Profession Journal » 税務・会計 » 税務 » 解説 » 国際課税 » [無料公開中]〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第1回】「外国子会社に対する貸付金利子の算定方法」

[無料公開中]〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第1回】「外国子会社に対する貸付金利子の算定方法」

筆者:霞 晴久

文字サイズ

〈判例・裁決例からみた〉

国際税務

【第1回】

「外国子会社に対する貸付金利子の算定方法」

 

公認会計士・税理士 霞 晴久

 

〔Q〕

外国子会社に対する貸付金利子はどのように算定したらよいか。

〔A〕

貸付けの条件等について移転価格事務運営要領(事務運営指針)3-8に定める順序に従い検討し、最も合理的と認められる利子を国外関連取引として算定する。

●〔解説〕●

1 基本三法に準ずる方法と同等の方法

OECD移転価格ガイドラインの改訂を受け、わが国でも従来の基本三法優先の考え方が見直され、2013年の税制改正で、独立企業間価格算定方法の優先順位を設けず、認められる全ての方法の中から最も適した方法を選択する方式(ベストメソッドルール)が採用された。しかしながら、現在でも基本三法の理論的優位性に変わりはないとされている。

例えば、内国法人が国外関連者となる外国子会社へ金銭の貸付けを行う場合、そこで用いられるべき貸付利率は独立企業間の利率でなければならないのはいうまでもないが、ここでいう独立企業間の利率を適用するに当たり、まず、基本三法と同等の方法(※1)が検証されなければならない。この場合、比較対象取引には、外部の第三者から調達した場合の借入金の利率などを非関連者取引とする独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法が適用可能かどうかを最初に検討することとなる。

(※1) 措置法第66条の4第2項第1号は、棚卸資産の・・・・・売買取引についての独立企業間価格の算定方法として独立価格比準法(同号イ)、再販売価格基準法(同号ロ)、及び原価基準法(同号ハ)の3つを、いわゆる「基本三法」として規定しているが、有形資産の貸借取引、金銭の貸借取引等、棚卸資産の売買取引以外の取引・・・・・については、同項第2号で、基本三法と「同等の方法」により、独立企業間価格を算定することとしている。このように、わが国の移転価格税制では、棚卸資産の売買には基本三法(それに準ずる方法を含む)及びその他政令で定める方法(同号二。利益分割法や取引単位営業利益法が該当)を算定し、棚卸資産の売買以外の取引については、基本三法(括弧内同じ)及びその他政令で定める方法と同等の方法により算定する(同項第2号)という構成となっている。

しかしながら、現実には、比較可能な非関連者取引が見いだせない場合が多い(※2)。この場合、市場金利等の客観的かつ現実的な指標が入手可能なときには、当該取引を比較対象取引として基本三法に準ずる方法(※3)と同等の方法として独立企業間価格を算定することができるとされている。

(※2) 措置法通達66の4(8)-5は、金銭の貸借取引について独立価格比準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る通貨が国外関連取引に係る通貨と同一であり、かつ、比較対象取引における貸借時期、貸借期間、金利の設定方式、利払方法、借手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因が国外関連取引と同様であることに留意する旨を定めている。一般の事業会社が金銭の貸借を業として行うには登録が必要なので、第三者の事業会社間の金銭の貸付取引の例はほとんどない。したがって、一般事業会社の金銭の貸借取引から比較対象取引を見出すのは、事実上不可能であると考えられる。

(※3) 指針の別冊「移転価格税制の適用にあたっての参考事例集」(以下「事例集」)の【事例1】11頁)には、[基本三法に準ずる方法の例]として5つの例が示されており、その(1)は、「国外関連取引と比較可能な実在の非関連者間取引が見いだせない場合において、商品取引所相場など市場価格等の客観的かつ現実的な指標に基づき独立企業間価格を算定する方法」としている。

具体的に、移転価格事務運営要領(事務運営指針。以下「指針」)では、その3-8「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法による金銭の貸借取引の検討」で、法人及び国外関連者が共に業として金銭の貸付け又は出資を行っていない場合において、当該法人が当該国外関連者との間で行う金銭の貸付け又は借入れについては、次の(1)(2)及び(3)に掲げる利率を、独立企業間の利率として用いる独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法と規定している。

(1) 国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率(借手の銀行調達利率による方法)

(2) 国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率(貸手の銀行調達利率による方法)

(3) 国外関連取引に係る資金を、当該国外関連取引と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率(国債等の運用利率による方法)

