5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第7回】 「簡易課税における確定申告書及び付表の作成(その1)」 ~1種類の事業の専従者の場合~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) (1) 簡易課税制度の計算方法 ① 簡易課税制度の適用要件及び計算方法 仕入税額控除を計算する場合において、以下の要件を満たしたときは簡易課税制度により計算することとなる。なお、以下の要件を満たした場合には、原則課税で計算することはできず、必ず簡易課税制度により計算しなければならない。 消費税における簡易課税制度の計算については、仕入税額控除を課税仕入れの金額から計算するのではなく、課税売上げの金額を基に計算することとなるが、具体的には以下の算式により計算する。 (算式) ② みなし仕入率の改正 簡易課税制度における「みなし仕入率」は、業種ごとに定められており、5つの業種に区分されていたが、平成27年4月1日以後に開始する課税期間からは、業種を6つに区分し、金融業及び保険業の区分を従来の第四種事業(60%)から第五種事業(50%)に変更し、さらに不動産業の区分を従来の第五種事業(50%)から新設の第六種事業(40%)に改正された。 したがって、業種区分については、具体的には下図のようになる。 なお、簡易課税制度の適用を受けていない事業者が新たに簡易課税制度の適用を受けたい場合において、消費税簡易課税制度選択届出書を平成26年9月30日までに提出した事業者は、当該届出書に記載した「適用開始課税期間」の初日から2年を経過する日までの間に開始する課税期間については、平成27年4月1日以後に開始する課税期間であっても改正前のみなし仕入率が適用されるので注意が必要である。 《業種区分》 (2) 申告書及び付表の作成手順 施行日以後に終了する課税期間において、簡易課税制度により消費税の確定申告を行う場合には、旧税率と新税率が混在することが考えられ、従来の付表5ではなく、複数税率の計算をするための付表4及び付表5-(2)を作成し、確定申告書に添付することとなる。 それら付表及び確定申告書は、以下のような手順で作成することとなる。 【確定申告書作成の流れ】 各付表及び確定申告書を作成するためには、まず、その課税期間における課税売上げ及び課税売上げに係る対価の返還等を税率ごとに区分し、さらに第1種から第5種の業種ごとに以下のように区分する必要がある。 (3) 1種類の事業の専業者の場合の確定申告書及びその付表の作成方法 事業者が簡易課税制度により確定申告を行う場合において、1種類の事業のみを行っているときの確定申告書及びその付表は、具体例に基づいて記載すると以下のような手順となる。 設 例 E株式会社の当課税期間(平成26年1月1日~平成26年12月31日)の課税売上高等の状況は次のとおりである。なお、仕入税額控除の計算方法は、簡易課税制度による。 (ⅰ) 付表4の①欄から⑥欄(④欄を除く)までの作成 新税率と旧税率が混在した場合における簡易課税の計算は、付表4及び付表5-(2)を作成することとなるが、付表4は、一般課税における付表1の記載内容と同じであり、従来の確定申告書の内容を税率毎に計算するものである。また、付表5-(2)については、税率ごとにみなし仕入率を求めて仕入税額控除を計算する帳票となっている。 なお、付表4及び付表5-(2)の記載方法は、まず、付表4の①欄から⑥欄(④欄を除く)までを記載し、その内容を付表5-(2)に転記した上で付表5-(2)を作成後、付表4の④欄及び⑦欄以降の欄を記載する。 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ⅱ) 付表5-(2)の作成 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〔付表5-(2):Ⅰ 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額〕 〔付表5-(2):Ⅱ 1種類の事業の専業者の場合の控除対象仕入税額〕 (ⅲ) 付表4の④欄及び⑦欄以降の作成 (ⅳ) 確定申告書の作成 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 確定申告書の作成については、付表4及び付表5-(2)を作成し、その内容を反映させることとなるが、付表4及び付表5-(2)から転記する項目は、以下のようになる。 【付表からの転記項目】 上記以外の記載項目は、以下のようになる。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第19回】 「非居住者へ支払う役員報酬から源泉徴収する 所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 台湾人のA氏が平成26年11月1日付で内国法人である当社の非常勤役員に就任しました。A氏は日本に在住したことはなく、台湾に在住しており、所得税法上の非居住者です。 役員報酬は月額20万円で、平成26年11月分、12月分、平成27年1月分の役員報酬は未払いです。平成27年2月中に3ヶ月分まとめて支払う予定です。 平成26年11月分、12月分の役員報酬は年末調整していませんが、問題ないでしょうか。 また、平成26年11月分、12月分、平成27年1月分の役員報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 非居住者へ支払う役員報酬は、年末調整の対象ではない。