会社法施行後10年経過に関する 「役員変更登記」の実務 【第2回】 「役員任期の確認方法と任期計算のポイント」 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 前回は役員の任期管理を怠った場合に被る不利益について、3つのステージに分けて確認した。今回は役員任期の確認方法や事例を使った任期計算など、自社で行う役員改選の登記のポイントについて確認したい。 主な確認事項 役員の任期満了時期は「①登記記録」、「②株主総会議事録」、「③定款」によって確認する。 ① 登記記録 役員が誰であるのか、及び、役員の就任日を把握する。 【役員に関する事項:登記記録例】 登記記録としては、それぞれの役員につき上段と下段の2欄があるが、上段が任期計算の資料となる「就任」又は「重任」の年月日となる。任期計算の起算点は「選任時」であるため、登記記録上、選任日を確認することはできないが、選任決議の株主総会で席上就任している等、選任日と就任日が同一であることが多い。 厳密には、選任決議をした株主総会議事録を参照することで確認することができる。下段が登記申請の年月日であり、上段と下段の年月日の間が2週間以内であれば登記期間が守られていることになり、法令遵守の意識の高さを対外的に示す材料の1つとなる。 ② 株主総会議事録 役員の選任日を確認する。 ③ 定款 主に以下の定めにより、役員の任期満了時期を把握する。 定款の所在が不明である場合、以下の資料をもとに復元する方法が考えられる。会社を設立してから一度も定款変更していない場合、会社設立の際に定款認証を依頼した公証役場に少なくとも20年間保管されているため、同一の内容の定款を入手できる可能性が高い。 以下の資料をもっても復元が困難である場合には、株主総会の特別決議を経て、新たに定款を設けることも一案であろう(会社法466条)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 任期計算のポイント ①登記記録、②株主総会議事録、③定款の資料が揃ってはじめて任期管理を検討することができる。 役員の任期計算で誤解しやすいポイントとして、株式会社の役員の任期を決算期の到来した回数から判断することがあるが、決算期の到来した回数は役員の任期と関係がない。任期計算を誤ると、役員の任期満了時期を見誤ることにつながる。 そこで、これまでみてきた①登記記録、②株主総会議事録、③定款の確認事項を下記事例に当てはめ、かつ、誤解されやすい任期計算のポイントを踏まえて株式会社の取締役の任期満了時期について考察する。 ◆ 事 例 ◆ ① 登記記録 ② 株主総会議事録 取締役Aは平成18年6月10日の定時株主総会で選任され、席上就任承諾した旨の記載がある。 取締役Bは平成19年10月1日の臨時株主総会で、増員のため選任され、同日付の就任承諾書がある。 ③ 定款 〇任期:「取締役の任期は選任後10年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」、「任期満了前に退任した取締役の補欠として、又は増員により選任された取締役の任期は、前任者又は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする。」の定めがある。 〇事業年度:「毎年4月1日から翌年3月31日まで」の定めがある。 〇招集:「事業年度終了時から3ヶ月以内に定時株主総会を開催するものとする。」の定めがある。 任期満了に加えて検討する事項 次に、役員変更登記とあわせて行うべき登記手続や役員変更登記に関する会社法・商業登記規則の改正内容を以下に列挙する。 (連載了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第24回】 「離縁と財産分与・慰謝料」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 問 題 【問題①】 離縁に伴う慰謝料はどのような場合に請求できるか。慰謝料算定に当たってはどのような事情が考慮されるのか。 【問題②】 離縁によって養子が養親の財産を相続しないこととなった場合、相続期待権が侵害されたとして養親に対して慰謝料請求は可能か。 【問題③】 離縁に当たり財産分与が認められないとして、他にいかなる方法にて実質的な財産分与を行う方法があるのか。 回 答 【問題①】 原告が無責で被告が有責か、原被告とも有責であるものの原告より被告がより有責であることを要し、慰謝料算定に当たっては、破綻原因、有責割合、縁組(同居)期間、収入、資産、年齢等が重視されるものの、離婚に伴う慰謝料の額と比べて、一般的には低い金額となる。 【問題②】 離縁によって養子が養親の財産を相続しないことは当然のことであり、慰謝料算定に当たり、その期待権を失ったこと自体は考慮されない。 【問題③】 財産形成に対する養子の寄与が極めて大きく、かつ明確に評価できるような場合には、別途、不当利得返還請求訴訟を提起することが考えられる。また、養親名義の財産が実質的には養親と養子の共有であるとして持分権確認請求訴訟を提起した上で、別途、実質的な財産分与を行うことも考えられる 解 説 [1] 離縁の場合の慰謝料 慰謝料については、離婚の場合と同様に、縁組当事者の一方は、有責な相手方に対して慰謝料を請求できる。