2015年1月15日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.102 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第25回】 「消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」(その1)」 ~租税法内部における同一概念の解釈~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅰ 事案の概要 本件は、X(原告・控訴人)が代表者を務めていた有限会社Aに対する建物の賃貸は消費税法上の「事業」に当たらないとしてした消費税及び地方消費税の更正の請求について、税務署長Y(被告・被控訴人)が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことに対し、Xがその取消しを求めた事案である。 Xは、平成10年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という)中、A社に対し、A社が工場等として使用するX所有の工場、倉庫及び事務所各1棟合計3棟の建物を、その敷地も含め月額15万円で賃貸していた(以下「本件賃貸」という)。 Ⅱ 争点 本件の争点は、本件賃貸が消費税法上の「事業」に当たるか否かである。 消費税法上、消費税は、「事業者」が行った課税資産の譲渡等に該当する場合に課されるものであることから、Xの行った本件賃貸が「事業」に該当しない限り課されないことになる。 そこで、Xは、本件賃貸のような小規模のものは消費税法上の「事業」には当たらないと主張したのである。その理由は、消費税法上の「事業」は所得税法上の「事業」と同じように、規模によって判断すべきであるというのであった。 これに対して、Yは、本件賃貸も消費税法上の「事業」に当たると主張した。Yは、消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」とは異なるというのである。 ここで、所得税法上の「事業」について、所得税基本通達の考え方を確認してみよう。 上記通達が示すように、「事業」該当性については、社会通念によってそれが事業的規模であるかどうかを判断せざるを得ないとし、事実推定的な取扱いとして、いわゆる「5棟10室基準」を示している。 これら実務慣行を前提とすると、本件賃貸は、所得税法上の「事業」概念には当たらない程度の貸付け、すなわち業務的規模の貸付けであると思われる。 〔所得税法上の「事業」〕 前述のとおり、Yは、所得税法上の「事業」と消費税法上の「事業」の意義は異なるものだと主張したのに対して、Xは、両者の「事業」概念は同じであると論じている。 ここで問題となったのは、租税法上の概念(用語)について、個別税法ごとに異なる解釈をすることが果たして許されるか否かという問題である。 この点につき、Yは、 と主張した(次図参照)。 〔Yの主張〕 これに対し、Xは、 と論じて、消費税法上の「事業」の概念を所得税法上のそれと別異に解することはできないと主張した(次図参照)。 〔Xの主張〕 ところで、所得税法27条1項は、事業所得についての定義規定を置き、 と定め、これを受けて同法施行令63条は、事業の範囲について、同条各号に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする旨規定している。また、所得税法は、不動産所得、事業所得又は山林所得の計算に関して、「事業」という文言を用いて、「事業の用に供される固定資産」(同法51条1項)、「事業について生じた損失」(同条2項)、「事業に従事する親族に支払った給与」(同法57条1項、3項)、「事業を営む者」(平成4年法律第14号により削除された租税特別措置法25条の2第1項)等を要件とする各種の特則を設けている。 これらの所得税法上の「事業」については、一般的に、活動の規模を前提とした概念であると理解されているが、本件においても、この点については両当事者に争いはない。 さて、いずれの主張が妥当なのであろうか。 Ⅲ 判決の要旨 裁判所は、Xの主張を排斥して、消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」とは異なるものと判示している。 1 第一審富山地裁平成15年5月21日判決・税資253号順号9349 富山地裁は、まず、消費税の性質を論じた上で、消費税法上の「事業」の判断に当たってはその規模は問われないと説示している。 そして、所得税はこれとは異なるものだと論じるのである。 2 控訴審及び上告審 この事件は控訴されたものの、控訴審名古屋高裁金沢支部平成15年11月26日判決(税資253号順号9473)は、第一審の判断を維持した。また、上告審最高裁平成16年6月10日第一小法廷決定(税資254号順号9666)も上告を棄却したため、本件はX敗訴で確定した。 (続く)
