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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第62回】株式会社郷鉄工所 「第三者委員会調査報告書(平成29年6月23日付)」 「追加調査に対する第三者委員会中間報告書(平成29年8月8日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第62回】 株式会社郷鉄工所 「第三者委員会調査報告書(平成29年6月23日付)」 「追加調査に対する第三者委員会中間報告書(平成29年8月8日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会(第一次)の概要】 (注) 上記調査の目的のうち、「X社案件」とは、郷鉄工所が他社から受注した太陽光発電施設工事のうち、会計監査人から不透明な取引との指摘を受けた案件をいい、「Y社案件」とは、郷鉄工所が行った不動産取引において、支払った手付金が回収不能となった案件をいう。   【第三者委員会(追加調査)の概要】   【株式会社郷鉄工所の概要】 株式会社郷鉄工所(以下「郷鉄工所」と略称する)は、昭和6(1931)年創業、昭和22(1947)年設立。破砕粉砕機などの産業用機械設備の開発、製造及び販売、インフラ整備事業などを手がける。売上高3,831百万円、経常損失751百万円、資本金約717百万円。平成28年3月期決算において、594百万円の債務超過となっている。従業員数約90名(調査報告書(第一次)の記載による)。本店所在地は岐阜県不破郡垂井町。東京証券取引所第2部、名古屋証券取引所第2部に上場。   【第三者委員会調査報告書(第一次)の概要】 1 調査に至る経緯 6月23日に公表された第三者委員会調査報告書(以下、5月31日に設置された第三者委員会を「第一次第三者委員会」、6月23日に公表された調査報告書を「第一次報告書」とそれぞれ略称する)によれば、郷鉄工所は、平成28年8月に、会計監査人である監査法人アリアから、「金融機関以外からの資金調達における不適切な手形の振出や売上の計上に関する不適切な会計処理について指摘を受けたことを契機として内部調査を開始した」ということであり、その後、「外部の公正中立かつ独立した第三者委員会に事実関係の調査等を委ねることにより、迅速に事実関係を明らかにすることが不可欠であると判断した」ため、第一次第三者委員会が設置され、「X社案件」、「Y社案件」に関する調査が実施された。 2 調査結果の概要 第一次第三者委員会は、詳細な調査の結果、122ページに及ぶ大部の第一次報告書をまとめているが、ここでは、調査対象となった2つの案件の結論部分のみ、取り上げたい。 (1) X社案件 郷鉄工所は、本業である破砕機事業の低迷が顕著であったことから、太陽光発電施設工事の新規事業に参入することを決め、平成26年6月、太陽光発電事業に詳しい石川歩を取締役(以下「石川元取締役」と略称する)として招聘し、新規事業を積極的に展開した。 ところが、思うように商談が獲得できず、不慣れな工事事業であったことから採算割れとなり、太陽光発電施設工事事業は赤字に転落する。 そこで、石川元取締役と当時の代表取締役社長であった長瀬隆雄(以下「長瀬元代表取締役」と略称する)が主導して行ったのが、架空売上の計上とX社に対する架空仕入の計上による粉飾決算であった。X社に対する買掛金の決済のために振り出した約束手形は、X社によって金融機関で割引がなされ、一部は郷鉄工所に還流し、一部はX社から郷鉄工所名義で郷鉄工所の買掛金の決済資金として振り込まれ、こうした資金還流スキームの手数料として、X社には、年利換算で50%を超える多額の手数料が支払われていた(第一次報告書p.50以下)。 (2) Y社案件 郷鉄工所経営陣は、平成27年11月頃から、平成28年3月期決算における債務超過及び営業赤字を回避する方法を模索していたところ、長瀬元代表取締役が知己を得た不動産ブローカーと思われる人物から取引案件を持ちかけられ、財務担当の専務取締役である田中桂一(以下「田中取締役」と略称する)とともに、検討を行っていた。 当初、代々木にあったビル跡地を34億円の売買代金で契約する方向で話を進めていたところ、平成28年3月末日までの契約が困難であることが判明し、急きょ、Y社が所有する兵庫県西宮市所在の土地を、郷鉄工所が4億円で購入し、Z社に13億円で転売するというスキームで話が進められた。 平成28年3月29日、郷鉄工所は、不動産の売買契約書(Y社からの買取契約、Z社への転売契約)に押印するとともに、手付金としてY社あての2,000万円の約束手形を振り出して、取引仲介者に交付した。 その後、Y社名義の土地に西宮市による差押がなされていることなどから、取引自体は実現しなかったが、郷鉄工所が支払った手付金は回収されないままとなり、会計監査人からも指摘を受けるに至っていた。 第一次第三者委員会は、この取引について、「粉飾決算目的の取引であった可能性が極めて高い」と判定した。 3 責任の所在 第一次第三者委員会は、2つの案件に積極的に関与した長瀬元代表取締役、石川元取締役及び田中取締役だけでなく、樋田英貴元代表取締役副社長、宮脇一人取締役についても、架空仕入による資金調達の事実を知りながら、臨時支払申請書の承認を行ったとしている。 その他の取締役についても、責任の所在についての厳しい指摘が並べられている。 そうした中、社外取締役である馬渕良一(以下「馬渕社外取締役」と略称する)について、取締役会において、太陽光事業に関する説明や収支状況の明確化を要請したため、次第に、「他の役員から疎まれる存在」となり、郷鉄工所の情報が共有されないようになっていた事情もあり、「同人の活動は功を奏していない」ものの、職責は果たしていたと評価している。 また、2名の社外監査役については、「企業家としての感性から、太陽光発電事業について懐疑的な印象を抱いて」いたにもかかわらず、取締役会や監査役会で積極的に発言することもなく、社外監査役の役割を自覚していなかったことから、X社案件については、「善管注意義務違反が認められる可能性は否定できない」と評価した。 4 再発防止策 第一次第三者委員会は、調査報告書の最後に、再発防止策を次のように挙げている。 「与信限度額管理」や「信用調査」、「内部監査室の設置」など、上場企業の内部統制システム上欠くことのできない機能や機関が整備されていなかったことが、経営トップによる架空売上の計上という粉飾決算につながったという見方もあるかもしれないが、本件は、「2期連続の赤字」「2期連続の債務超過」を避けて上場を維持するためには、法律違反も辞さないと判断した経営トップの資質に問題があり、「現行役員の大幅な刷新」が実現できれば、再発防止策としては、十分なのかもしれない。 なお、公表されている最後の有価証券報告書(平成28年3月期)の記載によれば、コーポレートガバナンス体制図の中に、括弧書きながら、「経営監査部」という文字があり、内部監査が実施されていることになっている。この点、「内部監査室が設置されていない」という第一次報告書の評価とは異なっているのであるが、もし、第一次第三者委員会の評価が正しいのだとすれば、平成28年3月期有価証券報告書提出後、体制が変わったのか、有価証券報告書の記載に虚偽があったのかということになろうが、第一次報告書にはそこまでの記載はない。   【追加調査に対する中間報告書】 1 追加調査に至った経緯 6月23日、第一次第三者委員会による調査報告書の受領を公表した郷鉄工所は、受領から5日後に当たる同月28日、「(経過)第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」というリリースを出して、第一次第三者委員会の調査の対象となった2つの事案以外の調査対象事案についても調査を行い、過年度決算に与える影響を明らかにすることが必要であるとして、あらためて第三者による調査を行うことを公表した。 具体的な調査対象については、次のとおりの説明があった。 一方、追加調査に対する第三者委員会による中間報告書(以下、7月31日に設置された追加調査に対する第三者委員会を「第二次第三者委員会」、8月8日公表された追加調査に対する第三者委員会による中間報告書を「中間報告書」とそれぞれ略称する)では、第二次第三者委員会の設置経緯について、郷鉄工所の会計監査人より、次の指摘を受けた旨の説明がされている(中間報告書p.1)。 