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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第30回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第30回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   3 所得税における暗号資産の信用取引 所得税法では、暗号資産の譲渡原価等を計算する場合の年末評価額について総平均法と移動平均法が定められている。また、暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額、すなわち年末時点における1単位当たりの取得価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額について、例えば、対価を支払って取得(購入)した場合は「購入の代価(購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」とするなど、その取得の方法に応じて算定方法が定められている(本連載第6回)。 ただし、個人が暗号資産信用取引を行った場合には異なる取扱いとなる。この場合の暗号資産信用取引とは、「他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買」をいう(所令119の7)。 従前は「暗号資産交換業者を行う者」から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買のみが暗号資産信用取引に該当していたが、令和5年度税制改正により、令和6年分以後の所得税については、これ以外の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買も暗号資産信用取引に含まれることになった(令和5年3月31日政令第134号附則3)。 暗号資産交換業とは、資金決済法上の暗号資産交換業のことであり、次の行為のいずれかを業として行うことである(決済2⑮)。暗号資産交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならず、この登録を受けた者を暗号資産交換業者という(決済2⑯、63の2)。 暗号資産信用取引に関する所得税法の規定について、居住者が暗号資産信用取引の方法による暗号資産の売買を行い、かつ、その暗号資産信用取引による暗号資産の売付けと買付けとにより、その暗号資産信用取引の決済を行った場合には、その売付けに係る暗号資産の取得に要した経費としてその者のその年分の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その買付けに係る暗号資産を取得するために要した金額となるとされている(所令119の7)。 これにより、暗号資産信用取引による暗号資産の売買については、その原価の計算を同じ種類の他の暗号資産と区分して個別原価により行うこととされ、総平均法や移動平均法による評価は行わないことになる(財務省HP「令和元年度 税制改正の解説」99頁参照)。 所得税基本通達36・37共-22及び国税庁FAQ「2-13 暗号資産の信用取引」によると、暗号資産信用取引の方法により、暗号資産の売付け(買付け)をし、その後にその暗号資産と種類を同じくする暗号資産の買付け(売付け)をして決済をした場合における所得金額は、暗号資産の譲渡により通常得るべき対価の額(売付け価額)とその買付けに係る暗号資産の対価の額(買付け価額)との差額となる。 また、暗号資産信用取引を行った場合の所得については、その取引の決済の日の属する年分の所得となる。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 売付け価額2,000,000 円と買付け価額1,500,000 円の差額である500,000 円が所得金額となる。   (了)

#No. 544(掲載号)
#泉 絢也
2023/11/16

相続税の実務問答 【第89回】「第一次相続と第二次相続の相続人が1人となった場合の遺産分割と相続税」

相続税の実務問答 【第89回】 「第一次相続と第二次相続の相続人が1人となった場合の遺産分割と相続税」   税理士 梶野 研二   [答] お父様の遺産のうちお母様の法定相続分は、お母様がお亡くなりになられたことにより、あなたが取得しました。そうするとお母様が亡くなられた時点で、未分割の財産は存しないこととなりますので、お母様が亡くなられた後にお父様の遺産を分割することを観念することはできません。したがって、被相続人をお母様とする相続税の申告においては、お父様の遺産のうち相続人であるお母様の法定相続分(2分の1)相当額とお母様の固有財産の合計額を基に相続税の計算をすることとなります。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 問題の所在 被相続人の遺産は、遺言がない限り被相続人の相続開始とともに法定相続人に法定相続分の割合により帰属することとなります(民法896本文、898)。この状態を遺産共有といいます。相続人は、協議により、被相続人の遺産の具体的な分割を決めます(民法907①)。相続人間で協議が調わないときには、家庭裁判所に分割を請求することとなります(民法907②)。遺産分割が行われる前に法定相続人の1人が亡くなった場合(以下「第二次相続」といいます)には、その相続人又は包括受遺者(以下「第二次相続人」といいます)が、先の相続(以下「第一次相続」といいます)の遺産分割の当事者となります。 ご質問のケースのように、生存している第一次相続に係る相続人(以下「第一次相続人」といいます)と第二次相続人が同一の者で、その者以外に第一次相続人及び第二次相続人がいない場合には、その1人の者により、第一次相続に係る被相続人の遺産を分割することが可能かどうかが問題になります。 第一次相続人と第二次相続人が同一の1人の者(以下「唯一の相続人」といいます)であるならば、第一次相続に係る財産を直接同人が取得することとしても、あるいは、いったん死亡した第二次被相続人に帰属するとしても、結局は、その財産は唯一の相続人が取得することとなりますので、一見、相続による承継の経緯を論ずる実益がないようにみえます。 しかしながら、第一次相続に係る財産を直接・・唯一の同人が取得することとした場合と、いったん死亡した第一次相続人に法定相続分の割合で帰属した後に、唯一の相続人がそれを取得することとした場合とでは、相続税課税や不動産登記などの場面で差異が生じます。   2 不動産登記について 第一次相続における被相続人Aの遺産が、2人の法定相続人B及びCによって分割される前に、B(第二次相続における被相続人)が死亡した場合において、Aの遺産である不動産をBを経由することなく、直接、Bの唯一の相続人であるCが取得したとして相続登記をすることができるかどうかについて争われた事件において、東京地裁はBを経由しない登記をすることはできないと判示しました(控訴審判決である平成26年9月30日東京高裁判決(裁判所ウェブサイト)も同様の判断をしています)。 〇平成26年3月13日東京地裁判決 (裁判所ウェブサイト) この判決が確定した後の平成28年3月2日付で法務省民事局民事第二課長から法務局民事行政部長及び地方法務局長あてに発出された通知(法務省民二第154号「遺産分割の協議後に他の相続人が死亡して当該協議の証明者が一人となった場合の相続による所有権の移転の登記の可否について(通知)」)においても、「所有権の登記名義人Aが死亡し、Aの法定相続人がB及びCのみである場合において、Aの遺産の分割の協議がされないままBが死亡し、Bの法定相続人がCのみであるときは、CはAの遺産の分割(民法(明治29年法律第89号)第907条第1項)をする余地はない」として、CがA及びBの死後に、Aの遺産である不動産をBを経由することなく、その全部を直接取得し、Cがその旨を記した書面を作成したとしても、その書面は登記原因証明情報としての適格性を欠くものであって、そのような登記はできないとしています。   3 相続税の申告 (1) 相続税の課税における財産の取得は、税法に特段の規定が設けられていない限り、民法の相続に関する規定に従って判断するものであり、遺産分割についての考え方も民法の解釈によることとなります。上記2の判決や、法務省の通知文書は、不動産登記に関するものですが、その基となる民法の解釈は相続に関する他の場面でも妥当するものと考えられます。 (2) 相続税法基本通達19の2-5は、「相続又は遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割される前に、当該相続(以下(中略)「第一次相続」という。)に係る被相続人の配偶者が死亡した場合において、第一次相続により取得した財産の全部又は一部が、第一次相続に係る配偶者以外の共同相続人又は包括受遺者及び当該配偶者の死亡に基づく相続に係る共同相続人又は包括受遺者によって分割され、その分割により当該配偶者の取得した財産として確定させたものがあるときは、法第19条の2第2項の規定の適用に当たっては、その財産は分割により当該配偶者が取得したものとして取り扱うことができる」と定めている(「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」通達69の4-25も同様の表記)ところですが、この取扱いは、あくまでも、第二次相続に係る被相続人の共同相続人等と当該死亡した者以外の第一次相続に係る共同相続人等が異なる2以上の者からなることを前提としていると考えられます。したがって、第二次相続に係る被相続人の共同相続人等と当該死亡した者以外の第一次相続に係る共同相続人等が同一の1人である場合には、この取扱いを適用する余地はなく、第二次相続の開始により、第一次相続に係る未分割財産については、第一次相続に係る共同相続人等の法定相続分どおりの権利関係が確定したものとして相続税の計算をする必要があります。 (3) なお、上記のような解釈は、複数の相続人がいる場合に比べて相続税や不動産登記の際の登録免許税の負担が増えることとなり、不合理かつ不公平であるとの主張もあり得ます。上記東京地裁判決はこのような原告の主張に対してこのような結論が導かれるのは「民法上、相続人が相続開始(被相続人の死亡)時に被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することとされ(同法886条、896条)、複数の相続人(共同相続人)の存在が遺産分割の当然の前提とされている(同法898条)からであり、(筆者注:相続人が1人となったために)法律上遺産分割の余地がないことをもって不合理かつ不公平であるということはできない」としています。 (4) したがって、第一次相続に係る遺産の分割が行われる前に、第一次相続の相続人2人のうちの一方が亡くなり、その者の相続人が第一次相続の相続人である他方の1人のみである場合には、①第一次相続の遺産については、当該死亡した相続人と生存している他方の相続人が法定相続分により取得することが確定し、②第二次相続に係る遺産は、第一次相続の遺産のうち第二次被相続人の法定相続分相当額と第二次被相続人の固有財産の価額の合計額となります。相続税の課税もこの流れに従って行われることとなります。   4 ご質問の場合 第一次相続に係る被相続人であるお父様の遺産分割が行われる前に、お父様の相続人であるお母様がお亡くなりになられたことにより、お父様の相続(第一次相続)及びお母様の相続(第二次相続)に係る相続人はあなた1人になりました。したがって、お父様の遺産のうちお母様の法定相続分相当額は、お母様の相続開始とともにあなたが取得することとなります。そうしますと、お母様の相続開始により、お父様の遺産についての遺産共有状態は解消されており、既にあなたに帰属しているお母様の遺産(お父様の遺産に対するお母様の法定相続分相当額)を、改めてあなた自身に帰属させる旨の意思表示を観念する余地はないこととなります。 以上のことから、お父様の遺産である不動産をあなたが直接お父様から取得したとする文書を作成するなどして、お父様の遺産のうちお母様の法定相続分相当額を被相続人をお母様とする相続税の申告において課税対象財産から除くことはできません。つまり、被相続人をお母様とする相続税の申告においては、お父様の遺産のうちその相続人であるお母様の法定相続分(2分の1)相当額とお母様の固有財産の合計額を基に相続税の計算をすることとなります。 (了)