その法的性質に関して、通説は、不法行為による損害賠償とする見解であり、判例もこの立場である。通説である不法行為説からすると、原告の慰謝料請求が認められるのは、原告が無責で被告が有責か、原被告とも有責であるものの原告より被告がより有責であることを要する。 慰謝料の算定に当たっては、諸般の事情が考慮されるが、その中でも破綻原因、有責割合、縁組(同居)期間、収入、資産、年齢等が重視される(横田勝年「離縁に伴う慰謝料、財産分与請求」判例タイムズNo.747、1991年、251頁)。 養家のために専念し傾いていた養家の家運を挽回することに成功した養子が正当な理由なく養親から追い出されたような場合や、学校にも通わせ一人前にして将来を託そうと期待していた養子が正当な理由もなく実家に逃げ帰ったような場合には、精神的損害の賠償として相当額の慰謝料は認められるべきであるが、養親子関係は、夫婦関係に比較して当事者間の緊密性が薄いことが一般的であることから、損害賠償の額も離婚の場合と比べて少ないのが普通であると言われている(村上幸太郎「慰謝料(民法710条)の算定に関する実証的研究」司法研究報告書9巻6号260頁)。 参考までに、離婚に伴う慰謝料の金額に関し明確な基準を設けようと大阪弁護士会が「婚姻年数」と「有責性の度合い」に応じて作成した表を相場に関する一資料として引用する。離縁に伴う慰謝料の金額は、下記表記載の金額よりも、通常は低いものになるものと思われる。 (単位・万円) (出典)大阪弁護士会「家事事件審理改善に関する意見書」より もっとも、後述のとおり、離縁の場合には財産分与が認められないことから、慰謝料の中に財産分与的事情が加味されたときには、通常の慰謝料額よりも高額になることはあり、実務上もかかる算定を行うことがある。 なお、離縁によって養子が養親の財産を相続しないことは当然のことであり、慰謝料算定に当たり、その期待権を失ったこと自体を考慮すべきではないとされている。 [2] 離縁に伴う財産分与 離縁に伴う財産分与については、明文の規定もないことから、実務上は離縁において財産分与請求権は認められていない。 離婚の場合と異なり、離縁の場合に財産分与(民768)に相当する規定がないことの立法趣旨としては、養子は幼少のことが多く、養親子関係には夫婦が協力してその間に財産をつくる関係とも若干異なるからとされている(家裁資料34号「民法改正に関する国会関係資料」225頁)。 離縁調停や離縁訴訟の和解においては、養子の貢献等に鑑みて財産分与を考慮した給付合意がなされることはあるが、審判や訴訟での判決において財産分与が認められた事例は審判例が1件存在するだけであり(静岡家審昭和37年4月27日)、同審判例においても具体的な根拠は示されていない(東京弁護士会法友全期会家族法研究会編「離婚・離縁事件実務マニュアル第3版」ぎょうせい、2015年、392頁)。 [3] 救済方法 既述のとおり、離縁に伴う財産分与は認められないことから、離縁調停や離縁訴訟の和解においては、養子の貢献等に鑑みて財産分与を考慮した給付合意がなされることはあるものの、相手方との話し合いがつかない場合には、かかる合意はできない。また、実務上、慰謝料算定に当たり財産分与的事情が加味されることもあるが、その認容額には自ずと限界があり、原被告双方の責任が同程度か、原告よりも被告の責任が小さく慰謝料請求が認められない場合にはそもそも不可能である。 そこで、財産形成に対する養子の寄与が極めて大きく、かつ明確に評価できるような場合には、別途、不当利得返還請求訴訟を提起することが考えられる。また、養親名義の財産が実質的には養親と養子の共有であるとして持分権確認請求訴訟を提起した上で、別途、実質的な財産分与を行うことも考えられる(横田勝年「離縁に伴う慰謝料、財産分与請求」判例タイムズNo.747、1991年、252頁)。 (了)
『デジタルフォレンジックス』を使った 企業不正の発見事例 【第5回】 (最終回) 「アメリカの司法当局によるデジタルフォレンジックス事件簿」 PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー 池田 雄一 1 はじめに 本連載では第一部の「企業の不正を明らかにする『デジタルフォレンジックス』」では全7回、第二部の「『デジタルフォレンジックス』を使った企業不正の発見事例」ではここまで4回にわたってデジタルフォレンジックスの紹介を行ってきた。今回は最終回として「アメリカの司法当局によるデジタルフォレンジックス事件簿」と題し、アメリカの規制当局が主導する捜査において日本企業がデジタルフォレンジック調査の対象となった事例を紹介する。 2 価格カルテル事件の中で起こった、日本人による司法妨害に対するデジタルフォレンジック調査 (1) 日本国内における米国の司法妨害罪の取扱い 前回の「【第4回】カルテル、贈収賄などの規制当局調査に使われるデジタルフォレンジックス」でも触れられた、デジタルフォレンジック調査について少し掘り下げてみる。 米国司法省が主導で行った日本企業に対する価格カルテル調査においては、対象となった多くの日本企業において「証拠の隠滅行為」が行われた。 