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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第82回】減損会計⑥「共用資産の取扱い」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第82回】 減損会計⑥ 「共用資産の取扱い」   仰星監査法人 公認会計士 上村 治     〈事例による解説〉 【仕訳】(単位:百万円) ① B店舗の減損 (※1) 固定資産簿価500百万円>割引前将来キャッシュ・フロー250百万円 ∴減損必要 減損損失300百万円=固定資産簿価500百万円-回収可能価額200百万円 ② 共用資産の減損 (※2) 固定資産簿価合計1,000百万円(A店舗300百万円+B店舗500百万円+本社建物200百万円)>割引前将来キャッシュ・フロー680百万円 ∴減損必要 減損損失370百万円=固定資産残高1,000百万円-回収可能価額630百万円 本社建物の減損損失70百万円=減損損失合計370百万円-店舗Bの減損損失額300百万円   〈会計処理の解説〉 1 共用資産の意義と減損処理の方法 共用資産は、それ自体が独立した将来キャッシュ・フローを生み出す資産ではなく、複数の資産グループの将来キャッシュ・フローを生み出すために寄与する資産であり、具体的には以下のようなものをいいます(注解1)。 一般的に、共用資産の帳簿価額を合理的な基準で各資産又は資産グループに配分することは困難です。そのため、共用資産に減損の兆候がある場合に減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定は、原則として、共用資産が関連する複数の資産又は資産グループに共用資産を加えた、より大きな単位で行います(基準7)。 2  店舗Bの減損処理 店舗Bの割引前将来キャッシュ・フローは固定資産簿価を下回っているため、減損損失を認識すべきと判定されます。このため、店舗Bの固定資産簿価500百万円を回収可能価額200まで減額し、減損損失300百万円を当期の損失とします。 3 本社建物を含む、より大きな単位での減損処理 本社建物は、共用資産に該当します。事例では、本社建物の時価に著しい下落があり、減損の兆候があります(指針16)。 そこで本社建物を含むより大きな単位で減損損失を認識するかどうかを判定するため、より大きな単位の割引前将来キャッシュ・フロー680百万円とA店舗、B店舗及び本社建物の固定資産簿価の合計額1,000百万円を比較します。この結果、割引前将来キャッシュ・フローは固定資産簿価を下回っており、減損損失を認識すべきであると判定されます。 このため、固定資産簿価の合計額1,000百万円を回収可能価額630百万円まで減額し、より大きな単位で減損損失370百万円を計上することが必要です。このうち、店舗Bにかかる減損損失300百万円を既に認識していますので、増加額70百万円を本社建物の減損損失として処理されます。 ※6月は繰延資産を取り上げます。 (了)

#No. 120(掲載号)
#上村 治
2015/05/21

非正規雇用の正社員化における留意点と労務手続 【第4回】「正社員登用手続と関連書式・登用規定の確認」

非正規雇用の正社員化における留意点と労務手続 【第4回】 「正社員登用手続と関連書式・登用規定の確認」   特定社会保険労務士 池上 裕美   非正規社員をめぐる法改正が進む中、多くの企業が非正規社員の正社員化に踏み切っている。前回は正社員登用の転換を行っている企業の事例をもとに、その特徴と、実際に正社員登用するにあたっての留意事項をお伝えしたが、今回はさらに具体的な手続や関連書式、正社員登用規程のひな形を紹介する。   1 正社員登用の基準 非正規社員を正社員登用制度によって正社員化する際には、「一定の基準」を設けることになる。基準を設けるにあたり、どのような目的で正社員登用するのか、どのような人材が必要なのかを明らかにする。 その上で、正社員登用の基準項目を決定していくことになる。 一般的な基準項目には次のものがあげられる。   2 正社員登用試験 正社員登用試験は、1で述べた正社員登用の基準をクリアした非正規社員が、試験の申込を行うこととなる。 正社員登用試験としては、面接や筆記試験を行う。職務に必要な最低限の知識を持っているかを考査し、正社員を希望した動機、仕事への取り組み課題や目標を述べてもらう。   3 採否通知書 採用、不採用は書面(下記ひな形参照)を用意する。 採用が決定した者には、書面に、入社するにあたって提出が必要な書類を明示する。不採用者には、書面のみの通知とせず、再チャレンジの可能性や今の役割に期待していることを伝える。 【採用通知のひな形】 【不採用通知のひな形】   4 労働条件通知書(雇用契約書) 非正規社員が正社員登用制度によって正社員となった時、労働条件の変更点を口頭説明し、就業規則を交付するのみとして、労働条件を書面で通知していない企業も見受けられる。しかし、労働条件通知書は正社員登用時も必要である。 なお、既存の正社員と同様の労働条件にする場合を除いて、正社員登用された従業員に対しては、労働条件通知書のみとせず、当該社員用の就業規則の整備をすることが望ましいと考える。 正社員登用された従業員向けの就業規則については、次回、説明を加える予定である。よって労働条件通知書の記載内容については割愛する。   5 正社員登用制度規程 正社員登用制度の概要は、透明性、公平性、納得性を保つためにも、あらかじめ規程を作成しておくことが望ましい。正社員登用後に正社員同様の労働条件とする場合は、次のような規程となる。 【正社員登用規程ひな形】 以上、正社員登用の具体的な手続と主な関連書式を紹介した。このような制度や書式の整備は必要であるが、最も重要なのは、正社員登用の目的であると考える。非正規社員を正社員登用し、どのように当該人材を活用していくのかを十分に検討していただきたい。 *   *   * 本連載の最終回となる次回は、非正規社員が正社員登用された後に適用される就業規則整備の必要性と正社員化の助成金を紹介する。 (了)

