〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第3回】 「別表8(1) 受取配当等の益金不算入に関する明細書」 及び 「別表8(1)付表 受取配当等の額の明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、平成27年度改正により、平成27年4月1日以後開始する事業年度から、受取配当等の益金不算入の対象となる「株式等の区分」及びその配当等の「益金不算入割合」が改正となったことによって、記載事項が増えた「別表8(1) 受取配当等の益金不算入に関する明細書」と、新しい様式として付け加わった「別表8(1)付表 受取配当等の額の明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、法人が内国法人から受ける配当金等の額について、「受取配当等の益金不算入」の規定(法人税法第23条等)の適用を受ける場合に作成する。 そもそも法人が払う配当金は、稼いだ利益から法人税を支払ったあとの「税引後利益」を原資としているので、その配当金を受け取った法人側でその利益にさらに法人税が課されると、いわば「二重課税」になってしまい不合理であることから、これを解消するためにその受取配当等を課税所得から減算するための制度が「受取配当等の益金不算入」である。 平成27年4月1日以後開始する事業年度から改正となった、益金不算入の対象となる株式等の区分及びその配当等の益金不算入割合は次の表のとおり。 (注) その他にも、通常の株式投資信託の収益の分配金については、改正前は収益の分配金の2分の1の金額の50%相当額が益金不算入であったが、その全額が益金不算入とされるなどの改正が行われている。 改正後の各区分の判定方法は次のとおりとなる。 完全子法人株式等 ・・・その配当等の額の計算期間(直前の配当基準日の翌日から今回の配当基準日までの期間をいう)の初日から当該計算期間の末日まで継続して完全支配関係がある場合。 関連法人株式等 ・・・その配当に係る基準日以前6ヶ月間、継続して3分の1超の保有割合である場合。なお、改正前の関係法人株式等については、その配当の効力発生日以前6ヶ月間、25%以上の保有割合である場合とされていた。 その他の株式等 ・・・その配当に係る基準日において5%超の保有割合である場合。 非支配目的株式等 ・・・その配当に係る基準日において5%以下の保有割合である場合。 また、平成27年度改正においては、受取配当等の益金不算入額を計算するときの負債利子の取扱いも併せて改正され、次の表のとおりとされた。したがって、平成27年4月1日以後開始する事業年度の申告から、関連法人株式等についてのみ負債利子控除を行えばよいことになる。 (注) 同時に、負債利子控除額の計算における簡便法の基準年度が、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度とされる改正が行われている。この結果、平成27年4月1日以後最初に開始する事業年度は、原則法のみしか採用できないことに留意する。 Ⅲ 「別表8(1)」及び「別表8(1)付表」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成27年4月1日以後終了する事業年度。 (ただし、本稿は税制改正が適用となる平成27年4月1日以後開始する事業年度を対象として解説している。なお、平成28年4月1日以後終了する事業年度からは改正後の別表様式が適用となるため、こちらも本稿の解説対象外となる。) (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 別表8(1) [当年度実績により負債利子等の額を計算する場合]欄 別表8(1)付表 [各区分共通] [完全子法人株式等] [関係法人株式等又は関連法人株式等] [その他株式等] [非支配目的株式等] (了)
改正国税通則法と 新たな不服申立制度のポイント 【第5回】 (最終回) 「現在の審判所における取消裁決の傾向、効果的な主張、立証の在り方」 弁護士 坂田 真吾 ここまで4回にわたり、今般の通則法の改正のうち重要と思われる点について解説をしてきた。とはいえ、本改正については、証拠の閲覧権限の拡大等、いくつか注目すべき改正点はあるものの、課税処分を行うのは税務署、国税局であり、審査請求を審理するのは審判所であるという基本構造は変わらないので、新通則法の下においても、納税者として行うべき効果的な防御方法に大きな変化はないと思われる。 そこで今回は、連載の最終回として、審判所において取消裁決となるのはどのような事案であるのか、また、取消裁決を得るためには、納税者は主張、立証のどのような点に留意するべきであるのかについて、私見を述べることとする。 1 取消裁決の傾向と原因 (1) はじめに 審判所においては、概ね、毎年、10%前後の事案が取消裁決に至る。税務紛争事案は千差万別であって、取消裁決の明確な類型化はできないが、筆者の経験上、以下のような事例があり得る。 (2) 推計課税、移転価格課税など、数字の取り方による取消し(訴訟では取り消されないような事案でも) まず、課税処分が一定の推定的な計算に基づく推計課税や移転価格税制による課税などの場合には、評価的な要素が多分にあることから、比較的、取消裁決に至りやすいといえる。 仮に裁判所に係属した場合には推計過程等が不合理とまでは言えないとして取消しされないであろうと思われる事案でも、審判所としては取り消す、といった現象も生じていると思われる。裁判所は、法律解釈については自らの専門であるから精査するが、細かな計算過程については課税庁の裁量をそれなりに認める傾向があるといえよう。 これに対し、審判所(の職員)は、税額の計算過程については一種のプロ意識をもっており、原処分庁のした計算についても、自ら一から計算(推計)することを厭わず、その結果、事実上、推計的な事案での取消し率が高くなる傾向があると考えられる。 (3) 事実認定に無理がある事案 ① 形式的な事柄による判断 比較的多いのが、原処分の事実認定に、証拠から照らして無理がある事案の取消しである。これにはいくつかの原因が考えられる。 まず、調査担当者が、当事者間の契約書の文言などの形式的な事柄に拘泥して、実態と異なる認定をしてしまうことがある。 私法上の契約は、当事者間の意思の合致によって成立する。法律で書面作成が要求されていない限り、契約書等の書面は当該意思を立証する1つの手段に過ぎない。したがって、仮に、契約書にAと記載してあっても、特段の理由で実はBであるという場面もあるし、裁判所が事実認定をする場合には、契約締結に至った経緯、商慣習、契約後の各種の事情等を総合的に考慮して、契約の内容がAなのかBなのかを判断する。 