《速報解説》 ASBJ、「リースに関する会計基準」等を公表 ~原則、2027.4.1以後開始事業年度から適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年9月13日、企業会計基準委員会は、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号。以下「リース会計基準」という)、「リースに関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第33号。以下「リース適用指針」という)等を公表した。これにより、2023年5月2日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、国際財務報告基準(IFRS)及び米国財務会計基準におけるリースの会計処理等との整合性を考慮して開発されたものであり、新たな会計基準等として公表されている。リース会計基準の適用により、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)の適用は終了することになる。 リース会計基準は、現行の「リース取引」の用語を「リース」の用語へ改正するなど多くの事項を改正しており、また、関連して、「『固定資産の減損に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第35号)の公表や、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)及び移管指針など多くの会計基準等を改正している。 後述するように、日本公認会計士協会の実務指針等についても改正している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 1 借手の会計処理 借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(リース会計基準BC13項、BC39項、リース適用指針BC4項、BC35項)。 2 貸手の会計処理 貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、企業会計基準第13号の定めを踏襲している(リース会計基準BC13項、BC53項)。 Ⅲ 基本的な内容 1 範囲 リース会計基準等は、契約の名称などにかかわらず、次の①から③に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(リース会計基準3項、4項)。 なお、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理を同一としている(リース会計基準BC20項、BC21項)。 上記の規定にかかわらず、無形固定資産のリースについては、リース会計基準等を適用しないことができる(リース会計基準4項)。 2 リースなどの定義 例えば、次の用語の定義が規定されている(リース会計基準6項~14項、リース適用指針4項(8)、(11)、(12))。 リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号と整合させて、借手と貸手の両方に適用する(リース会計基準BC25項)。 3 リースの識別 リースの識別に関する規定として、主に次のものを定める(リース会計基準25項~30項、リース適用指針5項~16項)。 次のことに注意する。 4 借手のリース期間 借手のリース期間は、IFRS第16号の定めと整合的に、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定する(リース会計基準31項、リース適用指針17項)。 5 貸手のリース期間 貸手のリース期間は、次のいずれかの方法を選択して決定する(リース会計基準32項)。 ①の方法はIFRS第16号と整合的な方法であり、②の方法は企業会計基準第13号のリース期間の定めを踏襲した方法である。 再リースに関して、我が国の再リースの一般的な特徴は、再リースに関する条項が当初の契約において明示されており、経済的耐用年数を考慮した解約不能期間経過後において、当初の月額リース料程度の年間リース料により行われる1年間のリースであることが挙げられる(リース会計基準BC27項)。 Ⅳ 借手のリース 1 借手のリースの会計処理 借手は、IFRS第16号と同様に、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上する(リース会計基準33項~35項、リース適用指針18項、19項、24項~26項、28項~37項)。 使用権資産の計上額については、企業会計基準適用指針第16号における貸手の購入価額又は見積現金購入価額と比較を行う方法を踏襲しない(リース適用指針BC36項)。 2 短期リースに関する簡便的な取扱い 借手は、短期リースについて、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様。リース適用指針20項、21項、50項)。 「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であり、購入オプションを含まないリースをいう(リース適用指針4項(2))。 3 少額リースに関する簡便的な取扱い 次の(1)と(2)のいずれかを満たす場合、借手は、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(リース適用指針22項、23項、BC39項~BC45項)。 上記(2)①の企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリースは、企業会計基準適用指針第16号において定められていたリース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下であるかどうかにより判定する方法を踏襲することを目的として取り入れたものである(リース適用指針BC43項)。 4 借地権の設定に係る権利金等 借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含め、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行う(リース適用指針27項)。 ただし、旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等のうち、一定の権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことができる(リース適用指針27項ただし書き)。 5 利息相当額の各期への配分 リース開始日における借手のリース料とリース負債の計上額との差額は、利息相当額として取り扱い、当該利息相当額を借手のリース期間中の各期に配分する方法は利息法による(リース会計基準36項、リース適用指針38項~42項。企業会計基準第13号、企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様)。 ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合についての簡便的な取扱いが規定されている。 6 使用権資産の償却 使用権資産の償却について、基本的に企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号におけるリース資産の償却と同様の会計処理を行う(リース会計基準37項、38項、リース適用指針43項)。 7 セール・アンド・リースバック取引 「セール・アンド・リースバック取引」とは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(以下「リースバック」という)する取引をいう(リース適用指針4項(11))。 次のことが規定されている。 Ⅴ 貸手のリース 1 ファイナンス・リースの会計処理 ファイナンス・リースの会計処理について、収益認識会計基準において対価の受取時にその受取額で収益を計上することが認められなくなったことを契機としてリースに関する収益の計上方法を見直した結果、企業会計基準適用指針第16号で定められていた「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法」を廃止している(リース会計基準45項~47項)。 リース会計基準等では、貸手の基本となる会計処理について、次の場合に分けて規定している(リース適用指針71項~81項)。 利息相当額の総額を貸手のリース期間中の各期に配分する方法は、原則として、利息法による(リース会計基準47項、リース適用指針73項、79項)。 ただし、リースを主たる事業としていない企業による所有権移転外ファイナンス・リースに重要性が乏しいと認められる場合、利息相当額の総額を貸手のリース期間中の各期に定額で配分することができる(リース適用指針74項)。 2 オペレーティング・リースの会計処理 企業会計基準第13号では、オペレーティング・リース取引は、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うことのみを定めている。 リース会計基準等では、フリーレント(契約開始当初数ヶ月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)に関する会計処理を明確にして収益認識会計基準との整合性を図るため、貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することとする(リース会計基準48項、リース適用指針82項、BC120項、BC121項)。 3 セール・アンド・リースバック取引 セール・アンド・リースバック取引におけるリースバックが、ファイナンス・リースに該当するかどうかの貸手による判定は、リース適用指針59項から69項に示したところによる(リース適用指針87項)。 当該リースバックがファイナンス・リースに該当する場合の会計処理は、リース適用指針70項から81項までと同様とし、当該リースバックがオペレーティング・リースに該当する場合の会計処理は、リース適用指針82項と同様とする(リース適用指針88項)。 Ⅵ サブリース取引及び転リース取引 1 サブリース取引 「サブリース取引」とは、原資産が借手から第三者にさらにリース(以下「サブリース」という)され、当初の貸手と借手との間のリースが依然として有効である取引をいう(リース適用指針4項(12))。 当初の貸手と借手との間のリースを「ヘッドリース」、ヘッドリースにおける借手を「中間的な貸手」という(リース適用指針4項(12))。 サブリース取引は、IFRS第16号と同様に、ヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行う(リース適用指針89項~91項)。 リース会計基準等では、サブリース取引の例外的な定めとして、中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合の取扱いと転リース取引の取扱いを規定している。 2 転リース取引 サブリース取引のうち、ヘッドリースの原資産の所有者から当該原資産のリースを受け、さらに同一資産を概ね同一の条件で第三者にリースする取引を転リース取引という(リース適用指針93項)。 リース会計基準等では、当該取扱いをサブリース取引の例外的な取扱いとして、企業会計基準適用指針第16号の定めを変更せずに踏襲している(リース適用指針BC132項)。 Ⅶ 開示(表示及び注記) 1 借手の開示(表示及び注記) 使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示する(リース会計基準49項)。 リース負債について、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準50項)。 貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとする。 リース負債に係る利息費用について、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準51項)。 借手の注記として、次のものを注記する(リース会計基準55項)。 2 貸手の開示(表示及び注記) 貸手の会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除いて、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲しており、貸手の表示についても、企業会計基準第13号を踏襲する(リース会計基準BC63項)。 リース債権及びリース投資資産のそれぞれについて、貸借対照表において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準52項。重要性が乏しい場合の規定あり)。 リース債権及びリース投資資産について、当該企業の主目的たる営業取引により発生したものである場合には、流動資産に表示する(リース会計基準52項)。 当該企業の主目的たる営業取引以外の取引により発生したものである場合には、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金の期限が到来するものは流動資産に表示し、入金の期限が1年を超えて到来するものは固定資産に表示する(リース会計基準52項)。 次の事項について、損益計算書において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(リース会計基準53項)。 貸手の注記として、次のものを注記する(リース会計基準55項)。 3 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における表示及び注記事項 リース会計基準等では、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、リース会計基準55項に掲げる事項のうち、(1)②及び(2)①の「リース特有の取引に関する情報」並びに(1)③及び(2)②の「当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報」について注記しないことができる(リース適用指針110項)。 