〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第12回】 「エスコ事件 -移転価格税制における推定課税- (地判平23.12.1、高判平25.3.14)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第7項(現行6項)~ 税理士 吉村 優 1 事実の概要 精密小型モーター等の販売、高性能モーター及び各種制御基板の設計・開発等を行う同族会社である原告Xは、従前、非関連者である製造業者Dからモーター等を購入して独立第三者に販売していた。平成11年12月以降、パチスロメーカー向けコインホッパー用モーターを、香港所在の外国法人であり、Xの国外関連者(租税特別措置法[平成16年法律第14号による改正前のもの]66条の4第1項)に該当するBから購入するようになった。 国税当局は平成14年4月頃からXに対する税務調査を実施し、XとDとの取引にBが介在するようになってから購入価格が2倍強に高騰したとの事実を把握した。同年6月以降Xの代表者らに対し価格高騰の理由説明を求めるとともに、Xに対し少なくともBの財務書類につき6回、本件取引の価格算定の根拠となった資料につき4回提示を求めたが、Xはこれらの資料の提示に応じなかった。 国税当局は、独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類又はその写しを遅滞なく提示又は提出しなかったとして租税特別措置法(以下「租特法」という)66条の4第7項(現行6項)に基づいて、独立企業間価格を推定して更正処分を行ったところ、Xがその取消しを求めた。 2 前提事実 原告XとBの全株式は原告代表者及びその親族によって保有されている。 〈図解①:モーターG・Iの取引の流れ〉 XはDから直接仕入れを行っていたが、平成11年12月からBが介在し、価格が2倍強に高騰している。 〈図解②:モーターKの取引の流れ〉 3 主たる争点 4 判旨 請求棄却。 (1) 租特法66条の4第7項「推定課税」の適用の可否(主たる争点①) まず、租特法66条の4第7項「推定課税」の適用の可否(主たる争点①)について、裁判所は次のとおり判示した。 (2) 租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たすか否か(主たる争点②) また、租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たすか否か(主たる争点②)について、裁判所は次のとおり判示した(下線は筆者挿入)。 ((その2)へ続く)
内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第1回】 「「報告の信頼性」の確保と内部統制の限界への対抗策」 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 ◇はじめに◇ 内部統制報告制度が我が国に導入され、今年で15年が経過しようとしている。その間、制度は財務報告の信頼性の向上に一定の成果を上げた一方、実効性の点で多くの教訓と反省ももたらした。 こうした状況を踏まえ、昨年末に企業会計審議会内部統制部会は、制度改正に向けた検討を行い、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」を公開し、各界の意見を広く求めた。 Ⅰ 改訂監査基準及び改訂実施基準の草案 内部統制部会の審議は、今後に向けた中長期的な検討課題を残しつつも、公開した草案で、主な改訂点と考え方が示された。草案による改訂点は、時代の経過により改善が求められる点、制度の運用により新たな課題として認識された点に対する対応や今後に向けた課題に関して広く言及している。 具体的には、内部統制の基本的枠組み、内部統制に係る評価と報告、更に内部統制に係る監査に及び、制度が直面した数多くの実務的な課題に対応している。最終的に改訂監査基準及び改訂実施基準は、令和6(2024)年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用される。 今回は、内部統制の基本的枠組みに関わる改訂案の中でも、内部統制の目的に関わる財務報告の信頼性と内部統制報告制度の限界に関する改訂のポイントを読み解く。 そして次回以降は、内部統制とガバナンスに関わるリスク管理体制、サイバーテロが増える中で重要性を増すIT統制、業務プロセスに関わる評価の範囲、更に内部統制監査に関わる改訂の意図について分析を加えたい。 Ⅱ 内部統制の基本的枠組みに関する改訂案のポイント 1 「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」へ 今回の改訂案では、内部統制報告制度は、あくまで「財務報告の信頼性」の確保が目的であることを強調する一方、制度の目的の1つである「財務報告の信頼性」を、「報告の信頼性」に改訂した。そして「報告の信頼性」を「組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む。) の信頼性を確保すること」と位置づけた。 報告の対象をこれまでの財務情報に限らず、非財務情報にまで広げた背景には、企業による非財務情報(例えば、IR活動報告書、CSR報告書や環境に対する取り組みを示す報告書等)の任意的な開示の趨勢が世界的に進んでいることや米国のCOSO報告書の改訂(※)を踏まえたことなどが挙げられる。 (※) 内部統制の基本的な枠組みを世界的に提供している米国ドレッドウェイ委員会支援組織委員会(COSO)は、2013年に内部統制の枠組みの改訂を行った。なかでも内部統制の目的を「財務報告」から「報告」に再定義し、内部統制の報告対象を広く非財務情報にまで広げている。 もはや財務情報だけに限っていては、ゴーイングコンサーンとしての企業活動のリスクを適切に把握することは、困難であるという認識に立ったといえる。