贈与実務の頻出論点 【第6回】 「認知症の母からの贈与」 税理士法人チェスター 解 説 [1] 認知症と後見制度 認知症はかつて痴呆症と呼ばれていたもので、後天的な脳の器質的障害で、もともとあった知能等が低下していく状態をいいます。物覚えが悪くなるといった誰にでも起こる老化現象ではなく、病的に能力が低下してくるものです。 認知症で判断能力が不十分な人は、財産管理や契約行為が難しくなります。判断能力が不十分な人を保護して支援する制度として、成年後見制度があります。成年後見制度を利用すると、本人に代わって成年後見人等が法律行為を行うことができます。 ただし、成年後見人等は本人の財産を守るために選任されているため、贈与等により本人の財産を減らすような行為は認められていません。成年後見人等が勝手に贈与契約を行った場合には、裁判所からその贈与行為の取消しや成年後見人等の解任をされる可能性があり、成年後見人等が贈与契約を行うことは難しいです(民7、846)。 [2] 生前贈与が否認される場合 贈与は贈与者と受贈者の贈与の意思があって成立します。このため、財産をあげる贈与者が認知症により判断能力が衰えてしまった場合、あげる側の意思能力に疑問が生じるため、贈与契約は成立しなくなります。 意思能力とは有効に意思表示する能力のことをいい、意思能力を欠く人の法律行為は無効とされているように、法律行為を行うためには意思能力が前提とされています。 司法書士が不動産の贈与登記を行う場合、司法書士が本人確認と意思確認をします。贈与契約書に署名捺印があったとしても、贈与者が認知症である場合には、司法書士は登記手続を進めることができません。 一方、認知症にも軽度のものから重度のものまで様々で、認知症だから意思能力がないとは一概に言い切れません。認知症と診断された後に作成された公正証書の死因贈与契約が有効とされた判例(東京地判平22.7.13)もあるように、認知症の人の意思能力の有無は事例ごとに個別検討が必要となります。 認知症が進行して判断が難しくなってきた場合や成年後見人が選任されている場合には、契約書に本人の署名があったとしても、贈与が無効とされてしまうので、注意が必要です(民549)。 (了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第11回】 「内国法人の法人税②」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-2-1-2 国外所得金額の計算 (1) 国外所得金額の計算の概要 外国税額控除の控除限度額の計算の基礎となる国外所得金額は、国外源泉所得に係る所得に対してのみ法人税を課するものとした場合に課税標準となるべき当該事業年度の所得の金額とされ、国外事業所等に帰せられるべき資本に対応した利子の損金不算入相当額について加減算の調整を行う必要がある(法法69①、法令141の2①)。 前回述べたように、国外源泉所得は16種類が定められているが、国外事業所等帰属所得とそれ以外の国外源泉所得に区分して検討する必要がある。国外事業所等帰属所得は国外事業所等ごとに独立の事業者と擬制して帰せられるべき所得を計算する必要がある。その結果、国外事業所等帰属所得に係る国外所得金額は、内国法人全体として算出される所得金額と一致しないこととなる。 他方で、国外事業所等帰属所得以外の国外源泉所得に係る国外所得金額は、内国法人全体として算出される所得金額の範囲内に収まる。 (2) 国外事業所等帰属所得に係る国外源泉所得の認識時期 国外事業所得等帰属所得は独立して事業を行う事業者と擬制するので、収益認識の時期も独立の事業者であるとした場合に所得を認識すべき時期となる。例えば、支店から本店に商品の販売を行った場合は、内国法人全体として収益が実現していない場合でも、支店の収益を認識することとなる。 (3) 国外事業所等が内部取引により取得した資産 例えば、国外事業所が本店等から商品を取得して外部に販売した場合は、外国税額控除における国外所得金額の計算上は、本店等における取得価額ではなく、その内部取引における取得価額を基礎として売上原価の計算を行うことになる。 (4) 内外共通費用の配分 当期の所得金額の計算上損金算入された販売費・一般管理費その他の費用のうち国外源泉所得を生ずべき業務とそれ以外の業務の双方に関連して生じた共通費用がある場合は、収入金額、資産の価額、使用人の数その他の基準のうち内国法人の行う業務の内容及び費用の性質に照らして合理的と認められる基準によって国外所得金額の計算上の損金の額として配分する必要がある(法令141の2③)。 共通費用の配分の基礎となる費用の明細及び内容、配分の計算方法及びその方法が合理的であるとする理由を記載した書類を作成しなければならない(法令141の2④、法規28の5)。 (5) 国外事業所等に帰せられるべき資本に対応する負債利子の加算調整 ① 概要 国外事業所等に係る自己資本の額がその国外事業所等に帰せられるべき資本の額に満たない場合には、その国外事業所等を通じて行う事業に係る負債の利子のうち、その満たない額に対応する部分の金額を、国外所得金額の計算上加算調整しなければならない(法令141の2①一)。 (※) 上記及び以下の算式については「平成26年度税制改正の解説」(財務省)766~775頁より引用。 この加算調整額は、各国外事業所ごとに計算する。同一国に複数の拠点がある場合には、その国の複数の拠点を1つの国外事業所等として計算を行う。 ② 国外事業所等に係る自己資本の額 上記算式の「国外事業所等に係る自己資本の額」は、会計帳簿に記載した資産と負債の金額について、合理的な方法により計算した平均的な残高による(法令141の2⑫)。 ③ 国外事業所等に帰せられるべき資本の額 上記算式の「国外事業所等に帰せられるべき資本の額」は、資本配賦法又は同業法人比準法により計算する(法令141の2⑥)。 (表) 内国法人のPE帰属資本配賦方法 (注) 外国法人との違いは、資本配賦法で連結の数値を用いる方法がない点である。 【イ 資本配賦法】 内国法人の自己資本の額に、内国法人の資産の額の国外事業所等に帰せられるべき資産の額の割合を乗じて、その国外事業所等に帰せられるべき資本の額を計算しようとする方法である。 (ⅰ) 銀行等以外の内国法人・・・資本配賦原則法又は資本配賦簡便法 a 資本配賦原則法(法令141の2⑥一イ) b 資本配賦簡便法 銀行等以外の内国法人は資本配賦原則法に代えて、資本配賦簡便法を選択できる(法令141の2⑨)。発生し得る危険を計算する必要はなく、帳簿価額を用いることにより計算の簡素化を図ったものである。 (ⅱ) 銀行等である内国法人 a 規制資本配賦法 銀行等とは、預金保険法第2条第1項に規定する金融機関、農水産業協同組合貯金保険法第2条第1項に規定する農水産業協同組合、株式会社日本政策投資銀行、金融商品取引法第2条第9項に規定する金融商品取引業者をいう(法令141の2⑥一ロ、①二)。 また、規制上の自己資本の額とは、銀行法第14条の2第1号(経営の健全性の確保)に規定する自己資本の額に相当する金額、金融商品取引法第46条の6第1項(自己資本規制比率)に規定する自己資本規制比率に係る自己資本の額に相当する金額その他これらに準ずる自己資本の額に相当する金額をいう(法令141の2⑥一ロ)。 b リスクウェイト資産の算定の特例 「資産の額について発生し得る危険を勘案して計算した金額」とは、いわゆるリスクウェイト資産をいうが、銀行等の国外事業所等が多数存在する場合の事務負担に配慮して、総リスクのうちに貸出債権に係る信用リスクの占める割合が著しく高い場合には、貸出債権に係る信用リスクのみを用いてリスクウェイト資産の額の計算を行うことができる。 