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《速報解説》 相続税関連の改正事項(小規模宅地特例・事業承継税制以外)─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 相続税関連の改正事項 (小規模宅地特例・事業承継税制以外) ─平成25年度税制改正大綱─   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   平成25年1月24日に、与党から平成25年度税制改正大綱が公表された。 本稿では、平成25年度税制改正大綱に含まれる相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外)の改正について、その内容を概観し、改正の影響を検討していく。   1 平成25年度税制改正の内容   ―相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外) (1) 相続税の基礎控除の引下げ 基礎控除は、改正前の金額と比較して、改正後は40%マイナスした金額に引き下げられる。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (2) 相続税の税率構造の見直し 相続税の税率構造が見直され、上記表における2億円以下までの部分については税率の変更はないが、2億円超3億円以下、及び6億円超、の部分については税率がアップしている。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (3) 未成年者控除と障害者控除の引上げ 未成年控除、障害者控除の金額は、税制改正により引き上げられる。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (4) その他 平成24年度税制改正大綱では、相続税の計算における死亡保険金の非課税枠について圧縮することが示されていたが、平成25年度税制改正大綱では改正が行われておらず、現行の取扱いが継続される。   2 平成25年度税制改正の影響   ―相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外) 平成25年度税制改正の相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外)で一番大きな影響がある部分は、基礎控除の引下げといえる。 国税庁が公表している統計年報(平成22年)によれば、相続税が生じた相続については、法定相続人の数は3人が一番多く、次いで2人、3人となっている(税額が生じる相続税申告全体に占める割合78.3%)。 したがって、相続税申告(税額が生じるもの)を行う場合の基礎控除は、7,000万円、8,000万円、9,000万円が約8割を占めていることになる。 これが改正後は、これらの基礎控除が4,200万円、4,800万円、5,400万円に引き下げられることから、相続税の対象者が大幅に増加することが予測される。 また、10億円以上の財産を所有する富裕層にとっては、基礎控除の引下げ及び相続税の税率構造の見直しは、共に相続税の税額を増加させるものであり、従前以上に相続税対策の必要性が高まると考えられる。  (了)  

#No. 4(掲載号)
#根岸 二良
2013/02/05

《速報解説》 延滞税等の見直し─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 延滞税等の見直し ─平成25年度税制改正大綱─   弁護士 木村 浩之 1 はじめに 与党である自民党・公明党が策定した平成25年度税制改正大綱(平成25年1月24日公表)において、納税環境整備の一環として、延滞税等の見直しが盛り込まれた。 以前より、延滞税等の割合については、市中金利に比べて高すぎるとの批判があったところである。 そこで、今回、平成26年4月からの消費税率の引上げに伴い、消費税等の長期滞納が懸念される企業の税負担の緩和策として、延滞税の割合(税率)の引下げが図られたものである。また、それに合わせて、利子税、還付加算金などの割合(利率)も引き下げられることになる。 以下では、延滞税等の見直しに関する改正の概要につき、主に国税に関して述べるが、地方税(延滞金、還付加算金)についても同様の改正がなされる予定である。   2 延滞税の税率の引下げ 延滞税は、期限内に国税の納付がなされない場合に課されるものであり、遅延利息(履行遅滞に基づく損害賠償)の性質を有するものと解されている。 現行の制度では、納期限から2ヶ月(地方税については1ヶ月)を経過するまでの間は、未納税額に特例基準割合(現在、年4.3%)を乗じて計算される額の延滞税が課されることになる。この期間を超えると、未納税額に年14.6%を乗じて計算される額の延滞税が課されることになる。 今回の改正では、特例基準割合を現行の「日本銀行が定める基準割引率+4%」から「銀行の貸出約定平均金利(新規・短期)+1%)」に改めた上で、延滞税の税率について、以下のとおり実質的な引下げがなされる予定である。 なお、これに合わせて、納税の猶予等がなされた場合の延滞税の税率についても、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的な引下げがなされる予定である。   3 利子税・還付加算金の利率の引下げ 利子税は、延納等の場合に課されるものであるが、延滞税の税率の引下げに合わせて、原則的な利子税の利率も、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的に引き下げられる予定である。 また、同様に、還付金等に付される還付加算金の利率についても、今回の延滞税の割合の引下げに合わせて、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的に引き下げられる予定である。   4 適用時期など 以上の改正は、平成26年1月1日以後の期間に対応する延滞税等について適用されることが予定されている。 いずれの改正も、税法に規定される利息の性質を有するものの利息割合を市中金利に近づけようとするものであり、基本的に妥当なものといえることから、改正が実現する見込みは高いと考えられる。  (了)

