検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10470 件 / 271 ~ 280 件目を表示

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第7回】「職種限定合意の効果」

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第7回】 「職種限定合意の効果」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社はAさんを技術職として雇用しましたが、Aさんの業績が低いため、Aさんに対してその旨を説明し、「退職してほしい」と伝えました。しかしAさんは、「他の仕事だったらできるのだから、配転すべきだ」と主張して、退職を拒んでいます。 当社としては、Aさんを技術職以外で勤務させるつもりはないため、困惑しています。 このようなことが生じないよう、雇用契約締結時点でできることはあるでしょうか。 【Answer】 「職種限定合意」をすることが考えられます。 もっとも、職種限定合意があるからといって、当該職種に適さない従業員を必ず解雇できるとは限りません。 その職種が高度な専門性を有すること、かかる専門性に着目して雇用契約を締結することなどを雇用契約締結時に明示しておくべきものと考えます。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 職種限定合意とは 職種限定合意とは、職種や業務内容を特定する合意を指す。 従前は、雇用契約書や労働条件通知書等において職種限定合意が明示されることは多くはなく、裁判例において黙示の合意が認められることも少なかった。 しかし、2024年4月1日施行の改正労働基準法施行規則により、雇入れ時の労働条件明示義務の対象事項に「就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」を記載することになったため、これにより職種限定合意が認められる場面が増えると思われる。   2 職種限定合意の効果 職種限定合意がなされた場合、使用者は、合意した職種や業務内容を超えて配転命令を行うことができず、その結果、当該従業員を解雇することが(比較的)容易になる、とも解されている。 すなわち、業務成績等の不良を根拠とした解雇が有効と認められるためには、①雇用契約上の労務提供義務の不履行に至っているといえるほどに労務提供能力や適格性が欠如している、ないし、雇用契約を継続することが困難なほどに信頼関係を破壊する程度の規律違反がある、といえる場合で、②指導や教育訓練、配置転換や休職などによっても改善等が期待できず、解雇を回避することが難しいといえる必要があるが(本連載【第2回】参照)、このうち「配置転換・・・によっても改善等が期待でき」ないことを立証する必要がなくなり、解雇が容易になる、というロジックのようである。 また、整理解雇においても、整理解雇の4要素のうちの1つである解雇回避努力(本連載【第4回】参照)が緩和されるのではないかとも言われている。 職務限定合意は、近年のジョブ型雇用(※1)への関心の高まりもあって、注目を集めている。 (※1) 職務内容や職種(ジョブ)に基づいて雇用契約を締結する雇用形態。内閣官房・経済産業省・厚生労働省「ジョブ型人事指針(令和6年8月28日)」参照。 しかし、職種限定合意が認められれば必ず解雇が容易になるのかというと、必ずしもそうではない。 東京地判平成20年9月30日(東京エムケイ事件)は、以下のとおり判示している。 上記を簡単に表に示すと、以下のとおりとなる。 以上によると、職種限定合意が認められる場合には、職種に高度の専門性があるか否かを問わず、当該合意に反する配転命令は認められず(※2)、また、職種限定合意の結果、解雇が容易になるのは職種に高度の専門性がある場合に限られることになる。 ただし、以下の点に注意が必要である。 (※2) 職種限定合意がある場合であっても、他の職種への配転命令に正当な理由があるとの特段の事情が認められる場合や解雇もあり得る状況のもとこれを回避するためになされる場合には認められるとする裁判例も存在する(前者は東京地判平成19年3月26日(東京海上日動火災保険事件)、後者は大阪高判令和4年11月24日(社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件))。一方、最判令和6年4月26日(前掲大阪高判の上告審判決)は、職種限定合意があるのであれば、使用者はこれに反する配転命令をする権限を有しないなどと判示している。  「職種限定合意」としてどのような内容の合意がなされたかにもよるが、基本的には上記最判令和6年のように、職種限定合意がなされた以上は、命令により一方的に配転させることはできないと整理するべきであると思われる。 (了)

