消費税率の引上げに関する 《資料リンク集》 改正消費税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)による消費税率引上げに伴い、関連する法令・通達や情報等が順次公表されています。 ここでは、これら「消費税率引上げに伴う関連資料」へのリンクを掲載していきます。 ※2015年で更新を終了しています。 ・「転嫁拒否行為に対する対応実績(平成27年7月まで)」(公正取引委員会) ★2015/8/17 ・「改訂版 中小企業・小規模事業者のための消費税転嫁の手引き」(中小企業庁) ★2015/8/7 ・「「ケースで考える消費税率引上げ対策」(改訂版)を発行」(日本商工会議所) ★2015/6/29 ・「パンフレット「消費税の転嫁拒否に関する主な違反事例」」(公正取引委員会) ★2015/4/14 ・「特別企画 : 消費税率再引き上げに対する企業の意識調査」(帝国データバンク) ★11/14 ・「消費税の複数税率導入に反対する意見」(9団体連名) ★7/2 ・「「中小企業における消費税の価格転嫁に係る実態調査(第1回)調査結果」について」(日本商工会議所) ★7/2 ・「消費税の軽減税率に関する検討について」(与党税制協議会) ★6/5 ・「消費税転嫁に関する調査を装った悪質行為にご注意下さい」(公正取引委員会) ★6/2 ・「消費税転嫁に関する調査を装った悪質行為にご注意下さい」(中小企業庁) ★5/23 ・「消費税の転嫁拒否等の行為に関する事業者等向け説明会及び相談会の実施について」(公正取引委員会) ★5/14 ・「消費税率引上げにおける転嫁状況等に関する緊急調査結果(速報)」(全国中小企業団体中央会) ★5/8 ・「消費税率の引上げ等に伴う特定保健指導費用の取扱いに関するQ&Aの改訂について(第2版)(平成26年4月22日付事務連絡)」(厚生労働省) ★5/7 ・「消費税の転嫁拒否等に関する大規模な調査を開始します」(中小企業庁) ★4/24 ・「消費税増税対策の給付金が当選したとのメールにご注意ください」(財務省) ★4/18 ・「消費税の転嫁拒否等の行為に関する中小企業・小規模事業者等向け書面調査について」(公正取引委員会) ★4/16 ・「「消費税の転嫁拒否等に関する調査」を実施します」(中小企業庁) ★4/16 ・「「事業者が消費者に対して価格を表示する場合の取扱い及び課税標準額に対する消費税額の計算に関する経過措置の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)」(国税庁) ★4/11 ・「消費税の引上げ等に伴う特定健康診査及び特定保健指導の費用における消費税の円滑かつ適正な転嫁について(平成26年2月6日保総発0206第1号)」(厚生労働省) ・「消費税率の引上げ等に伴う特定保健指導費用の取扱いに関するQ&Aについて(平成26年3月7日付事務連絡)」(厚生労働省) ・「消費税転嫁対策強化月間における3月の取組状況を公表します~3-4月は監視・取締りや広報・相談対応を強化しています~」(中小企業庁) ・「ガソリンスタンドにおける消費税の総額表示への協力を要請しました」(経済産業省) ・「申請受付を開始しました。 ※申請書類はこちらからご確認ください。」(すまい給付金) ・「「改正消費税法に関するQ&Aについて、Q10~Q12を追加しました。」(リース事業協会) ・「「消費税法等の施行に伴う所得税の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)」(国税庁) ・「「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)」(国税庁) ・「消費税率引上げに伴う住宅取得支援制度の周知について」(宅建協会) ・「消費税増税に伴う消費税転嫁及び表示方法についてのお願い」(日本不動産鑑定士協会連合会) ・「(平成26年3月12日)消費税率引上げに向けた消費税転嫁対策の強化について」(公正取引委員会) ・「3~4月は消費税転嫁対策強化月間です!」(中小企業庁) ・「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」(国税庁) ・「消費税率引上げに伴う鉄道事業者及び乗合バス事業者の上限運賃・料金の変更認可について」(国土交通省) ・「消費税率及び地方消費税率の引上げに伴う宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額の改正について」(宅建協会) ・「給付申請書を公表しました。」(すまい給付金) ・「消費税率の引き上げに伴う報酬告示・ガイドラインの改正について」(宅建協会) ・「企業業績に与える消費税増税の影響度分析」(帝国データバンク) ・「経営Q&A「消費税法改正への対応」」(日本政策金融公庫) ・「平成26年4月1日以後終了する課税期間分の消費税及び地方消費税の申告書・添付書類」(国税庁) ・「「「中小企業・小規模事業者 経営力強化フォーラム~会計・税制を活用した消費税率引上げ対策~」を開催します」(中小企業庁) ・「「消費税法の改正等に伴う印紙税の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)」(国税庁) ・「平成26年4月実施の消費税率引き上げに伴うタクシー運賃の改定方法について」(国土交通省) ・「(平成26年1月24日)平成25年における消費税転嫁対策の取組について」(公正取引委員会) ・「業者向け説明会と消費者向け(一部)説明会の日程が発表されました。」(すまい給付金) ・「消費税率引上げに伴う資産の譲渡等の適用税率に関するQ&A」(国税庁) ・「(平成26年1月17日)消費税の円滑かつ適正な転嫁の要請等について」(公正取引委員会) ・「建設業者団体に対して改めて消費税の円滑かつ適正な転嫁を要請します」(国土交通省) ・「575団体に対して消費税の円滑かつ適正な転嫁を改めて要請します」(経済産業省) ・「『消費税価格転嫁拒否通報ホットライン』の取り組み」(日本労働組合総連合) ・「中小企業・小規模事業者のための消費税の転嫁万全対策マニュアル」(中小企業庁) ・「消費税転嫁に係る特別相談窓口を設置、専門家派遣を開始しました。」