《速報解説》 外形標準課税対象法人に係る法人事業税所得割の軽減税率を廃止 ~令和4年度税制改正大綱~ Profession Journal編集部 事業年度終了の日における資本金の額又は出資金の額が1億円を超える普通法人については、法人事業税の外形標準課税が適用され、「付加価値割額」「資本割額」「所得割額」の合計で法人事業税額が算出される。 このうち所得金額を課税標準とする「所得割額」には、上記の通り資本金の額1億円超であっても、各事業年度の所得のうち年800万円以下の金額について軽減税率(以下の①②)が設けられている(地方税法72の24の7①一)。 (注1) ただし三以上の都道府県において事務所又は事業所を設けて事業を行う法人で、資本金の額又は出資金の額が1,000万円以上のものが行う事業に対する所得割については、軽減税率は適用されない(地方税法72の24の7④)。 (注2) 括弧内は特別法人事業税相当額(所得割額×260%)を含む。 (注3) 東京都の場合、①年400万円以下の金額について0.495%、②年400万円を超え年800万円以下の金額について0.835%、③年800万円を超える金額について1.18%の超過税率が適用される。 令和4年度税制改正大綱では、上記の軽減税率(0.4%及び0.7%)を廃止する(標準税率1%とする)ことが明記された(大綱P56)。 この見直しによる税負担増は、最大でも1社あたり約13万円/年(注4)とされ、令和4年4月1日以後開始事業年度から適用される。 (注4) ①の軽減分(400万円×0.6%=24,000円)+②の軽減分(400万円×0.3%:12,000円)+特別法人事業税((①+②)×260%=93,600円)=129,600円 (了)
《速報解説》 東京局、市街地再開発事業により貸付事業が中断された場合の 小規模宅地等特例の判定に関する文書回答事例を公表 ~新たに貸付事業の用に供された宅地等の範囲に注意~ 税理士 柴田 健次 1 はじめに 平成30年度税制改正により、相続開始直前に賃貸用不動産の購入などをして金融資産を不動産に変換し、小規模宅地等の特例を適用する節税手法を防止するため、貸付事業用宅地等の範囲から、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされた。ただし、特定貸付事業を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされた(措法69の4③四、措令40の2⑲)。 特定貸付事業とは、貸付事業のうち、準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付その他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)以外のものをいう(措令40の2①⑲)ので、例えば、5棟10室以上の規模で事業として不動産の貸付を行っている場合には、特定貸付事業となり3年以内の問題はないが、マンションの2室のみを所有し賃貸している場合には、事業とはいえず特定貸付事業には該当しないため、3年の判定が必要となる。 なお、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に相続又は遺贈により取得した宅地等のうち、平成30年3月31日までに貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内貸付宅地等に該当しないものとする経過措置が設けられている(附則118④、措通69の4-24の8)が、実務的には、この経過措置の対象案件も少なくなってきたため、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等に該当していないか、注意が必要となる。 これに関連して、市街地再開発事業により中断した貸付事業を再開した場合に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するか否かについての文書回答事例が、令和3年12月24日に東京国税局より公表された。 文書回答事例の概要は、下記のとおりである。 2 事前照会の内容 被相続人甲は、下記のとおり、平成25年以前までA市所在の建物(以下「従前建物」という)及びその敷地を所有し、その建物の一部を被相続人甲の次男家族に使用賃貸により使用させていたほかは、被相続人甲の同族会社(以下「乙社」という)に賃貸していたが、A市の都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業により貸付事業を中断している。 甲は、その再開発事業に係る権利変換により平成30年3月30日に区分所有建物の1階の1室(以下「本件店舗」という)及び35階の1室(以下「本件住戸」という)の所有権と敷地権の引渡しを受けた。