《速報解説》 会計検査院、ストック・オプションに関する多額の課税漏れの可能性を指摘 ~国税庁が調査体制を厳格化へ~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 吉本 壮介 1 概要 会計検査院は、役員及び従業員等がストック・オプションの権利行使によって取得した株式の売却益等に関し、多額の課税漏れが発生している可能性が高いとして、国税庁に対し対応の強化を求めた。これを受け、国税庁は令和7年8月に、ストック・オプションに係る課税漏れ防止策として、法定調書の情報等を活用した調査体制の強化を全国の税務署に指示したとみられる。 会計検査院の調査によると、過去2年間でストック・オプションの権利行使益課税や権利行使で取得した株式の譲渡益課税に関し、延べ150人・約60億円に及ぶ課税漏れが想定される事例が確認された。税制適格ストック・オプションでは116人・約18.8億円の譲渡所得申告漏れ、税制非適格ストック・オプションでは34人・約41.5億円の給与課税漏れの可能性が高いと指摘されている。 2 ストック・オプション税制 ストック・オプションのうち、譲渡制限があり無償で付与されるなど、租税特別措置法上の要件を満たすものは「税制適格ストック・オプション」とされる。この場合、権利行使時には課税されず、売却時に譲渡所得として申告(申告分離課税・税率20.315%)する。 一方、要件を満たさない「税制非適格ストック・オプション」では、権利行使時点で給与所得等として課税され、会社には源泉徴収義務が生じる。その後、売却時には改めて譲渡所得として課税される仕組みであり、両者で課税時期や態様が異なる点に留意が必要である。 【図】譲渡制限付ストック・オプションに係る課税の概念図 (出典:会計検査院ホームページ「ストック・オプションに係る課税の状況等について」より抜粋) 3 企業側における留意点 法定調書は、権利行使や譲渡の際に会社や金融機関が作成・提出するものであり、従来も国税当局はこれらを所得申告データと突合して課税状況を確認し、各種照会や実地調査等を通じて課税漏れ防止を図ってきたが、今回の指摘を受け、より詳細な照合や状況確認の厳格化が進められるとみられる。 企業側にとっては、非適格ストック・オプションにおける源泉徴収漏れが特にリスク要因となる。課税漏れが発覚した場合、企業側に多額の追徴課税や不納付加算税、延滞税の支払義務が生じる可能性があるため、経理・人事・法務部門等の連携強化が不可欠である。具体的には、権利付与・行使時点の株価把握、源泉所得税の計算・納付の確実な実施、役員及び従業員等への申告義務周知、そしてストック・オプション事務のマニュアル化やチェックリスト整備などを進めることが望ましい。 ストック・オプションは報酬制度として定着しつつあるが、その税務上の取扱いは制度区分や適用要件等によって異なるため、十分な理解と適切な運用が不可欠である。今後、国税庁による調査体制の強化に伴い、企業側は「ストック・オプションの今までの処理の確認」と「社内体制の整備」を進めることが一層重要になるだろう。 (了)
2025年10月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.642を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第53回】 「給与所得該当性判断に関する「判断の一応の基準」の意味と展開」 -外国親会社ストック・オプション[所得分類]事件・最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁(以下「昭和56年最判」という)において示された、事業所得と給与所得の区分に関する「判断の一応の基準」の意味について検討した結果、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」という事業所得の定義で示された基準は「判断の完全な基準」である(したがって、弁護士の顧問料が事業所得に該当すると判断した同判決については、この基準がレイシオ・デシデンダイである)のに対して、「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」という給与所得の定義で示された基準は「判断の一応の基準」にとどまるという見解を述べた(そこでは前者の基準を「労務の提供等の独立性」基準、後者の基準を「労務の提供等の従属性」基準と呼んだ)。 今回は、米国親会社がその100%子会社である内国法人の代表取締役に対して付与したストック・オプションに係る権利行使益(以下「本件権利行使益」という)の給与所得該当性を認めた外国親会社ストック・オプション[所得分類]事件・最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁(以下「本判決」という)が「所論引用の判例[=昭和56年最判]は本件に適切でない。」と判断したことの意味を検討しながら、昭和56年最判が示した給与所得該当性の判断基準(「労務の提供等の従属性」基準)が「判断の一応の基準」であることの意味をもう一度確認し、本判決におけるその基準の展開を検討することにしたい。 なお、過少申告加算税の賦課以外は本件と類似の事実関係の下で過少加算税につき「正当な理由」が認められるか否かが争われた外国親会社ストック・オプション[加算税]事件については最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁がある(第34回Ⅱ参照)。 Ⅱ 本判決と昭和56年最判との関係 本判決は本件権利行使益の給与所得該当性について次のとおり判示し(下線筆者)これを認めた。 ここでは、本稿の前記の目的に従って、まず、上記の引用判示の末尾の「所論引用の判例[=昭和56年最判]は本件に適切でない。」という判示の意味から検討を始めることにする。 上記の判示にいう「所論」は、上告人が上告受理申立て理由(民集59巻1号68頁、109-114頁)において、昭和56年最判に照らして「給与の支給者と使用者の同一性」を給与所得の要件とみて、「指揮命令者と支給者のかい離」を前提とする本件権利行使益が給与所得に該当するとした原審・東京高判平成16年2月19日訟月51巻10号2704頁の判断は昭和56年最判に違反する旨を主張するものであるが、本判決の調査官解説は、上記の判示を次のような考え方によるものと解説している(増田稔「判解」最判解民事篇(平成17年度(上))39頁、52頁。下線筆者)。 確かに、昭和56年最判の判示のうち「給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。」という部分だけを一見すると、上告受理申立て理由にいう「給与の支給者と使用者の同一性」が給与所得の要件であるようにも思われる。