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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第22回】「法人税法22条2項の「取引」の意義(その1)」

筆者:酒井 克彦

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酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第22回】

「法人税法22条2項の「取引」の意義(その1)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

はじめに

これまでこのコーナーにおいてもしばしば論じてきたように、租税法律主義の下、租税法の解釈に当たってはできるだけ文理解釈によるべきとする考え方が支配的である。また、そのことの帰結として、法条の読み方についても、条文に用いられている概念(用語)の意義をどのように理解するかが重要となるため、この点が争われる事案は決して少なくない。そして、租税法中に用いられている概念は固有概念と借用概念に分類することができるが(すでにここでも紹介したとおり、「一般概念」として捉えるものもあり得る。)、その多くは借用概念であるといえよう。もっとも、ある用語が租税法固有の概念ではなく借用概念であると捉えたとしても、果たしてどこから借用してきたのかという点が議論されることもある。

今回は、法人税法22条《各事業年度の所得の金額の計算》2項に用いられている「取引」という概念の意義をどのように解すべきかが争点の一つとなった、いわゆるオーブンシャ・ホールディング事件を素材として、この辺りを考えてみたい。

 

Ⅰ オーブンシャ・ホールディング事件

1 事案の概要

内国法人であるX社(原告・控訴人・上告人)は、その保有するA社株式等を出資してオランダに100%出資の外国子会社B社を設立し、B社の株主総会において、新たに発行する株式の全部をX社の関連会社であるオランダ法人C社に割り当てる決議を行った。これに対し、かかる新株の発行は著しく有利な価額でC社に割り当てられたもので、これによりX社が保有するB社株式の資産価値を何ら対価を得ずにC社に移転させたとして、税務署長Y(被告・被控訴人・被上告人)は、その移転した資産価値相当額をC社に対する寄附金と認定し、X社の法人税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分をした。本件は、X社が、本件更正処分のうち納付すべき税額を超える部分および本件賦課処分はいずれも違法であるとしてその取消しを求めた事案である。

以下、本稿において関心を寄せる「取引」の概念に関する部分を中心に、この事件を見てみよう。

2 当事者の主張

(1) X社の主張

X社の主張を分析してみよう。

法人税法22条4項は、法人税の簡素化を目的として創設された規定であるから、同項が規定する会計処理の基準は、広く一般社会において確立された会計処理基準でなければならず、一般社会において確立された会計慣行が公正妥当と認められない場合には、税法上に「別段の定め」を設けて初めて当該会計慣行を排除して税法独自の所得金額の計算原理を適用できるのである。

X社の主張の骨子は、まず、法人税法が所得金額の計算に当たり企業会計の基準によるべきとするいわゆる公正処理基準を謳った法人税法22条4項の解釈により、B社における新株の有利発行によって生じたB社株式の含み益をX社の益金に算入する根拠はないと主張するところから始まる。

第三者に対する新株の有利発行により旧株式の含み益が減少しても、旧株主において減少した当該含み益が実現されたものとして、旧株式の帳簿価格を評価替えして評価益を計上することはない。すなわち、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によっても、第三者に対する新株の有利発行の際、旧株式の含み益が減少したとしても、旧株主において当該含み益が実現されたものとはされていない。

このように、X社は、企業会計においては、「第三者に対する新株の有利発行の際、旧株式の含み益が減少したとしても、旧株主において当該含み益が実現されたものとはされていない」との主張をしたのである。

そして、法において、第三者に対する新株の有利発行により、旧株主の株式の含み益が減少しても、旧株主において、減少した当該含み益が実現したものとみなして「益金」に算入させる旨の「別段の定め」は存在しない。したがって、仮に、本件増資がC社への第三者に対する新株の有利発行に該当するとしても、本件増資により、旧株主であるX社が保有するB社株式200株について、減少相当額の含み益が実現したとして当該含み益を益金に算入することはできない。