したがって、平成26年11月分、12月分の役員報酬は、年末調整していなくても問題ない。 また、非居住者が役員の場合は、海外で勤務していても日本で勤務しているものとみなされ、役員報酬は国内源泉所得となる(所法161八イ、所令285①)。 ただし、使用人兼務役員として海外支店に勤務するような場合は、除かれる(所基通161-29)。加えて、租税条約に役員報酬の取扱いが定められている場合は、租税条約が優先される。 今回のケースにおいては、A氏は使用人兼務役員ではなく、非常勤役員であるから、役員報酬から20.42%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。 平成26年11月分、12月分、平成27年1月分の役員報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、次の通りである。 当社は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税122,520円を3月10日までに納付しなければならない。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第3回】 「特定路線価を申請すべきか」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 [1] 参考資料 東京国税局においては、平成25年より下記の「特定路線価設定申出書の提出チェックシート」が公表されており、下記6点のチェック事項のすべてを充たすものについて申出書を提出できるとされている。 そこでは、特定路線価を設定できる主な要件として、特定路線価を設定したい道路が評価する土地の利用者以外の人も利用する道路であること、建物の建築が可能な道路(建築基準法第42条第1項1号~5号又は第2項、第43条第1項ただし書きに規定する道路)である必要がある。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ※東京国税局ホームページ [2] 重要裁決事例 (1) 路地状敷地として評価することの合理性 路地状敷地として評価する方法は、一般に、その土地がその接続路線から遠く離れている場合や地区区分が異なる場合などを除き、その接続路線の影響を受けていることから不合理であるとはいえないとされている。 平成19年11月5日裁決〔裁決事例集第74集357頁〕においては、路線価の設定されていない道路に接面している土地の評価が争われた。 評価対象となった土地の西側道路は、幅員2.3mないし2.89mの舗装された市道である。 本件土地の南端とほぼ同じ位置までの行き止まり道路であり、北路線から本件土地の南端部分(最深部分)までの奥行距離は45.5mである。 〈本件土地イメージ〉※筆者作成 本件土地を、路地状敷地として評価することについて、裁決は、①本件土地と北側路線の間に北側隣地が介在するという北側路線と本件土地の位置関係にあること、②北側路線から奥行距離が16.5mである北側隣地に接しており、住宅1軒分奥に入っただけの位置にあること、③本件土地及び北側隣地は、いずれも同一の相続人が相続により取得していること並びに④本件土地西側市道に面していることからすると、本件土地の評価額を算定するに当たり、北側路線に設定された路線価を基に評価通達20-2に定める同通達20の不整形地の評価方法を採用した課税庁の評価方法が特に不合理とまではいえず、同通達に則った評価方法ということができると判断している。 (2) 設定された特定路線価の適否は争えるか さて、納税者は、特定路線価の申請により設定された特定路線価に不服がある場合、これに異を主張することができるであろうか。 一般的には、税務署長の設定した特定路線価は、場所的条件、道路環境や周囲の利用状況が類似している近傍類似の路線価を基に、道路幅、舗装の状況、道路の連続性、上下水道等の社会資本の整備状況等を斟酌して評価されており、不相当とする理由はないとされている。 また、特定路線価が設定された回答書には、特定路線価の設定は、税法に規定する処分通知でないことから異議申立て及び審査請求の対象とならない旨の記載がある。 なお、平成18年10月10日裁決〔TAINS・F0-3-152〕は、設定された特定路線価が変更とされた事例である。 納税者の申請により税務署長が設定した特定路線価が59,000円であるのに対して、納税者は55,000円であると主張している。 裁決は、特定路線価を設定する道路と比準する路線との格差を比較し、認定する事実を総合的に考慮すると、納税者の主張する価額が特定路線価として相当であると判断している。 《特定路線価を設定する道路と比準する路線との格差》 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第19回】 「旧商法時代の子会社株式消却による払戻金①」 公認会計士 佐藤 信祐 第19回以降においては、平成17年改正前商法の事件であるが、資本の減少並びに資本準備金及び利益準備金の減少に伴い、子会社株式の消却が行われた場合において、当該子会社株式の消却に伴って発生した株式譲渡損について、寄附金として処理されるか否かが争われた事件について解説を行う。 本事件におけるストラクチャーは、会社法の施行、グループ法人税制の適用により、そのまま利用することはできなくなったが、資本等取引における寄附金の考え方を整理するうえで、重要な判例であると考えられる。 