「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例137(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆分割が行われた場合の調整計算の原則 分割を行った法人が「試験研究費の特別控除」の適用を受ける場合には、分割前の事業年度に係る分割法人の比較試験研究費の額及び平均売上金額は、その全額を分割承継法人の試験研究費の額及び売上金額に加算する。 ◆分割が行われた場合の調整計算の特例 分割を行った法人が分割の日以後2ヶ月以内に、移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額及び売上金額とを区分する合理的な方法について納税地の所轄税務署に「試験研究費の認定申請書」を提出し、分割法人及び分割承継法人が納税地の所轄税務署にこの規定の適用を受ける旨の「試験研究費の届出書」を提出したときは、その移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額を、分割法人の試験研究費の額及び売上金額から控除するとともに、分割承継法人の試験研究費の額及び売上金額に加算することができる。 ◆分割が行われた場合の調整計算の見直し(措令27の4⑭) (1) 改正の内容 令和5年度の税制改正により、分割が行われた場合の「調整計算の特例」について、分割法人による移転事業に係る試験研究費の額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額とを区分する合理的な方法について税務署長の承認を受ける「試験研究費の認定申請書」の提出及び当事者全てによる「試験研究費の届出書」の提出が不要とされ、特例を受ける法人がその適用を受ける事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の事項を記載した書類を添付することにより適用を受けることができることとされた。 (2) 適用時期 上記改正は令和5年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用される。なお、改正前の制度が適用される事業年度において「調整計算の特例」を受けなかった場合には、調整計算の見直しの適用もないが、改正後の制度が適用される事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の事項を記載した書類を添付することにより、その事業年度において改正後の調整計算の適用を受けることができる。 (了)
学会(学術団体)の税務Q&A 【第8回】 「講習会事業・資格事業(法人税)」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 講習会事業と収益事業 講習会事業が収益事業に該当するか否かにあたっては、まず、法人税法施行令が掲げる34の特掲事業(法令5①)のうち、技芸教授業(法令5①三十)に該当するか否かで判断することになる。 技芸教授業とは、技芸の教授、学力の教授及び公開模試学力試験を行う事業をいう。そして、技芸教授業における技芸とは、具体的に次の22種類をいう(法令5①三十)。 〈技芸22種類〉 上記22種類の技芸に該当する講習会の場合は、原則として収益事業(技芸教授業)に該当するが、上記22種類の技芸に該当しない講習会の場合は収益事業(技芸教授業)に該当しない。学会が行う講習会の場合、上記22種類の技芸に該当しているケースは多くないと思われるため、学会の講習会が収益事業に該当するケースは少ないと思われる。 2 資格事業と収益事業 技芸教授業に関しては、「技芸に関する免許の付与その他これに類する行為を含む」とされているため(法令5①三十かっこ書き)、資格事業が収益事業に該当するか否かの判断は、講習会と同様、その内容が22種類の技芸に該当するか否かで行うことになる。 そのため、上記22種類の技芸に該当する資格の場合は、原則として収益事業(技芸教授業)に該当するが、上記22種類の技芸に該当しない資格の場合は、収益事業(技芸教授業)に該当しない(法基通15-1-66)。学会が行う資格事業の場合、上記22種類の技芸に該当しているケースは多くないと思われるため、学会の資格事業が収益事業に該当するケースは少ないと思われる。 ◆法人税基本通達15-1-66(技芸教授業の範囲) 3 公益法人の学会が公益目的事業の一環として実施する場合 上記22種類の技芸に該当する講習会や資格の場合は、技芸教授業に該当することになるが、たとえ技芸教授業に該当するような場合であっても、公益法人の学会が、公益目的事業の一環として、講習会事業や資格事業を実施する場合は、法人税法上の収益事業から除外される(法令5②一)。