企業不正と税務調査 【第10回】 「粉飾決算」 (1) 棚卸資産の架空・過大計上 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 今回は、粉飾決算の手口の代表例である棚卸資産の過大(架空)計上をテーマに取り上げる。 本来、売上原価として当該事業年度の損金の額に算入しなければならないものを、棚卸資産(在庫)として貸借対照表に記載し、その分だけ、当期の売上総利益を大きく見せるという手法は、古典的ではあるものの、他の粉飾の手口と異なり、自社だけで不正が完結するという点で、利用されやすい。特に、ソフトウエア開発業者においては、開発中のソフトウエアの資産計上額(帳簿価額)を不正に大きく計上して、損失を先送りする例も多い。ソフトウエアは通常の商品在庫と違って目に見えないものであることから、会計監査における実地棚卸によっても粉飾が発見できないケースも考えられる。 今回は、こうした棚卸資産の過大(架空)計上による不正について、検討したい。 これまで見てきた、経営者による不正(売上除外、架空・水増人件費の計上)、従業員による不正(経理部担当者・営業担当者による横領)は、課税所得金額の減少を伴うものであり、課税庁(税務署)にとっては、「発見すれば追徴課税ができる」という意味から、不正発見に関してインセンティブが働くものであった。 しかし、今回から取り上げる「粉飾決算」は、本来納付すべき税額以上の税額を納付していることから、「発見したところで税収増には直結しない」不正であり、税務調査で発見されなかったり、発見されても是正されなかったりすることも少なくない。 本稿でも、最初の税務調査で粉飾の事実を知りながら申告内容の修正を求めなかった場合に、その後、2度目の税務調査で更正処分をすることが認められるかどうかが争われた訴訟を取り上げる。 1 棚卸資産の過大(架空)計上の効果 (1) 会社側の経理処理 一事業年度における売上原価を確定するためには、期末における在庫を確定する必要がある。算式で表すと、以下のようになる。 期末商品棚卸高をどのように把握するかについては、期中は帳簿残高による管理を行い、期末に実地棚卸を実施して、万一差異が発生している場合には、その差異を棚卸減耗損などの勘定科目によって認識し、実地棚卸残高をもって期末商品棚卸高とする方法が一般的である。 ここで、その事業年度の利益を増やして粉飾決算を行おうとする者は、期末商品棚卸高を実地棚卸残高よりも過大に計上し、あるいは架空計上することによって、当期の売上原価を減少させ、もって売上総利益を増加させる方法により粉飾を行うものである。 (2) 棚卸資産の過大(架空)計上による粉飾の特徴 期末商品棚卸高を過大に計上した粉飾の効果は、財務諸表において、次の2点に表れる。 もっとも、こうした粉飾の動機は、そもそも利益が計上できていないところにあるから、粗利益率が多少改善したところで、違和感につながることはないと考えるべきであり、目立つのは、棚卸資産残高の増加であろう。 期末に仕入が増加した結果、棚卸資産残高が増加したのであれば、貸借対照表では、買掛金や未払金といった負債科目の残高も増加しているはずであるが、棚卸資産について粉飾を行っている場合には、そうした傾向はみられない。 (3) 棚卸資産以外の資産の過大(架空)計上による粉飾 卸売業・販売業以外の業種、例えば、建設業では「未成工事支出金」、サービス業では「前渡金」などの勘定科目において、本来、当期の工事原価、役務提供の原価として処理すべき費用を資産計上することにより、粉飾が行われることが多い。 2 ソフトウエア開発業者における棚卸資産の水増し (1) 棚卸資産水増しの手口 ソフトウエア開発業者が、本来は当該事業年度の売上原価又は販売費及び一般管理費となるべき費用を開発中(まだ売上計上に至っていない)のソフトウエアに係る仕掛品として計上し、売上原価又は費用を先送りすることにより、粉飾決算を行う事例も多い。 一般に、こうした企業では、以下のような仕訳を行い、財務諸表を作成している。 例えば、得意先からの受注に基づくソフトウエアが完成して売上を計上する際に、その開発原価に算入すべきコスト(SEコスト)が合計2,000であった場合の本来の仕訳を考える。 ここで、この売上原価に対応する受注(売上)額が十分な利益を計上できる額であればいいのだが、赤字受注であったり、見込以上にコストがかかったりして、粉飾に手を染める必要が生じることもある。そこで、以下のように仕訳を変更する。 例えば、受注額は1,500であり、赤字商談となってしまったと仮定する。 本来、売上原価として2,000を計上して500の損失を認識しなければならないところを、架空の資産(仕掛品)1,000を計上することによって同額を当期の売上原価から棚卸資産へ振り向け、決算は一転して、500の黒字となる。 翌期に大口商談が控えている場合などは、こうした手口で損失を先送りしても、将来、挽回することができるかもしれない。また、上場を目指して赤字決算が許されないような状況で、こうした粉飾に手を染める企業も多い。もちろん、仕掛品そのものには資産価値はなく、経費のキャッシュアウトを補う収入があるわけではないから、こうした手口を繰り返すだけでは、早晩、資金的な行き詰まりから、粉飾は破綻することになる。 (2) 会計監査で問題にされない理由 こうした粉飾が会計監査で問題にされづらいのは、 などを理由とするが、そもそも、開発部門以外の管理部門、内部監査部門などが、受注した商談とそこに算入すべき開発コストの対応関係にまで踏み込んで、是非を判断することは難しいと考えられる。ましてや、会計監査において、開発部門の恣意的な損益調整を発見することは困難であろう。 3 棚卸資産の過大計上に関する判決(東京地方裁判所平成22年9月10日判決) (1) 事例の概要 X社は、平成10年9月期から、棚卸資産を実際よりは過大に計上する方法により、粉飾決算を行っており、その総額が約20億円となったことから、平成14年12月期において、これを前期損益修正損として一括して損金の額に算入し、法人税の申告を行った。 しかし、この「前期損益修正損」を平成14年12月期の課税所得の計算上損金の額に算入することは、法人税法上は認められない。確定した決算で前期損益修正損を計上したうえで、その前期以前の各事業年度の税額計算の基礎となった課税標準の額に誤りがあったことを理由に、更正の請求を行うというのが、法人税法の規定である。 平成17年7月に行われた税務調査(前回調査)では、調査を担当した税務職員は、粉飾決算の事実を告げられながら、本件損失について修正申告を求めることがないまま調査を完了した。その後、平成19年10月に行われた税務調査(今回調査)では、平成14年12月期の損失が否認されるとともに、その後の事業年度における繰越欠損金の当期控除額の過大額を否認する更正処分がされた。 本訴訟では、今回調査による平成14年12月期申告に対する更正処分が適法であるどうか、前回調査で修正をさせなかったにもかかわらず、今回調査で更正処分を行ったことが、信義則違反に問えるかどうかが争われた。 (2) 裁判所の判断 平成14年12月期の損失は、平成10年9月期から平成14年9月期までの各事業年度の売上原価であるから、平成14年12月期の売上原価ではなく、平成14年12月期の損失にも該当しない。さらに、平成14年12月期の販売費、一般管理費その他の費用に該当しないことは明らかであり、法人税法22条3項に規定する当該事業年度の損金に算入すべき金額ではない。したがって、当該更正処分は適法である。 