具体的には、発生し得る危険を勘案した金額を計算する際に、全リスク額に対する信用リスク額の割合が80%を超え、かつ、貸出債権リスク額(事業年度終了時の取引相手方の契約不履行により発生し得る危険を勘案して計算した金額をいう)のその信用リスク額に対する割合が50%を超えるときは、貸出債権に係る信用リスク額により計算することができる(法規28の10)。 【ロ 同業法人比準法】 同業法人比準法は、その国外事業所等に帰せられる資産の額に、同所在地国で事業を行う同業他社の自己資本比率を乗じて、その国外事業所等に帰せられるべき資本の額を計算しようとする方法である(法令141の2⑥二)。 (ⅰ) 銀行等以外の内国法人 a リスク資産資本比率比準法 その内国法人の事業年度終了の時の国外事業所等に帰せられる資産の額について発生し得る危険を勘案して計算した金額に、比較対象法人の貸借対照表計上の純資産の額を比較対象企業の総資産(発生し得る危険を勘案して計算した金額)で除した比率を乗じて計算した金額をもって、その国外事業所等に帰せられるべき資本の額とする方法である(法令141の2⑥二)。 b 簿価資産資本比率比準法 銀行等以外の内国法人(日本政策投資銀行及び保険業法第2条第2項に規定する保険会社を除く)は、リスク資産資本比率比準法に代えて簿価資産資本比率比準法により国外事業所等に帰せられるべき資本の額を計算することができる(法令141の2⑨)。 これは、内国法人の国外事業所等に帰せられる資産の帳簿価額の平均的な残高として合理的な方法により計算した金額に、比較対象法人の純資産の金額の同じく総資産の割合を乗じて計算する方法である(法令141の2⑨二)。 (ⅱ) 銀行等である内国法人・・・リスク資産規制資本比率比準法 リスク資産規制資本比率比準法とは、銀行等の事業年度終了時の国が事業所等に帰せられる資産の額について発生し得る危険を勘案して計算した金額に、(a)の金額の(b)の金額に対する割合を乗じて計算する方法をいう(法令141の2⑥二ロ)。 ④ 危険勘案資産額の計算日の特例 ⅰ 特例の内容 危険勘案資産額に関し、確定申告期限までにその金額の計算をすることが困難な常況にあると認められる場合には、その各事業年度終了の日前6月以内の一定の日における(ⅰ)から(ⅳ)までの金額について発生し得る危険を勘案して計算した金額をもって計算することができる(法令141の2⑦)。 ⅱ 特例の適用要件 本特例の適用を受けようとする最初の事業年度の確定申告書の提出期限までに、納税地の所轄税務署長に対し、申告書の提出期限までに危険資産勘案額を計算することが困難である理由、危険資産勘案額を計算する一定その他の事項を記載した届出書を提出した場合に限り認められる(法令141の2⑧、法規28の8)。 ⑤ 国外事業所等に帰せられるべき資本の額の計算方法の選定・変更 国外事業所等に帰せられるべき資本の額の計算は、各国外事業所等ごとに行う。帰せられるべき資本の額の計算方法についても、各国外事業所等ごとに、資本配賦法と同業法人比準法のいずれかを選択する。いったん選択した方法は、その国外事業所等を通じて行う事業の種類の変更等の特段の事情がない限り、継続適用する必要がある(法令141の2⑩)。 資本配賦法又は同業法人比準法等に属する別の方法に変更することについては、特段の制限なくできる。 ⑥ 加算調整の適用要件 加算調整は確定申告書等に加算金額及び計算明細書が添付されており、かつ、国外事業所に帰せられるべき資本の額の計算の基礎となる事項を記載した書類その他の一定の書類の保存がある場合に限り適用できる(法令141の2⑬、法規28の9)。 したがって、国外事業所等に帰せられるべき資本配賦の計算を行わず、国外所得金額の加算調整を行わないという選択肢も可能である。ただし、銀行・証券会社等の金融機関については、銀行等の資本に係る負債利子の減算調整との関係上、資本配賦が必須となる。 (6) 銀行等の資本に係る負債利子の減算調整 銀行等の自己資本の額については、銀行法や金融商品取引法等において、利子を生じない資本だけでなく、一定の劣後債のように利子が生ずる負債も自己資本に含められている。このような自己資本に含められる負債は銀行等の全体の便益のための負債であることから、その利子費用について国外事業所等に対して適切に配分される必要がある。 そこで、銀行等である内国法人の有する資本に相当するものに係る負債につき当該事業年度において支払う負債の利子の額のうち、その内国法人の国外事業所等に帰せられるべき資本の額に対応する部分の金額は、国外所得金額の計算上減算調整することとされた(法令141の2①二)。 減算調整すべき金額は、具体的には次の算式により計算する(法令141の2⑮)。 (7) 保険会社の国外事業所等に帰せられるべき投資資産に係る収益の額の減算調整 AOAでは保険会社の投資資産は保険リスクを引き受けた構成部分に帰属するものと整理されていることを踏まえ、保険会社である内国法人の国外事業所等に係る投資資産の額がその国外事業所等に帰せられるべき投資資産の額を上回る場合には、その上回る部分に相当する金額(投資資産超過額という)に係る収益の額を国外所得金額の計算上減算調整することとされた(法令141の2①三)。 (8) 確定申告書等への国外所得金額の計算明細書の添付 国外所得金額の計算明細書は従来実務上の取扱いとして申告書別表以外に添付が求められてきたところであるが、今回の改正で明細書の添付が法令上義務化された(法令141の2第22項)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第40回】 「法人税基本通達改正の歴史⑨」 公認会計士 佐藤 信祐 平成4年度において、「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について(平成4年9月18日課法2-4、査調4-4)」が公表された。このころからバブル崩壊による影響が出始めており、金融システム全体の安定性が脅かされる危険性が出てきたため、官民ともにあらゆる対応をし始めてきている。 本稿においては、平成4年度に公表された同個別通達についての解説を行う。 9 認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について 平成4年8月18日に「金融行政の当面の運営方針」が大蔵省から公表され、それを踏まえた措置のひとつとして、「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について(平成4年9月18日課法2-4、査調4-4)」が公表された。これは、債権償却特別勘定設定における緩和措置とも言われており、その具体的な内容は以下の通りである。 なお、本通達は平成10年税制改正により廃止されることになる(「法人税基本通達の一部改正等について」、平成10年12月3日課法2-15)が、上記のうち、(1)については平成10年改正後法人税基本通達11-2-6、(3)については同通達11-2-6の2(平成14年2月15日課法2-1により、通達番号が11-2-7へ変更)に組み込まれる。なお、(2)については、「相当部分」という要件が現在の法人税法施行令96条1項2号から除外されていることから、現在の法人税基本通達には規定されていない。 