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「更正の予知」の実務と平成28年度税制改正【第3回】

「更正の予知」の実務と 平成28年度税制改正 【第3回】   税理士 谷口 勝司   6 実務における「更正の予知」 (1) 法人税過少通達 それでは、実務上、更正の予知はどのように取り扱われているだろうか。 この点に関し、国税庁では、平成12年7月3日付課法2-9ほか「法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(以下「法人税過少通達」という)を発遣・公表しているので(下記参照)、この法人税過少通達に基づいてその取扱いを説明していきたい。 法人税過少通達第1の2は、「修正申告書の提出が更正があるべきことを予知してされたと認められる場合」として、 と定めている。 この取扱いは、納税者が「調査のあったことを了知したと認められた後」は、原則更正の予知があったものとして取り扱う、すなわち調査開始説(調査着手説)(前回参照)に近い立場のものと理解してよいと思われる。また、前述の最高裁昭和51年12月9日判決(一小)にも準拠するものと思われる。 前述の具体額発見説では、自身の申告漏れを知っている納税者が、調査の進行具合を睨みながら具体的に把握されそうな少し前に提出する修正申告には加算税が賦課されないことになるが、これは納税者の自発的な修正申告を奨励する、という更正の予知の趣旨には合致しないと思われる。 また、客観的確実性説(端緒把握説)についても、実際の税務調査では要件事実の確認・検証の繰返しやその積み重ねによって徐々に申告漏れとの心証を得ることが多いが(そして調査結果の説明が行われるのは調査終了時である(通則法74の11②))、その過程の中で、「更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した」かどうか、あるいは調査官が申告漏れの端緒を把握したのはいつの時点か、などについて納税者が認識することは困難であろう(実際の調査では、申告漏れの端緒把握がいつの時点であったか、調査官自身も明確にできないケースもあるのではないか)。 さらに言えば、納税者が更正を予知したかどうかは、そもそもは納税者の主観・内心に関わる事柄と考えられ、国税当局がこれを推測して的確に判断することは相当な困難を伴う。 そこで、調査があったかどうかは納税者が認識しやすいこと、自らの申告内容を熟知している納税者にとっては調査開始(着手)があればいずれ国税当局から申告漏れの指摘を受けると考える(更正の予知がある)との見方もできること、納税者間の公平の観点からも更正の予知について客観的かつ統一した取扱いを行う必要があること等を考慮し、国税当局のスタンスとして、納税者が調査のあったことを了知したと認められた後は原則更正の予知があったものとして取り扱っていると思われる。 そして、更正の予知の時期をこのように取り扱うからには、その調査は、納税者が自分自身に調査があったと了知(認識)されるものでなければならない。 前述のとおり、調査そのものは相当幅広い概念であるが、たとえ申告書の審査検討等の調査が署内で行われていたとしても、それは税務署内部での調査にすぎず、納税者がこれを了知することは困難である。したがって、更正の予知における「調査」には、署内調査などは原則含まれないことになる。 実務上、ややもすると、更正の予知をあたかも調査の予知と誤解(調査が行われることを予知して提出された修正申告は加算税が賦課されるといった誤解)されることがある。しかし、文理上も、「調査があった」ことは必須であり、しかも更正の予知における「調査」は、国税当局の通達によっても、納税者によって了知(認識)されるものでなければならない。 (2) 更正の予知の例示 法人税過少通達では、納税者が調査のあったことを了知したと認められるケースとして、臨場調査、反面調査、非違事項の指摘の3つが例示されているので、これを見てみよう。 「臨場調査」は、納税者が調査のあったことを了知する最も明確なものであろう。とりわけ調査手続が法定化された現状においては、臨場調査(実地の調査)については、質問検査を行う旨、調査開始日、対象税目、対象期間等といった事項について事前通知が原則行われており、また、事前通知をせずに行う実地の調査(通則法74の10)の場合でも、臨場後速やかに、納税者に対して事前通知と同様の事項を説明するよう通達で運用されていることから、調査があったことはさらに明確なものとなっている。 「その法人の取引先の反面調査」は、反面調査した取引先からの連絡等によって納税者が自身の調査が行われていることを了知するケースが想定されている。取引先にはもちろん、銀行等が含まれる。実際の税務調査の手法として取引先を先行して調査(反面調査)する場合があり、また、事前通知をせずに納税者と取引先の同時並行して調査着手する予定であったが、納税者が不在等で連絡もとれずに反面調査が先行する場合もある(反面調査はその旨を取引先に明示した上で行われる)。 ただ、反面調査が行われていることを知らずにたまたま修正申告書を提出した場合には、更正の予知があったとはされないだろう(この場合は納税者が反証する必要がある)。また、同業者に対して一斉調査が行われていることを知った納税者が、いずれ自分自身に税務調査が及ぶことを予測して提出した修正申告書も、それだけでは納税者が調査のあったことを了知したとはいえず(しいていえば調査の予知にすぎない)、更正の予知があったとはされないだろう。 「非違事項の指摘」は、申告書内容を検討した上でのものである。「申告書内容の検討」そのものは税務署の内部調査であるが、これによって申告書計算誤り等を把握し納税者に対して非違事項の指摘をした場合には、その時点で調査があったことを納税者が了知することになる。 また、国税当局から非違事項の指摘を受けて提出した修正申告書について仮にも加算税賦課を免除することになれば、納税者による自発的な修正申告を奨励するという更正の予知の規定の趣旨にも合致しないと思われる。ただ、後述するように、実務上は行政指導の中で申告書計算誤り等の是正処理が行われ、調査としての非違事項の指摘は、ほとんど行われていないと思われる。 以上は、通達で挙げられている例示である。「原則として」とされているから、例示のケースでも若干の例外がないわけではないだろう。しかし、最も重要なことは、実務上は、納税者が「調査のあったことを了知したと認められた」かどうかを、その判断基準としているということである。 *  *  * 以上、法人税過少通達を基に説明してきたが、国税庁では、このほかにも申告所得税、相続税、消費税といった税目ごとに加算税通達を発遣している(下記参照)。そして法人税以外の税目についても、法人税過少通達における更正の予知と同様の内容を定めている。 なお、これらの通達が税目ごとの事務運営指針として発遣され法令解釈通達でないことを疑問視する意見も見受けられるが、事務運営指針といっても、加算税規定の法令解釈を前提にしたもので、通達(行政内部における上部機関から下部機関・職員へのいわば職務上の命令)である以上、国税職員はこれに拘束されて取り扱うことになるから、実務上の取扱いを理解する上で重要であることを付言しておきたい。   7 事前通知と更正の予知 法人税過少通達では、更正の予知がないとされるケースも例示されており、この点も重要である。すなわち、「臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として『更正があるべきことを予知してされたもの』に該当しない。」と定めている(法人税過少通達第1の2注書)。 法定化された現行の調査手続では、実地の調査を行う場合には原則事前通知が行われるが(通則法74の9)、事前通知を行っただけでは、原則更正の予知がない、としているのである。 実地の調査の事前通知を行うまでに、国税当局では、申告書内容や各種資料情報の精査検討、調査項目抽出の準備調査等の内部調査が通常行われる。また、料飲業などの調査に当たっては事前に店舗を訪れ、席数や客数、単価、レジ伝票の状況等を把握する内観調査(内偵調査ともいう)が行われる場合もある。これらの調査は国税当局内部の調査である。 もちろん個別事例の事実関係によっては、内部調査の段階であっても何らかの事情で納税者が自身に調査が行われていることを事前に察知し、事前通知だけで納税者が「調査があった」と了知できるケースがあるかもしれない。しかし、現行の調査手続では、「実地の調査を開始する日」(通則法74の9①一)等を事前通知することから、その開始日(臨場初日)までは、納税者が自身について「調査があった」とは了知していない、とみることが常識的であろう。 こうしたことから、実務上は、事前通知があっただけでは、原則更正の予知がない、と取り扱われている。 なお、「2 平成28年度税制改正」(【第1回】参照)で述べた通り、平成28年度税制改正において、調査に係る事前通知から更正の予知までの間に提出された修正申告書について、原則5%の過少申告加算税を新たに賦課することとされた。 この改正は、事前通知だけでは原則更正の予知に該当しないとする上記実務上の取扱いを前提にしたものと考えられ、実務上の取扱いを法律上も確認したといえるのではないだろうか。   (了)

