《速報解説》 国税庁、書画骨とう等の減価償却の取扱いの変更に向けパブコメ ~減価しない美術品等の範囲を取得価額基準20万円から100万円へ引上げに Profession Journal編集部 国税庁は、10月10日に減価しない美術品等の範囲を取得価額20万円以上から100万円以上へと引き上げる見直し案をパブリックコメントに付した。 ◆現行の書画・骨董品の取扱い 美術品等(絵画や彫刻等の美術品のほか工芸品など)の一部は、その希少価値などから経年することによって価値が上昇し続け、減価しないものもある。 そのため、その美術品等が減価償却資産とすべきかどうかの判断は極めて困難であることから形式基準として下記の定めを置いている(法令13、法基通7-1-1)。 ◆1点の取得価額=100万円以上基準で統一へ ②のとおり、減価償却資産に該当するかどうかが明らかでない美術品等については、取得価額が1点20万円(絵画にあっては、号2万円)未満であれば減価償却資産と取り扱うことができるとしていたわけだが、これに対して「近時の取引の実態に照らせば、金額基準として低すぎるのではないか」といった指摘があったことから取扱いの見直しへと至ったという。 今回の見直しでは、下記のような改正案が示されている。 また、その注書では、当該美術品等が移設することが困難で当該用途にのみ使用されることが明らかなものであり、かつ、他の用途に転用すると仮定した場合にその設置状況や使用状況からみて市場に出回ることが想定できないようなもの――例えば、公共施設などの装飾品や壁に敷設されるなど用途が限定された状況のものなど――については、取得価額にかかわらず減価償却資産とみなすとしている。 ◆実務では取得価額20~100万円の美術品等をチェックし償却を行うか検討 この改正案については同じ内容を定める所得税基本通達や連結納税基本通達でも同様に見直すこととされており、平成27年1月1日以後に開始する事業年度において法人の有する美術品等に、また個人事業が所有する場合にあっては同日以降に、それぞれ適用を可能とすることが予定されている。 この見直しに伴い、これまでに所有する非減価償却資産として扱ってきた20万円超の美術品等で、そのうち100万円未満のものをチェックし該当の資産がある場合には、平成27年1月1日以後に開始する事業年度から減価償却資産として償却をすることが認められることとなる。 先に触れたとおり、本取扱いは昭和55年の現行の法人税基本通達制定時からのものであり、もはやスタンダードとなっているだけに、今回の見直しが行われた場合にはこれまでの“常識”の切り替えに迫られることとなる。 また、実務では、1月以降に償却を行う際の償却方法についても、どのように取り扱うことになるか注目されるところだ。 本通達は、企業会計や固定資産税の世界でも資産計上のための指針となっている。こうした分野についても、今回の改正が影響を及ぼすのか今後の動向には注意されたい。 なお、パブコメの締切りは11月10日(月)となっている。 (了)
2014年10月9日(木)AM10:30、Profession Journal No.89 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第22回】 「法人税法22条2項の「取引」の意義(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに これまでこのコーナーにおいてもしばしば論じてきたように、租税法律主義の下、租税法の解釈に当たってはできるだけ文理解釈によるべきとする考え方が支配的である。また、そのことの帰結として、法条の読み方についても、条文に用いられている概念(用語)の意義をどのように理解するかが重要となるため、この点が争われる事案は決して少なくない。そして、租税法中に用いられている概念は固有概念と借用概念に分類することができるが(すでにここでも紹介したとおり、「一般概念」として捉えるものもあり得る。)、その多くは借用概念であるといえよう。もっとも、ある用語が租税法固有の概念ではなく借用概念であると捉えたとしても、果たしてどこから借用してきたのかという点が議論されることもある。 今回は、法人税法22条《各事業年度の所得の金額の計算》2項に用いられている「取引」という概念の意義をどのように解すべきかが争点の一つとなった、いわゆるオーブンシャ・ホールディング事件を素材として、この辺りを考えてみたい。 Ⅰ オーブンシャ・ホールディング事件 1 事案の概要 内国法人であるX社(原告・控訴人・上告人)は、その保有するA社株式等を出資してオランダに100%出資の外国子会社B社を設立し、B社の株主総会において、新たに発行する株式の全部をX社の関連会社であるオランダ法人C社に割り当てる決議を行った。