司法当局が扱う刑事事件における「証拠の隠滅行為」は、「司法妨害罪」と呼ばれる重罪として取り扱われる。米国の管轄権の及ばない日本国内で「証拠の隠滅行為」が行われた場合に、連邦捜査局(FBI)による立ち入り捜査を受けることはないが、証拠の隠滅を行ったのが日本人であったとしても米国の「司法妨害罪」に問われるリスクは高いのが現状である。 米国の管轄権の及ばない日本国内で行われた「証拠の隠滅行為」に対する調査は、司法当局が行うのではなく、我々のような民間のコンピュータフォレンジックスの専門家が行うケースが大半を占める。実行する調査の中では、どのようなデータが、いつ、どのように消去されたのかを「理系的アプローチ」を使って解明し、報告書にまとめクライアントの弁護士を通じて当局に報告することとなる(理系的アプローチについてはこちらを参照)。 価格カルテル事件の調査の中で「都合の悪い情報の破棄」の指示を含む電子メールが発見された場合、それが「証拠の隠滅行為」調査の引き金となる。調査の対象は、情報の破棄を指示する電子メールを出した本人から、その受信者までを含む大規模なものになることがある。多くの場合、情報の破棄を指示する電子メールを発信しているのは高い肩書を持つ監督者であり、海外当局による捜査を受けた際の適切な対応を知らないがために、「証拠がなければ罪に問われない」という日本的な考えからそのような行為に至るものと考えられる。 (2) 司法妨害罪を解明するデジタルフォレンジック調査 「証拠の隠滅行為」を解明するために行われるデジタルフォレンジック調査は「理系的アプローチ」と述べたが、具体的には3種類の分析を行う。 ① ドキュメント消去の確認 「証拠の隠滅行為」の調査において特に重要となるのが、①消去の有無、②消去のタイミングの2点である。デジタルフォレンジックスの調査専用ソフトウェアを使用することで、消去されたドキュメントの復元ならびにタイムスタンプの分析が可能となる。 規制当局による捜査の対象になると「訴訟ホールド」が実施され、対象となった従業員に対してデータ消去を止める旨の指示が出される。調査が開始されると会社から貸与されているPCの保全・収集が行われる。 ここで、「証拠の隠滅行為」として認識される消去のタイミングは、「訴訟ホールド」の指示が出された後、PCの保全・収集が行われる直前、弁護士などによるインタビューが実施される前後などがこれに当該する。 デジタルフォレンジック調査では、消去されたファイルのタイムスタンプの分析を行い、上記数パターンのタイミングで消去されているドキュメントの有無を確認する。 ② ドキュメントの「抹消」行為の有無の確認 ドキュメントファイルの消去は、ファイルを「ゴミ箱」に入れ、空にすることで消去となる。ただし、消去といってもデータ自体が上書きされるまで残っていることから、専用のソフトウェアを使用すれば復元可能な状況にある。 一方で、「抹消」とはデータ抹消の専用ソフトウェアを使用し、データを乱数などで上書きする(場合によっては数回上書きが実施される)ことである。「抹消」された場合には、専用のソフトウェアを使用したとしてもデータの復元は不可能である。 このためデジタルフォレンジック調査では、まず対象のPCにデータ抹消の専用のソフトウェアがインストールされている、もしくは以前にインストールされている痕跡があるかを調査する。 抹消ソフトウェアといっても、ソフトウェア自身を抹消することはできないため、調査前にアンインストールされていたとしても、デジタルフォレンジック調査によってその存在を容易に把握することが可能である。次に、抹消ソフトウェアがいつ起動されたかを調査し、上記の数パターンのタイミングに当てはまるかを確認する。たとえ、デジタルフォレンジック調査によって抹消されたファイルまでは特定できなかったとしても、抹消ソフトウェアの存在と起動のタイミングという2つの条件が重なった時、規制当局は「証拠の隠滅行為」があったものと解釈する。 ③ 電子メールの消去の有無の確認 電子メールの消去の調査は、デジタルフォレンジックスを使用しても解明するのが困難なことが多い。最近では、ユーザーの管理とは全く関係なく、すべての送受信メールが保存される仕組みを導入する企業が出てきてはいるものの、未だ従業員に貸与されているPCの中にしかデータが残らない電子メールシステムを使用している企業も少なからず存在する。 消去された電子メールの回復は、ごく一部の電子メールプログラムにしか適用することができないため、導入している電子メールシステムによっては消去メールの回復はほぼ不可能なことも少なくない。 しかし、電子メールは送信者が消去したとしても、受信者(CC、BCCも含む)がいるため、完全にメールデータが喪失されることはない。そのため、送信者となっている対象者からは証拠となる電子メールが全く発見されなかったとしても、受信者側から発見された場合、送信者側の対象者が特定の電子メールを消去していたことが判明することになる。 電子メールの場合、個々の電子メールはpstファイルなどのコンテナファイルの中に保存されていることから、通常のドキュメントファイルと違い、送受信日時以外のタイムスタンプが残らない。したがって、「訴訟ホールド」が実施された後に消去されたか否かを証明することは困難である。 