公開日: 2023/12/28 (掲載号:No.550)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第33回】「重加算税に関する隠蔽・仮装行為主体問題と賦課判断の主観化の意義」-重加算税判例における納税者以外の者との「同視思考」の正当化と「同視要件」の厳格化-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第33回】

「重加算税に関する隠蔽・仮装行為主体問題と賦課判断の主観化の意義」

-重加算税判例における納税者以外の者との「同視思考」の正当化と「同視要件」の厳格化-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回は、重加算税の賦課要件(税通68条1項)のうち「隠蔽・仮装」要件の解釈適用をいわゆるつまみ申告に関して検討したが、今回は、隠蔽・仮装の行為主体要件としての「納税者」要件の解釈適用を、納税者本人以外の者が隠蔽・仮装を行った場合に関して、検討することにする。

この問題について筆者は以前「隠ぺい・仮装の行為主体問題」として検討したことがあるが(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)940頁[初出・2017年]。「隠ぺい」は当時の法文によった)、今回はその検討を基本的にベースにしながらその後考察したところも踏まえて、納税者以外の者が隠蔽・仮装を行った場合における納税者本人に対する重加算税賦課の問題を検討することにする。

 

Ⅱ 判例による「同視要件」の形成

隠蔽・仮装の行為主体問題に関するリーディング・ケースとして大阪地判昭和36年8月10日行集12巻8号1608頁(以下「昭和36年大阪地判」という)がしばしば引用される。この判決は次のとおり判示した(下線・【】の記載筆者)。

重加算税の制度の主眼は隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告又は無申告による納税義務違反の発生を防止し、もつて申告納税制度の信用を維持し、その基礎を擁護するところにあり【①】、納税義務者本人の刑事責任を追及するものではないと考えられる。従つて納税義務者本人の行為に問題を限定すべき合理的理由はなく、広くその関係者の行為を問題としても違法ではない。かえつて、納税義務者本人の行為に問題を限定しなければならないとすると、家族使用人等の従業者が経済活動又は所得申告等に関与することの決してまれではない実状に鑑みて重加算税の制度はその機能を十分に発揮しえない結果に陥ることはあきらかである【②】。(従業者の行為によるときは納税義務者の故意を立証することは容易でなく、発覚したときも従業者自身は重加算税の賦課を受けることはないから、納税義務者が従業者の行為に隠れて不当な利得をはかる虞がある。)したがつて、重加算税の制度上は従業者の行為は納税義務者本人の行為と同視せらるべく、従業者による所得の事実の隠ぺい又は仮装を納税者本人が知らずして右隠ぺい又は仮装したところに基き、所得の過少申告をし又は所得の申告をしなかつたときは、納税者が正当なる所得を申告すべき義務を怠つたものとして重加算税が賦課せられるものと解するのが相当である。

隠蔽・仮装の行為主体問題については、その後、下級審で数多くの判断が示され学説でも様々な議論がされたが(差し当たり前掲拙著944-947頁参照)、判例の立場は、最判平成18年4月20日民集60巻4号1611頁及び最判平成18年4月25日民集60巻4号1728頁(両判決を以下では「平成18年最判」という)の次の判示(両判決の判示は次の限りで同じである。下線・【】の記載筆者)で確立された。

国税通則法68条1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである【①】。

同項は、「納税者が・・・隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、隠ぺいし、又は仮装する行為(以下「隠ぺい仮装行為」という。)の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠ぺい仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし、納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる【②】。

昭和36年大阪地判と平成18年最判は、判断枠組みの定立に当たって、基本的には同じ論理構成を採用したものと解される。その論理構成は次のようなものである。すなわち、隠蔽・仮装の行為主体は納税者本人に限定されないという解釈を重加算税制度の趣旨・目的(①)から導き出すという目的論的解釈を基本に据えながら、その導出過程に弊害防止論の観点(②)を織り込むことによって、納税者以外の者の行為を納税者本人の行為と「同視」することができるという考え方(以下では「同視思考」という)を構想し、同視思考によって上記目的論的解釈の結果を正当化する、というような論理構成である。