法人税改革の行方 【第6回】 「外形標準課税の適用拡大(2)」 慶應義塾大学経済学部教授 土居 丈朗 本連載の前回では、地方の法人事業税の外形標準課税、中でも付加価値割の性質について言及した。今般取りまとめられた「平成27年度税制改正大綱」では、法人実効税率を2016年までに3.29%引き下げる一方で、その代替財源としての課税ベースの見直しでは、外形標準課税の適用拡大が最も大きな項目となった。 法人実効税率を大きく引き下げようとすれば、その代替財源もまとまったものを見つけ出さなければならないが、外形標準課税の適用拡大以外にまとまった財源となる課税ベースが見出せず、結局外形標準課税の適用拡大頼みになってしまった節がある。 一般に、「外形標準課税」は、赤字法人にも課税される。赤字法人への課税に対する評価は分かれている。企業が赤字なのに、それでもなお税負担を求めるのは、企業経営をより圧迫しかねないとする否定的な見方がある一方で、法人所得に比例する形での課税だと、企業が赤字というだけで税負担から逃れられるから、「外形標準課税」を用いて赤字法人にも課税すべきであるとする肯定的な見方もある。 しかし、本連載の前回で述べたように、わが国の外形標準課税、中でも付加価値割は、人件費を増やせば増税になる性質を持っている。それ以外にも、赤字法人に課税するにしてはいろいろと支障のある性質を持っている。 それは、同じような付加価値に課税している消費税と比較するとよくわかる。法人事業税の付加価値割の課税ベースは、前回も紹介したように、報酬給与額と純支払利子と純支払賃貸料と単年度損益の合計額である。このように、付加価値となる要素を足す形で計算して課税するものを、「加算法付加価値税」とも呼ぶ。他方、消費税の課税ベースは、売上額から仕入額を引いたものである。このように、付加価値を差し引く形で計算して課税するものを、「控除法付加価値税」とも呼ぶ。 そこで、法人事業税の付加価値割は、経済学的に見て、次のような問題を持っていると指摘されている。 (1)について、法人事業税の付加価値割を、同じような付加価値に課税している消費税と比較してみよう。消費税には、仕入税額控除があり、商品を売る際に税額を上乗せすることを前提とした仕組みとなっている。ところが、法人事業税の付加価値割には、仕入税額控除はなく、税制の仕組み上、流通過程で付加価値割税額を価格転嫁することを想定していない。 (2)は、前回述べた通りである。(3)は、同じように付加価値に課税している消費税では輸出取引が免税となるのに対して、法人事業税の付加価値割にはそうした措置はない。そのために輸出にとって不利な課税となる。 このことからもわかるように、そもそも、消費税は控除法付加価値税であるのに対して、法人事業税の付加価値割は加算法付加価値税であるために、同じ「付加価値」に課税していながら似て非なる税である。 特に、(1)があるために、(2)の性質が企業行動に歪みを与えることが懸念される。これは、法人事業税の付加価値割の課税ベースが、報酬給与額の実額に連動する形で設定されているからである(これは、雇用安定控除を設ければ緩和されるといえども本質的には変わらない)。 もし赤字法人にも課税すべきということなら、付加価値割ではなく、法人住民税の均等割を用いればよい。法人住民税の均等割は、人件費を増やしても法人所得が増えても一定額だけ課税されて終わる。企業活動に連動しない形で課税されるから、企業活動を阻害する効果がほぼない。 巷間で、赤字法人にも課税すべきとして、それは「外形標準課税」で実現できると考えている人は、恐らく付加価値割が持つ前述の性質を認識せず、むしろ法人住民税の均等割のような効果を期待して「外形標準課税」という言葉を用いているのだろう。確かに、法人住民税の均等割も広い意味では「外形標準課税」である。しかし、わが国の税制における「外形標準課税」といえば、法人事業税の付加価値割と資本割のみを指す。それを踏まえると、安直に「外形標準課税」と言ってはミスリードである。 今般の税制改正大綱では、法人実効税率引下げに対応した代替財源では、2012年度で約5,600億円もの税収を持つ法人住民税の均等割は全く用いられなかった。これを2倍にすれば法人実効税率を1%強引き下げられるほどの財源であるにもかかわらずである。 しかし、同大綱では、2016年度改正においても、課税ベースの拡大等により財源を確保して、2016年度における税率引下げ幅のさらなる上乗せを図ることがうたわれた。さらに、その後の年度の税制改正においても、引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続するとした。 次なる法人税改革の際には、企業活動を阻害する効果がほぼない法人住民税の均等割を用いることを検討すべきである。 (了)
