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〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第15回】「リース取引の法律知識」
〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第15回】 (最終回) 「リース取引の法律知識」 公認会計士・税理士 喜多 弘美 本連載では、これまで日本におけるリース取引の会計や税務上の取扱いを中心に解説し、前回、リースに係る国際的な動向を確認しました。最終回となる本稿では最後に、リース取引に係る法律知識について簡単に整理します。 1 リース契約に関する法律知識 【第3回】で整理したとおり、リース取引の登場人物は、①ユーザー、②リース会社、③サプライヤーの3者でした。また、リース契約は、①ユーザーと②リース会社の間で締結されます。 (1) リースの実態 はじめに、リースの実態は何かを確認していきましょう。もしリース契約書がない場合、法的には、(a)売買契約、(b)賃貸借契約、(c)消費貸借契約の3つの契約を組み合わせることになります。 まず、②リース会社と③サプライヤーの間で、①ユーザーが選定したリース物件の(a)売買契約を行います。これにより、③サプライヤーは②リース会社に対してリース物件を引き渡す義務を負い、②リース会社は③サプライヤーへリース物件に対して売買代金を支払う義務を負います(民法555条)。売買契約の締結により、リース物件の所有権は②リース会社へ移転することになります。 次に、①ユーザーと②リース会社との間で、リース物件の(b)賃貸借契約を締結します。これにより、②リース会社はリース物件の使用及び収益を①ユーザーにさせる義務を負い、①ユーザーは②リース会社に対して賃料を支払う義務を負います(民法601条)。 リース契約を締結せず、(a)売買契約と(b)賃貸借契約が全く別々の契約だったとすると、契約上、①ユーザーと③サプライヤーは全く結びつかず、①ユーザーと③サプライヤーの間で行われる、リース物件を①ユーザーが選定したことも結びつかないため、リース物件のメンテンナンスや契約不適合があった場合に誰が解決するのか、民法では解決できない問題が生じてしまいます。 つまり、リースの実態を考えると、②リース会社と③サプライヤー間の(a)売買契約、①ユーザーと②リース会社間の(b)賃貸借契約を別々にすることはできず、③サプライヤーから①ユーザーへリース物件が売買され、②リース会社と①ユーザーの間で(c)消費貸借契約が締結されている(民法587条)ということになります。 (2) リース契約 リース契約に関しては、民法や商法のような一般的な法律に規定がなく、特別の法律もありません。そのため、リース契約の内容は、①ユーザーと②リース会社の合意によって定められることになります。もし、リース取引について法的な問題が生じた場合は、①ユーザーと②リース会社が合意したリース契約書の内容によって解決することになります。 2 リース契約書 では、リース契約書はどのようなものなのでしょうか。今回は、公益社団法人リース事業協会(以下「リース事業協会」という)が参考として掲載している「リース契約書の主な条項」の概要と、リース契約書の作成にあたり、①ユーザーが気をつけることを整理します。 (1) リース契約書の主な条項 リース事業協会のホームページに掲載されている「リース契約書の主な条項」は、以下のとおりとなります。以下の条項では主に、誰が責任(義務)を負うかが記載されています。 (2) ユーザーが気をつけること リース事業協会に加盟しているのはリース会社がほとんどです。そのため、リース会社がリース契約書を作成する際には、リース事業協会の「リース契約書」を基に作成することが考えられます。しかし、リース事業協会の「リース契約書」はリース会社の立場で作成されているため、以下ではリース契約書作成の際に、①ユーザーが気をつける点についていくつか記載します。 前述したように、リース契約の内容は、①ユーザーと②リース会社の合意によって定められます。つまり、必ずリース事業協会の「リース契約書」通りに契約締結しなければならないものではないので、①ユーザー、②リース会社、③サプライヤーの3者が対等な立場で契約締結に当たる必要があります。 (連載了)
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電子書類の法律実務Q&A 【第18回】「誤操作により電子契約がされた場合、取消しは認められるのか」
電子書類の法律実務Q&A 【第18回】 「誤操作により電子契約がされた場合、取消しは認められるのか」 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕 〔Q〕 消費者からインターネット上で契約の申込みがされ、当社も申込みを承諾し、契約手続を進めていました。ところが、消費者から「マウスの操作ミスで申込ボタンを間違って押したので、契約を取り消す」と主張されました。 コンピュータの操作ミスで電子契約の申込みがされた場合の効力について教えてください。 〔A〕 事業者間の契約の場合、原則として取消しは認められませんが、消費者を相手方とする契約の場合、電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律(以下「電子契約法」といいます)が適用されるので、取消しが認められる場合があります。 質問のケース(消費者を相手方とする契約)については、インターネット上の申込画面の設定内容により結論が異なります。 申込画面で申込意思と申込内容が確認可能で、申込内容を訂正する機会を与えている場合には、取消しは認められません(電子契約法3条1項ただし書)。 他方、申込内容が表示されておらず、申込みをするか否かだけを判断するような申込画面の場合や、誤入力した内容について訂正する機会を与えていないような申込画面の場合には、取消しが認められる可能性があります(電子契約法3条1項本文)。