このように、不良債権が増加し、金融システムの安定性が脅かされることになったため、債権償却特別勘定の設定を緩和したというのが、「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について」の背景であるが、現在の法人税基本通達の中に取り込まれ、事業会社にも影響の与える通達となっている。 しかしながら、この段階では、現在の貸倒引当金と異なり、国税当局による認定が必要であったため、不良債権処理は遅々として進んでいなかった。わが国における金融ビッグバンが平成8年から平成13年までに行われたことを考えると、この段階では仕方がないようには思える。 その後、平成5年1月に株式会社共同債権買取機構(以下「共同債権買取機構」という)が設置された。共同債権買取機構は不良債権の買取りのために設けられた機構であり、平成16年3月にすべての業務を終了して清算されることになる。共同債権買取機構につき、太田洋弁護士は、 と解説されており、また、当時は不動産抵当権によって担保されている不良債権しか対象にすることができなかったことから、不良債権処理の初期段階における背景をよく表しているように思える。 その後、次回、解説するように、平成10年度の法人税基本通達の改正により、同通達9-4-2が改正され、不良債権処理が一気に進むことになるが、平成11年4月1日に、旧住専債権の整理回収のために「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」に規定する「債権処理会社」として設立された株式会社住宅金融債権管理機構と、破綻金融機関の不良債権等の処理のために預金保険法に規定する「協定銀行」として設立された株式会社整理回収銀行が合併することにより、株式会社整理回収機構(以下「RCC」という)が誕生することになる。さらに、平成13年度の臨時国会において、RCCの業務として企業再生に関わる業務が法律上規定され、「RCC企業再生スキーム」が誕生することになる。 さらに、平成15年から平成19年までの時限的な機構として株式会社産業再生機構が誕生し、平成21年から株式会社企業再生支援機構が誕生した後に、平成25年に地域経済活性化支援機構へ改組されている。また、平成24年に株式会社東日本大震災事業者再生支援機構が設けられるなど、共同債権買取機構をスタートとした仕組みについては、目的や手法を変えながらも、継続していることになる。 また、それだけでなく、法人税基本通達9-4-2を利用した仕組みとして、私的整理ガイドライン、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会などが設けられるなど、不良債権処理が進められていくことになる。 平成10年度税制改正前の流れを見てみると、貸倒損失の認識については、とにかく厳格に捉えていたことが分かる。そもそも、債権償却特別勘定についても、貸倒損失の認識がとにかく厳格であったことから、それを緩和する措置として設けられており、平成4年度に公表された「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について」も、債権償却特別勘定の認識をさらに緩和しようとした措置であったことが分かる。しかしそれだけではやはり不十分であり、共同債権買取機構が平成7年度に誕生している。 平成23年度税制改正においては、金融機関等は対象外として、事業会社のうち大法人について貸倒引当金の設定を認めないという形になっているが、金融機関等と異なり、地域経済活性化支援機構や事業再生ADRなどのような不良債権処理のための措置は整備されておらず、焦げ付いた不良債権について、会計上、損失として処理したものの、法人税法上は、別表4、5(1)で加算留保処理をしたまま、数年間も放置されてしまうケースは少なくない。しかしながら、そもそもかなり厳格なもののみが貸倒損失として認められ、それを緩和するために債権償却特別勘定が認められていたという流れを見ると、財源確保という大義名分の下で、金融機関等、中小法人を除いては、戦前の制度に戻っていったように感じられる。そう考えると、昭和29年度に貸倒準備金制度が導入された当時の東京国税局の解説にあるように、 としているのであるから、「相手方に少しでも支払う能力がある場合には認められない」というのが、現在の法解釈になると考えられる。 次回では、平成10年度の法人税基本通達の改正について解説を行う。 平成10年度税制改正においては、債権償却特別勘定が廃止され、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金として改組されることになるが、法人税基本通達の改正においては、それに対応した改正だけではなく、同通達9-4-1、9-4-2についての見直しがなされている。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第28回】 オカモト株式会社 「第三者委員会調査報告書(平成26年12月10日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 オカモト株式会社の概要 オカモト株式会社(以下「オカモト」と略称する)は、1934(昭和9)年1月10日設立。医療生活用品、プラスチック製品の製造を主たる事業とする。連結売上高77,457百万円、連結経常利益4,441百万円(数字はいずれも平成26年3月期)。従業員数1,515名。本店所在地、東京都文京区。東京証券取引所第1部上場。 調査報告書のポイント 1 調査に至った経緯――従業員による不正の告白 平成26年8月中旬頃、オカモト静岡工場に勤務する従業員から、静岡工場長に対し、帳簿在庫の数量や金額を不正に操作していることを示唆する告白があり、静岡工場における内部調査、本社経理部の管理職による内部調査により、詳細な金額は不明であるものの、棚卸資産の在庫金額が約4億円過大計上されており、過年度決算の訂正が生じる可能性の高いことが判明した。 その後、社内調査を行ってきた役職員に顧問弁護士を加えた社内調査委員会の設置を経て、社外の独立した弁護士及び公認会計士のみからなる第三者委員会による調査、再発防止策の提言を受けることを決定し、平成26年11月4日、適時開示を行った。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 不適切な会計処理 第三者委員会は、「本件不正行為の特定」の中で、オカモト静岡工場における不正を以下のように結論づけている。 不正関与者が行っていた棚卸資産の過大計上の手口は以下の3種類である。 「単価」「数量」の操作、「架空品番」の作成など、過大計上を容易に行うことができた背景には、オカモトの実地棚卸手法、在庫管理システムに問題点があったことが指摘されている。 (2) 棚卸のチェック体制の不備 第三者委員会は、実地棚卸において、容易に棚卸資産を水増しが可能になった背景には、オカモトの棚卸チェック体制に以下のような不備があったためであると指摘している。 (3) 在庫管理システムの問題点 また、基幹システムについても、以下のように指摘し、単価の変更、新品番の追加登録ができる仕組みであったことが、棚卸資産の過大計上を容易に行うことができる原因だったとしている。 (4) 過年度決算に与えた影響額 静岡工場における棚卸資産の過大計上が過年度決算に与えた影響は、以下のとおりである。 3 調査報告書の特徴 (1) 類似取引の有無に関する調査 第三者委員会は、類似取引の有無の調査のため、品番あたりの計上額が500万円以上の仕掛品、原材料等について、在庫の数量推移・単価推移について、異常なものがないかを確認するとともに、製造部門で棚卸資産の集計結果を基幹システムに入力している一般社員に対して、アンケートによる調査を行った。 