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《速報解説》 住宅借入金等特別控除の見直し ~令和4年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 「令和4年度税制改正の大綱」(令和3年12月24日閣議決定)では、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(以下、住宅借入金等特別控除という)について、適用期限が4年間延長され、控除率や控除期間等に見直しが行われるとともに、環境性能等に応じた借入限度額の上乗せ措置が講じられることとなった。 以下、大綱及び国土交通省から公表されたQ&A等で示された内容について解説を行う。 なお本制度に係る昨年度の税制改正については、下記拙稿を参照されたい。 【1】 適用期限の延長 適用期限が4年間延長され、一定の家屋を令和7年12月31日までの間に居住の用に供した場合を対象とすることとされた。 【2】 借入限度額に係る上乗せ措置の見直し (1) 新築住宅・買取再販住宅 消費税率が8%に引き上げられた際、反動減対策として導入された借入限度額の上乗せ措置(※)は終了し、新たに住宅の性能等に応じた上乗せ措置が講じられる。 (※) 一般の住宅:上乗せ後の上限4,000万円(上乗せ前の上限2,000万円) 認定長期優良住宅・認定低炭素住宅:上乗せ後の上限5,000万円(上乗せ前の上限3,000万円) 具体的には、新築住宅及びリフォームにより良質化した上で販売する買取再販住宅においては、認定住宅(認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅)・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅について借入限度額の上乗せ措置が講じられる。 上乗せ措置の対象となる買取再販住宅の範囲、ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅の概要は、次のとおりである。 (注) ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅として住宅借入金等特別控除の適用を受けようとする場合には、確定申告時に一定の証明書類が必要となる見込みである。 なお、新築住宅及び買取再販住宅に係る控除期間は、原則として13年間とされる。 また、東日本大震災の被災者等に係る住宅借入金等特別控除の特例については、適用期限を令和7年12月31日まで4年間延長した上で、借入限度額、控除率及び控除期間が次のとおりとされる。 (※1) 上記は新築等の場合のもの。既存住宅の取得又は住宅の増改築等の場合には、借入限度額3,000万円、控除期間10年となる。 (※2) 居住が令和7年1月1日以後のものについては、警戒区域設定指示等の対象区域外に従前住宅が所在していた場合には適用できなくなる。 (2) 既存住宅 従来、借入限度額の上乗せ措置は新築住宅にのみ適用されていたが、既存住宅が認定住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅に該当する場合には、既存住宅についても一定の上乗せ措置が講じられる。 なお、既存住宅に係る控除期間は10年間とされる。 また、既存住宅の築年数要件(耐火住宅25年以内、非耐火住宅20年以内)については、「昭和57年以降に建築された住宅」(新耐震基準適合住宅)に緩和される。 【3】 控除率、所得要件の見直し 会計検査院の平成30年度決算検査報告では、住宅借入金等特別控除の控除率である1%を下回る金利で住宅ローンを借り入れている者の割合が78.1%となっているとの指摘があった。 この指摘に対応する観点から、控除率を0.7%に引き下げるとともに、適用対象者の所得要件も合計所得金額2,000万円以下(現行:3,000万円以下)に引き下げることとされた。 【4】 床面積要件の見直し 床面積要件について、令和5年以前に建築確認を受けた新築住宅において、合計所得金額1,000万円以下の者に限り、40㎡(通常の床面積要件は50㎡)に緩和される。 * * * ここまでの改正についてまとめると、次の表のとおりとなる。 (※) 国土交通省公表資料に筆者一部加筆。 【5】 個人住民税における住宅借入金等特別控除 令和4年分以後の所得税で住宅借入金等特別控除の適用がある者(住宅の取得等をして令和4年から令和7年までの間に居住の用に供した者に限る)のうち、所得税から控除しきれなかった額を、翌年度分の個人住民税において、控除限度額の範囲内(所得税の課税総所得金額等の5%(最高9.75万円))において、個人住民税額から控除する措置が講じられる(この措置による令和5年度以降の個人住民税の減収額は、全額国費で補塡する)。 【6】 確定申告等手続の見直し 本制度適用にあたり確定申告及び年末調整の際に必要とされていた年末の借入金残高証明書の提出又は提示が不要とされ、これに代えて、銀行等が年末の借入金残高等を記載した調書を作成し所轄税務署長に提出することとなる。ただし適用を受ける者は銀行等へ住宅ローン控除に関する申請書を提出する必要がある。 また、新築の工事の請負契約書の写し等についても確定申告書への添付が不要とされるが、確定申告期限から5年間は、税務署長からの提示又は提出の求めに応じる必要がある。 上記の改正は、居住年が令和5年以後である者が、令和6年1月1日以後に行う確定申告及び年末調整について適用する。 【7】 その他 これらの他、住宅関係の所得税の改正項目として、認定住宅の新築等をした場合の所得税額の特別控除(措法41の19の4)の見直しが示されている。 (了)
