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固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第15回】「家屋の増築が1月1日前に行われたかどうかについて、1月3日時点の航空写真に基づいて推測できるか否かが争われた裁決例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第15回】 「家屋の増築が1月1日前に行われたかどうかについて、1月3日時点の航空写真に基づいて推測できるか否かが争われた裁決例」   税理士 菅野 真美   ▷年の途中で新築・増改築した場合の固定資産税 土地や家屋を課税標準とする固定資産税は、その年1月1日に土地や家屋を所有している者に対して、土地や家屋の価格を課税標準として、市町村(東京都特別区の場合は東京都)が賦課決定するものである。したがって、1月1日に誰が何を所有しているかが問題となる。 通常は、登記簿に基づいた課税台帳で所有者を確認することになるが、家屋を年の途中で新築・増改築した場合、登記された日がその年1月1日前か後かで判断するのではなく、不動産登記規則第111条に準じて「屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるもの」が1月1日前なのかで判断する。 しかし、家屋を新築・増改築した者がこのようなことを理解して、直ちに市町村に連絡するとは限らない。適正な課税を確保するためには、行政側でも家屋の変化を確認する必要がある。 そのために、行政側では、飛行機を飛ばして航空写真を撮影して固定資産の現況調査を行っているところが多い。また、固定資産の現況調査は固定資産税の賦課にも影響を与えることから、年始に行われることが多いのである。 それでは、年始である1月3日に航空写真により家屋が写っているものについて、1月1日前に増築が行われたかどうかについて争われた事案で、納税者の主張が認められた珍しい事案について検討する。   ▷どのような事案か これは、課税台帳に登録されていなかった家屋の増築部分について、その建築年を平成26年として家屋(補充)課税台帳に登録し、平成27年度分から平成30年度分までの各年度にかかる固定資産税・都市計画税税額変更(賦課決定)処分を行ったところ、「平成26年に増築したと主張する行政側の事実認定疎明資料が存在せず、増築年月日の事実認定が成されないうえでの課税は納得出来ない」として審査請求した事案である。 審査請求をした人をX、行政庁をYと仮定する。 具体的な流れは次のとおりである。   ▷事案の争点 審査請求の争点は、本件家屋がいつ増築されたかである。 Xは、母と同居するために増築したものであるが、建築時期については定かではないと主張し、Yは、家屋を建築した時期は平成26年中であると主張した。   ▷審査請求から裁決までのプロセス 審査請求がなされると、審理手続を主宰する者として、審理員が指名される。この審理員は、審査請求に係る処分の決定に関与していない職員が指名され、処分庁から弁明書、審査請求人から反論書等の提出を受け調査を行い、裁決に関する意見書を審査庁に提出することになる。 審査庁は意見書の提出を受けた時は、原則的には、行政不服審査会(以下「審査会」という)に諮問し、審査会が意見書に基づいて答申を行い、その答申に基づいて裁決がなされる(通常は、処分庁(課税処分をした行政庁)=審査庁(審査をした行政庁)となる)。   ▷審理員が提出を求めたものは 審理員は次の事項を記載した反論書の提出をXに求めた。 さらに①ないし④の事実を明らかにし、又は、推認させる証拠資料(例えば工事請負契約書、工事代金の請求書又は領収書等)の提出も求めた。   ▷Xが提出したものは Xは反論書及び証拠書類を提出せず、口頭陳述で以下のように回答した。   ▷審理員の意見書は 審理員の意見書の結論は、以下の理由により、審査請求は棄却されるべきであるとした。   ▷審査会の結論、そして裁決は 審理員の意見書と異なり、審査会の結論、並びにその結論を受けた裁決は、各処分のうち、平成27年度分に係る固定資産税・都市計画税税額変更(賦課決定)処分について取り消し、他は棄却した。 その理由は、以下のとおりである。 1月3日の航空写真では1月1日に家屋が課税要件を満たしたとは確証できないとして、納税者の請求が一部認容された。 1月1日に家屋が課税要件を満たしているという完全な証拠がない限り、納税者の対応にかかわらず、賦課は難しいのだろうか。 (了)

#No. 462(掲載号)
#菅野 真美
2022/03/24

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《組織再編-合併》編 【第1回】「100%親子会社間の吸収合併」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《組織再編-合併》編 【第1回】 「100%親子会社間の吸収合併」   公認会計士・税理士 前原 啓二     はじめに 中小企業会計指針においては、合併等の企業結合が行われた際に、取得と判定された場合と、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等と判定された場合とに分類・識別して会計処理を定めています。一方、税制上の合併の取扱いは、上記の会計上の取扱いと異なり、適格合併と非適格合併とに分類して規定されています。これらの分類のうち、実際に合併が実施されるのは、同一グループ内の中小企業間においては、主に税制上の適格合併に該当するケースです。 そこで、《組織再編-合併》編では、税制上の適格要件を満たす合併のうち、「100%親子会社間の吸収合併」と、「オーナー株主が100%所有する兄弟会社間の合併」の2例を取り上げます。今回は、「100%親子会社間の吸収合併」についてご紹介します。 【設例1】 当社(3月31日決算)は、当期(X1年4月1日~X2年3月31日)のX1年4月1日に当社100%子会社(当社がすべての発行済株式数を直接保有)であるS社(3月31日決算)を吸収合併しました。 (1) 当社所有の子会社株式(S社株式)の貸借対照表価額は、12,000,000円。 (2) S社のX1年3月31日現在の貸借対照表は、下記のとおりです。 いずれの資産及び負債の貸借対照表価額も、企業会計の基準等に基づいて算定された帳簿価額とします。 法人税上の資本金等の額は10,000,000円、利益積立金額は12,153,400円とします。 (3) 吸収合併契約書には、下記の記載が含まれています。 ・合併の効力発生日は、X1年4月1日です。 ・無対価合併(合併に際してS社株主である当社への対価は交付しません)。 ・合併による資本金及び準備金の増加はありません。   1 当社(吸収合併存続会社)の無対価合併時の仕訳 当社(吸収合併存続会社)の無対価合併時の仕訳は、次のとおりです。 〈X1年4月1日〉 中小企業会計指針において、合併等の企業結合が行われた際に、取得と判定された場合と、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等と判定された場合とに識別して会計処理を適用します。取得は、一方の企業が他の企業を支配したと認められる企業結合で、共同支配企業の形成及び共通支配下の取引以外の企業結合です。共同支配企業の形成は、複数の独立した企業が契約等に基づき、ある企業を共同で支配する企業結合です。共通支配下の取引等とは、親子間、又は子会社間などグループ内の組織再編です。 取得と判定された場合、吸収合併存続会社は原則として、吸収合併消滅会社から受け入れる資産及び負債に合併の日の時価を付さなければなりません。 また、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等と判定された場合には、吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額を付さなければなりません。ここで、適正な帳簿価額とは、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行を斟酌して算定された帳簿価額をいいます。したがって、企業会計の基準等に照らして帳簿価額に誤りがある場合には、その引継ぎに際して修正を行うことになります。吸収合併存続会社が受け入れる資産及び負債を時価以下の範囲で適宜に評価替えするような会計処理は認められません(中小企業会計指針81)。 この設例は、100%親子会社間の吸収合併なので、共通支配下の取引等と判定されます。したがって、当社が吸収合併消滅会社S社から受け入れる資産及び負債には、S社の適正な帳簿価額を付すことになります。この設例では、合併の日(X1年4月1日)の前日(X1年3月31日)におけるS社の適正な帳簿価額は、資産について、現金預金22,000,000円、器具及び備品1,100,000円、負債について、未払金300,000円、未払法人税等646,600円であり、当社はこれらの金額をもって受け入れます。 また、子会社から受け入れた資産(22,000,000円 + 1,100,000円)と負債(300,000円 + 646,600円)の差額(22,153,400円)と、親会社である当社が合併直前に保有していた子会社株式(これを「抱合せ株式」といいます)の適正な帳簿価額(12,000,000円)との差額10,153,400円を、当社は特別損益に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針206)。抱合せ株式は、合併に際して消滅することから、この特別損益の科目は「抱合せ株式消滅差損益」とします。   2 決算書の金額 決算書の金額は、次のとおりです。 X2年3月31日決算期 〈当期末損益計算書〉   3 法人税上の取扱い 税制上の合併の取扱いは、上記の会計上の取扱いと異なり、適格合併と非適格合併とに分類されます。 例えば、合併が被合併法人の株主に合併法人の株式その他の資産が交付されない合併(無対価合併)であるケースでは、合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係に限られますが、そのような合併当事者間の完全支配関係がある場合には適格要件を満たす1つの例です(法令4の3②)。この設問では、合併に際してS社株主である当社への対価を交付しない無対価合併であり、当社がS社のすべての発行済株式数を直接保有していることから、適格合併に該当します。 適格合併により内国法人である被合併法人(S社)が、合併法人(当社)に資産及び負債の移転をしたときは、その移転をした資産及び負債のその適格合併に係る最終事業年度(被合併法人S社の合併の日「X1年4月1日」の前日の属する事業年度「X1年3月31日期末の決算期」をいいます)終了の時の帳簿価額による引継ぎをしたものとしてその国内法人の各事業年度の所得の金額を計算します(法62の2①)。したがって、合併時に移転する資産及び負債の譲渡損益は認識されません。 これを受けて、適格合併により、合併法人(当社)における被合併法人(S社)からの資産及び負債の引継価額は、被合併法人(S社)におけるその資産及び負債の帳簿価額となります(法令123の3③)。 また、この設例では、適格合併に係る被合併法人(S社)の当該適格合併の日(X1年4月1日)の前日の属する事業年度終了の時(X1年3月31日)における資本金等の額(10,000,000円)から、合併により増加した資本金(この設例では0円)及び抱合せ株式の当該合併の直前の帳簿価額(12,000,000円)を減額した金額を、資本金等の額とします(法令8①五ハ)。 さらに、適格合併に係る被合併法人(S社)の当該適格合併の日(X1年4月1日)の前日の属する事業年度終了の時(X1年3月31日)における被合併法人(S社)から移転を受けた資産及び負債の帳簿価額の差額(22,153,400円)から、上記資本金等の額(△2,000,000円 = 10,000,000円 - 12,000,000円)、合併により増加した資本金(この設例では0円)及び抱合せ株式の当該合併の直前の帳簿価額(12,000,000円)を減額した金額(12,153,400円)を、利益積立金額として当社が引き継ぎます(法令9①二)。 これにより、当社の無対価合併時の法人税上の仕訳は、次のとおりです。 〈X1年4月1日〉   4 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 会計上の特別損益に計上された「抱合せ株式消滅差益」10,153,400円は、上記3より、法人税上は課税所得に算入されず、この設例では益金不算入として減算調整します(この設例とは反対に「抱合せ株式消滅差損」の場合には、損金不算入として加算調整となります)。 X2年3月期 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉   (了)

#No. 462(掲載号)
#前原 啓二
2022/03/24

2022年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】

2022年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】   史彩監査法人 公認会計士 西田 友洋   Ⅵ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い   2021年3月5日にLIBOR運営機関であるICE Benchmark Administrationより、一部を除き、LIBORについて、2021年12月をもって公表を停止することが公表された。そして、LIBORが停止された場合に、ヘッジ会計の取扱いをどのようにするのかが論点として挙げられる。 そこで、ASBJより、2020年9月29日に実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(以下、「LIBOR取扱い」という)」が公表され、2022年3月17日に、適用期間の延長等のため、改正が行われた。 【用語(LIBOR取扱い4(3)~(5))】   1 適用範囲 LIBOR を参照する金融商品について金利指標を置き換える場合に、その契約の経済効果が金利指標置換の前後で概ね同等となることを意図した金融商品の契約上のキャッシュ・フローの基礎となる「金利指標を変更する契約条件の変更のみが行われる金融商品」及び「この契約条件の変更と同様の経済効果をもたらす契約の切替(既存の契約をその満了前に中途解約し、直ちに新たな契約を締結すること)に関する金融商品」が適用範囲となる。また、LIBOR取扱い公表後に、新たにLIBOR を参照する契約を締結する場合、その金融商品も適用範囲に含まれる(LIBOR取扱い3、4)。 なお、LIBOR取扱いは、LIBOR を対象としているが、LIBOR 以外の金利指標でも、金利指標改革に伴い公表停止が見込まれる場合には、当該金利指標を参照している金融商品についても、LIBOR取扱いを参考にすることが考えられる(LIBOR取扱い28)。 【LIBOR適用対象の例(LIBOR取扱い30、31、32、33)】 (※1) 金融リスクのみにさらされている金融商品だけでなく、固定金利と変動金利を交換する通貨スワップ(金利通貨スワップ)のように商品性として為替リスクも包含する金融商品の契約条件の変更又は契約の切替も含む。 (※2) LIBOR取扱いの適用対象外の金融商品については、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」及び企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準(以下、「外貨基準」という)」等が適用される。 (※3) スプレッドの変更が行われた場合、LIBOR と後継の金利指標の差分を調整するためのスプレッド調整であるのか、信用リスクのスプレッドの変更であるのかの判断が難しいことも想定される。経済効果が概ね同等となることを意図したものであるか否かの判断にあたっては、一律に定量的な分析が求められるわけではなく、定性的な分析を行うことが想定されている。   2 LIBOR取扱いにおける会計処理 LIBOR取扱いにおいては、「金利指標置換前」、「金利指標置換時」、「金利指標置換後」と3つの時点、それぞれについて特例的な会計処理を定めている。 (1) 金利指標置換前 ① 金利指標改革に起因する契約の切替 金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計を終了又は中止せずに、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い5)。 ② 予定取引 ヘッジ対象である予定取引が実行されるかどうかを判断するにあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象の金利指標が、金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(LIBOR取扱い6)。 ③ ヘッジ有効性の評価 ④ 包括ヘッジ 包括ヘッジを適用する場合、金利指標置換前においては、個々の資産又は負債のリスクに対する反応とグループ全体のリスクに対する反応が、ほぼ一様であると認められなかった場合であっても、包括ヘッジを適用することができる(LIBOR取扱い9)。 例えば、個々の資産又は負債の時価の変動割合又はキャッシュ・フローの変動割合が、ポートフォリオ全体の変動割合に対して上下10%の範囲内にあるかどうかにより、個々の資産又は負債はリスクに対する反応がほぼ一様であるかどうかを判断している場合、個々の資産又は負債の時価の変動割合又はキャッシュ・フローの変動割合が、ポートフォリオ全体の変動割合に対して上下10%の範囲外となった場合であっても、包括ヘッジの適用を継続することができる(LIBOR取扱い44)。 ⑤ 時価ヘッジ 金利指標置換前においては、繰延ヘッジを適用する場合について定めた上記③及び④と同様の取扱いとすることができる(LIBOR取扱い10)。 ⑥ 金利スワップの特例処理 金利スワップの特例処理を適用する場合、金利スワップの特例処理の適用条件のうち以下の条件を満たしているかどうかの判断にあたって、金利指標置換前においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(LIBOR取扱い11)。 金利スワップの特例処理の適用条件の1つである「金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致していること」の条件については、当初契約時に金利スワップの契約期間とヘッジ対象資産又は負債の満期がほぼ一致しているかどうかの判断を行うことが想定されている。 例えば金利スワップの契約の切替が発生した場合には、金利スワップの新たな契約期間とヘッジ対象の満期が一致しないことが考えられるが、金利スワップとヘッジ対象の残存期間が同一であれば、当該条件を満たすとみなすことができると考えられる(LIBOR取扱い47)。 ⑦ 振当処理 振当処理を適用する場合、金利指標置換前においては、円貨でのキャッシュ・フローが固定されているかどうかの判断にあたって、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標は金利指標改革の影響を受けず既存の金利指標から変更されないとみなすことができる(LIBOR取扱い12)。 (2) 金利指標置換時 ① 金利指標改革に起因する契約の切替 金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計を終了又は中止せずに、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い5)。 ② 繰延ヘッジ 当初のヘッジ会計開始時にヘッジ文書で記載したヘッジ取引日(開始日)、識別したヘッジ対象、選択したヘッジ手段等を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い13)。 ③ 時価ヘッジ 上記②と同様の取扱いとすることができる(LIBOR取扱い10)。 (3) 金利指標置換後 ① 金利指標改革に起因する契約の切替 金利指標改革に起因する契約の切替が行われたときであっても、ヘッジ会計を終了又は中止せずに、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い5)。 ② 繰延ヘッジ 事後テストに関するLIBOR取扱い第8項の規定(上記(1)③《事後テスト》)を適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2024年3月31日以前に終了する事業年度までヘッジ会計を継続することができる。また、同項の取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、ヘッジ会計の適用を継続することができる(LIBOR取扱い14)。 ③ 包括ヘッジ 金利指標置換前においてLIBOR取扱いの適用範囲に含まれる金融商品を含むグループをヘッジ対象として包括ヘッジを適用していた場合、包括ヘッジに関するLIBOR取扱い第9項(上記(1)④参照)の規定を適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで包括ヘッジの適用を継続することができる。また、同項の取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換え、ヘッジ文書の記載を変更したとしても、包括ヘッジの適用を継続することができる(LIBOR取扱い18)。 ④ 時価ヘッジ 金利指標置換後においてはLIBOR取扱い第14項、第15項、第16項及び第18項(上記②及び③参照)の取扱いと同様の取扱いとすることができる(LIBOR取扱い10)。 ⑤ 金利スワップの特例処理 金利指標置換前においてLIBOR取扱いの適用範囲に含まれる金融商品をヘッジ対象又はヘッジ手段として金利スワップの特例処理を適用していた場合、金利スワップの特例処理に関するLIBOR取扱い第11項(上記(1)⑥参照)の取扱いを適用していたか否かにかかわらず、金利指標置換時以後、同項の取扱いを適用し、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで金利スワップの特例処理の適用を継続することができる。 また、この特例的な取扱いを継続している間、再度金利指標を置き換えたとしても、金利スワップの特例処理の適用を継続することができる(LIBOR取扱い19)。 なお、金利指標置換後に金利スワップの特例処理に係る金融商品指針第178項の⑤(※1)以外の要件が満たされている場合、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続することができる(LOBOR取扱い19)。 金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更又は契約の切替が金利スワップの特例処理に係る金融商品指針第178項の⑤(※1)以外の要件を満たしているときは、2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理の適用を継続することができる(LOBOR取扱い19-2)。 (※1) 金利スワップの受払条件がスワップ期間を通して一定であることの要件。 ⑥ 振当処理 LIBOR取扱い第19項及び第19-2項の取扱い(上記⑤参照)は、振当処理にも同様に適用することができる(LIBOR取扱い19-3)(※2)。 (※2) この場合、金利スワップの特例処理に関するLIBOR取扱い第11項の取扱い(上記(1)⑥参照)を振当処理に関する第12項の取扱い(上記(1)⑦参照)と読み替える。また、「金利スワップの特例処理に係る金融商品指針第178項の要件」を「振当処理に係る「外貨基準一 1、2(1)及び注解(注6)」、「会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」第3項及び第5項」の要件」と読み替える。   3 注記事項 LIBOR取扱いを適用することを選択した場合、以下を注記する必要がある(LIBOR取扱い20)。また、当該注記は、2024年3月31日以前に終了する事業年度まで行う必要がある(LIBOR取扱い21)。 連結財務諸表において注記している場合、個別財務諸表での注記は不要である(LIBOR取扱い20)。 LIBOR取扱いは、ヘッジ関係ごとにその適用を選択することができるため、一部のヘッジ関係にのみ適用する場合には、その理由を注記する(LIBOR取扱い20、23)。 なお、計算書類において、上記の注記は必ずしも求められていないが、重要性に応じて注記が必要かどうか検討することが考えられる。 【事例】三協立山(株)(決算日:2021年5月31日) 4 適用時期 公表日以後適用することができる。   Ⅶ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い   2019年12月に成立した改正会社法により、上場株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められた(会社法202の2)。これを受けてASBJでは、2021年1月28日に実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(以下、「株式取扱い」という)」を公表した。 また、以下の会計基準も改正されている。   1 適用範囲 会社法第202条の2に基づく取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を対象としている(株式取扱い3)。また、当該取引は、「事前交付型」と「事後交付型」が想定されている(株式取扱い4(7)(8))。 【用語】   2 会計処理 会社法第202条の2に基づく取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、ストック・オプションと類似しているため、ストック・オプション基準に準じて会計処理を行う(株式取扱い38)。 一方、会社法第202条の2に基づく取締役の報酬等として株式を無償交付する取引には、「事前交付型」と「事後交付型」があるため、株式が交付されるタイミングが異なる点や、事前交付型において、株式の交付の後に株式を無償で取得する点については、取引の形態ごとに異なる会計処理を行う(株式取扱いの公表に当たって ■会計処理)。 (1) 事前交付型の会計処理 事前交付型の会計処理について、「新株発行」の場合と「自己株式の処分」の場合に分けて規定されている(株式取扱い5~14、40、42、46)。 (※) 「没収」とは、事前交付型において、権利確定条件が達成されなかったことによって、企業が無償で株式を取得することが確定することをいう(株式取扱い4(16))。 (2) 事後交付型の会計処理 事後交付型の会計処理について、「新株発行」の場合と「自己株式の処分」の場合に分けて規定されている(株式取扱い15~18)。   3 注記事項 会計処理はストック・オプション基準に準じているため、注記についてもストック・オプション基準及びストック・オプション指針を基礎として、注記が求められている(株式取扱い52)。 (1) 注記事項 年度の財務諸表において、以下の事項を注記する(株式取扱い20)。 注記に関する具体的な内容や記載方法、株式取扱いに定めのない会計処理に係る注記については、ストック・オプション指針第27項、第28項(2)、第29項、第30項、第33項及び第35項に準じて注記を行う(株式取扱い21)。 (2) 1株当たり情報 (3) 関連当事者注記 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、資本取引の側面よりも報酬等としての側面を重視して、関連当事者との取引に関する開示は要しない(株式取扱い55)。 (4) 後発事象注記 上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付することを、2022年3月期の定時株主総会で決議する場合には、重要な後発事象の注記が必要ないかどうか検討する必要がある。   4 適用時期 改正会社法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用する。なお、その適用については、会計方針の変更には該当しない(株式取扱い23)。      Ⅷ その他の記載内容に関連する監査人の責任   2020年11月6日に監査基準の改訂が企業会計審議会より公表された。改訂の内容は、以下のとおりである(監査基準の改訂について一)。 また、監査基準の改訂を受けて、2021年1月14日に日本公認会計士協会より、監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任(以下、「監基報720」という)」の改正が行われた。   1 監基報720の対象 (1) 会社法及び金融商品取引法 会社法及び金融商品取引法関係の書類で、監基報720の対象となる書類は、監査報告書が発行される以下の書類である(日本公認会計士協会「監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」の適用を踏まえた会社法監査等のスケジュールの検討について」、監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」Q1-8)。 一方、監査報告書が新たに発行されない以下の書類については、監基報720の対象とならない。 (※1) 監査対象項目(連結財務諸表、財務諸表、注記)及び監査報告書以外の情報が監基報720の対象となる(「その他の記載内容」に該当する)。 (※2) 目論見書については、対応する有価証券届出書に準じて判断する。 (2) 統合報告書等 統合報告書等における監基報720の対象となるかどうかは、以下のとおりである(日本公認会計士協会「「その他の記載内容」に関する監査人の作業内容及び範囲に関する留意事項」Ⅱ1)。 (3) 英文アニュアルレポート等 統合報告書等における監基報720の対象となるかどうかは、以下のとおりである(日本公認会計士協会「「その他の記載内容」に関する監査人の作業内容及び範囲に関する留意事項」Ⅱ2)。   2 監基報720の改正内容 監基報720の改正により改正されていない点もある。そこで、以下では、従来の監基報720から改正されていない点と主な改正点を解説する。 (1) 改正されていない点 (2) 主な改正点   3 監査報告書 監基報720を適用した監査報告書の事例は、以下のとおりである。また、日本公認会計士協会の「監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」」に文例が記載されているため、参照いただきたい。 【事例1】三菱UFJ証券ホールディングス(株) 有価証券報告書/連結(決算日:2021年3月31日) 【事例2】(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ 計算書類/個別(決算日:2021年3月31日)   4 会社の留意点 監基報720は監査人が守るべきルールであるが、会社の決算においても留意すべき点がある。そして、計算書類と有価証券報告書の場合で、留意すべき点が異なる。   5 適用時期 監査基準の改定及び監基報720の改正は、原則、2022年3月31日以後終了する事業年度から適用する。ただし、2021年3月31日以後終了する事業年度から早期適用することができる。 (了)