例えば、審判所平成24年10月10日裁決(裁決事例集No.89)では、相続税の更正処分において、原処分庁は、被相続人の所有する建物についての賃貸借契約書が「建物(店舗)一時使用による賃貸借契約書」とされていたことから、当該建物を貸家でなく自用家屋として評価するべきであるとしたが、裁決では、契約締結後の更新状況、高額の保証金があること、相当額の賃料の支払いが継続されていること等の実態を認定し、継続した賃貸借契約があるとして、貸家として評価するべきであるとして原処分を取り消した。 思うに、税務調査の現場では、大量の調査対象者を短期間で調査しなければならないから、一種の割り切りとして、なるべく形式的な事柄で判断し、納税者に修正申告を勧奨するという取扱いがあるのではないかと推測される。しかし、審判所や裁判所の事実認定では、そのような取扱いを正面から認めることはできない。 ② 不合理な事実認定による通達の適用 ほかにも、事実認定を割り切って定式化した通達をそのまま適用し、不合理な事実認定をしている事案もあるものと考えられる。 例えば、相続税法基本通達9-9では、不動産等の名義変更があった場合において対価の授受が行われていないときは、原則として贈与として取り扱うとし、個別通達(名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて(直審(資)22(例規)、直資68(例規)))において、その名義人となった者(名義人となっていることを知らず、財産を使用収益していない場合に限る)が、申告等の期限までに名義を取得者等の名義とした場合に限って、贈与がなかったと取り扱う旨定めている。 しかし、これは、民法の通謀虚偽表示の理論等と合致しない形式的な取扱いであるから、当該通達にあるような事情だけで課税処分を行った場合には、取消裁決となる場合があるだろう。 ③ 納税者側が非協力の場合 また、これは必ずしも課税庁の責任ではないが、納税者側が調査に非協力で証拠を提出せず、納税者に有利な証拠も考慮されずに処分される場合がある。 これらの証拠が審査請求段階で提出されると、原処分の前提とした事実関係を審判所が認定できず、結果として処分が取り消されることがある。 この点、まれに、課税庁の職員は、「証拠の後出し」は理論上許されないという考えをしていることがある。 言うまでもなく、証拠はいつ提出してもよいのであり、提出が遅くなるということは、その信用性が低くなる要素(最近作成したのではないかという疑いが生じる)とはなっても、後出ししたから直ちに証拠として認められない、というものではない。 (4) 法解釈、適用に無理がある事案 また、原処分の法解釈、適用に無理があり、審判所がそのような解釈を採らずに取り消す事案もある。 当該原処分庁の解釈が法令解釈通達に沿う場合もある。例えば、利息制限法を超過する利率で貸付を行い、一定期間約定どおりに返済があった後、未収利息を収益計上する場合の計算について、所得税基本通達36-8の5、法人税基本通達2-1-26は、原則として約定の利息、残元本を基準に収益計上額を計算する旨定めているが、これは最高裁昭和46年11月9日判決と整合しない(最高裁は、制限利率を超過する利息部分は元本に充当されたことを前提に残元本額を計算し、それに係る未収利息額のみ収益とする)。 審判所平成23年12月1日裁決(裁決事例集No.85)は、このような法解釈により原処分の一部を取り消している。 筆者が審判所に勤務して印象的であったのは、事実認定のみが問題になる事案が多数を占める民事裁判とは異なり、審査請求事案では、事実関係に争いがなく、法解釈のみが争点となる事案が相当数存在するということであった。税法が複雑であり、頻繁に法改正があること等に由来するのであろう。 原処分庁が無理な法解釈をしている事案では、審判所は積極的に法解釈を示して処分の取消しを行うことがある。ただし、審判所としても、原処分を取り消せば原処分庁が訴訟提起することはできないし、審判所として法解釈を示すと課税実務への影響も大きいので、棄却をして裁判所の判断を仰ぐべきである、という意見になることもままあるものと考えられる。 2 納税者の主張、立証の在り方 取消裁決に至る、ということは、原処分に事実誤認か法律解釈・適用の誤りがあるということである。 したがって、取消裁決を獲得するためには、書面をもって、説得的に、原処分庁の事実誤認、法律解釈の誤りを主張し、証拠を提出する必要がある。 (1) 法律の趣旨に遡る まず、税法の解釈、適用が問題となる事例では、法的な主張を整然と行うことが肝要である。 単に条文、通達、実務上の取扱いを漫然と述べるだけではなく、所得税法、法人税法、相続税法等の根本的理解を前提に、当該論点に係る条文の文言、条文の趣旨、過去の類似事案の判例・裁決、判例・裁決の射程距離の分析、通達の文言や、課税庁が当該通達の趣旨をどのように考えているのか等を踏まえる必要がある。 なお、「他に調査を受けた事案ではこうだ」とか、「これまでこんな指摘を受けたことはない」式の議論(法律ではなく経験に力点を置く議論)は、ときとして税務職員の常識に訴えて効果を持つことはあるのであろうが、それでは税務職員が納得しないから処分がなされているはずなので、再調査の請求や審査請求段階ではさほど有効な主張にはならない場合が多いと考えられる。 また、「過去の照会事例やQAにこのように書いてある」式の議論は、一見もっともらしく聞こえるが、税務署側が当該照会事例等はこの事案に適用されないと考えているから処分がなされているはずなので、そのような議論だけでは水掛け論に終わる。 したがって、なぜ、当該照会事例と同様に本件を考えるべきかを理由を付けて説得する必要があり、そのためには、法律や法律の趣旨に遡って説明しなければならない。 (2) ストーリーをもって説明する 次に、事実の存否が問題になる事案では、事実関係や証拠関係を早い段階で確定させておくことが肝要である。 特に、税務調査段階で税務署側が把握していない事実、証拠については、可能な限り早期に整理し、提出する必要がある。早期に容易に提出できたはずなのに、審査請求、訴訟で後出し的に提出をすると、そのこと自体で信用性が低くなってしまう場合もあり得る。 事実や証拠の提出は、一見簡単なように見えて、創造的な作業である。事実は1つでも、見方によって何通りもの説明があり得る。 上でも述べたが、例えば契約書の文言は、契約書の作成経緯を抜きに解釈することができない場合がある。どのような事実関係が契約書作成の背景にあったのかをストーリーをもって説明することで、契約書の見え方が変わってくる。 また、常に、当方の主張に対する反論を考えながら事実、証拠を吟味することも重要である。一定の反論が想定される場合には、それを先回りして説明しておくことで、事実の説明の確からしさが補強されうる。 以上のことは、訴訟弁護士の基本をそのまま税務紛争に当てはめたに過ぎないが、再調査の請求、審査請求における効果的な主張、立証の在り方を考える際には、おろそかにできない視点であると信じる。 (連載了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例37(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例 土地・建物等の譲渡による譲渡所得の金額と他の所得との間の損益通算は認められないが、次のいずれかの適用を受ける場合には損益通算が認められる。 (1) 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算の特例(措法41条の5) 個人が所有期間5年を超える居住用財産の譲渡(その個人の親族等に対する譲渡など一定のものを除く。以下「特定譲渡」という)をした場合において、その特定譲渡年の前年から特定譲渡年の翌年までの間に一定の買換資産の取得をし、かつ、その取得年の翌年までの間に居住の用に供したときは、その特定譲渡による譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額のうち一定の方法により計算した金額は、一定要件の下で他の所得との損益通算ができる。ただし、この損益通算の特例は、買換資産を取得した年の年末において、その買換資産の取得に係る住宅借入金等の残高がある場合に限り適用できる。 なお、損益通算の特例を適用した結果、控除しきれなかった損失金額があるときは、3年間の繰越控除が認められる。また、この特例と住宅借入金等特別控除制度は併用が可能となっている。 (2) 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例(措法41条の5の2) 個人が所有期間5年を超える居住用財産の特定譲渡をした場合(その譲渡資産の取得に係る住宅借入金等の残高がある場合に限る)において、その特定譲渡による譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額に係るものとして一定の方法により計算した金額(その譲渡資産に係る住宅借入金等の合計額からその譲渡資産の譲渡対価の額を控除した残額を限度とする。以下「特定居住用財産の譲渡損失の金額」という)については、一定の要件の下で、他の所得との損益通算ができる。 なお、損益通算の特例を適用した結果、控除しきれなかった損失金額があるときは、3年間の繰越控除が認められる。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第6回】 「募集株式の発行等⑤」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、神戸地裁昭和51年6月18日判決について解説を行った。 【第6回】に当たる本稿では、東京地裁昭和52年8月30日判決、東京地裁昭和56年6月12日判決について解説を行うこととする。 6 東京地裁昭和52年8月30日判決・金判533号22頁 (1) 事実の概要 本事件は、第三者割当により新株100万株を1株当たり150円で発行しようとしたところ、①適正価格が338円であり有利発行に該当すること、②支配権獲得目的のためであることから、著しく不公正な方法による新株の発行であるとして、差止めを求めた事件である。 本稿は、非上場株式の評価についての連載であるため、前者の論点のみについて解説を行うこととする。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 本事件も、類似業種比準価額方式が採用されているが、算定基準日以降の業績悪化を加味したうえで修正を行っているという点で興味深い判決である。 しかし、「本件新株の価額決定時までに相当程度低落しているものと推認」されるのであれば、その数値をある程度は算定すべきであり、やや大雑把な判決であると言える。また、「新株の消化可能性」について触れられている点も興味深い。上場会社では、新株の消化可能性を考慮して10%程度のディスカウントを行うことはあり得るが、非上場会社においても同様に解されるかどうかは当然に議論がなされるべきだからである。 7 東京地裁昭和56年6月12日判決・判時1023号116頁 (1) 事実の概要 本事件は、経営支配権に争いがあったところ、①取締役に反対派を再任しなかったこと、②自派の者に対して額面金額50円で第三者割当を行った事件につき、それぞれ損害賠償責任を追及した事件である。 本稿では、このうち、後者についてのみ解説を行うこととする。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、純資産価額方式を採用した理由としては、小規模会社であること、経営に関与できる立場にあったことであるため、その点については、一応合理的な判決であったということができる。 しかし、その後の減額については、業績悪化によるディスカウントと非流動性ディスカウントがそれぞれ行われているが、時価純資産方式を採用している中でこのようなディスカウントを行うことは聞いたことがなく、非常に違和感のある判決である。業績悪化によるディスカウントを考慮するのであれば、DCF方式、収益還元方式との折衷方式を採用すべきであり、非流動性ディスカウントを考慮するのであれば、時価純資産の算定において、個別の資産につき清算価値を考慮すべきであり、無理矢理数字を作りこんだと言われても仕方のない判決であるともいえる。 また、含み益に対する法人税相当額の控除については、税効果会計が導入されていなかった当時ではやむを得ないのかもしれないが、現在では、このような税効果を加味するのは当然のことであり、本判決の射程は及ばないと考えられる。 現在でも、DCF方式や収益還元方式の恣意性の高さにより、時価純資産方式との折衷を行う事例は見られるところであり、そのような事件では、本事件の内容を参考にすることができると考えられる。 次回では、大阪地裁平成2年2月28日判決及び京都地裁平成4年8月5日判決について解説を行う予定である。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第10回】 「有価証券評価損」 ~有価証券評価損の計上が認められないと判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた有価証券評価損の否認に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた長崎地裁平成18年11月7日判決(税資256号順号10565。以下「本判決」という)を取り上げる。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、次のとおり、本件処分は帳簿記載の基礎となる事実関係を否定してされたものではないから、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当するとした上で、理由付記に不備はないと判断した(この判断は、控訴審である福岡高裁平成19年4月10日判決・税資257号順号10682でも維持されている)。