しかしながら、上記の調査官解説が述べるとおり、その判示部分がそもそも「判断の一応の基準」として示されたものにすぎず、しかも昭和56年最判の事案及び争点が本件と異なる以上、「労務提供の相手方と給付者のかい離の問題については、何らの判断もしていないもの」と解される昭和56年最判を、「本件に適切でない」とする本判決の判断は妥当である。 ただ、そうであるからといって、本判決が昭和56年最判の判断内容の全てについて「本件に適切でない」と判断したわけではないことに注意すべきである。本判決は本件権利行使益の給与所得該当性の判断に当たって昭和56年最判の判断内容を部分的には踏襲して判断を行ったものと解されるのである。 そこで次に問題になるのは、本判決が踏襲した部分は昭和56年最判の判断内容のうちどのような部分であるかであるが、その部分の判断内容については、次のⅢで、本件権利行使益の給与所得該当性に関する本判決の判断内容を検討しながら、明らかにしていきたい。 Ⅲ 「労務の提供等の非独立性」基準による「判断の一応の基準」の限定解釈 本判決については、本件権利行使益の給与所得該当性を認める根拠を示していないとする次のような批判がある(大淵博義「親会社株式によるストック・オプションの権利行使益を給与所得とした最高裁判決の波紋(上)~給与所得判決の疑問と伝統的課税理論への影響~」税経通信60巻4号(2005年)17頁、18-19頁。傍点原文・下線筆者)。 このような批判については、本判決の調査官解説は、下記の引用文(増田・前掲「判解」53頁。下線・傍点筆者)にみられる「実質的な観点」(同頁)から、支配関係にある親子会社間で親会社が子会社の従業員等にその子会社への労務提供を理由として経済的利益が与えるという場合に関する限りにおいてではあるが、その場合については「一般的に」当該経済的利益の給与所得該当性の根拠を解説し、もってその批判に応えようとしたものと解される(その根拠の解説は正当であると考えられる)。なお、筆者が上記の意味で「一般に」という表現を用いたのは、「本判決は事例判断の形を採っているが、・・・・・・同種事案との関係でも先例的価値を有するものと考えられる」(増田・前掲「判解」54頁)との解説を受けたものである。 調査官解説は、上記の「一般論」に基づき、本判決について、「本件事実関係の下においては、本件権利行使益が雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして給与所得に当たるとの判断をしたものと思われる。」(増田・前掲「判解」54頁。下線筆者)と解説している。この解説は、「本件権利行使益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして、所得税法28条1項所定の給与所得に当たるというべきである。」という本判決の判示と同じ内容であるが、この解説・判示について注目すべきは、日本アプライド社における上告人の職務遂行を、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された」労務とみるとともに「非独立的な労務」ともみていることである(増田・前掲「判解」56頁(注7)も参照)。このことは、上記の解説・判示が昭和56年最判の示した「判断の一応の基準」としての「労務の提供等の従属性」基準(前回Ⅲ参照)と「労務の提供等の非独立性」基準(同参照)とを併用したものであることを意味すると考えられる。 また、調査官解説は、上記の解説の後、本判決の射程について次のとおり述べている(同頁。下線筆者)。 以上の調査官解説からすると、本判決は、①実質的な支配関係にある親子会社における親会社と子会社の従業員等との関係を、昭和56年最判の示した「判断の一応の基準」(「労務の提供等の従属性」基準)にいう「これ[=雇傭契約]に類する原因」に該当するものとし、かつ、②給与所得該当性の判断については「労務の提供等の非独立性」基準をも援用したものと解される。 この理解の前半(①)と後半(②)を整合的に整理すると、本判決は、昭和56年最判の示した「判断の一応の基準」(「労務の提供等の従属性」基準)にいう「これに類する原因」を「労務の提供等の非独立性」基準によって限定解釈し、もって「上記最高裁判決[=昭和56年最判]に照らして、原判決は給与所得の要件を不当に拡大しているものである。」という上告受理申立て理由(民集59巻1号109頁。大淵・前掲論文「(下)」税経通信60巻6号(2005年)17頁、24頁も同旨)は相当でないことを説示しようとしたものと解することができるように思われる。 Ⅳ おわりに 以上で、本判決に即して、昭和56年最判が示した給与所得該当性判断に関する「判断の一応の基準」の意味と展開を検討してきた。 本判決は本件権利行使益の給与所得該当性の判断に当たって、昭和56年最判の示した「判断の一応の基準」のうち給与所得に係る「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき」という部分は踏襲しつつも、そこにいう「これに類する原因」を「労務の提供等の非独立性」基準によって限定解釈し、給与所得該当性の判断基準の拡大に歯止めをかけたものと解される。 本判決に関するこのような理解に関連して興味深いのは、給与所得該当性の判断に係る「雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたもの」という判示に関する調査官解説の次の指摘(増田・前掲「判解」56-57頁(注8)。下線筆者)である。 この指摘については、本判決は給与所得の意義を「非独立的な労務の対価」と解する点では「一般的な法理」(前回Ⅲでは「判断の完全な基準」)としての「労務の提供等の非独立性」基準を採用するものであるが、その基準を昭和56年最判の示した「判断の一応の基準」のうち給与所得に係る「これに類する原因」の限定解釈のために用いているが故に「給与所得の意義につき一般的な法理を述べたものとまで解することはできない」と指摘するものである、というような理解が成り立つように思われる。 このような理解によれば、本判決が示した給与所得の意義に関する解釈のうち「非独立的な労務の対価」の中の「労務」に係っている「雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された」という部分を削除すると(本判決は昭和56年最判の示した給与所得の定義のうち「使用者の指揮命令に服して」という部分は既に削除済みである)、給与所得を「非独立的な労務の対価」と定義することができることになり、したがって給与所得該当性の判断基準を「労務の提供等の非独立性」基準に一本化することができることになる。