[平成27年9月30日施行] 改正労働者派遣法のポイント 【第4回】 (最終回) 「特定労働者派遣事業区分の撤廃等」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 最終回である第4回は、「特定労働者派遣事業区分の撤廃」や派遣労働者の処遇に関する事項等についてみていく。 1 特定労働者派遣事業区分の撤廃 (1) 2つの区分 改正前は、派遣事業は「特定労働者派遣事業」と「一般労働者派遣事業」の2つに区分されていた。 「特定労働者派遣事業」は、派遣元で常時雇用される労働者のみを派遣する事業で「届出制」とし、一度届出を行えばよく、更新の必要はなかった。一方、「一般労働者派遣事業」は、いわゆる登録型の派遣事業で、資産要件等の一定の基準を満たす必要がある「許可制」とし、3年ごとの更新が必要だった。 「特定労働者派遣事業」は、派遣労働者の雇用の安定が図られていることから、許可を受ける一般労働者派遣事業とは異なり「届出制」としていたが、実態としては必ずしも雇用が安定しているとは言えない状況にあった。なぜなら、派遣される常時雇用される労働者には、期間の定めがない者だけでなく、有期雇用を反復更新し1年超の雇用実績がある者や雇用見込みがある者も含まれていたため、契約期間満了で雇用契約が終了することもあったからだ。 また、特定労働者派遣事業を対象とする行政処分も多く、厚生労働省の資料によると、平成26年度に労働者派遣事業に改善命令や事業停止命令等の行政処分を行った件数は67件で、そのうち約9割にあたる60件が特定労働者派遣事業を対象としたものとなっていた。その中には、許可基準を満たせないために特定労働者派遣事業と偽り一般労働者派遣事業を実施している例もあったようだ。 (2) すべて「許可制」へ 改正後は、派遣事業の健全化を図るため、「特定労働者派遣事業(届出制)」と「一般労働者派遣事業(許可制)」の2つの区分が廃止され、すべて「許可制」となっている。 許可基準は、今回の改正を踏まえて、雇用安定措置やキャリアアップ措置を追加する等見直しが行われている。なお、許可基準のひとつである資産要件についてはこれまでと同じだが、小規模の派遣元については、次の基準については、次の暫定的な配慮措置が設けられている。 ① 現行基準 ② 小規模の派遣元に対する暫定的配慮措置 ◆1つの事業所のみを有する常時雇用する派遣労働者数(※2)が10人以下の事業主 ◆1つの事業所のみを有する常時雇用する派遣労働者数(※2)が5人以下の事業 (※1) 基準資産額とは、資産の総額から負債の総額を控除した額をいう。 (※2) 常時雇用している派遣労働者数は、過去1年間の月末における派遣労働者(日雇派遣労働者を含む)の平均人数をいう。 (3) 経過措置 施行日(平成27年9月30日)時点で特定労働者派遣事業を行っている派遣元については、施行日から3年間は、許可を受けることなく引き続き「派遣労働者が常時雇用される労働者のみである労働者派遣事業」を行うことが可能となる。 また、施行日(平成27年9月30日)時点で、一般労働者派遣事業の許可を受けて派遣事業を行っている派遣元も、当該許可の有効期間中はそのまま派遣事業を行うことが可能となる。 2 派遣労働者の処遇 派遣労働者の均衡待遇の強化等、派遣労働者の処遇に関して次の事項が変更となっている。 なお、「配慮しなければならない」(配慮義務)とある場合は、努力義務よりも強い責務が課されており、目的の実現に向けて具体的に取り組むことが求められる。 ① 待遇に関する説明義務 [派遣元] 派遣元は、改正前より、派遣先の労働者との均衡等を考慮して派遣労働者の賃金の決定や教育訓練等の必要な措置を講ずるよう配慮する義務があったが、改正後は、派遣労働者から求められた場合は、その際に考慮した事項を説明しなければならない。 ② 賃金に関する情報提供等 [派遣先] 派遣先は、派遣労働者の賃金が適切に決定されるようにするため、派遣元から求められた場合は、次の情報を提供するよう配慮しなければならない。 ③ 教育訓練の実施 [派遣先] 派遣先は、派遣先の労働者に対して業務関連の教育訓練を行う場合は、派遣元からの求めに応じて、既に必要な能力を有している場合や同様の訓練を派遣元で実施できる場合等を除き、派遣労働者に対しても実施するよう配慮しなければならない。 ④ 職務関連の情報提供 [派遣先] 派遣先は、派遣元からの求めに応じて、派遣労働者の職務遂行状況や職務遂行能力の向上度合に関する情報を提供するよう努めなければならない。 ⑤ 福利厚生施設の利用 [派遣先] 派遣先は、派遣労働者に対して、派遣先の労働者が利用している福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)の利用の機会を与えるように配慮しなければならない。 3 その他 その他の変更事項として、次のものがあげられる。 ① 事業報告書の提出期限等 [派遣元] 「労働者派遣事業報告書」の提出期限は、改正前は毎事業年度の終了日から1ヶ月以内であったが、改正後は毎年6月30日に統一されている。 また、事業報告書の記載事項に、雇用安定措置の実施状況やキャリアアップ措置の実施内容等が追加されている。 ② 記載すべき事項の追加等 新しい期間制限の考え方への変更や雇用安定措置の強化等により、次の書面等に記載すべき事項等が変更されている。 ③ 派遣元責任者の基準 [派遣元] 派遣元責任者の基準に、過去3年以内に派遣元責任者講習を修了していることが追加されている。なお、これは「一般労働者派遣事業」においては改正前も求められていた事項となる。 ④ 社会保険に関する事項 [派遣元] 社会保険の適用促進を図るため、次の事項が変更されている。 連載終了にあたって 以上、4回にわたり改正労働者派遣法のポイントをみてきたが、今回の改正には、これまでの考え方を刷新する大幅な変更が含まれていることをご理解いただけたであろう。 本稿では、関連する「法律」、「政令」、「省令」の情報を中心にご紹介したが、派遣元・派遣先それぞれにおいて自社に合わせた対応が必要であり、本稿がそれを行う上での一助になれば幸いである。 なお、実務の場面では、「業務取扱要領」等で詳細情報の確認が必要となるため、そちらも参照されたい。 (連載了)
中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第15回】 「遺族給付(1)」 -遺族基礎年金・寡婦年金・死亡一時金- 特定社会保険労務士 佐竹 康男 前回までは「老齢の給付」について解説を行ってきたが、今回から遺族年金等の「遺族の給付」について解説する。 1 遺族給付の全体像 (1) 遺族給付の種類 遺族給付の種類として、国民年金から「遺族基礎年金」、「寡婦年金」、「死亡一時金」が、厚生年金保険からは「遺族厚生年金」が支給される。 (2) 遺族給付の種類と遺族の範囲 遺族給付は、死亡した人が加入していた年金制度と遺族の範囲により受給者が決定される。たとえば、夫が死亡した場合における遺族の範囲と遺族年金等の種類は次のようになる。 2 遺族基礎年金 「遺族基礎年金」は、国民年金に加入していた人が死亡したときに、配偶者又は子に支給されるものである。 (1) 遺族基礎年金を受給するための要件 遺族基礎年金は、国民年金の被保険者又は被保険者であった人が次のいずれかに該当する場合に、一定の要件を満たすその人の配偶者又は子に支給される。 ただし、上記①又は②に該当するときは一定の保険料の納付が必要である。 「一定の保険料の納付」とは、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの国民年金の加入期間があるときは、その加入期間のうち、保険料の未納の期間が3分の1以下でなければならない。 ただし、特例により、死亡日が平成38年3月末までのときは、死亡した人が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの1年間に保険料の未納期間がないのであれば、保険料の納付要件を満たす。 〈事例1〉 国民年金の加入期間24年のうち、未納期間は18年になり、加入期間の3分の1を超えるが、死亡日の属する月の前々月までの1年間に保険料の未納期間がないので、保険料の納付要件を満たす。 (2) 遺族の範囲 遺族基礎年金を受給することができる遺族は、被保険者又は被保険者であった人の死亡当時、その人によって生計を維持していた配偶者又は子である。 生計を維持されていたとは、関係にあった死亡当時に、その死亡した人と生計を同一にしていた人で、年収850万円以上の収入を将来にわたって得られない人が該当する。 ① 配偶者についての条件 死亡した人の配偶者であって、②に該当する子と生計を同じくこと。 ② 子についての条件 18歳の年度末までの間にある子又は1、2級の障害の状態にある20歳未満の子で現に婚姻していないこと。 〈事例2〉 妻には子がいるが18歳未満ではないので、妻又は子には、遺族基礎年金は支給されない。 (3) 遺族基礎年金の年金額 遺族基礎年金の額は、子の数による定額制である。 ① 配偶者に支給されるとき 配偶者に支給される場合は、子のある配偶者でなければならないため、必ず子の加算額が加算される。 [780,100円(平成27年度価格)+子の加算額] ② 子に支給されるとき 3 寡婦年金 「寡婦年金」は、夫が老齢基礎年金を受給する前に死亡したときに、65歳未満の妻に支給されるものである。 (1) 受給するための要件 寡婦年金は、国民年金の第1号被保険者としての保険料納付済期間又は保険料免除期間が25年以上ある夫が死亡した場合に、生計維持されていた妻との婚姻期間が10年以上継続していたときに、その妻が60歳になったときから65歳まで支給される。 なお、夫が死亡したときに妻が60歳以上のときには、夫が死亡したときから65歳になるまで支給される。 夫が老齢基礎年金を受給していたときは、寡婦年金は支給されない。 (2) 年金額 寡婦年金の額は、夫の死亡日の前月までの第1号被保険者としての被保険者期間に基づき計算される老齢基礎年金の額の4分の3である。 〈事例3〉 死亡した夫は、厚生年金保険に20年加入(国民年金では第2号被保険者)しているが、国民年金の第1号被保険者としての被保険者期間が25年ないため、妻に寡婦年金は支給されない。 一般的に厚生年金保険の加入期間が長い人は、第1号被保険者として被保険者期間25年以上を満たすことは困難であるため、寡婦年金が支給される可能性は低い。 4 死亡一時金 (1) 受給するための要件 第1号被保険者としての保険料納付済期間の月数等が36月以上ある人が死亡した場合には、一定の遺族に「死亡一時金」が支給される。 死亡した人が、老齢基礎年金又は障害基礎年金を受給した場合には支給されない。 また、遺族基礎年金が支給される場合、死亡一時金は、原則として支給されない。 (2) 遺族の範囲 年齢を問わず、死亡した者と生計を同じくしていた①配偶者 ②子 ③父母 ④孫 ⑤祖父母 ⑥兄弟姉妹である。 このうち受給できる人は、この順位の最先順位者である。 (3) 死亡一時金の額 死亡一時金の額は、納付した保険料の月数により、一時金として12万円から32万円である。 《おさらいQ&A》 (了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第10回】 「渉外離縁手続」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 [1] はじめに 養親、養子のいずれかが外国人である場合に離縁手続を行うに当たっては、日本国の裁判所で解決することができるか(日本の裁判所に国際裁判管轄があるかどうか)、仮に日本の裁判所に国際裁判管轄があるとして、日本法が適用されるかどうか(準拠法が日本法かどうか)が問題となる。 そこで今回は、国際裁判管轄、準拠法に関する考え方を紹介した上で、準拠法が外国法となる場合に問題となる点についても触れる。 なお、外国人との養子縁組と戸籍・国籍への影響については【第6回】を参照されたい。 [2] 国際裁判管轄 渉外(しょうがい)離縁の国際裁判管轄については、明文の規定が存在しないため、条理に基づいて決定される。 この点、最高裁昭和39年3月25日判決では、国際離婚に関する事案に関し、原則として被告の住所地国に管轄があるものの、例外的に①原告が遺棄された場合、②被告が行方不明である場合、③その他これに準ずる場合には、原告の住所地に国際裁判管轄が認められるとしている。 そのため、国際離縁においても、国際離婚での国際裁判管轄に準じて国際裁判管轄の有無が認められると考えられる。 [3] 準拠法 渉外離縁の準拠法は、養子縁組の当時における養親の本国法である(法通則31②・①前段)。したがって、養子縁組成立当時にA国籍を有していた養親が、その後、帰化等により日本国籍を有するに至ったときでも、離縁の準拠法はA国の法律となる。 渉外離縁は、渉外離婚とは異なり、反致(法通則41)の適用がある。 「反致」とは、国際裁判管轄を有するA国の国際私法によればB国法が準拠法となるものの、B国の国際私法によればA国法が準拠法となる場合に、B国法の国際私法を考慮して、A国法を準拠法とすることをいう。 そのため、日本の国際私法である法の適用に関する通則法第31条第2項、同条第1項前段に従い、養子縁組の当時における養親の本国法が準拠法となるものの、養親の国際私法によれば日本法が準拠法となる場合には、反致により日本法が準拠法となる。 例えば、養親が日本に住所を有する外国人である場合、養親の本国法が準拠法となるものの、養親の本国法が離縁につき養親の住所地法を準拠法として指定している場合には、日本法が適用される。 準拠法が日本法となれば、離縁の拒否、方法、効力、養親の血族との親族関係の終了、実方の血族等との親族関係の復活等、すべて日本法により決せられることとなる。 [4] 手続 1 準拠法が「日本法」である場合 養親が日本国籍の場合には、渉外離縁の準拠法は日本法となる。