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[無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第62回】株式会社郷鉄工所 「第三者委員会調査報告書(平成29年6月23日付)」 「追加調査に対する第三者委員会中間報告書(平成29年8月8日付)」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第62回】

株式会社郷鉄工所

「第三者委員会調査報告書(平成29年6月23日付)」

「追加調査に対する第三者委員会中間報告書(平成29年8月8日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

本稿公開時点において、郷鉄工所のホームページは閉鎖されており、調査報告書を含む公表されたリリースへのリンクは行っていない。

【第三者委員会(第一次)の概要】

〔適時開示〕

  • 2017(平成29)年3月13日
    「第三者委員会設置に関するお知らせ」
  • 2017(平成29)年4月21日
    「(開示事項の経過)第三者委員会設置に関するお知らせ」
  • 2017(平成29)年5月2日
    「第三者委員会の設置決定に関するお知らせ」
  • 2017(平成29)年5月31日
    「第三者委員会の調査期間延長及び平成29年3月期定時株主総会の延期に関するお知らせ」

〔第三者委員会〕

【委員長】

弁護士 矢崎 信也

【委 員】

弁護士 久野 実

弁護士 野村 朋加

弁護士 平井 朝

公認会計士 荒川 紳示

他に補助者として、弁護士3名、公認会計士1名が選任されている。

〔調査期間〕

2017(平成29)年5月31日から6月23日まで

〔調査の目的〕

(1) X社案件及びY社案件に関する事実関係を調査し、会計処理の適正性及び妥当性について検討する。

(2) 上記(1)を踏まえ、X社案件及びY社案件における会計処理の適正性及び妥当性を欠くと判断した場合には、その原因を究明する。

(3) 本上記(1)及び(2)を踏まえ、再発防止策の提言を行う。

(4) その他当委員会が必要と認めた調査対象事項の調査を行う。

〔適時開示(調査結果)〕

  • 2017(平成29)年6月23日
    「第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」

(注) 上記調査の目的のうち、「X社案件」とは、郷鉄工所が他社から受注した太陽光発電施設工事のうち、会計監査人から不透明な取引との指摘を受けた案件をいい、「Y社案件」とは、郷鉄工所が行った不動産取引において、支払った手付金が回収不能となった案件をいう。

 

【第三者委員会(追加調査)の概要】

〔適時開示〕

  • 2017(平成29)年6月28日
    「(経過)第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」
  • 2017(平成29)年7月14日
    「第三者による追加調査に関するお知らせ」
  • 2017(平成29)年7月31日
    「追加調査に対する第三者委員会設置に関するお知らせ」

〔第三者委員会〕

【委員長】

弁護士 高野 哲也

【委 員】

弁護士 倉橋 博文

公認会計士 山田 幸平

他に補助者として弁護士1名が参加している。

〔調査期間〕

2017(平成29)年7月31日から8月8日まで

〔調査の目的〕

主に平成29年3月期における以下の内容を中心に調査を実施し、その原因を究明し、再発防止策の検討・提言を行うとともに、類似案件の有無の調査を行うことを目的としてする。

① 滞留債権の発生に至った経緯及び事実関係について

② 資金調達時の小切手・手形の管理及び支払費用の妥当性及び調達先選定の経緯について

③ 債務免除益の妥当性について

〔適時開示(調査結果)〕

  • 2017(平成29)年8月8日
    「追加調査に対する第三者委員会の中間報告書受領に関するお知らせ」
  • 2017(平成29)年8月25日
    「第三者委員会による追加調査の中止に関するお知らせ」

 

【株式会社郷鉄工所の概要】

株式会社郷鉄工所(以下「郷鉄工所」と略称する)は、昭和6(1931)年創業、昭和22(1947)年設立。破砕粉砕機などの産業用機械設備の開発、製造及び販売、インフラ整備事業などを手がける。売上高3,831百万円、経常損失751百万円、資本金約717百万円。平成28年3月期決算において、594百万円の債務超過となっている。従業員数約90名(調査報告書(第一次)の記載による)。本店所在地は岐阜県不破郡垂井町。東京証券取引所第2部、名古屋証券取引所第2部に上場。

 

