消費税の軽減税率を検証する 【第3回】 「付加価値税の世界標準」 税理士 金井 恵美子 Ⅰ 付加価値税の世界標準 公明党のホームページには、「軽減税率導入は世界の趨勢」と題したトピックがあり、ここでは、 と説明し、消費税率10%への引上げと同時に複数税率制度に移行し、食料品などの税率を8%(※1)に据え置くことを求めている。 (※1) 公明等の山口那津男代表は平成26年12月4日、「現実に機能している8%が実務的にも1つの基準になる」と語り、対象品目を現在の8%に据え置くことも選択肢との考えを示した。 (1) 付加価値税第一世代 フランス、ドイツ、イギリス等の付加価値税は、その始まりから複数税率制度を採用している。ただし、それは、逆進性の緩和、あるいは低所得者のための施策というよりは、付加価値税の前身が取引高税であることに由来するところが大きい。 EUにおいては、付加価値税の基本的な枠組みは、1977年のEEC第6次指令によるのであり、この第6次指令を受けての1992年の指令、その後の2006年指令が付加価値税率を規定している。 その骨子は次のとおりである(※2)。 (※2) 矢野秀利ほか『消費税軽減税率の検証』(清文社、2014年)151頁〔矢野秀利〕。 EUにおいては、価格競争の点からも、軽減税率を導入せざるを得ない事情がある。 たとえばデンマークは、EUにあって、唯一、単一税率制度をとる国である(ただし、新聞にはゼロ税率を適用している)が、隣国(スウェーデン等)と競争関係にあるホテル業界、レストラン業界からは、軽減税率適用の要望が大きい(※3)。 (※3) 税制調査会海外調査報告(平成16年9月)。 このように、理由はともかくとして、複数税率はヨーロッパの常識である。 (2) 付加価値税第二世代 しかし、後発の国々では単一税率制度を採用している場合が多く、IMFの調査によれば、1990年より前に付加価値税を導入した48ヶ国のうち、複数税率を採用している国は36ヶ国(75%)であるが、1990年から2001年4月の間に付加価値税を導入した77ヶ国のうち、複数税率を採用している国は20ヶ国(26%)である(※4)。 (※4) Ebrill et. al., The Modern VAT, Washington, D.C.; International Monetary Fund, 2001, p.69. このような状況について、マーリーズ・レビュー(前回参照)は、「他国はEUの経験からEUが学ばなかった教訓を学んでいるようだ。」(※5)としており、複数税率による制度の歪みに苦慮する付加価値税第一世代の国の研究者が、単一税率を選択した第二世代の付加価値税を高く評価していることが分かる。 (※5) 社会保障改革に関する集中検討会議第9回(平成23年5月30日)資料3-7。 (3) 標準税率と軽減税率 EUの指令にもみられるように、多くの場合、軽減税率を持つ国の標準税率は20%あるいはそれを超える。世界ではおよそ150の国が付加価値税を導入しているが、そのうち標準税率が10%程度の水準で食料品に軽減税率を適用する国は、スイス、カナダ、オーストラリアなどごくわずかしかない。日本が、10%の標準税率で8%の軽減税率を導入すれば、それは世界でも特別に珍しい税制を構築することになる。 Ⅱ 付加価値税の効率性 付加価値税の効率性を示す指標に、OECDが2008年の「Consumption Tax Trends」から用いているVRR(VAT Revenue Ratio)がある。また、2006年の「Consumption Tax Trends」においては、C-効率性(C-efficiency ratio)が示されている。 これらの指標は、すべての国内消費に標準税率で課税した場合の税収に対する実際の税収の比率である。 付加価値税の制度の効率性は、3つの主要な要因、①税率構造等(税率、非課税、課税ベース、免税点)、②課税当局の執行能力、③納税者の法令遵守の程度、による。 したがって、VRR又はC-効率性の低さが、課税ベースの狭さによるものか、コンプライアンスの低さによるものかの判別は不可能であるが、高い標準税率は脱税を誘引する可能性があるし、複数の税率の存在には適用税率の誤りが伴う。また、複数税率制度においては、単一税率制度に比べてコンプライアンスコストと執行コストが高くなる。 国ごとのVRRとC-効率性は、ほぼ同じ水準を示しており、複数税率の国は数値が低く、高い数値を示す単一税率の国に比べて効率が悪い。単一税率であり、非課税のほとんどないニュージーランドの効率性は世界で1位であり、マーリーズ・レビューに対するコメント報告書の中では、 という認識を示し、今後他国も参考にすべきと指摘している(※7)。 (※6) 付加価値税は、Value Added Taxを略してVATと表記するが、ニュージーランドでは、第一世代のVATと明確に区別するために、財貨サービス税 Goods and Services Taxとし、GSTと略している。 (※7) 森信茂樹ほか『マーリーズ・レビュー研究会報告書』(企業活力研究所、平成22年)174頁〔森信茂樹〕。 IMFスタッフは、平成19年5月の税制調査会におけるプレゼンテーションで、日本は単一税率とC-効率性が高いという特徴を有する「最も良くデザインされた付加価値税制をもっている」と評価しており(※8)、平成23年の財務省財政制度分科会会議のプレゼンテーションにおいても、そのような評価を基礎として、消費税率の引上げが財政健全化のための有力な選択肢であるとしている(※9)。 (※8) 税制調査会第10回企画会合・第5回調査分析部会合同会議(平成19年5月17日)政府税制調査会に対するIMFスタッフによるプレゼンテーション資料「グローバル化する経済の中での税制の課題(仮訳)」21頁。 (※9) 平成23年9月8日財務省財政制度分科会議事録。 Ⅲ 軽減税率導入の効果 消費税は、最低生計費に手を出す税であることを織り込んだ上で、大いにその特徴を発揮することを期待されて用いられた税制全体の中のパーツである(第1回参照)。 果たすべき役割を支える「公平、中立、簡素」という特徴は、単一税率であることによってもたらされるのであり、複数税率制度に移行すればその特徴の多くが失われることとなる。軽減税率には、その犠牲に優る必要と効果が存在するのだろうか。 消費税の税率引上げの議論は、政治に大きな影響を与え続け、その実行には立法者と国民双方に相当の勇気と覚悟が必要であった。それにもかかわらず、税制抜本改革法が成立したのは、巨額の財政赤字を修復するための税収確保に迫られたからであり、そのような中、低所得者対策は、最小限のコストで最大限のパフォーマンスを期待することができる施策によらなければならない。 (了)