2 追加調査結果の概要 (1) 限られた期間内での調査 郷鉄工所は、有価証券報告書提出期限延長承認後の提出期限である平成29年7月31日にも第86期有価証券報告書の提出ができていないため、同年8月10日までに有価証券報告書の提出ができなかった場合には、上場廃止基準に該当することになる。 第二次第三者委員会は、同日までに有価証券報告書を提出することを前提に、主に平成29年3月期の決算に直接的な影響を及ぼす可能性のある項目に限定して調査・検討を行った結果を報告することとして、事実関係の調査を実施し、会計処理上の問題点等に関する検討を行った結果について中間報告を提出することとした。 その結果、調査期間は、実質1週間というきわめて短い期間となった。 (2) 社内調査対象13件に関する評価 社内調査対象案件の多くは、郷鉄工所が有する債権について、貸倒引当金をどの時期にどれだけの割合で設定するかが問題となっていたものである。 第二次第三者委員会の調査結果の結論部分だけをまとめると、次のとおりとなる。 (3) 平成29年3月末における資産譲渡取引における特別利益の計上 郷鉄工所は、平成29年3月期決算において、調査対象となった2件のリリースによって、自社が保有している不動産や棚卸資産を帳簿価額より高値で債権者(4社+1個人)に対して譲渡することにより、10億8,200万円の借入金を相殺するとともに、多額の特別利益を計上することとしていた。 第二次第三者委員会は、こうした譲渡契約のうち、本社工場跡地の一部などの不動産を取得して、譲渡代金と貸付債権を相殺する契約を締結した二孝建設株式会社との取引については、同社の「経済的合理性はある前提で本件資産譲渡取引に応じた」という見解も踏まえたうえで、「特別利益の計上等についての有効性に疑義を挟むべき事情は認められない」と判断した。 一方、それ以外の取引については、資産譲渡取引についての契約は、真意から行われたものと認めるには難があることは否定できず、平成29年3月期の債務超過を回避するために、真意に依らずに実施されたものとして、少なくとも、特別利益の計上の有効性及び貸付債権の消滅を認識することには強い疑義があると評価した。 3 郷鉄工所における振出手形の回収 第二次第三者委員会は、中間報告書の最後に「振出手形の回収等について」という項目を置き、「手形の管理体制に不備があるのではないかというとの疑念」を表明している。その理由として、「資産譲渡取引によって貸付債権が消滅したにもかかわらず、振り出した約束手形が回収されなかったのではないかと思われる事象」が認められたということである。 もっとも、第二次第三者委員会は、「振出手形の回収状況自体は会計上の問題に直接の影響を与える事象とも言えない」として、振出手形の回収状況に関する認定を行っていない。 もちろん、第二次第三者委員会による調査は非常に短い時日でまとめられたことから、この評価自体を批判することは難しいのだが、後述のとおり、郷鉄工所における「手形の管理体制の不備」が二度にわたる不渡りの発生、銀行取引停止処分という事態を出来させてしまったことは事実である。 4 追加調査の中止 第二次第三者委員会による中間報告書がまとめられたにもかかわらず、監査法人アリアによる会計監査は終わらなかったようで、郷鉄工所は、8月10日、「平成29年3月期有価証券報告書提出未了及び上場廃止の見込みに関するお知らせ」を公表する。 その後、8月25日において、「第三者委員会による追加調査の中止に関するお知らせ」を公表し、郷鉄工所は「当社の資金事情を踏まえ」たうえで、追加調査の中止を公表した。   【調査報告書の特徴】 郷鉄工所は、8月31日及び9月1日に約束手形の不渡りが発生し、銀行取引停止処分となった。不渡りとなった約束手形は郷鉄工所が「今後の借入を目的として振出先に預けて」いたものであり、「手形を担保とした借入は実行されていないことから、取立に持ち込まないよう交渉」していたということである。 東京商工リサーチが、9月6日付で配信した記事によれば、負債総額は55億2,000万円に達している(平成28年12月末時点)。その後、東京商工リサーチが9月11日付で配信した記事及び翌12日付で帝国データバンクが配信した記事によれば、郷鉄工所は事後処理を弁護士に一任して、自己破産申請の準備に入ったということである。 郷鉄工所が資金的に行き詰まっていたことは間違いない。7月31日、第三者委員会による追加調査費用3,000万円を借入れで賄うことを公表した後、追加調査を開始した後の8月3日には、資金の借入れを行っていた相手先から、金融機関の預金口座が仮差押えされるということをリリースし、同月18日には名古屋国税局から、23日には岐阜県西濃県税事務所から、それぞれ今後発生する売掛債権が差し押さえられるという事態に至っている。 1 第一次第三者委員会による調査対象の選定(絞り込み)と追加調査 一連の郷鉄工所のリリースを時系列に眺めていくと、郷鉄工所が、上場廃止の危機をいかにして回避するかについて、相当腐心している様子が見てとれる。 そうした中、まず疑問に思ったのが、第一次第三者委員会による調査対象の選定経緯はどのようなものであったのかというものである。 第一次報告書冒頭(p.10)には、「内部調査委員会が取り纏めた事案の中から、より重要性が高いと思われる」案件として、「X案件」「Y案件」が調査対象に選定されたとの記述がある。 このとき、郷鉄工所の会計監査人である監査法人アリアは、この選定に異議を唱えなかったのであろうか。会計監査人の立場からすれば、内部調査委員会が調査対象とした事案(結果的には15件あったことが6月28日付リリースで判明している)のすべてが解明されないと適正意見が出せないのは当然のことである。また、追加調査の必要ありとされた3月30日付及び3月31日付のリリースにしても、2期連続の経常赤字、2期連続の債務超過により上場廃止の危機が迫っている会社が出したものであるという視点で見れば、上場廃止を回避するために、一部債権者と結託して債務免除益を創出したものではないかという疑義は、容易に浮かんだはずである。 監査法人アリアが、第一次第三者委員会による調査に関して、どのような考えを有していたのか、大いに疑問に感じるとともに、第一次第三者委員会で徹底した調査を行えば、それが、すなわち上場廃止へとつながるという意識が経営者にあったのではないかという更なる疑問へとつながっていく。 2 長瀬隆雄元代表取締役社長の発信メール(第一次報告書p.111) 第一次報告書では、粉飾決算当時、代表取締役社長であった長瀬隆雄氏が発信したメールが引用されている。上場廃止を免れなくなったことを実感した経営トップの心情を知るうえで、貴重なデータであると考え引用する。 長瀬氏が代表取締役を辞任したのは、平成29年2月20日付である。まだ代表取締役社長であった当時の12月19日に、財務担当専務取締役であった田中桂一氏に送ったメールにある「会社法より会社優先をお願いします」という表現は、本音には違いないが、上場会社の社長として、許される発言とは言えまい。 また、第三者委員会の設置を取締役会で決定したことを、「潮時が来た」と評していることについて、どういう心境だったのか興味があるところだ。その後に続く「会社に未練はない」という文言からは、自らの取締役辞任のことを意味しているように読みとれるのだが、同時に、支え続けた郷鉄工所が上場廃止になることを意味しているかのようにも読める表現である。 3 名門企業の破綻 郷鉄工所の経営破綻をめぐっては、インターネット上にも様々な憶測や噂が流されており、いわゆる「事件屋」と称される人物の暗躍も指摘されている。不透明な約束手形の振り出しが命取りとなったのは事実であるが、名門企業としての知名度が、裏社会の住人に食い物にされた面があるのかもしれない。 なお、中間報告書で指摘された、「資産譲渡取引によって貸付債権が消滅したにもかかわらず、振り出した約束手形が回収されなかったのではないかと思われる事象」と不渡事故との関係については、今回の不渡りとなった約束手形を持ち込んだ2社は、資産譲渡取引の相手方ではなく、無関係であると思われることを付言しておく。 (了)