【第三者委員会調査報告書(第一次)の概要】

1 調査に至る経緯

6月23日に公表された第三者委員会調査報告書(以下、5月31日に設置された第三者委員会を「第一次第三者委員会」、6月23日に公表された調査報告書を「第一次報告書」とそれぞれ略称する)によれば、郷鉄工所は、平成28年8月に、会計監査人である監査法人アリアから、「金融機関以外からの資金調達における不適切な手形の振出や売上の計上に関する不適切な会計処理について指摘を受けたことを契機として内部調査を開始した」ということであり、その後、「外部の公正中立かつ独立した第三者委員会に事実関係の調査等を委ねることにより、迅速に事実関係を明らかにすることが不可欠であると判断した」ため、第一次第三者委員会が設置され、「X社案件」、「Y社案件」に関する調査が実施された。

2 調査結果の概要

第一次第三者委員会は、詳細な調査の結果、122ページに及ぶ大部の第一次報告書をまとめているが、ここでは、調査対象となった2つの案件の結論部分のみ、取り上げたい。

(1) X社案件

郷鉄工所は、本業である破砕機事業の低迷が顕著であったことから、太陽光発電施設工事の新規事業に参入することを決め、平成26年6月、太陽光発電事業に詳しい石川歩を取締役(以下「石川元取締役」と略称する)として招聘し、新規事業を積極的に展開した。

ところが、思うように商談が獲得できず、不慣れな工事事業であったことから採算割れとなり、太陽光発電施設工事事業は赤字に転落する。

そこで、石川元取締役と当時の代表取締役社長であった長瀬隆雄(以下「長瀬元代表取締役」と略称する)が主導して行ったのが、架空売上の計上とX社に対する架空仕入の計上による粉飾決算であった。X社に対する買掛金の決済のために振り出した約束手形は、X社によって金融機関で割引がなされ、一部は郷鉄工所に還流し、一部はX社から郷鉄工所名義で郷鉄工所の買掛金の決済資金として振り込まれ、こうした資金還流スキームの手数料として、X社には、年利換算で50%を超える多額の手数料が支払われていた(第一次報告書p.50以下)。

(2) Y社案件

郷鉄工所経営陣は、平成27年11月頃から、平成28年3月期決算における債務超過及び営業赤字を回避する方法を模索していたところ、長瀬元代表取締役が知己を得た不動産ブローカーと思われる人物から取引案件を持ちかけられ、財務担当の専務取締役である田中桂一(以下「田中取締役」と略称する)とともに、検討を行っていた。

当初、代々木にあったビル跡地を34億円の売買代金で契約する方向で話を進めていたところ、平成28年3月末日までの契約が困難であることが判明し、急きょ、Y社が所有する兵庫県西宮市所在の土地を、郷鉄工所が4億円で購入し、Z社に13億円で転売するというスキームで話が進められた。

平成28年3月29日、郷鉄工所は、不動産の売買契約書(Y社からの買取契約、Z社への転売契約)に押印するとともに、手付金としてY社あての2,000万円の約束手形を振り出して、取引仲介者に交付した。

その後、Y社名義の土地に西宮市による差押がなされていることなどから、取引自体は実現しなかったが、郷鉄工所が支払った手付金は回収されないままとなり、会計監査人からも指摘を受けるに至っていた。

第一次第三者委員会は、この取引について、「粉飾決算目的の取引であった可能性が極めて高い」と判定した。

3 責任の所在

第一次第三者委員会は、2つの案件に積極的に関与した長瀬元代表取締役、石川元取締役及び田中取締役だけでなく、樋田英貴元代表取締役副社長、宮脇一人取締役についても、架空仕入による資金調達の事実を知りながら、臨時支払申請書の承認を行ったとしている。

その他の取締役についても、責任の所在についての厳しい指摘が並べられている。

そうした中、社外取締役である馬渕良一(以下「馬渕社外取締役」と略称する)について、取締役会において、太陽光事業に関する説明や収支状況の明確化を要請したため、次第に、「他の役員から疎まれる存在」となり、郷鉄工所の情報が共有されないようになっていた事情もあり、「同人の活動は功を奏していない」ものの、職責は果たしていたと評価している。

また、2名の社外監査役については、「企業家としての感性から、太陽光発電事業について懐疑的な印象を抱いて」いたにもかかわらず、取締役会や監査役会で積極的に発言することもなく、社外監査役の役割を自覚していなかったことから、X社案件については、「善管注意義務違反が認められる可能性は否定できない」と評価した。

