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《速報解説》 所得拡大促進税制の適用要件の見直しと 中小企業者等向け控除税額の拡充について ~平成29年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成28年12月8日、与党(自由民主党及び公明党)より「平成29年度税制改正大綱」が公表された。 平成29年度の税制改正においても、企業収益の拡大が雇用の増加や賃金上昇につながり、それが消費や投資のさらなる増加に結びつくという経済の好循環を強化するために、賃上げの引上げを促すための取り組みを進めるとの考え方が示されている。 賃上げの促進に関しては、かねてより、所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)が整備され、政策目標を着実に達成させるべく、過去数回の改正が行われてきたところである。平成29年度の税制改正大綱においても、上述の考え方を踏まえ、企業にさらなる賃上げインセンティブを与える機能を強化する観点から、直近において高い賃上げを行う企業への支援を強化するための改正が盛り込まれた。 本稿では、平成29年度税制改正大綱において示された、所得拡大促進税制の見直しの内容について述べる。なお文中意見にわたる部分は筆者の私見である。 2 所得拡大促進税制の適用要件(現行制度) 本税制の適用を受けるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要がある(措法42の12の4①)。 (※) 増加促進割合 3 改正点① 適用要件の見直し(中小企業者等以外の法人) 中小企業者等以外の法人について、本税制の適用要件のうち、平均給与等支給額に係る要件が見直されることとなった。 現行制度では、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を「超える」ことが要件とされているが、平成29年度の税制改正により、以下のように変更される。 平均給与等支給額は、2事業年度にわたり在籍する従業者(継続雇用者)の1人当たり・1月当たりの給与支給額を示す指標であるが、より一層の賃上げを促進する観点から、平均給与等支給額の増加幅について具体的な指標を用いて明確化するための改正であると考えられる。 なお、本改正は中小企業者等には適用されない。 4 改正点② 控除税額の上積み(中小企業者等) 中小企業者等の所得拡大促進税制による控除税額については、以下の2つの合計額とされる。 (2)の要件は、特に、前事業年度からの賃上げに対して追加的インセンティブを付与するものであり、中小企業者のさらなる賃上げを後押しするための改正であると考えられる。 なお、本改正は中小企業者等以外の法人には適用されない。 (注) 中小企業者等以外の法人の場合、上記(2)の12%が2%となる。 5 地方税への影響 事業税(外形標準課税)の所得拡大促進税制の取扱いについても、上記2点と同様に改正される予定である。 また中小企業者等については、所得拡大促進税制による税額控除は住民税(法人税割)の計算にも及ぶ点は従来と変わらない。 (了)
2016年12月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.197を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第48回】 「宝くじに係る課税と所得の実現(その3)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅰ 課税の時期の原則(承前) 2 実現概念(承前) (3) 収穫基準と所得税法 上記のとおり、Eisner v. Macomber事件において、所得の実現を決定付けたメルクマールは、“Derived-from-capital”-“the gain-derived-from-capital”である。すなわち、分離(separate)させて利用したり、利益を享受したりすることのできる利得こそが所得であるとしているのであるが、これは我が国所得税法においても採用されている考え方であると思われる。 例えば、所得税法41条《農産物の収穫の場合の総収入金額》は次のように規定している。 このように、その者が農産物を収穫した時に収穫した時の価額により収入があったものとみなされ、その収穫物を他に売却した時の所得計算に当たっては、その収穫価額を取得価額として計算することとされている(武田昌輔『コンメンタール所得税法〔3〕』3451頁(第一法規加除式))。 所得税法は権利確定主義を採用しており、そこでは、収入実現の蓋然性が高いといえるときに所得を認識するという考え方が採られている。そうであるとすれば、本来的には、単に収穫をしたのみで所得を認識するのではなく、これを他に売却し、経済的価値の流入がある場合、若しくは経済的価値の流入の蓋然性が高い場合になって初めて所得が認識されるのであるから、収穫の段階は原則的な所得認識の例外であるといえよう。つまり、例外的に所得認識の時期を早めているのが、所得税法41条であるといわれている。 所得税法41条は、「農業を営む者の農業所得の計算に当っては、農業以外の事業所得者のようにたな卸資産の自家消費があった場合のように所得計算をすることがむずかしいこと」に趣旨があるとも説明されており(武田・前掲書3451頁)、権利確定主義の例外的取扱いとして理解されているところである。