企業における 『マイナンバー導入プロジェクト』の 始め方&進め方 【第3回】 (最終回) 「プロジェクト発足後、具体的にどうやって進めるか」 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 本連載では【第1回】において、プロジェクトへの参画が必要と考えられる部署を探り、プロジェクト化に当たっての企業内の‘旗振り役’となる存在の重要性について問いかけを行った。さらに【第2回】では、第1回で取り上げた影響のある部署の役割等について詳しく検証した。 本連載の最終回となる本稿では、「プロジェクト発足後、具体的にどうやって進めるか」と題して、企業全体でプロジェクトをどのように進めていくのかについて解説をし、本連載のまとめを行いたい。 1 プロジェクトの全体イメージ 【第1回】、【第2回】を参考にプロジェクト化を進めていただくと、おおむね次のような構成になっていくものと思われる。 〈マイナンバー導入プロジェクト体制(案)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 対応を進めていくにあたっては、自社だけでは解決できない、あるいは自信をもてないさまざまな問題点やスケジュール上の課題に直面する可能性がある。 そこで場合によっては、内部統制の構築や整備を専門とする公認会計士や、情報保護や個人情報保護法を専門とする弁護士等にアドバイザーになってもらうと安心である。 その他、最近では徐々に、番号法対応に向けたさまざまなサービスも提供されつつあるようである。具体的には、①個人番号をクラウドで管理し、本人確認もクラウド上で行うクラウドサービス、②既存の人事給与ソフトは改修せず、外付けで個人番号を管理する専用のパッケージソフトなどである。 このように、全体的な対応をどのように図っていくかを考えるうえで、外部の力を借りるのも一案である。 2 プロジェクトの進め方 プロジェクトが発足してからは、おおむね次の事項を検討する必要がある。 上記(1)から(3)について、以下詳しく述べることとする。 (1) スケジュール、ロードマップについて 対応期限から逆算して、全体的にどのようなスケジュール感で、どのようなロードマップ(工程)によって対応を進めていくかを可視化する必要がある。そのためには、 の特定・抽出が必要となる。 例えば前者の例示としては、 などである。 (※1) 安全管理措置とは、マイナンバーや特定個人情報を適切に管理するための方法や手段を意味し、それらの漏えい、滅失又は毀損の防止などのための具体的な措置をいう。具体的な内容はガイドラインやQ&Aを参照のこと。 次に、後者の例示としては、 などである。 ポイントとしては、マイナンバーの取扱いの流れとしては、およそ「取得」、「安全管理措置」、「保管」、「社内利用」、「社外提供」、「廃棄」という手順を経ることから、この手順の段階ごとに留意すべき事項はないか、プロジェクトでブレインストーミングを行うことであると思われる。 なお、例示として列挙した事項についてはあくまでも一例であることに留意されたい。 このように、各企業によって対応すべき事柄に細かな違いがあることから、当然対応に必要な業務量も異なることになる。そこで、対応を進めていくうえでのスケジュールやロードマップ(工程)を策定するうえでは、「自社で対応すべき事項や課題・論点の列挙」が重要となる。 そこで、プロジェクトがまずなすべきことは、 である。 次に、その結果、棚卸しされた対応事項について、対応スケジュールやロードマップ(工程)として落とし込んでいくことが必要となる。 上述のように対応スケジュールやロードマップ(工程)は各社で異なるが、読者への参考として、ポイントとなる期限と「業務」「情報システム」別に、対応すべき事項の概要をまとめた「全体スケジュール(例示)」を以下に示す。 〈全体スケジュール(例示)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 なお、読者のなかで上場企業に在籍あるいは関与されている方も念頭に置いて、内部統制評価報告制度上の対応事項についても「内部統制評価」として列記しておいた。ご参考にされたい。 (2) 役割分担、職務分掌について (1)で述べたとおり、対応スケジュールやロードマップ(工程)の策定にあたっては、各部署、各担当など実務者レベルへの落とし込みが必要である。 各部の役割については【第2回】で詳しく解説したため、こちらを念頭に、各部の役割分担や職務分掌を考えていきたい。 (3) アウトソーシング・外部委託の要否について 番号法の特徴の一つに、個人番号関係事務の一部(※2)を委託することができる(※3)点が挙げられる。そこで、費用対効果の観点から、番号法施行(※4)後の事務の一部をアウトソーシング・外部委託するか否かは、対応を進めるにあたって事前に検討しておく必要がある。 (※2) 例えば、従業員本人からの番号の入手、本人確認、源泉徴収票の作成・行政機関への提出を含め、給与関係事務をアウトソーシングすることなどが考えられる。 (※3) ただし、その前提として、委託先等において、本来委託元が果たすべき安全管理措置と同水準の措置を図られることが必要である。 (※4) 平成28年1月になるといわれているが、最新の情報(本稿公開時点)では番号法は段階的に施行され重要な一部の条文は平成27年10月に施行される予定となっている。 また、番号法施行前の準備段階において、準備にかかる業務の一部をアウトソーシング・外部委託することも、業務量や自社のマンパワーとの兼ね合いで考えたい。 例えば、冒頭に述べたようにプロジェクトのアドバイザーとして公認会計士や弁護士を活用することや、(その安全性が十分に検証されてからであるが)個人番号の管理そのものをクラウドで管理すべくクラウドサービスの利用を検討することも一考である。 なお、プロジェクトの全体管理を外部に委託するという声も聞かれるが、プロジェクトの全体管理はやはり自社で行うべきであると筆者は考える。 3 本連載のまとめ 本連載は、「企業における『マイナンバー導入プロジェクト』の始め方&進め方について」と題して、マイナンバー対応を対応期限から逆算して確実に、かつ、円滑に進めていくうえで必要となるプロジェクト、プロジェクトを構成する各部署のメンバーの役割、そして、全体的なスケジュール・ロードマップ、並びに進め方の全体像について、筆者の理解に基づいてできるだけ噛み砕いた説明を試みた。 今後対応を図っていく企業にとって多少なりとも参考になれば幸甚である。 (連載了)
《速報解説》 東証より「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う 上場制度の整備について」(公開草案)が公表 ~“Comply or Explain”の実行を求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年2月24日、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 「『日本再興戦略』改訂2014」は、コーポレートガバナンス・コードについて、上場規則により、上場企業に対して“Comply or Explain”(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか)を求めている。今回の公開草案はそのための整備を図るものである。 平成26年12月17日に、「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」が公表されており、本年の6月1日から適用される予定である。 また、今回、独立社外取締役の円滑な選任に資するため、独立性に関する情報開示についての見直しも行っている。 意見募集期間は、平成27年3月26日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 コーポレートガバナンス・コード関係の整備 2 独立役員の独立性に関する情報開示の見直し Ⅲ 適用時期等 平成27年6月1日を目途に実施する予定である。 (了)
《速報解説》 「財産債務調書」に係る規定は国外送金等調書法へ組み込み ~過少申告加算税等の5%加減算措置等は「国外財産調書」の規定を準用~ (平成27年度税制改正法案) 税理士 佐藤 善恵 はじめに 平成27年度税制改正大綱は、平成28年1月1日から納税環境整備の一環として「財産債務明細書」を「財産債務調書」に名称変更するとともに提出義務者の範囲を狭めることとした(※)。また財産債務調書の提出にインセンティブを与えるため、国外財産調書と同様に所得税又は相続税に係る過少申告加算税等を5%加重又は軽減させる特別措置を講ずるとしていた。 2月18日、税制改正法案「所得税法等の一部を改正する法律案」が公表され、「財産債務調書」関係の規定は「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」(以下「国外送金等調書法」)へ組み込まれて過少申告加算税等の特別措置は、国外財産調書の規定が準用されることが明らかとなった。 以下、法案ベースで過少申告加算税及び無申告加算税(以下「過少申告加算税等」)の加減算措置について解説する。 1 過少申告加算税等の軽減 所得税又は相続税の申告漏れがあり過少申告加算税等が課されるときに、その申告漏れの対象となった財産を記載した財産債務調書を提出期間内に提出していた場合には、過少申告加算税等の税率が5%軽減される(国外送金等調書法6条1項の準用(同法6条の3第1項))。 2 過少申告加算税等の加重 所得税の申告漏れがあり過少申告加算税等が課されるときに、財産債務調書を提出すべき者であるにもかかわらず提出期限内に提出していなかった場合や、その修正申告等の基因となる財産債務の記載がなかった場合(記載不十分も含む)には、過少申告加算税等の税率が5%加重される。 なお、この加重措置は、相続税及び死亡した者の所得税等には適用されない(国外送金等調書法6条2項の準用(同法6条の3第2項))。 3 期限後の調書提出に軽減措置が適用されるケース 財産債務調書が期限後に提出される状況で修正申告等をする場合に、その財産債務調書の提出が、所得税又は相続税の調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知してされた提出でないときは、その財産債務調書は提出期限内に提出されたものとみなされて、過少申告加算税等の特例が適用される(国外送金等調書法6条4項の準用(同法6条の3第3項))。 したがって、例えば、不動産所得の基因となる財産を財産債務調書に記載して提出すべきであった者がその調書を期限内に提出しておらず、かつ、当該所得に関して期限内申告書も提出していなかったケースでは、その者が自主的に財産債務調書及び期限後申告書を提出すれば、無申告加算税については国税通則法上の5%(同法66条5項)から国外送金等調書法上の軽減措置5%が控除されて、結果的に0%となる(国外送金等調書法6条1項及び4項の準用(同法6条の3第3項))。 (了)