本件店舗については、平成30年4月1日に乙社に賃貸(乙社は第三者に賃貸)し、本件住戸については、引渡し後に速やかに賃借人の募集を行い、平成30年12月に第三者に賃貸している。 その後、被相続人甲は、令和3年2月に死亡している。 上記の場合には、相続開始時点において賃貸していた本件店舗及び本件住戸の敷地の用に供されていた宅地のうち、権利変換前において従前建物に係る乙社に賃貸していた部分については、市街地再開発事業によって、やむを得ず貸付事業の用に供することができなかったものであるため、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないと考え、貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適用を受けることができると解してよいか。 3 示された見解 本件について東京国税局は、貴見のとおりで差し支えない旨を示している。 下記の理由から相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないため、他の要件を満たせば特例の適用対象になる。 4 文書回答事例のポイントと実務上の留意点 なお、文書回答事例が特例の対象になるためのポイントは、下記の3つである。 (1) ①について 法令の規定に基づき、土地所有者に対し、土地利用の制約が及ぶなどのやむを得ず貸付事業が一時的に中断された場合をいうのであって、例えば、単に資産の買換えを行うために土地建物を売却して、新たに土地建物を購入し賃貸の用に供した場合には、これに該当しないため、原則として「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになる。 なお、建物の建替えについては、建て替え後に速やかに新たな賃借人の募集が行われ、賃貸されたときは、「何らの利用がされていない場合」に該当しないことから、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」には該当しないこととされており(措通69の4-24の3)、買換えと建替えでは取扱いが異なる点に留意する。 (2) ②について 速やかに募集をしていない場合には、「何らの利用がされていない場合」に該当するため、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになる。貸付事業の継続の観点から、事情が解消された際に速やかに賃借人の募集が行われていることが前提となる。 (3) ③について 特例の対象になるのは、権利変換前後において貸付事業を継続している部分のみが対象になる。したがって、権利変換後において貸付事業の用に供しない部分があると認められる時は、その部分は特例の対象にならず、文書回答事例のように本件店舗及び本件住戸の敷地の用に供されていた宅地の全てが対象となるのではなく、あくまでも従前建物に係る乙社に賃貸していた部分に対応するもののみが特例の対象になる。 * * * 実務上は、「新たな貸付事業の用に供された宅地等」の判断に迷うことも少なくないため、条文や通達、公表された情報を基に確認することが重要となる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 帳簿の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の整備 ~令和4年度税制改正大綱~ 弁護士 下尾 裕 令和4年度税制改正大綱においては、「帳簿の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の整備」として、帳簿等の不提示又は記載が不十分な場合における過少申告加算税及び無申告加算税の加重措置が盛り込まれる旨明記された。 本稿においては、上記税制改正大綱の記載内容等を前提に、予定されている改正の概要について解説する。 1 加重措置の概要 納税者が、一定の帳簿に記載すべき事項に関し所得税、法人税又は消費税(輸入消費税を除く)に係る修正申告書等の提出又は更正・決定があるよりも前に、国税庁等の職員から帳簿の提示又は提出を求められたにもかかわらず当該帳簿を提示しない又はその記載が不十分である場合には、当該帳簿に記載すべき事項に関し生じた申告漏れ等に課される過少申告加算税の額又は無申告加算税の額については、通常課される過少申告加算税の額又は無申告加算税の額に当該申告漏れ等に係る所得税等の金額の5%(不提示又は記載が著しく不十分である場合は10%)に相当する金額を加算する旨の加重措置が盛り込まれる予定になっている(大綱P70)。 (1) 一定の帳簿の範囲 ここでの「一定の帳簿」とは、以下に列挙する帳簿のうち、売上金額又は業務に係る収入金額の記載についての調査のために必要があると認められるものをいうものとされている。 