谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第39回】 「国税通則法115条」 -税務訴訟における国税通則法と行政事件訴訟法との連続性とその限界(その2)- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法115条(不服申立ての前置等) 1 はじめに 前回は、松沢智教授の租税争訟法論(同『新版 租税争訟法-異議申立てから訴訟までの理論と実務-』(中央経済社・2001年)参照)における「意義及び審査から訴訟にいたるまでを租税争訟手続として一貫し体系化したい」(同「初版 はしがき」7頁)との考えから示唆を受け、「租税争訟法の特質」(同12頁)に関連する問題として更正と再更正との関係の問題を取り上げ検討し、もって「税務訴訟における国税通則法と行政事件訴訟法との連続性とその限界」を明らかにすることを試みた。 今回は、「税務訴訟における国税通則法と行政事件訴訟法との連続性と限界」の問題に関連して不服申立前置主義をいわば「連続性の強制」の問題として取り上げ、憲法上の適正手続保障(13条・31条参照)の税法における現れとして租税法律主義の内容を構成する手続的保障原則とりわけ司法的救済保障原則(拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【27】参照)の見地から、納税者の「裁判を受ける権利」(憲32条)との関係で不服申立前置主義の問題性を検討することにする。その前に、まず、不服申立前置主義の趣旨・目的をみておこう。 2 不服申立前置主義の趣旨・目的 国税通則法第8章第2節は、国税に関する法律に基づく処分の取消訴訟について、行政事件訴訟法上の自由選択主義(8条1項本文)の例外(同項但書)として、審査請求という不服申立ての前置を定め(税通115条1項柱書本文。審査請求前置主義)、その例外として、審査請求の前置を要せず直ちに出訴することができる場合を定めている(同柱書但書)。なお、国税通則法115条1項柱書本文が審査請求前置主義の対象を、国税に関する法律に基づく処分で「不服申立てをすることができるもの」に限定していることについては、「そのようなものでなければ不服申立前置をもともと要求しえないのであるから、『不服申立てをすることができるもの』という限定は不要であつたというべきである。」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])LA76~78頁[清永執筆])との指摘がされているが、正当な指摘である。 不服申立前置主義は、平成26年の行政不服審査法改正(同年法律第68号)を受けて、「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(同年法律第69号)による異議申立前置主義(改正前税通75条3項)の廃止及び異議申立て(同条1項)に代えて設けられた再調査の請求(改正後税通75条1項1号イ)と審査請求との自由選択主義の採用(同号)によって、審査請求前置主義として存続するに至っているが(第34回参照)、そもそもは昭和25年のシャウプ税制改正によって、再調査の請求(昭和37年の行政不服審査法[同年法律第160号]の制定後は異議申立て)と審査請求という2段階の不服申立ての前置(いわゆる「二重前置」ないし「二審制」)を採用するものとして導入された(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和7年改訂・18版〕』(大蔵財務協会・2025年)1124-1126頁参照)。 不服申立前置主義の採用理由ないし趣旨・目的について、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)』(昭和36年7月)26頁は、「税務に関する処分は、大量的に行なわれるものであること、不服申立ての裁決により行政の統一を図る必要が強いこと及び専門技術的な性質を備えていること等にかえりみ」当時の制度を維持する旨を述べたが、これを同『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)135頁は次のとおり敷衍した(この説明に対する批判的検討については中川=清永編・前掲書LA100~102-107~200頁[清永執筆]参照)。 ここでは「課税処分等の特質」(野一色直人『国税通則法の基本 その趣旨と実務上の留意点』(税務研究会出版局・2020年)232頁)が不服申立前置主義の採用理由とされているが、最判昭和49年7月19日民集28巻5号759頁(以下「昭和49年最判」という)ではその趣旨・目的は次のとおり判示されている(下線筆者)。 ここで注目されるのは、不服申立前置主義の趣旨・目的が「二重前置」に重点を置いて述べられており、前記の税制調査会答申に関する説明とは異なり「裁判所が訴訟のはん濫に悩まされることを回避しうること」には少なくとも明示的には言及されていないことである。このことは、上記判示が「特別の考慮を払う」ものとする「納税者の権利救済」も、行政による「納税者の権利救済」を念頭に置いたものであることを意味するものと解される。上記判示において不服申立前置主義が「租税行政の特殊性を考慮し、その合理的対策としてとられた制度」として位置づけられていることからしても、そのような理解が成り立つものと考えられる。 そうすると、昭和49年最判は、国税通則法の昭和45年改正による国税不服審判所の創設前の事件に関する判断ではあるが、審査請求について見直し機能説の立場に立ちつつ「他面において」行政による「納税者の権利救済」を説示したものと解される。