#No. 4(掲載号)
#木村 浩之
2013/02/05

「平成25年度税制改正」はこう読む 【第1回】

「平成25年度税制改正」はこう読む 【第1回】   一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久   はじめに 1月24日、自民・公明の新政権は、異例の年明けの税制改正で、実質18日間という短期間で、極めて重要な内容を含む平成25年度税制改正大綱(以下「大綱」)を決定した。 本稿では、大綱の概要を紹介しながら、その背後にある政治的な課題、経済・社会よりの要請を考察し、なぜ、平成25年度税制改正がこのような内容となったのかを解説していきたい。 いわば、大綱の深読みをしていくが、あくまで筆者の個人的な読み方であり、経団連の公式な見解ではないことを、まずお断りしておく。   1 税制の決定メカニズム 税制改正の中身に入る前に、まず、民主党から自民党・公明党連立への政権交代により、税制改正の決め方がどのように変わったのかを見ておきたい。 これは、税制改正の決定メカニズム=誰がどのように税制改正を決めるのかということ自体が、税制改正そのものの性格を形成するからである。 (1) 民主党政権下の税制改正決定 民主党政権下では、都合3回の年次改正が行われたが(このほか東日本大震災の関連税制措置が2回に分けて講じられている)、その決定方法はすべて異なっていた。 22年度改正では与党内に税制を審議する場を置かず、すべてを政府税制調査会で決めようとしたが、最後は小沢幹事長「裁定」の出番となった。23年度改正では民主党税制調査会が復活したが、これは与党の意見をまとめて政府税調に伝えるための組織と説明されていた。 24年度税制改正は、実質的に民主党税制調査会が「政治主導」で仕切った。民主党政権下の政府税調は財務大臣を会長、総務大臣を会長代理として、各省の副大臣クラスをメンバーとしていたが、所詮各省の代弁者でしかなく、相互に矛盾・対立する税制改正要望を整理し、税制改正を決定することはできなかった。 税は政治であり、税制改正は政治メカニズムの中でしか決められないことが、改めて確認されたとしか言いようがない。 (2) 自民党税制調査会の復活 自公政権は、最初から与党内で税制改正を決めることとして、政府税制調査会は実質的に廃止された。 最初に復活したのは自民党税制調査会の「インナー」であり、総選挙の結果判明後翌々日、12月19日に開催されていることは注目すべきである。 なお、当初のインナーメンバー7人のうち、伊吹文明氏が衆議院議長に、石原伸晃、林芳正の両氏が入閣していることは、インナーの顔触れ*の重要さを示唆している。この場で、平成25年度税制改正のスケジュールと、公明党との与党税制協議会の設置、一体改革関連は民主党を含めた3党で協議することを確認している。 さらには安倍新政権発足前、12月21日には最初の正副顧問幹事会を開き自民党税制調査会は動き出した。その後、12月27日に、抜けた3氏を除く4人でインナーを開催し、税制改正の具体的な検討項目と手順を確認し、財務省・総務省に準備を指示している。 年明けの1月7日の自民党税制調査会総会では、正副顧問幹事会の幹部人事、検討項目、与党としての大綱を1月末までに取りまとめることを決定した。 以降、正副顧問幹事会、国会議員であれば参加自由の小委員会、インナーや与党協議を含めば、12日、13日以外の全ての日に何らかの会合を設定し、24日の大綱決定に持ち込んでいる。 年次税制改正を決定する場として自民党税制調査会は完全に復活し、中でもインナーの位置付けは、旧来以上に高まっている。 もともとインナーは、正副顧問幹事会、小委員会の前に議論を整理する場であったが、今回のインナーは、実質的な決定機関として機能している。 インナーの役割の高まりは、短期決戦での大綱とりまとめが必要であったこと、与党税制協議会、さらには、民主党を含めた3党協議会によって決すべき事項がある中で、速やかに自民党としての意見集約を必要としたことが理由として挙げられる。 *インナーメンバー:野田毅会長、額賀福志郎小委員長、高村雅彦顧問、町村信孝顧問、宮沢洋一参議院議員、石田真敏衆議院議員の6氏、このうち、町村氏を除く5名が与党税制協議会の自民党側メンバー。   (3) 短期間での大綱とりまとめ それでは、なぜ、極めて短期間での大綱とりまとめを必要としたのか。 1月24日の大綱とりまとめは、1月末までの平成25年度政府予算案の決定から逆算された日程でしかない。 歳入予算である税制改正案決定から政府予算案決定まで、1週間は必要である。また、緊急経済対策関連を重要な内容とする平成25年度税制改正法案を年度内に成立させることは、参議院選挙前までに景気回復を図るためにも不可欠である。 そのためには、たとえ自公で衆議院の3分の2を超える議席を有し再議決が可能であるとしても、例年通り2月初旬には法案を提出し、できるだけ早く衆議院を通過させ、参議院に送らなくてはならない。 逆に、短期間で取りまとめができたのは、次章で述べるように、25年度税制改正でやるべきことが予め決まっており、自民党内での重大な対決案件は車体課税ぐらいでしかなかったことが大きい。 (4) 与党協議と3党協議 前の自公連立政権でも、与党としての税制改正の決定は、双方の税制調査会の代表者からなる与党税制協議会で決しており、自民党税制調査会の審議と並行して、頻繁に与党税制協議会が開催されたことは当然でもある。 しかし、今回、与党税制協議の性格を大きく変えたのは、一体改革の積み残し課題については民主党を含む3党協議の前の与党内調整の場となったからである。 民主党政権下では、2010年参議院選挙後のねじれ国会での一体改革関連法案成立のため、消費税率引上げを政策として掲げる自民党、公明党との協力が不可欠となった。「社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)」以降、2012年6月の3党合意を経て、同年8月の一体改革法成立に至る過程は、3党協議がメインの場となった。 その中で、積み残された所得税最高税率引上げ、相続税・贈与税見直し、消費税率引上げに伴う住宅対策、車体課税等の課題は、引き続き3党間で協議して成案を得ることとされていたが、自公が衆議院で絶対多数を得たことでその扱いが注目されていた。 しかし、野田会長は与野党立場を変えても3党合意の結果を誠実に尊重することを繰り返し言明し、実際に3党協議はそれなりに有効に機能し続けた。 これは、できれば参議院で民主党の協力を得て円滑に税制改正法案を処理したいとの立場からは当然でもあるが、自公間での意見の相違がある項目を3党協議に持ち込むことで、公明党をけん制する意図があったものと思われる。現に、所得税最高税率引上げ、相続税・贈与税見直しは、公明党の主張を抑え込む形で、旧民主党政府案に近い形で決着をみている。   2 平成25年度税制改正の全体像 平成25年度税制改正が何であるのか、その全体像は大綱の前書きである「第一 平成25年度税制改正の基本的考え方」の1ページ目に尽くされている。 (1) 緊急経済対策 25年度税制改正の第1の姿は、緊急経済対策の一環としての税制措置である。 大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」を税制から補強するための「民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく政策税制措置を大胆に講ずる」とされており、政策税制を不公平税制として縮小しようとしていた民主党政権からの180度の転換である。 さらに、民主党政権の分配政策重視との決別、経済成長=パイの拡大重視への宣言である。これは、7月の参議院選挙対策のような矮小な話ではなく、今後の自民党中心の政権の政策の柱の大きな一つとなるべきものである。 具体的には、大綱2~3頁に「1 成長による富の創出に向けた税制措置」として掲げられた、生産等設備投資促進税制、研究開発促進税制の拡充、所得拡大促進税制、雇用促進税制の拡充、中小企業対策としての交際費課税の軽減、相続税強化の緩和策としての事業承継税制、教育資金の一括贈与の非課税措置の創設などが盛り込まれている。 (2) 一体改革の積み残し課題 25年度税制改正の第2の姿は、税制抜本改革としての一体改革の積み残し課題の実現である。 具体的には、大綱3頁以降の「2 社会保障・税一体改革の着実な実施」として掲げられた、所得税最高税率の引上げ、相続税・贈与税の見直し、消費税引上げに伴う住宅取得への負担軽減措置、車体課税の見直し、低所得者対策としての軽減税率の導入である。 ここでは、所得税最高税率の引上げ、相続税・贈与税の見直しについて旧民主党政府案を尊重した決着となったことが、今後の国会審議の中で民主党の賛成までは得られないとしても、何らかの協力を得る足掛かりになるという点を重視したい。 また、積み残しとなった、車体課税や軽減税率の導入をめぐっては、さらなる3党協議の可能性もあり、これは特に参議院選挙後に、自公を軸としながらも、さらなる連立の組み合わせとしての民主党の余地を残すことにもつながろう。 (了)