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 民法上の原則 コンピュータの操作ミスで、契約をするつもりがないのに、インターネット上で契約の申込みをして、電子契約をしてしまったとする。 勘違い・誤りにより契約をした場合、取消しをすることができるのが原則だ。勘違い・誤りによる契約取消しのことを、「錯誤取消し」という(民法95条1項)。 では、マウスやキーボードなど、コンピュータの操作ミスで契約の申込みをした場合、錯誤取消しにより、契約を取り消せるのだろうか。 錯誤取消しは、勘違い・誤りにより契約した場合に無条件で認められるわけではない。錯誤取消しについては、表意者の「重大な過失」が原因の場合、認められないというルールになっている(民法95条3項)。 コンピュータの操作ミスについては、「重大な過失」と判断される可能性が高い。つまり、質問のケースでは、民法をそのまま適用すると、錯誤取消しが認められない可能性がある。 ここまでが、民法上の原則だ。 事業者間の取引については、民法上の原則がそのまま適用される。事業者間の電子契約については、コンピュータの操作ミスを理由に、取消しをすることは難しいと考えてよい。 2 消費者を相手方とする電子消費者契約について では、質問のように、消費者を相手方とする電子契約については、どうだろうか。 結論から言えば、事業者側が「確認を求める措置」をとっているかどうかがポイントになる。順番に解説していこう。 消費者を相手方とする「電子消費者契約」(電子契約法2条1項)については、電子契約法が適用され、消費者保護の観点から上記1の民法上のルールが修正される。 「電子消費者契約」とは、「消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うもの」(電子契約法2条1項)と定義されている。 分かりやすく言えば、消費者と事業者の契約で、消費者がスマートフォンやコンピュータに表示される画面をクリックするなどして、インターネット上で申込みをする契約のことである。インターネット通販については、基本的には「電子消費者契約」に当たると考えてよい。 「電子消費者契約」に当たる場合、「重大な過失」による場合でも、取消しが認められる(電子契約法3条1項本文)。つまり、「電子消費者契約」の場合、消費者側は、コンピュータ操作のミスで契約の申込みをしたことを理由に契約の取消しの主張をすることが可能となる。 しかし、この電子消費者契約の原則には、例外がある。電子契約法により、事業者が「消費者の申込み(中略)の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置」をとっているときは、「重大な過失」による場合でも、錯誤取消しができないことになっている(電子契約法3条1項ただし書)。 つまり、事業者側が「確認を求める措置」をとっていなければ取消しが認められる可能性があるが、事業者側が「確認を求める措置」をとっていれば取消しが認められないということになる。 (※) 購入完了前の確認画面には、別途、特定商取引法上の規制もある(特定商取引に関する法律12条の6第1項)。 3 事業者側の「確認を求める措置」とは では、どのような場合、「確認を求める措置」をとったことになるのか。 経済産業省によれば、①あるボタンをクリックすることで申込みの意思表示となることを消費者が明らかに確認することができる画面を設定すること、②最終的な意思表示となる送信ボタンを押す前に、申込みの内容を表示し、そこで訂正できる機会を与える画面を設定すること、が例として示されている。 ◆確認を求める措置がとられている例 (出典) 経済産業省「電子契約法について」 契約内容を申込画面に表示し、「取消」ボタンや「戻る」ボタンにより、訂正の機会を与えていることが必要ということになる。 申込画面にそのような設定がされている場合、誤操作による取消しは原則認められない。 他方、①申込内容を入力せずに、申込みをするか否かだけを判断するような申込画面の場合(注文フォームと申込画面が同一の場合)や、②誤入力した内容について訂正する機会を与えていないような申込画面の場合、確認を求める措置がとられていないとされている。 下記例①の場合、操作ミスによって誤って申込ボタンをクリックしたケース、下記例②の場合、1個と入力しようとして、操作ミスによって11個と入力してしまい、そのまま申込みを行ってしまうケースで錯誤取消しが認められる可能性がある。 ◆確認を求める措置がとられていない例 (出典) 経済産業省「電子契約法について」 4 「確認を求める措置」をとっていても取消しされる可能性 質問のケースからは少し離れるが、事業者として、「確認を求める措置」さえとっていれば、それで十分なのだろうか。この点については、最近興味深い判断がされた。 「フリートライアルはこちら」とのボタンをクリックすると、有料サービスの申込みに必要な事項を入力するための画面が掲載されているケースで、裁判所は、「本件ウェブサイトを見てフリートライアルを申し込もうと考えた一般消費者において本件講座の申込みに必要な事項の入力をフリートライアルの申込みに必要な事項の入力だと誤信しやすい体裁になっているものと認められ」ることを理由に、錯誤取消を認めた(東京地判令和4年6月7日)。 つまり、最終申込画面で正しい契約内容を表示していても、それ以前の画面で消費者に契約内容を誤解(例えば、無料サービスと誤解)させるような表示をしている場合には、錯誤を理由に契約が取り消される可能性があるのだ。 申込画面のみリーガルチェックの対象とするだけでは不十分な場合もあるということも理解しておきたい。 (了)
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わたしは税金 「ツヨシくん誕生」-医療費控除-
