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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第14回】「不動産関連の事案」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第14回】 「不動産関連の事案」   公認会計士 佐藤 信祐   前回は、最高裁昭和52年7月12日判決(山菱不動産株式会社事件)について解説を行った。 本稿では、不動産関連で否認された事案として、東京地裁平成元年4月17日判決、福岡地裁平成4年2月20日判決、福岡高裁平成11年11月19日判決についてそれぞれ解説を行う。 9 不動産関連の事案 (1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286) ① 裁判所の判断 ② 評釈 本事件は、原告の所得税の負担を不当に減少させるために、同族会社である不動産管理会社に対して、多額の管理料を支払った行為に対して、同族会社等の行為計算の否認が適用された事件である。 法人税法であれば、同族会社等の行為計算の否認を適用するまでもなく、法人税法37条に規定する寄附金で否認すれば足りるところ、所得税法であるからこそ、同族会社等の行為計算の否認が適用されたのではないかという疑いはある。 たしかに、所得税法の書籍を紐解くと、必要経費に算入することができるか否かの判断として、業務関連性について書かれているものが多いが、対価として相当であるかどうかまで書かれているものはほとんど存在しない。さらに、本事件を受けて、現行法上でも、同族会社等の行為計算の否認が適用されるという見解も存在する。 このように、法人税法に比べて、個別否認規定が適用される対象が狭いという意味で、同族会社等の行為計算の否認が適用される場面が多い可能性は否めないと考えられる。 (2) 福岡地裁平成4年2月20日判決 ① 裁判所の判断 ② 評釈 このように、裁判所は、原告が同族会社に支払った委託料のうち、適正部分を超える部分の金額について、必要経費とは認めなかった。東京地裁平成元年4月17日判決にやや似た判決ではあるが、完全な比準同業者を探すことができないという理由により、個別受託同業者倍率比準方式を採用したという特徴がある。 実務上、完全な比準同業者を探すことができないというのは、課税当局にとっても、適正部分の金額の推定を速やかに行うことができないことから、否認されにくくなる可能性はあり得るものの、実際に適正部分を算定した後は、否認されるリスクの強弱は変わるべきではなく、裁判所の判断は相当であったと考えられる。 さらに、同族会社や親族における法人税又は所得税の増加は、同族会社等の行為計算の否認が適用されるか否かの判断に何ら影響を与えないことが示されており、実務でも参考にすべき判決である。 このような二重課税の問題は、平成18年度税制改正で導入された対応的調整により解決されるべきものであるが、未だ曖昧な部分も多く、本事件のような事案に対して適用されるのか否かについては不透明な部分も多い。この点についても、いずれ本連載において解説を行いたい。 (3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529) ① 原審(福岡地裁平成11年6月29日判決・TAINSコード:Z243-8439)) ② 裁判所の判断 福岡高裁は、福岡地裁の判断をほとんど踏襲している。なお、控訴人が「世上頻繁に行われている」という主張を行っているが、福岡高裁に一蹴されている。 ③ 評釈 本事件は、原告の土地の譲渡に対する譲渡所得を減額するために、事前に同族会社である南原鉄工株式会社に対して地上権を無償で設定させることにより、土地の時価を2,100万円から1,100万円に減額させた事件である。 なお、南原鉄工株式会社は受贈益として1,000万円を益金に算入しており、判決文にはないものの多額の繰越欠損金を有していた可能性がある。 このような、事前の地上権の設定による譲渡所得の減額は、極めて不自然・不合理な行為であり、同族会社等の行為計算の否認が適用されたのはやむを得ないと思われる。 なお、本稿で紹介した事案のほか、酒井克彦著『裁判例からみる法人税法』(大蔵財務協会、平成24年)709-717頁では、借地権に関連する事案につき、法人税法における同族会社等の行為計算の否認が適用された事件がいくつか紹介されているため、興味のある読者は一読されたい。 次回以降では、不当の解釈が争われた事件について解説を行う予定である。 (了)

#No. 168(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/05/12

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第27回】「消費貸借に関する契約書①(利率変更契約書)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第27回】 「消費貸借に関する契約書①(利率変更契約書)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   既に締結している金銭消費貸借契約の利率を変更するため、変更契約書を作成しました。この場合の印紙税の取扱いはどうなるのでしょうか。   記載金額のない第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に該当し、印紙税額は200円となる。 [検討1] 課税文書に該当するか 印紙税法上の契約書とは契約証書、協定書など名称を問わず、契約内容の変更の事実を証明する目的で作成する場合も含まれる。 ただし、印紙税法上の契約書に該当したとしても、基通別表2で定める重要な事項以外の事項を変更するものについて、課税文書に該当しない。 事例の場合は、原契約において確定している利率を変更するものあり、利率は第1号の3文書の重要な事項に該当することから、その変更契約書は、同じく第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に該当する。 [検討2] 現在残元金は、記載金額とはならないか 変更契約時における借入残金の記載がされていたとしても、その金額は原契約の契約金額を変更するものではないため、記載金額とはならない。 [検討3] 保証人については13号文書(債務の保証に関する契約書)に該当しないか 第13号文書の債務の保証に関する契約書は、主たる債務の契約書に併記したものは除くこととされている。事例の保証人の事項は主たる債務の契約書に併記したものであるため、第13号文書には該当しない。   ▷ まとめ   (了)

