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消費税転嫁と独占禁止法・下請法

消費税転嫁と独占禁止法・下請法   弁護士 大東 泰雄   1 独占禁止法・下請法は消費税転嫁を目指す企業の味方? 平成24年8月、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(以下「消費税法改正法」という)及び「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」が成立した。 これにより、消費税の税率(国と地方の合計)は、平成26年4月1日に8%、平成27年10月1日に10%へと、2段階で引き上げられる見通しである。 税率引上げの幅が大きいだけに、引き上げられた消費税相当額を円滑かつ適正に転嫁することは、企業にとって死活問題ともなり得る極めて重要な課題である。 しかし、独占禁止法及び下請法が、消費税の円滑かつ適正な転嫁を実現するためのツールとして重要な役割を果たすことになりそうだということを、読者の皆様はご存知だろうか。   2 消費税法改正法、推進本部基本方針 消費税法改正法7条1号ホは、消費税の円滑かつ適正な転嫁に向けて、政府が諸々の措置を講ずるべき旨を規定している。 そして、上記規定に基づき内閣が設置した消費税の円滑かつ適正な転嫁等に関する対策推進本部は、平成24年10月26日、「消費税の円滑かつ適正な転嫁・価格表示に関する対策の基本的な方針(中間整理の具体化)」(1)(以下、「推進本部基本方針」という)を決定、公表した。 (1) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shouhizei/pdf/kettei_121026.pdf 消費税法改正法7条1号ホ及び推進本部基本方針には、消費税の円滑かつ適正な転嫁のための様々な対策が盛り込まれているが、その骨子は、独占禁止法・下請法と関連性の深い以下の2点に集約することができる。 そこで、本稿は、上記2点について、本稿執筆時点で判明している限りの情報を概観することとしたい。   3 消費税転嫁拒否等と優越的地位の濫用・下請法 消費税率の引上げは、優越的地位にある事業者や親事業者にとっても深刻な問題であるため、消費税率の引上げに伴って、例えば、一方的に消費税転嫁を拒否する、自己の納入先への消費税転嫁ができなかったことを理由に下請事業者に支払うべき下請代金から消費税率引上げ相当額を減額する、消費税率引上げ相当額の転嫁を受け入れる代わりに手伝店員の派遣を要求するなどといったように、優越的地位の濫用や下請法違反に該当する「弱い者いじめ」が多発する可能性がある。 そこで、消費税法改正法及び推進本部基本方針は、以下のとおり、消費税転嫁拒否等の取締り及び監視の強化、公正取引委員会及び中小企業庁による転嫁拒否事案等の調査・指導・勧告に関する独占禁止法・下請法の特例立法措置、取締り・監視強化のための体制整備等を行うことを明らかにしている。 既に、平成25年度予算案における公正取引委員会の予算には、新たに4億3,000万円の消費税転嫁対策費用や、管理職及び28名の消費税転嫁対策対応人員の投入が盛り込まれるなどしており(2)、消費税転嫁対策に本気で取り組む公正取引委員会の姿勢が伺われる。 (2) http://www.jftc.go.jp/pressrelease/13.january/13012902.pdf   今後、立場の強い取引先による消費税転嫁拒否等に直面した中小企業等は、円滑かつ適正な消費税転嫁を実現するため、上記の特例立法や、公正取引委員会等が新たに整備する体制についてよく理解し、独占禁止法の優越的地位の濫用や下請法を消費税転嫁のツールとしてフル活用することが必要になるであろう。 他方、大企業等にとっては、消費税率引上げに際して、転嫁拒否など優越的地位の濫用及び下請法違反に該当する可能性のある行為が行われることのないよう、コンプライアンス体制を具体的に見直すことが重要である。   4 転嫁カルテル・表示カルテル 同業者同士が話し合って製品の販売価格を決めることは、いうまでもなくカルテルとして独占禁止法違反であり、同業者同士話し合って消費税転嫁の方法を決めることも、通常であれば許されない。 しかし、特に交渉力の弱い中小企業等の場合、取引先に引上げ分の消費税相当額の転嫁を求めても、「御社の競合先は消費税を転嫁しないと言っている」などと転嫁を認めてもらえないことが考えられるため、「業界が足並みをそろえて、引上げ分の消費税相当額の転嫁を求められないものか」という切実な要望を持つ中小企業等は多いと思われる。 そこで、消費税法改正法及び推進本部基本方針は、以下のとおり、転嫁カルテル(3)及び表示カルテル(4)を独占禁止法の適用除外とする特例立法措置を行うことを明らかにしている。 (3) 消費税の転嫁の方法の決定についての共同行為。 (4) 消費税についての表示の方法の決定についての共同行為。 転嫁カルテル及び表示カルテルは、消費税の円滑かつ適正な転嫁を行う上で有用なツールとなり得る一方、特例立法措置の対象から外れる行為はカルテルとして独占禁止法違反とされる可能性があるため、企業は、今後、適用除外の対象となる企業の範囲、対象行為の範囲、公正取引委員会への届出の方法などについて正確な情報を把握することが必要不可欠である。   5 今後の特例立法措置等の見通し 転嫁拒否対策及び転嫁カルテル・表示カルテルの適用除外に関する特例立法法案、公正取引委員会が行う体制整備やガイドラインの具体的内容は、本稿執筆時点においてはまだ公表されていない(5)。 (5) 一部国会議員がインターネット上で公表している「第183回国会(常会)内閣提出予定法律案等件名・要旨調」によれば,内閣は,「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための特定事業者による消費税の転嫁の拒否等の行為の是正等に関する特別措置法案(仮称)」を平成25年3月中旬に提出する予定とされている。 しかし、自由民主党及び公明党の平成25年度税制改正大綱(6)にも消費税転嫁対策が明記されており、平成26年4月の消費税率引上げに先だって、これらの措置が行われると見込まれるため、早め早めの情報収集が肝要である。 (6) http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/pdf085_1.pdf 今後、法案やガイドラインが公表され次第、このProfession Journal誌上において、その内容をご紹介することとしたい。 (了)

