公開日: 2013/05/02 (掲載号:No.17)
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〔時系列でみる〕出産・子を養育する社員への対応と運営のヒント 【第1回】「出産・育児に関する制度の全体像」

筆者: 佐藤 信

〔時系列でみる〕

出産・子を養育する社員への

対応と運営のヒント

【第1回】

「出産・育児に関する制度の全体像」

 

社会保険労務士 佐藤 信

 

1 はじめに

少子高齢化の進行に伴い、労働力人口は今後減少していくことが見込まれている。
企業による有能な人材の獲得競争は、ますます激しくなっていくであろう。

こうした状況の変化のなかで企業が人材を確保し、活用・定着を図っていくためには、従来の働き方や職場環境を見直し、従業員の仕事と家庭の両立を支援(以下、当連載では「両立支援」とする)するための取組みが不可欠といえる。

つまり、企業による両立支援の取組みは、一部の従業員を優遇するための福利厚生としてではなく、「重要な人的資源の活用のための経営戦略の一環」として実施する必要がある。

働く意欲のある女性が増えているなかで、出産を機に会社を辞めざるを得ないというのは、社員にとってだけではなく、会社にとっても大きな損失である。

当連載では、妊娠・出産・育児をする従業員に対し企業がすべきこと(又はしてはいけないこと)、仕事と家庭との両立を実現しやすくする支援策、企業が有能な人材を確保・活用していく際のヒントを、「妊娠」→「出産」→「育児」→「職場復帰」といった時系列で触れていくこととする。

【参考】 内閣府
子ども・子育て白書

◆50年後の人口推移
2010年から2060年にかけての人口推移の見通しは、次のとおりである(「平成24年版子ども・子育て白書」概要版P35)。

・年少(0~14歳)・・・1,684万人→791万人(総人口に占める割合13.1%→9.1%)

・生産年齢人口(15~64歳)・・・8,174万人→4,418万人(同63.8%→50.9%)

・高齢者人口(65歳以上)・・・2,948万人→3,464万人(同23.0%→39.9%)

 

2 各時期に応じ企業がすべきこと

従業員による妊娠・出産・育児のそれぞれの時期に応じて、企業がすべきこととされるものを掲げると、以下のようになる(一部は努力規定とされ、義務化されていないものもある)。

まずは全体像を把握していただき、詳細は次回以降に触れていくこととしたい。

(1) 妊娠中の労働者に対する企業の対応

女性労働者が妊娠中に実施すべき主なものとしては、次の事項がある。
なお、下記「妊産婦の」とあるものは、産後にも継続して適用される。

① 深夜勤務、時間外労働の制限
妊産婦の深夜勤務及び正規の勤務時間以外の勤務を制限。

② 健康診査、保健指導のための職務免除
妊産婦が健康診査及び保健指導の受診のために勤務しないことを認める。

③ 業務軽減等
妊娠中の女性に対し、業務の軽減又は他の軽易な業務に就かせることを認める。

④ 通勤緩和
妊娠中の女性が、通勤に利用する交通機関の混雑の程度が母体又は胎児の健康保持に影響があると認められるときに、正規の勤務時間の始め又は終わりに勤務しないことを認める。

⑤ 産前休暇
6週間以内(多胎妊娠の場合には14週間)に出産予定の女性が請求したときに与える休暇。

※産後は女性労働者の請求の有無にかかわらず休ませなければならないが、産前の休暇については、請求がない(労働者自身が出産前まで仕事をしたいと考えている)ときは、勤務を継続させてもよい。

(2) 出産後の労働者に対する企業の対応

出産後にすべき主なものとしては、次の事項がある。

① 産後休暇 (下記(注)参照)
出産した労働者に与えられる休暇。

② 育児休業 (下記(注)参照)
子を養育するため、一定期間休業することを認める。

③ 育児短時間勤務
子を養育するため、通常より短い勤務時間で勤務することを認める。

④ 育児時間
子を養育するため、1日の勤務時間の一部を勤務しないことを認める。

⑤ 子の看護休暇
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、子を看護する必要がある場合に与えられる休暇。

⑥ 所定労働時間の繰上げ、繰下げ
1日の勤務時間を変更することなく、始業・終業時刻を変更して勤務することを認める。

⑦ 深夜勤務の制限
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者の深夜の勤務(超過勤務、宿日直勤務を含む)を制限する。