第三者委員会による臨時棚卸も含めた調査の結果、とくに不正な数量操作や単価操作を示唆するような事実は検出されず、アンケート調査の結果も、静岡工場における本件不正以外には、類似取引の可能性については発見されなかったと結論づけている。 (2) 関与者の特定 静岡工場製造1部部長代理Aは、本件不正の指示者(承認者)として定義されている。具体的には、毎月の部課の月次損益の数値が損益計画に達しない場合に、棚卸資産の数値を改竄するような概括的な指示をし、あるいは、部下からの相談に対して不正を行うことに承認を与えていた。 その動機としては、自分が担当する多層押出課と農業資材課における損益計画未達につき、工場長及び経営陣から責任追及されることを回避するためであった。 不正実行者である多層押出課課長B及び同主事C、農業資材課課長Fは、Aからの概括的な指示に基づき、具体的な手口を考え、部下に指示して作業を行わせたものである。 (3) 静岡工場長の責任 平成21年6月から平成26年6月まで静岡工場長であった池田惠一取締役について、以下のように仕事ぶりを評している。 とはいえ、工場長自ら本件不正行為を指示し、あるいは、本件不正行為を認識していた事実は認められなかったとしている。 しかし、部下が本件不正を行わざるを得なかったのは、損益計画の未達に対して、工場長が聞く耳を持たない対応に終始し、重いプレッシャーを与えていたこと、大幅な棚卸資産の数値の訂正が度重なったにもかかわらず、その原因調査を行わなかったことは、不正が長く続いた要因であるとして、その責任について、工場長として、重大な監督不行届きの責任があると断じている。 池田惠一取締役が、静岡工場長の職を離れたわずか2ヶ月後、冒頭「調査に至った経緯」にある「従業員の告白」が行われていることも、暗示的である。 なお、池田惠一取締役は、「一身上の都合により」平成26年12月31日をもって退任することが、12月26日付「取締役の異動に関するお知らせ」としてリリースされている。些末なことではあるが、一般的に「退任」は任期満了(オカモトの取締役の場合には平成27年3月期に係る定時株主総会終結の時)をもって取締役から退く場合の表現であり、本リリースにおいては「辞任」の方が適切ではないかと思料する。 4 再発防止策のあり方 第三者委員会は、「再発防止策のあり方」として、次の5項目を挙げている。 ここでは、「静岡工場勤務者が基本的に定年まで同工場業務に従事する人事システムのマイナス面(身内意識、馴れあい意識)」について検討したい。 調査報告書は、「関与者の処分」の中では、身内意識の良い面も踏まえて、「法令遵守の重要性を明記させるような、適切妥当な社内処分」を行うべきであるとしたうえで、さらに「その他」の項目の中でも、こうした人事システムを「この機会に、中長期的な展望にもたって、総合的な検討を行うこと」が有効であるとしている。 同じ工場に定年まで勤務するという人事制度が今回の不正の直接的な原因でなかったことは、オカモトの他の工場で同様の不正がなかったことからも明らかである一方、前述のように「工場長の交代」を契機に本件不正の発覚の契機となった従業員の告白があったこともまた事実である。第三者委員会の提言が人事システムの刷新までも求めていないところに、この問題の解決が難しいものであることを示していると言えよう。 第三者委員会の調査報告を受けて、オカモトは12月12日と同月26日に、再発防止策に関するリリースを公表した。その内容は、以下のとおりである。 (1)から(8)までの防止策については、概ね、第三者委員会の提言に沿ったものであるが、(9)に掲げる「社内の監視監督組織」とは、社長直轄の「経営管理室」として、業務上のリスクを抽出・把握し、必要な対策を検討・実行すること等の業務を行うことを目的として、平成27年1月1日をもって設立するというものである(12月26日付リリース)。 経営管理室の具体的な業務内容としては、以下の4点を例示している。 経営管理室の陣容や権限が具体的に明らかになっていない現状で即断するのは避けるべきであるが、経営企画部門、内部監査部門及びコンプライアンス部門の機能を一元的に集約した組織目的であり、今後公表されるであろう「改善報告書」などをフォローして、再発防止に向けた取組みの1つとして注目したい。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第77回】 純資産会計⑤ 「剰余金の配当に伴う準備金の計上」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 〈事例による解説〉 (単位:千円) 本事例では、すべて利益剰余金を配当の原資としているものとします。 [ケース1] 株主総会において総額1,000の配当金を支払うことを決議した。 (決議直前の資本金10,000、資本準備金1,000、利益準備金500) [ケース2] 株主総会において総額1,000の配当金を支払うことを決議した。 (決議直前の資本金10,000、資本準備金2,000、利益準備金450) [ケース3] 株主総会において総額1,000の配当金を支払うことを決議した。 (決議直前の資本金10,000、資本準備金2,000、利益準備金1,000) 〈会計処理の解説〉 [ケース1]では、【図1】のように減少する剰余金の額に10分の1を乗じた額を準備金に計上してもなお、準備金の額は資本金の額の4分の1に達しません。そのため、減少するその他利益剰余金の額1,000に10分の1を乗じた100を利益準備金に計上し、同額をその他利益剰余金から減少させます。(会社計算規則22条2項2号) 【図1】 [ケース2]では、【図2】のように減少する剰余金の額に10分の1を乗じた額を準備金に計上すると、追加計上後の準備金の額が資本金の額の4分の1を超えてしまいます。 【図2】 そのため、【図3】のように資本金の額の4分の1に達するまでの金額を利益準備金に計上し、同額をその他利益剰余金から減少させます。(会社計算規則22条2項2号) 【図3】 [ケース3]では、資本金の額の4分の1以上の準備金が既に計上されているため、利益準備金の追加計上は行わず、配当分だけその他利益剰余金を減少させています。(会社計算規則22条2項1号)。 なお、資本剰余金を配当の原資とした場合には、利益準備金ではなく資本準備金に、準備金の計上を行います。 * * * 次回は、増資に関する会計処理について解説します。 (了)