わたしは税金 「ツヨシくん誕生」 -医療費控除- 公認会計士・税理士 鈴木 基史 人のライフサイクルの中で、税金がどのように関わるのか。 これからミスター税金が、やさしくお話しします。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ツヨシくん誕生 「おめでとうございます。3,200グラムの元気な男の子ですよ」 産後、ベッドに横たわり、わが子をながめるお母さん方はみんな、満ち足りた穏やかないい表情をなさっています。新型コロナウイルス禍も平常に戻りつつあり、お見舞い客にも笑顔が絶えません。どこかの国の紛争やテロ事件などから完全に隔離され、病室は平和と希望に包まれています。 「なあ、子どもの名前、ツヨシにしようか」 「田中ツヨシ・・・元気そうな名前で、悪くないわね。いいんじゃない」 ――などと、パパとママがやっています。 いつも明るい雰囲気に包まれている産婦人科の入院病棟は、見るものの目を和ませてくれますね。ミスター“税金”も人の子・・・じゃないけれど、それなりに温かい感情は持ちあわせています。 パパとママの会話が続きます。 「ねえ、入院費用が60万円ぐらいかかるらしいわ」 「ふーん、そうか。入ったところの冬のボーナスが吹っ飛ぶけど・・・ま、仕方ないか」 「でも、お隣の奥さんに聞いたんだけど、医療費控除というのがあって、税金でいくらか戻ってくるんですって」 「あ、それ、オレも聞いたことあるなあ。病院とかの領収書が10万円以上あれば、その分、税金が戻るらしいな。でも、どうすりゃいいんだろう・・・」 結婚3年目にして授かったジュニア。ベビー誕生に祝意をあらわし、ミスター税金からもささやかながら、お祝い金をプレゼントいたしましょう。 ◆医療費を所得からマイナス 2人の会話に出てきた「医療費控除」のことを、わたしから少し詳しく説明します。 稼ぎ(所得)に対して税金がかかる――このことはみなさん、ご存知ですね。田中さんがもらう会社からのお給料も、税金が天引きしてあります。さて、その税金(所得税)を計算する際、いろいろ差し引くものがあって、これを「所得控除」といいます。 15種類ある所得控除の1つが医療費控除です。本人を含め家族の中で医者にかかった人がいれば、その支払いを所得からマイナスできるというもので、わたしども“税金”も福祉には関心を持っているあかし、とご理解いただけばいいでしょう。 ◆医療費控除には10万円の足切り 惜しむらくは、『10万円』の足切りを設けているため、風邪や腹痛ぐらいでは、少々がんばって通院してみたところでその金額には遠くおよばず、結局はぬか喜びに終わってしまう点です。 たいへん心苦しいのですが、この制約をはずすと、還付申告する人が殺到して税務署がパンクしてしまうので、どうかご容赦を。 でも、風邪や腹痛とくらべて、お産の費用はかさみます。10万円の足切りなんて、軽く突破することでしょう。田中さんも、60万円支払うということなら、そこから10万円を差し引いた残り50万円につき、ぜひとも還付申告をお考えください。 ◆還付金額は税率次第 いかほど税金が戻るかは、その人に適用される税率いかんです。所得税の税率は累進性――最低5%から最高45%まで用意されています。なお所得税がかかれば、それに連動して住民税がかかり、その税率は一律10%です。 田中さんの年収は約600万円なので、適用税率は所得税10%と住民税10%の合わせて20%です。ということは、医療費控除50万円の申告で「50万円×20%=10万円」が戻るという寸法です。 ちなみに、奥さんと子ども2人の家庭なら、年収1,000万円の人で30%か33%、1,500万円で43%と稼ぎの多い人ほど高い税率が適用され、その分、戻る税金も大きくなります。 ◆年明け後なるべく早く還付申告 実際にお金が戻るのは、翌年になってからです。会社からもらう源泉徴収票と病院の領収書に基づき、還付申告の手続きをしてください。振込みで税金が戻ってきます。 申告手続きは、今や電子申告(e‐Tax)が主流です。国税庁のホームページにアクセスすれば、申告書の記入や申告手順について詳しく説明されています。機械音痴の方は、税務署が開設する相談コーナーに出向かれることです。 なお、期日に関しては若干の誤解があるようですね。所得税の申告期間が「2月16日~3月15日」と定められているのは、税金を納めるときの話です。還付申告は年が明ければいつでもできます。 2月16日まで待つなどといわず、もっと早めに手続きしてください。そうすればお金が戻るのも早くなりますよ。 ◆薬局などの小さなレシートも使える 「そうかあ。10万円も戻ってくるのか。こりゃあ、助かるぞ」 「本当ね。あとで健康保険からも、いくらか戻ってくるってことだし・・・」 「今年は医療費控除のチャンスじゃないか。ほかに医療費はないの?」 「そうねえ。薬局の領収書とかあるけど、そういう小さい金額はダメなんでしょ」 「いや、今年は既に10万円の足切りを超えてるんだから、あとは領収書を集めれば集めるだけ、効果があるんじゃないか」 ◆お産の年は医療費の領収書をかき集める 田中さん、よくぞ気がつきました。そうです、どうせ控除を受けるのなら、できるだけたくさん受けていただきたい・・・普段はあまり気にかけない風邪のときの領収書なども、今年はくずかごへポイしないで、ガッチリかき集めることです。 お産の関係でも、入院の時の支払いだけでなく毎月の健診代もありますよね。入院や通院の際の交通費なんかもあるでしょう。突然の陣痛で利用したタクシー代もOKです。領収書がないからとあきらめない。そういうのはメモ用紙に日付けや金額を書き出したもので、十分に領収書代わりになりますよ。 ◆その年の支払い分だけが対象 医療費控除の申告で使う領収書は、日付けにご注意ください。たとえば令和5年分の申告なら、領収書も令和5年中の日付けのものでないとダメ。税務署はそこをしっかりとチェックします。 年内に治療が終わっても支払いが年明けなら、残念ながら令和5年分の申告でその領収書は使えません。領収書をかき集めている年なら支払いを年内にすませ、その年の日付けで領収書をもらうことです。それから、翌年に出産があるとわかっていたら、払いを渋って(?)年明けに支払うことですね・・・ささやかな悪知恵です。 ◆出産一時金は医療費から控除 さて最後に、田中さんには少々耳の痛いことを、お話ししなければなりません。さっき奥さんが、「あとで健康保険からも、いくらか戻ってくるってことだし・・・」とおっしゃっていました。 「出産一時金」のことでしょうけど、これはお産の費用から引いてください。お産にかぎらず、高額医療費の負担金のように健康保険などから戻るお金は、その分ふところが痛んでないんだから、医療費の金額からマイナスすることになっています。 