#No. 544(掲載号)
#梶野 研二
2023/11/16

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第55回】「役員給与と推計課税」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第55回】 「役員給与と推計課税」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 推計課税の概要 推計課税の規定は、以下に示す法人税法131条の他、所得税法156条に示されている。また、消費税法においては明文がないものの、最高裁昭和39年11月13日判決(※1)を根拠に推計課税が行われている(※2)。 (※1) 税務訴訟資料38号838頁、TAINS:Z038-1333。 (※2) 消費税法上、「法の欠缺」となっている部分を裁判例や判例法で補い、消費税の課税標準の推計も許容されるという見解として、吉良実「消費税の推計課税と租税法律主義」税法学465号(1989)3頁がある。 〈法人税法131条(抜粋)〉 この規定により、青色申告法人は推計課税の対象とはされないため、日頃から適切に帳簿書類を備え付けている場合には、推計課税が適用されることはない。しかし、日頃の記帳や書類の管理をせず、帳簿書類が存在していない等の場合には、推計課税を適用せざるを得なくなり、青色申告を取り消した上で推計課税による更正処分等が行われるケースもある。 この推計課税は、「推計の必要性」と「推計の合理性」がある場合に限り認められる(※3)。前者の「推計の必要性」は、申告納税が原則であるところ、十分な直接資料が得難い場合に初めて推計による課税が認められるということである。後者の「推計の合理性」は、最も適切な所得を導き出せる方法に拠らなければならないということである。 (※3) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)984頁及び986頁。 これらが認められた場合、期首期末の財産の増加を基礎としたり、同業者比率を使用したりと、状況に応じて適切な方法により推計されることとなる。   (2) 役員給与について推計課税が適用された事例 上記の通り、青色申告法人にとって推計課税の規定は接点がなく、特に役員給与に関する論点は尚更だと思われる。しかし、青色申告の承認が取り消されるようなケースにおいては、役員給与に関する税制と推計課税が無関係ではなくなる。 現に、推計課税により算出した利益に相当する額の給与等が役員に支給されたものと認定された事例として、国税不服審判所平成28年8月22日裁決がある(※4)。 (※4) 裁決事例集104集193頁、TAINS:J104-3-08。 本件は、納税者が実質的に管理等を行っていた店舗につき、いわゆる実質所得者課税の原則(法法11)によって納税者に収益が帰属するとしつつ、必要な帳簿書類を備えていないとして青色申告の承認を取り消した。白色申告であれば推計課税の適用が可能であるため、利益を推計し、そこから支給されるべき役員給与があるとした上で隠ぺい仮装による支給であるために損金算入が認められなかった事例である(法法34③)(※5)。 (※5) 役員給与における隠ぺい仮装行為については、【第16回】参照。 この点、納税者は、名義が異なる店舗については納税者に帰属しないのであるから、そこから支給すべき給与等もない旨を主張しているが、「法人の代表者等が法人経営の実権を掌握し、法人を実質的に支配している事情がある場合には・・・、給与支出の外形を有しない利得であっても・・・、当該利得は、法人の代表者等がその地位及び権限に対して受けた給与等であると解するのが相当である」として、実際の支出がなくとも給与等に当たると示されている。 ここで、推計課税によって算出された利益から、給与等の支給がなされたとした上で、それが役員給与のうち隠ぺい仮装によるものであるとして損金不算入とすることは、つまるところ算出された利益の額に引き戻されるため意味がないのではとも思われる。 しかしながら、本件は源泉所得税の論点も生じており、各処分が是認されているため、役員に対して推計により給与等が支給されたとみなされる旨が示された当該事例は無視できない。もちろん、青色申告が取り消されるようなケースに限るが、役員給与が推計課税の論点に影響するという可能性があるということを知っておきたい。   (了)

