が求められていることを踏まえたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査人交代時における開示制度の運用上の留意事項 1 アンケート調査 監査人の交代時における開示制度として次のものがある。 平成28年に日本公認会計士協会は会員向けに「監査人の交代理由等に関するアンケート調査」を実施している。 これによれば、監査人が無限定適正意見を表明した後に交代し、被監査会社の監査人交代に係る臨時報告書又は適時開示情報に、交代理由に対する監査人の意見が開示されなかった場合であっても、監査人と被監査会社の見解の相違等が交代の背景に存在していたことを伺わせる回答が得られているとのことである。 2 監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果 参考資料として、「監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果」が公表されている。 これは、平成28年7月25日に会員専用サイトにて会員宛てに公表した「監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果」を一般公表用に編集したものである。 アンケート調査での「交代理由(会社からの契約解除申入れ理由)」に関する回答の選択肢としては次のものがあり、前任監査人と後任監査人からの回答の結果が示されている。 また、「交代理由(監査人からの辞任申出理由)」についてもアンケート結果が示されている。 3 留意事項 上記のアンケート調査結果は、監査人の交代理由等の開示が、制度の趣旨に則って行われていない可能性があることを示していると考えられるとし、次の事項に留意するようにと述べている(「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条2項九の四ハ(4)~(6))。 Ⅲ 日本公認会計士協会の施策 日本公認会計士協会は、監査人の交代理由等の開示の充実に向けて、次の施策を行うとのことである。 上記の施策を行うにあたって、上場会社監査事務所登録制度の定めに基づいて日本公認会計士協会への提出が求められている「登録事務所概要書変更事項届出書(会社数及び会社名)」及び「監査契約会社リスト変更事項届出書」の監査対象会社数の増減理由記載箇所について、現行の自由記載から選択肢形式に変更し、具体的な交代理由の把握や監査人に対する質問等の実施などを行うとのことである。 この対応として、平成29年6月30日、「上場会社監査事務所登録制度における「登録事務所概要書変更事項届出書」等の様式変更について」が公表されており、改正後の様式は、平成29年7月1日以後提出する届出書から適用される。 (了)
《速報解説》 国税庁29年分の路線価を公表 ~全国平均路線価は2年連続で上昇 Profession Journal編集部 国税庁は7月3日、平成29年分の路線価等を公表した。 平成29年分の全国平均路線価は対前年比0.4%の上昇となり、昨年に続き2年連続の上昇となった。全国のうち上昇したのは13都道府県であり、昨年の14都道府県からは減少したが、その分1都道府県あたりの上昇率は高くなっている。 〇都市部は依然として上昇傾向 都市部は引き続き上昇傾向にあり、東京都で3.2%、千葉県で0.5%、神奈川県で0.4%、埼玉県で0.3%と首都圏は4年連続の上昇となった。また、愛知県は1.2%の上昇で5年連続、大阪府も1.2%の上昇となり、4年連続で前年より高くなっている。 また、昨年は路線価が上昇した熊本県は熊本地震の影響もあってか、0.5%の下落となり、2011年に東日本大震災で被災した宮城県は昨年の2.5%を大きく上回る3.7%の上昇となった。 地点別の最高路線価は東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前が32年連続のトップとなり、1平方メートルあたりの価格は4,032万円だった。これは過去最高価格だったバブル直後(1992年)の3,650万円を大きく上回っている。 なお、「三越銀座店」前や「和光本館」前、昨年9月に開業した「GINZA PLACE(銀座プレイス)」前も鳩居堂前と同額であり、銀座の地価上昇が著しい。この要因としては、近年の再開発と訪日外国人客の増加の影響が大きいとみられる。 〇課税対象者の増加に伴う路線価への注目 2015年に行われた相続税の制度の見直しにより、課税対象者が増加した。国税庁によれば、2015年の課税対象者は10万3,000人で、前年の約5万6,000人から大幅な増加となっている。路線価は相続税、贈与税算出の基準となるため、路線価の変動は課税対象者に直接影響を及ぼすこととなる。 路線価の上昇が著しい都市部、特に東京都において、以前は小規模宅地特例等、土地の評価額を減らすことができる特例を適用しなくても控除の枠内に収まっていた案件でも、路線価の上昇により特例を適用する必要がある場合が増加している。 路線価の変動によるこれら特例制度の適用有無について、あらためて確認しておきたい。 (了)
