収益認識会計基準を学ぶ 【第7回】 「履行義務の識別②」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回に引き続き、「履行義務の識別」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 履行義務の識別 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する(収益認識会計基準7項、32項)。 Ⅲ 別個の財又はサービス 1 要件 顧客に約束した財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、別個のものとする(収益認識会計基準34項)。 これらの規定については、収益認識適用指針において設例が示されているので、会計基準の規定が理解しにくい場合には、設例を先に読むことにより理解する方法も考えられる。 2 財又はサービスが別個のものとなる可能性(収益認識会計基準34項(1)) 上記のとおり、収益認識会計基準34項(1)は、当該財又はサービスが別個のものとなる可能性があることを規定している。 収益認識適用指針は、当該可能性について、顧客が次の①又は②のいずれかを行うことができる場合には、収益認識会計基準34項(1)に定める財又はサービスが別個のものとなる可能性があることに該当するとしている(収益認識適用指針5項、[設例5-1]、[設例6-3]、[設例25])。 3 契約の観点において別個のものとなること(収益認識会計基準34項(2)) 上記のとおり、収益認識会計基準34項(2)は、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点において別個のものとなることと規定している。 収益認識適用指針は、収益認識会計基準34項(2)に従って、財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できるかどうかを判定するにあたっては、当該約束の性質が、契約において、当該財又はサービスのそれぞれを個々に移転するものか、あるいは、当該財又はサービスをインプットとして使用した結果生じる結合後のアウトプットを移転するものかを判断すると規定している(収益認識適用指針6項)。 財又はサービスを顧客に移転する複数の約束が区分して識別できないことを示す要因には、例えば、次の(1)から(3)がある(収益認識適用指針6項、[設例5]、[設例6]、[設例16]、[設例24-2]、[設例25])。 4 契約の観点において別個のものとなることの考え方(収益認識会計基準34項(2)) 財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約の観点において別個のものとなるかどうか(収益認識会計基準34項(2))の判断においては、当該財又はサービスを移転する義務の履行に係るリスクが、他の約束の履行に係るリスクと区分できるかどうかが判断の基礎となる(収益認識適用指針112項)。 財又はサービスを顧客に移転する複数の約束が区分して識別できないことを示す要因(収益認識適用指針6項(1)から(3))は、いずれも当該基礎に基づくものであり、当該要因は相互に排他的なものではなく、そのうちの複数が該当する可能性もある(収益認識適用指針112項)。 実務上、財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約の観点において別個のものとなるかどうかの判断について迷うケースも考えられる。その場合には、上記の判断の基礎となる考え方に照らして慎重に判断する必要があると考えられる。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第2回】 「労働時間の管理①(裁量労働制)」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 第2回は労働時間の管理として、みなし労働時間の1つである裁量労働制について解説します。 * * 解 説 * * 1 裁量労働制とは 裁量労働制とは、みなし労働時間の1つで、実際に働いた時間に関係なく、事前に決めた時間(「みなし労働時間」という)働いたとみなすことができる制度です。 業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、その業務の手段及び時間配分の決定等について、使用者が具体的に指示しないこととする業務に従事する労働者について認められています。これを専門業務型の裁量労働制といいます(下図参照)。 〈みなし労働時間制〉 労使協定を締結してその内容を、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出することで労働者への適用が可能となっています。また、専門業務型裁量労働制で働かせることを就業規則又は就業規則に準ずるものに規定しなければなりません(下記規定例参照)。 〈就業規則の規定例〉 2 労使協定とは 労使協定とは、その事業場で労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をいいます。裁量労働制を導入する場合は、下記の内容を定めて、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出なければなりません。 