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社長のためのメンタルヘルス  【第2回】「社長ならではのメンタルヘルスの重要性と難しさ」

社長のためのメンタルヘルス 【第2回】 「社長ならではのメンタルヘルスの重要性と難しさ」   特定社会保険労務士 第一種衛生管理者 産業カウンセラー 寺本 匡俊   1 今回の趣旨・前回との関連 先月の連載第1回は、社長も従業員と同じく、生理学的・医学的には「生身の身体」であり、過重労働などのストレスにより、同じように不調を招きかねないという観点から、メンタルケアの大切さを説いた。 今回は、「従業員との違いについて」をテーマとする。社長には従業員にないストレスや、ずっと重い負担を日常的に抱えている。また、ストレス発散という観点からしても、経営者となれば、「体調不良を周囲に知られたくない」、「弱音は吐きづらい」等々、立場上の辛さがある。これらの要素を念頭に、ケアの難しさと対策案を考える。   2 ストレスモデル 本連載における「ストレス」とは、人間関係からくる精神的な悩みというような典型例のみならず、例えば「梅雨時は蒸し暑い」といったような、たいていの人が不快感、圧迫感を持つような物事を広く含めて考える。今回はまず、ストレスと不調の関係について整理するところから始める。 ストレスが我々の心身の負担となり、ときには不調を招く仕組みを図式化したものを「ストレスモデル」と呼ぶ。例えば「努力-報酬不均衡モデル」、「ストレス脆弱性モデル」などがあるが、本連載では、「NIOSHの職業性ストレスモデル」を用いる。連載の後半で取り上げる予定の「ストレスチェック制度」もこのモデルに拠っており、また、我が国での活用度、知名度が高い。 NIOSH(ナイオッシュ)とは、アメリカ合衆国の公的機関(「国立労働安全衛生研究所」、正式名は“National Institute of Occupational Safety and Health”)で、労災防止目的のシンク・タンクであり、保健行政官庁の管轄下にあるCDC(「疾病対策予防センター」、正式名は“Centers for Disease Control and Prevention”)の1組織である。 CDCは最近、我が国のニュースでも報じられた。先月(2021年5月24日)、アメリカ国務省が、日本への渡航制限を一段階厳しくし、「渡航中止勧告」としたが、この判断根拠になったのが、CDCの医学的な判断である。独立性と専門性が高い機関であるとされている。 このNIOSHが公表しているストレスモデル(下図参照)が、同機関のホームページに掲載されている。「労働災害のストレスモデル」と題されているが、解説にあるとおり、職場だけではなく個人的な要因も無視することはできない。 (※) NIOSHホームページより抜粋。 このモデルの利点は、因果関係が分かりやすいという構造にある。左側の「ストレスフルな勤務条件」が原因、右側の「ケガ又は病気のリスク」が結果である。一般に前者の原因は「ストレス要因」と訳され、後者の結果は「ストレス反応」と呼ばれる。我々は両者いずれもストレスと呼んでおり、「ストレスが多い職場」といえば前者、「ストレスが溜まっている」といえば後者であり、文脈で判断する。 このモデルの特徴は、因果関係の間に立ちはだかる壁、「個人的あるいは状況的な要素」である。この「壁」は、個人的要因(性別、年齢、既往症など)、仕事以外の要因(家庭環境、借金など)、緩衝要因(職場内外の人間関係など社会的な環境)に分けて説明されることがある。詳細はストレスチェックの回で言及するが、ここでは「ストレス要因」から出ている3本の矢印に着眼する。 3本の矢印のうち、1番上は「壁」がストレス要因の悪影響を跳ね返す場合、2番目は素通りする場合、3番目はかえって悪化する(矢印の色が濃くなる)場合のそれぞれがあることを示す。