#No. 168(掲載号)
#山端 美德
2016/05/12

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第13回】「未登記新築建物固定資産税等賦課事件」~最判平成26年9月25日(民集68巻7号722頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第13回】 「未登記新築建物固定資産税等賦課事件」 ~最判平成26年9月25日(民集68巻7号722頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 168(掲載号)
#菊田 雅裕
2016/05/12

金融商品会計を学ぶ 【第20回】「ヘッジ会計①」

金融商品会計を学ぶ 【第20回】 「ヘッジ会計①」   公認会計士 阿部 光成   「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ ヘッジ会計とは ヘッジ会計を理解するには、①ヘッジ会計、②ヘッジ取引、③ヘッジ会計の方法について整理する必要である。 また、ヘッジ対象とヘッジ手段の関係について理解することも重要である。 1 ヘッジ会計の意義 金融商品会計基準は、ヘッジ会計とヘッジ取引を次のように定義している(金融商品会計基準29項、96項)。 ヘッジ対象とヘッジ手段の基本的な関係をイメージで表すと次のようになる。 ヘッジ対象とヘッジ手段の関係のミスマッチ、すなわち、ヘッジ対象に係る相場変動等が損益に反映されず、一方、ヘッジ手段であるデリバティブ取引を時価評価して損益を認識するとした場合には、両者の損益が期間的に合理的に対応しなくなり、ヘッジ対象の相場変動等による損失の可能性がヘッジ手段によってカバーされているという経済的実態が財務諸表に反映されなくなってしまう(金融商品会計基準97項)。 そこで、ヘッジ会計が規定されており、ヘッジ対象及びヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を財務諸表に反映させる方法が認められている(金融商品会計基準97項)。 2 ヘッジ取引 前述のとおり、ヘッジ取引は金融商品会計基準96項で定義されているが、ヘッジ取引には①公正価値ヘッジと②キャッシュ・フロー・ヘッジがある(金融商品実務指針141項。伊藤眞、荻原正佳編著『改訂8版 金融商品会計の完全解説』(財経詳報社、平成21年7月)303ページ)。 3 ヘッジ会計の方法 ヘッジ会計の方法には、①繰延ヘッジ会計、②時価ヘッジ会計、③合成商品会計の3つがある(伊藤眞、荻原正佳編著『改訂8版 金融商品会計の完全解説』(財経詳報社、平成21年7月)303~304ページ)。   Ⅱ ヘッジ手段とヘッジ対象 企業は一般的に市場リスク、すなわち、事業活動に伴う為替変動、金利変動、価格変動のリスクにさらされている。 ヘッジ会計を適用するためには、ヘッジ対象のリスクを明確にし、これらのリスクに対していかなるヘッジ手段を用いるかを明確にする必要がある(金融商品実務指針143項(1))。 ヘッジ手段とヘッジ対象の関係としては次のものが考えられる(金融商品実務指針143項(1))。 (了)

#No. 168(掲載号)
#阿部 光成
2016/05/12

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第114回】退職給付会計⑧「複数事業主制度」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第114回】 退職給付会計⑧ 「複数事業主制度」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     〈解 説〉   1 複数事業主制度とは 複数事業主制度とは、複数の事業主が共同して1つの企業年金制度を設立する場合をいい、連合設立型厚生年金基金、総合設立型厚生年金基金及び共同で設立された確定給付企業年金制度等がこれに該当します(退職給付に関する会計基準(以下「会計基準」)第33項、退職給付に関する会計基準の適用指針(以下「適用指針」)第118項)。   2 複数事業主制度の会計処理 複数事業主制度の場合、年金資産を事業主ごとに運用しておらず一括で運用しているため、事業主ごとの年金資産の残高を把握できません。ただし、複数事業主制度は確定給付型の企業年金制度であるため、年金資産等についても合理的な基準により按分できるのであれば、合理的な基準により按分して退職給付費用及び退職給付引当金(退職給付に係る負債)を計上することが望まれます。 そこで、会計基準は自社の負担に属する年金資産の額を合理的に計算できるか否かによって会計処理を定めています。 自社の負担に属する年金資産の額を計算するための合理的な基準としては、次のようなものが考えられます(適用指針第63項)。 例えば、制度全体の掛金累計額が120百万円で、A社の掛金累計額が20百万円であれば、A社の負担に属する年金資産の額は次のように計算されます。 このように計算された自社の負担に属する年金資産の額を用いて、確定給付制度の会計処理を行います。 しかし、実務的には標準掛金等は相互共済的に一律で定められていることが通例であり、また、事業主ごとに未償却過去勤務債務に係る掛金率や掛金負担割合等の定めがなく、全企業に対し掛金が一律に決められていることもあります。 このような場合、上記に示したような自社負担分の合理的な計算ができないため、確定拠出制度に準じた会計処理を行い、当該制度に基づく要拠出額を当期の費用として処理することとなります。   3 複数事業主制度に関する注記 複数事業主制度において確定給付制度の会計処理を行う場合は、注記に関しても確定給付制度で求められている注記を行います(会計基準第33項(1))。 一方、複数事業主制度において確定拠出制度に準じた会計処理を行う場合は、次の2つに関する注記を行います(会計基準第33項(2))。 ②は将来の負担額の見込みに関する目安を開示するために求められているもので、これにより、年金制度全体の財政状況が悪化している状況下で当該制度から脱退等した場合に、事業主にどれだけの費用負担があるか等の予測に資する情報を開示することが可能となります。 具体的には次のような注記を有価証券報告書に行います。 (了) ※6月は引当金を取り上げます。 