その場合、日本の民法に従い、普通養子縁組であれば協議離縁が可能である(民811①)。 もっとも、協議離縁を認めている国は韓国、台湾など限られていることから、養親・養子両者の本国法を確認した上で、いずれかの本国法で協議離縁が認められていない場合には、片面的法律関係の発生を防ぐため、調停離縁、審判離縁、または裁判離縁の手続によって離縁するのが望ましい。なお、特別養子縁組の離縁は日本の民法でも審判離縁によってのみなされることから(民817の10②)、協議離縁は認められない(【第8回】参照)。 離縁の方式は、離縁の成立に関する準拠法、または行為地法である(法通則34)。したがって、養親が日本国籍を有していなくとも、行為地である日本で届出を行う場合には、通常の協議離縁届出と同様に、市区町村に備え付けられている養子離縁届を用いる方式により離縁を行うことが可能である。 養親または養子の一方が協議離縁に応じない場合には、国際裁判管轄が日本にあることを前提に、家庭裁判所に離縁調停の申立を行い、調停が成立しない場合には、家庭裁判所に離縁訴訟を提起することになる。 2 準拠法が「外国法」である場合 (1) 準拠法が協議離縁を認めている場合 準拠法が外国法となる場合であっても、当該外国法が協議離縁を認めている場合(韓国・中華民国(台湾)など)には、協議離縁が可能である。 離縁の方式は、縁組当時の養子の本国法で定める方式、または日本法で定める方式に従う(法通則34)。したがって、外国人の養親が日本で離縁するときには、市区町村長に養子離縁届を提出することが可能である。 その際、準拠法上、協議離縁が認められることを証する本国官憲発給の要件具備証明書または出典を明示した法文の写し及びその訳文(戸則63の2)を添付する。 (2) 準拠法が裁判離縁しか認めていない場合 準拠法たる外国法が裁判離縁しか認めていない場合に、日本において調停離縁または審判離縁を行うことができるかが問題となるが、家庭裁判所の実務では調停離縁を認めたものも存在し、戸籍実務においても、アメリカ人(オハイオ州)と日本人未成年者との間の日本の裁判所における調停離縁に基づく離縁届を受理して差し支えないとした例が存在する(昭和44年11月25日民甲1436号民事局長回答)。 しかし、日本にいて調停離縁や審判離縁を行ったとしても、当該外国において裁判離縁と同様の効力を有するとは限らない。そのため、事前に外国公館等への照会等を行い、日本における調停離縁や審判離縁が外国においても有効と認められるかどうか調査・確認する必要がある。 (3) 準拠法が離縁を認めていない場合 準拠法たる外国法が離縁自体を認めていないときでも、その適用が日本の公序に反するときには、外国法の適用が排除される(法通則42)。外国法が準拠法として決定される場合に、その外国法の適用が公の秩序に反する場合には、その外国法は適用されないとする国際私法上の法則に基づくものである。 外国法の適用が排除された後に当然に日本法が適用されるかどうかに関し、水戸家昭和48年11月8日審判、那覇家昭和56年7月31日審判では、改正前の法例第33条(現在の法の適用に関する通則法第42条に相当する)に基づいて外国法の適用を排除し、日本法を適用することで離縁を認めている。 もっとも、仮に日本法に基づき離縁できたとしても、当該外国法においてその効力が認められるかどうかは別途問題となりえる。 [5] 子の復氏 戸籍実務では、外国人の養親と日本人の養子が養子縁組をした場合の子の氏については、子の本国法によるものとされている。そのため、養子縁組がなされても、当然には氏の変更は生じない(昭和23年12月14日民甲2086号民事局長回答、昭和26年12月28日民甲2424号民事局長回答)。したがって、離縁しても当然に復氏することはない。 (了)
現代金融用語の基礎知識 【第23回】 「特設注意市場銘柄」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 特設注意市場銘柄とは 特設注意市場銘柄制度とは、上場会社が有価証券報告書等に虚偽記載(いわゆる粉飾決算など)を行った場合等であって、その上場会社の内部管理体制等の改善の必要性が高いと認められるとき(下図〈特設注意市場銘柄に指定されるケース〉参照)、証券取引所がその上場会社を特設注意市場銘柄に指定するという制度である(東京証券取引所・有価証券上場規程(以下「上規」という)501条1項)。最近では東芝が平成27年9月15日に特設注意市場銘柄に指定されたところである。 