「結婚・子育て資金の一括贈与に係る 贈与税非課税特例」の活用ポイント 【第4回】 (最終回) 「相続税対策としての有効性」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 本連載最終回となる今回は、結婚・子育て資金贈与特例について、「相続税対策」という観点から、その有効性について検証を行う。 1 結婚・子育て資金贈与特例の相続税対策としての有効性 信託等があった日から結婚・子育て資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合には、当該死亡の日における非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額については、受贈者が贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなして、当該贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算する。 したがって、結婚・子育て資金贈与特例を適用して子・孫へ贈与した場合でも、未利用残高がある時点で、贈与者が死亡した場合には、相続税の課税対象となる。 一方、住宅取得等資金贈与特例(措置法70の2)、教育資金贈与特例(措置法70の2の2)は、それらを適用して贈与した金銭については、贈与者の死亡時に、相続税の対象とはならない。 この点からは、住宅取得等資金贈与特例・教育資金贈与特例と比較して、結婚・子育て資金贈与特例については、相続税対策としては有効性が乏しいと判断される。 ただし、結婚・子育て資金贈与特例については、2割加算不適用、3年以内贈与加算不適用とされているため、遺言で現預金1,000万円遺贈し、かつ、生前に毎年現預金を贈与することを行う場合には、結婚・子育て資金贈与特例を適用することで、結果として、相続税節税となる効果も見込める。 具体的なケースで説明を行うこととする。 2 結婚・子育て資金贈与特例が相続税対策として有効であると考えられるケース 上記の具体例で明らかなように、結婚・子育て資金贈与特例は、結婚・子育て資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合には、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額が相続税の対象になるため、相続税対策という意味では、住宅取得等資金贈与特例・教育資金贈与特例と比較して、効果が乏しいこととなる。 ただし、結婚・子育て資金贈与特例には、相続前3年以内贈与加算の不適用、相続税2割加算の不適用という、相続税の節税効果はあるため、その点を理解して、活用するか否か、検討を行う必要があるであろう。 (連載了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第4回】 「欠損金の繰越控除制度の見直し(その3)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [3] 連結欠損金の繰越期間の延長 1 改正内容 (1) 繰越期間の延長 平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度において生じた連結欠損金から、繰越期間を10 年(改正前9年)に延長する(法法81の9①)。 (2) 帳簿保存要件 繰越期間の延長に伴い、連結欠損金の繰越控除制度の適用に係る帳簿書類の保存要件について、その保存期間を10年(改正前9年)に延長する(法規37の3の2①)。 (3) 欠損金額に係る更正の期間制限 繰越期間の延長に伴い、法人税の欠損金額に係る更正の期間制限及び更正の請求期間を10年(改正前9年)に延長する(国通23①、70②)。 2 適用時期 平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度において生じた連結欠損金額について適用される(平成27年所法等改正法附則30①)。 [4] 事業税に係る繰越欠損金の繰越控除制度の見直し 連結納税適用法人についても、事業税については単体納税が適用されることとなるが、事業税に係る繰越欠損金についても法人税に係る繰越欠損金と同様に控除限度額(平成27年4月1日から平成29年3月31日の間に開始する連結事業年度は個別所得金額の65%、平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度は個別所得金額の50%)及び繰越期間(平成29年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度において生じた欠損金額から10年)が改正されることとなる(地法72の23①③④、地令20の3②③、21①、平成27年地法改正法附則1ハ、9⑦)。 [5] 控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額の 繰越控除制度の見直し (1) 控除対象個別帰属調整額 控除対象個別帰属調整額は、連結納税開始又は加入に伴い切り捨てられた連結納税開始又は加入前の繰越欠損金額に連結子法人の最初連結事業年度終了日における連結法人税率を乗じて計算することとなるが、平成27年4月1日以後に開始する連結事業年度から連結法人税率が引き下げられたことに伴い、控除対象個別帰属調整額を計算するための連結法人税率も23.9%(改正前25.5%)に引き下げられることとなる(地法53⑥、81の12①)。 また、平成29年4月1日以後に開始した連結事業年度から、同日以後に開始した事業年度において生じた連結納税開始前又は加入前の繰越欠損金に係る控除対象個別帰属調整額の繰越期間が10年に延長された。 