#No. 4(掲載号)
#阿部 泰久
2013/01/31

蛍光灯からLED照明への変更費用の取扱い

蛍光灯からLED照明への 変更費用の取扱い   公認会計士・税理士 武田 雅比人   Answer 1 国税庁から公表されている取扱い 蛍光灯型LEDランプは、消費電力が少なく使用可能期間が長いというメリットがあるため、節電対策として、蛍光灯から蛍光灯型LEDランプに変更するケースも多いものと思われる。 固定資産の修理や改良のために支出する金額は、基本的には、修繕費とされるが、固定資産の価値を高めたり使用可能期間を延長させる部分に対応する金額は、資本的支出とすることとされており(法令132)、国税庁からは、用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額は原則として資本的支出となる(法基通7-8-1)という解釈が示されている。 そして、更に、国税庁から、蛍光型LEDランプへの変更に関して、「自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えた場合の取替費用の取扱いについて」という照会回答事例が公表されている。 この照会回答事例の取扱いは、「この取替えに当たっては、建物の天井のピットに装着された照明設備(建物附属設備)については、特に工事は行われていない」ということを前提として、「蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることで、節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって、その有する固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増しているとして資本的支出に該当するのではないかとも考えられますが、蛍光灯(又は蛍光灯型LEDランプ)は、照明設備(建物附属設備)がその効用を発揮するための一つの部品であり、かつ、その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえないと考えられますので、修繕費として処理することが相当です。」というものである。 この取扱いのポイントは、下記の2点にあると思われる。   2 蛍光灯から蛍光灯型LEDランプへの変更方法 蛍光灯には安定器という器具が必要だが、蛍光灯型LEDランプには蛍光灯で使用する安定器は不要である。蛍光灯を取り外して蛍光灯型LEDランプに取り替えただけで支障なく使用できる場合もあるが、既存の蛍光灯を使用する照明器具で蛍光灯型LEDランプを安全に使用するためには、蛍光灯の安定器を経由せずに電源を供給することが望ましいとされている。 LEDランプには、LEDを点灯させるための電源回路が内蔵されている電源回路内蔵型のものと、LEDを点灯させるための電源回路部品とLED管とを別々のものとする電源回路外付型のものがある。 100ボルトの電流は、電源回路内蔵型では直接にLEDランプに供給され、電源回路外付型では電源回路部品を経由してLEDランプに供給される。 また、蛍光灯型LEDランプの口金の形状には、従来の蛍光灯と同一のものと新たに蛍光灯型LEDランプのために定められたものがある。 このため、蛍光灯型LEDランプへの変更方法は、次の4通りとなる。 上記の国税庁の照会回答事例の取扱いでは、「照明設備(建物附属設備)については、特に工事は行われていない」とされているため、この照会事例は、既存の照明設備の変更工事をしなくとも点灯することとなる上記のAパターンを採っているということになる。 しかし、現実には、蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに変更する際には、安全性の観点から、照明器具の変更工事を実施することが通例となっているため、この変更工事の取扱いについての検討が必要となる。   3 照明器具の変更工事の取扱いの検討 (1) Aパターン Aパターンを採るものにおいては、LEDランプに点灯用電源回路が組み込まれているため、100ボルトの電流を蛍光灯用の安定器を経由させないで既存の口金に供給する工事を行うことになる。この工事内容は、安定器を経由させないで電流を流すようにするだけの工事であり、従来の照明器具に物理的に装置等を付加するようなものはない。 このため、国税庁の取扱いにあるように、工事によって照明器具の価値が高まったとは考えられず、工事のために支出した金額は資本的支出には該当しないものと考えられる。 (2) Bパターン Bパターンを採るものにおいては、LEDランプに点灯用電源回路が組み込まれているため、既存の口金を新規格の口金に変更し、100ボルトの電流を蛍光灯用の安定器を経由させないで新規格の口金に供給する工事を行うこととなる。Aパターンと比較すると、口金変更工事が行われる点が異なる。 このBパターンにおいては、新規格の口金に交換するわけであるが、口金は蛍光灯型LEDランプを保持して電流を伝達する機能を有するもので照明設備の一部品であり、国税庁の取扱いで示されたポイントから判断しても、照明器具の価値が高まったとは考えられず、資本的支出には該当しないものと考えられる。 蛍光灯の安定器を経由させない工事は、Aパターンと同様であり、その工事のために支出する金額は、資本的支出とはならないものと考えられる。 (3) Cパターン Cパターンを採るものにおいては、既存の口金を使用するが、LEDランプを点灯させるための電源回路部分がLEDランプとは別に照明器具に取り付けられる。 この方式のメリットは、LEDランプ部分に電源回路の熱が伝わりにくいためLEDランプの劣化が少ないことである。この場合には、電源回路部品が物理的に付加されるため、資本的支出に該当するか否かを慎重に検討する必要がある。 蛍光灯の安定器の耐用年数は現実には10年程度とされ、古いものは効率が低下して安全上も問題が多いとされており、照明器具の耐用年数である15年の期間内には、安定器は少なくとも1回は取り替えられることが想定されているものと思われる。 この安定器交換に際し、安定器をLEDランプ用の電源回路部品に取り替えるとすれば、この取替えは部品の交換に該当するものと考えることができるものであり、「その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえない」という考え方からすれば、この取換工事のために支出する金額は、資本的支出には該当しないものと考える。 これは、電源内蔵型LEDランプを資本的支出としないこととのバランスからも妥当なものと考える。 (4) Dパターン Dパターンを採るものにおいては、口金の変更工事とLEDを点灯させるための電源回路部品の取付工事が行われるが、上記のBパターンとCパターンで検討したとおり、この2つの工事は共に照明器具の部品工事であり、この2つの工事が同時に実施されたことをもって、BパターンやCパターンと異なる取扱いをすべき理由はないことから、この2つの工事のために支出する金額は資本的支出には該当しないと考える。   4 結論 上記のとおり、既存の照明器具を利用して蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに変更した場合の照明器具の変更工事のために支出する金額は、資本的支出には該当しないものと考えられ、また、蛍光灯型LEDランプ自体の取替えのために支出する金額も資本的支出に該当しないとされていることから、結果的には、蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに変更した場合の変更費用は、すべて資本的支出には該当しない、ということになるものと考える。 (了)