〈労使協定で定める事項〉 3 専門業務型の裁量労働制が認められている業務 現在、下記記載の19業務に限り、裁量労働制が認められています。税理士業務も含まれています。 〈対象業務〉 4 税理士と有資格者 裁量労働制の対象となる「税理士の業務」とは、税理士となる資格を有し、税理士名簿への登録を受けた者自身を主体とする業務をいいます。税理士試験には合格しているけれども、税理士登録がなされていない者は、裁量労働制の対象となる「税理士の業務」には該当しません。 したがって、税理士と同様に業務の遂行方法等をその者の裁量に委ねられていたとしても、裁量労働制が適用されませんので、通常の労働時間管理が必要になります。 5 裁量労働制における労働時間と残業時間 法定労働時間は、原則として1週40時間、1日8時間です。法定労働時間を超えて労働させる場合は、三六協定を締結して、労働基準監督署に届け出なければなりません。 その上で、例えば、10時間労働した場合には、2時間分の残業手当を支払わなければなりません。 裁量労働制は、1日の労働時間をあらかじめ決めておくことで、その時間労働したこととみなす制度ですので、例えば、1日の労働時間を8時間と労使協定で決めた場合は、対象労働者が8時間を超えて10時間働いたとしても、その日の労働時間は8時間となり、残業手当が発生することがありません。逆に、6時間しか働かなくても8時間の労働とみなされるので、8時間分の賃金を支払わなければなりません。 また、みなし労働時間が8時間を超えて設定された場合には、8時間を超える分の残業手当が発生することになります。例えば9時間と設定した場合には、1時間分の残業手当を支払わなければなりません。 なお、裁量労働制は、深夜労働(22時~5時まで)や休日に労働した場合には、適用されませんので、通常の労働時間として残業手当等が発生することになります。 6 裁量労働制のメリット・デメリット 事業所(事務所)及び労働者には下記のメリット・デメリットがありますので、裁量労働制を導入する場合は、労使間で十分に協議しなければなりません。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例60】 日本郵政株式会社 「当社子会社の一部事業の譲渡に関するお知らせ」 (2021.4.21) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という)が2021年4月21日に開示した「当社子会社の一部事業の譲渡に関するお知らせ」である。子会社である Toll Holdings Limited(以下「トール社」という)の事業のうち特に業績が悪いエクスプレス事業を売却することにしたというのだが、売却する方針はこれよりも前に決まっていた。2020年11月5日に「当社子会社の一部事業の売却検討の決定のお知らせ」を開示し、同事業の売却を検討することを決定したとしており(検討することの決定に関する開示というのは珍しいが)、今回ようやく売却先が決まったのである。 同社は上場直前の2015年5月にトール社を買収したのだが、それから2年も経たない2017年4月25日に「減損損失の計上、平成29年3月期通期連結業績予想の修正及び子会社単体業績に係る関係会社株式評価損の発生に関するお知らせ」を開示している。その中の「減損損失の計上」は、次のように記載されている。買収するにあたり適切な調査が行われたようには到底思えない。 2 弁解のつもり? 今回の開示の中の「今後の見通し」は、次のように記載されている(下線は筆者による)。「特別損失が生じるといっても、軽微だから大丈夫ですよ」とでも言いたいのだろうか。 また、今回の開示のすぐ後の2021年4月28日に開示した「通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」の中の「通期連結業績予想の修正の理由」には、次のような記載がある。こちらは「特別損失を計上しますが、結局、上方修正なので、問題ないでしょ」と言いたいのだろうか。その特別損失がなければ、最終利益はさらに674億円プラスの上方修正になったというのに。 どちらも、投資家の気持ちを逆撫でするかのような記載である。 3 依然として 日本郵政の開示は本連載【事例40】でも取り上げた。インサイダー情報が漏れまくりだったのだが、それは現在でも変わっていないようである。今回の開示の情報も漏れていたようで、今回の開示を行う前に、次のように記載した「本日の一部報道について」を開示している。 代表執行役のほか(2019年12月27日に「代表執行役の異動に関するお知らせ」を開示)、経営陣のうち何人かが交代したようだが、依然として現在の経営陣の中にも口の軽い方がいらっしゃるようである。 4 あの会社への出資について 日本郵政は、今回の開示よりも前の2021年3月12日に「日本郵政グループと楽天グループによる資本・業務提携のお知らせ」を開示している(前回【事例59】で触れたが、楽天株式会社(以下「楽天」という)側も同日「日本郵政グループと楽天グループ、資本・業務提携に合意」を開示)。楽天と業務提携を行うだけでなく、同社に対して1,499億円の出資を行うとされている。トール社の買収にあたってはまともな検討がなされていなかったようだが、今回はきちんとした検討がなされたのだろうか。 楽天への出資については、投資を回収できるか否かといったことだけでなく、他にも検討しなければならない問題があるように思われる。日本郵政は、上場会社とはいえ、いまだに財務大臣が63.29%の株式を保有しており(第15期有価証券報告書)、実質的にはまだ国営といえるような会社である。