民間の保険会社で医療保険に入っている人も要注意です。そこでおりる入院給付金とか、傷害費用保険金なんていうのも同じ扱いです。 現在、出産費用は全国平均で約50万円、東京都内の病院だと55万円を超えるようです。しかし少子化対策で、いまや国から出産一時金が50万円支給されます。ですから歯医者での通常の自費診療など、ほかに大きな医療費がなければ、現実には「50万円×20%=10万円」の還付は無理でしょうね(ゴメンなさい)。 ◆家族分の医療費は1人にまとめる ついでの話ですが、夫婦共稼ぎの方の場合、節税策の裏技があります。たとえばお二人それぞれに8万円ずつ医療費の領収書があるとしましょうか。正攻法ならそれぞれが医療費控除の申告を行い、いずれも10万円以下だから還付はなし。しかし、別々でなく領収書を一人に集めたら、合計16万円から10万円の控除・・・ということは、6万円の控除が受けられます。 え、そんなことしていいの、と思われるかも知れませんが、いいのです。生計を一にする親族分はまとめて申告していい、ということになっています。では、どちらにまとめるか――もうお分りですよね。適用税率の高い方にまとめることです。還付額が大きくなります。 以上、お詫びの印にささやかな節税策をご披露しました。 ◆出産手当金は控除しない 田中さんには、ぬか喜びでガッカリさせてしまい、本当にゴメンなさいね。とにかく入院費用だけでなく、今年お二人にかかる医療費の領収書をかき集めて、少しでも多くの医療費控除が受けられるよう、チャレンジしてみてください。 あ、それからついでの話ですが、奥さん自身が健康保険に入ってたら、出産一時金と一緒に「出産手当金」をもらうことがありますが、これは医療費からマイナスしません。出産費用の補助ではなく、休業中の給与の補てん金ですから、これはもらいっ放しでいいですよ。 じゃあ田中さん、ツヨシくんの健やかな成長をお祈りします。 (了) 人生にまつわる税金ものがたり、 もっとたくさんのお話を読みたい方へ送る一冊。
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〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第80話】「概算取得費控除の特例と更正の請求」
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第80話】 「概算取得費控除の特例と更正の請求」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 浅田調査官は、所得税の令和5年度の確定申告書を見ながら、呟く。 「・・・この納税者は、取得費に、措置法31条の4を使っているのか・・・」 国税庁のホームページで示されている「令和5年分 譲渡所得の申告のしかた」では、「概算取得費控除の特例」について、次のように記述されている。 「・・・先祖伝来の土地を、相続などで代々引き継いでいる場合などは、概算取得費控除の特例を使うのは分かるけれど・・・」 浅田調査官は、傍らにある税務六法を広げて、措置法31条の4を探す。 そして、措置法関係通達31の4-1で、「昭和28年以後に取得した資産についての適用」として、措置法31条の4に定める条件(昭和27年12月31日以前から引き続き所有)を広げている。 「・・・しかし、この措置法関係通達は、一般的に・・・納税者にとって・・・計算は簡単だけれど、不利な通達なんだ・・・」 浅田調査官は、突然、椅子から立ち上がり、熱心に書類を読んでいる中尾統括官の方に向かって、歩いていく。 「・・・中尾統括官・・・」 浅田調査官の声に、中尾統括官は驚いたように顔を上げる。 「なんだい」 中尾統括官は、書類から目を離す。 「・・・措置法31条の4のことですけど・・・」 浅田調査官は、先ほどから見ていた令和5年度の確定申告書を手渡す。 中尾統括官は、受け取った確定申告書をメガネを外して見る。 しばらくして、「別に・・・問題はないだろう・・・この確定申告書・・・」と言いながら、中尾統括官は、確定申告書を返す。 「・・・この申告書自体は・・・問題がないのですが・・・このケースで措置法31条の4を使うことはないのでは・・・」 浅田調査官は、不満そうに言う。 「・・・この土地は・・・昭和59年に取得しているのですから・・・もし、契約書などを紛失して、どうしても取得費が分からなければ・・・別の方法で、合理的に取得費を計算することも可能なのでは・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 中尾統括官は、頷きながら、パソコンを開き、国税不服審判所のホームページから、裁決を探す。 「・・・この平成12年11月16日の裁決は、課税実務では有名で、納税者がこの方法を利用する契機となっている・・・」 中尾統括官は、要旨の一部を読み上げる。 「この裁決では、取得価額を直接証する契約書等の資料の提出がなく、その額が不明なものについては、実額で判定できないので、一定の推計の方法で算定すべきだと審判所は述べている・・・」 中尾統括官は、パソコンの画面を見ながら、説明する。 「・・・そして、建物は、着工建築物構造別単価から算定し、土地については、市街地価格指数(住宅地)の割合を乗じて算定する推計を合理的な計算方法として認容している・・・だから、取得費が分からないからといって、直ちに、措置法関係通達31の4-1を使うことはない」 中尾統括官は、キッパリと言う。 「・・・ということは、この確定申告書も、措置法関係通達31の4-1により収入金額の5%を取得費とすることはなかったのですね」 浅田調査官が、中尾統括官を見る。 「・・・そうだなあ・・・昭和59年に土地を取得していることが間違いなければ、裁決で計算している取得費の方が収入金額の5%のそれよりも大きくなるだろう・・・」 中尾統括官が答える。 「ということは、もし、納税者があとで、国税通則法23条による更正の請求をしてきたら、市街地価格指数による評価額を認めることになるのですか?」 「納税者は、確定申告書の提出について、概算取得費控除の特例を選択していることから、法律の規定に従っていなかった場合や、計算に誤りがあった場合に該当せず、更正の請求はできないのでは・・・」 浅田調査官は、自信なさそうに言う。 