検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10856 件 / 6991 ~ 7000 件目を表示

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第51回】「限られた租税行政資源と『税務に関するコーポレートガバナンス』(その3)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第51回】 「限られた租税行政資源と『税務に関するコーポレートガバナンス』(その3)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦     4 事後的行政から事前的行政へ (1) 事前的行政という今後のベクトル これまで税務当局は、税務上のコンプライアンスを担保するため、税務調査を中心として事後的に個々の事例に対応してきたものと思われる。 これらは、いわば「事後的行政」といえるものであるが、個々の税務調査には手間もかかる上、租税行政の人的資源に限りがある中において、悉皆的な調査を行うことは現実問題としても不可能である。 すなわち、税務上のコンプライアンスに関する意識が必ずしも高いとはいえない今日の我が国において、事後的行政の方法にのみ頼ることはもはやできないというべきであり、従来の発想を転換する必要があると思われる。 したがって、今後の租税行政においては、「事後的行政」から「事前的行政」へとベクトルを変化させていくべきと考える。 前回確認した国税庁における「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組」は、税務調査に関連する取組みではあるが、企業のコーポレートガバナンスの充実を確認し、自主的開示に同意した法人に対して税務調査の間隔延長というインセンティブを設けるものであった。 既に述べたとおり、調査間隔の延長は、対象法人の調査に係る事務負担軽減に繋がることはもとより、悪質大口事案に租税行政の人的資源を集中的に配分することができるという意味において、納税者と税務当局のwin-winの関係に基づく取組みであるということができるが、かかる取組みも事前的行政の一つといえよう。 なお、その他の事前的行政としては、例えば、申告に先立ち、ホームページ等で誤りの多い事例をQ&Aの方法よって積極的に開示していくことや、チェックシート等を利用した申告前の自主的な事前チェックを促すことなどを挙げることもできる。 加えて、現在その導入が検討されている、租税回避スキームを開発・販売するプロモーターにそのスキームを事前開示させる等の制度も、この潮流における一つの制度設計であるといえよう。 租税回避スキームの事前開示制度については、米国をはじめとする諸外国では既に導入がなされているものの、我が国では依然として検討段階であるため、ここでは詳細には触れないが、少なくとも、国税庁の「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組」は既に開始している制度である。確かに、同制度も、その対象法人をおおむね資本金40億円超の大企業としており、対象となる法人が全国でも500社程度に満たないことからすれば、中小法人にはさしたる影響もないように見受けられる。さりとて、事後的行政から事前的行政への方向転換の中で、その対象範囲の裾野が今後広がりを見せていく可能性も大いにあるのであるから、こうした制度にも十分な注意を払うべきであろう。 (2) FIN48 さて、少し話は変わるが、米国における「FIN48」という制度について紹介しておきたい。 FIN48とは、FASB(Financial Accounting Standards Board:財務会計基準審議会)解釈指針第48号「法人所得税の不確実性に関する会計処理」をいい、アメリカの会計処理ルールの一つである。 FIN48では、税務調査が行われるとした際に、税務当局から50%超の可能性で正当であると認められる税務ポジションを認識することが求められ、その基準を満たさないものは、それに起因して追徴されるべき税額などのペナルティを前もって計上しなければならないこととしている。 要するに、将来的に税務調査を受けた場合に更正を受けるリスクを評価し、あらかじめ財務諸表に反映させようとするものがFIN48であり、移転価格等の所得配分に関する問題や、前払費用等の損金(益金)算入時期の問題などを検討し、そのリスクを開示することが求められている。 企業はこのリスクを測定するための各種の原始記録を保有しているわけであるが、企業を調査する側のIRS(Internal Revenue Service:米国内国歳入庁)としては、喉から手が出るほどその記録を確認したいであろう。企業自らが、税務上の否認リスクが高いと把握しているのであれば、IRSがそれを確認したいと考えるのは当然といえば当然である。 もっとも、FIN48はあくまでも会計上のルールであるため、IRSがこの原始記録を直接確認することはできない。しかしながら、現在、それに関連した情報をIRSに開示することが求められており、税務当局サイドからすれば、従来よりも、リスクの高い項目に関する情報をより効率的に前倒しして取得できることになっている。 これも事前的行政手法に資する情報と位置付けることができるかもしれない。 (3) 物言う株主 (ア) 法令違反と経営者責任 ここまで、租税法遵守を担保するための我が国の取組みとして、税務に関するコーポレートガバナンスの構築にフォーカスしてきたが、かかるガバナンスの評価が明確になれば、トップマネジメントがそれに従っていたか否かは、株主をはじめとするステークホルダーにとってトップマネジメントの責任を追及する際の材料となり得る。 すなわち、税務コーポレートガバナンスの構築とその徹底が、ステークホルダーにとって関心事項の一つになるのではなかろうか。以下では、租税法違反と経営者責任の問題を検討してみたい。 例えば、食料品メーカーが、生産地や品質内容等を偽装していた際には、食品表示法違反や不正競争防止法違反などに問われることになり、食品への異物混入などがあれば食品衛生法違反を問われる可能性があろう。 また、価格カルテルの場合には独占禁止法、粉飾決算等については会社法・金融商品取引法など、それぞれの法令違反が問われるものと思われる。 