#No. 462(掲載号)
#西田 友洋
2022/03/24

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第40回】「計算チェックで発見できるミスは多い」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第40回】 「計算チェックで発見できるミスは多い」   公認会計士 石王丸 周夫   1 単なる入力ミスか? 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例40-1】 固定資産合計の数字が間違っている。 (出所) 東洋機械金属株式会社「第147回定時株主総会招集ご通知」 【事例40-1】のミスは、連結貸借対照表の固定資産合計の数字が間違っていたというものです。この事例の会社は2021年6月14日に記載内容の一部訂正を公表しており、「9,216」ではなく「9,061」が正しい数字でした。 2つの数字の並びを見る限り、「ケタ違いの転記」や「数字の順序の逆転」といったものではなく、単純な入力ミスではなさそうです。 合計欄の数字で間違うパターンとしては、前期の数字を上書きし忘れるケースがよくありますが、当該箇所の前期数字は「9,067」でしたので、そのパターンでもないようです。 では一体、何が原因でしょうか?   2 アップデート・ミスの典型例 上述の原因以外で考えられることとしては、数字の修正に伴う更新忘れというものがあります。この連載の【第11回】で解説したアップデート・ミスです。決算作業の期間中に、処理の修正で決算書の元になる数値がアップデートされた場合に、決算書の更新を忘れるというミスです。 上場会社の場合は決算開示書類が複数あり、それらを2~3ヶ月かけて段階的に順次開示していくので、元になる数字が途中で修正になることも十分に考えられます。そうなると、ある時点以降の開示書類とそれ以前のものとで数字が異なってきてしまい、訂正作業は余計やっかいになります。アップデート・ミスは、そういう状況でより発生しやすくなると考えられます。 上場会社の主な決算開示書類としては、決算短信、株主総会招集通知、有価証券報告書があり、一概には言えませんが、一般的には「決算短信 ➡ 株主総会招集通知 ➡ 有価証券報告書」の順序で作成されます。【事例40-1】の会社のこれらの開示書類により、固定資産合計と総資産の額が、時系列的にどう変更されたのかを確認してみます。 (出所) 東洋機械金属株式会社の「決算短信」、「第147回定時株主総会招集ご通知」、「「第147 回 定時株主総会招集ご通知」の一部訂正について」、「有価証券報告書」より筆者作成(いずれも2021年3月期)。 上の表でポイントとなるのは、固定資産合計の数字と総資産の数字の変更のタイミングが異なっていることです。固定資産合計の額が変われば、総資産の額も変わるはずなので、変更のタイミングは同時であるべきですが、そうなっていません。 なぜ、このようなズレが生じたのでしょうか。   3 やはり計算チェックで発見可能 今回の事例では、固定資産合計について株主総会招集通知で公表した数字が間違いであることが判明して、その訂正を行っていますが、総資産の方は、株主総会招集通知を公表した時点で、決算短信の数字から変更済みでした。 つまり、株主総会招集通知作成時点で、決算短信の数字に何らかの変更が必要であることがわかって、株主総会招集通知ではその変更を反映させたつもりだったものの、固定資産合計の数字を更新し忘れたという可能性が考えられます。 こうしたミスはよくあることですので、そのこと自体を防ぐのは難しいですが、公表前にこのミスを発見することは、そう難しいことではありません。計算チェックをすればわかるからです。実際に【事例40-1】で資産の部の計算チェックをしてみると、固定資産合計の額が合わないことにすぐ気づきます。 この連載の【第12回】と【第35回】でも述べましたが、計算チェックで見つかるミスは結構多いのです。今回の事例が上述のような経緯でミスになったものかどうかはわかりませんが、特に作業の最終段階で数字を変更した場合は、面倒でもその後にもう一度計算チェックをやっておくべきです。   〈今回のまとめ〉 面倒でも、最後の最後にもう一度計算チェックをやりましょう。 (了)