つまり、同条は、一般的な所得の認識(実現)の時期よりも早期に所得の実現を捉えているのであるが、例外規定であっても、本体からの分離(separate)は担保されていなければならないという考えが底流にあると解されるのである。 このように、我が国所得税法においても、分離(separate)されていなければ、そもそも所得は実現していないものと解されていると思われる。 (4) 実現概念と換価可能性 「所得」とは担税力の指標であって、担税力が何らかの経済力を指標として把握すべきであるとする立場は、担税力を現金換価価値的なものとして捉える考え方と親和性を有すると考えられるところ、現金換価価値的なもので担税力を評価するという立場に立つと、現金換価価値として捉え得るか否かを、いわば市場の存在がその基礎にあるか否かで捉えることも可能ではないかと考える。 この点、米国では、ストック・オプションについて次のように規定している。 もっとも、我が国では、ここにいう「公正な市場価値」とは「客観的な交換価値」を指すものと理解されており、担税力を客観的な交換価値で評価するという考え方に支配されている。 Ⅱ 期待権と換価価値 1 期待権の意義 期待権とは、将来一定の事実が発生すれば一定の法律上の利益を受けることができるであろうという期待をもつことができる地位であると説明されている。例えば、相続人は、被相続人の死亡という事実が発生すれば遺産の一部又は全部を承継できるであろうという期待を法律上もつことができるから、その地位(相続権)は期待権である。また、入学すれば時計をもらうという契約をした者は、入学すれば時計を取得できるのであるから、条件付き権利という期待権をもつわけである。期待権の法律上の保護は期待権の種類によって異なるが、条件付き権利という期待権の保護は比較的大きいとされている(民128、129)。 さて、このような期待権については、どのように評価した上で、課税がなされるのであろうか。そこでは、すでに述べてきたとおり、期待権の有する現金換価可能性との兼ね合いが問題となる。 このような期待権を取引する市場があるとか、実際の譲渡を行い得るのであれば、客観的な交換価値が明確であるが、そうでない場合には、これを評価することは難しいといわざるを得ない。 2 宝くじの客観的な交換価値 さて、ここで、改めて設問を思い出そう。 これまで述べたとおり、客観的な交換価値を念頭におけば、問題としては、まず、課税のタイミングを考えるべきことになる。すなわち、付与時課税なのか、あるいは、当選時課税なのかという点が問題となる。 譲渡制限が付されているとか、又は、それを売買する市場の存在がないなどといった条件がある場合には、付与時に1枚300円で譲渡することも不可能であるし、ましてや宝くじである以上、1,003万円の権利が実現する蓋然性が高かったとは到底言えないのであるから、付与時課税はないことになろう。すると、その条件の下では、当選時課税によって、1,003万円で売買されることになると思われる。 他方、譲渡制限が付されていないのであれば、付与された後に宝くじを譲渡することが可能となる。そうであるとすれば、付与された資産は現金換価価値を有するものであるから、市場における客観的な交換価値を有しているものといえよう。すなわち、権利確定主義の下においても、収入実現の蓋然性は高いことから付与時課税が可能となる。 では、いくらで付与時課税がなされるのかという問題が待っているが、これは市場の評価に委ねるほかはあるまい。一般的には、1枚300円前後の価値ということになろう。 なお、上記の設問は、これまで述べてきた問題とは性質を異にしているということを付言しておきたい。すなわち、給与所得として付与時に1枚300円前後で課税がなされていることから、当選した際に改めて給与所得とされることはなく、この1,003万円は非課税所得ではあるが、一時所得に該当すると解されることになる(非課税所得もあくまで「所得」であることには変わりはないということに留意しなければならない。)。 (了)
高額特定資産を取得した場合の 納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例 【第1回】 「改正の概要及びその背景」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 ① 改正の概要とその背景 平成28年度の税制改正により、事業者(免税事業者を除く)が簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、その高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けることができなくなった。 なお、「高額特定資産」とは、一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額(税抜)が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産(※)をいう。 (※) 調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物、建物附属設備、構築物、機械及び装置、車両運搬具、工具器具備品その他の資産で、一の取引単位の価額(税抜)が100万円以上のものをいう。 