上場会社は、特設注意市場銘柄への指定後1年を経過したときに、証券取引所による内部管理体制等の審査を受け、内部管理体制等が改善されている場合は、指定を解除されるが、改善されておらず、今後の改善も見込まれない場合は、上場廃止とされる(上規501条2項から4項1号、601条1項11号の2c)。ただし、特設注意市場銘柄への指定後1年が経過する前であっても、内部管理体制等の改善の見込みがなくなったと証券取引所が認めた場合は、上場廃止とされる(601条1項11号の2b)。 なお、特設注意市場銘柄への指定後1年を経過したときに、内部管理体制等が改善されていないものの今後の改善が見込まれる場合は、6ヶ月間、特設注意市場銘柄への指定が延長される(上規501条4項2号)。そして、改善状況が確認され、改善されれば指定解除となり、改善されなければ上場廃止となる(上規501条5項から7項、601条1項11号の2e)。ただし、この場合も、延長された6ヶ月間が経過する前であっても、内部管理体制等の改善の見込みがなくなったと証券取引所が認めた場合は、上場廃止とされる(601条1項11号の2d)。 このように、特設注意市場銘柄制度とは、上場会社の内部管理体制等の改善の必要性が高いと認められるとき、一定期間、特設注意市場銘柄に指定して、上場廃止にすべきか否かを審査する制度だといえる。 2 上場廃止基準の明確化とともに制度化 この特設注意市場銘柄制度は、平成25年8月に制度改正されて、現在の形になっているのだが、その制度改正の際、上場廃止基準の明確化も同時に行われた。それまでは、上場会社が有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合等で、その影響が重大であると証券取引所が認めたときに上場廃止にするとされていたが、その基準は不明確であるという批判があった(ライブドアは上場廃止になったのに、なぜオリンパスは上場維持?)。 そのため、虚偽記載等により直ちに上場廃止とされるのは、①直ちに上場廃止としなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかなとき(上規601条1項11号)(注)と、②特設注意市場銘柄に指定することができる場合で、内部管理体制等について改善の見込みがないと認められるとき(上規第601条第1項第11号の2a)、の2つに限定され、それ以外で上場会社の内部管理体制等の改善の必要性が高いと認められるときは、特設注意市場銘柄に指定して、上場廃止にすべきか否かを審査することにしたのである。 したがって、現在では虚偽記載等により直ちに上場廃止とされるケースはほとんどなくなり、そうした場合はまず一旦特設注意市場銘柄に指定されるようになっている。しかし、直ちに上場廃止とされなかったとしても、上場廃止を免れたわけではなく、特設注意市場銘柄に指定された後の審査を通過しなければ、上場廃止とされてしまう。現に、これまで、特設注意市場銘柄に指定された後、上場廃止とされた上場会社がある。 平成25年8月の制度改正は、上場会社に対する規制の緩和ではなく、あくまで強化である。改正前の特設注意市場銘柄制度において特設注意市場銘柄に指定されたのは、上図〈特設注意市場銘柄に指定されるケース〉の①と②のケースのみだったのだが、改正により③から⑤のケースが加えられた。改正前であれば上場廃止の対象となることはなかった上場会社も、上場廃止の対象とされるようになったのである。 (注) 「直ちに上場廃止としなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかなとき」とは、例えば、上場前から債務超過であったなど虚偽記載により上場基準の著しい潜脱があった場合や、実態として売上高の大半が虚偽であったなど虚偽記載により投資者の投資判断を大きく誤らせていた場合など、そのまま当該銘柄の上場を維持すれば証券取引所の金融商品市場に対する投資者の信頼を著しく毀損すると認められるような場合をいう(東京証券取引所「特設注意市場銘柄の積極的な活用等のための上場制度の見直しについて」平成25年6月17日)。 (了)