具体的には、白色申告者、青色申告者のうち簡易簿記又は現金式簡易簿記による記帳を行っている者及び消費税法上の帳簿保存を行う事業者については、売上帳、売掛帳及び現金出納帳等、青色申告者のうち複式簿記による記帳を行っている者については仕訳帳、総勘定元帳(売上に関する部分)が、それぞれ「一定の帳簿」に該当するものと想定される。 (2) 記載が不十分である場合等の判定 上記における帳簿の記載が「不十分である場合」及び「著しく不十分である場合」については、それぞれ以下のとおり判定されることとなる。 [加重措置の適用対象範囲のイメージ] (出典) 「自由民主党税制調査会資料」(令和3年12月7日) (3) 適用除外 上記加重措置については、災害等に起因する場合等、納税者の責めに帰すべき事由がない場合には適用されない予定である。 2 適用時期 当該改正は、令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用される予定である。 (了)
《速報解説》 上場株式等の配当所得等、所得税と個人住民税で異なる課税方式の選択が不可に ~令和4年度税制改正大綱~ Profession Journal編集部 現行制度では、上場株式等の配当所得等(大口株主等が受けるものを除く)について、次の3つの課税方式から選択することができる(復興特別所得税については省略している)。 (注1) 1回に支払を受けるべき配当等の額ごと(源泉徴収選択口座内の配当等については口座ごと)に選択可。 (注2) 申告不要を選択した配当所得等については、総所得金額等の計算に含めない。 上記3つの課税方式は、所得税だけでなく個人住民税も選択でき、所得税と個人住民税とで異なる課税方式を選択することが可能となっている。これは平成29年度税制改正においてその取扱いが明確化されたもので、個人住民税の納税通知書が送達される時までに個人住民税の申告書(自治体によっては申出書)を提出する必要がある(地方税法32⑬、313⑬)。 (注3) 上場株式等の譲渡所得等については現行、②申告分離課税と③申告不要が選択でき、上場株式等の配当所得等と同様、所得税と個人住民税とで異なる課税方式が選択できる(地方税法32⑮、313⑮)。 (注4) 令和3年度税制改正では、令和3年分以後の確定申告から、個人住民税で特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の全部について申告不要を選択する場合に、確定申告書の提出のみで申告手続が完結できるよう、確定申告書Bの第二表に「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄が設けられている(A様式も同様)。 3つの課税方式のうちどれを選択するかは、適用される税率(累進税率・一定税率)や配当控除の率(課税総所得金額によって10%又は5%(住民税の場合、2.8%又は1.4%))、他の所得区分の状況(損失等)などで判断することになるが、所得税と個人住民税とで異なる課税方式を選択することで、税負担だけでなく、自営業者などが加入する国民健康保険料(個人住民税における総所得金額等をもとに算定される)の負担を軽減する効果があるとされている。 このため令和4年度税制改正大綱では、他制度への影響や公平性の観点から、「個人住民税において、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式を所得税と一致させる」ことが明記された(大綱P76)。これにより、上場株式等の配当所得等及び上場株式等の譲渡所得等において所得税と個人住民税とで異なる課税方式を選択することができなくなる。 なお、この改正案については、令和6年度分以後の個人住民税(令和5年分の所得金額に基づく)について適用され、所要の経過措置が講じられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 金融庁、「金融審議会公認会計士制度部会報告」を公表 ~会計監査の信頼性確保のための方策や公認会計士の能力発揮・能力向上に向けた環境整備を検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年1月4日、金融庁に設置された金融審議会「公認会計士制度部会」は、「金融審議会公認会計士制度部会報告-上場会社の監査品質の確保と公認会計士の能力発揮に向けて-」を公表した。 これは、2021年11月12日に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)論点整理-会計監査の更なる信頼性確保に向けて-」のうち、公認会計士制度に関する事項を中心に検討したものである。 