本規定が創設された背景としては、仕入時の課税期間で「原則課税」により仕入税額控除を行い、仕入時の課税期間の翌課税期間において簡易課税制度を選択して仕入税額控除(みなし規定)を行うことで課税仕入れの2重控除となるケースがあり、問題視されていた。 そこで、高額特定資産を取得した場合には、その資産の仕入れ等の課税期間から3年間は、課税事業者となり、かつ、原則課税が強制適用されることとなった。 なお、本規定は、自己が資産等を建設する場合で、その建設費用のうち課税仕入れの支払対価の額の累計額(税抜)が1,000万円以上となった場合にも適用されることとなっている。 本規定は、平成22年度税制改正で創設された調整対象固定資産(税抜100万円以上の資産)の仕入れ等を行った場合の特例規定(納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例)と同様の規定となる。 ただし、本規定における高額特定資産は、棚卸資産、調整対象固定資産、自ら建設等をした資産(以下、「自己建設高額特定資産」という)を対象としており、棚卸資産及び自己建設高額特定資産も含まれることに注意が必要である。 ② 簡易課税制度による2重控除スキーム(改正前) PFI事業(※)を行う目的で設立された特定目的会社(SPC)が、そのPFI事業のための高額な資産(公共施設等)を取得した課税期間に原則課税によりその取得に係る課税仕入れ等について仕入税額控除の適用を受け、翌課税期間以後にその公共施設等の完成・引渡しを行った際に、簡易課税制度を適用することで、2重に仕入税額控除を受けることとなる。 (※) PFI(Private Finance Initiative)事業とは、公共施設等の整備等に関する事業であって、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することにより効率的かつ効果的に実施されるものをいう。 《消費税計算の流れ》 ① 公共施設等の建設をする(課税仕入れの発生) ② 第×1期目に届出書を提出し、第×2期目に簡易課税制度を選択する ③ 第×2期目に施設等の引渡しを行う(課税売上げの発生) ④ 第×2期目を簡易課税制度で計算する(課税売上げの70%が課税仕入れとなる) 公共施設等の建設等をした課税期間(第×1期)はその施設の建設等のみで引渡しは行っていないため、課税売上げは生じない。また、第×1期においては公共施設等の建設等に係る課税仕入れのみ生じているため、原則課税を採用すれば課税売上げに対応させその仕入れに係る消費税の控除を受け、還付を受けることとなる。 そして、第×1期に簡易課税制度選択届出書を提出することで、公共施設等の引渡し課税期間(第×2期)において簡易課税の適用を受けることとなり、その施設の引渡しが課税売上げになるため、その売上に対してみなし仕入率(建設業70%)を適用することとなる。 したがって、第×1期で建設等に係る税額控除をしているにもかかわらず、本来課税仕入れが生じていない第×2期においても再度税額控除するという、いわゆる2重控除というスキームとなっている。 * * * 次回より本改正について、「高額特定資産を取得した場合」と「自己建設高額特定資産を建設等した場合」に分けて解説していく。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第24回】 「給与所得の源泉徴収票(受給者交付用)、 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用)、 給与支払報告書へのマイナンバーの記載」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用)、給与所得の源泉徴収票(税務署提出用)、給与支払報告書へのマイナンバーの記載について教えてください。 〈A〉 それぞれ次の通りとなる。 1 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用) マイナンバーの記載は不要である。 2 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用) 配偶者特別控除の対象となる配偶者、16歳未満の扶養親族を除き、マイナンバーの記載が必要である。 3 給与支払報告書 配偶者特別控除の対象となる配偶者を除き、マイナンバーの記載が必要である。 * * * 以上をまとめると、下表の通りとなる。 【図表】 マイナンバーの記載 【参考①】 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用) 【参考②】 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用) 【参考③】 給与支払報告書 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q23】 「外国籍契約型投資信託の受益証券を保有する場合の タックス・ヘイブン税制の適用」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 タックス・ヘイブン税制の概要 タックス・ヘイブン税制(外国子会社合算税制)は、外国子会社を通じて行われる租税回避に対処するため、一定の条件の下で、軽課税国に所在する外国の子会社の所得をその親会社である内国法人の所得に合算して課税するものです。 タックス・ヘイブン税制は原則として内国法人に係る特定外国子会社(外国法人)に対して適用があります。