理由付記の不備をめぐる事例研究 【第40回】 「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」 ~債権放棄に基づく関係会社支援損が寄附金に該当すると判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「債権放棄に基づく関係会社支援損が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成18年9月22日裁決(非公開裁決。以下「本裁決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 検討 (1) 関係法令等の確認 本件更正処分の関係法令等を簡単に確認しておく(詳細は、本連載【第11回】「寄附金と貸倒損失」参照)。 貸倒損失について、法人税基本通達9-6-1(4)は、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」は、貸倒損失として損金の額に算入する旨定めている。 損金算入が制限される寄附金について、法人が支出した寄附金とは、金銭その他の資産や経済的な利益の贈与又は無償の供与であり、いわば事業関連性の有無を問わず、対価を伴わない支出であると解されている(法法37⑦)。 また、直接的・個別的な対価を伴わない支出で、かつ、形式上、寄附金の額から除かれる広告宣伝費等の費用に該当しないものであっても、その支出を行うことにより、①対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けている場合、又は②営利法人としてこれを受けることなくその支出相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的等がある場合には、寄附金の額に含まれないと解されている。 子会社等の整理・再建に際し、相当の理由(経済的合理性)がある場合のその子会社等に対する債権放棄は寄附金ではなく、そのまま損金の額に算入される旨を明らかにした通達もある(法人税基本通達9-4-1、9-4-2)。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が関係会社支援損として計上した金額は平成13年8月31日に行ったS社に対する債権金額1,150,000,000円の放棄であるという、X社の帳簿書類の記載又はその前提たる事実を、処分の前提事実としている(以下、A社に対する債権放棄に係る処分については記載を省略する)。その上で、この債権放棄が法人税法37条の寄附金に当たるものであるとの法的評価を加えることにより、損金不算入となる金額を所得金額に加算するものである。 したがって、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える(ただし、X社の帳簿書類にS社の資産状況や支払能力などに関する事実が記載されていた場合に、本件更正処分が、これらの記載を否認することになるようなときは、帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当する余地がある)。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 本件理由付記は、S社に対する債権放棄に係る経済的利益の供与は、S社の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるとか、合理的な再建計画に基づいてなされたものではなく、その債権放棄を行うことに相当な理由があるとは認められないとするものである。 本件理由付記には、このほかに寄附金と判断するに至った具体的ないし個別的な事実の記載はない。もっとも、X社において、S社が倒産の危機にあることを示す資料やS社を再建する計画に基づいて債権放棄を行ったことを示す資料を作成・保管していないことを前提とするならば、本件理由付記のようにやや消極的な処分理由の記載となることも、やむを得ない面がある。 しかしながら、課税庁は、審査請求段階において、S社に対する債権放棄が、S社の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるとは認められないと主張し、その理由として次の(1)~(3)を挙げている。 これを読むと、課税庁が、S社に対する債権放棄はS社の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるとは認められないと判断した具体的な理由を理解することができる。 また、課税庁は、審査請求段階において、S社に対する債権放棄は合理的な再建計画に基づく再建支援ではないと認められるため、債権放棄を行うことに相当な理由はない旨主張し、その理由として、次の(1)~(4)等を挙げている。 これを読むと、課税庁が、X社によるS社に対する債権放棄は合理的な再建計画に基づいてなされたものではないと判断した具体的な理由を理解することができる。 このように課税庁の審査請求における主張と対比すると、本件理由付記は、処分の根拠となる事実や判断過程を省略して記載していることが浮き彫りとなる。本件理由付記程度の記載で十分であるとすると、課税庁が、処分時に確固たる事実を把握しないまま、恣意的ないし主観的に、上記の判断をすることが事実上許されてしまうのではないか、という懸念も生じる(なお、再建計画の合理性のように一義的な判断が難しい場面においては、判断者の主観に左右されやすいことに留意)。 