#No. 462(掲載号)
#石王丸 周夫
2022/03/24

2022年株主総会における実務対応のポイント

2022年株主総会における 実務対応のポイント   三井住友信託銀行 ガバナンスコンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠   コロナ禍での株主総会シーズンも3年目を迎えることになり、総会自体は概ね安定的に運営されている模様である。その間、昨年3月より令和元年の改正会社法が施行され、6月には改訂コーポレートガバナンス・コードが適用開始となるなど、制度改正が相次いでいる。本年においても株主総会資料の電子提供制度などの制度改正対応を含めコロナ禍での株主との対話を志向する総会運営を実施していくこととなる。   1 制度改正対応 (1) 株主総会資料の電子提供制度関連 会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)により導入される株主総会資料の電子提供制度が、本年9月1日(以下「施行日」という)に施行されることとなったため、同制度の施行に関連する以下の定款変更対応が必要となる。 【電子提供制度に対応する定款変更】 上場会社において上記①については、みなし定款変更が適用されるが(会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号)(以下「整備法」という)10条2項)、上記②、③の定款変更議案に含めて株主総会に付議すると考えられる。 具体的な定款変更内容については、全国株懇連合会から定款モデル(※1)が公表されているのでそちらを参照願いたいが、そのほかこの機会に定款変更しておくべき事項がないかについても確認しておきたい。なお、電子提供措置をとる旨の定款の定めは登記事項であるが(会社法911条3項12号の2)、みなし定款変更が適用される場合には、経過措置により施行日から6ヶ月以内(2023年2月28日まで)に登記が必要である(整備法10条4項)(※2)。施行日から6ヶ月以内に他の登記をするときは本件事項についての登記もしなければならない(整備法10条5項)。 (※1) 全国株懇連合会「株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの改正について」、「株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの補足説明について」参照。 (※2) みなし定款変更が適用される上場会社が、施行日前に附則を設けて株主総会での定款変更決議を行ったとしても、施行日から6ヶ月以内に登記をすればよいと考えられる(神田秀樹ほか「【座談会】令和元年改正会社法の考え方」旬刊商事法務2230号15~16頁 竹林発言)。 (2) 改正会社法関連 昨年3月1日より施行となった改正会社法関連では、事業報告及び株主総会参考書類において多岐にわたる対応事項が生じたので(※3)、本年も引き続き対応事項に漏れがないか留意が必要である。 (※3) 改正会社法の対応事項については、昨年の拙稿「2021年株主総会における実務対応のポイント」なども参照されたい。 ① 事業報告 3月決算会社においても昨年総会では、ほぼ改正会社法対応の事業報告を作成したであろうが、会社役員の補償契約及び役員等賠償責任保険契約の記載(会社法施行規則119条2号の2、121条3号の2、121条の2関連)については、施行日以後に締結された補償契約及び役員等賠償責任保険契約について適用されるので(会社法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年法務省令第52号)附則2条10号)、昨年は記載せずに本年の事業報告での当該記載が初めてとなる場合もあるので留意されたい。 ② 株主総会参考書類 改正法対応での留意点は昨年と同様であるが、会社役員の報酬議案については、確定額報酬(会社法361条1項1号)も含め、相当とする理由の説明が必要となったので(同条4項)、報酬議案の上程に際しては、取締役の報酬等の決定方針との平仄に留意したうえで、相当とする理由の説明が必要となる。賞与支給など確定額報酬に関する議案を上程する際に留意されたい。会社役員の補償契約及び役員等賠償責任保険契約の記載(会社法施行規則74条1項5・6号、同74条の3第1項7・8号、同76条1項7・8号)についても、事業報告での場合同様に漏れがないか留意されたい。   2 バーチャル株主総会対応 (1) 本年の動向 バーチャル株主総会については発言や議決権行使のできないいわゆるライブ配信の参加型が大勢を占めている状況である。当社調べでも昨年6月総会での参加型の実施は、291社(12.6%)となっており、質問や議決権行使のできる出席型の14社(0.6%)を大きく引き離している。本年においてもこの傾向に大きな変動はないと思われるが、コロナ禍での感染拡大防止対策としてだけではなく、株主の居住地に関わらず参加機会の拡大につながる側面も注目されており、本年も採用会社が増加すると予想される。 なお、当然のことながらバーチャル株主総会においては、機材・通信回線の手配のほか、会場の設営、シナリオ準備等の対応が必要なので、早めの準備が必要である。 (2) バーチャルオンリー型株主総会 産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(以下「改正産競法」という)(令和3年法律第70号)が昨年6月16日より施行され、上場会社は、省令に定める要件に該当することにつき経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、株主総会の場所の定めを置かない定款規定を設けることが可能となった。これにより、リアル会場の設営を要しないバーチャルオンリー型株主総会の開催が可能となったのである。なお、改正産競法附則3条1項により、同法の施行から2年を経過するまでの間、改正産競法66条1項に基づく経済産業大臣・法務大臣の確認を経れば、みなし定款としてバーチャルオンリー型株主総会の開催が可能となった。 これまでにバーチャルオンリー型株主総会を開催した会社は3社で、まだ少数ではあるもののそのメリットなども注目されているところである(※4)。 (※4) バーチャルオンリー型株主総会を開催したのは、ユーグレナ、グリー、freeeの3社。ユーグレナ、グリーは株主総会の動画を公開しており、オンリー型株主総会の運営を知るうえで参考になる。 バーチャルオンリー型株主総会に関する定款変更については、全国株懇連合会より定款モデルが公表されており(※5)、経済産業大臣・法務大臣の確認も含め制度の詳細については経済産業省のウェブサイト(※6)を参照されたい。これまでは、両大臣の確認を得られることを効力発生条件として、定款変更議案を付議する事例も見られたが、実務の安定的な運用に際しては、できるだけ事前に両大臣の確認を終えておくように対応することが望ましいであろう。 (※5) 全国株懇連合会「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律の施行に伴う定款モデルおよび招集通知モデルの改正について」 (※6) 経済産業省「場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度」 バーチャルオンリー型株主総会の実施事例はまだまだ少ないものの、準備として定款変更を実施する会社はこれまでに50社程度あり、今後も増加していくと思われる。コロナのような感染症拡大の場合のほか、震災等の大規模災害発生時の対応としても検討に値すると思われる。なお、ISSはバーチャルオンリー型株主総会の開催を目的に「場所の定めのない株主総会」の開催を可能とする定款変更については、「バーチャルオンリー型株主総会の開催を感染症拡大や天災地変の発生に限定する場合」を除き、原則として反対を推奨するとしている(※7)。本件定款変更に対する機関投資家の対応は分かれているようであるが、定款変更議案の上程に際しては、バーチャルオンリー型株主総会を開催する意図について、丁寧な説明が必要であろう。 (※7) ISS「2022年版 日本向け議決権行使助言基準」   3 株主総会運営について コロナに関する行動制限や警戒態勢が大幅に緩和されることは当面考えづらく、基本的には昨年の運営方針を踏襲することになろう。所要時間も概ね30分台か長くても1時間程度で終えられており、時間を意識した運営が定着していると考えられる。今後は限られた時間内でいかに株主との対話を充実させるかが重要となっており、株主総会当日に対応できる質問数も限られることから、例えば事前に質問を受けておき株主から質問の多かった事項を中心に株主総会当日又はウェブサイト等で回答する取組みなども徐々に広がっていくと考えられる。 コロナ禍での時間短縮の取組みとして事業報告内容の簡略化なども一般的に行われているが、株主からもこれらに対する批判的な反応は見られないようであり、コロナ前での事業報告に記載されている「事業の経過及び成果」について、最初から読み上げるパターンからは、より株主の関心事項に絞って、業績のポイントや今後の取組みについての説明を充実させることがアフターコロナの株主総会でも望まれると考えられる。 (了)