具体的には、平成29年4月1日以後に開始した連結事業年度から、当連結事業年度開始日前10年以内に開始した事業年度において生じた繰越欠損金(平成29年4月1日以後に開始した事業年度において生じた繰越欠損金に限る)に係る控除対象個別帰属調整額が個別帰属法人税額から控除されることとなる(地法53⑤、321の8⑤、平成27年地法改正法附則1八・7④・16⑤)。 したがって、控除対象個別帰属調整額の繰越期間については、繰越欠損金の発生事業年度に応じて次のとおりとなる(地法53⑤、321の8⑤、平成23年12月地法改正法附則6④・9④、平成27年地法改正法附則1八・7④・16⑤)。 (2) 控除対象個別帰属税額 平成29年4月1日以後に開始した連結事業年度から、同日以後に開始した連結事業年度において生じた控除対象個別帰属税額の繰越期間が10年に延長された。 具体的には、平成29年4月1日以後に開始した連結事業年度から、当連結事業年度開始日前10年以内に開始した連結事業年度において生じた控除対象個別帰属税額(平成29年4月1日以後に開始した事業年度において生じたものに限る)が個別帰属法人税額から控除されることとなる(地法53⑨、321の8⑨、平成27年地法改正法附則1八・7④・16⑤)。 したがって、控除対象個別帰属税額の繰越期間については、発生連結事業年度に応じて次のとおりとなる(地法53⑨、321の8⑨、平成23年12月地法改正法附則6④・9④、平成27年地法改正法附則1八・7④・16⑤)。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第30回】 「非公開裁決事例①」 公認会計士 佐藤 信祐 第30回目以降は、TAINSに収録されている非公開裁決事例を紹介することとする。 今回、紹介する事件は、不動産を譲り受けた際に譲渡人に支払った未経過固定資産税等相当額(当該不動産に係るその譲受けの年度の固定資産税及び都市計画税のうち当該不動産の引渡日以後の所有期間分に相当する額をいう)が、不動産の取得価額に含まれるかどうかについて争われた事件である。 組織再編においても、会社分割や事業譲渡において、未経過固定資産税をどのように取り扱うべきかという点が論点となるが、その前提となる論点として重要であると考えられる。なお、類似の事件として、平成17年4月19日裁決(TAINSコード:F0-2-481)があるため、興味のある読者はそちらも参照されたい。 15 平成25年8月30日裁決(TAINSコード:J92-3-14) (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、土地及び建物を譲り受けた際、当該土地及び建物に係る未経過固定資産税相当額を、当該土地等の譲渡人に支払ったうえで、当該未経過固定資産税相当額を損金の額に算入したところ、原処分庁が、当該未経過固定資産税相当額は、当該土地及び建物の取得価額に含むべきであるとして、法人税の更正処分等をしたことに対し、請求人が、当該未経過固定資産税相当額は租税公課そのものであり、当該土地及び建物の取得価額に含むべきものではないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事件である。 本事件の争点は2つである。 (2) 【争点1】の当事者の主張 ① 原処分庁の主張 本件精算金は、①本件契約書第8条の定めにより生ずる債権債務関係に基づく売買条件の一つとしての支払であり、本件不動産の売買と因果関係が認められること、②1回限りの負担であり、一過性の支払であること、③本件不動産を取得するまでに支出されたものであること、④本件不動産の取得に必要不可欠な支出であり、その支出の効果が発現する時期は本件不動産の取得時であることから、取得原価性を有するものである。 本件精算金の本質が固定資産税等そのものではない理由として、地方税法の規定によれば、固定資産税等は、その賦課期日である毎年1月1日現在において、固定資産課税台帳に所有者として登録されている者に対して課されるものであり、賦課期日後に所有者に異動が生じたからといって、課税関係に変動が生じるものではなく、賦課期日後に資産の所有者となった者が当該年度の固定資産税等の納税義務を負うことはない。したがって、固定資産税等を納めた売主が買主に対して、当該資産の引渡日以後の期間に対応する固定資産税等、すなわち未経過固定資産税等相当額の求償権を取得することにはならない(下線は著者が加筆)。 ② 請求人の主張 本件精算金の本質は、役務等の対価ではなく、固定資産税等を日割り負担したものに過ぎず、下記(ロ)のとおり、固定資産税等そのものであることから、①資産使用の如何にかかわらず取得の結果発生する維持管理費用であり、②取得の結果生じる納税義務を果たす対価であり、資産購入のためという直接的な因果関係のある費用でなく、③資産を所有する限り、その後も固定資産税等は支払い続けるので一過性のものでもない 本件精算金の本質が固定資産税等そのものではある理由として、1月1日現在の所有者に固定資産税等が課税され、年の中途で所有者が移転した場合、売主は買主に対して日割りした分の未経過固定資産税等相当額につき不当利得返還請求できる。これは、要するに、売主が求償権を有するのと同じことであり、買主にとっては固定資産税等の支払義務(精算義務)が生じるということである(下線は著者が加筆)。 (3) 【争点2】の当事者の主張 原処分庁は、消費税法基本通達10-1-1、10-1-6を根拠とした主張を行っているが、【争点1】が明らかになれば、自ずと【争点2】の結論も明らかになるため、本稿においては、詳細な解説は省略する。なお、後述する国税不服審判所の判断についても同様とする。 (4) 国税不服審判所の判断 地方税法第343条及び同法第359条の規定によれば、固定資産税は、その賦課期日である毎年1月1日現在において、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者に対して課されるものであり、賦課期日後に所有者に異動が生じたからといって、課税関係に変動が生じるものではなく、賦課期日後に資産の所有者となった者が当該年度の固定資産税の納税義務を負うことはない。