#No. 235(掲載号)
#米澤 勝
2017/09/14

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第4回】「収益の認識基準②」-契約の結合-

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第4回】 「収益の認識基準②」 -契約の結合-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第2回】において、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)における収益認識のためのステップとして、次の5つがあることを解説した。 今回は、ステップ1の「顧客との契約を識別する」のうち「契約の結合」を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 契約の結合 1 契約の識別 【第3回】で解説したように、収益認識会計基準(案)は、「契約」を基礎として収益認識の会計処理等を規定している。 「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めである(収益認識会計基準(案)4項)。 収益認識会計基準(案)の適用にあたっては、「当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること」などの5つの要件(前回参照)のすべてを満たす顧客との契約を識別することとされている(16項)。 2 契約の結合に関する意見 収益認識に関する会計処理を行うに際して、①個々の契約を単位とするのか、②関連する契約がある場合には複数の契約を結合すべきなのかについては、次のように議論が行われている(第349回企業会計基準委員会(2016年 11月 18日)の審議事項(4)-2、10項、11項、15項)。 そのほか、次の意見もある(第349回企業会計基準委員会(2016年 11月 18日)の審議事項(4)-2、13項、17項)。 3 契約の結合に関する規定 収益認識会計基準(案)は、複数の契約は、区分して処理するか単一の契約として処理するかにより収益認識の時期及び金額が異なる可能性があるため、収益認識会計基準(案)24項の要件を満たす場合には、複数の契約を結合して単一の契約として処理するとし、次の規定を設けている(24項、111項、130項)。 一方、契約書ベースの会計処理を認める場合には、財務諸表間の比較可能性という観点では、当該会計処理がIFRS第15号における独立販売価格に基づく配分による結果と乖離することへの懸念が聞かれていることを踏まえ、顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められる旨の要件に加え、顧客との個々の契約において定められている顧客に移転する財又はサービスの金額が、独立販売価格と著しく異なるとは認められない旨の要件を満たす場合には、契約書ベースの会計処理を認めることが考えられるがどうかとの意見があり(第359回企業会計基準委員会(2017年4月28日)の審議事項(4)-3、3項)、「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」において、次の規定が設けられている(100項~102項)。   Ⅲ 会計システム等への影響 会計システム等への影響として次のことが考えられる(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)28項~30項)。 このため、経理部以外の部署への影響についても検討することが考えられる。 (了)

#No. 235(掲載号)
#阿部 光成
2017/09/14

税理士のための〈リスクを回避する〉顧問契約・委託契約Q&A 【第1回】「顧問契約の範囲と助言義務」

税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第1回】 「顧問契約の範囲と助言義務」   弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹     Q 顧問先であるA社は、第1期(平成16年4月1日~同17年3月31日)、第2期とも消費税免税事業者であったが、第3期において、売上げに係る消費税額よりも仕入れに係る消費税額の方が多く、かつ第1期における課税売上高が1,000万円未満であったため、第2期末までに消費税課税事業者選択届出書を提出するように助言を受けていれば、約3,700万円の還付を受けることができるはずであったのに、私(税理士B)がそのような助言を怠ったとして、同額の損害賠償を請求すると言われている。 顧問契約は、概要、以下の内容にて締結している。 A社からは、今回の課税事業者選択の件に関して、特段、問い合わせを受けていないが、A社からは「問い合わせや相談を受けなくても、委嘱事務の範囲として、今回の課税事業者選択に関する制度を説明し、または注意喚起すべき義務があった」と主張されている。 実際のところ、私(税理士B)は、A社から第3期に多額の広告宣伝費を支出する可能性があることは聞いてはいたが、具体的な金額については当時、認識していなかった。 仮に、裁判となった場合、どのような判決が見込まれるのか。 また今後、類似のトラブルを回避するには、何に注意すればよいか。 A 本件では、本件顧問契約における「委嘱事務の範囲」が問題となる。 委嘱事務の範囲を確定するに当たり考慮される事情としては、①顧問契約書の文言、②契約締結に至るまでの経緯、③報酬金額の多寡、④契約締結後の実際の役務提供内容等が挙げられる。 類似の事案が問題となった東京地裁平成20年11月17日判決においても上記事情を考慮した上、以下のとおり、顧問税理士の責任を否定した。 もっとも、同裁判例では、問い合わせや相談を受けなくても、税理士が顧客に対し、本件制度について説明し、または注意喚起等を行う義務が生じる場合がありうるとし、具体的には、⑤顧客が税制を知らないことを税理士において認識している場合や容易に認識しえた場合、もしくは顧客にとって税制上有利となることを税理士が認識している場合や容易に認識しえた場合を挙げているが、同裁判例ではいずれにも該当しないと判断し、税理士の責任を否定している。 今後、類似のトラブルを回避するに当たっては、顧問契約書等において委嘱事項の範囲に明確化しておくとともに、委嘱範囲が争われる場合の上記事情を念頭に、日頃の業務経過、打ち合わせ内容等を業務日誌等において継続的に記録しておくことが重要といえる。 例えば、次のような規定を設けることで、顧問契約の範囲、助言義務の存否、顧問料の範囲内外をより明確化することができる。 ただし、このような規定を設けても、上記⑤に該当する事情が存在する場合には責任を問われることはありえるため注意が必要である。 (了)