《速報解説》 監査事務所への品質管理レビュー結果をまとめた 「平成28年度 品質管理委員会年次報告書」が公表 ~会計上の見積りや監査証拠等についての指摘事項を紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年6月26日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「平成28年度 品質管理委員会年次報告書」及び「平成28年度品質管理委員会活動に関する勧告書」を公表した。 年次報告書は、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、年次報告書に記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあるので、実務において参考になるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計処理等に関連する指摘事項 会計上の見積りの監査に関して、次の指摘が多いとのことである。 次の事項(金融機関の監査業務の改善勧告事項を含む)が述べられている(年次報告書14~17ページ)。 Ⅲ IFIAR の調査結果 監査監督機関国際フォーラム(以下「IFIAR」という)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 IFIARによる「上場企業の監査業務における品質管理の項目別の指摘数」では、次のものがあげられている(年次報告書55ページ)。 公正価値測定を含む会計上の見積りの監査においては、当該項目のほぼ半数で共通して見られた指摘として、整合性のない監査証拠の検討を含む経営者の仮定の合理性を十分に評価していないという指摘が述べられている。 (了)
-お知らせ- いつもプロフェッションジャーナルをご愛読いただきありがとうございます。 2017年上半期(1月~6月)掲載分の目次をアップしました。 2017年上半期(1月~6月)掲載目次ファイル ※PDFファイル PDFファイルを開いて各記事タイトルをクリックすると、該当の記事ページが開きます。 (※) お使いのブラウザによって開かないものがあります。 パソコンやクラウド等に保存していただくと、PDFファイルから各記事ページへすぐに移動できますので、ご活用下さい(PDFファイル内の文字検索もできます)。 Back Number ページからもご覧いただけます。 ▷半年ごとの目次一覧 2017年 1月~6月(No.201~224)⇒[こちら] ★ 2016年 1月~6月(No.151~175)⇒[こちら] 7月~12月(No.176~200)⇒[こちら] 2015年 1月~6月(No.100~125)⇒[こちら] 7月~12月(No.125~150)⇒[こちら] 2014年 1月~6月(No.51~75)⇒[こちら] 7月~12月(No.76~100)⇒[こちら] 2013年 1月~6月(No.1~25)⇒[こちら] 7月~12月(No.26~50)⇒[こちら] 2012年 創刊準備1号~5号⇒[こちら]
2017年6月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.224を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
これからの国際税務 【第2回】 「デジタルエコノミーの進展と恒久的施設(PE)の変質」 早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二 1 恒久的施設(PE)とデジタル経済 法律関係の雑誌や学会誌は、法律条文の構成を反映してか、長い間、縦書き印刷物と相場が決まっていたようである。しかし、その場合には外国語文献の引用表記等には不自由を強いられてきた。 国際税務の中で最も古い伝統を持つ概念の1つである「恒久的施設」は、欧州で物理的施設概念を中心に発達してきた。支店、営業所、工場など営業施設や生産施設の存在が、事業活動と管轄地を結びつける連節(Nexus)として、課税の前提条件とされてきたのである。機能に着目した“派生的PE概念”といわれる建設工事や代理人についても、建設工事現場の一定期間の存続や一定の機能を果たす代理人の存在という管轄地における事業活動の実態が確認できることが前提とされてきた。 ところが、デジタルエコノミーの進展は、管轄地において伝統的な上記PEを媒体としない各種電子商ビジネスを可能としている。消費課税では、グローバルなデジタル経済の拡大による内外取引の中立性維持や税収確保の観点から、いち早くOECD標準に基づく国内法改正が行われた(H.27改正によるB2B及びB2Cに区分した納付義務の創設)。