14 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション
(1) 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション
顧客との契約において、既存の契約(商品・製品の販売やサービスの提供)に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合で、そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときには、当該オプションは履行義務に該当する。
ここで、重要な権利を顧客に提供する場合とは、例えば、追加の財又はサービスを取得するオプションにより、顧客が属する地域や市場における通常の値引きの範囲を超える値引きを顧客に提供する場合をいう(適用指針48)。
例えば、ポイント制度、販売インセンティブ、顧客特典クレジット、契約更新オプション、将来の財又はサービスに対する値引き等が該当する(適用指針139)。
重要な権利を顧客に提供するオプションは履行義務であるため、取引価格を本体部分の履行義務(商品・製品の販売、サービスの提供)とオプションに配分(【STEP4】参照)し、その履行義務ごとに収益を認識する必要がある。
【補足】
通常の値引きを超える値引きを提供する場合、オプションに該当する。したがって、顧客が追加の財又はサービスを取得するオプションが、追加の財又はサービスの独立販売価格を反映する価格で取得する場合には、顧客に重要な権利を提供するものではない。
この場合には、既存の契約の取引価格を追加の財又はサービスに対するオプションに配分せず、顧客が当該オプションを行使した時に、追加の財又はサービスについて、収益認識基準等に従って収益を認識する(適用指針49)。
① 独立販売価格
オプションへの取引価格の配分は、【STEP4】のとおり独立販売価格の比率で行う(【STEP4】参照、基準66)。しかし、追加の財又はサービスを取得するオプションの独立販売価格を直接観察できない場合には、オプションの行使時に顧客が得る値引きについて、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)の要素を反映して、オプションの独立販売価格を見積る(適用指針50)。
(ⅰ) 顧客がオプションを行使しなくても通常受けられる値引き
(ⅱ) オプションが行使される可能性
(※) 行使される可能性の見積りは、毎期、変更する必要がないか検討する(設例22)。
【参考】
契約更新に係るオプション等、顧客が将来において財又はサービスを取得する重要な権利を有している場合で、顧客が将来取得する財又はサービスが契約当初の財又はサービスと類似し、かつ、当初の契約条件に従って提供される場合は、オプションの独立販売価格を見積らず、提供すると見込まれる財又はサービスと交換に受け取ると予想される対価を算定し、取引価格を配分することができる(適用指針51、下記【設例②】参照)。
② 収益の認識時期
追加の財又はサービスが移転する時あるいは消滅する時までは、オプションに配分した金額は、契約負債として収益を繰り延べる。そして、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは追加の財又はサービスを取得するオプションが消滅する時に収益を認識する(適用指針48)。
したがって、従来、取引価格全額を収益として認識した上で、ポイント引当金を計上していたと考えられるが、収益認識基準等ではポイント部分に取引価格を配分することになる。また、ポイント引当金の計上においては、販売価格ベースで計上する場合又は企業が負担する原価ベースで計上する場合があると考えられるが、収益認識基準等では取引価格の配分(ポイント部分(契約負債)の計上)は独立販売価格で行う。
【ポイント制度における本人か代理人か】
ポイントが重要な権利の場合、ポイントは使用されるまで、収益は繰り延べられる。
そして、当該ポイントについて、ポイント発行企業で使用される場合は、「本人」に該当すると考えられるため、ポイント使用時に収益を総額で認識することが考えられる。
一方、当該ポイントがポイント発行企業以外で使用された場合、ポイント発行企業がそのポイントの使用について、「本人」か「代理人」のいずれに該当するかを検討する必要があると考えられる。
【無料で配られる値引券やポイント】
誰でも入手可能な無料で配られている値引券や無料で付与されるポイントについては、関連する既存の契約が存在しないため、重要な権利には該当しない。
そのため、当該値引券やポイントについては、引当金の計上を検討する必要があると考えられる。
【設例①】
当期に商品10個を1,000,000円で販売した。
顧客は、この取引によりポイントを10,000ポイント獲得した。ポイントは商品の購入で利用することができる。
顧客が将来、ポイントを利用する可能性は、95%であると見積った。そのため、ポイント10,000の独立販売価格は9,500(=10,000×95%)と見積った。
翌期に顧客がポイントの半分を使用した。翌期末における見積りの変更はない。
【収益認識基準等における会計処理】
① 当期(商品の販売時)
(※1) 1,000,000×(1,000,000÷(1,000,000+9,500))=990,589
(※2) 差額
② 翌期(ポイント使用時)
(※3) 9,411×50%=4,705
【従来の会計処理)】
① 当期(商品の販売時)
(※4) 10,000×95%=9,500
② 翌期(ポイント使用時)
(※5) 9,500×50%=4,750
【設例②】
当社は、X1年度の期首に製品Aの1年間のメンテナンス・サービス(@10,000)を100件締結した。顧客は、X1年度末に10,000追加で支払うことでメンテナンス・サービスを1年間更新できるオプション(X2年度のサービスに係るオプション)を有している。また、X2年度末に10,000さらに追加で支払うことで、もう1年間更新できるオプション(X3年度のサービスに係るオプション)も有している。
当該メンテナンス・サービスを締結しない顧客に対しては、X2年度は20,000、X3年度は25,000を請求するため、当該メンテナンス・サービスは顧客にとって重要な権利である。また、X1年度に顧客が支払う10,000のうち一部は、実質的には、X1年度よりも後に提供されるサービスに対する返金が不要な前払いである。
更新オプションは当初の契約と同じ条件で提供されるため、更新オプションの独立販売価格を見積らず、提供すると見込まれる財又はサービスと交換に受け取ると予想される対価を算定し、取引価格の配分を行う。