#No. 120(掲載号)
#池上 裕美
2015/05/21

〈まずはこれだけおさえよう〉民法(債権法)改正と企業実務への影響 【第5回】「保証」

〈まずはこれだけおさえよう〉 民法(債権法)改正と 企業実務への影響 【第5回】 (最終回)  「保証」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   本改正においては、保証に関する規律の見直しも行われ、目玉のひとつとなっている。そのなかで特に着目すべきは、保証人の保護の拡充についてである。本連載最終回となる今回は、その論点を中心に解説を行う。 1 根保証の制限 (※) 法制審議会にて決定された「民法(債権関係)の改正に関する要綱」26・27頁より抜粋。なお、同内容の改正法案が現在国会に提出されている。 (1) 現行法における規律 「根保証」とは、債権者に対して債務者が負担する現在及び将来において発生する一切の債務を保証することをいう。 根保証は極度額を定めなければ保証人が過大な責任を負う可能性があるため、保証人が個人の場合で、銀行借入などの貸金や手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が保証の対象に含まれている場合には、極度額を定めない根保証(包括根保証)は現行民法465条の2において禁止されている(極度額を定めずに貸金等を主債務に含む保証契約をした場合には無効となる)。 (2) 改正法案における規律 現行民法465条の2においては、継続的に行われている売買取引から発生した債務をすべて保証する場合のように、貸金等債務を含まない包括根保証については規制されていない。もっとも、保証人の責任を予め限定しておき、保証人にとって責任の範囲を予測可能なものにするという要請は、貸金等債務とその他の取引から発生した債務とで異なることはない。 そのため本改正では、法人が保証人である場合を除き、包括根保証契約においては、貸金等債務を含まないものについても、極度額の定めをおかなければならないものとされた。 継続的な売買取引においては、現在及び将来において発生する売買代金支払債務を主債務として、取引相手の代表者個人の包括根保証を取得することも多いが、このような場合にも極度額を定めなければ、契約は無効になる。 企業担当者にとって、今後、商取引債権について個人保証を取る場合には、留意が必要である。   2 個人保証の制限 (※) 法制審議会にて決定された「民法(債権関係)の改正に関する要綱」28~30頁より抜粋。なお、同内容の改正法案が現在国会に提出されている。 (1) 個人保証制限の対象 これまで、中小企業や個人事業者が事業資金を借り入れるときなど、代表者等の経営者が連帯保証することに加えて、債権者の求めにより、代表者の親族や知人等の経営には直接関与していない者が保証人となることがあった。そして、その中小企業や個人事業者が破綻したときには、その経営に関与していない保証人の保証債務が現実化することにより、保証人が経済的に破綻し破産を余儀なくされたり、場合によっては自殺をするといったこともあり、社会的に問題となっていた。 そこで、改正案では、経営者以外の個人保証をとる場合の手続を厳格にし、安易な保証がなされないようにしている。 具体的な規制の対象は以下のとおりである。 この2つのいずれかの類型に該当すれば、保証契約締結の日前の1ヶ月以内に、厳格な要件のもとに作成された公正証書によって、保証意思を確認した場合でなければ、保証契約は無効となるとしている。 ①②いずれについても「事業のために負担した(する)貸金等債務」と定めているが、これは事業において生じた銀行借入などの貸金等債務が、特に高額になりがちであり、保証人に過大な負担を強いているためである。 ②については、金銭消費貸借契約書を作成して貸付を行った場合の貸金等債務のほかにも、カードキャッシングにより発生した貸金等債務を保証する場合にも適用があるとされているなど、その範囲は広いことに注意する必要がある。 (2) 経営者保証の例外 個人保証の制限については、これまでの取引実務に配慮して、一定の例外が設けられている。具体的には次のとおりである。 (3) 保証人に対する情報提供義務 改正法案では、(1)事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約や、(2)主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約においては、主債務者の委託によって保証をする場合、主債務者は、保証人に対して、主債務者の①財産及び収支状況、②主債務以外の負債の額や履行状況、③主債務の担保として提供し、または提供しようとするものがあるときはその内容、について情報を提供する義務を課している。 ただ、これだけでは、保証を受けようとする主債務者がこの情報提供義務を履行しないとか、または本当の情報を提供しないとも考えられ、主債務者に義務を課すだけでは保証人保護が図れないとも思われる。 そこで、改正法案は、主債務者が情報提供をせず、または誤った情報を提供し、またその誤った情報を誤認し、それによって保証契約をした場合で、債権者が、主債務者が情報提供をしていなかったり、誤った情報提供をしていることを知り、または知り得た場合には、保証人は、保証契約を取り消せるという規定を設けた。 このように、情報提供義務が適切に履行されなかったときに、保証契約の取り消しの余地を認めることで、債権者は主債務者が適切に情報提供をしているかを確認する必要が生じ、結果として、保証人保護が図れることになるといえる。 (連載了)