#No. 4(掲載号)
#武田 雅比人
2013/01/31

法人の破産をめぐる税務 【その2】欠損金の繰戻し還付・仮装経理による過大納付の還付

法人の破産をめぐる税務 【その2】 ―欠損金の繰戻し還付・仮装経理による過大納付の還付―   税理士法人エムワイパートナーズ 代表社員 税理士 安井 孝徳   はじめに 前回は、破産にかかる税務のうち、事業年度及び期限切れ欠損金について解説した。今回2回目は、引き続き破産会社の特有の税務のうち、欠損金の繰戻し還付及び仮装経理による過大納付の還付について解説する。   1 欠損金の繰戻し還付 ① 取扱い 法人税の課税所得計算は、事業年度単位課税をとっている。 しかし、納税者である法人は、毎事業年度定額の所得金額を算出するわけでなく、市場の状況又は経営戦略等により、ある事業年度によっては著しく大きい課税所得が発生し、また、ある事業年度においては欠損が発生することも考えられる。 そのために、事業年度単位課税の救済措置として、欠損金の繰越控除及び欠損金の繰戻し還付制度がある。 欠損金の繰戻し還付制度は、原則として平成26年3月31日までに終了する事業年度においては、以下の「中小企業者等」を除き停止されている(措法66の13)。 普通法人のうち、その事業年度終了の時において資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下であるもの(資本金の額若しくは出資金の額が5億円以上の法人又は相互会社の100%子法人等を除く)又は資本若しくは出資を有しないもの(保険業法に規定する相互会社及び外国相互会社を除く) 公益法人等又は協同組合等 法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされる次の法人 認可地縁団体、管理組合法人、団地管理組合法人、法人である政党等、防災街区整備事業組合、特定非営利活動法人及びマンション建替組合 人格のない社団等 しかし、法人が破産した場合を含めて、解散があった場合には、特例として繰戻し還付制度が適用できることとなる。 具体的には、法人が手続に入った場合において、破産開始決定の日前1年以内に終了したいずれかの事業年度又は破産開始決定の日の属する事業年度(以下「欠損事業年度」という)において欠損金額が生じており、その欠損金額の生じた事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(以下「還付所得事業年度」という)において法人税額が発生している場合には、還付所得事業年度から欠損事業年度までの各事業年度について、連続して青色申告書である確定申告書を提出している場合に限り、以下の金額の還付請求をすることができる(法法80①④)。 なお、道府県民税、市町村民税及び事業税においては、このような規定はなく、その後の法人税と道府県民税、市町村民税及び事業税とにおいて、繰越欠損金額にずれが生じることとなる。 【還付請求額の計算式】 なお、仮に中小企業者等に該当しない法人が解散した場合でも、当該規定は適用できることとなる。したがって、資本金の額5億円以上の法人の100%子法人が解散した場合にも、当然のことながら当該規定は適用されることに留意が必要である。   2 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の還付・控除の特例 ① 原則的取扱い 過去に取引先や金融機関等に対する信用力の強化の面から、粉飾決算を仮にしていた場合、結果として本来納税すべきより過大な法人税額を納めているケースが少なくない。 このようなこと自体本来あってはならないが、法人税法上はこのような処理に対して、仮装経理に基づく過大申告の法人税額の控除及び還付制度による救済措置がある。 具体的には、仮装した事実を修正経理し、その修正経理をした事業年度の確定申告書を提出すると同時に、所轄税務署長に対し嘆願書を提出し、所轄税務署長の職権で更正を行ってもらうこととなる(法法129①)。 なお、所轄税務署長の職権による更正は法定申告期限から5年(純損失等の金額に係るものは9年)を経過する日まですることができる(国通法70②)。 また、原則として、仮装経理による法人税の過大納付部分については、その全額が即座に還付されるのではなく、更正の日の属する事業年度開始の日から1年前以内に開始する各事業年度の法人税額に達するまで還付し、残りについては、その後更正の日の属する事業年度開始の日から5年以内に開始する各事業年度の所得に対する法人税額から控除され、その後当該還付及び控除しきれなかった部分が残っている場合には、その5年を経過する日の属する法人税確定申告書の提出期限の到来をもって、還付されることとなる(法法70、135①②③)。 ② 破産開始決定の場合の特例 法人が、破産開始の決定を受けた場合には、上記控除期間の5年を経過することなく、その破産開始決定の日の属する事業年度、すなわち解散事業年度の確定申告書の提出期限が到来したことをもって、還付されることとなる。 なお、仮装経理に基づく過大申告の場合の更正は、道府県民税、市町村民税及び事業税においても対象となる。 【原則】 まず、①の事業年度の法人税額まで還付し、その後②から⑥の事業年度の法人税額から順次控除する。⑥を控除した時点でまだ減額更正による過大納付額が残っている場合には、⑥の事業年度の確定申告書の提出期限である⑦の事業年度において還付される。   【破産開始の場合】   まず、①の事業年度の法人税額まで還付し、その後②の事業年度の法人税額から順次控除する。③を控除した時点でまだ減額更正による過大納付額が残っている場合には、④の事業年度の確定申告書の提出期限である④のタイミングで還付される。 ③ その他 仮装経理に基づく過大申告の場合の還付又は控除は、税務調査を伴うことが多い(法法135⑦)。還付手続を行うということは、それだけ税務当局も慎重になることが予想される。 また、更正事業年度においては、仮装経理部分のみならず、その他の全般的な取引や処理についても当然のことながら対象となることがあり、場合によっては、更正事業年度以外も税務調査の対象になることもあるため、還付手続のみならず、調査に備えた慎重な対応が必要となると考えられる。 ※次回より、甲田義典税理士が執筆を担当する。 (了)