上記のように、X社は、法人税法内に「別段の定め」がないことを前提として、旧株主において含み益を実現したとは扱わない企業会計の考え方が支配していると論じたのである。

次に、X社は、法人税法22条2項にいう「取引」の意義について次のように主張する。

益金に算入すべき金額を規定する法人税法22条2項は、すべての無償による資産の譲渡又はその他の無償取引から必ず益金が発生する旨を規定しているのではなく、同条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って益金を計算するに際し、「無償による資産の譲渡」又は「その他の無償取引」から益金が発生する場合があり得ることを規定しているにすぎない。会計学上、利益の実現があったといえるためには「資産」の移転がなければならないとされ、「資産価値」の移転だけでは、利益の実現が生じない。法人税法22条2項の「取引」について税法上格別の規定がない以上、その意味は一般私法におけるのと同じと解すべきである。

このように、X社は、法人税法22条2項にいう「取引」について、格別の規定がないのであるから一般私法におけるのと同じ意義、すなわち私法からの借用概念であると解すべきと主張しているようである。

(2) Yの主張

次に、Yの主張をみてみよう。

本件増資新株の発行に関する条件は、Xの意思によりいかようにも定めることができたものであり、既存株主であるX社は、保有していたB社株式の価値のうち255億7,926万6,285円を何らの対価を求めることもなく新株主であるC社に移転させた。したがって、本件決議は、X社が保有するB社株式の価値の一部をC社に贈与する行為にほかならない。これは、法においては、同価値を時価により実現したものと解すべきであるから、X社から社外流出した限度において、法人税法22条2項の「無償による資産の譲渡・・・その他の取引・・・に係る・・・収益」(以下「無償取引に係る収益」という。)として課税の対象となるものである。

このように、Yは、X社が行ったB社株主総会における決議は、X社が保有する資産価値の一部をC社に贈与する行為にほかならないとして、法人税法22条2項の要件を満たすと主張した。すなわち、法人税法22条2項にいう「無償による資産の譲渡・・・その他の取引」に該当するというのである。

そして、X社の主張は、法人税法22条4項の公正処理基準を企業会計と同視する前提において誤っているとした上で、次のように論じている。

法人税法22条2項が、法人の有償又は無償による資産の譲渡等に係る収益を益金に算入する旨定める趣旨は、法人が管理支配権を行使して資産価値を他に移転し、資産が法人の支配を離脱し、他に移転する際、これを契機として顕在化した資産の経済的価値の担税力に着目して清算課税しようとするもので、上記規定は、いわゆるキャピタル・ゲインに対する課税を定める。資産の譲渡又はその他の取引とは、法人が資産に対する管理支配権を行使してその資産価値の全部又は一部を他に移転すること、すなわち所得を構成する資産の増加を認識すべき一切の場合を意味し、法律行為的な取引に限定されない。

Yは、法人税法22条2項にいう資産の譲渡又は「その他の取引」とは、所得を構成する資産の増加を認識すべき一切の場合を指すというのである。

この点が、「取引」概念の理解においてX社とYの主張の最も大きく異なるポイントであるといえよう。すなわち、X社は、「取引」とは法律概念であるとするのに対して、Yは、法律概念とは捉えていないのである。Yは、明示的に主張はしていないものの、借用概念ではないと解する主張をしているのであろうか。

(続く)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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筆者紹介

  • 酒井 克彦

    (さかい・かつひこ)

    法学博士(中央大学)。
    国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学商学部教授として、学部のほか大学院やロースクール等でも教鞭をとる。
    一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

    一般社団法人ファルクラム http://fulcrumtax.net/
    一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

    【著書】
    「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
    「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
    『スタートアップ租税法〔第3版〕』(2015年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
    『裁判例からみる所得税法』(2016年、大蔵財務協会)
    『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(2017年、大蔵財務協会)
    『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
    『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕』(2018年、中央経済社)
    『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -所得税裁判事例精選20』(2018年、第一法規)
    『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年、ぎょうせい)
    その他書籍・論文多数

     

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