これに対し、かかる新株の発行は著しく有利な価額でC社に割り当てられたもので、これによりX社が保有するB社株式の資産価値を何ら対価を得ずにC社に移転させたとして、税務署長Y(被告・被控訴人・被上告人)は、その移転した資産価値相当額をC社に対する寄附金と認定し、X社の法人税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をした。本件は、X社が、本件更正処分のうち納付すべき税額を超える部分および本件賦課処分はいずれも違法であるとしてその取消しを求めた事案である。 以下、本稿において関心を寄せる「取引」の概念に関する部分を中心に、この事件を見てみよう。 2 当事者の主張 (1) X社の主張 X社の主張を分析してみよう。 X社の主張の骨子は、まず、法人税法が所得金額の計算に当たり企業会計の基準によるべきとするいわゆる公正処理基準を謳った法人税法22条4項の解釈により、B社における新株の有利発行によって生じたB社株式の含み益をX社の益金に算入する根拠はないと主張するところから始まる。 このように、X社は、企業会計においては、「第三者に対する新株の有利発行の際、旧株式の含み益が減少したとしても、旧株主において当該含み益が実現されたものとはされていない」との主張をしたのである。 上記のように、X社は、法人税法内に「別段の定め」がないことを前提として、旧株主において含み益を実現したとは扱わない企業会計の考え方が支配していると論じたのである。 次に、X社は、法人税法22条2項にいう「取引」の意義について次のように主張する。 このように、X社は、法人税法22条2項にいう「取引」について、格別の規定がないのであるから一般私法におけるのと同じ意義、すなわち私法からの借用概念であると解すべきと主張しているようである。 (2) Yの主張 次に、Yの主張をみてみよう。 このように、Yは、X社が行ったB社株主総会における決議は、X社が保有する資産価値の一部をC社に贈与する行為にほかならないとして、法人税法22条2項の要件を満たすと主張した。すなわち、法人税法22条2項にいう「無償による資産の譲渡・・・その他の取引」に該当するというのである。 そして、X社の主張は、法人税法22条4項の公正処理基準を企業会計と同視する前提において誤っているとした上で、次のように論じている。 Yは、法人税法22条2項にいう資産の譲渡又は「その他の取引」とは、所得を構成する資産の増加を認識すべき一切の場合を指すというのである。 この点が、「取引」概念の理解においてX社とYの主張の最も大きく異なるポイントであるといえよう。すなわち、X社は、「取引」とは法律概念であるとするのに対して、Yは、法律概念とは捉えていないのである。Yは、明示的に主張はしていないものの、借用概念ではないと解する主張をしているのであろうか。 (続く)
法人税改革における各検討事項が 連結納税制度の採用(有利・不利)に与える影響 【第2回】 「研究開発税制、欠損金の繰越控除制度等の見直し」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 4 「研究開発税制の見直し」が与える連結納税の有利・不利への影響 試験研究費の総額に係る税額控除(措法42の4①、措法68の9①)について、単体納税では、連結子法人において個別所得が発生しないため、その連結子法人で税額控除を受けられなかった試験研究費について、連結納税により、連結納税グループ全体で連結所得が発生することにより、税額控除が受けられる場合がある。 一方で、単体納税では、連結子法人において個別所得が発生していたため、その連結子法人で税額控除を受けることができた試験研究費について、連結納税により連結納税グループ全体で連結所得が発生しないことになり、税額控除が受けられなくなる場合もある(ただし、この場合、そもそも連結納税の損益通算効果により連結納税グループ全体の連結法人税額が減少するため、その点において連結納税の採用は不利にならない)。 以上を示すと次のようになる。 したがって、試験研究費の総額に係る税額控除について、税額控除額の計算の仕組みや試験研究費の対象範囲が見直されることにより、減税額(税額控除額)が大幅に縮小される場合、それについて生じることが予定されていた連結納税による税負担の減少効果が縮小してしまうこととなる。 