《速報解説》 改正電帳法の宥恕規定適用における「やむを得ない事情」が改正通達等で明らかに Profession Journal編集部 既報のとおり12月27日公布の改正省令により改正電子帳簿保存法における宥恕規定が設けられたところだが、国税庁は本日12月28日に関連通達の改正及びQ&Aやパンフレットの内容を更新し、周知を図っている。 今回公表された情報は以下のとおり。 上記のうち①の改正通達では「7-10(宥恕措置における「やむを得ない事情」の意義)」「7-11(宥恕措置適用時の取扱い)」が新設され、7-10では宥恕規定を適用する際に求められる「やむを得ない事情」について、以下のように具体的なケースで示されている。 また②の改正通達の趣旨説明では上記について、以下のように補足されている。 なお③のQ&Aでは関連する下記の問答が追加されており、問41-5では下記のとおり、事前手続が不要との説明がある。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和3年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2021(令和3)年12月15日、「令和3年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法と相続税法が各4件、所得税法が2件、登録免許税法と国税徴収法が各1件で、合わせて12件となっている。国税通則法関連の裁決のうち3件も相続税に関するものであり、12件の公表裁決事例のうち半数の6件が相続税に関する賦課決定処分をめぐっての裁決となっている。 今回の公表裁決では、12件のうち11件が国税不服審判所によって、原処分庁の課税処分等の全部又は一部が取り消され、納税者の審査請求が棄却されたものは1件となっている。 【表:公表裁決事例令和3年4月~6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、事例①から③の相続税の申告内容をめぐって争われた事例について、国税不服審判所が、原処分庁による過少申告加算税又は重加算税の賦課決定処分の一部取消しを認めた理由について、その判断を検討したい。 なお、複数の争点が存在する裁決に関しても、賦課決定処分取消しの可否に係る争点のみを取り上げることを、あらかじめお断りしておく。 1 相続財産の申告漏れについて、「正当な理由」を認めた事例・・・① 本件は、税理士である審査請求人が、亡母の相続に係る相続税の申告を行ったところ、原処分庁が、亡母名義の預貯金口座から出金された現金の一部が請求人以外の共同相続人に預けられていたなどとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該共同相続人に預けられていたとされた現金は、相続税法第9条により当該共同相続人が贈与により取得したとみなすべきであり、また、請求人は、申告漏れとなった財産の存在を知り得る状況にはなかったのであるから、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するなどとして当該更正処分の一部の取消し及び当該賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は以下のとおりであるが、本稿では争点②に関する「正当な理由」の存否に関する国税不服審判所の判断を検討したい。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、申告漏れとなっていた①被相続人の孫K名義の家屋、②被相続人名義の口座から引き出され、相続開始時においてまだ費消されていなかった現金、③被相続人名義の口座から出金し、相続人Hら名義の口座に入金された金額について、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められる」かについて、次のように判断を示した。 ① 被相続人の孫K名義の家屋 不動産については、一般的には登記簿上の名義人が、当該不動産の所有者と推定することができるところ、本件家屋は、本件相続開始時、所有者をKとする登記がなされており、しかも、請求人が関与税理士として本件家屋の売買に係る譲渡所得の申告を行っていること、また、被相続人は、平成21年頃から本件家屋に居住しておらず、譲受人であるKが居住しており、かつ、Kと同じく本件被相続人の孫に当たるQも、本件被相続人から土地の遺贈を受けており、本件被相続人が、Kに本件家屋を譲渡することが、特段不自然、不合理とはいえないことなどの事情からすれば、請求人において、殊更に、本件家屋の売買の有効性を疑うべき状況になかったと認められる。 このような本件家屋に係る相続税の申告以前の状況からみれば、請求人には、本件被相続人とKとの間の本件家屋の売買が有効に成立し、本件家屋の所有権がKに移転したと誤信せざるを得ない事情があったといわざるを得ない。 よって、本件家屋に係る税額については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる。 ② 被相続人名義の口座から引き出され、相続開始時においてまだ費消されていなかった現金 請求人は、相続税の申告期限までに本件被相続人名義の各預貯金口座の取引履歴を取得し、当該取引履歴から、本件現金を含む出金の事実及びその使途が不明であることを把握していたものと認められるにもかかわらず、請求人は、本件現金を含む出金された現金の使途について、相続人Hに口頭で数回尋ね、それに対し、相続人Hから本件被相続人のために使った旨の抽象的な返事をされただけで、具体的にその使途を追及し、調査することもなく、本件現金の全額が、本件相続に係る財産に含まれないとして、相続税の各申告書を提出し、過少申告したものである。 したがって、上記の過少申告について、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷であるとはいえないから、請求人に正当な理由があったとは認められない。 ③ 被相続人名義の口座から出金し、相続人Hら名義の口座に入金された金額 上記②と同様に、本件入金額に係る過少申告についても、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷であるとはいえないから、請求人に正当な理由があったとは認められない。 