2016年1月のマイナンバー制度運用開始まで1年を切りました。 本年10月には国民全員にそれぞれの個人番号(マイナンバー)の通知が開始され、企業・団体は従業員のマイナンバーの収集が必要となります。 民間企業にとって、マイナンバー制度の下では、税と社会保険の関係で行政機関等に提出する書類の多くに個人番号・法人番号を記載しなければなりませんので、業務フローやITシステムの変更が必ず必要になります。 本セミナーでは、マイナンバーに関する最新の市販書籍 『企業・団体のための マイナンバー制度への実務対応』 (清文社より3月上旬発刊)の執筆者、弁護士 影島広泰氏が、マイナンバー制度や法律の規制の概要から本人確認・情報管理の実務対応まで、実務を構築するための必須の事項を具体的に解説します。 ★セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
《速報解説》 「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」(公開草案)が公表 ~不正事案発生リスクへの対応を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年2月13日(掲載日)、日本公認会計士協会は、監査・保証実務委員会実務指針「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 工事契約については、「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)が適用されているが、その適用に当たっては、会計上の見積りの要素が大きく、工事進行基準の適用に関連する不正事案が散見されるとのことである。 監査・保証実務委員会実務指針ではあるが、工事進行基準の適用に関する具体的な問題が述べられているので、事業会社においても参考になるものと思われる。 意見募集期間は、平成27年3月13日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 重要な虚偽表示リスク 重要な虚偽表示リスクには、会計上の見積りの判断を誤ることによる誤謬だけでなく、意図的に工事原価総額の見積りを調整することや関連のない他の工事契約との間で工事原価の付替えを行うことによる決算日における工事進捗度の調整を通じた工事収益の操作などの不正によるものも含まれる(公開草案5項)。 2 リスク評価手続関係 工事進行基準に関する会計上の見積りの不確実性について、工事契約の変更が行われた場合でも、その変更金額が工事契約の変更の都度決まらないときがあることや、各工事契約に対する監視活動について、労務安全管理又は工程管理が重視されており、原価管理について実施されていても工事進行基準の適用の妥当性という観点からの監視活動が必ずしも十分に実施されていない可能性があることなどが述べられている(公開草案8項)。 このように重要な虚偽表示リスクが具体的に述べられているので、事業会社においても、参考になるものと思われる。 3 不正事例 次の不正事例が想定されると述べている(公開草案10項)。 4 関連のない他の工事契約に係る認識の単位との間の工事原価の振替及び付替えの防止に関する業務プロセス 原価の付替えを含む工事原価の振替について理解する業務プロセスとして、次の事項が例示されている(公開草案44項)。 これらの記載についても、事業会社においては、参考になるものと思われる。 Ⅲ 適用時期等 平成27年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用することが予定されている。 「建設業における工事進行基準の適用に係る監査上の留意事項」(業種別委員会報告第27号)については、本指針の確定による廃止を検討している。 (了)
2015年2月19日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.107 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