非正規雇用の正社員化における留意点と労務手続 【第1回】 「非正規社員の雇用状況」 特定社会保険労務士 池上 裕美 2013年4月労働契約法の改正により、契約期間の定めのある労働契約が反復更新されて通算で5年を超えたときに、労働者からの申し出があれば期間の定めのない労働契約に転換できることとなった。また、2015年4月1日施行のパートタイム労働法では、正社員と差別的取扱いが禁止される対象範囲が拡大、パートタイム労働者雇い入れ時の相談窓口を明示するなどの改正が行われている。 このように非正規雇用の労働者に関する法整備が進む中、非正規社員の正社員化へと踏み切る企業が増え始めている。そこで、非正規社員の正社員化における労務手続に関して、第1回目は非正規社員の現状についてみてみることとする。 1 非正規社員とは 非正規社員とは、法律で明確に定義されているものではなく、一般的には正規の社員や正規の職員以外の者で、「パート」「アルバイト」「労働者派遣事業所の派遣社員」「契約社員」「嘱託」「その他」の期間を定めた雇用契約により働く者を指すことが多い。 2 正規社員・非正規社員の雇用状況 ① 正規・非正規の労働者数推移 総務省の「労働力調査」では、正規の職員・従業員は3,278万人と前年に比べ16万人の減少となっている。その一方、非正規職員・従業員は1,962万人と前年に比べ56万人の増加となっている。 (出所)総務省「労働力調査(詳細集計)」 ② 非正規社員の割合の推移 非正規社員の全体に占める割合は2004年から現在まで緩やかに増加し、2014年には過去最高の37.4%に達している。 (出所)総務省「労働力調査(詳細集計)」 ③ 雇用形態別雇用者数の推移 雇用形態別にみると、専門業務の派遣期間無制限、製造業務への派遣解禁等の派遣法の改正に伴い、派遣労働者数は、2004年の85万人から2007年には133万人と増加を示している。また契約社員・嘱託は、団塊の世代が60歳台入りに合わせて2006年の284万人から2013年には388万人と増加している。 (出所)総務省「労働力調査(詳細集計)」 ④ 不本意非正規の状況 不本意で非正規社員として働いている者の割合は、非正規雇用労働者全体の19.2%となっている。 (出所)総務省「労働力調査(詳細集計)」 改正労働契約法で、有期労働契約を反復更新して通算5年を超えたとき、労働者の申し込みにより期間の定めのない労働契約に転換できるようになった。上記グラフにあるように非正規の労働者数の推移は増加しているが、その非正規労働者を雇用している企業は、改正労働契約法を理解しているのだろうか。 労働政策研究・研修機構の調査では、「改正内容まで知っている」が63.2%、「改正されたことは知っているが内容はよく分からない」が30.4%である。また、無期転換ルールにどのように対応するのかとの問いに「対応方針は未定・分からない」とする企業がもっとも多く、それぞれ38.6%、35.3%であった。 無期転換の申し込みが発生するのが、多くは2018年4月以降と先の話である。しかし、もし有期労働契約を通算で5年を超えないように運用するのであれば、契約更新が期待されるような発言に注意する等して、契約が更新されることを期待させる「期待権」が発生しないように現時点から対策が必要である。また、無期転換契約とするのであれば、無期転換時の業務、責任、労働条件等の労働契約の内容を、企業として検討しておく必要があるであろう。 * * * 次回は改正法の内容と対応状況を確認していく。 (了)
〈まずはこれだけおさえよう〉 民法(債権法)改正と 企業実務への影響 【第2回】 「法定利率」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 (※) 法制審議会にて決定された「民法(債権関係)の改正に関する要綱」10頁より抜粋(下線筆者)。 1 法定利率の改正の理由 現行の民法における法定利率は、年5%とされている(民法404条)。また、現行商法では、商事債権に関する法定利率は、年6%とされている(商法514条) 法定利率は、金銭消費貸借契約において、利率を定めなかった場合や、売買代金の支払が遅れた場合において、遅延損害金の利率を定めておかなかった場合に適用される。この「年5%」や「年6%」という法定利率は、現行民法や商法が制定された明治時代の金利水準に基づき定められたものであり、現在の市場金利水準からいえば、高い金利であるといえる。 このような市場金利の実勢から乖離した高い利率が、債権者に紛争の解決を引き延ばすインセンティブを与えるなどの弊害を引き起こしているとも指摘されている。 また、市場金利はそのときの景気や経済情勢等によって変動するものである。そして、法定利率が適正な水準か否かは、我が国の一般的な経済情勢、とりわけ金融市場における一般的な金利の趨勢との対比で評価すべきとされる。 2 法定利率の見直しと変動利率制の採用 そこで民法改正の要綱では、高すぎる5%の法定利率を変更し、さらに市場金利と連動した変動金利制を採用することとなった。 具体的には次のようになる。 (1) 改正時点での法定利率は3% 要綱では、法定利率を3%とすることとした(上記要綱(2))。これにより改正民法施行時の法定利率は3%ということになる。 (2) 変動金利の計算方法 法定利率は、3年を1期として変更される(上記要綱(3))。変動のスパンとしては、もう少し短期の期間を採用した方が、より市況利率に近づけることができるが、そうすることで社会的混乱を招くことが懸念されたため、3年を1期として変更することとした。 各期の法定利率は、法定利率の変更があった期のうちの直近のもの(当該変更がない場合には、改正法施行時の期)における「基準割合」と、当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる)を直近で利率に変動があった期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。 「基準割合」とは、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から、前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率の合計を、60で除して算出し、(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる)、法務大臣が告示する割合をいう。 以下に、基準割合の上昇局面の図と下降局面の図を掲載する。 なお、この図表は法制審議会民法(債権関係)部会第93回会議部会資料81Bの3頁を参照し、筆者が作成した。 【図表1:基準割合の上昇局面の図】 図表1では、改正法施行時の基準割合が、0.8%とされている。この割合と、当期の基準割合との差を、直近で変動があった法定利率に加算又は減算して、当期の法定利率を算出する。 例えば、この図でいうところの第4期であれば基準割合が1.5%であるから、「1.5%-0.8%=0.7%」が基準割合の差となるが、1%未満の端数は切り捨てるため、第4期の法定利率は「3%-0%=3%」となり、利率に変更はないものとされる。 第7期においては、基準割合が1.8%とされているため、「1.8%-0.8%=1%」となり、法定利率は「3%+1%=4%」となるため、第7期の法定利率は4%となる。 【図表2:基準割合の下降局面の図】 図表2は、基準割合の下降局面の図であるが、考え方としては図表1と同様に考えることができる。 3 その他 利息が発生する債権に適用される法定利率は、最初に発生した利息に適用された法定利率である。債権が消滅するまでに法定利率に変動があった場合でも、影響を受けない。 また、商事法定利率を年6%と定めた商法514条は廃止される。したがって、商事債権についても、上記の変動制の法定利率の規定が適用される。 さらに、交通事故等による損害賠償の場合などに、将来に発生する損害賠償額を、現在の価値に置き換えて計算するために行う、中間利息控除についても規定が設けられることとなった。 4 企業実務への影響 まず法定利率が引き下げられ、変動制となることから、これまでよりも約定利率や遅延損害金をしっかりと取り決める必要が出てくる。そのため既存の契約書の見直しが必要となるであろう。 また、先述した中間利息控除については、判例(最判平成17年6月14日民集59巻5号983頁)が、損害賠償額の算定において中間利息控除をする際には、法定利率を用いなければならないとしていることを踏襲し、中間利息控除を行う場合には損害賠償請求権が生じた時の法定利率によらなければならないとした。 今回の改正により、法定利率は5%から3%に引き下げられるため、控除される金額が縮小することになるから、損害賠償額が現行よりも増加することが考えられる。これにより損害保険の保険料や商品設計についても見直しがされる可能性もあり、注視する必要があるだろう。 (了)