#No. 610(掲載号)
#柳田 忍
2025/03/13

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第16回】「成年被後見人は遺言書を作成できるのか」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第16回】 「成年被後見人は遺言書を作成できるのか」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 成年後見人を務めていますが、成年被後見人の家族から「本人の遺言書が作成できないだろうか」という相談を受けました。家族としては、被後見人が亡くなった場合には遺言書を用いて、できるだけスムーズに相続手続を進めていきたいという意向のようです。 もともと私が成年後見人に就任したのも、被後見人の兄が亡くなり、遺産分割協議が必要になったことがきっかけでしたので、家族の気持ちも理解できます。 成年被後見人が遺言書を作成することはできるのでしょうか。 【A】 成年被後見人が遺言書を作成することができるかについての相談は、少なくありません。 結論からいうと一定の要件のもと、成年被後見人が遺言書を作成することは可能です。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 遺言能力とは 民法では、15歳以上の者であれば、遺言書作成に必要な「遺言能力」があるとされています(民法961条)。遺言能力とは、遺言の内容やその効果を理解する能力といわれています。 成年被後見人は「事理を弁識する能力を欠く常況にある」とされていますが(民法7条)、成年被後見人であれば遺言能力がなく、作成ができないと一律に取り扱われるわけではありません。   2 成年被後見人は遺言書を作成できるか 民法973条では、以下の要件のもと、成年被後見人も遺言書を作成することが可能であるとされています。 遺言の作成方式には特に制限はありませんが、成年被後見人の遺言能力に疑義が付きやすいことを考慮すると、公正証書遺言によることが望ましいといえるでしょう。   3 実例は少ない 上記で解説した通り、成年被後見人でも遺言書を作成することは可能です。では、実例があるのかといえば筆者の知る限り、あまり多くはないと思われます。 成年被後見人の方であっても意思がはっきりしている状態になることはあり得ますが、遺言作成に協力してくれる医師が見つかるかなど、ハードルがあるためと思われます。   4 被保佐人・被補助人による遺言書作成は? 成年被後見人だけではなく、被保佐人や被補助人が遺言書を作成したいと相談が寄せられることがあります(それぞれの職務、権限については本連載【第2回】を参照)。 被保佐人や被補助人が遺言書を作成する場合、成年被後見人のような要件は求められていないため、遺言能力があれば自由に遺言書を作成することは可能です。 ただしこの場合でも、遺言書の作成方式としては後々に紛争になることを防ぐために、公正証書遺言によるとよいでしょう。   5 遺言の内容はシンプルなものに 成年被後見人等が遺言書を作成する場合、内容が複雑なものは避けた方がよいと思われます。 公正証書遺言の作成の実務では、公証人が遺言者に対して遺言の内容を理解しているかの確認をしっかりと行うため、遺言書自身がしっかりと説明ができないような内容の遺言を作成することはできません。 税理士としてもこの点を認識をしておくとよいでしょう。 (了)

#No. 610(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/03/13

《速報解説》 ASBJ、改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」を公表~コメント受けファンド・オブ・ファンズの取扱いについて規定を追加~

《速報解説》 ASBJ、改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」を公表 ~コメント受けファンド・オブ・ファンズの取扱いについて規定を追加~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年3月11日、企業会計基準委員会は、改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」を公表した。これにより、2024年9月20日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価評価するようにすみやかに会計基準を改正すべきとの要望を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を中心とする範囲に限定し、上場企業等が保有するベンチャーキャピタルファンドの出資持分に係る会計上の取扱いを見直すものである(308-2項)。 1 組合等の範囲 対象となる組合等の範囲に関して、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等とそれ以外の組合等を明確に区分することは困難と考えられたため、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等を直接的に定義することは行っていない(308-3項)。 一方、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価の信頼性を担保するために、組合等の範囲に関して、次の要件を設ける(132-2項)。 2 組合等の運営者 「組合等の運営者」とは、我が国におけるベンチャーキャピタルファンドの多くで用いられている投資事業有限責任組合の形態においては、無限責任組合員が該当すると考えられる。また、他の法形態に基づく組合等については、投資事業有限責任組合における無限責任組合員と類似の業務を執行する者が該当すると考えられる(308-3項)。 3 時価をもって評価している場合 「時価をもって評価している」場合とは、組合等が適用している会計基準により市場価格のない株式について時価評価が求められている場合のほか、市場価格のない株式について時価評価する会計方針を採用している場合が含まれると考えられる(308-3項)。 時価評価の方法としては、「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)に基づいた時価で評価する場合のほか、IFRS第13号「公正価値測定」又はFASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」に基づいた公正価値で測定している場合が含まれると考えられる(308-3項)。 4 任意組合、匿名組合、パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップ等への出資の会計処理 金融商品実務指針132項にかかわらず、上記1の要件を満たす組合等への出資は、当該組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができる。この場合、評価差額の持分相当額は純資産の部に計上する(132-2項、308-4項)。 5 132-2項の適用に際しての留意点 次のことに留意する(132-3項、132-4項、308-5項、308-6項)。 公開草案に対するコメントを受けて、ファンド・オブ・ファンズのように組合等が別の組合等に出資しているケースの取扱いについて規定されている(308-5項。コメントNo.4)。 また、「組合等への出資時」とは、組合等への出資の会計処理を行う時期を想定しているが、本公開草案第132-3項における本公開草案第132-2項の定めの適用対象かどうかの決定は、組合等への出資後最初に到来する出資者側の決算時までに判断することになると考えられるとのことである(コメントNo.24)。 6 注記 132-2項の定めを適用する組合等への出資については、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第31号)24-16項で定める事項の注記に併せて、次の事項を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(132-5項)。   Ⅲ 適用時期等 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から2025年改正実務指針を適用することができる。 経過措置に注意する。 (了)