してみると、本件理由付記は、少なくとも更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨と必ずしも適合しないという評価も成り立つであろう。よって、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 もっとも、本件理由付記の十分性については、①実際に、課税庁は、原処分時にどこまでの事実を把握し、処分理由として考慮していたかという点に加えて、②S社が倒産の危機にあることを示す資料やS社を再建する計画に基づいて債権放棄を行ったことを示す資料のX社における実際の作成・保管状況、③S社に対する債権放棄による経済的利益の供与が、同社の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものであるとか、合理的な再建計画に基づいてなされたものであることの立証責任はX社にあることを踏まえて、更なる検討を行う余地もある。 なお、貸倒損失や債権放棄の損金算入を否認するような処分に係る理由付記に関して、①法令のみならず関連する通達(本件では法人税基本通達9-4-2等)までも理由付記に記載しなければならないのか、②理由付記の趣旨目的と守秘義務(国家公務員法100条、国税通則法126条)との間でどのような調整を図るべきか、という議論がある(本連載【第38回】参照)。 * * * 次回は、「子会社再建支援のための債権放棄は寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第1回】 「税効果会計の目的と繰延税金資産の回収可能性が論点になるワケ」 仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮 ◆連載開始にあたって◆ 本稿より始まる新連載「税効果会計における「繰延税金資産の回収可能性」の基礎解説」では、経理初心者が理解しにくい税効果会計について、会計処理を行うにあたって一番重要な繰延税金資産の回収可能性に関する考え方を中心に解説していく予定である。ぜひ参考にしていただきたい。 第1回目のテーマとして「税効果会計の目的と繰延税金資産の回収可能性が論点になるワケ」について取り上げる。 1 はじめに 読者の中には「税効果会計」と聞くと、拒否反応を示す方も少なからずいるのではないだろうか。税効果会計を取り上げた書籍や解説は世に多く出回っているものの、経理初心者には読解困難な言葉で記載された会計基準の解説になっているものが多いことが、その要因のひとつになっていることは間違いないだろう。 そこで本連載では、理解しやすいようになるべくかみ砕いた表現で税効果会計の本質を解説することを心がけたい。本連載をお読みいただいた読者の“税効果会計アレルギー”が少しでも取り除かれれば幸いである。 2 税効果会計の目的 「税効果会計の目的は?」と聞かれて一言で説明するとすれば、「会計と税務の差を調整するため」と答えることになるであろう。 例えば、翌期に支給予定の賞与について、支給額を算定するための対象期間が当期に属している場合には、通常、引当金の計上要件を満たすため会計上は賞与引当金の計上が求められるが、税務上は原則的に見積項目の計上を認めていないことから、賞与引当金は計上できない。そのため、この時点で会計と税務の処理に差が生じることになる。 しかし、実際の賞与支給時には税務上も損金計上が認められることになるため、その時に会計と税務の差が解消される(事業年度をまたいで会計と税務の処理が一致する)。 このように、会計と税務に一時的な差が生じるものの、最終的には解消される項目等(「一時差異等」という)が税効果会計の対象となる(【図1】参照)。 【図1】 ここで、『なぜ会計と税務の差を調整しなければならないのか』といった疑問が出てくるだろう。 実は、そのヒントが【図1】にある「将来減算一時差異」というワードに隠れていることにお気づきだろうか。 つまり、税額計算は会計上の当期利益を基礎とするが、賞与引当金の例でいえば、当期に会計処理した賞与引当金は税務上の計上が認められないため、その金額を別表4において加算(否認)したうえで課税所得を算出し、別表1において、当該課税所得に税率を乗じて税額を算出することになる。 しかし、賞与引当金の否認額は実際支給時に税務上の計上が認められる(認容される)ため、その時の税額負担を軽減させることになる(【図2】参照)。 【図2】 このように、将来において課税所得を減算させる一時差異を「将来減算一時差異」という。 一方で将来において課税所得を加算させる一時差異は「将来加算一時差異」というが、我が国の税制では、将来減算一時差異が発生することの方が多い。 【図2】にあるように、将来減算一時差異が発生した事業年度においては、税金を前払いすることになる。言い換えれば、その分だけ将来事業年度において税額を軽減できることになるのである。 この場合、会計上は将来の便益と捉えて、貸借対照表において「繰延税金資産」を計上し、損益計算書において税引前利益と税金費用を合理的に対応させるため「法人税等調整額」を計上する(【図3】参照)。 これこそが、会計と税務の差を調整しなければならない理由であり、税効果会計の目的なのである。 