「・・・ところが、措置法31条の4には、但書きがある」 中尾統括官は、そう言うと、但書きを読み上げる。 「・・・この但書きの規定によって、概算取得費が1号、2号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、更正の請求ができるということになっている・・・」 中尾統括官の説明に、浅田調査官は首を傾げる。 「・・・しかし、概算取得費控除は、もともと、納税者が選択したのでしょう・・・その選択が間違っていて、所得金額が多くなったからといって、あとで、この但書きを根拠に、更正の請求が認められるのですか?」 浅田調査官は、首を傾げながら、不満そうに言う。 (注) 東京国税局令和3年8月「資産税審理研修資料」によれば、一旦、概算取得費により申告した後に、土地購入の資料が見つかり、その金額が概算取得費より大きかったために「更正の請求」をした場合、それを認めると回答している。 (つづく)
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《速報解説》 国税庁、障害者相談支援事業等に係る消費税の取扱いについて情報まとめた特設ページを公開~非課税となる社会福祉事業には該当しない旨を周知~
《速報解説》 国税庁、障害者相談支援事業等に係る消費税の取扱いについて情報まとめた特設ページを公開 ~非課税となる社会福祉事業には該当しない旨を周知~ Profession Journal編集部 国税庁は4月26日に下記ページを公開し、障害者相談支援事業等に係る消費税の取扱いについて、厚生労働省とともに周知を図っている。 「障害者相談支援事業」とは、障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)第77条第1項第3号の規定に基づき市町村が行うものとされている事業で、障害のある方やその家族から様々な相談に応じることとされているが、市町村から社会福祉法人等への委託により行われているケースもある。 消費税法上、社会福祉法に規定する社会福祉事業として行われる資産の譲渡等について消費税は非課税とされ、同法では障害者総合支援法に規定される「一般相談支援事業(入所施設や病院からの地域移行等の相談を行う)」及び「特定相談支援事業(障害福祉サービスの利用に係る計画作成等の支援を行う)」が、この社会福祉事業のうち第二種社会福祉事業に該当し、非課税の範囲とされている(消法別表第二第7号ロ、消基通6-7-5(2)チ、6-7-9)。 一方で、今回取り上げられた障害者相談支援事業は、障害者に対する日常生活上の相談支援を行うものであり、上記の一般相談支援事業や特定相談支援事業には該当せず、また、社会福祉法に規定する他の社会福祉事業のいずれにも該当しないことから、当該事業の委託は非課税となる資産の譲渡等には該当せず、受託者が受け取る委託料は消費税の課税対象となる。 しかし一部の市町村において、障害者相談支援事業が社会福祉事業に該当するものと誤認し、非課税として取り扱っていた(受託者へ支払う委託料に消費税を含めていない)ケースがあるとして、厚生労働省は昨年10月に「障害者相談支援事業等に係る社会福祉法上の取扱いについて」(令和5年10月4日付事務連絡)を各自治体へ発出し、周知を図っていた。 今回新設されたページでは、本件に関する質疑応答事例やQ&A(全5問)、国税庁と厚生労働省が共催で自治体向けに行った説明会(令和6年4月26日)の資料等が公表されている。 このうちQ&Aでは、障害者相談支援事業に係る委託料について、消費税を非課税と誤認して申告に含めていなかった場合には修正申告が必要として、修正申告に当たって不明な点は所轄の税務署(法人課税(第1)部門)まで相談するよう回答している(問2)。 また、上記の誤認による修正申告等で発生した加算税や延滞税については、「納税者の方から十分な資料の提出があったにもかかわらず、税務職員が税法の取扱いについて誤った指導を行い、納税者の方がその誤った指導を信頼したことにつき責めに帰すべき事由がないなど、正当な理由があると認められる事実がある場合には、加算税や延滞税は課さない」としており、その判断にあたっては事実関係を確認する必要があるとして、問2と同様に、所轄の税務署(法人課税(第1)部門)への相談を呼びかけている(問3)。 ただし、社会福祉法人等の受託者が委託者(市町村)から、障害者相談支援事業について消費税が非課税となると聞いたことで誤認した場合は、「消費税法を解釈適用する行政機関ではない市町村が、自らの判断により、消費税法の取扱いについて納税者に対し誤った指導を行い、納税者の方がその誤った指導を信頼したとしても、「納税者の責めに帰すべき事由」が無いとまでは言えないことから、免除することは困難」と回答されている(問4)。 (了)
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《速報解説》 JICPA、四半期開示見直しに伴う監査人レビューに係る意見書を受け「財務諸表のレビュー業務」及びそのQ&Aを改正
《速報解説》 JICPA、四半期開示見直しに伴う監査人レビューに係る意見書を受け 「財務諸表のレビュー業務」及びそのQ&Aを改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年4月18日付で(ホームページ掲載日は2024年4月24日)、日本公認会計士協会は、「保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」及び保証業務実務指針2400実務ガイダンス第1号「財務諸表のレビュー業務に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正」を公表した。 これにより、2024年2月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。「公開草案に対するコメントの概要及び対応」も公表されている。 これは、「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂に係る意見書」及び「監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書」(2024年3月12日、企業会計審議会)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する期中財務諸表に係る会計期間の期中財務諸表に対するレビュー及び2024年4月1日以後開始する事業年度に係るレビューから適用する。 (了)