自動車の部品でいえばエアバッグやシートベルトのように、安全装置であるが時には作動せず、稀に事故を起こすことさえあるが、このような例が2番目に該当する。職場の例では、ハラスメントを訴えたところ、更に人間関係が悪化したというような例が3番目に該当する。   3 社長ならではのストレス要因 「ストレス要因」は、従業員と共通のものもあれば、社長ならではのものもある。後者は現役の社長職のほうがお詳しいのだが、あえて一般的な例を羅列すれば、事業計画の最終決定、財務や人事などの経営課題への対応、重要顧客・親会社・株主総会・監督官庁などとの折衝、コンプライアンス等々の重圧を一身に背負うのが社長である。 また、今日的な事柄としては、少子高齢化を背景とする事業継承や外国人雇用などの課題、社会経済の急速な変化に対応するための経営方針転換やIT・AI化、そして、現在進行中の新型コロナウイルス感染症対策(テレワーク、衛生措置、資金繰りなど)といった、過去にない(=好事例の積み重ねがない)諸問題にも対応しなくてはならない。 そして日常的に、相手や場面によって、元気でもあり、厳しくもあり、丁寧でもありと、体調・心境にかかわらず、経営者らしくあらねばならない。 上記のような「ストレス要因」は部分的に、部下に権限移譲し負担を分散することも可能ではあるが、最後の最後に責任を負うのは社長である。これらは一般の従業員とは比較にならないほど強いストレス要因となる。これも、「社長ならタフだから大丈夫」では必ずしもすまない注意点である。 下図は警察庁・厚生労働省の資料でタイトルが物々しいが、最悪の事態だけに限った関係図ではなく、メンタルヘルスを考える上で参考となる。メンタル不調は、中心部に明記されているように、「様々な要素が連鎖」するものであり、中でも特に統計上、「経済問題」と「健康問題」は、体調悪化に進みやすいのでご留意願いたい。 (※) 警察庁「令和2年中における自殺の状況」8頁より抜粋。   4 社長ならではの「壁」 繰り返しになるが、NIOSHモデルの「壁」は、個人的要因(性別、年齢、既往症など)、仕事以外の要因(家庭環境、借金など)、緩衝要因(職場内外の人間関係などの社会的な環境)からなる。これら各要因の多くが、労使を問わないことは言うまでもない。 労使の違いが出ることが多いと想像し得るのは、「緩衝要因」のうち、職場内外の人間関係だろう。これも個人差があるとは思うが、一般に社長は事業の指導者・責任者として、心身ともに健康で、活力にあふれていることを心掛け、また周囲から求められる。一方で立場上、「不調のとき気軽に相談できる相手がいない」というのが懸念材料である。 気分転換やストレス発散の手段と相手は多いほどよい。そして、良好な人間関係や趣味娯楽の機会は、元気なときに創ることができるもので、不調になってから焦っても上手く探せそうにない。仕事熱心で真面目一筋の人がうつになりやすいと言われるのは、元気であればあるほど働いてしまい、気が付いたらエネルギーが切れており、悩みを打ち明ける人も見当たらないのかもしれない。 産業医がいる職場や、医療職がいる健康管理部門を持つ企業におかれては、彼ら医療のプロに相談することをお勧めする。労働法的には、産業医は労働者保護のための安全管理体制の一環であるが、社長の健康保健がその趣旨に反することはない。また、メンタル不調に限らず、かかり付け医はぜひ確保願いたい。特にメンタル不調の場合、通院も必要となることを考慮すれば、職場か自宅の近所が望ましい。 最後に、士業各位におかれては、本テーマは、士業の専門領域以外のところでも、経営の顧問として社長、企業を支援する機会になり得る。そのためには、本連載をきっかけにしていただくなどして、メンタルヘルスの基礎を身に付けていただくとともに、自らの手に余る場合に備えて、次の段階の方策(医師の紹介など)の準備も、予め整えておくと有用である。 (了)