【図3】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 繰延税金資産の回収可能性が論点になるワケ まずはここまでの解説で、税効果会計の目的についてご理解いただけただろうか。将来減算一時差異が発生すると繰延税金資産の計上について検討しなければならないことは前述のとおりだが、ここで留意しなければならないのが繰延税金資産の回収可能性という論点である。 【図3】にあるとおり、将来の税額負担を軽減する効果がある部分につき繰延税金資産を計上することになる。つまり、繰延税金資産を貸借対照表に資産として計上するということは、その金額に見合った価値(将来の便益)があるということに他ならない。 したがって、将来減算一時差異のうち、将来の税額負担を軽減する効果がない部分については繰延税金資産を計上することができないのである。 では、具体的にどのような場合に将来の税額負担を軽減する効果がないと判断するのであろうか。最も理解しやすい例としては、毎期継続的に当期損失を計上し、課税所得が発生していない場合が挙げられる(【図4】参照)。 【図4】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【図4】のように、企業の状況に応じて繰延税金資産の回収可能性(将来の税額負担を軽減する効果の有無)について検討しなければならないが、実務上その判断には様々な将来の不確定要素を考慮する必要があるため、繰延税金資産の回収可能性が論点になりやすいのである。 このような多くの判断を要する会計処理には一定の指針が必要であることから、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(企業会計基準適用指針第26号)」(以下、「回収可能性適用指針」という)が企業会計基準審議会より公表されている。 繰延税金資産の回収可能性について理解を深めるためには必須の指針であるため、次回は回収可能性適用指針について概括的に説明することとしたい。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第23回】 「高齢者向け施設の概要と留意点」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 【設問20】 私の父は、5年前から認知症の症状が出始めましたが、昨年あたりから症状が次第に悪化し、今では常時の付き添いが必要な状態となりました。 これまでは同居する私たち家族が交代で身の回りの世話をしてきましたが、近い将来、父を高齢者向け施設に入居させることを検討しています。 認知症高齢者を家族に持つ者として、どのようなことに注意したらよいでしょうか。 1 高齢者向け施設にも様々な種類がある 高齢者と住まいをめぐる問題は、非常に複雑な状況にある。 日本の伝統的な家制度のもとでは、高齢者となってからは、身の回りの世話をしてくれる親族とともに同居して生活するケースが多かったといえる。しかし、長寿化や婚姻率の低下が進む現代社会では、ひとくちに高齢者と言っても、心身の状況や資力は人それぞれであり、ライフスタイルや余生の過ごし方に関する本人・家族の希望も多様化している。 このため、身近な親族がおらず独居生活を送る、あるいは、いわゆる「老人ホーム」に入居して余生を過ごすというケースも既に一般的なものとなっている。 そのような現状を踏まえ、現在では、多様なニーズに対応すべく、各種の根拠法令に基づく多種多様な高齢者向け施設が運用されている。 そこでまず、【設問20】を解説する前提として、現在の代表的施設について概略を整理しておく。 【代表的な高齢者向け施設】 2 入居に際しての一般的注意事項 高齢者向け施設は、高齢者自身の生活の本拠となり、同時に、介護する家族にとっても自身の生活や仕事のあり方に大きな影響を与えるものとなる。 そのため、いったん入居や利用を始めれば、後日に契約の解約・清算を行って利用を中止し、代わりに新たな施設を選定していくことは相当の労力を要する場合が多い。 そこで、入居先の検討・契約にあたっては、次のような事項を十分に確認したうえで慎重に行うべきである。 その他の一般的な注意事項については、下記サイトの解説が参考になる。 3 入居中に起こり得る事故・トラブルについて 高齢者施設の入居・利用に際して起こり得る事故・トラブルとしては、どのようなものがあるか。 認知症高齢者自身が原因となるもので実務上よく見受けられるものは、 ①他の入居者に対する暴言・暴力、 ②施設スタッフに対する暴言・暴力、 ③施設を抜け出しての徘徊、他人の居室への侵入、 ④施設内での転倒・転落、誤嚥等の事故といったものである。 このうち、①~③のような迷惑行為については、これによる被害の程度が大きければ損害賠償の問題にも発展する。 まずは本人及び家族に対して、施設運営者から再発防止のための注意がなされることが大半であろう。ただし、本人の認知能力に問題があることから、本人に何度よく注意したとしても限界があるというのが実情である。 迷惑行為が繰り返され、改善がみられない場合には、施設からの退去を求められる可能性もあり得る。また、最悪の場合、被害者側が原告となり、認知症高齢者と施設運営者とをあわせて被告とする民事訴訟が提起されることもあり得る。 決定的な予防策をとることはなかなか困難であるが、家族が施設側スタッフと綿密なコミュニケーションを取り、改善に向けた対策を検討していくほかないであろう。