#No. 4(掲載号)
#安井 孝徳
2013/01/31

平成24年分 確定申告実務の留意点 【第4回】「各所得計算における留意点」

平成24年分 確定申告実務の留意点 【第4回】 「各所得計算における留意点」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   今回は、所得計算上の留意点のうち、給与所得者が直面することが多いと思われるものを取り上げることとする。   【1】 配当所得 (1) 配当所得の計算と課税の原則(総合課税) 配当所得には、法律上の配当等に係る所得と、法律的に配当ではないが配当とみなして課税される所得(みなし配当)がある。 法律上の配当等は、株主の地位に基づいて支払いを受ける剰余金の配当や出資者として支払いを受ける投資信託の収益の分配等であり(所法24①)、みなし配当は、適格合併以外の合併、資本や出資の払戻し、解散による残余財産の分配、証券市場以外からの自己株式の取得等に伴って発生する(所法25)。 みなし配当は、法律上の配当等と実質的に同じ経済的効果をもたらすため、配当とみなして課税される。なお、会社法は資本剰余金からの配当も認めているが、資本剰余金からの配当は資本の払戻しの性格を持つものであるため、配当所得には該当しない。 配当所得は、収入金額から株式等を取得するために要した借入金の利子を差し引いて計算する。このとき収入金額から差し引く借入金の利子には、譲渡した株式に係るものや申告不要制度の対象とした配当等(下記(2)参照)に係るものは含まれない(措法37の10⑥三、措通8の5-2)。 配当所得は、原則として総合課税の対象となる(所法22②一)。 総合課税の対象とした配当所得については、配当控除の適用を受けることができる(所法92)。 (2) 申告不要の配当所得 次の①、②に該当する配当所得は、確定申告に含める必要がない(措法8の5)。 この制度を適用するかどうかは、支払いを受ける配当等1回ごとに選択することができる(源泉徴収を選択した特定口座内の配当等は口座ごと)。 ① 上場株式等の配当等以外(未上場株式等) 内国法人から支払いを受ける配当等で、1回に支払いを受ける金額が10万円に配当計算期間の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額以下である場合 この基準により確定申告をしないことを選択した配当所得であっても、住民税では総合課税の対象となる。 そのため、確定申告書の住民税に関する事項「配当に関する住民税の特例」欄に住民税の課税対象となる配当所得の金額を記入する必要がある。 ※確定申告書A(第二表)の一部抜粋 ② 上場株式等の配当等(大口株主*が支払いを受けるものは除く) 配当等の金額にかかわらず、確定申告は不要である。  *大口株主:その配当等に係る事業年度終了の日においてその内国法人の発行済株式総数の3%以上(平成23年9月30日以前は5%以上)の株式を有する株主   (3) 上場株式等の配当所得に係る申告分離課税 平成21年1月1日以後支払いを受ける上場株式等の配当等については、総合課税と申告不要制度の他に申告分離課税を選択することができる(措法8の4①)。 申告分離課税を適用する場合は、申告する上場株式等の配当等のすべてについて適用しなければならず、一部を総合課税、一部を申告分離課税の対象とすることはできない(措法8の4②)。 また、申告分離課税の対象とした配当所得については、配当控除の適用を受けることもできない(措法8の4①)。 適用される税率は15%(他に住民税5%)であるが、平成25年12月31日までは7%(他に住民税3%)の軽減税率が適用される。 なお、申告分離課税の対象とした上場株式等の配当所得は、上場株式等の譲渡損失と損益通算することができる(措法37の12の2①)。   【2】 株式の譲渡所得 (1) 課税の原則(申告分離課税) 平成16年1月1日以後の株式等の譲渡による所得は、15%(他に住民税5%)の税率による申告分離課税の対象とされている(措法37の10①)。ただし、平成25年12月31日までに行う上場株式等の譲渡に係る所得については、7%(他に住民税3%)の軽減税率が適用される(平20改所法等附43②)。 軽減税率が適用されるのは、証券業者等を通じた譲渡の場合に限られる。たとえ上場株式等の譲渡であっても、証券業者等を通さない相対取引による場合には15%の税率で課税される。 (2) 譲渡損失が生じた場合 ① 内部通算 株式等の譲渡損失は、原則として株式等の譲渡益との間でのみ通算することができる(措法37の10①)。 上場株式等と未上場株式等の譲渡損益を通算する場合には、次のようになる。 ② 上場株式等の譲渡損失と上場株式等の配当所得との損益通算 上場株式等の譲渡損失は、申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得と損益通算することができる(措法37の12の2①)。 この制度の適用を受けるには、確定申告書に適用を受ける旨の記載をし、一定の書類を添付しなければならない(措規18の14の2②)(【1】(3)参照)。 ③ 上場株式等の譲渡損失の繰越控除 上場株式等の譲渡損失(証券業者等を通じた譲渡等により生じたもの)で、申告分離課税を適用した上場株式等の配当所得の金額と損益通算してもなお控除しきれない金額がある場合には、翌年以後3年にわたって株式等に係る譲渡所得の金額及び上場株式等の配当所得の金額(申告分離課税の対象としたもの)から繰越控除することができる(措法37の12の2)。 繰越控除の順序についての留意点は、次の通りである。 この制度の適用を受けるためには、次のすべての要件を満たさなければならない(措法37の12の2⑧)。   【3】 土地建物の譲渡所得 土地等や建物を譲渡したことによる所得は、他の所得と分離して課税することとされ、次の場合を除き、他の所得との損益通算及び譲渡損失の繰越控除は認められていない(措法31、32)。   【4】 不動産所得 不動産所得は、総合課税の対象となる(所法22②一)。不動産所得の金額の計算上損失が生じた場合には、他の所得と損益通算ができる(所法69)。 ただし、必要経費の中に不動産所得を生ずるための土地等を取得するために要した借入金の利子がある場合には、その利子相当額は生じなかったものとみなされ、当該金額は損益通算の対象とならない(措法41の4)。 具体的には次のようになる(措令26の6①)。 ① 総収入金額-土地等を取得するために要した借入金利子以外の必要経費 > 0 の場合 ② 総収入金額-土地等を取得するために要した借入金利子以外の必要経費 < 0 の場合 また、不動産の貸付けが事業的規模であるかどうかによって、所得計算上異なる取扱いがある。 ①  固定資産の取壊し、除却、滅失等による資産損失(所法51) 事業的規模の場合:全額必要経費算入 それ以外の場合 :資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度に必要経費に算入 ② 回収不能による貸倒損失(所法51、64) 事業的規模の場合:回収不能となった年分の必要経費に算入 それ以外の場合 :収入計上した年分にさかのぼり、その回収不能額がなかったものとみなして所得計算をやり直す ③ 白色専従者控除、青色事業専従者給与(所法57) 事業的規模の場合:適用あり それ以外の場合 :適用なし ④ 青色申告特別控除(措法25の2) 事業的規模の場合:最高65万円 それ以外の場合 :最高10万円   【5】 その他 (1) 満期保険金を受け取った場合 満期保険金を受け取った場合、保険料負担者と保険金受取人が同じであれば、一時所得又は雑所得(一時金で受け取った場合は一時所得、年金で受け取った場合は雑所得)として課税され、保険料負担者と保険金受取人が異なる場合は贈与税の課税対象となる(所法34、35、所基通34-1)。 保険に係る所得であっても、保険期間が5年以下のものや保険期間は5年を超えていても5年以内に解約したものに係る一時払いの保険等の差益については、金融類似商品として税率15%(他に住民税5%)の源泉分離課税の対象となり、源泉徴収だけで課税関係は終了する(所法174、措法41の10、措通41の10・41の12共-1)。 (2) 東日本大震災関連 福島原子力発電所の事故により被害を受け、賠償金の支払いを受けた場合の所得税法上の取扱いについては、平成23年11月30日付国税庁文書回答で明らかにされている。 その後、平成24年11月29日付で「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償金の所得税法上の取扱いについても文書回答にて明らかにされた。 また、東日本大震災で被害を受けた場合の税制上の取扱いは、以下の国税庁ホームページにまとめられている。 次回は、所得控除の留意点について解説を行う予定である。 (了)

#No. 4(掲載号)
#篠藤 敦子
2013/01/31

小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第4話】「反面調査」

小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第4話】 「反面調査」   公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「・・・この場合、反面調査に行った方がいいですかね」 山口調査官は、隣にいる田村上席調査官に尋ねる。 「・・・反面調査?」 「ええ、外注先に対する反面調査なんですけど・・・どうも外注費の金額が大きいのと・・・外注そのものの回数も多いようで・・・」 山口調査官は、外注費の一覧表を田村上席調査官に見せる。 「それぞれの工事と外注費の対比はしているのかい?」 田村上席調査官は、一覧表を見ながら、質問をする。 「どこの工事の外注費かは、工事現場の作業日報表でわかるのですが、同じ時期に何箇所も仕事をしているので・・・外注先から送られてくる資料だけでは、なかなか判断しにくいのです」 田村上席調査官は、外注先の請求書を見る。 「ほう・・・奈良県の吉野にこんな会社があったんだなぁ・・・」 山口調査官は頷く。 「吉野は・・・桜がきれいだし、ボタン鍋がとても美味しいんだ」 田村上席調査官は、吉野税務署に勤務していた頃を思い出している。30年前の、まだ若い頃に、3年間、吉野税務署に勤務していた。 「しかし、ここからは遠いなぁ・・・」 「・・・でも、外注先の原始記録を見なければ、これらの外注費が本当に発生しているものかどうかわからないですよ」 外注先から送られてきたという請求書とその明細書を見ながら、山口調査官は、頸を傾ける。 「それに・・・吉野から距離的にかなり離れている工事現場にも、この会社は仕事を請け負っているんです」 山口調査官は、話をしているうちに、テンションが上がってきた。 「ひょっとすると、架空外注費の可能性があるかも・・・」 田村上席調査官は、ニヤニヤしながら、山口調査官を見る。 「そうだなあ・・・統括官に相談して、吉野に行かせてもらったら・・・その前に、吉野税務署に連絡して、この会社のことを聞いてみたら?」 「そうですねぇ・・・」 山口調査官は思案顔になる。 渕崎統括官は、今日は忌引きのため、休んでいる。 「ところで・・・」 田村上席調査官は、明日から始まる調査の準備をしている。 「その・・・反面調査をするときには、調査法人や反面先に事前に連絡しなければならないのですか・・・」 「改正の国税通則法では、調査対象の法人に対しては、原則として、事前連絡をしなければならない・・・と規定していたと思うけど、しかし・・・取引先などの反面調査先について、納税義務者本人に該当しないことから、事前連絡はしなくてもいいのではないか?」 田村上席調査官の言葉に、山口調査官は頷く。 「まして、このケースでは、・・・事前に連絡をすると、資料などを隠されたり、改ざんされたりする可能性があり、正しい外注費の確認ができなくなる恐れがありますから。もちろん、反面調査先の法人に対しては、どこの会社の調査をしているかということも知られないようにしなければならない」 田村上席調査官は、ペンを置いて、山口調査官の顔を見る。 「・・・しかし、吉野はここから遠いから、反面先の会社には、とりあえず、事前に連絡をしいた方が良いかもしれないな・・・」 「そうですね・・・誰もいなかったら困るし・・・」 山口調査官は素直に応じる。 「ところで、事務運営指針に、「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について」というものがありましたね」 山口調査官は、事務運営指針のコピーを差し出し、次の事項を指さす。 「・・・これって、「調査時における手続」の中に書かれているのですね」 田村上席調査官が確認し、言葉を続ける。 「反面調査の実施については、取引先等に明示した上で、実施するということが書かれているが、調査法人に対して、反面調査をする旨を事前に連絡しなければならないことはないし・・・しかも、取引先等に対しては、「反面調査である旨」のみを明示するということだから、調査内容については、伝える必要はないな・・・」 「・・・しかし、取引先等が執拗に「何を調べるのか?」と聞いてきたら、どうしたらよいのですか?」 山口調査官が尋ねる。 「それは・・・答える必要はないだろう・・・まして・・・誰の何を調査しているかについて取引先等に伝えることは、個人情報の問題も生じるから、調査の内容については伝えられないと言わざるを得ない」 田村上席調査官は考えながら、答える。 「そうですね、反面調査は、取引先等自体の税務調査ではない、すなわち、納税義務者本人ではないのですからね・・・調査の内容については、説明する必要はありませんね」 「山口君は、今回の調査で重加算税をとるために、どうしても吉野へ反面調査に行かなければならないということだな」 田村上席調査官は笑いながら、山口調査官の肩をポンと叩いた。 (了)

