〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第19話】 「家族信託と贈与税納税義務」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「ところで統括官、家族信託って、そんなに流行っているのですか?」 昼食後の雑談中に、谷垣調査官が尋ねる。 「・・・家族信託?」 田中統括官は、怪訝そうな顔をする。 「ええ、納税者からの電話で・・・銀行から家族信託を勧められたので、その課税について質問があったのです・・・そもそも家族信託って何なんですか?」 谷垣調査官は、昨日の電話の内容を思い出す。 「そうだな・・・信託では、「委託者」「受託者」そして「受益者」の三者が登場することになるが、この三者が皆親族の場合、一般的にこれを『家族信託』という。」 田中統括官は、答える。 「全員が親族だから、『家族による家族のための信託(財産管理)』とも言われているね。」 そう言うと田中統括官は、谷垣調査官を見て尋ねた。 「具体的にどのようなケースの信託なの?」 「電話の質問では・・・信託を設定した場合、受益者に贈与税が課税されるが、受益者はその信託契約の当事者ではないから、自己の意思で贈与税の確定申告書に署名押印ができないのでは・・・という内容でした。」 谷垣調査官が答える。 「確かに、受益者は信託契約の当事者ではないから、その旨の連絡がない限り、自分が贈与税の納税義務者になるという認識はないか・・・」 田中統括官は苦笑する。 「例えば、今、自分の財産を子供に贈与してしまうと、子供が浪費してしまう恐れがあるので、それを避けるために、当該信託財産の受益権を取得していることを知らせず、当該信託財産の信託契約を設定する・・・この場合、税法では、子供は信託に関する権利を委託者から贈与により取得したとみなされ、贈与税が課税されることになる・・・」 田中統括官はそう言うと、「税務六法」から相続税法9条の2を開き、同条1項を読み上げた。 「・・・そして、この信託の効力については、信託法4条で規定している。・・・同条1項は次のように書かれている。」 と言って、田中統括官は、今度は「小六法」を開く。 「・・・納税者の質問は、「その場合、誰が贈与税の申告書を提出すれば良いのか?」というものでした。・・・もっとも、納税義務者は子供なんですが・・・子供に信託をしたことを隠しておきたいらしくて・・・」 谷垣調査官は、電話の内容をそのまま伝える。 「なるほど。そういう質問か・・・」 田中統括官は、腕を組んで思案顔になる。 「・・・それは、結局、親が子供に代わって、贈与税の申告をするより仕方がないだろう・・・子供に知らせたくないのだから・・・」 田中統括官は、少しあきらめ顔でいう。 「しかし、それはおかしいですよね。納税義務者が、自分の贈与税の申告書を提出したことを知らないなんて・・・」 谷垣調査官は、田中統括官の言葉に反論する。 「確かに谷垣君の言うとおりだが・・・しかし、もともと、親が子供に信託を知らせることを避けたいというのだから・・・仕方がないのでは・・・」 そう言いながら、田中統括官の言葉は徐々に小さくなる。 「例えば、父である委託者が子供を受益者として、子供に内緒で、銀行と信託契約を締結すると、子供は、その信託契約の効力が生じた時点で、贈与税の納税義務者になる・・・そして、信託財産は、賃貸マンションの1億円だから、その贈与税の課税価格は1億円、ということですね。」 谷垣調査官は、財産評価基本通達202(1)を開く。 谷垣調査官は、自分の描いた図と評価通達を田中統括官に見せながら質問する。 「そうすると、贈与税は4,800万円ぐらいになります。それを本人に知らせず、父親が納付すると、これもまた贈与税の課税の対象になるのではないでしょうか・・・」 「そうだなあ・・・納税者に知らせずに贈与税の申告すること自体、法律上も当然問題が生じるから、先ほどの僕の意見は、間違っていた・・・撤回するよ!」 そう言いながら、田中統括官は、大きく笑った。 (つづく)
《速報解説》 総務省、有識者・地方団体実務者等へのヒアリングを踏まえ、 「ふるさと納税」の返礼品における 「返礼割合を3割以下」とするよう地方団体へ要請 ~過度な返礼品競争へ適切な対応を求める Profession Journal編集部 総務省は平成29年4月1日付けで各都道府県知事宛「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について(総税市第28号)」を通知し、過熱する返礼品競争への対応として返礼品の返礼割合を3割以下とする等を要請した。 * * * 平成20年度税制改正における創設以後、すでに国内に浸透した感のあるふるさと納税制度は、納税者が選んだ自治体への寄附を行うことで所得税及び住民税の寄附金控除が受けられる特例措置。