基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第1回】 「「統合報告」とは何だろうか?」 公認会計士 若松 弘之 1 はじめに みなさんがある企業の株式を購入しようか迷っているとして、どのような開示情報を見て判断するでしょうか? その答えを出すために以下の会話を参考にしてみましょう。 さて、みなさんは3人のうち誰の考えに近いでしょうか。 どの考えにも一理あり、企業価値の成長分析に関していえば、絶対的に正しい見方はないというのが答えになるでしょう。 でも、それでは話が進みません。もし、私が将来にわたる企業価値の分析をするならば「企業の様々な開示情報を多角的な視点で分析し、重要なリスクがないことを確認する」ことを意識します。 では、様々な開示情報としてはどのようなものが挙げられるでしょうか。 以下は、比較的規模の大きな上場企業がIR情報(Investor Relations:投資家情報)としてウェブ上で開示している情報の一例です。 いかがでしょうか。これらを全て合わせると、数百ページにも及ぶ資料になります。その企業を専門に分析する人はともかくとして、一般投資家がこれだけの開示資料に一通り目を通すのは不可能といえるではないでしょうか。しかも、3ヶ月(四半期)単位で更新される資料も多く、不定期に公表されるプレスリリースも含めて、その企業の最新動向や将来見込みを常に追いかけていくのは正直、一般投資家にとっては負担が大きすぎます。 また、企業のIR部門や経理・財務部門の担当者にとっても、「投資家や株主が、どのくらい判断材料にしているかは分からないが、制度規制や他社横並びの状況もあり、事務負担も大きいが開示しなければならない」という本音もあるようです。 私は上場企業を中心に会計監査を長年経験し、有価証券報告書のチェックも数多くこなしてきました。IFRSへのコンバージェンスの流れの中で年々、会計基準の複雑化や注記情報の拡充が行われ、10年ほど前は100ページに満たない有価証券報告書は、いまや200ページを超えるものも珍しくない状況になっています。正直にいうと私も、金融商品や退職給付関連の高度で複雑な注記を正確に理解して財務分析に活かせる人は何%くらいいるのだろうかと考えながら業務に臨んでいました。 また、企業価値の分析において、金額や数字に表すことができる財務情報がどの程度有効で説明可能なものかを研究した資料(出所:IIRCウェブサイト)によれば、40年前は財務情報が80%を超える説明力を持っていたが、最近では20%未満に低下しているともいわれています。それだけ、金額や数字で表すことができない「非財務情報」と企業価値の関連性が高まっているといえるようです。確かに、自社で長年培ってきたブランドや信頼・安全性などの無形価値は、現在の会計基準ではバランスシートのどこにも表れていません。人財活用に優れ、優秀な人財を育成・輩出している企業においても会計処理されるのは人件費であり、他社と明確な違いは出せません。 それではこのような「開示情報の氾濫」と「非財務情報の有用性」を踏まえて、投資家や企業を取り巻く利害関係者にとって、何か有用な突破口はないのでしょうか。 その一つの解を示すものが「統合報告」に他なりません。 以下、この「統合報告」の概要とその背景について説明していきます。 2 「統合報告」の概要と背景 統合報告とは、企業の「財務情報」と「非財務情報」を分かりやすく関連付けることによって、長期にわたる企業価値の創造能力と企業戦略のつながりを明らかにする取組みです。統合報告は、現在、日本企業も含めて世界中の多くの企業で先進的な試行が行われており、今後、企業のIR活動の主流となるものとして期待されています。 統合報告は、イギリスに本拠地がある国際統合報告協議会(以下、「IIRC」という)によって、その制度趣旨の提言、フレームワークや各種枠組みの開発などが行われています。 これまで企業による利害関係者への情報提供としては、一定期間ごとの財務報告がメインとなってきました。財務報告は年々その情報の細密化や拡充が図られ、今では3ヶ月または1年という単位で非常に多くの情報が提供されています。 一方で過去の業績に焦点を置く「財務情報」だけではなく、将来の企業価値や企業戦略の達成可能性を判断する情報として幅広い「非財務情報」を求める声も高まっています。これに対して、企業側では、ESG情報(Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス))に代表される非財務情報として、「環境・CSR(企業の社会的責任)レポート」「サステナビリティ(持続可能性)報告」「ガバナンス報告書」などの情報提供を進めてきました。 ところが、情報利用者からの「情報量が複雑で多すぎる。結局、どれに注目すればいいのか分からない。」