#No. 4(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/01/31

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第4回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第4回】   弁護士 木村 浩之   (3 定期同額給与) (4) 業績悪化改定事由 ア 業績悪化改定事由の趣旨 臨時改定事由がある場合のほか、「法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」(業績悪化改定事由)がある場合にも、給与改定が認められている(ただし、業績悪化を理由にするものであるから、当然、給与を減額改定する場合に限られる)。 これは、通常改定の際には予測できなかった著しい業績悪化が法人に生じた場合には、様々な事情から役員の給与を減額せざるを得ない場合があり、そのような場合には、利益調整等の恣意性があるとは必ずしもいえないことから、3ヶ月経過後の給与改定が認められているものである。 イ 業績悪化改定事由に該当する場合 業績悪化改定事由として認められるためには、上記の趣旨から、法人の単なる業績不振では足りず、役員の給与を減額せざるを得ないと認められるだけの客観的な事情が必要である。 この点、法令においては、「経営の状況の著しい悪化」と規定されているが、典型的には、月次の残高試算表や四半期の決算書などの財務諸表の数値が著しく悪化したことにより、現行の役員報酬の支払いを継続することが資金繰りに相当程度悪影響を及ぼす場合などがこれに該当する。 そのほか、例えば、経営状況の悪化に伴い、会社の利害関係者(金融機関等の債権者、取引先、株主など)との関係上、役員が経営上の責任を取る必要があり、給与を減額せざるを得ない事情が生じていれば、これも業績悪化改定事由に含まれると解される。 いずれにせよ、業績悪化改定事由に該当するためには、役員給与の減額をやむを得ないものとする客観的な事情が必要であることから、減額改定を行う法人としては、そのように減額せざるを得ない事情について具体的に説明できるようにしておくことが望ましい。 例えば、資金繰りの状況、利害関係者との交渉経過、一般の従業員に対する給与の減額の有無及びその理由など、役員給与の減額改定に至った事情を整理しておくことが重要である。 (5) 法定外の給与改定がなされた場合 事業年度の途中に何らかの理由に基づいて給与改定がなされた場合、それが法人税法上認められる「給与改定」のいずれかに該当しない限り、形式的には、その改定前後に支給される給与はすべて定期同額給与に該当しないことになる。 もっとも、この点については、全額を損金不算入とする取扱いが現実的でないことから、給与改定前と給与改定後の差額に相当する部分のみが損金不算入となる取扱いである。 これを具体的なイメージにすると、次のとおりとなる。 〈増額改定〉   〈減額改定〉   (6) その他の論点 ア 臨時の給与と定期同額給与 定期同額給与が支給された上で、臨時の給与が支給される場合がある。典型的には、業績の向上に伴い臨時の賞与が支給される場合、税務調査等で役員が受ける経済的利益が賞与と認定される場合などである。 このような場合、形式的に見れば、その臨時の給与が支給されることによって全体が定期同額給与に該当しないことになるようにも思われるが、この臨時の給与は定期同額分の給与とは明らかに別途支給されるものであり、定期同額分の給与を含めて全額を損金不算入とすることは認められない。 したがって、このような場合は、その別途支給される臨時の給与のみが損金不算入として取り扱われるのであり、全体が損金不算入となるわけではなく、定期同額分の給与については損金算入が認められる。 イ 未払い給与と定期同額給与 給与の一部又は全部が何らかの事情で未払いとなったことにより、本来支給されるべき金額が定期同額であったとしても、結果として、実際の支給額が定期同額ではなかったことになる場合がある。そのような場合でも、基本的には、決定されている支給額(本来の支給額)に基づいて定期同額給与に該当するか否かを判断することになる。 例えば、資金繰りの関係で一時的に給与が未払いとなる場合、実際の支給額は定期同額ではないが、それでも本来の支給額が定期同額であれば、その未払い分の給与を含めて、定期同額給与として損金算入が認められる。 もっとも、賞与として支給すべき金額を毎月定額に分割して未払い給与として計上しておいた上で、賞与の支払時期に未払い給与を一括して支払うような場合には、その未払い給与は賞与を定期同額給与に仮装したものと認定される可能性があり、その場合、損金算入が認められないこととなる。 また、以上とは逆に、いわゆる決算賞与を翌期に毎月定額で支払っていく場合など、実際の支給額が定期同額であったとしても、すでに支給が確定したものを単に分割して支払っているに過ぎないと認められる場合には、定期同額給与には該当せず、損金算入が認められない。 ウ 経済的利益の供与と定期同額給与 役員に対する経済的利益の供与については、それが ⅰ) 継続的に供与されるものであり ⅱ) その供与される利益の額が毎月おおむね一定である との要件を満たせば、定期同額給与に該当することになる。 これに該当するものとして、無利息又は低利息での貸付け、住宅の無償又は低廉貸与などが典型例として挙げられる。 ここで、定期「同額」との文言にもかかわらず、「おおむね一定」とされているのは、経済的利益の価値については、多少の変動があり得るという現実に配慮がなされたものである。したがって、毎月負担する住宅の光熱費など、通常の範囲でその経済的価値に変動があり得るものであったとしても、「おおむね一定」に当たるものとして、定期同額給与に該当することになる。 また、年払い保険料の負担や1ヶ月を超える期間の定期券代の負担など、1ヶ月を超える期間に相当する分の経済的利益を一時に供与する場合であっても、実質的に毎月一定の経済的利益を継続して供与するものと同視できる場合には、なお定期同額給与に該当すると解される。 (了)