この論理構成にいう「弊害防止論」は、隠蔽・仮装の行為主体は納税者本人に限定されるという解釈を採用した場合に生ずる弊害を防止しようとする考え方であるが、その意味内容は、昭和36年大阪地判と平成18年最判とで異なる。

昭和36年大阪地判における弊害防止論は、前掲判示中の下線部(②)で説示されているように、納税申告等の「実状」に関する認識に基づく制度機能不全防止論である。制度機能不全防止論は、同視思考の動機やそれに基づく立法論の論拠とはなり得るとしても、解釈論において同視思考を規範化しそれに基づく要件(同視要件)を正当化する根拠としては、不十分かつ薄弱であるといわざるを得ない。

しかも昭和36年大阪地判が、納税申告に係る他者の隠蔽・仮装の事実について、「[納税者本人が]本件確定申告に当り右事実を知つていたことを肯定するに足る証拠はない」と認定しつつ、その事実に関する納税者本人の認識を不要とする立場(以下「認識不要説」という)を前提にして示した判断であったこと(次のⅢでみるように、この点でも平成18年最判と異なる)とも相俟って、同判決の同視思考は、隠蔽・仮装行為主体の範囲を、したがって重加算税賦課の範囲を、無制限に拡大するいわば「無差別爆撃的な『同視』」(須貝脩一「判批」シュトイエル6号(1962年)45頁、48頁)をもたらすものとして、厳しく批判されたのである。

にもかかわらず、その後も、認識不要説が「多数説」(小貫芳信「連載課税訴訟研究 附帯税をめぐる訴訟(1)~重加算税の賦課要件を中心として」税理38巻14号(1995年)198頁、199頁)であった。ただ、学説判例においては、同視要件の正当化をめぐって様々な議論がされてきた。その議論の詳細にはここでは立ち入らないが、そこでの理論構成は、㋐「関係性理論」(納税者本人と隠蔽・仮装行為者との一定の事実上の関係又は法的な関係を根拠にして同視要件を正当化する理論構成)、㋑「帰責性理論」(関係性理論を前提にしながら、納税者本人の有責性によって同視要件に対して更なる根拠及び制限を付与・付加しようとする理論構成)及び㋒「個別具体的判断理論」(関係性理論や帰責性理論と同じレベルでの「理論構成」とはいえないが、それらの理論構成を採用する種々の見解で考慮されている要素も含め「同視することを正当化するに足りる個別具体的な特殊事情」(田中治「判批」シュトイエル365号(1992年)1頁、11頁)の個別具体的検討が必要であるとする「理論構成」)という3つに整理することができる(詳しくは前掲拙著945-946頁参照)。

 

Ⅲ 「同視思考」の正当化と「同視要件」の厳格化

これに対して、平成18年最判における弊害防止論は、前掲判示中の下線部(②)で説示されているように、昭和36年大阪地判における制度機能不全防止論とは異なり、制度趣旨・目的没却防止論であり、その意味で、重加算税制度の趣旨・目的を考慮する目的論的解釈の枠内に収まりやすく、同視要件を正当化する根拠として説得力をもつものである。換言すれば、平成18年最判は昭和36年大阪地判に比べて目的論的解釈を「純化」したものといってもよかろう。

しかも、平成18年最判は、最高裁が隠蔽・仮装の行為主体問題について初めて判断を示した最判平成17年1月17日民集59巻1号28頁(以下「平成17年最判」という)を踏まえて、従来の裁判例における認識不要説の立場ではなく、認識必要説の立場に立つことによって、昭和36年大阪地判に対する前記の「無差別爆撃的な『同視』」というような厳しい批判を免れようとしたものと解される。