具体的に法令違反に該当するか否かは個々の事例によるところであるが、法令違反の有無はさておき、それがマスコミ等で大体的に取り上げられるなどすれば、売上の減少や株価の暴落など、企業価値に大きなダメージを与えることはいうまでもない。こうした不祥事による企業価値の毀損は、一つ一つの具体例を挙げるまでもなく容易に想像がつくところであり、このような事態が生じた場合、株主から経営者責任が追及されるケースが多いものと思われる。 (イ) 税務上の否認と経営者責任 さて、これらと同じ考えに立てば、経営者が租税法に違反した場合にも、株主は経営者責任を追及することができるように思われる。実際にそうした事例がどの程度あるかはひとまず措いておくとしても、例えば、①経営者が多額の脱税等を行っていた場合には、経営者責任が追及されることも十分にあり得よう。 他方で、会社が行っていた処理を、税務当局から単に否認されたにすぎないケースではどうであろうか。例えば、②ある費用の損金算入が否認され加算税や延滞税が賦課された場合に、それを理由として経営者責任を追及することはできるであろうか。 結論から言えば、こうした場合に、上記①と同様にかかる責任を追及することは難しいようにも思われる。 租税法の適用局面においては、対象となる条文等の解釈如何によっては判断結果が異なる場合も想定し得るし、一概にどちらが正しいと言い切れない場面も多い。租税訴訟において、地裁、高裁、最高裁と判断が二転三転するような事例もあることも踏まえれば、租税法の解釈と適用が場合によっては複雑な判断を要し、事案によってその結論が異なる可能性があることがよく分かる。 また、訴訟にならずとも、税理士等の租税専門家や、調査をする側の税務当局の職員でさえも処理を迷ったり、判断を誤ってしまうケースもあることに鑑みれば、税務当局から否認されたことをもって、経営者の責任追及を認めることは、経営者に過重な責任を負わせるものとも言い得るのではなかろうか。 (ウ) 三菱石油株主代表訴訟事件 追徴課税を受けたことについて経営者の責任が問われるか否かが示された事例として、いわゆる三菱石油株主代表訴訟事件東京地裁平成13年7月26日判決(判時1778号138頁)を確認しておきたい。 この事件は、三菱石油株式会社(以下、「三菱石油」という)が、昭和62年12月頃から平成7年9月頃までの間に、Aに対し、業者間転売取引による石油製品の取引価格の上乗せあるいはサイト差取引により総額63億円以上の資金を違法かつ不当に供与し、三菱石油がAに提供した資金を必要経費として違法な所得隠しの税務申告をして平成2年3月期から平成9年3月期までの所得につき重加算税を含め約27億6,000万円を追徴課税されたとして、三菱石油の株主であるXが、取締役であったYらに対し、業者間転売取引を利用した価格上乗せによる損害、サイト差取引に関連して生じた損害及び追徴課税額の損害の合計90億4,000万円余の損害につき、取締役の任務違反による損害賠償として三菱石油に支払うよう求めた株主代表訴訟である。 かかる追徴課税に関する取締役の責任について、東京地裁は次のように判示し、Xの主張を排斥している。 本件は控訴され、控訴審東京高裁平成14年4月25日判決(判時1791号148頁)において、一部原審判断が覆されXの主張が一部認容されてはいるが、追徴課税に関するYの責任については、「当裁判所も、追徴課税に関するYらの責任は認められないものと判断する。その理由は、原判決の・・・とおりであるから、これを引用する。」としており、追徴課税に関しては原審判断を維持している(上告審最高裁平成14年10月24日第一小法廷決定(判例集未登載)にて上告棄却、上告不受理)。 このように、会社の行った処理について税務当局から否認され、加算税が賦課されたからといって、直ちに経営者の責任が追及されるわけではないものと解される。 上記東京地裁判決も「納税額を最低限にとどめるように取締役が留意すべきことは一般論として当然なことではある」としつつも、「税務当局と申告者との間で判断を異にする場合があることは、必ずしも少なくな〔い〕」とし、租税法の解釈と適用の特殊性から経営者責任を追及しない態度に出ているものといえよう。 (あくまでも租税法は機械的に適用すべきものであって、経営者の裁量権の範囲でその適用を行うものではないから、経営判断の原則により整理しているわけではない。) (4) まとめ 以上のとおり、申告に過誤があったとしても、そのことが必ずしも経営者責任に直結するわけではないといえそうであるが、そこに絶対的な線引きがあるわけではなく、場合によっては、経営者責任の追及に発展する場面もあり得ることから、税務上のコーポレートガバナンスの充実による租税法遵守の姿勢と相反するものでは決してない。 上記三菱石油株主代表訴訟事件は、費用処理した金員につき交際費等に当たるとして損金算入が否認された事例であり、交際費等該当性を巡る判断の複雑さなどを踏まえた上での判断であったと整理することもできなくはない。逆に言えば、単なる申告書の提出漏れや、明白な租税法規の適用誤りの場合には、それによる追徴課税を原因として経営者責任が追及される場面もあり得よう。 なお、税務当局から非違事項の指摘を受けた場合に、修正申告の勧奨に応じるか、それともあくまでも不服として異議を申し立てるかという場面でも、経営者責任が争われる可能性があると思われる。 税務当局の処分に不服がある場合、修正申告に応じず再調査の請求又は審査請求を行い、結果次第では課税処分の取消しを求め提訴するといった方法も考えられるところ、「安易に修正申告の勧奨に応じていなければ、加算税の賦課はなされなかった」という株主側からの追及も想定し得る。 この辺りは、税務に関する適切なコーポレートガバナンスが構築され、十分な税務上の判断がなされていたかどうかがその責任判断の決め手となるであろう。 なお、こうした株主から経営者への責任追及とその判断の構造は、クライアントが顧問税理士を訴える場面のそれと類似している点が多いように思われる。 「税理士が的確に指導していれば加算税が賦課されることはなかった」とか、「安易な修正申告を行う必要性はなかった」、若しくはその逆として、「税務当局の指摘を加味して修正申告に応じるべきであった」など、クライアントが顧問税理士に対して責任追及する事例が散見されるところ、こうした専門家責任論と、今回取り上げた経営者責任論は類似点が多いことを最後に指摘しておきたい。 (了)