#阿部 光成
2025/03/12

《速報解説》 企業会計基準委員会、2024年年次改善プロジェクトとして、包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正

《速報解説》 企業会計基準委員会、2024年年次改善プロジェクトとして、 包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年3月11日、企業会計基準委員会は、「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正」を公表した。これにより、2024年11月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要とその対応も公表されている。また、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)に関する今後の基準開発の方向性についてのコメントも公表されている。 これは、2024年年次改善プロジェクトにおいて検出された事項について、改正するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 包括利益の表示関係 1 改正の対象となる会計基準等 2 改正の内容 包括利益の表示について、これまでに公表されている会計基準等で使用されている「純資産の部に直接計上」などの用語について、連結財務諸表上は「その他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上」と読み替えるための変更を行う。 株主資本等変動計算書について、個別株主資本等変動計算書に関する定めと連結株主資本等変動計算書に関する定めを分けたうえで、連結株主資本等変動計算書の用語についての見直しなどを行う。 3 適用時期等 改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用する。 ただし、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用することができる。この場合、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度に係る中間連結財務諸表及び四半期連結財務諸表については改正包括利益会計基準を適用しないこと、また、当該連結会計年度に係る中間連結財務諸表については改正株主資本適用指針を適用しない。   Ⅲ 特別法人事業税関係 1 改正の対象となる会計基準等 2 改正の内容 3 適用時期等 改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる。この場合、2025年改正会計基準と同時に改正された「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)についても同時に適用する必要がある。ここで、早期適用を行う場合であっても、当該連結会計年度及び事業年度の中間連結財務諸表及び中間個別財務諸表並びに四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表については、2025年改正会計基準を適用しない。 経過措置などに注意する。   Ⅳ 種類株式関係 1 改正の対象となる会計基準等 2 改正の内容 実務対応報告第10号の適用対象となる種類株式について、会社法108条1項に従い内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合の標準となる株式以外の株式として定義する。 会社法108条1項を参照する定義とすることにより、実務対応報告第10号の適用対象が開発時において想定されていなかった種類株式に拡大することとなる。 3 適用時期等 2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用する。 2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首より前に取得した種類株式のうち、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の前連結会計年度及び前事業年度の末日において保有する種類株式については、次のいずれかの方法を選択できる。 (了)

#阿部 光成
2025/03/12

《速報解説》 ASBJが「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い」の公開草案を公表~いわゆる“バーチャルPPA”に関する会計上の取扱いを規定~