#No. 188(掲載号)
#谷口 勝司
2016/10/06

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第18回】「エス・ブイ・シー事件」~最判平成6年9月16日(刑集48巻6号357頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第18回】 「エス・ブイ・シー事件」 ~最判平成6年9月16日(刑集48巻6号357頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 188(掲載号)
#菊田 雅裕
2016/10/06

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第37回】「契約金額等の計算をすることができる場合」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第37回】 「契約金額等の計算をすることができる場合」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は製造業者です。委託加工を行う際に単価の取決めは注文請書を交付しています。注文請書に係る記載金額はどうなりますか。 参考:注文書(不課税文書)   第2号文書(請負に関する契約書)に該当し、記載金額1,000万円、印紙税額は10,000円となる。   [検討] 他の文書を引用している文書の判断 他の文書を引用している場合は、契約期間及び契約金額以外は、その文書に記載されているものとして課否を判断する。 ただし、第1号文書又は第2号文書に該当する場合の契約金額については、課税文書、非課税文書以外の文書からの引用がされる(通則4のホ(2))。 【通則4のホ(2)】 したがって、事例の注文請書は第2号文書に該当し、引用元は注文書(不課税文書)であることから、注文書から契約金額の計算をすることができる。 注文書から加工数量10,000個を引用し、記載金額は単価1,000円×加工数量10,000個で1,000万円となる。   ▷ まとめ   (了)

#No. 188(掲載号)
#山端 美德
2016/10/06

金融・投資商品の税務Q&A 【Q14】「外貨預金と外貨MMFの課税関係の差異」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q14】 「外貨預金と外貨MMFの課税関係の差異」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 外貨投資を始める際に、「外貨預金」と「外貨建MMF(キーワード参照)」を検討する方が多いのではないかと思われます。ここではそれぞれの課税関係の差異について説明します。 (1) それぞれの利子に対する課税 「外貨預金」の利子については、利子所得として、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の源泉分離課税が適用されます。 一方、外貨建MMFの収益分配金も利子所得となり、分配金の支払又は再投資時に20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の源泉徴収がなされます。この源泉徴収で課税関係を終了することができます。 ここまでは基本的に同様の課税です。 差異としては、外貨建MMFは特定公社債(【Q3】のキーワード参照)に該当するため、その収益分配金については上場株式等の配当所得等として申告分離課税(20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%))を選択することができ、その場合は上場株式等に係る譲渡損との損益通算が可能となります。 一方、外貨預金の利子については、現行の税制では預貯金の利子が金融商品一体課税の範囲に含まれていないため、上場株式等に係る譲渡損との損益通算を行うことはできません。 (2) 換金時の取扱い 【Q11】で解説した通り、外貨預金の場合、預金の満期時に為替差損益が実現するかどうかについては、払出し後、どのような商品に投資するか等により異なり、個別の検討が必要です。 為替差損益が実現する場合、満期時の外貨建の金額を円換算した金額が取得時の円換算の金額を超える場合のその超える部分の金額は、為替差益として雑所得として取り扱われ、確定申告による総合課税の対象となります。為替差損は、他の黒字の雑所得から控除できますが、他の所得区分との損益通算はできません。 一方、外貨建MMFは税務上、公募公社債投資信託として取り扱われるため、譲渡又は解約により生じる損益(解約時の収益分配金部分を除く)は、上場株式等に係る譲渡所得等として取り扱われます。譲渡所得等の計算上、為替差損益についてもその計算に含まれ、為替差損益を含む損益について、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の申告分離課税が適用されます。当該損益は他の上場株式等の譲渡に係る譲渡損との損益通算や、一定の要件のもとで申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等の損益通算が可能です。解約時の収益分配金は利子所得となり、1で記載した通りに課税がなされます。   (了)

#No. 188(掲載号)
#箱田 晶子
2016/10/06

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第24回】「私法上の法律構成による否認論①」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第24回】 「私法上の法律構成による否認論①」   公認会計士 佐藤 信祐   本稿では、私法上の法律構成による否認論の概要について解説する。学術的には、前回までに解説した法的実質主義とは異なるため、租税法律主義に反する可能性があるという見解もあるが、真実の事実関係を捉えるという点に限定すれば、今後の実務においても生じてくる可能性のある論点である。   1 私法上の法律構成による否認論の概要 私法上の法律構成による否認論は、今村隆教授によって主張され、中里実教授によって展開されたと言われている(※1)。 (※1) 松原圭吾「租税回避行為の否認に関する一考察」税法学553号107頁(平成17年) 私法上の法律構成による否認論とは、「課税の前提となる私法上の当事者の意思を、私法上、当事者間の合意の表面的・形式的な意味によってではなく、経済的実体を考慮した実質的なかたちにしたがって認定し、その真に意図している私法上の法律構成を前提として、課税要件のあてはめ」を行うことであるとされている(※2)。 (※2) 中里実「タックス・シェルターと租税回避否認」税研14巻83号64頁(平成11年) 私法上の法律構成による否認論は、第1類型(契約が不存在と認定する場合)、第2類型(契約が虚偽表示により無効であると認定する場合)、第3類型(契約の法的性質の決定により、当事者の選択した法形式を否定して、真実の契約関係を認定する場合)の3つに分けられる(※3)。すなわち、私法上の法律構成による否認論は、契約をどのように解釈するのかという問題であるということが言える。 (※3) 今村隆『租税回避と濫用法理』60頁(大蔵財務協会、平成27年) しかしながら、住友銀行事件(大阪高裁平成14年6月14日判決・判時1816号30頁)では、 と判示されている。さらに、金子宏教授も とされている(※4)。このように、私法上の法律構成による否認論は、法的実質主義の範囲内に留めるようにも思われる。 (※4) 金子宏『租税法』127-128頁(弘文堂、第19版、平成26年) この点につき、そもそも今村教授が私法上の法律構成による否認論を主張されたのは、民法の分野で契約解釈の方法が議論となっていたからである(※5)。すなわち、金子教授と同様に、真実の法律関係に即した課税であって、租税回避の否認ではないと考えられているように思われる。そのため、今村教授は、租税回避に該当する場合であっても、重要な間接事実になる要因にはなるものの、基本的には、民法上の事実認定の方法と異なるところはないと解されている(※6)。 (※5) 今村隆前掲(※3)58頁 (※6) 今村隆前掲(※3)100頁 ここでいう重要な間接事実とは、租税回避の意図があれば、表面的な法律構成と真実に意図している法律構成が異なる可能性が高いという話であり、それのみをもって否認できるわけではないと解される。すなわち、現金交付型合併の代わりに、現金で株式を購入してから合併を行うという行為が考えられる。 真実に意図している法律関係は、A氏が保有するX社を買収する際に、対価として、現金3億円と買収会社株式2億円を支払う場合を想定する。この場合に、株式交換により、現金3億円と買収会社株式2億円を交付した場合には、非適格株式交換に該当するから、3億円の現金で株式を購入してから株式交換を行ったというように解されるのかもしれない。しかし、現金で株式を購入するという行為を株式交換の対価として現金を交付するという行為に認定するのは、いくらなんでも無理がある。そのため、これを否認するとすれば、包括的租税回避防止規定によらざるを得ない(※7)。 (※7) 包括的租税回避防止規定が適用されるか否かは、株式交換後のA氏による株式の保有期間や経営に対する関与などを含めたうえで、総合的に検討する必要がある。 また、今村教授は、私法上の法律構成による否認論を主張された後の重要な動きとして認識されている点として、 を挙げられている(※8)。今村教授が、民法の契約解釈の問題として私法上の法律構成による否認論を打ち出されていることから、債権法改正の動きに着目されるのは当然のことと言えるが、公認会計士、税理士の立場からすると、それほど民法に詳しくないことから、どれだけ租税法に影響を与えるのかという点に違和感があるのかもしれない。 (※8) 今村隆前掲(※3)110-113頁 ただし、法学部、法学研究科にて租税法を研究すると、民法の解釈から租税法の判例を分析することは少なくなく、民法の契約解釈から租税回避の問題を検討するのはむしろ当然のことと言える。私法上の法律構成による否認論に対する批判が強いのは、租税回避に対応するために、民法上、許される契約解釈を超えている可能性があるからと推測される。 そのため、次回以降では、私法上の法律構成による否認論が争われた裁判例についての検討を行いながら、私法上の法律構成による否認論の射程を見ていきたい。具体的には、アルゼ事件(※9)、公正証書贈与事件(※10)、航空機リース事件(※11)、船舶リース事件(※12)、映画フィルム事件(※13)、日蘭組合事件(※14)、投資クラブ事件(※15)をそれぞれ予定している。 (※9) 東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕 (※10) 名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号 〔順号8524〕 (※11) 名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕 (※12) 名古屋高裁平成19年3月8日判決・税資257号〔順号10647〕 (※13) 最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁 (※14) 東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕 (※15) 東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順号10811〕 (了)