という不満に加え、各企業による独自様式の非財務情報が企業間比較を難しくしているという問題も提起されるようになりました。 この流れをうけ、「財務情報」と「非財務情報」を「統合的思考」によって関連付け、簡潔かつ比較可能な形で示す統合報告の共通フレームワークの策定を目的として、規制当局・投資家・企業・基準設定団体、会計専門家及びNGOなどで構成される国際統合報告評議会(IIRC)が2010年に設立されました。その後、様々な企業や利害関係者の意見を検討したり、いくつかの先進企業によるパイロットプログラムの取組みを経て、ようやく、2013年12月に「国際統合報告フレームワーク」が完成しました。現在は、そのフレームワークを利用し、情報利用者にとって、さらに役立つ統合報告の仕組み作りを実践するフェイズに入っています。 * * * 次回は、今般公表されたIIRCの「国際統合報告フレームワーク」の具体的内容について解説していきます。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第1回】 「確定拠出型年金制度のみを採用する場合」 公認会計士・税理士 前原 啓二 1 掛金支出時と退職時の仕訳 〈掛金支出時〉 〈退職時の仕訳〉 中小企業退職金共済制度は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が行う退職金共済制度で、確定拠出型の退職給付制度です。 確定拠出型の退職給付制度とは、掛金支出後に追加的負担が生じない外部拠出型の退職給付制度のことで、その他に特定退職金共済団体が行う特定退職金共済制度や確定拠出年金法に基づく確定拠出企業年金制度等が挙げられます。 確定拠出型の退職給付制度における掛金は、費用処理します(中小企業会計指針55)。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 中小企業退職金共済制度の掛金については、支出額をその支出した事業年度に損金算入できます(法令135)。会計上もこの支出額を費用計上しているので、税務上の加算・減算調整は不要です。 特定退職金共済制度や確定拠出企業年金制度の掛金についても、同様に支出額をその支出した事業年度に損金算入できます(法令135)。 (了)
企業結合会計基準に対応した 改正連結実務指針等の解説 【第5回】 「支配獲得後の親会社の持分変動に係る連結上の税金費用の会計処理」 公認会計士 布施 伸章 ◆ 解説 ◆ 子会社の時価発行増資等及び連結会社による子会社株式の追加取得に伴い生じた親会社の持分変動による差額は一時差異に該当し、連結税効果実務指針第32項又は第37項に準じて繰延税金資産又は繰延税金負債の計上の可否及び計上額を決定する。 また、親会社の持分変動による差額は資本剰余金として処理されるため、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する場合には、当該一時差異の発生に関連する資本剰余金から控除することになる(連結税効果実務指針40項及び40-2項)。 〔前提〕 P社はX1年3月にS社の株式の60%を600で取得して子会社とし、さらにX2年3月に40%を400で追加取得して、100%子会社とした。 X1年3月末及びX2年3月末のS社のB/Sは諸資産800(時価と簿価は同額)、負債はゼロである(X2年3月期のS社の損益はゼロ)。 当初取得ののれんの償却は行わないものとする。 【図表】 子会社株式の追加取得に係る税効果の処理のイメージ 連結税効果実務指針第32項の子会社への投資に係る将来減算一時差異について繰延税金資産を計上するための要件を踏まえると、当該将来減算一時差異について繰延税金資産を計上するときとは、例えば、当該子会社株式の売却の意思決定をしたときになると考えられる。 なお、子会社株式の取得後、売却の意思決定をするまでに、以下のように当該子会社の留保利益が100増加し、連結簿価が920から1,020となったものとする。 この場合のS社株式の投資に係る一時差異(追加取得により生じた資本剰余金に係る将来減算一時差異と留保利益に係る将来加算一時差異)に係る税効果額の処理は、次のようになる。 (*1) 資本剰余金に係る税効果額:80×40%(実効税率)=32 (*2) 留保利益に係る税効果額:100×40%(実効税率)=40 (注) 税効果は一時差異の発生源泉に応じて処理することになる。上記は、理解に資するため、仕訳の便宜上、繰延税金資産及び繰延税金負債を両建てで計上しているが、納税主体が同一である場合、両者を相殺して表示する。なお、同一の納税主体の同一の子会社への投資に係る一時差異であるため、繰延税金資産及び繰延税金負債を相殺したうえで、回収可能性又は支払可能性について判断する。 また、翌年度のS社株式の売却時の税効果に関する仕訳(開始仕訳と売却による投資に係る一時差異の解消の仕訳)は次のようになる。