平成17年最判は、次のとおり判示し(下線筆者)、「意思の連絡」論を説いた。

前記事実関係によれば、A税理士は、本件土地の譲渡所得に関し、被上告人に対し、本件土地の買手の紹介料等を経費として記載したメモを示しながら、800万円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をしたが、被上告人は、上記紹介料を実際に出費していなかったし、出費した旨を同税理士に告げたこともなかったにもかかわらず、上記の説明を受けた上で、同税理士に対し、平成2年分の所得税の申告を委任し、税務代理の報酬5万円のほか、1800万円を交付したというのである。そうであるとすれば、被上告人は、A税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるから、特段の事情のない限り、被上告人は同税理士が本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、又は仮装することを容認していたと推認するのが相当である。原審が掲げる上記1の(1)の①及び②の事情だけによって、上記特段の事情があるということはできない。そうすると、被上告人が脱税を意図し、その意図に基づいて行動したとは認められないとした原審の認定には、経験則に違反する違法があるというべきである。

そして、本件において、被上告人とA税理士との間に本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、又は仮装することについて意思の連絡があったと認められるのであれば、本件は、国税通則法68条1項所定の重加算税の賦課の要件を充足するものというべきであるところ、記録によれば、A税理士においても、同税理士が本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、又は仮装することについて、被上告人がこれを容認しているとの認識を有していたことがうかがわれる。

この判示にいう「意思の連絡」は、税理士の隠蔽・仮装による税負担減少の企図に関する納税者本人の「了知」及び「容認」と当該税理士による納税者本人の「容認」の「認識」という双方の主観的要素によって、構成されるものと解される。平成17年最判は「意思の連絡」を、これらの主観的要素によって基礎づけ、もって「重加算税賦課の制限要素」(神山弘行「判批」法学協会雑誌125巻5号(2008年)1133頁、1153頁)としたものと解される。

もっとも、平成17年最判は、「国税通則法68条1項の解釈上、納税者以外の第三者による隠ぺい・仮装行為について、いかなる場合に納税者本人に対し重加算税を賦課し得るのかという一般論に立ち入ることなく、・・・・・・、同項の適用の前提となる事実についての原審の認定に経験則に違反する違法があるとして、原判決を破棄したものである。」(増田稔「判解」最判解民事篇(平成17年度(上))24頁、35頁。下線筆者)と解説されていることからすると、「意思の連絡」論は、隠蔽・仮装の行為主体問題に関する「一般論」ではなく、「重加算税の賦課において納税者本人の主観的側面を重視するという最高裁の態度」(神山・前掲「判批」1153頁)の現れと解すべきであろう。その態度は、次にみるように、平成18年最判において、より明確な形で現れることになる。

平成18年最判は、納税者以外の者が税理士である場合について、次のとおり判示し(下線・【】内の記載筆者)、隠蔽・仮装の行為主体問題に関する「一般論」(川神裕「判解」最判解(平成18年度(上))579頁、600頁)を述べた。

納税者が税理士に納税申告の手続を委任した場合についていえば、納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができ【ⓐ】、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ【ⓑ】、それに基づいて過少申告がされた【Ⓒ】ときには、当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。他方、当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで、当然に当該税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。

この判示は同視要件をⓐ~Ⓒの要件として個別具体化したものと解されるが(Ⓒは隠蔽・仮装の行為主体問題固有の要件ではないが。神山・前掲「判批」1148-1149頁も参照)、そのうちⓐで認識必要説の立場を明確にし、かつ、ⓑで(関係性理論を前提とする)帰責性理論に基づき納税者本人の防止措置の期待可能性を要件とする旨を説示することによって、平成17年最判で示された最高裁の態度を「一般論」としてより明確にし、もって同視要件を厳格化したものと解される。

もっとも、最高裁が隠蔽・仮装の行為主体問題に関して納税者本人の主観的要素ないし主観的側面を重視する態度を示すに当たって、何ら制約なしにそのような態度を示したものとは解されない。このことは、平成18年最判が前掲判示の中で税理士の選任・監督責任の問題をⓑの要件と明確に区別していることからも明らかである。また、そもそも、認識必要説については次のような「疑問」(小貫・前掲論文199頁)が指摘されてきたところであり、それらが一定の合理性をもつと考えられることから、最高裁もそれらを無視したものとは解されないのである。