#No. 7(掲載号)
#大東 泰雄
2013/02/21

会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第2回】「個人事務所の有償引継ぎ」

会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第2回】 「個人事務所の有償引継ぎ」   公認会計士・税理士 岸田 康雄    1 税理士業務の安定性 商品販売を行うような一般事業会社は、消費者との単発取引を繰り返さなければならないため、商品を販売する営業活動を常に行わなければならない。 また、外部経営環境が変化した場合には、事業戦略を練り直し、会社の経営資源を再構築しなければならない。 事業会社の経営者は、絶えず経営環境の変化を捉え続ける必要があり、気が休まる時がない。 これに対して、税理士業務を提供する会計事務所は、一度顧問契約を締結してしまうと、よほどの大失敗がない限り、顧客との関係が継続する。それゆえ、営業活動を継続して行う必要がない。 また、直面する経営環境が変わらないため、提供するサービスや担当する職員を変える必要はなく、そもそも事業戦略を立案する必要性すらない。 このように、会計事務所が一般事業会社と異なる点は、いったん顧問契約を結んでしまえば、キャッシュ・フローを安定的に獲得できることにある。このキャッシュ・フローの安定性は、税理士業務の特徴であり、事業価値源泉の一つといえる。 このため、会計事務所の事業承継においては、顧問契約を切られることなく引き継ぐことが重要な課題となる。   2 個人事務所の事業承継 個人事務所を前提とすれば、その税理士業務の事業承継には、以下の4つの方法がある。 現在、ほとんどの開業税理士は、上記(1)子供に税理士資格を取得させて会計事務所を引き継ぐ方法をとっている。つまり、事業会社の場合と同様に、親族内承継が一般的な方法である。 しかし、事業承継問題に悩む事業会社の経営者とは対照的に、個人事務所の事業承継は、これまでもスムーズに行われてきている。 この理由の一つとして、中小規模でも法人化して経営を行うことが多い一般の事業とは異なり、ほとんどの会計事務所が個人事業として経営されていることが挙げられる。 個人事業のメリットは、その事業承継に際して、相続税が非課税であることにある。事業会社の場合も同様ではあるが、税理士の場合でも、営業権は課税財産とはならない。例えば、税理士業務を営業目的とする開業税理士の「営業権」については、「評価しない。」とされている。 すなわち、会計事務所を個人事業として営む税理士が、その税理士業務を子供へ相続する場合、どれだけ高収益の事業であったとしても相続税が課されることはないのである。 つまり、会計事務所の税理士業務は、後継者となる子供が税理士資格を取得することができれば、無税で親族内承継されるものなのである。 しかしながら、近年は子供が他の職業に就いたために税理士として働かないケースが増えてきている。 このような場合には、会計事務所内の職員や、親しい知人の税理士、あるいは、同じ税理士会支部の他の税理士に税理士業務を無償で引き継がれるケースが一般的であろう。 このように、親族内承継と身近な税理士への無償引継ぎによって、税理士の事業承継はスムーズに実現していたのである。後述するような有償引継ぎは、あまり行われてこなかったようである。   3 個人事務所の有償引継ぎ 近年、増えてきている事業承継の方法が、無償ではなく有償で他の税理士に引き継ぐ方法、すなわち、会計事務所M&Aである。 それでは、有償での引継ぎ、つまり会計事務所の譲渡は、どのように行われるのであろうか。 まず、商法上の事業譲渡のスキームが適用できるかどうか検討してみると、税理士業務は、商法501条及び502条に規定する商行為に該当するものではない。 「業とする」の解釈についても、税理士が業として反復継続してなす行為は、たとえ本人が主観的に営利目的をもって行うとしても、営業行為とは認められないものと解されている。 したがって、税理士は商法上の「商人」として扱われることがないことから、事業譲渡のスキームは適用することができない。 また、以下のように、個人事務所は譲渡可能なものとして扱うことができないとされている。 このことから、個人事務所の有償引継ぎは、税理士業務の営業権を引き継ぐというわけではなく、什器備品などの個別資産を売却するとともに、顧客との顧問契約や職員との雇用契約が切れることなく引き継がれるよう、買い手に「斡旋」することによって行われる。 つまり、個人事務所の有償引継ぎの対価は、「斡旋」の手数料として扱われ、引退する所長(売り手)は、後継者(買い手)から現金を受け取るのである。 それゆえ、顧客の承継には、顧客の同意を得て新たな顧問契約を結ぶ必要があり、職員の承継も同様に新たな雇用契約の結ぶ必要がある。 もちろん、すべての顧客や職員の同意を得られることが保証されるものではなく、顧客や職員が多数の場合には、「斡旋」のために相当の時間と労力が必要となるであろう。 ちなみに、引退する所長が税理士業務の有償引継ぎを行って得られる利益は、斡旋の一時金の支払いだけではない。 所長が引退を決意した場合でも、新しい所長への事業承継のために、数年間は会計事務所に職員として残ることが一般的である。その数年間に受け取る給与や退職金も、実質的には斡旋の対価の一部を構成するものといえよう。   4 個人事務所の有償引継ぎの税務 税理士業務の有償引継ぎを行った場合に受け取った対価について、理論的には、 (1) 譲渡所得とみる考え方 (2) 事業所得とみる考え方 (3) 雑所得とみる考え方 がある (1)譲渡所得とする考え方は、税理士業務を営業権に類似した無形財産権であると理解し、その対価を受け取ったと考えるものである。また、(2)事業所得とする考え方は、弁護士業務の事業承継の事案において国税不服審判所がとった解釈である。 しかし、個別通達では、受け取った対価は、顧客を引き継ぐための役務(斡旋)の対価であると考え、税務上「雑所得」としている。 これについては、近時の国税不服審判所(平成22年6月30日裁決)においても、同様に取り扱われていることから、有償引継ぎの際に受け取った対価は「雑所得」になると考えられる。 ちなみに、会計事務所の有償引継ぎを行う場合、引退する所長の税負担を考慮に入れた引継方法を検討しなければならない。 すなわち、対価を雑所得となる一時金の支払いではなく、引き継ぐ税理士から支払われる給与と退職金に回したほうが有利になる可能性があるため、これらを考慮したうえで支払方法を決めるべきである。 税理士法人の場合、個人事務所の事業承継とは異なるのだろうか。 これについて次回検討を行う。 〈税務上有利な支払方法〉 (了)