#No. 462(掲載号)
#斎藤 誠
2022/03/24

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第21回】「電機メーカーでの品質不正-その原因は何か」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第21回】 「電機メーカーでの品質不正-その原因は何か」   弁護士 原 正雄   M電機では、2016年、2017年、2018年と3度にわたり、グループ全体を対象に品質不正の発見に向けた点検を実施してきた。それにもかかわらず、その間もその後も数多くの品質不正が次々と発覚し続けた。 2021年4月、可児工場において、電磁開閉器につき、米国の第三者認証機関ULに認証登録したものとは異なる材料が使用されている事実が発覚した。 同年6月、長崎製作所においても、鉄道車両用空気調和装置などにつき、契約で定めた品質試験を実施していない疑いが発覚した。 以上の結果、同年7月2日、M電機は記者会見で社長が引責辞任を表明せざるを得ない事態に至ってしまった。 そこで、M電機は、本件品質不正の問題の本質に迫り、断固たる再発防止策を実現することを目的として、同年7月21日、調査委員会を設置した。同委員会はM電機への調査を実施し、同年10月1日に「調査報告書」を提出し、同年12月23日にも「調査報告書(第2報)」を提出した。 M電機の品質不正は非常に広範で、多数の事業所の様々な製品に及ぶ。その全てに論及するのでは紙幅が足りない。そこで、本稿では、可児工場での電磁開閉器の事案と、長崎工場の鉄道車両用空気調和装置の事案(以下、両事案を合わせて「本件品質不正」という)を対象に、なぜM電機で本件品質不正が起きたのかを分析する。   1 本件品質不正の概要 (1) 可児工場-UL認証との不整合 可児工場では、電磁開閉器において、米国の第三者認証機関UL(Underwriters Laboratories)に認証登録したものと異なる材料を使用していた。この不正が行われた経緯は、以下のとおりである。 2012年当時、可児工場では、改良型の電磁開閉器の開発を進めていた。ただ、その開発は遅延を重ねており、さらなる開発遅延は許容され難い状況にあった。 そうしたところ、同年8月から9月にかけてUL規格が改訂された。その結果、従前から電磁開閉器に使用していた材料がUL規格を満たさなくなってしまった。他方、UL規格を満たす材料では、電磁開閉器の耐久性が下がる。 同年10月頃、可児工場の技術課は、その問題を解消するためにさらなる開発を重ねる時間的余裕はないと判断し、従前から使用していた材料の使用を継続することとして、その旨を工場長に報告して了承を得た。また、ULに対しては、規格を満たす材料を使用する旨の虚偽申請をすることとした。その結果、可児工場は、UL規格に適合しないまま、UL認証の登録を受けてしまった。 その後、可児工場の技術課の担当者は、UL認証との不整合の是正に向けた開発を進めたものの難航し、是正できないまま製造・販売を継続することになった。ULが定期点検で製造委託先を訪問する際には、認証との不整合が発覚しないよう製造委託先に虚偽の図面を提供し、規格を満たす材料を使用している旨説明するように依頼していた。 (2) 長崎製作所-品質試験での不正 長崎製作所では、概ね1985年頃から、鉄道車両用空気調和装置について、契約で定めた品質試験を実施していなかった。 その不正は、開発性能試験と商用試験の双方において行われた。開発性能試験とは開発段階で実施する試験のことであり、商用試験とは製造段階で実施する試験のことである。概要は以下のとおりである。 【開発性能試験】 【商用試験】   2 原因 本件品質不正がなぜ行われたのか。その原因は、不正のトライアングルの「動機、機会、正当化」の三要素に分けて分析することができる。以下のとおりである。 (1) 動機 まず、M電機の現場が、なぜ本件不正行為に手を染めてしまったのか、その「動機」について検討する。 ① プレッシャー 可児工場では、電磁開閉器の開発が遅延していた。技術課の担当者には、これ以上発売時期を遅らせるわけにはいかないという事情があった。 長崎製作所では、性能試験室が工作ラインから離れた位置にあり、冷房能力試験等を実施していては生産が追いつかず出荷が遅れるという事情があった。 上記は、現場にとっての開発や生産・出荷にかかるプレッシャーであった。 ② 事業本部制 ただ、企業や現場が開発や生産・出荷のプレッシャーにさらされるのは当然である。そうしたプレッシャーがあっても、他の企業や現場は品質不正を行わない。にもかかわらず、M電機は品質不正を行った。「調査報告書」によれば、M電機においては、こうしたプレッシャーにさらなる背景事情が加わっていた。それは“事業本部制”である。 M電機で事業本部は、それぞれが独立した損益管理を行っており、いわば1つの会社のようとも言われていた。さらに、事業本部の傘下にある製作所や販売事業部、さらには事業(製品)も、個別に損益管理されていた。 製作所、販売事業部、事業(製品)ごとの損益管理は、経営資源を適切に配分し、効率的な事業運営をする上で有用である。 ただ、M電機では同時に、そうした損益管理が、コストが生じる場合には必要な情報でもボトムアップしないという事態を招いてしまった。なぜなら、事業(製品)の損益が悪化すると、会社が当該事業(製品)から撤退する恐れが生じる。当該事業(製品)から会社が撤退すると、それを担当する従業員が職場を喪失するからである。そのため、当該事業(製品)を担当する従業員は、損益が悪化しないよう、現場レベルで必要なプロセスを省略してしまったり、設備投資が必要との判断を現場レベルで握りつぶしてしまったりすることがあった。 可児工場では、電磁開閉器について、開発が遅延する中、発売スケジュールに間に合わせるため、UL規格を充足しない材料を使用した。これは、損益を悪化させないためにも発売スケジュールを厳守すべきとの思いが技術課従業員に共有されていたからであった。開発に支障が生じていることを名古屋製作所や本社に報告して支援を仰ぐことも考えられたが、可児工場の従業員はそうした対応をしなかった。 長崎製作所では、商用試験の施設ではそもそも試験室がなく、冷房能力試験や防水試験が実施できないという問題があった。しかし、試験室の新設は費用がかかりすぎるため、品質管理課の管理職レベルの判断で採用が見送られた。そのため、試験室を新設すべきとの意見が、長崎製作所から社会システム事業本部や本社に報告されることはなかった。 M電機では、厳格な損益管理が仇となって本件品質不正を招いてしまった。 (2) 機会-品質部門の脆弱性 本件品質不正において、品質部門は牽制機能を果たすことができなかった。そのため、M電機では、現場は抵抗なく本件不正行為を行うことができた。これは、本件品質不正について「機会」を付与するものであった。以下のとおりである。 ① 可児工場-製造部門から独立していなかった 可児工場においては、UL認証との不整合の事実は、技術課の担当者のみならず、品質保証課の管理職をはじめとする担当者との間とも共有されていた。にもかかわらず、品質保証課は牽制機能を果たすどころか、製造部門と一体となって品質不正に関与し、黙認していた。この理由として、以下の2つの要素があった。 まず、組織の要素として、品質保証課が製造部門の傘下にあり、独立性が確保されていなかった点がある。M電機では、製造部門から独立した品質部門を設置するか否かは、事業本部や拠点の自律的な判断に委ねられていた。その結果、可児工場では独立した品質部門が設置されなかった。 