見直し機能説は、特に国税不服審判所の機能に関して、「国税不服審判所も国税庁に属している以上は、単に納税者の権利保護を目的とするのみならず、むしろ上級行政庁の監督権の行使としての原処分の見直しの性格をもつものであると説く」(松沢・前掲書34頁)見解であるが、昭和49年最判は昭和45年改正後における国税不服審判所長に対する審査請求をも想定しながら、「再審理の機会」としての異議申立てについてだけでなく、審査請求についても基本的には見直し機能説の立場に立った判断を示したものと解されるのである。 3 不服申立前置主義と裁判を受ける権利 ところで、不服申立前置主義は、従来から、納税者の「裁判を受ける権利」との関係で批判を受けてきた(差し当たり新井隆一「税務行政訴訟・序説」日税研論集43号(2000年)3頁、13頁参照)。そのような批判を意識して国税不服審判所の創設や平成26年行政不服審査法改正に伴う審査請求前置主義への移行に関して次のとおり説かれてきたところである(①=金子宏=石倉文雄=平石雄一郎「座談会 国税不服審査制度の今後のあり方」日税研論集19号(1992年)165頁、177頁[金子発言]、②=南博方ほか編『条解 行政事件訴訟法〔第5版〕』(弘文堂・2023年)308頁[磯部哲執筆]。下線筆者。①に関連して金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1096-1097頁参照)。 上記の見解はいずれも不服申立前置主義を裁判を受ける権利の侵害として違憲とするとまでは説いておらず、次のような判例の立場(ⓐ=東京高判昭和49年9月26日税資76号848頁、ⓑ=最大判昭和26年8月1日民集5巻9号489頁)を前提とするものと解される。 このような判例の立場からすると、前記②の見解が述べるように、不服申立前置主義は「立法政策」の問題ということになるが、その「正当化事由」については、従来から、前記2でみた趣旨・目的が考慮されてきたところ、平成26年行政不服審査法改正に伴う不服申立前置の見直しに当たっては、「不服申立件数の大量性」が次のとおり考慮され、国税通則法115条1項に基づく不服申立前置主義は審査請求前置主義として存置されることになった(宇賀克也『解説 行政不服審査法関連三法』(弘文堂・2015年)222頁。下線筆者。南ほか編・前掲書309-310頁も参照)。 「不服申立件数の大量性」は、確かに、「処分の大量性」に比べて「強固な正当化事由」(前記②の見解)といえよう。ただ、「強固な正当化事由」をより強固なものにするには、不服申立前置の「質的な面」での効果についても検討が必要であったように思われる。その「質的な面」について指摘しておくべき問題は、昭和49年最判が不服申立前置主義の趣旨として考慮した「当初の処分が必ずしも十分な資料と調査に基づいてされえない場合があること」をどのように考えるかである。 この問題については、これを取り巻く制度的状況が、とりわけ平成23年の国税通則法改正における調査手続の改善(税通74条の2以下、前掲拙著【139】、第27回~第30回参照)、不利益処分に対する理由附記の一般化(税通74条の14第1項、前掲拙著【148】参照)等により、大きく変化してきたことから、前記のような考慮は少なくとも制度の建前上は不服申立前置主義の「正当化事由」としての意味を失ったとみてよかろうが、実際上もそのように考えてよいかどうかについては実態に即した検証がなお必要であるように思われる。 この点について若干附言しておくと、その検証は、裁判所が調査手続、理由附記等についてどのような態度で判断しているのかという観点からも、行うべきであろう。というのも、裁判所による「当初の処分」に対する手続法的統制が緩やかなものであれば、昭和49年最判にいう「当初の処分が必ずしも十分な資料と調査に基づいてされえない場合」に対する司法的統制が緩やかになり、そのいわば反射的効果として不服申立前置主義の正当化に「手を貸す」結果につながりかねないからである。 裁判を受ける権利の保障(司法的救済保障原則)の見地からすれば、裁判所は「当初の処分」に対する司法的統制を厳格化することによって、不服申立前置主義の正当化事由を「強固化」(厳格化)すべきであろう。裁判所のそのような態度は、具体的には、不服申立前置主義の例外としての審査請求前置不要の要件(税通115条1項柱書但書)の解釈にも顕現することになろう(不服申立前置主義の例外要件の解釈については志場ほか共編・前掲書1368-1371頁、金子・前掲書1125-1128頁等参照)。 (了)
相続税の実務問答 【第112回】 「平成15年に相続時精算課税を選択し住宅取得資金贈与の特例を受けていた場合の相続税の課税価格への加算」 税理士 梶野 研二 [答] お父様から贈与を受けた住宅取得等資金の額25,000,000円の全額を相続税の課税価格に加算しなければなりません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税を適用した生前贈与財産の相続税の課税価格への加算等 被相続人からの生前贈与を受けた財産が相続時精算課税の適用を受けるもの(贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものに限ります。)である場合には、相続税法第21条の15及び同法第21条の16の規定により、その財産の価額を相続税の課税価格に加算又は算入することとなります。 贈与税の申告に当たり、贈与税の課税価格から相続時精算課税に係る特別控除額を控除しているときには、この特別控除額を控除する前の課税価格が相続税の課税価格に加算又は算入される金額となります(【第111回】「非課税特例の適用を受けた住宅取得等資金の相続税の課税価格への加算-令和6年以降に相続時精算課税を適用した場合」の説明の3を参照)。 