#No. 209(掲載号)
#酒井 克彦
2017/03/09

「法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例」の改正について~改正法案の確認と今後の実務対応~

「法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例」の改正について ~改正法案の確認と今後の実務対応~   公認会計士・税理士 石川 理一   既報の通り、平成29年度税制改正で、法人税法第75条の2(確定申告書の提出期限の延長の特例(以下、延長特例という))が改正され、従来の1ヶ月の延長に加え、一定の要件を満たした場合には最大で4ヶ月まで延長が可能となる見込みである。 ただし後述するように、3月決算法人でこの改正を適用できるのは、平成30年3月期からとなるのでご留意いただきたい。 なお、特別の事情があることにより適用される延長特例については現行法から基本的に改正されていないため、本稿においては言及していない。   1 本改正の内容 今回の改正により延長特例を適用するための条件は、以下の通り改正されることになる。 従来、延長特例を適用するための条件が、「会計監査人の監査を受けなければならないこと等の理由により決算が確定しないため、確定申告書を提出期限までに提出することができない常況にあると認められる場合」であったところ、今回の改正では、定款等の定め及び定時株主総会の招集時期にポイントを置いて延長特例の適用条件を定めている。 〈延長特例の適用条件〉 従来、法人税の確定申告書の提出は、延長特例を適用しても事業年度終了後3ヶ月以内には提出する必要があった。確定申告書には確定した決算書を添付する必要があることから(法人税法74条3項)、事業年度終了後3ヶ月以内に決算についての定時総会を招集する必要があった。 これに対して、企業と投資家との対話を充実させるため、決算日から株主総会までの期間を十分に確保することが要請されていた。 今回の改正は、定款等の定めによって定時株主総会が決算日から3ヶ月を超えて招集される場合があることを想定してなされたものである。   2 延長特例の適用関係 改正後の延長特例の申請に関する規定は、以下の通りである。 申請期限が「事業年度終了の日まで」であることは従来通りである。 改正法の施行日は平成29年4月1日とされている(附則1条)。このため、3月決算法人が改正法に基づいて申請書を提出できるのは、冒頭にも記載した通り、平成30年3月期以降ということになる。   3 今後求められる対応 今後、会計監査人設置会社である法人が延長特例を適用する場合、最初に定時株主総会の招集時期を検討する必要がある。 会社法では、株主総会における議決権行使の基準日を決定した場合、当該基準日の3ヶ月以内に株主総会を招集しなければならないとされている(会社法296条1項、124条)。 現状、過去からの慣習及び法人税の確定申告書の提出期限の制約のため、基準日を決算日の翌日以後としている法人はないと考えられる。 企業と投資家との対話の充実という要請に応えるために、決算日後3ヶ月を超えて定時株主総会を招集する場合、まずは定時株主総会を決定し、その日から遡って3ヶ月以内の一定の日を基準日として決定する必要がある。 そして、延長特例を適用するためには、当該基準日を定款の定めとする必要があるため、定款変更手続が必要となる。 定款変更には株主総会の特別決議が必要となる(会社法466条、309条2項11号)。特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上にあたる多数をもって行われる決議である(会社法309条2項本文)。 定款を変更したのち、事業年度終了の日までに、所轄税務署長に、当該定款の定めの写しを添付した申請書をもって延長特例の申請をする必要がある。 なお、改正前の1ヶ月の延長特例が適用されている法人においては、1ヶ月の延長特例については、改正法の施行によりなんらの追加的な手続は生じない(附則21条)。 (了)