①重加算税は行政上の措置であって、刑罰のような非難的要素を含むものではないから(最判昭45.9.11刑集24巻10号1333頁)、主観的要素は必ずしも要件とする必要はなく、②通則法68条1項は、・・・・・・、納税者自身による隠ぺい・仮装行為のみを予定しているものではないので、行為者と納税者を主観で結びつけ共犯性まで要求するものではないと解することも可能であるし、③納税秩序を維持する観点からは、納税者の知・不知にかかわらず、その行為を価値的に同視すべき場合があり、主観的要件を設定すると、重加算税の適用範囲を限定しすぎ、妥当な結論を得ることができず、また④隠ぺい・仮装行為は納税者と特別な関係にある者によって行われるから、課税庁が右認識を立証することは容易でなく、課税庁にこれを強いることは重加算税の賦課実務の円滑を阻害する。

 

Ⅳ おわりに

今回は、重加算税の賦課要件に関する隠蔽・仮装の行為主体問題について、判例による同視要件の形成を検討した。同視要件は、当初は、重加算税制度に関する目的論的解釈と制度機能不全防止論によって、認識不要説を前提にして形成されたが、後に最高裁において、目的論的解釈が「純化」されるとともに、認識必要説の立場が採用されることによって、厳格化された。

同視要件のこのような形成過程は、判例における重加算税賦課判断の「主観化」の傾向と無関係ではないように思われる。ただし、重加算税賦課判断の「主観化」は、前回みたように、いわゆるつまみ申告の場合には厳しい批判を受けたところであるが、隠蔽・仮装の行為主体問題に関しては、むしろ認識不要説に基づく重加算税賦課の範囲の拡大を制限する考え方として肯定的に評価されているように思われる。

重加算税は刑罰ではないものの、過少申告加算税に比して「主観的責任の追及という意味での制裁的な要素」(平成18年最判のうち4月20日判決)が強い以上、重加算税賦課判断の「主観化」は、確かに、隠蔽・仮装の行為主体問題に関しては一定の合理性をもつ考え方であろうが、ただ、認識必要説について前記のような「疑問」がある以上、厳格かつ慎重に検討・適用していくべきであろう。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

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税法基本判例

【第33回】

「重加算税に関する隠蔽・仮装行為主体問題と賦課判断の主観化の意義」

-重加算税判例における納税者以外の者との「同視思考」の正当化と「同視要件」の厳格化-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回は、重加算税の賦課要件(税通68条1項)のうち「隠蔽・仮装」要件の解釈適用をいわゆるつまみ申告に関して検討したが、今回は、隠蔽・仮装の行為主体要件としての「納税者」要件の解釈適用を、納税者本人以外の者が隠蔽・仮装を行った場合に関して、検討することにする。

この問題について筆者は以前「隠ぺい・仮装の行為主体問題」として検討したことがあるが(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)940頁[初出・2017年]。「隠ぺい」は当時の法文によった)、今回はその検討を基本的にベースにしながらその後考察したところも踏まえて、納税者以外の者が隠蔽・仮装を行った場合における納税者本人に対する重加算税賦課の問題を検討することにする。

 

Ⅱ 判例による「同視要件」の形成

隠蔽・仮装の行為主体問題に関するリーディング・ケースとして大阪地判昭和36年8月10日行集12巻8号1608頁(以下「昭和36年大阪地判」という)がしばしば引用される。この判決は次のとおり判示した(下線・【】の記載筆者)。