では、組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む) の対象となる事項とは、いかなるものであろうか、想定される事項を実務に即して下図に示すことを試みた。第一義的には、財務報告の信頼性を確保することが今後も変わらず求められる一方で、それを適切に支援しかつ担保するため、これらの非財務情報に関する信頼性も広く求められることになる。ただ、こうした非財務情報が内部統制の評価や監査の範囲として、今後どこまで重視されるかは、今後の更なる金融庁の具体的な動きを見極める必要がありそうだ。 〈組織内及び組織の外部への報告(いずれも非財務情報を含む)事項の例〉 (注) 新たに報告の対象となることが想定される項目を色分けして表示 〈開示情報の分類〉 2 経営者による内部統制の無効化と内部統制の限界 内部統制の仕組みを構築し、適切な運用を求められる立場にありながら、経営者又は経営者以外の業務に携わる責任者により、内部統制の仕組みが無視、無効化される事件が、制度創設以来、数多く起きたことは、いまさら指摘するまでもない。内部統制報告書を見れば、経営層の不正や不適切な会計処理による重要な不備が、毎期のように報告されてきたことがわかる。今回の改訂ではこの無視、無効化の問題に対抗する仕組みづくりについて多くの言及があり、この問題が深刻に受け止められていることがよくわかる。 (1) 内部統制の限界とその追加的な対抗策 従来の制度は、経営者による無視、無効化を内部統制の限界として位置づけながらも、組織内に適切な内部統制が構築されていれば、相応の抑止効果があるというにとどめていたが、今回の改訂案では、以下に示す具体的な対策を追加し、無視や無効化に対する組織的な整備と対応の強化を求めた。実務的な観点では、以下に挙げられた項目のうち、①から⑤については、全社的な内部統制を構成する各評価項目の中でも統制環境において、とりわけ①②については各業務プロセスの運用面やキーコントロールの設計時において、それぞれ重点的な仕組みの整備と評価が求められることになろう。 (2) 内部統制に関わる取締役会、監査役等及び内部監査人の役割と責任 取締役会、監査役等及び内部監査人は、上記③④⑤に関わる無視、無効化の対応として、その役割と責任の重要性が強調されている。3者による互いの連携、情報共有の手続や経営者に対するモニタリングの仕組みを、具体的な制度として全社的な内部統制の文書(主に統制環境)に落とし込み、次に示す趣旨を制度や仕組みに反映させることが求められるであろう。 例えば、取締役会の役割と責任は、これまで「経営者による内部統制の整備及び運用に対しても監督責任を有している。」と述べるにとどまっていたが、今回の改訂案では「内部統制の整備及び運用に関して、経営者が不当な目的のために内部統制を無視ないし無効ならしめることに留意する必要がある。」として取締役会の監督責任について、更に具体的に踏み込んでいる。 次に、監査役等は会計や業務監査を行うことに加え、「内部統制の整備及び運用に関して、経営者が不当な目的のために内部統制を無視ないし無効ならしめることに留意することが重要である。監査役等は、その役割・責務を実効的に果たすために、内部監査人や監査人等と連携し、能動的に情報を入手することが重要である。」として、内部統制の無視や無効化に配慮しつつ、内部監査人や監査人等との連携や積極的な情報の入手が求められている。 更に内部監査人には、「熟達した専門的能力と専門職としての正当な注意をもって職責を全うすることが求められ」、専門的な能力の発揮とそれに伴う正当な注意義務が強調された。他方で、「取締役会及び監査役等への報告経路を確保するとともに、必要に応じて、取締役会及び監査役等から指示を受けることが適切である。」とされ、3者間を結ぶ円滑な情報共有の役割と責任が求められている。 (3) 不正リスクとその対応について言及 内部統制の評価対象となるリスクには、不正リスクとその評価が含まれることが新たに改訂案に明示された。これは、内部統制報告制度が長らく、不正や不適切な会計処理により、その有効性を損なわれてきた経緯と決して無関係ではない。「不正に関する、動機とプレッシャー、機会、姿勢と正当化について考慮することが重要である。」として、いわゆる不正のトライアングルの視点を示した。更にリスクを具体的に検討する際には「様々な不正及び違法行為の結果発生し得る不適切な報告、資産の流用及び汚職について検討が必要である。」とし、不正の具体的な態様に言及することで、不正に対抗するコントロールの構築を図るよう、実務の現場に対して強い注意を喚起したと解釈できる。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《金銭債権-手形債権・電子記録債権》編 【第1回】 「手形債権」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 2008年12月から施行されている電子記録債権法に基づいて、従来の紙媒体である手形債権だけでなく、電子記録債権も手形債権の代替として機能しており、中小企業においても、特に大企業の取引先との決済から徐々に普及してきています。電子記録債権の会計処理は、手形債権に準じて取り扱うことが適当です。そこで、【第1回】は手形債権の会計処理を確認します。 【設例1】 当社(12月31日決算)は、当期(X1年1月1日~X1年12月31日)に、次の取引を行いました。 (1) X1年10月20日に、製品2,000,000円(税抜金額、消費税10%)を甲社に掛けで販売しました。 (2) X1年11月30日に(1)の代金について、甲社が振り出した約束手形2,200,000円(支払期日X2年2月28日)を受け取りました。 (3) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引や裏書譲渡しない場合 (3-1) 支払期日X2年2月28日に、(2)の約束手形2,200,000円が決済(甲社の銀行口座から引き落とされて当社の当座預金に2,200,000円振込)されました。 (4) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引する場合 (4-1) X1年12月15日に、(2)の約束手形を当社の取引銀行に持ち込み、割引料80,000円を差し引いた2,120,000円が当社の当座預金に入金されました。 (4-2) X1年12月31日決算日。 (4-3) その後、支払期日X2年2月28日に、(2)の約束手形2,200,000円が決済されました。 (5) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に裏書譲渡する場合 (5-1) 当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円と相殺するために、X1年12月20日に、(2)の約束手形2,200,000円を裏書譲渡しました。 (5-2) X1年12月31日決算日。 (5-3) その後、支払期日X2年2月28日に、(2)の約束手形2,200,000円が決済されました。 1 会計処理 上記(1)~(5-3)の仕訳等は、次のとおりです。 (1) (2) (3) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引や裏書譲渡しない場合 (3-1) (4) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引する場合 (4―1) (4-2) 仕訳なし。受取手形割引高2,200,000円を決算書に注記。 (4-3) 仕訳なし。 (5) 当社が(2)の約束手形を支払期日前に裏書譲渡する場合 (5-1) 当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円を(2)の手形債権と相殺することになるので、仕訳は下記のとおり。 (5-2) 仕訳なし。受取手形裏書譲渡高2,200,000円を決算書に注記。 (5-3) 仕訳なし。 〇約束手形の振出 上記(2)について、手形債権の場合、販売先の甲社が振出人として紙媒体の手形を取引銀行から購入した所定の手形用紙を用いて作成して振り出し、当社はその紙媒体の約束手形を受け取ります。 貸借対照表上、営業取引により発生した債権(又は債務)については、「受取手形(又は支払手形)」に表示します。 〇約束手形の割引 上記(4)について、手形債権の場合、販売先から受け取った紙媒体の約束手形を当社の取引銀行に持ち込み、所定の割引料を差し引いて支払期日を待たずに早期に現金化します。割引料は、「手形売却損」勘定を用います。 〇約束手形の裏書譲渡 上記(5)について、手形債権の場合、当社の支払先への支払手段の1つとして、販売先から受け取った紙媒体の手形を、その用紙の裏に譲渡先(この設例では乙社)を記入して、引き渡します。この手形債権2,200,000円の譲渡により、当社がこの債権を対価とした相殺取引として、乙社に対する買掛金2,200,000円を支払ったことになります。 * * * 上記(4)と(5)は、いずれも、紙媒体の手形債権の割引や裏書譲渡が行われた後に、約束手形の振出人(この設例では当社販売先甲社)が支払期日X2年2月28日時点で支払不能になっていれば、割引や裏書譲渡を行った者(この設例では当社)は債権者(この設例(4)では当社の割引先銀行、設例(5)では当社の仕入先乙社)へ2,200,000円の支払をしなければならず、条件付き遡及義務を負います。この設例では、当期末(X1年12月31日)現在、手形債権の割引や譲渡が行われた後であり、かつ、約束手形の支払期日(X2年2月28日)前であるので、当社は条件付き遡及義務を負っています。 「手形遡及債務」は、「貸借対照表等に関する注記」の1つ(会社計算規則103)です。会社計算規則では、会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)には、「貸借対照表等に関する注記」を表示することは要しないとされています(同規則98②)。しかし、中小企業会計指針では、受取手形割引額及び受取手形譲渡額は、注記を要求されていない場合においても、それぞれ注記することが望ましいとされています(中小企業会計指針15(4))。 2 当期(X1年12月31日決算)における決算書の表示 当期(X1年12月31日決算)における決算書の表示は、他に取引がないと仮定すると、次のとおりです。 ➤上記(3)の「当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引や裏書譲渡しない場合」 〈当期末貸借対照表〉 ➤上記(4)の「当社が(2)の約束手形を支払期日前に割引する場合」 〈損益計算書〉 〈個別注記表〉 ➤上記(5)の「当社が(2)の約束手形を支払期日前に裏書譲渡する場合」 〈個別注記表〉 (了)
2023年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅴ 会社法施行規則等の改正 2022年12月26日に、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(法務省令第43号)が公布された。 改正点は、以下のとおりである。 1 電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる事項の対象の拡大 振替株式を発行する上場会社等は、2023年3月1日以降に開催される株主総会から株主総会資料を電子的に提供する制度(電子提供制度)の適用が義務付けられている(会社法325の2、社債、株式等の振替に関する法律159の2①)。 電子提供制度でも、書面による提供を希望する株主は、電子提供措置の対象となる事項(電子提供措置事項)を記載した書面(電子提供措置事項記載書面)の交付を請求することができる。ただし、株主総会資料のうち一部の事項は、定款の定めにより電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる(会社法325の5)。 