#No. 168(掲載号)
#竹本 泰明
2016/05/12

会社法施行後10年経過に関する「役員変更登記」の実務 【第1回】「役員の任期管理を放置した場合のリスク」

会社法施行後10年経過に関する 「役員変更登記」の実務 【第1回】 「役員の任期管理を放置した場合のリスク」   司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹     役員の任期管理を怠る不利益とは 役員の任期が適切に管理されていれば、任期満了に伴って改選決議を行い、その役員変更登記手続を行うことになる。しかし、任期管理を怠ると、役員の任期満了の時期を把握することができず、改選決議や役員変更登記手続に着手できない。一定の期間登記手続をしないと、会社は思わぬ不利益を被ってしまうことになる。 以下は、事業活動を継続する株式会社を対象として、株式会社の役員の任期管理を放置するとどのような事態となるかを考察してみたい。   〈ステージ①〉 過料制裁のおそれ 登記期間は、原則として登記事項に変更の事由が発生してから2週間以内である(会社法915条)。例えば、取締役の任期満了による変更登記の場合、任期満了日から2週間以内に登記手続を行う必要がある。期間を遵守しなかった場合には過料に処せられるおそれが生じる(会社法976条1号)。 登記官が過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときには、遅滞なくその事件を管轄裁判所に通知する(商業登記規則118条)。管轄裁判所は、会社の本店所在場所ではなく、登記記録上の代表者個人の住所地である(非訴訟事件手続法119条)。複数の代表者がいる場合には、各代表者の住所地を管轄する地方裁判所に通知する。管轄裁判所からは会社代表者の住所地に過料通知がなされる。 一般的に、登記期間を徒過する期間が長ければ長いほど過料に処せられる可能性が高まり、過料の金額も大きくなる傾向にあるが、その期間や金額の基準は明らかにされていない。なお、過料には時効がないため、登記申請義務を果たさない限り、過料の制裁から逃れることができない。   〈ステージ②〉 みなし解散による事業継続の危機 毎年1回、法務大臣より、株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過した株式会社を対象に、2ヶ月以内に「まだ事業を廃止していない旨の届出」がなく、登記手続もされないときには、解散したものとみなされる旨の公告がなされる。あわせて本店所在場所を管轄する登記所から法務大臣による官報公告が行われた旨の通知が送付される。 2ヶ月の期間内に登記所に「まだ事業を廃止していない旨の届出」をするか、又は登記手続をしない限り、登記官の職権によりみなし解散の登記がなされる(会社法472条)。「12年」の年数は、株式会社にあっては、役員の任期を最長の10年に伸長したとしても少なくとも10年に1回は登記手続をしなければならないことに起因する。 なお、登記所からの通知は、登記記録上の本店所在場所に「普通郵便」でなされる。対面受取ではないため、他の郵便物と紛れてしまうなど、見過ごすおそれがある。また、当該通知が何らかの理由で届かない場合であっても、不着を理由に届出期間の伸長はされない。 特に登記記録上の本店所在場所が実際の本店機能を備える場所と異なっている場合には、郵便物の管理に注意を要する。 一方で、「まだ事業を廃止していない旨の届出」をし、又は役員変更等の登記手続をした株式会社については、みなし解散を回避できるが、登記官が裁判所に過料事件の通知をすることとなるため、過料の制裁は免れない(商業登記規則第118条)。   〈ステージ③〉 会社継続の是非 みなし解散の登記がなされたが、事業を継続する場合には、みなし解散の登記後3年以内に限り、株主総会の特別決議によって、会社を継続することができる(会社法473条)。 ただし、会社継続をしても、将来に向かって会社を解散前の状態に復帰させるのであって、みなし解散の経過は登記記録に残ることになる。また、解散前の取締役が当然に復帰するわけではなく、会社継続を決議する株主総会において取締役を選任しなおさなければならない。 一方で、みなし解散後3年経過すると、会社継続さえもできなくなるため、清算に関する範囲を超えて事業活動をすることができなくなる。   まずは役員の任期の確認を 以上のとおり、適法な時期に適法な登記手続をしない期間が経過すればするほど、過料の負担や登記記録上の公示上の問題、会社の事業活動が制限されるといった様々な不都合が生じる。 特に任期を伸長して前回の登記手続から日が経っている株式会社は、自社の役員の任期が満了する時期がいつであるのか、それともすでに役員の任期が満了しており、改選とその登記手続をする必要があるのかを確認すべきである。 もし役員の任期が満了し、改選とその登記手続を行う場合、会社法・商業登記規則の改正による事項もあわせて検討する必要がある。 次回(5/19公開)は、自社で行う役員改選の登記のポイントについて確認していく。 (了)