重加算税の制度の主眼は隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告又は無申告による納税義務違反の発生を防止し、もつて申告納税制度の信用を維持し、その基礎を擁護するところにあり【①】、納税義務者本人の刑事責任を追及するものではないと考えられる。従つて納税義務者本人の行為に問題を限定すべき合理的理由はなく、広くその関係者の行為を問題としても違法ではない。かえつて、納税義務者本人の行為に問題を限定しなければならないとすると、家族使用人等の従業者が経済活動又は所得申告等に関与することの決してまれではない実状に鑑みて重加算税の制度はその機能を十分に発揮しえない結果に陥ることはあきらかである【②】。(従業者の行為によるときは納税義務者の故意を立証することは容易でなく、発覚したときも従業者自身は重加算税の賦課を受けることはないから、納税義務者が従業者の行為に隠れて不当な利得をはかる虞がある。)したがつて、重加算税の制度上は従業者の行為は納税義務者本人の行為と同視せらるべく、従業者による所得の事実の隠ぺい又は仮装を納税者本人が知らずして右隠ぺい又は仮装したところに基き、所得の過少申告をし又は所得の申告をしなかつたときは、納税者が正当なる所得を申告すべき義務を怠つたものとして重加算税が賦課せられるものと解するのが相当である。

隠蔽・仮装の行為主体問題については、その後、下級審で数多くの判断が示され学説でも様々な議論がされたが(差し当たり前掲拙著944-947頁参照)、判例の立場は、最判平成18年4月20日民集60巻4号1611頁及び最判平成18年4月25日民集60巻4号1728頁(両判決を以下では「平成18年最判」という)の次の判示(両判決の判示は次の限りで同じである。下線・【】の記載筆者)で確立された。

国税通則法68条1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである【①】。

同項は、「納税者が・・・隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、隠ぺいし、又は仮装する行為(以下「隠ぺい仮装行為」という。)の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠ぺい仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし、納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる【②】。

昭和36年大阪地判と平成18年最判は、判断枠組みの定立に当たって、基本的には同じ論理構成を採用したものと解される。その論理構成は次のようなものである。すなわち、隠蔽・仮装の行為主体は納税者本人に限定されないという解釈を重加算税制度の趣旨・目的(①)から導き出すという目的論的解釈を基本に据えながら、その導出過程に弊害防止論の観点(②)を織り込むことによって、納税者以外の者の行為を納税者本人の行為と「同視」することができるという考え方(以下では「同視思考」という)を構想し、同視思考によって上記目的論的解釈の結果を正当化する、というような論理構成である。

この論理構成にいう「弊害防止論」は、隠蔽・仮装の行為主体は納税者本人に限定されるという解釈を採用した場合に生ずる弊害を防止しようとする考え方であるが、その意味内容は、昭和36年大阪地判と平成18年最判とで異なる。

昭和36年大阪地判における弊害防止論は、前掲判示中の下線部(②)で説示されているように、納税申告等の「実状」に関する認識に基づく制度機能不全防止論である。制度機能不全防止論は、同視思考の動機やそれに基づく立法論の論拠とはなり得るとしても、解釈論において同視思考を規範化しそれに基づく要件(同視要件)を正当化する根拠としては、不十分かつ薄弱であるといわざるを得ない。

しかも昭和36年大阪地判が、納税申告に係る他者の隠蔽・仮装の事実について、「[納税者本人が]本件確定申告に当り右事実を知つていたことを肯定するに足る証拠はない」と認定しつつ、その事実に関する納税者本人の認識を不要とする立場(以下「認識不要説」という)を前提にして示した判断であったこと(次のⅢでみるように、この点でも平成18年最判と異なる)とも相俟って、同判決の同視思考は、隠蔽・仮装行為主体の範囲を、したがって重加算税賦課の範囲を、無制限に拡大するいわば「無差別爆撃的な『同視』」(須貝脩一「判批」シュトイエル6号(1962年)45頁、48頁)をもたらすものとして、厳しく批判されたのである。

にもかかわらず、その後も、認識不要説が「多数説」(小貫芳信「連載課税訴訟研究 附帯税をめぐる訴訟(1)~重加算税の賦課要件を中心として」税理38巻14号(1995年)198頁、199頁)であった。ただ、学説判例においては、同視要件の正当化をめぐって様々な議論がされてきた。その議論の詳細にはここでは立ち入らないが、そこでの理論構成は、㋐「関係性理論」(納税者本人と隠蔽・仮装行為者との一定の事実上の関係又は法的な関係を根拠にして同視要件を正当化する理論構成)、㋑「帰責性理論」(関係性理論を前提にしながら、納税者本人の有責性によって同視要件に対して更なる根拠及び制限を付与・付加しようとする理論構成)及び㋒「個別具体的判断理論」(関係性理論や帰責性理論と同じレベルでの「理論構成」とはいえないが、それらの理論構成を採用する種々の見解で考慮されている要素も含め「同視することを正当化するに足りる個別具体的な特殊事情」(田中治「判批」シュトイエル365号(1992年)1頁、11頁)の個別具体的検討が必要であるとする「理論構成」)という3つに整理することができる(詳しくは前掲拙著945-946頁参照)。