また、当該規定によれば、固定資産税は、年度ごとに課されることとされており、いつからいつまでの租税という期間の概念はないものと認められる。したがって、当該資産の売買当事者間において、未経過分の固定資産税相当額の授受をしたとしても、それはあくまでも合意された売買契約上の取引条件として行ったものに過ぎず、固定資産税の納税義務を負担したとみることはできない。なお、上記の解釈は、都市計画税についても同様である。 譲受人が未経過固定資産税等相当額を負担したとしても、上記イの(ロ)のとおり、譲受人は当該固定資産に係る固定資産税等の納税義務を負うものではないから、未経過固定資産税等相当額が租税公課そのものであるということはできない。 なお、売買当事者間で合意に基づき授受された未経過固定資産税等相当額は、あくまでも合意された売買の取引条件の一つであり、当該条件を満たさないことには売買取引そのものが完了しないと考えられるから、当該未経過固定資産税等相当額は「取得関連費用」ではなく、「狭義の購入の代価」に該当するというべきであり、取得関連費用に該当する旨の原処分庁の主張は相当でない。 (5) 評釈 このように、「取得関連費用」であるとする原処分庁の主張は退けたものの、「狭義の購入の対価」に該当するという理由により、結論としては、原処分庁の更正処分を認める形となっている。たしかに、取得関連費用と位置付けるよりも、取得の対価そのものであるとすることにより、固定資産の売買価額の一部として位置付けることができるため、こちらの方が自然な解釈であると考えられる。 これを前提にすると、国税不服審判所が指摘したように、未経過固定資産税等相当額を売買契約書に記載するのか、それとも別途精算するのかについては、単なる形式的な話となってしまい、いずれにしても、法人税法上、固定資産の取得原価に算入すべきであるという結論になり、消費税法上、課税仕入れの対価の額に含めるべきであるという結論になる。 さらに、売買当事者が固定資産税等の調整と認識していたとする請求人の主張に対しては、「私人間の合意や認識によって租税公課の納税義務者が変更されることはない」とし、不当利得返還請求権に関する裁判例を用いた請求人の主張に対しても「当該裁判例は未経過固定資産税等相当額が固定資産の取得価額に含まれるか否かを判断したものではなく、本件とは事案を異にし前提を欠くため採用でき」ないものとして一蹴している。 このような国税不服審判所の判断については、現在の税実務に照らし合わせても相当であると考えられる。 法人税法上、建物の取得価額については、法人税法施行令54条に規定されており、土地の取得価額については特段の規定がないことから、法人税基本通達7-3-16の2に従い、この規定を準用することになる。なお、この取扱いについては、我が国における会計慣行とも合致している。 地方税法の規定により、1月1日に固定資産を有していた者が固定資産税の納税義務者になることから、譲渡人と譲受人との間で未経過固定資産税相当額を精算することになるが、国税不服審判所が指摘したように、「あくまでも合意された売買の取引条件の一つであり、当該条件を満たさないことには売買取引そのものが完了しない」という理由から、「狭義の購入の代価」であると考えられる。 なお、本事件と類似の事件として、平成14年8月29日裁決事例、平成24年3月13日裁決事例、平成24年7月5日裁決事例が存在するが、国税不服審判所のHPで閲覧することができるため、興味がある読者は閲覧されたい。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第30回】 「合併後の源泉所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、平成27年7月1日に100%子会社であるA社を吸収合併しました。A社は、源泉所得税の納期の特例の承認を受けています。A社の平成27年1~6月分の源泉所得税及び復興特別所得税50万円は、平成27年6月30日時点で未納です。この50万円は、A社が平成27年7月10日までに納付すべきところ、合併により消滅してしまったため、どうすればよいかわかりません。 合併後の源泉所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 法人が合併した場合には、合併後存続する法人は、合併により消滅した法人に課されるべき、または、合併により消滅した法人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継する(通則法6)。 今回のケースにおいては、当社はA社の源泉所得税及び復興特別所得税の納税義務を承継する。 したがって、当社の源泉所得税及び復興特別所得税にA社の源泉所得税及び復興特別所得税50万円を加え、平成27年7月10日までに納付しなければならない。 (了)
租税争訟レポート 【第25回】 「馬券の払戻金の所得区分と外れ馬券の 必要経費該当性(東京地方裁判所判決)」 〈後編〉 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 前回に引き続き、本稿では、最高裁判決平成27年3月10日と異なる見解を示して、馬券の的中による払戻金に係る所得を一時所得、総収入から控除する金額を的中した馬券に係る購入金額とすることが相当であるとして課税庁側勝訴の判決を言い渡した東京地方裁判所平成27年5月14日判決について、最高裁判決との相違点を解説したうえで、5月29日、パブリック・コメントを経て改正された所得税基本通達34-1について、パブリック・コメントで寄せられた意見とこれに対する国税庁の考え方などを引用しながら、検討したい。 