《速報解説》 ASBJが「非化石価値の特定の購入取引における 需要家の会計処理に関する当面の取扱い」の公開草案を公表 ~いわゆる“バーチャルPPA”に関する会計上の取扱いを規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年3月11日、企業会計基準委員会は、「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第70号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、いわゆるバーチャル電力購入契約(Virtual Power Purchase Agreement)(バーチャルPPA)に関する会計上の取扱いを規定するものである、 意見募集期間は2025年5月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 範囲 非化石価値取引において需要家による非化石価値の転売が想定されておらず、発電事業者から需要家に電力の取引を伴わずに非化石価値を移転する契約のうちおおむね次の特徴を有するものに適用する(2項)。 「需要家」とは、2項に掲げる特徴を有する契約を締結する者のうち、非化石価値を自己使用目的で購入する者をいう(3項(2))。 2 非化石価値を受け取る権利及び対価の支払義務に関する会計処理等 次のように会計処理する(4項~6項)。   Ⅲ 適用時期等 20XX年4月1日[2026年4月1日を想定している]以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、公表日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本実務対応報告を適用することができる。 適用初年度の取扱いに注意する。 (了)

#阿部 光成
2025/03/12

《速報解説》 国税庁、「インボイスの取扱いに関するご質問」を公表~記載事項をHP上で公表する場合の取扱いなど含む計4問を示す~

《速報解説》 国税庁、「インボイスの取扱いに関するご質問」を公表 ~記載事項をHP上で公表する場合の取扱いなど含む計4問を示す~   税理士 石川 幸恵   令和7年2月25日、国税庁はホームページ上で「インボイスの取扱いに関するご質問(令和7年2月25日更新)」を掲載し、「適格請求書の記載事項のインターネットでの公表(問Ⅳ)」を含む計4問を公表した。 今回公表された4問は次のとおり。 上記のうち、問Ⅳが株式会社や個人事業者など一般の事業者の実務に幅広く関係すると思われるため、問Ⅳから確認したい。   1 適格請求書の記載事項のインターネットでの公表(問Ⅳ) 記載事項の一部が省略された適格請求書であっても、適格請求書に記載されたURLにアクセスすることで省略事項が補完される(下図を参照)のであれば、適正な適格請求書として取り扱えることが示された。 (※) 国税庁「インボイスの取扱いに関するご質問(令和7年2月25日更新)」問Ⅳより抜粋 ホームページにアクセスすることで、適格請求書の発行事業者の氏名又は名称及び登録番号、税率(上図は適格簡易請求書として消費税額不要)を確認することができる。 (1) 買手が適格請求書を確認する際のポイント 「領収書には登録番号が記載されていないが、企業名を検索してホームページを見ればわかる」だけでは不十分であり、領収書にURLが記載されているなどの関連付けが必要である。 売手が下記(2)のポイントを満たしている限り、買手は該当のホームページをダウンロードして保存する必要はない。 (2) 売手のポイント 適格請求書に関する情報のページを、各税法に定められた保存期間が満了するまで随時確認可能な状態で提供を続ける必要がある。 青色申告法人の欠損金が生じた事業年度については、帳簿書類の保存期間が「事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日から10年(法法59②、法規26の3)」とされていることを考慮すると、URL等を変更せず、可能な限り恒久的に掲載し続けることが望ましい。   2 現金主義を適用する事業者における仕入税額控除のタイミング(問Ⅰ) 現金主義の特例の適用を受ける個人事業者は、支出した日の属する課税期間において仕入税額控除を受けることができる。支出した日の属する課税期間において適格請求書の交付を受けられなかった場合でも、事後的に交付される適格請求書を保存すれば差し支えない。 (1) 現金主義の特例の適用を受けられる事業者の要件 消費税の計算において現金主義の特例の適用を受けられるのは、所得税における現金主義の規定の適用を受ける個人事業者に限られる(消法18)。所得税法では次のような要件を定めており、自らの判断で現金主義とすることはできない点に注意されたい。 (2) 金額に変動があった場合 事後的に交付された適格請求書により仕入税額控除の額が変動した場合は、適格請求書の交付により確定した日の属する課税期間における課税仕入れに係る消費税額に加算又は減算する。   3 任意組合に関する取扱いの整理(問Ⅱ、Ⅲ) (1) 任意組合の構成員が帳簿へ記載すべき課税仕入れの相手方の氏名又は名称(問Ⅱ) 任意組合の構成員は帳簿の「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」に「幹事会社の名称及び幹事会社を経由して行った課税仕入れである旨」を記載すればよいことが示された。ただし、適格請求書発行事業者と適格請求書発行事業者以外の事業者からの仕入れがある場合には区別して記載することに注意されたい。 (2) 任意組合の組合員のうち事業の損益の配賦を受けない者の取扱い(問Ⅲ) 問Ⅲでは世界中に組合員が存在している任意組合の取扱いについて整理している。 任意組合等が事業として行う資産の譲渡等について適格請求書を交付するためには、次のような要件がある。 問Ⅲでは、組合員のうち日本で課税資産の譲渡等を行っておらず、日本における事業の損益の配賦を直接又は間接にも受けない者がいる場合には、その組合員については任意組合員等の届出書の対象としなくても差し支えないことが示された。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#石川 幸恵
2025/03/07