27年度税制改正では確定申告が不要となるワンストップ特例制度も創設され利便性も高まっている。 一方でかねてより問題視されていたのが、納税者に対する地方団体からの返礼品。本来であれば「寄附のお礼」としての位置づけであった返礼品が、いわゆるふるさと納税ポータルサイト等により返礼品を比較検討されたうえで納税者が寄附先の地方団体を選定する状況へ変化し、より魅力的(=返礼割合の高い)な返礼品を各地方団体がアピールするといった「ふるさと納税返礼品の通販カタログ化」が過熱の一途をたどっている。 この問題に対し総務省は昨年4月1日の通知「地方税法、同法施行令、同法施行規則の改正等について(総税企第37号)」において、ふるさと納税の寄附金は経済的利益の無償供与であることや、「返礼品の送付が対価の提供」との誤解を招きかねないとして返礼品の価格や返礼品の価格の割合を表示しないこと、商品券等の金銭類似性の高いもの、貴金属等資産性の高いものの送付を行わないよう求めていたが、大きな変化は見られなかった。 * * * このほど総務省は、有識者や地方団体の実務家、全国知事会、全国市長会、全国町村会にヒアリング等を行った結果をもとに、平成29年4月1日付けで「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について(総税市第28号)」を通知し、「改めて、制度の趣旨に添った責任と良識のある対応を厳に徹底するよう」要請を行った。 通知の中で総務省は、ふるさと納税の本来の趣旨を確認したうえで、金銭類似性の高いもの等を返礼品としないことなど昨年通知と同様の対応を求めた上、「返礼割合に関しては、社会通念に照らし良識の範囲内のものとし、少なくとも、返礼品として3割を超える返礼割合のものを送付している地方団体においては、速やかに3割以下とすること」を要請した(現況では返礼割合が50%を超える地方団体もある)。 また、ふるさと納税の趣旨を踏まえ、「各地方団体は、当該地方団体の住民に対し返礼品を送付しないようにすること」も求めた。 今回の通知では、総務省が「個別の地方団体における返礼品送付の見直し状況について、今後、随時把握する予定」であるともしており、加熱する返礼品競争への影響も予想されるが、同日付けの別の通知「ふるさと納税に係る返礼品の送付等に関する留意事項について(総税市第29号)」では次の記載も見られ、今後、本制度をめぐる各地方団体の対応が注目される。 * * * なお、上記の有識者による意見では、ふるさと納税が都市部住民の地方への関心を高め、国内の寄付文化醸成の一助となり、副次的には返礼品の存在が地方の特産品事業者(地場産業)等の創意工夫を喚起しているといった評価がある一方で、「返礼品の送付は明らかに過熱しすぎ」、「返礼品競争に明け暮れるのは論外」との問題点を指摘、ポータルサイト運営事業者の登場は制度創設時の想定外であり何らかの対策が急務、過度な返礼品競争に対し返礼割合の上限を設けるべきとの意見があった。 一方、地方団体の実務担当者等の意見を確認すると、実は有識者の意見とほぼ同様であり、返礼品競争により制度本来の趣旨が見失われるという危機感や、逆に経費が大きくなり財政を圧迫しているといった、いわゆる「競争疲れ」とも思える意見が多くを占めた。その上で、総務省(国)に対し、返礼品や返礼割合に関するガイドライン等、実効性のある対策を早急に求める意見もあった(下記ページではヒアリング結果も公表されている)。 (了)
《速報解説》 「監査法人のガバナンス・コード」が確定 ~コード採用監査法人は金融庁より公表へ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月31日、金融庁の「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会」(座長 関哲夫(株)みずほフィナンシャルグループ取締役)は、「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード。以下「コード」という)を公表した。これにより、平成28年12月15日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言において、監査法人の組織的な運営において確保されるべき原則を規定した「監査法人のガバナンス・コード」の策定が述べられたことによる。 なお、「主なパブリックコメントの概要及びそれに対する回答」も公表されている。 金融庁は、今後、コードを採用した監査法人を一覧として公表するとしており、コードを採用する監査法人は、金融庁に連絡をすることとされている。 平成29年3月31日、公認会計士・監査審査会は「監査法人のガバナンス・コードの公表を受けて」を公表し、大手監査法人を中心に、すでにコードの趣旨を踏まえた態勢強化に向けた取組が進められていると承知しているが、公認会計士・監査審査会としては、今後、各監査法人が構築・強化した態勢の実効性を検証するとのとである。