#No. 168(掲載号)
#本橋 寛樹
2016/05/12

〔誤解しやすい〕各種法人の法制度と税務・会計上の留意点 【第2回】「一般財団法人」

〔誤解しやすい〕 各種法人の法制度と 税務・会計上の留意点 【第2回】 「一般財団法人」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 公認会計士・税理士 濱田 康宏   ▷ 法制度について 1 一般財団法人とは 一般財団法人は、一般社団法人と同じく「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下、「一般法人法」という)の規定に基づき設立された、構成員に対して剰余金または残余財産を分配しないという性質を有する非営利の財団法人である。 一般財団法人には構成員となる社員が存在しないため、ここでいう非営利とは、設立者に対して利益を分配しないことを意味する。 一般財団法人が、「公益社団法人及び公益財団法人の認定に関する法律」(以下、「認定法」という)に基づき公益認定を受けると、公益財団法人となる。これは前回取り上げた一般社団法人と公益社団法人の関係と同様である。   2 一般財団法人誕生の背景 一般財団法人は、一般社団法人と同じく、いわゆる公益法人制度改革によって、誕生した法人である。一般社団法人と同様に、平成25(2013) 年11月30日までの移行期間の間に、定款を一般法人法に合致するものに変更したうえで、認定法の要件を満たして公益財団法人に移行する認定を受けるか、公益認定を受けずに一般財団法人へ移行する認可を受けなければ、移行期間満了と同時に解散となることとされた。 つまり現在存在する一般財団法人には、従来の民法法人が一般財団法人化した法人と一般法人法に基づき新規に設立された法人が存在する。   3 準則主義 一般財団法人は、一般社団法人と同じく、登記によって成立する(一般法人法163条)。設立自体に許認可が必要となるのではない。 主な流れは次のとおりである。 なお、一般財団法人は遺言により設立することができる。遺言者が遺言に定款の内容を記載し、遺言の効力が生じた後に遺言執行者がこれを定款にした上で認証を受けることになる(一般法人法152条2項)。一般財団法人の目的は、一般社団法人と同様に、法令上特に制限はない。 一般財団法人の設立に際して、設立者が拠出する財産の最低限度額は300万円を下回ってはならないとされている(一般法人法153条2項)。 設立後においても純資産額300万円を維持しなければならず、2期連続で純資産額300万円を下回った場合には、解散することとなる(一般法人法202条2項)。 なお、一般財団法人には「基本財産」という概念があるが(一般法人法172条2項)、これは一般財団法人が事業を行うために不可欠なものとして任意に定款に定めるものである。設立時に拠出された財産や存続のために確保すべき純資産が当然に「基本財産」に該当するものではない。   4 定款の変更 一般財団法人は、評議員会の決議によって、設立後に定款を変更することができる。ただし、一般財団法人の目的と評議員の選任、解任の決議については原則として変更できない(一般法人法200条1項)。社員総会の決議があれば、特に制限なく定款変更が可能な一般社団法人とは異なる特徴である(一般法人法146条)。 これは、一般財団法人が遺言でも設立可能とされていることに見てとれるように、設立者の死後においても一般財団法人が存続することが想定されていることと関連する。 つまり、設立者の設立当初の意思が永年にわたり維持されるために、設立の目的や運営を支える評議員に関する定めは容易に変更できないこととされているのである。   5 機関構成 一般財団法人の場合、(ⅰ)評議員3人、(ⅱ)すべての評議員で組織する評議員会、(ⅲ)理事3人、(ⅳ)すべての理事で組織する理事会、(ⅴ)監事1人が最低限必要な機関である(一般法人法170条1項)。 一般財団法人は、構成員が存在しないため、より厳密な管理体制を置くことが必要であるから、一般社団法人のように簡素な機関設計を採用することはできない。 定款の定めにより、会計監査人を設置することができる(一般法人法170条2項)。最終の事業年度の貸借対照表上の負債の部の計上額が200億円以上である大規模一般財団法人(一般法人法2条3号)は、会計監査人を設置しなければならない(一般法人法171条)。 一般財団法人の理事および監事は、評議員会の決議により選任され(一般法人法177条・63条)、評議員は設立者が定款に定めた方法によって選任される(一般法人法200条1項ただし書)。これらの者の任期は、おおむね理事が2年、監事が4年、評議員が4年、会計監査人が1年である(一般法人法177条・66条・67条1項・69条1項・174条)。会計監査人には、みなし再任規定の適用がある(一般法人法177条・69条2項)。 設立に最低限2人存在すれば設立可能な一般社団法人と比較すると、一般財団法人は設立に際して、財産の拠出も必要であり、多くの人員を必要とする。実務的な実感としては、資産管理法人のように私的な法人として活用するような場合には、一般社団法人を選択することが多い印象がある。 一般財団法人は、奨学金制度のように財産額も多額で、設立者の死後においても厳格に財産の運用をさせたい場合には向いているといえる。   ▷ 税務・会計について 1 一般社団法人と一般財団法人の処理は基本的に同じ 一般社団法人と一般財団法人の会計・税務の処理は、基本同様である。 違いは2点であり、1つは、基金制度が存在しないことである。基金制度は、一般社団法人においてのみ、定款で設定可能とされたものである。 もう1つの違いは、公益法人会計に準拠している場合に生じる基本財産の表示である。つまり、一般社団法人には存在しない基本財産を、定款で定めた場合には、これを貸借対照表上で区別することが要求されている。 これら以外は、特に大きな処理の違いはない。前回の一般社団法人における説明を参照していただきたい。   2 税務(法人税) 一般社団法人の回で説明した通り、公益認定を受けた場合あるいは非営利型法人に該当すれば、法人税では、34業種の収益事業課税のみが行われることになる。この非営利型法人は、特別の利益供与を受けないことや理事の同族3分の1以下要件などが求められている。規制されているのは、あくまでも理事であり、社員や評議員の数については、税務上の規制がない。 非営利型法人は、さらに、その内容が、「公益法人の卵」というべき非営利徹底型法人と、一般的な共益型組織を念頭に置いた共益型法人の2通りに分けられる。その際に求められる要件は、共通する部分と、若干異なる部分がある。 実務的に注意すべきは、定款に定めるべきあるいは定めた内容によって、要件に該当するしないの違いが生じることである。 例えば、非営利徹底型の場合には、法人税法施行令3条1項にあるように、剰余金の分配を行わない旨や残余財産帰属先の定めが必要になる。その上で、残余財産帰属先は、国・地方公共団体・公益認定を受けた一般社団法人あるいは一般財団法人であることを明記する必要がある。 これに対して、共益型の場合には、同条2項で求められる要件を充たすことになるが、非営利徹底型と異なり、剰余金の分配を行う定めが定款にないことなどを求めている。定款に記載していなければダメではなく、定款で特定の内容を記載していないことを求めているのである。 共益型の場合には、さらに注意すべき点がいくつかある。共益目的であることや、収益事業を主にしていないことなどは当然である。 最も注意すべきは、会費負担額の決議を社員総会もしくは評議員会の決議により定める旨を定款に書き込む必要がある点である。 インターネット上で、各法人の定款を検索すると、社員総会・評議員会の決議ではなく、理事会決議によるとしているものが多数見受けられる。これは、共益型の要件を充たさないことになり、非営利徹底型に該当しない限り、非営利型法人には該当しないことになる。その結果、法人税法においては、普通法人として、34業種の収益事業に限られず、株式会社同様に、全所得課税の法人となる。 一般社団法人・一般財団法人の定款ひな形として、会費負担額の決議を理事会決議としているものが広く出回っているようなので、法人設立時には特に注意されたい。 なお、上述の通り一般財団法人の場合、理事数3名以上は必須であるが、一般社団法人の場合は前回述べたように、理事数1名の法人設立も可能となる。ただしこの場合、当初から、非営利型法人になることはあり得ず、普通法人となる。この点も法人設立時に関係者が注意すべき点である。 (了)

