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家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第4回】「家族信託と生前贈与との違い」

筆者:荒木 俊和

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家族信託による

新しい相続・資産承継対策

【第4回】

「家族信託と生前贈与との違い」

 

弁護士 荒木 俊和

 

1 はじめに

財産を保有している本人が生前に次の代へ財産を引き継がせる制度として、生前贈与と同様に家族信託が挙げられるが、本稿では家族信託と生前贈与との比較をして、その異同について解説する。

 

2 財産管理機能を持つ信託

信託には「財産管理機能」があるとされている。

すなわち、委託者は受託者に対し、信託財産を信託することによって財産の管理を受託者に委ねることができ、財産管理の煩から免れることができるようになる。

このことにより、委託者が信託しておけば、認知症などによって意思能力を失っても、物理的に財産を管理する能力を失っても、ひいては委託者が死亡した後であっても、信託が存続する限りは受託者による財産管理が継続される。

一方で、生前贈与であれば贈与をした時点から、贈与を受けた者(受贈者)の財産となるため、受贈者が財産を管理することが当然となる。

 

3 所有権を移転させる効果の異同

(1) 法律上の前提

信託は、信託契約の締結、遺言による信託、自己信託(信託宣言)の3種類の方法で成立するものとされている。

しかし、家族信託において信託を活用する場合、通常は信託契約の締結によることになる。

一方、贈与も契約によって成立するものであることから、法律効果が発生する原因においては、家族信託と生前贈与との間で大きな差はないといえる。

(2) 法律上の効果

法律上の効果としては、家族信託であっても、生前贈与であっても、特定の財産の所有権を移転させるという点においては同じである。

ただし、信託の場合には、委託者が、信託する目的(「信託目的」又は「信託の目的」という)を定めて財産を受託者に移転し、受託者は、その財産を信託財産として信託目的に従い受益者のために管理又は処分等を行うとされる(神田秀樹他『信託法講義』弘文堂、1頁)。

すなわち、受託者は所有権を取得するとしても信託目的による制限を受け、受益者のために管理等を行うものとされるのに対し、贈与の場合には受贈者に完全な所有権が移転するため、受贈者は自らの意思に従って自由に財産を管理処分することができるという違いがある。

(3) 撤回や変更の可否

また、家族信託と生前贈与それぞれの場合において、従来財産を保有していた者が撤回をしたい(元の状態に戻したい)という場合や変更を行いたいという場合の異同についてはどうであろうか。

家族信託の場合、信託契約において特段の定めを置かなければ、信託法に従い、原則的に委託者、受託者及び受益者の三者間の合意によって信託の変更ができることとなるが(信託法第149条第1項)、信託契約において別段の定めを置くことができ(同条第4項)、委託者が単独で変更することも可能となる(ただし、受益者が不利益を受ける一定の場合には制限を受けることがある)。

一方、生前贈与の場合には、書面によって贈与した場合や、書面によらなくとも贈与の実行が完了した場合には、撤回ができないものとされている(民法第549条)。

 

4 税務上の取扱いの異同

(1) 家族信託における税務上の取扱い

本稿ではあまり詳細な解説は行わないが、家族信託(委託者、受託者、受益者ともに個人の場合)に関する財産権の移転に伴う税務上の取扱いは概ね以下のとおりである。

前提として、信託財産の所有権は法律上、受託者に移転するものの、税務上、その経済的な利益が帰属する受益者への課税を目的として、信託財産が受益者(等)に帰属するものと擬制して基本的な整理がなされている。

(ア) 家族信託を設定する時点

単独自益信託(委託者と受益者が同一であり、かつ、同一の自益信託)の場合には、委託者が信託設定前には信託財産を保有しており、一方で信託設定後には受益者が受益権を保有していることとなり、委託者と受益者が同一である以上、財産権が移転したものとはみられず、信託財産の移転に伴う課税関係は生じない。