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例21】 株式会社東芝 「当社株式の特設注意市場銘柄及び監理銘柄(審査中)の指定解除に関するお知らせ」 (2017.10.11) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社東芝(以下「東芝」という)が平成29年10月11日に開示した「当社株式の特設注意市場銘柄及び監理銘柄(審査中)の指定解除に関するお知らせ」である。 この連載で同社の開示を取り上げるのは、今回で4回目になる(【事例1】の平成27年11月17日「当社子会社であるウェスチングハウス社に係るのれんの減損について」、【事例11】の平成28年12月27日「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について」、【事例16】の平成29年5月15日「2016年度通期業績見通しに関するお知らせ」に続いて)。 同社は、東京証券取引所と名古屋証券取引所(以下「両取引所」という)により、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められたため、平成27年9月15日から特設注意市場銘柄に指定されていたが、内部管理体制について「相応の改善がなされたと認められたため」、平成29年10月12日に指定が解除されることになったという内容である。 2 内部統制監査の結果は不適正意見だったが 両取引所が、東芝の内部管理体制について「相応の改善がなされた」と判断した根拠となったのは、東芝が両取引所に対して平成29年3月15日に提出した内部管理体制確認書である。しかし、監査法人による平成29年3月期の内部統制監査の結果は不適正意見だった。 東芝による内部統制報告書は、平成29年3月31日現在の財務報告に係る内部統制は有効であると表示していた。それに対して、監査法人は、東芝の平成29年3月31日現在の財務報告に係る内部統制は、開示すべき重要な不備があり、有効ではないため、東芝による内部統制報告書の表示は不適正であると意見表明したのである(東芝は平成29年8月10日に「財務報告に係る内部統制監査報告書における不適正意見に関するお知らせ」を開示)。 監査法人が平成29年3月31日において存在すると指摘した開示すべき重要な不備は、当然、平成29年3月15日においても存在しており、その時点において内部統制は有効でなかったはずだが、両取引所は、その時点で提出された内部管理体制確認書を見て、内部管理体制について「相応の改善がなされた」と判断したことになる。 「監査法人が内部統制を有効でないと判断しているのに、なぜ?」と思われるかもしれないが、両取引所の判断は、「あり得る」判断である。なぜなら、両取引所の上場審査基準において、内部統制監査報告書の適正意見は求められていないし(監査法人に内部統制が有効でないと判断された会社の新規上場は、規則上、一応「あり得る」)(注)、上場廃止基準においても、内部統制監査報告書の不適正意見は要件とされていないからである(監査法人に内部統制が有効でないと判断されても、上場廃止となるわけではない)。 (注) 他の証券取引所に上場している会社の場合、内部統制監査の結果が意見不表明でないことが求められる(東京証券取引所・有価証券上場規程205条7号d(b)・212条6号d(b))。 3 本当に公正な判断がなされたのか? しかし、両取引所の判断が「あり得る」判断であったとしても、「やはり東芝側に立った判断だったのでは?」という疑念は残るだろう。公正な判断だったのか、それとも、やはり東芝側に立った判断だったのか、本当のところはわかり得ない。 東芝の内部管理体制確認書の審査を行った日本取引所自主規制法人の理事長(金融庁長官を務めたこともある人物)が、雑誌等でその審査について発言されているのだが(「文藝春秋」平成29年12月号・170~177頁や「週刊東洋経済」2012年12月2日号・48~49頁)、筆者はそれを読む前、「監査法人が指摘する内部統制上の不備は認識しているが、審査の結果、上場会社として最低限の内部管理体制は認められた」といった、監査法人の意見を踏まえた上で公正な審査を行った結果であるという発言をされているのだと予想していた。 しかし、そうではなかった。監査法人を批判する発言を続けたうえで(元金融庁長官でありながら、監査制度についてよく理解されていないようである)、ついには次のような監査制度を否定する発言をされているのである(「文藝春秋」平成29年12月号・176頁)。こうした発言に真実が映し出されているように見えるのだが。 元金融庁長官・日本取引所自主規制法人理事長によるこうした発言こそ、資本市場のあり方を歪める危険なもののはずである。 (了)