#No. 209(掲載号)
#石川 理一
2017/03/09

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第5回】「買換資産の取得期間」-買換資産の取得期間・取得の日-

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第5回】 「買換資産の取得期間」 -買換資産の取得期間・取得の日-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年6月に居住用財産(所有期間が10年超で居住期間は10年以上)を譲渡し、同年11月に土地のみを取得しました。家屋については本年の8月頃に建築が開始される予定です。 この場合、いつまでに建築業者から建物の引渡しを受ければ、買換資産として「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 譲渡の年の翌年12月31日(本事例の場合、本年12月31日)までに建物の引渡しを受ければ、買換資産として認められます。 ●○●○解説○●○● 買換資産は、譲渡資産の譲渡の日の属する年の前年1月1日から譲渡の日の属する12月31日まで、又は、譲渡の日の翌年中に取得する見込みである場合において取得価額の見積額をもって申告したときは、その譲渡の日の属する年の翌年中に取得しなければなりません。 つまり、譲渡資産の譲渡の前年中、その年中又はその翌年中に取得することが必要です(措法36の2①②)。 したがって、本事例の場合、Xの譲渡は昨年であることから、本年の12月31日までに家屋を取得すれば、その敷地と共に、「買換えの特例」の適用を受けることができます。 なお、買換資産に該当する家屋(いわゆる建売住宅のように家屋と共にその敷地の用に供する土地等の譲渡がある場合の当該土地等を含みます)を買換資産の取得期間内に取得できなかった場合であっても、次に掲げる要件のいずれも満たすときは、当該家屋は買換資産の取得期間内に取得されていたものとして取り扱われます(措通36の2-16(やむを得ない事情により買換資産の取得が遅れた場合))。 上記(1)の家屋の取得の遅れが「災害その他その者の責めに帰せられないやむを得ない事情」によるものかどうかは、個々の事案に即して判断されることとなりますが、例えば、次のようなものが該当することになると考えられます。 (了)

#No. 209(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/03/09

金融・投資商品の税務Q&A 【Q35】「海外に所在する不動産を売却した場合の譲渡所得計算」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q35】 「海外に所在する不動産を売却した場合の譲渡所得計算」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 課税方法 日本の居住者(永住者に限る)は、国内で生じた所得及び国外で生じた所得のいずれについても、日本で課税されます。 したがって、日本の居住者が海外の不動産を売却したことにより得た譲渡益に対しては、国内にある不動産を売却した場合と同様に課税されることとなります。 この場合、外国通貨で行われた不動産の譲渡収入の金額及び不動産を取得した際の取得価額の金額は、原則として、その取引日における対顧客直物電信売相場(TTS)と対顧客直物電信買相場(TTB)の仲値(TTM)により換算されます。 ただし、特例として、不動産を売却して外国通貨を直ちに本邦通貨とした場合には対顧客直物電信買相場(TTB)で、本邦通貨を外国通貨として直ちに海外不動産を取得した場合には対顧客直物電信売相場(TTS)で譲渡所得を計算することができます。   2 具体的な計算例 おたずねの場合、原則として取引日のTTMを使用して土地建物等に係る譲渡所得の金額を計算することとなりますが、円からドルへの交換と不動産の取得は同日であり、また、不動産の売却とドルから円への交換は同日とのことですので、1のただし書き以降に記載の特例を適用し、以下の金額を土地建物等に係る譲渡所得の金額として取り扱うことができます(購入手数料や売却手数料はないものとします)。 本件では、ドル建ベースでは譲渡損失が発生していますが、日本円に引き直すと譲渡益が発生するため、申告が必要となります。   3 外国税額控除の適用 本件の不動産の譲渡について、不動産の所在地国において所得税に相当する税が課される場合、日本の申告上、外国税額控除の適用を受けることが可能です。 外国税額控除を受けるためには、不動産を売却した年分の確定申告の際に一定の書類を添付する必要があります(具体的な計算は【Q24】参照)。   (了)

#No. 209(掲載号)
#箱田 晶子
2017/03/09

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔税務面(所得税)のアドバイス〕 【第3回】「源泉所得税の取扱い②」~災害見舞金等の取扱い~

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(所得税)のアドバイス〕 【第3回】 「源泉所得税の取扱い②」 ~災害見舞金等の取扱い~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   被災時には、自社の役員や従業員(以下、従業員等という)に対して、災害見舞金を支給したり、生活再建に向けた様々な支援をすることがある。このような場合における源泉所得税の取扱いについて以下に解説する。 なお、各取扱いについては、国税庁のホームページに公表されている「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」が参考になる。   【1】 災害見舞金の支給 (1) 被災した従業員等へ支給する災害見舞金 心身又は資産に加えられた損害について個人が支払を受ける相当の見舞金に、所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。 企業が被災した従業員等に対して、損害の程度に応じて金額を決める等、一定の基準で支給する災害見舞金は「相当の見舞金」に該当すると考えられる。したがって、損害の程度に応じた一定の基準で支給額を定めている場合で、基準に基づいて支給する常識的な範囲の災害見舞金であれば、給与として源泉徴収する必要はない。 (2) 従業員等の家族が被災したときに支給する災害見舞金 個人が支払を受ける葬祭料、香典又は災害等の見舞金は、その金額が受け取った人の社会的地位、支払者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるものであれば所得税は課されない(所基通9-23)。 したがって、従業員等の親族が被災した場合に、企業から従業員等に対して災害見舞金を支給するときには、次の要件を満たしていれば給与として源泉徴収する必要はない。   【2】 生活資金の無利息貸付け 災害や疾病により臨時的に多額の生活資金を要することとなった従業員等に対し、企業が資金を無利息又は低利で貸し付けることがある。この場合、返済に要する期間として合理的と認められる期間内に従業員等が受ける経済的利益(適正な利息と無利息又は低利の利息との差額)には、課税しなくても差し支えないこととされている(所基通36-28(1))。 したがって、被災した従業員等に対して、企業が損害の程度に応じた合理的な返済期間を定め、生活に必要な資金を無利息又は低利で貸し付ける場合には、利息相当額の経済的利益について給与として源泉徴収する必要はない。   【3】 社宅の無償貸与 心身又は資産に加えられた損害について、個人が支払を受ける相当の見舞金に所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。 被災した自宅を修繕し再居住できるようになるまでの期間、又は被災してから新たな住居に入居できるまでの期間、企業が従業員等に対して無償で社宅を貸与することがある。この場合、従業員等が貸与期間に受ける家賃相当額の経済的利益は、企業から受ける「相当の見舞金」に該当すると考えられる。したがって、家賃相当額の経済的利益に対して給与として源泉徴収する必要はない。   【4】 他の交通手段による交通費の支給 給与所得者が、勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をした場合、その旅行のために支給される金品で、旅行について通常必要と認められるものに所得税は課されない(所法9①四)。 従業員等が、災害により通常の交通手段で通勤することができないため、他の交通機関を利用したときに支給を受ける交通費は、次の要件を満たすものであれば上記の旅費に準じて非課税になると考えられる。したがって、要件を満たす交通費は、給与として源泉徴収する必要はない。 また、交通手段が遮断されたため、ホテルや旅館に宿泊している従業員等に実費で支給する宿泊費用についても、同様の理由から給与として源泉徴収する必要はないと考えられる。 (了)

