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税務判例を読むための税法の学び方【74】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む(その2:武富士事件②)

税務判例を読むための税法の学び方【74】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その2:武富士事件②)   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   前回に続き、武富士事件について見ていく。 3 検討事項 (1) 高裁判決との比較 高裁判決では、日本に住所があると認定して国側の主張を認めている。 では、何が判断を分けたのであろうか。 まず原審である高裁判決を入手し、読んでいただきたい。 ここでは「法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をすべき特段の事由のない限り、その住所とは、各人の生活の本拠を指すものと解するのが相当であり(略2)、生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものである(略3)。そして、一定の場所が生活の本拠に当たるか否かは、住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の存否、資産の所在等の客観的事実に、居住者の言動等により外部から客観的に認識することができる居住者の居住意思を総合して判断するのが相当である。なお、特定の場所を特定人の住所と判断するについては、その者が間断なくその場所に居住することを要するものではなく、単に滞在日数が多いかどうかによってのみ判断すべきものでもない(略4)」と判示し、住所の判断には「客観的事実に、・・・居住者の居住意思を総合して判断するのが相当」と法命題を示している。 この点、最高裁は住所の判断には「客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべき」としており、「居住者の居住意思」を住所の判断に加えるか否かという点で両者に相違があり、判断が分かれることになった。 (2) 事実認定過程において示された法令解釈の射程 この判決の事実認定が、事実上法令解釈であったことを先に記したが、その法令解釈を抽象化すると、どのようなことが言えるであろうか。 まず1つ目の、住所の判定において、「贈与税回避の目的」を考慮に入れるべきか否かという点について、これを住所の判定には無関係としたことである。この点を抽象化すれば、実体の有無の判断に当たっては「税回避の目的」があったとしても、それは無関係であるということになるが、それがこの判決の射程として言えるかどうかという点である。 次いで、「住所」概念について借用概念統一説に依るべきことが示されている。このことからは、他の場合にも借用概念統一説に依るべきということになるが、それがこの判決の射程として言えるかどうかという点である。 これらは、事実認定の過程で行われたものであり、厳密な意味での「判例」ではない。判決のプロセスとして、これらの解釈を一般的法命題に含んで判示することも可能であったはずであるが、そのような構造で判決を示していないということから、この点については最高裁の「判例」とはしないという意思が読み取れるという見方もできる。 もっとも、民訴法や裁判所法での「判例」には当たらないとしても、全くこの考え方を無視してよいことにはならないはずである。判断過程は事案独自の個別の問題ではないのであるから、上記抽象化した考え方、すなわち判断の原理・原則を他の事案にも適用しうることになる。もし理由なく適用しない場合には、最高裁判所の判断の原理・原則が事案によって異なることになり、論理の一貫性を欠くことになるからである。 したがって、民訴法や裁判所法での「判例」ではないとしても、原則、実体の有無の判断に当たっては「税回避の目的」があったとしても、それは無関係に判断すべきである。また同様に、民法等の他の法例に基礎を置く概念、すなわち借用概念の解釈に当たっては、原則、統一説によるべきこととなるものと思われる。 (3) 先行判例の検討 最高裁・高裁共に判決の中で、多くの先行判例(ただし税法の判例ではない)を引用・参照している。前回分も含め、判決の中で、「(略1)~(略4)」としたものがそれである。 そこで、これら先行判例を確認し、両判決への影響を検討する。 ここでその省略した部分を記載すると、次のとおりである。 以下、これらの判決について見ていこう。 (4) 先行判例からの高裁判決の検討 上記事案から「生活の本拠」が住所となる点に異論はないが、その意味として理解しやすい判示が③で述べる「その人の生活にもっとも関係の深い一般的生活、全生活の中心をもってその者の住所と解すべく」であろう。 ところで主観的意図が含まれるか否かという点については、②では「前記の場所を住所にしようとする意思があったかも知れないが・・・」とこれを否定している。また④においては「住所所在地の認定は各般の客観的事実を綜合して判断すべきもの」と客観的事実の総合判断としており、主観的要素は含まれていない。 高裁は、(略2)で上記①を、(略3)で上記③を、(略4)上記④を引用しているが、先行判例とは全く異なる判断を下している。 もっとも、主観的要素を考慮すべきという先行判例はないわけではない。上記③事件の原審、大阪高裁昭和34年10月16日判決は、「C市において飲食店を経営し、翌年6月以降同営業所で金融業を兼営していること、右飲食店の運営に従事する同人の妻が主として同営業所に宿泊していること、A町の住家が同年2月以来送電を中止され、何人も住んでいないことは、被告の認めるところであるが、後段認定の事実をも考慮に入れて判断するのに、右事実からはBの住所がC市に移ったと見るのは早計である。すなわち住所は人の生活の中心となる本拠であって、右営業的活動の如きは人の社会活動の一部にすぎず、結局それが問題の人の生活の中心的重要部分を占めその本拠が生活全般の本拠となるか否かは、その人の生活の全般の客観的事情に主観的意思をも考慮して決すべきところ」と判示している。しかし、この判決の最高裁においても、原審で考慮事項とした「主観的意思」には一切触れていない。 これらの点から、「住所」には主観的要素は含まれないというのが判例の立場と言いえよう。 したがって高裁判決は、(結論の妥当性はともかく)論理的には問題がある判決と言えよう。 *  *  * 次回は、所得税法56条「生計を一にする親族」に関する基本的判例である、最高裁判所第一小法廷昭和51年3月18日判決(原審を含む)を取り上げる。 (続く)