また、このようなモニタリングで得られた情報については、モニタリングレポート等を通じ、市場関係者にも広く提供してゆくなど、投資者の資本市場に対する信頼の向上等に取り組んでゆくと考えているとのことである。 さらに同日、日本公認会計士協会は「会長声明」を公表し、コードの公表は、監査法人のガバナンスの更なる向上の契機であり、本原則を適用する監査法人の真摯な取組と実践は、監査に対する資本市場からの信頼性の維持向上に資するものとなるとし、資本市場の関係者への協力についても述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 概要 コードは、5つの原則とそれを適切に履行するための指針によって構成されており、次のことなどが述べられている。 コードは、コーポレートガバナンス・コードと同様に、コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明する)の手法が想定されている。 2 具体的な内容 コードの指針では次のことも述べられている。 (了)
《速報解説》 国税庁、大規模法人向け情報ページの一環として 「連結納税制度Q&A」を公表 ~質問の多い事項を全66問で幅広く解説~ 税理士法人トラスト 公認会計士・税理士 足立 好幸 ◆『連結納税制度Q&A』の公表について 平成29年3月31日、国税庁HP上に「大規模法人向けの情報を調べる」というページが新設された。これは、昨今、税務当局が推進している大規模法人に向けた税務コンプライアンスの維持・向上を図るための取組みの一環として、主に調査課所管法人等の大規模法人向けの情報を取りまとめ、紹介するものである。 そして、そのページ内において、連結納税制度に係る税務上の取扱いのうち、質問の多い事項について取りまとめた『連結納税制度Q&A』が公表されている。 連結納税制度は、平成22年度のグループ法人税制の創設以降、上場企業など大規模法人を中心にその採用が年々増加しており、それに伴い税務当局への質問も増加しているものと推測され、それに対応するために公表したものと思われる。 ◆どのような内容となっているか 大項目は、連結納税制度に係る基本的な項目をまんべんなく取り上げており、各Q&Aについては、基本的な考え方を解説するQ&Aもあれば、加入、離脱、短期間で加入と離脱、合併、残余財産の確定など特殊な取扱いを解説するものもある。 いずれも連結納税制度に係る者であれば、一度は疑問に思うものが多い。 以下、大項目と各Q&Aについて一読されたいものについてコメントしておく。 1 連結法人の判定等(7問) ⇒連結法人の範囲、外国法人が介在している場合、一般社団法人、連結納税の加入制限がある法人が一定期間経過後に自動的に再加入することについても取り上げられている。 2 連結納税の承認(7問) 3 申告・納付(4問) ⇒連結子法人の解散又は残余財産の確定があった場合のみなし事業年度、申告方法、その事業年度で生じた欠損金額の株主である他の連結法人での損金算入について解説されている。 4 青色申告(3問) ⇒連結法人によって設立された連結子法人が離脱した場合の単体申告に係る青色申告の承認手続について取り上げられている。 5 異動の届出(1問) 6 事業年度(7問) ⇒同一の連結親法人事業年度中に加入及び離脱した場合、月次決算期間中に加入と離脱をする場合のみなし事業年度について解説されている。 7 投資簿価修正(3問) ⇒連結子法人株式について評価換えをする場合の投資簿価修正の時期と50%超下落の判定方法について解説されている。 8 開始・加入の時価評価(8問) ⇒連結納税開始の日に連結子法人の間で適格合併があった場合の時価評価資産の取扱いが取り上げられている。 9 連結法人間取引の損益調整(5問) 10 受取配当等の益金不算入(4問) ⇒関連法人株式等に係る受取配当等の益金不算入額の計算において、離脱した法人が支払う負債の利子等の額、離脱した法人の総資産の帳簿価額及び期末関連法人株式等の帳簿価額を含める必要がないことが解説されている。 11 寄附金の損金不算入(1問) 12 欠損金額(6問) ⇒連結法人間で適格合併が行われた場合、連結納税から離脱した場合、最初連結事業年度終了前に離脱した場合の繰越欠損金又は連結欠損金個別帰属額の取扱いが取り上げられている。 13 外国子会社配当等の益金不算入(1問) ⇒連結法人単独での保有割合が租税条約の二重課税排除条項で軽減された割合以上である場合は、益金不算入規定が適用となる外国子会社に該当することをフローチャートを交えて解説している。 14 貸倒引当金(3問) 15 圧縮記帳(1問) 16 連結法人税(1問) 17 所得税額控除(1問) 18 外国税額控除(2問) 19 消費税(1問) ⇒所得税額控除、消費税等に係る経理処理(税抜・税込)は統一する必要がないこと、外国税額控除は連結グループ全体として選択することが解説されている。 (了)