(全国中小企業団体中央会) ・「消費税転嫁対策特別措置法の事業者等向け説明会及び相談会の実施について」(公正取引委員会) ・「(平成25年12月4日)消費税の転嫁拒否等についての移動相談会の実施について」(公正取引委員会)⇒リーフレット ・「消費税の転嫁拒否等の行為に関するよくある質問」(公正取引委員会) ・「消費税の複数税率導入に反対する意見」(全国中小企業団体中央会) ・「「消費税の複数税率導入に反対する意見」について」(日本商工会議所) ・「消費税の複数税率導入に反対する意見」(日本経済団体連合会) ・「消費税率の引上げに伴う定形郵便物等の上限料金の改定案に関する消費者委員会の意見について」(内閣府) ・「すまい給付金に関するスマートフォン向けアプリ(Android版)」(すまい給付金) ・「「(平成25年11月15日)消費税の円滑かつ適正な転嫁に係る要請文書の発出について」(公正取引委員会) ・「「消費税の円滑かつ適正な転嫁が行われるよう要請しました」(経済産業省) ・「消費税価格転嫁等総合相談センターの相談対応状況(お知らせ)」「参考資料」(内閣府) ・「軽減税率についての議論の中間報告」(与党税制協議会・軽減税率制度調査委員会) ・「「改正消費税法に関するQ&A」(リース事業協会) ・「(平成25年11月1日)消費税の転嫁拒否等の行為の有無についての書面調査を実施しています。」(公正取引委員会) ・「消費税転嫁・表示カルテルの届出状況の公表について」(公正取引委員会) ・「平成25年度「消費税の転嫁拒否等に関する調査」を実施します」(中小企業庁) ・「パンフレット「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のために」」(財務省) ・「消費税法施行令の一部を改正する政令の一部を改正する政令」(官報:平成25年10月30日付(本紙第6161号)) ・「消費税転嫁対策相談窓口の設置について」(国土交通省) ・「鉄道・バスにおける具体的な端数処理の方法」(国土交通省) ・「参考資料:[1]「消費税率引上げに伴う公共料金等の改定について」」(国土交通省) ・「参考資料:[2]「公共交通事業における消費税の運賃・料金への転嫁の方法に関する基本的な考え方」」(国土交通省) ・「消費税率引上げに伴う公共交通運賃(鉄道、バス)への1円単位運賃(ICカード利用)の導入について」(国土交通省) ・「消費税価格転嫁等対策」(内閣府) ・「消費税転嫁対策特別措置法に関する相談窓口」(内閣府) ・「たばこ・塩に関する消費税価格転嫁等対策関係」(財務省) ・「すまい取得支援セミナー」(すまい取得支援セミナー) ・「不動産仲介契約に係る消費税率に関する経過措置の適用の有無等について」(国土交通省) ・「(小冊子)消費税率引上げ対策早わかりハンドブック」(日本商工会議所) ・「中小企業・小規模事業者向けに消費税転嫁対策パンフレットを作成しました」(中小企業庁) ・「総額表示義務の特例措置に関する事例集(税抜価格のみを表示する場合などの具体的事例)」(国税庁) ・「〈事業者向け〉住宅関連税制とすまい給付金に関する説明会」(すまい給付金) ・「消費税価格転嫁等総合相談センター」(内閣府) ・「消費税率引上げに伴うトラブル防止のポイントについて」(住宅リフォーム推進協議会) ・「消費税転嫁対策に係る事業者等向けパンフレット」(公正取引委員会) ・「消費税率引上げに際しての便乗値上げ情報・相談窓口」(消費者庁) ・「「消費税転嫁対策室」を設置しました~消費税転嫁に係る取引上のお悩み相談をお受けします~」(中小企業庁) ・「すまい給付金について閣議決定されました。」(すまい給付金(国土交通省)) ・「民間投資活性化等のため税制改正大網」(自由民主党・公明党) ・「消費税率及び地方消費税率の引上げとそれに伴う対応について」(財務省) ・「(平成25年9月10日)消費税転嫁対策特別措置法のガイドラインの公表について」(公正取引委員会) ・「消費税転嫁対策特別措置法のガイドラインを公表します」(財務省) ・「消費税転嫁対策特別措置法のガイドラインの公表について」(消費者庁) ・「消費税転嫁対策特別講習会」(中小企業庁) ・「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」(内閣府) ・「消費税転嫁対策に関する「講師養成研修会」」(中小企業基盤整備機構) ・「消費税転嫁対策特別措置法の事業者等向け説明会の実施について」(公正取引委員会) ・「すまい給付金ホームページ」(国土交通省) ・「消費税率引上げに伴う住宅取得に係る対応の周知について」(国土交通省) ・「消費税転嫁対策コーナー」(公正取引委員会) ・「消費税転嫁対策特別措置法のガイドライン(案)に関するパブリックコメント手続きの開始について」(消費者庁) ・「消費税転嫁対策特別措置法のガイドライン(案)に関するパブリックコメント手続を開始します」(財務省) ・「「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」の施行期日について」(公正取引委員会) ・「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」の成立について(公正取引委員会) ・平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A(国税庁) ・消費税法改正のお知らせ(社会保障と税の一体改革関係)(国税庁) ・平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いについて(法令解釈通達)(国税庁) ・消費税法改正のお知らせ(平成25年3月)(国税庁) ・消費税率の引上げを見据えた買いたたき等の行為への対応について(公正取引委員会) 【公正取引委員会ホームページ】 ※PDFファイル ・「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」の閣議決定について ・(別紙)法案概要 ・法案要綱 ・法案及び理由 ・新旧対照条文 ・参照条文 ・消費税法施行令の一部を改正する政令(平成25年3月13日公布)(財務省) ・地方税法施行令の一部を改正する政令(平成25年3月13日公布)(総務省) ・地方税法施行規則の一部を改正する省令(平成25年3月13日公布)(総務省) ・社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(財務省) ・社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律(総務省) ※第180回国会(常会)提出 ・行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案(番号法案)(内閣官房) ・社会保障・税番号制度(内閣官房) ・社会保障・税一体改革に関連する国会提出法案等(内閣官房) ・社会保障と税の一体改革(内閣官房)
2015年8月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.131が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