今回の改正では、電子提供措置事項記載書面に記載すべき(省略できない)事項の対象が、以下のとおり縮小されている。言い換えると、電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる事項の対象が拡大した。 〈主な電子提供措置事項記載書面に記載すべき(省略できない)事項〉 (※) 連結計算書類に対する会計監査人による会計監査報告、監査役による監査報告は、従来から、電子提供措置事項に該当しない(「「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方1③(ウ))。 2 ウェブ開示によるみなし提供制度の対象の拡大 ウェブ開示によるみなし提供制度とは、株主総会資料の一部を、ウェブサイトに掲載し、そのアドレス等を株主に通知することにより、当該情報が株主に提供されたものとみなす制度である(会社法施行規則94①、133、会社計算規則133)。 今回の改正で、ウェブ開示によるみなし提供制度についても、以下のとおり、対象が拡大されている。 3 適用時期 公布日(2022年12月26日)から施行する。ただし、ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正(上記2)は、2023年3月1日から施行する。 Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正 金融庁は、2023年1月31日に、以下の改正を公表した。 本改正の主な内容は、以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 1 サステナビリティ全般に関する事項(人的資本を含む)の開示 (1) 開示内容 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示内容は、以下のとおりである(開示府令第二号様式 記載上の注意(30-2)、第三号様式)。 (※1) 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示に当たっては、連結ベースの開示が必要となる。 (※2) 有価証券報告書で記載する内容を全て、参照先に記載することはできない。参照先は、あくまでも補完情報であるため、重要な情報は、有価証券報告書に記載する必要がある(下記(6)参照)。 (2) 開示対象 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示対象は、開示府令で具体的に定められていないが、記述原則別添(注1)に、以下の例示が示されている(記述原則別添(注1)、コメント対応No.109)。開示府令では具体的に定められていないため、各社で以下や他社事例等を参考に、何をサステナビリティとして開示することが投資家にとって有用であるかを検討することが必要である。 なお、温室効果ガス(GHG)排出量については、投資家と企業の建設的な対話に資する有効な指標となっている状況を鑑み、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特に、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のGHG排出量について、積極的に開示することが期待される(記述原則別添(注2))。 (3) 開示に当たっての基本事項 「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに合わせて、以下の4つの構成要素に基づき記載する。 「ガバナンス」と「リスク管理」の記載は必須で、「戦略」と「指標及び目標」については、重要なものについて開示する(重要性については、下記(4)参照)。 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示を行うことが期待される(記述原則別添)。 ただ、「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しない場合における判断やその根拠は、必ず開示しなければならない事項ではない。その上で、投資家に有用な情報を提供する観点から、例えば、各企業がその事業環境や事業内容を踏まえて、どのような検討を行い、重要性がないと判断するに至ったのか、その検討過程や結論を具体的に記載することが考えられる(コメント対応No.99-100)。 一方、人的資本については、他のサステナビリティ項目とは異なり、「戦略」並びに「指標及び目標」(以下、(a)(b))について、重要性に関係なく、全ての会社が必ず開示する。 (4) 重要性の判断基準 サステナビリティ関連開示において、開示に当たっての重要性の判断基準は、開示府令で定められていない。 記述情報の開示に関する原則(以下、「記述原則」という)において、以下の考え方(記述原則2-2)が示されているため、参考にすることができる。 なお、重要性の考え方について、将来、記述原則の改訂を行うことが想定されている(記述原則別添)。 (5) 開示に当たっての留意事項 開示に当たっての留意事項として、以下が挙げられる。 また、開示に当たっては、他社事例を参考にすることが有用である(なお、サステナビリティの取組みは各社で異なるため、真似ることは適切ではない)。そこで、金融庁から2023年1月31日に公表された「記述情報の開示の好事例集2022」が参考になる。 (6) 参照上の留意事項 参照上の留意事項として、以下が挙げられる。 〈参照可能な他の書類等(例示)〉 2 多様性に関する開示 (1) 開示内容 多様性に関する開示として、【従業員の状況】に以下の指標を開示する(開示府令第二号様式 記載上の注意(29))。 (※) 女性活躍推進法は、既に公表が義務付けられている。一方、育児・介護休業法は、2023年4月1日から指標の公表が義務付けられる(詳細は、下記(2)参照)。 