#No. 120(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2015/05/21

コーポレートガバナンス・コードのポイントと企業実務における対応のヒント 【第6回】「取締役会等の責務③」~取締役会の多様性確保について(4-11)~

コーポレートガバナンス・コードのポイントと 企業実務における対応のヒント 【第6回】 「取締役会等の責務③」 ~取締役会の多様性確保について(4-11)~   あらた監査法人 マネージャー 米国公認会計士 阿部 環   〔取締役会等の責務〕 東京証券取引所(東証)は、2015年5月13日、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」が取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード(原案)」(以下「CGコード」)を東証の有価証券上場規程の別添として定めるとともに、関連する上場制度の整備を行った。 前回、前々回に引き続き、本稿では、CGコード第4章「取締役会等の責務」から、「原則4-11. 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」について、フランスでの実務を紹介しつつ解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。   〔取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件〕(原則4-11) 本稿では、この原則の前半部分である「バランス・多様性・適正規模」について解説することとする。 では「バランス・多様性・適正規模等」とは何か。この点、我が国より15年近く先駆けて、1999年にコーポレートガバナンス・コード(※1)を導入したフランスで、これらの開示がどういった項目として取り扱われ、どの程度浸透しているのかを見てみたい。 (※1) フランス私企業協会(AFEP)およびフランス企業連盟(MEDEF)の作業部会が策定したAFEP/MEDEFコードは1999年に初めて制定され、その後、数回の改訂を経て、現在参照されているものは2013年6月版である。 フランス金融庁(AMF)とは別に、2013年に設置されたコーポレートガバナンス高等委員会(以下、「CG高等委員会」)は、2014年10月21日付で初めて出した実施状況に関する報告書(※2)のなかで、コーポレートガバナンスに関連する開示について、勧告や項目別の統計を発表した。 (※2) Haut Comité de Gouvernement D’Entreprise – Rapport d’activité (Octobre 2014) 下の表はフランスの上場会社の「取締役に関する情報開示」についての統計である。 〈取締役に関する情報開示〉 (フランスCG高等委員会 2014活動報告書 50ページより) (※3) 英語名称をアニュアル・レポートとする会社もあるが、フランス語では「Document de référence」。AMFが推奨する様式の年次報告書一式。本稿では「年次報告書」とする。 (※4) フランス SBF120は、CAC40とユーロネクスト・パリ(旧パリ証券取引所)に上場されているフランス企業株で時価総額、流動性が最も高い80 銘柄から構成されている。 (※5) CAC 40(Cotation Assistée en Continu)は、株価指数の一種。ユーロネクスト・パリに上場されている株式銘柄のうち、時価総額上位40銘柄を選出して構成されている。 上記の結果は、我が国のCGコードが提唱している「知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模」についてすべてを網羅しているとはいえないが(例えば性別に関してなど)、すでに大多数の割合の会社が取締役についての情報を8つの項目について積極的に開示していることは特筆すべきであろう。 例えば2013年にはSBF120社のうちすべての会社が、任期の開始時期および終了時期、年齢、主な役割、他社との兼任の状況の5項目について開示しているのである。 ただし日本のCGコードは大きな方向性を示すプリンシプル・ベースであるのに対し、フランスのCGコード(先に挙げたAFEP/MEDEFコード)は同じプリンシプル・ベースでも具体的に開示すべき項目が提示され、数値目標が設定されている場合もあるので、このような統計をとる際に足並みがそろう結果となったということも言える。 また開示の一定水準を確保するために、CG高等委員会が「CGコード適用ためのガイド」(※6)なるものを出していることも、情報開示を充実させる後押しとなっているように思われる。CG高等委員会による性別に関する調査結果については独立して示されているため、後に説明する。 (※6) GUIDE D’APPLICATION DU CODE AFEP-MEDEF DE GOUVERNEMENT D’ENTREPRISE DES SOCIETES COTEES DE JUIN 2013 ところで日本の有価証券報告書でも、国籍以外の上記項目については開示されているが、フランスの企業における開示は情報も厚く、有価証券報告書上の開示とは趣旨が異なっている。1社1社をみていくと、各社ユニークな形式で情報を提供している。 有価証券報告書の開示については、いかに他社に倣うか、他社例を見つけるか、というのが作成のポイントになっている向きもあると思われるが、フランスではどれだけ独自性をもった開示ができるか、財務諸表の利用者にいかに有益な情報が提供できるか、というところがポイントになっている。まるで開示とはどうあるべきか、ということを語りかけているようである。 日本のCGコードが、ルール・ベースではなく、プリンシプル・ベースを採用したということは、今後日本の企業は開示を通じてどうステークホルダーにアピールしていくかが問われるであろう。日本の企業にとって、「多様性」「バランス」といった際に、ステークホルダーが何を重視するか、今回のCGコードの適用を機に各社は大いに考える必要がある。   〔多様性~女性の活躍促進〕 次に、避けては通れない話題であろう「女性の活躍促進」についても触れたい。日本のCGコードでは、原則2-4にて「女性の活躍促進を含む社内の多様性確保」を提唱している。 一方、フランスのCGコードでは、さらに踏み込んで、この「女性の活躍促進」という理念が、取締役会の構成比率にまで波及している。背景には非財務情報開示を義務付けるEU指令(※7)があるといえるであろう。