なお、1月5日付で、日本公認会計士協会の会長声明も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計監査の信頼性確保のための方策 1 上場会社の監査を担う監査事務所の規律の在り方 次のような制度枠組みとする。 2 公認会計士・監査審査会によるモニタリング 報告徴収や立入検査の権限のうち、監査法人等の業務の運営の状況に関して行われるもののみを公認会計士・監査審査会に委任するとの限定をなくし、公益又は投資者保護のため必要かつ適当と認めるときは、公認会計士・監査審査会において必要なモニタリング機能を発揮できるようにする。 これにより、例えば、虚偽証明等の疑義がある監査法人等に対して公認会計士・監査審査会が立入検査を行う際、当該監査法人等の業務の運営の状況の検証を行うとともに、虚偽証明等の検証を併せて行うという運用が想定される。 Ⅲ 公認会計士の能力発揮・能力向上に向けた環境整備 次のような施策を行う。 (了)
2022年1月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.451を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.108- 「新しい時代の税制の課題」 -AI、デジタル経済の発達とロボットタックス- 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 新年ということで、今後の税制の課題について筆者の「空想」も交えながら考えてみたい。 * * * 税金は、国家の運営経費である。それがなければ国防も教育も社会保障も提供できない。その確保は国家にとって最大の使命なので、税務当局はあらゆる手段を駆使して税金の徴収を確保しようとする。 インターネットの発達のもとで、データとAIを駆使して膨大な新たな「富」が生み出されているが、そもそも「富」を生み出すのはデータの取得段階か、加工段階か、アルゴリズムを使ってビジネス化する段階なのか、誰にもわからない。 昨年10月のOECDで、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表される大規模多国籍企業の超過利益に対して「市場国」の課税権が合意された。その結果、利益率10%超の多国籍企業100社程度について、10%を越える超過利益のうちの25%を、売上に応じて「市場国」に配分することとなった。 しかし、この合意は全世界でわずか100社程度の話で、わが国企業で当てはまるのは数社である。これで「市場国」が納得するとは思えない。 第104回で述べたようなIoT化や製造業のaaS(アズ・ア・サービス)化が、今後とも進んでいけば、ますます「市場国」に落ちる税収は減ってしまう。そうなれば、世界各国でデジタルサービス税(DST)を導入しようという動きが出てくる。さらには、現在本店所在地で課税している法人税を、消費税(VAT)のように仕向地(消費者の居住する国、市場国)で課税する方法に変更しようという動きも強くなる。 モノをサービスに変えてしまうデジタル化の加速は、法人税を、国境を超えるサービスとして課税する売上税・消費税に変えていく。 さらなる問題は、デジタル化の加速が所得税に及ぼす影響である。取引が、事業者と個人間、さらには個人と個人間で直接行われ、暗号資産(仮想通貨)で決済されるようになれば(すでに一部そうなっているが)、だれがいつどこで所得を生み出したのかを把握することは困難になる。 だれがいつどこでお金を受け取ったのかの情報入手が、税務当局の情報収集能力を超えれば(すでに超えているが)、税の不公平や格差が拡大し、国家運営も大きな打撃を受ける。 また、ロボットの発達が雇用を縮小させるなど、技術進歩の成果が労働者に十分分配されていないという問題に対して、ロボットタックスを課すべきだという考え方がある。課税方法としては、ロボットの名目賃金を計算し、企業がそれに見合う税や社会保険料を支払うという考え方である。筆者も、『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版)の中でロボットタックス・無形資産への課税について考察したことがある。 このような動きに対してIMFは、生産資本に対する課税の経済コストは長期的には大変大きいことを認識すべきだと警鐘を鳴らす。ロボットタックスはロボットの普及を遅らせ、短期的には未熟練労働者の需要拡大と賃金上昇をもたらすが、長期的には生産の損失の代償を払うことになると(※)。 (※) IMF Working Papers Volume 2021: Issue 187“Fiscal Policies and Equity-Efficiency Trade-offs in the Age of Automation”参照。 * * * AIやデジタルエコノミーの発達と税の問題は、どのように折り合いをつけるのだろうか。この数年で答えを出さなければならない問題だ。 (了)