2 被相続人の借入金について、存在を仮装していたと認められないとした事例・・・② 本件は、被相続人の長男である審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて相続税の修正申告を行ったところ、原処分庁が、相続税の申告において相続税の課税価格の計算上債務控除をしていた借入金は存在しない債務であり、あたかも同債務が存在したかのように装って金銭借用証書を作成し、当該債務控除をしたことが事実の仮装行為に該当するとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該仮装行為を行った事実はないとして、当該賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 請求人に国税通則法第68条第1項に規定する「仮装」に該当する事実があったか否か。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した事実関係に基づき、請求人及び本件被相続人は、本件土地の売買契約に係る代金の決済に当たり、当初はその代金の一部を、本件被相続人を借主とする融資をM信用金庫から受けることを予定していたところ、当該融資がとん挫したことが認められ、このような融資のとん挫の経緯や、現金500万円が本件売買契約の代金決済日に近接した日に入金されていること及び本件証書の表題に一時的な貸借であることを意味する「一時」と付されていること等からすれば、本件被相続人が十分な金額の預貯金を有していた事実を踏まえても、請求人が本件被相続人に本件貸付けをすることとしたとしても不自然であるとまではいえないという判断を示した。 そのうえで、審判所の調査及び審理の結果によっても、本件被相続人の請求人に対する本件借入金がなかったと認めることはできないことから、請求人は、存在しない債務を実際に存在するかのように仮装していたとは認められないから、請求人に国税通則法第68条第1項の「仮装」に該当する事実があったとは認められないとして、原処分の一部を取り消す裁決を行った。 3 税理士からの質問に対する、故意の虚偽回答を認めなかった事例・・・③ 本件は、被相続人の長男である審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、相続財産の一部を申告していなかったことに隠蔽の行為が認められるとして重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該隠蔽の行為はないとして、当該処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 請求人に国税通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為があったか否か。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、本件共済契約に係る権利が申告漏れとなった原因として、請求人が相続税の申告代理を依頼した税理士からの「損害保険はどうなっていますか。」との質問に対して「共済は掛け捨てに移行している。」との回答をし、税理士が、当該回答を受けて、被相続人の相続財産中に申告すべき損害保険契約に関する権利はないものと誤解したこと、その後も、請求人は税理士に本件共済契約に係る「共済契約解約返戻金相当額等証明証」を提示することも、本件各権利があることを説明することもしなかったため、税理士が上記の誤解をしたまま、本件申告書を作成したことによるものと考えられると、事実関係を認定した。 そのうえで、上記の請求人の回答について、請求人は、税理士による質問を、損害保険の状況を問われたものと誤認したためであり、その後も本件各共済契約について説明しなかったのは、本件証明書を含めた全ての関係書類が税理士に提出されているものと認識していたことによるものであるという主張について、 などの事実に基づき、「共済は掛け捨てに移行している。」との請求人による回答は、必ずしも虚偽であるとまではいえず、さらに、税理士が上記各普通貯金通帳を子細に確認すれば、本件各権利の存在に気付き、請求人にその事実照会等を行うことも考えられたことに鑑みると、請求人が税理士に対して、本件各共済契約、ひいては、本件各権利を秘匿しようという意図があったとまで認めることはできないという判断を示した。 そのうえで、結論として、請求人が本件申告において本件各権利を申告しなかったことについて、国税通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為があったとは認められず、同項の重加算税の賦課要件を満たさないから、原処分の一部を取り消す裁決を行った。 (了)
《速報解説》 宥恕規定に係る電子帳簿保存法改正省令が公布される ~施行規則4条3項の読替え規定を附則にて新設~ Profession Journal編集部 既報のとおり令和4年度税制改正大綱では、来年から施行される改正電子帳簿保存法について宥恕規定を設ける旨が示されたが、本日(令和3年12月27日)付けの官報第645号において改正省令(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令の一部を改正する省令(財務八〇))が公布され、この規定が設けられた(施行は令和4年1月1日)。 具体的には、令和3年度税制改正に係る改正省令(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和3年財務省令第25号))の附則第2条第3項として、下記が規定された。 上記の読替えを行った施行規則第4条第3項は以下のとおり(下線部が読替箇所)。 上記の通り読替え後の規定においては、宥恕規定の適用に特段の手続は求められていない。なお、「やむを得ない事情」についての詳細は明らかとなっていない。 (※) 「災害その他やむを得ない事情」による宥恕規定については、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」の問41を参照されたい。