#No. 235(掲載号)
#米倉 裕樹、元氏 成保、橋森 正樹
2017/09/14

民法(相続関係)等改正「追加試案」のポイント 【第3回】「追加試案で新たに示された改正内容(その2)」

民法(相続関係)等改正「追加試案」のポイント 【第3回】 「追加試案で新たに示された改正内容(その2)」   弁護士 阪本 敬幸   前回に引き続き、追加試案で示された改正内容及びその要点について説明する。   3 ③遺産の一部分割 解 説 (ア) 現行法上も、残余遺産について審判事件が引き続き継続する前提で、遺産の一部を分割する審判は可能である(家事事件手続法73条2項。「家庭裁判所は、家事審判事件の一部が裁判をするのに熟したときは、その一部について審判をすることができる。」)。  上記追加試案は、残余遺産については審判が継続せず、事件が終了する(すなわち全部審判)場合で、当事者が現時点で残余遺産の分割を希望していないようなときを想定している。  中間試案では、遺産の一部について先に分割の必要がある場合に、相当と認められるときには、家庭裁判所が一部分割の審判をできるとされていたが、遺産の残部については分割しない旨の審判(却下)となることが想定されていた。しかし、このような取扱いは、遺産分割の申立てをした当事者の裁判を受ける権利等との関係で問題ではないかといった意見があり、見直された結果、上記追加試案となっている。 (イ) 上記追加試案(1)について、現行民法907条1項は、共同相続人が、「その協議で、遺産の分割をすることができる」としており、一部分割については触れていないところ、一部分割できるということを明文化するものである。 (ウ) 上記追加試案(2)前段は、現行民法907条2項の「その分割を家庭裁判所に請求することができる」とされているところ、「その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる」として、一部分割できるということを明文化するものであり、(1)同様である。 (エ) 一般に、一部分割によって遺産全体の適正な分割が不可能とならない場合に、一部分割は許容されると解されている。上記追加試案(2)後段は、一部分割により最終的に適正な分割を達成できるという明確な見通しが立たない場合には、仮に当事者が同意していたとしても、一部請求自体できないということを明らかにするものである。 (オ) 上記(ア)で述べたように、本提案は当事者が現時点で残余遺産の分割を希望していないような場合、すなわち全員の同意の下で一部分割の審判が行われることを想定したものであり、現在の実務に近い。   4 ④相続開始後の共同相続人による財産処分に関する方策 解 説 (ア) 共同相続された相続財産は原則として共有となり(民法898条)、共有状態の解消のために遺産分割手続(民法907条)が定められている。そして共同相続人は、相続によって取得する遺産の共有持分を遺産分割前に処分することは禁じられていない。  このため下記の〔例〕のように、遺産分割前の共有持分の処分により、処分者の最終的な取得額が、処分がなかった場合よりも増加する場合がありえる。しかもこのような処分行為は、法的に問題はなく、他の相続人が不法行為・不当利得等の請求を行うことも困難である。  上記追加試案は、遺産分割前に遺産が逸出したとしても、このような不公平が生じないようにすることを図るものである。 (イ) 【甲案】は、遺産分割前に遺産が逸出した場合、遺産分割時点で、なお遺産が存在するものとみなすとするものである。すなわち、なお遺産が存在するものとみなした上で、遺産分割の審判をすることを予定している。 (ウ) 【乙案】は、遺産分割前に遺産が逸出した場合に、遺産が逸出したことにより減った具体的相続分について、償金請求ができるとするものである。これは、一般の民事訴訟手続により解決することを予定している。 (エ) 【甲案】は審判手続の中での不公平を是正する点で、【乙案】は訴訟手続の中で不公平を是正する点で、それぞれに問題点が指摘されている(【甲案】については、遺産の処分の有無といった事実関係に争いが生じることが想定されるのに、審判では尋問等の手続が予定されていない点や、審判に既判力がない点が問題として指摘されている。【乙案】については、遺産分割審判と訴訟の双方で具体的相続分の審理が行われ、訴訟経済・結論の統一性の点等で問題があると指摘されている)。  民法(相続関係)部会では、【乙案】については、より慎重な意見が出されているようである。 *  *  * 次回も引き続き、追加試案で示された改正内容について説明する。 (了)

#No. 235(掲載号)
#阪本 敬幸
2017/09/14

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第21回】「家族信託の活用事例〈不動産編②〉(2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を妻に渡し、妻の死後は収益物件自体を子に渡す事例)」