他方で、所得課税については、抜本的な見直しが行われないまま現在に至っており、前述した縦書き印刷物と同様の窮屈さが残ったままである。 2 BEPS最終報告書での勧告 BEPS最終報告書の行動1(電子経済への対応)では、PE媒体を必要としない電子ビジネスの所得課税のためのNexusとして、従来のPEに代わる新たな概念導入を含めた3つのオプション(重要な経済的プレゼンス・電子商取引用源泉徴収・平衡税導入)が提示された。 ただし、当面はPE概念の修正等により課税の空白を埋める方策で対応可能と結論付け、オプションの詳細検討は将来に繰り延べている。 そこで以下においては、現行条約修正の方向性と抜本改革案の課題を検討する。 (1) 現行条約の修正 今や発行株式の時価総額ベースで世界のトップ3は、いずれもIT系企業(アップル、マイクロソフト、アマゾン)である。これらの事業は通信機器等を通じて顧客とダイレクトに契約対応し、消費者所在地には、一定の定型補助業務をフィービジネスとして担当する、いわゆる受託業務担当企業あるいはその施設のみが存在するケースが多い(契約主体は、海外のプリンシパル企業)。 これら受託企業は、代理行為該当性及び準備的・補助的以外の行為該当性といった従来のPE認定要件を充たさない契約の下で稼働することも多く、Nexus認定が困難で、源泉地国(消費者所在地国)における所得課税に支障をきたしているといわれている。 BEPS行動7では、施設にPE認定を回避する余地を与えている(その結果、二重非課税の結果を許している)現行モデル条約の5条を、以下の通り修正するよう提言した。 (2) 将来に向けたオプションの検討 ① 重要な経済的プレゼンス 3つのオプションのうち、伝統的なPE概念と同じ文脈で新たなNexusを提示するものが、第1オプション(「重要な経済的プレゼンス:Significant Economic Presence(SEPと略す)」)である。 大まかに言えば、従来のPE概念を制約する「物理的施設」要件を緩和し、経済活動の機能面に着目した帰属先をイメージするものであり、BEPS検討過程では、その主要な構成要素を捉えて「重要なデジタルプレゼンス」と呼ばれることもあった。 PE概念の延長上に位置付けられうる強みから、今後優先的に検討されるものと思われるが、①SEPの認定要件をどう設定するか、②SEPが認定されたとして、それへの帰属主義の適用指針をどう定めるべきかなど、ハードルの高い検証項目が残っている。 ② 電子商取引用源泉徴収・平衡税導入 残りの2つは、電子経済のもたらす所得課税について、従来のPE帰属所得課税論(汎用的な所得課税論)から離れて、独自の処方箋を提示するものである。 まず、電子商取引に対する源泉徴収構想は、オンライン取引対価の非居住者向け支払いに源泉徴収義務を課すものであるが、電子経済の主たるプレーヤーである消費者にそのような義務を課すことが可能かという課題があり、また、WTOなどの通商合意違反の批判にもこたえねばならない。 また、3つ目の平衡税オプションは、これまで課税漏れであった国外事業者をターゲットにした新規課税であるが、これも、現在トランプ税制改革案で議論されている国境調整税と同様、内国民待遇などWTOの要請とバッティングするほか、二重課税のリスクも高まるという課題がある。 いずれも困難な課題を抱えているが、ポストBEPSの最大テーマの1つであり、OECDでの検討と並行して、研究者・実務家が真剣に取り組むべき時期と考える。 (了)
財産評価基本通達改正案からみた 「広大地の評価見直し」の要件確認と影響分析 税理士 風岡 範哉 ▷はじめに 先にお伝えしたとおり、広大地の評価を見直す財産評価基本通達の改正案がパブコメに付され、平成30年1月1日以後の相続等から適用される予定となっている。 本稿では本改正案について、より詳しく検証を行い、具体的事例をもとにその影響を考えてみたい。 なお、本稿はあくまでも6月22日公表のパブリックコメントによる改正案の内容を基に作成しており、今後、通達改正の動向や国税庁より取扱いの情報が出されることにより、内容や解釈が異なってくる可能性がある点に留意されたい。 まず本改正の概要を再掲する。 ▷改正案の概要 今回公表されたパブリックコメントにおいては、改正後の広大地補正(以下、「規模格差補正」という)について、下記のように改正案が示されている(20-2《地積規模の大きな宅地の評価》(新設))。 地積規模の大きな宅地(三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、それ以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地をいい、次の(1)から(3)までのいずれかに該当するものを除く)で14-2《地区》の定めにより普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在するものの価額は、15《奥行価格補正》から20《不整形地の評価》までの定めにより計算した価額に、その宅地の地積の規模に応じ、次の算式により求めた規模格差補正率を乗じて計算した価額によって評価する。 (算式) ▷改正案のポイント 以下では、本改正案において示された各要件の検証を行う。 ① 「地積規模の大きな宅地」の定義 まず、20-2《地積規模の大きな宅地の評価》では、規模格差補正率の適用がある宅地を、三大都市圏においては500㎡以上、それ以外の地域においては1,000㎡以上と定義している。 現行制度においては、広大地補正の適用は、評価対象地がその地域の標準的な宅地の地積に比し著しく広大でなければならないとされている。 その著しく広大か否かについては、原則として、都市計画法に定める開発許可面積基準を超えていれば「著しく広大」と判断することができるとされているが、開発許可面積基準以上であっても、その地域の標準的な宅地の地積と同規模である場合は、広大地に該当しないとされている(国税庁質疑応答事例「広大地の評価における「著しく地積が広大であるかどうかの判断」」)。 上記の例外があるため、その地域の標準的な宅地の地積はどれくらいかという点で判断が分かれるところとなり、広大地の判定を困難なものとさせている。 改正案では、この例外が撤廃され、地積だけで判断できるようになる。 ② 普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区に限る 第二に、規模格差補正率の適用がある宅地を、財産評価基本通達14-2《地区》に定める「普通商業・併用住宅地区」及び「普通住宅地区」に限るものとしている。 また、都市計画法に定める工業専用地域に所在する宅地は含まれないものとされている。 財産評価基本通達に定める地区区分と都市計画法に定める用途地域の関係については、下表のとおりである(表中の「〇」は規模格差補正が適用できるもの、「×」は適用ができないものを示す)。 (表)地区区分と用途地域の関係 ③ 市街化調整区域は原則として適用がない 第三に、規模格差補正率は、市街化調整区域内の宅地には適用しないことが明記された。 市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域で、原則として、周辺地域住民の日常生活用品の店舗などの建築の用に供する目的など、一定のもの以外は開発行為を行うことができない区域である。 ただし、改正前後とも、市街化調整区域内の宅地であっても、都市計画法の規定により開発行為を許可することができることとされた区域内の土地等(例えば、都市計画法第34条第11号の規定に基づき都道府県等が条例で定めた区域内の宅地)で開発行為を行うことができる場合には、規模格差(広大地)補正率の適用をすることができるとされている。 ④ 容積率は400%未満(東京都特別区は300%未満)に限る 第四に、規模格差補正は、建築基準法に定める容積率が400%以上(東京都特別区においては300%以上)である宅地には適用がないものとされている。 現行制度においては、マンション適地は広大地に該当しないとされている。 そして、評価対象地が、マンション適地にあたるか否かは、その地域の標準的な利用状況を参考とするものとされ、 とされている(国税庁質疑応答事例「広大地の評価における「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」の判断」)。 改正案においては、「容積率」のみで判定できるようになる。 なお、容積率は「建築基準法第52条第1項に規定する」割合とされていることから、前面道路による制限(同法52条第2項。いわゆる基準容積率)は考慮しないものと考えられる。 ⑤ 公共公益的施設用地の負担が必要か否かの判断について 現行制度においては、広大地は、経済的に最も合理的に戸建住宅の分譲を行った場合にその開発区域内に道路の開設が必要なものをいうとされている(国税庁質疑応答事例「広大地の評価における公共公益的施設用地の負担の要否」)。 しかし、評価対象地が経済的に最も合理的に戸建て分譲を行った場合に道路が必要か否かを判定することは容易ではなかった。そのため、その地域の状況を調べ、この地域は、道路を入れた開発が多いのか、路地状敷地で開発が行われていることが多いのかなどを調査しながら判定がなされている。 改正案では、評価対象地の道路付けや奥行の長短にかかわらず、「地積」のみで判断できるようになる。 ▷まとめ (1) 改正前後における補正率の影響 現行制度の「広大地補正率」と改正案の「規模格差補正率」を比較すると、以下のとおりとなる。 なお、現行制度においては、財産評価基本通達15《奥行価格補正》から20-5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》及び24-6《セットバックを必要とする宅地の評価》との重複適用が認められていないことに対し、改正案においては重複適用が認められているため、補正率の影響を単純比較することはできない。 (2) 規模格差補正率の面積基準 改正案における規模格差補正率の面積基準のイメージは以下のとおりである(なお、面積基準を満たしていても、工業専用地域や容積率要件に掛かる場合は適用がないことに留意が必要)。 (※)非線引き都市計画区域については、今回の改正案において明確な記載がないが、条文からは上記の扱いになると思われる。今後の取扱いの動向に留意されたい。 (3) 規模格差補正の適用判定フローチャート 改正案をもとに、規模格差補正を適用するか否かの判定をフローチャートで示すと以下のとおりである。 ▷具体的な計算例 改正案をもとに、既存の国税庁質疑応答事例の計算例にあてはめて、規模格差補正の計算例を示してみたい。 (1) 規模格差補正の計算例(その1) 次の図のような土地(地積2,145㎡・普通住宅地区)の評価額はいくらになるであろうか。 現行であれば、評価額が1億41万131円(減額割合50.7%)であるのに対し、改正案では、三大都市圏に所在する場合は1億3,664万790円(減額割合は32.9%)、三大都市圏以外の地域に所在する場合は1億3,848万7,635円(減額割合は32.0%)となる。 (2) 規模格差補正の計算例(その2) 次の図のような土地(地積2,800㎡・普通住宅地区)の評価額はいくらになるであろうか。 現行であれば、評価額が2億5,760万円(減額割合54%)であるのに対し、改正案では、三大都市圏に所在する場合は3億5,638万4,000円(減額割合36.36%)、三大都市圏以外の地域に所在する場合も3億5,638万4,000円(減額割合36.36%)となる。 ▷おわりに 現行制度においては、広大地適用の判断を困難とさせる論点が多くあるが、今回の改正案においては、その要件が明確化されることとなった。 従前の実務において頭を悩ませていた、評価対象地の地積が著しく広大か否か、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地が必要となるのか否かといった問題は、地積のみで判断することで解決した。 また、同じく頭を悩ませていたマンション適地か否かの問題も、容積率のみで判断することで解決した。 相続税の土地評価は、課税の公平の見地から、理論上、誰が評価しても同じにならなければならない。 そして、評価基準制度が採用されている理由は、①財産の客観的な交換価値を的確に把握することは必ずしも容易なことではないこと、②個別的な評価は、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じること、③課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方式により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて、合理的であるという点である。 規模格差補正率によって求められた評価額が適正か否かはなお検討を要するところではあるが、現状考えうる評価基準としては妥当なものではないだろうか。 (了)
平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第1回】 「非特定連結子法人の時価評価資産の対象範囲の見直し」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 ~はじめに~ 本年も連結納税適用法人を対象に、平成29年度税制改正の概要を解説したい。 連結納税適用法人に関する税制は、次の4種類に分類される。 平成29年度税制改正では、①連結納税特有の取扱いに関する改正として、「連結納税開始・加入時の時価評価の対象から帳簿価額が1,000万円未満の資産を除外する」(後述)と、「スクイーズアウトにより完全子法人化した連結子法人が特定連結子法人に該当する」(次回解説)という2つの改正が実現した。 この2つの改正は、連結納税の採用と加入を後押しするという意味で、非常に大きな改正となっている。 また、それ以外にも、研究開発税制と所得拡大促進税制の見直し、地域未来投資促進税制の創設(以上、②に分類)、タックス・ヘイブン税制の総合的見直し(③に分類)などがあり、今年度も連結納税適用法人にとって影響が大きい改正となっている。 連結納税適用法人に関係する税制改正については、専門誌等でも「連結納税制度の場合についても、同様の改正が行われています。」という一言で片づけられてしまうことも多く、連結納税適用法人は、単体納税の税制改正の内容を参考に連結納税ではどう取り扱われるのか?を自ら確認しなくてはいけないことも多い。 そこで、本稿では、連結納税適用法人に関係する改正項目について、その具体的な取扱いと実務に与える影響を解説していくこととする(単体納税と同様の取扱いとなる改正については適宜割愛させていただくので、他稿を参照されたい)。