ポイントは、女性活躍推進法及び育児・介護休業法により開示が求められるかどうかを、連結グループ内の各社ごとに判定し、開示が求められる会社は、連結グループ内の財務的重要性に限らず開示が必須ということである。 (2) 女性活躍推進法等 女性活躍推進法、育児・介護休業法により、以下の多様性の指標について、ホームページ等での開示が求められている。 ① 女性活躍推進法 女性活躍促進法は、既に適用されている。労働者301人以上の事業者は、(ⅰ)「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」8項目(下記(ⅰ)①から⑧)から1項目を選択し、また、(ⅱ)「職業生活と家庭生活との両立」7項目(下記(ⅱ)①から⑦)から1項目を選択し、選択したそれぞれを公表する義務がある。また、これに加えて、労働者301人以上の事業者は、男女間の賃金格差(下記(ⅰ)⑨)について、2022年7月8日の施行後に最初に終了する事業年度から実績を公表する義務がある。 労働者101人以上300人以下の事業主は、上記(ⅰ)の9項目、(ⅱ)の7項目の合計16項目から任意の1項目以上の公表が義務付けられている。 ② 育児・介護休業法 育児・介護休業法では、2023年4月1日から、労働者1,000人超の事業主は公表日の属する事業年度の直前の事業年度の男性労働者の育児休業等の取得状況の公表が義務付けられている。 (3) 開示に当たっての留意事項 開示に当たっての留意事項として、以下が挙げられる。 3 コーポレート・ガバナンスに関する開示 〇 開示内容 「コーポレートガバナンスの状況等」において、開示の追加等が求められている(開示府令第二号様式 記載上の注意(54)(56)(58))。 (※1) 「サステナビリティに関する考え方及び取組」と同様に、「コーポレート・ガバナンスの概要」においても、開示府令に定める内容を有価証券報告書に記載した上で、記載事項を補完する詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができる(開示ガ5-16-4)。 (※2) 「開催頻度」とは、最近事業年度における実績である(コメント対応No.296)。 (※3) 「具体的な検討内容」として、取締役会等における全ての議案を記載することは必須ではなく、有価証券報告書の利用者である投資家にとってわかりやすいよう要約するなどして記載することが考えられる(コメント対応No.298)。 4 将来情報に関する虚偽記載の考え方の明確化 今回の改正では、有価証券報告書に記載する将来情報に関する虚偽記載の考え方が、以下のとおり明確化された。 5 適用時期 適用時期は、以下のとおりである。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第42回】 「連結PLでよく起こる単純ミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 ここはミスが起こりやすい 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例42-1】 当期純利益数値の入力ミス。 (出所) キーウェアソリューションズ株式会社「第57回定時株主総会招集ご通知(訂正前のもの)」 【事例42-1】は、連結損益計算書のミス事例です。具体的には、連結損益計算書の下の方にある「当期純利益」の入力ミスです。 この事例の会社は、2022年5月27日に本事例を含む定時株主総会招集ご通知を公表し(招集通知の日付は2022年6月8日)、2022年6月16日付で当該誤記載の訂正を公表しています。 「556,045」を「566,045」と誤入力してしまったもので、明らかに単純なミスです。このような数字の並び順で入力ミスが起こる例は、本連載でもすでに紹介しています(【第22回】の【事例22-2】)。誰しも身に覚えがあることでしょう。 しかし、今回着目していただきたいのは、数字の並び順ではなく、ミスが起きた場所の方です。連結損益計算書の当期純利益であり、この場所はミスが起こりやすいと考えられるのです。 2 別の会社で同じミス 連結損益計算書の当期純利益でミスが起きた例をもう1つ紹介しておきます。 【事例42-2】 当期純利益の欄に法人税等の合計を記載してしまったミス。 (出所) 株式会社エンプラス「第61回定時株主総会招集ご通知」 【事例42-2】は、当期純利益の欄に「法人税、住民税及び事業税」と「法人税等調整額」の合計額を記載してしまったというミスです。この事例の会社は、2022年6月3日付で本事例を含む定時株主総会招集ご通知を公表し、2022年6月10日付で当該誤記載の訂正を公表しています。 一番下の「親会社株主に帰属する当期純利益」は正しいので、そこに至る計算過程の表示の仕方をうっかり間違ってしまったのかもしれません。いずれにしても、連結損益計算書の当期純利益で間違ってしまったことは確かです。 以上、わずか2事例ですが、別の会社で同じ箇所の間違いが起きたことは注目に値します。同様の事例を過去にさかのぼって集計したことはありませんが、筆者の経験的には、ここは間違いやすい箇所だと認識しています。 3 ここでミスが起こる理由は? 連結損益計算書の当期純利益で単純なミスが起こりやすい理由を考えてみたいと思います。その理由は2つ思い当たります。 第一は、連結損益計算書の当期純利益は関心の低い項目だということです。【事例42-2】を見るとわかるとおり、当期純利益は連結損益計算書の末尾の項目ではありません。末尾の項目は「親会社株主に帰属する当期純利益」であり、当期純利益はそこに至る途中段階の利益にすぎないのです。厳密に表現するなら、税引後かつ非支配株主に帰属する当期純利益控除前の利益といえます。 また、【事例42-1】の会社のように、非支配株主が存在しない連結グループの場合は、当期純利益は「親会社株主に帰属する当期純利益」と同額になります。つまり、当期純利益を算定する意味合いが薄れてきます。 こうしたことから、連結損益計算書の当期純利益は経営の場において取り上げられることが少なく、できあがった決算書をチェックする際も関心が向かないのかもしれません。 