ただし、既に関係が明らかとなっている特定の相手(競合他社の営業担当など)との電子メールが全く発見されない場合、逆に、意図的な消去による「証拠の隠滅行為」があったとして解釈されるリスクが高まる。 3 最後に 規制当局による捜査において、その対応における作法を知らない日本企業はトラブルに見舞われることが多く、その際に実施されるデジタルフォレンジック調査によって何が起こったのかを特定することが可能であることはご理解いただけただろうか。 特に米国主導の刑事事件における「証拠の隠滅行為」があった場合には、デジタルフォレンジック調査によってその事実が解明され、日本人であったとしても「司法妨害罪」を適用され刑事訴追の対象となるため、適切な当局対応については弁護士や我々のような専門家を通して学んでいただけることは多いと考える。 今回の寄稿が最終回となるが、全12回を通して解説してきた「デジタルフォレンジックス」は、会計不正、情報漏洩、海外規制当局による捜査などを含むほぼすべての調査事案において使用され、事実解明の一翼を担っていることを理解していただけただろうか。 企業内で不正事案が発生した際には、有効的にデジタルフォレンジックスを活用することで問題解決を図ることが可能である。非常に強力な調査ツールの1つである「デジタルフォレンジックス」の有効性について認識したうえで普段の企業活動に従事することで、いざという時の対応に、今回の寄稿で学んでいただいたことを生かしていただければ幸いである。 (連載了)
《速報解説》 公認会計士・監査審査会、第5期(平成28年4月~) 「監査事務所等モニタリング基本方針」を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年5月13日、公認会計士・監査審査会は「監査事務所等モニタリング基本方針(審査・検査基本方針)-より実効性のある監査の実施のために-」を公表した。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 モニタリングの視点 公認会計士・監査審査会が実施するモニタリングは、常に国民の視点という公益的立場に立ち、審査会の有する権能を最大限に発揮して、監査事務所の実態を踏まえて効果的・効率的に実施し、監査の品質の確保・向上を通じた監査の信頼性確保を、積極的に図っていく。 また、日本公認会計士協会や監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)などの関係機関への積極的な情報提供・連携強化などのほか、広く一般に提供する情報の充実も図っていく。 2 モニタリングの目標 3 モニタリングの基本方針 モニタリングは、①オンサイト・モニタリングと②オフサイト・モニタリングの両方を包含している。 (了)
《速報解説》 創設された「成年後見制度利用促進法」が5月13日に施行 ~後見人の権限拡充が図られる一方、裁判所による監督強化も Profession Journal編集部 高齢化社会を迎え、整備が喫緊の課題とされている成年後見制度について、後見人の養成と権限の拡充を盛り込んだ「成年後見制度利用促進法」(「成年後見制度の利用の促進に関する法律」)が、5月13日に施行される。 本法律の創設に併せて民法の一部改正も行われているが、弁護士や税理士等の職業後見人にも影響を及ぼす制度の改変であるため、改正内容及び今後の動向を注視したい。 〇改正の背景と概要 今回の改正は、認知症等を患う高齢者の増加に伴って、後見人の需要が高まることから、一般市民を後見人として育成することなどを目的とするものだが、職業後見人についても下記の改正が影響してこよう。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 なお、上記のうち促進法に定める①②の具体的な手続等については促進法の施行より3年以内に法整備され、また③④は民法の改正の手当てにより、本年(平成28年)10月13日に施行される。 以下に職業後見人が押さえておきたい上記の4項目について詳しくみていく。 〇被後見人に代わる医的侵襲行為への同意 改正前は、注射や手術等といった医的侵襲行為は被後見人の同意がない限り行うことが認められていなかった。そのために、被後見人が必要な医療を円滑に受けられないという問題が生じていた。そこで促進法では、後見人に同意権を与える方向で検討を行うことが明らかにされた。 しかし、同意権を認めることは必ずしも利点ばかりではない。例えば、後見人が被後見人に対する手術に同意したことで病状が悪化した場合等における親族からのクレームへの対応や責任の範囲等、後見人の立場から考慮すべき課題は多い。そのため、今後の制度運用の策定状況を注視したい。 〇被後見人に宛てた郵便物の開封が可能に 改正前には、後見人は、事務に必要な郵便物であっても、被後見人宛ての郵便物の内容の確認ができなかった。被後見人宛ての郵便物を後見人が開封するという行為そのものが信書開封罪等、違法行為に当たるとの指摘がされていた。 こうした状況に対し本改正により、後見人は、一定の手続を経た後に、被後見人宛ての財産管理上必要な郵便物に限って受取りと開封が認められることとなった。