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第17回】 日本交通技術株式会社・ 「外国政府関係者に対するリベート問題に関する第三者委員会調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【日本交通技術株式会社の概要】 日本交通技術株式会社(以下「JTC」という)は、1958(昭和33)年設立。鉄道を主とする総合建設コンサルタントとして、鉄道設備などに関する調査、設計及び施工監理業務を、国内外で行っている。受注高・完成高38億円(2012年第3次業務推進計画)、従業員数194名(2013年3月末)。本店所在地は東京都台東区。未上場。 大株主8社のうち3社は、JR系列のコンサルティング会社であり、その持株割合は35%となっている。 【報告書のポイント】 1 調査結果により判明した事実 (1) リベートが発覚した経緯 2013年4月16日から、JTCに対し、東京国税局による税務調査が行われ、担当調査官から、海外でのリベート提供は「使途秘匿金」という税務処理があることを示され、これに沿った税務処理を行ったため、約1億円の追徴課税を受けることとなった。 (2) 調査委員会が認定したリベート提供額と提供理由 ① ベトナム案件 〔リベート要求に応じざるを得なかった理由〕 ② インドネシア案件 〔リベート要求に応じざるを得なかった理由〕 ③ ウズベキスタン案件 〔リベート要求に応じざるを得なかった理由〕 (3) 聖域化していた海外業務 JTCでは、海外業務への積極的なシフトが2009年から進められてきたが、国際業務を管掌する常務取締役C氏を代替する人材がおらず、人事が固定化するとともに、海外業務がブラックボックス化し、他の取締役は、国際部がどのようにして海外業務を遂行しているのかを理解することができなかった。これは、代表取締役社長も同様であった。 (4) リベート提供に至る流れ JTC本社においては、リベート提供が、海外プロジェクトの受注を根ざす国際部の「業務」として組織的かつ反復継続的に行われ、その流れは以下のとおりである。 この一連の流れの中で本社国際部は、交渉状況や原価率を考慮して、一定の金額で妥結することを承認し、架空の証憑を添えて経理課に経費を請求して不正に資金を引き出し、時には経理課を巻き込んで資金捻出に協力させていた。 (5) リベート資金捻出手法 インドネシア案件、ウズベキスタン案件においては、委託先業者に水増し外注費を支払ってキックバックしてもらう方法によっていたが、ベトナムでは、銀行規制も厳しく、政府の公式領収証がある場合のみ損金算入を認める制度、汚職を取り締まる通報制度があったため、これまでの手法では、外部に情報が漏れて発覚してしまうおそれがあった。 そこで、東京本社で社員に「仮払」として現金を手渡し、社員が現金を機内に持ち込んでハノイまで運搬し、ハノイ駐在員事務所の金庫に預けるという原始的な方法だった。 また、ウズベキスタン案件では、リベートを要求したウズベキスタン鉄道の関係者に指示されるまま、ラトビア共和国内の会社名義の口座に送金し、体裁を整えるために実態のない英文契約書や架空の領収証を準備していた。 (6) 経理部長の協力 ベトナム案件では、多額の仮払金の支出にあたり、常務取締役C氏は、経理部長に対し、受注のためのリベート支払いについて協力を依頼し、経理部長も、自分がこの受注を止めてしまうわけにはいかないと考え、仕方なく協力した。 その後、積み上がる仮払金残高を不安に感じた経理部長は、早く経費化することをC氏に進言するとともに、決算期末に「作業未払金」を計上して経費化を図る処理を行ったが、国税調査では、この処理が「仮払金償却目的及び委託実態のない期末未計上分」として否認されることとなった。 2 調査報告書の特徴 (1) 法律に違反する行為であることの認識の欠如 外国の公務員等に対する不正な利益供与は、不正競争防止法で明確に禁じられており(第18条1項)、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するという罰則規定(第21条2項)も存在しているにもかかわらず、JTC社内では、こうした法律違反行為であることから、リベート提供を止めるべきであるという議論はされていない。 (2) 国税調査 2013年4月16日から行われた東京国税局による税務調査において、調査担当官から、海外でのリベート提供について「使途秘匿金」により処理することを示され、JTCはこれに沿った税務処理を行い、1億300万円の追徴課税を受けることとなった。 リベート提供による課税額は61百万円(うち使途秘匿金課税42百万円)、実態のない作業未払金計上による課税額は36百万円と追徴課税額の大半を占めた。 (3) 国税調査後も続くリベート提供 国税調査後、複数回にわたって、役員会の席上、リベート問題が話し合われたが、明確な形で「今後は禁止する」という決定は行われなかった。 第三者委員会はこれを受けて、「7月11日の役員会の時点で、黙示的に会社としてのリベート継続の意思決定がなされたものと認定」している。 また、7月8日付の国際部管理職会議議事録には、以下のような利益供与を容認する記載がある(抜粋)。 会社として利益供与を禁止する結論が出ないまま、国際部においては、利益供与による受注の確保、さらなる利益の稼得を目指す方向が明示されている。 (4) 使途秘匿金課税 国税調査官の示唆に従い、JTCとしては「使途秘匿金」として処理することで追徴課税リスクを避けることができ、一種の安心感を得たことがリベ-ト提供が継続された一因であるとすれば、不正競争防止法違反について言及しなかった国税局調査担当官の対応に問題があった可能性はある。 改めて言うまでもないことであるが、刑事訴訟法239条2項は「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」と規定しており、国税局の調査担当官は、本件が不正競争防止に抵触することを知りえた以上、告発を行うか、告発を行わないまでも、せめて利益供与を禁止するよう、経営者に対して働きかけるべきではなかったか。 第三者委員会が、国税局の調査担当官から事情を聴いたという記述はないため、断定的なことは言えないが、国税調査においては、追徴課税を優先するあまり、他の法律に違反した行為が見過ごされる可能性があることが、本件からも類推できよう。 (5) 正当化されてきたリベート提供 調査報告書はその原因論の中で、リベート提供がいかに正当化されてきたかを分析している。 その正当化根拠(弁解材料)は以下の3つに集約される。 ① 海外案件の受注拡大という経営方針 国際部には、「海外案件の受注拡大」が当社の経営方針である以上、これを実現するためのリベート提供は是認ないし受容されるという発想があった。 ② 被害者意識 不当な要求に屈服させられてリベートを巻き上げられている自分たちはあくまで「被害者」であるという意識が、自らの行動の正当化につながっていた。 そこでは、自分たちがリベートを提供することが、相手国政府の廉潔性を汚し、相手国における腐敗を促進し、正当な競争を阻害するという負の側面、「加害者」としての側面が意識されることはなかった。 ③ 事務経費 相手国の政府関係者の要求は当該プロジェクトの推進に必要な事務経費であり、リベートの受領者の私腹を肥やすものではないとして、行為を正当化する関与者もいた。 (6) 示唆に富む提言内容 調査報告書の提言には示唆に富むものが多くみられるが、とりわけ以下の下りは、経営者によく理解してほしいところである。 3 厳しい行政処分 外務省は、JTCによる本件リベート支払が発覚後の4月1日、JTCに対し、「平成26年4月1日から当面の間、新規ODA事業において応札等を行うことを自粛するように要請」したという報道発表を行い、本調査報告書公表後の4月30日には、以下のとおり、外務省による無償資金協力への18ヶ月間の参加排除などを発表した。 生き残りを賭けた海外での業務展開の柱であったODA事業への門戸を閉ざされてしまったことは、リベートの代償としてはあまりにも大きいといえる。 一方、リベートを要求した側のベトナムでも、5月に入って、鉄道公社のチャン・クオック・ドン副総裁ら4人を背任の容疑で逮捕したことが報じられた。ドン副総裁は、2009年から11年までプロジェクト管理事務所長として、JTCが受注したハノイ市都市鉄道建設事業などを担当していたという。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第47回】 資産除去債務③ 「見積りの変更」 仰星監査法人 公認会計士 菅野 進 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① X1年4月1日 ② X2年3月31日 ③ X3年3月31日 〈会計処理の解説〉 資産除去債務については、将来の除去費用をその発生した時点で負債として見積計上するため、その後において経営環境の変化や法令等の改正、契約内容の変更等がある場合には当初の見積額が増減することが考えられます。 例えば、年数が経過して将来の除去費用をより精緻に見積もることができるようになった場合や、技術の変化によって、より容易に除去することができるようになった場合には見積金額を変更することがあるでしょう。また、賃借建物からの具体的な退去の時期が明確になった場合には使用年数に変更が生じることになります。このような場合には、当初の割引前将来キャッシュ・フローを変更する可能性が生じます。 