具体的には、取締役会の女性比率を2013年(に開かれる株主総会)までに20%、2016年(に開かれる株主総会)までに40%にする、という目標をCGコードが課しているのである(フランスCGコード6.4)。 (※7) 欧州議会は、2014年2月26日、欧州委員会が2013年4月に提示していた企業の非財務情報開示の義務化に関する会計指令の改正案に合意した。これにより、従業員数500名以上の公益性の高いEU企業に対して、取締役会の多様性に関する企業の方針等についての情報開示が義務付けられることになる。 その結果、前述のCG高等委員会は2014年活動報告書にて、上場会社がどう対応したかについて公表している。この目標を達成した企業がどの程度あるのか、下図を見ていただきたい。 〈取締役会において、20%の女性比率を達成した割合〉 (表中の年は株主総会の開催年を示す。) この報告書によると2014年の株主総会開催時点における「女性比率20%」の達成率は、SBF120企業で95.3%、CAC40で97.2%である。 CG高等委員会では というコメントを発している(フランスCG高等委員会 2014活動報告書 23ページより)。 残念ながら、業種別による女性比率については、言及されていない。また2014年の株主総会時における女性取締役の平均比率は、SBF120企業で29.7%、CAC40で31.5%と、平均して取締役の3割を女性が占める結果となっている。 〈取締役会における女性比率〉 (表中の年は株主総会の開催年を示す。) 上述のような海外事例を参考にし、改めて我が国のCGコードが提唱している「取締役会における知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模」とは具体的に何かということを考える際、「女性」という切り口は基本的項目として出てくるのではなかろうか。 女性比率を高めることが、なぜフランスで提唱されているかということについては、歴史的な背景によるところと、国民の声を大きく反映していることもあり一口には語れないが、取締役の比率に限らず、女性の就業率や管理職比率を向上させるための活躍支援に関する施策または税制を政府がとっている。 単なる「女性の参画」という形だけの対応ではなく、異なる経験を持つ人の知恵を動員する、という本質的な意味を持たなければならないのは言うまでもない。   〔実効性~取締役・監査役の兼任〕 「多様性」の話の次に、取締役・監査役が本来期待されている役割を時間の制約なく十分に果たすことで、「実効性」の確保が図られるという趣旨をもつ補充原則4-11②に話を進めよう。 兼任の数については、「合理的な範囲にとどめる」として、具体的な数値設定がなされていない。よって、どう解釈するかは、各社に判断を委ねられる形となっている。各社が自主的に判断する、というのは我が国の国民にとっては難しい課題のようにも思えるが、CGコードが適用され各社の開示が始まれば、「合理的な範囲」の傾向は見えてくるものと思われる。 しかしながら、各社の足並みをそろえることは本コードの目的ではないため、会社ごとに個別の判断をし、「合理的な範囲」について話し合いを持ち方針を決めていくというプロセスが、多くの会社にとって有意義になることであろう。 ここで問われているのは、兼任している状況のなかで、取締役が適宜に十分な情報共有が可能であり、有事の際には即座に会社のために決断・行動ができるのか、ということでもある。 今回参考にしたフランスの場合、CGコード 19章で としている。その結果、SFB120のうち120社全社が兼任の状況について兼任数を開示しており、2013会計年度ではSFB120社のうち、94.4%の会社がこれを遵守している(CG高等委員会 2014活動報告書 76ページ)。 日本とフランスでは、CGコードの歴史も在り方も違うが、今後長期的な視点で取締役会のあり方を検討していく上で日本企業の参考となるかもしれない。   〔フランスの取締役会の構成と特徴〕 最後に、フランスの取締役会の構成と特徴に関する開示例を挙げることとする。 〈取締役会の構成と特徴〉 (フランス DANONE 2014年次報告書より) (※8) これは、2015年4月29日開催の定時株主総会にて、選任議案通りに取締役が選任されることを前提とした数値である。 上記の表をみていただくと、まず「多様性」を意識した開示をしているということがわかっていただけるであろう。 年々、独立取締役の比率が高まり、平均の任期は短くなっていることがわかる。また、女性の比率は年々高まり、平均年齢は若くなっている。「平均年齢が高い」ということは「経験豊富なベテランがそろっている」ともいえるので、必ずしも平均年齢が低ければよいということはないが、「多様性」という観点から、様々な年代の取締役がいれば、自ずと平均年齢は低くなる傾向にあるだろう。 DANONEの場合、総合食品メーカーとして子供から老人までを対象とした事業形態から、取締役に対し年齢や性別の「多様性」を求められるというのはある。「多様性」とは一概にこうだとは言えず、取締役の年齢に関しても、ビジネスモデルによって理想の形は違う。 では、パブリックセクターのEDF(フランス電力)やGDF Suez(フランス・ガス)ではどうなっているかというと、取締役の女性比率に関してはEDFで25%、GDF Suezで42.86%と意外にも高い比率を示している。国籍に関しては、EDFではフランス人が100%であり外国人取締役はいない。GDF Suezでは17人中3人(17.65%)の取締役が外国人であると公表している(出所:EDF 2014年次報告書 、GDF Suez 2014年次報告書)。   〔おわりに〕 本稿でお伝えたしたいことは、日本のCGコードも、フランスや英国のコーポレートガバナンス・コード同様、コンプライ・オア・エクスプレインの手法を採用しており、今後企業が形式的ではない開示を充実させていく上で海外の事例は参考になるであろうということ。もう1つは、ヨーロッパの中でフランスだけが特に細かく開示の規則があるということはなく、欧州の企業に投資するステークホルダーはこの程度の情報を受け取ることについて当然の権利ととる向きもあるであろう。 よって、外国人投資家をもつ、または今後外国人投資家を増やそうという日本の企業にとって、他国の開示情報は参考になるのではないか、ということである。 *  *  * 今回は取締役会等の責務について解説した3回目であるが、次回も取締役会等の責務について、「取締役会の有効性評価(4-11③)」に続く。この連載を通じて、コーポレートガバナンス・コードの企業実務における対応のヒントとなれば幸いである。 なお、資料として用いたフランス語の文献の日本語訳は、著者が本稿のために訳したものであり、正式に公表されている日本語訳ではないことをお断りする。 (了)