#No. 168(掲載号)
#北詰 健太郎、濱田 康宏
2016/05/12

〔新規事業を成功に導く〕フィージビリティスタディ10の知恵 【第2回】「検証プロセスのツボと勘所はこれだ!」

〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第2回】 「検証プロセスのツボと勘所はこれだ!」   中小企業診断士 西田 純   前回は、フィージビリティスタディ(F/S)とはビジネスにおける「仮説→検証」プロセスである、ということをお伝えしたうえで、仮説作りには外部から得られた「情報」に加えて、担当者がひねり出した「アイディア」が重要であることをお伝えしました。 今回は検証プロセス、すなわち「事前調査→現地調査→フォローアップ」と続く作業に臨むうえで重要なポイントをお伝えしたいと思います。 【F/Sの流れ】(再掲)   ▷ 検証とは、仮説の実現性が十分高いことを証明するための裏付け取りのことである F/Sにおいて、最終的には儲かるストーリー建てになっているはずの「仮説」ですが、「検証」プロセスを経ていない段階では、その確度が証明されていない、言わば願望に近い要素が多分に含まれています。 「検証」プロセスでは、事実関係の洗い出しや競争環境の調査、許認可の必要性や適用される規制の確認、潜在するリスクの算定などの作業を通じて、「仮説」に盛り込まれたストーリーが実現性の高いものであることを確認していきます。また、そうでない部分については捨象したり、修正したりすることでストーリーの実現性を担保します。 「検証」プロセスの特徴的な要素は、何と言っても出張などを通じた「現地調査」ですが、これに先立つ「事前調査」を手始めに、段階的に仮説の裏付け取りを進めていくことになります。 出張したところ、最初の仮説作りでは思いもよらなかった規制の存在に遭遇し、シナリオの書き換えを余儀なくされることも珍しくはありません。シナリオが変われば、当然のように数字も変わってきます。「検証」プロセスではこの仮説(数字)と裏付け取りの作業を綿密に行うことによって、シナリオの妥当性を高めてゆくことになります(現地調査を数回にわたって実施することも珍しくありません)。 結果として、新規事業が十分な収益をもたらす可能性が高いことを説明できれば良いのです。これについては「現地調査」が終わった後の「フォローアップ」段階までに収集する追加情報なども合わせて確かめることになります。 ▷ 仮説をはっきりと把握する 調査する段階で、どのような仮説を証明しようとしているのかをしっかり意識してデータ収集を行うべきことは言うまでもありません。ここを間違えると、必要なデータを集められなかった等の理由による再調査などが発生し、コスト・工期の両面から不要な負荷を負うことになります。 民間企業の場合、仮説のまとめ方としては、例えば などのようなパターンがあります。 チームとして共有しやすいまとめ方を使い、調査期間を通じてチーム内で理解にズレが出ないよう仮説を把握することに努めてください。 仮説についての理解がブレると、不要なものを含めてとにかく全てのデータを一式揃えればよいというように、本来は裏付け情報を得るための「手段」であったはずのデータ収集プロセス自体がいつのまにか「目的」と化してしまうといった潜在的な不具合が生じます(手段の目的化) 。そうなると処理する情報の精度が下がり、無駄な処理対象ばかり増えて時間や手間ばかりかかってしまい成果品作りがおろそかになる等、F/Sそのものの質を下げてしまいかねません。 仮説をしっかり把握して、効率的な情報収集・処理が行えるよう心がけてください。 ▷ フォローアップのために 「現地調査」を経て、成果品作りにかかる段階では、入手した情報が十分なのかどうか確認する手続きがあります。これが現地調査後の「フォローアップ」で、現地で聞き漏らした話や集めきれなかった情報を、メールや電話などを頼りに追加的に収集することになります。 通常のF/Sプロジェクトでは、「現地調査」をそう何度も実施できるわけではないので、「事前調査」の段階で調べるべき情報を確認したら「現地調査」においては拾い漏れのない情報収集を心がけることが重要です。「事前調査」の段階で、調査項目のチェックリストなどを作成しておくと良いでしょう。 *   *   * 次回は「検証しやすい仮説の作り方」として、前回お伝えした仮説作りの具体的な取り組み手順に焦点を当てます。 (了)