このことは、本判決が示した給与所得の意義に関する解釈から、昭和56年最判の示した「判断の一応の基準」(「労務の提供等の従属性」基準)の残滓ともいうべき「雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された[労務]」という要素を除去し、給与所得該当性の判断基準を「労務の提供等の非独立性」基準に純化することを意味するといってもよかろう。 このようにして給与所得該当性の判断に係る「判断の一応の基準」を純化すると、給与所得該当性の判断基準を「判断の一応の基準」から「判断の完全な基準」(給与所得の意義に関する「一般的な法理」)に展開することができることになろう。この帰結は、「給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」という判示でもって「労務の提供等の従属性」基準を補完しようとしたという、昭和56年最判に関する筆者の前回述べた理解(前回Ⅳ参照)に適合するとともに、給与所得該当性の判断を明確かつ容易にし納税者にとってはその判断について予測可能性と法的安定性を確保することに資すると考えるところである。 (了)
〈令和7年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「令和7年分から適用される改正事項」 ~基礎控除・給与所得控除の見直し及び特定親族特別控除の創設等~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 11月に入り、今年も年末調整に向けた準備を始める時期となった。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。 第1回(本稿)と第2回は、令和7年度税制改正事項のうち、令和7年分の年末調整に関係する内容を取り上げる。 なお、本年分の記事に加え、論末の連載目次に掲載された過去の拙稿もご参照いただきたい。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 令和7年度税制改正では、物価上昇局面における税負担の調整の観点から、基礎控除及び給与所得控除の見直しが行われ、長く続いたいわゆる「年収103万円の壁」が引き上げられた。また、就業調整対策の観点から、大学生年代の子等を持つ所得者本人に係る新たな所得控除として特定親族特別控除が創設された。これらに加え、同一生計配偶者や扶養親族等の所得要件の引上げも行われている。 いずれの改正も、令和7年分以後の所得税に適用されるが、改正後の法律の施行日が令和7年12月1日であることから、令和7年分の所得税については、令和7年12月1日以後に行う年末調整又は確定申告で適用されることとなる(※)。 (※) 令和7年11月までの給与の源泉徴収事務は、改正前の制度に基づいて行われる。 以下、各改正事項について解説を行う。 【1】 基礎控除の見直し 所得税の基礎控除について、合計所得金額の区分が3段階から8段階へ変更され、控除額は最大で95万円となった(所法86①②、措法41の16の2①)。 〈基礎控除の額(所得税)〉 (※) 合計所得金額132万円超655万円以下の3つの区分は、令和7年分と令和8年分の所得税のみに適用される。令和9年分以後は、合計所得金額132万円超2,350万円以下の区分の控除額はすべて58万円となる。 【2】 給与所得控除の見直し 給与所得控除の最低保障額が、55万円から65万円に引き上げられた(所法28③)。 〈給与所得控除の額〉 【3】 特定親族特別控除の創設 大学生年代の子等について、控除対象扶養親族としての所得制限を超えた場合にも、一定の所得控除を受けられる仕組みが導入された。この新たな控除を特定親族特別控除という(所法84の2)。 〈特定親族特別控除の対象者及び控除額〉 【4】 同一生計配偶者や扶養親族等の所得要件の見直し 同一生計配偶者や扶養親族等の合計所得金額等の金額要件が引き上げられた(所法2①三十二、三十三、三十四、83の2①、所令11の2②)。 〈同一生計配偶者や扶養親族等の合計所得金額等の金額要件〉 * * * 次回(第2回)は、各改正事項が、令和7年分の年末調整実務に及ぼす影響について解説する予定である。 (注) 上記の記事については、掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。 (了)
〔令和7年度税制改正における〕 中小法人等の軽減税率の特例に伴う法人税率の見直し及び防衛特別法人税の創設 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 本稿では、令和7年度税制改正のうち、法人税率に関する改正、具体的には、「中小法人等の軽減税率の特例」及び「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置のうち法人税に関する部分」について解説する。 1 中小法人等の軽減税率の特例 (1) 改正前 内国法人である普通法人に係る法人税率は、原則として23.2%である。ただし、普通法人のうち、資本金1億円以下であるものについては、各事業年度の所得金額のうち年800万円以下の金額については、19%となっており、さらに、租税特別措置法により令和7年3月31日までの間に開始する各事業年度については15%に軽減されている(以下、本特例)。 (2) 改正後 本特例については、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長された(措法42の3の2①②)。この改正は、令和7年4月1日以後に開始する事業年度(通算子法人の同日以後に開始する事業年度のうちその通算子法人に係る通算親法人の同日前に開始した事業年度の期間内に開始する事業年度を除く)分の法人税について適用される(改正法附則39)。 (※1) 中小通算法人等 中小通算法人等とは、中小通算法人又は通算親法人である協同組合等をいい、中小通算法人とは、大通算法人(通算法人である普通法人又はその普通法人の各事業年度終了の日においてその普通法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人のうち、いずれかの法人がその各事業年度終了の時における資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人又は大法人(資本金5億円以上法人等一定の法人)との間にその大法人による完全支配関係がある普通法人等一定の法人に該当する場合におけるその普通法人)以外の普通法人である通算法人をいう(法法66⑥)。 