令和3年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「令和3年分の申告から適用される改正事項」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 -はじめに- 令和3年分の確定申告の受付は、令和4年2月16日(水)から3月15日(火)まで行われる。還付申告は、令和4年2月15日(火)以前でも行うことができる。 なお、e-Taxを利用する場合は、令和4年1月4日(火)から3月15日(火)の間であれば、メンテナンス時間(3月14日を除く毎週月曜日午前0時~午前8時30分を予定)を除き、24時間(※)申告書を送信することが可能である。 (※) 1月4日(火)は8時30分から、3月15日(火)は24時まで。 今回から3回シリーズで、令和3年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 第1回は、令和3年分の確定申告から適用される改正事項について次の①から⑥を取り上げる。 なお、確定申告に係る下記の拙稿も併せてご参照いただきたい。 (注) 上記の記事については、掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。 【1】 住宅借入金等特別控除に関する改正 (1) 契約期限と居住開始期限の延長 住宅の取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を令和3年1月1日から令和4年12月31日(改正前は、令和3年12月31日)までの間にその者の居住の用に供した場合には、控除期間13年間の特例を適用することができる(新型コロナ税特法6の2①)。 (2) 面積要件の緩和 個人又は住宅被災者が、国内において特例居住用家屋の新築取得等で特例特別特例取得に該当するものをした場合には、上記(1)の特例を適用することができる。 ただし、特例居住用家屋の場合には、その年の合計所得金額が1,000万円を超える年については本特例の適用を受けることはできない(新型コロナ税特法6の2④~⑦)。 《特別特例取得及び特例特別特例取得とは》(新型コロナ税特法6の2②⑩、新型コロナ税特令4の2①⑭) 《特例居住用家屋とは》(新型コロナ税特法6の2④、新型コロナ税特令4の2②) 【2】 子育てに対する助成等の非課税措置 令和3年1月1日以後、国又は地方公共団体が(1)保育その他の子育てに対する助成を行う事業その他これに類する一定の事業により、(2)その業務を利用する者の居宅その他一定の場所において、(3)保育その他の日常生活を営むのに必要な便宜の供与を行う業務又は認可外保育施設その他の一定の施設の利用に要する費用に充てるため支給される金品については、所得税が課されないこととされている(所法9➀十六、所規3の2)。 【3】 確定申告義務の見直し 令和4年1月1日以後に確定申告書の提出期限が到来する所得税(令和3年分以後の所得税)については、所得税の額の合計額が配当控除の額を超える場合であっても、以下の還付申告の場合には確定申告書を提出する必要はない(確定申告義務はない)(所法120➀、122➀)。 《確定申告書の提出を要しない場合》 【4】 押印義務の見直し 税務関係書類への押印は、原則として要しないこととされ、次に示す申告書等の押印欄が廃止された(通則法124)。 《確定申告書関係》 《届出書、申請書関係》 【5】 申告の利便性の向上(令和4年1月上旬から) (1) スマホ申告の対象範囲の拡大 令和3年分の確定申告から、特定口座年間取引報告書(上場株式等の譲渡所得等及び配当所得等の申告時に使用)、上場株式等の譲渡損失額(前年繰越分)及び外国税額控除が、スマホ画面に適した大きさのレイアウトで表示され、入力しやすくなる。 (出典) 国税庁「令和3年分確定申告特集」 (2) 源泉徴収票の自動入力 令和3年分の確定申告から、スマホのカメラで「給与所得の源泉徴収票」を撮影することにより、源泉徴収票の記載内容を確定申告書作成コーナーの該当項目に自動入力できるようになる。 (3) パソコンによるICカードリーダライタを使用しないe-Tax送信 令和3年分の確定申告から、パソコンで確定申告書を作成する場合においても、パソコン上に表示される2次元バーコード(QRコード)をスマホのアプリで読み取ることにより、マイナンバーカード方式でのe-Tax送信ができるようになる。 この場合、ICカードリーダライタは不要である。 〈操作の流れ〉 (出典) 国税庁「令和3年分確定申告特集」 【6】 その他 (1) セルフメディケーション税制の添付書類の見直し セルフメディケーション税制の適用を受けるには、健康診断や予防接種など健康のための取組をしていることが要件とされており、その取組を明らかにする領収書や結果通知などを、確定申告書へ添付又は申告時に提示することが求められていた。 