2016年株主総会における実務対応のポイント
三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部
担当部長 斎藤 誠
2015年5月に改正会社法が施行され、同年6月にコーポレートガバナンス・コードの適用が開始された。2016年株主総会はこれらの改正対応については2年目となって、さらなるブラッシュアップが望まれることとなる。むしろ改正会社法やコーポレートガバナンス・コード対応は今年が本番といえるであろう。
本稿では、これらを踏まえた2016年株主総会の実務対応について解説する。
なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。
1 招集通知について
事業報告および株主総会参考書類を含めた招集通知の作成は、株主総会準備のかなりのウェイトを占めている。個人株主および機関投資家への情報提供のツールとして招集通知の重要性は近年改めて注目されている。
コーポレートガバナンス・コード(以下、コードという)においても、【原則1-2.株主総会における権利行使】を中心に招集通知による情報提供も含めた株主の権利行使についての環境整備に留意すべきこととされており、継続的な対応が必要となっている。コードへの対応に関して今年の招集通知に関する主なポイントは下記のとおりである。
▷ 早期発送および発送前のウェブ開示への取組み
【補充原則1-2②】では、早期発送と発送前のウェブ開示へ取組むべきことが要請されている。
招集通知の早期発送はすでにかなりの会社で取り組んでおり、実務的にも限界のあるところである。招集通知の発送スケジュールを前倒しすることは、作成から発送にかかる全体のスケジュールを見直すことが必要であるが、招集通知の内容が取締役会で確定した後、発送までの間にTDnetや自社のウェブサイトに掲載することは、比較的容易であるし、早期の情報開示に資するものとしての効果は高いと思われる。今年はさらに実施する会社が増加すると思われるので、対応することが望ましいであろう。
▷ 議決権電子行使プラットフォームの導入や招集通知の英訳への取組み
【補充原則1-2④】では、上記取組みへの対応が要請されている。
いずれも自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえて対応すべきとされている。具体的な海外投資家等の比率については自社で判断することになるが、コードを受けて今年は対応する会社が増加すると思われる。
改正会社法も踏まえた招集通知等の具体的な記載事項については以下に解説するが、全国株懇連合会や日本経済団体連合会がひな形を作成しており、それらも参照されたい。
2 事業報告の作成について
改正会社法による事業報告の主な記載事項の変更は以下のとおりである。3月決算会社は経過措置により、概ね今年からの適用となるため注意が必要である。
▷ 内部統制システムの運用状況の概要(会社法施行規則118条2号)
この「内部統制システムの運用状況の概要」は、内部統制システムの客観的な運用状況をいい、各社の実情に応じた記載が考えられ、たとえば、内部統制に関する委員会の開催状況や社内研修の実施状況、内部統制・内部監査部門の活動状況等を記載することが考えられるであろう。
なお、実際の記載においては、①項目ごとに運用状況を記載する方法と②ある程度まとめて記載する方法、③内部統制システムの末尾に記載する方法などが考えられる。
▷ 会社に特定完全子会社がある場合の株式の帳簿価額の合計額等(同条4号)
多重代表訴訟制度が創設されたことにより、事業年度末に多重代表訴訟の対象となる完全子会社等(特定完全子会社)がある場合に、以下の事項を開示することとされた。
① 特定完全子会社の名称および住所(同条同号イ)
② 会社およびその完全子会社等における当該特定完全子会社の株式の当該事業年度末日における帳簿価額の合計額(同条同号ロ)
③ 会社の当該事業年度に係る貸借対照表の資産の部に計上した額の合計額(同条同号ハ)
▷ 会社と親会社等との間の一定の利益相反取引が会社の利益を害さないかどうかについての取締役の判断および理由等(同条5号)
これは、会社と親会社等との利益相反取引が、会社の側に不利益を及ぼすおそれがあることから、取引条件等の適正を確保し、会社の利益を保護するために以下の事項を開示することとしたものである。
① 取引をするに当たり会社の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨)(同条同号イ)
② 取引が会社の利益を害さないかどうかについての取締役会の判断およびその理由(同条同号ロ)
③ 社外取締役を置く会社において、②の取締役会の判断が社外取締役の意見と異なる場合には、その意見(同条同号ハ)