処分行政庁が前回調査時に本件粉飾の事実を認識していたとしても、更正をするかどうかは処分行政庁の裁量に属する事項であって、処分行政庁が更正をしなかったことが違法であるということはできない。 (3) 信義則(禁反言の法理)違反 原告(納税者)による信義誠実の原則に反するという主張に対して、裁判所は、「税務職員の見解の表示のすべてが信頼の対象となる公式見解の表示」となるものではなく、「少なくとも、税務署長その他責任ある立場にある者の正式な見解の表示」でなければ、租税法律関係における信義則の適用はないとしている。 この点、平成25年1月より施行された改正国税通則法では、本件の平成14年12月期申告のように税務調査の結果、修正申告の勧奨がなされなかった場合には、「更正決定等をすべきと認められない旨の通知」が税務署長名で交付されることから、納税者として、課税庁の信義則違反を問える可能性が高まるのではないかと思料する。 * * * 次回は、粉飾のもう一つの手口である架空売上について、最近判明した不正事例をもとに検討を進めたい。 (了)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《減価償却》編 【第2回】 弁護士 木村 浩之 (前回はこちら) 3 固定資産の取得価額 (1) 問題の所在 固定資産の取得価額は、減価償却の計算の基礎となるものであり、ある費用が固定資産の取得価額に算入されるか否かによって、損金算入のタイミングが異なることになる。また、少額の減価償却資産等の該当性を判断するに当たっての基礎ともなる。 そこで、税務調査等においては、「特定の費用が取得価額に含まれるか否か」が問題となることが多いといえる。 法人税法においては、固定資産の取得原因ごとに取得価額の計算方法が規定されているが、以下では、その代表的なものとして、資産を購入した場合の取得価額を例にして解説することとしたい。購入資産の取得価額については、次に掲げる金額の合計額とされている(法令54①一)。 このことから明らかなように、資産の購入代金のみならず、その運賃や手数料などの資産の取得に付随する費用も含まれる。また、それ以外にも、資産を事業の用に供するための費用も含まれるとされており、結局のところ、資産の稼働開始に至るまでの支出の総額が取得価額となることに注意する必要がある。 このように、固定資産の取得価額をめぐっては、 ① 資産の取得に付随する費用に該当するか、 ② 資産を事業の用に供するために直接要した費用に該当するか が問題となる。 (2) 資産の取得に付随する費用の意義 固定資産は、その取得後、将来にわたって収益が実現するものであり、費用と収益を対応させる必要があるところ、そのことは資産の取得に付随して支出される費用であっても同様と解される。 そこで、このような付随費用は、支出時の損金ではなく、固定資産の実質的な対価として、その取得価額に含まれるものとされている。 例えば、物件の取得に際し、不動産仲介業者に支払った手数料(東京地判昭和50年8月28日・行集26巻7・8号944頁)がこれに含まれることはもちろん、物件を競落取得する目的で競売屋に対し支払われた情報収集のための手数料(横浜地判昭和昭和52年3月30日・行集28巻3号286頁)、物件を取得する際に支出された紛争解決金、和解金、立退料なども取得価額に含まれることになる(東京高裁昭和50年7月23日・税資82号496頁など)。 このように、資産の取得に関連して支出される費用については、広く付随費用として取得価額に含まれることになるものと解される。 (3) 資産を事業の用に供するために直接要した費用の意義 資産を取得した後、事業の用に供するために要した費用については、間接的なものを含めると無制限に広がるおそれがあることから、「直接」要したものに限定されている。したがって、付随費用ほどは広く解されないのであり、ある程度具体的な個別の対応関係が必要である。 例えば、資産取得後に何らかの紛争が生じ、その解決のために一定の費用が生じた場合であっても、通常は取得価額に含まれることはない。この点、裁判例においても、土地建物の買受けについて売買契約、代金支払い、所有権移転登記のすべてが完了した後に支払われた紛争解決金は、取得価額には含まれないとされた事例がある(東京地判昭和40年4月2日・税資54号694頁参照)。 他方、資産の取得時において、その取得後に一定の費用を支出することがもともと予定されていた場合には、個別的な対応関係が認められるのであり、取得価額に含まれることになる(東京地判昭和49年8月30日・行集25巻8・9号1086頁参照)。 このように、資産取得後の費用については、その資産を事業の用に供することと個別的な対応関係が認められる限りにおいて、取得価額に含まれることになる。 (4) その他の論点 ア 寄附金と取得価額の関係 資産の取得に際しては、その資産を円滑に取得するために、寄附金としての性質を有する費用の支出が必要となる場合がある。そのような場合、寄附金の支出が資産の取得に不可欠であるか、あるいは寄附金が資産の取得と直接関連性を有していると認められる限りにおいて、その寄附金の額も取得価額に含まれることになる(東京地判昭和49年10月30日・税資77号304頁参照)。 逆に、資産の購入代金に含まれるものであっても、その代金が高額であって時価との差額が実質的な贈与と認められる場合には、その差額に相当する部分は形式的な対価であって実質的な対価ではないといえることから、寄附金として取り扱われ、取得価額には含まれないことになる。この場合、資産の時価が取得価額となる(法基通7-3-1参照)。 イ 複数の資産を一括で取得した場合 複数の資産を一括で取得した場合、例えば、土地と建物を一括で取得した場合に、その内訳が客観的に明らかにされていないときは、各資産の取得価額をどのように判定するかという問題がある。これについては、明確に金額の内訳が合意されていない以上、合理的な基準によって相当な金額に按分する必要がある。 なお、裁判例において合理的な計算方法であると認められたものとして、土地と建物の固定資産評価額の割合による按分計算がある(東京地裁昭和47年12月14日・税資66号1216頁)。 ウ 建物の取壊し費用 減価償却資産たる建物を取り壊した場合に未償却残高がある場合は、通常は、その残高相当の除却損を計上することになる。もっとも、その建物を敷地の所有権又は借地権と共に取得した後、短期間のうちに建物を除却するなど、当初から建物を取り壊して敷地を利用する目的であったと認められる場合には、建物の取得費用は実質的には敷地の所有権又は借地権の取得の対価的性質をもつとみるのが相当であり、敷地の所有権又は借地権の取得価額に含まれると解されている(東京高裁昭和51年6月30日・税資89号106頁)。 この点、通達では、短期間というのは概ね1年をいうものとされており、実際に1年以内に取り壊しがなされた場合には、当初から取り壊す目的があったものと事実上推認されることになる(鳥取地判昭和57年6月24日・税資123号769頁参照)。 ただし、これは事実上推認されるにすぎないものであることから、取壊しが建物取得後に生じた事情によってなされたものと認められれば、結果的に1年以内に取壊しがなされたとしても、取得価額には含まれないことになる。逆に、1年経過後に取壊しがなされたとしても、それが当初からの目的であったと認められる場合には、取得価額に含まれることになる。 次回は少額の減価償却資産をめぐる論点について整理する。 (了)