monthly TAX views -No.31- 「始まる『タックスヘイブン対策税制』の見直し」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 BEPS関連の税制で、移転価格税制などと並んで、タックスヘイブン対策税制(CFC税制)の見直しがアジェンダに上がっている。行動計画3において、「CFC税制に関し、各国が最低限導入すべき基準の勧告を策定」とされ、9月にも報告が提出される予定となっている。 これを受けて経済産業省内に「日本企業の海外展開を踏まえた国際課税制度の在り方に関する研究会」が立ち上げられ、筆者もそのメンバーとして参加し、すでに2回の会合が開催されている。 研究会の趣旨・背景は、以下のように説明されている(筆者要約)。 その上で具体的な論点としては、インカムアプローチとエンティティアプローチの比較(メリット・デメリット)、コーポレートインバージョンへの対応などが論点となっている。 経団連の立場が披露されたが、おおむね以下のとおりである。 筆者は、企業が合併、M&Aなどの組織再編を行う場合、買収先を本社とすることによって、本社の持っている無形資産を非課税・課税繰延べで低税率国に移転させるコーポレートインバージョンについて、わが国としてどう対応すべきか、十分議論する必要がある旨の発言をしている。 米国では現在も、企業の国外源泉所得を米国管轄権から離脱させるインバージョンが横行している。背景には、米国が未だ全世界課税方式をとっているため、配当還流時に米国の高い法人税率(35%)で課税されることがあげられる。 これに対し米国政府は、米国企業の旧株主がインバージョン後の外国親法人の株式を80%以上所有する場合には米国法人として取り扱うなどの規制強化を行ってきたのだが、その網をくぐるようなプラニングが未だ行われている。 また、インバージョンに伴って、外国の親会社から多額の負債(借入金)を負い、利払いという形で米国企業から外国親会社に所得移転されるプランニングも横行している。 このようなことは、「税収の観点」から大きな問題を招くというだけでなく、一国で形成された無形資産(特許権、著作権など)が、非課税で国境を越えてしまえば、将来にわたっての成長の原資を奪うという、「産業政策上」も問題となりうる。 わが国税制では、外国子会社からの配当は前述のように非課税となっているので、インバージョンのインセンティブは米国ほど強くないし、最低限の対策税制も導入されている。 しかし、(破談になったが)東京エレクトロンと米国アプライドマテリアルズとの合併がオランダに持株会社を作るインバージョンであったように、米国企業に巻き込まれる可能性は残っており、改めて検討する必要がある。これが筆者の問題意識である。 いずれにしても、経済産業省の研究会の結論が出るのは今年度末の予定であり、再来年度の税制改正をにらみながらの議論となっている。 (了)
消費税の軽減税率を検証する 【第5回】 「軽減税率による減収と さらなる標準税率の引上げ」 税理士 金井 恵美子 平成26年6月11日の税制調査会会議においては、ほとんどの委員、特別委員が、軽減税率の導入に反対する発言をし(※1)、7月2日には、日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会、日本百貨店協会、日本チェーンストア協会、日本スーパーマーケット協会、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会の9団体は、連名で「消費税の複数税率導入に反対する意見」を公表し、「複数税率制度は導入せず、単一税率を維持すべきである」と主張した。 (※1) 平成26年6月11日第9回税制調査会議事録。ただし、現税制調査会には、消費税の税率構造についての答申はない。 また、平成26年12月30日の27年度与党大綱の公表を受け、同日、日本商工会議所の三村会頭は「導入すべきでない。」(※2)、日本経済団体連合会の榊原会長は「慎重に検討することが必要」(※3)とコメントした。 (※2) 「平成27年度与党税制改正大綱について(三村会頭コメント)」(日本商工会議所) (※3) 「平成27年度与党税制改正大綱に関する榊原会長コメント」(日本経済団体連合会) これらの理由は、軽減税率の導入は、消費税の公平、中立、簡素という良い特徴を後退させるからである。 軽減税率の問題点は、次のように指摘することができる。 今回から3回にわたり、これらの問題点について、考えてみよう。 【1】 軽減税率による減収はさらなる標準税率の引上げを必要とする 消費税率の引上げと軽減税率の導入とは、政策論として矛盾する。 軽減税率は、税率の引上げにより増加するはずの税収を侵食し、標準税率をより高く引き上げる必要を生じさせるからである。 与党税制協議会が平成26年6月5日に公表した「消費税の軽減税率に関する検討について」(以下「検討資料」という)には、「検討資料」は、飲食料品分野に軽減税率を適用することを想定して、次の8種類の線引きのパターンを提示し、それぞれの減収額の消費税率換算を示している。 対象品目の8パターンの減収額と財源の規模を一覧表にすると、次のようになる。 【対象品目8パターンの減収額と財源の規模】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ※ 「減収額は、24年家計調査における総世帯の平均消費支出額を基に一定の前提をおいて推計したもの。あくまでも概数であり、線引きの定義を反映したものでもない。」とされている。 与党税制協議会の下に置かれた消費税軽減税率制度検討委員会では、このうち、②の酒を除く全ての飲食料品、③の生鮮食品、⑧の精米の3パターンを検討している。 ②の酒を除く全ての飲食料品に5%の軽減率を適用し、標準税率を10%とした場合の税収は、単一税率で8.4%とした場合に等しい(10%-1.6%=8.4%)。 これでは、何のために税率を引き上げるのかということになる。 また、標準税率を10%、軽減税率を8%とした場合に得られる税収の規模は、単一税率に換算して9.3%である。 さらにこの計算は、平成24年家計調査における総世帯の平均消費支出額を基に推計した概数によるのであり、飲食料品よりもそれ以外の価格弾力性が大きいこと、税率の適用誤り(第7回参照)や追加的な行政コスト(第6回参照)を考慮すれば、実質的な税収の規模は単一税率8%とした場合を下回る可能性もある。 消費税の税率引上げは、「社会保障・税一体改革」における税制面での柱であり、軽減税率によって税収が減少すれば、社会保障制度の持続可能性を損なうことになる。 「検討資料」は、「軽減税率の対象範囲は広ければ広いほど良いということになりがちである。」と指摘しており、その対象範囲が拡大してゆく危険を示唆している。 複数税率制度への移行によって、財政は、軽減税率の適用範囲が拡大してゆくことによる減収の危険を抱えることになる。 * * * 上記のうち【2】から【8】については、次回以降でくわしく取り上げる。 (了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第8回】 「地方拠点強化税制の創設(その2)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 (3) 雇用促進税制の拡充(措法68の15の3、措令39の45の2) 今回の改正により、①現行の雇用促進税制に加えて、次の②及び③を上乗せすることとなった。 ① 現行の雇用促進税制 現行の連結納税制度に係る雇用促進税制は、連結法人のすべて又は連結グループ全体で[要件1]~[要件5]を満たした場合に、連結グループ全体の増加雇用者数に40万円を乗じた金額を連結税額控除額とし、各連結法人の増加雇用者数の割合によって個別帰属額を計算することとなる。 具体的には、連結法人が、適用年度(注1)において、次に掲げる要件のすべてを満たす場合には、適用年度の連結法人税額から、40万円に連結親法人及び各連結子法人の基準雇用者数(注2)の合計(注3)を乗じて計算した金額(税額控除限度額)を控除する(措法68の15の3①)。 この場合において、税額控除限度額が、連結法人税額の10%(連結親法人が中小連結親法人である場合には、20%)に相当する金額を超えるときは、税額控除額はその10%相当額を限度とする(措法68の15の3①)。 (※1) 前連結事業年度とは、適用年度に係る連結事業年度開始日前1年以内に開始した各連結事業年度又は各事業年度をいう(以下、(※5)に同じ)。 (※2) 基準雇用者割合とは、連結親法人及び各連結子法人の基準雇用者数の合計の適用年度に係る連結事業年度開始日の前日における連結親法人及び各連結子法人の雇用者数(適用年度に係る連結親法人事業年度終了日において高年齢雇用者に該当する者を除く)の合計に対する割合をいう(措法68の15の3⑤六)。 (※3) 高年齢雇用者とは、連結親法人又は連結子法人の使用人のうち高年齢継続被保険者(雇用保険法第37条の2第1項に規定する高年齢継続被保険者)に該当するものをいう(措法68の15の3⑤三)。 (※4) 給与等支給額とは、連結親法人又は連結子法人の給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者(他の連結法人を含む)から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額)のうち適用年度の連結所得金額の計算上損金の額に算入される金額(適用年度に係る連結親法人事業年度終了日において高年齢雇用者に該当する者に係るものを除く)をいう(措法68の15の3⑤八)。 (※5) 比較給与等支給額とは、連結親法人又は各連結子法人ごとに、次の算式により計算した額をいう(措法68の15の3⑤七)。 (*1) 給与等の支給額とは、給与等の支給額のうち、連結所得の金額の計算上損金の額に算入される金額をいう。また、前連結事業年度と適用年度の月数が異なる場合は所要の調整を行う。 (*2) 前連結事業年度の給与等の支給額には、適用年度に係る連結親法人事業年度終了日において高年齢雇用者に該当する者に対する支給額は含まれない。 (*3) 前連結事業年度とは、適用年度に係る連結親法人事業年度開始日の1年前の日から適用年度開始日の前日までの期間内に開始した各連結事業年度又は各事業年度をいう。 (*4) 適用年度に係る連結親法人事業年度開始日の前日における雇用者数が0である場合には、次の算式により計算した額が比較給与等支給額となる。 また、この制度の適用を受けるためには、連結親法人の事務所の所在地を管轄する都道府県労働局又は公共職業安定所に連結親法人及び各連結子法人の雇用促進計画の提出を行い、都道府県労働局又は公共職業安定所で、[要件2]~[要件4]までの要件についての確認を受け、その際交付される連結親法人及び各連結子法人の雇用促進計画の達成状況を確認した旨の書類の写しを連結確定申告書に添付する必要がある(措令39の45の3①、措規22の29①)。 この場合、この雇用促進計画の達成状況の確認に関する手続は、厚生労働省の業務取扱要領にて示されており、連結親法人の事務所の所在地を管轄する公共職業安定所に、適用年度開始2ヶ月以内に雇用者の目標増加数を示した同計画の書類を提出し、適用年度終了後2ヶ月以内に適用年度の雇用者増加数などの要件を充足した内容を追記した同計画の書類を再度提出する必要がある。 また、この制度は、連結確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に、控除の対象となる基準雇用者数、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用することができる(措法68の15の3⑧)。この場合、控除される金額は、連結確定申告書等に添付された書類に記載された基準雇用者数を基礎として計算した金額に限るものとする(措法68の15の3⑧)。 ② 地方拠点強化実施計画の雇用促進税制 連結法人が、適用年度(注1)において、下記[第1号]に掲げる要件を満たす場合、適用年度の連結法人税額から20万円(その連結法人が下記[第2号]に掲げる要件を満たす場合には50万円)に連結親法人及び各連結子法人(注2)の適用年度の地方事業所基準雇用者数(注3)の合計(注4)を乗じて計算した金額(地方事業所税額控除限度額)を控除する。 この場合において、地方事業所税額控除限度額が、連結法人税額の30%に相当する金額(注5)を超えるときは、税額控除額は、その30%相当額を限度とする(措法68の15の3②)。 ③ 移転型計画の雇用促進税制 「②地方拠点強化実施計画の雇用促進税制」の適用を受ける又は受けた連結法人(注1)のその適用を受ける連結事業年度(注1)以後の各適用年度(注2)において、連結親法人及び各連結子法人が雇用保険法第5条第1項に規定する適用事業を行っている場合には、適用年度の連結法人税額から、30万円に連結親法人及び各連結子法人(注3)の適用年度の地方事業所特別基準雇用者数(注4)の合計を乗じて計算した金額(地方事業所特別税額控除限度額)を控除する(措法68の15の3③)。 この場合において、地方事業所特別税額控除限度額が、適用年度の連結法人税額の30%に相当する金額(注5)を超えるときは、税額控除額は、その30%相当額を限度とする(措法68の15の3③)。 [雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額の計算方法] そして、上記①②③で計算された連結税額控除額は、次のように、各連結法人に配分計算される(措法68の15の3⑩、措令39の45の3⑳)。 [地方法人税における雇用促進税制に係る税額控除額の取扱い] 法人税における雇用促進税制の税額控除額は、地方法人税の課税標準となる基準法人税額の計算において、連結法人税額から控除される(地方法6三)。 この場合、各連結法人の雇用促進税制の税額控除額の個別帰属額に4.4%を乗じた金額が地方法人税個別帰属額の計算において減算される(措法68の15の3⑩、地方法15①)。 [住民税における雇用促進税制に係る税額控除額の取扱い] 中小連結親法人又はその各連結子法人の各連結事業年度の個別帰属法人税額(道府県民税及び市町村民税の課税標準)の計算において、法人税における①現行の雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額がある場合は、①~③の雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額は個別帰属法人税額から控除される(連結法人税個別帰属額に加算しない。地方税法附則8⑥、地法23①四の三、292①四の三)。 中小連結親法人に該当しない連結親法人又はその各連結子法人については、個別帰属法人税額から控除されない(連結法人税個別帰属額に加算する)。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第32回】 「非公開裁決事例③」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、紹介する事件は、法人成りを行った場合において、個人事業の債権と債務の差額を営業権として処理した事件である。 法人成りについては、事業譲渡の手法を採用することも考えられ、いわゆる組織再編成の一形態として取り扱うことも可能である。 17 平成25年7月19日裁決(TAINSコード:J92-3-13) (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、設立の際に、請求人の株主であり代表取締役でもあるHから事業を譲り受けたとして、個人事業の債権と債務の一部について貸借対照表に計上し、その債権と債務の差額(債務超過分)を営業権として処理し、当該営業権に係る減価償却費及び当該債務のうちの借入金の利息等を損金の額に算入し、当該営業権に係る消費税相当額を控除対象仕入税額に算入したところ、原処分庁が、当該営業権は財産的価値がなく、借入金利息はHが支払うべきものであるから、当該減価償却費及び当該借入金利息について損金の額に算入できないとして更正処分等を行ったため、請求人が、これらの処分の違法を理由として同処分の全部の取消しを求めた事件である。 本事件の争点は、以下の通りである。 このうち、【争点4】については重要であるように思えるが、認定事実を見てみると、当事者間の債務の引継ぎが否定されていることから、他の事件への射程がほとんど及ばないため、本稿においては、【争点3】についてのみ解説を行うこととする。 (2) 原処分庁の主張 本件事業年度において、請求人がHの債務を明確に引き受けたと認められる事実は存在しないことから、引受債権と引受債務の差額を根拠とする本件営業権は、税法上財産的価値を有しているとは認められず、事実関係においても根拠のないものと判断され、本件営業権に係る減価償却費の損金算入は認められない。 請求人が、Hにおいて借入金の支払が不能であることを認識しながら、Hの借入金を引き受けたのであれば、法人税法第37条(寄附金の損金不算入)に規定する寄附金又は同法第34条(役員給与の損金不算入)に規定する役員給与に該当するものであり、法人税法上の損失に該当するものではない。 (3) 請求人の主張 引受債権と引受債務に差額があれば、会社法計算規則に従い資産又は負債に営業権を立て、それでも貸借に差額があれば、その期の損益に一括計上することは会社法の定める公正妥当な会計処理であり、法人税法に否認する規定がない以上はそのまま法人税法上の処理になる。 本件営業権に係る減価償却費は実質的に債務引受けによる借入金のうち引受債権と相殺された残額が損失の額であり、本件法人税申告書上に本件営業権に係る繰延資産として償却した額はその一部であり、繰延資産計上をして減価償却をすることは法人税法の理論的にも特に奇異なことではない。 (4) 国税不服審判所の判断 請求人に引き継ぐ段階において、将来の超過収益力があり明確に財産的価値があると認定できるような具体的な無形資産は見受けられず、逆に引き継ぐ直前のHの事業経営の内容は極めて悪く、請求人の設立は、Hの行っていた同一内容の営業の継続を図り、H個人の負債整理を円滑に行うことを目的として行われたものと認められる。また、事業の引継ぎに当たり、請求人について特別に考慮して評価すべき事情もないと認められることから、事業等を引き継いだ請求人が財産的価値のある営業権を取得したと認定することはできない。したがって、請求人に償却すべき営業権の額はなく、減価償却費を損金の額に算入することはできない。 (5) 評釈 請求人の主張はかなり奇異なものであり、原処分庁の主張が正しいことは言うまでもない。そのため、営業権償却費の損金算入や、営業権についての仕入税額控除を認めなかった国税不服審判所の判断は相当であり、異論を挟む余地はないと考えられる。 しかしながら、本事件を概観すると、資産調整勘定及び営業権の法体系が整理することができるため、ここでは、裁決書を参考にしながら、制度の解説を行いたい。 まず、平成18年度税制改正により、税務上ののれんの取扱いが明確になり、法人税法62条の8において、資産調整勘定の規定が定められた。しかしながら、法人税法施行令123条の10第1項において、「当該非適格分割等に係る分割法人、現物出資法人又は移転法人の当該非適格分割等の直前において営む事業及び当該事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が当該非適格分割等により当該非適格分割等に係る分割承継法人、被現物出資法人又は譲受け法人に移転をするもの」と定められたが、この条文を素直に読めば、法人からの事業譲受のみが資産調整勘定が計上できる場合であり、個人からの事業譲受については資産調整勘定を計上することができないと解することになる。 この点については、やや奇異に感じることから、実務上は両説存在するが、もし、資産調整勘定として認識することができない場合であっても、営業権として認識することが可能であり、いずれにしても、差額概念によって処理されることから、特段の弊害はないと考えられる。 しかしながら、資産調整勘定として処理するにしても、営業権として処理するにしても、対価性のない支払いであれば、寄附金又は過大役員給与として処理されることになり、損金の額に算入することができないという問題が生じる。 本事件については、その点を争点とすべきものであり、原処分庁の主張としても、財産的価値を有しているものに限定されるべきであるとしており、国税不服審判所の判断においても、無形の財産的価値(超過収益力)を有する事実関係が必要であるとしている。しかしながら、納税者はこの点についての立証をほとんど行っておらず、納税者の主張を認める余地は見当たらない。 さらに、納税者からは「債務引受損失」についての主張もなされているが、本事件における事業譲受が法人税基本通達9-4-2に該当する余地が全く存在しないということは言うまでもない。 