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第40回】 「相続開始日の前日に持分放棄をした場合、相続人は不動産を承継しないからその相続人に対する賦課決定処分は違法であるとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷課税台帳主義とその例外 固定資産税は、賦課期日に固定資産を有している者に対して課されるものである(地法343①、359)。この場合の固定資産の所有者というのは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律2条2項の区分所有者とする)として登記又は登録がされている者(地法343②前段)とされる。つまり、固定資産の所有者であっても、固定資産課税台帳に所有者として登録されない限り、固定資産税を課されることはない(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)771頁 また、賦課期日である1月1日に売買して所有権が移転したとしても、固定資産課税台帳に所有者として名前が記載されている限り固定資産税の納税義務を免れることはない(本連載【第36回】「1月1日に売却した家屋のその年の固定資産税等の納税義務者は売主であるとされた事例」参照)。 しかし、納税義務者が死亡した場合、死者に課税することはできない。そこで、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている地方税法348条1項の者が同日前に所有者でなくなっているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとされている(地法343②後段)。 土地又は、建物の所有者が死亡したが、登記名義はそのままになっていた場合において、その土地又は建物が複数の相続人の共有に属している場合には、各共有相続人は、その土地又は建物に対する固定資産税の全額について納税義務を負うことになる(※2)。 (※2) 金子・前掲(※1)書、777頁 では、共有不動産の持分所有者が死亡日の前日に共有持分を放棄した場合は、その持分に係る固定資産税の納税義務者は、死亡した者の相続人になるのだろうか。今回は、この件で争われた事例を検討する。 ▷どのような事例か この事例は、平成30年1月25日に亡くなった者が共有の不動産(以下「本件不動産」)を有していたが、死亡日の前日に本件不動産の持分を放棄する旨の意思表示をしていた。なお、放棄に基づく持分移転の登記はなされていなかった。 相続により相続人(子)(以下「審査請求人」)は単純承認をしていた。 処分庁は、平成31年1月1日時点における本件不動産の所有者は、相続人代表者指定届を提出した相続人である子であるとして賦課決定処分を行った。 これに対して審査請求人は、賦課期日である平成31年1月1日時点において、現に所有している者に該当しないから、不動産に係る固定資産税等の納税義務を負わないとして審査請求を行ったのが本事例である。 ▷争点及び審査請求人・処分庁の主張 争点は2つあったが、今回は、固定資産税等の賦課期日において、地方税法343条2項後段の「現に所有している者」は、登記名義人の相続人であるか否かの争点のみを検討する。また、本事例は、固定資産税だけでなく、都市計画税についても争われたが、固定資産税の論点に絞って検討する。 審査請求人は、不動産共有持分は被相続人の死亡する日の前日をもって共有持分の放棄の意思表示を行っており、民法255条の規定により、不動産に係る被相続人の共有持分は、死去の前日に、他の共有者に帰属することになったため、審査請求人は、本件不動産に係る賦課期日(平成31年1月1日)において、不動産の所有者でないから固定資産税の納税義務を負わないと主張した。 一方、処分庁は、本件不動産について、登記簿上、被相続人が共有者として登記されたままであって、被相続人の持分について移転登記されていないことから、その相続人代表者である審査請求人が本件不動産を現に所有している者であると主張した。 ▷答申書の審理員意見書と裁決 審査請求があった場合、審査庁に属する職員が審理手続きを行う審理員に指名され、処分について審理した上で、審理員意見書を作成提出する。その後、行政不服審査会へ諮問し、その答申を受け、裁決が行われる。 本事例の意見書の要旨は以下のとおりである。 答申書の結論は、審査請求人の主張に関する部分については認容すべきであるとし、裁決ではこれを受けて処分を取り消すとした。 ▷処分庁の主張に対する審査庁の判断 処分庁は、平成27年7月17日最高裁判所第二小法廷判決(平成26年(行ヒ)第190号固定資産税等賦課徴収懈怠違法確認等請求事件(TAINSコード:Z999-8352)、以下「平成27年最高裁判決」という)に基づき、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきではなく、平成27年最高裁判決の事案においても地方税法343条2項後段の類推適用が否定されたと主張するが、平成27年最高裁判決において、「現に所有している者」というためには、当該土地の所有権が当該者に現に帰属していることが必要であるとし、所有権の帰属を確定する必要がある旨判示している。 地方税法343条2項後段の「現に所有している者」という規定を文言に基づいて解釈すれば、実体法上所有権を有している者と解することが相当であり、同項前段から「登記簿(中略)に所有者として登記されている者」である相続人をもって、本件不動産を「現に所有している者」と解することは困難と言わざるを得ない。 処分庁は、審査請求人らが本件不動産の持分移転登記をなし得たこと、持分放棄により登記名義人が納税義務を免れるとすれば課税事務に多大な影響を及ぼすこと等を主張するが、たとえ処分庁が主張するような課税又は徴収上の不都合が生ずることがあったとしても、平成27年最高裁判決にもあるとおり、租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れた解釈をするべきではなく、課税実務上の不都合の存在を理由として、規定の文言から離れた解釈をすることは許されないものと解することが相当であると判断した。 * * * 登記名義人が生存している場合は、不動産等を売却したとしても賦課期日現在の課税台帳の名義人という形式で納税義務者が決まるが、死亡している場合は、真の所有者が納税義務者となる。本事例では、登記名義人が死亡したのは平成30年1月25日で、賦課期日が平成31年1月1日であることから、持分放棄の登記をするための時間的な余裕は十分にあった。それにもかかわらず、登記なく持分放棄が認められたことに対する処分庁の主張は納得できる。しかし、法が改正されない限り、同じような事例で悪用されても処分庁の主張が認められる可能性は低いのだろうか。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第53回】 「サンリオ事件 -外国子会社合算税制における適用除外規定の適用- (地判令3.2.26、高判令3.11.24)(その2)」 ~法人税法69条15項、(旧)租税特別措置法66条の6第3項(現行2項)、7項~ 税理士 吉村 優 5 考察 (1) A社及びB社の主たる事業が「著作権の提供」に該当し、外国子会社合算税制の適用除外要件を満たさないか否か(主たる争点①) 裁判所は「その余については判断するまでもなく、原告の請求には理由がないと判断する。」と判示し、実体審理を行わなかった。 外国子会社合算税制の適用除外要件該当性については、次の主たる争点②において考察するが、結論としては「適用除外記載書面の添付漏れ」という状況により外国子会社合算税制の適用除外要件を満たさないことが確定する。したがって、A社及びB社の主たる事業がいかなるものであれ、外国子会社合算税制の適用に関する判断が変わることはなく、裁判所の判断は妥当なものであると考える。 (2) 確定申告書に適用除外記載書面を添付していなくても、外国子会社合算税制の各適用除外規定の適用を受けられるか否か(主たる争点②) 原告はこの争点について以下の主張を行っている。 私見として、当時の措置法66条の6第7項(※1)を文理解釈すると、「確定申告書への適用除外記載書面の添付が本件各適用除外規定の適用要件とされていることは明らかといえる。」という裁判所の判断は正しいと考える。 (※1) 平成29年度税制改正により外国子会社合算税制は大幅に改正されている。この改正により適用除外記載書面の確定申告書への添付義務は廃止されている。 Xは上記主張のほか、香港子会社A社及びB社に係る申告及び納税スケジュールを踏まえると税負担割合の算定ができなかったとことにつき「やむを得ない事情」があったと主張しているが、この主張は却下されている。平成27年度税制改正により宥恕規定が制定されているが、宥恕規定における「やむを得ない事情」に、香港子会社に係る申告及び納税スケジュールがXの申告期限と合わないことが該当するとは考え難い(※2)。また宥恕規定を、過去にさかのぼって適用することが許されないことは明らかである。 (※2) 控訴審判決では、「平成27年度税制改正後の措置法66条の6第8項所定の『やむを得ない事情』は、一般的に『天災等、本人の責めに帰さない突発的事情』と理解されており、『特定外国子会社等の所在地国が賦課課税制度を採用していることにより内国法人の確定申告時までに正確な租税負担割合を算定できないこと』は、一般的に『やむを得ない事情』に当たらない。」と判示されている。 ただし、適用除外記載書面の添付漏れという理由のみにより適用除外要件の対象外となってしまうということは、本来外国子会社合算税制の適用を受ける必要がない納税者に対してまで課税を拡大することとなり、国際的二重課税を助長し、納税者に不当な負担を生じさせるという一面もある。外国子会社合算税制の趣旨を鑑みれば、法の建付けそのものが納税者に対して厳しすぎるものであるように感じられる。 (3) 確定申告書に適用除外記載書面を添付していない旨のYの主張は違法な理由の差し替えであって許されるか否か(主たる争点③) 裁判所は、この争点について、理由付記が求められる趣旨との関係で検討する必要があるとし、「上記追加主張を許すことによって、課税庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する機能が害され、又は、相手方に不服の申立てに便宜を与える機能が害されたりするとまではいえない。」、「上記追加主張を許すことにより、理由付記が求められる趣旨が没却されるということはできない。」と述べ、追加主張を認めることにより、理由付記が求められている趣旨が阻害されていることにはならないと判断している。この判断は妥当なものであると考える。 (4) A社及びB社が納付した外国法人税の額について、外国税額控除が適用されるか否か(主たる争点④) 原告はこの争点について以下の主張を行っている。 上記の納税者の主張に対し、裁判所は、こちらも確定申告書への明細書の添付漏れを理由として外国税額控除の適用を認めなかった。 法人税法69条15項の外国税額控除の手続き規定については、確定申告書への明細書の添付は必要とされており、裁判所の判断は妥当なものであると考える。 納税者が外国子会社合算税制の適用を想定していない場合(又は適用対象外であると判断している場合)、当然外国税額控除の適用に関する書面を添付していない。このような状況の下で、外国子会社合算税制の適用を受けた場合、外国税額控除の適用まで認められないとすれば、国際的二重課税の状態となり、納税者にとって過度の負担が生じることとなるが、制度上はやむを得ないと考える。 6 事業基準における適用除外要件該当性についての検討 岡村忠生氏は、「著作権の提供とは何か」という重要な争点について裁判所が判断を行わなかった点について以下のように述べている(※3)。 (※3) 岡村忠生「サンリオ事件判決への疑問」国際税務42巻4号(2022)47頁 青山慶二氏は、「キャラクタービジネスにおける、相乗効果を伴った3種類の事業活動は、伝統的で静的なライセンス付与・ロイヤルティ収受業務とは異なり、進出先における顧客ニーズを踏まえた積極的な営業活動等と結びついた独自の事業と認定できる余地があると思われる。」と述べ(※4)、事業基準該当の積極認定の可能性を示唆している。 (※4) 青山慶二「外国子会社合算税制における適用除外基準(現行法下では経済活動基準)のうち著作権の提供に適用される事業基準について」TKC税研情報31巻2号(2022)75頁 A社及びB社の主たる事業が「著作権の提供」に該当するのかどうかに関する検証は、一連の問題の重要争点であるにもかかわらず、裁判所は「その余については判断するまでもなく、原告の請求には理由がないと判断する。」と端的に述べ、実体審理を行わなかった。 本件は、平成29年度税制改正前の事案であり、適用除外記載書面の添付漏れという手続き要件不備による外国子会社合算税制の適用は免れないとしても、キャラクタービジネス分野における外国子会社合算税制の対象となる「著作権の提供」の範囲について、司法の判断が示されなかったことは心残りである。 (了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第26回】 「その他の注記③」 -企業結合・事業分離に関する注記- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における企業結合・事業分離に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表及び個別注記表において、企業結合・事業分離に関する注記は必ず記載しなければならない項目ではなく、その重要性を勘案して、企業集団の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と判断した場合に注記することになります。 