5 子会社株式消却による払戻金(東京地裁平成24年11月28日判決) (1) 判決の概要 自動車の開発、製造等の事業を目的とする株式会社である原告は、原告の製造した自動車等を販売するいわゆる連結子会社である株式会社51社等との間で、平成18年4月から同年7月にかけて、①会社の分割、②新株の発行、③資本の減少並びに資本準備金及び利益準備金の減少並びに④会社の合併という一連のいわゆる事業再編を行った。 神奈川税務署長は、本件事業再編のうちの③の資本の減少並びに資本準備金及び利益準備金の減少に伴い、平成17年改正前商法213条1項の規定に基づき、本件各子会社が発行した株式の一部が消却されて、それらを保有していた原告に一定の金額が払い戻されたことに関して、原告に払い戻された金額が消却された本件各子会社株式の譲渡に係る適正な対価の額に比して低いことを理由として、法人税法37条に規定する寄附金として更正処分を行った。 本件は、原告が、 ① 主位的には、平成17年改正前商法289条3項及び375条1項の規定により、資本の減少並びに資本準備金及び利益準備金の減少の際に株主の払戻しの金額の限度額を超える部分について、原告はその払戻しを受けることができる法的地位になかったという理由により、寄附金には該当しない旨を主張し、 ② 予備的には、本件各更正処分等において認定された本件適正譲渡対価の額は、本件消却株式の時価に基づいて算定される本件適正譲渡対価の額を上回るから、本件各更正処分等において認定された有価証券の譲渡損失額は不当に低い額となっている旨を、それぞれ主張して、 更正処分等の取消しを求めた事案である。 このような主張に対し、裁判所は、平成17年改正前商法289条3項及び375条1項の規定を遵守することが贈与的な性格を否定するには至らないものとして主位的主張を退け、原告の主張する時価を採用することはできないとして予備的主張についても退けている。 被告はこれを不服として、東京高裁に控訴を行っている。 (2) 事実の概要 前述のように、①会社の分割、②新株の発行、③資本の減少並びに資本準備金及び利益準備金の減少並びに④会社の合併という一連のいわゆる事業再編が行われているが、以下においては、問題となっている③資本の減少並びに資本準備金及び利益準備金の減少についてのみ触れることとする。 ① 減資等 平成18年6月20日又は同月27日を効力発生日として、旧商法の減資等の規定に従い、本件消却株式を消却するとともに、資本の減少並びに資本準備金及び利益準備金の減少に関する手続をし、これにより本件各子会社の資本金の額はいずれも1,000万円となった。 ② 払戻し 前記①の処理に際し、 (ⅰ) 本件各子会社のうち本件増資をしなかった21社は、本件株式消却を伴う減資における減少資本金の額及び法定準備金の額の合計額に相当する金額を原告に対して払い戻した(ただし、この払戻しの後に帳簿上又は実質上の債務超過の状態となる場合〔9社〕には、債務超過の状態とならない範囲で払い戻した)が、 (ⅱ) 本件各子会社のうち本件増資をした30社(本件増資の当時帳簿上又は実質上の債務超過の状態にあったもの)は、払戻しにより再び債務超過の状態となる可能性があったことから、原告に対する払戻しをしなかった。 ③ 消却すべき株式の数の決定 (ⅰ) 本件各子会社のうち本件増資をしなかった21社は、前記②のようにして決めた a 当該本件各子会社における払戻しの金額を b 当該本件各子会社の株式1株当たりの時価であるとして算出した額で除した数をもって、本件株式消却を伴う減資に当たって消却すべき株式の数とし、 (ⅱ) 本件各子会社のうち本件増資をした30社は、 a 減資の額を b 本件増資前の当該本件各子会社の資本金の額を本件増資前の発行済み株式の総数で除した数をもって除して、同じく消却すべき株式の数とした。 (3) 主たる争点 ① 本件再々更正処分の一部の取消を求める訴えのうち本件再更正処分における更正の額を下回る部分の取消しを求める部分等の適法性【争点1】 ② 本件払戻限度超過額の寄附金該当性【争点2】 ③ 本件適正譲渡対価の額【争点3】 上記のうち、【争点3】については、時価の考え方を示す意味では重要な判決であり、控訴審、上告審において異なる判断が下される可能性も想定されるが、組織再編成・資本等取引における税制の仕組みを理解するという意味では、やや毛色の異なる論点であると考えられるため、本稿においては、特に重要と認められる【争点2】についてのみ解説を行うこととする。 (4) 本事件における特徴 平成18年度に施行された会社法により、資本金の減少や資本準備金、利益準備金の減少については、単なる純資産の部の振替えとなったため、本事件と同様の効果をもたらすとすれば、その他資本剰余金、その他利益剰余金に振り替えたうえで、自己株式の消却を行うことになる。そのため、「資本の減少並びに資本準備金及び利益準備金の減少の際に株主の払戻しの金額の限度額を超える部分について、原告はその払戻しを受けることができる法的地位になかった」という主張を行うことはできない。 また、本事件の多くは、原告の100%子会社により行われているが、平成22年度に施行されたグループ法人税制により、100%子会社による自己株式の取得については、損金の額に算入することができなくなった(法法61の2⑯)。 そのため、現在においては、100%に満たない子会社について適用される議論ではあると考えられる。 次回以降は、【争点2】における被告、原告の主張についてそれぞれ解説する予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【53】 〔第6章〕判例の見方 (その11) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (⑤ 裁判の不服申立てに係る裁判の種類) (e) 上告の棄却と却下 本連載【第43回】・【第44回】において、上告理由は限定されている旨記した。