常識としてのビジネス法律 【第22回】 「会社法《平成26年改正対応》(その3)」 弁護士 矢野 千秋 第3 機関設計に関する重点ポイント 1 会社の区別 (1) 大会社、非大会社 会社法は、大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であるか、または、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいう(2条6号)と規定するのみで、すなわち中小会社の区別はなくなった。そこで、本稿では大会社以外の株式会社を「非大会社」という。 そして、大会社はすべて会計監査人を置かなければならない。大会社では会社債権者が多くなる可能性があり、外部の会計の専門家である会計監査人の設置を要求したものである。 〈大会社と非大会社の違い〉 (2) 公開会社、非公開会社(株式譲渡制限会社) 会社法は、公開会社とは、その発行する全部または一部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいうと定義した(2条5号)。したがって、一部の株式でも譲渡制限がかかっていなければ公開会社なのであるから、閉鎖会社とは株式全部に譲渡制限がかかっている会社ということになる。本稿では閉鎖会社と呼ばず、非公開会社という。 そして、公開会社はすべて取締役会を置かなければならない。公開であれば外部株主が多くなる可能性があり、閉鎖的小規模な有限会社的機関設計では無理があるからである。 〈公開会社と非公開会社の違い〉 2 株式会社の機関設計 株式会社の機関設計の規律の柔軟化を図ることとし、次に掲げる原則の下で、各機関(取締役会、監査役・監査役会、会計参与、会計監査人、監査等委員会又は三委員会等(指名委員会、監査委員会、報酬委員会、執行役))を任意に設置することができるものとした。 以上より、株式会社の機関設計は、株主総会プラス以下のいずれかを選択することができる。 ① 取締役会+監査役会+会計監査人 ② 取締役会+監査等委員会+会計監査人 ③ 取締役会+三委員会+会計監査人 ① 取締役会+監査役 ② 取締役会+監査役会 ③ 取締役会+監査役+会計監査人 ④ 取締役会+監査役会+会計監査人 ⑤ 取締役会+監査等委員会+会計監査人 ⑥ 取締役会+三委員会+会計監査人 ① 取締役+監査役+会計監査人 ② 取締役会+監査役+会計監査人 ③ 取締役会+監査役会+会計監査人 ④ 取締役会+監査等委員会+会計監査人 ⑤ 取締役会+三委員会+会計監査人 ① 取締役 ② 取締役+監査役 ③ 取締役会+会計参与 ④ 取締役+監査役+会計監査人 ⑤ 取締役会+監査役 ⑥ 取締役会+監査役会 ⑦ 取締役会+監査役+会計監査人 ⑧ 取締役会+監査役会+会計監査人 ⑨ 取締役会+監査等委員会+会計監査人 ⑩ 取締役会+三委員会+会計監査人 以上に各々(D③を除く)会計参与を付することが可能である。 第4 株主総会に関する重点ポイント 1 開催までの手続 株主総会は、招集権限のあるものが株主を招集して開かれるのが原則であるが、株主の全員が同意している場合は、招集手続を経ることなく開催することができる(300条)。会社法が厳格な招集手続を定めているのは、全株主に決議に参加するための準備の機会を与え、かつ議決権行使の機会を保証しようとしたためであり、株主全員が同意しているのであれば、あえて招集手続を要求する理由がないからである(全員出席総会も同じ)。 また、総会の決議の目的たる事項について取締役または株主から提案があった場合において、当該事項につき議決権を行使することができるすべての株主が、書面または電磁的方法によって当該提案に同意したときは、当該提案を可決する総会の決議があったものとみなすこととした(319条)。また、取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合は、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき、株主全員が書面等による同意をした場合には、当該事項の総会への報告があったものとみなす(320条)。これで定時株主総会を開催せずに、書面による決議および報告で済ますことができる。 取締役(取締役会設置会社においては取締役会の決議)は、株主総会の日時および場所、株主総会の目的である事項、株主総会に出席しない株主が書面(電磁的方法)によって議決権を行使することができることとするときはその旨などを決定して、株主総会を招集する(298条1項、規63条)。 また、株主による株主総会の招集請求権について、会社法は、総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を6ヶ月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができるとしている(297条1項)。6ヶ月という株式保有期間については、非公開会社については適用しない(同条2項)。 さらに、株主が総会招集を請求したにもかかわらず、請求後遅滞なく招集の手続が行われない場合または請求の日から8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集通知が発せられない場合には、裁判所の許可を得て、請求をした株主が株主総会を招集することができる(297条4項)とする。 2 招集通知 株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の2週間(発送日、開催日を除いて正味2週間。書面または電磁的方法による議決権行使を認めない限り、非公開会社にあっては1週間(その会社が非取締役会設置会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない(299条1項・2項)。 その通知には株主総会の日時及び場所、株主総会の目的である事項、株主総会に出席しない株主が書面(電磁的方法)によって議決権を行使することができることとするときはその旨などを記載しなければならない(同条4項)。 3 決議 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる(295条1項)。前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる(同条2項)。 株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主または代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない(310条1項)。 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う(309条1項)。普通決議。役員の選解任には特則あり(341条)。 定款変更、事業譲渡、組織変更などに要求される株主総会の特別決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合まで緩和できる)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることができる(309条2項)。 