組織再編税制における不確定概念 【第10回】 「損失の二重利用②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回(第9回目)では、子会社株式の譲渡と適格合併を利用して損失を二重に利用するケースについて解説を行った。 これに対し、第10回目では、包括的租税回避防止規定が適用された事案として、パチンコ店約40グループが適格組織再編成を繰り返すことにより、損失を二重、三重に利用した事案についての解説を行う。 1 基本的な取扱い 適格分社型分割を行った場合には、分割法人が保有する資産及び負債が分割承継法人に対し、簿価で譲渡されることになる(法法62の3)。すなわち、分割承継法人は資産及び負債を簿価で取得したものとみなされ(法令123の4)、分割承継法人に移転した簿価純資産価額が、分割法人が取得する分割承継法人株式の取得価額となる(法令119①七)。 その結果、分割法人における移転資産の含み損益は分割承継法人株式の含み損益に振り替えられることになる。 すなわち、移転資産に含み損がある場合には、分割法人においては分割承継法人株式の含み損に振り替えられ、分割承継法人においては移転資産の含み損として認識することになるため、含み損が二重に発生するという問題がある。 さらに、グループ内の適格分社型分割の判定においては、分割時点だけでなく、分社型分割後においてもグループ関係が維持されることが見込まれている必要があるが、直接保有だけでなく、間接保有を含めた上で、当該グループ関係の判定を行うことになるため、適格分社型分割に該当する場合であっても、グループ間で子会社株式を譲渡することにより、子会社株式に係る譲渡損益が実現するケースは十分に考えられる。 具体的には、下図のケースである。 【適格分社型分割】 〈現状〉 〈ステップ1;新設分社型分割〉 〈ステップ2;A社株式の譲渡〉 上記のケースにおいては、新設分割の直後においては父親が分割法人P社の発行済株式のすべてを直接に保有し、分割承継法人A社の発行済株式のすべてをP社を通じて間接に保有しているが、息子にA社株式を譲渡することにより、父親とその親族である息子を合算すると、分割法人P社と分割承継法人A社の発行済株式のすべてを直接に保有することになる。 そのような場合であっても、同一の者が分割法人と分割承継法人の発行済株式のすべてを直接又は間接に保有することが継続することが見込まれているため、100%グループ内の適格分社型分割として処理されることになる(法法2十二の十一イ、法令4の3⑥二)。 なお、適格分社型分割は、簿価で資産及び負債を譲渡したものとみなすと規定しているだけで、分割承継法人株式の時価が簿価純資産価額であることまでは規定していない。すなわち、このような適格分社型分割により取得したA社株式であっても、息子に譲渡する段階では、時価で譲渡する必要が生じる。すなわち、分割承継法人A社に移転した資産に含み損がある場合には、P社がA社株式を息子に譲渡した段階でA社株式譲渡損が発生することになる。 また、完全支配関係のある内国法人間における資産の譲渡につき、譲渡損益を繰り延べるというグループ法人税制の規定については、内国法人から個人に対する資産の譲渡であるため、本件取引においては適用されない。 その結果、P社(分割法人)においてはA社株式の譲渡損益が実現し、A社(分割承継法人)においては、移転資産を売却した時点で資産の譲渡損益が実現することから、二重の譲渡損益が発生してしまうことも考えられる。 具体的には、分社型分割により帳簿価額10億円、時価1億円の資産を適格分社型分割により分割承継法人に移転させた場合には、P社におけるA社株式の帳簿価額は10億円になり、A社における資産の帳簿価額は10億円になることから、両社において含み損を抱えることになるため、将来の株式の譲渡や移転資産の譲渡により、含み損を実現させることにより、両社において9億円の譲渡損が発生することになる。 無論、このような損失の二重利用を目的とした組織再編行為については、包括的租税回避防止規定の適用が考えられるが(法法132の2)、グループ内の資本構成を整備する中で、結果的に損失の二重利用が行われ、包括的租税回避防止規定を適用することができないようなケースが生じることもある。 たとえば、上記のケースにおいては、A社に移転する事業を息子に先行的に承継させたいというニーズがある場合には、上記のストラクチャーは有効な手段であり、これを否認することは難しいと考えられる。また、本連載の第6回目(意図的な含み損の実現)で解説したように、分割承継法人株式を譲渡したものについて、仮装行為であるという認定も難しいと考えられる。 すなわち、実務上、これを否認するためには、①含み損のある資産をA社に移転したことが仮装行為に該当するか否か、②譲渡予定の資産をA社に移転したことについての経済合理性があるか否かの2点が問題になると考えられる。 前者については、書面上だけでなく、実質的にも、資産の移転が行われているか否かの事実認定が行われることになり、税務調査においても、重要な調査項目になると思われるが、実際にはそのような否認が難しいことの方が多いと考えられる。 また、後者についても、分割事業に関連する資産であれば、たとえ短期間に譲渡することが見込まれていたとしても、経済合理性のある取引であると認定されよう。 したがって、上記のように二重に損金が発生するという問題があるにせよ、租税回避行為として認定されることは少ないと考えられる。 2 否認され得るケース このように、通常であれば、二重に損金が発生するという問題があるにせよ、経済合理性のある取引として処理されることの方が多いと考えられる。しかしながら、適格組織再編成を繰り返すことにより、欠損法人を数珠並びにすることが可能である。 具体的には、以下の事例を参照されたい。 【適格分社型分割】 〈現状〉 〈ステップ1;新設分社型分割〉 〈ステップ2;A社株式を現物出資対象資産とする新設現物出資〉 〈ステップ3;A社株式の譲渡〉 〈ステップ4;X社株式の譲渡〉 上記のストラクチャーにおいては、A社を設立するだけでなく、当該A社株式を現物出資対象資産としてX社に移転することにより、含み損が三重になっている。 上記のストラクチャーにおけるP社、X社及びA社の仕訳は、以下の通りである。 なお、上記では、適格現物出資によるストラクチャーを前提としたが、それ以外にも、①A社株式を分割対象資産とする適格分社型分割、②A社を株式移転完全子法人とし、X社を株式移転完全親法人とする適格株式移転によるストラクチャーにおいても同様の結論となる。さらに、息子にそれぞれの法人の株式を譲渡する前に、X社株式を現物出資対象資産としてY社を設立、Y社株式を現物出資対象資産としてZ社を設立といったことを繰り返せば、欠損法人を無限に設立することが可能となる。 さらに、本ストラクチャーにおいては、適格組織再編成によって特定支配関係が生じているため、法人税法施行令第113条の2第6項により、「特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用」の適用から除外される。 しかしながら、このようなストラクチャーについては、A社の設立はともかくとして、X社の設立については何ら経済合理性がなく、欠損法人を作り出すためだけに行われたストラクチャーであると考えられる。そのため、本来であれば、包括的租税回避防止規定を適用し、このような欠損法人(X社)において発生したA社株式譲渡損を否認すべきであると考えられ、パチンコ店約40グループが適格現物出資を繰り返した行為について租税回避行為として否認された事例(平成24年2月12日、読売新聞朝刊より)は上記の根拠に基づいて否認されたものであると推定される。 しかしながら、このような問題が生じる理由としては、適格分社型分割により分割法人が取得した分割承継法人株式、適格現物出資により現物出資法人が取得した被現物出資法人、適格株式交換により株式交換完全親法人が取得した株式交換完全子法人株式及び適格株式移転により株式移転完全親法人が取得した株式移転完全子法人株式について、適格組織再編成後に短期間で譲渡が行われる場合についても、その損金性を認めていることが原因であると考えられる。 そのため、将来の税制改正により、法人税法62条の7に規定する特定資産譲渡等損失の損金不算入のように、一定期間においては、上記のような株式の譲渡から発生する損失について、損金算入制限を課すべきであると考えられる。 (連載了)