第二は、クロスチェックできる相手箇所が基本的にないことです。クロスチェックについては【第36回】を参照いただきたいですが、要は、連結損益計算書の当期純利益の数値が、株主総会招集通知の他の箇所に掲載されていることがほとんどないということです。これは第一の理由で述べたことと関係していますが、関心の低い項目なので、事業報告等で言及されることがなく、クロスチェックする相手箇所がないのです。したがって、複数の経路で数値のチェックをする機会がなく、ミスを見逃しやすいというわけです。 では、ここで起こるミスを公表前に発見するにはどうしたらよいのでしょうか。関心の低い項目とはいえ、決算書本体の数字なので、ミスは開示書類として致命的です。 確実にいえることは、最低でも計算チェックは行うべきということです。上記2つの事例はいずれも計算チェックで発見可能です。あとは、「この箇所は間違いやすい」ということを頭に入れた上で、作成・チェックにあたっていくことです。人間の限られた注意力を間違いやすい箇所に集中して投入することで、ミスを未然に防ぐことができます。 〈今回のまとめ〉 単純なミスが起こりやすい箇所を頭に入れて作業すると、ミスに気付く可能性が高まります。 (了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第9回】 「会計方針の変更に関する注記」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における会計方針の変更に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表・個別注記表ともに、会計方針の変更の内容、変更の理由等を注記する必要があります。 なお、連結注記表における注記と個別注記表における注記が同一であるときでも、会計方針の変更の内容、変更の理由等、個別注記表で記載を省略できない項目があるため、注意が必要です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】 2 注記事項の解説 (1) 会計方針の変更に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき会計方針の変更に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第102条の2第1項)。 (①~⑥の付番は筆者加筆) (※1) 個別注記表に注記すべき事項が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合において、個別注記表にその旨を注記するときは、個別注記表における当該事項の注記を要しません。 (※2) 当該会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難なとき(例:減価償却方法を変更したとき)は、当該事項の注記は要しません。 (※3) 会計監査人設置会社以外の株式会社及び持分会社にあっては、当該事項の注記を省略することができます。 (2) 注記事項の解説 原則として、一度適用した会計方針は毎期継続して適用する必要がありますが、会計基準等の改正に伴う場合や自発的に会計方針を変更し、その変更に正当な理由がある場合には会計方針を変更することが認められます。 そのときに、会計方針の変更によって計算書類にどのような影響があったかを利用者に示すため、一定の内容の注記が求められます。 これまでの連載で説明した注記では、連結注記表と同一の内容である旨を記載することで個別注記表での詳細な記載を省略できる事項が多かったですが、会計方針の変更に関する注記では、連結注記表と同一の内容であっても個別注記表で詳細な記載を省略できない事項があるので注意が必要です。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [日本曹達株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※日本曹達株式会社「第153回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示情報」9頁より抜粋。 [ヴィスコ・テクノロジーズ株式会社 2021年3月期 連結注記表] ※ヴィスコ・テクノロジーズ株式会社「第18回定時株主総会招集ご通知」26頁より抜粋。 [ヤマトホールディングス株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※ヤマトホールディングス株式会社「第157期定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」4頁より抜粋。 * * * 次回の第10回は、「会計上の見積りの変更に関する注記」をテーマに解説します。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例81】 フジテック株式会社 「臨時株主総会決議の結果等に関するお知らせ」 (2023.2.24) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、フジテック株式会社(以下「フジテック」という)が2023年2月24日に開示した「臨時株主総会決議の結果等に関するお知らせ」である。タイトルどおり同日開催された臨時株主総会の決議結果が記載されているのだが、それだけではない。タイトルをよく見ると、「臨時株主総会決議の結果」の後に「等」が付されている。この「等」は何かというと、2023年2月21日に開示された「社外取締役辞任及び当社臨時株主総会付議議案の一部撤回に関するお知らせ」の一部訂正である。 まず臨時株主総会の決議結果の方は、Oasis Investments Ⅱ Master Fund Ltd.及びOasis Japan Strategic Fund Ltd.