そうした会社が、競合がいる中で楽天に対してだけ巨額の出資を行うことは、国が楽天を優遇しているように見えなくもない。 楽天に出資するにあたっては、丁寧な説明が必要かと思われるが、開示の中にそうした記載は見当たらない。出資する理由については、「両社グループ間の関係を強化するため」と記載されているだけである。関係を強化するために、日本郵政から楽天へ巨額の出資を行うことが果たして必要なのか、また、それが適切なことなのか、釈然としないのだが。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和3年5月20日東京地裁判決を受け平成27年以前の公社債の譲渡による譲渡所得の取扱いを変更 ~旧規定で課税対象となる公社債に係る「150%基準」の判定時期を見直し~ Profession Journal編集部 国税庁は6月22日付けで「平成27年以前の公社債の譲渡による譲渡所得に係る取扱いについて」を公表、平成28年に施行された公社債課税制度の改正前制度における取扱いを一部変更したことを明らかにした。 平成25年度税制改正では特定公社債等の譲渡所得等について非課税の対象から除外され原則15%の申告分離課税とするなど金融所得課税の一体化に向けた見直しが行われ、平成28年から施行されている。 この改正前制度では、一定の公社債の譲渡による譲渡所得のみ課税対象とされており、「割引の方法により発行される公社債等の譲渡による所得の課税の特例」(旧措法37の16①、旧措令25の15、旧措規18の16)において規定されていたが、上記の改正時にこの規定は廃止された(個人が平成28年1月1日前に行った公社債の譲渡について適用)。 廃止された旧規定では、課税対象となる公社債の要件の1つに、「その利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が100分の150以上である公社債(利子を付さない期間があるものを含む。)」(旧措令25の15②四)が掲げられていたが(150%基準)、従来の取扱いとして、その公社債に該当するのは「発行時点において、発行条件に定められた各利払期間の利子の利率により、その公社債の各利払期間の利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が100分の150以上になることが必然であるもの」とされていた。 上記の取扱いであったところ、このほど、債券の利子の利率が一定の時期における一定の基準(為替レートなど)により変動する債券について、この 150%基準に該当するか否かが争われた令和3年5月20日東京地裁判決において、下記の旨が判示された。 上記の判決を受け、国税庁は従来の取扱いを変更し、150%基準に該当するか否かについては、「債券の発行条件に照らし、その発行期間においてとり得るものとされている上限利率及び下限利率を基に、その発行時の現況に照らして 150%基準を満たす現実的可能性がおよそないと認められるような特段の事情がない限り、150%基準を充足するか否か」により判断することとした。 この取扱いの変更は過去に遡って適用されることから、国税庁は、変更後の取扱いにより平成27年分以前の所得税について納めすぎになる場合には更正の請求により還付の対象(ただし法定申告期限から5年以内)となるとしている(更正の請求にあたっては譲渡した公社債の利子の利率の内容を確認することができる書類等の提出が必要)。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和2年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2021(令和3)年6月17日、「令和2年10月から12月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、法人税法が3件、国税通則法が2件、相続税法が1件で、合わせて6件となっている。 今回の公表裁決では、6件のうち3件が国税不服審判所によって、原処分庁の課税処分等の全部又は一部が取り消され、納税者の審査請求が棄却されたものが2件で、1件は却下されている。 【表:公表裁決事例令和2年10月から12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、法人税に関連する裁決3件(いずれも、国税不服審判所が、原処分庁の賦課決定処分の一部又は全部を取り消すという判断を示している)について、検討したい。 なお、いずれの裁決も複数の争点があるが、中心的な争点に絞っていることを、あらかじめお断りしておく。 1 不動産売買契約に基づく土地等の譲渡に係る収益が請求人に帰属しないとした事例・・・③ 本件は、原処分庁が、①一般土木建築工事の調査、設計、積算、監理及び施工請負並びに土地の造成及び売買、保有、管理、賃貸借、仲介等を目的とする株式会社である審査請求人(以下「請求人」という)及び請求人以外の法人の行った土地等の譲渡等に係る収益は、その全てが請求人に帰属し、平成25年3月期の収益に計上する、②請求人による土地の開発申請に係る業務の役務提供は平成29年3月期に完了し、収益は確定している、③請求人が地上権設定契約の締結に伴い収受した金員は、返還されることのない「権利金」であり、平成30年3月期に計上すべき収益に当たるなどとして、青色申告の承認の取消処分及び更正処分等を行ったのに対し、請求人が、①土地等の譲渡等に係る収益は、請求人にその全てが帰属するものではなく、また、請求人に帰属する収益も当該事業年度に計上するものではない、②開発申請に係る業務の役務提供は完了しておらず、収益は確定していない、③地上権設定契約の一部は無効なものであって、収受した金員は将来的に返還される「敷金」であるから、収益には当たらないなどとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は以下のとおり多岐にわたっているが、本稿では、収益の取得者が請求人であるか否かを争点とする争点①に絞って、国税不服審判所の判断を見ておきたい。 (2) 国税不服審判所の判断 審判所は、事業収益の帰属者について、次のように見解を示した。 そのうえで、本件で争点となっている不動産等売買契約書について、2項及び3項に係る売買の債務者(売主)として請求人が記載され、作成当時の請求人の代表取締役であるJ8の記名とその代表取締役印が押印されている一方、4項に係る売買では債務者(売主)として、H4社が記載され、作成当時のH4社の代表取締役であるJ1の記名とその代表取締役印が押印されていることから、請求人及びH4社は、H5社との間で、それぞれその意思に従って、それぞれ別の債務を負う内容の契約を締結したと認定した。 その結果、不動産売買契約に基づく、4項に係る売買の事業の主体は、H4社であり、その収益もH4社に帰属すると認められることから、4項に係る売買に係る収益は、請求人に帰属しないとして、原処分庁の主張を退ける判断をした。 最後に、国税不服審判所は、請求人の不動産売買に係る収益の帰属時期についても、H5社へ土地等に係る移転登記がされた平成23年12月1日をもって「引渡しがあった日」であると判断するのが相当であり、2項及び3項に係る売買の収益については、原処分庁の主張する平成25年3月期ではなく、平成24年3月期に計上すべきであるとして、原処分庁の主張を退ける判断をした。 2 取締役に支給した賞与は使用人兼務役員に対する使用人職務分には該当しないとした事例・・・④ 本件は、水産食料品の製造、加工及び販売等を業とする取締役会設置会社である審査請求人(以下「請求人」という)が、取締役Hに支給した給与の一部を使用人兼務役員に対する使用人としての職務に対するものとして損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該給与は、使用人兼務役員に対する使用人としての職務に対するものに該当しないことから損金の額に算入されないとして、法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 取締役Hに支給した賞与は、法人税法第34条第1項括弧書きに規定する使用人兼務役員に対して支給する使用人職務分に該当するか否か。 (2) 事実関係 取締役Hの入社から審査請求に至るまでの役職等は以下のとおりである。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、使用人兼務役員について、法人税法を引用する形で、次のように定義している。 そのうえで、請求人について、その機構上、使用人としての職制上の地位として「部長」職が明確に定められており、取締役Hは、平成27年3月31日までは、請求人の営業部の部長職の地位を有しているが、同年4月1日の機構改革以後は、請求人の営業部長の役職に就いておらず、請求人の使用人としての他の職制上の地位も有していなかったと認められると判示した。 この事実認定に基づき、国税不服審判所は、本件で争点となった賞与のうち、請求人が平成26年12月に取締役Hに支給した賞与については、使用人兼務役員に該当する期間に支給されたものであるから、使用人兼務役員に対する使用人職務分として、請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入され、他方、同年4月1日以後に支給された額については、使用人兼務役員に対する使用人職務分には該当しないから、損金の額に算入することはできないという判断を示し、原処分庁が行った平成27年7月期の法人税の更正処分については、その一部を取り消すべきであると判断した 3 請求人が請求人の元代表者に退職金として支払った金員は、当該元代表者に退職の事実があるから、損金の額に算入されるとした事例・・・⑤ 本件は、不動産の賃貸等を営む株式会社である審査請求人(以下「請求人」という)が、平成24年11月30日、請求人の代表取締役及び取締役をいずれも辞任し、同年12月、辞任登記を行った元代表取締役に対して支給した退職金の金額を損金の額に算入して法人税等の申告を行ったところ、原処分庁が、元代表取締役は、登記上退任した後も請求人の経営に従事しており、実質的に退職したとは認められないから、当該金額は退職給与として損金の額に算入されないとして、法人税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、元代表取締役は形式的にも実質的にも退職したのであるから、当該金額は損金の額に算入されるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点には送達方法や理由付記なども含まれているが、本稿では、退職給与として損金の額に算入できるかどうか(下記争点④)に関する国税不服審判所の判断を見ておきたい。