ただし、外国信託についても一定の場合、適用があります。 タックス・ヘイブン税制の適用対象となる外国信託は、外国投資信託のうち租税特別措置法第68条の3の3第1項に規定する特定投資信託に類するもの、とされています。すなわち、外国投資信託のうち、①証券投資信託に類するもの、または②募集が公募かつ主として国内で行われる投資信託に類するもの、以外の投資信託について、タックス・ヘイブン税制の適用対象とされ、会社型の外国投資法人と同様の判定が必要となります(詳細については【Q25】参照)。 2 本件へのあてはめ おたずねの外国投資信託が、証券投資信託に類するとされる場合は、タックス・ヘイブン税制の適用対象外とされます。 証券投資信託の定義自体は投信法の規定をリファーしていますので、証券投資信託に類するかどうかについては、投信法の規定等に照らして判断する必要があると考えられます。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第4回】 「被災した取引先に対する支援の取扱い」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 災害見舞金 (※) 被災した自社の従業員等に対する災害見舞金の取扱いについては、【第3回】を参照されたい。 ① 被災した取引先に対する見舞金 被災前の取引関係の維持・回復を目的として、災害発生後相当の期間内(取引先の復旧過程)において、法人が取引先に対して災害見舞金を支出した場合は、交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3)。 これは、災害見舞金の支出が単なる慰安・贈答のためではなく、取引先の復旧を手助けすることにより、自らが蒙る可能性のある損失を回避するためのものと考えられるからである。 したがって、取引先の被災の程度や、取引先との取引状況等を勘案した相応の金額であれば、金額の多寡は問題とならない。また、このような場合は取引先から領収書の発行を受け難いことも考えられる。このときは、法人の帳簿書類に支出先の所在地、名称、支出年月日を記録しておく必要がある(国税庁「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(以下「災害FAQ」)Q17)。 ② 消費税の取扱い 金銭により支出する災害見舞金は、対価性がないため不課税取引に該当する。 ③ 取引先の役員等の個人に対する見舞金 被災した取引先にではなく、その役員や使用人等の個人に対して法人が個別に見舞金を支出する場合は、社外の者の慶弔、禍福に際し支出する金品等の費用として交際費等に該当する(措通61の4(1)-15(3))。 このような個人への見舞金の支出は、相手が個人事業主である場合を除いて、取引先の救済により法人の損失を回避するためというより、いわゆる付き合いとしての性質を有すると考えられるからである。 ただし、前回解説したように、法人が自己の役員等と同等の事情にある専属下請先の役員等又はその親族等に対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金は、損金に算入される(措通61の4(1)-18(4))。 2 事業用資産の供与又は役務の提供 (※) 不特定又は多数の被災者に対する自社製品等の提供の取扱いについては、【第3回】を参照されたい。 ① 被災した取引先に対する事業用資産の供与又は役務の提供 被災前の取引関係の維持・回復を目的として、災害発生後相当の期間内(取引先の復旧過程)において、法人が取引先に対して事業用資産を供与又は役務を提供した場合、その費用は交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3)。 ここでいう「事業用資産」には、取引先において棚卸資産や固定資産として販売又は使用されることが明らかな物品だけでなく、当該取引先の福利厚生の一環として被災した従業員等に供与されるものも含まれる。 ② 自社製品等を取り扱う小売業者等への交換又は無償補填 自社製品等を取り扱う小売業者等に対して、災害により滅失又は損壊した製品等と同種の商品を交換又は無償補填した場合、その費用は交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3(注1))。この場合、当該小売業者等が法人にとって直接の取引先であるか否かは問わない。 これは、当該費用は広告宣伝費や販売促進費の側面を有しているとみることができるためである。 3 債権の免除 ① 被災した取引先に対する債権の免除 被災した取引先の復旧支援を目的として、災害発生後相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程の期間)内に、当該取引先に対する売掛金、貸付金等の債権の全部又は一部を免除した場合、その損失は寄附金や交際費等として取り扱わず、全額を損金に算入する(法基通9-4-6の2、措通61の4(1)-10の2)。 上記の取扱いは、次のような場合にも同様である。 ② 取引先の範囲 上記の取引先には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のほか、商社等を通じた取引であっても価格交渉等を直接行っているような納品先など、実質的な取引関係にあると認められるものも含まれる(法基通9-4-6の2(注)、措通61の4(1)-10の2(注))。 ③ 一部の者だけが債権の免除を行う場合 被災取引先に対する債権免除が、上記のように寄附金や交際費等に該当しないとされるのは、債権免除が取引先の復旧支援を目的としているためである。したがって、被災した法人の全ての取引先が揃って債権免除を行うことは前提とされておらず、一部の企業のみが債権免除を行った場合でも、それが上記の要件を満たすものであれば、寄附金や交際費等には該当しない(「災害FAQ」Q20)。 ④ 消費税の取扱い 債権を免除したことによる損失(上記の要件を満たし、寄附金又は交際費等に該当しないもの)に係る消費税の取扱いは、次の通り当該債権の内容によって異なる(「災害FAQ」Q32)。 4 低利又は無利息での融資 ① 被災した取引先に対する見舞金 被災した取引先の復旧支援を目的として、災害発生後相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程の期間)内に、当該取引先に対して低利又は無利息での融資をした場合、当該融資は正常な取引条件で行われたものとされる(法基通9-4-6の3)。したがって、通常受け取るべき利息との差額を寄附金として取り扱う必要はない。 これは、取引先の復旧を手助けすることにより、自らが蒙る可能性のある損失を回避するためのものと考えられるからである。 ② 融資期間及び融資額の制限 融資が取引先の復旧支援を目的としたものであり、かつ、取引先の被災の程度や取引状況等を勘案した合理性のあるものであれば、融資期間や融資額に制限はない(「災害FAQ」Q22)。 ただし、言い方を変えると、「取引先が通常の営業活動を再開するまでの復旧過程の期間内の融資であって、あくまで復旧支援を目的とした融資額である必要がある」とも言える。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第21回】 「租税法上の評価⑤」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、東京地裁平成17年10月12日判決について解説を行った。 本稿では、東京地裁平成19年1月31日判決について解説を行う。本事件は、相続税法7条が租税回避の問題が生じるような特殊な場合に限り適用されるものか否かが争われている。 5 東京地裁平成19年1月31日判決・TAINSコード:Z257-10622 (1) 事実の概要 本事件は、株式会社A(以下「A」という)の代表取締役である原告が、Aの複数の株主からAの株式を買い受けたところ、市川税務署長が、上記株式の売買は、相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるとして、上記株式の譲渡の対価と当該譲渡があった時における上記株式の時価との差額に相当する金額を原告が贈与により取得したものとみなし、原告に対し、贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした事件である。 本事件の争点は、①相続税法7条が、取引当事者が、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にある場合に限り適用されるものであるか、②同条にいう「時価」の意義及び財産評価基本通達に規定されている株式評価方法の合理性の2つである。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、本事件では、納税者の主張は認められず、国側の課税処分が認められた。前回までで解説したように、特別な事情が認められない限り、財産評価基本通達に定める評価方式(本事件では、原則的評価方式)によるべきところ、額面金額の250%という低廉な譲渡価額であったため、低廉譲渡という認定を受けている。 なお、「原告が提示した買取価額を基に、原告と本件各譲渡人との間のせめぎ合いにより形成された価額である」という原告の主張に対しては、 として否定されている。判決文の中から推測される事実関係からすると、当然のことである。 この点については、【第17回】でも解説したように、第三者と言えるかどうかは、親族等やグループ内の関係に無いというだけでは足りず、他の要素を全く含まずに、売買価格に対してせめぎあいの交渉が行われる関係にある必要がある。すなわち、【第17回】で解説した従業員との取引だけでなく、取引先、仕入先、提携先、下請先などのように、売買価格について妥協が入りそうな要素が含まれている場合には、純粋な第三者とは言えないという点に留意が必要である。 また、本事件では、相続税法7条が、取引当事者が、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にある場合に限り適用されるものであるか否かが争われている。この点については、前述のように、租税回避か否かを問わないこととしており、条文の文言解釈からすると当然のことと言える。このことは、所得税法、法人税法において類似の事案が生じた場合においても同様である。租税回避の意図なく、低廉な価額で譲渡や譲受をした場合には、課税上の問題が生じる可能性があると言えよう。 さらに、本事件では、 という点も問題視されている。 すなわち、グループ内の売買であっても、財産評価基本通達に定める評価方法以外で売買がなされる事案は数多く存在し、とりわけ、外資系企業や上場会社では、自社の保有する非上場株式をDCF法などの評価方法により売買をしている事案も多い。