なお、傍論ではあるが、寄附金又は役員給与に該当する可能性についての原処分庁の主張に対しては、「未払の段階で寄附金として処理することはできない」「役員給与として認定できる具体的事実関係を示す証拠書類も見受けられない」として、採用することができないとしている。 すなわち、本事件においては、重畳的債務引受けがなされているという事実関係すら金融機関との関係から明確ではないとしており、さらに、請求人及びHとの間において、いずれが負担するのかという明確な合意がなかったことや、債務の引受けがなされていたとしても、債務の履行がなされていないということから、「未払の段階」であるという認定がなされている。この点については、通常の寄附金の取扱いであれば分からなくはないが、事業譲受における資産調整勘定の規定を見る限り、事業譲受(すなわち、債務引受け)の段階で寄附金と認定しないと整合性が取れない内容となっていることから、やや妥当ではない。 しかしながら、事業譲渡における重畳的債務引受けは頻繁になされているものであり、どちらが最終的に債務を負担するのかということは明確にしておかないと、事業譲受における債務の引受けがなされていないとして、資産調整勘定を減額させられてしまうなど、税務調査において、やや混乱を招く可能性があるということは留意しておく必要があろう。 本事件においては、やや杜撰に過ぎる処理が行われていたため、国税不服審判所の裁決書も分かりにくいものとなっているが、主たる論点としては、超過収益力が認められない資産調整勘定及び営業権は認識することができないという点であり、実務においても留意しておく必要があると考えられる。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第32回】 「プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する 所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社がスポンサーになり、東京・後楽園ホールで7月10日にプロレスの試合、7月20日にプロボクシングの試合を開催しました。8月6日に当社からプロレスラーとプロボクサーへ報酬(ファイトマネー)を支払う予定です。具体的な金額は、次の通りです。なお、全員、日本人です。 プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 プロレスラーの報酬は、10.21%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。1回に支払う額が100万円超の場合、100万円以下の部分は10.21%、100万円超の部分は20.42%にて源泉徴収しなければならない(所法204条1項4号、205条1項)。 プロボクサーの報酬は、5万円を差し引いた上、10.21%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。5万円を差し引く点と、1回に支払う額が100万円超でも税率は10.21%のままである点で、プロレスラーと異なる(所法204条1項4号、205条2項、所令322条)。 プロレスラー、プロボクサーへ支払う報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、次の通りである。 ① プロレスラーA ② プロレスラーB 1回に支払う額が100万円超のため、100万円以下の部分は10.21%、100万円超の部分は20.42%にて源泉徴収する。 ③ プロボクサーC 報酬から5万円を差し引く点で①と異なる。 ④ プロボクサーD 1回に支払う額が100万円超であるが、税率は10.21%のままである点で②と異なる。 当社は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税275,670円(10,210円+142,940円+5,105円+117,415円=275,670円)を9月10日までに納付しなければならない。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【66】 〔第8章〕判決を読む (その2) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 2 判決をみるポイント ① 当事者の主張をしっかり読む 判決の全文を入手しても、その量が多い場合には、判決部分である「裁判所の判断」だけを見て、当事者の主張は軽視しがちである。 しかし、結論である判決は当然当事者の主張を背景にしたものであるから、これを見落としてはいけない。 というのも、民事訴訟においては弁論主義が採られており、裁判所はあくまでも当事者の主張したことの中で判決を下さなければならないからである。 租税訴訟は、地裁に関して言えば、東京地裁や大阪地裁(その他の幾つかの大都市の地裁にもある)といった行政事件を専門に扱う部署がある裁判所を除き、刑事・民事に大別した中では民事に属するため(【第49回】参照)、普段民事訴訟を審理している裁判官が裁判に当たることになる。 租税訴訟の手続法としては国税通則法や行政事件訴訟法によるが、この行政事件訴訟法第7条において、特に行政事件訴訟法に規定がない場合には民事訴訟法による旨が規定されており、民事訴訟と同様、弁論主義をベースにした審理がなされているからである(これに対し、刑事事件の場合には当事者の主張如何により結論が左右されてはいけないため、職権探知主義が採られている)。 もっとも、租税訴訟については、私見としては、本来、弁論主義ではなく職権探知主義によるべきものと思っている。 以下にその点を少し詳しく記していこう。 当事者の提出した主張と資料のみに基づいて判断を行うのが弁論主義(不干渉審理主義)であり、これは、私的自治を尊重する民事訴訟の基本原則とされている。 私人間の訴訟においては、自己に有利な主張・資料を提出するインセンティブが双方に存在するから、弁論主義を採っても十分な資料が法廷に提出されることを期待でき、もし十分な証拠が提出されず真偽不明の状態になった場合においても、立証責任の分配により、判決を行うことが可能であるとされている。したがって取消訴訟(行政行為の取消しを求める訴訟。租税訴訟として最も多い更正処分の取消しを求めるものは、これにあたる。)についても、基本的には、弁論主義が妥当するとされている 。 しかし、取消訴訟においては行政処分が取り消されるべきかが争点になり、公益と関わる面が大きいため、訴訟における勝敗を当事者の主張・証拠提出の努力にのみ委ねてしまうことは適切とは思われない。 このことから行政事件訴訟法第23条の2には「釈明処分の特則」が、そして第24条には「職権証拠調べ」が設けられている。 