平成26年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「給与所得者の特定支出控除」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 (1) はじめに 国税庁の統計資料によると、平成11年以降、所得税の確定申告をする人は毎年2,000万人を超えており、平成25年分の所得税についても2,143万人が確定申告を行った。そのうちの半数以上は、還付申告であり、給与所得者の場合は、確定申告をした人の約7割が還付申告である。 平成25年分の確定申告では、特定支出控除の適用を受ける給与所得者が急増した(平成24年分6人→平成25年分1,600人)。 これは、平成24年度税制改正で特定支出の範囲が拡大され、適用基準額の見直しも行われたため、制度を利用しやすくなったことが要因と考えられる。 平成25年分の確定申告で特定支出控除の適用を受けた(受けようとした)人の中には、特定支出の範囲を拡大解釈していたり、提出すべき書類を提出していなかったりするケースもあったようである。また、従業員から証明書の発行を依頼された企業側も、制度に対する十分な理解がなかったため、対応に困ったという話も聞く。 特定支出控除は、確定申告を行う個人だけでなく、特定支出控除に関する証明書を発行する企業側も制度の趣旨と内容をしっかりと理解しておく必要がある。最近、新聞や雑誌、ネット上で当該制度が取り上げられる機会が増えており、従業員から証明書の発行依頼を受ける可能性は従来よりも高まっていると考えられる。 企業側においても、確定申告に向け事前の準備をしておきたい。 なお、本稿の内容は、平成25年分以後の所得税に適用されるものである。改正前の制度の概要や改正前後の制度の比較については、拙稿「平成25年分 確定申告実務の留意点【第1回】平成25年分の申告から適用される改正事項①」(本誌No.51掲載)をご参照いただきたい。 (2) 制度の概要 給与所得者が特定支出をし、その合計額が適用基準額を超えるときは、確定申告を行うことにより、超えた部分の金額を、給与所得の金額の計算上、給与所得控除額に上乗せして控除することができる(所法57の2①)。 〈適用基準額〉 〈特定支出控除を適用する場合の給与所得の計算〉 (3) 特定支出とは 特定支出とは、次の①から⑥に掲げる支出のうち、一定のものである(所法57の2②、所令167の3)。 なお、給与の支払者から補填される部分がある場合で、その補填部分に所得税が課されていないときは、その補填部分は特定支出の金額から除かれる(所法57の2②③)。 〈特定支出の内容〉 なお、特定支出は、給与の支払者が証明したものに限られる(具体的には、所定の様式による証明書を発行する)。したがって、従業員から証明書の発行依頼を受けた場合には、支出の内容を検討し、特定支出に該当するかどうかを慎重に判断することが重要となる。 (4) 特定支出に関する判断のポイント 特定支出に関する判断のポイントは、次の3つである。 【ポイント①】 「職務の遂行に直接必要な支出であること。」 〈例〉 〇:該当する,×:該当しない 【ポイント②】 「通常必要であると認められる範囲の支出であること。」 〈例〉 〇:該当する,×:該当しない 【ポイント③】 「その年中に支出したものであること。」 〈例〉 (5) 適用を受けるための手続 特定支出控除の適用を受けるためには、確定申告をすることが必要である(所法57の2③)。 確定申告書には 「給与所得者の特定支出に関する明細書 平成25年分以降用」 と 「給与所得者の特定支出に関する証明書」 を併せて提出するとともに、支出した金額を証明する書類(領収書等)を添付するか又は申告書提出時に提示する必要がある(所法57の2③④、所令167の4、167の5、所規36の5、36の6)。 なお、給与所得控除を適用して確定申告を行った後、特定支出控除を適用した方が有利であることが判明した場合には、更正の請求の手続により、特定支出控除を適用し所得税の減額を求めることができる(所法57の2①③)。 * * * 次回は、海外転勤者の確定申告について解説を行う予定である。 (了)
5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第5回】 「一括比例配分方式による具体例」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 今回は一括比例配分方式を採用している事業者の確定申告書及び付表の記載方法を具体例に従って解説する。 なお、一括比例配分方式を採用した場合には、その課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始する各課税期間において一括比例配分方式を継続して適用しなければならないので注意が必要である。 設 例 C株式会社の当課税期間(平成26年1月1日~平成26年12月31日)の課税売上高等の状況は以下のとおりである。 