4 再発防止策

第一次第三者委員会は、調査報告書の最後に、再発防止策を次のように挙げている。

(1) 直接的な原因の除去

① 売上重視の風潮の見直し

② 新規事業の審査

③ 明確な社内規程の整備及び遵守

④ 取引先に対する限度額の設置

⑤ 与信調査

(2) 組織体制の改善

① 現行役員の大幅な刷新

② 社外役員の権限及び機能の強化

③ 内部監査室の設置

④ 内部通報制度の拡充、社内リーニエンシー制度の採用

(3) コンプライアンス教育の充実

① 役員のコンプライアンス教育の見直し

② 従業員のコンプライアンス教育の見直し

「与信限度額管理」や「信用調査」、「内部監査室の設置」など、上場企業の内部統制システム上欠くことのできない機能や機関が整備されていなかったことが、経営トップによる架空売上の計上という粉飾決算につながったという見方もあるかもしれないが、本件は、「2期連続の赤字」「2期連続の債務超過」を避けて上場を維持するためには、法律違反も辞さないと判断した経営トップの資質に問題があり、「現行役員の大幅な刷新」が実現できれば、再発防止策としては、十分なのかもしれない。

なお、公表されている最後の有価証券報告書(平成28年3月期)の記載によれば、コーポレートガバナンス体制図の中に、括弧書きながら、「経営監査部」という文字があり、内部監査が実施されていることになっている。この点、「内部監査室が設置されていない」という第一次報告書の評価とは異なっているのであるが、もし、第一次第三者委員会の評価が正しいのだとすれば、平成28年3月期有価証券報告書提出後、体制が変わったのか、有価証券報告書の記載に虚偽があったのかということになろうが、第一次報告書にはそこまでの記載はない。

 

【追加調査に対する中間報告書】

1 追加調査に至った経緯

6月23日、第一次第三者委員会による調査報告書の受領を公表した郷鉄工所は、受領から5日後に当たる同月28日、「(経過)第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」というリリースを出して、第一次第三者委員会の調査の対象となった2つの事案以外の調査対象事案についても調査を行い、過年度決算に与える影響を明らかにすることが必要であるとして、あらためて第三者による調査を行うことを公表した。

具体的な調査対象については、次のとおりの説明があった。

①及び②(引用者注:第一次第三者委員会の調査対象となった「X案件」及び「Y案件」のこと)以外の多額の滞留債権の発生に至った経緯と事実関係の調査及び取引自体の妥当性並びに業務処理が適正になされたかどうかの調査、資金調達時の小切手・手形の管理及び支払費用の妥当性及び資金調達先の選定の経緯

一方、追加調査に対する第三者委員会による中間報告書(以下、7月31日に設置された追加調査に対する第三者委員会を「第二次第三者委員会」、8月8日公表された追加調査に対する第三者委員会による中間報告書を「中間報告書」とそれぞれ略称する)では、第二次第三者委員会の設置経緯について、郷鉄工所の会計監査人より、次の指摘を受けた旨の説明がされている(中間報告書p.1)。

(1) (引用者注:社内調査対象案件のうち第一次第三者委員会の調査対象となった)2案件以外の13案件(以下「社内調査対象13案件」という)についても、追加して調査する必要があり、これが完了しない限り、決算に関する監査意見を表明することは出来ず、決算も確定させることはできない。

(2) 平成29年3月30日付「固定資産・流動資産の一部譲渡及び一部賃貸借契約の締結、並びに債務免除等の金融支援に伴う特別利益の計上に関するお知らせ」及び平成29年3月31日付「流動資産の譲渡契約の締結並びに債務免除等の金融支援に伴う特別利益の計上に関するお知らせ」により開示した取引について、当該取引の成否(特別利益計上の可否)を含めた債務免除益の妥当性に関し疑義があるため、上記と同様に追加して調査を実施する必要がある。

2 追加調査結果の概要

(1) 限られた期間内での調査

郷鉄工所は、有価証券報告書提出期限延長承認後の提出期限である平成29年7月31日にも第86期有価証券報告書の提出ができていないため、同年8月10日までに有価証券報告書の提出ができなかった場合には、上場廃止基準に該当することになる。