《速報解説》 名古屋国税局、株式の保有関係が変更している場合の支配関係の継続要件の判定について文書回答事例を公表 ~株式譲渡による特定承継でも支配関係は継続、未処理欠損金の引継ぎを認める~ 弁護士・公認不正検査士 下尾 裕 本稿では、名古屋国税局が平成29年12月12日に回答した文書回答事例「株式の保有関係が変更している場合の支配関係の継続要件の判定について」(以下「本件文書回答事例」という)について解説を行う。 1 本件文書回答事例の概要 本件文書回答事例は、以下の事実関係において、吸収合併における被合併法人の未処理欠損金の引継ぎが制限なく認められるための要件である「その合併法人の当該適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日から」合併法人及び被合併法人間に「継続して支配関係がある」こと(法人税法第57条第3項。以下「継続支配要件」という)を充足するか、具体的には、照会者が本件合併前に株式譲渡により株式を取得したことにより継続支配要件が継続しなくなってしまうのかどうかに関する回答事例である。 本件文書回答事例は、照会者が継続支配要件を充足するものとして本件合併に基づくB社の未処理繰越欠損金額の引継ぎを是認した。 (※) 本件文書回答事例(国税庁HP)より筆者一部修正 2 本件文書回答事例の注目点 本件文書回答事例以前においては、本件文書回答事例における株式取得原因が吸収合併である場合に相当するケースにおいて、継続支配要件の検討にあたり、現支配株主及び旧支配株主による連続した支配関係の継続期間を合算することを認めた質疑応答事例(質疑応答事例「株式の保有関係が変更している場合の青色欠損金額の引継ぎ」)が存在していた。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁HPより抜粋 しかしながら、株式譲渡等の特定承継により株式を取得するケースにおいては、上記吸収合併のケースのように、被合併法人の権利義務がそのまま合併法人に包括承継されるという理論的説明ができないことから、このような特定承継の場合にまで、継続支配要件の検討にあたって、現支配株主及び旧支配株主による連続した支配関係の継続期間を合算することが可能かについてはなお疑義が残る状態になっていた。 そのような中、本件文書回答事例は、単なる株式譲渡のケースについても現支配株主及び旧支配株主による連続した支配関係の継続期間を合算することを認めた。 この点、上記質疑応答事例及び本件文書回答事例は、いずれも株式取得前の段階で旧支配株主が既に継続支配要件を充足しているケースであったが、上記質疑応答事例が と述べていることに鑑みれば、国税当局は、株式取得前の段階で既に継続支配要件を充足しているかどうかには意を払っておらず、「それらの支配関係がある状態が5年間継続」してればよい、言い換えれば、支配関係承継の原因を問わず、現支配株主及び旧支配株主による連続した支配関係の継続期間を合算して5年以上経過していれば、継続支配要件を充足するとの考え方を前提にしているものと考えられる。 本件文書回答事例は、法人税法第57条第3項における「継続して支配関係がある」かどうかの判定にあたり、合併のような包括承継の場合のみならず、株式譲渡という特定承継の場合についても、現支配株主及び旧支配株主による連続した支配関係継続期間を合算することが可能であることを明らかにした点において、M&A実務上の有用性を有するものである。 (了)
《速報解説》 日本年金機構、「平成29年分公的年金等の源泉徴収票」の 記載誤りについて対応を公表 Profession Journal編集部 2月16日から平成29年分の確定申告書の受付が始まるが、このほど日本年金機構は、「平成29年分公的年金等の源泉徴収票」に表示上の誤りがあったとしてホームページ上で公表を行った。 具体的には、本年1月12日以降に送付された「平成29年分公的年金等の源泉徴収票」のうち一部について、源泉徴収票に記載された「控除対象配偶者」及び「控除対象扶養親族」の氏名(漢字氏名、フリガナ)に誤りがあることが判明したというもの。 日本年金機構によると、「平成 29 年分公的年金等の源泉徴収票」の作成に当たっては、提出された「平成 29 年分公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」に基づき委託契約業者が控除対象配偶者の氏名等のデータ入力処理を行ったが、その際に誤りが発生したとしている。 なお、源泉徴収票に記載された事項のうち、「支払金額」、「源泉徴収税額」等、他の項目に誤りはないとした。 日本年金機構は、正しい源泉徴収票を再作成したうえで、1月末を目途に改めて送付するとしており、国税庁もホームページにて、受け取った源泉徴収票の記載内容を確認のうえ、内容に誤りがある場合は、正しい源泉徴収票が送付された後に確定申告書を作成するよう注意喚起を行っている。 なお、既に確定申告書を提出済みで、源泉徴収票の「控除対象配偶者」欄及び「控除対象扶養親族」欄の氏名に誤りがあり、是正が必要な場合には、税務署から連絡を行うとしている。 本件の問い合わせ先として、日本年金機構による下記のフリーダイヤルが開設されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2018年1月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.252を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第51回】 「事業承継税制の特例の創設」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 昨年12月14日に与党税制改正大綱が取りまとめられ、同月22日には政府の税制改正大綱が閣議決定された。本年1月22日からは通常国会が開会し、ほどなく平成30年度税制改正に係る改正法案が国会に提出されるものと見込まれる。 今回の改正は、たばこ税や個人所得課税の見直しに加え国際観光旅客税(仮称)の創設といった増税項目が中心であり、大きな減税項目は、事業承継税制における特例措置の創設のみという状況である。 