行政事件訴訟法第23条の2は平成16年改正で設けられたものであり、改正前は裁判所の釈明権については民事訴訟法第149条に、釈明処分は第151条に依っていたが、取消訴訟における訴訟関係を明瞭にし、審理の充実・迅速化を実現させるために、訴訟の早期の段階で処分又は裁決の理由を明らかにすることが必要であるという認識に基づき、設けられたものとされている。 なお第23条の2については、その他の抗告訴訟としては無効等確認の訴えについて準用されており(同法第38条第3項)、さらに当事者訴訟における処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出についても準用されている(第41条第1項、その他第45条第4項にも準用規定あり)。 また行政事件訴訟法第24条は、行政事件訴訟法の「第二章 抗告訴訟」中「第一節 取消訴訟」にあるものであるが、その他の抗告訴訟にも準用されている(同法第38条第1項)。また当事者訴訟も同様である(第41条第1項、その他第45条第4項にも準用規定あり)。 なお、この職権証拠調べの規定は、昭和37年施行の行政事件訴訟法制定前に施行されていた行政裁判法第38条第1項や行政事件訴訟特例法第9条においても明文で規定されていたものである。 かつて最高裁一小昭和28年12月24日判決 は「証拠につき充分の心証を得られない場合、職権で、証拠を調べることのできる旨を規定したものであつて、原審が証拠につき十分の心証を得られる以上、職権によって更に証拠を調べる必要はないのである」と判示している。このことからこれは「職権証拠調べは裁判所の権限であるが義務ではない」とされている。 しかし、必要があると認めながら調べないという選択肢が許されるはずはない(【第25回】参照)。もっとも必要があると認めるか否かについては裁量が許されるであろう。上記判決においても、証拠につき充分の心証が得られたため必要と認めなかったからであり、必要と認めながら裁量がある旨判示したわけではない 。 ところで、税法においては、重要な原則として「合法性の原則」がある。 この合法性の原則については とされている(金子宏『租税法(第19版)』2014年、弘文堂、79-80頁)。 すなわち、租税負担の公平が要請されているのであるが、当事者の主張如何により訴訟の勝敗が決せられ、租税負担の公平性が害されることは、この合法性の原則上許されないはずである。そうであるならば、租税訴訟においては、行政訴訟一般よりも職権探知主義によるべきことが強く要請されるものと思われる。 そもそも、税法が侵害法規である以上、民法よりも刑法に近い性質を持つものであるから、刑事訴訟と同様に、職権探知主義によるべきであろう。 しかしながら、現実には、この行政事件訴訟法第24条の職権証拠調べはあまり機能していないとも言われており、通常は弁論主義に基づいて判断が為されているようである。 したがって、裁判所の判断が、当事者(原告、被告)のどのような主張に基づくものなのかという点は、判決を考えるうえで重要な意味を持つのである。 (続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第34回】 株式会社東芝 「第三者委員会調査報告書(平成27年7月21日付)」 (後編) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 株式会社東芝(以下「東芝」という)は、平成27年7月20日に第三者委員会調査報告書を受領した旨、及びその要約版(以下「要約版」という)を公表し、翌21日には約300ページの大部となった調査報告書全文(以下「全文」という)を公表するとともに、取締役代表執行役社長である田中久雄氏以下8名の取締役と相談役で元社長の西田厚聰氏の辞任が伝えられた。 本稿では、公表された調査報告書に基づき、先週、前編としてお届けした会計不正の手口や原因分析に引き続き、後編として、再発防止策、調査報告書の特徴、調査報告書によっても明らかにならなかった事実について、検討することとしたい。 【第三者委員会調査報告書受領に至るまでの経緯】(再掲) 【第三者委員会の概要】(再掲) 【株式会社東芝の概要】(再掲) 株式会社東芝は、1875(明治8)年創業。日本を代表する総合電機メーカー。売上高6兆5,000億円余。営業利益2,900億円余、総資産額6兆2,400億円、純資産額1兆6,500億円を超える企業規模を誇り、連結子会社は598社に上る。従業員数約20万名(平成27年3月期)。本店所在地は東京都港区。東証、名証1部上場。 【再発防止策】 1 第三者委員会による提言 第三者委員会は、再発防止策として、「直接的な原因については原因それ自体の除去を目的」として、また「間接的な原因についてはハード面及びソフト面の双方から是正を行うことを目的」とするという考え方のもとに、以下の提言を行っている。 2 東芝による対応 7月21日のリリースで、東芝は、「経営責任の明確化」と「経営刷新委員会の設置」を公表した。「経営責任の明確化」について、本稿の冒頭で取り上げたように、歴代3人の社長が辞任、その他の取締役及び執行役についても、「調査報告書を精査、検討し、別途判断のうえで」経営責任を公表するとしている。 一方、「今後の経営体制、ガバナンス体制、再発防止策等について前社外取締役が社外専門家の助言も受けつつ集中的に検討」することを目的に経営刷新委員会を設置することを決定している。経営刷新委員会はまた、内部統制システム及びコンプライアンス体制の抜本的な見直しを含む再発防止策の具体的な内容を検討するとされている、 また、監査委員会委員長には、辞任した久保誠取締役(元CFO)に代わり、社外取締役の伊丹敬之氏を選定し、取締役会の過半数を社外取締役とすること等を含めて、慎重かつ迅速に検討するとしている。 3 再発防止策の検討 第三者委員会によって提言された再発防止策は、認定した発生原因に対応するものとはいえ、残念ながらあまり具体的なものではない。 唯一実効性がありそうな施策として、「経営監査部を発展的に解消」したうえで、「各事業部門・カンパニー等から独立した立場」で、「社外取締役などを統括責任者とする」「強力な内部監査部門」を新設することが挙げられている。 この組織が実現すれば、「経営トップによる不正が行われた場合においても監査権限を適切に行使できるような体制」と権限、予算措置までが講じられるということである。 実現できるかどうかは、東芝経営陣にかかっていると言えようが、本稿執筆時点においては、上述のように経営刷新委員会の設置、委員の人選などは進んでいるが、「強大な内部監査部門」の新設については、まだ進行状況は不明である。 【調査報告書の特徴】 1 第三者委員会委員の人選について 第三者委員会の委員選定を公表した際のリリースには、以下のようなコメントがあり、就任時から、「東芝との利害関係」を指摘する声も多く見られた。 弁護士の松井秀樹氏に関しては、次のような記述がある。 