#No. 4(掲載号)
#木村 浩之
2013/01/31

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第8回】税率変更の問題点(7) 「会計システムの変更及び入力方法」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第8回】 税率変更の問題点(7) 「会計システムの変更及び入力方法」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   1 会計システムの変更とその導入時期 税率改正に伴いレジスター、販売管理、在庫管理等のシステムについて変更が必要となることについては、前回までに解説したが、これらのシステムと同様に、会計システムについても新税率に対応できるよう変更しなければならない。 消費税の計算は、課税期間(法人の場合は事業年度)開始の日から終了の日までの期間の取引を集計し、決算整理等を行って会計を締める際に納付税額を求めることとなる。つまり、消費税の計算につき会計システムを利用する場合には、課税期間を通してすべての取引内容を入力することとなり、その課税期間の開始の日から同一のシステムで対応しておく必要がある。 したがって、会計システムの変更時期については、税率変更の施行日に行うのではなく、施行日を含む課税期間の初日から対応できるようにしなければならない。 例えば、決算日が4月末日の1年決算法人の場合には、施行日を含む課税期間は平成25年5月1日から平成26年4月30日となり、変更後の会計システムを平成25年4月30日までに導入する必要がある。 なお、市販の会計システムの場合には、課税期間の途中でバージョンアップしても対応できる可能性が高いため、その変更可能なシステムを利用する場合は、施行日までに税率変更に対応した会計システムを導入することで対処できることとなる。 しかしながら、自社独自の会計システムを利用している場合には、課税期間の途中からの対応ができない可能性もあるため、そのシステム構築をする期間がかなり短期間となり、早急の対応が求められる。 この会計システムの変更については、すべての事業者に関わる問題であることから、システム開発を行う業者に依頼が殺到することとなり、その構築に係る時間が通常よりも長くなることも考慮した上で対策を講じなければならない。 また、自社システムにおいて、課税期間の途中で会計システムの変更が可能であるとしても、そのシステム構築のためのコストが多額になることもあるため注意する必要がある。 さらに、平成27年10月に税率が10%に変更されることから、今回の会計システムの変更において、10%への税率変更についても対応できるようなシステム変更を行うのか、あるいはその変更が可能なのかといった点についても検討しなければならない。 いずれにしても、会計システムの変更については、設備投資に係る資金面の問題とそのシステム構築に係る時間的な問題があり、さらには決算業務などの会社経理の運営面での問題が生じる可能性もあることから、税率変更の対応策の中でも特に重要な項目である。   2 会計システムの具体的変更点 今回の税率変更に伴う会計システムの変更については、税率を変更すること以外にも、以下のような点に留意する必要がある。 ① 複数税率への対応 課税期間が施行日をまたぐ場合には、施行日前は旧税率、施行日後は新税率で対応しなければならない。 また、施行日後であっても売上げに係る対価の返還等、仕入れに係る対価の返還等、貸倒れなどの処理につき旧税率を適用する可能性があることについては前回までに解説したが、それ以外にも経過措置が設けられている旅客運賃、電気・ガス・水道などの公共料金、建物等の請負契約、リース契約などについては旧税率が適用される場合があることから、旧税率と新税率の両方に対応した、いわゆる複数税率の計算を行うことができる会計システムに変更する必要がある。 なお、新税率について、8%と10%の両方に対応するためには、旧税率と併せて3つの税率に対応しなければならない。 ② 期末一括税抜処理の対応 従来の市販の会計システムによっては、その事業者が税抜経理により会計処理を行う場合において、期中は税込経理で入力し、期末に一括で税抜経理の処理を行うことが可能であった。 具体的には以下のような処理方法である。 上記のように、会計システムにおいて期末に一括して各勘定科目の残高のうち5%部分を「仮受消費税」又は「仮払消費税」に振り替える仕訳を自動で行うためには、税率が単一であれば各勘定科目の残高を集計し、その合計金額に5/105を乗じて計算することとなるが、複数税率となった場合には、各勘定科目につきそれぞれの税率に区分して集計し、旧税率の合計金額に5/105、新税率の合計金額に8/108を乗じて計算することとなるので注意しなければならない。 ③ 自動税抜仕訳処理の対応 上記②と同様に、従来の市販の会計システムにおいて、仕訳の入力を税込で行い、その仕訳ごとに「仮受消費税」又は「仮払消費税」に振り替える処理を自動で行うシステムの場合も、施行日後の処理についてはどちらの税率にも対応できるように変更しなければならない。 ④ 旧税率が適用された取引がある場合の添付資料(付表)の対応 第6回でも解説したが、消費税の確定申告書を提出する際に添付する資料について、その課税期間で複数の税率が混在している場合には、従来の付表2の「課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」又は付表5の「控除対象仕入税額の計算表」ではなく、複数税率に対応した経過措置用の計算表を提出することとなる。 したがって、施行日を含む課税期間以後の課税期間において、複数の税率が混在している場合には、会計システムにおいて、経過措置用の計算表の計算を処理できるようにした上で、その帳票を印刷するシステムの変更を行う必要がある。   3 消費税法改正に伴う会計システムの費用の取扱い 今回の税率変更に伴う会計システムの変更については、上記1及び2のような変更が必要となることから、そのシステム構築に係るコストが多額となることが考えられる。 したがって、その資金調達をどうするのかといった問題が発生するとともに、そのコストが修繕費として一括で費用処理となるのか、資本的支出として耐用年数に応じて償却費として処理することになるのかといった問題が発生する。 この費用処理の取扱いについては、施行日以後の課税期間の損益計算に大きく影響を及ぼすこととなるので注意が必要である。 この会計システム変更の費用の取扱いについては、そのシステム変更が新たな機能の追加、向上等に該当しなければ修繕費として取り扱って差し支えないということを、総額表示義務規定が創設された平成16年の消費税法改正時に『消費税法改正に伴う会計ソフト修正費用の取扱い』として国税庁から以下のような見解が示されている。 したがって、今回の改正においても同様の取扱いになるものと考えられるが、修繕費として取り扱う場合には、そのシステムの変更が機能の追加等でないことにつきシステムの作業指図書等において明確にしておく必要があるので注意しなければならない。   4 会計システムの入力方法 会計システムについては、そのシステム変更が適正に行われていることも重要であるが、そのシステムを運用する場合の経理担当者等の入力についても注意が必要である。 税率変更前は、その事業者が行う取引が課税取引かどうかという点に注意して入力すれば問題なかったが、税率変更後は、課税取引の場合にその税率が5%なのか8%なのかという点についても注意しなければならず、担当者が入力ミスを行ってしまう可能性が高くなる。 この会計入力を適正に処理しなければ、消費税の自動計算が正しく行われないこととなり、間違った消費税額を納付してしまうこととなるので注意しなければならない。 市販の会計システムを利用する場合、勘定科目の設定や消費税率の設定を事前に行うこととなるが、施行日後の税率が自動的に新税率で処理される可能性があり、旧税率が適用される取引の場合には、自動で新税率が付されている消費税のコード等を旧税率に変更して入力を行うこととなる。 特に施行日後で注意すべき勘定科目としては、以下のようなものがある。 なお、リース契約など長期にわたって旧税率が適用される場合は、施行日を含む課税期間後の課税期間においても旧税率が存在することとなり、入力する際には慎重に対応する必要がある。 さらに、平成23年6月改正による95%ルールの見直し(平成24年4月1日以後開始する課税期間から適用)において、個別対応方式を採用することとなる事業者の場合には、課税仕入れを3つに区分する作業も発生することから、どの取引が課税取引となるのか、その場合の税率は何%かといった注意点に加え、その取引(課税仕入れ)が課税売上対応、非課税売上対応、共通対応のどの区分に該当するのかという点についても注意が必要となり、入力する際に注意すべき項目が増えることから、経理担当者のスキルが問題となるケースが考えられる。 このスキルの問題については、その事業者の経理部門等において自社の取引の中で入力する際に注意すべき項目をチェックした上で、その会計システムの入力方法を確認し、そのための研修等を事前に行うなど入力担当者のスキル向上のための対策を講じることが重要である。 また、平成27年10月1日以後の会計システムの入力については、5%、8%、10%の税率を区分して処理することとなり、8%の変更時よりもさらに複雑となることから、細心の注意を払って入力する必要がある。 (了)