#No. 544(掲載号)
#中尾 隼大
2023/11/16

基礎から身につく組織再編税制 【第58回】「適格株式交換(支配関係)」

基礎から身につく組織再編税制 【第58回】 「適格株式交換(支配関係)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   前回は「完全支配関係がある場合」の適格株式交換の要件を確認しました。今回は、「支配関係がある場合」の適格株式交換の要件について解説します。 なお、支配関係の定義については、本連載の【第3回】を参照してください。   1 支配関係がある場合の適格株式交換の要件 支配関係がある場合の適格株式交換の要件は、次の4つです。   2 金銭等不交付要件 金銭等不交付要件とは、株式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十七)。 ただし、次の①から⑤を交付しても金銭等不交付要件には抵触しません。 ①から④の内容は、前回解説した「完全支配関係がある場合の適格要件」と同様のため解説を省略します。 ⑤ 株式交換完全親法人が株式交換完全子法人の発行済株式の総数の3分の2以上を保有する場合に少数株主に交付される金銭 株式交換の直前に株式交換完全親法人が株式交換完全子法人の発行済株式の総数の3分の2以上を保有する場合には、株式交換完全親法人以外の少数株主に金銭その他の資産を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。   3 支配関係継続要件 支配関係継続要件とは、支配関係がある法人同士の株式交換の場合に、再編後においても支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法令4の3⑲)。 (1) 当事者間の支配関係 株式交換前に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間にいずれか一方の法人による支配関係がある場合には、株式交換後にも株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間にいずれか一方の法人による支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式交換後において、C社(株式交換完全子法人)とB社(株式交換完全親法人)との間にB社(いずれか一方の法人)による支配関係が継続することが求められます。 (2) 同一の者による完全支配関係 株式交換前に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者による支配関係がある場合には、株式交換後にも株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者による支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式交換後において、B社(株式交換完全親法人)とC社(株式交換完全子法人)との間にA社(同一の者)による支配関係が継続することが求められます。 (3) 株式交換後に適格合併が予定されている場合の要件 「支配関係がある場合の適格株式交換」があった場合も「完全支配関係がある場合の適格株式交換」と同様に、株式交換完全子法人、株式交換完全親法人、同一の者が適格合併で解散することが見込まれている場合の特例が設けられています。   4 従業者継続要件 (1) 従業者継続要件とは 従業者継続要件とは、株式交換直前の株式交換完全子法人の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式交換後に株式交換完全子法人の業務((2)参照)に引き続き従事することが見込まれていることをいいます(法法2十二の十七ロ(1))。 (2) 株式交換完全子法人の業務について ① 株式交換完全子法人と完全支配関係にある法人がある場合 株式交換完全子法人の業務には、株式交換完全子法人との間に完全支配関係がある他の法人の業務も含まれます。 上図のように、従業者が株式交換完全子法人の業務だけでなく、100%グループ内の法人(A社、B社)の業務に従事していれば、80%判定に含めてもよいとされています。 ② 株式交換後に適格合併等を行うことが見込まれている場合 株式交換後に行われる適格合併により株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人の業務も含まれます。 株式交換完全子法人を分割法人又は現物出資法人とする適格分割又は適格現物出資により株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業がその適格分割又は適格現物出資に係る分割承継法人又は被現物出資法人に移転することが見込まれている場合には、その適格分割又は適格現物出資に係る分割承継法人又は被現物出資法人の業務についても含まれます。 上図のような場合、C社の業務に従事していれば、80%判定に含めてよいとされています。 (3) 従業者とは 従業者継続要件における「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、株式交換の直前において株式交換完全子法人の株式交換前に行う事業に現に従事する者をいいます。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人の選択により従業者の数に含めないことができます。 ① 出向により受け入れた者 出向により受け入れている者であっても、株式交換完全子法人の株式交換前に行う事業に現に従事する者であれば従業者に含まれます。 ② 下請先の従業員 下請先の従業員は、自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しません。   5 事業継続要件 (1) 事業継続要件とは 事業継続要件とは、株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業が株式交換後に株式交換完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法法2十二の十七ロ(2))。 ① 株式交換完全子法人と完全支配関係にある法人がある場合 株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業が、株式交換完全子法人との間に完全支配関係がある法人において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 ② 株式交換後に適格合併等を行うことが見込まれている場合 株式交換後に行われる適格合併等により主要な事業がその適格合併等に係る合併法人等に移転することが見込まれる場合には、その適格合併等に係る合併法人等において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 (2) 主要な事業とは 株式交換完全子法人の株式交換前に行う事業が2以上ある場合には、そのいずれが主要な事業に該当するかは、それぞれの事業に属する収入金額又は損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判定します。   ◆支配関係がある場合の適格株式交換の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件において、原則として株式交換完全親法人株式以外の対価を交付しないことが求められています。 発行済株式の3分の2以上を保有する場合には、少数株主に金銭を交付しても金銭等不交付要件を満たします。 支配関係継続要件は、合併の場合と異なり、株式交換完全子法人が消滅しないため、当事者間の支配関係がある場合でも求められます。 株式交換完全子法人の株式交換直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が引き続き株式交換完全子法人の業務に従事することが見込まれているかを確認します。 株式交換完全子法人の主要な事業が株式交換後に株式交換完全子法人において引き続き営まれることが見込まれるかを確認します。 従業者継続要件、事業継続要件については、合併や分割の場合と異なり、株式交換後に適格分割や適格現物出資があった場合の特例が設けられています。   (了)

#No. 544(掲載号)
#川瀬 裕太
2023/11/16

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第29回】「武田薬品工業事件-無形資産の形成による移転価格税制の影響-(大裁平25.3.18)(その1)」~租税特別措置法66条の4第1項、第2項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第29回】 「武田薬品工業事件-無形資産の形成による移転価格税制の影響-(大裁平25.3.18)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、第2項~   税理士 中野 亘     1 移転価格税制における無形資産の取扱い 独立企業間価格の算定において無形資産単体又は無形資産を含めた複数を取り扱う取引(以下「無形資産取引」とする)が含まれた場合、独立企業間価格の算定方法は利益分割法が適用されることが多い。これは無形資産取引に対する「取引内容」と「取引価格(評価額)」の比較対象取引を見つけることが困難又は存在しないため、基本三法を適用できないことは【第10回】及び【第11回】で述べたとおりであるが、取引内容には「排他性」と「独自性」が、取引価格(評価額)には経済的レント等を含めた「算定方法に含める要素」が重要であるといえる。 無形資産取引に対する取引内容は大きく分けて「無形資産の移転」と「人的役務の提供」がある。無形資産の移転には法律等の保護により法的所有を有しながら使用許諾権を譲渡して使用料(ロイヤルティ)の支払いを受けるものが考えられ、これは特許権等のように法律保護(※1)によって他社が無断使用できないことによって「排他性」を保持していることにより経済的レントを享受することができる。また、無形資産の移転には有形資産と同様に無形資産自体を譲渡して対価を受けるものが存在し国税不服審判所平成25年3月18日裁決(武田薬品工業事件)の使用許諾権の譲渡等が当てはまる(※2)。 (※1) 法的保護には、法の施行によるものと使用許諾契約などの契約によるものがあり、法的所有者はその所有権を取得、維持するための費用への負担に無形資産を帰属する(大岩利衣子「移転価格税制における無形資産取引の考察-無形資産の所有権について(1)-」小樽商科大学商学討究第58巻第2・3号(2007)52-53頁参照)。 (※2) 他には、特殊な特許等を保有する企業の事業承継等が該当すると考える。 武田薬品工業事件では法的な無形資産の取引における「排他性」と「独自性」、取引価格(費用負担)による経済的レント等の享受を「リスク管理の範囲」の観点から検討する。   2 基礎事実 (※3) 本件供給取引:請求人は、本件供給取引に関し、TAP社(なお、契約締結当時のTAP社の名称は、TAP Holding Inc.である)との間で「本件供給契約」を取り交わしている(本件供給契約に関する内容はマスキングにより不明となる)。なお、ランソプラゾールは、請求人が製剤した医療用医薬品(抗潰瘍薬)(以下「ランソプラゾール」という)であり、日本では「タケプロン」、米国等では「Prevacid(プレバシッド)」の名称で販売されている。 (※4) 本件ロイヤルティ取引:請求人は、本件ロイヤルティ取引に関し、TAP社との間で「本件ライセンス契約」を取り交わしている(本件ライセンス契約に関する内容はマスキングにより不明となる)。 ◎ 独立企業間価格 ① 独立企業間価格の算定方法 ② 残余利益の配分計算 〈国外関連者との取引〉 〈本件国外関連取引〉 ((その2)へ続く)