〈留意点〉 【法人税率一覧(通算法人を除く)】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※2) 普通法人のうち各事業年度終了の時の資本金(出資金)の額が1億円以下であるもの又は資本(出資)を有しないもの(ただし、相互会社、大法人による完全支配関係がある法人、投資法人、特定目的会社、受託法人を除く) (※3) 協同組合等で、その事業年度における物品供給事業のうち店舗において行われるものに係る収入金額が1,000億円以上であるなどの一定の要件を満たすものの所得金額のうち年10億円超の部分については、22%の税率が適用される。 2 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置のうち法人税に関する部分 我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、安定的な財源を確保するため、令和7年度税制改正において法人税について防衛特別法人税が措置された。 防衛特別法人税の規定(中間申告の規定を除く)は、法人の令和8年4月1日以後に開始する課税事業年度の基準法人税額に対する防衛特別法人税について適用される(改正法附則62①)。中間申告の規定は、法人の令和9年4月1日以後に開始する課税事業年度から適用される(改正法附則62②)。 (1) 納税義務者 各事業年度の所得に対する法人税を課される法人は、防衛特別法人税を納める義務がある(防確法8)。 (2) 課税の対象 法人の各課税事業年度の基準法人税額について、当分の間、防衛特別法人税が課される(防確法9)。 (3) 課税事業年度 法人の令和8年4月1日以後に開始する各事業年度が課税事業年度となる(防確法11)。 (4) 基準法人税額 防衛特別法人税の基準法人税額は、内国法人の場合、その内国法人の法人税の課税標準である各事業年度の所得の金額につき、法人税法その他の法人税の計算に関する法令(※4)により計算した法人税の額とされている(防確法10一)。 (※4) 法人税の税額の計算に関する法令の規定には、①所得税額の控除(法法68)、②外国税額の控除(法法69)、③分配時調整外国税相当額の控除(法法69の2)、④仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除(法法70)、⑤税額控除の順序(法法70の2)など一定の規定を含まないこととされている。 (5) 課税標準 防衛特別法人税の課税標準は、各課税事業年度の課税標準法人税額とされており、内国法人の場合、次の場合の区分に応じそれぞれ次の金額となる(防確法13①②)。 (※5) 年500万円(防確法13③一)、課税事業年度が1年に満たない法人は、500万円を12で除し、これにその課税事業年度の月数(1月未満の端数切り上げ)を乗じて計算した金額(防確法13⑧⑨) (※6) 基準法人税額から留保金課税制度により加算された金額を控除した金額(防確法13②二イ) (※7) 基準法人税額のうち留保金課税制度により加算された金額(防確法13②二ロ) (6) 税額の計算 防衛特別法人税の額は、各課税事業年度の課税標準法人税額(各課税事業年度の基準法人税額から年500万円の基礎控除額を控除した金額)に4%の税率を乗じて計算した金額となる(防確法14①、15)。 法人税及び地方法人税において外国税額控除の適用を受ける場合で、法人税の額及び地方法人税の額から控除しきれない金額があるときは、防衛特別法人税においても外国税額控除の適用を受けることができる(防確法16)。 (※8) 外国税額控除のほか、税額控除規定として、分配時調整外国税相当額の控除(防確法17)、控除対象所得税額等相当額の控除(防確法18)及び仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除(防確法19)が設けられている。 (※9) 税額控除は、①分配時調整外国税相当額の控除、②控除対象所得税額等相当額の控除、③仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除、④外国税額控除の順序で行う(防確法20)。 (7) 確定申告 防衛特別法人税確定申告書は、原則として、各課税事業年度終了の日の翌日から2月以内に納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない(防確法25)。法人税確定申告書の提出期限が延長されている場合には、防衛特別法人税確定申告書の提出期限は、その延長された提出期限となる(防確法25④)。 なお、所得金額が欠損等の理由により基準法人税額がゼロとなる場合や基礎控除額の控除により課税標準法人税額がゼロとなる場合であっても、防衛特別法人税確定申告書を提出する必要がある点に注意が必要である。 (8) 中間申告 令和9年4月1日以後に開始する課税事業年度において、法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税についても中間申告書を提出する必要がある(防確法21)。 〈計算イメージ〉 (※10) 基準法人税額は、所得税額の控除、外国税額の控除、分配時調整外国税相当額の控除、仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除、戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置の税額控除、同措置に係る通算法人の仮装経理に基づく過大申告の場合等の法人税額の加算及び外国関係会社等に係る控除対象所得税額等相当額の控除は適用しないで計算した各事業年度の所得に対する法人税の額 (※11) 外国税額の控除、分配時調整外国税相当額の控除、控除対象所得税額等相当額の控除、仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除が適用可能 (了)
国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正 -防衛特別法人税等の企業への影響- 【第8回】 公認会計士・税理士 荒井 優美子 26 防衛特別法人税における更正の請求等の規定 法人税の更正の請求等については、国税通則法第23条から30条に規定が置かれ、更正の請求の特例の規定が法人税法第81条に置かれている。法人税の更正の請求の特例に該当する修正申告書の提出等の場合に対応して、防衛特別法人税についても地方法人税と同様に、更正の請求の特例その他の規定を置いている(防衛財確法34~39)。 27 更正の請求の特例 納税申告書を提出した者は、その申告に係る税額が過大(又は還付税額が過少、申告書に記載した純損失等の金額が過少)である場合には、原則として法定申告期限から5年(法人税の純損失等の金額については10年)以内に限り、税務署長に対してその税額等の更正の請求ができる(通法23①)。但し、決定を受けた事業年度等に係る税額等については、一定の場合を除き更正の請求ができない(通法23②)。 