後見人にこの権限が認められるのは指定された6ヶ月以内とされているが、財産に関する連絡は各種請求書や「ねんきん定期便」等のように郵便で届くことも多いため、被後見人が開封し確認できることは、後見事務上大きなメリットとなる。 〇死後手続における後見人の権限拡充 従前は被後見人の死亡時に後見事務が終了することとなっていたため、緊急の場合を除いて、後見人が親族(いない場合には市町村長)の許可なしに、遺体の引取りや火葬及び埋葬といった行為を行うことは認められていなかった。 だが、本改正において相続人が相続財産を管理できる状況になるまでの期間であれば、相続人の同意を得た上で、家庭裁判所の許可を受けることで相続財産の保存及び火葬や埋葬等の契約ができるようになった。このため、身寄りがないか、相続人がいても遠方に居住している等の理由で被後見人の死後手続を行えない場合に、後見人は被後見人の葬儀を行うことが可能になる。 上記のとおり、相続財産の保存については、相続人の同意が前提となるため、後見人は原則としてすべての相続人に対する承認を得る必要がある。このことから、相続財産を保存する必要が生じた場合において、円滑に対応を行えるかが課題となろう。なお、弁済期の到来している債務については、従前より相続人や家庭裁判所の許可を得ることなく手続が可能となっている。 〇不正に対する監視を強化 本年4月に最高裁が公表した情報によれば、職業後見人による横領行為は過去最悪の37件を記録した。親族後見人も含めた不正件数は521件、総被害額は29億7,000万円となっていることもあり、成年後見制度を悪用した不正行為が問題視されている。これに対応するため、促進法では裁判所が行う監督の強化が打ち出されており、具体的な施策が策定される。 ◆ ◆ ◆ 上記の促進法関連事項については、今後、具体的な施策が内閣が定める「成年後見制度の利用の促進に関する基本的な計画」により方向性が示される。また、民法関連事項についても関係する法整備が行われることとなるため、引き続き動向を注視する必要がある。 (了)
2016年5月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.168を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.40- 「パナマ文書~G20で何が話し合われたのか~」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 パナマ文書の一部が5月10日に公表され、タックスヘイブンの話が大いに盛り上がっている。 このような状況の下、4月16日、17日、米国ワシントンDCで20か国財務大臣・中央銀行総裁会議が開催され、最大の議題がパナマ文書問題への対応であった。 会議終了後、G20会合の共同声明が発表された。わが国のマスコミには税の専門家が少なく、この共同声明の中身や意義についてはほとんど触れられておらず、掘り下げた論評もなされていない。 しかし内容をよく読むと、この問題に対する先進国の今後の対応について、極めて重要な事項が話し合われ、合意されていたことがわかる。 そこで、この共同声明を読み説いてみたい。 なお共同声明は、財務省のホームページから英文・仮訳両方で読むことができる。 * * * まずはパラグラフ7について。 「自動的情報交換に係る基準を2017年又は2018年までに実施することにコミットしていない全ての関係する国に対して・・・コミットすること及び多国間条約に署名することを求める。」としている。 自動的情報交換は2017年から始まる(わが国は2018年から参加)が、この合意にパナマ、バヌアツなど4か国は入っていなかった。しかし今回の問題でパナマは参加の意向を表明しており、すでに目に見える成果が上がっている。 その上で、「7月会合までに税の透明性に関する非協力的地域を特定するための客観的基準をつくることを課す。」とされている。 また、「仮にグローバル・フォーラムの評価によって進捗が見られなければ、G20諸国による非協力的地域に対する防御的措置が検討される。」という極めて強い表現もなされている。 つまり、あらゆるタックスヘイブンについて、客観的基準を設けて格付けし、サンクション(制裁)まで設けながら自動的情報交換への参加・協力を求めているのである。 * * * 次に、パラグラフ8である。 「特に法人及び法的取極めの実質的所有者情報に関し、金融の透明性及び全ての国・地域による透明性に関する基準の効果的な実施に付した高い優先性を再確認する。」としている。 キーワードは、「実質的所有者(beneficial ownership of legal persons and legal arrangements)情報」の透明性を求めていることである。 タックスヘイブンに存在するのはいわば「空っぽの箱」であり、その実質的な所有者を突き止めなければこの問題は解決しない。そこで、実質的所有者情報の重要性をあえて強調したのである。 それは、「腐敗、租税回避、テロ資金供与、マネーロンダリングの目的で悪用されることを防止するため」であり、そのためには税だけでなく、「権限ある当局の実質的所有者情報の入手可能性の改善及び権限ある当局間の国際的な実質的所有者情報の交換の重要性を特に強調する。」としている。 わが国でも、すでに金融庁、法務省、警察をも巻き込んだ対応が始まっている。 * * * 最後に、「グローバル・フォーラムに対し、我々の10月会合までに、実質的所有者情報の入手可能性、及びその国際的な交換を含む、透明性に関する国際基準の履行改善のための方法についての初期提案を提示することを求める」としている。 具体案を大いに期待しようではないか。 (了)