報道では、顧問契約の解約は5月13日付、第三者委員会の委員就任が5月15日付であるから、「委員就任に際して」解約されたのではなく、「委員就任のために」解約したというのが実情であり、いくら「独立性・中立性を阻害する要因とはならない」と強弁したところで、委員会設置前から会計不正の疑いが濃いと思われていた電力事業に関連する連結子会社の顧問弁護士に、あえて、第三者委員会の委員を委嘱したことに何らかの理由なり、思惑なりを感じざるを得まい。 また、公認会計士の山田和保氏に関しても、次のように記されている。 こちらも、あえて取引関係にあった監査法人の出身者を第三者委員会に加えることについて、会社側の意図がなかったと言えるのだろうか。 こうした断り書きなしに第三者委員への就任を依頼できる弁護士・公認会計士はいくらでも存在すると思われるのであるが、委員就任を要請した積極的な理由があるのであればそちらを強調すればいいわけで、こうした弁解じみたリリースを出さざるを得ない人選がなぜ行われたのかは不明のままである。 2 調査対象の絞り込み(全文p.15以下、要約版p.11以下) 通常の第三者委員会であれば、すでに顕現している会計不正と同種の、あるいは異なる手段による不正が存在しないかどうか、網羅的な調査が要請される。 また、そうした網羅性が、社内調査ではない独立した第三者による調査が必要であるという論拠の1つにも挙げられるのであるが、東芝の第三者委員会は、委嘱された調査しか行わないことを報告書冒頭に明記し、報告書の中でも繰り返し「委嘱されていない」として、「調査を行ったのかどうか」明言を避けている箇所が散見された。 3 異例の「調査の前提条件」(全文p.18以下、要約版p.13以下) 「2 調査の前提」には10項目の記載があるが、きわめて異例といっても過言ではない項目が少なくとも2つ存在している。それぞれ引用する。 この記述は、明らかに第三者委員会の設置目的に適合しないものであろう。実際、東芝も、「第三者委員会設置のお知らせ(5月8日付)」の中で、第三者委員会による調査への移行の理由として、「調査結果に対するステークホルダーの皆様からの信頼性をさらに高めるため」と明記している。 「東芝のためだけに」という文言は、果たして何を避止するために挿入されたものであるのか、報道では、アメリカにおける訴訟で証拠開示請求を避けるためなどという憶測も出ているようだが、不明である。 さらに、前提条件は続く。 第三者委員会は「派生的な修正項目」と評しているが、報告書公表後、さまざまなメディアが報じているように、東芝の会計不正の真の動機は、固定資産(特に「のれん」)の減損による損失計上を避けるためであったり、繰延税金資産の計上が認められない「連結資本欠損」の状態になることを避けるためであったりしたかもしれないのであるが、こうした分析を「派生的」として切り捨ててしまったことが、会計不正の真の動機を明らかにできないまま、調査を終えた一因ではないかと思料する。 第三者委員会の調査が何を目的として行われたのかという点について、前項ともども、疑問に感じるところである。 【調査報告書によっても明らかになったと言えない事実】 1 会計不正を実行するに至った本当の理由(動機) 歴代社長が、部下である社内カンパニーの社長らに対して「チャレンジ」と称する高い目標を課し、それに応える形で社内カンパニーでは不適切な会計処理が繰り返され、莫大な架空利益が計上されてきた。これをもって、第三者委員会は「組織ぐるみ」の会計不正を認定したというのが、長文の調査報告書の要約になるわけだが、それでは、歴代社長はなぜ「チャレンジ」を命じ続けてきたのか。残念ながら、その回答は調査報告書から読み取れない。 一方、調査報告書に記載がない真の動機に関するメディアの報道をまとめると、概ね、次の4点に絞られそうである。 もちろん、これらの要因が各事業年度において複雑に錯綜して、会計不正の真の動機を醸成したものであろうが、第三者委員会による調査報告書にこうした記述がないことは、かえって奇異に映ってしまうのではないだろうか。 2 会計不正はいつから始まっていたのか この疑問点についても、第三者委員会は、調査対象期間を「2009年度から2014年度第3四半期」と設定し、2009年度において会計不正が行われていたことは認定しているものの、その前年以前については言及がなく、最初に会計不正が行われた時点における「動機」とその後の「動機の変遷」が判明しないことも、調査報告書を読み終えた後の納得感が得られない原因になっていると言えよう。 3 会計監査人はどうして不正を見抜けなかったのか(全文p.286、要約版p.69) 会計監査人である新日本監査法人の監査が機能しなかったことについては、今回の会計不正の「間接的な原因」」の1つとして位置づけられている。 そして、機能しなかった理由として、第三者委員会は、以下のように会計監査人を擁護するような記述をしている。 しかし、工事進行基準を悪用した会計不正が繰り返されてきたことは、「健全な懐疑心」を有する会計監査人であれば、当然に知っておくべき事実であったはずだし、PC事業の月次損益状況を見れば、売上高を超える利益が計上されていることなど、明らかに異常点が表面化していたわけであり、第三者委員会として、会計監査人がそのことを問題視しなかった理由を検証することなしに、「会計監査人による監査」を「間接的な原因」に含めてしまっていいのか、疑問が残るところである。 しかも、同じ項目で、第三者委員会はこうも語っている。 ここでも、第三者委員会は、「委嘱事項ではない」という理由で、「監査手続や監査判断」における問題点を調査しないとしているわけだが、であるとするならば、なぜ「会計監査人による監査」を「間接的な原因」に含めるという判断が可能だったのであろうか。明らかに、理路が一貫していないように感じられる。 4 新日本監査法人の対応 調査報告書の全文が公表された翌日である7月22日、新日本有限責任監査法人は理事長名で、「株式会社東芝の第三者委員会調査報告書公表を受けて」というタイトルのリリースを公表した。以下に全文を引用する。 新日本監査法人が、会計監査人として監査先に騙されてきたという第三者委員会の事実認定を前提にすれば、会計監査人を辞任しないという選択は理解に苦しむ。 会計監査人に対して虚偽の資料を提示し、説明を行うことは明らかに契約違反事由であるし、監査先の会計不正を発見できなかったことで新日本監査法人の評価も下がっていることからすれば、いったん、会計監査人を辞任したうえで、「報告書の内容を詳細に分析、検討」して、「必要な対策を講じる」べきではないだろうか。 また、東芝の修正後の有価証券報告書等の信頼性を高め、株主をはじめとするステークホルダーの会計監査制度に対する信用度を増すためにも、別の監査法人が会計監査を行うべきではなかったか。 本来であれば、証券取引所が介入して、「過年度の有価証券に修正すべき事由を生じた場合には、別の監査法人による会計監査を受けること」を上場維持の要件にすることを制度化すべきなのかもしれない。 (了)