#No. 168(掲載号)
#西田 純
2016/05/12

税理士ができる『中小企業の資金調達』支援実務 【第19回】「資金調達支援ノウハウの応用(その1)」~経営改善コンサルにも応用~

税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第19回】 「資金調達支援ノウハウの応用(その1)」 ~経営改善コンサルにも応用~   公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆   前回述べた、事業計画と実績の差異を比較検討し、経営改善につなげる方法は、資金調達時に限らず実施できる。事業計画書は、売上と利益の目標値である。目標と実績を比較検討し、「なぜ目標を達成できなかったのか」、「なぜ目標を達成できたのか」振り返ることで、コツコツと経営改善を進めることができる。 この経営改善の方法を支援することで、税理士は経営コンサルタントとしての役割を果たすことができる。会社との関係を一層密にすることができる。 以下、事業計画書の作成から、経営改善コンサルの流れを説明していく。   事業計画書は期首に作成 一般に、税理士は決算後2ヶ月以内に税務申告書を作成し、社長に報告を行う。その際、決算処理や実績について社長に説明し、翌期の見込みを伺う。小規模企業が事業計画書を作成するタイミングは、この決算報告時=新事業年度期首が良い。本来は、新事業年度が始まる前に作成するのが理想であるけれども、決算申告前は社長も税理士もバタバタしていて余裕のないことが多い。決算後、当期実績を見ながら、翌期事業計画について話し合うのが効率的である。 作り方として、税理士と一緒に年間事業計画書と月次事業計画書を作成するのか、社長がまず一通り作成して、税理士が内容をチェックするのか、相手の要望に合わせて対応する。 事業計画書を作るのが面倒臭い、自分の頭の中にあれば十分というタイプの社長もいる。その場合、筆者はどうするかというと、無理に作らせるようなことはしない。社長自身にその意思がないのに作成しても、結局、活用されずに終わるからである。しかし、その場合でも年間目標売上、利益だけ教えてもらい、筆者の側で勝手に月次事業計画書を作ってしまう。例えば、「前期の1.2倍の売上を目標にしたい」と社長が言ったのであれば、その形の年間事業計画書および月次事業計画書をざっくり作成しておく。社長には特に見せず、売上に関して話をする機会があった時に触れる程度にしておく。社長から「計画数値を参考にしたい」と言われた時にはそれを提供する。   月次事業計画を具体的な行動計画に落とし込む 計画を設定しても、眺めているだけでは、いつまでたっても実現されない。実現するためには、いつ、どこで、だれが、何を、どのように行動するのか、具体的な行動計画を策定する必要がある。金融機関に提出する事業計画書と同様である。具体的な行動計画は、金融機関に対しては事業計画書の説得力を増す効果があり、会社内部に対しては、その実行可能性を高める効果がある。 抽象的な数値計画を作成して、そこで終わってしまう社長は多い。税理士が、さらに突っ込んだ質問を行うことによって、具体的な行動計画の策定を支援できる。 例えば、飲食店がひと月売上目標を100万円に設定したとすると、ひと月25日で1日売上目標は4万円。客単価が1,000円であれば、1日客数目標は40人となる。現在の1日客数実績が30人前後だとすると、10人増やす必要がある。そのためにはどうするのか、新規客を増やすのか、リピート客を増やすのか、新規を増やすには、いつ、誰が、どこで、何を、どのように広告宣伝活動を行うのか。リピートを増やすのであれば、既存客への広告宣伝をどのように具体的に強化するのか、新メニューを開発して飽きがこないようにするのか。メニューを開発するのであれば、いつ、どこで、誰が、何を、どのように開発するのか、計画を立ててもらう。 小売ではなく、法人取引が多い企業の場合だと、年間で最低、何件の新規客を獲得すれば年間売上目標を達成できるのか、これまでの成約率を元にすると、毎月何件の新規営業を行う必要があるのか、いつ、誰が、どこで、何を、どのように営業を行うのか、細かく計画を落とし込んでもらう。営業担当の従業員がいる企業であれば、各人の営業計画、目標が設定されることになるだろう。 月次計画を行動計画に落とし込む中で、計画目標数値が現実的に達成できない、無理な数字だと気付く場合がある。あまりにも現実離れした目標は、それに向けて行動する意欲を削いでしまう。その場合は年間事業計画から見直す。 具体的な行動計画は全て文書化しておく。後日、計画通りに進んでいるのか、進んでいないのかを振り返り、チェックするためである。   毎月の実績集計、月次決算 会社は合計残高試算表を作成して毎月の実績を把握し、月次事業計画及び行動計画と比較する。この流れのとおり、計画と実績を比較検討するには、まず、実績が迅速に、かつ計画と比較できる形で集計されなければならない。 税理士はこの実績集計=月次決算について支援することができる。実績集計および比較検討は翌月10日までに完了するスケジュールが望ましい。それが遅れると経営意思決定も遅れ、機会費用が発生するからである。スケジュールが10日に間に合わない場合、税理士は月次決算迅速化について助言する。