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ファーストステップ管理会計 【第10回】「線形計画法」~手持ちのコマで最大の利益をあげる~

筆者:石王丸 香菜子

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ファーストステップ

管理会計

【第10回】

「線形計画法」

~手持ちのコマで最大の利益をあげる~

〔利益管理編④〕

公認会計士 石王丸 香菜子

 

企業が複数の製品を生産・販売する際、利益を最大にするような生産・販売量の組み合わせを、「最適セールス・ミックス」と呼びます。

製品の生産にあたって利用できる資源が限られる場合には、その資源を最大限有効に使う必要があります。生産を制限する要因(制約条件)が1つの場合には、前回見たように、「資源1単位当たりの限界利益」が大きい製品を優先することで、最適セールス・ミックスを求めることができます。

それでは、制約条件が複数ある場合、どのように考えればよいでしょうか。

このような場合に最適セールス・ミックスを求めるのは、将棋などで、限られた手持ちのコマを有効に使い、いろいろな局面をくぐり抜けて勝つのに似ています。

今回も、皆さんがベーカリーの経営者になったつもりで、最適セールス・ミックスを探してみてください。

 

デニッシュとコロネの組み合わせを考えよう

皆さんが経営するベーカリーでは、「こだわりチョコデニッシュ」と「贅沢チョココロネ」を生産しているとしましょう(なんて美味しそうなネーミング・・・)。

各パンの1個当たりのデータは、次の通りです。

デニッシュ コロネ 売 価 @250円 @180円 変 動 費 @130円 @100円 限界利益(A) @120円 @ 80円

デニッシュとコロネの限界利益の合計が最大になるような、生産量の組み合わせを考えてみます。

デニッシュの生産量をx、コロネの生産量をyとすると、限界利益の合計は、

@120円 × x個 + @80円 × y個 (=120x+80y)

となります。これを最大化するのが目的です。ただし、以下の事情から、生産量(xとy)をいくらでも大きくできるわけではありません。

 

チョコへのこだわり!

デニッシュとコロネに使うチョコレートは、外国製のものを厳選して輸入しているため、調達量に上限があります。デニッシュとコロネのために、1日当たりに使用できるチョコレートの上限は2,700gです。さらに、バターは慢性的な品薄で、デニッシュとコロネのために1日当たりに使用できるバターの上限は2,700gです。

各パン1個当たりのチョコレートとバターの使用量は、次のようになっています。 

		デニッシュ		コロネ チョコレート使用量(B)		@10g/個		@20g/個 バター使用量(C)		@20g/個		@10g/個

また、お客さんが買ってくれる数の上限、すなわち需要量は、どちらも1日当たり100個です。しかし、100個ずつ生産しようとすると、チョコレート使用量3,000g、バター使用量3,000gとなり、調達量の上限を超えてしまいます。

 

あちらを立てればこちらが立たず・・・

では前回と同じように、「資源1単位当たりの限界利益」を考えてみましょう。

デニッシュ コロネ チョコレート1g当たりの限界利益(A÷B) @12円/g > @4円/g バター1g当たりの限界利益(A÷C) @6円/g < @8円/g

チョコレート1g当たりの限界利益は、デニッシュの方が大きいですが、バター1g当たりの限界利益は、コロネの方が大きいですね。

これでは、どちらを優先させればよいか、わかりません。
まさに『あちらを立てればこちらが立たず』という状況です。

この場合、どちらか一方の製品が「資源1単位当たりの限界利益」が大きいというわけではないので、前回と同じ方法で最適セールス・ミックスを求めることはできません。

 

グラフを描いて考える

あちらを立てればこちらが立たずという板挟みの場合は、グラフを描いて考えましょう。

デニッシュの生産量をx、コロネの生産量をyとして、各制約条件を式にします。

  • お客が買う量は最大で各100個
    ⇒ x≦100 , y≦100
  • 生産量はマイナスにはならない
    ⇒ x≧0 , y≧0
  • チョコレート使用量の上限は2,700g
    ⇒ 10x+20y≦2,700 整理すると、 y≦-0.5x+135
  • バター使用量の上限は2,700g
    ⇒ 20x+10y≦2,700 整理すると、 y≦-2x+270

それぞれの式をグラフにしてみます。

チョコレートの制約は、赤の線とx軸・y軸で囲まれた三角のエリアです。
バターの制約は、青の線とx軸・y軸で囲まれた三角のエリアです。
また、お客が買う量はどちらも最大で100個です。

これらすべての条件を満たすのは、上図の黄色のエリアになります。

つまり、xとyの組み合わせは、黄色のエリアから選ぶということです。

 

限界利益を最大にする

皆さんの目的は、デニッシュとコロネの限界利益の合計120x+80yを最大にすることでしたね。最大の限界利益の金額は、この時点ではわからないので、仮にPとしておきましょう。