税務判例を読むための税法の学び方【12】 〔第4章〕条文を読むためのコツ (その5) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) (4 主文の主要素を見極める方法) ⑤ 対句に着目して整理する 「対句」といった場合、様々なものが考えられるが、ここでは文章内に同じような表現が繰り返されている場合を指す。 文章内に同じような表現が繰り返されている場合には、この同じような表現である部分を活用して条文を簡略化するということが行われる。先に書いた「② 並列的内容の事項の併置に着目して整理する」と似ているが、これと異なり「語句」ではない条文上の表現に着目して整理する方法である。この単純な例としては、地方税法第51条第2項を上げることができる。 この場合には、「・・・によって申告納付するものにあっては・・・、・・・によって申告納付するものにあっては・・・」が対句の形になっている。この条文は「(A)によって申告納付するものにあっては(B)、(C)によって申告納付するものにあっては(D)」となっており、この対句表現に着目することにより、(A)の場合が(B)、(C)の場合が(D)となることが分かる。 もう一つ別の表現のものを見よう。 所得税法第166条 は、以下のようにある。 このカッコを省略すると、以下のようになる。 この場合には、「・・・とあるのは・・・と、・・・とあるのは・・・と、・・・とあるのは・・・と、・・・」というように、「・・・とあるのは・・・と」が6回繰り返されている。 条文は一見長文で読み難そうではあるが、要は「・・・とあるのは・・・と読み替えるものとする。」として6つの事項が規定されているだけであり、各々「とあるのは」の前にある語句を後にある語句に読み替えるだけであり、整理ポイントさえ分かれば解釈しやすい条文である。 さらに一つ、別の表現のものを見よう。 所得税法第2条42号では「出国」を定義しているが、以下のようにある。 このカッコを省略すると、以下のようになる。 この場合には、「・・・については、・・・を有しないこととなることをいい、・・・については、・・・を有しないこととなることをいう」が対句の形になっている。 この条文は「(A)については、(B)を有しないこととなることをいい、(C)については、(D)を有しないこととなることをいう」となっており、この対句表現に着目することにより、(A)の場合が(B)を有しない、(C)の場合が(D)を有しないこととなることが分かる。 この条文もまた一見長文で読み難そうではあるが、カッコを除いた上で対句による整理ポイントさえつかめれば、解釈しやすい条文である。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載23〕 無対価分割の会社法と税務 税理士 竹内 陽一 1 会社法と無対価分割 会社法758条4号では、承継会社が分割会社に金銭等を交付するときは、と規定されているので、吸収分割契約において、承継会社が対価を交付しないことを決めることができる。この場合、剰余金の配当はできないので、これは、会社法では無対価吸収分社型分割となる。 会社法での分割型分割は、分割会社が対価等の交付を受けて、それを株主に剰余金の分配を行うことなので、会社法では無対価分社型分割はあっても、無対価分割型分割はない。 新設分割では、新設分割設立会社(以下「設立会社」)が新設分割会社(以下「分割会社」)に対して交付する設立会社の交付株式数は、法定記載事項として設立会社の株式が必ず交付されるので、無対価新設分割はない。 吸収分割においては、実務では交付省略型として、完全支配関係である親子会社(親会社=分割法人、子会社=承継法人、以下「完全親子型」)、子親会社(子会社=分割法人、親会社=承継法人、以下「完全子親型」)、兄弟会社(以下「完全兄弟型」)、完全子親型及び完全兄弟型の混合型の4類型について、無対価で吸収分割することが想定できる。これらは、会社法ではすべて分社型となる。 税務では、この4類型はすべて適格で、完全親子型は分社型、他の3類型は分割型とされる。 分割契約書においても、これらの完全親子関係等を記載して、無対価条項を記載する実務となっている。 2 会社法上の無対価分割と税務上の分社型及び分割型 会社法では、無対価分割はすべて、剰余金の配当を行うことができないので、税務でいう分社型になるが、税務上は、会社法上分社型分割であっても、分割法人の株主への対価の割当てが省略された交付省略型である適格無対価分割型分割を想定して、平成22年度改正において、表1にみられるように、完全親子型及び分割会社が承継会社の株式を1株でも保有する場合の無対価を分社型分割とし、これら以外の場合を分割型分割とした。(法法2十二の九、十二の十) 表1 無対価分割の概要 さらに、表2でみられるように、完全親子型を無対価適格分社型分割とし、完全子親型、完全兄弟型、これらの混合型の3類型について、無対価適格分割型分割とした。 表2 無対価分割(適格) さらにこの改正においては、法令4条の3第6項1号のイとロ(当事者間完全支配関係)、同項2号のイからニ(同一者間完全支配関係)により、限定列挙の適格無対価分社型分割と適格無対価分割型分割とした。結論的には、表2の4類型となる。そして、この表2の4類型以外、税務上は、無対価の場合、非適格となる。 3 適格無対価分割 無対価分割は会社法においてはすべて分社型であるが、法人税法では、完全支配関係において、親法人が分割法人の場合の完全親子型は、適格分社型分割とした。 この場合、親会社から、子会社に資産等が移転する。移転した資産等に対応して、分割法人では子法人株式等を増額し、承継法人では受け入れた資産等に対応して、資本金等の額を増額させる。この親法人=分割法人での株式の帳簿価額の増加額と、子法人=承継法人での資本金等の額の増加額は等額であり、親法人の有する子法人株式数の増加はない。 分割法人が子法人の場合の完全子親型、同一者に支配されている兄弟会社間で分割を行う完全兄弟型、完全子親型及び完全兄弟の混合型については、この無対価吸収分割を適格分割型分割とした。 この完全兄弟型及び混合型の同一者は、完全支配関係の条文においては一の者とされた。完全支配関係の条文においては、この「一の者」は個人である場合、親族等と解されるが、無対価適格の条文においては、一の者に、その親族等とする定義はなく、一の者は、一人とされている。 適格無対価分割型分割では、承継資産に対応して、分割法人の株主について、その有する株式の取得価額の改定の定めを置いた。 