《速報解説》 名古屋局、議決権のない株式を発行した場合の 完全支配関係・支配関係について文書回答事例を公表 ~完全支配関係は議決権数ではなく発行済株式数で判定~ 税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 大塚 英司 名古屋国税局は、平成29年3月8日付(HP掲載は3月21日)で、「議決権のない株式を発行した場合の完全支配関係・支配関係について」の事前照会に対し、文書回答を公表した。 本稿では以下のとおり、その内容について解説する。 ▷事前照会の前提 事前照会者であるA社は、B社とC社の議決権のある発行済株式の全てを保有している状況にある。今後、C社は、第三者割当による増資を行い、無議決権株式をD社に対して発行することを予定している。 さらにその後、B社とC社は、共同株式移転を行い、中間持株会社(株式移転完全親法人)を設立する予定である。この際に、A社に対しては議決権株式を交付し、D社に対しては無議決権株式を交付する予定である。 ▷事前照会の内容 企業グループ内で行う共同株式移転については、株式移転完全子法人(B社とC社)間で支配関係がないもののうち、株式移転完全子法人の株主であるA社に対して株式移転完全親法人の株式のみを交付する株式移転であり、「①同一の者による完全支配関係がある場合」と「②同一の者による支配関係がある場合」のいずれかの要件を満たすことにより、適格株式移転となる。 本件照会事例の場合、株式移転前において、A社は、B社とC社の議決権株式の全てを保有しており、B社とC社の経営に関する意思決定権を完全に有しているが、C社の無議決権株式を含めた発行済株式の全部を保有している状況ではない。 このような、発行済株式の全部は保有していないが議決権株式の全部を有している場合において、B社とC社の間の関係は、適格株式移転の要件として「①同一の者による完全支配関係がある場合」と「②同一の者による支配関係がある場合」のいずれに該当するのかという疑義について事前照会が行われている。 ▷事前照会の検証 「①同一の者による完全支配関係がある場合」とは、株式移転の前において株式移転完全子法人(B社・C社)との間に同一の者(A社)による完全支配関係があり、株式移転の後において株式移転完全親法人と株式移転完全子法人(B社・C社)との間に当該同一の者(A社)による完全支配関係が継続することが見込まれる場合をいう。 また、ここでいう「完全支配関係」とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係とされている。さらに、「発行済株式等」とは、法人の発行済株式又は出資で当該法人が有する自己の株式又は出資を除いたものとされているように、議決権の有無について何ら定めはない。 したがって、完全支配関係の有無については、株式に係る議決権の数ではなく、その発行済株式の数により判定を行うこととなる。 ▷事前照会の結論 以上のことから、本件照会事例の場合は、株式移転前において、A社はB社の発行済株式の全てを保有しているが、C社の発行済株式の全てを保有していない状況にあるため、B社とC社は「①同一の者による完全支配関係がある場合」には該当しないこととなる。 なお、結果として、本件照会事例では完全支配関係はないものの、A社はB社及びC社の発行済株式の50%超を保有しているため、「②同一の者による支配関係がある場合」に該当する。したがって、金銭等不交付や株式移転後の継続保有見込みのほか、適格株式移転要件としての従業員継続要件及び事業継続要件を満たすことで適格株式移転に該当することとなる。 (了)
平成28年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「平成28年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」が確定 ~コメント対応も同時公表、今後はガイダンス公表に向け検討を開始~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月29日、企業会計基準委員会は、「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」(実務対応報告第34号)を公表した。これにより、平成29年1月27日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、国債等の利回りについてマイナスが見受けられる状況において、退職給付債務等の計算における割引率の算定方法を規定するものである。 