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 私見 (1) 関係法令等の確認 内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されないのが原則であり(法法33①)、例外的に特定の事実が生じた場合にのみ評価損の損金算入が認められているところ、有価証券については、法的整理の事実がある場合を除くとすれば、次の要件を満たした場合に評価損の損金算入が認められる(法法33②、法令68①二)。 本件株式のような上場有価証券以外の有価証券に係る評価損の損金算入が認められるためには、「その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」(法令68①二ロ)という上記〔1〕【2】の要件を満たす必要がある。 法人税基本通達は、この場合の「著しく低下した」というためには、①当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、②近い将来その価額の回復が見込まれないことという2つの基準をクリアする必要がある旨定めている(法人税基本通達9-1-7、9-1-11)。 ②の基準は条文に明記されているものではないが、企業会計原則第三の五B及び会社計算規則5条3項1号においても資産の評価損を計上する場合に求められているものであって、このような解釈は本判決を含む裁判例において認められる傾向にある(ただし、条文に明記されていない以上、厳密な意味での要件と解すべきか否かは議論があると考える)。 この点について、例えば、本判決の控訴審である福岡高裁平成19年4月10日判決(税資257号順号10682)は、大要次のとおり判示している。 (2) 求められる理由付記の程度 本件における帳簿書類の記載内容は明らかではないが、本件は、B社株式の回復見込みの有無に関する評価についてX社と課税庁の見解が相違しているケースであり、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記には、法人税法上、有価証券に係る評価損の損金算入が認められるためには、「その有価証券の資産価値がその帳簿価格に比べ異常に減少し、その減少が固定的で回復の見込みがない状態であること」という要件を満たす必要があるという法令上の根拠が示されている。そして、「貴法人からは、B社が5か年で債務超過を解消する計画である旨の説明あるいは資料の提示はあるものの、本件株式の価額が回復する見込みがないことについての具体的な明示がされていません。」として、上記要件を満たすための事実が明らかにされてない旨の記載がなされている。 そうであれば、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるから、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 * * * 次回は、債権放棄による貸倒損失の計上を否認した上で、寄附金に該当するものとした法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【81】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その9:「租税法律主義の意義②」(最判昭30.3.23)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (3) 最高裁の判断 前回の第一審・第二審に続き、最高裁判決について見ていく。 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 この中では、以下の結論を示している。 この部分で、租税法律主義による基本を確認し、以下にこの視点から地方税法の規定の是非につき言及している(下線筆者)。 この判決は、事例判決かそれとも一般的法命題の示されている法理判決か、形式の点では判断の難しいところがあるが、その内容は租税法律主義の点から地方税法と憲法の関係について、見解を示している。厳密な意味で、他の税法と憲法の関係までもその射程に含んでいるかは見解が分かれそうなところではあるが、その内容から、他の税法との関係まで示唆しているものと判断できよう。 すなわち憲法84条から「租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、徴税の手続はすべて・・・法律に基づいて定められなければならない」ことを確認した上で、租税は「法律に基づいて定めるところに委せられている」としている。 なお租税法律主義の基本的内容としては、遡及立法の禁止、課税要件法定主義、課税要件明確主義が挙げられるが、その中でも、課税要件法定主義は、判示にあるように、租税の創設・改廃、納税義務者や課税標準といった課税要件そして徴収の手続等はすべて法律または法律に基づいて定めることを要求している。 判決ではこれらについて、法律の立法にあたっての幅広い裁量権が認められていることを示しているが、もとよりその裁量権は無制限なものではなく、憲法の諸規定の範囲内であることを前提としている。判決は当然、その範囲内であるという前提に立ったものと思われるが、この点、判決は当該法律については徴税上の便宜として許容範囲内にあることを明示したものと思われる。 なおこの点、高裁は憲法13条の「公共の福祉」にあるとしたが、最高裁はこの点を「公共の福祉による制約として説示したのは妥当を欠くきらいがない」と否定している。この点は、上告審における上告人のXの主張に応えることからのものと思われる。では以下で、上告審におけるXの主張を見ていこう。 5 上告審における納税者側の主張 この上告審の主張は、上記「公共の福祉」の点のみならず、この地方税法の規定の歴史的経緯にも触れ、批判を展開しており、誠に興味深い。裁判所ホームページで公開されている判決には掲載されていないため全文を紹介したいところではあるが、カタカナ仮名による表記であるため、要点のみ紹介する。 ここで上告人(納税者側)は以下のように主張する。 すなわち、「公共の福祉」は、憲法改正の際米語「パブリック・ウェルフェア」の和訳字として採択されたもので、福祉は幸福の意義であることから、「公共ノ福祉」とは「公の幸福」であるとする。そしてその意義に照らして、土地の所有者でない者に、真の所有者のために税の支払いを義務付けることは、正当ではない旨、そしてこれは法の基本的観念である「衡平」を害するものであり、これを許せば、行政上の便宜と行政費用の節約のためには国民の基本的人権その他の権利も「公共の福祉」の名の下に無視してよいということになりかねないと批判する。 