また、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、リース会計基準55項(1)①の「会計方針に関する情報」を記載するにあたり、連結財務諸表における記載を参照することができる(リース適用指針111項)。 「公表にあたって」の「別紙2」では、リース会計基準等に基づく連結財務諸表における開示の定めと個別財務諸表との関係について整理されている。 Ⅷ 適用時期等 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 経過措置に注意する(企業会計基準第13号を適用した際の経過措置など。リース適用指針113項~137項)。 Ⅸ 日本公認会計士協会の実務指針等の改正 次の実務指針等が改正されている。 「公開草案に対するコメントの概要及び対応」も公表されている。 * * 以下、追補部分 * * Ⅹ 「リースに関する会計基準(案)」等の主なコメントの概要とそれらに対する対応 前述のとおり、全文が321ページあるので、特に気になったコメントについて紹介する。 1 サプライヤーのアプリケーション・ソフトウェア、クラウドサービス取引 サプライヤーのアプリケーション・ソフトウェアに対する顧客のアクセス権に関する取扱いを定めるべき(コメントNo.25)、クラウドサービス取引について、リースに該当するか否かを設例で明確にすべき(コメントNo.47)とのコメントに対しては、いずれも個々の取引の実態に応じて判断されるものであるため、本会計基準等には定めていないとしている。 2 リース料の受取時に売上高と売上原価を計上する方法(いわゆる第2法)の廃止 リース料の受取時に売上高と売上原価を計上する方法(いわゆる第2法)を維持すべきであるとのコメントに対しては、第2法の廃止により従来の会計処理に基づく財務数値と新たな会計処理に基づく財務数値の継続性がなくなったとしても、より有用な情報が提供されるため、新たな会計処理を求めることとしている(コメントNo.196等)。 3 「合理的に確実」の閾値 延長オプション又は解約オプションの行使可能性に関する「合理的に確実」の閾値に関するコメントに対して、次のことを記載している(コメントNo.66~68)。 IFRS 第16号では「合理的に確実」に関する具体的な閾値の記載はなく、各企業の判断に委ねられているものと考えられるところ、実務上の判断に資することを目的としてTopic842の閾値の考え方を本適用指針案BC22項(本適用指針BC29 項)において紹介している。 この点、Topic 842で示されている「合理的に確実」の閾値に関する記載は、「合理的に確実」の閾値の高さに関する判断の参考として記載しているものであり、Topic 842の考え方に基づき判断することを求めることは意図していない。 他の会計基準における蓋然性に関する表現との比較よりも、本会計基準案等で適用される蓋然性の高さが理解されることが重要であると考えられる。 この点、本適用指針案BC22項(本適用指針BC29項)においてTopic 842で示されている「合理的に確実」の閾値の高さに関する判断の参考として記載しており、当該記載により閾値の高さの程度は明らかになっているものと考えられる。 また、合理的に確実の蓋然性に関して、借手のリース期間の判断に資するように本適用指針案[設例8](本適用指針[設例8])を修正することとした。 4 社宅に関する不動産賃貸借契約 社宅に関する不動産賃貸借契約についても、他のリースと同様、企業が事業遂行上必要と認めて契約を行っているものと考えられるため、他のリースとの相違はないと考えられる(コメントNo.128)。 5 契約期間満了後の1年間の自動延長オプションと再リース 本適用指針案第49項(本適用指針第52項)における再リースは、いわゆるフルペイアウトの要件を満たすファイナンス・リースにおいて「当初の月額リース料程度の年間リース料により行われる1年間のリース」が追加的に設定されるリース取引であると考えられることから、不動産の賃貸借における契約延長とは取引の性質が異なるものと考えられる(コメントNo.164)。 6 サブリースに係る損益の表示、転リースのできる規定の転リース差益の表示 サブリースを業として行っている場合、サブリースから生じる(純額の)利益を収益として計上することを妨げてはいない(コメントNo.224)。 また、転リース差益について(純額の)利益を収益として計上することを妨げてはいない(コメントNo.225)。 7 有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等 不動産業界においては借地に建物を建て借地権付建物として売却するという取引が行われており、その場合の借地に係る使用権資産は棚卸資産に該当する。しかしながら本会計基準案第47項(2)の記述「対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産又は投資その他の資産)において使用権資産として区分する方法」は棚卸資産への表示を禁じているように見られかねないとのコメントが寄せられている(コメントNo.230)。 当該コメントを受けて、「対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産等)において使用権資産として区分する方法」に修正している(アンダーラインが修正箇所)。 8 適用初年度の期首時点の使用権資産の減損 適用初年度の期首時点の使用権資産に減損会計を適用する場合の取扱いについて、本適用指針案117項に従い、適用初年度の期首時点の使用権資産に「固定資産の減損に係る会計基準」を適用した結果、減損損失の計上が必要となった場合、適用初年度の損益計算書を通すのではなく期首の利益剰余金から減額するという理解でよいかとのコメントが寄せられている(コメントNo.280)。 当該コメントに対して、本適用指針案第117項(本適用指針第123項)では、本適用指針案第114項(本適用指針第118項)ただし書きの方法を選択し、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の期首の利益剰余金に加減する場合の会計処理を定めている。このため、適用初年度の期首時点の使用権資産に減損損失が計上される場合には、その影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減することは明らかであると考えられると記載されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2024年9月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.586を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第131回】 「各府省庁の令和7年度税制改正要望が公表」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 8月末に、各府省庁からの令和7年度税制改正要望が公表された。 今回の要望項目数は、単純合計で、国税163項目、地方税187項目、重複排除ベースで、国税110項目、地方税130項目であった。