注記する内容は、会計基準で定められている注記事項や有価証券報告書で開示が求められる事項を参考に検討することが一般的です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表どちらも企業結合・事業分離に関する注記について具体的な記載例は示されておらず、次のような記載上の注意が示されています。 【連結注記表】 (※) 個別注記表では、上記の「連結注記表」を「個別注記表」に読み替えた形式で記載上の注意が示されています。 2 注記事項の解説 (1) その他の注記(企業結合・事業分離に関する注記)の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき企業結合・事業分離に関する注記事項の定めは会社計算規則にはなく、次のようなその他の注記として包括的に定められています(会社計算規則第116条)。 (2) 注記事項の解説 企業結合・事業分離に関する注記は、会社計算規則上、必ずしも記載が求められているものではなく、財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と企業が判断した場合に注記することになります。 例えば、企業結合に関する注記を記載する場合、「企業結合に関する会計基準」第49項で定める以下の項目を参考に注記することが実務的には多いです。 他にも、企業結合や事業分離では様々な場合に注記を求めていますが、いずれの場合も「企業結合に関する会計基準」や「事業分離等に関する会計基準」で定める注記事項に沿って注記を作成することが考えられます。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [株式会社フジシールインターナショナル 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社フジシールインターナショナル「第66期定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」15~16頁より抜粋。 [株式会社セブン銀行 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社セブン銀行「第23回定時株主総会招集ご通知交付書面への記載を省略した事項」19頁より抜粋。 [SBテクノロジー株式会社 2024年3月期 連結注記表] ※SBテクノロジー株式会社「第36期定時株主総会招集ご通知」70~71頁より抜粋。 * * * 次回の第27回は、「その他の注記(資産除去債務に関する注記)」をテーマに解説します。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第5回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、第一部【企業情報】第3【設備の状況】の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2024年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 【設備投資等の概要】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の1【設備投資等の概要】では、当連結会計年度の設備投資の目的、内容及び投資金額をセグメント情報に関連付けて概括的に記載する。また、重要な設備の除却、売却等があった場合には、その内容及び金額をセグメント情報に関連付けて記載する。 【事例:ヤマトホールディングス(株)2024年3月期の有価証券報告書】 2 【主要な設備の状況】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の2【主要な設備の状況】では、当連結会計年度末における主要な設備(連結会社以外の者から賃借しているものを含む)について、提出会社、国内子会社、在外子会社の別に、会社名(提出会社の場合を除く)、事業所名、所在地、設備の内容、設備の種類別の帳簿価額(土地については、面積も記載)及び従業員数を、セグメント情報に関連付けて記載する 【事例:フリービット(株)2024年4月期の有価証券報告書】 3 【設備の新設、除却等の計画】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の3【設備の新設、除却等の計画】では、連結会社において当連結会計年度末に重要な設備の新設、拡充、改修、除却、売却等の計画がある場合には、その内容(例えば、事業所名、所在地、設備の内容、投資予定金額(総額及び既支払額)、資金調達方法(増資資金、社債発行資金、自己資金、借入金等の別をいう)、着手及び完了予定年月、完成後における増加能力等)を、セグメント情報に関連付けて記載する。 