このような国税通則法の特例として、提出した法人の確定申告書について修正申告書の提出又は更正、無申告の場合に決定の処分を受けたことに伴い、その修正申告書、更正若しくは決定に係る事業年度の翌事業年度以後の事業年度で決定を受けた事業年度の法人税額が過大となり、又は還付金額が過少となった場合に、その修正申告書を提出した日又はその更正若しくは決定の通知を受けた日の翌日から2月以内に限り、その税額等につき更正の請求することが認められている(法法81)。 法人税について、更正の請求の特例が認められる場合に対応して、地方法人税と同様に防衛特別法人税についても更正の請求の特例の措置が設けられている(防衛財確法34)。法人の修正申告書の提出日又は更正若しくは決定の通知を受けた日の翌日から2月以内に限り、税務署長に対し、その過大となる防衛特別法人税額又は過少となる還付金額につき、更正の請求をすることができる。 28 更正の特例 納税者からの更正の請求に対して、税務署長は、その請求に係る課税標準等又は税額等について調査し、更正の要否を決定するが、更正をすべき理由がない場合は、その旨を通知する(通法23④)。仮装経理による法人税の過大申告については、会計上の修正経理をして法人税の申告をする限りおいて更正の請求を認めることとしている。 仮装経理に基づく防衛特別法人税の過大申告についても、次の①及び②の要件を全て満たすこととなるまでの間は、更正をしないことができる(防衛財確法35①)。 仮装経理の更正により減額される防衛特別法人税は、原則として還付されず、その更正の日以後に終了する事業年度の防衛特別法人税の額から控除される(防衛財確法39①、19①)。 29 青色申告書に係る更正 青色申告の承認を受けた内国法人につき、帳簿書類の不備等の一定の事実がある場合には、当該事実のあった事業年度まで遡って青色申告の承認が取り消され、その事実があった事業年度開始の日以後提出した青色申告書は、青色申告書以外の申告書とみなされる(法法127①)。 法人税の青色申告書の提出の承認が取り消された場合には、防衛特別法人税の青色申告書についても、その取消しの事実があった事業年度開始の日以後青色申告書により提出した防衛特別法人税申告書は、青色申告書以外の申告書とみなされる(防衛財確法36②)。通算法人に対する青色申告承認の取消しの場合は、遡及適用はない(防衛財確法36③)。 青色申告については、更正の場合に更正通知書に更正の理由を付記することとされており(法法130②、防衛財確法36⑤)、更正に係る立証責任は課税庁にあることになる。青色申告以外の申告についての更正では更正の理由が付記されないことから、更正に対する反証は納税者が立証義務を有することとなる。 30 更正等による外国税額の還付 防衛特別法人税確定申告書に係る防衛特別法人税につき更正等(注)があった場合において、その更正等により外国税額控除による控除をされるべき金額で防衛特別法人税の額の計算上控除しきれなかった金額が増加したときは、その増加した部分の金額に相当する税額が還付される(防衛財確法37①)。 (注) 更正の請求、更正の請求に対する処分に係る不服申立て、又は訴えについての決定若しくは裁決又は判決を含む。 更正等により還付される外国税額については、確定申告書の提出による外国税額の還付の場合と同様に、還付加算金の対象とされ、防衛特別法人税で未納のものに充当する場合には、その還付金の額のうちその充当する金額については、還付加算金の対象とされない(防衛財確法37②、③)。充当される防衛特別法人税についても、延滞税及び利子税が免除される(防衛財確法37③)。 還付加算金の計算期間は、更正等の日の翌日以後1月を経過した日からその還付のための支払決定をする日又はその還付金につき充当をする日までの期間(防衛財確法37②)とされる。更正等が更正の請求に基づく更正である場合、更正の請求に対する処分に係る不服申立て又は訴えについての決定若しくは裁決又は判決である場合には、更正の請求の日の翌日以後3月を経過した日とその更正等の日の翌日以後1月を経過した日とのいずれか早い日から起算される(防衛財確法37②)。 31 更正等又は決定による中間納付額の還付 防衛特別法人税中間申告書を提出した法人の、防衛特別法人税中間申告書に係る課税事業年度の防衛特別法人税につき決定があった場合(すなわち、前事業年度の確定申告書を提出していなかった場合)に、その決定に係る中間納付額で防衛特別法人税の額から中間納付額を控除した金額の計算上控除しきれなかった金額があるときは、その控除しきれなかった金額に相当する中間納付額が還付される(防衛財確法38①)。 防衛特別法人税中間申告書に係る課税事業年度の防衛特別法人税につき更正等があった場合についても、更正等により、防衛特別法人税の額から中間納付額を控除した金額の計算上控除しきれなかった金額が増加したときは、その増加した部分の金額に相当する中間納付額が還付される(防衛財確法38②)。 還付金の還付をする場合において、なお、防衛特別法人税中間申告書の中間納付額について納付された延滞税があるときは、そのうち一定の額が還付金と併せて還付される(防衛財確法38③、防衛特法令17①)。還付加算金の取り扱いは、上記の「更正等による外国税額の還付」の場合と同様である。 還付加算金の計算期間は、還付をすべき中間納付額の納付の日の翌日から、その還付のための支払決定をする日又はその還付金につき充当をする日までの期間とされる(防衛財確法38④)。 (続く)
学会(学術団体)の税務Q&A 【第22回】 「学会が研究事業を行う場合の税務上の留意点」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 学会では、収入を受けて研究事業を行うケースがよくあるが、収入の内容によって、税務上の取扱いが異なる。 1 法人税 (1) 補助金・寄付金 補助金・寄付金によって研究事業を行う場合は、法人税法上の収益事業に該当しない。なお、従来は、寄付なのか、受託なのか、不明瞭な収入(負担金収入等)が見受けられたが、インボイス制度の導入により、収入の内容が、寄付(不課税取引)なのか、受託(課税取引)なのか明確になったといえる。 (2) 受託研究 受託研究は、原則として請負業に該当するため、法人税法上の収益事業に該当する(法令5①十)。ただし、次のようなケースについては、収益事業に該当しないことになる。 〈請負業に該当しない例外規定〉 2 消費税 (1) 補助金・寄付金 補助金・寄付金は、消費税上、不課税取引となる。なお、不課税取引に関しては、さらに内容に応じて次のように区分されるため、消費税を一般課税(原則課税)で計算する学会の場合は、留意する必要がある。 〈補助金・寄付金の内容と課税区分〉 (2) 受託研究 受託収入は原則として課税売上となるため、適格請求書発行事業者である学会の場合は、委託者に対してインボイスを交付する必要がある。