株式の譲渡制限を設ける定款変更などに要求される株主総会の特殊決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(309条3項)。 株主の人的属性に基づいて権利内容に差を設ける定款変更に要求される株主総会の特殊決議は、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、総株主の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(309条4項)。 4 非取締役会設置会社における株主総会 会社法は、公開会社においては取締役会を設置せねばならないとするが、非公開会社において取締役会を設置しないことも認めている。非公開非取締役会設置会社(有限会社)型の機関設計を採用した株式会社の株主総会について、有限会社の社員総会に準じた規律を適用するものとし、小規模の閉鎖的な会社に適応した機動的な株主総会の開催・運営を可能としている。 ① 株主総会の決議事項 総会の決議事項を「この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項」として、法律・定款に定められた事項に限定せず、株式会社の組織、運営等の一切の事項について株主総会で決議できるものとする(295条1項)。 旧有限会社の社員総会はすべての業務執行を決定できるが、取締役会を設置しない株式会社における株主総会もこれと同様にいかなる事項についても決定できるものとした。 ② 招集通知の発送 書面または電磁的方法による議決権行使を認めない限り、株主総会の招集通知は、会日の1週間前までに発すれば足りるとされているが、取締役会を設置していない場合にはさらにこの期間を定款で短縮することもできる(299条1項)。 ③ 招集通知の書面性 書面または電磁的方法による議決権行使を認めない限り、株主総会の招集通知は、書面または電磁的方法によらないことができる(299条2項・3項)。 ④ 招集通知の記載内容 書面または電磁的方法による議決権行使を認めない限り、株主総会招集通知に会議の目的事項の記載または記録を要しない(298条1項2号、299条4項)。 また、招集通知に会議の目的事項が記載されていても、それ以外の事項について決議をすることが可能である(309条5項)。 ⑤ 議題提案権 各株主は、単独株主権として、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る)を株主総会の目的とすることを請求することができる(303条)。 ⑥ 計算書類等の添付 株主総会の招集通知に、計算書類、事業報告、監査報告および会計監査報告の添付を要しない(437条)。 ⑦ 議決権の不統一行使 議決権の不統一行使およびその理由について、会社に対する事前の通知は不要である(313条2項)。 5 議決権行使書面 書面投票制度は多数の株主が存在する会社において、株主総会に出席できない株主にも書面による議決権行使の機会を与えることを目的とするものであり、株主数が1,000人以上の多数に及ぶ会社であれば、大会社であるか否かには関係がない。 そこで大会社以外の株式会社であっても、議決権を有する株主(取締役会設置会社においては、当該株主総会の目的事項について議決権を有する株主)数が1,000人以上のものについては、書面投票制度が義務づけられた(298条2項)。 書面投票制度を採用することを定めた場合には、取締役は、株主に対し、議決権の行使について参考となるべき事項を記載した書類(株主総会参考書類)(規73条)および株主が議決権を行使するための書面(議決権行使書面)(規66条)を交付しなければならない(301条1項)。 6 議長と議事進行 議事の方法については会社法上別段の定めはなく、定款の規定または慣習によるが、議事運営は通常議長がつかさどる(315条1項)。そして議長は、議事運営の職務権限を有し、総会の秩序を乱す者を退場させることができる(同条2項)。 これを具体的に記載すれば、議長は、 を有している。 (続く)
コーポレートガバナンス・コードのポイントと 企業実務における対応のヒント 【第3回】 「原則主義とコンプライ・オア・エクスプレイン」 あらた監査法人 ディレクター 公認会計士 岡本 晶子 〔法的拘束力のない要求への対応〕 2015年2月24日に東京証券取引所(以下「東証」)から公表された「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」によると、東証の上場制度整備の適用日である2015年6月1日付で、現行の上場会社コーポレート・ガバナンス原則(2004年公表)が廃止され、コーポレートガバナンス・コード(以下「本コード」)に置き換わり、上場規定に制定されている企業行動規範の「遵守すべき事項」として適用される。 上場会社コーポレート・ガバナンス原則は上場企業に対する要請事項を明示し、努力義務を課す「望まれる事項」であるのに対し、本コードは、最低限守るべき事項を明示した「遵守すべき事項」に位置付けられる。上場規則として位置づけられた以上は、規則に違反した場合に何らかの措置の対象となることが考えられるが、本コードに記載されている要求事項そのものは、法令とは異なり、法的拘束力を有するものではない。 本稿においては、法的拘束力を有しない本コードの特徴であるプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)とコンプライ・オア・エクスプレインについて、実務上の留意点を解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。 〔プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)〕 本コードに示されている諸原則等の適用にあたっては、例えば、会社の業種、規模、事業特性、機関設計、会社を取り巻く環境等によって、それぞれの会社が自らの置かれた状況に応じて工夫することが期待されている。 このようにすべての対象に適した具体的かつ画一的な解がない場合に、個別事情に応じて柔軟性を確保しながら一定の方向性を示す手法として、会社が取るべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)が採用された。 「プリンシプルベース・アプローチ」は、2014年2月に制定された機関投資家が受託者責任を果たすための原則(スチュワードシップ・コード)において既に採用されている。一見、抽象的で大掴みな原則について、関係者がその趣旨や精神を確認し、互いに共有した上で、自らの活動が形式的な文言や記載ではなく、その趣旨や精神に照らして真に適切か否かを各々が判断することになる。 このため、本コードで使用されている用語についても、法令のように厳格な定義を置くのではなく、まずは株主等のステークホルダーに対する説明責任等を負うそれぞれの会社が、本コードの趣旨や精神に照らして、適切に解釈することが想定されている。 例えば原則5-2「経営戦略や経営計画の策定・公表」では、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきであるとあるが、単にROEの数値目標を設定して説明するのではなく、ROEを売上高利益率、資本回転率、レバレッジ等に分解し、各社の状況に応じて事業活動を通じて達成すべき目標値として設定し説明することが求められる。 