#No. 544(掲載号)
#中野 亘
2023/11/16

給与計算の質問箱 【第47回】「年末調整書類の書式の前年からの変更点」~令和5年分対応~

給与計算の質問箱 【第47回】 「年末調整書類の書式の前年からの変更点」 ~令和5年分対応~   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 年末調整書類の書式について前年から変更がありましたら教えてください。 A 年末調整書類の書式の変更点は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 令和4年分の書式と比べて、令和5年分の書式は以下の変更点がある。なお、令和5年分と令和6年分の書式は同じである。 【令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の一部】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【令和5年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の一部】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 上記につき国税庁「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」及び「令和5年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」よりそれぞれ抜粋の上作成。 〈変更点①〉 30歳以上70歳未満の非居住者で次のいずれにも該当しないものは扶養控除の対象外になったため、「非居住者である親族」の欄にチェック欄が追加された。 例えば、外国人従業員が母国の父母等を扶養親族として扶養控除等申告書に記入している場合には、父母等の年齢が30歳以上70歳未満であれば38万円送金書類を提出してもらい、確認しなければならない。 以下、この「38万円送金書類」について解説する。 38万円送金書類とは、送金関係書類(※1)のうち、居住者から国外居住親族である各人(※2)へのその年における支払金額(※3)の合計額が38万円以上(※4)であることを明らかにする書類をいう(Q&A11、32参照)。 (※1) 送金関係書類・・・現金を手渡しした旨の書類は送金関係書類に該当しない(Q&A39参照)。外国送金依頼書の控え、利用明細書や通帳の写しといった金融機関の書類が該当する(Q&A37、38)。また、国外居住親族が使用するために発行されたクレジットカードで、その利用代金を居住者が支払うこととしている家族カードの利用明細書も該当する(Q&A40)。 (※2) 国外居住親族である各人・・・各人ごとに送金書類が必要で、父の口座に母の分も一緒に送金していた場合、父のみの送金関係書類に該当し、母の送金関係書類には該当しない(Q&A34参照)。 (※3) その年における支払金額・・・令和5年1月1日~12月31日の送金が対象(Q&A7①参照)。家族カードは令和5年1月1日~12月31日の利用が対象(Q&A7④、42参照)。 (※4) 38万円以上・・・金融機関への手数料込で「38万円以上」の判定を行う(Q&A7②参照)。邦貨換算は原則として送金日(家族カード利用日)のTTM。円預金口座から引き落とされた金額でも構わない。その他例外あり(Q&A7③⑤参照)。 【非居住者である扶養親族が30歳以上70歳未満の場合の源泉徴収事務における確認書類】 (注) 扶養控除等申告書を受領する時の親族関係書類及び年末調整を行う時の送金関係書類の確認については、現行のとおり必要となります。ただし、年末調整を行う時に38万円送金書類の確認をする場合には、現行の送金関係書類の確認をする必要はありません。 (出典:国税庁「令和4年分 年末調整のしかた」) 〈変更点②〉 住民税に関する事項に「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」の欄、「寡婦又はひとり親」の欄が追加された。   2 給与所得者の保険料控除申告書 令和4年分と令和5年分の書式は同じである。   3 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書 令和4年分と令和5年分の書式は同じである。   (了)