日本の企業税制 【第16回】 「BEPSの進捗状況と行動計画13(移転価格の文書化)」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに OECD 租税委員会においてOECD加盟国に加え、OECD非加盟のG20メンバー8ヶ国(中国、インド、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ)が参加するBEPS (Base Erosion and Profit Shifting=税源浸食と利益移転)プロジェクトは、本年末までの終結を目指し佳境に入っている。 BEPSプロジェクトが完結すれば、租税条約、移転価格税制、外国子会社合算課税など国際租税のスキーム全体が大きく変貌することとなり、それらは直ちにわが国の国際租税制度の改正を迫るものとなる。 そこで、この場を借りてBEPSプロジェクトの動向を逐次お知らせしていくこととしたい。 まず今回は、BEPSプロジェクトがどこまで進んだのかの概況及び、本年2月のガイダンスの公表によって終結を迎えた行動13(移転価格の文書化)の要点を紹介することとしたい。 2 BEPSプロジェクトの進捗状況 2012 年6月より開始されたBEPSプロジェクトは15の行動計画に基づき、ほぼ予定のスケジュールどおりに、報告書、勧告、ガイダンスなどの取りまとめが進んでおり、昨年末までにおよそ過半の作業を終えている。 それぞれの成果物は国際租税の新たなルールとして、順次、G20の首脳会議、蔵相会議等に報告され、その全面的な支持を得ている。 3 行動13の終結-移転価格の文書化と国別報告書に関するガイダンス 移転価格の文書化は、多国籍企業に対し、経済活動の実態、グローバルな所得の配分、進出先国で支払われた税等の情報を共通のフォーマットで関係するすべての国の政府に提供することを求めるものである。 具体的には、多国籍企業(親会社)に対し、新たにマスター・ファイル(多国籍企業グループ全体に共通する基本情報)、ローカル・ファイル(各国に所在する企業が行うグループ関連者との取引に係る情報)、国別報告書(Country-by-Country Reporting、国別の経済活動に関する情報)の作成を義務付けるものであり、2014年9月に公表された報告書において文書化の内容等が合意されていたが、国別報告書の提出方法について、親会社が作成した国別報告書を進出先国にある現地法人を通じて各国の税務当局に提出すべきとする主として途上国側の主張と、親会社が所在地国の税務当局のみに提出し、その情報を必要とする国の課税当局が情報交換協定を通じて所在地国の税務当局から入手すべきとする日本等先進国側の主張が対立し、さらに検討が続けられていた。 OECD租税委員会が本年2月2日に公表した「移転価格の文書化及び国別報告書に関するガイダンス」では、国別報告書についての合意事項として以下の点を定めている。 また、ガイダンスでは、このほかに、実施パッケージの策定、各国の実施状況に関するモニタリング、紛争解決手続の必要性等を定めている。 4 おわりに このガイダンスを受けて、わが国では平成28年度税制改正により国内法制が整備され、直ちに実施されることになるものと思われる。 対象となる企業グループはわが国では1,000社程度と予測されており、中堅企業であっても対象となる可能性が高い。 なお、わが国との間で租税条約あるいは情報交換協定を締結している国は2014年末現在で66ヶ国であり、先進国のほか、中国、インド、ブラジル等の主要国を網羅している。 また、移転価格に関するBEPSプロジェクトは、いよいよ実態面(行動8~10)に進んでおり、3月19、20日には各公開討議草案に基づくOECD 租税委員会のコンサルテーション(公開公聴会)が開催されるなど、9月予定の移転価格ガイドライン改定に向け、本年前半がヤマ場となるので、逐次、この場で解説していくこととしたい。 (了)
[平成27年3月期] 決算・申告にあたっての留意点 【第3回】 「所得拡大促進税制の適用要件緩和・研究開発税制の拡充」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成26年度税制改正における改正事項を中心として、平成27年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。第2回は、「生産性向上設備投資促進税制」と、「中小企業投資促進税制の上乗せ措置」について解説した。 第3回は、「所得拡大促進税制の適用要件緩和」と「研究開発税制の拡充」について、平成27年3月期決算において留意すべき点を解説する。 1 所得拡大促進税制の適用要件緩和 ▷税制概要と要件緩和ポイント 青色申告書を提出している法人が、給与等支給額を一定以上増加させた場合に、その増加額の10%の税額控除を受けることができる。その具体的な要件は次のとおり。 (※) 基準事業年度とは、平成25年4月1日以後に開始する事業年度のうち最も古い事業年度の、直前の事業年度のこと。3月決算法人であれば平成25年3月期のこと。 【要件緩和ポイント①】 給与等支給額が基準事業年度と比較して何%以上増加している必要があるか、という増加率の要件が引き下げられた(平成27年度税制改正大綱において、さらなる引下げが予定されている)。 【要件緩和ポイント②】 平均給与等支給額とは、適用しようとする年度の給与等支給額を、支給者数で除して算定した平均値のこと。 この計算の対象となる支給者の範囲が、平成26年度改正により、適用年度及びその前事業年度において給与等の支給を受けている「継続雇用者」のみとされた。