なお、令和6年以降の相続時精算課税の適用に当たっては、受贈者ごとに110万円の基礎控除が認められており、この基礎控除額に相当する金額は、相続税の課税価格への加算又は算入の必要はありませんが、令和5年以前に相続時精算課税を適用した贈与財産については基礎控除額の控除の規定はありませんので、贈与税の課税価格の計算の基礎に算入された金額がそのまま相続税の課税対象になります(平成5年所得税法等の一部を改正する法律附則19④、相法21の11の2①②、措法70の3の2①)。 2 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税に係る贈与税の特別控除の特例 特定受贈者(注)が平成15年1月1日から平成21年12月31日までの間に住宅取得等資金を贈与により取得した場合で、①相続時精算課税適用者である場合、又は②住宅取得等資金について相続時精算課税選択届出書を提出しようとする者であるときは、その住宅取得等資金の贈与があった年分の贈与税については、住宅資金特別控除額(1,000万円又はその年分のその贈与者から贈与により取得した住宅取得等資金のうちいずれか低い金額)を贈与税の課税価格から控除することができることとされていました(平成22年法律第6号による改正前の租税特別措置法70条の3の2)が、この特別控除の特例は、平成22年の税制改正により廃止されました。 (注) 特定受贈者とは、次の要件を満たす者をいいます(平成22年法律第6号による改正前の租税特別措置法70条の3③一)。 ① 相続税法第1条の4第1号又は第2号の規定に該当する個人であること、すなわち贈与税の無制限納税義務者に該当する者であること。 ② 住宅取得等資金の贈与をした者の直系卑属である推定相続人であること。 ③ 住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の1月1日において20歳以上の者であること。 現在の住宅取得資金等に係る贈与税の特例制度(措法70条の2)は、条文見出しが「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」となっていることからも分かるように、直系尊属からの贈与により住宅取得等資金を取得した受贈者が一定の要件を満たす場合には、住宅資金非課税限度額までの金額については、贈与税の課税価格に算入しないとするものです。 一方、平成22年税制改正で廃止された特別控除の特例は、特定贈与者から贈与により取得した住宅取得等資金は贈与税の課税価格に算入された後に、最大1,000万円をその課税価格から控除する仕組みでした。 このように現行の住宅取得資金贈与の特例と平成22年に廃止された特別控除の特例とでは、住宅取得等資金のうち一定額(住宅資金非課税限度額又は特別控除額)が贈与税の課税価格に算入されるか、されないかの違いがあることに注意する必要があります。 3 ご質問の場合 あなたは、平成15年にお父様から贈与を受けた住宅取得等資金について、当時施行されていた特別控除の特例を適用することを選択して、贈与税の課税価格2,500万円から住宅取得等資金に係る特別控除額1,000万円を控除し、さらにその残額から、相続時精算課税に係る特別控除額を控除して、贈与税額0円の申告をしています。 そうしますと、贈与税の申告において納付すべき贈与税額が算出されなかったとしても、贈与税の課税価格計算の基礎に算入された金額は、住宅取得等資金である2,500万円全額となりますので、2,500万円を相続税の課税価格に加算する必要があります。 ⦅参考1⦆ 平成22年改正で廃止された特別控除の特例の規定 ⦅参考2⦆ 現在の住宅取得等資金の非課税の特例の規定 (了)
給与計算の質問箱 【第70回】 「年末調整書類の書式の変更点」 ~基礎控除等の見直し及び特定親族特別控除の創設等への対応~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 年末調整書類の書式について前年から変更がありましたら教えてください。 A 年末調整書類の書式の変更点は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 給与所得者の扶養控除等申告書 令和6年分と令和7年分の書式は同じである。 令和7年分と令和8年分の書式は赤枠の箇所が変更になった。 【図表1】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」より抜粋のうえ筆者作成 【図表2】令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」より抜粋のうえ筆者作成 2 給与所得者の保険料控除申告書 令和6年分と令和7年分の書式は同じである。 3 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 令和6年分と令和7年分の書式は赤枠の箇所が変更になった。 