#No. 188(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/10/06

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第50回】株式会社東芝「改善状況報告書(2016年8月18日付)」 「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」(前編)

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第50回】 株式会社東芝 「改善状況報告書(2016年8月18日付)」 「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」 (前編)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【報告書の概要】   【はじめに】 株式会社東芝(以下「東芝」と略称する)は、2015年9月15日において、東京証券取引所(以下「東証」と略称する)より特設注意市場銘柄に指定されるとともに、上場契約違約金を徴求された。このリリースでは、東芝が、第三者委員会報告書をはじめとする各種のリリースで「不適切な会計処理」と強調し、多くのマスコミもこれに追従していたところ、東証は、「不正会計」と断じ、「上場廃止に準ずる措置」である特設注意市場銘柄指定という厳しい処分を発動したものである。 この結果、東芝は、指定から1年経過後速やかに、「内部管理体制確認書」を提出することが義務づけられるとともに、東証による審査を受け、内部管理体制等に問題があると認められない場合には、特設注意市場銘柄指定が解除されることになるが、改善がなされなかったと東証が認めた場合には、上場が廃止される可能性もある。 そうした状況の中、東芝は、2016年3月15日において、「『改善計画・状況報告書』の公表について」というリリースを出した。これは、2016年9月15日以降速やかに東証への提出が義務づけられている「内部管理体制確認書」の提出に先立ち、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を参照に情報開示を行ったものである。 そして、去る8月18日、再発防止策の進捗状況について、「改善状況報告書」を公表するに至る。リリースのなかで、東芝は、内部管理体制確認書を、「特設注意銘柄指定から1年経過後の本年9月15日に提出予定」であることを明言していたところ、実際に9月15日に提出が行われたため、東証が、確認書をどのように評価するのか、早期の指定解除が叶うのかが注目されている。 本稿では今週と来週の2週にわたり、東芝が2016年3月期決算に先だって公表した「改善計画・状況報告書」における再発防止策の内容を検証するとともに、その進捗状況を報告した「改善状況報告書」により、進捗状況を確認することを目的に、論考を進めたい。 なお、本件に関するこれまでの経緯等については、下記拙稿を参照されたい。   【「改善計画・状況報告書(原因の総括と再発防止策の進捗状況)」の概要】 冒頭でも記したように、2016年3月15日に東芝が公表した「改善計画・状況報告書(以下、「改善報告書」と略称する)」は、「内部管理体制確認書」の提出に先立ち、日本取引所自主規制法人が公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル 」を参照に情報開示を行ったものである。 特に、「原因分析」に関しては、全体の半分程度のボリュームとなっており、これまでの調査報告書よりも踏み込んだ内容になっている点、注目される。   1  原因分析 「改善報告書」は全53ページに及ぶが、そのうち25ページを占めるのが「過年度決算訂正が生じた原因に関する分析」である。具体的には、以下の6項目について、原因分析が行われている。 特徴的な改善報告書の記述を引用しながら、東芝の原因分析を検証したい。 (1) 経営環境を背景とした歴代社長による達成困難な損益改善要求 まず、「歴代社長による達成困難な損益改善要求」については、歴代社長の在任期間中の「経済情勢」「経営戦略」「業績」を一覧表にして掲載し、最後に、以下のような「まとめ」が記述されている(以下、括弧内は引用した改善報告書のページ番号を示す)。歴代3社長が達成困難な損益改善要求を繰り返した背景としては、かなり突っ込んだ説明を行っている。 これは、マスコミ報道で「不正会計の原因」とされていた「同業他社に対するライバル意識」、「歴代社長間の人事抗争」、「派閥争い」などを、直接的な表現ではないにしろ、一部認めたものとなっており、第三者委員会調査報告書が言及しなかったところまで踏み込んだ表現になっている点で、評価できるのではないだろうか。 (2) 業務執行部門における牽制機能の不全 業務執行部門については、まず、歴代CFOについて、「社長の意向に反してまで、適切な会計処理のために断固たる態度をとるには至らず、適切な財務報告の実施というCFOの職責を果たせていなかった」としたうえで、その配下の財務部における適切な財務報告に対する意識をこう表現している。 また、財務・経理部門の人事ローテーションは、「入社から退社までの期間継続して、財務・経理に関する業務に配属されることが通常」となっており、財務・経理部門の仲間意識から、過年度訂正を含む是正措置は、選択肢として検討するには至らず、監査委員会に対して問題提起をするということも躊躇させることとなった。 一方、カンパニー経理部は、以下の組織体制を理由に、やはり、牽制機能が働かなかった。 (3) 内部監査部門等における牽制機能の不全 経営監査部は、設立時より、事業コンサルティングの視点を重視してきたが、その後、東芝が委員会等設置会社に移行し、内部統制報告制度が導入されるなど、内部監査を巡る環境は大きく変化したにもかかわらず、ミッションや監査機能の強化などの見直しは行われないまま、2011年には人員削減が行われていた。 その結果、以下のような理由から、牽制機能不全状態に陥っていたと分析している。 また、内部通報については、リスクマネジメント部及び外部弁護士事務所に窓口を置き、通報された内容は法務担当者に連携され、適宜、監査委員に説明をしていたものの、個々の通報をすべて共有しているわけではなかった。また、今回の不適切な会計処理については、内部通報はなかった。こうしたことから、内部通報制度が機能していなかった理由を次のように説明している。 (4) 取締役会、指名委員会及び監査委員会における牽制機能不全 取締役会は、社外取締役も含めた活発な議論が行われず、経営監視機能を果たすことができなかった。指名委員会では、執行役社長の選定基準、選定・解職プロセスが透明ではなく、実質的に機能していなかったことが、読みとれる内容となっている。 そして、本来、本件のような会計不正事案に最も牽制機能を発揮する必要がある監査委員会については、社内監査委員と社外監査委員との情報連携について、次のような不備があったと報告されている。 改善報告書の記述からは、東芝においては、社外取締役の選任にあたってその専門性が検討されたことはなく(財務・経理・監査の知見を有する者はいなかった)、取締役会、指名委員会、監査委員会では、社外取締役に対する情報がむしろ遮断されていたことがうかがえる。 特に監査委員長に歴代CFOが就任してきたことについては、守屋俊晴による次のような厳しい批判もみられる(※1)。 (※1) 守屋俊晴『不正会計と経営者責任―粉飾決算に追いこまれる経営者―』(創成社新書、2016年6月、75ページ)   2 再発防止策 改善報告書32ページ以下で、再発防止策として、次の4項目が説明されている。 (1) 責任の明確化 責任の明確化の最大のものは、既に述べたとおり、元社長ら5人に対する損害賠償請求訴訟の提起であるが、それ以外に、役員等の辞任、報酬の一部返納、従業員への懲戒処分などが挙げられている。 このうち、2015年11月9日付で実施した従業員26人の懲戒処分について、内部告発により社内の告知文書を手に入れた毎日新聞ウェブサイト「経済プレミア」では、「出勤停止1日」が2人、「減給」が9人、「けん責」15人(うち2人はすでに退職)という内訳であり、不適切会計の4類型のうち、3つに関与したとされる財務部のトップは「減給」の処分を受けたうえで、グループ会社に異動となったとのことであるが、それでも、早期退職を余儀なくされた社員との比較から、懲戒処分をめぐる不満、批判、怒りの声が渦巻いている、ということであるという社員の思いが伝えられている(※2)。 (※2) 今沢真『東芝終わりなき危機―「名門」没落の代償』(毎日新聞出版、2016年6月、75ページ以下) (2) 経営トップらに対する監督強化 本項目のメインは、監査委員会の機能強化である。 まず、監査委員会を独立社外取締役のみで構成することとし、情報活動・情報共有の仕組みを強化するために、次の方策を実施することとしている(p.38)。 内部監査部の直轄化については、その独立性を担保するため、監査委員会が内部監査部の部長の移動に関する請求権及び同意権を有することとしている。 さらに、監査委員会の活動を支援する監査委員会室の人員を法務・会計分野の出身者を中心に5名程度から10名程度に増員するとともに、外部専門家の利用機会の拡大により、監査委員会自体の情報収集・独自調査機能を強化する。 また、内部通報窓口も監査委員会にも設けるとともに、監査委員全員が内部通報に係るアクセス権限を持つなど、あらゆる面において、監査委員会の機能は大幅に強化される内容となっていることが特徴である。 (3) 内部統制機能の強化 内部統制機能の強化で注目されるのは、①カンパニー経理部の組織改革と②会計コンプライアンス委員会の設置である。 カンパニー経理部は、カンパニー社長の権限下にあったため、「適切な財務報告よりも経営上の要請が優先」されていたという実態を改め、カンパニー財務統括責任者の人事権をCFOに移管し、同時に、業績評価は全社業績との連動とすることで、財務会計の独立性を確保することとしている。 また、会計コンプライアンス委員会は、「内部統制を執行側で確認・フォローアップ」するための機関として、代表執行役社長を委員長、監査委員会及び内部監査部がオブザーバー参加することにより、以下の機能を果たすことが期待されている。 とはいえ、会計コンプライアンス委員会がどの程度の実効性を発揮するかはまったくの未知数である。 (4) マネジメント・現場の意識改革 財務会計に対する意識・知識が欠如していたことから、経営刷新推進部を新設し、マネジメント・従業員の財務報告の重要性・会計コンプライアンスに対する意識改革を推進するとのことであるが、経営刷新推進部による意識改革や企業風土改革はいいとしても、「財務会計に対する意識・知識の欠如」という現状認識には、いささか違和感を覚えてしまう。 本件会計不正事件は、「意識・知識の欠如」ではなく、適正な財務報告によって業績悪化の原因を追究し、もって市場の信頼性を得ることよりも、経営トップがプライドや自己保身のため、業績の実態を開示することを拒み、また、経営トップに集中した権限により、他の役員等・幹部社員の口をつぐませてしまっていたことに原因があることは東芝も認めているところである。 (2)、(3)で提示された再発防止策が具体的で、実効性が期待できるものが多いだけに、「知識はあったが、それを発現することが許されなかった」多くの従業員にとって、この「意識改革」という名の再発防止策には少し残念な思いが残るのではないかというのが、筆者の感想である。 *   *   * 次号掲載の後編では、8月18日リリースの「改善状況報告書」をもとに、上記の再発防止策がどのように進められているかを検証したい。 (了)