また【第51回】において、上告理由には該当しないが、原判決が過去の最高裁判例等と異なる場合に、上告受理の申立てができる旨記した。 そしてこの上告の棄却や不受理決定は、最高裁判所(上告審が高等裁判所の場合は、高等裁判所)によりなされる。しかしこれが却下となる場合には、原裁判所でなされる場合と上告裁判所でなされる場合がある。 というのも、上告の提起は、上告裁判所ではなく、上告状や上告理由書を原裁判所に提出(ただし宛先は上告裁判所である)してする(民事訴訟法(以下、民訴法)第314条第1項(下記参照))からである。 そして民訴法137条には、以下の記述がある(注書筆者(以下同様))。 (※1) 訴状に、①当事者及び法定代理人、②請求の趣旨及び原因を記載すべき旨定めている。 (※2) 一定の決定や裁判に対し、1週間以内になすことができる不服申立制度(民訴法第332条)である。 そして民訴法288条には、 (※3) 控訴状に、①当事者及び法定代理人、②第一審判決の表示及びその判決に対して控訴をする旨を記載すべき旨定めている。 とある。 そして第314条には、 (※4) 第137条の規定を、控訴状の送達ができない場合について準用する旨定めている。 とある。 このように、上告状に不備がありそれが補正できない場合には、第314条第2項の定めにより、原裁判所の裁判長が上告の却下をすることになる。 また民訴法第315条及び第316条には、以下のようにある。 このように、上告が不適法でその不備を補正することができない場合や、最高裁判所規則の定める期間内に上告理由書を提出せず、又は上告の理由の記載が最高裁判所規則で定める方式に違反している場合には、原裁判所は決定で上告の却下をすることになる。 また第317条には とある。 このように、第316条と同じ理由の場合に、すなわち上告が不適法でその不備を補正することができない場合や、最高裁判所規則の定める期間内に上告理由書を提出せず、又は上告の理由の記載が同条第2項の規定に違反している場合に、上告裁判所が決定で、上告を棄却することができる。 また第319条には、 とある。 すなわち、上告裁判所により、上告状、上告理由書、答弁書等の書類によって上告に理由がないと判断した場合には、口頭弁論を経ずにする上告棄却の判決を下すことができる。 まとめれば、原裁判所の裁判長による却下(命令)、原裁判所の却下(決定)、上告裁判所の決定による棄却、判決による棄却がある。 なお、最高裁三小平成11年3月9日決定(上告却下決定に対する特別抗告事件)により、上告の理由が明らかに民訴法第312条第1項及び第2項に規定する事由に該当しない上告も、上告裁判所である最高裁判所が民訴法第317条第2項によって決定で棄却することができるにとどまり、原裁判所又は上告裁判所が民訴法第316条第1項又は第317条第1項によって却下することはできないとされている。したがって、却下は、原則、形式的に明らかに不備がある場合に限られているものということになる。 その他、上告の棄却や却下以外には、原判決破棄の判決(民訴法第325条第1項)や、原判決を破棄して原審に差し戻す破棄差戻し又は同等の他の裁判所に移送する破棄移送(同法第325条第1項)、また原判決を破棄し上告裁判所がその事件について判決する破棄自判(同法第326条)がある。 ところでかつて租税判例で、控訴審の後、上告期限を過ぎてから上告がなされたため、その上告が高裁により決定で却下されている事例がある(東京高裁平成23年9月5日、tainsZ261-11748、LEXDB25501946)。またこれに対して上告人はさらに、東京高裁に抗告許可の申立てをする(許可抗告)が、不許可となり(東京高裁平成23年11月8日、tainsZ261-11805、LEXDB25501994)、そしてさらに最高裁に特別抗告を求めたが、棄却されている事例がある(最三小平成24年1月27日、tainsZ261-11867、LEXDB25503442)。 この許可抗告は、民訴法第337条(第1項に高等裁判所が許可したときに限りみとめられる旨、第2項に以下①②の場合に認められる旨)の規定に基づき、高等裁判所の決定又は命令が①最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは抗告裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある場合、②その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合において、その申立てができるとされている。 特別抗告は、理由として認められるものが原裁判の憲法解釈の誤り又は憲法違反に限られることから違憲抗告とも呼ばれる点、本連載【第51回】に記している。 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第1回】 「金融商品会計の全体像」 公認会計士 阿部 光成 金融商品に関しては、以下の会計基準等が中心となるものの、金融商品によっては別途の会計基準等として規定されているものがあり、全体として少々複雑な構成となっている。 このため、実務上、会計処理及び開示に際しては、どこに規定があるのかを調べることが必要となり、検索機能を活用する場面が多いのではないかと思われる。 本シリ-ズでは、上記の会計基準等を中心に、金融商品会計に関する基本的な考え方について解説を行う。 なお、上記以外には、例えば、次の会計基準等があり、本シリーズでは必要に応じて取り上げることとする。