プロフェッションジャーナル No.609が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年3月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.609を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/03/06

monthly TAX views -No.145-「「103万の壁」をめぐる議論を振り返る」

monthly TAX views -No.145- 「「103万の壁」をめぐる議論を振り返る」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   少数与党になった自公政権は、予算の年度内成立をめぐって政党間での政策協議を行ってきた。日本維新の会との間では教育無償化などの協議が整い、2025年度予算案の修正で正式に合意した。一方、国民民主党とは所得税の「103万円の壁」の引上げをめぐり協議が決裂した。本稿では、No.143に続き「103万円の壁」の問題について、改めて筆者の考えを述べてみたい。 *  *  * 国民民主党が若者を中心に支持を得たのは、基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計である「103万円の壁」を崩し「手取りを増やす」という公約の存在が大きい。最初はパート主婦を念頭に置いた話で、配偶者控除が103万円であった時代の逆転現象はすでに解決済みということに同党は気が付いた。 そこで大学生アルバイト(特定扶養控除)の話に比重が移った。自公との協議でこれの手当てがなされると、今度は「生存権」の話を展開した。憲法25条に規定する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は生活保護と深く関連しているが、基礎控除と連動しているという議論は政府税制調査会でも行われていない。 国民民主党は、このように論点をずらしてきたように思われる。そして自公との協議で「バナナのたたき売り」が行われたのだが、彼らの賛同は得られず、中途半端で複雑な所得税制だけが残ってしまった。 そもそも国民民主党の最初の主張から考えてみたい。 与党・財務省がこだわったのは財源の問題だ。国民民主党の主張する基礎控除103万円から178万円へ75万円の引上げは、機械的計算で7~8兆円の減収を招く。これは納税者数のブラケットごとに単純計算して減収額を積み上げたもので、減税の経済効果まで見込んだものではない。 なぜ国民民主党は財源としての代替案を提示しなかったのか、筆者には不思議に思える。もう1つの壁である「1億円の壁」、つまり金融所得税制の見直しで数千億単位の財源を見つけることは可能なはずだ。玉木代表が一度ネットテレビで金融所得税制に触れた際には多くの反対が寄せられ、このテーマから早々に手を引いたようである。しかし、わが国で総資産1億円を超える人は全世帯の約2.7%ほどであり、国民民主党の支持者においても金融所得を含め1億円の申告所得を得ている者は限られると思われる。最後まで財源提示なし、所得制限なしの無責任な対応だったのではないだろうか。 わが国の財政赤字は国債で賄われているわけだが、国債マーケットを見ると日本銀行が金融政策正常化を進め、国債買入れ予定額を毎四半期0.4兆円程度減額しつつある状況で、国債を買ってくれる投資家は先細りつつある。すでに昨年末には1.1%だった10年債の金利は、2月20日には1.4%を超える水準になっている。7~8兆円の恒久財源を失うことになれば金利は更に上昇し、国民生活に大きな影響を与えたであろう。 筆者が問題と考えるのは税制のあり方だ。所得控除を拡大することは、高所得者の減税が多くなる(これを逆累進性と呼ぶ学者もいる)という点で、格差拡大の方向に働く。インフレ調整分の引上げの必要性は認められるが、それを超えての所得控除の大幅な引上げは所得再分配に逆行する。 この点を、先進諸外国の所得税制を参考に考えてみたい。 米国や英国では、人的控除や基礎控除の控除額に一定の上限を設け、所得の増加に応じて控除額を逓減・消失させる仕組みを採用している。わが国もこの例に習い、2018年度税制改正で、基礎控除について所得金額2,400万円から逓減し2,500万円で消失する制度を導入した。 カナダでは、低所得者部分について所得控除を税額控除して負担を軽減している。ドイツ、フランスでは、同様のことを課税所得の一部にゼロ税率を適用して行っている。所得控除という累進機能・所得再分配機能を強化するため、基礎控除などには所得制限がついているのである。 このことについては、平成27年11月の税制調査会答申「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理」の7~8頁に詳しく記載されている。 今回の103万円の壁の問題は、現行の所得控除は維持しつつ、カナダ型の税額控除を導入すれば、壁が右に移動する一方で、高所得者への課税(税負担)は現行のままに維持できる。こちらの方が税制は簡素になるし、執行も容易なはずだ。 *  *  * 最後に、このような財政ポピュリズムが国民の支持を増やした背景は、アベノミクス以降社会保障の手薄なギグワーカーの増加など中間層が二極分化し格差問題が深刻化していることや、わが国の社会保障が高齢者に手厚く偏るというシルバー民主主義への若者世代の抵抗がある。 前者については、リスキリングなど人的資本向上とセットでの低所得者へのセーフティネットの拡充を行うことが必要だ。 後者については、医療・介護保険における金融所得や金融資産の勘案、医療・介護の3割負担(「現役並み所得」)の判断基準の見直しなどの対応を進め、社会保険料負担の基準に資産や資産所得も含めることなど応能負担の徹底を進めていく必要がある。 (了)