#No. 7(掲載号)
#岸田 康雄
2013/02/21

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第2回】「外来診療の経済性」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第2回】 「外来診療の経済性」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 外来診療収益の構成比 第1回では、病床規模別の利益率と業績格差を生む要因を取り上げ、そこでは、医業費用の削減よりも、医業収益の増加が重要であることについて言及した。第2回は、医業収益の実態に迫っていきたい。 医業収益は、一般的な病院では、入院7割、外来3割という構成比になっている。ただし、図表1に示すように、病床規模別でみると中小規模の病院では外来比率が高く、大規模な病院ほど入院依存度が高くなっている。 図表1 病床規模別 医業収益の構成比 外来依存度が高いということは、100床未満の病院は診療所に近いことを意味しており、大規模病院は手術や救急医療などを伴うより重篤な患者を受け入れている高機能病院であることを意味しているのであろう。 しかし、図表2に示すように、病院機能別でみると、急性期病院よりも療養型病院のような慢性期的な病院の方が入院収益の比率が高くなっている。これは、慢性期病院が高機能であることを意味するわけではなく、外来での診断・治療機能を有していない結果、入院の比率が高くなることを意味している。 図表2 病院機能別 医業収益の構成比 つまり、慢性期病院では、高額なCTやMRIなどを保有しておらず、迅速で正確性を要する検査なども必要とする患者が少ないため外来診療収益が少ない傾向にあることが予想される。 これが急性期病院では、たとえ3割であっても外来診療収益が重要であり、外来患者を縮小することは困難であると主張する論者がいることに関係する。 しかし、筆者は外来よりも入院機能に重点を置くことが必要だと考えている。もちろん入院患者を獲得するためにも外来機能を強化することは重要であるが、風邪などの軽傷な一般外来患者が増加したところで、入院につながることはない。病院では、入院患者がいることを前提として設備投資と24時間の人員配置をしているわけであるから、固定費を回収するためにも入院患者をいかに獲得するかが重要となる。 一般外来の患者が入院する確率は1%と言われていることからも、自院の機能に見合った外来患者に焦点を絞ることも有効である。通常、高機能な病院では、外来は紹介制をとっていることが多いと思う。紹介患者は検査や画像診断を実施し、高収益にもつながるだけでなく、入院確率も高い。 外来も手術も救急も、何でもやりたいと思うのが病院経営層の思いかもしれない。しかし、現実的には医療資源は限られている。その限られた資源であるマンパワー等をどこに配分するか、それこそが戦略であり、適切な戦略が高い経営効率につながる。地域の実情を見据えて、自院が何をすべきかを考えることが求められているのである。   2 入院と外来、どちらの収益性が高い? 最後に、入院と外来、いずれの収益性が高いかのデータを示しておきたい。 まず、診療所は全体的に収益性が高い傾向にある。その中でも病床を持つ有床診療所は、一般の診療所よりも利益率が低いようだ(図表3)。 図表3 一般診療所(全体)の業績推移 ただし、診療所全体としては、病院よりも利益率が高いことは一般に指摘されているとおりである。また、病床を有する病院では外来は不採算だが、入院は高収益である傾向が強くみられる。 図表4・5は、30程度の総合病院で診療科別管理会計を実施した結果である。細かくみれば計算の妥当性が問われることもあるかと思うが、傾向としては入院が高収益で、外来は不採算であることが一目瞭然である。 図表4 外来診療に関しては、半数以上の診療科で赤字に陥っている。 図表5 入院診療に関しては多くの診療科で黒字であり、採算性が優れている。 (了)