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 金融商品会計の全体像 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)では、すべての会社における金融商品の会計処理に適用するとし、そののち、適用対象となる金融資産及び金融負債の範囲を規定する構成となっている(金融商品会計基準3項~5項)。 「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)では次のように述べている。 このため、金融商品会計基準の適用に際しては、まず適用範囲、すなわち金融商品の定義を満たすことがポイントになり、その次に適用される時価の定義が重要になるものと解される(金融商品会計基準6項)。 金融商品会計の概要を示すと次のようになる。 【金融商品会計の概要】 (出所:阿部光成、安藤佳道、山岡信一郎『企業会計における時価決定の実務』(清文社、2004年11月)67ページ) Ⅱ 適用範囲 金融商品会計基準は、適用範囲の明確化の観点から、米国基準等に見られる抽象的な定義によるのではなく、現金預金、金銭債権債務、有価証券、デリバティブ取引により生じる正味の債権債務等の具体的な資産負債項目をもって、その範囲を示している。 一方、金融商品実務指針211項では、金融商品会計基準を踏まえながら、金融商品会計基準を適用する金融商品の範囲を決定するためには、金融商品とはどのようなものか理解する必要があるとして、金融資産に係る契約などについて述べている。 このような構成となっていることにより、金融商品会計基準では、適用対象となる具体的な資産負債項目が規定されている一方、金融商品実務指針では、少々抽象的な表現による規定の組み合わせとなっている。 金融商品の範囲を示すと次のようになる。 【金融商品の範囲】 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第1回】 「当期のB/Sに前期の数字が載っているミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトには、うっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例1-1】 当期の貸借対照表(個別)の「その他利益剰余金」の欄に前期の数字が記載されている。 【事例1-1】は、貸借対照表(個別)の純資産の部だけを切り出して掲載したものです。この中の「その他利益剰余金」の数字が間違っているという事例です。 「その他利益剰余金」がどのように間違っているかというと、どういうわけか前期の数字が記載されているというのです。 計算チェックをやってみると、「その他利益剰余金」の額がおかしいことはすぐにわかります。 実はこのミス、起こるべくして起こったものです。 貸借対照表(個別)の純資産の部は、うっかりミスがよく起こる場所なのです。 2 データの使い回しがミスの原因 計算書類の決算書部分は、試算表から数字を手作業で転記して作成します。システム化が進んでいて、自動転記されるという会社もありますが、実務的には人間の判断が必要なところも多く、依然として多くの会社で手作業に依存しています。 その場合、決算書作成担当者は、前期の決算書のデータファイル(エクセルやワード等)をコピーして、そのファイルに当期の数字を上書きしていきます。 前期データの使い回しです。 そうすることにより、当期の決算書を作成します。おそらくほとんどの人がそうやっています。 【事例1-1】のミスは、その作業プロセスで起こります。前期の貸借対照表のデータをコピーして、そのデータの数字部分に当期の数字を上書きしていきます。もちろん、すべての項目を正しく上書きしていればミスは起こりません。ところが、「その他利益剰余金」のところを上書きし忘れてしまったのです。 では、なぜ他の科目ではなく、「その他利益剰余金」のところでミスしたのでしょうか。 3 転記作業のリズムが狂う 貸借対照表(個別)の中で、純資産の部には、資産の部や負債の部には通常見られない特徴があります。それは、当期の数字と前期の数字が全く同じになる科目があるという点です。 そうです。「資本金」のことです。 「資本金」の数値は、増減資がなければ変動しません。増減資は毎年度のように行われるものではありません。したがって、「資本金」の数値は、多くの会社で当期も前期も同じ数値になるのです。 当期の数字と前期の数字が全く同じ場合、試算表から貸借対照表(個別)への転記が不要になります。上書き作業が1箇所減る分、得した気分になりそうですが、そこが盲点です。 数字の転記作業というのは、機械的にどんどんやっていく方がミスしません。途中で転記不要の科目が出てきて、その科目をとばして次の科目の転記をするとなると、かえってリズムが狂います。 それがミスを誘発します。 つまり、転記不要の「資本金」の近辺の科目で、転記が必要なところまで転記せずに済ませてしまうのです。その結果、前期の数字が当期の貸借対照表(個別)に残ってしまいます。 4 類似ミスの紹介 当期の決算書に前期の数字が載っているというミスは、他にもあります。 やはり純資産の部で多発しています。以下のようなものです。 これらはいずれも前期データの使い回し(リサイクル行為)に関連して起きるミスです。 筆者はこれを『リサイクル・ミス』と呼んでいます。 〈今回のまとめ〉 前期データを使い回しながら計算書類を作成している会社では、前期の数字が当期の決算書に残ってしまうリスクがあることを知っておくこと。 貸借対照表(個別)の純資産の部では、特に前期数値が更新されずに残っているというミスが多発しているので、十分に注意して作成、見直し、計算チェックを行うこと。 (了)