#No. 609(掲載号)
#森信 茂樹
2025/03/06

金融・投資商品の税務Q&A 【Q91】「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q91】 「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 導入の背景 所得税は累進課税により所得水準が高くなるほど負担が大きくなることが知られていますが、累進課税が適用される総合課税の対象とならず、分離課税の対象となる株式の譲渡による所得などを多額に有するような高所得者層にあっては、結果として所得に対する税負担率が累進税率と比較して低くなる傾向があります。いわゆる、「1億円の壁」といわれる問題です。 これに対応して税負担の公平性を確保する観点から、令和7年分の所得税より、概ね30億円を超える所得水準の個人に対して、最低限の負担を求める措置(特定の基準所得金額の課税の特例)が導入されました。   2 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の概要 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置とは、その年分の基準所得金額が3億3,000万円を超える個人について、その超える部分の金額の22.5%に相当する金額からその年分の基準所得税額を控除した金額に相当する所得税を課すという制度です。この22.5%は、累進税率による最高税率である45%の2分の1が根拠であるとされています。 基準所得金額とは、所得税法第2条第1項第30号で規定される「合計所得金額」と異なり、制度の潜脱を防ぐことを目的として、確定申告を要しない上場株式等の配当等に係る配当所得等及び源泉徴収を選択した特定口座で保有することにより確定申告を要しない上場株式等の譲渡による譲渡所得等を含めて計算することとされています。 また、基準所得税額とは、本措置の適用がないものとして計算した所得税の税額をいいます。そして、本措置の適用によって上記の超過額に係る税額が生ずる場合は、基準所得金額の計算をする際に適用しないこととした上場株式等の配当等や譲渡所得等の特例(申告不要制度)は、確定申告の際にも適用されないことになります。 なお、復興特別所得税は本措置適用後の所得税を課税標準とすることとなりますが、住民税は所得金額が課税標準となるため本措置の影響は受けないこととなります。   3 本件へのあてはめ 非上場株式の譲渡に係る譲渡益は、一般株式等に係る事業所得、雑所得及び譲渡所得として、申告分離課税の対象となり、適用税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)です。 したがって、令和7年以降に、経営する会社の株式をファンドに譲渡して譲渡益が生じるときは、当該譲渡益に対して20.315%の税負担となると考えられます。しかしながら、その譲渡した年分の課税所得の状況によっては、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置が適用される可能性があります。 具体的には、役員報酬、株式の譲渡益などすべての所得を合計した基準所得金額から3億3,000万円を控除した金額に22.5%を乗じて計算した金額が、本措置の適用がないものとして計算した所得税額(基準所得税額)を上回るかどうかを確認し、上回る場合には、確定申告により当該上回る部分に係る税額を納付する必要があります。 なお、株式の譲渡益など分離課税の対象となる所得の割合が高くなく、総合課税の対象となる所得(役員報酬など)が多い場合は、そもそも累進税率の適用により22.5%よりも高い税負担となりますので、本措置の対象にはならないと考えられます。   (了)