#No. 209(掲載号)
#篠藤 敦子
2017/03/09

平成29年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】

平成29年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】 (最終回)   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋     Ⅷ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理   平成23年に民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)(以下、「PFI法」という)が改正され、管理者等(PFI法第2条第3項に規定する公共施設等の管理者である各省各庁の長等をいう)が所有権を有する公共施設等(PFI法第2条第1項に規定する道路、空港、水道等の公共施設、庁舎等の公用施設、教育文化施設等の公益的施設等をいう。以下同じ)について、公共施設等運営権(PFI法第2条第7項に規定する公共施設等運営権をいう)を民間事業者に設定する制度(以下「公共施設等運営権制度」という)が新たに導入された。 この公共施設等運営事業(PFI法第2条第6項に規定する公共施設等運営事業をいう。以下同じ)における運営権者(PFI法第9条第4号に規定する公共施設等運営権を有する者をいう。以下同じ)の会計処理等について、実務上の取扱いを明らかにするために、実務対応報告公開草案第48号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)(以下、「公開草案48号」という)」が公表されている。 【公共施設等運営権制度のイメージ】 (出所) 実務対応報告公開草案第48号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」の公表【参考資料】 公開草案48号では、運営権者と管理者等の間の対価の支払に関する会計処理についてまとめられている。   1 会計処理 公共施設等運営権では、以下の会計処理等の検討が必要である。 (1) 当初の会計処理 (2) 減価償却方法 (3) 重要な見積りの変更の会計処理 (4) 更新投資に関する会計処理 (5) プロフィットシェアリング条項に関する会計処理 (6) 減損 (7) 注記   (1) 当初の会計処理 ① 会計処理 運営権者は、公共施設等運営権を取得した時に、管理者等と運営権者との間で締結された実施契約(PFI法第22条に規定する公共施設等運営権実施契約をいう)において定められた公共施設等運営権の対価(以下、「運営権対価」という)について、合理的に見積られた支出額の総額を無形固定資産として計上する(公開草案48号3)。 実施契約において、運営権対価が固定額ではなく、将来の業績等の指標に連動する形式で定められる場合も、公共施設等運営権を取得した時に合理的に見積られた運営権対価の支出額の総額を無形固定資産として計上する(公開草案48号29、30) また、運営権対価を分割で支払う場合、資産及び負債の計上額は、運営権対価の支出額の総額の現在価値による(公開草案48号4)。割引率及び利息法について、以下の規定がある(公開草案48号5)。 《割引率》 運営権対価の支出額の総額の現在価値の算定にあたっては、運営権者の契約不履行に係るリスク(運営権者の信用リスク)を割引率に反映させる(公開草案48号5)。例えば、以下のような利率を割引率に用いることが考えられる(公開草案48号33)。 実施契約において明示される利率 運営権設定期間における運営権者の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率 《利息法》 運営権対価の支出額の総額とその現在価値との差額については、運営権設定期間(PFI 法第17条第3号に規定する公共施設等運営権の存続期間をいう)にわたり利息法により配分する(公開草案48号5)。 (注) なお、公共施設等運営権の取得は、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」に定めるリース取引に該当しない(公開草案48号7)。 ② 表示 公共施設等運営権は、無形固定資産の区分に、公共施設等運営権などその内容を示す科目をもって表示する(公開草案48号16)。 運営権対価を分割で支払う場合に計上する負債は、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するものを流動負債の区分に、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するものを固定負債の区分に、公共施設等運営権に係る負債などその内容を示す科目をもって表示する(公開草案48号18)。 (2) 減価償却方法 無形固定資産に計上した公共施設等運営権は、原則として、運営権設定期間を耐用年数として、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分する(公開草案48号8)。 なお、実施契約において、一定の条件の下で運営権設定期間を延長することができる条項(延長オプション)が定められる場合、運営権者が当該条項を行使する意思が明らかな場合を除き、延長可能な期間は公共施設等運営権の耐用年数に含めない(公開草案48号9)。 (3) 重要な見積りの変更の会計処理 合理的に見積られた運営権対価の支出額に重要な見積りの変更が生じた場合、当該見積りの変更による差額は、上記(1)①で計上した資産及び負債の額に加減する(公開草案48号6)。そして、減価償却を通じて残存耐用年数にわたって費用配分を行う(公開草案48号37)。 (4) 更新投資に関する会計処理 ① 会計処理 (ⅰ) 更新投資の実施内容の大半が、管理者等が運営権者に課す義務に基づいており、かつ、運営権者が公共施設等運営権を取得した時に、更新投資のうち資本的支出に該当する部分(所有権が管理者等に帰属するものに限る)に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額及び支出時期を合理的に見積ることができる場合   取得時に、支出すると見込まれる額の総額の現在価値を負債として計上し、同額を資産として計上する(公開草案48号12(1))。 そして、運営権設定期間を耐用年数として、定額法・定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価から残存価額を控除した額を各事業年度に配分する(公開草案48号15(1))。 (※) 更新投資の実施内容の大半が、管理者等が運営権者に課す義務に基づく場合の一例としては、実施契約や要求水準書等において、更新投資の実施時期及び実施内容があらかじめ具体的かつ定量的な数値によって示されている場合が考えられる(公開草案48号51)。 また、以下の点に留意する必要がある(公開草案48号13~14)。 負債を計上する場合、現在価値の算定に用いる割引率は、運営権対価の支出額の総額の現在価値の算定に用いたものと同じ利率とする(上記(1)①参照)。 更新投資について支出すると見込まれる額の総額とその現在価値との差額については、運営権設定期間にわたり利息法により配分する。 資産及び負債を計上する場合、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額及び支出時期に重要な見積りの変更が生じたときは、当該見積りの変更による差額を資産及び負債の額に加減する。 (ⅱ) 上記(ⅰ)以外の場合   上記(ⅰ)以外の場合、更新投資を実施した時に、当該更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関する支出額を資産として計上する(公開草案48号12(2))。 当該更新投資を実施した時より、当該更新投資の経済的耐用年数(当該更新投資の物理的耐用年数が公共施設等運営権の残存する運営権設定期間を上回る場合は、当該残存する運営権設定期間)にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価から残存価額を控除した額を各事業年度に配分する(公開草案48号15(2))。 ② 表示 更新投資に係る資産は、無形固定資産の区分にその内容を示す科目をもって表示する(公開草案48号17)。 上記①(ⅰ)に基づき計上した更新投資に係る負債は、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するものを流動負債の区分に、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するものを固定負債の区分に、その内容を示す科目をもって表示する(公開草案48号19)。 (5) プロフィットシェアリング条項に関する会計処理 実施契約において、運営権対価とは別に、各期の収益があらかじめ定められた基準値を上回ったときに運営権者から管理者等に一定の金銭を支払う条項(「プロフィットシェアリング条項」)が設けられる場合、当該条項に基づき各期に算定された支出額を、当該期に費用として処理する(公開草案48号11)。 (6) 減損 公共施設等運営権は「固定資産の減損に係る会計基準」の対象となる(公開草案48号10)。 減損会計の適用において、減損損失の認識の判定及び測定において行われる資産のグルーピングは、原則として、実施契約に定められた公共施設等運営権の単位で行う(公開草案48号10)。 ただし、管理会計上の区分、投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位、継続的な収支の把握がなされている単位及び他の単位から生じるキャッシュ・イン・フローとの相互補完性を考慮し、公共施設等運営事業の対象とする公共施設等ごとに合理的な基準に基づき分割した公共施設等運営権の単位でグルーピングを行うことができる(公開草案48号10)。 (7) 注記 運営権者は、以下の事項を公共施設等運営事業「ごと」に注記する(公開草案48号20)。 ① 運営権者が実施する公共施設等運営事業の概要(公共施設等運営事業の対象とする公共施設等の内容、実施契約に定められた運営権対価の支出方法、運営権設定期間、残存する運営権設定期間、プロフィットシェアリング条項の概要等) ② 公共施設等運営権の減価償却の方法 ③ 更新投資に係る事項 (ⅰ) 主な更新投資の内容及び投資を予定している時期 (ⅱ) 運営権者が採用した更新投資に係る資産及び負債の会計処理の方法 (ⅲ) 更新投資に係る資産の減価償却の方法 (ⅳ) 上記(4)①(ⅱ)に基づき更新投資に係る資産を計上する場合、翌期以降に支出すると見込まれる更新投資のうち、合理的に見積ることが可能なキャッシュ・フローの金額及びその内容   2 適用時期 公開草案48号は、公表日以後適用する(公開草案48号21)。 公共施設等運営権制度は、実際の運用の開始から間もないことを踏まえ、特定の経過的な取扱いを定めずに、公開草案48号を過去の期間のすべてに遡及適用する(公開草案48号59)。 したがって、既に公開草案48号と異なる会計処理を行っている会社の場合、遡及適用により事務処理負担が重くなる。   Ⅸ 短信及び有価証券報告書の改正   平成28年4月18日に金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告が公表された。当該報告を受けて、平成29年2月14日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正が公表されている。また、東京証券取引所より、平成29年2月10日に「決算短信・四半期決算短信作成要領等」の改訂、有価証券上場規程の一部改正が公表されている。 (1) 有価証券報告書の改正 決算短信の記載内容とされていた「経営方針」について、決算短信ではなく有価証券報告書において開示するため、有価証券報告書の記載内容に「経営方針」を追加している。 そして、「経営方針」は、第一部企業情報の第2【事業の状況】の3【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に記載する。表題も【対処すべき課題】から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】へ改正されている。 当該改正は、平成29年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用する。 (2) 決算短信の改正 以下の改正が行われている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 当該改正は、平成29年3月31日以後に終了する事業年度に係る決算短信から適用する。   Ⅹ 金融庁の平成27年度有価証券報告書レビューの審査結果   平成28年3月25日に「平成27年度有価証券報告書レビューの重点テーマ審査及び情報等活用審査の実施結果について(以下、「レビュー結果」という)」が公表されている。具体的には、以下のテーマについて公表されている。 1 退職給付 2 セグメント情報 3 その他   レビュー結果の内容は、上場会社のみならず、非上場会社の平成29年3月期決算においても参考となる箇所がある。   1 退職給付 退職給付の開示について、以下のような事例が確認され、また、留意点が挙げられている(レビュー結果3.(1))。なお、以下の内容は、基本的に有価証券報告書で留意する必要がある項目であるが、計算書類においても留意する必要がある項目もある。   2 セグメント情報 セグメントの開示について、以下のような事例が確認され、また、留意点が挙げられている(レビュー結果3.(2))。なお、以下の内容は、有価証券報告書のみで留意する必要がある項目である。   3 その他 その他に以下のような事例が確認され、また、留意点が挙げられている(レビュー結果3.(3))。なお、以下の内容は、有価証券報告書及び計算書類ともに留意する必要がある項目である。 (連載了)