 

Ⅲ 「同視思考」の正当化と「同視要件」の厳格化

これに対して、平成18年最判における弊害防止論は、前掲判示中の下線部(②)で説示されているように、昭和36年大阪地判における制度機能不全防止論とは異なり、制度趣旨・目的没却防止論であり、その意味で、重加算税制度の趣旨・目的を考慮する目的論的解釈の枠内に収まりやすく、同視要件を正当化する根拠として説得力をもつものである。換言すれば、平成18年最判は昭和36年大阪地判に比べて目的論的解釈を「純化」したものといってもよかろう。

しかも、平成18年最判は、最高裁が隠蔽・仮装の行為主体問題について初めて判断を示した最判平成17年1月17日民集59巻1号28頁(以下「平成17年最判」という)を踏まえて、従来の裁判例における認識不要説の立場ではなく、認識必要説の立場に立つことによって、昭和36年大阪地判に対する前記の「無差別爆撃的な『同視』」というような厳しい批判を免れようとしたものと解される。

平成17年最判は、次のとおり判示し(下線筆者)、「意思の連絡」論を説いた。

前記事実関係によれば、A税理士は、本件土地の譲渡所得に関し、被上告人に対し、本件土地の買手の紹介料等を経費として記載したメモを示しながら、800万円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をしたが、被上告人は、上記紹介料を実際に出費していなかったし、出費した旨を同税理士に告げたこともなかったにもかかわらず、上記の説明を受けた上で、同税理士に対し、平成2年分の所得税の申告を委任し、税務代理の報酬5万円のほか、1800万円を交付したというのである。そうであるとすれば、被上告人は、A税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるから、特段の事情のない限り、被上告人は同税理士が本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、又は仮装することを容認していたと推認するのが相当である。原審が掲げる上記1の(1)の①及び②の事情だけによって、上記特段の事情があるということはできない。そうすると、被上告人が脱税を意図し、その意図に基づいて行動したとは認められないとした原審の認定には、経験則に違反する違法があるというべきである。

そして、本件において、被上告人とA税理士との間に本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、又は仮装することについて意思の連絡があったと認められるのであれば、本件は、国税通則法68条1項所定の重加算税の賦課の要件を充足するものというべきであるところ、記録によれば、A税理士においても、同税理士が本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、又は仮装することについて、被上告人がこれを容認しているとの認識を有していたことがうかがわれる。

この判示にいう「意思の連絡」は、税理士の隠蔽・仮装による税負担減少の企図に関する納税者本人の「了知」及び「容認」と当該税理士による納税者本人の「容認」の「認識」という双方の主観的要素によって、構成されるものと解される。平成17年最判は「意思の連絡」を、これらの主観的要素によって基礎づけ、もって「重加算税賦課の制限要素」(神山弘行「判批」法学協会雑誌125巻5号(2008年)1133頁、1153頁)としたものと解される。

もっとも、平成17年最判は、「国税通則法68条1項の解釈上、納税者以外の第三者による隠ぺい・仮装行為について、いかなる場合に納税者本人に対し重加算税を賦課し得るのかという一般論に立ち入ることなく、・・・・・・、同項の適用の前提となる事実についての原審の認定に経験則に違反する違法があるとして、原判決を破棄したものである。」(増田稔「判解」最判解民事篇(平成17年度(上))24頁、35頁。下線筆者)と解説されていることからすると、「意思の連絡」論は、隠蔽・仮装の行為主体問題に関する「一般論」ではなく、「重加算税の賦課において納税者本人の主観的側面を重視するという最高裁の態度」(神山・前掲「判批」1153頁)の現れと解すべきであろう。その態度は、次にみるように、平成18年最判において、より明確な形で現れることになる。