《速報解説》 意見募集を経て、「監査等委員会監査等基準」が公表 ~「監査委員会監査基準」「監査報告のひな型」の改定版も確定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年9月29日付で(ホームページ掲載日10月15日)、日本監査役協会は、「監査等委員会監査等基準」、「監査委員会監査基準」、「監査報告のひな型」等について公表した。 公開草案については、平成27年8月4日から意見募集されていた。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 1 公表の状況 この結果、現在、次のものが公表されていることになる。 (※) 「監査等委員会設置会社における監査等委員会規則(ひな型)」、「指名委員会等設置会社における監査委員会規則(ひな型)」は公表済みである(ホームページ掲載日平成27年8月4日)。 2 今後の公表予定 今後、次のものの改定が予定されている。 Ⅱ 監査等委員会関係 周知のとおり、監査等委員会設置会社は、会社法及び法務省令の改正により新たに設けられた機関設計である。 監査等委員会の制度設計は、次のものから構成されている。 1 監査等委員会監査等基準 主な内容は、次のとおりであり、基本的に、監査役監査基準に準じたものとなっている。 改定された監査役監査基準に記載されている補足(各条項に関する補足的な説明をしたもの)については、重複を避けるために、監査等委員会監査等基準には記載していないとのことである。このため、必要に応じて、改定された監査役監査基準をお読みいただきたい。 例えば、次の規定が設けられている。 2 内部統制システムに係る監査等委員会監査の実施基準 内部統制システムに係る監査委員会監査の実施基準に準じている。 例えば、次の規定が設けられている。 Ⅲ 監査委員会関係 1 監査委員会監査基準 主な内容は、次のとおりであり、改定された監査役監査基準と共通する事項は、極力、それとの平仄をとったものとなっているとのことである。 なお、改定された監査役監査基準に記載されている補足(各条項に関する補足的な説明をしたもの)については、上述と同様である。 例えば、次の改定が行われている。 2 内部統制システムに係る監査委員会監査の実施基準 主な内容は、次のとおりである。 Ⅳ 監査報告のひな型 主に次の改定が行われている。 例えば、次の文例が示されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、品質管理レビュー制度に関する「Q&A」を公表 ~監査役等への制度理解のため詳細な解説を掲載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年9月24日付で(ホームページ掲載日10月15日)、日本公認会計士協会は、「品質管理レビュー制度Q&A」を公表した。 これは、品質管理レビュー制度等の概要について、日本公認会計士協会の会員だけでなく、監査役等の方々の理解に資することを目的として取りまとめたものである。 監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」(平成27年5月29日改正)により、監査人から監査役等への伝達義務が明確化されていることにも留意していただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 Q&Aは、大きく 「品質管理レビュー制度」 「上場会社監査事務所登録制度」 「監査役等への品質管理レビューの結果等の伝達」 に分けて、詳細に述べている。 例えば、以下の事項が取り扱われている。 1 品質管理レビュー制度の概要 品質管理レビュー制度は、監査業務の公共性に鑑み、日本公認会計士協会会員の監査業務の適切な質的水準の維持、向上を図り、監査に対する社会的信頼を維持、確保することを目的として、監査事務所が行う監査の品質管理状況を、日本公認会計士協会がレビューする制度である。 品質管理レビュー制度は、公認会計士法のもとで、日本公認会計士協会の自主規制として運用されている。 2 品質管理レビューの方法 品質管理レビューでは、監査事務所が行う監査の品質管理状況について、監査事務所の定めた品質管理のシステムが、「監査に関する品質管理基準」等の品質管理の基準に適合して適切かつ十分に整備されているか、また、その品質管理のシステムが有効に運用されているかという観点から、品質管理のシステムの整備状況を評価し、当該品質管理のシステムの運用状況を試査の方法によって確かめている。 3 品質管理レビュー制度と公認会計士・監査審査会によるモニタリングの関係 日本公認会計士協会は、金融庁の公認会計士・監査審査会に対して、品質管理レビューの状況報告を行っており、また、モニタリングを受けている。 品質管理委員会は、各月分の「品質管理レビューに関する月次報告書」及び「品質管理レビューに関する年次報告書」を公認会計士・監査審査会に提出し、公認会計士・監査審査会からの質問に回答している。 公認会計士・監査審査会によるモニタリングは次のとおりである。 