#No. 544(掲載号)
#上前 剛
2023/11/16

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第148回】東テク株式会社「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2023年6月29日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第148回】 東テク株式会社 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2023年6月29日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【東テク株式会社特別調査委員会の概要】   【東テク株式会社の概要】 東テク株式会社(以下「東テク」と略称する)は、1955年7月設立。設立時の社名は東京機工株式会社。1986年現商号に変更。計装事業(※1)、エネルギー事業及び設備機器販売事業を主たる事業とし、国内7社、海外5社の連結子会社を有している。連結売上126,696百万円、経常利益8,172百万円、資本金1,857百万円。従業員数2,505名(2023年3月期連結実績)。本店所在地は東京都中央区。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は、EY新日本有限責任監査法人東京事務所。 (※1) 計装事業とは、「建物全体を監視・制御・計測するさまざまな機器とネットワークで結んで施設環境管理サービスを提供」することである(東テク株式会社ホームページ参照)。 不適切な取引が発覚した連結子会社の東テク電工株式会社(以下「東テク電工」と略称する)は、1972年11月、現・東テク電工代表取締役社長の尾髙功将氏(報告書上の表記は「D社長」。以下「尾髙東テク電工社長」と略称する)の父親により設立された。設立時の社名は尾髙電工株式会社。東テクは、2008年2月に尾髙電工株式会社の全株式を取得して完全子会社とした。当該株式譲渡に当たり、当面の間、尾髙功将氏を東テク電工の代表取締役社長とする旨が確認され、それ以降も本報告書提出時点まで一貫して、尾髙功将氏が東テク電工の代表取締役社長を務めていた。2012年、尾髙電工株式会社から現在の東テク電工株式会社に商号変更。京葉地区での電気設備工事の設計・施工等を主たる事業とする。売上高1,001百万円、経常利益36百万円、資本金100百万円(2022年3月期実績)。従業員数19名。本店所在地は、千葉県千葉市。   【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 2023年4月25日、東テクに対し、東テク電工から、東テク電工の外注先の1つである有限会社Y(以下「Y社」という)に対する反面調査として、東テク電工に税務署による調査が入った旨の報告があり、その翌日、東テクは、尾髙東テク電工社長及び同社のX事業本部長(以下「X氏」という)に対するヒアリングを行ったところ、X氏は、Y社との間で実態を伴わない外注取引(架空取引)を行い、東テク電工からY社へ外注費を支払い、X氏がY社から一定の金員を受け取っていた(キックバックを受けていた。以下、X氏による一連の行為を「本件不適切取引」という)と述べるとともに、Y社から受け取った当該金銭を東テク電工の営業活動に利用していた旨述べた。一方、尾髙東テク電工社長は、同ヒアリングに対し、自身は本件不適切取引に関与しておらず、本件不適切取引を知らなかった旨述べた。 東テクは、本件不適切取引が行われている可能性を認識するに至ったことから、実態解明に努め、ステークホルダーに対する説明責任を果たすためには、東テク及び東テクグループから独立した立場の専門家による客観的かつ公正な調査を実施することが不可欠であると判断し、5月10日、東テクグループとの利害関係を有しない外部専門家のみで構成される特別調査委員会を設置した。 2 特別調査委員会による調査結果の概要 特別調査委員会の調査により判明した、X氏による不適切取引は次のとおりである。 (1) 不適切取引の概要 特別調査委員会は、本件不適切取引について、東テク電工にて受注した電気工事において、東テク電工の事業本部長兼営業部長であるX氏が、長年にわたり、Y社に対する実態を伴わない外注費を計上し、東テク電工からY社に対して外注費を支払わせていたというものであると認定し、X氏は、調査に対し、当該外注費の一部をY社から受領していた(キックバックを受けていた)と述べるとともに、受領した金銭は、全て東テク電工の営業目的(受注獲得)のため、発注者や同業者等の担当者に渡しており、自ら領得あるいは費消した事実はないと述べているとしている。 東テク電工とY社との取引は、2008年3月期に開始され、2023年3月期まで継続して行われており、調査対象期間(2012年4月1日から2023年3月31日まで)の取引金額(振込金額ベース)の総額は639,147千円(税込)であった。 (2) 不適切取引により作出した金銭の使途 特別調査委員会の調査に対し、X氏は、東テク電工の営業目的のため、Y社を用いて金銭を作出し、その全額を発注者、同業者等の担当者に渡したと述べている。 X氏が金銭を渡した相手方は、X氏の供述によれば、①同業者、②発注者、③設計事務所、④議員などであった。 (3) X氏による着服、費消の有無 特別調査委員会は、X氏の供述に基づいて、X氏がY社から受領した金銭は、東テク電工がY社に支払った金額の40~50%であるから、少なくとも2億5,000万円以上を受領した計算になるとしたうえで、東テク電工の従業員、外注先に対するヒアリングを行い、X氏の金回りについても確認したが、東テク電工の後輩従業員を飲食に誘い、飲食費を負担する等の行動は確認できたものの、高価な車を保有している等の事実は認められず、給与に見合わない浪費をしているとの事実までは確認できなかった。さらに、デジタル・フォレンジック調査においても、X氏の浪費につながる事実までは確認できず、X氏から任意に銀行口座の通帳を開示するよう求め、2つの口座について過去10年分の取引履歴を確認したが、疑義のある入出金は確認できなかったとのことである。 この調査結果を受けて、特別調委員会は、X氏がY社から受領した金銭を着服、費消していた可能性を否定はできないものの、X氏が金銭を着服、費消した事実は認められなかったとまとめている。 (4) Y社との取引実態について 特別調査委員会は、ヒアリングにおいて、工事の現場でY社の職人を見たと述べた者は、1人もいないこと、特別調査委員会の求めにかかわらず、Y社は、ヒアリングに応じず、Y社からも何らの説明、資料の提供もなされなかったことから、少なくとも、X氏自身、本件不適切取引を開始したと認める2012年3月以降については、証拠上、取引の実態があったと認定し得る東テク電工とY社との取引は存在しないと言わざるを得ないと結論づけている。 (5) 尾髙東テク電工社長の認識と疑問点 特別調査委員会の調査に対して、尾髙東テク電工社長は、本件不適切取引を知らず、Y社についてもその詳細を知らなかったと述べ、その理由として、9年ほど前に怪我をして自身が職場を離れた間も東テク電工の事業に大きな影響がなかったことから、仕事に対するモチベーションが低下したと述べている。 この認識にして、特別調査委員会は、以下の疑問を提示している。 特別調査委員会は、尾髙東テク電工社長による個人利用スマートフォンの初期化について、プライベートを知られるのを避けたいとの気持ち自体は理解できなくはないものの、本件不適切取引の調査のためデータ保全を依頼された後に初期化するとの行為は、尾髙東テク電工社長の本調査への非協力的な姿勢を示すものであり、供述態度の評価に影響し得るため、指摘すると厳しいコメントを付している。 そのうえで、結論としては、尾髙東テク電工社長が本件不適切取引を認識していたことを示す客観的資料や供述を覆す関係者のヒアリング結果が存在しない以上、本件不適切取引を認識していたとまでは認定できないものの、尾髙東テク電工社長の供述には疑問が残ることから、X氏がY社を利用して何らかの不適切なやりとりをしている程度は勘づきながらあえて深入りをせずに放置していた可能性も否定はできないという見解を示している。 3 特別調査委員会による原因分析(調査報告書53ページ以下) 特別調査委員会による原因分析は以下のとおりである。 特別調査委員会の調査では、以下の事実が判明している。 東テク電工は、東テクグループの金融商品取引法上の内部統制評価の対象外とされており、東テク電工には、尾髙東テク電工社長以外に2名の取締役と監査役1名を置いていたが、いずれも東テクの役職員による兼務(非常勤)であった。東テクは、他の子会社とは異なり、東テク電工に対しては、買収以降常勤役職員を1度も派遣したことがなく、尾髙東テク電工社長をはじめとする旧来からの役職員による経営がそのまま続いていた。