指針3-8の(注)は、上記(1)(2)及び(3)の順に、独立企業原則に即した結果が得られる(以下「3ステップ」)とし、また、上記(2)に掲げる利率を用いる場合においては、国外関連取引の貸手における銀行等からの実際の借入れが、(2)の同様の状況の下での借入れに該当するときは、当該国外関連取引とひも付き関係にあるかどうかを問わないことに留意すべきとしている。

なお、具体的な利率の算定において、事例集の【事例4】23~24頁)では、金利スワップにおけるスワップレート(※4)に取引銀行のスプレッド(※5)を加算するという考え方が示されている(※6)

(※4) 金利スワップにおけるスワップレートとは、国際金融市場において示された、短期金利と交換可能な長期金利の水準を示すものと定義される(事例集23頁)。

(※5) スプレッドとは、金融機関等が得るべき利益に相当する金利であり、金融機関等の事務経費に相当する部分や借手の信用リスクに相当する部分を含むと定義されている(事例集23頁)。

(※6) 金利スワップにおけるスワップレートに、貸手が国外関連者への貸付けと同様の条件で金融機関から借入れた場合のスプレッドを加えた利率は、実在する取引ではなく、いわば仮想取引である。仮想取引が比較対象取引として利用可能かについて、東京地裁平成18年10月26日判決(「タイバーツ事件」判決。訟月54巻4号922頁)は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として使用できると判示している。

 

2 最近の裁決例に見る適用事例

上記の指針にいう3ステップを適用し、国外関連者に該当する子会社に対する貸付金利息の独立企業間価格該当性について判断した最近の裁決例として、平成28年2月19日裁決及び平成29年9月26日裁決がある。前者は外国子会社に対する貸付資金の全てを実際に外部の金融機関から調達した事例であるのに対し、後者は貸付資金は全て自己資金で賄った事例であるという違いがあり、それぞれの判断プロセスについて、以下見ていくこととする。

《平成28年2月19日裁決》

(1) 事案の概要

不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」)は、米国に所在する完全子会社K社に対し貸付け(※7)を行い、同じく米国に所在する請求人の完全子会社L社はK社に対し貸付け(以下、両者の貸付けを併せて「本件貸付け」)を行ったが、いずれの貸付資金もN銀行から調達されたものであった。請求人は本件貸付けの利息について、その契約上の利率に基づき算出した額を収益に計上して申告したところ、原処分庁が、当該利息は独立企業間価格に満たないなどとしての更正処分等を行ったのに対し、請求人は原処分の一部の取消しを求めた。

(※7) 本件貸付けのうち1件は社債により資金を調達したものであったが、詳細は省略する。

(2) 審判所の法令解釈及び認定した事実

基本三法における比較対象取引は、国外関連取引との類似性の程度が十分な非関連者間取引であることを要し、金銭の貸借取引において、国外関連取引と通貨が同一で、貸借時期、貸借期間等の金利に影響を与える諸要因が同様であることが要求される。本件では、原処分庁も審判所も、このような比較対象取引は見出すことができないと判断した。

また、本件では国外関連者である借手が、請求人及びその関連者以外から金銭の借入れを行ったことがないことから、貸付利息の独立企業間価格の算定方法について、借手の銀行調達利率による方法(3ステップの(1))を用いることはできないとし、貸手の銀行調達による方法(3ステップの(2))を用いる余地があると判断した。

そこで、一般に、融資取引の代表例である金融機関による貸付けの利率は、国際金融市場で示された短期金利と交換可能な長期金利の水準を示す金利スワップにおけるスワップレートに、金融機関の事務コストや利ざや等から構成されるスプレッドを加えた利率により行われていることから、貸手の銀行調達利率による方法の利率について、国外関連者への貸付けに係る通貨の貸付日における貸借期間に対応する金利スワップのスワップレートに、貸手が国外関連者への貸付けと同様の条件で金融機関から借入れた場合のスプレッドを加えた利率となるとした。

(3) 審判所の判断

(イ) 金利スワップのスワップレートについて

東京金融市場における円の金利スワップレート(※8)であるTOKYO SWAP REFERENCE RATE TELERATE(以下「TSRレート」)の本件各貸付けの各貸付日における各賃借期間に対応するレートを用いることは合理的であるとした。

(※8) 裁決書では明示されていないが、本件貸付けは円建てで実行されたことが類推される。

(ロ) 各借入れに係るスプレッド(※9)について

請求人による借入れは、本件各貸付けと同一の通貨で貸借時期がほぼ同時期であること、スプレッドは貸付期間の長短ではほとんど変わらない(※10)という融資業務に関する実態があったことに加え、一般的に、短期融資に比較して長期融資の方がリスクが高いと考えられること他にスプレッドに影響する要因は見いだせないことなどを踏まえると、請求人が調達した借入れに係るスプレッドを用いることに合理性が認められるとした。