▷ 監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社の場合の常勤の監査委員の選定の有無、理由(同121条10号)
会社法上、常勤の監査等委員または監査委員の選定を義務づけてはいないが、常勤者が重要な役割を果たしていることから、開示することとしたものである。
▷ 親会社等が規定されたことに伴う社外役員に係る親族関係やグループ会社からの役員としての報酬を受けているときの記載の変更(同124条1項3号・7号)
▷ 会計監査人の報酬等について監査役会(または監査委員会等)が同意した理由(同126条2号)
記載の個所としては、「会計監査人の報酬等の額」に注記して記載することや、同意の理由について独立した項目を設けて記載することが考えられる。そのほか「会計監査人の解任または不再任の決定の方針」については、監査役会に会計監査人の選解任に関する議案の内容の決定権が付与されたことから、それに対応した記載とする必要がある。
3 株主総会参考書類の作成について
株主総会参考書類に関しては、主に社外取締役・社外監査役の要件の厳格化等に伴う改正事項がある。主な改正事項については、以下のとおり。
▷ 子会社等が規定されたことに伴う取締役選任議案・監査役選任議案の記載の変更(同74条3項、76条3項)
具体的には候補者がオーナー等で会社の経営を支配している者であるときはその旨、または候補者が当該オーナー等による経営を支配する会社の業務執行者であるときは、その地位・担当を記載する。
▷ 親会社等が規定されたこと等に伴う社外取締役・社外監査役選任議案の記載の変更(同74条4項6号、76条4項6号)
▷ 会計監査人選任議案における記載事項の変更(同77条3号・5号・8号)
① 監査役会が当該候補者を会計監査人の候補者とした理由の記載
② 当該候補者との責任限定契約の内容の概要
③ 多額の金銭その他の財産上の利益の提供に関する開示事項の拡大
なお、【原則3-1.情報開示の充実】において、経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明を開示すべきとされている。役員選任議案では社外役員候補者の選任理由の記載が法定されているが(同74条4項2号、同76条4項2号)、今後はいわゆる社内の役員候補者の個々の選任理由についても、選任議案に記載する事例が増加するであろう。
4 その他社外取締役関係
▷ 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明
事業年度末に社外取締役を置いていない会社(監査役会設置会社、大会社かつ有価証券報告書提出会社)では定時株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならない(会社法327条の2)。事業報告への記載(会社法施行規則124条2項・3項)、または事情に応じて株主総会参考書類への記載(同74条の2)も必要である。
具体的な説明(記載)内容は、社外取締役を置くことがかえって「マイナスとなる」レベルとされているが、昨年の事例では社外取締役を「必要としない」理由と受け取れるものが多々みられた。対応を要する会社にとっては今年も悩ましい事項となろう。
▷ 議決権行使基準の動向
議決権行使助言会社のISSは、監査役設置会社において総会後の取締役会に社外取締役(注1)が最低2人いない場合、経営トップである取締役に反対を推奨するものに議決権行使基準を変更した(注2)。
東証上場会社での複数の社外取締役を選任している会社は46%(注3)であり、今後社外取締役を複数選任するか、監査等委員会設置会社への移行が増加するであろう。
(注1) 独立性は問わないとされる。
(注3) 東証上場会社における社外取締役の選任状況(確報) 2015.7.29
5 おわりに
本年の総会対応について、改正会社法およびコードへの対応を中心に述べてきた。
特にコードへの対応に関しては機関投資家に関心のある事項が多く、対応の程度は各社の株主構成によるところが大きい。また、総会当日においては来場する個人株主への対応がメインとなり、当日の株主質問にいかに説明責任を果たすべく回答していくかがポイントになる。
かように株主総会準備は多様性を増しており、特に本年は機関投資家と個人株主の双方を意識した総会準備が必要となろう。
(了)

 
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                         
                                                        