なお、「実務対応報告公開草案第51号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応」(以下「コメント対応」という)も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 会計処理 退職給付債務、勤務費用及び利息費用の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、次のいずれかの方法による(実務対応報告第34号2項)。 コメント対応では次のコメントとその対応が記載されている。 2 考え方 マイナス金利の経済的な性質が必ずしも明確ではない中、マイナス金利の状況下において様々な論点があり、また、国際的な動向を踏まえることも有用と考えられるが、主に金融商品を中心とした欧州における議論では現時点において統一的な見解は定まっておらず、一方、退職給付債務等の計算は、一般的に財務諸表に与える影響が大きく、早急に取扱いを示すべきであるとの実務上の要請があることから、これらの状況及び現時点の国債等の各残存期間におけるマイナスの利回りの幅が大きくはないことを踏まえ、上記の会計処理が規定された(実務対応報告第34号14項~16項)。 マイナス金利に関連する会計上の論点については、第350回企業会計基準委員会及び第87回退職給付専門委員会において、いずれの方法も許容する取扱いを定める基準開発に関する賛否や、結論の背景に関する記載などに関しても様々な意見が出ている。 また、マイナス金利に関連する会計上の論点には、退職給付債務の計算における割引率及び金利スワップの特例処理以外に、例えば、資産除去債務に係る割引率、債務に関してマイナスの金利を受け取った場合の表示、金融商品の時価等の開示における時価の算定の取扱い等がある。 これらについては、平成28年3月に議論を行っていないものの、実際に実務において解釈上の重要な問題が生じている、ないし混乱が生じているとの意見は特段聞かれていないとし、これらの論点については特段の対応は不要であると考えられるがどうかと、第349回企業会計基準委員会の審議事項(5)の20項及び21項に記載されている。 コメント対応では、実務対応報告を支持するコメントだけでなく、いずれかの方法を定めたガイダンスを速やかに公表することを求めるコメントや、全体を支持しないコメントも寄せられており、意見の集約が難しい論点であると考えられる。 なお、後述のように、今後、ガイダンスの公表に向けて、速やかに検討を開始する予定とのことである。 Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告は、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度まで適用する(実務対応報告第34号3項)。 なお、平成30年3月31日以後に終了する事業年度の取扱いに関しては、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法によることを定めたガイダンスの公表に向けて、引き続き、検討を行い、当該検討の進捗状況によっては、本実務対応報告における取扱いを平成30年3月31日以後に終了する事業年度も継続することを検討するとのことである(実務対応報告第34号17項)。 (了)
《速報解説》 「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等の改正が確定 ~IFRS等に準拠した国内子会社・国内関連会社を対象範囲に、 H29.4.1以後開始連結会計年度の期首より適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月29日、企業会計基準委員会は次のものを公表した。 これにより、平成28年12月22日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 なお、「実務対応報告公開草案第49号(実務対応報告第18号の改正案)「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」等の主なコメントの概要とそれらに対する対応」(以下「コメント対応」という)も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 現行の「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)は、「当面の取扱い」として、次のケースを規定している。 改正実務対応報告第18号は、「在外子会社の財務諸表(国際財務報告基準又は米国会計基準)」だけでなく、「国内子会社」が指定国際会計基準又は修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合も、対象範囲に含めている。 改正により、表題は「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」となり、「当面の取扱い」として、次の2つのケースを規定することになる。 持分法適用関連会社については、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(改正実務対応報告第24号)をお読みいただきたい。 Ⅲ 適用時期等 「適用時期等」の記載における「経過措置」が規定されていないことについて、コメント対応では、次のように記載されている。 (了)