現金勘定の廃止や棚卸方法の見直し、概算計上による迅速化、補助科目の整理、会計データの効率的な収集等、経理面の支援を行う。 税理士による記帳代行、実績集計業務は将来、AI、ロボットによる自動化によって消滅するといわれているけれども、現状、会社社長が正確かつ迅速な実績集計をストレス無く行いたいというのであれば、会計の専門家と分担協力するのが効率的である。 筆者の場合、毎月の実績集計は現金主義をベースとし、月末に月次決算整理仕訳を切ることで、発生主義に変換している。具体的な流れは次の通りである。 現金主義情報=現預金の入出金情報は、会社側でエクセルを使って日々作成してもらう。現預金の動きの通りにプラスマイナスするだけなので、複式簿記の知識が無くても作成できる。翌月初に、現金主義によるエクセル出納帳と一緒に、月末時点の売掛金、買掛金、棚卸資産情報を会社から教えてもらう。これらを会計システムに入力して、発生主義による実績とする。 会計知識を持つ人材を有しない小規模零細企業には、この方法が一番分かりやすく、迅速である。社長、会社側としてもエクセル出納帳の作成を通じて入出金の内容を確認できる利点がある。 いわゆるクラウド会計と呼ばれるソフトによって、税理士による実績集計業務は代替されると一時期騒がれていたけれども、そのような状況にはならない。いわゆるクラウド会計では、預金の入出金情報は自動集計されるけれども、現金の入出金情報は集計されないし、発生主義への変換には、どうしても簿記の知識が必要になるからである。 「入出金情報から全自動で帳簿を作れる」という売り込み文句も、絶対に実行不可能であるし、この主張は現金主義から発生主義に発展してきた会計の歴史に反する。会計ソフトと呼べる代物ではなく、単なる預金明細集計ソフトというべきである。 費用収益対応原則の下、会計情報を経営改善に活かしたいと考える小規模零細企業にとっては、会計の専門家と協力した方が効率的である。   計画と実績を比較検討 実績集計の後、会社は計画と実績を比較検討し、それに基づいて経営意思決定を行う。社長や役員、従業員は前月実績を振り返り、計画通りに進んだのか、進まなかったのか、その原因は何か、次の目標に向けてどのように行動すればいいのか、話し合う。 この話し合いの中で、税理士は司会進行役として参加することができる。当事者同士の意見交換を促し、会社としての意思決定がスムーズに行えるように働きかける。司会進行役は慣れないと大変だけれども、ノウハウ本もあるので、機会があれば一度やってみると良い。 「従業員には会計情報を見せたくない」という社長も多いので、その場合は、社長と別途、1対1で振り返りを行っても良い。税理士からの質問に回答することによって考えが整理できるだろうし、報酬を頂いているスポンサー社長に対して存在感を示すことができる。 税理士はあくまで部外者であり、会社経営について考える主体は社長や役員、従業員である。彼らの知恵を引き出す役割に徹するべきである。一歩踏み込んで、具体的な提案をすることは避ける。例えば、「品揃えを見直した方が良い」、「A社に営業に行った方が良い」、「客導線に問題がある」、「席の配置を変えるべきである」等である。事業経験のない会計屋が思いつきで提案しても、全くの的外れであるか、会社側で検討済みである場合がほとんどである。適当な発言は、逆に信用を失うので控える。   議事録という形でメモを残し、次回比較時に進捗を確認 実績と計画の比較検討内容は、毎回、議事録という形で残しておく。計画の進捗状況を把握できるし、いつ、どこで、誰が、何を、どのように行動するのか文書に残しておくことで責任関係が明確になるからである。計画の実行可能性も高まる。税理士が議事録を作成して、社長に提出すれば、ここでも存在感を示すことができる。 議事録は、経営以外の打ち合わせメモとしても利用できる。筆者の場合、会計税務の相談があった場合、それも記入している。自身の備忘記録になるし、社長側も相談内容を放置されない安心感がある。「言った、言わない」トラブルになった場合の防護壁にもなる。   以下繰り返し 上記の流れを毎月、毎年繰り返す。【第1回】で「存在感をアピールしようと毎月訪問してはみても、何を話せば良いか分からない」と悩む税理士は多いという話をした。事業計画書の活用は、その解決策の1つになると思う。迅速な月次決算、計画と実績の比較検討を支援することによって、社長に存在感を示す機会は増える。信頼関係の構築につながる。 *   *   * 以上、資金調達ノウハウの応用として、事業計画と実績を比較し、経営改善につなげる方法および税理士の関与の仕方について解説した。これは業種や規模に関係なく、すべての会社に導入できる方法である。 しかし、冒頭で述べた通り、社長のタイプは様々であるから、この方法を提案しても全ての会社に受け入れられるとは限らない。業績が順調な会社は反応が薄いだろうし、強烈なワンマン社長にはいくら提案しても無駄である。その場合は、別のサービスを提供することで存在感を示すか、もしくは既存顧客の満足度向上という発想を変える。満足度は現状維持とし、「この顧客との契約は、いつか解除される」という前提で、余力を新規客獲得のための営業活動に集中した方が良いかもしれない。既存顧客の維持のみで会計事務所経営継続を図るのには限界がある。 *   *   * 次回は、「資金調達支援ノウハウの応用(その2)」として、助成金や補助金申請支援に活用する方法について述べる。 (了)