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、法人税法第2条第15号が取締役等の法的な地位を有していない者でも「法人の経営に従事している者」を法人の役員に含めた趣旨について、取締役等と同様に法人の事業運営上の重要事項に参画することによって法人が行う利益の処分等に対し影響力を有する者も同法上は役員とするところにあるとしたうえで、「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解されることから、元代表者が、辞任後も継続して、請求人の経営に従事、すなわち、請求人の事業運営上の重要事項に参画しており、実質的に退職していないと認められるかについて、検討を行った。 (参考) その結果、 などの事実認定に基づき、国税不服審判所は、元代表者が、辞任後も継続して、請求人の事業運営上の重要事項に参画するみなし役員に該当し、請求人を実質的に退職していなかったと認めることはできないとして、原処分の全部を取り消す判断を示した。 (了)
《速報解説》 会計士協会、監基報720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」の適用を踏まえた会社法監査等のスケジュールの検討を会員に促す ~実務の参考となるスケジュール検討例も掲載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月22日、日本公認会計士協会は、会員向けに、「監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」の適用を踏まえた会社法監査等のスケジュールの検討について」を公表した。 2020年11月6日付けで監査基準が改訂されたことを受け、監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(以下「監基報720」という)が改正され、2022年3月決算に係る財務諸表の監査から適用となる。 そのため、今後、会社法監査のスケジュールの検討が必要となる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「その他の記載内容」と会社法監査 「その他の記載内容」とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書を除いた部分の記載内容のことである。 監基報720では、「その他の記載内容」に対する監査人の作業を明確にするとともに、監査報告書に必要な記載を求めることとしており、従来以上の対応が必要になると考えられる。 会社法監査において、「その他の記載内容」は事業報告及びその附属明細書となる。 従来と同様に、事業報告及びその附属明細書は、会計監査人の監査対象ではないが、監基報720では、監査人は監査意見を表明しない場合を除いて、「その他の記載内容」に対する作業の結果を監査報告書に記載することとされている。 そのため、会社法監査において、会計監査人は次のことに注意が必要と考えられる。 「会社法監査のスケジュール検討例」も記載されているので、実務に役立つものと思われる。 (了)
《速報解説》 電話加入権の評価方法を見直す改正評価通達が公表される ~令和3年1月1日以後の相続等から適用~ Profession Journal編集部 既報のとおり国税庁が4月20日付けでパブリックコメントに付していた財産評価基本通達の改正案が、6月22日に確定、公表された(パブコメからの変更点なし)。 今回の改正通達では、現下の社会経済の実態等を踏まえ、電話加入権の評価方法(評基通161)が大きく見直された。改正前は①取引相場のある電話加入権の価額は課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価し、②それ以外の場合は売買実例価額等を基として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価するとされ、この「標準価額」は国税庁の財産評価基準ページで確認できるが、全国一律1,500円とされていた。 改正後は、①②の区分がなく、「電話加入権の価額は、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。」こととされる(改正評基通161)。 (※) パブコメの概要では、「申告に当たっては、財産評価基本通達128により一括評価する家庭用動産等(1個又は1組の価額が5万円以下のもの)に、電話加入権を含めることとして差し支えないものとする予定」と記載されていた(下記〔追記〕を参照)。 さらに、「1番から10番まで若しくは100番のような呼称しやすい番号又は42番、4989番のような誰もが嫌がる番号」といった特殊な番号の電話加入権の評価について定めた財産評価基本通達162は削除された。 改正通達では他に、都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価(評基通24-7)について、容積率の区分の整理及びこれに伴う補正率の見直しが行われている(詳細はこちら)。 今回の改正通達は令和3年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価及び令和3年分以後の地価税の課税価格の計算の基礎となる土地等の評価について適用される。