#No. 153(掲載号)
#長島 弘
2016/01/21

〔経営上の発生事象で考える〕会計実務のポイント 【第1回】「自社の業績が不振の場合」

〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第1回】 「自社の業績が不振の場合」   仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮     1 棚卸資産の評価 《解説》 通常、メーカーは製造コストを上回る価格で製品を販売することを前提として活動している。そのような場合には、貸借対照表に計上される棚卸資産の金額は、販売によって最低限回収されるべきコストを表していることになる。 液晶パネルの販売価格が急激に下落すると、製造コストを回収できない可能性があるため、期末時点において正味売却価額が取得原価(製造コストに引取費用等の付随費用を加算した金額)を上回っているか否かについて慎重に検討する必要がある。 なお、正味売却価額の算定方法は、期末前後での販売実績に基づく価額を用いることなどが考えられる。 【図1】   2 固定資産の減損 《解説》 事例のように業績が悪化した状況においては、固定資産に対する投資額の回収が見込めない可能性があるため、固定資産の減損について慎重に検討する必要がある。 固定資産の減損を検討するにあたり、まず固定資産のグルーピングを行う必要がある。 実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになり(意見書四2(6))、企業ごとにグルーピングの方法を設定する。 液晶パネルの販売価格の急激な下落に伴い、業績が悪化しているグルーピングの単位(工場、営業所、事業部等)を把握し、【図2】のように減損会計のステップに従って、投資額の回収が見込めないほどの収益性の低下があるか否かについて慎重に検討する必要がある。 【図2】 減損会計のステップ なお、減損の兆候には【図3】のように4つの例示があり、事例の場合は①又は③に該当する可能性が高いと考えられる(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針11)。 減損の兆候がある資産又は資産グループについて、これらから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、投資額の回収が見込めないほどの収益性の低下があると判断され、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上することとなる。 資産又は資産グループに対する投資は、売却と使用のいずれかの方法によって回収されるため、回収可能価額は正味売却価額(資産又は資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算出される金額)と使用価値(資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値)のいずれか高い方の金額となる。   3 繰延税金資産の回収可能性 《解説》 繰延税金資産は、実務的には監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い(以下、「監査委員会報告第66号」という)」における会社区分に従って回収可能性を判断したうえで計上される(【図4】参照)。 【図4】 将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性の判断指針 今回のように大幅な赤字の計上を伴いながら業績が悪化している状況においては、会社区分が③から④への変更もしくは④から⑤への変更の可能性があるため、会社の状況に応じて期末時に繰延税金資産の回収可能性を見直さなければならない。   4 継続企業の前提に関する注記 《解説》 通常、企業は将来にわたって事業活動を継続するとの前提(以下、「継続企業の前提」という)を基礎とした一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して財務諸表を作成している。これは、財務諸表に計上されている資産及び負債は、将来の継続的な事業活動において回収又は返済されることが予定されているということである。 しかしながら、事例のように大幅な赤字を計上し、かつ、業績が悪化している状況においては、【図5】の財務指標関係の例示にあるような、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する可能性が非常に高い。 このような場合において、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、継続企業の前提に関する事項を財務諸表に注記することが必要となる。 なお、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策は、財務諸表作成時現在計画されており、効果的で実行可能なものでなければならない。 具体的には、売上高の著しい減少があるという状況に対しては、新製品の開発・発売による売上高の改善計画などが考えられる。 また、有価証券報告書を提出しなければならない会社は、「経理の状況」に継続企業の前提に関する事項を注記する必要がない場合でも、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合には、「事業等のリスク」や「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」にその旨や対応策等について具体的に、分かりやすく、かつ簡潔に記載しなければならない(企業内容等の開示に関する内閣府令 第三号様式 記載上の注意(13)(16))。   【検討事項のチェックリスト】 ~自社の業績が不振の場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 153(掲載号)
#田中 良亮
2016/01/21

金融商品会計を学ぶ 【第18回】「デリバティブ取引」

金融商品会計を学ぶ 【第18回】 「デリバティブ取引」   公認会計士 阿部 光成   今回は「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるデリバティブ取引について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ デリバティブ取引の定義 デリバティブ取引は、契約上の期日に純額又は実質的に純額で、現金、その他の金融資産又はデリバティブを授受する権利もしくは義務が生じる契約である(金融商品実務指針218項)。 金融商品会計基準は、デリバティブ取引を、先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引をいうとし、具体的な資産及び負債項目によって、適用範囲を示している(金融商品会計基準4項、52項)。 一方、金融商品実務指針は、デリバティブとは、次のような特徴を有する金融商品であるとしている(金融商品実務指針6項)。   Ⅱ デリバティブ取引の会計処理と時価 1 会計処理 デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務は、原則として時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、ヘッジに係るものを除いて、当期の純損益として処理する(金融商品会計基準25項、金融商品実務指針101項)。 ヘッジ会計を適用しているデリバティブ取引については、原則として、時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部において繰り延べる方法による(金融商品会計基準32項)。 2 上場デリバティブ取引の時価 デリバティブ取引は、取引により生じる正味の債権又は債務の時価の変動により保有者が利益を得又は損失を被るものであり、投資者及び企業双方にとって意義を有する価値は当該正味の債権又は債務の時価に求められると考えられている(金融商品会計基準88項)。 時価の算定に関しては、次のことに注意する(金融商品実務指針101項)。 3 非上場デリバティブ取引の時価 取引所の相場がない非上場デリバティブ取引の時価は、市場価格に準ずるものとして合理的に算定された価額が得られればその価額とする(金融商品実務指針102項)。 合理的に算定された価額は、一般に、以下のいずれかの方法を用いて算定する。 なお、金融商品実務指針103項に、時価評価における留意事項が規定されているので、実務の適用に際しては、注意が必要である。 4 デリバティブ取引の認識 デリバティブ取引については、契約上の決済時ではなく契約の締結時にその発生を認識しなければならない(金融商品会計基準7項、55項)。 これは、金融資産又は金融負債自体を対象とする取引については、当該取引の契約時から当該金融資産又は金融負債の時価の変動リスクや契約の相手方の財政状態等に基づく信用リスクが契約当事者に生じることから、契約締結時においてその発生を認識するものである(金融商品会計基準55項)。   Ⅲ 公正な評価額を算定することが極めて困難と認められるデリバティブ取引の会計処理 非上場デリバティブ取引の時価評価に当たっては最善の見積額を使用するが、取引慣行が成熟していないため内容が定まっていない一部のクレジット・デリバティブ、ウェザー・デリバティブ等で公正な評価額を算定することが極めて困難と認められるデリバティブ取引については、取得価額をもって貸借対照表価額とする(金融商品実務指針104項)。 (了)