【付表2-(2)の作成方法】 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【付表1の作成方法】 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 《確定申告書の記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《交際費》編 【第2回】 弁護士 木村 浩之 3 飲食費の交際費該当性 (1) 飲食費の意義 いわゆる飲食費には、 がある。 まず、①について、会議を円滑に進める目的で提供される飲食は、歓心を買うことを目的とするものではなく、単純損金として処理することが認められる。会議に付随する費用についても同様である。ただし、どの範囲が付随費用として認められるかは議論の余地がある(後記(2)参照)。 次に、②について、従業員等に飲食が提供されれば、それはその歓心を買うという要素が多かれ少なかれ認められるものの、一方で業務遂行を円滑にするという目的も認められる。そこで、いずれの要素が主たるものであるのかを客観的に評価して、福利厚生費であるのか、それとも社内飲食費として交際費に該当するのかを判断することになる。業務遂行の円滑化が主目的であれば、福利厚生費として単純損金処理することが認められるのに対して、主に従業員等の歓心を買うための社内飲食費と認められれば、交際費として損金算入が制限される(後記(3)参照)。 最後に、③について、接待飲食費として定義されるものであり、交際費のうち、飲食等のために要する費用(社内飲食費を除く。)をいうとされている(措法61の4④柱書)。ただし、5,000円以下の少額飲食費は、ここでいう接待飲食費からは除かれる。接待飲食費については、大法人であっても50%に相当する金額まで損金算入が認められる余地があることから、その範囲が重要である(後記(4)参照) (2) 会議費に含まれる費用 会議に関連して、茶菓、弁当等の飲食物を供与するために通常要する費用については、会議費に含まれ、交際費には該当しないことになる。会議に付随して通常必要となる飲食費であれば、たとえ金額が一人当たり5,000円を超えるものであったとしても交際費には該当しないが、この場合は通常必要性が問題になると思われる。 なお、飲食費以外であっても、会議に付随して通常必要となる費用、例えば、旅費交通費などについても、営業費用として交際費には該当しない。この場合も通常必要性が問題になるが、会議の趣旨目的などに照らして、金額の相当性も踏まえて判断せざるを得ないと思われる。 (3) 福利厚生費と社内飲食費の区分 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用については、福利厚生費に含まれ、交際費に該当しないことになる。これらに該当しないものであっても、①専ら従業員の慰安のための行事の費用であり、かつ、②法人が費用を負担することが行事の規模、内容、場所、参加者、金額などに照らして社会通念上一般的であるものについては、福利厚生費として交際費には該当しないことになる。 これに対して、専ら社内関係者のみで飲食する費用であって、かかる基準に照らして福利厚生費に該当しないものについては、社内飲食費として交際費に該当することになる。 (4) 接待飲食費の範囲 接待飲食費に該当するものについては、平成26年度税制改正によって、50%に相当する金額を損金算入できる特例が設けられていることから、今後、交際費の中でも接待飲食費に区分できるかどうかという点が重要になると思われる。 接待飲食費に該当するためには、当然のことながら、飲食等のために要する費用である必要がある。一般的に、飲食代そのものでなくても、飲食に付随して提供されるといえるサービスの対価もこれに含まれることになる。逆に、他のサービスを受けることが主たるものであって飲食が従たるものであると認められるときには、全体が飲食費とは認められないことになる。 4 リベートの交際費該当性 (1) リベートの意義 いわゆるリベートには、 がある。 まず、取引先である事業者に対して、取引高に応じて売上の一部をバックする費用などは、販売を促進するための費用であると考えられることから、売上割戻し等として処理することが認められる(後記(2)参照)。 また、取引先の紹介を受けることの見返りとして支払われる費用などは、一定の対価性ある報酬として処理することが認められ、交際費には該当しないことになる。これに対して、今後の取引を期待して支払われる費用などは、その目的が歓心を買うことにあると評価されることから、謝礼金として交際費に該当することになる。 ここでは、これらをどのように区別するかということが問題である(後記(3)参照)。 (2) 売上割戻し等の要件 ア 売上割戻し 売上割戻しとして処理するためには、その金額が取引高等の実績に応じて計算されるものである必要がある。その計算方法は必ずしも事前に定められている必要はないものの、事後に定める場合には、恣意性を排除するため、それが合理的な基準に基づくものであることを説明できる必要がある。 なお、特定の取引先に対してのみ有利な内容にする場合であっても、それを合理化するだけの特殊事情があれば認められるものと解される。 