5 「欠損金の繰越控除制度の見直し」が与える連結納税の有利・不利への影響 単体納税では、連結法人の資本金が1億円超の場合、その連結法人において個別所得の80%を限度として繰越欠損金が利用可能となる(法法57①⑪)。 一方、連結納税では、連結親法人が資本金1億円超の場合、連結所得の80%を限度として連結欠損金が利用可能となるが、そのうち、特定連結欠損金については、特定連結欠損金個別帰属額を有する連結子法人の個別所得(100%)を限度として利用可能となる(法法81の9①⑧)。 したがって、欠損金の繰越控除制度について控除上限額を引き下げる見直しを行う場合、例えば、控除上限額を単体納税では個別所得の60%、連結納税では連結所得の60%とする場合、単体納税と比較して連結欠損金の利用において連結納税がさらに有利になり、連結納税による税負担の減少額が増加することとなる。 具体的には次のような計算例となる。 6 「受取配当等の益金不算入制度の見直し」が与える連結納税の有利・不利への影響 連結納税では、連結納税グループ全体の総資産により負債利子控除額を計算すること及び連結法人間の負債利子を含めないことから、単体納税と比較して関係法人株式や一般株式の負債利子控除額が減少する場合、受取配当金の益金不算入額が増加する。逆に、連結納税では、連結納税グループ全体の負債利子により負債利子控除額を計算することから、単体納税と比較して関係法人株式や一般株式の負債利子控除額が増加する場合、受取配当金の益金不算入額が減少する(法法81の4①④、法令155の8①②)。 したがって、受取配当等の益金不算入制度について、支配関係を目的とした株式保有と資産運用を目的とした株式保有の取扱いを明確に分け、益金不算入制度の対象とすべき配当等の範囲や益金不算入の割合などを見直す場合は、それについて生じることが見込まれている連結納税の有利・不利が変わることとなる。 7 中小法人課税の見直し (ⅰ) 中小法人の範囲について 連結納税では、連結親法人が中小法人に該当するか否かにより、連結納税グループ全体で交際費の損金不算入制度における800万円の定額控除の適用や法人税の軽減税率の適用などの中小法人の特例が適用されるかが決定されることとなるため、連結親法人の資本金が1億円超5億円未満の場合、単体納税では中小法人の特例制度が適用できる連結法人が、連結納税では適用できない場合がある。 したがって、中小法人の範囲が拡大する場合は、単体納税で中小法人の特例制度が適用できる連結法人が減少することとなるため、それについて生じることが見込まれていた連結納税の不利が縮小されることとなる(措法68の66①②、法法66⑥、81の12①②⑥)。 (ⅱ) 軽減税率について 単体納税では各連結法人ごとに個別所得800万円まで軽減税率が適用できるが、連結納税では、連結所得800万円までしか軽減税率が適用できないため、軽減税率が適用できる所得限度額800万円を連結納税グループ全体で1回しか利用できない(法法66①②⑥、81の12①②⑥)。 したがって、軽減税率を厳しく見直す場合は、それについて生じることが見込まれる連結納税の不利が縮小することとなる。 (連載了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第11回】 「資産調整勘定の計上(東京地裁平成26年3月18日判決)③」 公認会計士 佐藤 信祐 前回同様、本事件における争点は2点あるが、【争点1】については、第1回から第8回に解説した内容と変わらないため、本稿においては【争点2】についてのみ解説を行う。 前回、解説したように、被告の主張としては、本来であれば適格分社型分割になるものを、非適格分社型分割になるようにした行為であると主張し、原告の主張としては、ごく自然に行われている取引であると主張し、あまりかみ合わない内容となっている。 本稿においては、これを受けて、裁判所がどのような判断を行ったのかについて解説を行うものとする。 (6) 裁判所の判断(【争点2】のみ) 分割の前後を通じて「移転資産に対する支配」が継続しているということができ、同号の趣旨・目的に明らかに反すると認められるときは、法132条の2の規定により、完全支配関係継続見込み要件が充足されないことの原因となっている行為又は計算を否認することができると解すべきである。 そして、本件分割の時点における爾後の組織再編成に係る計画の内容は、原告は、本件分割の時点から本件譲渡1の時点まではC社の完全子会社であり、本件譲渡1の時点(同年2月20日)でA社の子会社になることによりC社との間の「当事者間の完全支配関係」は一時的に切断されるが、その約1ヶ月後である本件合併の時点(同年3月30日)からは、A社がC社を吸収合併して原告を完全子会社とすることにより、A社との間で「当事者間の完全支配関係」が生じることを予定するものであったということができる。 