また、人的な要素として、品質保証課の担当者にとって、牽制機能を発揮することが容易ではなかったという点がある。M電機では、課長に就任するまでは、同じ事業や製品の範囲内で、設計、製造、品質の各部門をローテーションする人事が多い。品質保証課の担当者が製造現場に反対の声を上げることは、かつて自分が所属し、今後も所属する可能性のある部署に反対意見を述べることを意味するからである。 以上のとおり、可児工場では、組織的にも人的にも、品質部門が製造部門から独立していなかった。これは、組織の在り方に関する経営陣の考え方を反映したものとも言える。 ② 長崎製作所-人材が質・量共に十分ではなかった 長崎製作所においては、2014年2月、製造部門から独立した品質部門として、品質保証部が設置された。その結果、品質部門の独立性は一応確保された。 ただ、品質保証部は、製造部門が契約に定める試験を実施していなかった事実を把握できなかった。品質保証部は、開発段階でのチェックを主眼としており、製造工程のチェックをしていなかった。製造現場を巡回して実態把握に努めることもしていなかったからである。例えば、長崎工場では、製造ライン上に冷房能力試験や防水試験の施設がないことは一目瞭然であった。しかし、品質保証部は、そのことに気付かなかった。 また、長崎製作所では、設計課が品質管理課(注:製造部内の課であり、品質保証部とは別である)に契約で定めた試験項目を伝えても、品質管理課はその試験項目を記載せずに試験要領書を作成していた。公的規格についても、同様に記載していなかった。しかし、この不記載を品質保証部がチェックをする仕組みもなかった。 長崎製作所では、人材が質・量共に十分ではなく、製造現場を把握し、製造部門への牽制を働かせるだけの力を持てなかった。これは、人的リソースの配置に関する経営陣の考え方を反映したものとも言える。 (3) 正当化 現場は、本件品質不正について「実質的に問題はない」と考えていた。これは、本件品質不正を「正当化」するものであった。以下のとおりである。 ① 「品質に問題なければよい」 本件品質不正の直接の原因は「品質に実質的に問題がなければよい」という安易かつ誤った正当化が行われていた点にある。 「調査報告書」によれば不正に関与した従業員は、口を揃えて「品質に問題はなかった」と述べる。そのため、一部の従業員は、本件品質不正を「悪いこと」、「許されないこと」と受け止め切れていない。 例えば、可児工場では、電磁開閉器にUL規格を満たさない材料を採用し、ULに虚偽申請を行うことを決定した。関与した従業員は、UL規格を充足しない材料も、UL所定の試験を受けさえすればUL規格を充足するはずであると考えていたと述べている。 また、長崎製作所では、鉄道車両用空気調和装置について、契約に反した方法で開発性能試験が実施されていたにもかかわらず、関与した従業員は「実質的に問題はない」と考えていた。 さらに長崎製作所では、商用試験でも、契約で定めた試験を実施していなかった。従業員は「性能や安全性に関するリスクは、全て開発段階の試験で洗い出されており、商用試験では、通電して運転できることを確認すれば足りるという意識が支配的であった」などと述べている。 なお、「調査報告書(第2報)」によれば、調査委員会は「実質的には品質に問題はない」と言えるのかについて疑義を示している。 例えば、長崎製作所においては、鉄道車両用空気調和装置について取り付けるネジの種類を取り違えていた例があった。また、別製品であるが、非常用発電設備については、コンデンサが逆向きに取り付けられたまま出荷されており、機能停止のリスクを有するものであった。 そのため、調査委員会は「品質に問題ない」との考えについて「少なくとも一部の製品については過信にすぎないことを自覚して、品質・技術の向上に努めていくべきである」としている。 ② 契約の意味や重要性に関する意識が十分でなかった M電機の現場では、契約を締結することの意味や契約で定められた仕様を遵守することの重要性に関する意識が十分でなかった。この点について調査委員会は「ビジネスの根幹にかかわる倫理観や規範意識が低下していた」と指摘している。 長崎製作所には、製造ライン上に冷房能力試験等や防水試験を実施する設備がなく、これらの試験を実施できなかった。顧客と仕様について交渉する設計各課の担当者も、このことを認識していた。しかし、従前、顧客には、これらの試験を実施している旨説明してしまっていた。設計各課の担当者は「いまさら試験を実施しない旨の提案はできない」と考え、顧客との間で、これら試験を実施するとの合意をし続けてしまった。 なお、設計各課の担当者は、海外の顧客が相手の場合、実際に可能な試験に限定する旨の交渉を行っていた。この点について当該担当者は「海外は契約文化であり、契約を守らないと問題になると思った」などと述べたとのことである。ただ、契約遵守が求められるのは、日本も同様である。日本の顧客や契約の重要性を甘く見ていたと言わざるを得ない。 ③ 「体制と手続」による品質の確保 M電機の従業員は高い専門性を有し、「顧客のために良いものを作る」という高い意識を持ち、その達成に向けて尽力してきた。 しかし、顧客は、従業員の長年の経験に基づく「知見や感覚」だけを信頼してM電機から製品を購入するわけではない。顧客は、M電機が品質確保のための体制を構築し、その下で正しい手続に従って製品を製造していることを信頼して製品を購入する。すなわち、「体制と手続」があるからこそ、顧客の信頼を得ているのである。体制を構築せず、手続を逸脱した製品の製造・出荷は、顧客に対する裏切り・背信である。 しかし、M電機は、十分な体制を構築せず、手続きも逸脱したまま、製品を製造出荷していた。そうしたことが生じた要因は、単に当該従業員の倫理観が低いということにあるのではなかった。むしろ、従業員がそもそも「体制と手続」により品質を担保するとの考え方を理解していなかったからと解する。「調査報告書」も指摘しているとおりである。   3 まとめ 以上をまとめると、以下のとおりである。 まず、M電機は、可児工場では、電磁開閉器につき、UL規格を満たしていない材料を使用しているのに、ULに認証登録を申請して登録を得て、そのまま製造販売を継続していた。また、長崎製作所においては、鉄道車両用空気調和装置などにつき、契約で定めた品質試験を実施していなかった。 こうした本件品質不正が行われた原因は、以下の点にあった。 まず、「動機」として、開発遅延や試験設備投資は、製品の損益や製作所の損益に悪影響を与えるとの懸念があった。しかも、事業本部制を採用していた結果、現場においてコスト意識が徹底され、損益の悪化は自らの職場の喪失につながりかねないとの恐れが、そうしたプレッシャーを特に強いものとしてしまった。つまり、損益管理の徹底が仇となってしまった。 また、「機会」として、品質部門が脆弱であり、牽制機能を発揮できていなかったという点があった。そのことが、現場の従業員をして、本件品質不正を行うことを容易にしてしまった。これは、組織の在り方や人的リソースの配置に関する経営陣の考え方を反映したものであった。 さらに、「正当化」として、「品質に問題がなければよい」との考えがあったことや、「体制と手続」による品質の確保についての理解が不十分ということがあった。その結果、現場の従業員は、特段の良心の呵責もなしに本件品質不正を行ってしまった。 以上の原因は、すぐに是正に取り組める点もある。他方で、組織の在り方そのものや、会社としての文化に根差すものもあり、改善が必ずしも容易ではないものも多い。とは言え、今回の「調査報告書」を読むと、M電機が不祥事と向き合い、会社の改善に向けて真摯に取り組んでいる様子がうかがえる。本件品質不正をきっかけに、M電機がさらに良い会社になることを願う。 (了)