このように、当初の割引前将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合には、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額を修正する必要があります。 資産除去債務の見積りの変更から生じる修正を、会計上どのように処理するかについては、様々な方法が考えられますが、資産除去債務に関する会計基準では、負債及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して、減価償却を通じて残存耐用年数にわたり費用配分を行う方法(プロスペクティブ・アプローチ)が採用されました。 プロスペクティブ・アプローチによった場合、資産計上された除去費用の帳簿価額の推移は下の図のようになります。 これを本事例で検討してみると、割引前の将来キャッシュ・フローの見積りの変更による調整額464は、将来に向かって償却するため、資産除去債務に係る負債の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加算します。 また、当該割引前の将来キャッシュ・フローが増加する場合には、その時点の割引率2.5%を適用します。 なお、本事例の前提が下記の場合には、X3年3月31日の仕訳は以下のとおりとなります。 ③ X3年3月31日 なお、割引前の将来キャッシュ・フローが減少する場合には、負債計上時の割引率を適用して資産除去債務を計算します。 (了) ※7月は、2013年4月に続き、「金融商品会計」を取り上げます。
IT業界の労務問題と対応策 【第3回】 「IT業界でありがちな労務トラブル(その2)」 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美 前回に引き続き、この業界で起こりやすい労務問題を取り上げる。 (4) 管理監督者の捉え方とプロジェクトマネージャーの処遇 昨今、管理職の処遇については「偽装管理職」として世間で注目されてきたように、法令で定められている管理職の概念に当てはまっているかどうかを労働基準監督署では厳しく判断するようになっている。しかし実際には、「リーダー」・「マネージャー」などの役職が付いたら、役職手当を支給し、残業代を支給しないというのが現実である。 労働基準法では、管理監督者を と定義している。 労働時間管理の観点から見ると、職務の性質上、労働時間に関する規定の枠を越えて働くことを要請されており、また、自己の判断で出退社できる自由裁量権を持っている者となる。これはどの程度の役職者を指すのかというと、取締役部長クラスを表していると考えられている。ただし通常、リーダーやマネージャー等の役職は、経営者と一体になるまでの経営責任が伴う業務遂行を求められておらず、使用従属関係も相当強いものであるため、管理監督者であるとは言い難い。 では、IT業界でいうところのプロジェクトマネージャーは、労働基準法上での管理監督者に該当するのだろうか。 ひとことに「プロジェクトマネージャー」といっても、1つのプロジェクトに対して、工程数管理から外注先の選定、採用する人材の決定まで幅広く裁量権を与えられているものから、単に進捗管理だけで人事裁量権は全くなく、自身の勤務管理も別上司に管理されているといったものまで、企業によって様々ある。 ここでも法律で定義されているような裁量権が与えられているのかどうかを、役職名で判断するのではなく、以下のような判断基準に沿って検討することが必要とされる。 (5) 過重労働から発症するメンタル不全 この業界の問題としてもよく取り上げられる「過重労働」は、メンタルヘルスにも影響が大きく、無視できるものではない。 過重労働が長期間続くと、肉体的ダメージだけでなく、精神的ダメージも知らず知らずのうちに受けてしまうとされている。長期間会社に泊り込む、終電まで残業を続ける、帰宅後も家で徹夜をするような生活を送る人が多いエンジニアは、睡眠のリズムが狂いやすく、睡眠障害から二次的にメンタル不全へと進行していく危険性が高いともいわれている。 メンタル不全は心の病気であるため、精神的な症状ばかり出ると思われがちだが、実は自覚症状として最初に気づくのは体の不調である。「睡眠障害」「疲労・倦怠感」「食欲不振」「頭痛・頭重感」「めまい」「性欲減退」「便秘・下痢」「体重減少」「肩こり」「背部痛」など、ごく日常的に感じるものばかりで、これらの症状はメンタル不全者の9割近くに見られるという。 このようにメンタル不全者は、憂うつな気分や不安など精神的な症状に気づかないまま、頭痛や肩こりなど体の不調を訴えがちなのである。 これらのサインをしきりに訴える社員がいる場合には、メンタル不全の可能性を考慮し、早めに専門医を受診するよう促すことが大切である。メンタルヘルスへの対策は、かかる前にいかにサインを見つけ出し、ダメージが大きくならないようにするかがポイントであり、定期的な検診や、外部の専門カウンセラーの活用など、会社としての対策を講じる必要が今後ますます増えてくるといえる。 次回は、IT業界における問題社員の実情とその対応策についてお伝えしたい。 (了)