東テク電工の非常勤取締役は、東テク電工にもほぼ行ったことがないと述べるなど、実際には経営に全く関与しておらず、東テク電工の統制状況や尾髙東テク電工社長の決裁の実態を把握することはできなかった。 なお、特別調査委員会によるヒアリングに対して、東テクの執行役員内部監査室長兼業務本部長であり、東テク電工の非常勤監査役を兼務していた三島誉仁氏(報告書上の表記は「K氏」)は、東テク電工について「不安だらけだった。危なすぎると思っていた。東テク電工には管理部門にキーとなる人材がいない、という点が一番。このままではまずいと思っていた矢先に本件が発生した」と述べているとのことである。 特別調査委員会は、「本件不適切取引が長期間にわたり行われた背景」として、東テクは、東テク電工を一定の目的をもって買収したはいいが、当該目的が実現されずにグループ内での位置づけが定まらない状況が続き、その後もシナジーを発揮させるための人材交流等の施策も特に実施されないまま、いわば放置され、また、東テク電工が継続して利益を計上していたがために、東テク経営陣の議論に上がることもなく、東テク電工において旧来からの役職員による経営が漫然と続くことになったことから、東テクによる内部統制によっても本件不適切取引を発見するには至らず、本件不適切取引が10年以上もの長きにわたり継続されることになったものであると説明している。 4 特別調査委員会による再発防止策の提言(調査報告書64ページ以下) 特別調査委員会による再発防止策の提言は次のとおりである。 特別調査委員会による再発防止策の提言のうち、まず、「第3 内部監査の強化」について見ておきたい。特別調査委員会は、東テクの内部監査室による監査によって、本件不適切取引を長年にわたり発見することができなかった原因として、内部監査室のメンバー15名中専従者が2名に過ぎず、内部監査業務に特化できていなかったこと、内部監査室に現場の経験が豊富な人材が少なかったことを挙げ、不適切な取引には何かしらの兆候があることが一般的であり、そのような兆候を見抜くためには、より業務の実態を理解している人材が監査を行う必要があると結論づけている。 次いで、「第4 東テク電工への人員派遣、グループ内での人材交流」として、特別調査委員会は、人事の固定化は、属人的な業務のやり方を招いたり、過度に人的結束が強まったり、組織の同質化が進み異論が出しづらくなる等の問題の原因につながるものであり、東テク電工では東テクからの人材派遣やグループ間の人材交流がなかったがために「尾髙電工」のままの経営が続いてしまったと指摘したうえで、東テクは速やかに東テク電工に対し、常勤の役職員を派遣することを検討すべきであり、当面は、東テクが派遣した人材による全面的なマネジメント体制を構築することが喫緊の課題となるとまとめている。さらに、グループ間の人材交流は、不正防止の観点からだけでなく、シナジー発揮の点からも有用であると認識する必要があるとともに、架空の外注取引という不正類型は、親密な外注先との関係の中で生じるものであることからすれば、同様の不正を防止するためには、多少業務に影響が生じ得るとしても、グループ間の人材交流はもとより、現状、人事の固定化が顕著な事業部においては積極的に人事異動(ローテーション)を行うことを検討すべきであると述べている。 最後に、「第6 PMIの策定」の提言を見ておきたい。特別調査委員会は、東テクでは、業容拡大の手法にM&Aを積極的に取り入れているとしたうえで、今後、新たにM&Aをする会社において同様の問題が発生することを未然に防ぐためにも、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション。M&A成立後の統合プロセス)の策定は不可欠であるとしたうえで、東テク電工に対しては、今後、シナジーを発揮すべく様々な施策にあたって、場当たり的な施策を講じるのではなく、(事後的ではあるものの)PMIの考え方を参考に、段階に沿った統合計画を策定のうえで実施されることが求められようという結論を述べている。   【報告書の特徴】 連結売上高1,266億円を超えるグループにおいて、親会社とのシナジー効果が見込めず、売上高10億円に過ぎない連結子会社は、M&Aによる買収前の経営体制が温存され、グループの内部統制評価の対象外とされ、事実上、親会社の統制から放置されてきた。設立者の子息である2代目社長のもとで、事業本部長というナンバー2の役職につき、かつ、3つしかない部門のうちの1つである営業部門のトップの役職を兼務していたX氏による不適切な取引を防止し、または、発見する統制環境は、東テク電工はもとより、東テクにもなかったようである。 1 東テク本体における会計不正発生との関係性 親会社である東テクは、従業員による不適切な取引が発覚し、2014年2月に調査委員会を設置して、翌3月に調査報告書を公表している(※2)。不適切な取引の内容が水増しした仕入発注によるキックバックが中心であったこと、発覚の端緒となったのが国税局による税務調査であったことなど、東テク電工の不適切な取引との類似点は多い。ただ、当時の調査範囲には、東テク電工を含め、東テクの子会社は含まれていない。 (※2) 調査結果については、本連載【第16回】参照。 とはいえ、特別調査委員会の調査によれば、東テク電工におけるX氏による不適切な取引は2013年3月期には開始されていたことから、当時の東テクによる再発防止策を、グループ全体に適用できていれば、その時点で、不適切な取引が発覚した可能性もあったのではないかと考える。 特別調査委員会は、再発防止策の提言の中で、「2014年に発覚した不正を踏まえれば、東テク本体のみでなく、子会社においても購買プロセスには高いリスクが存在することは容易に想定できたはずであり、特に、東テク電工に対しては常駐の役職員を派遣したことがないことを踏まえれば、少なくとも購買プロセスについては実施基準に基づく評価範囲を東テク電工まで及ぼすことは十分に考えられた」と述べているが、結果論ではなく、当時の経営陣のリスクに対する認識が甘かったと批判されるのは免れないと考える。 2 財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備 調査報告書公表時に、東テクは、「11年間の各年度に与える業績の影響は、営業利益、経常利益、税金等調整前当期純利益及び親会社株主に帰属する当期純利益のいずれに対する影響も軽微であることから、過年度の有価証券報告書及び四半期報告書並びに2023年3月期の各四半期報告書の訂正は行わないこととします」と説明していたが、その翌日、「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」をリリースして、「2023年3月期(第68期)の内部統制報告書において、開示すべき重要な不備があり、当社グループの財務報告に係る内部統制は有効でない旨」を記載したことを公表した。 リリースでは、「東テク電工の仕入取引に関する業務処理統制及び当社の全社的な内部統制に不備があると判断いたしました」として、以下の3項目を列挙している。 3 再発防止策の策定 東テクは、2023年7月28日「再発防止策の策定に関するお知らせ」をリリースして、発生原因と再発防止策を公表した。 まず、発生原因について、次のようにまとめている。 こうした発生原因分析を踏まえ、東テクが策定した再発防止策は次のとおりである。 再発防止策のうち、「東テク電工の組織改正と人員派遣」については、次項で詳説する。 「内部統制体制の強化」について、東テクは、全社的な内部統制を統括する「内部統制本部」を社長直轄組織として新設して、その配下には、内部監査室、コンプライアンス室、監査等委員会室を設置し、それぞれの部門が連携して内部統制実務を遂行する体制を整備するとともに、事業部門から最低3名の人員を異動し配置することで、事業内容に精通した担当者による、より実効的な内部監査を実現するとしている。 7月31日にリリースされた「組織改正並びに執行役員及び人事の異動に関するお知らせ」では、執行役員内部監査室長兼業務本部長であった三島誉仁氏は、業務本部長の兼任が解かれており、特別調査委員会による批判の対象となった「専従者が2名しかいない」という人員配置の解消に向けた第一歩かもしれない。 4 東テク電工の組織改正と人員配置 前項で一部引用した2件のリリースをまとめると、東テクは、東テク電工の組織について、事業本部長職を廃止するとともに、企画部(営業部を改称)、管理部(総務部を改称)及び工事部を社長直轄の組織として独立させるという変更を行うとしている。 そのうえで、8月1日付で、東テク電工社長は、東テク取締役専務執行役員である小山馨氏に兼務させ、管理部長には、東テク社員を派遣することとしている。これに伴い、尾髙東テク電工社長は退任することとなった。 なお、東テク電工事業本部長であったX氏の処遇については、発表がない。 (了)