#No. 188(掲載号)
#米澤 勝
2016/10/06

ストーリーで学ぶIFRS入門 【第9話】「減損会計は減損後の戻入れに注意!?」

ストーリーで学ぶ IFRS入門 【第9話】 「減損会計は減損後の戻入れに注意!?」 仰星監査法人 公認会計士 関根 智美   「ん?・・・これ、どういう意味だ?」 桜井は、早朝の静かなオフィスで、エクセルの表とにらめっこをしていた。 桜井は東証一部上場の製造会社の経理部に勤めている。入社3年目となり、一通り業務にも慣れてきた・・・と思っていたのだが、今回閉鎖予定の工場の減損処理に頭を悩ませていた。 桜井の会社では、来期工場を新設するにあたり、老朽化の進んだ工場を閉鎖する予定だ。その閉鎖予定の工場に係る減損を第2四半期決算で計上することになったのだ。もちろん、減損の会計処理は固定資産担当の桜井がしなければならない。 上司から数年前に実施した減損のエクセルファイルをもらい、ファイルの指示通り数値を埋めたのだが、自分が何をしているのかさっぱり理解できない。そこで、集中できる早朝に腰を据えて減損ファイルに取り掛かっているのだった。 桜井は本とPCの画面とを交互に見比べて、一つ一つのセルの内容を確認していく。しばらくして、「あ、なるほど。そういうことだったのか!」と桜井が呟いた時― 「お、やっぱり頑張ってるな。」 と、桜井の背後から藤原がPC画面を覗き込んでいた。 「わっ!お、おはようございます。今朝は早いですね。」 桜井は突然の藤原の出現に驚いて、思わず本を机から落としてしまった。藤原は、大きな体のわりに敏捷な動きで床に落ちる寸前の本をキャッチすると、「ほらよ。」と、桜井に手渡した。 「倉田課長がさ、桜井が減損でてこずっているみたいだって言ってたからさ。」 「え!もしかして手伝ってくれるんですか!?」 藤原の言葉を聞いて、桜井の顔が一瞬明るくなった。 「んなわけないだろ。」と呆れた口調で言いつつも、藤原は桜井の作ったファイルをざっと確認する。ファイルに目を通しながら、藤原は言った。 「お前のことだから、今日あたり減損会計の勉強をしていると予想したってわけだ。ついでにIFRSの減損会計を教えてやろうと思ってな。」 藤原は桜井の元教育係だったこともあり、何かと桜井の面倒を見てくれる頼りがいのある先輩だ。2人が勤める会社が今期IFRSを任意適用する方針を決めたことをきっかけに、桜井は藤原からIFRSについても教えてもらっていた。 「IFRSの減損会計ですか?やっと日本基準の方も分かってきたばかりなのに・・・」 「鉄は熱いうちに打てって言うだろ?今なら日本基準も頭に入っているから、一緒に覚えたほうが効率的じゃないか。」 情けない顔をした桜井に、藤原はニヤリと笑った。 「それに、お前、最近IFRSの勉強が疎かになっているだろう?」 「うっ・・・」 痛い所を突かれてしまった桜井は、言葉に詰まった。「目の前の仕事に追われていて・・・」と言い返そうにも、言い訳になってしまうことは自覚している。 「そういうことだ。さ、仕事のキリも良さそうだし、IFRS勉強会だ。」 藤原がそう言ったということは、エクセルシートの数値に問題はないらしい。桜井は秘かに安堵した。 隣の席で喜々と準備をする藤原に従い、桜井も一旦作業中の資料を脇に退けてIFRS勉強用のノートを取り出すことにした。   藤原はいつものように「コホン」と咳払いをして先生モードになると、事前に準備していた用紙を桜井に手渡した。 「さて、IFRSの減損会計については、IAS第36号に規定されている。このIAS第36号は、資産の帳簿価額が使用又は売却による回収可能価額を上回っている場合、資産は減損(impairment)しているものと考え、減損損失を認識することを要求している基準だ。」 藤原は説明しながら、イメージ図を簡単に描いて桜井に見せた。 「はい。」と桜井は頷いた。これくらいなら、桜井にも理解できる。 「まずはこのフローチャートを見てくれ。今回はこのフローチャートの項目に沿って勉強していこう。」 「はい。分かりました。」 桜井は藤原から手渡された用紙に目を落とした。 【減損会計処理のフローチャート】 「へぇ。IFRSでも、まずは減損の兆候を識別するんですね。比べてみると日本基準と似ているところもありますね。」 IFRSということで身構えていた桜井は、見知っている単語を見て安心した。 「そうだ。減損損失計上の基本的な手続きに大きな違いはないと考えて大丈夫だろう。」   IFRSと日本基準との違いは大きく2つ 「あれ?」用紙を見ていた桜井は声を上げた。 「日本基準だと、減損の兆候を把握した後、減損損失を認識するかを決めるために割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額とを比較するステップがありますけど、IFRSにはないんですね。」 「そこが違いの1つだな。IFRSと日本基準では、大きく分けて2つの違いがある。」 藤原は指を1つずつ立てながら、説明していく。 「 IFRSは1段階アプローチ、日本基準は2段階アプローチを採用していること IFRSでは、減損損失の戻入れの規定があること 以上の2点だ。」 「へぇ。」 桜井はさっそく2つの違いをフローチャートの横にメモした。 ◆1段階アプローチと2段階アプローチ 「まずは1つ目の違いから説明した方が分かりやすいだろう。 日本基準が採用している2段階アプローチでは、さっきお前が言ったように、減損の兆候を把握した場合、減損損失を認識するか検討した後、減損損失を測定することになる。」 「はい。」と桜井が頷く。 「一方のIFRSでは、減損の兆候が把握されたら、回収可能価額の測定にダイレクトに移り、減損損失を計上するという手順を採っているんだ。比較してみると、こんな感じだな。」 【日本基準とIFRSの減損手続の違い】 「なるほど。IFRSの方が、手続がシンプルなんですね。」 「そうとも言えるな。」 ◆IFRSと日本基準の減損会計の目的に違いがある 「でも、なぜこんな違いが出るんですか?同じ「減損」という事象を認識する会計処理ですよね?」 「それはだな、減損会計の目的が違うからなんだ。」 「そうなんですか?」 聞き返した桜井に藤原は一度頷いてから、説明を続けた。 「日本基準の減損会計は、資産の収益力が低下した場合、取得原価主義会計の下で帳簿の臨時的な減損の手続として規定しているんだ。だから、日本基準では、減損していることが相当程度確実な場合に限って、帳簿価額に回収可能価額を反映させるために減損損失を認識及び測定することになる。」 「それが2段階アプローチとして表れているんですね。」 「そうだ。」と藤原は頷いて、説明を続けた。 