今回創設される事業承継税制の特例は、平成30年1月1日から10年間に行われる贈与等を対象にした措置であり、この間に、現在平均で60歳台後半となっている中小企業経営者の代替わりを促進することを目指した思い切った措置である。 例えば、納税猶予の対象となる株式の範囲、承継する者の範囲、納税猶予の要件(雇用確保要件)の緩和、承継後の事業譲渡・合併・解散の場合の納税額の再計算など幅広い措置が予定されている。 〇対象となる会社(特例承継会社) 特例承継計画(仮称)を、平成30年4月1日から35年3月31日までの間に、都道府県に提出した会社であって、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第12 条第1項の認定を受けた会社(特例認定承継会社(仮称))が対象となる。 なお、特例承継計画は、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画であって、当該特例認定承継会社の後継者、承継時までの経営見通し等が記載される必要がある。 〇対象となる非上場株式の範囲 後継者が贈与等により特例認定承継会社の非上場株式を取得した場合には、その取得した「全て」の非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税又は相続税の「全額」について、その後継者の死亡の日等までその納税が猶予される。 従来は、その会社の発行済議決権株式総数の3分の2まで、しかも、取得した株式の80%に対応する税額までしか納税猶予の対象にならなかった(つまり発行済議決権株式総数の15分の8までしか納税猶予されなかった)が、今回の特例では100%納税猶予の対象になる。 また、後継者が特例認定承継会社の代表者以外の者から贈与等により取得する特例認定承継会社の非上場株式についても、特例承継期間(仮称)(5年)内に当該贈与等に係る申告書の提出期限が到来するものに限り、この特例の対象となる。従来の制度では、先代の経営者の持ち株のみが納税猶予の対象であったところ、今回の特例では、それ以外の複数者からの贈与等も対象となる。 (※) 経済産業省ホームページより 〇対象となる後継者(特例後継者) 特例の対象となる特例後継者(仮称)は、特例認定承継会社の特例承継計画に記載された当該特例認定承継会社の代表権を有する後継者であって、同族関係者と合わせて当該特例認定承継会社の総議決権数の過半数を有する者でなければならない。しかも、当該同族関係者のうち、当該特例認定承継会社の議決権を最も多く有する者である。 なお、今回の特例では、特例承継計画に記載された代表権を有する後継者が2名又は3名以上の場合には、その議決権数において、それぞれ上位2名又は3名の者(当該総議決権数の10%以上を有する者に限る)が、特例後継者となるので、複数の後継者への事業承継が納税猶予の対象となりうる。 (※) 経済産業省ホームページより 〇雇用確保要件の緩和 従来の事業承継税制における雇用確保要件(経営承継期間(申告期限の翌日から5年)平均で、贈与又は相続開始時の雇用の8割以上を確保すること)を満たさない場合であっても、今回の特例においては、納税猶予の期限は確定しないこととされた。 ただし、雇用確保要件を満たせない場合には、その満たせない理由を記載した書類(認定経営革新等支援機関の意見が記載されているものに限る)を都道府県に提出しなければならないとされている。なお、その理由が、経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には、特例認定承継会社は、認定経営革新等支援機関から指導及び助言を受けて、当該書類にその内容を記載しなければならない。 したかって、今回の特例では、一定の書類を都道府県に提出することで、雇用確保要件は実質的には撤廃されたものと評価できよう。 (※) 経済産業省ホームページより 〇納税額の再計算 今回の特例では、経営環境の変化を示す一定の要件(直近3年間のうち2年以上赤字など)を満たす場合において、特例承継期間経過後に、特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をするとき、特例認定承継会社が合併により消滅するとき、特例認定承継会社が解散をするとき等には、納税額を再計算し、猶予額のうち再計算された納税額を超える部分の納税を免除することとされている。 第1に、特例認定承継会社に係る非上場株式の譲渡若しくは合併の場合で、その対価の額が当該譲渡又は合併の時の相続税評価額の50%に相当する額以上の場合、又は解散の場合には、譲渡等の時の特例認定承継会社の非上場株式の相続税評価額を基に再計算した贈与税額等と譲渡等の前5年間に特例後継者及びその同族関係者に対して支払われた配当及び過大役員給与等に相当する額(以下「直前配当等の額」という)との合計額を納付することとし、当該再計算した贈与税額等と直前配当等の額との合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額を免除する。 第2に、特例認定承継会社に係る非上場株式の譲渡若しくは合併の場合で、その対価の額が当該譲渡又は合併の時の相続税評価額の50%に相当する額を下回っている場合、再計算した贈与税額等と直前配当等の額との合計額については、担保の提供を条件に、その納税を猶予し、さらに、当該譲渡又は合併後2年を経過する日において、譲渡後の特例認定承継会社又は吸収合併存続会社等の事業が継続しており、かつ、これらの会社において特例認定承継会社の譲渡又は合併時の従業員の半数以上の者が雇用されているときには、実際の譲渡又は合併の対価の額を基に再々計算した贈与税額等と直前配当等の額との合計額を納付することとし、当該再々計算した贈与税額等と直前配当等の額との合計額が納税が猶予されている額を下回る場合には、その差額を免除することとされている。 (※) 経済産業省ホームページより (了)