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第12回】 「消費税転嫁阻害表示〔①禁止される表示の概要〕」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 禁止される消費税転嫁阻害表示 消費税転嫁対策特別措置法は、あたかも消費者が消費税を負担していない又はその負担が軽減されているかのような誤認を消費者に与えないようにするとともに、納入業者に対する買いたたきや、競合する小売事業者の消費税の転嫁を阻害することにつながらないようにすることを目的として、事業者が消費税分を値引きする等の宣伝や広告等(以下、「消費税転嫁阻害表示」という)を行うことを禁止する。 つまり、例えばスーパーが「消費税はいただきません」という広告を出した場合、消費者は、実際には消費税相当額を負担しなければならないにもかかわらず、あたかも、そのスーパーで購入すれば税負担を免れることができるかのように誤解するおそれがある。また、スーパーが消費税相当額を値引きするために、納入業者から買いたたくことも容易に考えられる。そして、あるスーパーがこのような広告を出せば、競合する近隣のスーパーも追随し、「どの店も消費税相当額を徴収しない」というような法の趣旨に反する事態にも発展しかねないということである。 他方で、消費税転嫁阻害表示の禁止は、消費税分を値引きする等の宣伝や広告を禁止するものであって、事業者が、自身の企業努力によって価格設定を行うこと自体を制限するものではなく、また、この規定に該当しないような安売り、特売、セール等の宣伝や広告を禁止するものでもない。 消費税転嫁対策特別措置法が禁止する消費税転嫁阻害表示とは、次の3類型のような表示である。 これらの3類型は、消費税転嫁対策特別措置法上の分類ではあるが、実際にこれらを遵守すべき立場の企業の目線で考えれば、いずれも類似しており、実務上大きな違いはないということができる。 禁止される表示の範囲を理解するためには、以下の表の左欄の定義を深く追究するよりも、右欄の具体例を総覧し、「要するに、これらと似たような表示が禁止されるのか。」といったように、具体的なイメージで捉えていただく方が分かりやすいと思われる。 (*1) 「消費税の転嫁を阻害する表示に関する考え方」平成25年9月10日消費者庁 2 禁止されない表示の具体例 「消費税」といった文言を含まない次のような表示は、当該宣伝や広告の表示の全体からみて消費税を意味することが客観的に明らかといえない限りは、いずれも、消費税分を値引きする等の宣伝や広告には該当せず、本条で禁止される消費税転嫁阻害表示には当たらない。 (*2) 前掲(*1) 3 消費税転嫁阻害表示に対する当局の調査と違反の場合に受ける措置 (1) 消費税転嫁阻害表示に対する調査 消費者庁は、平成26年3月ころから、ホームページにおいて、「消費者庁消費税転嫁阻害表示調査員募集要項」を掲載し、消費者の立場から、消費税の転嫁を阻害する表示について専用サイトを利用した報告、アンケート調査、消費者庁表示対策課が依頼する調査等の協力等を行う消費税転嫁阻害表示調査員(募集人数:関東甲信地区で50名、任期:平成26年4月1日から平成27年3月末の1年間)の募集を行っている(応募締切:平成26年6月30日)。 消費税転嫁対策特別措置法は、消費者庁長官、公正取引委員会、主務官庁、中小企業庁長官に、消費税の転嫁を阻害する表示を是正するために必要があると認めるときの事業者に対する報告命令権や立入検査権を付与し(同法15条2項)、この報告や検査を拒否したり、虚偽の報告をしたり、検査を妨害した者には、罰則(50万円以下の罰金)を科することとしている(同法21条)。 また、消費税転嫁阻害表示に関する調査を行う上記複数の当局は、相互に情報又は資料を提供することができることとされている(同法16条1項) 本項の冒頭に掲げた消費者庁の消費税転嫁阻害表示調査員は、当局の1つである消費者庁長官が上記の調査権限を適切に行使できるよう、広く情報収集を行う目的で設置されたものと考えられ、同調査員による調査により、平成26年4月1日以降、少なくとも1年間にわたり、消費税転嫁阻害表示に対する広く集中的な情報収集が行われるものと推測される。 (2) 消費税転嫁阻害表示を行った場合に事業者が受ける措置 当局によって、ある広告や表示が消費税転嫁阻害表示に該当し、消費税転嫁対策特別措置法に違反すると判断された場合、事業主は、当局から次のような措置を受ける可能性がある。 