【図表3】令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」より抜粋のうえ筆者作成 【図表4】令和7年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和7年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」より抜粋のうえ筆者作成 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第78回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 (2) 匿名性・分散性と税務執行上の問題 ア スーパータックスヘイブンとしての暗号資産の特徴 カリフォルニア大学アーバイン法科大学院の租税法の研究者であるMarianは、暗号資産については、従来のタックスヘイブンにおいて最も重要な①源泉地国課税の対象と②匿名性という2つの特徴を備えていることを指摘する(Omri Y. Marian, Are Cryptocurrencies‘Super’ Tax Havens?, 112 MICH. L. REV. FIRST IMPRESSIONS 38, 42(2013))。 さらに、Marianは、次のとおり、③仲介役の金融機関の不存在に注目する。 このことから、ビットコインは、国際的な脱税防止体制の発展の影響を受けないという。 具体的には、FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)の整備などにより(※)、情報申告や源泉徴収などの点において、税務当局の代理人としての役割を担い、徴税の新たな担い手となっている金融機関が蚊帳の外に置かれるため、暗号資産はスーパータックスヘイブンとなる可能性を秘めていると指摘する(Marian, Are Cryptocurrencies ‘Super’ Tax Havens?, at 42)。 (※) Marian は、FATCAとこれを範としたCRS(共通報告基準)の導入により、オフショアを拠点とした脱税が減少した、あるいは少なくとも著しく複雑化したという重要な実証的証拠があるという見解を示している(Omri Y. Marian, Not“Super Tax Havens”After All, UC Irvine Sch. of L. Rsch. Paper No. 2025-01, forthcoming in International Issues in the Taxation of Cryptoassets(Editora Revista dos Tribunais, 2025)(last visited Mar. 25, 2025))。 もっとも、注目すべきことに、Marianは、現在では、暗号資産は伝統的なタックスヘイブンよりも効果的に機能するものではなく、おそらくは機能できないことが徐々に明らかになったという結論を示している(Marian, Not‘Super Tax Havens’After All, at 8)。 このような結論は、上記②と③に関して、ブロックチェーン技術は、理論上、金融資産の取引において仲介者に頼ることなしに広範囲に分散された疑似的な匿名性を有するシステムを提供できる可能性を持っている一方で、次のような現実があることを論拠としているようである。 なるほど、現時点において暗号資産の取引の多くは、中央集権的な取引所であるCEXや決済事業者などの仲介者を経由して行われており、これらを通じた本人確認(KYC)やブロックチェーン分析技術の進展により、暗号資産の分散性や匿名性は相対的に限定されているとの指摘には一定の根拠がある。 特に、主流となっているビットコインやイーサリアムのエコシステムでは、オンチェーン取引(ブロックチェーンに記録されている取引)の追跡が技術的には可能であり、法執行機関や税務当局の分析能力も高まりつつある。 しかしながら、こうした現状だけをもって、暗号資産の本質的特性である分散性や匿名性があらゆる場面において実質的に失われたと断定することまではできないであろう。 以上のように、現状の暗号資産市場が中央集権的要素を含みつつも、分散性・匿名性の確保は依然として一定の範囲・程度で実現されており、将来的にもその可能性が閉ざされたわけではない。 規制強化や国際協調によって一時的に透明性が向上したとしても、それを抜け道とする新たな技術や取組みが出現する可能性は常に存在しており、むしろ、規制の強化がさらなる分散化・匿名化を招きうるというパラドックスを内包している。 現状を静的に捉えるのみならず、動的かつ継続的な技術革新と人々の行動変容を前提とした規制や税制の設計が求められているといえよう。 もっとも、本稿の問題関心は、上記見解の妥当性や暗号資産のスーパータックスヘイブン該当性ではなく、暗号資産の匿名性と分散性が引き起こす税務執行上の問題である。次回以降、このような観点から考察を進める。 (了)
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第13回】 「「サステナビリティ関連財務情報」と財務情報、どんな関係にあるの?」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔ジャーナル食品社の登場人物〕 * * * IFRS S1及びS2や、それと整合する我が国のSSBJ基準は、財務報告書(日本では有価証券報告書)の主要な利用者である投資家等が経済的な意思決定を行うにあたり有用なサステナビリティ関連財務情報を開示することに焦点を当てています(【第12回】参照)。 * * * * * * ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※1) Reporting on enterprise value:Illustrated with a prototype climate-related financial disclosure standard.Figure1を参考に作成 財務諸表を中核とする財務情報は、企業の財政状態や経営成績、キャッシュ・フローの状況に関する情報を提供します。