ここで、X1年度末に更新する顧客は95%(100×95%=95件)と見込んだ。X2年度末に更新する顧客は、80%(95件×80%=76件)と見込んだ。また、収益認識は、予想されるコストの総額に対して発生したコストの比率に基づくことが妥当であると判断した。予想されるコストは、X1年度からX2年度は@8,000で、X3年度は@9,000である。
① X1年度期首
(※1) @10,000×100=1,000,000
② X1年度期末
(※2) 総収益額:10,000×100件+10,000×95件+10,000×76件=2,710,000
総コスト:8,000×100件+8,000×95件+9,000×76件=2,244,000
2,710,000×(8,000×100件)÷2,244,000=966,132
(※3) @10,000×95=950,000
【設例③】
小売業である当社は、第三者であるY社が運営するポイント制度に参加している。当該ポイント制度に加入している顧客が、当社の店舗で商品を購入した場合、購入額1,000円につきY社ポイントが50ポイント付与され、自動でY社に報告される。その後、当社はY社に対し1ポイントにつき1円(50ポイント50円)を支払う。
顧客に対して付与されたY社ポイントは、当社だけでなく、Y社が運営するポイント制度に参加する企業において利用できる。また、それらの参加企業において商品を購入した場合に付与されたY社ポイントは、当然に当社でも利用できる。当社とY社との間に、上記以外の権利及び義務は発生しない。
当社の観点からは、Y社ポイントの付与は顧客に重要な権利を提供していないと判断した。Y社ポイントが顧客に対して付与される旨をY社に報告し、同時にY社ポイントに相当する代金をY社に対して支払う義務を有するのみであり、当社はY社ポイントを支配していないと判断した。
① 商品販売時
(※) 当社がY社に支払うポイント相当額
② 当社からY社への代金支払時
(2) 追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション(従来との相違点等)
① 従来との相違点
[収益認識基準等]
➤顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合で、そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときには、当該オプションは履行義務に該当する。この場合、取引価格を当該オプションに配分する必要がある。
➤取引価格を配分するために、オプションの独立販売価格を見積る必要がある。
➤収益の認識時期は、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは追加の財又はサービスを取得するオプションが消滅する時である。
[従来]
➤追加的な財又はサービスに対する顧客のオプションに関する一般的な定めはない(意見募集51)。
➤ポイントについては、顧客への商品の販売時又はサービスの提供時にそれらの価格全額で収益を認識し、将来のポイントとの交換に要すると見込まれる金額を引当金として費用を計上する実務が多い(意見募集51)。
➤ポイント引当金の算定方法としては、販売価格を基礎として計算する方法と、企業が負担する原価を基礎として計算する方法があると考えられる(意見募集51)。
② 影響がある取引(例示)
- 企業が顧客に財又はサービスを提供する際に、付随して追加的な財又はサービスに対するオプションを提供する取引が影響を受ける可能性がある(意見募集58)。
- 例えば、商品の販売やサービスの提供に伴いポイントを付与する取引や契約更新オプション取引等が影響を受ける可能性がある。
③ 適用上の課題
- オプションの履行義務の独立販売価格を見積るために、業務プロセスの新規追加が必要となる可能性がある。
- 取引の都度、オプションの履行義務を識別して会計処理するのは困難なため、期末に一括で(決算時に)識別して会計処理することが実務的であると考えられる。
- 収益認識基準等と従来で収益の認識時期が異なることにより、業績管理及び予算管理に影響が生じる可能性がある。この結果、人事評価にも影響する可能性がある。
④ 財務諸表への影響
- オプションについて、収益認識基準等では、オプションに対応する収益が繰り延べられる。一方、従来では、収益は繰り延べず、ポイント引当金を計上していたため、収益の認識時期が異なる可能性がある(意見募集55)。
- 従来において、販売価格をベースとしてポイント引当金を計算している場合、当該引当金の金額と収益認識基準等により繰り延べられる収益(契約負債)の金額は大きく相違しないと考えられる(意見募集56)。そのため、利益の金額に大きな影響はないと考えられる。
- 一方、企業が負担する原価をベースとしてポイント引当金を計算している場合、収益認識基準等により繰り延べられる収益(契約負債)の金額との相違が大きくなる可能性がある。そのため、(本体の売上を計上した事業年度の)利益の金額に影響が生じる可能性がある(意見募集56)。
「企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表」
〔凡例〕
・ASBJ・・・企業会計基準委員会
・IASB・・・国際会計基準審議会
・FASB・・・米国財務会計基準審議会
・基準・・・企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」
・適用指針・・・企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
・収益認識基準等・・・企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
・設例・・・企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」設例
・対応・・・企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」等に対するコメント 5.主なコメントの概要とその対応
・意見募集・・・「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」
・工事基準・・・企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」
・工事指針・・・企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」
・ソフトウェア実務報告・・・実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」
・リース基準・・・企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」
・遡及基準・・・企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。