イ 販売奨励金 売上割戻しそのものでないとしても、販売促進の目的で事業者に金銭等を交付する場合には、販売奨励金等として処理することが認められる。販売促進目的であるか歓心を買う目的かというのは相対的な評価の問題であるが、合理的な拡販計画に基づくものであれば販売促進目的であると認められることになる。 そのほか、業務遂行の便宜のため、取引先が使用する固定資産の購入費用を負担すること、改装工事費用を負担すること、あるいは広告宣伝費を負担することなどは、歓心を買うことが主たるものではないことから、交際費には該当しないと考えられる。 (3) 報酬と謝礼金の区分 いわゆる情報提供料や紹介料が典型であるが、法人が何らかの役務の提供を受けたことに対して支払う報酬については、交際費には該当しないことになる。これに対して、何らかの役務の提供を受けたとしても、それが謝礼金に該当するものであれば、対価性を有するものではなく、歓心を買うためのものと評価され、交際費に該当することになる。 報酬と謝礼金とを区別する基準については、①役務の提供が相手方の事業として行うものであるかどうか、②事前に報酬の取り決めがなされているかどうか、といった要素の少なくともいずれか1つを満たさなければ、謝礼金として評価されることになると考えるべきである。 なお、役員や従業員個人が何らかの役務提供をしたことに対して支払われる金員については、基本的には労務の対価として給与に該当することになるが、明らかに職務外のものであれば、その支出の目的に応じて給与以外の費用に該当する余地もあると考えられる。 (了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第5回】 「改正の内容④」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-1-5-5 外国銀行等の資本に係る負債利子の損金算入 バーゼル銀行規制委員会の公表した基準では、一定の劣後債のように利子が生ずる負債も資本に含められている。こうした負債性資本の利子費用のうちPEに帰せられるべき金額を損金の額に算入することとした(法法142の5①)。 本制度は、確定申告書等に明細書の添付があり、その計算に関する書類を保存している場合に限り適用する(法法142の5②)。ただし、宥恕規定がある(法法142の5③)。 3-1-5-6 法人税額から控除する外国税額の損金不算入 帰属主義に変更したことに伴い、PEが国外で得た所得について外国で課税された所得であってもPEに帰属する場合にはわが国で課税することとなった。これによる二重課税を排除するために、外国税額控除が選択できることとした。 このため、外国税額控除を選択した場合には内国法人と同様に、外国税額は損金の額に算入しないこととした(法法142の6)。 3-1-5-7 本店配賦経費に関する書類の保存がない場合における本店配賦経費の損金不算入 本店配賦経費の配分計算が合理的であることを説明する書類の保存がない場合には、損金算入されないこととなった(法法142の7①、法規60の10)。なお、保存がない場合の宥恕規定がある(法法142の7②)。 3-1-5-8 PEの閉鎖・再進出の扱い 外国法人がPEを有しないこととなった場合には、PE帰属資産の含み益を清算するため、PEを有しないこととなった日の属する事業年度終了の時に、評価益又は評価損をPE帰属所得に係る益金又は損金に算入する(法法142の8①)。 PEを他者に譲渡した場合やPEを有する外国法人を被合併法人又は分割法人とする被合併又は適格分割型分割を行った場合には、時価評価の対象から除かれる(法法142の8①、法令190①)。 PEを有する外国法人がPEを有しないこととなる場合には、PE閉鎖日の当該外国法人が解散したものとして欠損金の繰戻し還付ができる(法法144の13⑨)。すなわち、PE閉鎖日前1年以内に終了した事業年度又はPE閉鎖日の属する事業年度において生じた欠損金について、繰戻し還付の規定の適用を受けることができる。 ただし、PEを有する外国法人を被合併法人、分割法人又は現物出資法人とする適格合併、適格分割又は適格現物出資によりPEを有しなくなった場合は除かれる(法法10の3③、法令14の11④)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第34回】 「法人税基本通達改正の歴史③」 公認会計士 佐藤 信祐 前回、解説したように、昭和29年度において「売掛債権の償却の特例等について(昭和29年7月24日直法1-140)」と題する通達が公表され、債権償却引当金勘定が導入されることになった。また、第32回で解説したように、昭和39年度において、貸倒準備金制度から貸倒引当金制度に改正されることになったが、さらに、同年度においては、債権償却引当金勘定を債権償却特別勘定に名称を変えたうえで、法人税基本通達に取り込まれることになった。 本稿においては、昭和39年度法人税基本通達の改正について解説を行うこととする。 