P=120x+80y 整理すると、y=-1.5x+1/80P

になります。これを緑の線で図に書き加えます。

この時点ではPの金額はわかりませんが、傾きが-1.5で、かつ、黄色のエリアを通る必要がありますね。さらに、Pを最大にしたいので、y切片(1/80P)が最大になるようなグラフということになります。

傾き-1.5である緑の線が、赤の線青の線の交点を通るようにすると、選択可能な領域を通り、かつ、y切片が最大になることが、視覚的にわかります。

赤の線青の線の交点は、

-2x + 270 = -0.5x + 135

を解いて、x=90、y=90と求められます。

つまり、「デニッシュ90個・コロネ90個」の組み合わせが、限界利益を最大にする最適セールス・ミックスになるのです。

なお、この時の限界利益Pは、

@120円×90個 + @80円×90個 = 18,000円

です。

 

答えはすみっこにある!

この例では、赤の線青の線の交点を、緑の線が通過する時に、限界利益が最大になりました。しかし、各条件が変われば、どの点を通過した時に限界利益が最大になるかも変化します。

ただし、限界利益が最大になるのは、選択可能な領域の端の点(下図の)のいずれかになります。

答えは意外に、すみっこにあったりするのですね。

このような方法は、「線形計画法」と呼ばれます。いくつかの一次の制約条件のもとで、一次の目的関数を最大化(あるいは最小化)するような値を求める方法です。

一次関数は「直線」なので、「線形」という名前がついています。

 

実際にはExcelに任せましょう

今回の例では、製品が2つで、制約条件も2つでした。
では、これらがもっと多い場合は、どうすればいいでしょうか。

例えば、製品が3つの場合は、3次元(!)の図になってしまいますし、製品が4つ以上になると、もう図には描けません。。。

ここは「助けて、ドラえもん!」と言いたいところですが、ドラえもんに未来のメガネでも出してもらえるならともかく、図を利用するのには限界があります。

そこで、いったん考え方の基礎を理解したら、あとは(ドラえもんではなく)、Excelに任せましょう。

Excelには、「ソルバー」といって、設定した制約条件に合う最適解を見つけてくれる機能があります。ソルバーは“アドイン”といって、あとからExcelに追加できる機能の一つです(初期設定では利用できないだけで、ソルバーの設定を有効にするだけで利用できます)。

具体的な操作方法は割愛しますが、制約条件(例:チョコレートやバター、需要量の条件)を指定すると、目的の値(例:限界利益)を最大化する最適な答えを探してくれます(目的の値を最小化あるいは一定の値に指定することもできます)。

Excelに計算してもらえるなら、贅沢チョココロネでも食べながら気軽にできますね!

なお、線形計画問題を解くには、いくつかのアルゴリズム(計算方法)があり、これを用いて、膨大な線形計画問題を解くことのできるソフトウェアやシステムが開発されています。

こうしたシステムは、製造業や運輸業・金融業など、多くの企業で、利益の最大化やコストの最小化、人員配置の最適化など様々な場面に活用されています。

 

長期的な商品戦略も大切です

最後に補足したいのは、短期的に利益を最大化する製品の組み合わせを考えるのと、長期的な商品戦略を考えるのとは、必ずしもイコールではないということです。

現時点では利益に直結しなくても、将来を見据えて販売していきたい製品や、逆に、現時点では利益の源泉になっていても、製品のライフサイクルを考えると、今後長期に販売していくのは期待できない製品があることもあります。

また、例えば、ベーカリーの中には、あんパンだけ、食パンだけ、といった特定のパンだけに特化して人気を集めるお店もありますよね。このような戦略は、1つの製品や分野に集中して、うまく手持ちのコマを使ったり、他社との違いをアピールしたりすることで、成功している事例です。

短期的な利益の管理は重要ですが、長期的な商品戦略を考えることも大切です。
何事にもバランス感覚が大事、というところでしょうか。

        

〔利益管理編〕は今回で終了です。次回からは〔意思決定編〕として、企業が様々な意思決定を行う際に利用できる「意思決定会計」について見ていきます。

(了)

 

「ファーストステップ管理会計」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

ファーストステップ管理会計
(全17回予定)

      

〔原価管理編〕

〔利益管理編〕

〔意思決定編〕

〔業績評価編〕

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筆者紹介

  • 石王丸 香菜子

    (いしおうまる・かなこ)

    公認会計士
    石王丸公認会計士事務所

    1979年生まれ。
    2002年一橋大学商学部卒業。
    2001年から2005年まで、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)に勤務。
    2005年から石王丸公認会計士事務所。

    石王丸公認会計士事務所のホームページでは、会計に関する情報やテキストを随時掲載しています。
     ⇒ http://ishiomaru.com/

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