移転価格文書化における ローカルファイルの作成期限前チェックポイント 【第1回】 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 税理士 川瀬 裕太 Ⅰ はじめに 平成28年度税制改正により、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)が平成29年4月1日以後開始する事業年度から同時文書化義務の対象となった。本稿では作成までの期限が差し迫っていることをふまえ、ローカルファイルの作成上の留意点について確認していきたい。 Ⅱ 作成義務のある企業の範囲等及び作成時期 まずはローカルファイルの作成義務のある企業の範囲等及び作成時期について、チェック方式で確認する。 1 作成義務のある企業の範囲等 2 作成時期 Ⅲ ローカルファイルの記載内容 ローカルファイルにおいては、租税特別措置法施行規則22条の10に記載されている内容を織り込む必要がある。以下では記載内容、準備書類、チェックポイントについて確認していくこととする。 1 「国外関連取引の内容を記載した書類」のチェックポイント (1) 資産及び役務の内容(措規22の10①一イ) ① 記載内容 国外関連取引の対象となる資産の明細及び役務の内容を説明する。 取引の当事者、取引の流れ等を明らかにする必要がある。 ② 準備書類 有価証券報告書、営業報告書又は会社案内 商品のパンフレット、カタログ又はプライスリスト 契約書 ③ チェックポイント (2) 機能及びリスク(措規22の10①一ロ) ① 記載内容 国外関連取引において、法人及び国外関連者がどのような機能を果たし、どのようなリスクを負担しているのかを説明する。 法人及び国外関連者の国外関連取引に係る機能を、誰がどこでどのように果たしているかを記載する。 機能を果たすための重要な判断や決定を誰がどこでどのように行っているか、また、費用の負担は誰がどのように行っているか、さらに、その機能が基本的活動のみを行う法人の機能とは異なる独自の機能である場合には、独自の機能と判断した理由を記載する必要がある。 ② 準備書類 経営組織図、所属員数表、業務分掌表、業務フロー図、有価証券報告書、会社案内及びホームページをアウトプットしたもの 契約書 国外関連取引の取引フロー図 事業計画、事業計画に係る稟議書、出張稟議書及び出張報告書 事業再編等に係る計画書、稟議書、報告書及び会議資料 ③ チェックポイント (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第21回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) (12) 減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法 ① 概要 『平成13年版改正税法のすべて』172-173頁(大蔵財務協会、平成13年)では、減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法の改正内容として、(イ)期中損金経理額の損金算入、(ロ)損金経理をした金額、(ハ)取得価額、(ニ)取得日、(ホ)増加償却、(へ)中古耐用年数について記載されている。 【第16回】で解説したように、適格合併及び適格分割型分割では「引継ぎ」と規定し、適格分社型分割及び適格現物出資では「譲渡」と規定していることから、前者は当然に計算要素を引き継ぎ、後者は計算要素を引き継がないという違いがある。 さらに、平成13年当時の法人税法では、適格合併及び適格分割型分割を行った場合には、みなし事業年度を区切るのに対し、適格分社型分割及び適格現物出資を行った場合には、みなし事業年度を区切らないという違いがある(平成22年度税制改正により、適格分割型分割を行った場合についても、みなし事業年度を区切らないこととなった)。 これらの違いを考慮しながら条文を読んでみると、理解が進みやすいと思われる。 ② 期中損金経理額の損金算入 平成13年度税制改正により、適格分社型分割又は適格現物出資を行った場合における「期中損金経理額の損金算入」の制度が設けられた(法法31②)。 この規定の適用を受けるためには、適格分社型分割又は適格現物出資の日以後2月以内に期中損金経理額等を記載した書類(適格分割等による期中損金経理額等の損金算入に関する届出)を納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(法法31③、法規21の2)。これは、みなし事業年度を区切らないことから、例えば、3月決算法人が1月1日に適格分社型分割を行った場合に、4月1日から12月31日までの損金経理ができなくなってしまうために設けられた制度である。 そのため、上記の書類の提出を失念した場合には、分割法人では減価償却を行えず、分割承継法人では1月1日から3月31日までの減価償却しか行えないため、残りの9ヶ月分の減価償却は、将来の事業年度において行うことになる。