3 昭和39年度法人税基本通達の改正 昭和39年3月に行われた法人税法施行規則の一部改正により、従来の貸倒準備金制度が見直され、貸倒引当金制度として、毎期、洗替えが行われることになった。 これに伴い、昭和29年7月24日に公表された「売掛債権の償却の特例等について」と題する通達において認められていた未収差益勘定と債権償却引当金勘定についても見直しが必要となり、昭和39年6月1日に法人税基本通達に組み入れられることにより、未収差益勘定を廃止するとともに、債権償却引当金勘定を債権償却特別勘定と名称を変えることになった。 なお、未収差益勘定が廃止された理由として、当時の国税庁直税部審査課の内藤清博氏は、 と説明されている。 また、従来の債権償却引当金についても貸倒れ見込額が50%を超える場合には、所轄国税局長の承認を得ることにより、50%を超える部分についても、損金の額に算入することを認めていたが、その手続きについても、昭和29年12月7日付で公表された「売掛債権の償却の特例等に関する通達の実施に伴う承認事務の取扱について」と題する通達を廃止し、「売掛債権等の償却に関する承認事務の取扱いについて(直法1-180、査調4-24、昭和39年10月22日)」と題する通達が公表されることになった。 法人税基本通達の改正による主な影響は以下の通りである。 このように、現在の法人税基本通達9-6-3に相当する「一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ」の原型(上記(1)①②)、法人税基本通達9-6-1「金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ(上記(3))」の原型ともいえる通達が導入されたのもこの時期である。 法人税基本通達の改正については、税務調査会の答申において、 という旨の答申が行われていたが、その点については、この段階では見送られている。 この点につき、吉国二郎氏は と解説されている。すなわち、この段階においても、債権償却特別勘定の位置付けとしては、かなり政策的意味合いの強いものであったということができる。 また、上記(1)①の取引が停止された後2年以上経過した場合の取扱いであるが、内藤清博氏は、 と説明されている。なお、昭和39年度法人税基本通達では「2年」となっているが、昭和42年度法人税基本通達の改正により、現行通達のように「1年」に戻されることになる。 なお、上記(1)③の「容易に処分できない担保物がある場合、担保物が劣後的である場合において、担保物の価額を超える部分の金額についての貸倒れの容認(法基通78の7)」については、現行通達においては見られない内容であり、昭和42年度の法人税基本通達の改正により「担保物が劣後的である場合」が廃止され、昭和55年度の法人税基本通達の改正により「容易に処分できない担保物がある場合」がそれぞれ廃止されることになる。 本通達を概観すると、全部貸倒れ、一部貸倒れ、債権償却特別勘定の3つに整理されるが、その整理が依然として曖昧である。さらに、「容易に処分できない担保物がある場合、担保物が劣後的である場合において、担保物の価額を超える部分の金額についての貸倒れの容認(法基通78の7)」については、部分貸倒れの一形態を認めるものであり、理論的には若干の混乱が見受けられる。 このように、貸倒準備金制度から貸倒引当金制度へ、債権償却引当金勘定から債権償却特別勘定へと制度が変わっていく中で、現行通達に近い形に変化していることが分かる。しかしながら、この段階では、実質的に債権の全額または一部を回収することができないと見込まれている場合における貸倒損失または債権償却特別勘定の計上については、法人税基本通達78の3において全部貸倒れについての規定が存在するものの、現在の規定内容とは異なるものである。 この点については、昭和42年度法人税基本通達の改正により行われることになるが、次回において解説を行う予定である。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第25回】 日本道路株式会社 「第三者委員会調査報告書(平成26年12月5日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 日本道路株式会社の概要 日本道路株式会社(以下「日本道路」という)は、1929年(昭和4年)3月設立。道路建設及び舗装工事をはじめとする建設事業を営む。連結売上高157,468百万円、連結経常利益9,509百万円(数字はいずれも平成26年3月期)。従業員数1,904名。本店所在地、東京都港区。東証1部上場。 調査報告書のポイント 1 調査に至った経緯――取引業者からの問合せ 平成26年10月6日、日本道路北関東支店に属する出張所の工事担当者に対し、建設機械リース業者から、リース代金約1,200万円の支払が繰り延べられ、分割返済されることとなっている旨の相談があり、同担当者は、出張所長ではなく、その上位管理者である営業所長に報告を行った。 