J-SOXの経験に学ぶ マイナンバー制度対応のイロハ 【第3回】 (最終回) 「安全管理措置は企業ごとの状況に応じたリスクを認識して構築する」 公認会計士 金子 彰良 ◆はじめに 第2回では、具体的な安全管理措置の検討を実施するに先だって、その前提となるガイドラインの各保護措置について、マイナンバー制度対応に伴い関連事務が付加される5つの業務プロセス、「取得」「利用」「保管」「提供」「削除・廃棄」と関連付けて解説した。 安全管理措置の検討にあたっては、これら5つの業務プロセスに焦点をあてて、関連事務をどのように既存業務に取り込むかを検討し、To-Be(あるべき姿)の業務プロセスを作成する。 第3回では、制度対応の実務的なアプローチともいえる「取扱規程の作成、安全管理措置の検討のための5ステップ」について解説する。 ◆制度対応の実務的なアプローチ ▷取扱規程等の作成にあたり、統一的なモデルは提示されない ガイドラインの「(別添)特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」(以下「別添資料」という)では、安全管理措置の検討のアウトプットとして、「取扱規程等の策定」をあげている。この取扱規程等には、特定個人情報等の取扱事務の流れを整理して、管理段階(取得、利用、保存、提供、削除・廃棄)ごとに、取扱方法、責任者・事務取扱担当者及びその任務等について定める。 ところで、事業者によって、扱う個人番号の規模や特定個人情報等の取扱い事務の特性は異なる。上記の取扱規程等の趣旨をくみ取るならば、実際に特定個人情報ファイルの取扱規程等を作成するためには、各事業者の具体的な事務の流れを整理する必要があろう。 すなわち、ひな型となるモデル規程があったとしても、それは参考にするにとどまり、そのまま利用することはガイドラインの趣旨と異なると言える。この点は、ガイドライン策定の過程で特定個人情報保護委員会から公表されていた「取扱規程等について統一的なモデルを提示する予定はない」との考え方にもつながる。 とはいえ、別添資料では、事務対応への配慮から、中小事業者向けの簡便的な対応案がいくつか記載されているので、このような手法の例示を参考にしながら検討することになるだろう。 ▷取扱規程の作成、安全管理措置の検討のための5ステップ ここでは、別添資料における取扱規程等の策定について、「安全管理措置を織り込む」とはどのようなことを指しているのか、もう一段階レベルを落として実務的な検討手順として5つのステップを紹介したい(図表3-1)。 図表3-1 取扱管理規程の作成、安全管理措置の検討の5ステップ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 以下、手順ごとの概要を示す。 〇ステップ1:付加される業務の影響箇所の特定 番号法の影響は、事業者内の広範な組織にわたることが多い。従業員の個人番号を取得し、登録・管理する点で人事給与部門がイメージしやすいが、個人で顧問契約をしている税理士・不動産賃貸をしている個人オーナーなどの支払調書の作成業務を担うことの多い経理部門も対象になる。その他、情報システム部門(個人で独立しているエンジニアへの外注)、総務部門(研修の講演を依頼した個人講師)、営業部門(販促スタッフとして契約した個人)なども対象となるかもしれない。 ガイドライン別添資料の安全管理措置の検討手順では、取扱規程等の作成の前段で、個人番号を取り扱う事務の範囲と特定個人情報等の範囲、そして、事務取扱担当者の3つを明確化することを求めている。 ここでは、上記で明確化されたものをより具体的なイベントとして洗い出す作業をイメージしている。 例えば、入社(加入)、退社(喪失)、身上関係変更(氏名変更など)など個人番号を取り扱う事務を洗い出す。合わせて使用する帳票の洗い出しと個人番号等が記載されるであろう帳票、情報システムを利用している場合はメニューなども特定される。 この作業は、イベントごとにAs-Is(現状の姿)の業務プロセスを描くとスムーズである。 〇ステップ2:付加される業務の取込み 次に、As-Is(現状の姿)の業務プロセスに対して、マイナンバー制度において付加される関連事務を取り込んでTo-Be(あるべき姿)の業務プロセスを作成する。 例えば、入社のイベントであれば、As-Isの入社のフローに「取得」「保管」に関連して次の事務(業務)が付加される。 また、例えば、退社のイベントであれば、As-Isの退社のフローに「保管」「削除・廃棄」に関連して次の事務(業務)が付加される。 〇ステップ3:リスク識別・分析・対応 次に、特定個人情報等の取扱いについて、各安全管理措置の観点から見直しを行う。 ガイドライン別添資料において、取扱規程等に織り込むべき安全管理措置の具体的な内容として、「組織的安全管理措置」「人的安全管理措置」「物理的安全管理措置」「技術的安全管理措置」の4つが記載されている。ここに示された例示を参考に、事業者の規模及び特定個人情報等を取り扱う事務の特性等によって、自社に適合した手法を検討する。 例えば、情報システムを利用して個人番号関係事務を行う場合、「個人番号関係事務以外の目的で個人番号が利用されるリスク」に対応するため、技術的安全管理措置として、ユーザーIDに付与するアクセス権によって、特定個人情報ファイルを扱うことができる者を事務取扱担当者に限定しなければならない。 〇ステップ4:ロードマップ作成 ここまで検討した内容を最終的に取扱規程等に盛り込むことになる。個人番号を取り扱う事務の範囲を中心に、役割分担と業務ルールが変更され、また、情報システムの利用環境によっては既存プログラム改修とアクセス権限の設定追加・変更が必要となる。