#No. 153(掲載号)
#阿部 光成
2016/01/21

改正労働者派遣法への実務対応《派遣先企業編》~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第2回】「期間制限への対応②」

改正労働者派遣法への実務対応 《派遣先企業編》 ~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第2回】 「期間制限への対応②」   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【第2回】は前回に続き、期間制限への対応について検討する。   1 過半数代表者の選出 派遣可能期間を延長する場合に必要な手続きである意見聴取は、労働者の過半数で組織する労働組合(以下、過半数労働組合)がない事業所では、労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者)を選出し、その者に対して行う必要がある。 (1) 過半数代表者の要件 「過半数代表者」とは、以下①②の2つの要件を満たす者となる。ただし、①に該当する者がいない事業所では、②を満たす者となる。 就業規則の届出に必要な意見を聴取する場合や労使協定を締結する場合等、他の法律においても過半数代表者の選出が必要な場面はいくつかあるが、実務の現場では適切に選出されていないケースが散見される。会社が指名して過半数代表者を決めているケースがその代表的な例である。 意見聴取の当事者となる過半数代表者の選出が適切に行われていない場合は、意見聴取が行われていないものと同視され「労働契約申込みみなし制度」の対象となるため、対応に注意が必要となる。 (2) 留意点 過半数代表者の選出にあたっては、上述した2つの要件を原則満たす必要があるが、以下の点にも留意が必要となる。 ① 従業員の範囲 過半数代表者は、その事業所の従業員の意思に基づいて選出された者だが、選出する従業員は、正社員だけでなく契約社員やアルバイト等の非正社員も対象となる。過半数代表者は正社員だけで選出するものと誤解しているケースもあるようだが、すべての従業員が対象となるため注意が必要だ。また、管理監督者は、原則、過半数代表者になることはできないが、過半数代表者を選出する従業員には含まれる。 ② 民主的な方法 過半数代表者の選出は、選出目的を明示した上で民主的な方法により実施すれば、どの方法を選択してもよい。その方法としては、グループウェアやEメールを活用する方法、投票用紙を用いて選挙を行う方法、また、すべての従業員が集まる会議等で挙手により選出する方法等がある。 事業所の従業員構成やパソコンの活用度等のIT環境等から、どの方法が適しているかを検討の上、選出に必要な書類等の準備を行い、スムーズな実施体制を整えておきたい。 ③ 労働組合がある場合 労働組合がある場合でも、事業所の過半数の従業員が組合員となっていない場合は、その労働組合は事業所の過半数労働組合ではないため、意見聴取を行う対象になり得ない。 よって、アルバイトや契約社員等の非正社員の構成率が高い事業所では、労働組合はあっても過半数労働組合となっていない場合があるため注意が必要となる。この場合は、意見聴取にあたり過半数代表者を選出する必要がある。   2 管理体制 派遣先は、期間制限に抵触しないよう、派遣可能期間を管理する体制を構築する必要がある。要は、労働者派遣法に関する一定の知識を備えた者を責任者として設置し、労働者派遣契約を締結する場合は必ずその責任者が関与する体制とすることで、派遣可能期間を超えて労働者派遣契約が締結されることがないようにする必要がある。 責任者は、会社や事業所の規模により、事業所毎に設置する方法と、人事部門等の本社組織に全社を一括管理する者として設置する方法が考えられるが、派遣可能期間の管理にあたっては労働者派遣法に関する一定の知識が求められるため、人事部門等で一括管理する方法がより確実と思われる。 責任者が関与する体制としては、派遣労働者を受け入れる際の業務フローで当該責任者を承認者として位置づけたり、承認手続きの中で派遣可能期間を記載し確認するフローを設ける等の対応が考えられる。 なお、複数の事業所を本社で一括管理する場合は、「事業所」単位の期間制限の抵触日が事業所毎に異なることがあるため、管理は煩雑となる。これに対しては、派遣可能期間を延長する場合に延長期間の終期を全社で合わせて事業所毎の期間制限の抵触日を統一し、意見聴取の時期を合わせる等の対応が考えられる。   3 対応スケジュール 新しい期間制限の考え方は、平成27年9月30日以降に締結する労働者派遣契約に基づく労働者派遣から対象となるため、どの事業所においても、少なくとも平成30年9月30日までは派遣労働者の受け入れが可能となる。 よって、派遣可能期間を延長する手続きが必要となるのは約3年後となるが、前回確認した通り、手続きは複数のStepにわたることから、一定の時間を要し、また、過半数労働組合がなければ過半数代表者を選出することから始める必要があるため、直前に慌てることがないよう、事業所毎に3年後を見据えたスケジュールを策定し、漏れなく必要な手続きが行われるように準備をしておきたい。 *  *  * 以上、2回にわたり期間制限への対応についてみてきたが、期間制限に違反した場合は「労働契約申込みみなし制度」の対象となるため注意が必要となる。派遣可能期間を延長する手続き等の対応が必要となる時期はまだ先であるものの、手続きを失念することがないようしておきたい。 なお、期間制限を受けない特例の労働者派遣だけを受け入れる場合(無期雇用者や60歳以上の派遣労働者を受け入れる場合等)は、2回にわたり検討した期間制限への対応は不要となる。 (了)