【事案の概要(再掲)】 本件は、馬券の的中による払戻金に係る所得(以下「競馬所得」という)を得ていた原告が、平成17年分から平成21年分の所得税に係る申告期限後の確定申告及び平成22年分の所得税に係る申告期限内の確定申告を行い、その際、原告が得た競馬所得は雑所得に該当するとして総所得金額及び納付すべき税額を計算していたところ、所轄税務署長であった稚内税務署長から、本件競馬所得は一時所得に該当し、上記各年の一時所得の金額の計算において外れ馬券の購入代金を総収入金額から控除することはできないとして、平成23年3月14日付けで平成17年分から平成21年分の所得税に係る各更正及び各無申告加算税賦課決定を、平成23年3月30日付けで平成22年分の所得税に係る更正及び過少申告加算税賦課決定を、それぞれ受けたため、①本件競馬所得は雑所得に該当し、上記各年の雑所得の金額の計算において外れ馬券の購入代金も必要経費として総収入金額から控除されるべきである、②仮に本件競馬所得が一時所得に該当するとしても、その総収入金額から外れ馬券を含む全馬券の購入代金が控除されるべきであるから、本件各処分は違法であるとして、本件各更正処分のうち確定申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。 【解説-最高裁判決との比較検討】 1 類似事件における別件当事者との相違点 原告は、馬券の購入にあたって、ソフトウェアを利用せず、レースごとに独自の分析を行っていたこと、馬券の購入実績、的中か外れかといった履歴が残っておらず、競馬用の預金口座の入出金実績から、購入金額、的中による払戻金額を推定することにより課税が行われたことの2点が、原告と別件当事者との大きな相違点であった。 2 最高裁判決の射程範囲を限定的に介した判決であること あらためて、最高裁判所の判断を引用しておきたい。最高裁判所平成27年3月10日判決は、一般論として、 と述べたうえで、 と判断したものである。 本件判決は、最高裁判決の前段部分を踏襲し、かつ、原告が「別件当事者と同等以上の金額の馬券を購入し、同等以上の利益を得ていた」ことを認めていながら、「原告による馬券購入の態様は、一般的な競馬愛好家による馬券購入の態様と質的に大きな差があるものとは認められ」ないことから、「営利を目的とする継続的行為」には当たらないと判断したものである。 最高裁判決を文面通り読む限り、馬券購入ソフトの利用という要素は、「営利を目的とする継続的行為」の判断基準である「行為の期間」「回数」「頻度その他の態様」「利益発生の規模」「期間その他の状況等の事情」のうちの、「頻度その他の態様」の一部分を構成する要素に過ぎないはずであるが、本件判決に通底しているのは、「馬券購入ソフトを利用して自動的に馬券を購入する」という態様でなければ、「営利を目的とする継続的行為」には該当しないという考えであり、最高裁判決をことさらに事例的に解釈し、「総合考慮して判断するのが相当である」という判決の趣旨が矮小化されているように思える。 また、本件判決は、原告が馬券購入履歴を保存していないことを理由に、「原告が別件当事者のように馬券を機械的、網羅的に購入していたとまでは認めることができない」としているのだが、馬券購入金額及び競馬所得による利益は確認できているのであるから、「行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断」することは可能であり、最高裁判決に近い判断を示す方が、むしろ自然な論理ではないかと思料する。 3 裁判所の担税力に関する説示 また、最高裁判決では、大谷剛彦裁判官が、「本来単なる損失である外れ馬券の購入代金が当たり馬券の払戻金と対応関係を持つことになるのかは必ずしも明らかではない」として、外れ馬券購入代金が必要経費にあたるという原判決に疑問を呈しながらも、「巨額に累積した脱税額を被告人に負担させることの当否には検討の余地があり、原判決は上記の解釈により負担額の縮小を図ったとも理解できるところであるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない」として、賛成意見を表明しているが、本判決では、この点についても、 と反対する内容の意見を述べており、やはり、最高裁判決の趣旨が織り込まれているとは考えづらい。 【所得税基本通達の改正】 1 改正案とパブリック・コメント募集 平成27年3月25日、国税庁が公表した「基本通達の改正案」を掲載する。「速報解説」でも述べたとおり、注書きによって細かい要件を並べたため、最高裁判決の趣旨が十分に生かされた改正案となっていない印象を受けるものであった。 2 パブリック・コメントに寄せられた意見 3月25日から4月24日の間に寄せられたパブリック・コメントは120件であったことが、本件判決後の5月29日、公表された。多くの意見が、最高裁判決をあくまで事例判決とし、馬券の払戻金は「一時所得」であるという原則を変えようとしない国税庁の通達改正案に疑問を呈するものであった。もちろん、「改正案どおりで妥当である」とする意見も寄せられたようだが、そうした意見の数がどれほどであったかは、公表されていない。 公表された意見の一部を引用する。 3 意見に対する国税庁の考え ところが、実際にはこうした意見はことごとく無視されてしまっている。「御意見に対する国税庁の考え方」を読むと、結局のところ、最高裁判決とまったく同じような馬券購入方法によって、多額の利益を恒常的に上げなければ、雑所得に該当せず、そうした考えこそ、最高裁判決に沿ったものである、という説明に終始している。 「御意見に対する国税庁の考え方」の一部を引用する。 結果として、同日公表された改正基本通達34-1は、改正案から一言一句変更がないものとなっている。 4 改正された基本通達の問題点 本件判決、国税庁による所得税基本通達の改正が、最高裁判決の趣旨を十分に反映したものではないことは本稿の中で指摘してきたとおりである。とはいえ、雑所得に該当する可能性を認めたことは前進であると評価したい。 本件判決については原告が控訴したことが伝えられており、また、他にも類似の訴訟が提起されているため、それぞれの事例において、裁判所が「行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断する」ことを積み重ねることによって、改正された基本通達34-1(2)に規定する(注)1が、あくまで例示であって、必要条件を示したものではないという判例が成立することに期待したい。 