(以下「オアシス」という)により招集請求された臨時株主総会において(2022年12月6日に「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」を開示)、フジテックの元々いた社外取締役5名のうち3名が解任され、オアシスが提案した社外取締役4名が選任されたという内容である。 タイトルからこの臨時株主総会の決議結果が主たる内容かと思われるのだが、「社外取締役辞任及び当社臨時株主総会付議議案の一部撤回に関するお知らせ」の一部訂正の方が、フジテックの企業実態をよく表しているように思われるので、本稿ではそちらを取り扱うこととする。 2 一部訂正の内容 「社外取締役辞任及び当社臨時株主総会付議議案の一部撤回に関するお知らせ」には、「辞任の理由」として次のように記載されていた。 今回の開示では、下線を付した「一身上の都合により」を「ガバナンスに関する考え方が当社とは大きく異なるため」に訂正している。2023年2月24日開催の臨時株主総会では引頭麻実氏(以下「引頭氏」という)も解任の対象とされていたため、2月21日の開示を見た際は、「解任されるのは格好悪いので、その前に辞任しておこうということかな」と思っていたのだが、そうではなかったようである。「訂正の理由」の記載は次のとおりである。 おそらく、2月21日の開示の後、引頭氏がフジテックに対して訂正するよう要求したのだろう。辞任の理由とし、また、あえて開示の訂正を求めていることから、引頭氏は、フジテックの企業統治(コーポレートガバナンス)に関する考え方に対して強い違和感を抱いていたように思われる。引頭氏とフジテックの間で企業統治に関する考え方がどのように異なっていたのだろうか。 3 ガバナンス先進企業? フジテックは、2023年1月20日に開示した「臨時株主総会の付議議案及び株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」において(この中でフジテック取締役会は、オアシスが提案したすべての議案に反対している)、取締役9名のうち6名が社外取締役であり、それはTOPIX構成銘柄比上位約3.8%であることや、取締役9名のうち2名が女性取締役であり、それはTOPIX構成銘柄比上位約13.3%であることなどをあげて、自社を「日本におけるガバナンス先進企業」であるとしている。 どうもフジテックは、社外取締役が多いほど企業統治が進んでいると考えているようなのだが、その考え方は適切なのだろうか。確かにコーポレートガバナンス・コードの「原則4-8.独立社外取締役の有効な活用」では、次のように定められている。 しかし、これは、社外取締役の数が少ないと、その影響力を期待できないので、一定数必要だという意図で、多ければ多いほど良いということではないと思われる。同社は監査役設置会社であり、監査役設置会社の場合、取締役会が重要な業務執行を決定する(会社法362条4項)。社内取締役が3名、社外取締役がその倍の6名という構成で、同社の意思決定に支障が生じないのだろうか。同社の事業を熟知しているはずの社内取締役ではなく、必ずしも熟知しているとは限らない社外取締役の判断が優先されてしまう場合があり得る(指名委員会等設置会社の場合は、通常、取締役の大半を社外取締役にしても、執行役は社内出身者で固める)。同社の取締役の構成はバランスを欠いているように思われる。 なお、2名の女性取締役はいずれも社外取締役であり、社内取締役は全員男性である。 4 企業統治上問題ないとは? 臨時株主総会へと至る、フジテック取締役会とオアシスの対立は、オアシスが、フジテックと同社代表取締役の内山高一氏(当時。以下「内山氏」という)及びその関係会社との間で為されている関連当事者取引などについて企業統治上問題があると指摘したことから始まっている。その指摘に対して、フジテックは、1名の弁護士による調査を受けたうえで2022年5月30日に「当社株主による主張に対する取締役会決議に関するお知らせ」を開示したのだが、それには次のような記載がある(5月29日に決議したのなら、30日ではなく29日に開示すべきだが)。 その開示には弁護士による調査結果が添付されているが、そこで示されているのは、法的に問題ないということだけである。法的に問題ないということと、企業統治上問題ないということとは、当然イコールではない。フジテック取締役会は、同社の「取締役会、社外取締役のみによる会議体その他で重ねてきた審議、検討の結果を踏まえ」、「企業統治上も問題ない」と判断している。同社の企業統治が機能しているか否かが問われているのに、それを同社内部で判断しており、これは、患者が医師に診てもらわず、自身で病状を判断するようなものである。同社は企業統治について誤解しているのではないだろうか。 その後、同社は、2022年6月17日「第三者委員会による追加調査実施に関する取締役会決議のお知らせ」を開示し(2022年8月10日に「第三者委員会に関するお知らせ」において第三者委員会の構成を開示)、初めに次のように記載している。5月30日の開示に対して多くの疑念の声が出たのだろう。 5 仏作って魂入れず? フジテックは、企業統治について「形さえ整えれば」と捉えているように見える。引頭氏にも、考え方が異なるというより、同社は企業統治の意味を理解していないように見えたのではないだろうか。ただ、同社のような日本の上場会社は、ほかにもたくさんあるように思われる。 なお、同社は2022年6月23日に「第75期定時株主総会付議議案の一部撤回のお知らせ」を開示し、同日開催の定時株主総会へ付議予定だった内山氏の取締役選任議案を撤回している(同日併せて「代表取締役の異動に関するお知らせ」において、内山氏が代表権のない会長へ就任することを開示)。その「撤回する理由」の記載は次のとおりである(下線は筆者による)。 内山氏は、第三者委員会から問題ないというお墨付きをもらって、正々堂々と代表取締役に返り咲いてやろうと考えているのかもしれない。第三者委員会の結論がどうなるか、本稿執筆時点では不明だが、仮に問題ないという結論を得られたとしても、オアシスが提案した者が社外取締役に入ったため、揉めに揉めることになるだろう。 (了)