ただし、非居住者からの受託研究の場合は、非居住者に対する役務提供として免税売上になると考えられるため、インボイスを交付する必要はない。 3 研究期間が会計期間をまたがる場合の留意点 長期間にわたる研究の場合や年度末近くから開始した研究の場合、研究期間が会計期間をまたがることがあるが、そのような場合は、次のような処理を行うことになると考える。 〈収益・費用の処理〉 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第79回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 イ 暗号資産の匿名性 暗号資産の匿名性(※)について、一般に、暗号資産には一定の匿名性があると認識されている。ここでの認識は、暗号資産は、身元を明らかにすることなく、取引や保有を行うことができるように設計されているというものである。 (※) 参考として、暗号資産の匿名性や追跡困難性について、具体的な手法の説明を交えて検討する宇根正志「暗号資産における取引の追跡困難性と匿名性―研究動向と課題―」金融研究38巻3号(2019)129頁は、匿名性を「特定の取引にかかる当事者の属性を推定することの難しさの度合い」、追跡困難性を「特定のユーザーによる複数の取引やその流れを把握すること(取引の追跡)の難しさの度合い」と定義している。 暗号資産を自由に取引する際、通常、ウォレットを利用する。 ウォレットを作る際、秘密鍵がランダムに生成され、これに対応する公開鍵が暗号化アルゴリズムによって生成され、この公開鍵から実際に暗号資産の送受信に用いられるアドレスが作られる。 秘密鍵は、トランザクションへの署名、保有する暗号資産へのアクセスなどの際に使用され、暗号資産の保有者ないし処分権を証明するような役割も有する(※)。 (※) 「Not your keys, not your coins(cryptos)(自分の鍵でなければ、それはあなたの暗号資産ではない)」と表現されるように、一般には、秘密鍵を持っていない限り、実質的には暗号資産を支配しているとはいえない。See David G.W. Birch, Not Your Keys, Not Your Coins? Whatever, FORBES(Oct. 15, 2021, 7:03 AM, updated Mar. 9, 2022, 8:36 AM) 公開鍵によって暗号化された情報は、対応する秘密鍵を持つ者だけが復号できる仕組みとなっているため、公開鍵はアドレスの生成やトランザクションの検証などに使用される。 利用者が保有する暗号資産を移転する場合、例えば、次のような手順を経る。 暗号資産は一般的に非中央集権で運用されており、上記の検証はマイナーやバリデータなどと呼ばれるノードにより行われる。 上記の検証作業を通じて新しい暗号資産が発行される。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第82回】 「三井住友信託銀行特定民間国外債事件 -政令委任による解除条件付利子非課税規定の解釈について- (地判令2.12.1、高判令3.9.30、最判令4.5.26)(その2)」 税理士 畠山 和夫 Ⅳ 評釈の見解:争点ごとの要約 1 藤岡祐治「特定民間国外債の利子に対する非課税規定適用のための利子受領者確認書の提出と源泉徴収~東京地裁令和2年12月1日判決」税経通信2021年4月号96-103頁 ◆ ❸文理解釈 本判決は、規定の中にある文言に関する解釈を示しているわけではない。本判決は措法6条⑦及び同条⑬並びに施行令3条の2の2㉗の関係を示すにとどまっている。 ◆ ❹論理解釈:当然予定説について 本判決は、法律関係の確定を重視する実質的な理由を示していない。租税法律関係の安定を納税者の保護より重視する根拠は明らかではない。厳密には、法定納期限後に法律関係が変わることは想定し得る。法律関係を確定するために措法6条⑦が適用要件としての提出期限を設けることを当然に予定しているとする本判決の理由づけにはさらなる論証が必要であろう。 ◆ ❺政令委任 仮に措法6条⑦が提出期限を設けることを当然に予定していないならば、・・・課税要件を政令で定めるものとなり、そのような委任が許されるかという委任の内容が問題となったはずである。 ◆ ❼結果妥当性 源泉徴収義務者が求償権を行使しないことを想定した本判決の解決は、本来の納税義務者である非居住者等の地位を不安定にする点及び源泉徴収義務者の事務負担の点から課題が残る。 2 長門貴之「東京地判令和2年12月1日」租税判例速報 ジュリスト2021年5月号No1558・10-11頁 ◆ ❺政令委任 施行令における非課税適用申告書ないし利子受領者確認書の提出期限に関する定めが措法6条⑥に優先した場合の非居住者等への影響は大きく、かかる定めを技術的細目的事項といいきるのは容易ではない。 ◆ ❼結果妥当性 本判決は、「利子受領者確認書の提出を失念した利子支払者が、利子受領者に対し求償権を行使することは、実際上想定し難い」と付言し、非課税措置不適用による経済的不利益(税負担)は利子受領者に及ばないと想定することで矮小化する。しかし、法律により認められた求償権(所法222条)の不行使を前提とする立論には難があり、階層構造化した国際証券投資における源泉徴収義務負担への配慮に欠ける憾みがある。 ◆ ❶利子受領者確認書提出期限の非課税要件性 仮に、本件規定所定の期限が措法6条⑦の適用要件ではないと解しても、最終的に利子受領者確認書が提出されたのであれば、本人確認制度の趣旨は損なわれず、わが国の税収が追加的に失われるわけでもない。それゆえ、本件規定が適用要件でないと解しても、必ずしも、本件規定が死文化する(国主張)、というわけではない。 Ⅴ 利子非課税規定解釈に関する基本事項 一 時系列的な利子非課税規定解釈 【一般民間国外債のみなし遡及提出規定】※措法6条④⑥非課税適用申告書 【特定民間国外債のみなし遡及提出解釈】※措法6条⑦利子受領者確認書 (※) 措法6条⑦には明文上みなし遡及規定は存在しないが高裁は解釈により同条⑥と同趣旨のみなし遡及提出を認めている。 二 利子非課税規定解釈の基本的事項 1 利子非課税規定の実質要件・手続事項の区分 2 利子非課税規定解釈の枠組 3 附款の意義(民法127条~134条) 【民法の法律行為の附款】(要約:民法総則(1)[第4版増補補訂2判]有斐閣双書244頁(※)) (※) 本書では「付款」という文字を使用しているが、櫻井敬子・橋本博之著『行政法[第6版]』(弘文堂出版、2019年)の98頁では「附款」という文字を行政行為について使用している。併せて、水道法第9条でも「附款」という文字を条文として使用しているので、本稿では「附款」という文字を統一して使用する。 