#No. 544(掲載号)
#米澤 勝
2023/11/16

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第47回】「減価の査定にそれなりの判断を伴う土地(その1)」~地下阻害物(地下鉄等)が存在する場合~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第47回】 「減価の査定にそれなりの判断を伴う土地(その1)」 ~地下阻害物(地下鉄等)が存在する場合~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 土地の価格に影響を与える個別的要因のなかでも、角地(増価要因)、不整形地(減価要因)、幅員の狭い道路に接する土地(減価要因)等の場合は、常識的な目から見ても判断をつけやすいといえます。しかし、土地の状況は様々であることから、土地価格の高低を判断するに当たっては、このように比較的容易に目安をつけられるものばかりとは限りません。 そこで、今回から数回にわたり、減価の査定にそれなりの判断を伴う土地につき鑑定評価での考え方を紹介するとともに、併せて相続税や固定資産税の評価ではこれと同じような土地をどのような方法で評価しているのかについて述べていきます。   2 地下阻害物(地下鉄等)が存在する土地の鑑定評価 都市部では、他人の土地の地中部分を地下鉄が通り、土地所有者と地下鉄道事業者との間に区分地上権設定契約が結ばれている例をよく見受けます(土地所有者:区分地上権設定者、地下鉄道事業者:区分地上権者)。このような場合、対象地には区分地上権設定登記が付されていることが多く、登記簿の権利部(乙区欄)を調査すればその事実を確認することができます。 ちなみに、区分地上権は民法では次のとおり定義されています。 区分地上権が設定されていても、その土地上に建築物の建築ができなくなるわけではありませんが、地下鉄の構築物に影響を与える建築物や工作物の荷重について制限を受ける結果、建築物の構造や建築可能な階数等が影響を受ける場合があります。区分地上権が設定されている土地の評価に際しては、このような観点からそれなりの減価が必要とされるケースが多く、また、減価に相応する金額につき地下鉄道事業者から土地所有者に対し補償金という形で一時金が支払われるのが通常です。 このように、対象地の地下に阻害物が存在することにより土地所有者が利用上の制約を受ける場合には、その影響を評価額に反映させる必要があります。しかし、その程度についてはきわめて個別性の強い問題であるため、鑑定実務に活用されている「土地価格比準表」(※)にも補正率(減価率)についての記載はありません。 (※) 地価調査研究会編著「七次改訂 土地価格比準表」住宅新報社。 このような地下阻害物が存在する土地については、区分地上権の設定契約の内容により土地利用上の阻害の程度が左右されるため、それぞれの契約内容に応じて減価の程度を見極める必要が生じます。 したがって、区分地上権の設定されている土地の鑑定評価においては、このような視点から個々の土地ごとに土地利用制限率(後掲のとおり)を査定した上で、これを評価の過程に反映させ、区分地上権の設定されている土地の価格を求める方法が採用されています。 具体的なイメージとしては、〈資料〉のとおり、地下鉄道の敷設のため区分地上権を設定した場合、その土地は立体的に見れば区分地上権の設定部分とそれ以外の部分とに分割されますが、荷重制限等により上空の一部や地下に利用を阻害される部分が生じることとなれば、土地価格の低下を招くなどの影響を被るケースが生じます。 〈資料〉 区分地上権の設定されている土地 ところで、鑑定評価の過程で査定する土地利用制限率は、実務的には用地補償の拠り所とされている「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則(別記2「土地利用制限率算定要領」)」を適用して求めていることが多いといえます。専門的な話をしようとすれば(計算式も含めて)かなり煩雑なものとなりますので、詳細は割愛させていただきますが、例えば次のように考えていただければよいでしょう。 〇土地利用制限率を査定する際のイメージ このようなステップを踏んで、上記「土地利用制限率算定要領」により、土地利用制限率が例えば30%と査定されたとすれば、区分地上権の設定されている土地の更地価格に対する価値割合は、以下のとおりになります。   3 税務の評価では 相続税や固定資産税においても、地下阻害物が存在する土地の評価をどのようにすべきかが問題となります。 しかし、相続税評価の場合は申告の便等も考慮し、鑑定評価に比べればやや簡便な計算式となっており、固定資産税評価の場合も市町村等における大量一括評価(=限られた時間内に大量かつ画一的な処理を行わざるを得ないこと)から、個々の土地について鑑定評価のような作業を行うことには限界があります。そこで、以下、それぞれの評価において適用されている方法を簡潔に述べ、鑑定評価との相違を対比させておきます。 (1) 相続税の評価では 国税庁ホームページ「質疑応答事例(区分地上権の目的となっている宅地の評価)」では、区分地上権の目的となっている宅地の価額は、その宅地の自用地としての価額から財産評価基本通達27-4(区分地上権の評価)の定めにより評価したその区分地上権の価額を控除した金額によって評価する旨の回答を行っています。 すなわち、以下のとおりに計算することになりますが、ここで区分地上権の価額を求める際には(鑑定評価の説明で登場した)土地利用制限率を用いる旨回答がなされています。 併せて、土地利用制限率についても、(図を用いて)建物の各階ごとに階層別利用率を想定の上、計算式の例示を行っていますので、参照ください(これに関しては鑑定評価の手法と共通するものがあります)。 ただし、相続税の評価においては、地下鉄等のずい道の所有を目的として設定した区分地上権を評価するときにおける区分地上権の割合は、100分の30とすることができる(財産評価基本通達27-4)とされており、やや簡便的な方法となっている点が鑑定評価と比較した場合の特徴といえます。 (2) 固定資産税の評価では 固定資産評価基準においては地下阻害物のある土地についての評価規定は存在せず、このような土地につき評価額に反映させる必要があると市町村が判断した場合には、所要の補正という形で評価額の減額を行っているケースがあります(所要の補正を適用するか否かは市町村長の裁量に委ねられている点に固定資産税評価の特徴があります)。 ただし、所要の補正が行われているケースでも、(先程述べたとおり)大量一括評価という観点から、地下阻害物の存在する敷地部分が総面積に占める割合等によって補正率が画一的に定められているのがむしろ一般的です。 (了)

#No. 544(掲載号)
#黒沢 泰
2023/11/16

《税理士のための》登記情報分析術 【第6回】「登記原因について」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第6回】 「登記原因について」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   1 登記原因とは 所有権移転登記や抵当権設定登記など、何らかの登記がされた場合には、登記記録のうち「権利者その他の事項」の欄に、登記を行うことになった原因が記載される。 【記載例1:登記原因「売買」】 登記の申請を行うにあたっては、登記申請書に「登記の原因」を記載し、登記原因の発生を裏付ける資料(売買契約書や贈与契約書)を「登記原因証明情報」として添付する。登記原因証明情報は、売買契約書等そのものを添付するのではなく、登記用に当事者が売買や贈与の事実があったことを証明した法務局への報告書形式のものもある。 売買の事実がないにもかかわらず、売買を原因として所有権移転登記を行うなど虚偽の登記をした場合には、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)に該当することがある。そのため、登記されている登記原因については、基本的には正確なものであると考えることができる。 【記載例2:登記申請書(抜粋)】   2 甲区における代表的な登記原因 所有権に関する事項が登記される甲区において、よく記載されている登記原因は次のとおりである。 (1) 売買 不動産について売買契約を締結し、所有権が売主から買主に移転した場合には、【記載例1】のように登記原因が「売買」と記載される。税理士として注目すべきなのは、売買の日付である。売買契約は売買の合意が成立した時点(口頭でも可)で、不動産の所有権が売主から買主に移転するのが原則である。しかし、多くの売買契約書は以下のような所有権留保の条項が定められているため、買主が売主に対して売買代金を支払った日が、売買の日付として登記されていることが多い。 【記載例3:所有権留保条項】 税理士は、顧客の親族間売買や会社と代表者との間での不動産の売買をプランニングすることもあると思われる。いつ売買の効力が発生し、所有権が移転したのかは重要なポイントになる。予期せぬタイミングで売買の効力が発生したことにならないように、売買契約書の内容の確認や、登記を担当する司法書士との連携が重要になるといえる。 (2) 贈与 不動産について贈与契約を締結し、所有権が贈与者から受贈者に移転した場合には、【記載例4】のように登記の原因は「贈与」として記載される。贈与も売買と同様に贈与の合意が成立した時点(口頭でも可)で、所有権が贈与者から受贈者に移転する。贈与契約書については、売買契約書と異なり、所有権留保の条項が記載されていることは少なく、贈与契約書を締結した日が、贈与日として登記されている例が多いように思われる。贈与の場合も売買と同様に、予期せぬ日付で贈与が行われたことにならないように、贈与契約等の確認が必要になる。 【記載例4:登記原因「贈与」】   3 乙区における代表的な登記原因 抵当権や地上権など、所有権以外の権利について登記される乙区において、よく記載されている登記原因は次のとおりである。 (1) 抵当権の設定に関する登記原因 抵当権の設定登記が行われた場合、登記原因としては「令和〇年〇月〇日金銭消費貸借令和〇年〇月〇日設定」というように記載される。 【記載例5:抵当権設定の登記原因】 登記原因が2つあるようにも読めるが、これは抵当権が特定の債権を担保するために利用される担保権であるためである。「金銭消費貸借」とは、お金の貸し借りを行う契約のことで住宅ローンを利用した場合などが該当する。「設定」とは、不動産に対して抵当権設定契約を締結したということを意味する。 「令和〇年〇月〇日金銭消費貸借 令和〇年〇月〇日設定」とされているのであれば、「令和〇年〇月〇日付の金銭消費貸借契約によって発生した債権を担保するために、令和〇年〇月〇日付で抵当権設定契約を締結した」ということを意味している。 なお、抵当権が担保する債権は、金銭消費貸借契約により発生したものに限られないため、「令和〇年〇月〇日債務承認契約 令和〇年〇月〇日設定」や、「令和〇年〇月〇日相続による相続税及び利子税 令和〇年〇月〇日設定」というような登記原因もある。 (2) 根抵当の設定に関する登記原因 抵当権とは異なり、本連載【第5回】でも解説したとおり、同じ担保権でも根抵当権は特定の債権を担保するために設定されるものではないため、登記原因としては単に「令和〇年〇月〇日設定」というように記載される。 地上権や賃借権といった用益権(土地の利用権)についても同様で、地上権等の設定契約を締結すれば不動産に設定することができるため、登記原因としては「令和〇年〇月〇日設定」として記載される。 今回はよく見かける登記原因について解説をしたが、次回はやや特殊な登記原因について解説を行う。 (了)