次に、固定資産税は沿革的に「地租」にその源があるとして、地租法以来の変遷を次のように紹介(上告人が記した以外に、筆者が補足して記載する)したうえで、以下の旨批判する。 そして「新法(固定資産税法)によれば毎1月1日に誤あればその年中1年の久しきに渉りこの誤を修正し方法がない。その不都合、不公平、不合理たるや前者(旧法)の比ではない。本来本税は土地に関する限り、地租と異なる処が無い以上は、旧法における比較的利便、公正を考慮しその解釈を合理化し法の欠缺を解釈によりて修正緩和して納税に付き国民に必要的害悪感を除去する努力をすることが公僕たる公務員、特に裁判官の義務である」とする。 6 「公共の福祉」の意義 少しテーマと逸れるため、詳細な検討は避けるが、丁度この判決の前後に「公共の福祉」の意義について、いくつかの裁判例で示されており(ただし直接その意義を述べるものは多くない)、裁判所ホームページにおいて公開されているもので、そのいくつかをここで紹介する。 この15頁に「ここに公共の福祉とは、・・・」と判示されている。 この判決は、上記裁判例のように「公共の福祉」について直接示したものではないが、ジュリスト別冊の憲法判例百選(初版)において「公共の福祉による財産権の制限」に関する代表的判例として掲載されていたものである。 * * * 次回はこの事案のまとめとして、最高裁判決への批判及び関連する判例を紹介したい。 (続く)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第25回】 「退職給付引当金(簡便法)」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、退職給付引当金(簡便法)の会計処理について解説する。 退職給付引当金は、原則、数理計算により算定する。これを原則法という(【第14回】参照)。一方、従業員数が比較的少ない小規模企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付引当金(退職給付に係る負債)及び退職給付費用を計算することができる(企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準(以下、「基準」という)」26)。この方法を簡便法という。 なお、連結財務諸表上では、退職給付引当金は「退職給付に係る負債」で表示する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 簡便法は全ての企業で採用できるわけではない。原則として従業員数 300 人未満の企業の場合に、簡便法を採用できる(企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」という)」47)。300人以上の場合には、数理計算に一定水準の信頼性が得られるが、300人未満の場合には、一定水準の信頼性が得られないため、300人という基準が設けられている。 そのため、従業員数が300人未満の場合は、【STEP2】を検討し、300人以上の場合は、原則法を適用し【第14回】の内容を検討する。 ただし、従業員数が 300 人以上の企業であっても年齢や勤務期間に偏りがある(例えば、会社設立後間もないため)などにより、原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、簡便法によることができる(適用指針47)。そのため、原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、【STEP2】を検討し、信頼性が得られる場合には、原則法を適用し【第14回】の内容を検討する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ここでの従業員数とは退職給付債務の計算対象となる従業員数を意味し、複数の退職給付制度を有する事業主にあっては制度ごとに判断する(適用指針47)。 また、従業員数は毎期変動することが一般的であるので、簡便法の適用は一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決定する(適用指針47)。 なお、連結グループにおいて、原則法と簡便法のいずれかに統一する必要はない(適用指針110)。 簡便法においても退職給付引当金の算定は、原則法と同様である。 ここでは、「退職給付債務」を算定する。 退職給付債務は、「(1)退職一時金制度の場合」、「(2)企業年金制度の場合」、「(3)退職一時金制度の一部を年金制度に移行している場合」で異なる。そのため、まず、自社の退職金制度が(1)から(3)のいずれに該当するかを判断する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (1) 退職一時金制度の場合 退職一時金制度の場合、以下の3つの方法があるため、各社でいずれかの方法を選択する必要がある。いずれも自己都合要支給額をもとに算定する。 ① 比較指数法(適用指針50(1)①) 比較指数法では以下のように退職給付債務を算定する。 翌年度以後においては計算基礎等に重要な変動がある場合は、比較指数を再計算する。 ② 割引率・昇給率法(適用指針50(1)②) 退職給付に係る期末自己都合要支給額に、平均残存勤務期間に対応する割引率(適用指針【資料1】)及び昇給率(適用指針【資料2】)の各係数を乗じた額を退職給付債務とする。 ③ 自己都合要支給額法(適用指針50(1)③) 退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする。 実務上は、この方法が多いと考えられる。 (2) 企業年金制度の場合 企業年金制度の場合、以下の3つの方法があるため、各社でいずれかの方法を選択する必要がある。いずれも数理債務をもとに算定する。 ① 比較指数法(適用指針50(2)①) 比較指数法では以下のように退職給付債務を算定する。 翌年度以後においては計算基礎等に重要な変動がある場合は、比較指数を再計算する。 ② 組み合わせ法(適用指針50(2)②) 組み合わせ法では在籍従業員とそれ以外に分けて、以下のように退職給付債務を算定する。 ③ 数理債務法(適用指針50(2)③) 直近の年金財政計算上の数理債務を退職給付債務とする。 (3) 退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している場合 退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している場合、以下の2つの方法があるため、各社でいずれかの方法を選択する必要がある。 ① 退職一時金制度の未移行分と企業年金制度への既移行分に分ける方法(適用指針51(1)) 退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務を上記(1)の方法で算定し、企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務を上記(2)の方法で算定する。 ② 在籍する従業員と年金受給者・待期者に分ける方法(適用指針51(2)) 在籍する従業員については企業年金制度に移行した部分も含めた退職給付制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については年金財政計算上の数理債務の額をもって退職給付債務とする。 年金資産とは、特定の退職給付制度のために、その制度について企業と従業員との契約(退職金規程等)等に基づき積み立てられた、次のすべてを満たす特定の資産をいう(基準7)。 年金資産の額は、期末における時価(公正な評価額)により計算する(基準22)。時価は年金資産の受託会社である信託銀行や生命保険会社が算定したものを使う。 期末日における年金資産の額については、時価を入手する代わりに、直近の年金財政決算における時価を基礎として合理的に算定された金額(例えば、直近の時価に期末日までの拠出額及び退職給付の支払額を加減し、当該期間の見積運用収益を加算した金額)を用いることもできる(適用指針48(2))。 【STEP2】で算定した退職給付債務から【STEP3】で算定した年金資産を除いた金額が退職給付引当金となる。 連結上、退職給付引当金は、退職給付に係る負債で表示する。 簡便法による退職給付費用は以下のように計算する(適用指針49)。 簡便法では、数理計算上の差異や過去勤務費用は発生しない。 簡便法を適用した退職給付制度がある場合、以下の事項を注記する(適用指針62)。 なお、会社計算規則では、上記のような規定はない。 * * * 以上、6つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第9回】 「就業規則の改定②(「採用時の提出書類」の条文の改定)」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 当社の「採用時の提出書類」の条文の改定について教えてください。現在の条文は以下の通りです。 〈A〉 会社は、第1項第6号の給与所得者の扶養控除等申告書に個人番号を記載してもらい、従業員の個人番号を取得する。会社が従業員から個人番号を取得する際には、番号確認と身元確認を行わなければならない(【第4回】参照)。 取得の方法には、対面、郵送、オンラインがあるが、採用時の提出書類は通常、紙で提出することから、オンラインは除外する。 (1) 対面による取得 ① 番号確認 番号確認は、次のいずれかにより行う。 個人番号カード 通知カード 個人番号が記載された住民票記載事項証明書など ② 身元確認 対面で確認して従業員本人に相違ないことが明らかであれば、不要である。 (2) 郵送による取得 ① 番号確認 番号確認は、次のいずれかにより行う。 個人番号カードのコピー 通知カードのコピー 個人番号が記載された住民票記載事項証明書のコピーなど ② 身元確認 身元確認は、次のいずれかにより行う。 個人番号カードのコピー 運転免許証、パスポート等の写真付き身分証明書のコピーなど 上記(1)①、(2)①の個人番号が記載された住民票記載事項証明書について、個人番号が記載された住民票としなかったのは、採用時の提出書類として住民票は好ましくないので住民票記載事項証明書にするようにという通達が出ているからである(基発第83号・婦発第40号)。 以上を前提に改定を行う。 〈パターン1(郵送による取得)〉 第1号のカッコ書きに“個人番号が記載されていないもの”を追加した。これは、第9号とかぶらないようにするためである。また、第9号に“個人番号カードの写し、または、通知カードの写し及び写真付き身分証明書の写し”を追加した。 〈パターン2(対面による取得)〉 第1号のカッコ書きに“個人番号が記載されていないもの”を追加した。これは、第9号とかぶらないようにするためである。また、第9号に“個人番号カード、または、通知カード(提示)”を追加した。これは、対面による提示の場合、身元確認が不要となるためである。 〈パターン3(対面による取得)〉 第1号のカッコ書きに“個人番号が記載されているもの。提示”を追加した。これは、対面による提示の場合、身元確認が不要となるためである。 (了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第23回】 「遺族年金と養子縁組」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 問 題 【問題①】 A男とB女の婚姻後、子Cが生まれたが、その後、A男が死亡し、B女は遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給していた。その後、B女がD男と再婚し、D男と子Cが養子縁組を行うことで、B女または子Cの遺族基礎年金、遺族厚生年金はそれぞれどうなるか。 【問題②】 A男とB女の婚姻後、子Cが生まれたが、その後、A男とB女は離婚し(子Cの親権者はB女)、D男と再婚したものの、その後、D男が死亡した場合、B女または子Cは遺族基礎年金、遺族厚生年金を受けることができるか。D男と子Cが養子縁組を行っていた場合はどうか。 【問題③】 A男とB女の婚姻後、子Cが生まれたが、その後、A男とB女は離婚し(子Cの親権者はA男)、D女と再婚したものの、その後、A男が死亡した場合、D女または子Cは遺族基礎年金、遺族厚生年金を受けることができるか。D女と子Cが養子縁組を行っていた場合はどうか。 回 答 【問題①】 子Cは遺族厚生年金を受給でき、その後、子CがB女と別居するなどして生計同一関係が解消された場合には、子Cは遺族基礎年金も受給できる。 【問題②】 子CとD男とが養子縁組を行っていた場合、B女は遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権者となる。その後、子CがB女と別居するなどして生計同一関係が解消された場合には、子Cのみに遺族基礎年金、遺族厚生年金が支給される。他方で、子CとD男とが養子縁組を行わずにD男が死亡した場合には、B女は遺族基礎年金の受給権者とはならないが、遺族厚生年金の受給権者とはなる。 【問題③】 D女と子Cが養子縁組を行っていたか否かを問わず、D女は遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権者となる。その後、子CがD女と別居するなどして生計同一関係が解消された場合には、子Cのみに遺族基礎年金、遺族厚生年金が支給される。 