4 届出書と申請書 (1) 行政法上の届出と申請(行法2条❸❼) (2) 税法における届出書の課税要件性についての区分 ① 課税要件が充足されないもの (※) 谷口勢津夫『税法基本講義[第7版]』弘文堂2021.10.15発行 【97】課税要件法上の成立時期P106~107「課税要件法に組み込まれた手続事項」 国税通則法15条②の定める納税義務の成立時期は、必ずしも課税要件の充足の時と一致するわけではない。例えば、課税期間の終了後における納税義務者の選択、届出が、課税要件要素として定められる場合がある。このような場合には、課税期間の終了の時に課税要件が充足されないことは、明らかである。 ② 課税要件にならないもの (※) 木更津木材事件 東京高裁平成7年11月28日「手続的効果のみを有する手続事項」 租税法律主義のもとで租税法規を解釈する場合、ある事項を課税要件として追加するのかどうかについて法律に明文の規定がない場合、通常はその事項は課税要件ではないと解釈すべきものである。・・・手続的事項は手続的効果を有するにとどめ、これを課税要件としない立法政策がある(以下「要件とはならない手続事項」という)。 三 本事件における利子非課税規定解釈の当てはめ 1 利子非課税規定解釈の枠組から A 課税要件追加型解釈枠組 被告Y及び裁判所(地裁・高裁)とも課税要件追加型解釈をベースに要件事実の認定及び当てはめを行っている。しかし、この解釈枠組は、表面上は源泉税について法律上の手当(みなし提出)を行っているとはいうものの、現実には国税通則法15条③の「自動確定している所得税」とはいえず源泉徴収制度の基本構造と相容れないこととなる。 B 課税要件解除型解釈枠組 C 手続事項届出型解釈枠組 措法6条④に明文の規定「非課税適用申告書を提出したときは所得税を課さない。(利子受領者確認書にもみなし規定がある。)」があるため、「提出」という手続事項そのものを課税要件事実としないことはできないが、措置法の「期限内提出」を課税要件事実としない解釈は成り立ちうる。 2 民法の附款の許容性と限界から 施行令3条の2の2の非居住者等本人確認書類の提出期限の規定について、その位置づけを「措法6条④⑦の附款」と解釈し、民法127条以下の解除条件付法律行為の規定を本事件に当てはめると次のようになる。 すなわち、施行令規定に反すると、本条規定の非課税効果が解除されることになるが、施行令規定は本条実質要件規定に付された解除条件に相当するため、施行令規定は、「民法の解除条件の許容性と限界により条件に親しまない行為(法律行為に条件をつけると法律効果の発生または存続が不確定となるから、法律効果が確定的に発生または存続することを、法律が予定している行為)には条件を付することは許されない。」に反する。 なぜならば、施行令規定は本条に規定された源泉徴収制度の基本構造(通則法15条の所得支払時源泉税納税義務・税額の自動確定構造)に解除条件を付すことになるからである。 Ⅵ 争点ごとの検討 一 従たる争点 1 ❷非課税要件:非居住者等本人確認書類提出は利子非課税要件に該当するか 課税要件追加型解釈枠組からは利子非課税要件に該当するが、課税要件解除型解釈枠組からは、実質要件の解除条件となり、手続事項届出型解釈枠組からは利子非課税要件ではなく、「要件とはならない手続事項」となる。 2 ❸文理解釈:主たる争点を文理解釈で導くことができるか 文理解釈で導くことはできない。地裁判決は、「文理に沿った解釈」と判示しているが、これは規定の文言に関する解釈を行っているわけではない。「本判決は、措法6条⑦⑬並びに施行令3条の2の2㉗の関係を示すにとどまっている(前掲評釈1 藤岡祐治99頁)。」ちなみに、高裁判示第3、3(3)は、「措法6条⑥⑦は、非課税適用申告書又は利子受領者確認書の所轄税務署長への提出期限を明文をもって規定していない。」と述べ、文理解釈で導くことはできない旨の判示を行っている。 3 ❹論理解釈:主たる争点を制度の趣旨目的で導くことができるか (1) 当然予定説では、措法6条は明文では規定していないが利子受領者確認書の提出期限を利子非課税の適用要件として当然に予定している。根拠としては、租税法律関係の確定、施行令提出期限規定の死文化、措法6条の目的趣旨を理由としてあげている。 (2) 当然予定説に対する反論 措法6条⑦は利子受領者確認書の提出期限を非課税要件として当然に予定していない。すなわち、利子受領者確認書は行政上の「届出」であり課税庁に対し一定の事項の通知をする行為であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているものである。これを法律上の効果を発生させるための要件にするかどうかはその立法政策により法律の条文をもって決せられるべきである。本件についてみると、法律の条文には利子受領者確認書の提出を明文で要件としているものの、その提出期限までは要件として規定していない。したがって、提出期限のない届出書という解釈も十分可能である。 (3) 租税法律関係の確定 利払日から合理的期間内に法律関係を確定するために、利子受領者確認書の早期提出を図る意図で提出期限を非課税要件として当然に予定すべきという論理には飛躍がある。すなわち法律関係の早期確定を図る方法は、当然予定説の提出期限の非課税要件化以外にも、社債発行者は「証券の発行又は募集に関する報告書」を財務大臣(日本銀行経由)に提出しなければならないため、課税庁は社債の利払者を把握することができるのであり、提出期限後いつでも利払者に対し利子受領者確認書提出の督促を行うことができると思われるからである。 (4) 施行令の提出期限規定の死文化 行政手続法2条❼により提出の義務がある「要件とはならない手続事項」として法令により提出が義務付けられているものであり重要性が認められるので、その書類の督促をする契機となる非居住者等確認書類施行令提出期限は死文化していない。 (5) 措法6条の目的 社債発行者は利払いの都度利子受領者情報により非居住者等本人確認を行っており、利子非課税の実質要件は満たしているはずである。万一、利子受領者が実質要件を満たしていない場合は、課税庁はその要件を満たしていない利子受領者についてその源泉税額を源泉徴収義務者である利子支払者に納税告知を行い、源泉税を徴収すればその目的を達することができるはずである。 4 ❺政令委任:提出期限を措置法から政令に委任することができるか (1) 課税要件解除型枠組の法律憲法違反性 ① 授権法律の法規範不適合性 裁判所の判断であるA課税要件追加型解釈枠組はB課税要件解除型解釈枠組の言い換えにすぎないため、結局裁判所の判示するところは、課税要件の解除条件となる手続事項の期限という課税要件の存否そのものに係る規定を政令委任するという解釈枠組になっており、憲法の予定する技術的細目的手続事項の政令委任の枠内ということはできない。 なぜならば、法律が自らの定めた課税要件の存続を期限をもって条件解除できるような権限を政令に委任することは、「立法権の自己否定」であり、憲法の租税法律主義が容認することとは思えないからである。 