#No. 209(掲載号)
#西田 友洋
2017/03/09

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第18回】「監査等委員会設置会社への移行後に起きるミス」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第18回】 「監査等委員会設置会社への移行後に起きるミス」   公認会計士 石王丸 周夫   1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例18-1】 この会社に存在しない会社機関が載っている。 【事例18-1】は、計算書類の個別注記表の一部を抜粋したものです。 この中に1ヶ所、うっかりミスがあります。 どこだかわかりますか? ヒントは、この事例の前提として示した「この会社は監査等委員会設置会社である。」という一文にあります。 監査等委員会設置会社にはどのような会社機関があるか、考えてみてください。 【事例18-1】には、実はこの会社にないはずの機関が記載されているのです。   2 監査等委員会設置会社とは さっそく、答えを見てみましょう。 解答のとおり、「取締役及び監査役に対する金銭債権及び金銭債務」は「取締役に対する金銭債権及び金銭債務」としなければなりませんでした。 つまり、「監査役」を削除する、ということです。 このミスに気づくためには、監査等委員会設置会社がどのような機関設計なのかを知らなければなりません。 監査等委員会設置会社は、平成26年の会社法改正で導入された制度なので、読者の皆さんの中にもまだなじみのない方がいるのではないでしょうか。 「監査等委員会設置会社」とは、3人以上の監査等委員により構成される「監査等委員会」を置いた会社のことです。監査等委員会の役割は、取締役の業務執行の適否を判断すること等です。 監査等委員は取締役であり、その過半数は社外取締役です。 監査等委員会設置会社には、監査役は置きません。 以上のような特徴があります。   3 監査役だった人が監査等委員になった場合は要注意 監査等委員会設置会社が導入された背景には、上場会社において求められている社外取締役の選任に際して、「社外取締役候補がなかなか見つからない」という事情がありました。 企業にとっては、社外監査役との重複感もあったようです。上場会社の多くは「監査役会設置会社」という機関設計を採用しており、その場合、社外監査役に加えて社外取締役を選任しなければならないからです。 これに対して監査等委員会設置会社の場合、監査役は置かれないため、社外役員は監査等委員である取締役のほうだけ考えればよく、社外役員の数が少なくて済みます。 監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行した会社の中には、それまで社外監査役だった人を監査等委員に横滑りさせる人事が行われたところもあります。 その場合、社内的な感覚では、「監査等委員というのは監査役のようなものだ」と受け止められてしまう可能性があります。 「監査等委員が取締役である」にもかかわらず、です。 【事例18-1】は、そうした深層心理が「うっかりミス」という形で顕在化したのでしょうか。 すでに監査役という機関は自社にはないにもかかわらず、監査役を務めていた人物が引き続き監査等委員となって、今までと同じように時折会社に顔を出す。だから、「取締役及び監査役に対する金銭債権及び金銭債務」というタイトルの注記が記載されていても、おかしいとは感じなかったのです。 人間の犯すミスというのは、そうした心理と深く関わっています。 いずれにしても、制度が変わって新しい事柄が出てきたときは、ミスが起きやすいものです。その意味で、これはこの連載の【第13回】で紹介した『ファーストタイム・ミス』に分類されるミスです。 人間は、過去の経験やこれまで蓄積してきた知識に照らし合わせて物事を処理しようとするクセがあります。だから制度変更時にミスが発生するのです。 3月決算会社に関しては、2016年6月の定時株主総会で、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に衣替えした会社が相当数あったようです。それらの会社では、2017年3月期の会社法計算書類の作成時にこうしたミスがないか、注意してください。   4 制度変更時の類似事例 参考までに、制度変更時に起きたミスを2つほど紹介しておきましょう。 【事例18-2】 数値が発生していない科目であるにもかかわらず、項目だけ掲載されている。 【事例18-2】は、連結損益計算書におけるミスの事例です。 【第15回】で述べましたが、連結損益計算書類では会計基準の変更により、「非支配株主に帰属する当期純利益」という科目が2016年3月期から登場しています。 この会社では、それを受けて「非支配株主に帰属する当期純利益」という科目を設けていますが、該当する数値は発生しなかったようです。 その場合、「-」で表示するのではなく、科目自体を削除してしまってよいのですが、そうしていないという事例です。 【事例18-3】 当期純利益が表示されていない。 【事例18-3】も連結損益計算書に関するミスです。 こちらは、当期純利益が表示されていないという事例です。連結損益計算書の末尾部分は、会計基準の改正により、2016年3月期から以下のように科目名が大幅に変更されました。 【事例18-3】も、この改正に際して間違えてしまったファーストタイム・ミスです。   〈今回のまとめ〉 監査等委員会設置会社に移行した会社は、移行後の会社法計算書類の中で「監査役」という文言が使用されている場合、適切かどうか確認する必要があります。 (了)

#No. 209(掲載号)
#石王丸 周夫
2017/03/09

2017年株主総会における実務対応のポイント

2017年株主総会における実務対応のポイント   三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 担当部長 斎藤 誠   本年の株主総会では大きな制度改正対応は見当たらない。2015年5月より施行された改正会社法(以下、単に改正会社法という)も適用から2年を経過し、その対応についても安定しつつあると思われる。 2015年6月から適用開始となったコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコードという)の影響もあって、昨年はCGコードを意識した株主総会運営事例がみられた。引き続きガバナンスについての関心も高いことから、本年もCGコードを踏まえた総会準備について、ブラッシュアップを検討していくこととなろう。 本稿では、これらを踏まえた2017年株主総会の実務対応について解説する。 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。   1 招集通知関係 (1) 発送前開示 CGコードでは、招集通知に記載する情報を、招集に係る取締役会決議から招集通知発送までの間に、TDnetや自社のウェブサイトに公表する発送前開示が求められている(補充原則1-2②)。これを受け、昨年6月総会で発送前開示を実施した会社は8割弱に達することとなった。 今年も実施会社がさらに増加することが想定されるが、昨年は発送日の1日前の日に開示した会社が最も多かったことから、本年はさらに開示日の前倒しが期待されるところである。 (2) 英訳 CGコードでは、自社の海外投資家比率等を勘案して議決権行使電子化プラットフォームの採用や、招集通知の英訳が求められている(補充原則1-2④)。招集通知を英訳した会社は3割程度となっているが、これもここ数年で増加している。英訳の対象となっているのは狭義の招集通知と株主総会参考書類が最も多い。 今年も英訳を実施する会社はさらに増加すると思われる。 (3) 記載の工夫 CGコードでは、株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報について、必要に応じて的確に提供すべきことが求められている(補充原則1-2①)。CGコードに適応した追加の情報として、経営理念や経営戦略、経営計画等を事業報告に記載することが考えられる(原則3-1(ⅰ))。 今後の業績や事業戦略についての株主の関心が高まっている状況において、中期経営計画の内容や進捗状況について事業報告に記載し説明することは、株主の満足度を高める上でも有効と考えられる。事業報告の「対処すべき課題」は、まさしく今後の事業戦略等についての会社の方針、考え方を記載する部分であるので、「対処すべき課題」の記載を充実させることが考えられる。 そのほか経営陣幹部・取締役等の報酬決定・指名等の方針・手続きについての開示も要請されていることから(原則3-1(ⅲ)・(ⅳ))、事業報告での「役員の状況」や役員報酬議案・役員選任議案において当該方針・手続について説明している事例もみられる。 (4) 役員選任議案 役員選任議案に記載される情報は年々増加しており、CGコードでは取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・氏名についての説明の開示が求められている(原則3-1(ⅴ))。役員選任議案で社内役員候補者の個々の選任理由についても記載している事例が過半となっており、記載していないのであれば本年は記載について検討すべきであろう。 そのほか、候補者のふりがなの記載、独立役員である旨、新任候補者である旨の表示等についても一般的となりつつある。また、役員候補者の顔写真を記載する事例も徐々にではあるが増えつつある。 総会においても役員の選任理由や活動内容等についての質問が増えていることから、これに対応して役員選任議案の記載を充実させることが考えられる。   2 機関投資家対応 大手議決権行使助言会社であるISSは、本年の議決権行使助言方針において、相談役・顧問制度を新たに定款に規定しようとする場合、その定款変更に反対を推奨することとした。新たに相談役・顧問制度を定款変更により規定する事例はかなり少ないと考えられるので、その影響はきわめて限定的であろう。 グラスルイスについては、監査役会設置会社における独立性基準(取締役会のみでなく取締役会と監査役会の合計の3分の1以上の独立役員)、取締役または監査役の兼務基準(業務執行者は2社まで・非業務執行者は5社まで)、株式報酬制度等について改定されている。それぞれ、議決権行使助言方針が開示されているので、詳細はそちらを参照されたい(※1)。 なお、スチュワードシップ・コードおよびCGコードのフォローアップ会議においては、機関投資家の議決権行使において従来の議案ごとの開示に代えて、個別企業・議案ごとの議決権行使結果の開示が提言されており、国内機関投資家の議決権行使対応の動向が気になるところである(※2)。   3 売買単位の統一 売買単位の100株への移行期限が2018年10月1日と決定されたことから、単元株式数が1,000株の会社は期限までに100株へ移行しなければならない(※3)。 単純に単元株式数を1,000株から100株へ変更するだけであれば株主総会決議は不要であるが(会社法195条1項)、投資単位として望ましい水準を踏まえ株式併合を実施することも考えられる。 なお、株式併合には株主総会特別決議が必要なので、100株への移行に際しては株式併合の必要性の有無について確認が必要である。   4 監査等委員会設置会社対応 監査等委員会設置会社に移行した会社は本稿執筆時点、すでに700社を超えており、上場企業の2割を占めるに至った。移行した会社では監査役会ではなく、監査等委員会による監査となるので、監査報告はもとより、招集通知の作成や議事進行シナリオを中心とした議事運営についても見直しが必要である。招集通知関係や議事進行シナリオについては「監査役会・監査役」との記載について、適宜、「監査等委員会・監査等委員」と置き換えることが必要である。 監査等委員会設置会社は、監査等委員以外の取締役の選任・解任・辞任およびその報酬等について、株主総会における意見陳述権が付与されている(会社法342条の2第4項、361条6項)。議案においては、監査等委員を除く取締役選任議案を毎年上程することとなるため、この意見陳述権の行使のあり方について検討が必要である。 監査等委員以外の取締役の選任議案において、監査等委員会の意見があるときは、その意見の内容の概要を参考書類に記載することとされており(会社法施行規則74条1項3号)、その記載に際しては監査等委員会としての意見を形成しておく必要がある(※4)。   5 商業登記規則の改正 商業登記規則の改正により、登記すべき事項に株主総会の決議を要する場合には、登記申請書に議決権数上位10名の株主または、議決権割合が3分の2に達するまでの株主のいずれか少ないほうの株主について、その氏名または名称および住所、有する株式数および議決権数ならびに議決権割合を証する書面(いわゆる「株主リスト」)の添付が求められることとなった(※5)。定款での事業目的の変更や、役員選任等の登記に際しては注意したい。 (了)