パブリック・コメントにもあったように、「ソフトウエアやインターネットを使用しているか否かは課税要件に全く関係のない」ことであり、「競馬、競輪に関しては全て営利を目的に資金を投じるものであり、ソフトウエアを駆使しようが、競馬新聞で予想しようが同じである」ことは多くの人が認めるであろう。 国税庁は、3月11日に公表したリリースにおいて、「今後の対応」の中で、次のように述べていたのだが、通達改正のプロセスの中で、この文言はどのように生かされたのか、疑問に感じるところである。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【64】 〔第7章〕判例の探し方 (その11) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (② 企業や諸団体等から発行されている定期刊行物) (◆特定の分野を対象としたもの) (5) 『労働経済判例速報』 昭和25年以降、日本経営者団体連盟(平成14年に経済団体連合会(経団連)と統合)より月3回発行されており、雇用・労働問題の判例や労働委員会命令の中から、重要なケースを選択して論説・解説(各誌最初の判例1件にしかついていないが、執筆者(主に弁護士)が明示されている)を加えたものが、掲載されている。法律論文等では「労経速」と略されて表記されることも多い。 「労働経済判例速報」(経団連事業サービス) (6) 『金融・商事判例』『週刊金融判例』『週刊金融・商事判例』 昭和41年以降、経済法令研究会より月2回(当初は後記の誌名から分かるように、週刊であった)発行されており、金融取引、経営・企業に関連する判例が掲載されている。 民事・商亊に関連する裁判例が中心であるが、時折、労働法や独禁法、金融商品取引法、税法等、民事・商亊以外の分野のものも収録される。また上級審判決には、原則、下級審判決も共に掲載されている。また研究者等による判例評釈も毎号掲載されている。法律論文等では「金判」と略されて表記されることも多い。 創刊当初の誌名は『週刊金融判例』(1号~60号)であるが、昭和42年の61号以降昭和50年の484号までは『週刊金融・商亊判例』、485号から現誌名(「金融・商事判例」)となっている。 「金融・商事判例」(経済法令研究会) (7) 『金融法務事情』『旬刊金融法務事情』 昭和28年以降、金融財政事情研究会(きんざい)より月3回発行されており、金融取引に関連する重要な判例について、5つの領域(①預金・為替、②貸付・管理・回収、③担保・保証、④法的回収、⑤その他)に分類して掲載されている。法律論文等では「金法」と略されて表記されることも多い。 巻末には、収録判例年月日索引がある。なお特集号として「債権管理」を発行(不定期)しているが、それには固有の号数と本誌としての巻号が併記されている。1894号までは「旬刊金融法務事情」であるが、平成20年の1895号から現誌名(「金融法務事情」)となっている。 「金融法務事情」(きんざい) (8) 『シュトイエル(Steuer)』 昭和37年以降、日本税法学会の編纂により、税法研究所(当初は三晃社)より概ね月1回発行されており、税法に関する重要な判例について掲載されていた。国内の判決を掲載しているほか、外国裁判例も毎号されていた。法律論文等では「シュト」と略されて表記されることも多い。平成7年の396号をもって廃刊となっている。なお誌名の「Steuer」は、ドイツ語で「税」を意味する言葉である。 (9) 『判例地方自治』 昭和59年以降、地方自治判例研究会の編纂により、「ぎょうせい」より隔月(年1回、別に索引解説号が出されている)で発行されており、地方公共団体が当事者となっている行政・民事の判例(地方自治判例)が収録されている。重要判例には解説が加えられており、連載講座や訴訟情報など行政に関する実務記事も多数収録されている。法律論文等では「判例自治」と略されて表記されることも多い。 なお、昭和59年第1号から同60年第6号は、通巻1号~13号に当たるが、通巻号数は振られていなかった。そして通巻14号は、昭和61年2月に発行された索引解説号である。以後、索引解説号は毎年1回刊行(前年分が翌年3月号の後に刊行される)されている。なおこの索引解説号には、「判例解説」と「判例索引」が掲載されているが、号数は本誌と通しで付番されている。 この「判例解説」では、毎号20件前後の判例についての、事案の概要と研究者による判例解説が掲載されている。また「判例索引」は、 ① 年月日索引(言渡し年月日順) ② 自治体別索引(都道府県別に裁判年月日順) ③ 項目別索引(地方公共団体組織に沿った項目) ④ 法条別索引(地方公共団体の基本法である「憲法」「地方自治法」「公職選挙法」「地方公務員法」「行政事件訴訟法」と関連法令を条文別に分類) の4つに分類されており、前年の1月号から12月号までに掲載された判例を検索することができる。 「判例地方自治」(ぎょうせい) (10) 『交通事故民事裁判例集』 昭和43年以降、不法行為法研究会の編纂により、創刊から第6巻までは帝国地方行政学会、第7巻からは「ぎょうせい」より年6回(各巻1号~6号まである。ただし第1巻のみ4号までである)発行されている。交通事故に関する民事判決のうち、学問上や実務上重要なものが選択され、収録されている。 また、毎年2月ごろに前年分の年間の索引解説号が発行されている。索引には、毎号判示事項ごとに簡潔な要旨を掲げているほか、被害者類型、判決月日、要旨・裁判所別、当時者名、後遣障害の部位、等級別索引がある。法律論文等では「交通民集」と略されて表記されることも多い。 「交通事故民事裁判例集」(ぎょうせい) (第7章 了)