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第21回】 「家族信託の活用事例〈不動産編②〉 (2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を妻に渡し、妻の死後は収益物件自体を子に渡す事例)」   弁護士 荒木 俊和   前回に続き『不動産を信託財産とする家族信託の活用事例』として、「2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を妻に渡し、妻の死亡後には収益物件自体を子供に渡す」という事例を解説する。 - 相談事例 - 私(50歳)には今年80歳になる両親と、東京で働く弟がいます。 父は、所有する土地の一部を賃貸マンションにして、家賃収入と年金で暮らしています。私は、父が高齢で賃貸マンションの管理に手が回らなくなっていることを感じるとともに、将来の相続について不安を感じていました。 一方で、父は相続全般について方針を決めたがらないという問題がありました。 このため、対象を賃貸マンションに限定して、以下2点の方針を確認しました。 ・家賃収入は、父他界後は母に渡るようにする。 ・私に母の世話を任せるため、母の他界後は私がマンションを相続する。   1 家族信託活用のポイント (1) 遺言の限界 父親の希望を実現するためには、①父親から母親への賃貸マンションに関する賃料収受権の移転、②母親死亡後の長男への賃貸マンションの所有権移転が必要である。 従来の制度で考えるとすれば、これを遺言によって実現できるか、という点が問題となる。 いわゆる「後継ぎ遺贈」の問題である。 すなわち、大要 といった父親の遺言が有効なものといえるかどうかである。 この点については、最判昭和58年3月18日(判時1075号15頁)の判例が出されて以来、有効説、無効説の議論が展開されているが、明確な結論が出ていない。 しかし、無効説が述べるように、①第一次受遺者(母親)が所有している期間における第一次受遺者の法的地位が不明確であること、②第一次受遺者が死亡した際、いかなる理由で第二次受遺者(長男)に財産権の移転が起こるのか法的根拠が不明確であるなど、有効説の問題点が解消されていない。 このことから、父親が「確実に長男に引き継がせたい」という意向を持っているのであれば、法的効果の不安定な遺言によるべきではないものといえる。 (2) マンション管理の問題 また、父親の意向としては、マンションからの賃料を維持して、自身の死後に母親の生活費を賄いたいとしていることから、マンションの管理を継続する必要があるといえる。 この点、遺言による対応であれば、父親の死亡時に賃貸マンションの所有権も賃貸管理も同時に移転することになる。 しかし、賃貸マンションの管理に関する知識やノウハウといったものは直ちに次の所有者に移転させられるものではない。まして、父親の死亡により、高齢の母親が突然管理を行わなければならなくなるということは、現実的に相当厳しい状況となる。 この観点からも、死亡時において効果の発生する遺言は本件の解決には向いていないといえる。   2 本件におけるスキーム (1) スキームの概要 以上のことから、本件では大要、以下のようなスキームが考えられる。 (2) 第1フェーズ 第1フェーズでは、父親から長男へ賃貸マンションを信託する。 この段階の受益者は父親であるため、所有者(受託者)となった長男は入居者から賃料を収受し、信託の利益を父親に配当する。これにより、賃貸マンションの管理は長男に引き継ぐことができ、かつ父親が助言や指導することもできる。 一方で、賃料の収益については父親に入る状況が継続するため、父親に経済的な問題は生じない。 (3) 第2フェーズ 父親が死亡した場合、受益権が母親に移転するものとされていることから、この段階で第2フェーズに入る。 なお、この受益権の移転は法律上、相続によるものではなく、信託契約に基づいて発生するものであり、理論的には「父親の長男に対する受益権が消滅する」と同時に、「母親の長男に対する受益権が発生する」ものと整理されている。 このフェーズでは、長男が収受した賃料の収益を母親に渡すことになる。 これにより母親は生活費を継続的に得ることができることになる。 (4) 第3フェーズ 母親も死亡した場合、本件での信託は目的を失うことから、信託を終了させることになる。 信託契約上の終了原因としては、「父親と母親の死亡」を条件とすることになる。 この点、誤って「母親の死亡」だけを終了原因にしてしまうと、父親が健在であっても信託が終了してしまうことになり、不都合が生じるおそれがあるため注意が必要である。 そして信託を終了させる場合には帰属権利者(又は残余財産受益者)を設定しておくことになるが、この場合は長男を指定しておくことになる。 これにより、信託を終了して長男は名実ともに賃貸マンションの所有者となり、その後の賃料を収受することができることとなる。   3 注意点 (1) 税務上の注意点 本件のスキームとしては、①父親から母親への受益権の移転、②信託終了に伴う長男への実質的な財産権の移転がある。 この2点においては、それぞれ受益者の死亡を原因としていることから、税務上は相続の発生とみなされて課税関係が発生することになる。 これについて不測の課税が発生することのないように、当初のスキーム策定段階から考慮しておく必要がある。 (2) 次男の権利 本件のスキームでは、次男は基本的に賃貸マンションに関して何の権利も有しないことになる。 しかし、【第9回】で解説したとおり、父親から母親への受益権の移転に関しては、父親の財産状況によっては遺留分減殺請求の対象となる可能性がある。 遺留分減殺請求の可能性が残る場合には、他の財産を相続させることで対処できないかを検討するとともに、次男にスキームを明確に説明して理解を得ておくことが重要である。 (了)