このような事案は、必ずしも、財産評価基本通達に定める評価方法よりも高い金額になる場合だけでなく、安い金額になることも少なくない。そのような場合であっても、低廉譲渡として否認されるわけではなく、専門家による鑑定意見書が存在し、かつ、その計算過程に問題がないのであれば、租税法上も容認されることになる。 本事件の主要な部分ではないことから、他の事件に射程が及ぶ部分ではないものの、必要に応じ、専門家による鑑定意見書を入手しておく必要があるということが言える。 次回では、最高裁平成7年12月19日判決について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【96】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その24:「政令委任と租税法律主義①」) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 本誌の創刊以来、長く続いた本連載も、このテーマについての検討で、最後となった。長期にわたり続いた本連載を締め括るに相応しい、「租税法律主義とは何か」という根本的な問題と最も関係する、税法における政令委任のあり方について検討したい。 1 租税法律主義と政令・省令 まず、憲法第84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定している。 この憲法の趣旨からは、課税要件は法律で定めることが求められ、政令で定める場合でも、法律において政令で規定する内容について具体的に法律で定めたうえで政令に委任すべきものとされている。 なお、政令にではなく、手続事項として省令に委任される(法律から直接の場合もあれば、政令を介しての再委任という場合もある)こともあり、それが、手続事項といえども課税要件(減免を含む)に関する手続要件として定められている場合には、課税要件を省令で定めうるのかという問題を生じることになる。 筆者は、この点問題がないとはいえないと思っているが、省令においての手続要件としての規定例は多く存在しており、現在はあまり問題視されていない。そこで、この問題意識はここで触れるにとどめる。 これまでも、法律と政令の関係については、本連載において幾度か記しているが、その中で、【1】(〔第1章〕法(法源)の種類 4 成文法の種類 ④命令)や【2】(〔第2章〕法令の解釈方法(その1)3 法規的解釈 ④定義の委任命令)においては、「法律で命令へ委任するにあたっても、委任の内容・程度が具体的・個別的であることを要し、概括的・白地的な委任は許されないと解される。」、「命令によって解釈する旨の委任規定を置いている場合は、その委任が包括的白紙的委任として問題となる場合は格別、有効な法規的解釈として裁判所も拘束する」と、委任においては、個別的・具体的である旨、記している。 このように、問題となる委任の在り方については、「概括的」「包括的」「白地的」「白紙的」と複数の表現を用いているが、これらは裁判例や国会答弁(※)においても統一性なく使われていることから、本稿でも敢えて多くの表現で記したが、その内容は差があるものではなく、有効なものが個別的・具体的委任にも続くべきものである点には相違がない。 (※) これまで法律と命令の関係について、昭和29年5月17日参議院法務委員会や平成3年3月4日参議院予算委員会など、国会でも幾度か議論されており、その折には法制局長官等が答弁している。 そこで、この政令・省令への委任が問題となり、裁判例でその主張が認められた事例について見ていく。 2 租税法における委任命令の限界事例 ① 大阪銘板事件 第一審 大阪地裁昭和41年5月30日(行集17巻5号591頁) 控訴審 大阪高裁昭和43年6月28日(行集19巻6号1130頁、判例時報523号31頁、判例タイムズ223号179頁) 残念ながら、裁判所ホームページでは公開されていない。そこで事案の概略をここで紹介しながら進めていく。 下級審のものであるため、厳格な意味で判例と呼べるかは疑問されつつも、法人税法において特に多くみられる委任立法ないしは受任政令の問題について正面から取り組んだ画期的な裁判例であると評価されている(村井正「法律と政令」租税判例百選(別冊ジュリスト17号)14頁)裁判例である。 法人税法は、昭和40年に一新されており、これは旧法下の事案である。 旧法下においては、以下のように規定されている。 原告会社は、これら規則は所得の計算に関してのみ必要な事項を命令に委任できるとする法人税法9条8項の委任の範囲を超えた違法な規定であり、それに基づく本件処分は違法であると主張して、不服申立手続を経て出訴に及んだ。その主張に対する裁判所の判断は以下の通りである。 (A) 第一審の判断 上記のように判示した上で、本件では使用人賞与として支給された金員とは別に役員賞与が支給されており、その分は益金として計上すべきであるので、結局、損金とみなすことができるのは、全支給額の半額であるとした。 (B) 控訴審の判断 原審判決が規則10条の3第6項4号は租税法律主義に反して適用できないとしたのに対し、控訴審においては「10条の4本文の役員賞与中には、その性質において損金性を有する賞与は含まないと解するのが相当である」と、当該規定がすべての場合に租税法律主義に反するとする判断を回避しながらも、納税者の主張を容れ、原審を支持して控訴を棄却している。 なおこの事案は、この控訴審で確定している。 (続く)