#No. 153(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2016/01/21

養子縁組を使った相続対策と法規制・手続のポイント 【第16回】「孫養子の相続税の節税効果」

養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第16回】 「孫養子の相続税の節税効果」   弁護士・税理士 米倉 裕樹   [1] はじめに 相続、遺贈、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含む)及び配偶者以外の人である場合には、その者の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算され、これを相続税額の2割加算という。2割加算は、上記のような場合において、一世代飛び越すことで相続税の課税を1回分減らすことができることから、その税負担を調整するために設けられた制度である。 被相続人の養子は、一親等の法定血族となることから、相続税額の2割加算の対象とはならない。ただし、被相続人の養子となっている被相続人の孫は、代襲相続人となっている場合を除き(被相続続人の子が相続開始前に死亡したときや相続権を失ったためその孫が代襲して相続人となっている場合を除き)、相続税額の2割加算の対象となる。 そこで、被相続人の孫を養子とすることで、何ら対策を行わない場合と比べて節税効果がどの程度得られるのか、被相続人の孫を養子とするのではなく、被相続人の子の配偶者を養子とする場合と比較しつつ、具体的事例及び数字とともに以下検討する。   [2] 何ら対策を行わない場合 当初の被相続人から孫に至るまで相続がなされた場合、当初の被相続人の相続財産がそれぞれ10億円(赤字)、5億円(黒字)、2億円(青字)であった場合の累計相続税額は以下のとおりである。 なお、前提として、各相続人は法定相続分の割合にて具体的相続分を取得したものとし、各被相続人から取得した相続財産からは相続税の支払分だけが控除され、それ以外には各相続人において費消されておらず、かつ、各相続人の固有の財産は存在しない(加算しない)ものとする。 また、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除、相続時精算課税等は考慮対象外とし、基礎控除額、税率、配偶者の税額軽減等は平成28年1月1日時点での税制を前提とする。 (1) 被相続人の相続時 (2) 子の相続時 (3) 子の配偶者の相続時  (4) 相続税総額 [当初の相続財産10億円]・・・6億2,236万円 [当初の相続財産5億円]・・・2億5,720万円 [当初の相続財産2億円]・・・6,395万円   [3] 被相続人の孫を養子とした場合 次に、被相続人の孫を養子とし、当初の被相続人の相続財産がそれぞれ10億円(赤字)、5億円(黒字)、2億円(青字)であった場合の累計相続税額を算出する。なお、前提事項は[2]と同じであるが、孫を養子とするため、被相続人相続時において孫の相続税額が2割増しとなる。 (1) 被相続人の相続時  (2) 子の相続時  (3) 子の配偶者の相続時  (4) 相続税総額 [当初の相続財産10億円]・・・4億9,870万円 [当初の相続財産5億円]・・・1億8,839万5,000円 [当初の相続財産2億円]・・・3,990万2,500円   [4] 小括 以上のとおり、孫を養子とした場合には、そうでない場合に比べ、被相続人の相続財産が10億円の場合には1億2,366万円、5億円の場合には6,880万5,000円、2億円の場合には2,404万7,500円の節税効果が生じることとなる。 なお、参考までに、以下のとおり、被相続人の孫を養子とするのではなく、被相続人の子の配偶者を養子とする場合との比較検討を行う。 被相続人の兄弟姉妹を養子とすることや、被相続人が親族以外の養子を迎えることも考えられるが、その場合には兄弟姉妹や親族以外の養子の子らに被相続人の相続財産が分散することとなり、被相続人の意図に合致しないため割愛する。   [5] 被相続人の子の配偶者を養子とする場合 被相続人の子の配偶者を養子とし、当初の被相続人の相続財産がそれぞれ10億円(赤字)、5億円(黒字)、2億円(青字)であった場合の累計相続税額は以下のとおりである。 なお、前提事項は[2]と同じであるが、被相続人の相続財産すべてが孫に至るまでに課税される相続税総額を算出するという趣旨からすれば、子の配偶者が被相続人から取得した財産(下記(1))は、子の配偶者の固有財産とせず、その結果、子の配偶者の相続時(下記(3))にその分も加算して孫に相続されることになる。 (1) 被相続人の相続時 (2) 子の相続時 (3) 子の配偶者の相続発生時   (4) 相続税総額 [当初の相続財産10億円]・・・5億9,697万5,000円 [当初の相続財産5億円]・・・2億3,910万8,700円 [当初の相続財産2億円]・・・5,568万2,500円   [6] 総括 以上のとおり、被相続人の孫を養子とする場合が最も節税効果が生じることとなり、かつ、被相続人の相続時という比較的早い段階において孫が相続財産の一部を取得することができる。 なお、被相続人の子の配偶者を養子とした場合には、被相続人の相続財産を子の配偶者が取得した後、子の配偶者の相続が開始するまでに子と離婚してしまうこともあり、その後、再婚、さらには再婚配偶者との間で子をもうけるなどされると、孫の法定相続分が大きく減少するという危険性も存在する。 (了)