《速報解説》 平成29年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する等の法律」が 3月31日付官報:特別号外第7号にて公布 ~施行日は原則4月1日~ Profession Journal編集部 平成29年3月27日の参議院本会議で可決・成立した平成29年度税制改正関連法である「所得税法等の一部を改正する等の法律」が、3月31日(金)に官報特別号外第7号にて公布された(法律第4号)。施行日は原則平成29年4月1日(法附則第1条)。また地方税関係の改正法である「地方税法及び航空機燃料譲与税法の一部を改正する法律」も官報同号にて公布されている(法律第2号)。 以下では主な法律、政令、省令の官報該当ページへのリンクを紹介する。 なお本誌では例年同様、主要な改正事項については今後、毎週木曜日公開号にて専門家による解説記事を掲載するとともに、各府省庁・主な団体等より公表された平成29年度税制改正関連の情報については、会員以外の方もご覧いただける「平成29年度税制改正に関する《資料リンク集》」及び「新着情報」を随時更新していくので、そちらを参照いただきたい。 また、税制改正大綱を受けた改正情報については、すでに本誌掲載済みの「平成29年度税制改正大綱」に関する《速報解説》 をご覧いただきたい。 官報:平成29年3月31日付(特別号外第7号)で公布された主な税制改正関連法令 法令のあらまし ◆所得税法等の一部を改正する等の法律 附則:施行期日・経過措置など 所得税法の一部改正(第1条関係) 所得税法施行令等の一部を改正する政令 所得税法施行規則の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第2条関係) 法人税法施行令等の一部を改正する政令 法人税法施行規則の一部を改正する省令 地方法人税法の一部改正(第3条関係) 地方法人税法施行令等の一部を改正する政令 地方法人税法施行規則の一部を改正する省令 相続税法の一部改正(第4条関係) 相続税法施行令の一部を改正する政令 相続税法施行規則の一部を改正する省令 相続税の物納財産収納後の手続等に関する省令の一部を改正する省令 地価税法の一部改正(第5条関係) 地価税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第6条関係) 消費税法施行令の一部を改正する政令 消費税法施行規則の一部を改正する省令 酒税法の一部改正(第7条関係) 酒税法施行令等の一部を改正する政令 酒税法施行規則等の一部を改正する省令 国税通則法の一部改正(第8条関係) 国税通則法施行令の一部を改正する政令 国税通則法施行規則の一部を改正する省令 国税徴収法の一部改正(第9条関係) 国税犯則取締法の廃止(第10条関係) 国税犯則取締法施行規則を廃止する政令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第11条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令の一部を改正する省令 租税特別措置法の一部改正(第12条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税関係 ・酒税関係 ・自動車重量税関係 ・印紙税関係 ・利子税等関係 租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税法関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の一部改正(第13条関係) 輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律の一部改正(第14条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第15条関係) 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法の一部改正(第16条関係) 所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)の一部改正(第17条関係) 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 ◆地方税法及び航空機燃料譲与税法の一部を改正する法律 ( 附 則 ) ・第1条関係 ・第2条関係 地方税法施行令の一部を改正する政令 地方税法施行規則の一部を改正する省令(総務省令第26号) 地方税法施行規則の一部を改正する省令(総務省令第27号) ▷その他関係法令 減価償却資産の耐用年数等に関する省令の一部を改正する省令 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令 (了)