したがって、この計画は、本件分割後に本件譲渡1が行われることのみを局所的に取り出してみれば、「当事者間の完全支配関係」の継続の見込みがないとの判定がされるものの、「移転資産に対する支配」が継続しているか否かの指標とされる「当事者間の完全支配関係」が一時的に切断されるが短期間のうちに復活することが予定されているものであり、一連の組織再編成の計画を全体としてみると、C社の分割は、実質的にみて、分割会社による「移転資産に対する支配」が継続する内容のものであると評価すべき場合であることは明らかである。 本件分割の態様は、C社にとって、事業上の必要性よりも、B社グループ全体での租税回避の目的を優先したものであるとの評価を免れないことは明らかである。 旧C社にとっても、A社にとっても、データセンター設備を保有する会社の譲渡を行う数日前に、データセンターの営業等を行う会社の譲渡を行うことにつき、何らかの事業上の意義があるとは評価し難い。 本件と同一の組織再編成の結果を得る方法としては、他に、本件分割を行う以前にA社がC社を吸収合併し、その後、分割を行って原告を設立する方法も考えられるところ、この場合は適格分割となるものと考えられる。このように、抽象的に設定された他の組織再編成の方法を検討してみても、結論は区々なものとなることからすると、他の組織再編成との比較をするだけでは組織再編成の実質的な性質決定をすることはできないというべきであり、当該事案における組織再編成の方法を前提として、その具体的な事情を基礎として検討を行うほかはないといわざる得ない。 (7) 評釈 このように、裁判所の判断としては、被告の主張を全面的に認める形となっている。 具体的には、第1回から第8回までで解説したみなし共同事業要件に関する事件と同様に、制度趣旨に反するという理由により、包括的租税回避防止規定が適用されるという結果となっている。 たしかに、分割法人であるC社と分割承継法人であるF社のいずれもA社に譲渡されているという事実から考えると、分割承継法人に対して移転した資産に対する支配は継続しているように思えるため、一応は、理屈にはなっている。 しかしながら、判決文においては、A社とC社が合併することにより、「当事者間の完全支配関係」が再び継続するという解釈となっているが、合併の前においては、C社とF社は兄弟会社であり、いささか強引な解釈であるように思える。 このように解するのであれば、合併さえしなければ包括的租税回避防止規定の射程は及ばないことになるし、原告の主張するように、分社型分割ではなく、分割型分割を選択していれば、同一の者による完全支配関係の継続を要求することになるため、B社からA社に株式譲渡が行われれば、仮にそれが同日であったとしても、包括的租税回避防止規定の射程が及ばないという問題も生じる。 すなわち、このような否認を行うのであれば、「当該分割後に当該分割法人と分割承継法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係が継続すること」「当該分割後に当該分割法人と分割承継法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続すること」と規定するのではなく、「当該分割後に当該分割法人と分割承継法人との間に完全支配関係が継続すること」と規定すべきだったと考えられる。 このような規定を行えば、分割後に、分割法人と分割承継法人をセットで売却したとしても、「当事者間の完全支配関係」「当該同一の者」という限定はなくなっているため、完全支配関係が継続していると判断することができる。 無論、このような規定を行ったところで、わずか4日間だけとはいえ、完全支配関係が切れた後に復活する形となることから、完全支配関係継続見込み要件を充足しないため、形式的には非適格分割になってしまうが、同一のグループに両社が帰属するのであれば、親子関係が兄弟関係になっても、支配株主が変わっても、完全支配関係継続見込み要件を充足するということが制度の中核となることから、4日間だけ完全支配関係を外すということについては、制度の濫用として包括的租税回避防止規定を適用するという点について納得感が得られやすい。 第7回、前回でそれぞれ解説したが、別訴で争われた事件も、本事件も、組織再編税制の欠陥について、包括的租税回避防止規定に頼る形となっており、本来であれば、立法上、対処しなければならない問題が数多く存在するということが立証されてしまっており、とりわけ別訴のみなし共同事業要件についての事件においては、 とまで言ってしまっているというのは、被告が勝訴した事件とはいえ、もはや皮肉にしか聞こえない。 