#No. 209(掲載号)
#斎藤 誠
2017/03/09

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第8回】「よくある質問・留意点③」-受託者による権限濫用を抑止するための仕組み-

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第8回】 「よくある質問・留意点③」 -受託者による権限濫用を抑止するための仕組み-   弁護士 荒木 俊和   - 質 問 - 家族信託により財産を受託した受託者が、その権限を濫用するような恐れはないか。 成年後見人が選任された場合に、後見人の財産を横領することがあるような話を聞いたことがあるが、家族信託においては、そのような恐れはないか。 受託者の権限濫用を防ぐ仕組みをどのように作れるかを聞きたい。   1 問題の所在 家族信託は受託者に財産の管理処分を委ねる制度であるが、あくまでも委託者と受託者との信託契約に基づくものであり、信頼関係によるものであることから、受託者が契約に反して権限を濫用する可能性がある。 現に家族信託と一部類似する成年後見制度のもとでは、親族である後見人ばかりか、専門家後見人である弁護士や司法書士による横領事例も公表されているという状況がある。 これに対して、家族信託では、誰が、どのような監督権限を持つこととなっており、権限濫用を防ぐことができるか。また、監督権限を強化する方法としてどのようなものがあるかという点について解説する。   2 受益者による監督 まず、信託財産の実質的な権利者である受益者が、受託者に対する監督権限を持つ。 受益者の持つ主な監督権限としては、以下のようなものがある(以下、条文番号はすべて信託法におけるものを指す)。 以上のことから、受益者としては、 ① 受託者からの報告、資料の開示を受けて情報収集し ② 違法で著しい損害が発生する恐れがあれば差止めを求め ③ 権限違反行為等を行っていれば取消しを行い ④ 損害が残るようであれば損害賠償を求め ⑤ それでも不満が残るようであれば委託者と合意の上で解任する といったような監督を行うことができる。 家族信託においても原則的には、受益者がこのような権限を駆使して適正な監督を図ることが予定されている。   3 委託者による監督 上記のとおり、受託者に対する直接的な監督権限は原則的に受益者にあるが、委託者としても信託の目的設定者として信託の目的達成には相応の利害関係を有することから、報告請求権(第36条)、受託者の選解任等(第58条第1項、第62条第1項)に関する権限を有している。 また、信託契約において定めることにより、委託者にも受益者が保有する上記の各監督権限について留保させることができるものとされている(第145条第2項)。 いわゆる親亡き後の子問題(高齢の親の子の心身に障害があるため、その子を保護する必要ある場合)などに関して家族信託を利用する場合、受益者である子に十分な監督能力がないケースも多く、このような場合には委託者である親が監督する必要が認められることもある。   4 付加的な監督権限の付与 (1) 概要 上記のように信託法の原則からすると、受益者や委託者が受託者を監督することとなっているが、家族信託においては元々資産を保有していた者が委託者兼受益者となることが多く、年数の経過とともに判断能力が低下していってしまうことが通常である。 このため、受益者又は委託者だけの監督では不十分なケースが発生することから、外部の第三者に監督権限を委ねる必要性が生じる。 信託法上、第三者に監督権限を委ねるオプションとして、「信託監督人」と「受益者代理人」が存在する。 (2) 信託監督人による監督 信託監督人は、受益者が存在するものの、認知症等により十分な監督機能が果たせない場合に(備えて)選任されるもので、自己の名をもって受託者を監督するものである。 「自己の名をもって」とは、監督権限が受益者や委託者の権限を引き継ぐものではなく、独自の権限を持つものであるとの意味である。 監督権限の範囲は、上記の受益者の権限すべてを含む。 家族信託においては、信託契約において当初より定められることが多いと想定され、弁護士や司法書士等の専門家としての知見を期待されて、これらの者が信託監督人になることも多いものと考えられる。 また、(特に弁護士や司法書士等が信託監督人に就任した場合には)信託監督人に信託財産から一定の報酬が支払われることになっているケースもある(なお、信託業法における規制の範囲外であるため、信託監督人に就任するに当たっては、特段の免許等は不要である)。 (3) 受益者代理人による監督 受益者代理人は、受益者が存在するものの受益者の多数性・変動性等により、意思決定が困難な場合に選任され、受益者を代理(代表)して監督するものである。 受益者代理人は、受益者の代理人として行動する以上、独自の権限ではなく、受益者固有の権限を代理して行使することになる。 監督権限の範囲は、上記の受益者の権限すべてを含むものであることから、監督機能だけを見ると、信託監督人との違いはほとんどない(信託監督人が監督機能だけを有するのに対し、受益者代理人は受益者の権利のほぼ全部を有するという違いがある)。 家族信託において、受益者代理人は不動産の共有化対策(不動産の相続が想定される場合に、不動産を予め信託しておくことにより不動産の持分を相続させるのではなく、受益権を分割して相続させるスキーム)等において、相続発生後の受益者間の意思統一を図るために用いられることがある。 報酬に関しては、信託監督人の場合と同様である。 一部では監督機能を持たせる目的で、受益者代理人に第三者である専門家を選任している例があるようであるが、監督機能を持たせるためとしては権限が大きすぎるように考えられ、慎重な検討が必要であると思われる。   5 まとめ 以上のことから、受託者の監督に関しては ① 受益者が行うことが原則であり ② 受益者が十分に監督を行うことが期待できないスキームの場合には委託者が行い ③ 委託者も難しいような場合には信託監督人又は受益者代理人として(専門家を含めた)外部の第三者に委ねることを検討する ということが基本的な流れであるといえる。 (了)