そして、同令60条において、同様の趣旨により前述(ホ)増加償却についての規定が定められている。 なお、条文の読み方としては、「当該減価償却資産につき当該適格分社型分割等の日の前日を事業年度の終了の日とした場合に」と規定されていることから、1月1日が適格分社型分割の日である場合には、12月31日を事業年度終了の日とした場合の償却限度額に達するまでの金額が期中損金経理額になる。 さらに、平成22年度税制改正により、適格分割型分割を行った場合のみなし事業年度が廃止されたため、現行法人税法では、適格分割型分割を行った場合にも、期中損金経理額の制度が設けられている。 ③ 損金経理をした金額 平成13年度税制改正直後の法人税法31条4項、5項では、以下のように規定されていた。 つまり、法人税法31条4項では、損金経理額又は期中損金経理額には、被合併法人、分割法人又は現物出資法人が損金経理をした金額のうち、損金の額に算入されなかった金額が含まれることが規定されている。これにより、被合併法人等の法人税確定申告書別表5(1)で加算・留保されていたものを合併法人等でそのまま引き継ぐことが可能になる。 なお、適格合併及び適格分割型分割と、適格分社型分割、適格現物出資及び適格事後設立が分けて規定されているが、期中損金経理額の有無によるものであるため、それを理解しておけば読みやすいであろう。 そして、同条5項では、例えば、会計上、被合併法人での帳簿価額が100である減価償却資産を合併法人が30で引き継いだ場合に、差額の70を損金経理額として処理することが規定されている。これにより、合併法人の法人税確定申告書別表5(1)では、別表4を通さずに70の加算を行うことができるため、合併法人の事業年度において、減価償却費の対象とすることができる。 このように、損金経理要件の範疇で組織再編税制を組み込んだため、かなり複雑な制度になったということが言える。私見ではあるが、組織再編税制、連結納税制度を受けて、損金経理要件もかなり限界になっていると思われる。なお、上記の取扱いは、平成16年度税制改正を受けて、さらに細かく整理されていくことになる。この点については、後日、解説を行うこととする。 ④ 取得価額 法人税法施行令54条1項では、適格組織再編成を行った場合における減価償却資産の取得価額について規定された。法人税法62条の2以下で、帳簿価額が引き継がれることが規定されたが、減価償却費の計算上、取得価額も引き継がれる必要があるため、別途、ここで規定されている。 ここで特徴的なものは、「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」と規定されている点である。 実際に、これに該当するものがあるかどうかを拙著『組織再編におけるのれんの税務』94-95頁(中央経済社、平成20年)で検討したことがある。当時、「直接に要した」と規定されていることから、実際に該当するものはほとんどないのではないかと解説した。なぜなら、合併に伴って発生する費用のうち、特定の減価償却資産のために発生するものはほとんど存在しないからである。不動産の所有権移転登記に係る費用が該当しそうであるが、法人税基本通達7-3-3の2において、取得価額に含める必要がないことが明らかにされている。 そのため、実務上、合併後の効率化のために、資本的支出として発生したものを除き、取得価額に含める必要はないと考えられる。 ⑤ 取得日 【第16回】で解説したように、「引継ぎ」と「取得」の違いを理解しながら条文解釈を行う必要がある。例えば、平成13年度税制改正で導入された法人税法施行令48条3項(現行48条の3)では、適格分社型分割又は適格現物出資により減価償却資産の移転を受けた場合には、分割法人又は現物出資法人が当該減価償却資産の取得をした日において、分割承継法人又は被現物出資法人により取得をされたものとみなすことが明らかにされている。 なお、当時は、平成10年3月31日以前に取得された「建物」と「営業権」のみが問題となっていたため、「建物」と「営業権」のみが規定されていたが、平成19年度税制改正により、減価償却制度が見直された時期に、すべての減価償却資産が本規定の対象になった。 ⑥ 中古耐用年数 平成13年度税制改正後の減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条2項では、適格分社型分割等により移転を受けた減価償却資産について、分割法人等が中古資産の見積耐用年数等によっていた場合において、分割承継法人等がその資産の減価償却をするときは、当該見積耐用年数によることができることが規定された。 なお、同条1項では、減価償却資産を「取得」した場合に、中古耐用年数を使用することができると規定されている。この規定により、分割法人又は現物出資法人が中古耐用年数を使用していたかどうかにかかわらず、適格分社型分割又は適格現物出資を行った場合には、分割承継法人又は被現物出資法人で中古耐用年数を使用することができる。これに対し、平成13年当時では、適格合併又は適格分割型分割を行った場合には、減価償却資産を「引継ぐ」ため、本規定の適用を受けることができないと解されていた。 この点につき、平成15年度税制改正が行われ、適格合併又は適格分割型分割を行った場合にも、中古耐用年数を使用することが可能になった。 * * * 次回では、圧縮記帳(国庫補助金)及び貸倒引当金について解説を行う予定である。 (了)