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《速報解説》 会計士協会が「財務報告に係る内部統制の監査」の改正を確定し、報酬関連情報の開示の記載例を追加
《速報解説》 会計士協会が「財務報告に係る内部統制の監査」の改正を確定し、 報酬関連情報の開示の記載例を追加 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年4月18日付で(ホームページ掲載日は2024年4月23日)、日本公認会計士協会は、「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」を公表した。 これにより、2024年3月19日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度)の開示の記載例を追加するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 財務報告内部統制監査基準報告書第1号の「付録3 一体型内部統制監査報告書の文例」において、「報酬関連情報」の記載例が追加されている。 具体的な文例は公開草案をお読みいただきたい。 Ⅲ 適用時期等 2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。 ただし、倫理規則(2022年7月25日変更)と併せて2023年4月1日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から早期適用することを妨げない。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.566が公開されました!~今週のお薦め記事~
2024年4月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.566を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第37回】「特別の更正の請求規定の解釈適用における「やむを得ない理由」の意義と機能」-通謀虚偽遺産分割「更正の請求」事件・最判平成15年4月25日訟月50巻7号2221頁-
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第37回】 「特別の更正の請求規定の解釈適用における「やむを得ない理由」の意義と機能」 -通謀虚偽遺産分割「更正の請求」事件・最判平成15年4月25日訟月50巻7号2221頁- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、通常の更正の請求(税通23条1項)の許容性を錯誤に基づく概算経費選択の場合について検討したが、今回は、特別の更正の請求(同条2項)の許容性をその一場合(同項1号)について検討する。 今回取り上げる判例は最判平成15年4月25日訟月50巻7号2221頁(以下「本判決」という)である。その事案は次のようなものである。すなわち、相続人の一人X(原告・被控訴人・上告人)は遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という)に基づき相続税の申告(以下「本件申告」という)をしたが、その後に、他の相続人ら(Xを含め以下「本件相続人ら」という)がXに対して提起した本件遺産分割協議の無効確認請求訴訟(以下「別件訴訟」という)において、本件相続人らは、Xの主導の下に、配偶者に対する相続税額軽減規定の適用による利益を最大限享受するために、通謀の上、仮装の合意として本件遺産分割協議を成立させた、との認定に基づき本件遺産分割協議の無効を確認する判決が確定した。Xは、これを受けて本件申告について国税通則法23条2項1号の規定に基づき更正の請求を行ったところ、所轄税務署長Y(被告・控訴人・被上告人)が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたため、その取消しを求めて出訴した。 本判決は次のとおり判示して(下線筆者)Xの上告を棄却した。 本判決については、上記の判示のうち「法23条1項所定の期間内に更正の請求をしなかったことにつきやむを得ない理由がある」という部分が「条文にはない要件」あるいは「黙示の要件」を示したものであるとの理解を述べる評釈等が多い(例えば、下記の①高橋祐介「判批」税法学550号(2003年)127頁、131-132頁、②岡村忠生「判批」判例評論551号(2005年)2頁、3頁。下線筆者)。 以下では、まず、国税通則法上の特別の更正の請求に係る「やむを得ない理由」の意義を確認し(Ⅱ)、その後、本判決が説示した「やむを得ない理由」の意義と機能について検討することにする(Ⅲ)。 Ⅱ 特別の更正の請求に係る「やむを得ない理由」の2種類の意義 国税通則法23条によれば、納税者は、法定申告期限から原則として5年以内に、納税申告書に係る課税標準等又は税額等の記載の中に、一定の過誤(同条1項1号~3号)が存在すること(過誤要件の充足)に気がついた場合、その5年以内の期間において更正の請求をすることができる(同条1項。通常の更正の請求)。これに対して、法定申告期限から原則として5年を経過した日以後に、納税申告書又は決定通知書に係る課税標準等又は税額等の記載の中に、上記の一定の過誤が存在すること(過誤要件の充足)に気がついた場合、一定のいわゆる後発的理由が発生したときは、その後の所定の期間において更正の請求をすることができる(同条2項。特別の更正の請求)。 特別の更正の請求に係るいわゆる後発的理由について、国税通則法23条2項3号は「やむを得ない理由」という文言を用いて規定している。