【事例:(株)デサント 2024年3月期の有価証券報告書】 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第21回】 「就業規則の作成義務」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 就業規則とは、労働時間や賃金、休暇等の労働条件について規定したものですが、常時10人以上の労働者を雇用する事業所には、作成・届出義務があります。今回は、就業規則の作成等に関する留意点について解説します。 * * 解 説 * * 1 就業規則の作成・届出義務 常時10人以上の労働者を雇用している事業所は、就業規則の作成義務と労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。常時10人以上というのは正規・非正規労働者を問いません。 ご質問のように、正職員5人でパート職員が5人であれば、合計10人になり、就業規則を作成して届け出る義務が生じます。 2 就業規則の記載内容 就業規則には、主に労働時間や賃金等の労働条件を記載しますが、必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)と事業所にその定めがあれば記載しなければならない事項(相対的記載事項)があります。 3 就業規則の作成手続き 使用者は、就業規則の作成又は変更については、過半数を代表する者(※)の意見を聴かなければなりません(労働基準法第90条第1項)。 (※) 過半数を代表する者とは、その事業所に労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にはその労働組合、ない場合には労働者の過半数を代表する者をいいます。 労働基準監督署には、就業規則(本体)と就業規則届 (〈記載例1〉参照)に意見書(〈記載例2〉参照))を添付して、届出をします。それぞれ2部作成し、受付印が押された就業規則の控えを受け取ります。 〈記載例1〉 〈記載例2〉 4 就業規則の周知義務 使用者には、就業規則を周知する義務が課せられています(労働基準法第106条第1項)。労働者に就業規則の内容を知らせなければなりません。 就業規則の周知方法は、労働基準法施行規則第52条の2に定められており、次の3つの方法のいずれかを行う必要があります。 5 留意点 労働基準法第2条では、「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」と規定されています。就業規則は、労働者及び使用者それぞれに遵守義務があります。 したがって、使用者が就業規則を守らない場合は、労働基準法違反になり、逆に労働者が就業規則を守らない場合は、就業規則の定めにより服務規律違反等の処分の対象になります。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例96】 ENECHANGE株式会社 「公認会計士等の異動に関するお知らせ」 (2024.7.5) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ENECHANGE株式会社(以下「エネチェンジ」という)が2024年7月5日に開示した「公認会計士等の異動に関するお知らせ」である。同社の会計監査を担当する有限責任あずさ監査法人(以下「あずさ監査法人」という)が退任することになったのだが(この時点で後任は未定。同年7月30日に「一時会計監査人の選任に関するお知らせ」を開示)、その「異動に至った理由及び経緯」の記載は次のとおりである(下線は筆者による)。 あずさ監査法人は、エネチェンジによる不正を理由として退任することになったのだが、その不正は、エネチェンジがSPCを「意図的に」連結子会社から外していたことである(意図的でなければ誤りで済むが、意図的であれば不正となる)。 2 外部調査委員会の見解 エネチェンジは、2024年3月27日に「外部調査委員会の設置及び2023年12月期有価証券報告書の提出期限延長申請の検討に関するお知らせ」を開示し、あずさ監査法人から「SPCの連結要否の検討に必要な情報が当社取締役会等に適時かつ十分に報告又は共有がされていなかった等の内部統制上の問題点があるのではないかとの指摘を受け」、外部調査委員会を設置したとしていた。 