#No. 7(掲載号)
#井上 貴裕
2013/02/21

事例で学ぶ内部統制【第11回】「効率化のために他社が取り組んだ評価対象部門の集約事例」

事例で学ぶ内部統制 【第11回】 「効率化のために他社が取り組んだ 評価対象部門の集約事例」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回から3回にわたり、プロセスレベルの内部統制(PLC)の運用評価のあり方をめぐるテーマを取り上げる。 有効かつ効率的に内部統制報告制度を運用するためのテーマは数多いが、効率化の要請に応えるとすれば、焦眉の急は運用評価の効率化であろう。 そこで、今回は、運用評価の効率化に向けた評価対象部門の集約事例を紹介する。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、PLCの運用評価で評価対象部門を集約することの可否、その要件、留意点について意見交換した。 各社の創意工夫を見てみよう。   評価対象部門の集約 まず、評価対象部門の集約とは何の議論であるかを確認する(下図参照)。 複数の事業や大規模な事業を行う企業では、コントロールが複数の部門で運用されている場合がある。例えば、A、B、Cという3部門でコントロールが運用されている場合、そのコントロールの運用状況の有効性の評価で、評価対象となるサンプルを抽出する母集団をどのような単位で設定するかが問題となる。 原則は3部門を別個独立した3個の母集団と捉えて各母集団からサンプルを抽出する。 では、この原則を修正しAからCまでの3部門を集約し、1個の母集団と捉えてサンプルを抽出することは可能か。 これが運用評価における評価対象部門の集約の問題である。 〈評価対象部門の集約〉   評価対象部門の集約の実態 筆者が、「このような評価対象部門の集約をしているか」と切り出したところ、参加企業の対応は次の3つのパターンに整理できた。 【パターン1】 個別評価型 参加企業Aは、「集約しておらず、部門毎に評価している。わが社は、半導体事業と機器事業に大きく分かれ、全部で約20部門が営業している。整備評価のため20部門がリスクコントロールマトリクス(RCM)を作った。運用評価では20部門を別々の母集団と考えて評価している。例えば、25件のサンプルが必要な場合、20部門からそれぞれ25件を抽出するため、評価件数は20部門に25件を掛けて500件となってしまう」(部品メーカー)と話した。 参加企業Bも、「部門が異なる場合は、仮に同一のコントロールであっても、母集団を集約していない。しかし、例えば、食品と生活用品のように扱う商材が異なるだけで、財務報告に至る処理には同じコントロールが運用されている場合、まとめて評価するべきかが今の課題だ」(小売)と話した。 このように、同一のコントロールが複数の異なる部門で運用されている場合でも、運用評価のサンプル抽出にあたり、それらの部門を集約せず、原則に則り個別に評価する企業は4割となった。 【パターン2】 運用集約型 参加企業Cは、「一定の要件を満たせば、集約している。わが社は、機械、金属、エネルギー、食料、生活資材、金融などを扱う総合商社で、部門は100以上ある。管理業務は、扱う商材が異なっても同じITインフラで処理されているものの、業務の流れや利用する証憑の確認項目に相違がある。 そこで、整備評価では、異なる100部門についてそれぞれRCMを作成したが、運用評価では、複数の部門のコントロールを横串で比較し、一定の要件に照らして同一のコントロールであると判断できれば、複数の部門を同一の母集団とみなしてサンプルを抽出している」(商社)と、整備評価の段階では個別に評価するが、運用評価の段階では集約していた。 