#No. 424(掲載号)
#寺本 匡俊
2021/06/17

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第18回】「規模の大きな土地ほど単価はなぜ低いのか」~土地の規模が単価に及ぼす影響~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第18回】 「規模の大きな土地ほど単価はなぜ低いのか」 ~土地の規模が単価に及ぼす影響~   不動産鑑定士 黒沢 泰     1 規模格差が生ずる一般的な理由 不動産は一般の商品や製品と異なり、単価と総額との関連が価格に反映される点に大きな特徴があります。すなわち、一般の「もの」であれば、単価に個数を乗じたものがそのまま総額となり、「もの」の価値はこのような計算によって自動的に算定されます。なかには、取引数量が多額となることにより値引きが行われることもありますが、それは「もの」の価値が減少したからではなく、あくまでも商取引の結果としてそのような現象が生じたからに他なりません。 これに対して、不動産(特に土地)の場合は、規模が大きくなればなるほど、近隣における標準的規模の画地の取引価格(単価)をそのまま適用したのでは総額が嵩み、その分だけ購入者が限定されるという現象が生じます。これが市場性の減退であり、不動産の価値を減少させる要因として作用する結果となります。このことは、不動産の価格が他の一般商品と比べて高価なものとなっていることを思い浮かべれば、おのずと納得がいくことでしょう。 また、規模格差(市場性の減退)の程度は、経済状況のいかんによっても異なるといえます。すなわち、景気低迷時には全体的に購買力が低下することから規模格差(減価)の程度は相対的に大きくなり、景気上昇時にはこれとは反対の傾向が見受けられます。 規模格差が生ずる一般的な理由は以上のとおりですが、土地を用途別(住宅地、商業地、工業地別)にみた場合にも、規模格差の生ずる要因には特徴的なものが見受けられます。そのため、以下、用途別に規模格差の要因を捉えてみます。   2 住宅地の場合 住宅地の場合、上記1で述べた一般的な理由(規模が大きくなることによる市場性の減退)に加え、開発行為に該当した場合には宅地の有効面積が減少することがあげられます。 すなわち、大規模な土地でマンションや戸建住宅の建設を行う際、都市計画法上の開発行為(※1)に該当すれば、自治体から公園等の無償提供を求められたり、(戸建開発の場合は)開発対象地内に新しく道路を敷設するなど潰つぶれ地が発生して有効宅地面積が減少するからです。 (※1) 開発行為とは、主として建築物の建築、又は、特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいいます(都市計画法第4条第12項)。そして、土地の区画形質の変更とは、敷地を分割したり、盛土や切土等を伴った造成工事を行うことなどを指しています。 したがって、このようなケースでは近隣の標準的な画地(例えば、戸建住宅の多い地域ではその敷地)の価格(単価)を対象地の面積にそのまま乗じたのでは、宅地として利用できない土地まで宅地の価格で計算してしまうことになり、不合理な結果となります。その意味で、規模が大きいことによる価値の減少を織り込んだ単価を対象地の面積に乗じて総額を計算すべきだといえます(ここにいう価値の減少の度合いが規模格差率に該当します)。 規模格差率については当該土地の属する地域の価格事情、用途(住宅系か商業系か工業系か)、基準となる画地と比較する画地の規模の相違等が反映されますので、一律に査定することはできませんが、マンション用地では△10%~△20%、戸建住宅用地では△30%前後という例もよく見受けられます。   3 商業地の場合 商業地の場合、近隣における標準的規模の画地に比べて規模の大きな画地は、そこに立地する業種が制約され、需要者の範囲はきわめて限定される可能性があります。 例えば、小規模店舗が建ち並んでいる地域で大規模な画地が売り出されても、その面積を最大限に活用して収益を上げることのできる業種は限定される傾向にあります(=標準的規模の画地の単価をそのまま適用したのでは総額が嵩み、土地購入の負担に耐えられない現象が生じます)。ここにも規模格差の生ずる合理的な根拠を見い出すことができます。 ただし、商業地の場合、住宅地と比較して特徴的な点は、開発行為に伴う道路の敷設をはじめとする潰地は通常発生しないことです。また、特に都心部の高度商業地域で標準的規模の比較的大きな場所では、それ以上の面積を有する土地であっても、このことが品等の高い大型ビルを保有し高額の賃料を徴収するための条件であると考えられている場合もあるため留意が必要です(規模格差の生じない例外的なケースです)。   4 工業地の場合 工業地の場合、規模格差の要因は住宅地や商業地とは異なる視点から検討する必要があります。もちろん、工業地においても、規模が大きくなれば総額が多額となり市場性が減退するという経験則が当てはまりますが、それ以外に規模格差を生ずる工業地特有の要因が認められます。それは、大規模な工場になればなるほど、原材料や製品輸送のための構内通路を多く確保しなければならないことや、工場立地法の規制により一定割合の緑地の確保が義務付けられるからです。したがって、規模の大きな工場用地はそれだけ有効宅地の割合が少なくなる点に規模格差の要因が存在します。 なお、ここにいう構内通路とは、一団の住宅分譲の際に新設される道路(開発行為によるものや位置指定道路等の公道並みのものを指します)とは異なり、あくまでも工場の敷地内にあるものをいいます。その意味で建築基準法上の道路には該当せず、道路以外の用途に使用できないという制約はありませんが、現実にこのような通路を確保しなければ工場の稼働に支障をきたすことから必要不可欠のものといえます。 そして、工業地の規模格差の発生要因が住宅地と異なる点は、住宅地の場合は、近隣における最有効使用が戸建住宅の敷地であれば、一団の土地を多数の区画に分割して分譲することを想定した評価手法(すなわち開発法)(※2)を適用するのに対し、工業地の場合には、あくまでも一体利用を前提としていることです。 (※2) この手法を適用する場合には、全分譲区画の販売収入の現在価値から支出額(造成工事費、販売費及び一般管理費)の現在価値を控除した結果が土地価格となります。 そのため、工業地の場合、有効宅地割合を減少させる要因は、区画割りに伴う道路の設置というよりは、一体利用を前提としながらも生産施設面積が一定割合以下に制限されたり、緑地面積を一定割合以上確保しなければならないところに潜んでいます。   5 まとめ 不動産鑑定評価基準(総論第8章第8節Ⅰ.6)では、鑑定評価の各手法を用いて試算した価格間に開差が生じた場合、これを調整するに当たっては、「単価と総額との関連の適否」を検討すべき旨規定しています。 そのポイントはまさに、不動産の価格を規模という側面から検討した場合、単価としては均衡を得ていても、総額が嵩む状況下では購買力に裏付けられた需要(有効需要)の存在そのものが問われるため、この点につき鑑定評価額の決定に当たっては十分に留意すべきだとしているところにあります。 (了)