完全子親型の場合、子会社である分割法人から資産等が移転し移転資産等に対応して、資本金等の額と利益積立金を減額し、親会社である承継法人において、受け入れた資産等の帳簿価額に対応して、資本金等の額と利益積立金額を増額させる。ただし、この資本金等の額の増加額の枠の中で対応する分割法人株式を減額する。このとき、「増加資本金等の額<減額する対応分割法人株式帳簿価額」のときは、その差額は資本金等の額のマイナスとして処理する。この分割法人の減少額と承継法人の増減額は等額である。この処理は資本剰余金の配当による適格現物分配と同じ処理となる。 完全兄弟型の場合、子会社である分割法人において資産等と資本金等の額及び利益積立金額を減額させ、子会社である承継法人において資産等と資本金等の額及び利益積立金額を増額させ、株主である親法人はその同額の分割法人株式簿価を減額し、承継法人株式簿価を増額する。この場合、それぞれの株数は変わらない。 完全子親型と完全兄弟型は、これらの複合した処理となる。 4 法人税と無対価非適格分割 適格無対価分割は、平成22年度改正において、表2の事例に限り適格分割とされた。他方で法人税法は、無対価分割について、これらは会社法上は分社型分割であるが、株式の保有関係によって、分社型と分割型と定め、適格以外の類型は、非適格と定めたことになる。 この結果、適格となる表2の4類型以外の無対価は、 (1) 移転資産の時価と移転負債の時価が等価で、移転純資産がゼロなので、無対価としたことが合理性があるが、平成22年度改正以後においては、その条件において、適格要件を満たしていたとしても非適格となる。以下(2)、(3)において同様である。 (2) 無対価となるのは、上記(1)のように時価がゼロとなる場合が多いと思うが、さらに移転純資産がマイナスである(時価債務超過分割)ので無対価とした場合、 (3) 移転純資産がプラスであり、本来対価を交付すべきところ、無対価とした場合が考えられる。この(2)と(3)の場合の問題は別途検討する。 (4) なお上記(1)から(3)において、無対価ではなく、形式的に1株でも交付があれば、他の要件を満たせば、適格となる。 5 非適格無対価分割の事例検討(4(1)の時価がゼロの場合) 分割法人X2と承継法人Y2は、同一者甲に支配される完全兄弟法人X1、Y1にそれぞれ完全支配され、甲からみれば、孫法人とする。 とする。 〔分割法人X2の処理〕 〔承継法人Y2の処理〕 〔分割法人X2の株主X1の処理〕 この場合、無対価分割型分割については、法令119条の3第11項、12項に規定があるが、この分割が、法人税法上分割型分割とされても、交付対価がないので、法61条の2第4項の適用がなく、さらに他の特例規定がない以上、同条第1項の適用と考えられるが、対価の交付がない以上、譲渡の事実がなく、第1項の適用もなく、無処理となると考えられる。 また同じ分割で、X2がY2を1株でも有していた場合、非適格分社型分割となり、 〔分割法人X2の処理〕 Y2株の交付がないので、Y2株は簿価も、数も変動がない 〔承継法人Y2の処理〕 となる。 この分割において1株を交付した場合、上記の4の(1)から(3)のいずれにおいても他の要件を満たしていれば、適格分割となる。 (了)
会計リレーエッセイ 【第6回】 「グローバル会計人材の育成を」 関西学院大学教授 平松 一夫 1 遅れている日本の大学のグローバル化 日本の教育界は今、グローバル人材の育成に躍起になっている。アメリカの大学関係者に聞くと、東アジアからは中国や韓国の学生が増えているのに対して、日本人学生は見あたらなくなったという。 日本は天然資源が乏しい上に、人口減少期に入っている。そんなわが国が今後も国際競争力を維持するには、人材の「質」を高めることこそ重要である。しかし、若者の内向き志向を止めないことには、国際的に通用するという意味での高い質の人材確保は期待できない。 日本経済新聞は昨年「大学開国―第3部 国際化の実像」という企画記事を連載した。その1回目の見出しは「留学生が来ない」「出遅れ日本厳しい現実」、3回目の見出しは「教員も学び直し」「英語化が問う授業の質」であった(2012年6月24日・26日)。日経の連載には、日本の大学の国際化が遅れていることへの危機感があふれていた。 2 ようやく緒についたグローバル人材の育成 少し前に、東京大学が秋入学を提案し、広く話題になったことは記憶に新しい。これも裏を返せば、日本の大学がいかに閉ざされてきたかを物語るものである。私が所属する関西学院大学では、一部ではあるが既に秋入学を実施している。これまた一部ではあるが、最近は英語で学位を取得できる仕組みも整えている。いずれもグローバル化を進めようとするときに直面した問題を解決するための措置であった。 私学に比べると多くの優秀な人材と比較的潤沢な資金を擁する国立大学が、今頃になってようやくそれに躍起になっているというのであるから、日本の国立大学のグローバル化がいかに遅れていたかが理解できるであろう。心細い限りである。 学生の内向き志向が憂えられる昨今ではあるが、真に憂えるべきは教員・職員の内向き志向であり、そのために日本の大学の国際競争力が劣化してきているのである。 このような背景もあり、最近は文部科学省もグローバル人材育成プログラムのための巨額の競争的資金を用意するようになっている。この資金を獲得するために大学は厳しい競争を勝ち抜かなければならないが、ようやく文部科学省も大学も本気になり始めてきたといえる。遅きに失した感はあるが、何もしないよりはましである。 3 グローバル会計人材育成の必要性 その関係で会計学者として気になるのが「グローバル会計人材」の育成である。 安倍首相の掲げる成長戦略にとって、会計人材の国際競争力を飛躍的に強化する施策が欠かせない。しかし、今のわが国にはそのための仕掛け(戦略)が欠如している。 私は2009年6月にそのための絶好の機会が到来したと喜んだのであるが、2011年6月にその思いは泡と消えた。言うまでもなく、それはIFRS(国際会計基準)の強制適用をめぐるわが国の対応を指している。 これは当時の担当大臣が決めたことではあるが、その大臣は既に退任し、責任もとらない。また、一部の企業人もそれを支持した責任がある。 わが国がIFRSについて主体的な決断をし得ないでいる間に、個々の企業の中にはIFRSの適用にかかる「苦労」を回避した企業がある。しかし、私にしてみれば、そのことはグローバル会計人材の育成を先送りにしたことと同義であり、将来的には当該企業にとってもマイナス効果をもたらすに留まらず、著しく国益を毀損することになるのである。 4 IFRS(国際会計基準)とIES(国際教育基準) IFRSとの関係で今わが国ができることの一つは、IFRSの任意適用企業を増やすことである。それにより、国際社会におけるわが国の存在感を確保しておく必要がある。 それとともに、会計をめぐる他の国際基準についても、わが国が積極的な取組みを示すことが肝要である。 その一つに、国際会計士連盟(IFAC)の国際会計教育基準審議会が作成する国際教育基準(IES)がある。 日本公認会計士協会はIFACの加盟団体であるから、IESを遵守する義務を負っている。私の願いは、大学もまたIESに準拠する会計カリキュラムを開発することである。現実にはこれまで、IESの内容はもとより、存在することすら知らない大学関係者が少なくなかった。 グローバル会計人材の育成には、まずはIESに準拠した大学教育から始めなければならないと思うのである。