公開日: 2016/12/01 (掲載号:No.196)
文字サイズ

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第1回】「新たな相続・資産承継対策『家族信託』とは」

筆者: 荒木 俊和

家族信託による

新しい相続・資産承継対策

【第1回】

「新たな相続・資産承継対策『家族信託』とは」

 

弁護士 荒木 俊和

 

-連載開始にあたって-

現在、少子高齢化が叫ばれる日本国内において、相続対策・資産承継対策が注目を浴びており、一般市民からも専門家に対する相談事例が増加している。

そのような中で、財産関係の複雑化、相続・資産承継に関するニーズの多様化が加速しており、旧来の対策手法である遺言書の作成や生前贈与等の手法では十分な対策が困難な事例も多く見受けられるようになった。

また、一方で高齢者における認知症患者数も増加の一途をたどっており、成年後見制度以外の認知症対策に対するニーズも高まっている。

このような社会的背景のもと、近時、「家族信託」と呼ばれる信託銀行や信託会社を介在させずに信託の設定を行う新たな相続・資産承継対策の有用性が認識され、普及が始まっている。

本連載においては、この家族信託について、基本的な仕組みやメリットから、対応できる事例、さらには信託契約作成上の留意点まで、幅広く解説を行う。

なお、家族信託との呼称に代えて「民事信託」との呼称が用いられる場合もあるが、ほぼ同義と考えられることから、本連載では家族信託との呼称で統一することとする。

また、本連載は、筆者の個人的な認識及び見解に基づくものであり、筆者の所属する団体等の公式見解と異なる場合があることを念のため付言する。

 

1 家族信託の基本的な仕組み

家族信託には、明確に決まった定義はないが、資産管理及び資産承継の一手法であり、資産を持つ者が、特定の目的に従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族等に託し、その管理・処分を任せる仕組みであるということができる。

具体的には、資産を保有する高齢者がその子らとの間で、その子らに対して資産を信託する信託契約を締結して、高齢者が認知症にかかってしまったとしても、その子らによって滞りなく資産の管理・処分を進めることができるようにするとともに、高齢者が死亡した時点においてその資産(又は受益権)を家族に承継させることによってスムーズな資産承継がなされることを目的として行われる。

下図の事例では、賃貸マンションの所有者であり賃貸人である父親が息子に対して当該マンションの管理・処分を委任する旨の信託契約を結び、当該マンションの所有者及び賃貸人の地位を承継させることで、以後の管理処分権を息子に移すこととしている。

一方で、受益者については信託契約において規定されるが、この場合では当初の受益者を父親とし(このタイプの信託契約を「自益信託」という)、父親の死亡後には受益権を母親が取得するものとして、父親の死後に母親が生活に困らないようにすることを企図している。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

家族信託による

新しい相続・資産承継対策

【第1回】

「新たな相続・資産承継対策『家族信託』とは」

 

弁護士 荒木 俊和

 

-連載開始にあたって-

現在、少子高齢化が叫ばれる日本国内において、相続対策・資産承継対策が注目を浴びており、一般市民からも専門家に対する相談事例が増加している。

そのような中で、財産関係の複雑化、相続・資産承継に関するニーズの多様化が加速しており、旧来の対策手法である遺言書の作成や生前贈与等の手法では十分な対策が困難な事例も多く見受けられるようになった。

また、一方で高齢者における認知症患者数も増加の一途をたどっており、成年後見制度以外の認知症対策に対するニーズも高まっている。

このような社会的背景のもと、近時、「家族信託」と呼ばれる信託銀行や信託会社を介在させずに信託の設定を行う新たな相続・資産承継対策の有用性が認識され、普及が始まっている。

本連載においては、この家族信託について、基本的な仕組みやメリットから、対応できる事例、さらには信託契約作成上の留意点まで、幅広く解説を行う。

なお、家族信託との呼称に代えて「民事信託」との呼称が用いられる場合もあるが、ほぼ同義と考えられることから、本連載では家族信託との呼称で統一することとする。

また、本連載は、筆者の個人的な認識及び見解に基づくものであり、筆者の所属する団体等の公式見解と異なる場合があることを念のため付言する。

 