#No. 120(掲載号)
#阿部 環
2015/05/21

〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!) 【第8回】「基幹システム導入は『経営のトップ』を巻き込め」

〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第8回】 「基幹システム導入は『経営のトップ』を巻き込め」   公認会計士 五島 伸二     はじめに 基幹システム導入に関わるベンダー選定の最終プレゼンの場。 出席した社長、役員、選定プロジェクトのメンバーに対し、パワーポイントを使って懸命に自社の優位性を訴えるベンダーの担当者。 プロジェクトメンバーは熱心に説明を聞いているが、社長や役員は退屈そうに配付された資料をパラパラめくっている。 ベンダーのプレゼンが終わり質疑応答の時間となっても、質問するのはプロジェクトメンバーばかりで、社長、役員からは特に質問は出ない・・・ ベンダー選定のプレゼンの場において、よく目にする光景である。 ではなぜ、社長、役員といったトップは、経営に大きな影響を及ぼす自社の基幹システム導入に関わるプレゼンに、関心を示さないのであろうか。   ▼なぜ経営トップはシステム導入に関心がないのか?▼ その理由は、簡単である。 ベンダー選定のプレゼンの場で論じられていることが、経営トップの“関心を引く内容”ではないからである。 そもそも「基幹システム」とは、販売業務、購買業務、在庫管理業務、経理業務など、企業の基幹業務を支える業務システムの集合である。 したがって、基幹システムの新規導入や更新ということになると、基幹業務で抱えている課題をなんとか新システムで解決しようと、業務上の要件を中心に検討する傾向がある。 例えば、経費集計を楽にしたいとか、在庫移動を自動処理したいとか・・・ そして、そういう議論の結果を反映したRFP(Request For Proposal:提案依頼書)が作成され、そのRFPに基づいてベンダーは提案書を作成し、最終選考まで残ったベンダーは提案書に沿って業務上の課題を中心にプレゼンを行う。 これでは、いくらベンダーが一生懸命プレゼンをしても、経営トップにとってはピンと来ないということになる。 基幹システムの導入は、多くの企業において、金額基準からも質的基準からも、取締役会決裁あるいは社長・役員決裁となることが多い。このためプレゼンの場にトップがいることは、形式的には当然である。 しかし、せっかくそのような重要な場が設けられているのに、経営トップに関心のある実質的な議論がされないというのはおかしな話である。   ▼本来は「経営レベルの議論」が必要▼ 基幹システムはあくまで業務システムであり、基幹システムの導入によって業務上の課題解決を検討することは、重要ではある。ただし、基幹システムは経営判断に必要な多くの情報(データ)を抽出する元になるシステムであり、また、基幹システムに自社の独自のビジネスプロセスを組み込むことにより、競争優位を保つ企業は実際に多い。 すなわち、基幹システムの導入は、「単なる業務システム」の導入ではなく、経営レベルの論点をしっかり議論して導入すべき「経営情報システム」の導入なのである。 そういう意味で、基幹システム導入に際し議論されるべき事項は、本来は経営トップの関心事であるはずにもかかわらず、選定のプロセスにおいて、上記のように業務上の要件を中心とした検討に偏向することにより、脇に追いやられてしまうのである。 このような状況は、基幹システムの正しい選定を誤らせるという非常に大きなリスクへつながるといえよう。 実際に筆者は、経営トップから、システム稼働後になって 「うちのシステムからは経営に必要な情報がちっとも出てこない!」 とか 「他社ではできていることがなぜうちではできないのか!」 といった話をよくお聞きする。ベンダー選定の段階でトップが深く関与しないことで、このような事態になることは避けたい。   ▼現場主義もほどほどに▼ 以上は、ベンダーの「選定場面」で経営トップの関与がないことによるリスクであるが、同様にその「導入過程」においても、トップの関与がないことが、大きなリスクへつながる。 すなわち、経営トップが十分に関与しないことにより、現場レベルの判断で業務上の要件を過度に盛り込み、スムーズに稼働開始までたどり着けない、あるいは予算をオーバーするといった問題が発生しやすくなるのである。 例えば、受注業務の事務担当者が長年の作業の中で培った細かな業務手順をシステム化しようとしたり、月に数回しか発生しない例外的事項をシステム化しようとしたり、現行の手作業ベースの生産管理手法をそのままシステムにのせようとしたり・・・ もちろん現場の声に耳を傾けるのは良いことであるが、本連載でも繰り返し述べてきたように、システム導入時には、どの要件を採用し、どの要件を切り捨てるかを「冷静に」判断しなければならない。現場だけにその判断を任せると、部門間の利害衝突という側面により、結論が出ないことがよくある。 さらには、各部署がほどほどに満足するように要件を決められて要件が膨れ上がったり、本当に経営に役立つ要件が後回しになったりという事例も散見される。 結果として、各部署からの要求の多くを盛り込んだ「要件定義書」が出来上がり、それをシステムで実装しようとして、上記のようにスケジュールやコストの面で問題が生じることになる。 このような事態は、経営トップが当初からこの場に参与し、経営レベルの判断で不要な要件をスパッと切り捨ててもらうことで、防ぐことができるのだ。   ▼では、いかにして経営トップを巻き込むか?▼ 基幹システムのベンダー選定や導入の場面において、経営トップの関与が重要なことはお分かりいただけたと思う。 では、実際にどうやって社長や役員を基幹システム導入の場に巻き込んでいけばよいのであろうか? 筆者は、基幹システム導入に彼らを巻き込むために、まずは以下の4点が重要と考えている。 上記の①~④を実践し、基幹システム導入に経営トップを巻き込むことで、現場主義偏重ではなく、本当の意味でその会社の経営に役立つシステムを導入することができる。 導入プロジェクトのメンバーは、絶えずトップが何に関心があるのか、何を困っているのかを把握し、トップの関心のある課題を報告したり、判断を仰ぐことで、積極的に巻き込んでいくよう意識して取り組むことが重要である。   ▼課題は経営トップのITリテラシー▼ もっとも、こう言っては身もふたもないのだが、トップが基幹システム導入に関連し種々の判断を的確にするには、トップ自身にある程度のITリテラシー、つまりITを活用する能力が求められる。 ただ実際は、それなりの規模の会社の社長が「私はITは素人なので・・」といった発言をされることがある。 正直なところなのだろうが、あまり望ましい発言ではない。 これからは、会計数字が読めないトップが経営の舵取りができないように、ITの素養がないトップに経営を任せるのが難しい時代になりつつあると言えよう。   ▼基幹システム導入はトップダウンで▼ 最後に、筆者が経験した経営トップダウンによるシステム導入の話をしたい。 ある外資系企業にERPを導入したときの話であるが、「商社の先にいる最終ユーザー向けの単価をどのように把握し管理するか?」というテーマの会議に、その企業の社長が毎回出席されていた。 なぜならその企業にとって、上記のテーマがERPを導入する主要な目的の1つであり、最終ユーザー向け単価情報が競争優位を確保するためのキーになるからである。 会議の場で社長は、自身の価格政策に関する考えを明確に示し、最終ユーザー向けの単価の効果的な管理を実現するよう部下に厳命し、我々コンサルタントにも何度も念押しをした。 そして、その論点が片付いたら、それ以外の業務上の細かな要件については優秀なマネージャーに任せ、社長が現場レベルの会議に出席されることはなかった。 そう、まさにトップダウンである。 基幹システムの導入とは、そういうことなのである。 (了)