解 説 [1] 遺族年金の概要 1 遺族基礎年金とは 遺族基礎年金は、国民年金に加入中の者が死亡した場合、その他一定の要件を満たした場合に、死亡した者によって生計を維持されていた子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、または20歳未満であって障害等級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。以後同じ)のある配偶者、または子に支給される(国法37の2)。 遺族基礎年金は、遺族となった子を養育するための年金といえるため、子のない配偶者には受給権はなく、生計を同じくしている子がいる配偶者に遺族基礎年金が支給される。また、子に対する遺族基礎年金は、配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するとき、または生計を同じくするその子の父もしくは母があるときは、その間、その支給が停止される(国法41②)。 そのため、子が別居するなどして親との生計同一関係が解消された場合には、子への支給停止が解除され、子に遺族基礎年金が支給され、親の受給権は失権する(国法40②・39③五)。 2 遺族厚生年金とは 遺族厚生年金は、厚生年金に加入中の者が死亡した場合、その他一定の要件を満たした場合に、死亡した者によって生計を維持されていた遺族(配偶者、子、父母、孫または祖父母)に支給される(厚法59)。 子に対する遺族厚生年金は、配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間、原則としてその支給が停止され(厚法66①)、配偶者に対する遺族厚生年金は、配偶者が国民年金法に基づく遺族基礎年金の受給権を有しない場合であって子が当該遺族基礎年金の受給権を有するときは、原則としてその間、その支給が停止される(厚法66②)。 そのため、配偶者、子との間における受給権者の優先順位は、子のある配偶者、子、子のない配偶者となる。 3 受給権の失権 遺族基礎年金、遺族厚生年金の受給権がある子は、養子になったときには失権するが、直系血族、直系姻族との養子縁組の場合は失権しない(国法40①三、厚法63①三)。 そのため、子が親の再婚相手の養子となった場合、または祖父母の養子となった場合でも子の受給権は失権しない。また、親が再婚しても子の受給権が失権することはない。 遺族基礎年金、遺族厚生年金とも、受給権者が婚姻をしたときは失権する(国法40①二、厚法63①二)。 [2] 【問題①】について B女は、死亡した者(A男)によって生計を維持されていた子(子C)のある配偶者、死亡した者(A男)によって生計を維持されていた配偶者にそれぞれ該当する結果、遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給権者である。子Cに対する遺族基礎年金は、B女が遺族基礎年金、遺族厚生年金の受給権を有する間、その支給が停止される。 ただし、その後、B女がD男と再婚することでB女の遺族基礎年金、遺族厚生年金はいずれも失権し、子Cは、B女の遺族厚生年金が失権することで、支給停止が解除され遺族厚生年金を受給できるものの、遺族基礎年金は、「生計を同じくするその子の父または母」、すなわちB女がいるため支給停止のままである。その後、子CがB女と別居するなどして生計同一関係が解消された場合には、子Cは遺族基礎年金も受給できる。 なお、遺族基礎年金、遺族厚生年金の受給権がある子は、養子になったときには失権するが、直系血族、直系姻族との養子縁組の場合は失権しないため、子Cが直系姻族となるD男と養子縁組を行った場合でも、上記結論は同様である。 [3] 【問題②】について 子CとD男とが養子縁組を行っていた場合、B女は、死亡した者(D男)によって生計を維持されていた子(子C:養子縁組によりD男の子となる)のある配偶者、死亡した者(D男)によって生計を維持されていた配偶者にそれぞれ該当する結果、遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権者となる。 子Cに対する遺族基礎年金は、B女が遺族基礎年金の受給権を有する間、その支給が停止される。その後、子CがB女と別居するなどして生計同一関係が解消された場合には、子Cのみに遺族基礎年金、遺族厚生年金が支給される。子Cの遺族基礎年金が失権したとき(18歳に達する日以後の最初の3月31日が経過したとき等)には、B女の遺族厚生年金支給停止が解除され、B女に遺族厚生年金が支給される。 他方で、子CとD男とが養子縁組を行わずにD男が死亡した場合には、B女は死亡した者(D男)によって生計を維持されていた子(子C)のある配偶者には該当しない結果(養子縁組がなされていないためD男の子とはいえない)、遺族基礎年金の受給権者とはならない。ただし、死亡した者(D男)によって生計を維持されていた配偶者に該当するため、遺族厚生年金の受給権者とはなる。 [4] 【問題③】について D女は、死亡した者(A男)によって生計を維持されていた子(子C)のある配偶者、死亡した者(A男)によって生計を維持されていた配偶者にそれぞれ該当する結果、遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権者となる。B女は既にA男と離婚しているため遺族年金の受給権は発生しない。 【問題②】と異なり、子CはA男の子である以上、国民年金法第37条の2の要件を満たすこととなり、子CがD女と養子縁組をしているかどうかは関係ない。子Cに対する遺族基礎年金は、D女が遺族基礎年金の受給権を有する間、その支給が停止される。 (了)
消費税の軽減税率へ対応した システム改修のポイント 公認会計士 坂尾 栄治 ▷過去の消費税率引上げとシステム改修 消費税は過去3%、5%、8%と段階的に税率が引き上げられてきた。各社はそれに合わせて、会計システムを中心としたシステム改修を行ってきた。 消費税が初めて導入されたときに構築したシステムは、税率が変更されることを考慮せずに開発されたものもあり、そのようなシステムは3%から5%に税率が上がったときに、多大なコストと期間をかけなければ改修できないものもあった。 単純に特定の日からすべての取引に対して税率を変更すれば済むのであれば、システムの対応もさして難しいものではないが、新たな消費税率が適用されてしばらくは、新税率適用前の旧税率が適用される取引や、経過措置で旧税率での処理が認められる取引等があり、新税率と旧税率が併存することとなる。 この「取引日や取引の性質に応じて複数税率が併存するケース」等は、もともとのシステムの作りが当該事象を想定した設計になっていない場合、システムの設計を大幅に変更し、作り直しといっても過言ではないレベルでの改修が必要となる場合もある。 とはいえ、すでに消費税率変更は過去に2回行われており、消費税率の変更がシステムに及ぼす影響も把握されているため、今市販されているシステムのほとんどは、今後の消費税率変更への対応が比較的スムーズに行えるように作られていると考えられる。 