そして、その調査報告書を同年6月21日に受領した後(同日開示「外部調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ」)、同年6月27日に公表した(同日開示「外部調査委員会の調査報告書の公表に関するお知らせ」)。調査報告書によると、SPCを連結子会社とするか否かを判断するにあたり必要な以下の4点の情報について、エネチェンジからあずさ監査法人に対して説明されていなかったり、説明と事実が異なっていたりしたという(「城口氏」は当時の代表取締役の城口洋平氏、「X氏」はSPCの最大出資者、「ENE社」はエネチェンジ)。 上述のとおり、説明されていなかったり、説明と事実が異なっていたりしたことが意図的であれば、不正となるのだが、調査報告書は、意図的であるという事実は認められなかったと結論付けている。 ただし、調査報告書はエネチェンジにおける様々な問題点を指摘している。意図的であるという事実は認められなかったとしても、説明されていなかったり、説明と事実が異なっていたりしたのである。第6章の「本調査において認められた問題点に係る原因分析」では、その原因として主に内部統制上の問題があげられているのだが、その中に「株価の上昇を強く志向する一方でコンプライアンスを軽視した経営トップらの姿勢」として次のような記載がある。 外部調査委員会としては、調査した限り不正ではないという認定に至ったわけだが、エネチェンジは不正が極めて生じやすい状況にあったといえる(不正リスク要因は揃っている)。 3 監査法人の見解 あずさ監査法人は、「外部調査委員会の調査結果を踏まえてもなお、財務諸表の重要な虚偽表示の原因となる経営者による不正があったと判断した」ため、退任することにしたのだが、今回の開示の4日後の2024年7月9日に提出された第9期有価証券報告書に添付された監査報告書の「監査上の主要な検討事項」いわゆるKAMには、「経営者による内部統制の無効化リスクへの対応」があげられており、それへの「監査上の対応」の中には次のような記載がある(下線は筆者による)。 あずさ監査法人は、監査手続の結果、不正が存在したと判断し、エネチェンジに対して「見解書」を提出している(過去に不正が存在していたということであり、この監査報告書における意見は無限定適正)。不正は存在しなかったと判断する外部調査委員会による調査報告書のみ公表され、不正が存在したと判断するあずさ監査法人による「見解書」が公表されないのは妥当なのだろうか。不正の有無を判断するのは本来あくまで監査法人であるし、投資家にとっても投資判断上重要な情報であるように思われる。エネチェンジは、あずさ監査法人による「見解書」を公表すべきかと思われるのだが。 (了)
プラス思考の経済効果 【第27回】 「2024年祇園祭の経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 京都の祇園祭は八坂神社の祭礼で、大阪の天神祭、東京の山王祭と並んで日本三大祭の1つです。そして、9世紀の貞観年間より続く京都の夏の風物詩で、毎年大勢の観光客が楽しみにしている歴史的行事の1つでもあります。昨年は新型コロナが5類に移行し、さらに行動制限がなくなって、今年は日本人の旅行客、また訪日外国人の観光客が急増してきているので、大勢の観光客が祇園祭に詰めかけたであろうと予想されています。今回は今年の祇園祭の経済効果を推計しました。 2 祇園祭の直接効果 (1) 観光客数 まず、今年の観光客数を予測しましょう。京都府警の発表による、過去の祇園祭の前祭(4日間)と後祭(4日間)の観光客数は以下の通りです。 〈最近の祇園祭の観客数〉 国土交通省観光庁の2024年5月15日発表の「旅行・観光消費動向調査 2024年1-3月期(速報)」によると、今年の1-3月の日本人国内延べ旅行者数は対前年比で+9.6%でした。また、訪日外国人の2024年の1-5月の対前年比の伸び率は+69.5%でした。(日本政府観光局、2024年6月19日発表)。それらの数値を考慮して、2024年の祇園祭の観客数は対前年比で少なくとも約10%は増加すると仮定します。そうすると、2024年の祇園祭の観客数は約90万2,000人となります。 まず、この観光客の内訳を分析します。「令和元年京都観光総合調査」によると、新型コロナ前の2019年の京都市内の総観光客の約83.4%は日本人、約16.6%は訪日外国人でした。この比率を用いると、今年の祇園祭の日本人観光客は約75万2,268人、訪日外国人観光客は約14万9,732人となります。 次に、これらの日本人観光客と訪日外国人観光客について、日帰り客数と宿泊客数を推計します。前述の京都市の「令和元年京都観光総合調査」によると、2019年の京都市内の日本人観光客のうち日帰り客は約79.0%、宿泊客は約21.0%でしたので、今年の日本人の日帰り観光客は約59万4,292人、宿泊客は約15万7,976人となります。 