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第41回】 「法人税法にいう『法人』概念(その5)」 ~株主集合体説について考える~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 5 形式的な借用概念論の限界 (1) 統一説を前提とした解釈論 前回の第一のアプローチとは、いわば形式的な借用概念論である。 租税法が法文の中に用いている概念で、それが固有概念であるとはいえず、他の法領域から借用していると思われる概念を理解するに当たっては、当該他の法領域で用いられている概念の意義に合わせてかかる概念を理解しようとする考え方が、通説である。 これは一般的に「統一説」と呼ばれる考え方であり、租税法律主義が要請する予測可能性や法的安定性の見地からは優れた理論であるといわれている。 過去には「独立説」という見解もみられた。これは、他の法領域から借用したと思われる概念であるとしても、そうであるからといって、一度租税法の中に取り込んだ以上は租税法の見地から解釈すべきであって、およそ他の法領域でいかなる意味内容を付与されているかという問題とは切り離すべきだとする考え方である。今日的にこの立場を採用する学説は管見するところ存在しないように思われる。 そこで、前述の統一説が最も妥当な解釈論であると理解されているのであるが、さりとて、他の法領域から借用したとしても(基本的には私法からの借用のみを念頭に置いているが)、私法には私法の法目的があるのであって、かかる法の趣旨や目的から離れたところで概念のみを取り出し、私法における概念の意義に合わせて理解しようとすることには問題があるのではなかろうか。すなわち、統一説が妥当する場面が多いのは確かであるとしつつも、ときには難しい場面があり得るのではないかとする考え方もある。 このような考え方は、「目的適合説」と呼ばれ、原則的には、統一説の考え方が妥当であるとしながらも、法には法の目的があるから、ときには、私法の目的に租税法の目的が合致しないことがあると考え、そのような法目的の差異に基因して、私法と同様に理解すると問題がある場合には、私法における意味よりもやや狭義に解釈しなければならない、あるいは、やや広義に解釈しなければならないとする考え方である。 我が国の憲法体系下における法的安定性を念頭に置けば、通説である統一説が最も妥当であるということになるであろう。ここで、憲法体系下とは、我が国内の法律全般に係る体系を意味する。 ところで、本件LPS事件や前述のLLC事件は、外国の法律に基づいて組成された組織体が我が国の「法人」に該当するかどうかという問題であった。そうすると、統一説は、我が国の憲法体系下では妥当性を有するかもしれないが、かかる外国の組織体の我が国の「法人」該当性に係る判断局面においても十分な論拠となり得るかという点については疑問も惹起される。すなわち、外国の法律という、我が国の憲法体系から外れる場面においても借用概念論を展開すべきなのかという問題である。 前述の第一のアプローチは、租税法上の「外国法人」該当性(所法2①七)につき、これを借用概念と捉え、上記のとおり通説である統一説の立場から、民法上の「外国法人」概念、とりわけこの場合は、民法35条にいう「外国法人」と同様の意義を有するものとして理解するという構成を採る。 その際、民法35条の「外国法人」を解するに当たっては、民法上の通説的な理解に従い、設立準拠法説が採用され、外国の組織体については、当該地国における法律に従ったところで、「法人」と認識されるべき組織体は、我が国の民法上の「外国法人」と理解するという考え方が採られることになる。 したがって、第一のアプローチによる場合、英米法における法人概念を直截検討の素材とする必要があり、前述したさいたま地裁判決のような構成を採ることになるわけである。ちなみに、さいたま地裁は、以下のような判断要素が英米法における法人該当性要素であるとした上で判断を展開している(再掲)。 このような考え方は、借用概念論を極めてシンプルに捉えたアプローチであり、そうであるがゆえに明確であるばかりでなく、一貫性に優れた理論構成であると思われる。 ここでは、対象となる外国の組織体が、我が国において法人といえるものであるのかどうかを、かかる外国の法体系の下で検討することになる。例えば、所得税法上の配偶者控除適用問題などで、しばしば議論されるところであるが、外国人につき、我が国における配偶者該当性を論じるに当たって、民法の適用のない者の場合には現地法下における判断を展開するという考え方と同じ解釈手法である。 すなわち、その外国法の下で適法に配偶者と判断されるのであれば、所得税法2条1項33号にいう「配偶者」と理解するという考え方である。 一見すると、分かりやすい解釈論ではあるが、そこには、問題がまったくないとはいえない。 (2) 外国における概念と我が国における概念 外国における概念をそのまま我が国の法に持ち込むことに躊躇がないかというと、決してそのようなことはあるまい。 例えば、先の配偶者概念の例を取り上げたとしても、ある国においては、同性婚が許されているとした場合、すなわち、男性の配偶者が男性であるとした場合に、それをそのまま承認し、我が国の男性居住者の配偶者として男性を認めることができるのかという問題に接続する。このことに躊躇を覚える向きは当然にあろう。 なぜなら、国内においては依然として、憲法の要請等の下、同性婚は認められていないため、民法の適用を受ける日本人の同性カップルが自身の配偶者として同性のパートナーについて配偶者控除を受けようとしても認められないのにもかかわらず、外国人の場合にはこれを認めるとすることは妥当なのかという問題が惹起されるからである。 この点は、我が国の所得税法上の配偶者控除の対象となる配偶者は、婚姻届けの提出されている戸籍法上の配偶者をいうと解釈されており(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・訟月44巻6号1009頁、本連載【第12回】参照)、事実婚による配偶者を認めていないのにもかかわらず、事実婚が認められている外国の国民であれば日本の居住者として所得税法上の配偶者控除の適用を受けることができてしまうという問題も同様である。 かような問題が起こるのは、なぜであろうか。それは、主として統一説による概念論について、いわば概念を単なる記号として捉えているところに問題の根源があるといってもよいと思われる。 すなわち、記号として、用語としての概念論にとどまると解するべきか、あるいは、その実質的内容をも包摂した概念として議論をすべきかという相違がここで頭をもたげるのである。 前述の第一のアプローチと第二のアプローチの違いはまさにここにあるといっても過言ではない。 ひらたく仮定の例を挙げれば、例えば、掲名主義を採用する関税法上に、「きゅうり」という項目があったとする。その際、米国から輸入される「きゅうり」には、関税定率表に掲げられている税率の関税が適用されることになる。 さて、ここで、米国から輸入してきた「もの」が「きゅうり」に該当するかどうかという問題が生ずる。すなわち、米国で「Cucumber(キューカンバー)」として取引されている「もの」が果たして、日本でいう「きゅうり」に該当するのであろうか、という問題である。 少なくとも、日本における「きゅうり」とは、あのカブトムシの匂いを思い出させるみずみずしいそれであるが、米国における「Cucumber(キューカンバー)」は英和辞典によれば、「きゅうり」と訳されているとはいっても、およそ同じ味のもの、同じ触感のものとは思えない。それでも、「Cucumber(キューカンバー)」は「きゅうり」として関税法の適用を受けるのであろうか。 そもそも、概念を「きゅうり」という日本語で表現した瞬間に、米国にはそのようなものはないのであるから、「きゅうり」という関税法上の規定は適用をすべき対象を失い、空文化すると考えるべきなのであろうか。 そうであるとすれば、記号だけで概念を理解することにはあまり意味がないのではなかろうか。 すなわち、その「もの」が実際に我が国の「きゅうり」的なものであるかどうかが問題となるのであって、どのように翻訳されているか(記号が付されているか)ということは二の次の問題であるようにも思われるのである。同じ品種であるとか、植物学的分類が同じかといったように内容や実態に踏み込む必要があるのではなかろうか。 このように考えると、第一のアプローチはあまりに形式的すぎているのではないかという疑問が浮かぶのである。 (3) ガーンジー島事件 このような議論に参考となるのが、いわゆるガーンジー島事件である。 これは、損害保険業を営む内国法人である原告(控訴人・上告人)の法人税の申告において、チャネル諸島のガーンジーにおいて設立された原告の子会社が同地で支払った法人所得税につき、税務署長が外国税額控除の対象となる「外国法人税」に該当しないとして行った処分の取消しを原告が求めた事例である。 そこでは、チャネル諸島のガーンジーにおいて支払われた法人所得税が我が国における租税と同じものかどうかが争点とされた。なぜ、そのような法人所得税が我が国における租税といえるかどうかが問題となったかというと、同地における法人所得税は、カフェテリア方式とでもいうべく税率を納税者の選択によって選ぶことができるというユニークな税制であったため、国家が権力的強制的に課する金銭給付という我が国における租税の性質と異なるものともいえるからである。 この事例において、最高裁平成21年12月3日第一小法廷判決(民集63巻10号2283頁)は、次のように説示した。 このような判断は、「外国法人税」という概念の用語のみで判断すべきではなく、それが租税という性質を有するかどうかという点にまで踏み込むべきとの説示であるとみることができよう。 すなわち、第二のアプローチが採用されているといってもよかろう。 (続く)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第9回】 「任意組合が行っていた航空機リース事業が終了する際に 組合員が受けた債務免除益等の所得区分を判断した事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 原告(甲)は、他の出資者と共に組合契約を締結して民法上の組合を組成した上、金融機関から金員を借り入れて航空機リース事業を営んでいたが、予定前に航空機を売却して事業を終了することとなった。 