#No. 424(掲載号)
#黒沢 泰
2021/06/17

《速報解説》 東証から改訂コーポレートガバナンス・コードが公表される~あわせて金融庁は「投資家と企業の対話ガイドライン」(改訂版)を確定~

《速報解説》 東証から改訂コーポレートガバナンス・コードが公表される ~あわせて金融庁は「投資家と企業の対話ガイドライン」(改訂版)を確定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 東京証券取引所は、コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、2021年6月11日から施行すると公表した。同日、金融庁は、「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂を公表している。 2021年4月7日に、金融庁から「投資家と企業の対話ガイドライン改訂案の公表について」と、東京証券取引所から「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの一部改訂に係る上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第三次制度改正事項)」が公表され、意見募集されていた。 これらは、2021年4月6日に公表された「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」(スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議)という提言を受けたものである。 なお、「「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの一部改訂に係る上場制度の整備について(市場区分の再編に係る第三次制度改正事項)」に寄せられたパブリック・コメントの結果」と「パブリックコメントの結果の概要」及び「投資家と企業の対話ガイドライン改訂案に対するご意見の概要及びそれに対する回答」も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ コーポレートガバナンス・コードの改訂 主に次の改訂が行われている。 1 取締役会の機能発揮 2 企業の中核人材における多様性の確保 3 サステナビリティを巡る課題への取組み 4 その他   Ⅲ 投資家と企業の対話ガイドラインの改訂 主に次の改訂が行われている。 (了)

#No. 423(掲載号)
#阿部 光成
2021/06/15

《速報解説》 会計士協会、監基報315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」等の改正と適合修正を公表~リスク対応手続の立案と実施に関する基礎を提供~