控訴審、上告審がどのような判決になるのかは大いに気になる点ではあるが、その一方で、組織再編税制の大幅な見直しが必要ではないかというのが率直な感想である。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第11回】 「2ヶ所から給料をもらう場合の源泉徴収」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 私は、A社に勤務するサラリーマンです。副業として飲食店を経営するため、B社を設立し、代表取締役に就任しました。飲食店の運営は店長に任せて、私はA社でサラリーマンを続けます。私がB社から受け取る役員報酬は、月額8万円、50万円、120万円のいずれかにする予定です。「給与所得者の扶養控除等申告書」はA社に提出済みのため、B社には提出しません。また、社会保険はA社にて加入済みのため、B社では加入しません。 B社の役員報酬から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 「給与所得者の扶養控除等申告書」をA社に提出しているので、A社の給料が“主たる給与”、B社の役員報酬が“従たる給与”になる。“主たる給与”から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、源泉徴収税額表の「甲欄」で算出し、“従たる給与”から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、源泉徴収税額表の「乙欄」で算出する(図表1参照)。 図表1 「乙欄」の構成 今回のケースにおいては、“従たる給与”であるB社の役員報酬から社会保険料等(B社では社会保険に加入しないため、社会保険料は0円)を控除した額を源泉徴収税額表の「乙欄」にあてはめる。 以上より、B社の役員報酬(月額8万円、50万円、120万円)から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、次の通りである。 ① 月額8万円 ② 月額50万円 ③ 月額120万円 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【45】 〔第6章〕判例の見方 (その3) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 2 「判例」の範囲 ① 法律的判断の態様 前回、判決の結果を導いた論点に対する法律的判断の核心部分が「判例」である旨記した。 では、具体的にどのようなものが、この「判例」に含まれる法律的判断になるのであろうか。 この法律的判断は、通常は当事者の主張に答えるという形で述べられるか、あるいは裁判所自ら取り上げた問題点(論点)について述べられる。そして、その場合は結論だけでなく理由付けも詳細に示されることが多いことから、このように意識的に論点とされたものについて述べられた法律的判断だけが判例であるように思われやすい。 例えば刑事事件において被告人の行為に一定の法条を適用することは、まさにその事実がその法条に該当するという法律的判断を示したものにほかならない。これは税法も同様であり、例えば納税者のある事物や行為を課税するということは、その事物や行為がその法条に該当することから課税要件として課税物件に該当するという法律的判断を示したものにほかならない。 そこに特段の説明が付されていない場合もあり、特段意識されないこともあるが、これも1つの法律的判断として「判例」となりうる。 ② 「論点」についての判断とは 論点に対する判断の部分であるから、当事者に論点として取り上げられた部分を指すかといえば、そうではない。当事者に論点として主張された点が、判決では論点とされない場合も多い。また裁判所自ら職権でこれを取り上げる場合もある。さらに上記した法条の適用のように、黙示的な論点が存在することもありうる。 そして論点が真の論点であるためには、もしその点についての原裁判所の判断が誤っているということになれば必然的に原裁判が破棄されまたは取り消されるような、結論に直結しこれを左右する問題点でなければならない。 したがって、上告事件の場合でいえば、民事でいえば一定の権利・義務の存否、刑事では一定の犯罪の成否、手続法の面でいうと判決に影響するような訴訟手続違反に関するものということになる。