報告を受けた営業所長は、出張所において不適切な会計処理が行われている可能性を把握し、北関東支店長に報告。北関東支店長は当該事実を代表取締役社長に報告し、代表取締役社長は直ちに社内調査委員会を設置して社内調査を行わせ、同出張所において、特定の案件に発生した工事原価を別の案件の工事原価として付け替える「原価移動」等が行われていたことが判明した。 日本道路の会計監査人である新日本有限責任監査法人は、社内調査の途中経過の報告を受ける中で、社内調査の網羅性等について疑義を呈したため、代表取締役社長は、第三者による調査委員会の設置を決め、11月5日開催の取締役会において、これを決議した。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 不正の手口――「原価移動」 原価移動とは、特定の工事案件で発生した工事原価を別の工事案件の工事原価として付け替える方法をいい、日本道路の役職員の間では、原価移動は、会社規則に違反する行為であるとの共通認識が形成されている。 具体的な手法としては、不正行為実行者が、材料、労務、機械等の取引業者に対し、契約又は実態と異なる請求書の作成を依頼し、取引業者がその依頼に応じ、内容虚偽の請求書を作成することにより行われ、その態様としては、 の4類型が確認されている。 (2) 不正の手口――工事請負代金の水増し計上 原価移動以外の不正の手口として、工事請負代金の水増し計上が確認されている。具体的な手口としては、①架空注文書の作成によるものと、②請負金の二重計上によるものが確認されており、結果的に、日本道路の完成工事売上高は、実際より過大に計上されていた。 (3) 繰り返されてきた懲戒処分 調査報告書によれば、日本道路における過去5年間の懲戒処分のうちには、以下のように、本件と類似した不正行為が含まれていた。 今回発覚した不正は、平成20年5月ころから開始され、平成25年3月期において金額が一気に増加しているところ、これらの懲戒処分が発生したときに、全社における徹底した調査が行われていれば、会計不正による影響額はより小さいものに終わった可能性が高い。 (4) 不正行為が業績に与えた影響額 報告書では、本件の原価移動に止まらず、過去の懲戒処分についても金額的影響をまとめて報告しているが、ここでは本出張所における原価移動による過年度損益に与える影響額を見ておきたい(単位:百万円)。 特徴としては、本件出張所における平成26年3月期は、修正後売上高が前年の706百万円から1,796百万円へと約2.5倍に伸びているが、売上総利益では、41百万円の赤字からから175百万円の赤字へと、かえって拡大しており、損益の悪化を隠蔽しようとした結果、不適切な会計処理が拡大している点が挙げられる。 3 調査報告書の特徴 (1) 徹底した不正調査 調査委員会の設置目的にも、「全社的な同種事象の有無調査」という文言が加えられているとおり、調査委員会は、同種の会計不正について、以下のような徹底した調査を行っている。 なかでも、取引業者に対する調査は、他の事例ではなかなか見られない大規模なものであり、注目に値する。 調査委員会は、年間100万円以上の取引があった下請業者10,144社に対し確認状を郵送し、8,748社(回収率86.2%)からの回答を分析し、本件不正、懲戒処分の対象となった不正以外にも、複数の「支払の繰延べ」「付替え」「立替払」「現金の工面」などが発見された。 こうした調査結果は、本件では、金額的影響額の重要性が低いと判断されたものの、不正の抑止、早期発見という観点から考えると、取引業者(特に下請業者)に対して、書面により質問形式で不正が疑われる事象の有無を問い合わせることが有効であることを示したものであると評価することができるのではないか。 (2) 本件不正の直接的原因となった問題点 調査委員会は、直接の原因となった問題点として、以下の3点を挙げた。 日本道路固有の問題点として、工事管理が不十分であったことから、損失が工事の完了まで表面化せず、その結果、損失の隠蔽を図るという動機が生じたこと、また、内部及び外部の証憑書類の日々の確定が行われていなかったことが、原価移動が行われることとなった本質的な問題であったと結論づけている。 (3) 本件不正の間接的原因となった問題点 次いで、調査委員会は、以下の3点を本件不正の間接的原因と指摘した。 日本道路におけるコンプライアンス教育研修は、職員を講師とするものであったため、本件不正が行われていた出張所では、不正行為の実行者である所長が講師となり、原価移動や不正経理が与える影響について説明していた。受講した職員の中には、出張所において原価移動が行われていることを知っていた職員が少なからず存在したが、研修受講後も、原価移動は続けられていた。また、これらの職員の中に、「コンプライアンス相談窓口」に通報した者はいなかった。 事務処理体制が十分でないことについては、過去の懲戒処分における再発防止策の検討の過程で、工事担当者の事務負担の増加を理由として抜本的な解決策が採用されていなかった点を挙げている。 