遡及適用となっている点、留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 ASBJ、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」の確定を公表 ~公表に伴い適用指針の理解を助けるフローチャートも合わせて記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月17日、企業会計基準委員会は、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(改正企業会計基準適用指針第31号)を公表した。これにより、2021年1月18日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価について取扱いを示すものである。 「公表にあたって」では、「別紙1 投資信託財産が金融商品である投資信託の時価に関するフローチャート」及び「別紙2 投資信託財産が不動産である投資信託の時価に関するフローチャート」が記載されており、適用指針の理解に資するものと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱い 「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)5項に定める時価の定義により、金融商品取引所(それに類する外国の法令に基づき設立されたものを含む)に上場しており、その市場が主要な市場となる投資信託で、その市場における取引価格が存在する場合、当該価格が時価になると考えられる(49-2項)。 市場における取引価格が存在しない場合について、次に述べるように規定している。 1 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約又は買戻請求に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合(24-2項) なお、24-2項の取扱いを適用し、基準価額を時価とする場合、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がなく、当該基準価額により解約等ができることで、第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであると判断することができる(24-6項)。 2 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合(24-3項) 投資信託財産が金融商品である投資信託について、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合、次のいずれかに該当するときは、基準価額を時価とみなすことができる。 次の規定に注意する。 Ⅲ 投資信託財産が不動産である投資信託の取扱い 市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、金融商品会計基準に従い、一律に時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理を統一している(49-10項)。 市場における取引価格が存在しない場合について、次に述べるように規定している。 1 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合(24-8項) なお、24-8項の取扱いを適用し、基準価額を時価とする場合、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がなく、当該基準価額により解約等ができることで、第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであると判断することができる(24-11項)。 2 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合(24-9項) 投資信託財産が不動産である投資信託について、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合、基準価額を時価とみなすことができる。 次の規定に注意する。 Ⅳ 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱い 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資(「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)132項、308項)については、金融商品時価開示適用指針4項(1)に定める事項の注記を要しないこととし、その場合、他の金融商品における金融商品時価開示適用指針4項(1)の注記に併せて、所要の注記を行う(24-16項)。 Ⅴ 適用時期等 (了)