これは、投資家等が企業に関する経済的意思決定を行う際の基礎となっています。 一方、サステナビリティ関連財務情報は、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得る、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を提供するものです。 * * * * * * また、たとえば、固定資産について減損損失を計上した要因が、低炭素社会への移行に伴い自社製品の需要減少が予想され、固定資産の収益性が低下したことにあるとします。そのような場合、サステナビリティ関連財務情報が開示されることで、減損損失を計上した背景に関し、より詳しい情報が提供されます。 * * * * * * これまで、サステナビリティ情報は、財務情報以外の情報、すなわち『非』財務情報と捉えられることが多かったと考えられますが、基準の開発により、サステナビリティ関連財務情報は財務報告の枠内に統合されたとみることができます。サステナビリティ関連財務開示は、財務報告の一部と位置付けられるのです。 * * * * * * 従前、任意に開示されてきたサステナビリティ情報は、そのデータの範囲が報告企業(財務諸表を作成する企業)の範囲と一致しないケースもありました。対して、サステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表と同じ報告企業に関するものでなければならないとされています。 * * * * * * したがって、報告企業が連結財務諸表を作成しているなら、サステナビリティ関連財務開示も、親会社と子会社のサステナビリティ関連のリスク及び機会が理解できるものである必要があります。 * * * * * * ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※2) SSBJ基準の適用開始年度及びその翌年度は、実務負担に配慮し、サステナビリティ関連財務開示を後日とすること(二段階開示)が法令上の経過措置として認められる見通しである(金融庁「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ「中間論点整理」」)。 * * * * * * 財務情報は、複式簿記のしくみに基づき作成されます。開示される財務諸表や注記事項、その数値を用いた開示事項といった情報どうしは、財務数値に裏付けられた明確かつ強固なつながりを持っていると言えます。 一方、サステナビリティ関連財務情報は、そのような有機的なしくみに基づいて作成されるものではなく、現象を言葉や数字で表現するものです。そのため、利用者が「情報のつながり」を理解できるように開示することが重要となります。 * * * * * * サステナビリティ関連財務情報は、次のようなつながりを理解できるように開示することが求められます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 * * * * * * なお、サステナビリティ関連財務開示の作成に用いるデータ及び仮定は、可能な限り、関連する財務諸表の作成に用いるデータ及び仮定と整合させることが求められます。 * * * * * * サステナビリティ関連財務情報は、個々の情報を「点」の状態で開示するのではなく、点と点をさまざまにつなげ「線」や「面」として開示することが求められます。これによって、利用者は企業の現在と将来をより立体的に把握することが可能となります。 つながりのある形でサステナビリティ関連財務開示を行うことで、財務情報を補足・補完し、一体性のある財務報告を行うことが期待されているのです。 * * * Q サステナビリティ関連財務情報と財務情報はどんな関係にあるの? A サステナビリティ関連財務情報は、財務情報を補足・補完するものとして位置付けられます。その開示にあたっては、利用者が情報間のつながりを理解できるように配慮することが求められます。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2025年10月】 第2四半期決算(2025年9月30日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第2四半期(中間期)決算(2025年9月30日)に関連する速報解説のポイントについて、基本的に2025年7月1日から9月30日までに公開した速報解説を対象としている。 公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、月ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。 Ⅱ 会計関係 次のものが公表されている。 〇 修正「中小企業の会計に関する指針」 (内容:項番号の修正や関係法令の更新等に伴う所要の変更を行うもの。「会計参与の行動指針」も改正されている) Ⅲ 金融商品取引法関係 次のものが公布されている。 