#No. 153(掲載号)
#米倉 裕樹
2016/01/21

企業の不正を明らかにする『デジタルフォレンジックス』 【第6回】「デジタルフォレンジックスの現場」~調査編①~

企業の不正を明らかにする 『デジタルフォレンジックス』 【第6回】 「デジタルフォレンジックスの現場」 ~調査編①~   プライスウォーターハウスクーパース株式会社 シニアマネージャー 池田 雄一   1 はじめに 【第4回】および【第5回】で解説したとおり、証拠として収集されたデータは、よほどの理由がない限り現地で調査を行うことはなく、ラボに持ち帰りデジタルフォレンジック調査を行う。 そこで今回からは、前回までの証拠収集編に続き、デジタルフォレンジックの調査編として2回にわたり、実際の調査アプローチや調査に使用されるツールなどについても触れていきたい。   2 案件の性質に合わせる調査アプローチ 「デジタルフォレンジックス」が「コンピュータフォレンジックス」や「モバイルフォレンジックス」などの複数の分野の総称である旨は【第1回】で触れたが、「デジタルフォレンジックス」が適用されるあらゆる調査案件において、そのアプローチは大きく分けて「文系的アプローチ」と「理系的アプローチ」の2種に分類される。 案件の性質によって、「文系的アプローチ」、「理系的アプローチ」のどちらか、または2種のアプローチを織り交ぜた「ハイブリット型アプローチ」がとられる。 (1) 「文系的アプローチ」とは 「文系的アプローチ」と聞くと、完全に理系な調査手法として認識されているであろう「デジタルフォレンジックス」と相反する印象を持つかもしれないが、実際に行われているデジタルフォレンジックス調査には文系的要素も少なからず含まれる。 「文系的アプローチ」とは、その名の通り、コンピュータそのものに関する知識を必要としない調査アプローチである。 具体的には、不正行為の背後で当事者とその関係者などがどのようなコミュニケーションを行っていたのか、どのような文書が作成されシェアされていたかなど、電子データとして保存されているメールや添付されている文書、帳簿などの「内容」の分析に焦点を絞った調査アプローチを指す。 (2) 「理系的アプローチ」とは メールや文書の「内容」に焦点を当てる「文系的アプローチ」に対して、「理系的アプローチ」とは「デジタルフォレンジックス」の真骨頂とも言うべきアプローチであり、「Windowsアーティファクト」と呼ばれるWindows OS上で生成されるあらゆる情報の分析に焦点を絞った調査である。 ここでは、Windows上の各種設定情報などを格納する「レジストリ」と呼ばれるデータベース領域の調査分析や各ファイルが持つタイムスタンプの調査分析などのほか、あらゆるツールを駆使して行われる消去されたデータの復元、暗号化の復号やパスワードの解除などもこれに含まれる。 (3) 「ハイブリッド型アプローチ」とは 「ハイブリッド型アプローチ」とは、「文系的アプローチ」および「理系的アプローチ」を組み合わせたものになる。具体的には「理系的アプローチ」によって復元されたメールや文書などを「文系的アプローチ」によって、その内容の分析を行うものである。 例えば、証拠として収集したスマートフォンから、専用の調査ツールによりコミュニケーションアプリからメッセージの抽出・復元を行い、対象者が誰といつどのような会話をしていたかを分析するのがこのアプローチに該当する。   3 調査に使われるツール 「デジタルフォレンジックス」に使用されるツールは、無料のものから有料のものまで数多く存在するが、業界でスタンダードとなっているツールはそれほど多くない。ツールに関する詳細情報は割愛するが、これらのツールを使用することで消去ファイルの復元や通常のWindows環境では見られない領域の閲覧などが可能になる。 また、1つのコンピュータを深堀するのに使用するツールのほか、「eディスカバリー」で主に利用されるツールは、大量なデータに対して横断検索が可能で、調査チームの複数のメンバーでドキュメントレビューを分担できるほか、特定された重要なドキュメントの共有も容易にできるような仕様となっており、大量のメールやドキュメントを読みこなす必要のある「文系的アプローチ」に使用される代表的なツールである。 「デジタルフォレンジックス」で使用されるハードウェアについては【第4回】および【第5回】で触れたが、実際の調査で使用される主なハードウェアツールは、データ処理能力を高めた非常に強力なワークステーションと「ライトブロッカー」と呼ばれる調査対象のハードディスクに対する書き込みを防止し、調査用のワークステーションに接続するための装置である。 通常のコンピュータでも調査を行うことは可能であるが、対象のデータに対する各種処理にかかる時間を可能な限り減らし効率的に調査を行うために、ワークステーションには軽自動車を1台購入できるほどの費用をかけている。 上記のようなソフトウェアおよびハードウェアのフォレンジックツールを駆使し、短期間で正確な調査結果を出すことが、特に筆者のような民間の専門家には求められている。   4 実際の調査とその流れ 筆者の勤務するような大手会計事務所をバックボーンに持つファームにおいては、必然的に会計要素を含む不正案件の調査依頼が多くなる傾向にある。したがって、不正調査におけるデジタルフォレンジックスでは「理系的アプローチ」よりも「文系的アプローチ」の方が多くなる。 このような調査では、不正会計調査に特化したフォレンジックアカウンタントが不適切な会計処理の背後にある関係者間のコミュニケーションに焦点を当て、メールなどのレビューを行っていく。しかしながら、「理系的アプローチ」をとるか「文系的アプローチ」をとるかに関わらず、証拠データの収集からアプローチを決めるまで共通した準備作業がある。 準備作業については専門家によって多少の差があるものの、まずは専用の調査ツールを利用し、以下3つの作業を行う。 上記の作業を経て、「文系的アプローチ」がとられる場合には、すべてのメールとその添付書類および文書データに対して横断検索が行えるようデータベース化処理を行う。調査対象者が10名程度であればデータベース化処理には数日程度要し、その後案件の内容に応じてキーワード検索、期間の設定などを行った上でレビューを行う。 一方で、情報漏洩に関連する調査案件や電子データの証拠隠滅の有無などを確認する際にとられる「理系的アプローチ」においては、継続して専用の調査ツールを使用し、それまでに接続されたUSBメモリや外付けハードドライブなどの外部記録装置の接続履歴、同時に大量にコピーまたは消去ファイルの有無およびそれらのタイムスタンプの確認などの調査を行う。調査対象がスマートフォンであれば、コミュニケーションアプリなどによるチャット履歴、通話記録、テキストメッセージなどの復元なども行う。 特に「理系的アプローチ」においては、大量なファイルのアクセス日時が同一のものに書き換えられているなどの特定の現象が観察された際、それがユーザーのどのような行為によって発生したのかを「検証(バリデーション)」する作業に多くの時間が費やされることがある。 そのような現象が起こった原因を推測し、テスト環境で実際に実験し、同じ現象が再現できるまであらゆる方法を試すことで、ユーザーがどのような行為を行った結果、そのような現象が発生したかを特定できる。 最後に、上記の調査アプローチにより判明した事実と検証結果を報告書にまとめ調査の完了となる。 次回も引き続きデジタルフォレンジックの調査について、次の点を解説する。 報告書には「事実」のみを記す デジタルフォレンジックス専門家の適性とは セカンドオピニオンが必要な理由 (了)