だが、実体法上の論点は、単に権利・義務の存否、犯罪の成否という結論的なものではなく、より細分化された問題として論じられる。 例えば、権利・義務の存否は、その発生・変更・消滅の事由の存否について論じられる。また、犯罪の成否は構成要件該当性と各犯罪阻却事由の有無に分けて問題とされるべきである。またこれらの事由は、さらにいくつかの法律上の要件から成り立っているため、それぞれの要件の存否が独立した論点となる。例えば、正当防衛の成立を否定する場合でも、侵害の急迫性を否定するのと、行為の防衛性を否定するのとでは論点を異にするから、そのそれぞれについて判例が成立しうる。 ③ 裁判の審級により論点が異なる 論点は、第一審裁判所や民事の控訴審では直ちにそれだけを判断すれば足りるが、事後審査の審級である上告審等では、2つの論点が附随してくる。 1つは、主論点に先行して、主論点のいわば論点資格を問題とするものである。したがって、この種の附随的な論点の判断において主論点の論点性が否定されてしまえば、それでその主論点について判断を与える必要はなくなってしまうのである。例を挙げれば、当事者の主張が法の定める上告理由に当たるか否かであり、もし当たらなければ主論点に入る必要性がない。 もう1つの附随的な論点は、先の附随的な論点が肯定されて主論点の判断に入り、それもまた肯定されたのちに生ずる論点であるが、原判決の判断が誤りだとされた場合にその誤りが判決に影響するかどうか、あるいは原判決を破棄しなければ著しく正義に反するかどうかというような、原判決破棄の要件に関する問題である。これが肯定されて初めて原判決破棄の結論が出る(もっともこの後者の附随的な論点については、結局この原判決破棄の要件に該当しない場合には上告理由に当たらないことになるため、前者の附随的な論点に含まれるという見解もある)。 (続く)
交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第1回:2014年10月改訂】 「交際費の範囲」 公認会計士・税理士 新名 貴則 はじめに 交際費課税については、平成25年度税制改正により、下記のように中小企業の特例が拡充された。 1 平成25年度改正後の交際費課税(平成25年度末まで) (※1) 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) (※2) 平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度 〔平成25年度税制改正後の中小企業の特例のイメージ〕 しかし、平成26年度税制改正により、交際費課税についてさらなる改正が行われた。 2 平成26年度改正後の交際費課税 ① 中小法人の特例の延長 平成26年度税制改正において、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)の期限が2年間延長された。つまり、平成28年3月31日までに開始する事業年度まで、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)が適用される。 ② 「接待飲食費の50%損金算入」の導入 平成26年度税制改正によって、接待の飲食のために支出した交際費等については、その50%を損金算入できることとされた。また、その損金算入額に上限は設定されていない。 この「接待飲食費の50%損金算入」の制度は、法人の規模等に関係なくすべての法人に認められた。したがって、平成26年度税制改正前は交際費等を一切損金算入できなかった大法人でも、接待飲食費に限っては50%を損金算入できることになった。 中小法人では、平成26年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度においては、「中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)」と「接待飲食費の50%損金算入」を選択適用できる。 ただし、あくまで税務上の交際費等の中でも「接待飲食のために」支出したものに限定されており、すべての交際費等の50%が損金算入されるわけではない。また、接待飲食のための支出であっても、いわゆる社内接待費については、50%損金算入の対象とはならず全額が損金不算入となる。 〔接待飲食費の50%損金算入のイメージ〕 * * * これらの改正により、実務の現場において交際費等に係る判断及び処理を行うケースが増えることが予測されることから、本連載では、今回の改正に係るポイントだけでなく、改正前から存在する交際費課税に係るさまざまな論点についても、Q&A形式で改めて確認していくこととする。 