〇 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第75号) (内容:「金融商品会計に関する実務指針」(改正移管指針第9号)、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等の修正を公表したこと等を受けもの) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「2025年度品質管理レビュー方針」 (内容:品質管理レビューの方針を示すもの) ②「2024年度 品質管理レビュー事例解説集Ⅰ部・Ⅱ部」 (内容:品質管理レビューの方針(内容:固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、棚卸資産の評価などについての改善勧告事項について解説している) ③ 監査事務所検査結果事例集(令和7事務年度版) (内容:公認会計士・監査審査会による監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたもの) ④ 中小事務所等施策調査会研究報告第10号「第1四半期又は第3四半期の四半期決算短信に含まれる四半期連結財務諸表等に関する表示のチェックリスト」の改正 (内容:2025年6月30日時点で施行されている法令や会計基準等に対応して改正) Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル(第3版)」 (内容:前回の改定以降の環境変化に即するように記載内容を改定) Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2025年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)等 (内容:グローバル・ミニマム課税について、法人税及び地方法人税の会計処理及び開示の取扱いを示すもの。補足文書がある。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(実務対応報告第46号14項)。ただし、実務対応報告第46号13項の四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記の定めについては、実務対応報告第46号14項の定めにかかわらず、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(実務対応報告第46号15項)) ② 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正 (内容:包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正するもの。早期適用の可否については、各会計基準等をお読みいただきたい。改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用する。改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。改正「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第10号)は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用する) ③ 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」 (内容:ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価評価に関するもの。2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) ④ 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等 (内容:借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準。2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第70回】 「定期建物賃貸借契約の基本的な仕組みと不動産鑑定の関わり(その3)」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 今回も、前回に引き続き、鑑定評価という側面から定期建物賃貸借契約の仕組みについて取り上げ、不動産の経済価値を求める際に留意が必要となる賃料増減請求権との関連について述べてみたいと思います。 2 賃料増減請求権に対する普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約との相違 建物(敷地も含みます)を賃貸中の状態で、これを所与として行う鑑定評価(貸家及びその敷地の鑑定評価)の場合、価格の試算の基になるのは純収益ですが、その捉え方は普通建物賃貸借契約であるか、定期建物賃貸借契約であるかにより大きく異なることは前回述べたとおりです。すなわち、普通建物賃貸借契約の場合は、更新を繰り返すことにより純収益を長期間にわたる継続的なものとして捉えるのに対し、定期建物賃貸借契約の場合は、更新がなく一定期間経過後に建物(敷地も含みます)が確実に貸主に返還されることを前提に、純収益を有限のもの(短期的なもの)として捉えるということです。これは、主に期間という面を意識して純収益の継続性を推し測っているといえます。 しかし、純収益の継続性を推し測るためにはもう1つの側面(将来における賃料増減額請求との関連)からの検討が必要であり、そのためには、これに関し建物賃貸借契約にどのような定めが置かれているかの確認が不可欠といえます。 (1) 普通建物賃貸借契約の場合 普通建物賃貸借契約の場合、契約書の中に、例えば「賃料は2年ごとに○%ずつ増額する」というような特約が付されていたとしても、契約期間の途中で近隣相場が大幅に下落した結果、従前の賃料が不相当となったという場合には、借地借家法第32条に定める賃料減額請求が認められるケースがあります(ここに例示したものは減額のケースですが、特約が付されていなくても、近隣相場が著しく上昇した結果、従前の賃料が不相当となったという場合には増額請求が認められる可能性もあります)。 