#No. 153(掲載号)
#池田 雄一
2016/01/21

プロフェッションジャーナル No.152が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年1月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.152を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2016/01/14

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第37回】「法人税法にいう『法人』概念(その1)」~株主集合体説について考える~

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第37回】 「法人税法にいう『法人』概念(その1)」 ~株主集合体説について考える~   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに 我が国の法人税法は、シャウプ勧告に基づく昭和25年の改正以来、法人に対する法理論につき、「株主集合体説」ないし「法人擬制説」の考え方を原則的に採用している。これは、「法人税は所得税の前払いである」という考え方と関係を有する。かような点から、法人税と所得税の間に介在する配当二重課税について、我が国の税制は、最終的な個人株主への配当の段階でその排除を行うという取扱いを採用している。 現行法においては、1個の配当原資に対しては1回の法人税課税しかなされないという前提で配当控除を行うものとしている。すなわち、法人税法23条により、法人株主の段階における受取配当金を原則的に非課税とすることによって(現行法は完全子法人株式等及び関連法人株式等のいずれにも該当しない株式に係るものについては50%のみが益金不算入)、配当が法人間を移転している限り、当初の配当原資に対するもの以外には法人税を課さず、これにより個人株主段階において最終的な二重課税の調整が有効に機能するようにしている。 二重課税の調整方法として、具体的には、①支払配当控除方式(支払配当損金算入方式)、②グロスアップ方式(法人段階源泉課税方式、インピュテーション方式)、③受取配当控除方式などがあるが、現行法は③の方法を採っている。   1 個人株主と法人との間の配当二重課税排除 (1) 支払配当控除方式 支払配当控除方式とは、法人が、ある年度の所得から株主に配当を支払った場合に、この配当支払相当額を法人税の課税標準から控除することで、未配当の所得部分についてのみ法人税を課税するという方法である。 すなわち、法人形態で稼得した所得のうち、配当として個人株主の手に帰する部分については法人税を一切課税せず、所得税のみを課する、という手法である。 この方法では、個人所得に対する課税が残るので、累進課税の機能は残る。 この支払配当控除方式には、支払配当の全部ではなく、一部のみを損金に算入する方法(支払配当一部控除方式)、あるいは法人税の課税標準たる法人所得のうち、支払配当に充てられた部分について法人税率を軽減する方法(支払配当軽課方式)がある。 支払配当軽課方式を純粋に推し進めれば、①既に法人税が課税された留保利益から配当が支払われたときには、過去に納付された法人税を還付すべきことになるという問題がある。また、②国外の投資家にも自動的に利益を与えてしまうという問題や、③配当性向の如何によって法人の租税負担が異なることとなり、 中立性の観点から好ましくない結果を招来するという問題もある。 ②及び③の理由から、この方式は制度として合理的ではないと論じる有力な学説が展開されている。 (2) グロスアップ方式(法人段階源泉課税方式、インピュテーション方式) グロスアップ方式とは、法人段階源泉課税方式とも呼ばれるように、法人税をいわば源泉徴収所得税と同様に扱おうとする方式である。 法人税は、個人株主が法人形態で稼得した所得に対する所得税の源泉徴収と観念され、個人株主の得た配当に対して所得税を課税するに当たり、既納付の法人税を他の源泉徴収所得税と同様に扱うものである。 例えば、法人税率を50%とし、100の法人所得に対して、50の法人税がかかったとする。ここでは、法人税法上の所得控除や税額控除がない単純な形を考える。法人税を納付した残りの50が全額1人の個人株主に配当されたとし、その個人株主の得た配当所得に対しては、60%の所得税率の適用があると仮定する。 この場合、グロスアップ方式によれば、配当50は法人税という源泉徴収税差し引き後の手取り額であるから、その個人株主に対する所得税額を計算するに当たっては、源泉徴収税差し引き前の所得、すなわち「配当50+源泉徴収税額(法人税額)50=100」を配当所得として、その個人株主の課税標準に取り込む。