勧告・公表がなされてしまうと、当該事業者は、企業名を含めて勧告の事実が公表され(消費税転嫁拒否行為に対する勧告例。本連載第5回を参照)、マスコミ等によっても報道されることになるため、事業者においては、この場合のレピュテーションリスクについても留意する必要がある。 なお、指導・助言にとどまらず勧告・公表にまで至る場合の基準については明らかにされていないが、消費税転嫁阻害表示を行った事業者が違反行為を繰り返し行う蓋然性が高いと認められるときは、公正取引委員会等は必ず消費者庁長官に対する措置請求を行うこととされていること(同法9条、5条3号)に照らせば、違反行為を繰り返す蓋然性の高さが判断のポイントの1つになるといえよう。 消費税転嫁対策特別措置法の施行後、転嫁拒否行為に対する対応実績件数とその内訳が公正取引委員会によって随時公表されている(*3)【本連載第8回参照】のとは異なり、転嫁阻害表示に対する対応実績は、今日までに、当局によって公表されてきていない。 (*3) 「(平成26年6月11日)平成26年5月までの消費税転嫁対策の取組について」 公正取引委員会 もっとも、上記のとおり、消費税転嫁阻害表示調査員が設置されるなど、今後の消費税転嫁阻害表示に対する監視と取り締まりについて当局が意欲を見せているとも思われる動向がみられることから、事業者においては、消費税転嫁阻害表示を行わないよう、一層の注意が必要である。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第18話】 「お客様の“ピンチ”にも対応できる準備を」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 経営改善支援 ~「経営革新等支援機関」による経営改善計画策定支援~ 専門家の力を借りた経営改善計画書の策定を支援する制度で、こんな方にお勧めです。 金融機関への返済条件等を変更し資金繰りを安定させながら 【対象】 条件変更や融資(借換融資、新規融資)などの金融支援が必要な中小企業・小規模事業者 【支援方法】 国の認定を受けた専門家(認定支援機関)の支援を受けて経営改善計画を策定する場合、経営改善計画策定支援に要する費用について、総額の2/3まで補助されます。 計画作成後、認定支援機関が定期的にモニタリングをします。 【申請受付期間】 平成26年度末まで ◆ワンポントアドバイス◆ お客様の財務状況だけでなく、その取引先の与信管理にも適切なアドバイスが必要です。 それでも「取引先の倒産」という窮地には、税制改革や金融政策等、国の施策で利用できるものがあれば、適用を考えることが必要です。 その際には、要件をしっかりと検討し、お客様にとっての最善の方法を考えましょう。 (了)
《速報解説》 「消費税の軽減税率に関する検討について」(与党税制協議会)の公表 -対象範囲の線引き・区分経理の方法・マージン課税の適用- アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 消費税の軽減税率については、平成26年度の税制大綱で「税率10%時に導入する」旨を決定し、その詳細については、平成27年度税制大綱で明らかにすることとなっているが、平成26年6月5日に与党税制協議会より、国民に意見を求めるという趣旨から、検討されている軽減税率の導入方法につきその資料等「消費税の軽減税率に関する検討について」が公表された。 なお、公表された提案は、これらの案の中からそのまま法案として通すものではなく、「考えられるパターンを機械的に示したもの」という位置づけであり、この公表により業界関係者も含め広く意見を求めるということである。 したがって、この資料により早急に対策を検討するというよりも、政府・与党の方向性を示すものとして捉えるべきであるが、いずれの案もこの軽減税率が導入されることで、事業者側の事務負担が増大するということには注意しなければならない。 公表された主な内容は以下の3点であるが、以下ではその内容の要旨について解説していく。 1 線引き例と財源について 軽減税率を導入するにあたっては、どういった分野のものを対象とするのかという問題が生じるが、その分野の中でも、その対象物を細かく線引きすることは非常に難しいという点が示されている。 ただし、その対象範囲を広げると軽減分を埋め合わせるための財源の規模は大きくなり、社会保障財源に影響を与えることから、軽減税率の対象物による財源の減少分について数値を示して公表されている。 この資料の中で具体的に対象としているのは、生活必需品である飲食料品分野についてであるが、その分野をすべて対象とした場合から飲食料品分野の中でも特定のものだけを軽減する場合までの「8つのパターン」が示されており、その線引きをする際に課題となる点についても、諸外国の事例を踏まえて指摘している。 