「一方IFRSでは、資産が減損している場合には、企業が回収可能価額を上回る金額で資産の帳簿価額を計上しないことを確保するための手続として規定されている。」 「なるほど。日本基準のように減損していることへの確実性までは求めていないんですね。」 「そういうことだな。」 ◆IFRSでは日本基準よりも比較的早く減損損失を計上する傾向がある 「ということは、IFRSでは、減損の兆候があれば、回収可能価額まで帳簿価額を減額することになるんですか?」 「そういうことだ。もちろん、減損の兆候があったとしても、回収可能価額が帳簿価額を上回れば減損は不要だがな。」 「へぇ。」と、桜井は手を顎に当てて、相槌を打った。 「とすると、IFRSでは、日本基準より早い段階で減損損失が計上されることになりそうですね。」 「ああ。その傾向はあるだろうな。」 一方の藤原は、腕を組んで桜井に返事をする。 ◆IFRSでは一度計上した減損損失を戻し入れることがある 「でも・・・」と、桜井はふと疑問に思ったことを尋ねた。 「日本基準では、ほぼ確実に減損していると考えられる資産についてのみ減損損失を計上しますけど、IFRSの方法だと減損のタイミングが早すぎて、減損処理をした後で業績が回復して回収可能価額が回復することもあるんじゃないですか?」 「お。やっぱり、朝だと頭が冴えているな。」と藤原は桜井を茶化して、説明を続けた。 「お前の言う通りだ。これが2つ目の違いにつながっていくんだ。」 「2つ目の違いって、えーと、IFRSでは減損損失の戻入れの規定があることですか?」 桜井はさっき書いたメモを確認した。 「そうだ。フローチャートにもあるように、IFRSでは減損したら『ハイ、おしまい』ってわけにはいかない。減損後もその資産の回収可能価額が回復しているかどうかを引き続き検討することになるんだ。」 「なるほど。そうなんですか。」 「ま、詳しい説明は後でやることにして、まずはフローチャートに沿って、始めから手順を見ていこう。」   減損の兆候の識別 藤原は、1つ目のボックスをペンで指した。 「まず、各報告期間の末日現在で、資産が減損している可能性を示す兆候(indication)があるかどうかを検討することになる。」 「はい。各報告期間末日に実施するんですね。」 桜井は、フローチャートのひし形の横にある余白にメモした。 「どういったものが減損の兆候に当たるかについては、最低限考慮しなければならない兆候として基準の中で例示がある。」 「また難しい言い回しがあるんでしょうか・・・?」 桜井は少しドキドキしながら尋ねた。 「いや、そんなことはないぞ。簡単にまとめた表を作ってあるから、ちょっと待ってろ。」 そう言うと、藤原は棚に並べてあるファイルの1つを取り出し、目当てのものを探した。 「おっ。これだ、これ。」 藤原は1枚の紙を桜井に手渡した。 【減損の兆候】 「IFRSでは、減損の兆候を『外部の情報源』と『内部の情報源』に分けて示しているんだ。」 「へぇ。」 表の項目を1つずつ眺めていた桜井は、一旦目を止めた。 「市場金利等の上昇も減損の兆候になるんですね!」 「『外部の情報源』の3つ目だな。市場金利の上昇が割引率に影響を与える場合には、回収可能価額の1つである『使用価値』が減少することになるからだな。」 「『使用価値』って、将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いた金額のことですよね。その割引率に影響を与える、か・・・。確かに言われてみるとそうですね。」 桜井は納得したように頷いて、次の項目を確認した。 「その次にある、純資産の帳簿価額と株式の時価総額との比較も面白いですね。これも減損の兆候に該当するんですね。」 「だろ?この2つは新鮮だよな。」 桜井は藤原の言葉に頷いた。 「他には、資産価値の著しい低下、環境の著しい変化、資産の陳腐化、資産の使用程度や方法の著しい変更、資産に経済的成果の悪化、などがIAS第36号では挙げられている。」 「日本基準でも兆候として挙げられているものばかりですね。これなら僕でも理解できます。」 ◆IFRSでは減損の兆候に関する数値基準はない 「よし。じゃ、次は兆候についての注意点だ。」 「注意点?」 「もう分かっていると思うが、IFRSでは原則主義を採用している。」 「あ、はい。そうでしたね。」 IFRSが原則主義だということは何度も藤原から聞かされているため、桜井はすぐ思い出した。 「だから、日本基準にあるような、資産の市場価額が帳簿価額から50%以上下落した場合とか、営業損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスが概ね2年を指すとか、そういった数値基準はないんだ。」 「なるほど。実質的な判断をすることになるんですね。」 「とはいっても、減損の兆候の基本的な考え方は日本基準と類似している。数値基準がないからといって、実務上それほど負担が増えるわけではないと俺は考えているけどな。」 それを聞いて、桜井はほっとした。 ◆耐用年数の確定できない無形資産・使用不可能な無形資産・のれんの減損テストの実施時期 「そうそう、さっき減損の兆候の判定は、各報告期間の末日に検討すると言ったよな?」 「はぁ。確かにそう言いましたけど・・・?」 桜井は、首を傾げた。わざわざ藤原が繰り返して説明する意図が分からなかったからだ。 「そこには、『ただし』が付く。」 藤原はニヤリと笑った。 「 耐用年数を確定できない無形資産 まだ使用可能でない無形資産 のれん 以上の3つについては、毎年同じ時期に減損テストを実施するのであれば、事業年度中のいつでも実施することができるんだ。」 「へぇ。そう言えば、IFRSではのれんは償却せずに毎年減損テストを実施するんでしたよね。この基準に書いてあるんですね。」 「そうだ。よく覚えていたな。」という藤原の言葉に、桜井は得意げな表情を浮かべた。 「これらの3つの資産については、減損の兆候の有無に関わらず、毎年回収可能価額を算定して帳簿価額より下回っていないか、という減損テストを行うことになる。」 「減損の兆候はなくても、回収可能価額の計算が必要なんですね。分かりました。」 桜井は忘れないようにメモを取った。   回収可能価額の測定 「減損の兆候があると判断された場合、次のステップ、つまり、回収可能価額(recoverable amount)を測定することになる。この流れは、もう大丈夫だな?」 「はい。1段階アプローチだからですね。」 ◆回収可能価額は処分コスト控除後の公正価値か使用価値の大きい方 「この回収可能価額は、 処分コスト控除後の公正価値(fair value less costs of disposal) 使用価値(value in use) の2つのうち、いずれか大きい金額と定義されているんだ。」 