4 再発防止策 調査委員会が提言した再発防止策と、これを受けて、日本道路が12月8日に発表した再発防止策は、建設業を営む会社にとって、大いに示唆に富むものである。以下に、「工事管理の充実・強化」と「工事日報の日々の確定」について、調査委員会の具体的提言と、日本道路の採用した施策を検証しておきたい。 (1) 工事管理の充実・強化 工事管理の充実・強化について、調査委員会は、以下のように説明している。 そのうえで、「支店長及び営業所長において、自らの管理下における工事管理に対する意識のさらなる向上が求められる」としたうえで、こう締めくくっている。 この提言を受けて、日本道路は、以下の3点により、「現場」を基本とした工事管理の徹底を図るとしている。 (2) 工事日報の日々の確定 工事日報の日々の確定について、調査委員会は、「事後の不正な改ざんを許さない仕組みを構築することが必要」であるとして、具体的な仕組みの一例として、以下のように提言している。 これに対し、日本道路の再発防止策は、やや具体性に欠けたものとなっている。 これは、調査委員会が懸念した、「日々の業務に忙殺される工事担当者に対してさらに過大な負担をかける可能性」を日本道路が斟酌したものであろうかと思料するが、日本道路の再発防止策でも、「日常の業務負担が重い工事担当者」に「事務作業を補助する人員を配置」することが表明されているので、こうした補助人員の役割なども含め、調査委員会の提言実現に向けて、もう少し具体的な方針を示す必要があったのではないかというのが、筆者の評価である。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第68回】 企業結合会計⑤ 「共通支配下の取引」 ―100%子会社同士の無対価合併 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① B社(吸収合併存続会社)の会計処理 (*1) C社(吸収合併消滅会社)の資本金は、資本金ではなく、その他資本剰余金として引き継ぎます(後述)。 ② A社(親会社)の会計処理 (*2) 合併期日直前におけるC社(吸収合併消滅会社)の株式の適正な帳簿価額に基づいて計上します。 〈会計処理の解説〉 「共通支配下の取引」とは、結合当事企業のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいいます(企業結合に関する会計基準16)。共通支配下の取引には、親会社と子会社の合併、子会社同士の合併等が含まれます。 共通支配下の取引は、親会社の立場からは企業集団内における資産・負債・純資産の移転(内部取引)と考えられるため、基本的には企業結合の前後で帳簿価額が相違することとならないように会計処理を行います。したがって、子会社同士の合併において、吸収合併存続会社は、吸収合併消滅会社の資産・負債・純資産を、適正な帳簿価額に基づき計上します。 【子会社同士の合併のイメージ】 合併前において、A社(親会社)はB社及びC社を100%支配しています。B社がC社を吸収合併することにより、C社のヒト・モノ・カネがB社に移転しますが、A社はB社を100%支配することを通じて、それらを合併後も同様に支配することができます。すなわち、A社にとっては合併前後で何ら変化はないため、子会社同士の合併という事実を資産・負債等には何も影響させず、吸収合併消滅会社(C社)の適正な帳簿価額に基づく資産・負債をB社がそのまま引き継ぐ会計処理を行うこととなります。 同様に、A社(親会社)が保有する子会社株式(B社株式、C社株式)についても、合併前後で何ら変化はありません。形式的には、吸収合併によりC社の株式はなくなりますが、合併後もB社とC社を支配している(厳密にいうと、B社及びC社のヒト・モノ・カネを支配している)という実態に変化はないため、これをもって資産・負債が影響を受けたり、損益を認識したりするのは適切ではありません。したがって、A社においてはC社株式をB社株式に振り替える会計処理を行います。 ここまで述べてきたとおり、共通支配下の取引においては、吸収合併存続会社は吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額に基づく資産・負債をそのまま引き継ぐ会計処理を行い、株主資本についても原則として、吸収合併消滅会社の株主資本の各項目を引き継ぎます。 しかし、本事例のように、吸収合併存続会社が合併に際して株式を発行していない場合は、会社法上の制約から吸収合併存続会社の資本金及び準備金を増加させることは適当ではないと解されています。したがって、吸収合併存続会社(本事例ではB社)が株主資本を引き継ぐ際には、吸収合併消滅会社の資本金及び資本準備金はその他資本剰余金として引き継ぎ、利益準備金はその他利益剰余金として引き継ぎます(適用指針437-2、会計計算規則36②)。 * * * 次回は、事業譲渡(現金を対価として外部に売却する場合)について解説します。 (了)