#No. 609(掲載号)
#西川 真由美
2025/03/06

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例72】「事前確定届出給与の届出額と支給額が異なるときの損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例72】 「事前確定届出給与の届出額と支給額が異なるときの損金性」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、関東地方のある県庁所在地に隣接する市に本社を置き自動車部品等製造業を営む株式会社X(資本金20億円で3月決算法人)において、経理部長を務めております。 わが国の経済は戦後一貫して製造業が牽引してきたものと考えられますが、バブル崩壊後の失われた30余年を経過する中で、それにもだいぶ陰りが見えてきたのは、至極残念なところです。その中でも、世界に名だたるトヨタをはじめとするわが国の自動車メーカー各社は、今でも比較的好業績を維持しており、わが社もその恩恵にあずかっているところですが、将来展望は必ずしも明るくありません。 その原因の1つはEV化の波が一気に押し寄せて、アメリカのテスラや中国のBYDといった新興メーカーが市場を席巻しているという点です。日本の自動車メーカーの強みは次世代自動車の中のハイブリッド車や燃料電池車で、EV市場では正直出遅れていますが、今後EV化が一気に進むのかについては、まだ予断を許さないと考えております。 もう1つは、アメリカにおいて第二次トランプ政権が誕生したことです。ご承知の通り、トランプ大統領は予測不可能な言動を繰り返し、諸外国との軋轢をいとわず取引(ディール)により主張を通そうとします。その際活用するのは関税で、わが国の自動車業界は追加関税の発動によりどれほどの悪影響を被るのか、戦々恐々としています。 さて、そのような国際情勢の中、先週より税務調査を受けておりますが、役員給与について問題となっております。すなわち、わが社の場合、役員に対しても従業員と同様に賞与を支払うため、事前確定届出給与によりその支払った役員給与につき損金算入しています。 ところが、調査官は事前確定届出給与の届出額と実際の支給額が異なるため、支払った金額の全額が損金不算入と主張しております。 確かに賞与の支給分につき一部届出額と異なる金額がありますが、それはあくまで未払分に過ぎず、遅れて支払ったものだから問題ないと思われます。また、届出通り実際に支払った金額さえも損金算入を認めないのは、どう考えてもやりすぎかと思いますが、税法上はどう考えるのが適切なのでしょうか、教えてください。 【A】 役員給与のうち事前確定届出給与については、仮に事前確定届出給与に関する届出がされたにもかかわらず、届けられた金額と異なる金額の役員給与が支払われた場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、支給額を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ「枠取り」をしておき、その後、届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額を操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨に反し、課税の公平を害することになりかねません。 そこで、臨時改定事由及び業績悪化改定事由に該当しない限り、その支給額全額が損金不算入となるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 役員給与の損金性 法人の役員は、法人に対して使用人とは異なる特殊な関係、すなわち使用人の場合のような雇用関係ではなく委任類似の関係(会社法330)に立っている。これが、法人税法上、役員給与が使用人に対する給与と異なる取扱いとされる根拠である。 伝統的に、わが国では、法人税法上、役員への報酬のうち賞与は損金不算入とされてきた(平成18年度改正前の法人税法)。これは、商法及び企業会計の取扱いにおいて役員賞与は利益の処分であると考えられていたことに基づくものである。しかし、商法から会社法が切り離されて立法されるときに、賞与を取締役の職務執行の対価であると位置づけられるようになる(会社法361①)など、役員賞与の取扱いに変動が生じることとなった。 このような動きの中で、法人税法における役員報酬や賞与の取扱いの「再考」が求められ、平成18年度の税制改正では、以下に掲げる3種類の「役員給与」については損金算入を認めるように整理されることとなった(法法34①)。   (2) 事前確定届出給与の損金性 上記(1)でみたとおり、平成18年度の税制改正で、役員給与として損金算入されることとなった類型の1つが、事前確定届出給与である。 事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の「定め」に基づいて支給する給与(定期同額給与及び業績連動給与を除く)で、一定の届出期限までに所定の事項を記載した書類を納税地の所轄税務署長に届け出ることにより損金算入が認められる役員給与である(法法34①二)。