なお、平成26年度税制改正については、下記の拙稿をあわせてご覧いただきたい。 税務上の交際費等は、以下のとおり定義されている(措法61の4④(抜粋))。 上記を読んで分かるとおり、税務上の「交際費等」の範囲は、一般的な交際費のイメージよりも広いといえる。 そのため、会計上は「会議費」「福利厚生費」などといった「交際費」以外の勘定科目に計上している支出であっても、上記の「交際費等」の定義に該当する場合、税務上はあくまで交際費等として扱われることに注意が必要である。 また、この定義の中に「通常要する費用」という表現があるとおり、交際費等の範囲には明確な線引きがあるとは限らず、むしろ曖昧であることの方が多い。 社会通念上「交際費等」なのか?そうでないのか?という微妙な判断が必要なケースは多々ある。 そこで、租税特別措置法関係通達において、税務上の交際費等として扱われる支出が以下のとおり例示されているので、まずは基本として確認しておきたい(措通61の4(1)-15)。 (了)
日本の会計について思う 【第10回】 「修正国際基準(公開草案)の意義と3つの疑問」 関西学院大学教授 平松 一夫 修正国際基準(公開草案)の公表 企業会計基準委員会(ASBJ)は2014年7月31日、「修正国際基準」の公開草案を公表した。もう少し正確に言うと、「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」の公開草案である。 2010年3月期以降、わが国では一定の要件を満たす企業について国際会計基準(IFRS)の任意適用が認められている。任意適用にあたって適用される「指定国際会計基準」はIFRSのうち金融庁長官が定めたものであり、IFRSをそのまま受け入れるかどうかを判断した上で指定がなされてきた。その意味でIFRSに対して「削除又は修正」するといった考え方はとられていない。この「指定国際会計基準」は、ピュアIFRSと同義と考えても差し支えない状況にある。 その後、2013年6月19日に企業会計審議会は任意適用を促進することなどをねらいとして、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」を公表した。その中で、ピュアIFRSのほかに、わが国においても、「あるべきIFRS」あるいは「我が国に適したIFRS」といった観点から、個別基準を一つ一つ検討し、必要があれば一部基準を削除又は修正して採択するエンドースメントの仕組みを設けることが提案された。 これを受けてASBJが約1年にわたり検討を重ね、2012年12月31日時点でIASBによって公表されていたすべての会計基準等についてエンドースメント手続きを行い、その結果として2つの「修正国際基準」の公開草案を公表したのである。 修正国際基準(公開草案)の意義 ASBJは、IASBにより公表されていた会計基準と日本の基準を比較して『30の論点』を抽出したという。そのうち「会計基準に係る基本的な考え方に重要な差異があるもの」として、次の『4項目』が識別された。 今回はこのうち①と②の2つの項目に限定して公開草案が作成された。 それはなぜか。 IFRSの任意適用を拡大するには、上記のすべてについて「修正国際基準」を作成する方が良いともいえる。しかし、ASBJはあえて2つに限定した。 ここに、ASBJの深慮と苦労が凝縮されていると思われる。 仮に多くの項目で「削除または修正」を行った「修正国際基準」を作成すると、日本はIFRSとは全く異なる会計基準を適用しているとみなされるであろう。またそれは、2008 年のG20首脳宣言で、わが国が「単一で高品質な国際基準」を策定するという目標にコミットしたことに反することになり、結果としてIFRSの開発におけるわが国の発言力を弱めることになると思われる。 そこでぎりぎりの現実的対応として考えられたのが、『のれん』と『包括利益』の2つに限って修正国際基準を作成することであったと考えられるのである。 修正国際基準(公開草案)に対する“3つの疑問” こうして「修正国際基準」の公開草案が公表されたわけであるが、その作成に直接携わった方々にとっては自明であると思われるものの、解説を読んでも分かりにくい点がある。 ここでは簡単に“3つの疑問”について述べたい。 第一に、「修正国際基準」という名称である。 「日本版IFRS」よりは適切な名称であるが、なにゆえ「修正国際会計基準」でなく「修正国際基準」なのか。 冒頭に掲げた正式の長い名称を読めばそれが国際会計基準に関わるものであることが分かる。しかし、略称が一人歩きすることを想定すると、この疑問が生じる。 