《速報解説》 会計士協会、監基報315「企業及び企業環境の理解を通じた 重要な虚偽表示リスクの識別と評価」等の改正と適合修正を公表 ~リスク対応手続の立案と実施に関する基礎を提供~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年6月8日付けで(ホームページ掲載日は2021年6月9日)、日本公認会計士協会は、監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」及び関連する監査基準委員会報告書の改正を公表した。当該改正に伴う監査基準委員会報告書の適合修正も行われている。 これにより、2021年2月26日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、2019年12月に国際監査・保証基準審議会(IAASB)から公表されたISA 315(Revised 2019)及び監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)に対応するものである。 改正前の監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」は、監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」に改正されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 改正後の監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」は、改正前の監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」から大幅な項目の追加・削除等が行われており、表紙を含めて101ページに及ぶものである。 1 本報告書の目的と定義 監査人の目的は、不正か誤謬かを問わず、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクと、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価することである(10項)。 アサーションとは、経営者が財務諸表において明示的か否かにかかわらず提示するものであり、財務諸表が、情報の認識、測定、表示及び注記に関して適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されていることを表すものである(11項(4))。 関連するアサーションとは、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションのうち、重要な虚偽表示リスクが識別されたアサーションをいう(11項(5))。 報告書では、識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについては、固有リスクと統制リスクとに分けて評価することが要求されている(5項)。 また、特別な検討を必要とするリスクとは、識別された次のような重要な虚偽表示リスクをいう(11項(10))。 固有リスク要因とは、関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、不正か誤謬かを問わず、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴をいう(11項(6))。 内部統制とは、企業が、経営者又は取締役会、監査役もしくは監査役会、監査等委員会もしくは監査委員会の統制目的を達成するために策定する方針又は手続をいう(11項(11))。 内部統制システムとは、企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営の有効性と効率性を高め、事業経営に係る法令の遵守を促すという企業目的を達成するために、経営者、取締役会、監査役等及びその他の企業構成員により、整備(デザインと業務への適用を含む)及び運用されている仕組みをいう(11項(12))。 2 リスク評価手続とこれに関連する活動 リスク評価手続には以下を含めなければならない(13項)。 3 企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解 監査人は、以下の事項を理解できるように、リスク評価手続を実施しなければならない(18項)。 4 企業のリスク評価プロセス 監査人は、リスク評価手続を通じて得た以下の理解や評価により、財務諸表の作成に影響を及ぼす企業のリスク評価プロセスを理解しなければならない(21項)。 5 重要な虚偽表示リスクの識別 監査人は、以下の2つのレベルで重要な虚偽表示リスクを識別しなければならない(27項)。   Ⅲ 適用時期等 (了)