〇借地借家法 (※1) 筆者注。このような特約は、借主に有利な特約として有効とされます。 このように、普通建物賃貸借契約の場合、未来永劫に現時点での純収益が継続するという保証はありませんが、鑑定評価を行う際には、その分のリスク(不確実性)を収益還元法適用に当たり還元利回りに反映させるなど、不動産鑑定士としても留意を払っています。 (2) 定期建物賃貸借契約の場合 これに対して、定期建物賃貸借契約の場合、借地借家法第32条(借賃増減請求権)の規定を排除する特約を設けることも認められますが、その根拠は以下の条文から読み取ることができます。 〇借地借家法 (※2) 筆者注。第1項の規定とは、定期建物賃貸借に関する規定を指します。 定期建物賃貸借契約においても、当事者間で増減額請求に関する特約を設けない限り、貸主あるいは借主からの請求は認められますが、このような特約を設けた場合は、第38条第9項に基づき特約がそのまま有効とされる点に留意が必要です。例えば、「契約期間中は家賃を定額とし、貸主からの増額請求または借主からの減額請求は行わない。」というようなものです。この点が、普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約との大きな相違点といえます。 3 まとめ 鑑定評価の対象となる物件に定期建物賃貸借契約が付されている場合、今後の契約期間における純収益の変動を予測するに当たり、賃料増減額請求に関する規定の有無は少なからず影響を及ぼすといえます。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第29回】 「抵当権設定登記について」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 司法書士として業務を行うなかで、「顧問先で債権の焦げ付きが発生しそうになっており、保全の相談を受けている。どのようにすればよいか。」という趣旨の相談が税理士から寄せられることがある。債権保全の有効な方法の1つが不動産に対する抵当権の設定である。 本稿では、債権保全の場面で税理士が円滑に司法書士や弁護士と連携するために必要な抵当権の知識について解説する。 1 抵当権とは 抵当権とは、特定の貸金債権などを担保するために不動産に設定される担保権であり、住宅ローンにおいてよく利用される。抵当権は登記記録の乙区に登記されることになる。 【抵当権設定登記の登記記録例】 抵当権によって保全可能な債権は、貸金債権に限られず商取引で生じた売掛債権なども対象とすることができる。 2 抵当権の対象とすることができる不動産とは 抵当権の設定の対象とすることができる不動産は、債務者が所有している不動産に限らず、第三者が所有している不動産を対象とすることもできる(物上保証)。そのため債務者が会社である場合は、社長や役員が個人で所有する不動産も対象とすることができるため、調査を行うとよいだろう。 【物上保証のイメージ】 3 抵当権設定登記の流れ 商取引における売掛債権を保全するために抵当権を設定する場合の流れは次のとおりである。 商取引における売掛債権を保全する場合、債権の金額や返済条件を改めて合意するために「債務承認契約」や「準消費貸借契約」を締結したうえで、「抵当権設定契約」を締結することが多い。当事者で合意が整えられない場合は、弁護士に交渉や契約書の作成を依頼するとスムーズであろう。契約書の締結が終わったら司法書士が抵当権者と抵当権設定者の本人確認・意思確認を行い、登記に必要となる書類等を取り付け、登記申請をする。 抵当権設定登記に必要となる書類等は次のとおりである。 このほか抵当権設定登記には債権金額の0.4%の登録免許税と司法書士の報酬(8万~15万円程度)が必要となる。これらの費用の負担者は債務者や抵当権設定者になることが多いが、費用が捻出できない場合にはやむを得ず債権者が負担する場合もある。 4 速やかな対応が鍵 債権保全は速やかに行わなければ他の債権者に先を越されてしまう可能性がある。抵当権の設定登記も1番最初に登記をしなければ、不動産の競売代金から配当を受けられず抵当権設定登記に要した費用が無駄になってしまう可能性がある。顧客から相談が寄せられた場合は、できるだけ早く司法書士や弁護士と連携するとよいだろう。 【「債務承認契約」を登記原因とする抵当権設定登記の登記記録例】 (了)
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第28回】 「証券会社の新しい認知症対策「家族サポート証券口座」とは」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 「家族サポート証券口座」という新しい仕組みが、日本証券業協会によって創設されました。認知症対策の一環として注目されるこの制度ですが、どのような内容なのでしょうか。今回は、認知症に伴う金融資産凍結のリスクと、その備え方について考えていきます。 〇認知症と金融資産凍結のリスク 超高齢社会を迎えた今、私たち一人ひとりにとって「認知症」への理解と備えは欠かせません。認知症とは、様々な病気によって脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、記憶や判断力などの認知機能が衰えることで、日常生活に支障をきたす状態をいいます。 