平成18年最判は、納税者以外の者が税理士である場合について、次のとおり判示し(下線・【】内の記載筆者)、隠蔽・仮装の行為主体問題に関する「一般論」(川神裕「判解」最判解(平成18年度(上))579頁、600頁)を述べた。

納税者が税理士に納税申告の手続を委任した場合についていえば、納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができ【ⓐ】、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ【ⓑ】、それに基づいて過少申告がされた【Ⓒ】ときには、当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。他方、当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで、当然に当該税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。

この判示は同視要件をⓐ~Ⓒの要件として個別具体化したものと解されるが(Ⓒは隠蔽・仮装の行為主体問題固有の要件ではないが。神山・前掲「判批」1148-1149頁も参照)、そのうちⓐで認識必要説の立場を明確にし、かつ、ⓑで(関係性理論を前提とする)帰責性理論に基づき納税者本人の防止措置の期待可能性を要件とする旨を説示することによって、平成17年最判で示された最高裁の態度を「一般論」としてより明確にし、もって同視要件を厳格化したものと解される。

もっとも、最高裁が隠蔽・仮装の行為主体問題に関して納税者本人の主観的要素ないし主観的側面を重視する態度を示すに当たって、何ら制約なしにそのような態度を示したものとは解されない。このことは、平成18年最判が前掲判示の中で税理士の選任・監督責任の問題をⓑの要件と明確に区別していることからも明らかである。また、そもそも、認識必要説については次のような「疑問」(小貫・前掲論文199頁)が指摘されてきたところであり、それらが一定の合理性をもつと考えられることから、最高裁もそれらを無視したものとは解されないのである。

①重加算税は行政上の措置であって、刑罰のような非難的要素を含むものではないから(最判昭45.9.11刑集24巻10号1333頁)、主観的要素は必ずしも要件とする必要はなく、②通則法68条1項は、・・・・・・、納税者自身による隠ぺい・仮装行為のみを予定しているものではないので、行為者と納税者を主観で結びつけ共犯性まで要求するものではないと解することも可能であるし、③納税秩序を維持する観点からは、納税者の知・不知にかかわらず、その行為を価値的に同視すべき場合があり、主観的要件を設定すると、重加算税の適用範囲を限定しすぎ、妥当な結論を得ることができず、また④隠ぺい・仮装行為は納税者と特別な関係にある者によって行われるから、課税庁が右認識を立証することは容易でなく、課税庁にこれを強いることは重加算税の賦課実務の円滑を阻害する。

 

Ⅳ おわりに

今回は、重加算税の賦課要件に関する隠蔽・仮装の行為主体問題について、判例による同視要件の形成を検討した。同視要件は、当初は、重加算税制度に関する目的論的解釈と制度機能不全防止論によって、認識不要説を前提にして形成されたが、後に最高裁において、目的論的解釈が「純化」されるとともに、認識必要説の立場が採用されることによって、厳格化された。

同視要件のこのような形成過程は、判例における重加算税賦課判断の「主観化」の傾向と無関係ではないように思われる。ただし、重加算税賦課判断の「主観化」は、前回みたように、いわゆるつまみ申告の場合には厳しい批判を受けたところであるが、隠蔽・仮装の行為主体問題に関しては、むしろ認識不要説に基づく重加算税賦課の範囲の拡大を制限する考え方として肯定的に評価されているように思われる。

重加算税は刑罰ではないものの、過少申告加算税に比して「主観的責任の追及という意味での制裁的な要素」(平成18年最判のうち4月20日判決)が強い以上、重加算税賦課判断の「主観化」は、確かに、隠蔽・仮装の行為主体問題に関しては一定の合理性をもつ考え方であろうが、ただ、認識必要説について前記のような「疑問」がある以上、厳格かつ慎重に検討・適用していくべきであろう。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

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