⑧ 時間外労働の免除
3歳に達するまでの子を養育する労働者の超過勤務を免除する。

⑨ 時間外労働の制限
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者の時間外労働を月24時間以内、かつ、年150時間以内に制限する。

⑩ 転勤の配慮
育児期の従業員の転勤に一定の配慮を求める制度。

子を養育する期間の施策については、男性労働者についても適用があることに注意を要する。
男性の育児休業取得率は依然として低い(育児休業の動向は第4回にて採り上げる)が、企業は男女を問わず育児休業申込みがあったときの対応(例:代替要員の確保や職場復帰プログラム等)を検討していかなければならない。

(注) 産後休暇と育児休業
労働基準法、その他の法規では、女性の「産後休暇」と「育児休業」を分けて扱っている。
当連載においても、産後8週間(本人が勤務を希望し、医師が支障なしと認めるときは6週間)を「産後休暇」とし、8週間経過後に取得するものを「育児休業」と表記する。
なお、男性の場合、子が生まれた後に育児・介護休業法に基づき取得する休業は「育児休業」となる。

(3) 働き方の見直しによる対応

両立支援制度を運用する上で制度が利用しにくい部門がある場合、働き方の見直しを行うことで解決できる問題もある。
当連載では「制度の整備」にとどまらず、働き方の見直しによる運用面の対応についても触れていくこととする。

〈働き方の見直し例〉
・職場環境の見直し
・業務の見直し
・業務支援体制の見直し

 

3 おわりに

今回は各種制度の全体像について触れたが、上記を見て分かるとおり、妊娠・出産・育児の期間を通じで企業が実施することは多岐にわたる。
人事担当者は、優秀な人材確保や活用及び定着を図っていくためにも、これらの制度を理解した上で、各企業の規模・業態に応じた対応を進めていきたい。

次回は、産前産後期間の就業制限及び保険料の負担を重点的に触れていく。

(了)

〔時系列でみる〕

出産・子を養育する社員への

対応と運営のヒント

【第1回】

「出産・育児に関する制度の全体像」

 

社会保険労務士 佐藤 信

 

1 はじめに

少子高齢化の進行に伴い、労働力人口は今後減少していくことが見込まれている。
企業による有能な人材の獲得競争は、ますます激しくなっていくであろう。

こうした状況の変化のなかで企業が人材を確保し、活用・定着を図っていくためには、従来の働き方や職場環境を見直し、従業員の仕事と家庭の両立を支援(以下、当連載では「両立支援」とする)するための取組みが不可欠といえる。

つまり、企業による両立支援の取組みは、一部の従業員を優遇するための福利厚生としてではなく、「重要な人的資源の活用のための経営戦略の一環」として実施する必要がある。

働く意欲のある女性が増えているなかで、出産を機に会社を辞めざるを得ないというのは、社員にとってだけではなく、会社にとっても大きな損失である。

当連載では、妊娠・出産・育児をする従業員に対し企業がすべきこと(又はしてはいけないこと)、仕事と家庭との両立を実現しやすくする支援策、企業が有能な人材を確保・活用していく際のヒントを、「妊娠」→「出産」→「育児」→「職場復帰」といった時系列で触れていくこととする。

【参考】 内閣府
子ども・子育て白書

◆50年後の人口推移
2010年から2060年にかけての人口推移の見通しは、次のとおりである(「平成24年版子ども・子育て白書」概要版P35)。

・年少(0~14歳)・・・1,684万人→791万人(総人口に占める割合13.1%→9.1%)

・生産年齢人口(15~64歳)・・・8,174万人→4,418万人(同63.8%→50.9%)

・高齢者人口(65歳以上)・・・2,948万人→3,464万人(同23.0%→39.9%)

 

2 各時期に応じ企業がすべきこと

従業員による妊娠・出産・育児のそれぞれの時期に応じて、企業がすべきこととされるものを掲げると、以下のようになる(一部は努力規定とされ、義務化されていないものもある)。

まずは全体像を把握していただき、詳細は次回以降に触れていくこととしたい。

(1) 妊娠中の労働者に対する企業の対応

女性労働者が妊娠中に実施すべき主なものとしては、次の事項がある。
なお、下記「妊産婦の」とあるものは、産後にも継続して適用される。

① 深夜勤務、時間外労働の制限
妊産婦の深夜勤務及び正規の勤務時間以外の勤務を制限。

② 健康診査、保健指導のための職務免除
妊産婦が健康診査及び保健指導の受診のために勤務しないことを認める。

③ 業務軽減等
妊娠中の女性に対し、業務の軽減又は他の軽易な業務に就かせることを認める。

④ 通勤緩和
妊娠中の女性が、通勤に利用する交通機関の混雑の程度が母体又は胎児の健康保持に影響があると認められるときに、正規の勤務時間の始め又は終わりに勤務しないことを認める。