つまり、適用年度から入社した新入社員や、その前事業年度に退職した退職者などは、平均給与等支給額の算定対象から外れることになった。 給与水準の低い新入社員が適用年度から入社した場合や、給与水準の高い従業員が前事業年度に退職している場合に、これを算定対象とすると、適用年度の平均給与等支給額は前事業年度より低くなりやすい。したがって、この改正により要件は緩和されたといえる。 ▷平成27年3月期の留意点 上記の要件緩和は、平成26年4月1日以後に終了する事業年度から適用される。したがって、3月決算法人においては平成27年3月期決算から適用されることになる。 ただし、平成26年3月期にも遡及して適用されることになっている。したがって、平成26年3月期においては緩和前の要件を満たさなかったので適用できなかったが、今回の緩和後の要件であれば満たしていたという場合には、平成27年3月期に上乗せして税額控除をすることができる。 具体的には、次のような場合である。 給与等支給額の増加割合が5%には満たないが、2%であれば満たしていた場合 適用年度の新入社員や前年度の退職者の影響により、平均給与等支給額が前事業年度を下回ってしまっていたが、その影響を除いて計算し直せば下回っていない場合 2 研究開発税制の拡充 ▷税制概要と拡充ポイント 青色申告書を提出している法人において試験研究費がある場合に、その金額の一定割合について税額控除が認められるというものである。 具体的には、一口に試験研究税制といっても、次のとおりにいくつかの税額控除のパターンが存在する。 ① 総額型 (※) 中小企業者とは、資本金又は出資金が1億円以下の法人のこと。ただし、次の法人を除く。 ▷同一の大規模法人による持株(出資)割合が2分の1以上である法人 ▷2以上の大規模法人による合計の持株(出資)割合が3分の2以上である法人 また、資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人も中小企業者に該当する。 ② 増加型 ③ 高水準型 【拡充ポイント】 平成26年度改正により、増加型における控除率が引き上げられている。ただし、当事業年度の試験研究費が、「過去3事業年度の試験研究費の平均」と比較して5%を超えて増加していることが要求されることとなった。 ▷平成27年3月期の留意点 上記の拡充は、平成26年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。したがって、3月決算法人においては平成27年3月期決算から適用されることになる。適用条件や控除率について、改正前のものと間違えることのないよう、注意する必要がある。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第4回】 「無道路地の評価」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 [1] 重要裁決事例 例えば、平成22年5月19日裁決〔TAINS・F0-3-261〕においては、相続開始日における現況では宅地開発を行うことは事実上困難な土地であることから、国税不服審判所が依頼した不動産鑑定評価額8,020,000円が時価として採用されている。 評価対象となった土地(畑)は、周囲を農地に囲まれた無道路地であり、路線価の付された幅員4.6mの道路の南方約250mから300mに位置している。 また、財産評価基本通達に基づく評価額は17,546,016円である。 裁決は、以下の理由から、不動産鑑定評価を依頼し、本件土地の評価額を算定している。 [2] 法定外道路に接面する場合の道路拡幅地積の算定 評価対象地が、道路法又は建築基準法に規定する道路ではない法定外道路(専用通路。建物を建築する上での接道義務を満たしておらず、建物の建築をする場合には、条例が定める幅員(例えば、東京都の場合、敷地の路地状部分の長さが20m以下のもので幅員2m、20mを超えるもので幅員3m)を必要とする)に接している場合がある。 この場合の道路拡幅地積を求めるうえでの幅員については、接面する法定外道路が評価対象地の評価に何ら影響を及ぼすものではないことから、想定通路の地積に法定外道路の幅員は含めず、接道義務に定める幅員となることに留意する必要がある。 平成17年10月28日裁決(TAINS・F0-3-136)においては、上図のような土地に建物を建築しようとする場合には、法定外道路の払下げを受け自己所有地とした後、幅員2m以上の通路を開設し、公道に直接接するようにしなければならないというのであるから、法定外道路の存在は、本件土地の評価に何ら影響を及ぼすものではなく、道路拡幅地積を24㎡(12m×2m)無道路地として評価すべきと判断されている。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第20回】 「旧商法時代の子会社株式消却による払戻金②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回においては、旧商法時代の子会社株式消却について争われた事件の概要を解説した。