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「LIBOR を参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」の改正案を公表 ~金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間の延長等示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年12月24日、企業会計基準委員会は、「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第62号(実務対応報告第40号の改正案))を公表し、意見募集を行っている。 これは、「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(実務対応報告第40号)について、その公表時には金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、公表から約1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であるとしたことに対応するものである。 意見募集期間は2022年2月24日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間の延長 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を米ドル建LIBORとそれ以外の通貨建てのLIBORを分けることなく、一律に2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長する。実務対応報告第40号では、2023年3月31日以前に終了する事業年度までとされている(14項~19項)。 これは、2021年3月に、米ドル建LIBORの一部のターム物について、公表停止時期が2023年6月末に延期されるアナウンスメントが正式になされたこと、また、米ドル以外の通貨建てのLIBORに関する不確実性が完全になくなったということでもないと考えられるためである。 Ⅲ 金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理の取扱い 1 金利スワップの特例処理等に関する金利指標置換後の会計処理の趣旨の明確化 実務対応報告第40号の19項になお書きを追加し、金利指標置換後に金利スワップの特例処理に係る金融商品実務指針178項の⑤以外の要件が満たされている場合には、2024年3月31日以前に終了する事業年度の翌事業年度の期首以降も金利スワップの特例処理の適用を継続することができることを明確化する。 当該取扱いは振当処理にも同様に適用することができる(19-3項)。 2 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を1年延長した場合の取扱い 金利指標置換時が2024年3月31日以前に終了する事業年度までに到来していない場合であっても、2024年3月31日以前に終了する事業年度までに行われた契約条件の変更又は契約の切替が金融商品実務指針178項の⑤以外の金利スワップの特例処理の要件を満たしているときには、2024年3月31日以前に終了する事業年度の期末日後に到来する金利指標置換時以後も金利スワップの特例処理を継続することができる(19-2項)。また、適用にあたって一定の歯止めを設ける観点から、契約条件の変更又は契約の切替が公開草案19項の適用期間内に行われることを求めている(58-9項)。 当該取扱いは振当処理にも同様に適用することができる(19-3項)。 Ⅳ 適用時期等 改正された実務対応報告は、公表日以後適用することができる。 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓
《速報解説》 完全子法人株式等及び関連法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直し ~令和4年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 令和3年12月10日公表の「令和4年度税制改正大綱」(与党大綱)において、完全子法人株式等及び関連法人株式等の配当に係る源泉徴収について見直しを行うことが示された。本稿ではその概要について解説を行う。 1 改正の背景 会計検査院は令和2年11月に、完全子法人株式等に係る配当等の全額及び負債利子を控除した関連法人株式等に係る配当等の全額については、益金不算入となるにもかかわらず、これらの配当等について源泉徴収を行った場合、納税者側では、配当等に係る源泉徴収により一時的な資金負担と事務負担が生じ、税務署側でも還付金及び還付加算金を支払うことによる還付事務が生じることとなるという点で、源泉徴収の制度趣旨に必ずしも沿ったものとなっていないと指摘し、本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うよう求めていた。 これを受け、「令和4年度税制改正大綱」において、完全子法人株式等及び関連法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直しが盛り込まれた(P26)。 改正の背景の詳細については、以下の拙稿を参照されたい。 2 改正の概要 大綱に盛り込まれた改正の概要は次の通りである。 一定の内国法人(※)が支払を受ける配当等で次に掲げるものについては、配当等に係る所得税の源泉徴収を行わないこととする。 (※) 「一定の内国法人」とは、内国法人のうち、一般社団法人及び一般財団法人(公益社団法人及び公益財団法人を除く)、人格のない社団等並びに法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされている法人以外の法人をいう。 ①の配当等は、受取配当等の益金不算入制度の配当等の区分における「完全子法人株式等の配当等」と同様と考えられるが、下記3に示す通り、②の配当等は、受取配当等の益金不算入制度の配当等の区分における「関連法人株式等の配当等」と同様ではない可能性がある。 