⑤ 産前休暇
6週間以内(多胎妊娠の場合には14週間)に出産予定の女性が請求したときに与える休暇。

※産後は女性労働者の請求の有無にかかわらず休ませなければならないが、産前の休暇については、請求がない(労働者自身が出産前まで仕事をしたいと考えている)ときは、勤務を継続させてもよい。

(2) 出産後の労働者に対する企業の対応

出産後にすべき主なものとしては、次の事項がある。

① 産後休暇 (下記(注)参照)
出産した労働者に与えられる休暇。

② 育児休業 (下記(注)参照)
子を養育するため、一定期間休業することを認める。

③ 育児短時間勤務
子を養育するため、通常より短い勤務時間で勤務することを認める。

④ 育児時間
子を養育するため、1日の勤務時間の一部を勤務しないことを認める。

⑤ 子の看護休暇
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、子を看護する必要がある場合に与えられる休暇。

⑥ 所定労働時間の繰上げ、繰下げ
1日の勤務時間を変更することなく、始業・終業時刻を変更して勤務することを認める。

⑦ 深夜勤務の制限
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者の深夜の勤務(超過勤務、宿日直勤務を含む)を制限する。

⑧ 時間外労働の免除
3歳に達するまでの子を養育する労働者の超過勤務を免除する。

⑨ 時間外労働の制限
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者の時間外労働を月24時間以内、かつ、年150時間以内に制限する。

⑩ 転勤の配慮
育児期の従業員の転勤に一定の配慮を求める制度。

子を養育する期間の施策については、男性労働者についても適用があることに注意を要する。
男性の育児休業取得率は依然として低い(育児休業の動向は第4回にて採り上げる)が、企業は男女を問わず育児休業申込みがあったときの対応(例:代替要員の確保や職場復帰プログラム等)を検討していかなければならない。

(注) 産後休暇と育児休業
労働基準法、その他の法規では、女性の「産後休暇」と「育児休業」を分けて扱っている。
当連載においても、産後8週間(本人が勤務を希望し、医師が支障なしと認めるときは6週間)を「産後休暇」とし、8週間経過後に取得するものを「育児休業」と表記する。
なお、男性の場合、子が生まれた後に育児・介護休業法に基づき取得する休業は「育児休業」となる。

(3) 働き方の見直しによる対応

両立支援制度を運用する上で制度が利用しにくい部門がある場合、働き方の見直しを行うことで解決できる問題もある。
当連載では「制度の整備」にとどまらず、働き方の見直しによる運用面の対応についても触れていくこととする。

〈働き方の見直し例〉
・職場環境の見直し
・業務の見直し
・業務支援体制の見直し

 

3 おわりに

今回は各種制度の全体像について触れたが、上記を見て分かるとおり、妊娠・出産・育児の期間を通じで企業が実施することは多岐にわたる。
人事担当者は、優秀な人材確保や活用及び定着を図っていくためにも、これらの制度を理解した上で、各企業の規模・業態に応じた対応を進めていきたい。

次回は、産前産後期間の就業制限及び保険料の負担を重点的に触れていく。

(了)

連載目次

筆者紹介

佐藤 信

(さとう・まこと)

社会保険労務士
佐藤社会保険労務士事務所
人事・労務管理information

1993(平成 5)年3月 法政大学経済学部経済学科卒
1993(平成 5)年4月 コンピュータ販売会社にて販売企画調査職担当
1997(平成 9)年 社会保険労務士試験合格
1998(平成10)年 佐藤社会保険労務士事務所開設
人事・労務管理のコンサルティング、労務監査、就業規則の作成、労働保険、社会保険の手続、セミナーや勉強会の講師などを行っています。

【講師業、執筆業】
1998(平成10)年から2010(平成22)年まで約13年間、週末に社会保険労務士資格取得の専門学校にて講師業を行うとともに、受験向けのテキスト等を執筆。その他実務者向け定期購読誌の原稿校正等を実施。
上記講師経験を活かし各種セミナー、企業研修の講師を行っています。
また、各種実務書籍等の執筆依頼についても承っております。

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