詳しくは以下の8パターンであり、それぞれのパターンにした場合の課題点については、次のようになる。 【それぞれの場合の課題点】 ① すべての飲食料品を対象とした場合 この場合には、以下のような課題が考えられる。(抜粋) ② すべての飲食料品から酒類を除外した場合 この場合には、以下のような課題が考えられる。(抜粋) ③ すべての飲食料品から酒類及び外食関係を除外した場合 この場合には、以下のような課題が考えられる。(抜粋) ④ すべての飲食料品から酒類、外食関係及び菓子類を除外した場合 この場合には、以下のような課題が考えられる。(抜粋) ⑤ すべての飲食料品から酒類、外食関係、菓子類及び飲料を除外した場合 この場合には、以下のような課題が考えられる。(抜粋) ⑥ 軽減税率の対象を生鮮食品に限定した場合 この場合には、以下のような課題が考えられる。(抜粋) ⑦ 軽減税率の対象を米、みそ及びしょうゆに限定した場合 この場合には、以下のような課題が考えられる。 ⑧ 軽減税率の対象を精米に限定した場合 この場合には、以下のような課題が考えられる。 2 区分経理について 複数税率制度を導入する場合、適正な税額計算のために、事業者は新たに区分経理の処理が必要となり、どの処理方法によっても事務負担が増大することとなるが、今回与党税制協議会は、以下の4つの案を公表している。 以下、それぞれの案の要旨とそれらの課題点について確認する。 ① 区分経理に対応した請求書等保存方式【A案】 (※)「消費税の軽減税率に関する検討について」p17より この方式の特徴は、以下のとおりである。 ② A案に売手の請求書交付義務等を追加した方式【B案】 (※)「消費税の軽減税率に関する検討について」p18より この方式の特徴は、以下のとおりである。 ③ 事業者番号及び請求書番号を付さない税額別記請求書方式【C案】 (※)「消費税の軽減税率に関する検討について」p19より この方式の特徴は、以下のとおりである。 ④ EU型インボイス方式【D案】 (※)「消費税の軽減税率に関する検討について」p20より この方式の特徴は、以下のとおりである。 ⑤ それぞれの方式の課題点 上記に示した4つの案については、どの方式にもメリット・デメリットがあり、安易にどの方式が優れているということは判断できない。 例えば、A案に比べB案の方が、請求書を義務付けることから適正税額による申告を行うことが容易になるが、請求書等の発行を義務付けることから事務負担が増える事業者が多数生じることが考えられる。 ただし、いずれの案も免税事業者からの仕入れも仕入税額控除が可能であり、税収の確保が問題となる(現行も同様である)。 これに対し、C案やD案は、請求書等やインボイスにより消費税額の把握が容易となり、適正税額による申告がより可能となるが、免税事業者がインボイス等を発行できないことから事業者間取引において免税事業者を排除する可能性があり、問題が生じることとなる。 また、C案やD案については、消費税の計算方法が従来と変更されることとなり、そのシステム等を構築しなければならず、この制度の導入に際し多大のコストが発生する。 さらに、D案については、インボイスに事業者番号等も記載することでより手間がかかることとなる。 したがって、どの方式を採用するかについては、慎重に検討されなければならない。 3 簡易課税とマージン課税について 軽減税率(=複数税率制度)の導入により、現行の簡易課税制度の業種区分を細分化し、それぞれにみなし仕入率を設定しなければならないことから、簡易課税を選択した事業者の経理事務が複雑になるという新たな問題が生ずる。 また、仮に飲食料品を軽減税率の対象とした場合には、飲食料品の仕入れがある業種は、仕入れに標準税率と軽減税率とが混在することとなる。 例えば、果物の缶詰(軽減)を製造販売する果実缶詰製造業の場合には、仕入に缶(標準)、果物(軽減)が混在していることから、みなし仕入率をどのように設定すべきか問題が生じることとなる。 また、上記2で解説した区分経理ついて、C案(事業者番号及び請求書番号を付さない税額別記請求書方式)やD案(EU型インボイス方式)を採用した場合には、消費者や免税事業者からの仕入税額控除は認められないことから、中古品販売業(中古自動車販売業者、質屋、古物・美術商、古本屋等)を行う事業者は、仕入れにつき税額控除が適用されないため、中古品取引に影響を及ぼすおそれがある。 この問題に対処するため、欧州諸国においては、中古品の販売につき、その実現したマージン(売価-仕入価格)のみを課税対象とする特例が設けられており、簡易課税制度とは別にこのマージン課税制度の導入も検討しなければならない。 (了)
2014年6月12日(木)AM10:30、Profession Journal No.73 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。