3 受取配当等の益金不算入制度における関連法人株式等に係る受取配当等との比較 受取配当等の益金不算入制度における「関連法人株式等に係る受取配当等」は、内国法人が他の内国法人の発行済株式等の総数等に占める割合が3分の1超となる株式等を配当等の額に係る配当等の基準日等の翌日から今回の配当等の基準日等まで引き続き保有する場合における受取配当等をいい、「3分の1超を保有しているかどうか」の判定については、令和2年度税制改正により、令和4年4月1日以後に開始する事業年度については、完全支配関係がある法人内の法人全体の保有株式数等により判定することとなる。 したがって、源泉徴収を行わないこととなる上記2②の配当等が、「内国法人が直接に保有する他の内国法人の株式等」と直接保有のみを想定しており、完全支配関係がある法人内の法人全体の保有株式数等で判定することとなっていないため、関連法人株式等に係る配当等の源泉徴収がすべて不要となるわけではない点に留意が必要である。 また、3分の1超の保有期間についても、上記2②の配当等では「基準日において」と記載されており、継続保有を求めていないようにも読めるため、今後どのように規定されるかについて確認する必要がある。 4 適用時期 今回の改正は、令和5年10月1日以後に支払を受けるべき配当等について適用される予定である。 5 今後の留意点 大綱では、 と記載されていることから(P8)、令和5年度税制改正で何らかの見直しがなされる可能性もあるため、今後もその動向に注視する必要がある。 (了)
2021年12月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.450を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第9回】 「課税減免規定の解釈のあり方」 -判例にみられる課税減免規定固有の問題の検討- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、税法が定める課税減免規定の解釈について、その限定解釈の意義・性格及び射程を検討したが、今回は、その解釈のあり方について若干の判例を素材にして検討することにする。 なお、これまで「課税減免規定」という言葉を特に定義することなく用いてきたが、ここでその定義を述べておくと、課税減免規定とは、納税義務の成立に係る課税要件法の定める種々の法律要件のうち、非課税・経費控除・所得控除・税額控除・課税繰延べ等の措置による租税負担の軽減又は排除を定める規定をいう。それは、納税義務の成立を積極的に根拠づける法律要件(課税根拠要件ないし積極的課税要件)を定める規定に対して、納税義務の成立や租税負担の発生を阻害する法律要件(課税阻害要件ないし消極的課税要件)を定める規定である。租税特別措置法が定める租税優遇措置は勿論これに当たるが、所得税法・法人税法・消費税法・相続税法等のいわゆる「本法」が定める、各租税の基本構造を形成する措置(構造的措置)に係る規定の中にも課税減免規定に該当する規定がある。 Ⅱ 解釈の厳格性と解釈の狭義性 税法の解釈については、租税法律主義の下で、法規の文言・法文から離れた自由な解釈を禁止しそれに忠実な解釈すなわち厳格解釈が要請され、そしてその厳格解釈の要請は原則として文理解釈を意味することは、これまでに述べてきたところであるが(第4回Ⅰ、第6回Ⅲ1、第7回Ⅰ等参照)、課税減免規定に関する裁判例の中には、解釈の厳格性を解釈の狭義性と同視し、狭義解釈の要請を殊更に強調するものがみられる。租税法規における非課税要件規定の解釈態度について最判昭和53年7月18日訟月24巻12号2696頁が「正当として是認」した仙台高判昭和50年1月22日行集26巻1号3頁は次のとおり判示している(下線筆者)。 確かに、解釈の厳格性と解釈の狭義性は、感覚的には、同視することができそうである。しかし、厳格解釈の要請に基づく文理解釈は、「一般人の理解」(最判平成9年11月11日訟月45巻2号421頁。第7回Ⅱ参照)に従って、法規の文言の「通常の意味」(金子宏「租税法解釈論序説―若干の最高裁判決を通して見た租税法の解釈の在り方」同ほか編『租税法と市場』(有斐閣・2014年)3頁)ないし「普通の常識的な意味」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)467頁)を解明するものであるが(第7回Ⅱ参照)、その「通常の意味」ないし「普通の常識的な意味」は、同一の文言につき辞書的には複数の意味がある場合には、広義又は狭義のいずれでもあり得る以上、解釈の厳格性と解釈の狭義性とは、論理的には、別次元の問題である(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【48】)。 法規の文言の「通常の意味」ないし「普通の常識的な意味」が辞書的には広義である場合には、解釈の狭義性は当該文言の縮小解釈に帰結することになる。そうすると、課税減免規定の縮小解釈は、結果的には、課税根拠要件ないし積極的課税要件を定める課税要件規定の拡張解釈と同じく、納税義務の創設・拡大ないし租税負担の増大をもたらすことになるが、そのような縮小解釈ないし拡張解釈は租税法律主義の下で許容されるものではない(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)123頁参照)。 したがって、税法の解釈において厳格解釈の要請を狭義解釈の要請と混同してはならない。解釈者はこのことを特に課税減免規定の解釈について明確に認識すべきである。 Ⅲ 「課税要件法に組み込まれた手続法」の解釈 1 手続的協力義務 課税減免規定の中には、課税減免を受けるための一定の手続を定めるものがある。そのような規定は、税法の体系上は、課税要件法の領域に属しながら、手続法の性格をも併有するものであることから、筆者は、従来から、これを「課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法」(前掲拙著【48】【97】【134】)として性格づけ、その解釈のあり方について検討してきた(拙稿「錯誤に基づく選択権行使の拘束力に関する一考察(1)(2・完)」税法学491号(1991年)1頁、同492号(同年)1頁等参照)。 