#No. 120(掲載号)
#五島 伸二
2015/05/21

女性会計士の奮闘記 【第29話】「そのアドバイス、踏み込みすぎていませんか?」

女性会計士の奮闘記 【第29話】 「そのアドバイス、踏み込みすぎていませんか?」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   *  *  * ◆ワンポントアドバイス◆ 工場内の数字については、製造の担当者や生産コンサルタント等に任せましょう。 その結果として出て来た数字をまとめて、経営実態を『見える化』し、予定数字の設定や予実対比に注力しましょう。 会計以外の分野に踏み込むのは、大きなリスクを伴います。 (了)

#No. 120(掲載号)
#小長谷 敦子
2015/05/21

《速報解説》 国税庁「美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ」を公表~過去取得分の減価償却は適用初年度のみ適用可能に

《速報解説》 国税庁「美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ」を公表 ~過去取得分の減価償却は適用初年度のみ適用可能に   Profession Journal編集部   既報のとおり、国税庁は、法人税基本通達7-1-1(書画、骨とう等)に定める減価しない美術品等の範囲について、取得価額20万円以上から100万円以上へと引き上げる見直しを行ったわけだが、この改正に関して、このたび同庁はHPに「美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ」を公表した。 改正通達では、経過措置により過去に取得した美術品等について、再判定を行った結果、減価償却資産に該当するものは減価償却が可能としているが、そのチャンスは平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度だけとする取扱いを明らかにしている。   ●減価償却資産に該当することとなる美術品等の範囲を再確認 改正通達は、平成27年1月1日以降に取得した美術品等に適用されることとなるわけだが、その美術品等の範囲は次のとおり。 さて、改正通達では、経過措置を設けており、それより昨年以前に取得した上表の条件(1)に合致する美術品等についても償却が可能となる。 経過措置により資産区分を減価償却資産へ変更する美術品等については、過去に遡って資産区分の変更を行うものではないため、平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度(「適用初年度」)から減価償却を行うことになる点を明らかにしている。   ●減価償却方法の有利不利の検討が必要 また、減価償却を行う場合の償却方法だが、下表のとおり、それぞれの美術品について、①その美術品等を実際に取得した日に応じた償却方法か、②取得日を適用初年度開始の日とみなすこととして定額法又は200%定率法を選択できる。 また、中小企業者等については租税特別措置法67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)を適用できる(経過的取扱い)。 (2015/5/28追記) 2015年5月27日付け国税庁ホームページにて下記の情報が公表されましたのでご注意ください。 「美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQの修正」 また、上記の償却パターンに加えて、経過措置を適用せず、従来どおり償却を行わないという選択肢もあるため、それぞれを適用した場合の有利・不利の判断を行うことが求められる。   ●経過措置の適用は適用初年度のみ可能に 上記のように、法人にあっては減価償却が任意であるため、平成27事業年度では経過措置によらず償却を行わない選択もあるわけだが、「平成28事業年度に償却を開始する」という計画も考えられる。 この点についてFAQでは、本改正が適用初年度に減価償却資産に該当するかの再判定を行い、減価償却資産に該当する美術品等については、その適用初年度以後の事業年度に限って減価償却を行うことができるとの改正の趣旨を説明している。 そのため、「適用初年度において減価償却資産の再判定を行わなかった美術品等については、従前の取扱いのとおり、減価償却を行うことはできない」ことを明示している。 「対象資産の減価償却はいつでも可能」と考えると、償却のチャンスを逃がすこととなるため、関与先には周知徹底を図りたい。 (了)

#No. 119(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2015/05/18

《速報解説》 東証より「コーポレートガバナンス・コード」確定版が公表(適用は6月1日から)~「有価証券上場規程の一部改正」「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」等も明らかに

《速報解説》 東証より「コーポレートガバナンス・コード」確定版が公表 (適用は6月1日から) ~「有価証券上場規程の一部改正」 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」等も明らかに   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成27年5月13日、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う有価証券上場規程等の一部改正について」として、次のものを公表している。 「『コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について』に寄せられたパブリック・コメントの結果について」(以下「コメント対応」という)も公表されている。 「コーポレートガバナンス・コード」については、有価証券上場規程の別添として定められている。 「コーポレートガバナンス・コード」は、「コーポレートガバナンス・コード原案」(平成27年3月5日公表)を受けたものであり、「コーポレートガバナンス・コード原案」の内容から、変更はないとのことである。 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」も公表されているので、実際の記載に際しては注意が必要である。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 コーポレートガバナンス・コード関係の整備 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」の「Ⅰ コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成、企業属性その他の基本情報」の「1.基本的な考え方」の「(1)コードの各原則を実施しない理由」及び「(2)コードの各原則に基づく開示」では、記載内容に変更が生じた場合は、変更が生じた後最初に到来する定時株主総会の日以後に一括して修正することが可能であることについて述べられている。 また、同作成要領の「(2)コードの各原則に基づく開示」では、 と述べられている。 コメント対応では、上場会社が、コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しておらず、かつ、その理由の説明を行っていない場合には、実効性確保手段の対象となることが述べられている。 また、コーポレート・ガバナンス報告書の記載内容については、適時開示と同様に有価証券上場規程412条が適用されるとし、明らかな虚偽の内容を含む悪質な開示などは、当該規程の違反となることが述べられている。 (有価証券上場規程445条の3) (「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」) 2 独立役員の独立性に関する情報開示の見直し (有価証券上場規程施行規則211条4項6号等)   Ⅲ 適用時期等 コーポレートガバナンス・コード及び改正後の有価証券上場規程等は、平成27年6月1日から適用される。 (了) ↓お薦め連載記事↓

#No. 119(掲載号)
#阿部 光成
2015/05/14

プロフェッションジャーナル No.119が公開されました!~今週のお薦め記事~

2015年5月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.119が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中!   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2015/05/14

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第29回】「「海洋掘削装置」は所得税法上の「船舶」に当たるか?(その2)」~同一税法内部における同一用語の解釈~