#No. 235(掲載号)
#荒木 俊和
2017/09/14

役員インセンティブ報酬の分析 【第7回】「権利確定時発行型の業績連動型株式報酬①」-平成29年度税制改正後-

役員インセンティブ報酬の分析 【第7回】 「権利確定時発行型の業績連動型株式報酬①」 -平成29年度税制改正後-   弁護士・公認会計士 中野 竹司   1 業績連動型株式報酬と平成29年度税制改正 役員のインセンティブ報酬のツールとして、株式報酬の活用が日本再興戦略により提唱された。これを受けて「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」が法的な考え方を整理するとともに、平成28年度税制改正により、特定譲渡制限付株式として法人税法上役員報酬のうち損金算入が可能な事前確定給与に該当するものの要件が明確化された。この中で、パフォーマンス・シェアも特定譲渡制限付株式報酬の一形態として上記損金算入可能な株式報酬として設計可能となった。 さらに、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とする制度を導入するため、平成29年度税制改正において、「業績連動給与」の定義規定が置かれ、また内容も見直された。これにより、より欧米で発行されているパフォーマンス・シェアに類似した業績連動型株式報酬の発行が可能となった。   2 平成29年度税制改正の概観と譲渡制限付株式の取扱い (1) 平成29年度税制改正の概要(株式報酬部分) 平成29年度税制改正では、定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与という損金算入可能な役員報酬の3類型は維持しつつ、退職給与や新株予約権も役員報酬の中に含めて損金算入の可否を考えることとなった。 そして、株価や業績に連動する条件が付されたインセンティブ報酬については、今後は業績連動給与の要件を満たさない場合で損金算入が可能なケースはほとんどなくなると考えられ、インセンティブ報酬の制度設計において大きな影響を与えるものと考えられる。 (2) 業績連動型株式報酬の取扱い ① 特定譲渡制限付株式報酬を用いた業績連動報酬の取扱い 平成28年度税制改正は、株式報酬等のインセンティブ報酬の活用を目指したものであったが、平成28年度税制改正時の役員給与に関する法人税の規定では、金銭以外の給与として損金算入が認められていたのは、特定譲渡制限付株式による給与のみであった。 そのため、パフォーマンス・シェアとしてのインセンティブ報酬機能を持たせるため、特定譲渡制限付株式に業績連動指標を基礎として譲渡制限が解除される株式数が算定される設計の業績連動型株式報酬が多く見られた。 平成29年度税制改正では、業績連動給与に該当するものは、事前確定届出給与から除外されるため、改正前には認められていた特定譲渡制限付株式を利用した業績連動型株式報酬は認められなくなる。 なお、譲渡制限付株式による給与の適用に関する規定があり、平成29年10月1日以後に支給又は交付に係る決議をする給与について改正税法が適用される。 ② 権利確定時発行型の業績連動型株式報酬(パフォーマンス・シェア) 平成29年度税制改正により、業績連動給与の規定が変更になった(法人税法34条5項)。 業績連動給与が役員報酬として法人税法上損金算入できるためには、以下の要件をクリアする必要がある。 このうち指標の計算期間は、改正前は適用される事業年度に限定されていたが、改正により職務執行開始日以降に終了する事業年度等として複数年にわたる計算期間を設定することが可能となった(法人税法34条1項3号、法人税法施行令69条10項から12項)。 また、会計処理として、引当金勘定で見積計上し、支給時に引当金を取り崩す処理方法も損金算入要件を満たすとされた(法人税法施行令69条17項2号)。   3 ガバナンス面から見たメリット・デメリット 業績連動型株式報酬は、株式報酬の一形態であり、特定の業績目標達成へのインセンティブを与えることに向いている株式報酬の形態といえる。 平成29年度改正により、パフォーマンス・シェア型特定譲渡制限付株式の発行は実務上困難になるものの、業績連動給与の定義が改正され、業績連動報酬が使いやすくなったことから、むしろ株価上昇・業績達成に応じて付与されるパフォーマンス・シェア、パフォーマンス・シェア・ユニットといった業績目標達成後に付与されるパフォーマンス・シェア型の株式報酬がより導入しやすくなる税制改正がなされたといえよう。このため、インセンティブ付けという面から、ガバナンス面でのメリットは増加したと考えられる。 また、特定譲渡制限付株式は、継続勤務条件未達といった理由で会社が無償取得する場合でも、無償取得されるまでは、役員等は議決権行使できるが、権利確定時発行型の業績連動型株式報酬では権利確定時までは株式が付与されず、議決権行使できないので、議決権行使の面のガバナンスの歪みも少ない。 なお、役員に対する報酬として株式を交付する場合、会社法上に基づき、株主総会で金銭報酬債権の上限額を絶対額で決議することが一般的である。ただし、この場合には、株価上昇の影響で、付与額として計算した報酬額が上限額を超えてしまう可能性がある。そこで、会社法361条1項2号で「報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法」を決議することも可能とされていることから、このいわゆる2号決議の活用も検討する価値があると思われる。   4 企業の導入事例 (1) 導入状況 権利確定時発行型の業績連動型株式報酬は、平成29年度税制改正により法人税計算上、役員報酬としての損金算入要件が明らかになった類型であり、平成29年6月株主総会時点で導入した会社はそれほど多くない。 しかし、特定譲渡制限付株式報酬が平成29年6月の定時株主総会までに多数導入されたことを考えると、平成30年6月株主総会までに権利確定時発行型の業績連動型株式報酬を導入する会社はかなりの数に上るものと考えられる。 以下、本稿執筆時点で導入済みの企業の事例を検討する。 (2) 導入の目的 制度導入の目的としては、中長期的な企業価値向上のインセンティブを挙げている企業が多い。 具体的には、「当社は、業務執行取締役に中長期的な企業価値向上のインセンティブを与えるとともに、株主のみなさまの視点での経営を一層促すため、本制度を導入します。」(富士通株式会社)といった開示例がある。 (3) 業績連動報酬算定方式 業績連動型株式報酬は、一定の業績指標を定め、業績指標の目標への達成度合いにより付与株式数を決定するという方法がとられている。 具体的な算定方法の開示例としては、以下のような開示がなされている(株式会社ココカラファイン)。 また、業績目標を「会社目標」(連結営業利益、連結売上高等)と「個人目標」(担当部門業績等)それぞれに分けて設定し、両社をウエイト付けして計算し付与数を決定するとしている会社もある(株式会社ニトリホールディングス)。 (4) 業績算定期間 業績連動型株式報酬の業績算定期間は3事業年度(エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社、富士通株式会社、オリンパス株式会社)が多いが、3年以上5年以内としている例(株式会社ココカラファイン)や2事業年度毎の対象期間(株式会社ニトリホールディングス)としている例もあった。 (5) 報酬の変動幅・上限 業績連動型株式報酬の付与数は、一定の計算フォーミュラを定めたうえで、変動幅の制限及び上限を設けている。 変動幅は各社によって異なるが、0~150%(エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社 、オリンパス株式会社他)0~200%(株式会社ココカラファイン、日本航空株式会社、株式会社ニトリホールディングス他)としている会社が比較的多かった。 また、交付する株式・金銭の上限額、上限株式数について開示していた。 (6) 支払方法 計算により算出された業績連動報酬額を株式だけで付与するのではなく、役員報酬に対する納税資金相当額の金銭を合わせて付与する事例もあった(エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社、株式会社りそなホールディングス)。 (了)