そのうち、そのような規定の手続法的性格に着目しその解釈によって、課税減免の適正さを確保するために納税者の手続的協力義務を拡大しようとする場合がある。例えば、消費税の仕入税額控除に係る帳簿書類保存義務(消税30条7項)から税務調査協力義務を導き出し、これを本来の租税手続法上の税務職員の質問検査権と「接合」しようとするものとして、最判平成16年12月16日民集58巻9号2458頁は次のとおり判示している(下線筆者。最判平成16年12月20日判時1889号42頁、最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁も同旨)。 ただ、このような解釈によって納税者の手続的協力義務を拡大しようとすると、仕入税額控除の帳簿書類保存要件につき上記引用判示の(3)の解釈に帰結することになるが、この解釈は仕入税額控除という消費税法上の構造的措置としての実体的措置の適用を左右するものであることからすると、課税減免規定の解釈は、課税減免規定の手続法的性格を考慮した「目的・手段思考」に基づく緩やかな解釈(目的達成の観点から手段について行う緩やかな解釈)に帰結しないよう、その厳格性を慎重に吟味して、これを行うべきである。その意味で、前掲最判平成16年12月20日における滝井繁雄裁判官の反対意見は正当である。少し長くなるが、仕入税額控除の性格・位置づけも含め関連部分を以下に引用しておこう(下線筆者)。 なお、滝井裁判官は仕入税額控除を「消費税額を算定する上での実体上の課税要件にも匹敵する本質的な要素とみるべきもの」(上記引用中の2つ目の下線部)として課税要件そのものとはみていないが、このことも妥当である。というのも、税額控除は、課税要件としての課税標準に対して同じく課税要件としての税率を乗じて算出された金額(算出税額)から控除されるものであり、税法の体系上は、納税義務の成立に係る課税要件法の領域には属さないものの、算出税額から控除され実際の租税負担(納付税額)を決定するものであることから、成立した納税義務の消滅原因の1つである免除のうち納税義務の成立と連動する特殊な形態の免除であり、租税実体法の領域には属するからである(前掲拙著【95】参照)。筆者は課税減免規定を、前記Ⅰで述べたとおり、納税義務の成立や租税負担の発生を阻害する法律要件(課税阻害要件ないし消極的課税要件)を定める規定と定義しているが、税額控除は租税負担の発生を阻害することから課税減免規定に該当すると考えるのである。 2 意思主義 課税減免規定のうち課税減免を受けるための一定の手続を定めるもの(課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法)において、納税者がその選択を誤った場合の救済については、その選択をしなかった場合に係る宥恕規定の適用を除き、実定税法上特段の救済措置は講じられていないため、実定税法の解釈によって対応することはできない。そこで、その救済措置を法創造によって創設することができるかどうかが問題になる。 租税法律主義の下では、行政による法創造が許容される余地はなく、裁判官による法創造も原則として認められない(例外的に法創造を認めた判例については、拙稿「租税法律主義と司法的救済保障原則ー裁判官による文理解釈の『適正化』のための法創造根拠理由の研究ー」税法学586号=日本税法学会創立70周年記念号(2021年)377頁、386頁以下、特に下記の判例の検討については390-392頁参照)。とりわけ課税要件法の領域では、「私法上の債務関係の成立に必要な意思の要素に代わるもの」(金子・前掲書156頁。前掲拙著【88】も参照)としての課税要件はすべて法律で定められなければならない(課税要件法定主義)ので、この建前上は、少なくとも納税義務の成立については、課税減免規定に係る選択が納税者の意思表示であるとしても、近代法の基本原理としての意思主義が働く余地はない。 もっとも、課税減免規定のうち選択に係る手続法の側面に着目すると、意思主義に基づく法創造による救済の余地を認めることができるように思われる。そのような余地を社会保険診療報酬に係る概算経費の選択(措置法26条3項)について認めた判例として、最判平成2年6月5日民集44巻4号612頁がある。この判決は、概算経費選択を「意思表示」とみて、錯誤に基づく概算経費選択の取扱いについて次のとおり判示した(下線筆者)。 「近代法の構造というものは、すべて個人の意思を中心に構成されている」(伊藤正己『近代法の常識〔第3版〕』(有信堂・1992年)163頁)が、税法は租税法律主義の支配する領域にあるとはいえ究極的・原理的には近代法を基礎とするものである以上、課税減免規定がその適用を納税者の選択にかからしめその選択の法的性格が意思表示と解される場合には、税法についても意思主義の妥当性を認め、それに基づく法創造による救済を認める余地はあると考えられる。そのような法創造を行った前記判決は、税法における裁判を受ける権利(憲法32条)の実効的保障を目的とする司法的救済保障原則(前掲拙著【27】参照)の観点から、錯誤に基づく概算経費選択に係る実定税法上の救済措置の不備を補い司法的救済を実現するものとして、高く評価すべきものである(前掲拙稿(税法学586号)400頁参照)。 なお、この判決は、修正申告の事案に関するものであるが、「錯誤に基づく概算経費選択の意思表示」の撤回に基づく実額経費(所税37条1項)の控除により申告税額が減少する場合には、更正の請求(税通23条1項)が認められると解される(金子・前掲書969頁、前掲拙稿(税法学586号)392頁参照)。 Ⅳ おわりに 以上において、前回に引き続き、課税減免規定の解釈について検討した。課税減免規定も税法が定める規定である以上、その解釈も原則として税法一般の解釈と異ならないと考えられるものの、通常の課税要件規定(課税根拠規定ないし積極的課税要件規定)とは異なる固有の解釈方法論を必要とする場合もあるように思われる。 今回は、特に課税減免規定の解釈について厳格性と狭義性との混同の問題性を指摘し(Ⅱ)、また、「課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法」という観点から、課税減免規定の解釈のあり方について検討し、納税者の手続的協力義務の拡大の問題性及び誤った選択に関する、意思主義に基づく法創造による救済の必要性を明らかにした(Ⅲ)。 (了)