「なるほど。では、減損の兆候が識別された資産があれば、その2つの価値を測定することになるんですね。」 藤原は腕を組んで、桜井の言葉を補足した。 「まぁな。でも、どちらか1つでも資産の帳簿価額を超過する場合は、そもそも資産は減損していないんだから、もう一方をわざわざ見積もる必要はないぞ。その場合は、片方だけ見積もれば十分だ。」 「あ、確かにその通りですね。」 ◆処分コスト控除後の公正価値はIFRS第13号に基づいて測定 「ところで、『処分コスト控除後の公正価値』と言いましたが、公正価値といえば、確か・・・IFRS第13号のアレですか?」 桜井が少し自信なさそうに、藤原に確認した。 「お、よく覚えていたな。そう、IFRS第13号『公正価値測定』だ。」 藤原からすれば、桜井はすっかり忘れているだろうと予想していたので、桜井の口から基準名が出てきたのは嬉しい驚きだった。 「ええ。中身はすっかり忘れてしまいましたけど。」 「はは。内容が抽象的だからな。一発で覚えられるようなもんじゃないから、こうやって見かけた時にその都度読み直して、知識の定着を図ればいいと思うぞ。」 「ええ、そうします。」と桜井は素直に答えた。 「お前が言ったとおり、IFRS第13号に基づいて公正価値を見積もることになる。そこから資産を処分するために直接起因するコストである『処分コスト』を差し引いた金額が『処分コスト控除後の公正価値』だ。」 「はい。分かりました。」 ◆使用価値 「2つ目の使用価値については、日本基準でもお馴染みだな。」 「そうですね。その資産の継続使用と最終的な処分から発生する正味の将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いたものですよね。」 「ああ。ここは大丈夫そうだな。」 藤原は安心して次に進むことにした。 ◆回収可能価額の算定単位 「次は減損損失の計上のステップですね!」 桜井が確認すると、藤原が首を横に振った。 「いや、まだだ。その前に、回収可能価額を算定する単位について説明が必要だからな。」 少し考えて、桜井が口を開いた。 「えっと、「回収可能価額を算定する単位」って、いわゆる資産のグルーピングのことでしょうか?」 「ああ。簡単に言えば、そういうことだ。IFRSではどう規定しているのか、確認するぞ。」 「はい、分かりました。」 桜井はメモの準備をした。 ◆回収可能価額は、個別資産毎に算定。それができなければ資金生成単位ごとに算定 「まず、IFRSでは、基本的には個別資産について回収可能価額を見積もる必要があるんだ。」 「え・・・。個別資産毎に見積もれるんですか?」 「まぁ、普通は難しいよな。だから、個別資産の回収可能価額の見積りが可能でない場合は、その資産が属する『資金生成単位(cash generating unit)』の回収可能性を算定することになる。」 「なるほど。その『資金生成単位』という資産グループを識別する必要があるんですね。」 「そういうことだ。」と言うと、藤原は資金生成単位について説明を続けた。 ◆資金生成単位の識別 「『資金生成単位』とは、他の資産又は資産グループからのキャッシュ・インフローとは概ね独立したキャッシュ・インフローを生成する最小の識別可能な資産グループのことを言う。ここまでは大丈夫か?」 「はい、なんとか。」 桜井が理解できていることを確認して、藤原はさらに説明を加えた。 「そして、この資金生成単位の識別には、経営者がどのように事業を管理しているか、また、事業の継続や処分の意思決定をどのように行うのか、という要因を考慮して判断することになるんだ。」 ◆日本基準の資産グループと資金生成単位に大きな相違はない 「なるほど。『資金生成単位』という言葉は初めて聞きましたけど、定義を聞くと日本基準の資産グループとそう変わりませんね。」 「ああ。ウチの会社でも、IFRS導入後も今のグルーピングのまま減損検討することになっている。」 「へぇ。もう話はそこまで進んでるんですね。」 桜井は、藤原と違ってIFRS導入のプロジェクトチームの一員ではない。そうと分かっていても、桜井は少し取り残されたような気分になった。 「ちなみに、この『資金生成単位』は頭文字を取ってCGUと言う。文書でもけっこう目にするから、覚えた方がいいぞ。」 「はい。分かりました。」 どんどん増えていくIFRS用語を一度整理しなくちゃな、と桜井は思いながら、忘れないようにメモをした。   減損損失の計上 「さて、CGU毎の回収可能価額が分かれば、あとはそれぞれの帳簿価額との比較をするだけだ。」 「さっそくCGUって言葉を使うんですね・・・」 アルファベットとはいえ、英語があまり好きではない桜井にとって会話に英単語が混ざる説明は正直勘弁してほしい。 「お前も慣れておいた方がいいだろう?」 そんな桜井の気持ちを知っている藤原はニヤリと返した。負けるまいと、桜井は気を取り直して、藤原に確認した。 「えーと、回収可能価額より帳簿価額の方が上回れば、帳簿価額を回収可能価額まで減額して、その差額を減損損失として計上するんですよね。」 「ああ。イメージはこんな感じだな。」 ◆減損損失は通常、純損益として認識 藤原は説明を続けた。 「減損損失は通常、純損益に認識する。もっと具体的に言うと、営業損益として計上されるんだ。」 「あっ、IFRSでは特別損益は計上されないからですね。」 「そういうことだ。」 「先輩、『通常』っていうことは、別のケースもあるってことですか?」 「ああ。固定資産が再評価額で計上されている場合は、再評価の減額としてその他の包括利益に認識されることがある。」 「へぇ、そうなんですか。」 「ここまでが、減損損失計上の流れだ。どうだった?」 「思ったより日本基準と似ている点が多いですね。所々違う点がありましたけど、整理すれば対応できそうです。」 その言葉を聞いて、藤原もほっとした表情を見せた。   減損損失の戻入れの手続は減損計上時と同じ 2人は少し休憩をはさんで、勉強を再開することにした。 「さて、IFRSでは減損損失を計上した後、減損損失の戻入れを検討することになる、と始めに説明したよな?」 「はい。」 桜井は固い表情で答えた。減損損失の戻入れ処理は日本基準にはないため、難解なのではないかという不安を持ったからだ。 「そんなに固くならなくても大丈夫だ。減損損失の戻入れを検討するステップは減損損失計上のときと同じなんだ。」 「えっ。じゃ、『兆候→測定』っていう流れということですか?」 藤原の説明にやや拍子抜けした桜井は、フローチャートをもう一度見返した。 「そういうこと。さっそく確認していこう。」 ◆減損損失戻入れの兆候 「減損損失戻入れも、減損損失計上時と同様に各報告期間末日で兆候の有無を検討する。