【パターン3】 整備・運用集約型 参加企業Dは、「さらに進めて、そもそもRCMを部門毎に作らず、全社として1つに統一した。わが社は、本社と支店に約10部門で構成されるソフトウェア開発会社だが、異なる部門に対しても統一した業務規程とコントロールを整備した。だから、C社さんのように部門毎にRCMを作成するのではなく、10部門共通のRCMを作成し整備評価することができた。必然的に運用評価も10部門を1個の母集団としてサンプルを抽出した」(情報通信)と、運用評価だけでなく、整備段階も含めたコントロールの標準化を図っていた。 【パターン2】と【パターン3】を合わせて、評価対象部門を集約している企業は6割となった。   コントロールが同一であるための要件 評価対象部門を集約している企業は、いずれもそのコントロールが同一であれば、部門が異なっても運用評価の母集団としてそれらの部門を集約している。そこで、【パターン1】の参加企業が、「どういう要件がそろえば、そのコントロールが同一であると認識できるのか」と問うた。 参加企業Eは、「業務の流れと利用するITインフラが同一であれば、コントロールを運用する部門や実施者が異なっても、同一のコントロールであると認識している」(食品メーカー)と答えた。 参加企業Fは、「まず、全社共通のルールに準拠していることが必須条件だ。それに加えて、全社共通の基幹システムを使用していること、全社共通の帳票が使用されていることが満たされれば、部門の差異を問わず集約している」(精密機器メーカー)と答えた。 また、前出の参加企業Cは、「理屈の問題として、そのコントロールのアサーションが同一であることが必要だ。さらに、運用評価で異なる部門を同じ母集団とするという実務上の要請から、そのコントロールの実施頻度と実施タイミングが同一であることを要件としている」と付け加えた。   評価対象部門を集約する際の留意点 さらに議論は、運用評価において異なる評価対象部門を集約して得られる効果に及んだ。 《正の効果》 すべての参加企業が、メリットとして、「運用評価におけるサンプル数の総数を削減することによって、評価時間の短縮、評価工数の削減ができる」という点で一致した。 複数の参加企業は、「部門間のコントロールを比較することを通じて、各部門間の業務の差異や関連性が可視化され、全社共通のルールによる業務の標準化と効率化につながる」と、副次的効果を報告した。 《負の効果》 他方、集約していない複数の参加企業【パターン1】が、 「過度の集約を行うと、事業部門、支店などの部門の固有性による対応状況の違いを反映した有効な評価ができない」 「取引金額や取引形態の違いが存在する部門を集約して、その母集団から取引データに基づきランダムにサンプルを抽出してしまうと、少額であるが取引件数が多い部門が選ばれて、高額な取引を行う部門が選ばれにくくなり、リスクアプローチとは逆の結果となってしまう」 と、集約に躊躇する理由を話した。 また、集約している参加企業【パターン2・パターン3】も、 「集約した部門のサンプルから不備が発見されたとき、不備が発生した部門だけでなく集約対象となった他の部門全体も是正や再評価が必要となるので、かえって業務負荷が増える場合もある」 「集約した母集団からランダムにサンプルを抽出すると、評価対象から漏れてしまう部門が発生し、結果として評価の網羅性が担保できなくなる。それを回避するため、集約した部門を万遍なく網羅的に評価しようとすると、サンプル抽出に恣意性が働いてしまう」 と、集約に伴う悩みを話した。 これらの負の効果は、いずれも運用評価の効率化に向けて評価対象部門を集約する際に対応すべき留意点と捉えるべきである。 次回は、運用評価のサンプルの対象期間とサンプル件数の工夫を取り上げる。 (了)

