「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例152(所得税)】
買手が耐震工事をしなかったため「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用が受けられなくなってしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
令和Y年分の所得税につき、依頼者の実母の相続により取得した被相続人の居住用家屋とその敷地の譲渡につき、「被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」(以下単に「空き家に係る3,000万円の特別控除」という。)の適用を受けるべく相談を受けたが、当初相談を受けた際に、家屋の耐震工事が必要である旨の説明をしなかったため、買手が決まった後に売買契約書に買手の責任で期限までに耐震工事を行うよう特約条項を織り込んだが、結果としてこれが履行されず、上記特別控除が受けられなくなってしまった。
そして、買手が見つかる前に耐震工事が必要である旨の説明を受けていれば上記特別控除は受けられたとして、過大納付税額につき損害賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 令和X年4月
依頼者の実母死亡。相続税申告業務受任。 - 令和X年11月
相続税の申告についての打ち合わせの際、相続により取得した居住用家屋とその敷地を売却する旨の相談を受け、「空き家に係る3,000万円の特別控除」について説明。この時、耐震工事又は解体工事が必要である旨の説明を行わず。 - 令和Y年7月
上記居住用家屋とその敷地について買手が見つかったと報告を受ける。その際、建物を取り壊さずに譲渡する場合には買手側で翌年2月15日までに耐震工事が必要である旨の説明を初めて行う。 - 令和Y年7月
不動産売買契約を締結。税理士のアドバイスにより特約条項を設け、「所有権移転後に耐震工事を行い令和Z年2月15日までに耐震工事適合証明書を提出すること」を明記して居住用家屋とその敷地を引き渡す。 - 令和Z年2月
耐震工事期限。耐震工事未了のため、証明書収受できず。 - 令和Z年3月
依頼者より「空き家に係る3,000万円の特別控除」適用不可による損害賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(空き家に係る3,000万円の特別控除)(措法35③④⑥⑦)
「空き家に係る3,000万円の特別控除」とは、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に、相続により被相続人の居住用家屋及びその敷地等を取得した相続人が、その取得をした被相続人の居住用家屋及びその敷地等を譲渡した場合、居住用財産を譲渡したとみなして3,000万円の特別控除の適用を受けることができるものである。
この特別控除は、相続により被相続人の居住用家屋とその敷地の両方を取得し、相続があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に限り適用があり、譲渡価額が1億円を超える場合には適用できない。
なお、居住用家屋とともにその敷地等を譲渡する場合には、居住用家屋が一定の耐震基準を満たすものでなければならないが、令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後の譲渡については、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除去の工事を行った場合には、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となる。
◆特例の対象となる被相続人居住用家屋
次の①及び②又は①及び③に該当することが要件になる。
① 相続の時から譲渡の時まで事業等の用に供されたことがないこと。
② 譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること。
③ 譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、被相続人居住用家屋の耐震改修又は除去の工事を行ったこと。
《税理士の落とし穴》
当初「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用について相談を受けた際に、被相続人居住用家屋の耐震工事又は解体工事が必要である旨の説明を行わなかった。
《税理士の責任》
依頼者は、令和X年4月に開始した実母の相続により取得した被相続人の居住用家屋とその敷地を売却する旨を、相続税申告業務を依頼した税理士に令和X年11月に相談していた。その際、税理士は、「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用要件を説明したが、家屋について耐震工事又は取壊しが必要になることは説明していなかった。
その後、令和Y年7月に買手が見つかり、家屋については取り壊さずにそのまま使用する旨の報告を受けたため、改めて「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用要件を確認したところ、家屋について耐震工事が必要であることを説明していなかったことに気付き、このことについて説明を行った。
そして税理士のアドバイスにより売買契約書に特約条項を設け、「所有権移転後に耐震工事を行い令和Z年2月15日までに耐震工事適合証明書を提出すること」を明記して居住用家屋とその敷地を引き渡した。しかし、買手が期限までに耐震工事を行わなかったため、証明書の入手ができず、上記特別控除の適用が受けられなくなってしまった。
税理士は、令和X年11月に相談された時点で家屋について耐震工事又は取壊しが必要なことを説明していれば、上記特別控除の適用は受けられたとして自身の責任であると主張する。
しかし、依頼者から買手が見つかったと報告を受けた際に、耐震工事が必要なことを説明し、売買契約書には税理士のアドバイスにより上記特約条項を明記しており、買手もこれを承知のうえで購入していることから、税理士としての説明責任は果たしている。また、上記特別控除は相続があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば適用が受けられることから、上記特約条項の履行ができない買手であれば、新たな買手を探す時間は十分にあった。
したがって、新たな買手を探すこともせず、買手が上記特約条項を履行しなかったことに何の異議も唱えず、結果として上記特別控除の適用が受けられなくなったのは依頼者の責任であり、税理士の責任ではないことから、保険金支払いの対象にはならない。
《予防策》
[ポイント①]
事前税務相談業務担保特約への加入
本事例による過大納付税額は「本来納付すべき本税」であることから、税賠保険の主契約の対象にはならない。したがって、事前税務相談業務担保特約の対象になるか否かで判断されるが、事前税務相談業務担保特約とは、被保険者が、主契約の税理士業務より前段階において、顧客から受けた税務に関する相談に応じて行った顧客への助言・指導(不作為を含む)に起因して過大納付税額が発生し、保険期間中に損害賠償請求を提起された場合に、法律上の賠償責任を負担したことによって被る損害に対して保険金が支払われるものである。
本事例の場合、税理士の責任が認められなかったことから、保険金支払いの対象にはならなかったが、本事例のような税務に関する相談業務は税理士にとって日常的に受けるものであることから、特約への加入も検討したい。
[ポイント②]
令和5年度の税制改正を確認
令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後の譲渡については次の改正が行われた。改正内容を十分理解し、アドバイスを誤らないようにしたい。
(1) 適用対象の追加
買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除去の工事を行った場合には、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となる。
(2) 特別控除額の制限
家屋及び敷地等を取得した相続人が3人以上の場合には特別控除額が1人2,000万円となる。
(了)
次回は12/25に公開予定です。