1 家族信託の基本的な仕組み

家族信託には、明確に決まった定義はないが、資産管理及び資産承継の一手法であり、資産を持つ者が、特定の目的に従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族等に託し、その管理・処分を任せる仕組みであるということができる。

具体的には、資産を保有する高齢者がその子らとの間で、その子らに対して資産を信託する信託契約を締結して、高齢者が認知症にかかってしまったとしても、その子らによって滞りなく資産の管理・処分を進めることができるようにするとともに、高齢者が死亡した時点においてその資産(又は受益権)を家族に承継させることによってスムーズな資産承継がなされることを目的として行われる。

下図の事例では、賃貸マンションの所有者であり賃貸人である父親が息子に対して当該マンションの管理・処分を委任する旨の信託契約を結び、当該マンションの所有者及び賃貸人の地位を承継させることで、以後の管理処分権を息子に移すこととしている。

一方で、受益者については信託契約において規定されるが、この場合では当初の受益者を父親とし(このタイプの信託契約を「自益信託」という)、父親の死亡後には受益権を母親が取得するものとして、父親の死後に母親が生活に困らないようにすることを企図している。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

連載目次

家族信託による
新しい相続・資産承継対策

▷総論

▷よくある質問・留意点

▷外部専門家等の活用

▷家族信託におけるリスク・デメリット

▷信託契約作成上の留意点

▷家族信託の活用事例~不動産編~

▷家族信託の活用事例~株式編~

筆者紹介

荒木 俊和

(あらき・としかず)

弁護士・札幌弁護士会所属

アンサーズ法律事務所
 http://answerz-law.com

つなぐ相続アドバイザーズ
 http://www.tsunagu-s.jp

昭和57年 三重県生まれ
平成17年 一橋大学法学部卒業
平成20年 東京大学法科大学院修了
 同 年 司法試験合格
平成21年 司法修習修了(新62期)、弁護士登録
平成22年 森・濱田松本法律事務所入所
平成24年 札幌みずなら法律事務所(現・みずなら法律事務所)入所
平成26年 アンサーズ法律事務所設立
     株式会社つなぐ相続アドバイザーズ設立 取締役就任

関連書籍

SPC&匿名組合の法律・会計税務と評価

弁護士 永沢 徹 監修 さくら綜合事務所グループ 編著

信託法務大全 第2編

田中和明 編著 小出卓哉 編著 及川富美子 著 齋藤 崇 著 佐久間 亨 著 冨田雄介 著 畠山久志 著 松田和之 著 森田豪丈 著

【電子書籍版】相続税・贈与税取扱いの手引

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

〇×判定ですぐわかる資産税の実務

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

相続税・贈与税取扱いの手引

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

もめない相続 困らない相続税

税理士 坪多晶子 著 弁護士 坪多聡美 著

STEP式 相続税申告書の作成手順

税理士 石原健次 監修 税理士 松田昭久 共著 税理士 榮村聡二 共著 税理士 上西由香 共著 税理士 西田 豊 共著

新・くらしの税金百科 2023→2024

公益財団法人 納税協会連合会 編

中小企業の運営・承継における理論と実務 ファミリービジネスは日本を救う

大阪弁護士会・日本公認会計士協会近畿会・ファミリービジネス研究会 著

非公開会社における少数株主対策の実務

弁護士法人ピクト法律事務所 代表弁護士 永吉啓一郎 著

Q&A 居住用財産の譲渡特例大全

税理士 大久保昭佳 著

相続税申告と一体で取り組む 遺産整理業務 実践ガイド

税理士 山本和義 監修 税理士 秋山遼太 共著 税理士 荒田康夫 共著 税理士 野田暢之 共著 税理士 藤原誉夫 共著 税理士 松井佑介 共著 税理士 三角拓也 共著 税理士法人FP総合研究所 藤田博久 共著 弁護士 東 信吾 共著

一問一答 税理士が知っておきたい登記手続き

司法書士法人丸山洋一郎事務所 代表 丸山洋一郎 著
#