これらを対応方針としてまとめる。 〇ステップ5:計画の実行 対応方針をスケジュール化した計画を作成し、マイナンバー制度の運用が開始されるまでに実施・完了しなければならない。 ▷安全管理措置は企業ごとの状況に応じたリスクを認識して構築する 上記ステップ3の「リスク識別・分析・対応」は、特定個人情報等の取扱いについて、各安全管理措置の観点から見直しを行う。実は、ガイドライン及びその別添資料では明示的に記載されていないものの、このステップ3の作業がマイナンバー制度対応において非常に重要となる。 なぜならば、各安全管理措置は、構築されたマイナンバー制度に対応したコンプライアンス体制が有効かどうかを判断する基準となるからである。 もし、To-Beの業務プロセス上で、特定個人情報などの漏えいや滅失又は毀損に関するリスクが存在し、それらを防止又は適時に発見することができる統制が存在又は機能しなければ、安全管理措置が確保できていると説明することができない。つまり、コンプライアンス体制の構築を目的とした内部統制に不備がある状態となる。 反対に、To-Beの業務プロセス上で認識されたリスクについて、自社にとってどの程度の重要性を持つか(影響の大きさや発生可能性)を分析・評価し、それらを防止又は適時に発見することができる統制を業務プロセスに組みこむことで、リスクが十分に軽減されている(許容水準以下におさまる)のであれば、内部統制によって安全管理措置が確保できていると合理的な範囲で説明することができる(図表3-2)。 図表3-2 安全管理措置は企業ごとの状況に応じたリスクを認識して構築 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 どの程度の強い統制を組み込むかは識別されたリスク次第のため、あらかじめ規定できるものではない。 番号法では、特定個人情報について個人情報保護法よりも厳格な各種保護措置を設けているため、リスクが顕在化したときの影響の大きさを鑑みて、ITを利用した統制を組み込むことが望ましいと判断されるリスクも存在するだろう。 また、影響の大きさは無視できない一方で、発生可能性があまりにも低いリスクまで高度な安全管理措置を組み込むような過度な対応はさけるべきであろう。 事業者は自社の状況等に応じて、内部統制の機能と役割が効果的に達成されるよう、自ら適切に創意工夫を行っていくことが期待されている。 * * * 以上、3回にわたってマイナンバー制度の対応がコンプライアンスを目的とした内部統制の構築と同じであること、そのためJ-SOXで経験した業務プロセスの整備やリスク・コントロールの評価の考え方が活用できることを解説してきた。本稿が各事業者にとってマイナンバー制度対応に向けた考え方の一助になれば幸いである。 (連載了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第70回】 リース会計④ 「セール・アンド・リースバック取引」 仰星監査法人 公認会計士 薄鍋 大輔 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (1) リース債務の返済スケジュール表 (2) 仕訳(単位:千円) ① X1年4月1日(資産売却日・リース取引開始日) (ⅰ) 資産の売却 (*1) 180,000千円×0.9×1年/6年=27,000千円 (*2) 売却益については、各期に配分するため長期前受収益として繰り延べる。 (ⅱ) リース資産の取得 (*3) リース料総額の現在価値170,000千円=見積現金購入価額(=実際売却価額)170,000千円(リース取引に関する会計基準の適用指針(以下、適用指針という)48項) (ⅲ) リース債務の返済 ② X2年3月31日(決算日) (ⅰ) 利息の未払計上、減価償却費の計上 (*4) (1)リース債務の返済スケジュール表より (*5) リース資産取得価額(実際売却価額)170,000千円をリース期間5年、残存価額ゼロで償却(所有権移転外ファイナンス・リース取引のため)。 170,000千円×1年/5年=34,000千円 (ⅱ) 前受収益の償却 (*6) 17,000千円×1年/5年=3,400千円 長期前受収益は、毎期のリース資産の減価償却費の割合に応じて償却、減価償却費から控除して表示され、減価償却費は30,600 千円(=34,000 千円-3,400 千円)となる。 ③ X2年4月1日 (期首・第2回支払日) 未払利息の振り戻し、リース料の支払い 以後も同様に会計処理を行う。 〈会計処理の解説〉 セール・アンド・リースバック取引の会計処理のポイントは「売却損益の繰延処理」です。 セール・アンド・リースバック取引(リース取引がファイナンス・リース取引に該当するもの)は、資産の売却とリース取引とが一体として行われる取引であり、その経済的実態は、保有する資産を担保とした金銭の借入れです。すなわち、取引の前後で、資産を使用収益している状況には何ら変化がない一方で、資産の売却代金が資金として企業に流入し(借入)、リース債務の返済という形で資金が流出(返済)する取引とみることができます。 会計上は、このような経済的実態を財務諸表に反映させるため、資産売却に係る会計処理において、リースの対象となる物件の売却損益を繰延処理し((2)①(ⅰ))、リース資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上します((2)②(ⅱ))(適用指針49項)。これにより、資産の売却損益が一時の損益として処理されないこととなり、「保有する資産を担保とした借入=資産の売却取引はない」という経済的実態を会計に反映させることができます。 ただし、当該物件の売却損失が、当該物件の合理的な見積市場価額が帳簿価額を下回ることにより生じたものであることが明らかな場合は、売却損を繰延処理せずに売却時の損失として計上します(適用指針49項)。 * * * 次回は転リースの会計処理について解説します。 (了)