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第9回】 リース会計② 「ファイナンス・リース取引の 会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① ×1年4月1日(リース契約締結時) ② ×1年4月30日(第1回支払日) 〈会計処理の解説〉 前回解説したとおり、ファイナンス・リース取引は金融取引の性質を持っています。そのため、会計上は、「通常の売買取引に係る方法」に準じて会計処理を行います。 すなわち、リース物件を賃借したという会計処理を行うのではなく、リース会社から資金調達をして、固定資産を購入したという会計処理を行うことになります。 通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行うことにより、固定資産の購入代金が「リース資産」、リース会社からの借入れが「リース債務」として表現されます。 リース資産及びリース債務の計上額は、リース料総額を基礎として算定しますが、リース料総額と同額にはなりません。なぜなら、リース会社は企業に代わって購入した固定資産を、そのままの金額で企業にリースしているわけではなく、当然にマージンを上乗せしているためです。リース会社のマージンに相当する金額は、企業にとっては資金調達に伴う利息に相当します。 リース会社から資金調達をして、固定資産を購入したと仮定した場合、固定資産として計上すべき金額はリース会社のマージンを含まない、固定資産そのものの金額です。 そのため、リース資産及びリース債務として計上すべき金額は、リース料総額から利息相当額を控除した金額となります(下図)。 以上を踏まえ、本事例の会計処理を検討してみましょう。 本事例におけるリース取引は、リース契約の条件から「ファイナンス・リース取引」と判定されます。 なぜなら、リース期間中にリース契約を解約することができず、リース料総額がメーカー見積価格を上回っている点から、「解約不能」と「フルペイアウト」の2要件を満たしていると考えられるためです(前回解説参照)。 ファイナンス・リース取引に該当する場合には、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととなり、リース料総額から利息相当額を控除した金額をリース資産及びリース債務として計上します。 具体的には、貸手の購入価額等が明らかな場合と明らかでない場合で、以下のように算定します。 本事例においては、借手においてリース物件の貸手の購入価額等が明らかでないので、以下の計算式で求めた数値とメーカー見積価額とのいずれか低い額でリース資産及びリース債務を計上します(*1)。 (※) この55,652千円は、年利3%の場合に、リース料総額60,000千円からこれに含まれる利息相当額を控除した金額で、借入れの元本に相当する金額です。言い換えると、55,652千円の借入れを年利3%、60ヶ月の元利均等返済で行った場合、返済総額は60,000千円となります。 本事例では、「55,652円(上記 計算式)> 65,000円(メーカー見積価額)」のため、リース資産及びリース債務は55,652円で計上します。 上記①の仕訳により、リース会社から資金調達をして、機械装置Aを購入したというファイナンス・リース取引が表現されます。オペレーティング・リース取引の場合、リース契約締結時点で仕訳は行われません。 月々のリース料の支払いについて、前回解説したオペレーティング・リース取引では、支払ったリース料を費用として処理しました。しかし、ファイナンス・リース取引では、月々のリース料の支払いを、借入れの元本返済と利息支払として会計処理を行います(図1)。 元本返済額と利息支払額は、以下の計算式により求められます。 〔図1〕 次回は、リース資産の減価償却の方法を解説します。 (了)
年次有給休暇 管理上の留意点 【第2回】 「年次有給休暇の 基準日を利用した管理方法」 社会保険労務士 菅原 由紀 ◆年次有給休暇の斉一的取扱いについて 第1回で述べたとおり、年次有給休暇(以下、「年休」という)は、入社後6ヶ月経過後に10日が付与され、その後1年経過ごとに一定日数が付与される。したがって、定期採用ではなく、労働者が中途採用で入社日がまちまちの場合には、使用者の年休管理が煩雑になる。 そこで、使用者には、以下の要件を満たす場合には、管理上の煩雑さを回避するために斉一的な取扱いをすることが認められている(平6.1.4 基発1号)。 ◆年休付与に関する基準日を設定する際のポイント 使用者は、事務手続上の煩雑さを避けるため斉一的取扱いをすることが認められているが、これを採用する場合には、法律上付与される時期と日数を下回らないようにすることが必要となる。 以下では、導入数が多い4月1日に基準日を設定するケースで解説していく。 基準日までの期間が6ヶ月に満たない前年10 月1日から当年3月31日までに入社の労働者については、基準日である4月1日に初年度の10日の年休を付与すればよい。 しかし、それ以前の前年4月1日から9月30日までに入社の労働者については、基準日である4月1日よりも前に6ヶ月が経過するため、少なくとも6ヶ月を経過した時点で10日の年休を付与し、4月1日に2年度目の年休である11日を付与する必要がある。 したがって、前年6月1日入社の場合には6ヶ月経過の12月1日に10日付与。その後、基準日である当年4月1日に11日を付与することになる。 しかし、これでは初年度の年休付与について、個人別管理を行う必要があることから、実務上では先ほどの例で前年4月1日から9月30日までに入社の労働者については入社と同時、もしくは試用期間満了時点、又は10月1日に初年度の10日を付与する方法を採用することが多い。 基準日を設定すれば基本的に年1回のみ年休付与の管理を行えばよいため、事務負担の軽減を図ることができるという利点がある。 しかし、前倒しで年休付与をする必要があるため、法定の付与日数に比べて使用者の年休付与日数(≒人件費)の負担は増加する。 また、入社日による労働者間の不公平(4月1日基準日の場合、極端な例として3月31日入社の者は4月1日の時点で10日、4月1日入社の場合は原則6ヶ月経過後の10月1日に10日の年休付与となり、1日の入社日の違いによって、これだけの差が発生する)など、問題も少なくない。 したがって、初年度の年休が6ヶ月で付与されるため、実務的には、入社日に特別休暇を付与するもしくは基準日を年に1回とするのではなく、年に2回の基準日設定をするなどの工夫が必要となる。 ◆4月1日を基準日としたの場合の規定例 1 年次有給休暇の基準日は毎年4月1日として、計算期間の1年の単位は当年4月1日から翌年3月31日として、各社員の入社月に応じて、以下の通りに付与する。 ① 4月1日~9月30日に入社した者 入社後最初に到来する10月1日を勤続6ヶ月とみなし、翌年4月1日を勤続1年6ヶ月とみなし、以降勤続年数に応じて下表の通り付与する。 ② 10月1日~3月31日に入社した者 入社後最初に到来する4月1日を勤続6ヶ月とみなし、以降勤続年数に応じて下表の通り付与する。 2 前項の年次有給休暇を取得するためには、社員は初年度分については6ヶ月間、次年度以降分については基準日前1年間の各出勤率が全労働日の8割以上の出勤が必要である。なお、みなし勤続年数により勤続年数要件が短縮された期間は出勤したものとして計算する。 3 年次有給休暇は、社員が請求し、指定した時季に与える。ただし、業務の都合によりやむを得ない場合には他の時季に変更することがある。 4 当該年度に新たに付与されて行使しなかった次有給休暇は、次年度に限り繰り越すことができる。 (了)