項目数では、国税は過去10年間で最少、地方税でも令和4年度改正に次ぐ少なさとなっている。 ※ ( )は重複排除ベース 〇廃止・縮減項目 廃止・縮減項目数は単純合計ベースで国税4項目、地方税7項目、重複排除ベースで国税3項目、地方税5項目であった。 国税では、DX投資促進税制と5G導入促進税制の廃止が経済産業省(5G導入促進税制については総務省も)から出されている点が注目される。これらの他、帰還・移住等環境整備推進法人に土地等を譲渡した場合等の特例措置の廃止が復興庁から提出されている。 地方税については、内閣府・経済産業省からは平成30年7月豪雨における被災代替償却資産に係る固定資産税の特例措置の廃止、復興庁からは帰還・移住等環境整備推進法人に土地等を譲渡した場合等の特例措置の廃止、子ども家庭庁からは企業主導型保育事業の用に供する施設に係る事業所税の課税標準の特例措置の廃止、総務省・経済産業省からは5G導入促進税制の廃止、経済産業省からはDX投資促進税制の廃止が提出されている。 〇法人課税 法人税では、中小企業関係の税制措置の延長・拡充が中心となっている。 経済産業省の単独要望としては、中小企業者等の法人税率の特例(所得金額のうち年800万円以下の金額に対する税率:19% ➡ 15%)の延長、地域未来投資促進税制の拡充(地方公共団体が戦略的かつ重点的に支援を行う産業分野を「重点促進分野 (仮称)」とし、同分野に対する新たな枠を設ける)及び延長があり、経済産業省・総務省・厚生労働省・農林水産省・国土交通省共同要望としては、中小企業投資促進税制の延長、中小企業経営強化税制の拡充(売上高100億円を目指す中小企業への上乗せ措置)及び延長が挙げられる。 この他、経済産業省・国土交通省がリース会計基準の変更(9月13日にASBJが企業会計基準第34号等を公表)に伴う所要の措置、経済産業省・金融庁がスピンオフの実施の円滑化のための分配資産割合の計算に係る所要の措置、金融庁が火災保険等に係る異常危険準備金制度の拡充(無税積立率の引上げ、取崩単位の一本化、取崩基準損害率の引上げ等)、経済産業省が産業用地整備促進税制(地方公共団体が連携した民間事業者による用地整備において、地権者が土地を譲渡した際の売却益に対して所得控除)の創設を要望している。内閣府・内閣官房・総務省は、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の延長を要望している。また、公正取引委員会は、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律において導入された課徴金制度によって納付した課徴金及びその延滞金の損金不算入を要望している。 〇個人所得課税 所得税では、金融庁・農林水産省・厚生労働省・経済産業省・子ども家庭庁が子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充(令和6年度与党税制改正大綱において子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充として示された措置)、国土交通省・子ども家庭庁・復興庁・環境省が住宅ローン減税等に係る所要の措置(令和6年度与党税制改正大綱において①子育て世帯等に対する住宅ローン控除の拡充、②子育て世帯等に対する住宅リフォーム税制の拡充として示された措置)を要望している。 子育て世帯等に対する住宅ローン控除の拡充(借入限度額の上乗せ等)、子育て世帯等に対する住宅リフォーム税制の拡充(子育て対応改修工事の追加)、子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充は、令和6年度与党税制改正大綱において、「『扶養控除等の見直し』と併せて行う子育て支援税制として、令和7年度税制改正において・・・結論を得る」とされていた事項である。このうち、住宅ローン控除と住宅リフォーム税制については、「現下の急激な住宅価格の上昇等の状況を踏まえ、令和6年限りの措置として先行的に対応」されていたものである。 子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充については、令和6年度与党税制改正大綱において、「新生命保険料に係る一般枠(遺族補償)について、23歳未満の扶養親族を有する場合には、現行の4万円の適用限度額に対して2万円の上乗せ措置を講ずる」こととされていた。 厚生労働省・金融庁が企業年金・個人年金制度の見直しに伴う税制上の所要の措置を要望している。個人型確定拠出年金(iDeCo)については、「経済財政運営と改革の基本方針2024」(6月21日閣議決定)や「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」(6月21日閣議決定)では、拠出限度額及び受給開始年齢について2024年中に結論を得る、拠出限度額の引上げ等について大胆な改革を検討し結論を得るなどとされている。 また、経済産業省は、エンジェル税制の拡充(株式譲渡益を元手とする再投資期間(現行は同一年内)の延長等)を要望している。これは、令和6年度与党税制改正大綱において「令和5年度税制改正により措置されたスタートアップへの再投資に係る非課税措置を含め、再投資期間の延長について、令和7年度税制改正において引き続き検討する」とされていた課題であり、前述の「経済財政運営と改革の基本方針2024」や「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」でも検討事項として掲げられているものである。 〇資産課税 相続・贈与税では、経済産業省が法人版・個人版の事業承継税制の見直し(役員就任要件の見直し)を要望している。令和6年度税制改正では、法人版事業承継税制の特例措置の適用にあたり必要となる特例承継計画の提出期限が令和8年3月31日まで2年延長されたが、特例措置に係る適用期限の令和9年12月31日は変更されておらず、この特例の適用要件の1つの、後継者である受贈者が「贈与の日まで引き続き3年以上」事業承継の対象企業の役員であること(役員就任要件)が、適用期限までに充足されるには、本年末までに役員に就任しておく必要があり、この点の緩和が注目される。 子ども家庭庁・金融庁が、結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の拡充(対象費目等)・延長を要望している。この特例は平成27年度税制改正において創設され、令和元年、3年、5年度改正で2年ずつ延長されてきた制度である。ただし、令和5年度与党税制改正大綱では「次の適用期限の到来時には、利用件数や利用実態等を踏まえ、制度の廃止も含め、改めて検討する」とされていたものである。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第65回】 「役員のホームリーブ」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) ホームリーブと税務上の取扱い 税務上の役員給与を対象とする論点のうち、海外渡航費(【第44回】)やグロスアップ計算(【第32回】)等、役員やその家族が国境を越えるような場合には、関連する支出が役員給与として損金算入できるかどうか検討を要するケースが多い。