#No. 209(掲載号)
#荒木 俊和
2017/03/09

〔新規事業を成功に導く〕フィージビリティスタディ10の知恵 【第12回】「公的支援制度を上手く活用するには(後編)」

〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第12回】 (最終回) 「公的支援制度を上手く活用するには(後編)」   中小企業診断士 西田 純   前回は、特に海外でフィージビリティスタディを実施するために役立つ各種公的支援制度のご紹介と、採択確率を上げるためのノウハウについてお伝えしました。最終回の今回は、公的支援制度に採択された後の実施段階で気を付けるべき点についてお伝えします。 *   *   * 日頃の学会活動や自腹を切っての現地調査、現地エージェントとの関係作りなどが奏功し、厚みのある企画書が評価されて無事公的支援制度で採択されたとします。採択される企業(案件)の数は制度によっては2~3社(件)だけという場合もありますし、逆に10社を超える企業からの提案が一度に採択される場合もありますので、採択後の事務手続きは制度によってバラつきがあるようですが、どれも一様に報告書の作成と提出締切スケジュールが最初から決められている、と考えておいて間違いはありません。 この報告書が成果物として扱われるケースが多いですので、それを目指して決められた期間のうちに何度か現地を訪問し、現地でセミナーを開き、短期研修生を日本に受け入れ、さらに事業の実証試験を現地と日本で実施する、というようなプロセスを踏むことになります。 これら活動の記録が最終的には報告書の骨子となるのですが、実施機関との契約交渉もそれを前提に進められます。JICAの案件などでは分厚い契約書が出来上がってきますが、先方にはこれまで数多くの企業と実施してきた知見が溜まっていますので、いったん業務がスタートすれば思いのほか早く書類手続きが進められていきます。 さて契約が無事に整い、いよいよF/S事業の実施が始められるところまで来たとします。これまでお話してきた技術的な知恵に加えて、以下のような点に気を付けてスタートさせると円滑で有意義な事業が実施できると思います。   ▷ 実施機関に「ファン」を作る JICAにしても各省庁にしても、実施機関にはそれぞれ独自の政策課題というものが存在しています。彼らからすれば、公的支援制度を実施することで実現したいゴール、のようなものですが、採択された事業にもさまざまなものがあり、必ずしもすべての案件が上手く政策課題を満足させるというわけではなかったりします。同じ制度で採択した案件でも「良い子・悪い子・普通の子」がいるというわけですね。 最初の評価がどうあれ、事業の実施を通じて最終的には彼らの政策課題に貢献するような流れに持って行ければ、担当者は必ずファンになってくれるのですが、そうすると政策担当者として持っている情報の中から実際の事業展開に役立つような情報を教えてくれるようになったりします。 そのために心がけるべきことは、円滑で密度の濃いコミュニケーションを取る努力、でしょうか。 単に面談するだけでなく、必ずパワーポイントの資料を用意し、それが内部の説明資料などに転用しやすいように配慮する、契約上要求されていなくても、現地調査の前後には必ず短時間報告できる機会を設ける、ウェブサイトを頻繁にチェックし、支援制度や採択案件に近いと思われる情報は把握しておくなどの努力により、「この人は自分たちの事業の意義について理解してくれている」と担当者に思わせることができればしめたものです。   ▷ 実施機関の現地関係者を大事にする 多くの場合、各種支援制度は実施機関の本部(=東京)を中心に運営されており、現地事務所や大使館などにとっては、あくまで進捗を把握しておくだけの対象と認識されている場合が多いようです。 ところがビジネスを進める立場から言えば、F/Sを実施すればそれで終わりというわけではなく、むしろ実際に事業が進み出した後の現地における橋頭堡(きょうとうほ)作りが課題となってくるわけですから、F/S段階とはいえ現地関係者とのチャネルをしっかり作っておくことに越したことはありません。 あまり頻繁に報告に行くのもためらわれるかもしれませんが、プロジェクトリーダーが出張した際には必ず現地事務所を訪問する、など対応のルールを決めておき、たとえ挨拶だけであっても現地のオフィスを訪れ、進捗に関わる報告をしておくことをお勧めします。   ▷ 現地パートナー企業とのチャネルをできるだけ太くする F/S段階を経て実際の事業展開を進めるために何よりも重要なのは、現地パートナー企業との太くて活動的なチャネルを持つことでしょう。公的支援制度を使って調査を実施できることの大きなアドバンテージとして、このチャネル作りにしっかりと時間を使えることが挙げられます。現地での調査活動、セミナー実施、実証試験そして日本への受入研修など、さまざまなフェーズで先方とのチャネルが強化できる機会があるので、ぜひそれらを活用して複合的なチャネルづくりを心掛けてください。 他方で、報告書作成については本連載の1回目から10回目にかけてお話したように、「市場予測」に軸足を置いた「収益予測」を行う中で、「リスク対応策」をしっかり提案し、それを「見える化」できれば報告書の中で「仮説検証」プロセスの結果を伝えやすくなります。そのために重要な「現地調査」を円滑に進めるには、出発前の「事前調査」が重要だということもお伝えしましたね。「社内の立ち位置」にも配慮しつつ、御社の将来にとって有意義な新規事業の提案を進めて行くために、公的支援によるF/S事業は重要な役割を果たします。 提案が採択された暁にはこれらの技術的な視点をしっかり保ちつつ、実施機関とのコネクションを活かして事業推進に役立つフィージビリティスタディを実施されることをお祈りします。 *   *   * さて、これで私のフィージビリティスタディに関するお話はおしまいです。一年間ご愛読いただき、どうもありがとうございました。 (連載了)

#No. 209(掲載号)
#西田 純
2017/03/09
#