ここでいう「やむを得ない理由」は、申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算と一定の関連性を有する事実(以下「実体法関連事実」という)で、国税通則法施行令6条1項各号で定められたものを意味する。すなわち、それは、実体法関連事実を内容とする「やむを得ない理由」といってもよかろう(以下「やむを得ない理由(実体法関連事実)」という)。国税通則法施行令はこれを規定するに当たって「やむを得ない事情」という文言を重ねて使用することもある(6条1項2号、3号参照)。 これに対して、本判決は、前述のとおり、「法23条1項所定の期間内に更正の請求をしなかった」という手続法上の事実について「やむを得ない理由」を問題にしている。すなわち、それは、更正の請求という納税義務の確定手続の一環として手続法上観念される「やむを得ない理由」といってもよかろう(以下「やむを得ない理由(手続法上の事実)」という)。 このように、特別の更正の請求に係る「やむを得ない理由」については2種類の意義を区別することができるように思われるが、それぞれの意義の「やむを得ない理由」を要求する趣旨・目的はどのようなものであろうか。まず、特別の更正の請求の導入の経緯・趣旨等からみておこう。 税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)9頁は「申告内容の変更」について次のとおり提言した(以下「昭和36年答申」という。下線筆者)。 特別の更正の請求は、この答申でもその導入が提言されていたが、この答申を受けて制定された国税通則法では導入されなかったものの、その後、税制調査会「税制簡素化についての第三次答申」(昭和43年7月)53-54頁(同月の「長期税制のあり方についての答申」及び「土地税制のあり方についての答申」との合本の頁)は「更正の請求の期限」について次のとおり提言した(以下「昭和43年答申」という。下線筆者)。 以上のように、昭和36年答申も昭和43年答申も特別の更正の請求制度の内容説明に関して後発的理由として実体法関連事実を個別に提示してはいるがそれらを「やむを得ない理由」という概念で包括してはいないのに対して、昭和43年答申は特別の更正の請求制度の趣旨・目的に関して「正当な事由」という表現で「やむを得ない理由(手続法上の事実)」に言及していると解される。 Ⅲ 特別の更正の請求規定の解釈適用と「やむを得ない理由」 1 裁判例の2つの傾向 ところで、国税通則法23条2項1号の解釈適用に関する裁判所の判断には、従来、大きく分けて2つの傾向がみられたように思われる。 1つは、国税通則法23条2項の趣旨に照らして同項1号にいう「判決」について納税者の帰責事由ないし帰責性を問題にし、もって「真正判決要件」(神山弘行「判批」ジュリスト1266号(2004年)208頁、209頁)ともいうべき不文の要件を追加的に要求することによって、「判決」の意義を限定的に解釈する傾向である。 そのような傾向に属する裁判例は、次のとおり判示して(下線筆者)いわゆる馴合訴訟による判決の「判決」該当性を否定した東京高判平成10年7月15日訟月45巻4号774頁のほか、いくつかみられる(仙台地判昭和51年10月18日訟月22巻12号2870頁、名古屋地判平成2年2月28日訟月36巻8号1554頁、上記東京高判の原審・横浜地判平成9年11月19日訟月45巻4号789頁、神戸地判平成14年2月21日訟月49巻5号1623頁等)。 本判決の原原審・熊本地判平成12年3月22日税資246号1333頁・裁判所ウェブサイトも、結論として「判決」該当性を肯定した点は別にして、次のとおり判示している(下線筆者)ことから、前記の傾向に属する裁判例とみることができる。 これに対して、もう1つの傾向は、国税通則法23条2項各号の適用に当たって、申告時における納税者の帰責性を問題にし、「善意無過失要件」(神山・前掲「判批」209頁)ともいうべき不文の要件を追加的に要求することによって、その適用範囲を制限する傾向である。本判決の原審・福岡高判平成13年4月12日訟月50巻7号2228頁は次のとおり判示しているが(下線筆者)、これもこの傾向に属する裁判例であると考えられる(前掲横浜地判は「形式的には、同条2項の事由に該当するようにみえる場合」についてこの要件を追加的に要求している)。 以上のように、国税通則法23条2項1号の解釈適用に関する裁判例には2つの異なる傾向を見出すことができるように思われるが、ただ、いずれも出発点において同項の趣旨を説示するに当たって納税者の帰責事由ないし帰責性を問題にしている。このことは、従来の裁判例が「やむを得ない理由」という概念を用いないものの、その意味内容を納税者の帰責事由・帰責性の不存在として理解した上で、上記規定の趣旨を説示したものと解される。つまり、その趣旨の説示は、昭和43年答申が特別の更正の請求制度の趣旨を「期限内に権利が主張できなかつたことについて正当な事由があると認められる場合の納税者の立場を保護する」ことに認めたことを踏まえて、帰責事由・帰責性のない納税者が保護に値するものとして同制度の対象となるという理解に基づく説示であると解されるのである。 ただ、従来の裁判例が国税通則法23条2項1号の解釈適用について、判断の出発点を同じくしながら、結論に至る論理構成の点で異なる傾向を示したのは、「やむを得ない理由」の意義の捉え方を異にするからであると解される。すなわち、「やむを得ない理由」の意義について、前者の傾向の裁判例は「やむを得ない理由(実体法関連事実)」として捉え、後者の傾向の裁判例は「やむを得ない理由(手続法上の事実)」として捉えていると解されるのである。 2 本判決の立場 本判決は、「やむを得ない理由(手続法上の事実)」を問題にしている点では、従来の裁判例にみられた以上の2つの傾向のうち後者の傾向に沿ったものとみてよかろうが、ただ、「法23条1項所定の期間内に更正の請求をしなかったことにつきやむを得ない理由があるとはいえない」と判示して同項1号の適用を否定したことからすると、昭和43年答申にいう「正当な事由」を、納税者の帰責事由・帰責性の不存在の観点から善意無過失要件としてより具体的に要件化するのではなく、「やむを得ない理由」と言い換えるにとどめた点で、後者の傾向と一線を画するものと解するのが相当である。 