2021年6月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.424を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第92回】 「税務に関するコーポレートガバナンスの充実」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇コーポレートガバナンス・コードの改訂 東京証券取引所は、6月11日、コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、同日より施行することを公表した。 今回の改訂の主なポイントは以下の通りである。 第1に取締役会の機能発揮に関して、①プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)、②指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)、③経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表、④他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任、が求められている。 第2に、企業の中核人材における多様性の確保に関して、①管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定、②多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表、が求められている。 第3にサステナビリティを巡る課題への取組みに関して、①プライム市場上場企業において、気候関連財務情報タスクフォース(TCFD) 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実、②サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示することが盛り込まれた。 上場会社は、遅くとも本年12月までに、この改訂コーポレートガバナンス・コードに沿ってコーポレートガバナンス報告書の提出を行うことが必要である。ただし、プライム市場上場会社のみに適用される原則等に関しては、東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となる2022年4月以降に開催される各社の株主総会の終了後遅滞なくこれらの原則等に関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書を提出するよう求められることとなる。 〇英国における税務コーポレートガバナンス コーポレートガバナンス・コードは2015年に制定されて以降、2018年の改訂に次いで今回は2回目の改訂となった。これらの改訂を経て、上場会社が考慮すべき事項は質・量ともに充実され、例えば、独立社外取締役については、制定当初は2名以上選任すべきこととされていたのが今回3分の1以上と変更された。その背景には、実際にかなりの数の上場企業がすでに3分の1以上となっているということもある。 わが国のコーポレートガバナンス・コードの制定にあたり1つの参考とされたのが英国のコーポレートガバナンス・コードであったが、英国では、税務に関するコーポレートガバナンスも早くから制度化が進められてきた。 特にその中核となっているのが税務戦略の開示義務である。この開示義務の対象には、英国企業(単体・グループ)のみならず、多国籍企業グループに属する従属英国企業も含まれている。開示すべき税務戦略の内容としては、①税務リスクの管理に関する方針、②自社の許容する税務リスク、③タックスプランニングに係る方針、④税務当局との協力、の4点について言及する必要がある。 〇わが国における税務コーポレートガバナンス わが国の国税庁においても、税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組みは2011年以来行われてきた。2016年には企業の自発的な税務コーポレートガバナンスの充実に向けた取組みを後押しするための事務運営指針等が公表され、その後、改訂も行われてきた。 その背景には、大企業の税務コンプライアンス(納税者が納税義務を自発的かつ適正に履行すること)の維持・向上には、トップマネジメント(法人の代表取締役、代表執行役のほか、法人の業務に関する意思決定を行う経営責任者等)の積極的な関与・指導の下、大企業が自ら税務に関するコーポレートガバナンスを充実させていくことが重要、かつ、効果的であるという考え方がある。 具体的な取組みとしては、国税局所管の特別国税調査官が所掌する法人(約500社)を対象に、税務調査の機会において、対象法人に「税務に関するコーポレートガバナンス確認表」の記載を依頼し、その確認及び判定を行い、また、トップマネジメントと面談を行い、調査結果の概要を説明し、その是正事項の再発防止に向けた取組みを含め、税務に関するコーポレートガバナンスについて、改善が必要な箇所に関して、効果的な取組事例を紹介しつつ、意見交換を実施している。 また、税務に関する状況が良好であり調査必要度が低いと判定された法人については、調査が行われない事業年度において、申告済の事業年度における重要度の高い取引等の処理(組織再編(合併、分割、事業譲渡等)の処理、売却損、譲渡損、除却損、評価損等の損失計上取引の処理)で、金額が多額なものを自主的に開示し、当局がその適正処理を確認すること等を条件に次回の調査時期が1年以上延長されるなどの措置も講じられている。この調査時期の延長等の対象となっている法人数は、令和元事務年度で97社となっている。 デジタル課税をはじめとする国際課税ルールが大きく変化し、また国内法でもBEPSプロジェクトを踏まえたCFC税制の見直しなどが行われる中、国際的な税務対応のボリュームは従来とは比較にならないぐらい増大し、それに伴い税務リスクも高まっていることから、今後ますます税務に関するコーポレートガバナンスの整備は企業にとって重要性を増すものと考えられよう。 (了)