『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』への 対応ポイント 【第2回】 「企業の分類の見直しと 監査委員会報告第66号との比較(その1)」 公認会計士 阿部 光成 今回は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第54号。以下「公開草案」という)における企業の分類について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 企業の分類に関する考え方 公開草案は、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会。以下「監査委員会報告第66号」という)における企業の分類に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲した上で、当該取扱いの一部について必要な見直しを行っている(公開草案15項、16項、63項)。 Ⅱ 企業の分類に関する公開草案と監査委員会報告第66号の比較(分類1から分類3) 企業の分類に関して、公開草案と監査委員会報告第66号を比較すると次のようになる(公開草案17項から25項)。 要件の一つである「重要な税務上の欠損金が生じていない」ことについては、実務上、重要性の判断について適切に行う必要があると考えられる。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第87回】 金融商品会計⑨ 「一般債権における貸倒引当金」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) 【一般債権に係る貸倒引当金の計上】 (*1) 一般債権に分類された売掛金3,000千円×過去の貸倒実績率2%(*2)=60千円 (*2) X0期の売掛金残高を基準とする貸倒実績率:40千円÷4,000千円=1% X1期の売掛金残高を基準とする貸倒実績率:90千円÷3,000千円=3% X2期の売掛金残高を基準とする貸倒実績率:40千円÷2,000千円=2% X0~X2期における貸倒実績率の平均:(1%+3%+2%)÷3=2% 〈会計処理の解説〉 金融商品会計基準では、一般債権について債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等の合理的な基準により貸倒見積高を算定することとしています(金融商品会計基準 第28項(1))。この貸倒見積高の算定方法を「貸倒実績率法」といいます。 貸倒実績率は、ある期における債権残高を分母として、翌期以降における貸倒損失額を分子として算定します。貸倒損失の過去のデータから貸倒実績率を算定する期間(以下、「算定期間」)は、一般には債権の平均回収期間が妥当であるとされており、当該期間が1年を下回る場合には1年とします。なお、当期末に保有する債権について適用する貸倒実績率を算定するには、当期を最終年度とする算定期間を含むそれ以前の2~3算定期間に係る貸倒実績率の平均値を用います(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」第110項)。 本事例において、当期(X3期)の期末における一般債権に分類された売掛金について適用する貸倒実績率を算定するには、過去3年間(X0~X2期)に係る一般債権に分類された売掛金の貸倒実績率の平均値を用います。 過去3年間の期末残高はX0期:4,000千円、X1期:3,000千円、X2期:2,000千円であり、当該売掛金のうち回収不能となった金額はそれぞれ40千円、90千円、40千円であるため、X0~X2期における貸倒実績率はX0期:1%、X1期:3%、X2期:2%となり、平均すると2%となります。 そして、当期(X3期)の期末における一般債権に分類された売掛金3,000千円に貸倒実績率2%を乗じることで、貸倒見積高を算定します。 * * * 次回は、貸倒懸念債権における貸倒引当金について解説します。 (了)
確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望」 【第6回】 (最終回) 「今後検討されること」 特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研) 理事長 秦 穣治 最後に、厚生労働省企業年金部会の議論で整理が行われ、今般は法制化されずに引き続き検討されることになった項目について記述する。 これらの項目は、税務当局(財務省)との折衝があり、厚生労働省の頑張りが期待されるところだが、今改正では見送られた拠出限度額の引上げなど非常に重要な項目が残されている。 一部は以前に説明しているが、非常に重要な部分なので形を変えて説明する。 1 DB・DC合算での拠出限度額 ここで注目されるのは、限度額を絶対額ではなくて、例えば給与比例にして、現行DCの難点である重要な仕事を担う給与水準の高い加入者の拠出額が上限を超える問題を解決したい、という考えがあることある(DBでは上限の思想がなくこの問題はない)。 同様に、拠出上限を現行の大企業の退職給付総額を参考にして決め、かつ、それを公的年金の給付水準下落に合わせて逆に自動的に増額していきたいとの思いが伝わってくる。要すれば、常に財務省との厳しい折衝をせずに済むよう、自動調整する仕組みを入れるということで、公的年金がマクロ経済スライドで自動調整される以上、筆者は真っ当な議論だと考えている。 2 DB・DC共通の給付ルール 現在、DBでは、会社を辞める時にはいつでも退職一時金受給が可能であり、かつ、50歳から年金受給可能となっているが、DCに併せて、いわば窮屈な運用に改悪される。先に述べたように、基本的に年金受給とし、一時金受給は認めない方向であることがはっきり出ている。 ただ、DB・DCとも困窮時、災害時など一定の条件下で例外的な一時金支給が認められる可能性がある。その場合には、例えば10%程度のペナルティ・タックスを支払って受給されることになる模様だが、10%支払えば無条件に一時金支給を受けられるわけではなく、相応の上限(過去に東日本大震災のケースでは最大100万円)が設定される見込みである。 先に、日本では「一時金での受給が多い」と述べたが、それを助長しているのが“退職一時金税制”であり、大企業のサラリーマンが大卒後定年まで勤め上げれば、平均2,100万円程度の一時金について税金がかからない(退職一時金控除)。非常に有利に見えるが、今後、一時金受給を認めないとなれば、この税制は意味がなくなるため、結果として何らかの他の税制上のメリットへ代替される必要がある。筆者の全くの私見だが、企業年金受給時の公的年金等控除拡大や、特別法人税無税化ではなく、拠出上限の大幅引上げなど、現在の制度比、大幅に使い勝手の良くなるもので代替してもらいたい、と思っている。 