#No. 7(掲載号)
#島 紀彦
2013/02/21

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情【第3回】─「移住する」という選択─

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情 【第3回】 ─「移住する」という選択─   Advance Business Support Pte. Ltd. 代表 大曽根 貴子    ■富裕層に人気の移住先、シンガポール 富裕層への課税が強化されている。1月24日に公表された平成25年度税制改正大綱では、所得税の最高税率が45%(現行40%)、相続税の最高税率が55%(現行50%)に引き上げられることが明記されている。 富裕層課税の強化に加え、日本の財政問題や原子力問題等のジャパンリスクを避けるために、シンガポールへ移住したいという相談が増えている。 シンガポールが移住先として富裕層に人気の理由は、第一に税金の安さ(第1回参照)があるが、その他に治安の良さ、教育水準及び医療水準の高さが挙げられる。   ■居住者と非居住者 合法的に日本の税金を少なくするには、日本での課税根拠をなくすことである。この課税根拠をなくすには、生活拠点や資産を海外に移すことが必要となる。 所得税法は、「居住している場所」によって課税対象範囲が異なる。 所得税法では、納税義務者を「居住者」と「非居住者」に区分しており、それぞれ課税対象範囲が異なる。 (1) 居住者 居住者とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいう。居住者は、「非永住者」と「非永住者以外の居住者」とに区分される。 ① 非永住者 非永住者とは、居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である個人をいう。 非永住者は、国内において生じた所得(国内源泉所得)と、これ以外の所得(国外源泉所得)で日本国内において支払われたもの又は日本国内に送金されたものが課税の対象となる。 ② 非永住者以外の居住者 非永住者以外の居住者とは、居住者のうち日本国籍のある人、又は、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年超である個人をいう。 ほとんどの日本人は、非永住者以外の居住者に該当し、所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、そのすべての所得に対して課税される。 (2) 非居住者 非居住者とは、上記の居住者以外の個人をいう。 非居住者は、日本国内において生じた所得(国内源泉所得)のみが課税対象となる。 海外移住者は、所得税法の非居住者となり、課税範囲が狭くなる。   ■シンガポールへの移住方法 では、日本人はどのようにして、シンガポールへ移住しているのか。 (1) エンプロイメント・パス シンガポールに住む日本人の多くは、駐在員や現地採用の従業員として企業に勤務している。これらの人たちはエンプロイメント・パス(Employment Pass)という就労ビザを取得している。 数年間勤務した後に永住権(Permanent Residence: PR)を取得する人もいるが、最近は承認件数が減っており、狭き門となっている。 富裕層や起業家が移住するときも、このエンプロイメント・パスを取得することが一般的である。 まず、会社を設立し、その会社から自分のエンプロイメント・パスを申請する。 シンガポールでは資本金1シンガポールドルから会社を設立できる。しかし、エンプロイメント・パスを申請する場合は、資本金10万シンガポールドル以上とすることが多い。 また、エンプロイメント・パスを申請する際は、月給をP1ビザの基準額である8,000シンガポールドル以上とすることが多い。 資本金と給与額を多めに設定することで、審査が厳しくなっているエンプロイメント・パスが取得しやすくなる。 (2) グローバル投資家プログラム 最初から永住権を取る方法には、グローバル投資プログラム(GIPスキーム)がある。 グローバル投資プログラム(GIP)は、海外投資家、起業家、ビジネス・エグゼクティブによるシンガポールでのビジネスの立上げ、経営を容易にするためのプログラムである。 〈投資オプション〉 以下の投資オプションのいずれかを選択することができる。 〈投資家に関する適用基準〉 グローバル投資家プログラムは、多額の資金が必要であり過去の実績が評価されるため、対象者は限定されるが、最初から永住権が取得できるのが大きなメリットである。 申請者の配偶者及び21歳未満の未婚の子も申請者の永住権申請と一緒に永住権を申請できる。 シンガポールの男性は兵役の義務がある。永住権申請者は免除となるが、その子供が男性の場合はこの義務を果たさなければならない。 上記の他、個人がシンガポールで新たな事業を始める場合には、アントレ・ビザ(起業家ビザ)を取得する方法もある。   ■出国税の導入 前述のとおり、シンガポールは税金が安く、治安が良い。 教育水準や医療水準も高く、日本とほぼ変わらない生活ができる。 しかし、東南アジアの中では著しく物価が高く、特に家賃や人件費が高い。 税金は安いが総合的なコストは高くつき、他国へ事業拠点を移す企業もある。 日本の富裕層の海外移住が増加した場合、結果として日本の税収は減少してしまう。 アメリカやオーストラリアでは、移住による租税回避の対策として出国税が導入されている。出国税とは、居住者が非居住者になるために出国する際に、保有財産について税金を課すというものである。 今後も富裕層の海外移住が増加した場合、日本も出国税を導入することになるかもしれない。 (了)

#No. 7(掲載号)
#大曽根 貴子
2013/02/21

《速報解説》 退職給付に関する会計基準適用に伴う「税効果会計に関するQ&A」の改正

《速報解説》 退職給付に関する会計基準適用に伴う 「税効果会計に関するQ&A」の改正   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年2月7日、日本公認会計士協会は、「『税効果会計に関するQ&A』の改正について」を公表し、同Q&AにQ15を追加する改正を行っている。 これは、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)に対応するものであり、平成24年12月10日から平成25年1月9日までの間、公開草案として意見募集がなされていた。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりであり、公開草案から大きく変わるものではない。   Ⅲ 公開草案からの主な改正点 公開草案から一部修正が行われている。 これは、公開草案に寄せられた意見を反映したものと思われる。 「(3) 回収可能性の見直し時の会計処理」において、公開草案では繰延税金資産を計上したり、取り崩したりする場合の相手勘定について特段の記載が行われていなかった。 確定したQ&Aでは、「(略)まず、個別財務諸表における退職給付引当金について法人税等調整額を相手勘定として繰延税金資産を計上します。これに加え、未認識項目の負債認識において生じる将来減算一時差異について回収可能性があると判断される場合には、当該一時差異についても一部又は全額の繰延税金資産を退職給付に係る調整額を相手勘定として計上することになるものと考えられます。」との記載が行われている。 これにより、会計処理がより明瞭にされたものと思われる。 また、過年度において回収可能性があると判断されていた繰延税金資産について、回収可能性がないと判断された場合の会計処理方法については、「個別財務諸表における退職給付引当金に係る将来減算一時差異が優先して解消するものとして繰延税金資産の額を算定することになります。」として、個別財務諸表上の取扱いが優先することについて述べられている。 (了)