《速報解説》 会計士協会、「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」を公表 ~医療法改正による医療法人への監査義務付けに対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月28日、日本公認会計士協会は、「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(非営利法人委員会実務指針第39号)を公表した。これにより、平成29年1月27日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 公開草案に対するコメントへの対応として、「非営利法人委員会実務指針「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)に対するコメントの概要及び対応について」も公表されている。 これは、平成27年9月の医療法の改正により、一定規模以上の医療法人及び社会医療法人について、平成29年4月2日以降開始する会計年度から公認会計士又は監査法人による監査が義務付けられたことに対応するものである。 上記のほか、日本公認会計士協会は、「非営利組織の会計枠組み構築に向けて」(非営利法人委員会研究報告第25号。平成25 年7月2日)や、医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てて非営利組織に関するガバナンスについて研究したものである「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」(非営利法人委員会研究報告第31号、平成29年1月25日)も公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 対象となる医療法人 平成27年9月の医療法の改正により、医療法人の経営の透明性を高めることを目的として、一定の基準に該当する医療法人については公認会計士又は監査法人による監査が義務付けられ、平成28年4月20日に公布された厚生労働省令第96号により、次の法人が監査の対象とされた。 ①及び②に該当する医療法人は、新たに平成29年4月2日以降開始する会計年度から、厚生労働省令で定めるところにより、財産目録、貸借対照表及び損益計算書を作成し、公認会計士等による監査を受けることとなる。 2 適用する会計基準 今回の医療法の改正に伴い、一定の基準に該当する医療法人に対しては、医療法51条2項の規定により作成する貸借対照表及び損益計算書の作成のための会計処理の方法として、次のものが公布・発出されている。 医療法人が作成する計算書類の財務報告の枠組みとしての、厚生労働省令により制定された医療法人会計基準及び運用指針は一般目的の財務報告の枠組みであり準拠性の枠組みであると考えられている(実務指針第39号16項)。 なお、公認会計士等の監査報告書の内容として、医療法施行規則33条の2の5第1項2号において、「二 財産目録、貸借対照表、損益計算書が法令に準拠して作成されているかどうかについての意見」が求められており、法令上も準拠性の意見が求められている(実務指針第39号17項)。 公開草案に対するコメントの多くは、医療法人が作成する計算書類の財務報告の枠組みは「適正表示の枠組み」なのか「準拠性の枠組み」なのかに関するものであり、コメントへの対応に記載された内容は、実務指針第39号を理解するうえで参考になるものと考えられる。 3 簡便的な会計処理を採用している場合の留意点 医療法人会計基準において、前々会計年度末日の負債総額が200億円未満の医療法人は、簡便的な会計処理(所有権移転外ファイナンス・リース取引に関する賃貸借処理など)を採用することが容認されており、医療法人が簡便的な会計処理を採用しているかどうかは、計算書類の利用者が計算書類を理解する基礎として重要な項目であると考えられるとして、次の留意点を述べている(実務指針第39号13項、19項~20項)。 4 独立監査人の監査報告書の文例 独立監査人の監査報告書の文例として、次のものが示されている(実務指針第39号の付録)。 Ⅲ 適用時期等 本実務指針は、平成29年4月2日以降に開始する会計年度に対して行われる監査から適用する(実務指針第39号23項)。 (了)