争点については3つ存在するが、【争点1】については形式的な議論であり、【争点3】については時価について争われており、組織再編成・資本等取引における税制の仕組みを理解するという意味では、やや毛色の異なる論点であると考えられる。 そのため、本稿においては、【争点2】についての原告、被告の主張、裁判所の判断についてそれぞれ解説を行う。 (5) 当事者の主張 ① 被告の主張 本件各時価純資産額のうち本件消却株式に係る部分の金額は、合計で715億4,510万6,241円であるところ、原告は、本件株式消却によって株主としての権利を喪失し、上記金額に相当する経済的な利益を失ったこととなる。 原告は、一旦、本件各子会社のうち30社に対して出資という形で金員を払い込み、本件各子会社株式の価値を高めておきながら、その直後に、自らの意思に基づく当初の計画に従って、本件各子会社株式に係る権利を強制消却によって失っているのであって、本件事業再編を全体としてみれば、原告が本件各子会社に対して現金を贈与としたのと経済的に同じであるとさえいうことができる。 原告が本件株式消却を伴う減資によって本件各子会社に経済的な利益を移転させたことについて、法人税基本通達9-4-1及び9-4-2に定めるような本件各子会社の倒産を防止するためにやむを得ず行ったといった事情は認められない。 原告が、本件消却株式の客観的な時価に見合った対価を受領しなかったことが、旧商法の払戻限度額に関する規制を遵守するものであったとしても、これによりその贈与的な性格が否定されるものではなく、本件各子会社に無償で経済的な利益を供与したことについては、「通常の経済取引として是認できる合理的な理由が存在しない」(合理性要件)というべきである。 ② 原告の主張 課税が私法上の法律関係に従ってされなければならないという租税法の解釈適用の大原則にも照らせば、私法上対価を受け取る法的地位にないことは、寄附金該当性の判断においても考慮されるべきであって、対価を受け取る法的地位にない場合のその対価は、対価要件を欠くものとして、実質的に贈与をしたと認められる金額には該当しないというべきである。 (6) 裁判所の判断 原告は、本件株式消却によって本件消却株式の株主としての地位を失い、本件消却株式の時価に相当する経済的な利益を失うとともに、払戻しをした本件各子会社から、本件消却株式の時価よりも低い額の本件払戻額の払戻しを受けたにとどまるから、このような本件株式消却を伴う減資の手続を通じ、原告から払戻しをした本件各子会社に対しては本件消却株式の時価と本件払戻額の差額(一部の金額を除く)に相当する経済的な利益が、原告から払戻しをしなかった本件各子会社に対しては本件消却株式の時価に相当する経済的な利益(同じく一部の金額を除く)が、それぞれ対価なく移転されたものということができる。 原告が営利を目的とする法人であること、事業の再編の手続として本件において採用されたもの以外のものを選択することが妨げられていたと見るべき格別の証拠ないし事情は見当たらないこと、本件株式消却を伴う減資は直接には本件各子会社の本件合併による消滅までの間のいわゆる税金対策を主たる目的とするものであること等からすれば、原告の主張するような事情のほか、原告と本件各子会社とが法人税法上の連結納税に係る関係にあることをもっても、上記のような経済的な利益の対価のない移転を内容とする手続を執ることが原告にとっての通常の経済取引として是認することができる合理的な理由に当たると直ちに解することは困難というべきであるし、他に本件においてこのような合理的な理由が存在したことをうかがわせる証拠ないし事情は見当たらない。 本件において、原告が本件払戻超過額の払戻しを受け得る法的地位になかったことは、本件払戻限度超過額が寄附金に該当することを直ちに否定する根拠となるものとはいえないというべきである (7) 評釈 このように、本事件においては、被告側の主張を全面的に認め、寄附金として損金の額に算入すべきでないと判示した。 本事件における概要は、新聞報道により事前に報道されていたため、おおむね予想通りの判決になったというのが率直な印象である。 時価以外の値段で株式消却を行うということについては、税理士の共通認識として否認リスクが高いということは従来からも言われており(*1)、また、本事件のうち、無償消却を行った部分については、被告の主張にもあるように、増資を行った後に無償消却を行っているが、増資後の有価証券評価損を否定した法人税基本通達9-1-12の趣旨に反することから、寄附金として処理されてしまう基本的な考え方については、控訴審、上告審においても否定すべきではないと考えられる。 (*1) 佐藤信祐(2009)『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』中央経済社34頁 なお、自己株式の消却とは逆のパターンであるが、時価と異なる取引価額により第三者割当増資を行ったことにより否認を受けた事例として、「オーブンシャ・ホールディングス事件(最高裁平成18年1月24日判決)」「相互タクシー事件(最高裁平成14年10月15日判決)」「日本スリーエス事件(東京高裁平成13年7月5日判決)」がある。 次回以降においては、主要な裁決例についていくつか取り上げる予定である。 (了)