今回は、いわゆるホームリーブについて取り上げる。 ここで、「ホームリーブ(Home Leave)」とは、業務命令で本国を離れ、日本国内で長期にわたって勤務する外国人役員や従業員(エクスパッツ)が、休暇等のために本国へ一時帰国することをいう。法人にとって、この帰国費用を負担した場合、特に役員に対して帰国費用を支給した場合に、損金算入の可否について検討する必要がある。 ホームリーブに関する税務上の取扱いとしては、昭和50年1月16日、国税庁が「国内において勤務する外国人に対し休暇帰国のため旅費として支給する金品に対する所得税の取扱いについて」(以下、「ホームリーブ通達」という)を示しており、今日の実務はこれによって判断がなされている。 ◆参考:ホームリーブ通達から抜粋 したがって、①就業規則や旅費規程等で定めること、②おおむね1年以上ごとの支給であること、③合理的な経路及び方法で往復すること、のいずれも満たせば、海外親法人からの出向等で日本法人に赴いているエクスパッツの場合、給与として所得税が課されることはない。 また、役員給与に関しては、法人税基本通達9-2-9における経済的利益とされるものであっても、所得税法上課税されないものであり、法人が給与として経理しなかった場合には、役員給与に関する論点として問題となることもないと考えられる(法基通9-2-10)。 なお、ホームリーブ通達の記載上、海外親法人等からの出向等で日本に赴いている役員やエクスパッツに限られるため、日本法人等で直接採用した在日外国人等はその対象ではないと解されることに留意したい。 (2) ホームリーブ通達公表前にホームリーブが問題となった事例 このような事例として、国税不服審判所昭和49年3月12日裁決があるため(※1)、以下にその概要を紹介する。 (※1) 裁決事例集8集1頁、TAINS:J08-1-01。 本件裁決例は、課税庁が、役員や使用人の休暇のための帰国であるという点に注目し、給与等に当たるとして納税告知処分等を行ったものである。これに対し納税者は、社員を取引先に派遣することは常に新しい発展を維持するための業務であるとともに、対象社員の家族を含め日本に勤務させる場合、言語、風俗、習慣等の異なる生活環境から生ずる精神的不安が伴うため、これを払しょくさせるために帰国を認めたものであると主張した。結果として、国税不服審判所は上記の通り示し、納税者の主張を認めている。 本件裁決例は、ホームリーブ通達公表前に生じた事例であるが、ホームリーブ通達の趣旨として説明される「その休暇帰国はその者の労働環境の特殊性に対する配慮に基づくものであることに顧み」たものである旨と同様の内容が示されていることが興味深い。 (3) ホームリーブ通達の具体的な判断 実務上、このようなエクスパッツのホームリーブによる帰国に触れた場合、社内の諸規程に準じたものであるか、その頻度は適正か、その経路等が合理的な帰国方法であるか等に注目して判断する必要がある。したがって、法人として、移動に係る宿泊がある場合にはトランジット等の事情があるかどうかという点も記録しておくべきだろう。 また、役員を対象としたホームリーブに特にあり得るケースとして、ファーストクラスやビジネスクラスを利用して移動する場合において、ホームリーブ通達上の文言である、「最も経済的かつ合理的」といえるかどうかについて悩むことになる。 この点、「その者の地位等に照らし社会通念上相当と認められる場合や、幼児等を同伴するために必要と認められる場合のように、その利用について相当な理由がある場合」には認められるという見解がある(※2)。この判断には、当該法人の役員が通常、どのクラスの国際線に搭乗しているかという点が1つの基準となるだろう。したがって、実際にファーストクラス等を利用したホームリーブの場合には、その法人内の規程等で職位ごとの基準が定められているか、その対象者の社内の職位はどうか、相応の事情があるかどうか等に着目して、慎重な検討が必要となるだろう。 (※2) 櫻井光照『役員の税務と法務(令和2年三訂版)』(大蔵財務協会、2020)1510頁。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第68回】 「非適格株式移転を行った場合の株式移転完全親法人、株式移転完全子法人、株式移転完全子法人の株主の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、非適格株式移転を行った場合の株式移転完全親法人、株式移転完全子法人、株式移転完全子法人の株主の取扱いについて解説します。 1 非適格株式移転があった場合の株式移転完全親法人の取扱い (1) 株式移転完全子法人株式の取得価額 非適格株式移転により株式移転完全親法人が取得する株式移転完全子法人株式の取得価額は、株式移転時の時価となります(法令119①二十七)。 (2) 非適格株式移転により増加する資本金等の額 株式移転完全親法人において株式移転により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①十一)。 (3) 非適格株式移転により増加する利益積立金額 非適格株式移転の場合には、株式移転完全親法人の利益積立金額は増加しません。 (4) 具体例 ① 前提 【B社の株式移転直前のBS】 ② 株式移転完全親法人の仕訳 2 非適格株式移転を行った場合の株式移転完全子法人の取扱い (1) 時価評価 非適格株式移転を行った場合には、株式移転完全子法人が有する資産について時価評価を行う必要があります。非適格株式移転の直前の時において株式移転完全子法人が有する時価評価資産の評価益又は評価損は、非適格株式移転の日の属する事業年度の所得金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入されます(法法62の9①)。 (2) 時価評価の対象資産 非適格株式移転を行った場合に、株式移転完全子法人において時価評価を行う必要がある時価評価対象資産は次のとおりです(法法62の9①)。 (3) 時価評価対象外の資産 非適格株式移転を行った場合の時価評価対象資産から除かれる資産は、次のとおりです(法令123の11①)。 (4) 評価単位 時価評価は、次の資産区分に応じた単位ごとに行います(法規27の15①、27の16の2)。 (5) 完全支配関係がある法人間で非適格株式移転が行われた場合 完全支配関係のある法人間で非適格株式移転を行った場合には、完全支配関係がある法人間の非適格合併の場合と同様に、グループ法人税制の適用により、時価評価損益の計上は行いません。 (6) 具体例 ① 前提 【B社の株式移転直前のBS(単位:百万円)】 ② 株式移転完全子法人の仕訳 土地は、時価評価の対象資産に該当するため、評価益700百万円を認識します。 3 非適格株式移転を行った場合の株式移転完全子法人の株主の取扱い (1) 旧株の譲渡損益 株式移転完全子法人の株主が、株式移転によって金銭等の交付を受ける場合には、原則として旧株の譲渡損益を計上します(法法61の2①)。 ただし、投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2⑪)。