本判決をこのように理解する前提には、本判決は国税通則法23条2項1号の解釈適用に当たって「やむを得ない理由」を「条文にはない要件」ないし「黙示の要件」として捉えるもの(Ⅰ参照)ではなく、昭和43年答申で示された立法趣旨に照らして事案ごとに認定事実を評価することを可能にするためにその立法趣旨を確認したものであるという理解がある(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【135】も参照)。本判決は、まさにその立法趣旨に照らして、「上告人は、自らの主導の下に、通謀虚偽表示により本件遺産分割協議が成立した外形を作出し、これに基づいて本件申告を行った後、本件遺産分割協議の無効を確認する判決が確定したとして更正の請求をした」という原審の認定事実に対して、「上告人が、法23条1項所定の期間内に更正の請求をしなかったことにつきやむを得ない理由があるとはいえない」という評価をした上で、本件において国税通則法23条2項1号の適用を否定したと考えられるのである。これこそが同規定の解釈適用における「やむを得ない理由」の機能である。 本判決はその意味で「事例判決」(森冨義明「判批」判タ1154号(2004年)246頁、247頁)ではあるが、本判決の上記のような立場はその後の裁判例においても踏襲されているように思われる。例えば、高松高判平成23年3月4日訟月58巻1号216頁は、本件とは異なる事案(いわば「準」馴合訴訟事件)であることから本判決を参照はしていないが、次のとおり「やむを得ない理由」に関する「特段の事情」の有無を判断したものである(下線筆者)。 Ⅳ おわりに 以上でみてきたように、本判決については、従来の裁判例の傾向の延長線上で、「やむを得ない理由」を「条文にはない要件」あるいは「黙示の要件」として追加的に要求したものと理解する見解(Ⅰ参照)があり、中にはその要求を租税法律主義の観点から妥当でないとする見解(高橋・前掲「判批」135頁、148頁等参照)もある。これに対して、筆者は、本判決にいう「やむを得ない理由」を、立法趣旨(昭和43年答申)にいう「正当な事由」をこれに言い換えて、確認したものとして理解した上で、本判決はその立法趣旨に照らして認定事実に対する法的評価を行い、国税通則法23条2項1号の適用について判断したものであるという理解を示した。 本判決に関する筆者のこのような理解は、特別の更正の請求制度の立法趣旨が正式の租税立法過程の中で昭和43年答申により明確に示されており、それによって同制度に関する租税立法者の説明責任が十分に尽くされているとの認識に基づくものである(租税立法者の説明責任については前掲拙著【33】等参照)。筆者はわが国の租税立法について「立法の質が良い」とは言い難いと考えるところであるが(拙稿「租税法律主義の課題と展望」税研226号(2022年)39頁、40頁参照)、特別の更正の請求制度については例外的に「立法の質が良い」とみてよかろう。このような理解によれば、本判決は租税法律主義の要請を民主主義の観点からも立法の明確性の観点からも十分に満たしているといえよう。 (了)
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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例133(贈与税)】 「相続開始年分の贈与につき、「住宅取得資金贈与の非課税特例」を適用して相続財産から除外して相続税申告を行ったが、相続開始年分に相続取得した不動産を売却したため、所得制限により非課税特例の適用ができなくなってしまい、相続税申告を訂正した事例」
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例133(贈与税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(措法70の2) 平成27年1月1日から令和8年12月31日までの間に、直系尊属から一定の住宅用家屋の新築又は取得等のための金銭の贈与を受け、贈与年の翌年3月15日までに住宅用家屋の新築又は取得等をして同日までに居住の用に供し、又はその後遅滞なく居住の用に供することが確実であると見込まれる場合で、同年12月31日までに居住の用に供し、一定要件を満たす場合には、贈与を受けた金銭のうち以下の金額までは贈与税が非課税となる。 なお、この特例の適用を受けるためには、一定の書類を添付した期限内申告書の提出が必要であり、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下でなければならない。 ◆合計所得金額 次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額。 (注) 申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額 ◆相続開始前7年以内に贈与があった場合の相続税額(相法19) 相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前7年以内に被相続人から暦年課税贈与により財産を取得した場合には、その取得財産の価額のうち一定の金額を相続税の課税価格に加算する。 ◆加算しない贈与財産の範囲 被相続人から生前に贈与された財産であっても、次の財産については加算しない。 贈与税の配偶者控除の特例の適用を受けている又は受けようとする財産のうちその配偶者控除額に相当する金額 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち非課税の適用を受けた金額 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち非課税の適用を受けた金額(贈与者死亡時の残額のうち一定のものを除く) 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち非課税の適用を受けた金額(贈与者死亡時の残額を除く) (了)