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第29回】 「「海洋掘削装置」は所得税法上の「船舶」に当たるか?(その2)」 ~同一税法内部における同一用語の解釈~   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   4 解説 (1) 概念解釈の道筋 まずは下図をご覧いただきたい。 《判定図》 概念の解釈の通例に従えば、まず、対象となっている概念の定義があるか(図中①)、定義はなくとも文脈等から意味を把握することができるか(図中②)。それが可能であれば、それによることになるのは当然であるが、そうでない場合には、まず、固有概念であるか(図中③)、次に固有概念ではないとした場合に、借用概念であるか否か(図中④)を検討することとなる。 そこで、所得税法161条3号の「船舶」についてみるに、同法には明確な定義がない(図中①)が、この規定の前後の文脈や沿革等から「船舶」の意義を明らかにすることができるであろうか(図中②)。 所得税法161条3号は、居住者又は内国法人に対する船舶の貸付けによる対価を国内にある不動産の貸付けによる対価と並べて国内源泉所得と規定しているのであるが、そもそも、この規定の沿革をみれば、同号にいう「船舶」の意義を明らかにできるかもしれない。 そこで、その沿革を確認すれば、昭和37年法律第44号による改正前の旧所得税法1条2項1号の規定の下において、次のような理由により改正されたものであると解される。 しかしながら、このような規定の文言や規定の沿革・経緯からは、所得税法161条3号の「船舶」の意義を直ちに明らかにすることはできそうにない。 (2) 固有概念該当性 すると、次に、固有概念であるかどうか(図中の③)について考える必要があろう。 所得税法は、同法161条3号のほか、同法2条1項19号、同法15条《納税地》5号、同法26条1項、同法58条《固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例》1項4号及び同法225条《支払調書及び支払通知書》1項9号において「船舶」という用語を用いているが、これを定義する規定は置いていない。 これらの規定を見ると、所得税法において「船舶」という用語は、不動産所得の定義、減価償却資産の定義、国内源泉所得の範囲について用いられていることが分かる。 「減価償却資産」について、前回に示した所得税法2条1項19号を受けて所得税法施行令6条《減価償却資産の範囲》4号は、所得税法2条1項19号に規定する政令で定める資産の一つとして「船舶」を掲げている。そして、所得税法施行令129条《減価償却資産の耐用年数、償却率等》の規定による委任に基づき定められた耐用年数省令1条《一般の減価償却資産の耐用年数》1項1号は、所得税法施行令6条4号に掲げる資産の耐用年数は耐用年数省令別表第1《機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表》に定めるところによる旨を規定している。ところで、耐用年数省令別表第1は、「船舶」を「船舶法(明治32年法律第46号)第4条から第19条までの適用を受ける鋼船」、「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける木船」、「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける軽合金船(他の項に掲げるものを除く。)」、「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける強化プラスチック船」、「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける水中翼船及びホバークラフト」及び「その他のもの」に大別して、その耐用年数を定めている。 その運用に関して、耐用年数通達2-4-4《サルベージ船等の作業船、かき船等》は、 と通達している。 ところで、船舶法20条は、「第4条乃至前条ノ規定ハ総トン数20トン未満ノ船舶及ヒ端舟其他櫓櫂ノミヲ以テ運転シ又ハ主トシテ櫓櫂ヲ以テ運転スル舟ニハ之ヲ適用セス」と規定している。このことから、同法4条から19条までの適用を受ける船舶とは、「総トン数20トン未満の船舶及び端舟その他ろかいのみで運転し、又は主としてろかいで運転する舟」以外の船であることが分かる。 しかしながら、耐用年数省令別表第1の種類欄の「船舶」には、「その他のもの」という項目があるところ、ここにいう「その他のもの」には、「しゅんせつ船及び砂利採取船」、「発電船及びとう載漁船」、「ひき船」といった「鋼船」や、「とう載漁船」、「しゅんせつ船及び砂利採取船、「動力漁船及びひき船」、「薬品そう船」といった「木船」のほか、「その他のもの」が列挙されている。 この構造又は用途としての「その他のもの」たる船舶のうちの細目としての「その他のもの」が何を指しているのかが判然としないことから、耐用年数省令別表第1の種類欄の「船舶」からは減価償却資産としての「船舶」が何を指しているのか、すなわち、「船舶」の範囲について解明することはできそうにない。明らかなのは、船舶法4条から19条までの適用を受ける船舶のみを指しているわけではないという点のみである。 すなわち、ここからは、①総トン数20トン未満の船舶、②端船、③ろかいのみで運転する舟、④主としてろかいで運転する舟も、減価償却資産としての「船舶」に含まれる余地があるということが分かる。 他方、所得税法26条1項は、 と定めている。 所得税法26条に規定する不動産所得における「船舶」については、課税実務の取扱いにおいては、次のように通達されており、総トン数20トン以上のもののみを指すとしている。 しかしながら、上記でみたとおり、減価償却資産としての「船舶」の規定においては、このような などという縛りはなく、小型船舶あるいはろかい船も、減価償却費の計算上は、「船舶」として扱われる可能性があると思われる。 仮に上記通達の解釈が妥当であるとすると、所得税法上の「船舶」には、多様な意味内容のものが含まれているということになりそうである。 本件において、東京地裁は、所得税法の規定における「船舶」の意義を条文の文言から明らかにすることができるものとはいい難いとする。所得税法26条1項と耐用年数省令別表第1を見る限りにおいては、判決の説示は妥当であるように思われる。 上記所得税基本通達の理解の仕方が正しいとすると、所得税法26条1項における、「船舶」という用語は固有概念として捉えており、他の法律からの借用概念としては捉えていないといえそうである。しかし、これはあくまで同法26条1項にいう「船舶」が固有概念であるということにとどまり、本件の争点たる同法161条3項の「船舶」については更なる検討が必要であろう。 (続く)

#No. 119(掲載号)
#酒井 克彦
2015/05/14
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