その際、①航空機の購入原資の一部となった借入金に係る債務の免除を受けたことによる利益(本件債務免除益)及び、②当該組合の業務執行者に対して支払うべき手数料に係る債務の免除を受けたことによる利益(本件手数料免除益)が発生し、これらの所得区分を巡って争いとなった。 なお、複数の同様の組合事業が運営されていたが、破綻したのは本件の組合事業だけである。 当事者の主張をみてみると、甲は、本件債務免除益も本件手数料免除益も一時所得に該当する旨主張し、他方、課税庁は、本件債務免除益は雑所得に、本件手数料免除益は主位的には不動産所得に、予備的には雑所得にそれぞれ該当すると主張した。 裁判所は、いずれの所得についても一時所得に当たるとの判断を下しているが、ここでは、本件債務免除益についてのみ取り上げる。 〔課税庁の主張理由(要旨)〕 当事者双方ともに、一時所得該当性について、①除外要件(利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得であること)、②非継続要件(営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること)、③非対価要件(労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであること)の3つの要件を充足するものとの解釈に基づき主張している。 甲は、これら3つの要件を満たす(一時所得である)と主張したのに対して、課税庁の主張理由は次のとおりである。 〔東京地裁の判断(要旨)〕 (1) 裁判所が着目した主な事実 ① 本件債務免除益は、あくまで債務免除行為によって発生したものであって、航空機の賃貸自体から発生したものではない。 ② 融資に関してノン・リコース条項は設けられていたが、一定の場合に、銀行が残債務を当然に免除するという条項は設けられていなかった。 ③ 銀行は、航空機の任意売却に同意した上、売却代金の一部を受領しただけで、残債務を免除していることからすると、債務免除行為は、組合事業において、ローン契約やノン・リコース条項に基づいて当然に発生したものではなかった。 (2) 判断 本件債務免除益は、本件組合が行っていた営利を目的とする継続的行為である本件航空機の賃貸自体によって発生したものではなく、また、本件組合事業の終了に伴って当然に発生したものでも、発生が予定されていたものでもなく、本件融資銀行の判断により、一時的、偶発的に発生したものと認めるのが相当であるから、営利を目的とした継続的行為から生じた所得以外の一時の所得に該当する。 (3) 結論 本件の債務免除は、銀行によって偶発的に行われたもので、債務免除益は偶発的に発生したものと認めるのが相当であるから、非継続要件を充足する。 また、甲らが銀行に対して本件債務免除益の対価となるような労務その他の役務を提供したと認めることはできない。したがって、非対価要件も充足する。 よって、本件債務免除益は、一時所得に該当する。 〔判断の分水嶺〕 本件(一時所得該当性)の判断の分水嶺は、債務免除益が本件の組合の業務の一環として当初から予定されていたもといえるのか否かである。すなわち、債務免除益が継続的な業務の一環として発生したといえるのであれば、非継続要件を満たさず、雑所得に傾くのである。 裁判所は、債務免除益が、必ずしもノン・リコース条項に基づいたものではなかったこと、つまり、債務免除行為が必ずしもノン・リコース条項を前提とした法律関係を反映したものではないと認定している。したがって、偶発的であり対価性も認められないということである。そして、その認定に特に影響したと考えられる事実は、上記(1)〔東京地裁の判断(要旨) 〕の②や③(※2)である。 (※2) 本件の特殊事情として、航空機は1,700万ドルで売却されたが、そのうちの1,400万ドルだけがノン・リコースローンの返済に充てられ、その代金の一部が他の債務弁済に充てられている。 〔本判決が示唆するもの〕 そもそも、ノン・リコースローンは、融資銀行が事業に内在するリスクを当初から織り込んでいるはずである。つまり、その破綻リスク等の見返りに、金利が高めに設定等されているのである。この点を強調すると、弁済原資の範囲に限定がないリコースローンの場合はともかく、ノン・リコースローンの債務免除益は、ただちに偶発的に生じたものとはいいがたい。 裁判所が本件の詳細な事実関係を拾い出して、所得区分を判定しようとした判断過程は参考になるが、どのような事実があれば、「ノン・リコース条項という法律関係を反映していない」と認定できるのか。その点が十分に示されていない点で、本件は必ずしも一般化できないと考えられる。 また、判決速報によれば、課税庁が控訴中で本件の結論は確定していないため、留意が必要である。 なお、本件の裁決は公表されており(平成24年3月21日公表裁決)、審判所は、本件債務免除益は雑所得、本件手数料免除益は不動産所得と判断し、納税者の主張を認めなかった。 (了)