〔時系列でみる〕 出産・子を養育する社員への 対応と運営のヒント 【第7回】 「苦情対応・法令違反企業に対する措置」 社会保険労務士 佐藤 信 1 はじめに 当連載の第2回から第6回にかけて、育児・介護休業法等に定められた措置とそれに対し企業がすべきことについて触れてきた。 法に定められたもの、あるいはそれを上回る制度を設けて運用をしていくことが望ましいが、従業員数や業種その他の状況から制度の整備や導入に至っていない企業もあり、トラブルにつながるケースも少なくないと思われる。 そこで今回は、従業員から苦情があった場合の対応及び法令違反企業に対して行われる措置について触れていくこととする。 2 苦情の自主的解決 育児休業や短時間勤務制度などを就業規則に定めたが、実際には制度が利用されていないこともあると思われる。 制度を利用していない理由としては、以下のようにさまざまなものが考えられる。 ①については、職場内で生じるトラブル回避や会社の規律を維持していくためにも、育児休業等の制度だけではなく、その他の規程も含め周知をしておきたいところである。 ②や③に関しては、従業員からの申出がない場合、会社側が特段の措置を講じていないこともあると思われるが、子の急病による欠勤や遅刻・早退なども想定した上で社内の対応を検討しておきたい。 特に、③や④により制度が利用されていない場合は注意を要する。 仕事と育児との両立により心身の負荷が蓄積された結果、健康障害や集中力の欠如によるミス、モチベーションの低下などを引き起こすこともあり得る。 これらは育児をする従業員自身だけの問題ではなく、周囲の従業員にも影響を及ぼすことがあるため、苦情申出窓口の設置、相談員を配置するなど従業員の声を聞く機会を設けながら解決を図っていく必要がある。 育児休業や短時間勤務制度等の導入・運用状況(下記【参考】を参照)を見ると、すべての企業において法令どおりに運用されているとは言い難いが、まずは苦情や不満、悩みを従業員に抱え込ませるのではなく、上司等に言いやすい雰囲気作りや申出窓口の設置などコミュニケーションの機会を設け、従業員の声を聞くことから始めていきたい。 その上で、各企業において可能なこと・現時点では実現できていないが社内体制を見直しながら実施していくことを話し合い、全従業員の理解を得て、両立支援の取組みを進めていくことが望ましい。 3 法令違反企業に対して行われる措置 (1) 紛争解決の援助 育児休業等に関するトラブルについて、社内での自主的な解決に至らなかったときは、外部の機関に委ねた紛争解決の制度が設けられている(詳細は下記【参考】のパンフレット参照)。 これは、都道府県労働局長や調停委員が公平な第三者として紛争の当事者間に立ち、当事者の納得が得られる解決策を提示し、紛争の解決を図ることを目的としたものである。 紛争の当事者である会社、従業員の双方又は一方から解決について援助を求められた場合は、助言・指導・勧告が行われることがある。 なお、会社側は、従業員側が当該援助を求めたことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことに注意を要する。 (2) 厚生労働大臣による企業名の公表 厚生労働大臣(一定の範囲で都道府県労働局長に権限委任)は、必要に応じ、会社に対して報告を求め、助言、指導又は勧告をする行うことができ、この勧告に従わないときは企業名を公表することができるとされている。 企業名の公表によりマイナスイメージが世間に浸透していくことは、現在働いている社員のモチベーション低下だけではなく、新たな社員募集の際の支障など、影響は多方面にわたることが想定される。 申出を受けたときの対応(例:退職を強要する、不当な契約内容の変更・降格・減給、不利益な人事評価をする等)は、人事担当だけではなく従業員と接する上司も気を付けていかなければならない。 4 おわりに 紛争解決の援助や企業名公表の仕組みは、開始(平成21年9月)されてからそれほど経過しておらず、また、中小企業も含めた育児・介護休業法の全面施行は平成24年7月に始まったばかりである。 したがって、育児休業その他の措置の導入が遅れていることをもって、直ちに企業名が公表される可能性は少ないと思われる。 ただ、両立支援の制度実施にあたっては、 「企業名公表の可能性がないなら導入はしばらく様子をみる」 「勧告を受けないために実施する」 といった後ろ向きな考えにより導入判断をするのではなく、 「より良い環境を築きながら有能な社員を確保する」 「両立支援の取組みを通じて職場全体の効率化を図る」 など、企業全体にとってプラスとなる目的を持って導入・実施していきたい。 その結果として、労使双方に有益な制度の構築、会社の発展につながっていくであろう。 次回は、育児休業や両立支援に関する国の助成制度について触れていくこととする。 (了)
民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第3回】 「売買」 弁護士 中西 和幸 1 売買に関する改正の概要 売買契約に関する改正の特徴は、法律構成の明確化と整理である。すなわち、特に新しく規定するというよりは、判例等を明確にし、また、解釈を整理するものが中心である。 もっとも、こうした明確化や整理について、ビジネス法務上は、契約書に反映することで既に行われていることが少なくない。言い換えると、本改正に意義があるのは、契約書において明確に定めない場合、すなわち、個人的な売買や契約書を重視しない事業者による売買であろう。 2 義務等の明確化 (1) 売主の義務 (ア) 売主の基本義務 中間試案では、売主の基本義務として、財産権移転義務、目的物引渡義務及び登記・登録等の移転義務を定めている。これらの義務のうち、引渡しなどは、事業者であろうが個人であろうが、明文がなくとも履行義務に含まれることに異論はないであろう。また、登記・登録等の手続も、現行法では特段明記されているわけではない。 しかし、読者が関わるビジネス実務においては、事前の交渉においてどのような登記・登録等が必要かをあらかじめ確認し、かかる確認に基づき各種契約書面において明確に定めることが通常である。また、事業者対消費者の取引であっても、自動車や不動産売買契約書のように事業者団体によりひな型が作られて登記・登録の手順が契約上明確化されるなど、トラブルの発生を防止するための方策が執られる場面が多い。 そうすると、売主の基本義務が明文化されたことに特別の意義があるとすると、それは個人対個人(契約書を重視しない事業者も含む)の取引であり、かつ、一方が取引の仕組みや登記・登録制度に疎い場合等に機能することが限られるのであり、特段、改正されたとしてもビジネスの実務においては影響がないものと予想される。 例えば、著作権の売買のように必ずしも登録が必要とされない場合や、船舶のように規模等により登録に必要な書類や証書等が異なる場合であれば、事前の協議や調査を慎重に行い、登録の取扱いを契約において定める必要があるであろう。また、所有権留保や売渡担保が伴う売買などのようにファイナンスに登記・登録を伴う場合は、事前に、当初はどのような登記・登録がなされ、代金の全額支払いの際にどのような処理がなされるのか等について、売主と十分協議したうえで契約に定めることになろう。 結局、当該改正がなされたとしても、登記・登録や引渡しについては、事前に当事者間で十分協議を行い、契約内容を明確化することが最も重要であり、中間試案がそのまま改正されたとしても、契約書の重要性が変わることはなく、ビジネス上の実務は、より契約書の重要性が高まるため、契約書がより詳細になり、厚くなることが想定される。 (イ) 瑕疵担保責任 瑕疵担保責任については、瑕疵という言葉が売買契約の趣旨に適合するという言葉に置き換わり、目的が「物」の場合は種類、品質及び数量が売買契約の趣旨に沿っていることが必要であり、目的が「権利」の場合は、売買契約の趣旨に合致しない負担や法令の制限がないものでなければならないとする。 この条項は、「特定物」「不特定物」と分けて瑕疵担保責任か債務不履行か判別するという、法律の専門家でなければ(専門家でも?)分からない理論に基づいて判断されていた従前の議論を廃棄し、「契約の趣旨」に一本化するというものと説明されている。また、瑕疵担保責任が「隠れた」ものに限定されないという点では、改正となる。この点も、ルールの明確化という説明がされているが、民法の基本概念の大きな変更と解される。 そうすると、「契約の趣旨」が最も重要となるが、その契約の趣旨は「契約」でしか定められないため、契約時に、契約の趣旨を明確に定めることが重要となる。つまり、些細なことでトラブルとならないよう、契約の趣旨についても詳細に契約書に記載することになろう。 現行法下でも、実際、近時は何が「瑕疵」にあたるかについて契約において定める例も見られるなど、ビジネス実務上はいろいろな対応が見られるところである。このため、改正がなされると更に契約の趣旨等に関する記載が厚くなることが想定される。 こうした改正により、契約の趣旨を慎重に定めるあまり、契約書の作成に関する負担が増加する懸念がある。こうした「契約」の趣旨等の明確性については、これといった正解がないため、どこまでも契約書の内容を突き詰めなければならないか難しく、また、どこで打ち切ればよいか難しいためである。 (ウ) 売主が義務に反した場合 中間試案では、目的物が契約の趣旨に適合しない場合の売主の責任として、その内容に応じて、買主による を認めた。ただし、買主の追完請求と売主が提供する方法が異なる場合、契約の趣旨に合致し買主に不相当の負担を課するものでなければ、売主の追完する方法を採用することとした。 このように、中間試案では、売主の義務違反に対して買主の救済メニューを整理する一方、売主と買主の意向が異なる場合の調整を盛り込んでいる。 これらの規定の意義は、売主が義務に違反して契約の趣旨に沿った履行をしなかった場合において、買主がどのような救済を受けられるかを契約上明確にしなかった場合の救済に有益ということになる。 そのため、売主としては、買主がどのような対応を求めるかをあらかじめ予測しつつ、自らの対応が優先されるような準備が必要となろう。一方、以上の規定を契約により排除できるのであれば、救済手段を限定することで法的安定性を確保することが可能であろう。 もっとも、近時は債務不履行の場合の双方の救済方法を契約書に定める場合が少なくなく、こうした改正の意義は、少なくともビジネス法務においては限定されることが予想される。 (2) 買主の義務 中間試案では、売主にも義務が明定されているが、その内容は、目的物受領時の検査義務と、目的物受領義務及び対抗要件具備等に必要な協力義務である。 (ア) 検査義務 買主が事業者の場合、受領後遅滞なく目的物を検査し、契約の趣旨に適合しない場合はその旨を相当の期間内に売主に通知しなければならず、これを怠った場合は、前述の追完請求や代金減額請求をすることができないとするものである。 この義務は商法526条を民法に持ってきたものであるが、なぜ商法の規定を民法に持ってきたのか、また、「事業者」の範囲は引き続き検討するとされているが、商人概念とどう異なるのか、まだまだ未定の部分である。また、改正の目的や趣旨が他とかみ合わない部分である。 それに加え、売買における検査といっても、ロットが大きい場合のサンプリング検査はどうなのか、検査に時間がかかる場合(大型機械等で試運転をしてみないと分からない等)など、対応が十分とはいえない。結局、改正されたとしても、個別の契約書で授受の際の検査のルールを定めることになるのであろう。 現在も、ビジネス実務においては、売買対象物の引渡しの際に検査手順等が定められることが少なくなく、契約書を慎重に作成している限り、実務には影響がないであろう。もっとも、検査規定を詳細に定める動きとなり、契約書がさらに厚くなることも考えられるところである。 (イ) 登記・登録への協力義務及び目的物の受領義務 登記・登録には買主の協力が必要な場合もあり、これを義務として明文化し、同様に、目的物の受領義務を定めたものである。この点は、現行法では受領遅滞(民法413条)として基本的には債務不履行には該当しないとする見解が通説であったが、これとは別に、債務不履行責任を負うとしたものである。 この債務不履行責任の規定からは、損害賠償や契約解除が認められることが予想される。この点は、現行法(一部の判例は債務不履行責任を認めているが、通説とまではいえないと思われる)より責任が重くなっているので、注意されたい。ただし、賠償が認められる損害が何か、損害の範囲はどこまでか等の詳細については明らかになっていないことや、受領しないことの過失がどう認定されるかなど、不明確な点が多い。 3 裁判所が契約書の内容を変えるリスク この民法改正案が、もし当事者間の合意では排除できない強行法規であるとすると、裁判所が契約書作成当時の両当事者の意思と異なる契約の趣旨を認定してしまう可能性がある。 一方の当事者が、裁判で、「契約書には・・・とあるが、その趣旨は・・・である。」と主張した場合、両当事者が契約書をしっかり文言を確認して内容をまとめ、社内決済もきちんと行って捺印した取引であったとしても、後にトラブルが発生したときに裁判所が「契約の趣旨は、契約書上は・・・・・・と記載されているが、実際は・・・・・・と解するのが相当である。」と、判決を下す可能性があるということである。 そうすると、どんな契約書を締結しても、裁判によって契約書の内容や趣旨が変わってしまうというリスクがあるとすると、契約書では対処できないし、売買価格等の決定も容易でなく、売買契約自身に常に不安がつきまとうことになる。これでは、ビジネスが成り立たなくなる可能性がある。 このように、現在の改正案が強行法規であるとすると、予測不可能なリスクが横たわり、取引実務が不安定になる可能性があると予想される。 4 まとめ 以上の改正内容を整理すると、売買については、契約の明確化がほとんどであり、ビジネス実務上は、一応、契約書の作成で対応可能である。また、BtoCの契約であれば、消費者保護の方法によれば足りるようである。 その一方、明確化を指向しているにもかかわらず、現在までの瑕疵の概念等が変更されその内容がかえって不明確となり、また、民法改正により裁判所が契約書に書かれた契約の趣旨等を考慮せずに判決を下すという、予測不可能なリスクがある。 ビジネス上は、本改正があろうがなかろうが、契約書の内容を充実させることが最優先であるが、契約書を充実させても内容が裁判で変えられる可能性があるならば、民法改正は意味がないどころか、有害であろう。 また、各論点において述べたとおり、売買に関する改正については、契約書において当事者間の合意を可能な限り漏れなく記載することが重要となるなど、現場の労力やコストが増加することが予想される。しかし、完全な契約書の作成は無理であろうから、それでもリスクが残るという、困った状況でもある。 現場としては、契約書の充実に心を砕くしかないのであろうか。売買に関する民法改正は、難しい問題を含んでいるといえよう。 (了)