#No. 235(掲載号)
#中野 竹司
2017/09/14

《速報解説》 事業承継税制、普及阻む各要件の抜本的拡充なるか?納税猶予以外の対策も~平成30年度税制改正要望出揃う

 《速報解説》 事業承継税制、普及阻む各要件の抜本的拡充なるか? 納税猶予以外の対策も ~平成30年度税制改正要望出揃う   Profession Journal 編集部   各省庁からの平成30年度税制改正要望が8月31日をもって締め切られ、年末の税制改正大綱取りまとめに向け審議が始まる。 昨年の与党大綱において「今後数年をかけて、基礎控除をはじめとする人的控除等の見直し等の諸課題に取り組む」とされた所得税改革の動向も注目されるが、経営者の高齢化により今や待ったなしとされる事業承継対策としての税制措置など、実現すれば影響の大きい要望事項も含まれている。   〇所得拡大促進税制、賃上げに加え企業が実施する「教育訓練費」を対象に 今年度改正でも拡充措置が採られ平成30年3月31日をもって適用期限を迎える所得拡大促進税制。経済産業省は適用期限の平成32年度末までの延長に加え、①企業の「人材投資」への積極的取組み、及び、②生産性の低い業種の中小企業の賃上げを推進するため、次の通り制度の拡充を要望した。 ①について、教育訓練費への税制上の対応としては過去の改正において「教育訓練費の額が増加した場合の法人税額の特別控除(旧措法42の12)※H20.3.31廃止」や「中小企業者等の教育訓練費の総額に係る税額控除(中小企業等基盤強化税制)(旧措法42の7)※H24.3.31廃止」などの措置が採られていたが、人材の確保が求められる中、所得拡大促進税制の対象に加えることで、企業が積極的に人材投資を行えるようにするもの。 実現された場合、企業に所属しつつ専門資格を取得する場合の資格取得費用や、各種法改正等をテーマとした企業研修にかかる費用など、「教育訓練費の範囲」がどこまで認められるかがポイントとなろう。 また②については、中小企業が大企業等の外部から一定のキャリアを積んだミドル人材を雇用する場合、賃金等の処遇条件がネックとなっている問題に応えたものであり、③の「生産性が低い業種」とは宿泊業・飲食サービス業等が想定されている。 その他経済産業省は、企業活動を支援する方策として、 ◆事業ポートフォリオ転換の円滑化措置の創設 ・・・「ノンコア事業の売却」及び「コア事業強化のための事業買収等」の双方を行う場合の課税繰延措置 ◆自社株式等を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置の創設 ・・・自社株式等を対価とした事業買収に応じた株主に対する株式譲渡益・譲渡所得への課税繰延措置 など今年度改正に続きM&Aの円滑化を図る措置を要望しているほか、国土交通省、環境省等との共同要望事項として、グリーン投資減税の廃止に合わせ、「先進的省エネ・再エネ投資促進税制」の創設を要望しており、エネルギーの需要側の省エネ投資及び供給側の再エネ投資を図るとしている。 その他、平成29年度末で適用期限を加える「中小法人の交際費課税の特例」、「中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の取得価額の損金算入特例」について、それぞれ2年間の延長が要望されている。   〇事業承継対策、スキームごとに複数の支援策を創設要望、納税猶予は各要件の抜本的拡充を 今後5年間で30万人以上の中小企業経営者が平均引退年齢の70歳になるにもかかわらず、その半数以上が事業承継の準備を終えていないとしており、中小企業の廃業の増加が地域経済に与える影響が、大きな問題となりつつある。 既報のとおり中小企業庁は7月、平成33年までの今後5年程度を事業承継支援の集中期間とし、中小企業の支援体制、支援施策を抜本的に強化するとした『事業承継5ヶ年計画』を策定、「平成30年からは事業承継の更なる活用を図る」としていたが、この方針に則り経済産業省は「中小企業者の次世代経営者への引継ぎを支援する税制措置の創設・拡充」を要望している。 上記要望のポイントは2点。まず1点目は、親族・従業員等への経営承継を前提とした、既存の事業承継対策税制である「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度」だけでなく、売却やM&A、ファンドからの出資など、経営を引き継ぐ際の形態に応じた税負担の軽減措置を講じるというもの。 【参考図】 (※) 経済産業省ホームページより 具体的には、現経営者が他企業や親族外経営者、ファンド等へ株式・事業を譲渡した場合に、譲渡益に係る税負担の軽減や、事業譲渡により生じる資産の移転等に係る登録免許税・不動産取得税の軽減措置が示されている。またファンドから出資を受けた際に適用が受けられない中小企業関連の優遇税制について、一定要件を満たすファンドからの出資は適用可能とする要件緩和も要望されている。すでに中小企業の事業承継対策としてM&A市場が活況を呈しているといわれるが、これらの施策実現はこの動きを後押しするものといえる。 またポイントの2点目として、「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度」、いわゆる事業承継税制については、各種要件の抜本的拡充が要望されている。 今年度も災害等発生時の要件緩和や贈与税の納税猶予適用時にも相続時精算課税制度の適用を可能とするなどの措置が行われた事業承継税制だが、これまでの改正のように、適用の障壁と言われた各要件をスポット的に緩和するのではなく、「各種要件を抜本的に拡充する」とのみ記載している点が、要望に対する強さの表れとも見える。今後の審議の結果、どこまでの要件緩和が認められるか、日常から中小企業の経営に寄り添う税理士にとっては、非常に注目すべき点といえよう。 なお、事業承継とは関連しないが、相続税の納税猶予制度としては、文部科学省より「美術品・文化財に係る相続税の納税猶予の特例の創設」が要望されており、美術品・文化財の次世代への確実な継承と、公開・活用の促進が図られている。   〇各省の要望概要を確認 厚生労働省は29年度大綱で「総合的に検討し、結論を得る」とされていた医療係る消費税の課税のあり方に関し、30年度税制改正に際し結論を得ることを求めるとともに、抜本的な解決までの措置として「医療機器等の設備投資等に関する特例措置の創設」を要望している。2年後の消費税率引上げに向け着実に制度が整備されつつある今、30年度改正で何らかの方針が示される可能性もある。その他厚労省は、事業所内保育施設の整備に対する割増償却等の措置や、いわゆるベビーシッター費用に係る税額控除などの子育て支援に係る改正を要望している。 金融庁はNISAの利便性向上に向けた施策として、NISA口座開設申込時における即日買付けの実現(現状では二重口座でないことの確認に2週間程度要する)や、一般NISAの非課税期間終了時のロールオーバーを希望しない場合の特定口座への移管(現状は顧客による確定申告が必要な一般口座へ移管)のほか、生命保険料控除の控除限度額の拡充や金融所得課税の一体化の拡充(デリバティブ取引等への損益通算範囲の拡大)など昨年度と同様の要望事項が見られる。 国土交通省の要望事項としては、平成30年3月31日で適用期限を迎える新築住宅に係る固定資産税額の減額措置等の延長や、人口減少下におけるコンパクトシティの形成に向けた施策として「都市のスポンジ化(低未利用土地)対策のための特例措置の創設」が提示されている。 *  *  * なお、上記の要望事項を含む、平成30年度税制改正に関し今後各省庁等から公表される情報については、本誌上の「平成30年度税制改正に関する《資料リンク集》」において随時リンク先の更新を行っているため、ブックマークする等して適時利用されたい。 (了)

#No. 234(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2017/09/08

プロフェッションジャーナル No.234が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年9月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.234を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/09/07