他方で他益信託(委託者と受益者が異なる信託)の場合には、信託財産が委託者から受益者に対して移転したものとみなして、受益者に贈与税が生じる(受益者が時価相当額の対価を支払った場合は生じないが、この場合は委託者に譲渡所得が発生する可能性がある)。

 

(イ) 家族信託の期間中

信託財産に帰せられる資産及び負債並びに収益及び費用は、受益者の所得とみなされることとなる。

すなわち、収益物件を信託財産とする場合の賃料収入は、受益者の収入とみなされることとなる。

また、受益権が譲渡された場合には前受益者から新受益者へ信託財産が移転したものとみなして課税関係が生じる。

 

(ウ) 家族信託を終了する時点

信託の終了時点においては、その終了直前の受益者と残余財産の帰属者との関係により課税関係が整理される。

すなわち、終了直前の受益者と残余財産の帰属者が同一である場合(この場合の受益者を残余財産受益者という(信託法第182条第1項第1号))には課税関係が生じないが、異なる場合(この場合の残余財産の帰属者を帰属権利者という(同項第2号))には信託の終了事由に応じて贈与税又は相続税等の課税関係が生じうることとなる。

(2) 生前贈与における税務上の取扱い

生前贈与の場合には、財産の贈与の時点において受贈者に贈与税が発生する。

その後は受贈者が完全な財産の所有者となることから、受贈者が当該財産を移転させれば課税関係が生じることとなる。

 

5 活用方法の異同

以上を踏まえて、家族信託と生前贈与のいずれを活用するかについて以下に述べる。

(1) 即座に資産承継を行いたい場合

このような場合には生前贈与を行うことが原則的となる。

ただし、即座に生前贈与を行うと贈与税が高額になってしまう場合や財産を管理する者(受託者)と収益を得る者(受益者)を分けたいような場合には家族信託を検討する余地がある。

(2) 財産管理を委ねたいだけの場合

この場合は家族信託を検討すべきである。

すなわち、生前贈与で財産の所有権を移転した後、一定期間をおいて返還させるというような特約を付けた生前贈与も考えられなくもないが、通常は税務上の不利益となる。

また、生前贈与の場合には完全な所有権が受贈者に移転するため、その管理処分に対して契約上の制約を設けることは困難又は煩雑である。

(3) 資産承継のタイミングを前後させたい場合

この場合には家族信託の活用が有効である。

特に非上場株式を保有している経営者(オーナー社長)が事業承継対策を行う場合には、株式の承継のタイミングを早める、又は遅らすことが有効となる場合が多く存在する。

すなわち、現在は株価が低く、早めに株式を贈与してしまいたいが後継者が未熟な場合や、逆に現在は株価が高いが、将来的には株価が下がってくる見込みがある場合、家族信託によって会社の経営権(意思決定権限)を移すタイミングと財産権(受益権)を移すタイミングをずらすことで、理想的なタイミングの選択ができる。

また、財産をいつか譲ろうと考えているうちに財産を保有している者が認知症になってしまい、財産を移転させることができなくなるリスクを免れる意味でも家族信託の活用が考えられる。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

家族信託による
新しい相続・資産承継対策

▷総論

▷よくある質問・留意点

▷外部専門家等の活用

▷家族信託におけるリスク・デメリット

▷信託契約作成上の留意点

▷家族信託の活用事例~不動産編~

▷家族信託の活用事例~株式編~

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筆者紹介

  • 荒木 俊和

    (あらき・としかず)

    弁護士・札幌弁護士会所属

    アンサーズ法律事務所
     http://answerz-law.com

    つなぐ相続アドバイザーズ
     http://www.tsunagu-s.jp

    昭和57年 三重県生まれ
    平成17年 一橋大学法学部卒業
    平成20年 東京大学法科大学院修了
     同 年 司法試験合格
    平成21年 司法修習修了(新62期)、弁護士登録
    平成22年 森・濱田松本法律事務所入所
    平成24年 札幌みずなら法律事務所(現・みずなら法律事務所)入所
    平成26年 アンサーズ法律事務所設立
         株式会社つなぐ相続アドバイザーズ設立 取締役就任

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