(※9) 本件では、N銀行作成の稟議書等に記載されたスプレッドを用いており、そこでは、N銀行の事務経費に相当する部分や借手の信用力に相当する部分を含むN銀行が得るべき利益に相当する金利であるという認定がされている。

(※10) 「スプレッドは貸付先の信用力によるところが大きく、貸付期間の長短ではほとんど変わらない」というN銀行融資担当者の申述による。

(ハ) 結論

本件貸付利息の独立企業間価格は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法とする貸手の銀行調達利率による方法を用い、TSRレートにスプレッドの数値を加えた利率を用いて算定することが相当であるとした。

《平成29年9月26日裁決》

(1) 事案の概要

審査請求人(以下「請求人」)が、国外関連者に該当する子会社に対する米ドルの貸付け(以下「本件貸付け」)に係る利息について、契約上の利率に基づき算出した額を収益に計上して申告したところ、原処分庁が、当該利息は独立企業間価格に満たないなどとしての更正処分等を行ったのに対し、請求人は原処分の全部の取消しを求めた。

(2) 審判所の認定した事実

借手である子会社には、非関連者である銀行等からの借入れの実績がなく、当該子会社が非関連者である銀行等から本件各貸付けと通貨、借入時期及び借入期間等が同様の状況の下で借入れたとした場合に付されるであろう利率(3ステップの(1))を見いだすことはできず、また、請求人は、取引銀行から、本件各貸付けと通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の借入れを行ったことはなく、同様の状況の下で借入れたとした場合に付されるであろう利率(3ステップの(2))を算定する適切な方法を見いだすことはできなかった(※11)

(※11) 原処分庁は、米ドルのスワップレートにスプレッドを加えた利率を用いて貸手の銀行調達利率を算定するに当たり、請求人の関与税理士法人を通じて請求人の主要取引銀行の担当者に問い合わせを行い、担当者が回答したスプレッドを採用したが、同行においてこれに関する記録が残されておらず、審判所は、同行による正式回答ではなく、当該スプレッドの正確性が認められないと判断し、採決ではそれを採用しなかった。

そこで審判所は、国に対する金銭の貸付けであり、金融取引の中でも極めて安定性の高い国債等の運用利率による方法を用いることで、一般的な金融取引における市場金利を反映させることができる(3ステップの(3))と判断した。

(3) 審判所の判断

審判所は、発行日が本件貸付け開始日と近似し、また発行日から満期償還日までの期間が本件貸付けの貸付期間と近似する(※12)米国国債(10年)を見出し、本件各貸付けに係る資金を、本件各貸付けと通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債により運用した場合に得られるであろう利率を算定することが可能であることから、国債等の運用利率による方法を採用することが相当であるとした。

(※12) 本件貸付けは2件あり、そのうちの1件の貸付期間は約10年6ヶ月、もう1件の貸付期間は約14年7ヶ月であった。後者について、審判所が国債の償還期間10年と近似すると判断したのは興味深いといえよう。

(了)

「〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A」は、毎月第1週に掲載されます。

このエントリーをはてなブックマークに追加

筆者紹介

  • 霞 晴久

    (かすみ・はるひさ)

    公認会計士・税理士
    霞晴久公認会計士事務所 所長

    監査法人トーマツ、新日本監査法人、国税不服審判所等を経て現在霞晴久公認会計士事務所所長。千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科非常勤講師。監査法人勤務時代は会計監査、国際税務、海外赴任(フランス及びベルギーに通算14年滞在)及び不正調査に従事。国税不服審判所入所前は、日系企業が買収したベルギー法人のCFOを勤める。
    主な著書・論文として「ユーロの会計税務と法律」(共著、清文社1999年)、「EU加盟国の税法」(共著、中央経済社2002年)、「新版架空循環取引」(共著、清文社2019年)、及び「破産手続きにおける債務の確定と前期損益修正をめぐる問題」(月刊『税理』2020年10月号)等がある。
     

関連書籍

Profession Journal » 税務・会計 » 税務 » 解説 » 国際課税 » [無料公開中]〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第1回】「外国子会社に対する貸付金利子の算定方法」

Copyright ©2012- Profession Network Co.,Ltd. All Rights Reserved.

Scroll to top
Go to home