厚生労働省研究班の推計(政府広報オンライン 2025年1月16日)によれば、2022年度時点で65歳以上のうち約12%が認知症、約16%がその前段階とされる軽度認知障害(MCI)とされています。つまり、およそ3人に1人が認知機能の低下に関わる症状を有している計算です。 認知症になると、本人の判断能力が不十分とみなされ、各種の契約行為が制限されます。 例えば銀行の場合、預金の引き出しや解約などができなくなる「口座凍結」が起こることがあります。 これは本人の財産を不正利用や誤判断から守るための人権擁護措置として行われますが、同時に生活資金が引き出せないなどの問題も生じます。 〇銀行における既存の対応策 こうした場合、法定後見制度を利用して家庭裁判所が選任した後見人が手続きを行うことになりますが、申立てから開始までには一定の時間がかかります。そのため、事前に備えることが重要です。 比較的簡易な生活費の出し入れが中心であれば、銀行の代理人制度を活用する方法があります。これは、本人の判断能力があるうちに信頼できる家族を代理人として届け出るもので、代理人は預金の引き出しなどを代行できます。 より広い範囲の契約行為を想定する場合には、任意後見制度を利用して、信頼できる人に将来的な財産管理を委ねる方法も有効です。 〇証券会社における課題と新制度の誕生 一方、証券会社ではこれまで銀行のような代理人制度がなく、取引は原則として本人のみが行える仕組みでした。そのため、本人に判断能力の低下が見られると、売却も解約もできず「資産はあるのに動かせない」という問題が指摘されていました。 こうした課題に対応するため、日本証券業協会は2024年9月に「家族サポート証券口座」の制度枠組みを整備しました。これは新しい法律に基づく制度ではなく、民法上の任意代理契約(委任契約)を活用した自主ルールです。 〇家族サポート証券口座の仕組み 仕組みとしては、証券口座を持つ本人が信頼できる家族などと公正証書で委任契約を結び、その契約内容を証券会社に届け出ることで、本人の判断能力が低下した後でも代理人が一定の取引を継続できるようにするものです。 現時点では、生活費の確保などを目的とした売却・換金が中心であり、新規の株式買付けなどリスクを伴う取引は対象外とされていますが、制度としては大きな一歩といえるでしょう。 〇制度の課題と留意点 ただし、現段階でこの制度を導入している証券会社はごく一部に限られ、利用の詳細は各社によって異なります。また、売却資金の振込先は本人名義の銀行口座となるため、その銀行口座が凍結されていれば事実上資金が使えないという課題も残ります。 さらに、後見制度と異なり家庭裁判所などの監督が入らないため、代理人による不正利用防止の仕組みについても今後の検討課題と考えます。 〇総合的な備えの重要性 長生きの時代には、資産を「運用しながら取り崩す」こと、すなわち資産寿命を延ばす工夫が欠かせません。 認知症になった後の資産凍結リスクに備えるためには、 といった複数の選択肢を、家族や専門家と相談しながら組み合わせるのが理想です。 筆者は、元気なうちにお金の「使い方」「託し方」を考える時期を「ライフプランのお看取り期」と呼んでいます。人生の締めくくりを見据えた資産の活かし方を、今から少しずつ準備していくことが何よりも大切です。 〇まとめ 家族サポート証券口座は、これまでの金融実務では難しかった「判断能力低下後の資産活用」を可能にする新しい試みです。ただし、導入状況や内容は証券会社ごとに異なるため、利用を検討する際は必ず各社の最新情報や公証人への確認を行いましょう。 そして何より、制度を使うことが目的ではなく、自分と家族に合った安心のかたちをつくることこそが本質だといえます。 (了)
《編集部レポート》 第51回日税連公開研究討論会が横浜で開催される Profession Journal 編集部 2025年10月10日(金)、日本税理士会連合会(太田直樹会長)は、第51回日税連公開研究討論会を横浜で開催した。 本年も会場での開催と同時にライブ配信も行うことで、遠方からも視聴可能なハイブリッド形式となった。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 第51回となる今回は、東京地方税理士会、千葉県税理士会、関東信越税理士会の合同開催となった。 まず東京地方税理士会が担当した第1部「デジタル化社会における税理士の役割と納税者の権利利益の保護」では、AI技術がさらに発達した2050年の架空の社会と税務行政から見た、現在の税務行政におけるデジタル化の問題点や税理士業務のあり方、納税者権利保護の重要性について発表が行われた。 次に千葉県税理士会による第2部「多様性と税」では①「働き方の多様性」としてプラットフォームワーカーの所得区分に関し実態を反映した税制への提言、②「地域の多様性」として離島から見る財政と税制を取り上げ、平塚市の取組み(波力発電)を例に企業版ふるさと納税の役割を紹介、③「家族の多様性」として家族・婚姻制度の多様化と税制を取り上げ人的控除のあり方について、それぞれ発表が行われた。 第3部の関東信越税理士会による「成熟国家における公平な税制とは」では“灼熱教室”と題し、著名な5名の哲学者・経済学者それぞれの思考から見た公平な税制について「金持ち課税と貧困救済」、さらに「消費税は公平な税といえるのか?」へと議論が展開された。 研究発表後は望月爾立命館大学法学部教授、早川眞一郎東京大学名誉教授、中里実東京大学名誉教授より、それぞれ講評がなされた。 当日は全国から税理士が集い、研究発表の成果へ熱心に耳を傾け、来賓として黒岩祐治神奈川県知事、小宮敦史東京国税局長が来場、祝辞を述べられた。 (東京地方会の発表の様子) (千葉県会の発表の様子) (関東信越会の発表の様子) (了)