戻入れの兆候に関しても、外部情報と内部情報に分けて最低限考慮する事項の例示が基準で示されているんだ。これが、そのまとめたものだ。」 そう言うと、藤原はファイルからあらかじめ取り出しておいた用紙を桜井に渡した。 表には、項目が少ないものの、減損の兆候と似たような言葉が並んでいる。 【減損損失戻入れの兆候】 「減損の兆候とほぼ反対になっているんですね。資産の価値が『減少』から『増加』に代わっていたり、経済的効果が『悪化』が『良好』になっていたりするだけですね。」 「そうなんだ。減損の兆候のイメージさえ理解できていれば、戻入れの兆候は減損の兆候と裏返しの関係だと押さえておけば大丈夫だ。な?思ったより簡単だろう?」 「ええ、安心しました。」   回収可能価額の算定 「減損損失の戻入れの兆候が認識されたら、回収可能価額を測定することになる。この回収可能価額の算定方法は、減損損失計上のところで説明したものと同じだ。」 「はい。では、さっき確認した戻入れの兆候に該当する事象があれば、また回収可能価額を見積もることになるんですね。」と桜井は確認した。 「ああ。だが、最後の減損損失を認識した以後にその資産の回収可能価額の算定に用いた見積もりに変更があった場合のみ、戻入れをする必要があるんだ。」 「と言うことは、その見積り要素に変更がなければ、減損損失の戻入れはしなくていいということですか?」 「そういうことだ。」と藤原は腕を組んで頷いて見せた。   減損損失の戻入れの会計処理 「よし。回収可能価額を算定したら帳簿価額を回収可能価額まで増額し、その戻入れを純損益に認識することになる。」 「これも特別損益ではなく、営業損益になるんですよね?」 「ああ。その通りだ。」と藤原は頷いた。 ◆減損損失戻入れの注意点 「それから、減損損失の戻入れには、注意点が2つあるんだ。」 「え、注意点なんてあるんですか?」 メモを取っていた桜井は顔を上げた。 ◆のれんの減損損失戻入れは禁止 「ああ。注意すべき1つ目は、のれんの戻入れは禁止されている、ということだ。のれんを含んだ資産グループの減損損失を戻し入れる場合には、のれん以外の他の資産の帳簿価額を増額することになる。」 「なるほど。のれんは一度減損したら、戻入れはしないんですね。」 ◆減損損失の戻入れには上限がある 「もう1点は、減損損失の戻入れには上限がある、ということだ。」 「上限?帳簿価額を回収可能価額まで戻すんじゃないんですか?」 「IFRSでは、減損損失の戻入れによって増加した資産の帳簿価額は、過去の期間にその資産について認識した減損損失がなかった場合の減価償却控除後の帳簿価額を超えてはならない、という規定があるんだ。」 「へぇ。でも、何でそんな規定が必要なんですか?」 桜井が首を傾げたままなので、藤原は、イメージ図を描いて桜井に見せながら説明することにした。 「図の中の太線が、減損損失がなかったときの帳簿価額の推移だ。毎期減価償却のため帳簿価額は減少するから右下がりの線になる。例えば、×1期に減損した資産について×3期に減損損失の戻入れを行うとする。この時、×3期で回収可能価額が大幅に回復したとしても、帳簿価額が太線を超えるような戻入れは認められない、ということを言っているんだ。」 「ああ、なるほど!その上限の規定がないと、戻入れをした資産の帳簿価額が以前の帳簿価額を超えた金額になってしまう可能性があるからですね。」 図を見てようやく納得できた桜井は、明るい表情で藤原を見た。   「以上が減損会計の流れだ。大丈夫か?」 「ええ。理解はできていると思います。ただ、さすがに朝から疲れてきました。」と、桜井が正直に言うと、「俺もだ。」と藤原も笑って返した。 「じゃあ、最後に開示項目について見てみよう。」 「はい。よろしくお願いします。」 「まず、減損会計では、大きく2つのことを開示することになる。」 「はい。」と相槌を打った桜井は藤原の言葉の続きを待った。 「1つ目は、当期に計上した減損損失又は戻入れに関する注記、2つ目は、のれん又は耐用年数を確定できない無形資産を含むCGUの回収可能価額の算定に用いた見積もりに関する注記、だ。」 「へぇ。」 「具体的に何を開示するかは基準を読んだほうがいいが、主な開示項目をまとめた表を作ってある。」 「わっ、ありがたいです!」 桜井は藤原から一覧表を受け取った。 「1つ目の当期計上した減損損失又は減損損失戻入れに関する注記では、日本基準でも要求されているものも多いから、特に問題ないと思う。金額、計上科目、算定基礎、減損するに至った事象や状況などが開示されることになる。」 「ええ、そうですね。」と桜井は項目を目で追いながら答えた。 「目新しいものとしては、『個別の減損に重要性がないが、合計すると重要となる場合の開示』だな。これは、個々の減損損失の重要性が乏しいために注記を省略しているが、その合計額が重要であると判断される場合には、一定の注記が必要になるというものだ。」 「へぇ。そんな規定があるんですね。」 「それから、2つ目に挙げた、『のれん又は耐用年数を確定できない無形資産を含むCGUの回収可能価額の算定に用いた見積もりに関する注記』も日本基準にはないものだから、IFRSで新たに開示する項目になるな。」 「はい。先輩が分かりやすくまとめてくれているので、僕でも開示事項がすんなり頭に入ります。」 「感謝しろよ。結構大変なんだからな。」 桜井の言葉にまんざらでもない表情を浮かべて、藤原は桜井の頭を軽く小突いた。   「よし、今日はここまでだ。これでお前もIFRSの減損会計の基礎はバッチリだな。」 藤原が満足気に頷いていると、経理課長の倉田が颯爽と出社してきた。 「おはよう、お2人さん。どう?減損は大丈夫そう?」 倉田は藤原と桜井に気づくと、笑顔で聞いてきた。 「ええ、何とか大丈夫です。」と桜井が答えると、 「だよね。昨日藤原くんにエサを撒いておいたから、さっそく助けに来てくれたでしょ?」 と悪びれることなく倉田が言った。 「エサって何ですか・・・」と倉田の言葉に得心のいかない藤原が呟く。 「だって、君、困っている人を見捨てられないタイプでしょ。」 倉田はそれを聞き逃さず、今度は藤原に向かって笑顔をキープしたまま言い放った。常に絶やさない倉田の笑顔は有無を言わせぬ迫力がある。 「いやぁー、素晴らしいね、師弟愛。というより、コンビ愛かな?」 はっはっは、と高笑いしながら倉田は何も言えずにいる藤原の横を通りすぎ、自分の席へ向かっていった。 「コンビ愛って、芸人扱いですよ、僕たち。」 「課長にとっちゃ、俺たちはイジると面白いオモチャみたいなもんだからな・・・」 「確かに。僕、いつも課長の手のひらで転がされている感じがしているんですけど・・・」 「・・・」 しばらく沈黙した後、2人は同時にため息をついた。   (了)