“国際興業事件”を巡る5つの疑問点 ~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【第2回】 公認会計士・税理士 霞 晴久 《疑問点3》 KC社からの金銭配当を資本配当と利益配当に分けて行うことは、株式譲渡損を意図的に作出する恣意的な行為に当たらないか (1) プロラタ計算導入の経緯と本件最判の意義 本件においてXが行った行為の検討に入る前に、まず、プロラタ計算の導入経緯と本件最判の意義を確認したい。 そもそも「剰余金」とは私法からの借用概念であり、会社法においては、株式会社の純資産のうち、債権者保護のために会社に留保すべき項目(資本金と準備金)以外のものであり、分配可能額として株主への配当や株主からの自己株式の取得等の原資となるものと説明されている。企業会計原則では、その成立当時から、「資本取引と損益取引とを明瞭に区分し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない」(同原則第一の三)(※14)とされている。 (※14) 企業会計原則注解〔注2〕(2)は、「商法上資本準備金として認められる資本剰余金は限定されている。従って、資本剰余金のうち、資本準備金及び法律で定める準備金で資本準備金に準ずるもの以外のものを計上する場合には、その他の剰余金の区分に記載されることになる(下線筆者)」としている。 平成18年の会社法施行により、株主に対する利益の還元方法が見直され、株主に対する金銭の分配(従前の利益の配当、中間配当、資本及び準備金の減少に伴う払出し)が全て「剰余金の配当」として統一されたことにより、会社財産の払出しについては、従前の利益の配当及び中間配当は利益剰余金を原資とする「剰余金の配当」とし、従前の株式の消却を伴わない資本の減少は、資本金の資本剰余金への振替え及び資本剰余金を原資とする「剰余金の配当」と改められた。このように会社法上の概念が整理されたことを踏まえ、税法上は、剰余金の配当のうち、「資本剰余金の減少を伴わないもの」は利益部分の払戻し(所得税法24条・法人税法23条の本来の配当規定)とし、「資本剰余金の減少を伴うもの」はそれ以外の払戻し(資本部分と利益部分との混合払戻しとして所得税法25条・法人税法24条のみなし配当規定)として規律されることとなった。すなわち、税法上の配当概念として、従前のような株主総会の配当決議といった私法上の手続によるのではなく、払出し原資に着目することとされたのである。 ところで、資本剰余金の減少を伴う資本の払戻しに資本取引の結果(資本部分)と損益取引の結果(利益部分)が混合するのは、旧商法の時代から、利益積立金の資本組み入れ、すなわち利益から資本への流れが許容されてきたからである。旧商法下では、利益又は剰余金をもってする株式の消却、利益積立金額の資本又は出資への組入れ等が認められており、いったん利益配当した金額をそのまま出資に充当したものと実質的に同じとされ、みなし配当課税が適用された。現行会社計算規則においても、利益準備金の額の減少による資本金の額の増加(会計規25①一)等として、利益から資本への流れが容認されている。 現行制度上、いったん資本(資本金又は資本準備金)に組み入れた後に資本を払戻しする際には、必ず「その他の資本剰余金」に振り替えた後に払い出される(会計規23一及び27①一)(※15)ので、その他の資本剰余金を原資とする資本の払出しが行われた場合には、その中身の履歴が明らかにされなければならない。そこで、平成13年4月の税制改正において、組織再編税制が見直されたことを契機に、資本部分と利益部分が混在している可能性のあるその他の資本剰余金を払い出す際に資本部分を分離するためのプロラタ計算方式が導入された。 (※15) 「その他の資本・・剰余金」なる用語が初めて用いられたのは、会社法施行前の一連の商法改正により、株主からの払込資本でありながら資本金、資本準備金では処理されない項目、すなわち資本金及び資本準備金の取り崩しによって生ずる可能性があるものについて、新たに設けられた区分である「その他資本剰余金」に計上することとされた(企業会計基準委員会『自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準』(企業会計基準第1号)平成14年2月21日)ことを嚆矢とする。 プロラタ計算は、母集団の中から異質なものを切り出す際に、その異質なものが同一母集団内で均一に存在しているはずであるという仮説の下、いわば『どこを切っても金太郎飴』をイメージして、その払戻金の全額を分子に持ってくることにより、税法基準である利益積立金額に対応する部分が「みなし配当」とされる(※16)という、ある種の「割り切り」(※17)を前提とする手法である。なお、上記説明のうち「その払戻金の全額を分子に持ってくる」の部分は、平成18年の会社法の施行によって株主に対する金銭の分配が全て「剰余金の配当」と整理されたことを受け、同年の税制改正において「その他の資本剰余金の減少」に改められた。この改正が、資本部分と利益部分の混合の配当の場合、どちらを先に払い出すかによって計算結果が異なることとなった原因とされている(※18)。 (※16) 前掲(※3)76頁参照。 (※17) 前掲(※3)84頁は、「そもそも『混合されたもの』であるからこそ、それを割り切るために必要性に応じてプロラタ方式が用いられることになった」と述べる。 (※18) 前掲(※3)29~33頁及び77~78頁では、設例を用いて説明している。 