#No. 423(掲載号)
#阿部 光成
2021/06/15

《速報解説》 東証の有価証券上場規程に定めるレビュー業務に係る2つの実務指針が確定~原則6/11以後発行の報告書に適用も東証が認めたものについては従前の取扱い~

《速報解説》 東証の有価証券上場規程に定めるレビュー業務に係る2つの実務指針が確定 ~原則6/11以後発行の報告書に適用も東証が認めたものについては従前の取扱い~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年6月9日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これにより、2021年1月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に対して意見は寄せらなかったとのことである。 これは、保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」(2016年1月26日)等の公表を受けたものである。 東証意見表明業務に関する従来の監査・保証実務委員会研究報告第12号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める被合併会社等の財務諸表等に対する意見表明業務(中間報告)」及び同第14号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める部門財務情報に対する意見表明業務(中間報告)」は、廃止される。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 東京証券取引所の有価証券上場規程に定める被合併会社等の財務諸表等に対するレビュー業務 1 適用範囲 株式会社東京証券取引所の有価証券上場規程及び有価証券上場規程施行規則に基づいて、新規上場申請会社が、上場前の一定期間に重要な合併、子会社化・非子会社化等を行った場合における当該被合併会社、子会社化・非子会社化された会社等(以下「被合併会社等」という)の財務諸表及び連結財務諸表に対して、公認会計士又は監査法人が業務実施者として実施するレビュー業務に係る実務上の指針である。 2 レビュー業務を実施する上での留意事項 次の事項に関する留意点が記載されている。 3 適用時期等 実務指針は、2021年6月11日以後に発行するレビュー報告書に適用する。 ただし、2021年6月11日以後に発行するレビュー報告書のうち、東京証券取引所が適当と認めるものについては、監査・保証実務委員会研究報告第12号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める被合併会社等の財務諸表等に対する意見表明業務について(中間報告)」(2006年11月2日公表)に基づく従前の取扱いによることができる。   Ⅲ 東京証券取引所の有価証券上場規程に定める部門財務情報に対するレビュー業務 1 適用範囲 株式会社東京証券取引所の有価証券上場規程及び有価証券上場規程施行規則に基づいて、新規上場申請会社が作成する部門財務情報に対して、公認会計士又は監査法人が業務実施者として実施するレビュー業務に係る実務上の指針である。 「部門財務情報の作成基準」は、東京証券取引所における確立された透明性のあるプロセスに従って作成され、東京証券取引所の規則として定められているものである。また、承継する事業又は事業の譲受けもしくは譲渡の対象となる部門の財政状態及び経営成績を表示するために我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を基礎として必要な修正を加えたものとなっている(21項)。 このため、「部門財務情報の作成基準」は、特別目的の財務報告の枠組み及び準拠性の枠組みとして受入可能なものとして推定される(21項)。 2 レビュー業務を実施する上での留意事項 次の事項に関する留意点が記載されている。 3 適用時期等 実務指針は、2021年6月11日以後に発行するレビュー報告書に適用する。 ただし、2021年6月11日以後に発行するレビュー報告書のうち、東京証券取引所が適当と認めるものについては、監査・保証実務委員会研究報告第14号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める部門財務情報に対する証明業務について(中間報告)」(2006年11月2日公表)に基づく従前の取扱いによることができる。 (了)

#No. 423(掲載号)
#阿部 光成
2021/06/11

《速報解説》 会計士協会、プロフォーマ及び結合財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針の改正を公表~改正に伴い従来の監査・保証実務委員会研究報告第17号は廃止~