4 通常レビューにおける発見事項の取扱い 通常レビューを実施した結果、品質管理のシステムの不備あるいは運用上の問題が発見された場合で、それが原因となって監査事務所が実施した監査業務において職業的専門家としての基準及び適用される法令等に対する準拠違反が発生している懸念がある場合には、発見事項とされ、重要な準拠違反が発生している懸念の程度(重大な懸念がある、相当程度の懸念がある、懸念が多少はある、懸念がほとんどない)に応じて、限定事項や改善勧告事項とされる。 通常レビューとは別に特別レビューがあり、これは、監査に対する社会的信頼を損なうおそれがある事態に陥った場合に、当該事態に関係する監査事務所の特定の分野又は特定の監査業務に係る品質管理状況を対象として、会長からの指示があり、品質管理委員会が必要と判断したときに実施するレビューをいう。 5 監査役等への品質管理レビューの結果等の伝達の必要性 監査役等への品質管理レビューの結果等の伝達は、監査役等が会計監査人の監査の方法及び結果の相当性を判断するに当たり、監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況の概要を把握するために必要となると述べられている(Q25)。 監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」(平成27年5月29日改正)では、監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況に関する監査人の伝達義務を明確にしている。 これにより、監査役等とのコミュニケーションの一環として、品質管理レビューの結果の要約等を監査役等へ提供し、監査事務所の品質管理の状況について監査役等と積極的にコミュニケーションを行い、両者のより一層の連携が期待される。 (了)
2015年10月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.140を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第24回】 「BEPS最終報告書と今後の動向」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに OECD加盟国に中国、インド、ロシア等のOECD非加盟の8ヶ国が参加して進められてきたBEPS(Base Erosion and Profit Shifting=税源浸食と利益移転)プロジェクトは、10月5日に1,600ページを超える最終報告書を公表して、一応、完結した。 BEPSプロジェクトは、もともと欧州において米国系多国籍企業が、複数の国々を結ぶ複雑なタックス・プランニングを駆使し、事業活動を行う国における税負担を軽減させていたことを端緒とし、多国籍企業による租税回避行為を封殺するために、先進国のみならず途上国を代表する諸国も参加し、国際課税における経済実態に即した課税を実現する新たなルールを網羅的に構築しようとする試みである。 2 15の行動の概要 財務省の説明に従って整理するならば、15の行動は以下のような3分野、6項目に分けられる。 〈実体法的側面〉 グローバル企業は価値が創造されるところで税金を支払うべきとの観点から、国際課税原則を再構築するもの。企業が調達・生産・販売・管理等の拠点をグローバルに展開し、グループ間取引を通じた租税回避のリスクが高まる中、経済活動の実態に即した課税を重視するルールを策定する。 〈手続法的側面〉 各国政府・グローバル企業の活動に関する透明性向上を図るもの。例えば、グローバル企業の活動・納税実態の把握のための各国間の情報共有等の協調枠組みの構築等。 〈紛争解決-企業の不確実性の排除と予見可能性の確保〉 租税に係る紛争について、より効果的な紛争解決手続を構築するとともに、今回のBEPSプロジェクトの迅速な実施を確保。 3 今後の予想される対応 15の行動は、いずれも何らかの意味で国際課税における租税回避行為に有効に対処しようとするための試みであり、これからの作業も含め、タックスヘイブン対策税制、移転価格課税、租税条約等の国際課税の基本的枠組みを大きく改めるものとなる。 15の行動の中には、OECD加盟国に対して法的な対応を求める勧告となるものや、モデル租税条約や移転価格ガイドラインの改正あるいは多国間協定の開発など、わが国においても、現行租税法令の改変を求められるものが数多く含まれている。 そこで、各行動についての今後のわが国の対応を予想するならば、以下のようになるものと思われる。