最新!《助成金》情報 【第10回】 「雇用関連助成金の活用(その10) 《建設労働者確保育成助成金(後編)》」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 《再掲》 建設労働者確保育成助成金の対象となる 中小建設事業主・中小建設事業主団体 【対象となる中小建設事業主】 この助成金の対象となる中小建設事業主とは、資本金3億円以下または常用労働者数300人以下で建設労働者を雇用して建設業を行う事業主をいう。また、コースごとに対象となる事業主や事業所が異なるため、事前に確認する必要がある。 【対象となる中小建設事業主団体】 この助成金の対象となる中小建設事業主団体とは、構成員の3分の2以上が中小建設事業主である建設事業主団体をいう。 1 目的 この助成金は、若年労働者に対する建設事業の魅力や役割の啓発、労働災害予防と安全管理の啓発、技能向上の奨励などの事業に取り組む中小建設事業主を助成することで、建設業における若年労働者の確保と育成を図ることを目的とする。 2 「若年者に魅力ある職場づくり事業」の要件 若年労働者に対して策定した年間計画に従い、次のいずれかの取組みを実施すること。 3 支給額 4 手続の流れ 1 目的 この助成金は、若年労働者に対する建設事業の魅力や役割の啓発、労働災害予防と安全管理の啓発、技能向上の奨励などの事業に取り組む中小建設事業主団体を助成することで、建設事業主団体における若年労働者の確保と育成を図ることを目的とする。 対象となるのは、事業の円滑な推進のため事業推進委員会を設置し、事業推進員を置く中小建設事業主団体である。 2 「若年者に魅力ある職場づくり支援事業」の要件 対象となる事業主団体が、年間計画に従い、次の(1)に加え、さらに(2)の①~⑦のうちいずれか1つの取組みを実施すること。 (1) 年次計画策定・調査事業 若年者の入職・定着を図る雇用管理改善のための課題把握に必要な調査を行い、次の事業を実施する。 (2) 入職・職場定着事業 若年者の入職・定着に係る諸問題の改善を図るもので、次のいずれかに該当する事業。 3 支給額 4 手続の流れ 前記[Ⅵ]の4と同様。 1 目的 この助成金は、職業訓練推進のための一定の活動を行う広域職業訓練法人を助成することで、建設工事の職業訓練を中小建設事業主まで広め推進することを目的とする。 対象となるのは、広域職業訓練を実施する職業訓練法人である。 2 職業訓練の推進活動の要件 (1) 推進活動経費助成 建設工事の職業訓練推進のための次のいずれかの活動を行うこと。 (2) 施設設置等経費助成 認定訓練実施に必要な次の施設や設備の設置又は整備を行うこと。 3 支給額 (1) 推進活動経費助成 職業訓練推進活動に要した経費の3分の2相当額。 ただし、年間の訓練実施人数が2万人未満の場合は4,500万円、2万人以上3万人未満の場合は6,000万円、3万人以上4万人未満の場合は7,500万円、4万人以上の場合は9,000万円を上限とする。 (2) 施設設置等経費助成 職員及び訓練生の福利厚生施設設備以外のものの設置又は整備に要した経費の2分の1相当額。ただし、3億円を上限とする。 4 手続の流れ 5 活用のポイント 建設業界に多い中小企業の事業主と労働者へ職業訓練実施を広く推進するには、職業訓練の有効性を広くかつ複数回アピールし啓発することが効果的なため、職業訓練機関にとってこの助成金は検討する価値が高いと思われる。 また、施設設置経費の助成は支給額も多いため有効と思われるが、希望者数や重要度を考慮した職業訓練に対応した施設を十分調査検討の上で活用することが重要である。 1 目的 この助成金は、建設労働者に対して有給で建設業以外の新分野に従事させるために必要な訓練を受講させる事業主を助成することで、新分野に進出したい事業主を支援し建設労働者の雇用を維持することを目的とする。 対象となるのは中小建設事業主であり新分野教育訓練終了後1年以内に新分野に確実に進出すると認められる事業主である。 2 対象事業主と教育訓練の要件 (1) 対象事業主 次のすべてに該当する事業主であること。 (2) 対象教育訓練 次のすべてに該当する教育訓練であること。 3 支給額 [Ⅹ] 新分野教育訓練コース(経費助成) 新分野教育訓練終了後、及び新分野事業進出後それぞれにおいて教育訓練費用の3分の1が支給。ただし1人当たり20万円、一対象訓練200万円を上限とする。 [Ⅺ] 新分野教育訓練コース(賃金助成) 新分野教育訓練終了後、及び新分野事業進出後それぞれにおいて1人1日当たり3,500円。ただし、1つの教育訓練では40日を上限とする。 4 手続の流れ 5 活用のポイント この助成金は、新分野事業への進出を考えている中小建設事業主にとっては、教育訓練費用に加え賃金に対する助成もあるため、特に有効である。 1 目的 この助成金は、岩手県、宮城県、福島県の被災3県に所在する建設工事現場での作業員宿舎や作業員施設を、賃貸により整備する中小建設事業主を助成することで、建設労働者を確保し雇用を維持することを目的とする。 対象となるのは中小建設事業主である。 2 支給額 作業員宿舎の賃貸に要した費用の3分の2相当額が支給される。ただし、一事業年度当たり200万円を上限とする。 3 手続の流れ (了)