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 [1] 非特定連結子法人の時価評価資産の対象範囲の見直し 1 改正内容 平成29年10月1日以後に終了する事業年度終了の時に有する資産について、連結納税開始・加入時の時価評価の対象から「帳簿価額が1,000万円未満の資産」を除外する(新法令122の12①四、新法法61の11①、61の12①、平成29年改正法令附則1一、15)。 この改正は、時価評価から除外する資産を定める法人税法第122条の12第1項において「四 資産の帳簿価額(資産を財務省令で定める単位に区分した後のそれぞれの資産の帳簿価額とする。次号及び次項において同じ。)が千万円に満たない場合の当該資産」という一文が加わっただけであり、時価評価制度の仕組み自体が変わる改正ではない。 しかし、次に述べるように、この改正は、連結納税制度の創設以来、その採用と加入の妨げとなっている懸案事項を解消させる改正であり、連結納税の採用や加入を後押しする改正である。 2 『自己創設営業権』の評価問題が解消! 連結納税創設以来、連結納税に係る最大の懸案事項として、時価評価制度において『自己創設営業権』を評価すべきなのか、評価する場合は、どのように評価すべきであろうか、という問題がある。 例えば、連結納税開始前又は加入時に、時価純資産価額が1,000百万円の会社を2,200百万円で100%買収したことによって、その会社が非特定連結子法人に該当した場合に、買収差額1,200百万円(あるいは、財産評価基本通達など他の営業権の評価方法で算定した金額)を自己創設であるが営業権(含み益)として時価評価する必要があるのか?という問題である。 この『自己創設営業権』の評価は、法人税法第61条の11第1項で時価評価資産として固定資産が定められており、さらに、法人税法施行令第13条八号ヲで無形固定資産に営業権が含まれていることを根拠としているが、ここで言う「営業権」とは一体何なのか?(「営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるもの」を意味するのか、「資産調整勘定」を意味するのか、あるいはそれ以外の概念か)について統一した見解が存在せず、評価方法についても法令、通達、公的資料などで明らかにされていない。 そのため、評価後に減算認容されるとは言え、何十億円単位の課税を黙って受け入れられる会社は多くなく、かといって全く評価せずにいることは税務リスクが残ってしまうため、連結納税採用と加入の大きな妨げになっていた。 これが、今回の改正によって、「帳簿価額(注1)(注2)が1,000万円に満たない資産」が時価評価の対象外になることによって、自己創設(つまり、帳簿価額0円)の営業権は自動的に時価評価の対象から外れることとなった。 (注1) 税務上の帳簿価額となる。 (注2) 資産の帳簿価額は、資産を次に定める単位に区分した後のそれぞれの資産の帳簿価額とする(新法令122の12①四、新法規27の13の2、27の15①)。 また、この改正によって、大昔に取得した土地など含み益がどれだけ巨額であろうとも、帳簿価額が1,000万円未満であれば、時価評価(含み益課税)がされないことになった。 したがって、今回の改正は、時価評価による不利益を受けることを懸念して、連結納税の採用や連結納税へ加入させることに踏み切れなかった企業にとって、連結納税の採用や加入を後押しするものであるといえる。 3 連結納税開始日・加入日が平成29年10月1日の場合は旧税制が適用に! 上記の改正は、連結納税開始・加入直前事業年度の末日が平成29年10月1日以後、つまり、平成29年10月1日以後に行われる時価評価から適用されるため、連結納税開始日又は加入日が平成29年10月2日以後でないと新しい税制が適用されないため、注意してほしい(平成29年改正法令附則1一、15)。 また、この改正は、連結納税創設以来の『自己創設営業権』を評価すべきかどうかの論争について結論を下したものではなく、結果的に自己創設営業権の評価が不要になったという改正であるため、平成29年9月30日以前に行った時価評価については、改正後も『自己創設営業権』に係る税務リスクにさらされたままということに注意を要する。 4 どうせ時価課税されるなら、合併で時価譲渡になる方がいいのか、スクイーズアウトで時価評価される方がいいのか?(時価課税の有利・不利) 例えば、連結親法人P社が連結グループ外のB社を吸収合併する場合に採用される手法には、次のようなものがある。 このうち、合併又は株式交換等がいずれも非適格となる場合、被合併法人の繰越欠損金を連結納税に持ち込むことはできない(新法法61の12①二、81の9②)。 また、合併又は株式交換等がいずれも非適格となる場合、被合併法人では合併日の前日の属する事業年度又は株式交換等完全子法人では連結納税加入直前事業年度(注)に時価課税されることとなる(新法法61の12①二、62①②)。 (注) 非適格株式交換等の場合、連結納税加入直前事業年度だけでなく、株式交換等の日の属する事業年度(最初連結事業年度)においても時価評価が必要となるが、時価評価のタイミングが1日違い(加入日の特例規定を適用する場合でも1ヶ月遅い)であり、また、対象資産の範囲がほぼ同じであるため、現実的に時価評価損益は生じない(法法62の9①、法令123の11①)。 ただし、非適格合併による時価譲渡は、合併対価が現金であれ、合併法人株式であれ、全資産・全事業を譲渡するものとして会社の時価総額、つまり、自己創設営業権を含めた時価での譲渡となる(法法62①)。その一方で、連結納税の時価評価及び非適格株式交換等の時価評価は特定の資産を指定する時価評価であり、平成29年10月1日以後、自己創設営業権の時価評価は行われない(新法法61の11①、61の12①、62の9①、法令122の12①、123の11①)。 したがって、合併又は株式交換等がいずれも非適格となる場合、正ののれんがある場合は、完全子法人化の合併スキーム(1-3、1-4、1-5)が有利となる。負ののれんがある場合は、直接合併のスキーム(1-1、1-2)が有利となる。 ただし、合併によって自己創設営業権(マイナスを含む)に課税が生じた場合であっても、合併法人において、それに対応する資産調整勘定又は負債調整勘定が計上されるため、それが減算認容又は加算認容される5年間トータルで考えると、税負担に差異はない(法法62の8①③④⑤⑦⑧)。 以上を表すと下記の図表のとおりとなる。 ▷ケース 連結親法人が非連結法人を吸収合併するケース (時価課税の有利・不利) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第16回】 「別表13(3) 交換により取得した資産の圧縮額の損金算入に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第16回目は、前回の保険金等による圧縮記帳に引き続き、同じ圧縮記帳の中から実務で比較的採用するケースの多い、「別表13(3) 交換により取得した資産の圧縮額の損金算入に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、固定資産である土地等を交換した法人が、法人税法第50条(交換により取得した資産の圧縮額の損金算入)の規定の適用を受ける場合に記載する。 本制度は、いわゆる圧縮記帳と呼ばれるもののうち、交換に係るものである。 そもそも「交換」は「譲渡」の一形態である。法人が所有する土地等に、相当期間の保有によって生じた地価の上昇による含み益がある場合に、たとえそれが同種資産の等価交換であっても、交換により譲渡する資産(以下「譲渡資産」という)が法人の所有を離れた時点でその含み益が実現したものとされ、譲渡資産の時価と帳簿価額との差額部分(譲渡益)については、法人税法上は益金の額に算入されることになる。 しかし、法人の事業の用に供される固定資産を同一種類の固定資産と交換した場合には、現金収入のない名目的な利益が発生したにすぎず、また担税力もない。 そのため本制度は、法人が一定の要件に適合する固定資産の交換を行い、その交換により取得した資産(以下「取得資産」という)につき、一定の方法により計算した額の範囲内で、取得資産の帳簿価額を損金経理により減額する方法等によって、交換により生じた差益金に対する課税の繰延べを認めるという制度である。 圧縮記帳が認められるためには、次の(1)~(6)のすべての要件に該当する必要がある。 なお、圧縮限度額の計算方法は次のとおり。 (※)譲渡資産の帳簿価額=譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額+譲渡経費の額 ▼ 注意!▼ 「譲渡経費の額」には、交換に当たって支出した譲渡資産に係る仲介手数料、荷役費、運送保険料など、その譲渡のために要した費用の額のほか、土地の上にある建物を取り壊してその土地を交換した場合の取壊費用、その取壊しによって借家人に支払った立退料などの額が含まれる。 なお本別表は、複数の種類の資産を交換した場合、交換した資産の種類ごとに用紙を改めて記載することになる。 Ⅲ 「別表13(3)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成29年4月1日以後終了する事業年度(前年度分からの変更なし)。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 圧縮記帳に関する計算と仕訳例 (単位:円) 〔交換時の仕訳〕 〔圧縮限度額の計算〕 ◆土地の交換差金等の計算と判定 ◆建物の交換差金等の計算と判定 ◆譲渡経費(仲介手数料)の土地への按分 ◆土地の圧縮限度額 (5) 別表の各記載欄の説明 「譲渡直前の帳簿価額」 「取得資産のみを取得した場合又は取得資産と交換差金等を取得した場合」 「譲渡資産と交換差金等を交付して取得資産を取得した場合」 (了)