この取扱いについて、令和3年分以後の確定申告書を令和4年1月1日以後に提出する場合には、取組の名称等を医療費の明細書に記載することによって、取組を明らかにする書類の添付又は提示が不要とされた(措法41の17④、所法120④)。 ただし、税務署長は、確定申告期限等から5年間、取組を明らかにする書類の提示又は提出を求めることができる(措法41の17④、所法120⑤)。 (2) 支払者が法人である場合の記載事項 各種所得の生じた場所について、その支払者が法人である場合には、支払者の本店等の所在地の記載に代えて、当該法人の法人番号の記載によることができることとされた(所規47③三)。 (3) 医療費控除の添付書類の見直し 医療費控除を受ける際、医療保険者の医療費の額等を通知する書類の添付に代えて、次の書類の添付が可能となった(所法120④二、所規47の2⑬)。 また、e-Taxにより確定申告を行う場合に、次の書類の記載事項を入力して送信するときは、これらの書類の確定申告書への添付に代えることができるものとされた。この改正により、e-Taxを利用している場合には、「医療費のお知らせ」等を税務署へ郵送する必要はなくなる。ただし、税務署長は、確定申告期限等から5年間、これらの書類の提示又は提出を求めることができる。 (4) 寄附金控除の添付書類の見直し 寄附金控除の適用を受ける際、特定寄附金を受領した者が発行する書類に代えて、地方公共団体と寄附の仲介に係る契約を締結している一定の事業者(特定事業者:国税庁長官が指定(下記参照))の特定寄附金の額等を証する書類の添付等ができることとされた(所規47の2③一イ(2))。 * * * 次回(第2回)は、令和3年分の確定申告にも影響がある令和2年分の改正事項についてポイントを解説する予定である。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例37】 「法人の代表者が自分個人名義のクレジットカードで支払った飲食代金の交際費該当性」 国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、長年勤めた地方銀行を数年前に退職し、埼玉県内のJR沿線のとある駅から車で10分以内に本社兼工場を有する株式会社で、経理・財務部門を所掌する部長職にある者です。当社は資本金5,000万円程度の中小零細企業ですが、最近、コロナ禍を反映してか、空気清浄機に使用する特殊なフィルターの注文がひっきりなしに入ってきており、お陰様で業績は堅調といったところです。 当社は従来、特定の取引先としか付き合いがなかったことから、接待や供応の必要性があまりなかったため、交際費の支出は少なめでした。しかし、ここ数年、従来の取引先以外へのアプローチを増やさなければ、この先、当社の生き残りは覚束ないという危機感の下、当社の社長は、異業種交流会で知り合ったコンサルタントの紹介で、業界内外の経営者と付き合う機会が飛躍的に増えたところです。その成果として、空気清浄機に使用するフィルターの製造開発及び販路開拓につながったことから味を占めたのか、社長は更なる業務拡大のため、会食やゴルフ接待に勤しんでいる模様です。 そのため、ここ2年くらいは、従来よりも桁が2つくらい違う交際費の支出となっており、その費用対効果が問われかねないところです。もっとも、社長はそのことを少しも気に留めていないようで、「交際費なんか使わないと税金で持っていかれるだけで大損だ」と公言しています。特に最近信頼しているコンサルタントから吹き込まれたのか、前財務大臣が中小企業向けの交際費課税を緩和したので、コロナ禍で苦しむわが国の経済を回すため、それに応えるのが経営者の務めだ、と嘯いております。 そんな中、先日当社にも税務調査が入り、税務署の調査官から、社長個人のクレジットカード払いの費用を法人の交際費として計上している分は、社長の個人的な支出であるから、法人の交際費とはならない旨言い渡されました。私としては、恐れていたことが現実になったと頭を抱えておりますが、社長はあくまで法人の交際費である点を譲る気がありません。当社はどのように対応すべきなのでしょうか、教えてください。 【A】 社長が支払った支出が法人の交際費に該当し損金の額に算入されるか否かは、当該費用につき、法人がその得意先等の事業に関係のある者に対する接待・供応・慰安・贈答その他これらに類する行為のために支出するものに該当するかどうかにかかっていますが、社長個人のクレジットカード払いの費用が、専ら社長個人の個人的な楽しみのために支出されている場合には、それが客観的に法人の活動の一環として認められる目的のために支出しているとは言えないため、法人の交際費には該当しないこととなります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 法人の支出する交際費の損金性 法人税法上の交際費とは、交際費・接待費・機密費その他の費用で、法人がその得意先・仕入先その他事業に関係のある者に対する接待・供応・慰安・贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう(措法61の4④)。