この点につき、当時の立法担当者は、「資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して剰余金の配当を行った場合には、全体が資本の払戻しとなるものの、上記算式(筆者注:前回の《疑問点2》で示したプロラタ計算を指す)の分数の分子が『交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額』ではなく『減少した資本剰余金の額』とされているため、資本剰余金の減少額の範囲内でまず資本金等の額が減少し、交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちその減少資本金等の額を超える部分の金額が利益積立金額の減少額(株主にとってはみなし配当の額)となります。つまり、資本剰余金原資部分は資本金等の額と利益積立金額との比例的減少と、利益剰余金部分は利益積立金額の減少となるということです。(下線筆者)」(※19)と説明している。 (※19) 財務省「平成18年度 税制改正の解説」256~257頁参照。 すなわち、混合配当の全体についてみなし配当規定を適用することは、利益剰余金を原資とする配当は税務上もその全額を利益の配当として取り扱い、資本剰余金を原資とする配当については、税務上はプロラタ計算によってみなし配当と資本の払出し部分に区分するという基本原理を維持しつつ、混合配当の先後問題については、資本配当が先に行われた場合と同じ課税関係となるように統一的な解決を図ることを意図したものといえる(※20)。本件最判はこの点を明らかにしたことに意義がある。 (※20) 太田・伊藤前掲(※2)543~544頁参照。 (2) 資本配当を行うことによるXの節税効果 ところで、前回の《疑問点2》で検討したように、KPC社がXに資金還流させた原資は、KPC社の子会社であるKC社から得た配当であり、本件は、KPC社が受領した配当の額と同額の資金を入金の翌日にそのまま親会社であるXに還流させたというものであった。 仮にKPC社が利益配当決議のみで644,000,000米ドルを親会社に配当したとすれば、Xは法人税法23条1項1号の剰余金の配当を受領したことになり、それは外国子会社からの受取配当に当たるので、同法23条の2第1項1号が適用され、その95%が益金不算入として取り扱われる。その額を試算すると、所得から除外される金額は48,644,218千円となる。ところが、実際にXは、還流させた資金の一部(100,000,000米ドル)をKPC社の資本剰余金から払い出したとする配当決議を行ったことで、我が国法人税法上は同法24条1項3号(当時)の資本の払出しということになり、株式譲渡損の金額を計上することになった。益金不算入となる受取配当金と損金に算入される株式譲渡損を合わせたXの節税効果の合計について、Xの主張(裁判所の認定を含む)及び国側の更正処分それぞれを比較したのが次の〔表2〕となる。 なお〔表2〕では、参考までに、KPC社がXに資金還流させた時点の経済実体に合わせて混合配当をしたらどうなるか、すなわち、十分な簿価純資産価額がある中で親会社に配当を行ったという前提でプロラタ計算を適用し、かつ、そのプロラタ計算は、混合配当全体についてみなし配当規定を適用したと仮定した場合はどうなるかについても試算している。 〔表2〕あるべきプロラタ計算の計算結果比較(一部筆者による試算) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 Xの主張及び裁判所の認定した方法を前提に考えると、Xは、還流させた資金の一部を資本配当とすることで、単純な剰余金の配当として資金を受領する場合に比べ、全体で5,365,359千円だけ多めに法人税の負担を減少させることができたことになる。 XはKPC社の持分の100%を有する親会社であり、還流資金の一部を資本配当とすることは、その資本配当の額を上回る資本金等の額がある以上、違法性は全くない。しかし、(やや突飛ながら)法人税法132条の2の適用の是非が争われたヤフー事件最高裁判決(※21)が定立した組織再編成に係る行為又は計算の否認に係る不当性要件の判断に当たっての考慮事情①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものかどうか、及び②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか、の2つの事情(※22)に即して考えると、還流資金の一部をわざわざ資本配当とすることは不自然といえるし、税負担の減少以外の目的を見出すのは困難であるという点は指摘しておきたい。したがって、Xの行為ははっきりと租税回避とまではいえないまでも、全く問題なしとはしない(※23)。 (※21) 最高裁平成28日2月29日判決(平成27年(行ヒ)第75号、TAINSコード:Z266-12813)。 (※22) ヤフー事件以降に法人税法132条の2の適用の是非が争われたTPR事件の第一審判決(東京地裁令和元年6月27日判決、平成28年(行ウ)第508号、TAINSコード:Z888-2251)及びその控訴審判決(東京高裁令和元年12月11日判決、令和元年(行コ)第198号、TAINSコード:Z888-2287)、さらには、法人税法132条《同族会社の行為又は計算の否認》の適用が争われたユニバーサルミュージック控訴審判決(東京高裁令和2年6月24日判決、令和元年(行コ)第213号、TAINSコード:Z888-2315)のいずれにおいても、ヤフー事件最高裁判決が定立した不当性要件を判断するに当たっての2つの考慮事情を引用し、納税者の行為計算の不当性を判断している。詳しくは、拙稿『〈判例評釈〉ユニバーサルミュージック高裁判決』【第3回】~【第5回】参照。 (※23) 週刊税務通信No.3647(令和3年3月22日)5頁は、「利益積立金額がマイナスの外国子会社(デラウエアLLC)への課税が行われていないにもかかわらず、X社側で『利益配当』や『みなし配当』として益金不算入となることを疑問視する向きもある。」と述べる。 なお、経済実体を考慮したプロラタ計算の試算については、その節税効果がより高まる結果となった。これは、資本として払い出される部分がより小さく、その分みなし配当の金額が大きくなるのと同時に株式の譲渡対価がその分小さくなるので、より多額の株式譲渡損が計算されるためである。 (続く)