また、前述の通り解除条件となる非居住者等本人確認書類の提出期限は附款となり、実質要件の内容として一体として規定すべきものであり、このような附款を実質要件とは切り離して別個の政令に委任規定することはできないと思われる。 したがって、このような課税要件の解除を行うような条件付規定は「課税要件としての手続要件」などではなく、ましてや「技術的細目的事項」としての政令委任事項であるということができないのではないか。 ② 民法の附款の許容性 租税法規に条件をつけると、法律効果の発生または存続が不確定となるから、法律効果が確定的に発生または存続することを租税法規が予定している行為には、条件を付することは許されない。 すなわち、租税法規は強行法規であり、法律効果が確定的に発生または存続することを予定していることから、原則、課税要件等に解除条件等附款を付すことは許されないと思われる。 ③ 憲法違反性(課税要件法定明確主義) 納税義務は、各租税法律に規定された要件の充足により抽象的に成立し、納付すべき税額はその法律の定める手続により具体的に確定する。納税者は、納税義務の消滅のために不明確不確定な租税法規であっても納付期限までに納税義務の履行をしなければならない(租税の公定力)。 課税要件に解除条件を付すと、納税者は納付期限内に納税義務を履行したとしても、解除条件の成就又は不成就が確定するまでは納税義務が消滅しない状態が続くことになり租税法律関係の不安定を招き納税者に不利益を与えることになる。 したがって、解除条件付課税要件は租税法律主義(課税要件法定明確主義)に反すると思われる。 (2) 技術的細目的事項を政令委任する授権法律の憲法違反性 ① 当然予定説に対する反論 技術的細目的事項説の根拠は、当然予定説にある。当然予定説が当然でなければ、技術的細目的事項説は論拠を失うことになる。 ② 課税要件追加型解釈に対する反論 技術的細目的事項説の根拠は、A課税要件追加型解釈枠組にある。A課税要件追加型解釈の読替えがB課税要件解除型解釈であるとする立場からは、課税要件解除型枠組が違憲であるならば技術的細目的事項説は論拠を失うことになる。 5 ❻立法趣旨:みなし提出期限の立法趣旨は何か 特定民間国外債については措法6条の明文上みなし遡及提出規定は存在しないが、高裁は解釈により同条⑥と同趣旨のみなし遡及効果を認定している。これは高裁がA課税要件追加型解釈枠組を前提とする当然予定説を採ったためである。 しかしながら、Aと表裏の関係にあるB課税要件解除型解釈枠組を前提とする解除条件付課税要件が違憲であるならば、利子受領者確認書の提出期限は適用要件ではなく、要件とはならない手続事項として単なる手続的効果規定ということになる。 そうであるならば、措法6条⑥のような非課税適用申告書のみなし提出期限のような規定を同条⑦の特定民間国外債の利子受領者確認書に規定する又はそう解釈する必要性は全くないことになる。 6 ❼結果妥当性 課税要件解除型解釈枠組の違憲を前提として施行令の利子受領者確認書の提出期限は非課税の手続要件ではなく単なる「要件とはならない手続事項」にすぎない、という手続事項届出型解釈枠組の立場からは、利払者(源泉徴収義務者)の義務や負担は次のようになると思われる。 二 主たる争点 ◆ ❶政令に定める利子受領者確認書の提出期限の非課税要件性 以上、筆者は❷から❼までの争点を総合して❶政令に定める利子受領者確認書の提出期限は利子非課税要件ではないという結論に達した。 三 採用すべき利子非課税規定の解釈の枠組 措法6条④⑦は明文をもって「非居住者等本人確認書類を税務署に提出したときは所得税を課さない。」と規定しており、その反対解釈として「非居住者等本人確認書類を税務署に提出しないときは所得税を課す。」が成立するならば、手続事項届出型解釈枠組は法律違反になる。 しかしながら、措置法6条そのものが課税要件追加型枠組の表裏である課税要件解除型枠組の前提とする規定である限り憲法に違反するのではないかという疑念をぬぐえないため、法律違反より憲法違反を重視し、反対解釈を行わないで、「措法④⑦は、非居住者等本人確認書類を税務署に提出しないときのことは何も規定していない。」と解釈を行った上で手続事項届出型解釈枠組を前提とする解釈を採用した。 Ⅶ おわりに 本事件は、源泉税徴収義務者が、非課税規定の実質要件は満たしたにも拘らず、事務ミスにより政令に定める届出書類の提出を失念したために18億円強の徴収というペナルティーを国から受けた事案である。国としては本来ならば利子非課税の実質要件を満たしているため税収を期待し得ないところ、源泉徴収義務者がミスをしたために18億円強の税収を手にした。 国は、法律による課税権に即した税収と主張するが、その法律は完璧ではなく、肝心な部分(届出書の提出期限)を政令に委任した綻びのある規定であり、併せて、解除条件付課税要件規定として憲法84条に抵触しかねないものであった。 本稿は、その綻びある法律について、届出書の手続事項を非課税規定の適用要件としてではなく、非課税規定の実質要件の解除条件とする解釈枠組を検討したものである。この解釈枠組みは、利子非課税により明文で規定された要件の反対解釈に合致しないとはいうものの、源泉徴収制度の基本構造(国税通則法15条)や租税法律主義(憲法84条)に合致する解釈だと思われる。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第16回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】1株当たり情報からその他の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 1株当たり情報 1株当たり情報について注記が求められている。 【事例:ラクスル(株) 2025年7月期の有価証券報告書】 2 重要な後発事象 重要な後発事象について注記が求められている。 【事例:ビジョナル(株) 2025年7月期の有価証券報告書】 【事例:南海電気鉄道(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 3 連結附属明細表 連結附属明細表として、社債明細表、借入金等明細表及び資産除去債務明細表を記載する。 【事例:沖電気工業(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 【事例:ティーライフ(株) 2025年7月期の有価証券報告書】 4 その他 その他の事項を記載する。 【事例:太陽ホールディングス(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 【事例:(株)ニチレイ 2025年3月期の有価証券報告書】 (了)