#No. 6(掲載号)
#阿部 光成
2013/02/18

《速報解説》 「『監査人の交代』の改正」(公開草案)の解説

《速報解説》 「『監査人の交代』の改正」 (公開草案)の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年1月29日付けで、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書900『監査人の交代』の改正について」(公開草案。以下「公開草案」という)を公表し、意見募集を行っている。原文は日本公認会計士協会のホームページから入手することができる。 意見募集期間は平成25年2月28日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 公開草案の主な改正点 公開草案は、主に次の事項を改正している。   Ⅲ 実務上のポイント 現行の16項では、前任監査人は、監査人予定者及び監査人からの監査調書の閲覧請求に対しては、誠実に対応しなければならないとされている。 公開草案の15項では、前任監査人は、監査人予定者及び監査人に対して以下の監査調書の閲覧の求めに応じなければならないとされている。 公開草案14項に規定している項目に関連する監査調書 期首残高に関連する監査調書 前任監査人が監査人予定者又は監査人に伝達する事項には、監査の過程で前任監査人が識別した以下の重要な事項が含まれる(公開草案A7,新設)。 現行のA7項では、閲覧に供する監査調書には、例えば、リスク評価手続及びリスク対応手続の実施結果(最終的な意見形成の判断過程を除く)、その他会計や監査に関する重要な事項に関する監査調書が含まれるとの記載がある。 公開草案のA9では、閲覧に供する監査調書の範囲には、リスク評価手続及びリスク対応手続の実施結果、公開草案15項の重要な事項に関する監査調書が含まれ、例えば、識別したリスクの内容、実施した個々のリスク対応手続の結果とその結果の評価から導かれた結論を記載した監査調書、監査結果の取りまとめの監査調書(例えば、監査で識別した未修正の虚偽表示の一覧や内部統制の不備の一覧等)が閲覧の対象となるとしている。 このように、公開草案では監査人の交代時における詳細な規定が設けられており、監査業務の引継ぎに際しては、実施漏れのないように注意が必要と思われる。   Ⅳ 適用時期等 平成25年10月1日以後に行われる監査人の交代から適用することを予定している。 公開草案は、監査における不正リスク対応基準(仮称)の適用対象となる監査だけではなく、監査基準委員会報告書が適用されるすべての監査業務における監査人の交代に適用することを想定している。 (了)

#No. 6(掲載号)
#阿部 光成
2013/02/18

《速報解説》 「年金資産に対する監査手続に関する研究報告」(公開草案)の解説

《速報解説》 「年金資産に対する監査手続に関する 研究報告」(公開草案)の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年2月1日付けで、日本公認会計士協会は「年金資産に対する監査手続に関する研究報告」(監査・保証実務委員会研究報告 公開草案。以下「研究報告案」という)を公表し、意見募集を行っている。原文は日本公認会計士協会のホームページから入手することができる。 意見募集期間は平成25年2月21日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 研究報告案の目的 研究報告案は、以下の論点を扱っている。   Ⅲ 実務上のポイント 「Ⅲ 企業年金の運営形態と運用の仕組みの理解」において、次のものが記載されている。 企業年金の仕組みを理解するうえで、実務上、有益と思われるので、ぜひ、公開草案本文をお読みいただきたい。 「Ⅳ 本研究報告の対象範囲」では、国内外の上場株式や債券など、市場が存在し流動性が高く、評価も容易に可能な資産への投資に対し、いわゆるオルタナティブ投資(代替投資)と呼ばれる資産運用においては、ハイリターンの可能性はあるものの、運用リスクが高く、運用される資産の流動性が低く、客観的な時価による評価が容易でない場合があると述べられている。 ヘッジ・ファンド、非上場株式やそのファンドなど(これらのシングルファンドのみならず、ファンド・オブ・ファンズの場合もある)を投資対象とし各種デリバティブを活用する等によりリターンの向上が期待できる一方で、投資スキームが複層的になる等複雑で流動性や換金性に乏しく、客観的な時価による評価が容易でなくなり、一般に運用リスクは高くなる等の傾向がある。また、私募投資信託の仕組みを利用するなど、運用対象に係る情報入手が困難な場合も考えられる。 そして、このような実在性及び評価の妥当性の観点から監査リスクが高いと思われる運用対象は、年金資産受託機関が運用・資産管理を直接行っている一般勘定や合同運用口よりも、年金基金等の個別のニーズに応じて運用方針や組入銘柄等を決定することができる特別勘定第二特約や直接運用、年金特定信託契約などによる運用において見られると述べられている。 このため、企業年金の仕組みを理解するとともに、リスクの高いと思われる運用対象について、「Ⅳ 本研究報告の対象範囲」をお読みいただき、会社自身も十分に理解する必要があると思われる。   Ⅳ 適用時期等 研究報告であるので、特段の適用時期については規定されていない。 ただし、「退職給付に関する会計基準」の適用時期との関係があり、「留意事項:本研究報告における監査手続等の利用に当たって」において次のように述べられている。 (了)