また、前述「令和元年京都観光総合調査」によると、2019年の京都市内の外国人観光客のうち日帰り客は約57.1%、宿泊客は約42.9%でしたので、日帰り客は約8万5,497人、宿泊客は約6万4,235人となります。 (2) 観光客の消費金額 ① 日本人観光客の消費金額 令和4年の京都市の「観光客の動向等に係る調査」によると、諸物価の高騰などにより2022年の京都市内の日本人観光客の日帰り客1人当たりの消費額は1万2,244円、宿泊客1人当たりの消費額は5万9,490円でした。さらに、総務省の令和6年1月19日発表の「2020年基準消費者物価指数」によると、2023年の総合物価指数は対前年比で3.2%の上昇率でしたので、2024年もほぼ同様(3.2%)の上昇率と仮定すると、2024年の京都市内の日本人観光客の日帰り客1人当たりの消費額は約1万3,040円、宿泊客1人当たりの消費額は約6万3,358円になると推定されます。 計算の結果、日帰り日本人観光客の消費額は約77億4,957万円、宿泊客の消費額は約100億904万円、日本人観光客の消費総額は約177億5,861万円となります。 ② 外国人観光客の消費金額 次に、外国人観光客の消費額を推計します。京都市の「令和元年京都観光総合調査」によると、2019年の京都市内における日本人の日帰り観光客1人当たりの消費額は約1万1,054円、宿泊客1人当たりの消費額は約5万4,970円で、他方外国人観光客の日帰り客1人当たりの消費額は約1万9,766円、宿泊客1人当たりの消費額は約6万991円でした。 そこで、日本人の2019年から2024年までの観光客の上昇率を訪日外国人に適用すると、次のように2024年の外国人観光客で日帰り客の1人当たり消費額は約2万3,317円、宿泊客の1人当たりの消費額は約7万298円となりました。 〈日帰り外国人観光客の1人当たり消費額〉 〈宿泊外国人観光客の1人当たり消費額〉 この値を用いると、訪日外国人観光客の日帰り客の消費額は約19億9,353万円、宿泊客の消費額は約45億1,559万円、訪日外国人観光客の消費総額は約65億912万円となります。 ③ 観光客の消費総額 これまでの計算の結果、今年の祇園祭の日本人観光客と外国人観光客の消費総額は約242億6,773万となります。 3 祇園祭の経済効果 今年の祇園祭に関する直接効果、つまり観光客の消費総額の約242億6,773万円を基準にして、京都府の2015年の「京都府産業連関表」を用いて経済効果(経済波及効果)を計算した結果は、以下の通り約203億1,209万円となりました。この金額は、近年では祇園祭の経済効果の最高額であると推定されます。 〈祇園祭の経済効果〉 4 まとめ 2024年の祇園祭の経済効果が近年では最高額の約203億1,209万円となった理由として、以下のことが考えられます。 祇園祭の最近の経済効果は以下に示されています。 〈最近の祇園祭の経済効果〉 京都の祇園祭は京都・関西地域のみならず日本中の人たちが楽しみにしている祭の1つです。最近は訪日観光客数も増加してきています。上記の表を見ると、祇園祭がいかに京都のまちにとって大きな経済効果をもたらしているかがよくわかります。ただ、祇園祭は神事であり、観光のための行事ではありません。これからも神事としての伝統を守り、また地元の経済発展に貢献するように、バランスをとって祇園祭が発展していくことを願っています。 (了)
《速報解説》 GM課税制度に係る法人税等の会計処理等の取扱いに対応した 「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令」等が公布・施行される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024(令和6)年8月22日、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第70号)が公布された。これにより、2024年6月14日から意見募集されていた内閣府令(案)等が確定することになる。内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方も公表されている。 これは、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 財務諸表等規則について次のように改正する(連結財務諸表規則も基本的に同様に改正する)。 財務諸表等規則ガイドライン及び連結財務諸表規則ガイドラインも改正する。 Ⅲ 施行日等 公布の日(2024年8月22日)から施行する(経過措置に注意)。 (了)