第二次第三者委員会は、同日までに有価証券報告書を提出することを前提に、主に平成29年3月期の決算に直接的な影響を及ぼす可能性のある項目に限定して調査・検討を行った結果を報告することとして、事実関係の調査を実施し、会計処理上の問題点等に関する検討を行った結果について中間報告を提出することとした。

その結果、調査期間は、実質1週間というきわめて短い期間となった。

(2) 社内調査対象13件に関する評価

社内調査対象案件の多くは、郷鉄工所が有する債権について、貸倒引当金をどの時期にどれだけの割合で設定するかが問題となっていたものである。

第二次第三者委員会の調査結果の結論部分だけをまとめると、次のとおりとなる。

(3) 平成29年3月末における資産譲渡取引における特別利益の計上

郷鉄工所は、平成29年3月期決算において、調査対象となった2件のリリースによって、自社が保有している不動産や棚卸資産を帳簿価額より高値で債権者(4社+1個人)に対して譲渡することにより、10億8,200万円の借入金を相殺するとともに、多額の特別利益を計上することとしていた。

第二次第三者委員会は、こうした譲渡契約のうち、本社工場跡地の一部などの不動産を取得して、譲渡代金と貸付債権を相殺する契約を締結した二孝建設株式会社との取引については、同社の「経済的合理性はある前提で本件資産譲渡取引に応じた」という見解も踏まえたうえで、「特別利益の計上等についての有効性に疑義を挟むべき事情は認められない」と判断した。

一方、それ以外の取引については、資産譲渡取引についての契約は、真意から行われたものと認めるには難があることは否定できず、平成29年3月期の債務超過を回避するために、真意に依らずに実施されたものとして、少なくとも、特別利益の計上の有効性及び貸付債権の消滅を認識することには強い疑義があると評価した。

3 郷鉄工所における振出手形の回収

第二次第三者委員会は、中間報告書の最後に「振出手形の回収等について」という項目を置き、「手形の管理体制に不備があるのではないかというとの疑念」を表明している。その理由として、「資産譲渡取引によって貸付債権が消滅したにもかかわらず、振り出した約束手形が回収されなかったのではないかと思われる事象」が認められたということである。

もっとも、第二次第三者委員会は、「振出手形の回収状況自体は会計上の問題に直接の影響を与える事象とも言えない」として、振出手形の回収状況に関する認定を行っていない。

もちろん、第二次第三者委員会による調査は非常に短い時日でまとめられたことから、この評価自体を批判することは難しいのだが、後述のとおり、郷鉄工所における「手形の管理体制の不備」が二度にわたる不渡りの発生、銀行取引停止処分という事態を出来させてしまったことは事実である。

4 追加調査の中止

第二次第三者委員会による中間報告書がまとめられたにもかかわらず、監査法人アリアによる会計監査は終わらなかったようで、郷鉄工所は、8月10日、「平成29年3月期有価証券報告書提出未了及び上場廃止の見込みに関するお知らせ」を公表する。

その後、8月25日において、「第三者委員会による追加調査の中止に関するお知らせ」を公表し、郷鉄工所は「当社の資金事情を踏まえ」たうえで、追加調査の中止を公表した。

 

【調査報告書の特徴】

郷鉄工所は、8月31日及び9月1日に約束手形の不渡りが発生し、銀行取引停止処分となった。不渡りとなった約束手形は郷鉄工所が「今後の借入を目的として振出先に預けて」いたものであり、「手形を担保とした借入は実行されていないことから、取立に持ち込まないよう交渉」していたということである。

東京商工リサーチが、9月6日付で配信した記事によれば、負債総額は55億2,000万円に達している(平成28年12月末時点)。その後、東京商工リサーチが9月11日付で配信した記事及び翌12日付で帝国データバンクが配信した記事によれば、郷鉄工所は事後処理を弁護士に一任して、自己破産申請の準備に入ったということである。

郷鉄工所が資金的に行き詰まっていたことは間違いない。7月31日、第三者委員会による追加調査費用3,000万円を借入れで賄うことを公表した後、追加調査を開始した後の8月3日には、資金の借入れを行っていた相手先から、金融機関の預金口座が仮差押えされるということをリリースし、同月18日には名古屋国税局から、23日には岐阜県西濃県税事務所から、それぞれ今後発生する売掛債権が差し押さえられるという事態に至っている。