#No. 544(掲載号)
#北詰 健太郎
2023/11/16

《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第7回】「中小企業の退職金? 「iDeCo+」とは」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第7回】 「中小企業の退職金? 「iDeCo+」とは」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇資産づくりと金融教育 昨今、職場での金融教育を推進しようという動きがとても活発になってきています。政府も「資産運用立国」の実現を目指し、その動きを後押ししています。 「いや、そんなことを言っているのは、それでビジネスをしようとする金融業界だけでしょう」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、次のデータを知ったら少なくとも金融教育の大切さに気づいていただけるかもしれません。 三井住友信託銀行の調査によれば、20代から60代までの年齢層で、金融教育を受講したことがある人と受講経験がない人を比較したところ、すべての年代で前者の方が後者より平均金融資産保有額が高く、全世代平均では約100万円の差があったそうです。 この調査結果を「たった100万円」と思ってはいけません。受講経験の有無による保有額の差は、年齢が上がるにつれ拡大しており、全世代平均約100万円の差は、時間の経過でもっと大きな差につながるからです。 金融知識の有無でこれだけの差がつくという点がとても重要なポイントであると共に、そもそも大企業と中小企業では従業員の現役時代の年収に格差があるということも再認識したい点です。 つまり年収によって将来の老齢厚生年金の受取額が増減するという事実と合わせて考えると、給与水準がどうしても大企業に水をあけられてしまう中小企業において、従業員の老後に不足するお金は、相対的に膨らむ可能性が高いということになります。   〇従業員のための「iDeCo+」 経営者の方々とお話をすると、従業員の将来を心配する声をよく伺います。そして「せめて長く働いた社員には退職金を準備してあげたい」という言葉が続くことが多いです。しかし退職金を準備するには制度導入にコストがかかったり、継続的に経済的な負担が伴ったりと二の足を踏むケースもあります。 実はそんな経営者の想いに応えるのが「iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)」という2018年にできた制度です。iDeCo+とは、従業員のiDeCoに会社が掛金をプラスする仕組みです。 以下の3つの要件さえ満たせばどんな会社でも導入ができる「新しい福利厚生制度」です。 会社の掛金は従業員の働くモチベーションをアップさせるための福利厚生制度にも、求人の際のアピールポイントにもなります。   〇社長がiDeCo+に加入すると・・・ iDeCo+を考えるうえで意外と盲点なのが、この制度は社長も利用可能ということです。したがって、まずは社長のケースからこの制度の活用法をご紹介します。 iDeCoの加入状況 社長は現在iDeCoに加入しています。iDeCoは個人型確定拠出年金ですから、個人の老後の備えとして積立てを行っています。毎月の掛金は社長の所得控除となります。 年末調整にてiDeCoの証明書を提出することにより、276,000円が収入から控除されます。社長の所得税率を20%、住民税率を10%とすると、具体的には、1年間で以下の税メリットが受けられるということになります。 65歳まで年収が変わらなければ、税メリットは累計2,070,000円になります。 iDeCo+の導入後 では、会社でiDeCo+を導入したらどうなるのでしょうか。iDeCo+では、会社がiDeCo加入者に対し掛金をプラスして資産づくりを応援します。会社が拠出する掛金は、一般的には、全対象者一律、あるいは勤続年数で区別するといったルールで決定します。 こちらの社長は、従業員分も含めご自身で給与計算をしているので、あまり複雑な仕組みは面倒だと思い、iDeCo+については全対象者に3,000円ずつ会社が掛金を支援することとしました。 〇掛金額の変化 会社が掛金3,000円を出してくれるということは、社長個人の月々の掛金を現状の23,000円から20,000円に減額しなければならないということになります。なぜならば、社長のように厚生年金に加入している方の掛金は、会社の掛金と合わせて23,000円が上限となるからです。 個人の掛金減額により確かに所得控除は減りますが、会社の経費として自分自身に月3,000円拠出できると法人税の圧縮につながりますから、会社の財務上はメリットです。また、この3,000円が仮に役員報酬であれば、法定福利費として報酬の約15%を会社が負担しなければなりませんが、iDeCo+の会社掛金であれば、給与とは認識されず、法定福利費の算定対象とはならないので、その分会社の支出を抑えることができます。 社長個人としても、会社の掛金3,000円は税金がかからないお金であると共に社会保険料の算定対象でもないので、100%自分の老後の資金として積立てが可能です。 〇掛金の流れの変化 社長はこれまでiDeCoの掛金23,000円を毎月自分が指定した金融機関の口座から自動で引き落とされる設定にしていましたが、iDeCo+に変更するにあたり、給与天引きにしなければならなくなります。この際会社として預かるのは、社長本人の積立額である20,000円です。この金額を給与支払の際に、所得税がかからない報酬として処理します。少し手間はかかりますが、これで一切の税金の手続きが終了です。 天引きした20,000円と会社が負担する3,000円を合計した金額が、指定の日に国民年金基金連合会によって会社の口座から引き落とされます。国民年金基金は、その後23,000円を社長のiDeCoとして登録金融機関に振り替えます。   〇iDeCo+の導入と職場の変化 もちろんこのiDeCo+は、社長に限らず、iDeCoに加入している従業員も希望により利用することができます。自分の掛金に会社が支援金をプラスしてくれる「分かりやすいベネフィット」ですから、iDeCoを始めたいという人も増えてくるに違いありません。実はこの「口コミ」効果がiDeCoの更なる普及を目指す厚生労働省のねらうところでもあります。 iDeCo+は、従業員の中でiDeCoに加入している人にのみ、会社が支援金をプラスする仕組みです。法律上iDeCoに加入していない人には会社拠出をする必要はありません。ただし、従業員に対しiDeCoという仕組みの周知徹底はしなければなりませんので、社内に金融機関の方を招いて説明会を行ったり、会社が掛金をプラスして拠出することをアピールしたりします。 このように、中小企業の従業員が大企業との賃金格差を埋めるきっかけにしてほしいというのがこのiDeCo+の目的であると思っていただけると分かりやすいと思います。もちろん、社内で「iDeCo」という言葉が聞かれるようになれば、金融への関心の高まりや、金融教育の場が生まれることにつながるでしょう。 ある会社では、事業主掛金を4,000円と設定しています。iDeCoを始めるにあたり最低掛金は5,000円ですから、従業員はわずか1,000円の自己拠出でiDeCoを利用しながら将来に向けての積立てを開始することができます。その後年に1回掛金は変更できますから、iDeCo+をきっかけに、自ら19,000円拠出し満額iDeCoを活用しているという従業員が大勢いるというお話を伺いました。 従業員の老後の備えが不十分で思ったような老後が送れないというのは会社の責任ではありません。しかし毎日働く場で、社長から「自らの将来を描いていく方法」を手ほどきされ、会社がその制度を整備してくれたら、その従業員の将来は大きく変わるのではないでしょうか。 iDeCo+は導入にあたり、費用は一切かかりません。会社は、iDeCoの掛金のみを負担するだけでそれ以上に金銭的な負担はありません。iDeCoの会社掛金は1,000円以上、22,000円以内で設定します。 全従業員がiDeCo+で将来への積立てを始めることになれば、立派な退職金制度と言えるようになるでしょう。 (了)

#No. 544(掲載号)
#山中 伸枝
2023/11/16
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