ただし、1人当たり5,000円以下の一定の飲食費は当該交際費から除かれている(措法61の4④二、措令37の5①)。 法人の支出する交際費の損金性は、資本金が100億円を超える法人(超大法人)、1億円超100億円以下の法人(大法人)及び1億円以下の法人(中小法人)とで取扱いが異なる。 (2) 交際費の範囲に係る裁判所の判断基準 法人の支出する交際費に関しては、判例法理というべき基準があるとは言えないものの、比較的よく参照される判断基準として、「三要件説」というものがある。これは、外資系の製薬会社が、自社の医薬品を納入する医療機関における(若手)医師の英語論文の英語添削のために支出した経費が交際費に該当するかどうかが争われた事案において、裁判所が提示した基準である(「萬有製薬事件」東京高裁平成15年9月9日判決・判時1834号28頁)。 一審の東京地裁は、以下の2つの基準を用いて交際費等に当たるかどうか判断すべき(二要件説(※1)、東京高裁昭和52年11月30日判決・行集28巻11号1257頁参照)とした上で、製薬会社が負担した英文添削費用(業者への実際支払額と医師から徴収した金額の差額)は「交際費等」に該当するとして、原告の請求を棄却した(東京地裁平成14年9月13日判決・税資252号順号9189)。 (※1) 二要件説には新旧があり、「旧二要件説」は、「支出の相手方」が事業に関係ある者等であり、かつ、「支出の目的」がこれらの者に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出することの2つが要件とされていた(東京高裁昭和39年11月25日・訟月11巻3号444頁)。本件一審の東京地裁平成14年9月13日判決は「新二要件説」(東京地裁昭和53年1月26日判決・訟月24巻3号692頁)である。 二審の東京高裁は、法人が行う支出が交際費等に該当するためには、 の三要件を満たすことが必要であると解される、とした(三要件説)。 当該三要件説は、③の「行為の形態」という客観的な判断要素を規定の文言から抽出し要件化する(要件として付け加える(※2))ことで、交際費等の範囲ないし外延をいたずらに拡大解釈することを抑制する意義がある(※3)と解されている(※4)。 (※2) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)434頁。 (※3) 一審の判決はその点で問題があると指摘するものとして、増田英敏「租税特別措置法61条の4に規定する交際費等の意義とその範囲」ジュリスト1244号298頁。 (※4) 辻美枝「交際費の意義-萬有製薬事件」中里他編『租税判例百選(第7版)』(有斐閣・2021年)122頁。 その上で裁判所は、本件英文添削に係る差額負担は、その支出の動機、金額、態様、効果等からして、事業関係者との親睦の度を密にし、取引関係の円滑な進行を図るという接待等の目的でなされたと認めることは困難であるとして、②の要件に該当しないとした。 更に、本件英文添削に係る差額負担は、通常の接待、供応、慰安、贈答などとは異なり、それ自体が直接相手方の歓心を買えるというような性質の行為ではなく、むしろ学業奨励という意味合いが強いこと、その具体的態様等からしても、金銭の贈答と同視できるような性質のものではなく、また、研究者らの名誉欲等の充足に結び付く面も希薄なものであることなどからすれば、交際費等に該当する要件である「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」をある程度幅を広げて解釈したとしても、それに当たるとすることは困難であるとして、③の要件にも該当しないとして、原判決を取り消した(確定)。 (3) 法人の代表者個人名義のクレジットカードで支払った飲食代金の交際費該当性が争われた事例 上記(2)の議論からみるとやや射程がそれる事案であるが、本件と同様に、法人の代表者個人名義のクレジットカードで支払った飲食代金の交際費該当性が争われた、比較的新しい事例(東京地裁令和2年3月26日判決・TAINS:Z888-2321)があるので、以下で確認してみたい。 ① 事例の概要 原告らは、Aが代表者あるいは実質的な経営者として経営する会社であるところ、Aが複数の接待飲食店(以下「本件各クラブ」という)を利用した際の代金を原告らの業務のための交際費として支出したとして、それぞれ、①法人税及び復興特別法人税(以下「法人税等」という)の確定申告において、上記支出額を所得の金額の計算上損金の額に算入して申告するとともに、②消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の確定申告において、上記支出額に係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除して申告した。しかし、その後に受けた税務調査において、上記支出額にはAの個人的な飲食代金の金額が含まれているのではないかとの指摘を受けたことから、原告らは、指摘に係る支出額の相当部分(以下「本件各支出額」という)を損金算入せず、Aへの貸付金とする旨の法人税等及び消費税等の修正申告を行った(以下「本件各修正申告」という)。 板橋税務署長(処分行政庁)は、本件各支出額について、原告らが取引先等を接待した事実がないにもかかわらず、これを交際費として総勘定元帳に記載していたことなどが、国税通則法第68条第1項の「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たことに当たるとして、原告らに対し、本件各修正申告に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という)を行った。 本件は、原告らが、本件各支出額はあくまで取引先等の接待のために要した交際費であるから本件各賦課決定処分は課税要件を欠き、またその手続にも違法があるなどと主張して、被告を相手に、本件各賦課決定処分の各取消し等を求めて提訴したものである。 なお、裁判所による認定事実として、以下の点が挙げられる。 Aは、平成22年6月から平成23年10月にかけてクラブCを合計89回、同年11月から平成26年2月にかけてクラブDを合計162回、同年3月から平成27年1月にかけてクラブEを合計59回、同年2月から同年10月にかけてクラブFを合計62回利用した。これら4店舗の合計利用回数は372回に上る(※5)。その際、クラブに来店するのはA1人であり、顧客等の接待で利用された事実は確認できなかった。 (※5) なお、Aが時期により行きつけのクラブを変更しているのは、ひいきのホステスがクラブを移籍していることに伴うものである。 Aは、本件各クラブを利用する都度、その飲食代金を自身の個人名義のクレジットカードで支払った上で、本件各クラブに依頼して、原告らのうちの1社を名宛人とする領収証の交付を受けた。そして、原告らは、Aに対し、これらの領収証と引き換えに、当該領収証記載の金額を支払い、これを本件各事業年度における原告ら各社の総勘定元帳の交際費勘定に計上した。 ② 事案の争点 本件各支出額が取引先等の接待のために要した交際費であるか否か ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されている。 ④ 本件から学ぶこと 本件は税理士とクライアントとの関係についても考えさせられる生々しいやり取りが判決文で述べられており、いろいろ考えさせられる事案である。すなわち、 とあるように、原告の顧問税理士である税理士法人の社員であるB税理士は、原告の否認額を極力減らすべく奮闘したところである。 しかし、それにもかかわらず、原告から「①B税理士は、本件各支出額がAの個人的な飲食代金であることを示す証拠がないにもかかわらず、これがあるかのように装った、②板橋税務署職員は、B税理士に対してその懲戒歴を利用して圧力をかけ、同税理士を自己の手足のように利用したなど」と主張・非難されている。税務訴訟において、原告・納税者が被告で対立関係にある国・税務署を殊更に悪し様に非難するのは珍しくないが、本来協力関係にあるはずの顧問税理士をスケープゴートにするかのごとき本裁判例における原告の主張をみると、両者の関係が訴訟前に決定的に悪化していたか、それとも代理人弁護士の訴訟戦略なのか分からないが、いずれにせよ税理士業務の難しさを感ぜずにはいられない。 ホステス目当てに1人でクラブに訪れる際に発生する個人的な飲食費を法人に付け回すような、コンプライアンス意識の低いクライアントとの付き合いは「考えもの」であることを意識させる事案ではないかと思われる。 (4) 本件へのあてはめ 社長が支払った支出が法人の交際費に該当し損金の額に算入されるか否かは、当該費用につき、法人がその得意先等の事業に関係のある者に対する接待・供応・慰安・贈答その他これらに類する行為のために支出するものに該当するかどうかにかかっている。 したがって、仮に、社長個人名義のクレジットカード払いの費用が、取引先の接待のための費用ではなく、社長が入れあげているホステスとの同伴によるクラブでの飲食費など、専ら社長個人の個人的な楽しみのために支出されている場合には、それが客観的に法人の活動の一環として認められる目的のために支出しているとは言えないため、法人の交際費には該当しないこととなる。 (了)