事前確定届出給与を用いることにより、あらかじめ定められた役員報酬の一部を一定の時期(使用人に対する賞与と同時期等)に支給する賞与についても、損金算入が認められるというメリットがある(従来の役員賞与に該当する(※1))。 (※1)  金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)403頁。 ところで、仮に、事前に届け出た役員給与の内容(金額)と実際に支給された内容(金額)とが異なる場合には、一般に事前確定届出給与には該当せず、損金算入も認められないものと考えられる(※2)。しかし、以下の事由が生じたときには、変更の届出を行うことにより損金算入が認められることとなる(※3)。 (※2) 年2回賞与を支払う旨事前に届け出たが、冬期分は届出通りであったものの、夏期分は届出分より少額だった場合において、その全額が損金に算入できないとされた裁判例(東京地裁平成24年10月9日判決・訟月59巻12号3182頁、控訴審東京高裁平成25年3月14日・訟月59巻12号3217頁も同旨)がある。 (※3) さらに宥恕規定がある(法令69⑦)。   (3) 事前確定届出給与の届出額と支給額が異なるときの損金性が争われた事例 それでは本件と同様に、事前確定届出給与の届出額と支給額が異なるときの損金性が争われた事例(東京地裁令和6年2月21日判決・TAINSコード:Z888-2700)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、原告が原告代表者らに対して支払った本件事業年度の賞与につき、法人税法第34条第1項第2号イ所定の給与(以下「事前確定届出給与」という)に該当するとして、本件事業年度における原告の法人税に係る所得の金額の計算上、上記賞与の金額を損金の額に算入して法人税の確定申告等をしたところ、処分行政庁から、本件各支給給与額は原告が法人税法第34条第1項第2号イ及び法人税法施行令第69条第4項第1号に基づいて届け出た金額と異なることなどから、上記賞与は事前確定届出給与に当たらず、本件各支給給与額は損金の額に算入されないなどとして、本件各処分を受けたため、本件各処分の取消しを求めた事案である。 役員給与の支払い等に関する事実関係は以下のとおりである。 ② 事案の争点 本件の主たる争点は、本件各支給給与額は損金の額に算入されないとしてされた本件法人税更正処分の適法性であり、より具体的には、本件各支給給与の事前確定届出給与(法法34①二)該当性である。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴され係属中である。 ④ 本裁判例から学ぶこと 前述(2)の通り、事前に届け出た役員給与の内容(金額)と実際に支給された内容(金額)とが異なる場合には、一般に事前確定届出給与には該当せず、損金算入も認められないものと考えられる。それでは、例えば、冬の賞与につき未払計上した場合、形式的には事前確定届出給与に関する定めの通り支給したことにはならないが、損金算入もできないといえるのであろうか。これについては、役員給与が未払いとなった経緯が判断のポイントとなるものと考えられる。 すなわち、例えば、支給額を(実際に支払う予定の金額より)高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことで、あらかじめ損金算入額の「枠取り」をしておき、その後、利益の出具合や資金繰りにより届出通り支給するかどうかを調整するようなケースにおいては、裁判所が言うように「損金の額をほしいままに操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねない」ことから、損金算入を認めるような合理性に乏しいといえる。他方で、取引先の倒産により資金繰りが大幅に悪化し、従業員の賞与の支払いを優先して役員への支給を遅らせ、その分をいったん未払計上するといったケースにおいては、客観的に見てやむを得ない事情であると考えられ、資金繰りの都合がついたタイミングで実際に支給していれば、損金算入が認められる余地があるものと考えられる。 本件はそもそも未支給の差額分を未払計上しておらず、また、変更後の定めの内容に関する届出(法令69⑤)も行っていないことから、裁判所が判断する通り、損金算入が認められることはないものと考えられる。   (4) 本件へのあてはめ 役員給与のうち事前確定届出給与については、仮に事前確定届出給与に関する届出がされたにもかかわらず、届けられた金額と異なる金額の役員給与が支払われた場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、支給額を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ「枠取り」をしておき、その後、届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額を操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨に反し、課税の公平を害することになりかねないところである。 したがって、臨時改定事由及び業績悪化改定事由に該当しその旨の届出を行わない限り、その支給額全額が損金不算入となるものと考えられる。   (了)

#No. 609(掲載号)
#安部 和彦
2025/03/06
#