#No. 462(掲載号)
#原 正雄
2022/03/24

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例69】エバラ食品工業株式会社「新市場区分における『スタンダード市場』の選択申請に関するお知らせ」(2021.12.13)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例69】 エバラ食品工業株式会社 「新市場区分における『スタンダード市場』の選択申請に関するお知らせ」 (2021.12.13)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、エバラ食品工業株式会社(以下「エバラ食品工業」という)が2021年12月13日に開示した「新市場区分における『スタンダード市場』の選択申請に関するお知らせ」である。 いよいよ東京証券取引所(以下「東証」という)の市場区分が2022年4月4日にプライム市場・スタンダード市場・グロース市場という新市場区分へ移行する。そのうちプライム市場とスタンダード市場の上場維持基準は以下の表のとおりである(2022年4月4日に施行される改正後の東証・有価証券上場規程501条。同規程601条1項1号により「改善期間」内に改善されなかった場合が上場廃止基準に。「流通株式数」の計算方法は、2022年4月4日に施行される改正後の東証・有価証券上場規程施行規則8条参照)。 右列の「経過措置」とは、緩和された上場維持基準であり、移行基準日(2021年6月30日)に新市場区分の上場維持基準に適合していない場合、「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示することにより、当分の間、この基準の適用を受けることができるとされている。 プライム市場とスタンダード市場の上場維持基準を比べると、プライム市場の上場維持基準が厳しく、上場維持基準と経過措置を比べると、経過措置が緩やかなものであることが分かるだろう。 東証が2022年1月11日に公表した「新市場区分の選択結果について」によると、一部上場の会社のうちプライム市場の上場維持基準に適合していない会社は617社あり、さらにそのうち、プライム市場を選択した会社、すなわち経過措置の適用を受ける会社は296社、スタンダード市場を選択した会社は321社である。 しかし、一部上場の会社のうちスタンダード市場を選択した会社は344社ある。したがって、プライム市場の上場維持基準に適合しているにもかかわらず、あえてスタンダード市場を選択した会社が、その時点で23社あるということになる。エバラ食品工業はその中の1社である。 〈プライム市場〉 (注1) 株主数と純資産の基準は緩和されない。 (注2) 事業年度末日以前(今回の新市場区分選択においては2021年4月から6月までの)3ヶ月間の東証の売買立会における日々の最終価格の平均値を乗じて算出。 (注3) 毎年12月末日以前(今回の新市場区分選択においては2020年7月から2021年6月までの)1年間における東証の売買立会での金額を日次平均にした値を使用。 〈スタンダード市場〉 (注1) 売買高と純資産の基準は緩和されない。 (注2) 事業年度末日以前(今回の新市場区分選択においては2021年4月から6月までの)3ヶ月間の東証の売買立会における日々の最終価格の平均値を乗じて算出。 (注3) 毎年6月末日又は12月末日以前6ヶ月間における東証の売買立会での売買高を月次平均にした値を使用。   2 なぜあえてスタンダード? プライム市場の上場維持基準に適合しているにもかかわらず、なぜあえてスタンダード市場を選択したのか。エバラ食品工業は、今回の開示の中で以下の3つの理由をあげている。 3番目の理由の中に「更なるコストや労力を要する点」とあるが、「コーポレートガバナンス・コード」において、プライム市場上場会社には以下のような対応が求められている。 こうしたことよりも、「限られた経営資源を新たな価値を創造する商品やサービスの開発とそれを実現する組織・人材の活性化に振り向けることが企業価値向上に資すると考え」たのである。 また、当初プライム市場を選択したものの、スタンダード市場選択に変更した会社もある。株式会社ミツウロコグループホールディングスは2021年9月17日に「新市場区分における『プライム市場』選択申請に関するお知らせ」を開示し、プライム市場の上場維持基準に適合しているため、プライム市場を選択するとしていた。 しかし、2021年12月24日になって、「新市場区分における『プライム市場』の選択取り下げ及び『スタンダード市場』選択申請に関するお知らせ」を開示し、やはりスタンダード市場を選択するとした。それは、次のとおり、「企業価値向上」のためには「限られた経営資源」を何にあてるべきかを考えたうえでの結論であった。   3 なぜあえてプライム? 大正製薬ホールディングス株式会社も、プライム市場の上場維持基準に適合しているにもかかわらず、あえてスタンダード市場を選択した会社である。しかし、同社はそれに関して開示していない。市場選択など重要なことではないと考えているのだろう。 プライム市場の上場維持基準に適合していないにもかかわらず、あえてプライム市場を選択した会社は、なぜそうした選択をしたのだろうか。プライム市場上場に重要性を見出しているからだろう。これまで「東証一部上場」というブランドは経営にプラスに働いてきたため、今度は「東証プライム上場」というブランドが必要であると考えているのだろう(ブランド信仰に囚われているように思えなくもないのだが)。 しかし、「東証プライム上場」というブランドがもたらしてくれるプラスと、あえて身の丈に合わないプライム市場に上場することによるマイナスとをきちんと比較して判断した会社は、果たして296社のうち何社あるのだろうか。 東証の「新市場区分の選択結果について」によると、上場維持基準のうち流通株式時価総額の基準に適合できていない会社が圧倒的に多い。流通株式比率の基準に適合していない会社は少数であるため、流通株式時価総額の基準に適合できていない原因は株価の低さである。株価を上げるためには、まず業績を良くする必要があるが、上述のとおり、プライム市場に上場すると、その対応のために費用が増加するはずである。それを上回る収益の増加があればいいが、簡単なことではないだろう(粉飾決算が増えなければいいのだが)。 費用の増加を上回る収益の増加が実現できなければ、人件費を含めた他の費用が抑制されることになるのだろう。株価を上げるため、株主への配当を抑えることはできない。従業員を犠牲にして捻り出した利益が株主へ放出される。そうだとしたら、仮に時価総額が増大したとしても、会社は疲弊してしまうだろう。そんな末路を迎えることがなければいいのだが。 (了)