#No. 4(掲載号)
#島添 浩
2013/01/31

租税争訟レポート【第4回】勝馬投票券の払戻金に係る所得を一時所得と判断した事例(国税不服審判所公表裁決)

租税争訟レポート【第4回】 勝馬投票券の払戻金に係る所得を 一時所得と判断した事例 (国税不服審判所公表裁決)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 1 審査請求に至る経緯 審査請求人(以下「請求人」という)は、平成17年分から21年分の所得税について、確定申告書を提出していなかったところ、原処分庁の税務調査を受け、確定申告書を提出したが、無申告加算税の賦課決定処分及び更正処分を受けた。 また、請求人は、平成22年分の所得税については法定申告期限までに確定申告を行ったが、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。 請求人は、各更正処分及び賦課決定処分を不服として異議申立を行ったが、異議審理庁は棄却の異議決定をしたため、審査請求を行ったものである。 2 所得税法の規定 所得税法34条1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。 また同条2項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。   【争点1:的中馬券による所得は一時所得に該当するか】 1 原処分庁の主張 「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」とは、所得源泉を有しない所得と解すべきであり、所得源泉の有無は、所得の基礎に源泉性を認めるに足る継続性、恒常性があるか否かが判断基準になる。 馬券を購入する行為と競走の結果(着順)との間に相関関係がないのは明らかであり、馬券の購入金額よりも大きい払戻金を受け取れるか否かはあくまで臨時的、不規則的なものであって、払戻金については、所得の基礎に源泉性を認めるに足るだけの継続性、恒常性を有しているとはいえない。 2 請求人の主張 請求人は、娯楽として楽しむのではなく、投機的行為に近いものとして、払戻金を原資に継続的に毎週馬券を購入しており、過去6年にわたり毎年黒字の収益を確保していることからも、馬券の払戻金による所得は、臨時的、偶発的に生じる一時の所得ではなく、連続した継続性のある所得であり、所得源泉を有するとみることができる。 3 審判所の判断 馬券を購入する行為は、払戻金を得られるか否か分からない不確実な行為であるのみならず、競走ごとに独立した行為と評価できることから、馬券の払戻金による所得には、所得の基礎である馬券を購入する行為に、その源泉性を認めるに足る継続性、恒常性を認めることはできず、たとえ馬券を継続的に購入したとしても、馬券を購入する行為から得られた所得が所得源泉を有する所得であると認めることはできない。 したがって馬券を購入する行為から生じた所得は、所得源泉を有する所得以外の所得ということになり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であると認められる。   【争点2:所得金額の計算において外れ馬券の金額も控除できるか】 1 原処分庁の主張 払戻金に係る一時所得の金額の計算において控除できるのは、的中した馬券の購入金額のみであり、一時所得の金額の計算にあたり採用すべき方法は、競走ごとに払戻金額から的中した馬券の購入金額を控除して計算する方法であるが、請求人の馬券の購入履歴を示す証拠等が存在しないため、購入馬券と払戻金の決済単位である節(通常は週末の土日が競馬開催日であり、この両日をいう)ごとの払戻金の総額から馬券の購入金額の総額を控除する方法を採用し、預金の入出金履歴を用いて算定する方法を採用した。 当該方法で計算した所得金額は、競走ごとに払戻金から購入金を控除して計算される一時所得の金額を上回ることはない。 2 請求人の主張 一時所得の課税は、一時的、臨時的な収入であることから、2分の1課税によって納税者の担税力に配慮しているところ、請求人のように継続的に多額の馬券を購入する常連者においては、担税力をはるかに超える課税となっており、年間を通じた馬券の購入金の全額を控除せずに行った原処分は違法である。 原処分庁の一時所得の計算方法には合理性がなく、的中した馬券のみの購入金額の算定ができないのなら、年間を通じた馬券の購入金の全額を控除すべきである。 3 審判所の判断 所得税法34条2項は、一時所得金額の計算において、一時所得に係る収入、支出について総体対応計算によることなく、個別的対応に収入を生じた行為又は原因ごとに直接支出した金額に限るものとし、その反面、収入を生じさせない行為又は原因に係る支出は控除しないということを規定したものと解するのが相当である。 この解釈に従えば、その収入を得るために支出した金額とは、払戻金という収入の原因の発生に伴い直接要した金額であるから、的中した馬券に係る購入金ということができる。 原処分庁の採用した算定方法は、請求人にとって不利益な算定方法であるとはいえず、当該算定方法を特段不合理とする理由は認められない。   【解説】 審判所の裁決の中では触れられていないが、所得税基本通達34-1には、一時所得の例示として挙げられた12項目の所得に「競馬の馬券の払戻金」が含まれている。 ところが、通達に拘束されるのはあくまで国税庁長官の指揮命令系統にある職員に限られることから、原処分庁は、通達に従った課税処分をしながら、審判や訴訟の場では、通達による課税を主張できないジレンマを抱えている。 また、国税不服審判所長も、国税通則法99条1項により、「国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈と異なる解釈により裁決を行うとき」は、事前に意見を申し出なければならず、実質的に、通達に拘束されているという見方もある(同条の規定に基づく意見申出件数は9件にすぎない)。 この裁決が公開される20日ほど前、大阪国税局が、3年間で28億7,000万円分の馬券を購入し、30億円余りの的中配当を得た男性会社員(39)に対し、無申告加算税を含む約6億9,000万円を追徴課税した上で、所得税法違反の罪で大阪地検に告発し、起訴されたという報道があった。 こちらの事件は、本裁決事例以上に、「担税力」が問題になりそうである。1億数千万円の利益しかない納税者に対し、7億円近い課税処分を行うことが、公正・公平な課税といえるのかどうか、今後、勝馬投票券の払戻金に対する課税がどう見直されていくのか、注視したい。 (了)

#No. 4(掲載号)
#米澤 勝
2013/01/31
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