「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 したがって、非適格株式移転の場合でも、株式移転完全子法人の株主が金銭等の交付を受けていないときは、旧株の譲渡損益は繰り延べられます。 (2) みなし配当 利益積立金額が株主に交付されるときは、みなし配当を計上する必要があります(法法24)。 非適格株式移転が行われた場合には、株式移転完全子法人の利益積立金額は株式移転完全子法人の株主に交付されないため、株式移転完全子法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (3) 株式移転完全親法人株式の取得価額 株式移転完全子法人の株主が、対価として株式移転完全親法人株式のみを交付された場合のその株式移転完全親法人株式の取得価額は、株式移転完全子法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①十一)。 株式移転完全親法人株式以外の資産の交付がある場合の株式移転完全親法人株式の取得価額は、株式移転時の時価となります(法令119①二十七)。 (4) 具体例1(株式移転完全親法人株式のみ交付) ① 前提 ② 株式移転完全子法人の株主の仕訳 (5) 具体例2(現金と株式移転完全親法人株式を交付) ① 前提 ② 株式移転完全子法人の株主の仕訳 ◆非適格株式移転を行った場合の株式移転完全親法人、株式移転完全子法人、株式移転完全子法人の株主の取扱いのポイント◆ 非適格株式移転があった場合に株式移転完全親法人が取得する株式移転完全子法人株式の取得価額は、時価となります。 非適格株式移転があった場合には、株式移転完全親法人において資本金等の額が増加しますが、利益積立金額は増加しません。 非適格株式移転があった場合には、株式移転完全子法人の資産について時価評価を行う必要があります。 株式移転完全子法人株式の譲渡損益を認識するかどうかは、適格株式移転か非適格株式移転かにかかわらず投資の継続で判定します。 (了)
相続税の実務問答 【第99回】 「更正の請求における小規模宅地等の選択の同意」 税理士 梶野 研二 [答] お父様の遺産について、今年の8月10日に遺産分割協議が成立し、あなたが取得したN市のアパートの敷地について、小規模宅地等の特例を適用することとなったとのことです。この特例を適用するためには更正の請求を行うこととなりますが、この更正の請求は、遺産分割協議が成立した8月10日から4ヶ月以内、つまり12月10日までに行わなければなりません。あなたが小規模宅地等の特例を適用するためには、小規模宅地等の特例を適用することができるK市のアパートの敷地を取得したお兄様の同意を証する書類を更正の請求書に添付する必要があります。 そこで、あなたが取得したN市のアパートの敷地について小規模宅地等の特例を適用することについてお兄様に同意書を作成してもらう、又はその旨の合意書をあなたとお兄様の間で作成するなどして、これらの書類を更正の請求書に添付すればよいでしょう。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 小規模宅地等の特例 (1) 租税特別措置法第69条の4第1項に規定する「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(以下「小規模宅地等の特例」といいます)は、個人が相続や遺贈によって取得した財産で、その相続開始の直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいいます)のうち一定の要件を満たすものがある場合、その宅地等のうち一定の面積(以下「限度面積」といいます)までの部分で、相続人等(相続人及び受遺者をいいます)が選択したものについては相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額することができる特例制度です。 (2) 小規模宅地等の特例の対象となり得る宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合には、この小規模宅地等の特例の適用を受けようとする宅地等の選択についてその全員が同意している必要があります。この選択は、次に掲げる書類の全てを相続税の申告書に添付することにより行います(措令40の2⑤)。 相続税実務においては、相続人等の全員が共同で相続税の申告をすることを前提に、相続税の申告書の様式のうち「第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」(2においてこの様式を「第11・11の2表の付表1」といいます)に所定の記載をすることにより上記の書類の添付要件を満たすものとされます(【第98回】「各相続人が単独で相続税の申告書を提出する場合の小規模宅地等の選択の同意」参照)。 2 申告期限分割されていない宅地等についての特例の適用 (1) 小規模宅地等の特例は、原則として相続税の申告書の提出期限までに相続人又は包括受遺者によって分割されている土地等について適用することができ、分割されていない宅地等については適用することができません(措法69の4④本文)。ただし、その分割されていない宅地等が、相続税の申告書の提出期限から3年以内(注)に分割された場合には、その分割された宅地等については、同特例を適用することができることとされています(措法69の4④ただし書き)。 (注) 相続税の申告書の提出期限から3年以内に宅地等が分割されなかったことについて、相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の租税特別措置法施行令で定める一定のやむを得ない事情があることから、納税地の所轄税務署長の承認を受け、当該宅地等の分割ができることとなった日の翌日から4ヶ月以内に分割された場合には、その分割された宅地等について上記1の小規模宅地等の特例を適用することができることとされています(措法69の4④かっこ書き)。 (2) 遺産分割協議が成立したことなどにより取得が確定した相続財産の価額を基に相続税を計算し、又は遺産分割協議等により取得した宅地等について小規模宅地等の特例を適用することにより当初申告の相続税額が減少することとなる場合には、相続税の更正の請求をすることができます(相法32①一、措法69の4⑤)。小規模宅地等の特例を適用するための更正の請求書には、上記1の(2)に掲げた書類を添付しなければなりません。 この添付書類のうち、上記1の(2)の③については、更正の請求書に相続税の申告書の様式のうち「第11・11の2表の付表1」の所定欄に記載をしただけでは十分ではありません。すなわち、更正の請求は、相続税の申告のように相続人等が共同して行うことのできるものではなく、相続税の課税価格又は税額が減少することとなる相続人等がそれぞれ単独で行うものであることから「第11・11の2表の付表1」に小規模宅地等の特例の適用対象となり得る宅地等を取得した全ての相続人等の氏名を記載しただけでは、当該全ての相続人等が同意をしたことを証する書類とはならないからです。そこで、別途、小規模宅地等の特例の適用対象となり得る宅地等を取得した全ての相続人等による小規模宅地等の特例の選択についての同意を示す書類を作成し(注)、これを更正の請求書に添付する必要があります。 (注) 申告書への押印は不要となりましたが、「第11・11の2表の付表1」の様式を利用して、これに相続人等全員の氏名を記載の上、その全員が同意していることを明らかにするために押印してもらうことも考えられます。 3 ご質問の場合 お父様の遺産について、今年の8月10日に遺産分割協議が成立し、あなたが取得したN市のアパートの敷地は小規模宅地等の特例を適用することができる貸付事業用宅地等に該当し、この敷地に小規模宅地等の特例を適用することについてお兄様も同意されているとのことです。 遺産分割ができなかったことから法定相続分の割合で遺産を取得したものとして相続税の計算をしていた場合において、その後遺産分割が行われ、その結果、相続税の課税価格が法定相続分を基に計算したときよりも減少することとなったこと、あるいは小規模宅地等の特例を適用することにより当初の申告よりも相続税額が減少することとなったときには、更正の請求をすることができますが、この更正の請求は、遺産分割協議が成立した日から4ヶ月以内に行わなければなりません。あなたとお兄様の間の遺産分割協議が成立したのは今年の8月10日とのことですので、4ヶ月以内の日である今年の12月10日までに更正の請求を行う必要があります。 あなたが更正の請求によって小規模宅地等の特例を適用するためには、小規模宅地等の特例を適用することができるK市のアパートの敷地を取得したお兄様の同意を証する書類の添付が必要になります。そこで、あなたが取得したN市のアパートの敷地について小規模宅地等の特例を適用することについてお兄様に同意書を作成してもらう、又はその旨の合意書をあなたとお兄様の間で作成するなどして、これらの書類を更正の請求書に添付すればよいでしょう。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第51回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 21 ビットコインETFと分離課税(その5):本信託のスキーム図と主な関係者 (1) スキーム図 〈本信託のスキーム図〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (2) 主な関係者 ア スポンサー(Sponsor) イ 受託者(Trustee) ウ 管理者(Administrator) エ 名義書換代理人(Transfer Agent) オ ビットコインカストディアン(Bitcoin Custodian) カ キャッシュカストディアン(Cash Custodian) キ 指定参加者(Authorized Participant) ク 持分所有者(Shareholder) ケ その他の関係者 上記のほか、次のような参加者が存在する。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第54回】 「シンガポール居住者該当性訴訟 (地判令1.5.30、高判令1.11.27)(その1)」 ~旧所得税法2条1項5号、5条1項、2項、同法施行令14条1項2号~ 税理士 大野 道千 1 判例 (1) 当事者等 (2) 事実の概要 X(原告・被控訴人)は、所得税法(平成25年法律第5号による改正前のもの)2条1項5号の「非居住者」に該当するとの認識の下、平成21年分から平成24年分までの所得について日本では申告を行わず、シンガポールの居住者として同国で所得税の申告を行っていたところ、所轄税務署長から同項3号の「居住者」に該当するとして、期限後申告を勧奨されたため、期限後申告を行ったうえで平成23年及び平成24年分の所得税につき更正の請求をしたが認められず、本件各年分の所得税の無申告加算税に係る各賦課決定処分を受けたため、その取消しを求めた。 Xは経営する会社の海外展開を目指し、インドネシア、米国、シンガポール、中国に現地法人を設立し、これらの現地法人及び日本の内国法人2社の代表を務めていた。Xは、日本、米国及びシンガポールに居所を有し、平成21年から平成24年までの滞在日数合計は、日本が409日、米国が363日、シンガポールが300日であった。平成24年末時点のXの資産状況は、日本国内に約1億9,800万円、米国に約440万円、シンガポールに約1,780万円であった。原告Xと生計を一にする妻や二女は、日本居宅において居住を続けていた。 原審である東京地裁令和元年5月30日(金判1574号16頁)は、住所概念の解釈について、武富士事件最高裁判決(※1)を参照し、「『住所』とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実態を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当」であり、「客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かは、滞在日数、住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等を総合的に考慮して判断するのが相当である」としてこれらの要素を検討した結果、Xの請求を認容した。これを不服として課税庁が控訴したのが当事案である。 (※1) 最高裁平成20年(行ヒ)第139号同23年2月18日第二小法廷判決・裁判集民事236号71頁参照。 (参考)各居住国における滞在日数 (3) 争点 Xの所得税法2条1項3号における居住者該当性(「国内住所」の有無)。 (4) 判旨 控訴棄却(確定)。 東京高裁は、Xの生活の本拠(住所)が日本にあったとはいえず、所得税法2条1項3号に定める「居住者」に該当するとは認められないとして控訴を棄却した。控訴審では一審判決(全部認容)を全部引用して控訴を棄却したため、以下、地裁・高裁の両判旨を引用する。 〈地裁判旨〉 ① 滞在日数及び住居 ② 職業 ③ 生計を一にする配偶者その他の親族の居所 ④ 資産の所在 ⑤ その他の事情 ⑥ まとめ 〈高裁判旨〉 ((その2)へ続く)
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第6回】 「Scope3の算定のしくみ」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔PNパッケージ社の登場人物〕 * * * 温室効果ガスのサプライチェーン排出量は、排出源などに基づき、「Scope1」「Scope2」「Scope3」の3つに区分けされます。 Scope1は、燃料の使用や製品の製造などを通じて、自社が直接排出する温室効果ガスを指します(【第4回】参照)。Scope2は、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、自社が間接的に排出する温室効果ガスです(【第5回】参照)。 一方、Scope1・Scope2以外の間接排出は、Scope3に該当します。 * * * * * * Scope3はScope1やScope2とは異なり、企業活動の上流と下流におけるさまざまな間接排出を対象とします。このScope3を高い精度で算定しようとすると、情報を集めるための手間やコストが非常にかさむことが想定されます。 