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第1回】 「つまみ申告事件(ことさら過少事件)」 ~最判平成6年11月22日(民集48巻7号1379頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第3回】 「内外判定基準の見直し」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 4 国境を越えた役務提供に対する消費税課税に関する平成27年度税制改正の内容 国境を越えた役務提供に対する消費税課税に関する平成27年度の税制改正の内容は、以下のとおりである。 (1) 内外判定基準の見直し 国境を越えた役務の提供のうち、電子書籍・音楽・広告の配信等の電気通信回線を介して行われる役務の提供を特に「電気通信利用役務の提供(消法2①八の三)」として区分し、当該「電気通信利用役務の提供」に関しては、内外判定基準を従来の役務提供に係る事務所等の所在地から、役務提供を受ける者の住所地等に改められた(仕向地主義への変更)。 【内外判定基準の見直し】 この「電気通信利用役務の提供」には、著作物の利用の許諾に該当する取引(旧消令6①七)が含まれる。これは、電子書籍や音楽配信等の電子コンテンツの提供が、従来の消費税法においては「役務の提供」と「資産の譲渡・貸付」のいずれに該当するのか明確ではなかったため、私法上、著作物の利用の許諾と解される取引で従来の消費税法上「資産の譲渡・貸付」に該当する可能性がある取引も、「電気通信利用役務の提供」に含まれるものとして明確化したものである(※1)。 (※1) 2014年6月27日政府税制調査会第10回総会資料「〔国境を越えた役務の提供に対する消費税について〕―制度案について―」2頁参照。 国境を越える役務の提供に対する消費税の課税については、政府税制調査会の制度改正案(※2)では、海外の事業者が行う役務の提供のうち、国内外に渡る役務提供など、その役務の提供が行われた場所が明らかでないもの(国際運輸・国際通信等の一定の取引を除く、旧消令6②七)全般について仕向地主義へと変更することが提案されていたが、税制改正大綱では上記「電気通信利用役務の提供」に限定されることとなり、条文化されたところである。 (※2) 政府税制調査会前掲(※1)資料2頁参照。 (2) 電気通信利用役務の提供の分類 上記「電気通信利用役務の提供」は、事業者向け(B to B取引)と消費者向け(B to C取引)の2つに分類される。EUの場合、取引相手が事業者であるか消費者であるかは事業者番号(VAT registration number)により判別することが可能であるが、わが国においては採用されていないため、以下の①②の方法で両者を分類することとなる。 ① 事業者向け電気通信利用役務の提供 海外の事業者(国外事業者(※3))が行う電気通信利用役務の提供のうち、その役務の性質又は役務の提供に係る規約条件等により、役務の提供を受ける者が事業者(国内の事業者)であることが明らかなものについては、「事業者向け電気通信利用役務の提供(消法2①八の四)」となった。具体的には、広告配信事業やクラウドサービスなどを指すと考えられる。 (※3) 所得税法上の非居住者である個人事業者及び法人税法上の外国法人をいう(消法2①四の二)。 ② 消費者向け電気通信利用役務の提供 国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、上記①の「事業者向け電気通信利用役務の提供」以外のものは、「消費者向け電気通信利用役務の提供」とされた。 ③ 電気通信利用役務の提供に関する改正前後の課税関係 電気通信利用役務の提供に関する改正前後の課税関係をまとめると、以下の図のようになる。 【電気通信利用役務の提供に関する改正前後の課税関係】 (出典) 国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等について」(平成27年5月)2頁 (3) 電気通信利用役務の提供に付随して行われる役務の提供 「電気通信利用役務の提供」には、電気通信利用役務の提供以外の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供や、単に通信回線を利用させる役務の提供は含まれない。これは、実質的な役務の提供が国外で完結しているような取引については、国外取引として消費税の課税対象外とする趣旨である(※4)。 (※4) 政府税制調査会前掲(※1)資料3頁参照。 具体的には、海外で行われた市場調査の結果を電子メールで送信するような場合は、当該送信は市場調査に「付随して行われる役務の提供」であるため、「電気通信利用役務の提供」には該当しないものと考えられる。後述【第7回】6(1)参照。 (了)