#No. 6(掲載号)
#阿部 光成
2013/02/18

《速報解説》 平成25年税制改正大綱における「金融・証券税制」改正のあらまし③―割引債の課税方式―

《速報解説》 平成25年税制改正大綱における 「金融・証券税制」改正のあらまし③ ―割引債の課税方式―   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦   1 はじめに 平成25年度税制改正大綱において、金融所得課税の一体化の拡充の一環として、割引債の課税方式についても根本的な改正が行われることになった。   2 現行制度 特定の割引債の償還差益については、割引債を発行するときに原則として18%の税率による源泉分離課税が適用され、源泉徴収だけで課税関係が終了する。中途売却時の譲渡益は非課税とされる。 対象になる割引債とは、割引の方法により発行される公社債で、次の①~③に該当するものである。 金融商品の税率は20%とするものが多いが、割引債については発行時課税ということで、早いタイミングで課税することから、20%より若干低めの18%とされている。   3 改正の内容 (1) 割引債の課税方式等 平成25年税制改正大綱に盛り込まれた金融所得課税一元化において、公社債の譲渡所得等を課税対象とすることにあわせて、割引債についても平成28 年1月1日以後に行う償還及び譲渡による所得については、譲渡所得等として20%(所得税15%、住民税5%)申告分離により課税することとなった。 それに伴い、発行時の18%源泉徴収を適用せず、償還時に源泉徴収(特別徴収)をすることとされた。 所得税には復興特別所得税が上乗せされるため、15.315%となり、住民税とあわせると20.315%となる。 ただし、平成27 年12 月31 日以前に発行された割引債でその償還差益が発行時に源泉徴収の対象とされたものについては、償還差益に係る18%(復興特別税とあわせて18.378%)源泉分離課税を維持し、譲渡による所得は非課税とする。 (2) 割引債の範囲 償還金が源泉徴収の対象となる割引債は、次のものとする。 (3) 源泉徴収等 平成28 年1月1日以後に発行される割引債については、発行時の18.378%源泉徴収を適用しないこととし、これに代わり、個人、普通法人等以外の内国法人、及び外国法人に対して支払う割引債の償還金については、次のとおり所得税の源泉徴収及び住民税については特別徴収を行う。 その割引債の償還の際、償還金額(支払金額)にみなし割引率を乗じて計算した金額に対して、20.315%(所得税15.315%、住民税5%)又は15%(外国法人の場合)の税率による源泉徴収(特別徴収)をする。みなし割引率は、次のとおりとする。 〈(国内)一般の割引債の課税方式等の改正〉 ※画像をクリックすると拡大します。 (注1) 平成25年1月1日から復興特別所得税2.1%が基準所得税に課されるため、所得税15%、住民税5%の場合、源泉徴収及び特別徴収分を合わせて20.315%となる。 (注2) 償還金が源泉徴収の対象となる割引債は、割引の方法により発行された公社債(いわゆる金融債のうち預金保険の対象となっているものを除く)、ストリップス債、及びディスカウント債とする。 (注3) みなし割引率は、発行から償還日までの期間が1年以内のものは0.2%、1年超のものは25% (了)

#No. 6(掲載号)
#小林 正彦
2013/02/15

《速報解説》 平成25年税制改正大綱における「金融・証券税制」改正のあらまし②―金融所得課税の一元化―

《速報解説》 平成25年税制改正大綱における 「金融・証券税制」改正のあらまし② ―金融所得課税の一元化―   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦   1 はじめに 平成25年度税制改正大綱における金融・証券税制に係る改正の目玉は「日本版ISA」と「金融所得課税の一体化」である。 前者は少額投資に対する非課税措置ということで減税となる改正であるが、後者は現行非課税である公社債の譲渡益に対して20%の申告分離課税を行うという増税措置を含むものであること等から、1,700億円の増税となることが見込まれている。   2 金融所得課税一元化が必要とされる理由 現在の制度では、上場株式等、公社債等、預金、デリバティブ等の異なる金融商品間の損益通算の範囲が制限されていることや、公社債等と上場株式等の課税方式に差があることで、投資家が多様な金融商品に投資しにくい状況にある。 たとえば、公社債の譲渡益は経過利子の反映であるとの考え方に基づき現在は非課税とされているが、その反面、譲渡損失はないものとみなされている。 しかし、実際には公社債も、市場価格の変動により譲渡損益が発生する。 また、社債等がデフォルトして無価値化してしまった場合の損失は、税務上考慮されていないといった問題がある。 以上のような問題意識から、金融商品課税の一元化の必要性が議論されているところである。   3 改正の内容 今回の大綱においては、以下の改正を行うとしている。 ① 公社債を特定公社債(注)と一般公社債に区分し、 ・特定公社債の利子所得については、現行の20%源泉分離を廃止し、20%申告分離課税と、源泉徴収で課税関係終了の選択を可能とする。 ・特定公社債の譲渡所得については、現行の非課税対象から除外し、20%の申告分離課税の対象とする。 ・一般公社債は、利子は20%源泉分離課税維持、譲渡所得は20%申告分離課税の対象とする。 (注) 特定公社債とは、国債、地方債、外国国債、外国地方債、公募公社債、上場公社債、平成27年12月31日以前に発行された公社債(発行時に源泉徴収された割引債を除く)などをいう。 ② 特定公社債の利子・譲渡損益(デフォルト損失を含む)と上場株式等の配当・譲渡損益との損益通算を可能とする。翌年以降3年間の繰越控除を可能とする。なお、特定公社債の利子・譲渡所得についても、特定口座で取り扱えるようにする。   〈公社債・株式に関する所得課税の概要〉  ※画像をクリックすると拡大します。 (注) 復興特別所得税の加算:平成25年から平成49年までは基準所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が課される。国税と住民税合わせて10%の税率である場合、国税分が7%であるため、国税と住民税を合わせた税率は10.147%となる。同じく20%である場合、上場株式については国税分が15%であるため20.315%となるが、非上場株式の配当は国税20%であるため、20.42%となる。 (了)

#No. 6(掲載号)
#小林 正彦
2013/02/15
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