#No. 462(掲載号)
#鈴木 広樹
2022/03/24

《速報解説》 国税庁、e-Tax接続障害に伴う65万円の青色申告特別控除の取扱いを一部変更~e-Taxによる再提出が不要なケースも~

《速報解説》 国税庁、e-Tax接続障害に伴う65万円の青色申告特別控除の取扱いを一部変更 ~e-Taxによる再提出が不要なケースも~   Profession Journal編集部   令和4年3月14日(月)発生のe-Tax接続障害に伴う65万円の青色申告特別控除の取扱いについては、翌15日付けで国税庁よりその対応が公表されたところだが、22日に同情報が更新され、一部取扱いが変更となった。 今回取扱いが変更されたのは、当初はe-Taxにより申告することで65万円の青色申告特別控除を受けようとしていたものの、今回の接続障害を受けて3月15日までに「書面で」提出した者のうち以下のケース。 15日付けの情報では、①②いずれの場合も65万円の青色申告特別控除を受けるためには、令和4年4月15日(金)までに、65万円の青色申告特別控除を適用する申告書に「e-Taxの障害による申告・納付期限の延長申請」である旨を記載して、改めてe-Taxにより再提出する必要があるとされていた。 22日付け情報では、上記のうち①のケースについては、改めてe-Taxにより申告書を再提出する必要はないこととされた(②のケースについては、申告期限の延長申請と共に、65万円控除に修正した申告書のe-Taxによる再提出が必要)。 なお、今回の接続障害により、申告・納付期限の延長を行う期間は令和4年4月15日(金)まで、預貯金口座からの振替日(申告所得税)は令和4年5月31日(火)で変更されていない。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 461(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2022/03/23

《速報解説》 「ESG版伊藤レポート」を公表~環境・社会・ガバナンスへの取り組みに関する実効性や情報開示の質の向上などの課題について検討~

 《速報解説》 「ESG版伊藤レポート」を公表 ~環境・社会・ガバナンスへの取り組みに関する実効性や情報開示の質の向上などの課題について検討~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年3月17日、信託協会に設置された「企業のESGへの取り組み促進に関する研究会」は、「「ESG版伊藤レポート」ESGへの実効性ある取り組みの促進と課題解決に向けて~マテリアリティの特定と役員報酬制度の在り方~」を公表した。 これは、ESG(環境・社会・ガバナンス(ESG:Environment Social Governance))への取り組みに関する実効性や情報開示の質の向上などの課題について検討したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ ESGへの取り組みの意義 持続可能な社会や環境は、企業自身の持続的な成長に不可欠なものである。 資本市場や機関投資家がESGを重要視し、欧米を中心に消費者や取引先が環境・社会への配慮を企業選定基準とする傾向が高まっており、それらは、企業の事業機会や収益機会の創出にも繋がっている。 企業によるESGへの取り組みは企業存続に影響を及ぼす大きな要素であるとともに、企業価値向上の源泉となり得る。 企業はこのような意義を再認識するとともに、ESG課題解決を担う主体として、積極的にESGへの取り組みを企業経営に取り入れる必要がある。   Ⅲ ESGへの取り組みの一層の実効性向上に向けて ESGへの取り組みの一層の実効性向上に向けて、次の事項について記載している。   Ⅳ ESG指標に関する各種課題の解決 企業は、持続可能な企業価値向上のプロセスとして、経営理念・パーパス(存在意義)やマテリアリティ(重要課題)、経営戦略と関連付けた適切な目標を定め、その成果を測る指標としてESG指標を設定することが重要である。 一方で、ESG指標には、「透明性の確保」「恣意性の排除」「客観性の担保」「業績との連動」の課題があり、これらの課題解決が必要となる。 次の事項について記載している。 (了)

#No. 461(掲載号)
#阿部 光成
2022/03/22

《速報解説》 国税庁、e-Tax接続障害に伴う65万円の青色申告特別控除の適用方法等を明らかに~e-Taxでの受付結果の確認方法などをまとめたFAQ(全6問)も公表~

《速報解説》 国税庁、e-Tax接続障害に伴う65万円の青色申告特別控除の適用方法等を明らかに ~e-Taxでの受付結果の確認方法などをまとめたFAQ(全6問)も公表~   Profession Journal編集部   3月14日から15日にかけて発生したe-Taxの接続障害に関して、既報のとおり国税庁は15日付で、e-Taxの障害による申告・納付期限の延長申請手続について周知を図っていた。 同庁の説明では「e-Taxの障害により期限内の申告が困難な場合には、本日(編集部注:3月15日)中に書面により提出していただくか、個別に申告期限を延長して、後日提出していただくことができ」るとしており、後者(申告・納付期限の個別指定による期限延長手続)については確定申告書等作成コーナーを利用してe-Taxで提出する場合の入力方法として、「送信準備」画面の「特記事項」欄に「e-Tax の障害による申告・納付期限延長申請」と入力(ただし全角にて)するなどの方法が紹介されている。 一方、前者の場合、例えば接続障害を受けe-Taxによる申告を諦め、3月15日中に書面による提出を行った場合、65万円の青色申告特別控除の要件のうち、「その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出を、確定申告書の提出期限までにe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使用して行うこと」を充たさないことから、適用が認められないのではとする疑問が起こっていた。 そこで国税庁は18日付けで、「3月14日から発生したe-Taxの接続障害への対応等」を公表、今回の障害の原因が申告期限直前の利用者増に伴うサーバ負荷によって処理パフォーマンスが低下したことによるものとした上で、別途、65万円の青色申告特別控除の適用に関する取扱いや、今回の接続障害による個別延長手続に関するFAQを公表した。 「e-Taxの接続障害に伴う 65 万円の青色申告特別控除の取扱いについて」では、以下の取扱いが示されている。 なお、FAQでは次の6問が示されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 460(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2022/03/18
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