《速報解説》 会計士協会、プロフォーマ及び結合財務情報の作成に係る 保証業務に関する実務指針の改正を公表 ~改正に伴い従来の監査・保証実務委員会研究報告第17号は廃止~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年6月9日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これにより、2021年1月29日から意見募集されていた保証業務実務指針3420に関する公開草案と、2021年3月2日から意見募集されていた保証業務実務指針3700に関する公開草案が確定することになる。なお、「公開草案に対するコメントの概要及び対応」も公表されている。 これは、保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」(2017年12月19日)等の公表を受けたものである。 東京証券取引所意見表明業務に関する従来の監査・保証実務委員会研究報告第17号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める結合財務情報に関する書類に対する公認会計士又は監査法人の報告業務について(中間報告)」は廃止される。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ プロフォーマ財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針 1 プロフォーマ財務情報 プロフォーマ財務情報とは、重要な事象又は取引が未調整財務情報に及ぼす影響を示すために、それらが実際よりも早い日付で発生又は行われたという仮定に基づく調整とともに示される財務情報をいう(11項(3))。 実務指針は、プロフォーマ財務情報は、①未調整財務情報、②プロフォーマ調整及び③調整後のプロフォーマ財務情報欄から成る表形式で表示されると仮定している。 目論見書に記載又は添付されるプロフォーマ財務情報は、事業体の未調整財務情報に重要な影響を及ぼす事象又は取引について説明することを目的として、選択された基準日以前に当該事象又は取引が発生したという仮定に基づき作成されるものである(4項)。 次のことに注意する(4項、5項)。 2 適用範囲 実務指針は、主題に責任を負う者によって目論見書に記載又は添付されるプロフォーマ財務情報の作成に関して、監査事務所が、合理的な保証を提供する保証業務に関する実務上の指針である(1項)。 また、実務指針は、プロフォーマ財務情報の作成に関して、監査事務所が限定的な保証を提供する保証業務に関する実務上の指針も提供する(1項)。 実務指針は、以下の場合に適用される。 3 業務実施者の責任 実務指針に準拠して実施される保証業務において、業務実施者は、主題に責任を負う者のためにプロフォーマ財務情報を作成する責任を負わない。当該責任は、主題に責任を負う者が負うものである(2項)。 業務実施者の責任は、プロフォーマ財務情報が、すべての重要な点において適用される規準に準拠して作成されているかどうかについて報告することにある(2項)。 実務指針は、業務実施者が、主題に責任を負う者のために過去財務情報を調整する非保証業務については取り扱わない(3項)。 4 保証業務を実施する上での留意事項 次の事項に関する留意点が記載されている。 5 適用時期等 2021年6月11日以後に発行する保証報告書に適用する。   Ⅲ 結合財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針 1 結合財務情報 東京証券取引所では、新規上場申請者が持株会社であって、持株会社になった後、上場申請日の直前事業年度末日までに2年以上を経過していない場合(他の会社に事業を承継させる又は譲渡することに伴い持株会社になった場合を除く)で、かつ、持株会社になった日の子会社が複数あるときに、結合財務情報の提出を求めている(4項)。 結合財務情報とは、新規上場申請者が結合対象会社の損益計算書等を結合して作成した損益計算書をいい、新規上場申請者が上場申請日の属する事業年度の初日以後持株会社になった場合には、結合対象会社の貸借対照表等を結合した貸借対照表を含む(17項(1))。 東京証券取引所が定める「結合財務情報の作成基準」により作成される結合財務情報は、持株会社になる前の企業集団における財務及び業績の概況について把握するために、結合財務情報の作成対象期間における結合対象会社の損益計算書等又は貸借対照表等を合算した上で、作成基準に示した事項を調整して作成されるものである(4項)。 結合財務情報は、連結財務諸表又は四半期連結財務諸表とは異なる目的及び手続により作成される財務情報であり、新規上場申請者である持株会社が提出する連結財務諸表又は四半期連結財務諸表とは異なるものである(4項)。 2 業務を実施する上での留意事項 実務指針は、保証業務実務指針3420「プロフォーマ財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針」が公表されたことを受け、当該保証業務実務指針3420を前提として、公認会計士等が結合財務情報に対して、業務実施者として実施する保証業務に係る実務上の指針を提供するものである(6項)。 次の事項に関する留意点が記載されている。 3 適用時期等 実務指針は、2021年6月11日以後に発行する保証報告書に適用する。 ただし、2021年6月11日以後に発行する保証報告書のうち、東京証券取引所が適当と認めるものについては、監査・保証実務委員会研究報告第17号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める部門財務情報に対する証明業務について(中間報告)」(2006年11月2日公表)に基づく従前の取扱いによることができる。 (了)

#No. 423(掲載号)
#阿部 光成
2021/06/11

《速報解説》 会計士協会、「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」の再公開草案を公表~草案に寄せられた財務報告の枠組みの考え方に対する意見を受け見直す~