そのため、「Scope3を含むサプライチェーン排出量をなぜ算定するのか」というスタートラインを明確にしたうえで、費用対効果も考えて算定に取り組む必要があります。 * * * * * * 一方、サプライチェーン排出量の中で削減すべき箇所を特定して具体的に削減に取り組むことや、SBT(※1)認定を受けるためにデータを提出することなどを目的とするなら、より高い精度で排出量を算定する必要があります。 (※1) SBT(Science Based Targets)は、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標をいい、複数機関が共同でSBTイニシアチブを運営している。SBTに参加する企業は、SBTが定める基準を満たすように温室効果ガス排出量の削減目標を設定し、これが認められればSBT認定を受けることができる。SBTに参加する企業は年々増加しており、2024年3月1日時点で900社超の日本企業がSBT認定を受けている。 環境省「SBT(Science Based Targets)について」 高い精度でScope3排出量を算定するには、サプライチェーン上の関係先から排出量に関するデータを提供してもらう方法が考えられます。 * * * * * * そこで多くの場合、Scope3も、Scope1やScope2と同様に、次の基本式によって推計する方法が利用されます。 Scope3においては、この基本式に用いる「活動量」や「排出係数(排出原単位)」についてさまざまな選択肢があり、算定される排出量の精度も異なります。 * * * * * * 排出係数(排出原単位)には、産業連関表ベースのものと積み上げベースのものがあり、どのような排出原単位を用いるかは企業の判断に任されます。詳細は割愛しますが、産業連関表ベースの排出原単位は、入手が容易である一方で、精度としてはやや劣ります(※2)。一方、積み上げベースの排出原単位は、高精度であるものの、その入手に労力やコストがかかります(※3)。 (※2) 産業連関表ベースの排出原単位は、全ての財・サービスを網羅している(金額ベースの原単位と物量ベースの原単位がある)。ただし、あくまでも平均値であるため精度は高くない。環境省の公表する「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出量等の算定のための排出原単位データベース」を利用できる。 (※3) 積み上げベースの排出原単位は、ライフサイクルの各段階で投入した資源・エネルギー(インプット)と排出物(アウトプット)を詳細に収集・集計しているため、高精度である。積み上げベースの排出原単位のデータベースとして、IDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)などが利用できる。なお、IDEAは基本的には有償である。 【「金額ベースの活動量」と「産業連関表ベースの排出原単位」を用いて算定するケース】 (※4) 排出原単位は、環境省「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出量等の算定のための排出原単位データベース」における産業連関表ベースの排出原単位を利用。 * * * * * * 企業によっては、外部に開示する温室効果ガス排出量等について第三者検証を受けていることもあります。その場合でも、特にScope3の算定過程には、性質上、各企業の判断や仮定が非常に多く含まれています。開示されているScope3のデータを見るときは、その点を認識しておく必要があるでしょう。 Scope3は、次の15のカテゴリに分けて算定する方法が採られます。 〈上流〉 〈下流〉 このように多くのカテゴリに分けるのは、間接排出を整理して網羅的に把握し、どのような箇所で温室効果ガスが排出されるのかを明らかにするためと解されます。 * * * ・・・翌日・・・ * * * * * * * * * (※5) 企業Aはトヨタ自動車株式会社、企業Bは味の素株式会社、企業Cは日本電信電話株式会社。いずれも各社開示データ(2022年分)より筆者集計。 * * * * * * 温室効果ガス排出量に関する情報には、企業が扱う製品・サービスの特徴や企業のビジネスモデルの一面が投影されます。特にScope3の情報には、サプライチェーン全体の特色の一部が表れており、財務情報とは異なる切り口で企業活動を知ることができます。 Scope3の算定に関しては、今回は割愛した細かい論点も多いものの、まずは大局的な視点を持つことが大切です。 * * * Q Scope3はどのように算定するの? A Scope3は、サプライチェーン排出量のうち、Scope1・Scope2以外の間接排出を指します。Scope1やScope2と同様に「活動量 × 排出係数(排出原単位)」の式で算出されることが多いものの、性質上、その精度にはバラつきが生じます。Scope3はさらに15のカテゴリに分けて算定されます。 (了)
給与計算の質問箱 【第57回】 「会社が解散した場合の給与計算と手続き」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社は8月31日で解散しました。解散に伴い、代表取締役Aが清算人に就任しました。また、残務処理のため、従業員Bが会社に残ることになりました。AとB以外は全員8月31日で退職しています。9月以降、AとBに引き続き報酬・給料を支給しますが、問題ないでしょうか。 また、残務処理終了後の給与計算に関する手続きについて教えてください。 A AとBに報酬・給料を支給することは、問題ない。会社は、9月以降の給与計算において、Aの報酬からは健康保険料、厚生年金保険料、源泉所得税、住民税を天引きし、Bの給料からは健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、源泉所得税、住民税を天引きする。 また、残務処理が終わり次第、会社は以下の手続きを行う。 * * 解 説 * * 1 労災保険 会社は、事業の廃止の日の翌日から50日以内に労働保険確定保険料申告書を所轄の労働基準監督署に提出する。労働保険料が還付になる場合には、労働保険料還付請求書も併せて提出する。添付書類はない。 2 雇用保険 会社は、事業所を廃止した日の翌日から10日以内に雇用保険適用事業所廃止届を所轄のハローワークに提出する。Bの雇用保険被保険者資格喪失届、雇用保険被保険者離職証明書も併せて提出する必要がある。添付書類として解散の登記簿謄本などを用意する。 3 社会保険(健康保険・厚生年金保険) 会社は、事業の廃止があった日から5日以内に健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届を年金事務所に提出する。A、Bの健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届、健康保険証も併せて提出する必要がある。添付書類として解散の登記簿謄本などを用意する。 4 住民税 会社は、解散等があった日の属する月の翌月10日までに給与支払報告・特別徴収にかかる給与所得者異動届出書をA、Bの居住する市区町村役場に提出する。 (了)