#No. 168(掲載号)
#西田 恭隆
2016/05/12

〈小説〉『資産課税第三部門にて。』 【第8話】「相続時精算課税の税務調査」

〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第8話】 「相続時精算課税の税務調査」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「谷垣くん・・・どうだった?」 田中統括官は税務調査から帰ってきた谷垣調査官に声をかけた。 「ええ・・・」 谷垣調査官は黒いカバンを机に置くと、田中統括官の机へ向かった。 「実は、贈与の漏れを発見したのですが・・・」 「贈与の漏れ?」 田中統括官は谷垣調査官の顔を見て尋ねる。 「被相続人は、いくら相続人に贈与していたんだ?」 「・・・1億円です。」 「えっ・・・1億円・・・」田中統括官は、もう一度谷垣調査官の顔を見た。 「はい、1億円です。」 谷垣調査官は大きな声で答えた。 「どんな調査をして発見したんだ?」 田中統括官は疑わしそうな眼差しで谷垣調査官を見ている。 「金庫の中に相続人の昔の預金通帳がありまして・・・それを見ると、被相続人から1億円が振り込まれていたのです。」 谷垣調査官は涼しそうな声で答える。 「・・・昔の通帳?」 田中統括官は首を傾げる。 「ええ、8年前の通帳です。」 谷垣調査官が答える。 「8年前だって?」 田中統括官は哀れむような眼差しで谷垣調査官に質問した。 「君は・・・贈与税の除斥期間を知っているよな?」 「もちろんです。6年でしょう。」 谷垣調査官は不思議そうな顔をして答えた。 「8年前の贈与だったら、課税できないんじゃないのか?」 田中統括官は少し怒りを含んだような声で言う。 「統括官。ご存じのように私は、大山達郎という被相続人の、相続税の税務調査に行っていたのですよ。」 谷垣調査官の声が大きくなる。 「そうか・・・そうだったな。」 田中統括官は大きくうなずいた。 「そして統括官、被相続人の長男は10年前に相続時精算課税制度を適用していたのです。・・・これだけ言えば、私が何を言いたいのか、お分かりですよね。」 谷垣調査官はまわりくどい表現をする。 「もちろんだ。」 田中統括官は、谷垣調査官の言葉にうなずく。 「たとえ8年前の贈与であっても、一旦、相続時精算課税の選択をした場合、相続税の計算において、特定贈与者からの贈与は、相続財産に加算しなければならない・・・」 谷垣調査官は、言葉を続ける。 「これに関しては相続税法の基本通達に明記されていたと思います。」 谷垣調査官はそう言って、ロッカーから通達集を取り出した。 「相続税法基本通達21の15-1ですね。」 谷垣調査官はその通達を読み始めた。 「この通達でも示しているように、相続時精算課税を選択した場合、その後の贈与について、贈与税を課されているかどうかを問わないということですから、たとえ贈与税の申告が洩れていたとしても、相続税で課税されます。」 谷垣調査官の声が、2人しかいない資産課税第三部門に響く。 「・・・まあ、それにしても、谷垣君。1億円の増差金額って、大きいな。」 田中統括官は腕を組んで感心している。 「はあ・・・しかし、この件について、まだご説明していない事項がありまして・・・」 谷垣調査官はチラッと田中統括官を見て言った。 「このケース・・・相続人が5人いまして・・・それで被相続人がそれぞれに2,000万円ずつ贈与していたのです。」 谷垣調査官は少しバツの悪そうな表情になる。 「それがどうしたんだ?」 田中統括官が問いつめる。 「ええ・・・相続人5人のうち相続時精算課税を選択していたのは長男のみで、他の相続人は選択していないのです・・・」 谷垣調査官の声が徐々に小さくなる。 「ということは、2,000万円が相続財産に加算されるということか。それでも増差金額は出るだろう?」 田中統括官の問いに、谷垣調査官は首を横に振った。 「いえ・・・今回の税務調査で申告漏れの贈与財産を発見したのですが・・・同時に、被相続人を債務者とする5,000万円の借用証書を金庫の中で発見してしまって・・・。それで結局は減額更正を行って、税金を返さなければならないという状況でして・・・」 そう言うと谷垣調査官は、申し訳なさそうに頭を垂れた。 (つづく)

#No. 168(掲載号)
#八ッ尾 順一
2016/05/12
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