1 第一次第三者委員会による調査対象の選定(絞り込み)と追加調査

一連の郷鉄工所のリリースを時系列に眺めていくと、郷鉄工所が、上場廃止の危機をいかにして回避するかについて、相当腐心している様子が見てとれる。

そうした中、まず疑問に思ったのが、第一次第三者委員会による調査対象の選定経緯はどのようなものであったのかというものである。

第一次報告書冒頭(p.10)には、「内部調査委員会が取り纏めた事案の中から、より重要性が高いと思われる」案件として、「X案件」「Y案件」が調査対象に選定されたとの記述がある。

このとき、郷鉄工所の会計監査人である監査法人アリアは、この選定に異議を唱えなかったのであろうか。会計監査人の立場からすれば、内部調査委員会が調査対象とした事案(結果的には15件あったことが6月28日付リリースで判明している)のすべてが解明されないと適正意見が出せないのは当然のことである。また、追加調査の必要ありとされた3月30日付及び3月31日付のリリースにしても、2期連続の経常赤字、2期連続の債務超過により上場廃止の危機が迫っている会社が出したものであるという視点で見れば、上場廃止を回避するために、一部債権者と結託して債務免除益を創出したものではないかという疑義は、容易に浮かんだはずである。

監査法人アリアが、第一次第三者委員会による調査に関して、どのような考えを有していたのか、大いに疑問に感じるとともに、第一次第三者委員会で徹底した調査を行えば、それが、すなわち上場廃止へとつながるという意識が経営者にあったのではないかという更なる疑問へとつながっていく。

2 長瀬隆雄元代表取締役社長の発信メール(第一次報告書p.111)

第一次報告書では、粉飾決算当時、代表取締役社長であった長瀬隆雄氏が発信したメールが引用されている。上場廃止を免れなくなったことを実感した経営トップの心情を知るうえで、貴重なデータであると考え引用する。

送信日時:平成28年11月24日

内容:今は役員全員がズタズタになっても会社を支える時ではないでしょうか、緊急事態なんです。理屈や道理で会社は救えません。わかって下さい。

送信日時:平成28年12月19日

内容:各位にお願い、現在の状況下での田中専務の資金繰り努力は厳しいものを感じます、私は田中専務の提案に賛成します。会社法より会社優先をお願いします。

送信日時:平成29年4月21日

内容:今日の役員会で第三者委員会が決定する、私は欠席、そろそろ潮時と思っている会社に未練はない、一生懸命支えてきたが・・・・・・

送信日時:平成29年4月22日

内容:昨日の役員会で第三者委員会が決定した、私にも潮時が来た遅かった、会社に未練はない、一生懸命支え40年貢献したつもり、ウルトラCはないのか?

長瀬氏が代表取締役を辞任したのは、平成29年2月20日付である。まだ代表取締役社長であった当時の12月19日に、財務担当専務取締役であった田中桂一氏に送ったメールにある「会社法より会社優先をお願いします」という表現は、本音には違いないが、上場会社の社長として、許される発言とは言えまい。

また、第三者委員会の設置を取締役会で決定したことを、「潮時が来た」と評していることについて、どういう心境だったのか興味があるところだ。その後に続く「会社に未練はない」という文言からは、自らの取締役辞任のことを意味しているように読みとれるのだが、同時に、支え続けた郷鉄工所が上場廃止になることを意味しているかのようにも読める表現である。

3 名門企業の破綻

郷鉄工所の経営破綻をめぐっては、インターネット上にも様々な憶測や噂が流されており、いわゆる「事件屋」と称される人物の暗躍も指摘されている。不透明な約束手形の振り出しが命取りとなったのは事実であるが、名門企業としての知名度が、裏社会の住人に食い物にされた面があるのかもしれない。

なお、中間報告書で指摘された、「資産譲渡取引によって貸付債権が消滅したにもかかわらず、振り出した約束手形が回収されなかったのではないかと思われる事象」と不渡事故との関係については、今回の不渡りとなった約束手形を持ち込んだ2社は、資産譲渡取引の相手方ではなく、無関係であると思われることを付言しておく。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第60回 ※クリックするとご覧いただけます。

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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