monthly TAX views -No.56-「教育・保育の財源問題-「こども保険」議論の行方-」

monthly TAX views -No.56- 「教育・保育の財源問題-「こども保険」議論の行方-」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   少子化の流れを食い止めることは、「社会保障の崩壊を防ぐ」だけでなく、「わが国の潜在成長力を引き上げる」という効果もある。また、教育の機会均等を確保することは、格差是正につながり、ひいてはわが国の経済成長の底上げにもつながる。 そこで、教育国債による大学無償化や、幼児教育・保育の充実のための「こども保険」の創設という議論が自民を中心に行われてきた。 *  *  * 「こども保険」については本年3月に、小泉進次郎氏ら自民党若手議員が作る「2020年以降の経済財政構想小委員会」による具体的提言(「こども保険」の導入~世代間公平のための新たなフレームワークの構築~)がなされた。 それらを受けて、骨太方針2017には、幼児教育・保育の早期無償化などの財源として、「財政の効率化、税、新たな社会保険方式(筆者注:こども保険)の活用を含め、安定的な財源確保の進め方を検討し、年内に結論を得」ることが明記された(p9)。一方、教育国債については記載がなかった。 こども保険の内容は、「保険料率0.2%(事業主0.1%、勤労者0.1%)の保険料を、事業者と勤労者から、厚生年金保険料に付加して徴収する。自営業者等の国民年金加入者には月160円の負担を求める。財源規模は約3,400億円となり、小学校就学前の児童全員(約600万人)に、現行の児童手当に加え、こども保険給付金として、月5,000円(年間で6万円)を上乗せ支給し、子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクに対処する」というものである。 「将来的には、保険料率を1%(事業主0.5%、勤労者0.5%)まで引き上げ、自営業者等の国民年金加入者には月830円の負担を求めれば、財源規模は約1.7兆円となる」としている。 *  *  * こども保険はそのメリットとして、 が挙げられている。 これに対し、筆者は次のような問題があると考える。 しかし、消費増税で財源を求めることについては、安倍政権は二度も引上げを先延ばししており、現実的ではない。また引き上げたとしても、その使途は決まっており、こども保険の財源にまわる余地はない。 そこで、筆者は、保険方式に、富裕高齢者をターゲットにした所得増税を組み合わせれば、最も適切な負担が可能になるのではないかと考えている。 富裕高齢層に対する所得増税の方法は、公的年金等控除の縮減である。給与所得のある年金受給者は、給与所得控除と公的年金等控除の二重控除が適用され負担が低くなっているのでこれを一本化する。また、国民年金や厚生年金といった公的年金だけでなく、3階建ての企業年金にも公的年金「等」控除が適用されるが、これは適用範囲が広すぎるので、公的年金に限定してはどうか。 *  *  * 今後年末の予算編成に向けて、負担の議論が久しぶりに始まる。 どのような展開になるのか、目が離せない。 (了)

#No. 234(掲載号)
#森信 茂樹
2017/09/07

法人税における当初申告要件等と平成29年度税制改正 【第2回】

法人税における当初申告要件等と 平成29年度税制改正 【第2回】   税理士 谷口 勝司   (3) 具体的な取扱い 前回説明した平成23年12月改正後における当初申告要件等の取扱いについて、試験研究費の特別税額控除制度を例に、その規定振りとともに、具体例で説明してみよう。 試験研究費の特別税額控除制度は、措置法で と規定されていた(平29改正前の措置法42の4⑧)。 確定申告書(当該申告書に係る修正申告書及び更正請求書を含む)の記載事項及びこれに添付すべき書類の記載事項のうち法人税申告書別表に定めがあるものは、その申告書別表の書式によることとされているので(規34②)、前述の規定前段部分の明細書の記載・添付をより具体的に説明すれば、この税額控除の適用を受けるためには、法人税申告書別表6(6)~別表6(8)に、各金額及び計算明細を記載し(控除金額は別表1(1)等にも記載し)、これを確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に添付する必要がある。そしてこれらの申告書別表の記載・添付がない場合は、この税額控除の適用は受けられない、ということである。 また、前述の規定後段部分が、適用額に関する規定である。 試験研究費の特別税額控除制度の中のいわゆる総額型を例にとると、この制度は、試験研究費の総額に、その増減割合に応じた控除率6%~14%を乗じた金額を法人税額から控除するというものであり、その控除限度額は法人税額の25%相当額とされている(ただし、中小法人の場合等は上乗せ措置がある。平29改正後の措置法42の4①②)。 確定申告の際に、対象となる試験研究費の額の全部又は一部について控除対象とすることを失念していた場合、その後、試験研究費の増額(これによる税額控除額の増額)ができるかどうかという問題があるが、この点については、控除額は、確定申告書等に記載された試験研究費の額を基礎として計算した金額に限る、と規定されており(適用額の制限)、この確定申告書等とは確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書をいうから(措置法2②二十七)、結局、確定申告書に記載した試験研究費の額を増額することはできないことになる。 ▷設例1 確定申告における特別税額控除の適用 試験研究費の額  800 控除率      10% 法人税額     400 税額控除額     80(800×10% < 400×25%) 設例1で、本来は試験研究費の額を900とすべきであった(100の控除対象漏れがあった)場合、その後においても、試験研究費の額は800として計算し、税額控除額80は変更できないことになる。 前述の規定前段部分では、規定上、確定申告書等のほか、修正申告書又は更正請求書が並列で規定されていることから特に誤解されやすいが、税額控除額の計算では、その基礎となる試験研究費の額は、当初申告である確定申告書等に記載された試験研究費の額に限られており、修正申告書や更正請求書に試験研究費を増額して記載したとしても、認められないのである。 また、確定申告書等で特別税額控除の適用を忘れた場合、すなわち確定申告書等に記載された試験研究費の額が存在しない場合には、その後修正申告書や更正請求書を提出したとしても、試験研究費の額は0として計算するから、結局、税額控除そのものの適用が受けられないことになる。措置法の規定は読みにくいところがあるが、この点は後述の裁判例でも判示されている。 このように、当初申告(確定申告書等)で適用を受けておかなければその後新たに制度の適用が受けられない、という意味で、措置法においては当初申告要件が存続されていることになる。 他方、この制度は、法人税額の25%という上限があり、法人税額の増減によって税額控除額が増減する計算構造となっているが、前述の規定後段部分の適用額に関する規定は、税額控除額は確定申告書等に記載した試験研究費の額を基礎として計算する、とされていることから、法人税額の増額による税額控除額の増額については認められる、ということになる。 ▷設例2 確定申告における特別税額控除の適用 試験研究費の額  800 控除率      10% 法人税額     300 税額控除額     75(800×10% > 300×25%) 設例2で、税務調査等で売上計上漏れ等が判明して法人税額が400に増額した場合には、税額控除額は80(800×10% < 400×25%)となり、確定申告との差額5は、修正申告において税額控除額を増額できることになる(なお、平成23年12月改正前は、差額5の増額は認められなかった)。 実務上留意しておきたい。   2 裁判例 当初申告要件等に関する裁判例(平28.7.8東京地裁判決)を紹介しよう。 この裁判は、平成23年12月改正後の当初申告要件等について争われた数少ない事案であって、最近話題になったものである。 この裁判は、法人が、平成26年3月期の法人税確定申告で、所得拡大促進税制(措置法42の12の4(現42の12の5)の雇用者給与等支給額が増加した場合の特別税額控除)の適用を失念していたとして、明細書の記載・添付をして更正請求を行ったところ、税務署長が請求を認めなかった(請求に理由がない旨の通知処分)ので、その取消しを求めた事案である。 東京地裁は、概要次の理由により、原告の請求を棄却した。 上記裁判における判示事項は、同制度の規定振りのほか、平成23年12月の改正趣旨等からすると妥当なもの考えられる。 なお、この事案は控訴されているので、控訴審の判断も注目しておきたい。 (了)

#No. 234(掲載号)
#谷口 勝司
2017/09/07
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