〔コンプライ・オア・エクスプレイン〕 (原則を実施するか、実施しない場合はその理由を説明する) 冒頭に述べたとおり、本コードは法令とは異なり法的拘束力を有する規範ではないため、その実施にあたっては、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法が採用されている。すなわち、本コードの各原則(基本原則・原則・補充原則)の中に、自らの個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことが想定されている。 この「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法は、我が国ではいまだ馴染みの薄い手法であるが、欧州等諸外国においては、20年近い適用実績がある。 本コードの適用にあたって、対象となる会社は、すべての原則を一律に実施することを求められているわけではないという点に、特に留意が必要である。このことは、会社側のみならず、株主等のステークホルダー側においても、当該手法の趣旨を理解して会社の個別の状況を十分に尊重することが求められる。 例えば、その一部を実施していないことのみをもって、実効的なコーポレート・ガバナンスが実現されていないと機械的にマイナス評価することは適切ではない。一方、会社としては、当然のことながら、「実施しない理由」の説明を行う際には、実施しないことに対して株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるように説明を工夫すべきであり、「ひな型」的な表現により表層的な説明に終始することは「コンプライ・オア・エクスプレイン」の趣旨に反することになる。 英国の財務報告評議会の資料では、実施しない場合の有用な説明に必要な3つの要素として、 が求められると記載されている。 例えば、原則4-8で求められている独立社外取締役について、ある独立の要件を満たさない取締役が、過去の貢献実績から判断して独立社外取締役としての機能を十分果たし得ると説明しているケースや、グループが承継する伝統や事業運営の状況等を考慮すると、独立社外取締役の人数がコードの人数要件を満たしていなくとも十分に機能していると説明することも考えられる。 英国のコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会の議長を除く構成員の少なくとも半数が独立非業務執行取締役であることが求められている。これに対して、ある英国企業は次のような説明(エクスプレイン)をしている。 (英DMGT社2014年9月期年次報告書より抜粋) 同社の取締役会の構成は、14名(議長除く)であり、このうち6名が独立非業務執行取締役(外国籍の取締役3名を含む)であることから、過半数(7名)を満たしていないが、非業務執行取締役ではあるが、独立性の要件を満たしていない取締役が3名存在するため、取締役会全体として一定の客観的な判断ができる体制にあると説明している。なお、この会社は、FTSE350構成銘柄ではない、すなわち時価総額ベースで英国では比較的中小規模の上場会社に該当することにも留意が必要である。 諸外国のコーポレートガバナンス・コードに対するコンプライ・オア・エクスプレインの事例は、コードそのものの要求事項が異なるため単純に日本の上場会社の開示との比較はできないが、説明(エクスプレイン)の詳細さの度合いや、実施しない根拠等については何らかの参考になるかもしれない。 (なお、引用部分として掲載されている和訳については仮訳であり、正確な開示については原文を参照のこと。) (了)
此の国にも『日本企業』! 【第4回】 「《バングラデシュ》 友好的買収により命脈をつないだ ~グラミンユーグレナ~」 中小企業診断士 西田 純 今回は、バングラデシュで緑豆栽培を行っているグラミンユーグレナを取り上げます。 よくニュースに接している読者の中からは、そんな声が聞こえてきそうですね。 〈バングラデシュで緑豆を―グラミン財団との合弁〉 もともとこの会社は「グラミン雪国まいたけ」という名前でした。(株)雪国まいたけがバングラデシュの大手NGOであるグラミン財団と九州大学との合弁により、2010年に始めたモヤシの原料となる緑豆栽培を行うための合弁会社です。 合弁会社が現地の農民に対して栽培方法の指導を行うとともに栽培された豆を買い取り、現地での販売と日本への輸出を行う傍ら、グラミングループが地域において小規模融資のネットワークを構築するとともに関連会社を通じた地域の問題解決や医療の提供を行うという、全体的には非常に社会性の高いプロジェクト設計がなされていました。 当時からの責任者でもある(株)ユーグレナの佐竹右行さんに伺ったところでは「日本で売られているモヤシの原料となる緑豆は、その90%以上が中国から輸入されている。この価格が4倍以上に高騰したこともあり、リスク回避のため供給源を多極化する目的で始めた新規事業でした。」というお話でした。 バングラデシュを選んだのは決して数多くの国から選んだわけではないが、結果的にはカレーの材料として豆の栽培が広く行われていた国であったこと、グラミン財団のようなパートナーに巡り合えたことなどでこの地で事業を展開することにつながりました、と佐竹さんは語ってくれました。 (株)雪国まいたけとしては、海外投資のリスクを軽減する目的もあり、JETROやJICAが提供する各種公的資金による支援制度を活用し、パートナーとしてもノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏が率いるグラミン財団と手を組むことができ、2012年10月にはバングラデシュで生産した緑豆を、モヤシの原料として初めて輸入するなど、事業自体は順調に進んでいたということです。 〈突然の事業継続の危機、そして事業譲渡〉 ところが、(株)雪国まいたけ本体では同年に発生した不祥事を巡って2013年~2014年にかけて当時の経営陣が相次いで退任、とうとう金融機関の管理下に置かれる立場となり、グラミン財団の合弁パートナーとしての事業継続が困難になってしまいます。 「グラミン・雪国まいたけ」は、バングラデシュでのビジネスが順調に推移していたこともあり、当時バングラデシュで「ユーグレナGENKIプログラム」という児童の栄養改善プログラムを実施していた(株)ユーグレナに新たな事業提携先として働きかけました。また、ユーグレナ社がプロジェクトの持つ高い社会性について理解があり、グラミン財団のパートナーとしてもふさわしい会社であったこと、困難な経営状況にあった(株)雪国まいたけとしても株式売却によるキャッシュ獲得などのメリットがあったことなどの条件が揃い、(株)雪国まいたけが保有していた「グラミン雪国まいたけ」の全株式はユーグレナ社に譲渡され、新たにグラミンユーグレナとして引き続き現地で緑豆の栽培を継続することができたということです。 〈チャイナリスクから日本のモヤシビジネスを守るために〉 佐竹さんに伺ったところでは、日本のモヤシビジネスが原料とする緑豆の栽培と輸入については、今日でも依然として中国のシェアが大きいのだそうです。しかしながらリスク回避のために調達先を多極化するという努力は当然なされるべきものだと思いますし、その中で親会社が直面した困難な状況の中で、結果的に株式の譲渡がなされ、事業の継続性が担保されたことは、本プロジェクトに関わる方々にとっても幸いであったろうと思います。 ぜひ将来にわたってバングラデシュでの緑豆栽培事業が成功するようにと、そんな気にさせられた事例でした。 (了)