理由付記の不備をめぐる事例研究
【第23回】
「雑収入(立退料)」
~立退料の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
千葉商科大学商経学部講師
泉 絢也
今回は、青色申告法人X社に対して行われた「立退料の雑収入計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所昭和58年9月29日裁決(裁決事例集26巻119頁。以下「本裁決」という)及び東京地裁昭和60年7月17日判決(判タ604号105頁。以下「本判決」という)を素材とする。
1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)
更正の理由
貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算して更正しました。
(雑収入計上漏れ 6,594万円)
貴法人は、〇〇区〇〇所在の通称Nアパート209号室、210号室、212号室、214号室及び215号室からの立退きに際し、貸主であるS(株)との間に、いずれも昭和55年1月31日付で覚書及び金銭消費貸借契約書を作成し
1、立退料は1,500万円とし、同額の小切手を受領し、これを雑収入に計上し、
2、貴法人が新築するビルについてS(株)の責任において3,722万円値引をさせることとして額面1,500万円の小切手及び額面2,222万円、支払期日を昭和56年1月31日とする約束手形1通を受領することによってこれに見合う3,722万円を収入し、このうち小切手の分1,500万円は借入金とし、約束手形の分2,222万円は帳簿に記載せず、
3、同ビルの一部を、新築後にS(株)に対し、家賃月額39万円、保証金1,000万円の条件で賃貸するものとし、保証金1,000万円及び4年分の家賃1,872万円の合計2,872万円と同額の小切手を受領し、これを預り金に計上しています。
しかしながら、これらの書類は当事者の真意に基づいて作成されたものとは認められず、真意は立退料を8,094万円とすることにあったと認められますので、その全額が当期の収益となります。従って貴法人が雑収入に計上した1,500万円を除く6,594万円が雑収入計上漏れとなっていますので当事業年度の所得金額に加算します。
(注) 本件理由付記は、素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工して作成したものである。
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