3 新DC個人型の問題 見出しにあえて“新”DC個人型としたのは、現在のDC個人型とは決定的に異なるからである。前述したように加入者範囲が大幅に広がり、日本国民の老後資金積立の主力商品に仕立てようという意図があるように見受けられる。加入者範囲の拡大は喜ばしいことであり、今改正の大ヒットの部分だが、一方で、残念ながら、拠出限度額が全く拡大していない。 せいぜい、月2万円程度の拠出上限では、商売しようとする運営管理機関にとっても、口座を開設しようかと思っている人にとっても全く魅力がない。加入者サイドに立ってみると、年間4,000~5,000円の運営管理手数料を支払って個人型DCを開設しようとした場合、高々月2万円程度の拠出で何パーセントの運用益があれば投資元本を守れるだろうか。いくら拠出額には所得控除があるからと言っても、納得するのは難しいのではないだろうか(NISAと比較しても魅力がない)。 この議論には一つの前提があって、「運営管理手数料が1人当たり年間4,000~5,000円の定額」であるということが問題なのである。筆者は、日本でDCが発足以来、ずっとこの問題を指摘してきたのだが、運営管理手数料を1人当たりで定額化するほうが、運営管理機関にとってシステム開発等の収支計算をしやすかった名残りが今も残っている。しかし、考えればすぐ分かることだが、1人当たりいくらの手数料は、一見公平そうだが、実はそうではない。残高が多い人も少ない人も一律であるため、運営管理機関手数料控除後の運用結果のネット換算時、残高の多い人には極めて低率の手数料で、一方、残高の少ない人には非常に高率となる。これではとても公平な仕組みとは言えない、というのが筆者の論点である。 現在、運営管理機関では今回の法改正案を受けて、真剣に運営管理機関手数料の定率化を検討し始めたようなので、筆者にとっては積年の夢?が一つ実現するのではないか、と期待している。 DC個人型について、もう一つの論点がある。それは、制度上、現在のところ難点はあるが将来の拡張を見て積極的に商売したいと運営管理機関が考えたとしたら、運営管理機関は拡販セールスのためにどう動いたらよいだろうか、という点である。企業型DCであれば、企業の担当者を攻めることになるわけだが、個人型ではリーチのしようがない。仕方なく、NISA同様にマスコミに打って出るか、ということになるが、先に述べたごとく、あまりに商品性に魅力がなくインパクトに欠ける。 DC個人型の拡販は国を挙げた事業になると言ってもよいほど重要だが、商品性に難があるわけだから、少しでも効率的にセールスできるように、仲介者としての事業主を積極的に利用できる仕組みを案出するべきであろう。 個人型でも事業主と折衝し、事業主がまず前提となる運営管理機関選定を行い、運営管理機関の力を借りて 従業員に適正な商品選定 従業員への制度説明、場合によっては投資教育 を行う、いわば“職域NISA”ならぬ“職域DC個人型”を認めていくべきだと考えている。このような方策を採らないと、DC個人型を実施する加入者が少なく、せっかくの制度改正が泣くことになるのではないか、と危惧している。 4 商品除外問題 商品除外については、当該商品の投資者の3分の2の賛成で除外できるということになっているが、賛成でない人はどうするのか、という問題が残る。特に、既に受給者となって年金受給を開始している場合が厳しいわけである。運営管理機関では、除外する場合のこのような事態を予想して、新規受付停止の形で対処しようとしている(追加システム開発)。 新規受付停止した運用商品は商品数上限にカウントされないことにしてもらう必要があるが、それとは別に、そもそも商品除外はその投資している人の賛否で実施するのが相応しいのか、という議論があると考えている。 すなわち、商品除外は、当該商品のみならず、事業主が選定した商品メニューのすべてに精通した人が行うべきではないであろうか。当初厚生労働省が想定したように「労使合意で実施するべきだ」というのは正論だと思われる。確かに、今はまだ新規受付停止のシステムがないために厳しいが、筆者の聴いているところでは、ほぼすべての運営管理機関がシステム開発を予定しているということで、システムができた暁にはぜひ労使合意で商品除外する方向で対処してほしい、と思っている。 5 指定運用方法の設定(デフォルト設定) デフォルト設定は、DC運用関係の改正の目玉であることは事実だが、ここで指摘しておきたいことは、法制化すればどの企業もすぐにデフォルト設定するだろう、と考えるのには無理があるということである。 日本の企業の場合、DBは運用リスクをはじめあらゆるリスクは事業主持ち、一方、DCは運用をリスクはじめあらゆるリスクは全て加入者持ちで、事業主は何のリスクも負わない制度と思い込んでいる。 デフォルト設定すれば、事業主は、最終的には訴追を免れるにしても デフォルトに設定した商品の運用実績が悪い場合、仮に、マーケット全体が悪い場合であっても、従業員のモラルダウンを引き起こさないか? デフォルト設定は、いわば最大の大口投資投信になるため、主力金融機関の意向を無視できないが、運用が上手くいかない場合、従業員との板挟みで困ったことになるのではないか? など、相応のリスクを負うことになるため、事業主としては簡単にデフォルト設定になびくとは思えない。 日本経団連関連企業など日本を代表する企業群がまず先陣を切って導入に走ってもらうなど何らかの誘導策が必要になるのではないか、と考えられる。 おわりに 以上、6回にわたって、今回の企業年金改正法案に関し私見を交えつつ、その背景にある論点を述べてきた。今般筆者が指摘した論点以外にも、給与切り出し型選択制DCとの公平性など、課題はいくつも挙げることができる。またの機会があれば、と考える。 筆者は今回の厚生労働省の描く“企業年金の将来像”は全く正しい、と考えている一人である。ただ一方で、実施部隊である事業主及び運営管理機関等の意見を聴取しながら、より使い勝手の良い、かつ、経済合理性のある仕組みに早期に改定してほしいと切に願っている。 今後の企業年金部会における一層の議論の深まりと、税制関連項目の前向きな解決を期待して本連載を締め括りたい。 (連載了)