このことをグロスアップという。そして、この100という配当所得に所得税率60%を適用して所得税額60が算出される。この60から源泉徴収税額と捉えるべき法人税額50を差し引いた残りの10をその配当に係る納付すべき所得税額とするのである。 このように考えることによって、法人税の負担50と所得税の負担10の計60が法人税と所得税の合計の税額となる。 〈図表1〉 グロスアップ方式の例 株主1人だけの会社の今期の利益が100万円のケース(配当可能利益を全額配当) ※ 法人税+所得税=50万円+10万円=60万円  二重課税が完全に排除されている。 この計算方法はやや複雑ではあるが、論理的であるといえる。すなわち、100%グロスアップ方式の下では、配当に充てた法人所得に関する限り二重課税は完全に排除され、個人事業と法人事業との間の中立性が回復されることになる。 しかしながら、この方式については、留保利益に対する過大負担ないし過少負担が排除されないという問題点が指摘されており、また、そもそもその計算自体の複雑さも大きな問題であるといえよう。 (a) 複雑さの原因-所得控除・税額控除のあるケース さらに、法人税における優遇措置としての所得控除や税額控除を考慮すると、計算方法はより複雑になる。 例えば、法人が稼得した100の法人所得から、20の所得控除がなされるとすれば、100-20の残り80の課税所得に対して、税率50%の法人税が課税される。すなわち、40の総法人税が課されることになる。加えて、さらに税額控除が4とした場合、40-4=36が純法人税となる。したがって、36を納付した残りの64が法人の所得である。 この64全てを1人の個人株主に配当するとしよう。その際に、グロスアップすべき源泉徴収税額に相当する金額は、純法人税36から既に優遇措置を受けた所得控除20を控除した、36-20=16となる。すなわち、課税対象となる個人所得は、64の配当にグロスアップすべき16を加えた80であるから、ここに60%の所得税が課されることによって、暫定的な総所得税(法人税+所得税の合計額)は48になる。 暫定的な総所得税のうち、既に法人税として源泉徴収された税額は36であるとともに、法人税上の税額控除4を受けることができるため、48-(36+4)=8が純所得税として計算されることになる。 (b) 複雑さの原因-100%承継でないケース 上記(a)では、完全統合において所得控除や税額控除の承継割合(所得控除や税額控除を考慮した場合についてまで二重課税排除を完全に行うかどうかという程度)が100%であるケースを考えてきたが、承継割合が100%に満たない場合(所得控除や税額控除についてまで二重課税の排除の完璧さを求めないという施策を採用した場合)などは、ますます計算が複雑となる。例えば、上記のケースで、承継割合が50%であった場合を想定すると次のようになる。 まず、法人の所得計算については変わりない。上記同様、稼得した所得は100、所得控除を引いた課税所得80、それに対する総法人税40、そこから税額控除4を引いた36が純法人税であり、手許に残る法人の所得は64である。 しかし、承継割合が50%の場合、グロスアップされる額が変わってくる。 グロスアップすべき源泉徴収税額に相当する金額は、純法人税36から、既に優遇措置を受けた所得控除20の承継割合50%に当たる10を控除した、36-10=26となる。したがって、課税対象となる個人所得は、64の配当にグロスアップすべき26を加えた90であるから、ここに60%の所得税が課されることによって、暫定的な総所得税(法人税+所得税の合計額)は54になる。 暫定的な総所得税54のうち、既に法人税として源泉徴収された税額は36であるが、法人税上の税額控除4については承継割合が50%であるため2となり、54-(36+2)=16が純所得税として計算されることになる。 このように、承継の程度によって計算は煩雑となり、また、そもそもの統合割合が100%未満の場合、さらに計算は複雑になる(図表2参照)。 〈図表2〉 所得税率60%の納税者に対する統合の程度及び租税優遇の承継の程度別の計算 もっとも、配当額にグロスアップする金額を明示することとすれば、納税者はその都度グロスアップ額を計算する必要はないから、受取配当控除方式に比較してグロスアップ方式が特に複雑であるということにはなりそうにない。 他方で、国際課税との関係において問題点が指摘されている。すなわち、グロスアップ方式の下では、国内の投資家の二重課税は全部又は一部排除されその租税負担は調整されることになるが、国外からの投資家の場合にはその効果が及ばない。そのため、それは、国外からの投資を差別することにもなり得るため、国際的中立性に反する結果を生ずるという問題である。この問題点は決して小さいものではない。 (続く)