平成29年4月に予定されている消費税率変更も、今までと同様のものであれば、さして問題にする必要はないと考えられるが、今回適用される予定の軽減税率は、システムで対応する上で比較的難易度の高いものと考えられる。 ▷一物二価への対応が想定外のシステムも 軽減税率の対象品目として「酒類」と「外食」を除いた飲食料品と新聞があげられている。特に飲食料品については、軽減税率が適用される範囲の線引きについての議論が活発に行われている。 現在は、料理酒やウイスキーボンボンは「酒類」に入るのかとか、スーパーのイートインで食べると「外食」になるのかといった議論がなされているが、範囲の線引きについては、ルールが明確になれば、システム的な対応はさして難しいものではない。 システム的に困るのは、同じ商品で異なる税率になるものである。 例えば、ハンバーガー屋でハンバーガーを注文した場合がこのケースに該当する。 ハンバーガーを店内で食べる場合とテイクアウトする場合とで税率が異なる。ハンバーガーを店内で食べる場合は軽減税率が適用されない外食に該当し、テイクアウトする場合は外食に当たらないこととなり軽減税率の対象となる。 これらは、商品は全く同じであるため、例えばレジに「ハンバーガー店内」「ハンバーガーテイクアウト」という2つのボタンを付けるといった対応が必要となる。 人が登録するレジであればまだ人手で対応できるが、POSレジのようにバーコードを読むものはどうするのだろうか。バーコードを「店内用」と「テイクアウト用」の2種類貼っておくとか、バーコードを読む前にレジで「店内ボタン」か「テイクアウトボタン」を押すといった対応が必要となる。 ただし、ハンバーガーを2つ買って、1つを店内で食べ、もう1つを持ち帰る場合には、先にあげた対応方法ではうまくいかなそうである。 これは実質的な一物二価であり、これまでのレジシステムではほとんど想定されていないものと推定できる。 ▷仕入税額控除の対応はインボイスまで見定める 仕入税額控除については、平成33年4月1日にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されるまでは、区分記載請求書等保存方式が採用される。 どちらの方式でも、異なる税率の製商品を分けて表示する必要があり、今まで使用していた請求書では対応できない可能性が高い。 複数の製商品を受注した時に、一品一品消費税額を計算しているようなシステムであれば、請求書の出力フォーマットを改修する程度で対応できるかもしれないが、受注した製商品すべてを合計してから消費税率を乗じているような場合には、思った以上に改修の手間がかかる可能性がある。 さらにやっかいなのは、数年後にインボイス制度へ変更される点である。 つまり区分記載請求書等保存方式に対応しても、数年後にはインボイス制度に合わせて再び改修をすることになる。 これについては、今の時点で、区分記載請求書等保存方式にもインボイス制度にも対応できるようシステムを改修することで解決すると思われる。 ▷影響を受けるシステムと改修の規模は? 軽減税率の適用の影響を受けるのは、レジシステムや販売管理システム、受発注システムと考えられる。 持ち帰りサービスのある外食店では、レジシステムで店内とテイクアウトの区分等ができる機能が必要となる。販売管理システムやその周辺システムについても改修が必要なケースがあると思われる。 持ち帰りサービスのある外食店では、同一製商品でありながら税率が異なるケースがあるため、製商品の品番と税率が1対1対応ではなくなる。品番に適用税率をあらかじめ登録しておくような仕組みでは、1製商品に対して1つの税率しか適用できないため、軽減税率には対応できない。例えば、品番に店内・テイクアウト区分をつなぎ合わせて税率を判定するような製商品マスタに変更する必要が出てくる可能性がある。 このように製商品マスタに係る改修が行われる場合、販売管理システムやその周辺システムへ広く影響が出る可能性がある。そのため、製商品マスタに係る改修が想定される場合には、大がかりな改修になるケースもありうると覚悟しておく必要がある。 受発注システムについては、見積書や発注書、請求書のフォーマット変更が必要となってくる。また、取引先間でEDI/EOS等の電子的な受発注システムを利用している場合にも、取引先間の取り決めに従ったシステム改修が必要となる。 特に、取引先ごとにフォーマットが異なる場合には、修正対象となる見積書や発注書、請求書の数が膨大となり、システムの改修に多くの期間と費用を要する場合があるため、早めに状況を把握する必要がある。 ▷システム開発ベンダに確認すべき事項とは? パッケージシステムを使って業務を行っている場合には、通常はパッケージシステムの開発ベンダが法制度対応を行ってくれる。 今回の軽減税率についても、通常の開発ベンダであれば法制度対応の1つとして改修する範囲のものであり、保守契約を結んでいれば無償で対応してくれる可能性も高い。ただし、改修の規模によっては有償での対応となる場合もある。 まずは、開発ベンダに軽減税率に対応する予定があるかを確認すべきであるが、開発ベンダから「軽減税率に対応する」との回答を得れば一安心かというと、必ずしもそうではない。 軽減税率に対応して改修したシステムがいつ提供されるのかを確認しておくのは当然であるが、どのような方法で軽減税率に対応するのかも知っておく必要がある。 例えば以下のようなことを確認し、自社の運用に合うかを検討した方がよい。 また、現在のシステムを改修後のシステムに変更する場合のコスト、変更に際して自社の担当者が作業を行う必要があるか否か、作業を行う必要がある場合どの程度の期間をかけて実施する必要があるのか、その間はシステムを停止するのかも確認しておく必要がある。 テストを実施したり、データを移し替えたりする必要がある場合には、想像以上に期間を要する場合もあるので、早めに確認しておくことが肝要である。 また、改修後のシステムが現在の環境(今使っているサーバーやPC、レジ)で稼働するのかも確認しておく必要がある。新たにレジを購入する必要がある場合などは、店舗数が多い会社の場合、多額の費用がかかることとなる。 ▷自社開発システムの場合 自社開発システムの場合には、市販のシステムを利用している場合の注意点に加えて、開発ベンダが行っている作業も自社で行う必要がある。軽減税率が影響するシステムの範囲を調査し、軽減税率にどのように対応するか方針を決め、仕様を決定しシステムを改修する必要がある。 時として、自社システムの改修を行うことが期間や費用等の関係で合理的でないと判断された場合には、パッケージシステムへの置き換えを検討することも必要となってくる。 -まとめ- 軽減税率の適用によるシステム改修は、軽微な改修では済まない可能性が高いため、余裕をもって準備をする方がよい。 大きくは以下のような流れになると考えられる。 (了)