#No. 188(掲載号)
#関根 智美
2016/10/06

金融商品会計を学ぶ 【第28回】「ヘッジ会計⑨」

金融商品会計を学ぶ 【第28回】 「ヘッジ会計⑨」   公認会計士 阿部 光成   引き続き、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 包括ヘッジ ヘッジ対象が複数の資産又は負債から構成されている場合における、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額の配分は、各ヘッジ対象に対するヘッジの効果を反映する配分基準に基づいて行い、次のような配分方法がある(金融商品実務指針173項、343項)。   Ⅱ 金利スワップの特例処理 金融商品会計基準注解14は次のように規定している。 金利スワップについて特例処理が認められるためには、次の条件をすべて満たす必要がある。なお、売買目的有価証券及びその他有価証券は特例処理の対象としない(金融商品実務指針178項、「金融商品会計に関するQ&A」Q58)。 金利スワップの特例処理は、金融商品会計基準の基本原則であるデリバティブの時価評価に例外を設けるものであることから、拡張解釈を避け、金利スワップがヘッジ対象たる資産又は負債とほとんど一体とみなせる場合に限られている(金融商品実務指針346項)。 金利スワップの特例処理の適用要件を充足すればヘッジ有効性の要件は自動的に満たされると考えられるため、金融商品実務指針178項の条件に合致する金利スワップについては、改めて有効性判定を行うことは要しない(金融商品実務指針158項、346項)。 次の事項に注意する(金融商品実務指針178項、179項、346項、347項)。 (了)

#No. 188(掲載号)
#阿部 光成
2016/10/06

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第124回】金融商品会計⑫「デリバティブの時価評価、繰延ヘッジ」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第124回】 金融商品会計⑫ 「デリバティブの時価評価、繰延ヘッジ」   仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 素村 康一     〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) (1) ヘッジ会計を適用しない場合 〔X1年4月1日 借入れ及びスワップ契約締結時〕 〔X2年3月31日 決算日及び利払日〕 (※1) 借入金利息:100,000×0.5%=500 (※2) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-0.5%)=1,500 〔X3年3月31日 決算日及び利払日〕 (※3) 借入金利息:100,000×0.8%=800 (※4) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-0.8%)=1,200 (※5) 金利スワップの時価増加額10(=980-970)を認識する。 〔X4年3月31日 決算日、利払日及び返済日〕 (※6) 借入金利息:100,000×1.2%=1,200 (※7) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-1.2%)=800 (2) ヘッジ会計(繰延ヘッジ)を適用した場合 ((1)ヘッジ会計を適用しない場合と異なる部分のみ記載する) 〔X1年4月1日 借入れ及びスワップ契約締結時〕 〔X2年3月31日 決算日及び利払日〕 〔X3年3月31日 決算日及び利払日〕 〔X4年3月31日 決算日、利払日及び返済日〕   〈会計処理の解説〉 (1) デリバティブの会計処理 金利スワップとは、同一の通貨において、異なる種類の金利間での受払条件を変換することを目的として利用される取引です。例えば、変動金利を受取り、固定金利を支払う金利スワップなどがあり、これにより変動金利における金利変動リスクを低減することができます。 金利スワップはデリバティブ(金融派生商品)の一種であるため、「金融商品に関する会計基準(以下、「金融商品会計基準」という)」に従った会計処理が求められます。デリバティブ取引は、時価をもって貸借対照表価額とし、その評価差額は、後述するヘッジ会計を適用する場合を除き、当期の損益として処理します(金融商品会計基準第25項、第88項)。 取引所に上場しているデリバティブ取引については、貸借対照表日における当該取引所の最終価格を用いて時価評価します(金融商品会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)第101項)。 取引所の相場がない非上場デリバティブ取引については、合理的に算定された価額を用いて時価評価します。合理的に算定された価額は、一般に以下の方法により算定します(実務指針第102項)。 ž インターバンク市場、ディーラー間市場、電子売買取引等の随時決済・換金ができる取引システムでの気配値による方法 ž 割引現在価値による方法 ž オプション価格モデルによる方法 (2) ヘッジ会計 ヘッジ会計とは、ヘッジ取引のうち一定の要件を充たすものについて、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識することで、ヘッジの効果を会計に反映させるための特殊な会計処理をいいます(金融商品会計基準第29項)。 今回の設例では、借入金の利息がヘッジ対象に該当し、金利スワップ契約がヘッジ手段に該当します。 ヘッジ会計を適用する場合の会計処理は、以下の2つの方法があり、繰延ヘッジが原則的な方法とされています(金融商品会計基準第32項)。 また、ヘッジ会計を適用するためには、ヘッジ取引開始時における事前テストと、ヘッジ取引時以降における事後テストが必要です(金融商品会計基準第31項)。 *   *   * 次回は、金利スワップの特例処理について解説します。 (了)

#No. 188(掲載号)
#渡邉 徹、素村 康一
2016/10/06

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔労務面のアドバイス〕 【第4回】「大規模災害が社員に与えるストレス」

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔労務面のアドバイス〕 【第4回】 「大規模災害が社員に与えるストレス」   特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山 敏恵   災害によるストレスは長期に及ぶことが多く、様々な健康への影響が懸念される。「死ぬかもしれなかった」という恐怖体験、「大切な人を亡くす」という喪失体験だけでなく、水・電気・ガス・交通等のライフラインの遮断や避難所生活等によるストレス等がある。 こうした災害によるストレスは、PTSDやうつ病などの精神疾患を発症する要因となる。企業にとって社員の健康管理は不可欠であり、社員が安心して職場に復帰できる体制づくりが企業活動の早期復旧への近道であるといえよう。   (1) PTSDとは PTSDとは「心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)」の略称であり、災害などによって強い精神的衝撃を受けることが原因で、著しい苦痛や、生活機能の障害をもたらすストレス障害をいう。 命の安全が脅かされるような出来事や災害、強烈な精神的ショック(外傷体験)を経験することによって、それが非常に深い心の傷(トラウマ)となり、時間が経ってからも同じような恐怖を感じ続け、心身に様々な症状を引き起こす精神的な後遺症・疾患である。 外傷体験をすれば、誰でも恐怖を感じたり、何度も体験を思い出したりして苦しむものである。多くの人は時間が経つにつれて恐怖を克服していくが、PTSDの場合は、その記憶が1ヶ月以上にわたって薄れることはなく、突然怖い体験を思い出す。このため、不安や緊張が続く、頭痛がある、眠れないといった症状になって現れる。 PTSDの初期対応としては「安心感を与えること」「友人などから励ましの電話をもらう」「ニュースを見ない」などが求められるが、さらに下記のような心のケアが必要と考えられる。   (2) 社員のPTSDに対する企業サポートとは 社員のPTSDによるストレスが長期化している場合、企業の行う積極的なサポートとして、次のような対応が考えられる。   (3) 長期休業者への対応について 症状の悪化により長期休業に至った場合は、次のような対応が考えられる。   その他、下記の厚生労働省ホームページを参照されたい。 (了)

#No. 188(掲載号)
#小宮山 敏恵
2016/10/06
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