#No. 152(掲載号)
#酒井 克彦
2016/01/14

平成27年分 確定申告実務の留意点 【第1回】「平成27年分の申告から取扱いが変更となるもの①」

平成27年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「平成27年分の申告から取扱いが変更となるもの①」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   -はじめに- 年が明け、今年も確定申告を意識する時期となった。平成27年分の確定申告の受付は、平成28年2月16日(火)から3月15日(火)まで行われる。還付申告は、2月15日(月)以前であっても行うことができる。 なお、e‐Taxを利用する場合には、1月12日(火)の午前8時30分から3月15日(火)の間であれば、メンテナンス時間を除き、24時間申告書を送信することが可能である。 今回から4回シリーズで、「平成27年分の確定申告」に係る実務上の留意点を解説する。 【第1回】と【第2回】は、平成27年分の所得税計算から取扱いが変わるもののうち、確定申告実務に影響があると考えられる事項について解説する。 確定申告に係る下記の拙稿も併せてご参照いただきたい。   (1) 最高税率の引上げ 平成27年分以後の所得税について税率の改正が行われ、最高税率が45%(改正前40%)となった(所法89①)。   (2) 公的年金等に係る確定申告不要制度の改正 平成23年分以後、その年中の公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、その年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には、確定申告の必要はないものとされている。 この確定申告不要制度について、平成27年分以後、源泉徴収の対象とならない公的年金等の支給を受けている場合には、制度の適用を受けられないこととなった(所法121③、所基通121-5の2)。 したがって、確定申告を不要とすることができるのは、原則として受給する公的年金等のすべてについて源泉徴収されている場合に限られることとなる。例えば、外国の制度に基づいて国外で支払われる年金など、源泉徴収の対象とならない公的年金等の支給を受けている場合には、金額に関わりなく制度の適用を受けることはできない。 ただし、源泉徴収されない公的年金等であっても所得税法203条の6の規定によるもの(額が少額であるため、源泉徴収を要しない公的年金等)は、今回の改正の対象ではないため、従来通り制度の適用を受けることができる(所法203の6、所令319の13)。 【参考図】 公的年金等に係る申告不要制度の整備(所法121・所基通121-5の2) ※ ケース1~3において、Y年分の公的年金等に係る雑所得以外の所得金額はないものとします。 (※) 国税庁ホームページより   (3) ふるさと納税ワンストップ特例制度の創設 平成27年度税制改正では、ふるさと納税をより使いやすくする目的で「ワンストップ特例制度」が創設された。 この改正により、平成27年4月1日以後に行われた寄附について一定の要件を満たす場合には、確定申告をしなくても寄附金控除の適用を受けることができる(地方税法附則7)。 「ワンストップ特例制度」についての詳細は、以下の拙稿をご参照いただきたい。   (4) 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例の見直し 相続又は遺贈(以下、相続等という)により取得した資産を、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡している場合には、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる(措法39①)。 この取得費加算の特例について、土地等(土地及び土地の上に存する権利)を譲渡した場合の計算方法に見直しが行われた。 見直し前は、相続等により取得した土地等の一部を譲渡した場合であっても、相続等により取得したすべての土地等に対応する相続税額が加算されていた。見直し後は、土地等以外の資産を譲渡したときと同様に、譲渡した土地等に対応する相続税額のみを加算する計算方法となった。 〈取得費に加算する相続税額の計算方法〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 本改正は、平成27年1月1日以後に開始する相続等により取得した土地等を譲渡する場合に適用されるため、平成27年分の確定申告における対応は以下のとおりとなる。 *  *  * 次回は、国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の創設を中心に解説を行う予定である。 (了)

#No. 152(掲載号)
#篠藤 敦子
2016/01/14

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第22回】「不動産の譲渡に関する契約書(土地交換契約書)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第22回】 「不動産の譲渡に関する契約書(土地交換契約書)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   土地を交換するにあたり、土地交換契約書を作成しようと思います。 等価交換で交換差金は発生しない場合と、等価交換でなく交換差金が発生する場合の印紙税の取扱いはどうなりますか。 【事例1】 【事例2】 【事例3】   【事例1】は記載金額のない第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書)に該当し、印紙税額200円となる。【事例2】についても第1号の1文書に該当し、記載金額3,000万円、印紙税額10,000円となる。また、【事例3】についても第1号の1文書に該当し、記載金額5,000万円、印紙税額10,000円となる。   [検討1]  課税物件表に規定する・・・の譲渡に関する契約書とは 譲渡とは、資産、権利その他の財産をその同一性を保持したまま他人に移転させることをいうため、譲渡に対して対価を受けるかどうかは問わない。 したがって、売買契約書、交換契約書、贈与契約書、代物弁済契約書及び法人等に対する現物出資契約書等などの所有権等の権利の移転を内容とする契約書はすべて含まれる(基通13)。 [検討2] 交換を内容とする契約書の記載金額 不動産と不動産の交換の場合の記載金額は以下のとおり(基通23(1))。   ▷ まとめ   ◆ 不動産と動産との交換契約書の記載金額(基通別表1第1号の1文書5) 不動産と動産の交換の場合の記載金額は以下のとおり。 ◆ 土地贈与契約書の記載金額(基通23(1)ホ) 上記の説明のとおり、贈与も譲渡の形態の1つであるため、土地の贈与契約は、第1号の1文書に該当する。 なお、贈与契約は無償契約であることから、贈与契約書に土地の評価額が記載されていたとしても、その評価額は不動産の譲渡の対価ではないため、記載金額には該当しない。 (了)

#No. 152(掲載号)
#山端 美德
2016/01/14
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