第二に、任意適用する場合の「指定国際会計基準」と「修正国際基準」の関係が分かりにくい。 この点は公表物や解説をきちんと読めば書かれているのであろうが、私にはなお分かりにくい。「指定国際会計基準」と「修正国際基準」はそれぞれ別々のセットとして適用するのであろうか。あるいは一部だけ「修正国際基準」を適用するといったこと(例えば、その他の包括利益のリサイクリングを行うが、のれんは非償却とすること)は許されるのであろうか。 第三に、まだ公開草案の段階であるとはいえ、今回「修正国際基準」が公表されたことにより、わが国には4つもの会計基準が並存することになる。 ①ピュアIFRS(指定国際会計基準)、②修正国際基準、③米国会計基準、④企業会計基準である。 これでは多すぎてよくないのではないか。 私の経験によれば、ここに掲げた3つの疑問のうち最初の2つには必ず明確な回答が用意されていると予測される。最後に掲げた4つの会計基準の並存は、個人的には耐えがたいところであるが、解説を読む限りそれは「過渡的」な状況であり、長期的には①と④に収斂すると期待される。 私はかねてより、上場会社の連結財務諸表は①ピュアIFRSで、個別財務諸表を含むその他は④企業会計基準で、と主張してきた。いずれそのような方向に向かうこと、すなわち②修正国際基準や③米国会計基準がいずれは不要になることを期待している。 (了)
減損会計を学ぶ 【第18回】 「減損損失の配分」 公認会計士 阿部 光成 減損会計では、減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とすることとされている(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)、二3)。 減損損失は、損益計算書において、原則として、特別損失として表示される(減損会計基準、四2)。 貸借対照表においては、減損処理を行った資産の貸借対照表における表示は、原則として、減損処理前の取得原価から減損損失を直接控除し、控除後の金額をその後の取得原価とする形式で行うこととなる(減損会計基準、四1)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 減損損失の配分 貸借対照表における減損損失の表示については前述のとおりであり、資産グループについて認識された減損損失は、当該資産グループの各構成資産に配分することになる(減損会計基準、二6(2))。 減損損失の配分の方法としては、帳簿価額に基づいて各構成資産に比例配分する方法が考えられるが、各構成資産の時価を考慮した配分等他の方法が合理的であると認められる場合には、当該方法によることができるとされている(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」四2(6)②、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)26項、105項)。 まとめると次の方法が考えられる。 Ⅱ 合理的な配分方法 減損適用指針105項は、減損損失を配分する合理的な方法には、共用資産を加えることによって算定される減損損失の増加額の配分の考え方(減損適用指針48 項(5))にならって、各構成資産に配分される減損損失は、当該資産グループの構成資産の全部又は一部の正味売却価額が容易に把握できる場合には、当該正味売却価額を下回る結果とならないように、合理的な基準により、他の各構成資産に減損損失を配分することができることも含まれると規定している。 減損適用指針48 項(5)は次のように規定している。 Ⅲ 簡便的な取扱い 減損適用指針106項は、資産グループ全体において処理する方法(例えば、各構成資産の減価償却は、減損損失認識前の帳簿価額に基づいて行い、資産グループとしての減損損失累計額は、減価償却の実施にあわせて、将来キャッシュ・フローの見積期間で取り崩すような方法)を簡便的に認めるべきではないかという見解もあったことについて述べている。 しかしながら、そのような簡便的な方法は、次の理由から適当ではないとし、認められていない。 ただし、減損適用指針106項は、次の方法について述べているので、実務上、注意が必要である。 Ⅳ 建設仮勘定 資産グループが複数の建設仮勘定から構成されている場合、資産グループについて認識された減損損失は、資産グループの帳簿価額から控除するが、減損損失の測定時には各建設仮勘定に配分せず、完成時にそれまでの総支出額等の合理的な方法に基づいて配分することになる(減損適用指針27項)。 (了)