《速報解説》 東証、有価証券上場規程等の一部を改正 ~スタートアップの新規上場手段多様化を図る観点から、IPOに関する上場制度等を見直し~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年3月10日、東京証券取引所は、「IPOに関する上場制度等の見直しに係る有価証券上場規程等の一部改正について」を公表した。 東京証券取引所は、2022年12月16日から、上記の見直しに関する要綱を公表し、意見募集を行っていた。パブリック・コメントの結果についても公表されている。 これは、2022年8月24日の「IPO等に関する見直しの方針について」において公表済みの内容を具体化したものであり、スタートアップにおける新規上場手段の多様化を図る観点から、新規上場プロセスの円滑化やダイレクトリスティングの環境整備など、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」(2022年6月7日閣議決定)等に掲げられた事項も含めて、所要の上場制度等の見直しを行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 新規上場プロセスの円滑化 1 新規上場申請書類 2 形式要件 3 上場審査 新規上場申請者は、定時株主総会の到来(決算の確定)にかかわらず、新規上場申請日から1年の間は、改めて新規上場申請を行わず上場審査を継続できる。 4 初値形成 直接上場銘柄の上場日の売買において成行売呼値及び成行買呼値を禁止する。 Ⅲ ダイレクトリスティングの導入 ダイレクトリスティング(上場する際に、新株の発行を行わないで、既存の株式だけを上場する方法)について、グロース市場への新規上場申請者は、新規上場時において時価総額が250億円以上となることが見込まれる場合には、新規上場に際して公募の実施を求めない。 Ⅳ 純資産の額に関する上場維持基準の見直し グロース市場上場会社が、事業年度の末日において純資産の額が正でない状態となった場合においても、時価総額が100億円以上である場合(当該状態となった理由が中長期的な企業価値向上に向けた投資活動に起因して生じた損失によると当取引所が認めた場合に限る)であって、基準の適合に向けた計画を適切に開示しているときには、当該計画の計画期間に基づき改善期間を設定するものとする。 Ⅴ 実施時期等 原則として、2023年3月13日から施行する。 「新規上場日の売買における成行呼値の禁止(呼値に関する規則の一部改正)」については、2023年6月26日以後に新規上場を行う銘柄から適用する。 詳細な規定が設けられているので、実際の実施に際しては注意する。 (了)
2023年3月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.511を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第113回】 「パーシャルスピンオフに係る課税繰延べ制度の創設」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 令和5年度税制改正に係る法案審議は、2月末に衆議院を通過したところである。今回の改正の1つに、社内ベンチャーの独立化等を念頭に、スピンオフ税制の特例措置が、1年限定という形ではあるが、盛り込まれている。 従前、スピンオフに係る課税繰延べ措置(適格分割型分割・適格株式分配)は、平成29年度税制改正において創設され、その母体から完全に分離独立する場合に限り認められていたところであるが、今回の特例措置は、完全分離ではなくとも、相当程度母体からの独立性が担保されている場合(パーシャルスピンオフ)にも、課税の繰延べを認めることとしている(措法68の2の2)。独立初期段階において母体の信用力、ブランド等を活用することで、早期のテイクオフを促す効果が期待される。 〇事業再編計画の認定が前提 今回の措置は、従前の適格株式分配の対象に、産業競争力強化法の認定を受けた事業再編計画に基づく完全子法人株式のみの現物分配(「認定株式分配」)で一定の要件を満たすものを追加するものである。 したがってパーシャルスピンオフの課税の特例を適用するには、税法上の要件に加えて、産業競争力強化法上の事業再編計画の認定要件をクリアする必要がある。従前の完全スピンオフの場合には、税制上は産業競争力強化法の認定は不要(会社法上の特例を受けるのであれば認定が必要)であるのと異なる点である。 事業再編計画の認定を受ける期間は、「令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間」とされている。この期間内に認定を受ければ、パーシャルスピンオフの実施が期間外であっても今回の措置の適用は可能である。 〇事業再編計画の認定要件 事業再編計画の認定要件の詳細は事業再編の実施に関する指針において規定されるが、すでに、事業再編計画の認定要件に関して、経済産業省から2月10日に事業再編の実施に関する指針の一部を改正する告示案がパブリックコメントに付されていたところである。 今回の告示案によれば、これまでも要件とされていた、計画開始から3年以内に、次のように、一定の生産性の向上及び一定の財務内容の健全性の向上が達成されることが必要である。 さらに、「認定株式分配」となるには、これら2つの認定要件に加えて、次のいずれかの要件をみたすことが求められている。 〇税法上の要件 税法上の要件については、法案レベルでは、株式分配直後に現物分配法人による持分割合が20%未満となることのみが規定されるにとどまり、詳細は政令に委ねられているが、税制改正大綱においては、概要は次のように示されている。 これらの要件は、従前の適格株式分配を規定する法人税法2条12号の15の3及び法人税法施行令4条の3第16項で規定されているものとほぼ同じであるが、②のところが80%ではなく90%とされている点が異なっている。 (了)