《速報解説》 会計士協会、「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」の再公開草案を公表 ~草案に寄せられた財務報告の枠組みの考え方に対する意見を受け見直す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年6月8日、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会研究報告「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」」(再公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2021年1月18日に公表し、意見募集していた公開草案を見直し、再公開草案として、意見募集を行うものである。 意見募集期間は2021年6月29日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 公開草案に対する意見 公開草案に対して、適用される財務報告の枠組みの考え方、特に、キャッシュ・フロー計算書の会社法上の取扱いを明示し、また、2つの財務報告の枠組みが同時に適用された財務諸表(監査基準委員会報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」のA30項)の取扱いについても考慮すべきとの意見が寄せられた。 研究報告が対象としている一体書類に含まれる財務諸表に対する監査報告書については、適用される財務報告の枠組みをどう考えるか、また、会社法に基づく監査の対象をどう考えるかによって、様々な考え方があり、いまだ確立した考え方がないと考えられている(17項)。 様々な考え方があることから、研究報告(再公開草案)は、次の監査報告書の文例を示している(17項)。 2 適用範囲 研究報告は、金融商品取引法及び会社法に基づく監査において、一体書類として作成された「有価証券報告書兼事業報告書」に含まれる財務諸表及び連結財務諸表(以下「財務諸表」という)に対する監査報告書に関して、現時点で考えられる作成上の留意点及び文例を取りまとめたものである(1項)。 研究報告は有価証券報告書と事業報告等を一体の書類として同時に開示する「一体書類」としての有価証券報告書兼事業報告書に含まれる財務諸表に対する監査報告書を対象としている(3項)。 3 財務報告の枠組み 一体書類に含まれる財務諸表に対して監査を行う場合、財務報告の枠組みの組合せについて、次の2つの解釈があると考えられる(7項)。 研究報告は、新たな実務として、これらの方法のうち、金融商品取引法及び会社法それぞれの財務報告の枠組みに関して別個の監査報告書を発行せず、単一の監査報告書を発行する場合の監査報告書の文例を提供している(7項。付録文例1から文例4)。 研究報告においては、一体書類に「適用される財務報告の枠組み」は、金融商品取引法の財務報告の枠組み(金融商品取引法193条)及び会社法の財務報告の枠組み(会社法431条)の両方が「同時に」又は「組み合わせて」適用されるという考え方に拠っており、会計処理に関する基準は金融商品取引法及び会社法に共通であるものの、表示及び開示に関する規則は異なるものである(18項)。 4 キャッシュ・フロー計算書 キャッシュ・フロー計算書については、次の2つの考え方がある(8項)。 研究報告では、2つの財務報告の枠組みを同時に適用すると考えるがキャッシュ・フロー計算書を会社法に基づく監査の対象とする場合、及び単一の財務報告の枠組みを適用すると考えるがキャッシュ・フロー計算書を会社法に基づく監査の対象としない場合については、取り扱わないとのことである(8項)。 なお、詳しくは「財務報告の枠組みの考え方と監査報告の関係の整理」の図表をご確認いただきたい。 5 一体書類に含まれる財務諸表に対する監査報告書と内部統制監査報告書の一体作成 有価証券報告書提出会社が金融商品取引法及び会社法に基づき一体書類を作成する場合であっても、財務諸表監査に係る監査報告書と内部統制監査報告書を一体として作成することを妨げる重要な理由が見当たらないことから、研究報告においては一体として作成することとしている(22項)。 (了)

#No. 423(掲載号)
#阿部 光成
2021/06/11

プロフェッションジャーナル No.423が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年6月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.423を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/06/10

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第96回】「節税義務なるものの正体(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第96回】 「節税義務なるものの正体(その2)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   Ⅱ 善管注意義務と節税義務 1 税理士法1条と税理士の責任 税理士法1条《税理士の使命》は次のように税理士の使命を規定する。 前述の東京地裁平成9年10月24日判決は、税理士法1条がこのように規定していることを示した上で、次のように説示している。 なぜ、税理士法1条から、このような具体的な税理士に課されるべき「有利な税務上の処理方法を選択すべき義務」まで導出することができるのであろうか。 「税務に関する専門家」であるから、そのような義務は当然のものというのであろうか。あるいは、「納税義務者の信頼にこたえ」る必要があるから、かかる応答義務の一環として、「有利な方法を選択すべき義務」が認められるというのであろうか。そうであるとすれば、これも前述した②事件(東京高裁平成7年6月19日判決)が、「税理士は税務の専門家であるから、税務に関する法令、実務の専門知識を駆使して、依頼者の要望に適切に応ずべき義務がある。」と示したところと同様の理解であろう。 いずれにしても、説明の仕方としては、上記東京地裁平成9年10月24日判決の説示だけでは、かかる義務が導出されるとする法的根拠が必ずしも判然としないように思われる。むしろ、そのような義務があるとするならば、その根拠は、「善良な管理者として依頼者の利益に配慮する義務」として理解すべきなのではなかろうか(これも②事件の東京高裁が説示するところである。)。次に、かかる善管注意義務を考えてみたい。 2 善管注意義務 民法644条《受任者の注意義務》は次のように規定する。 委任者である納税義務者等と受任者である税理士との間には委任契約が締結されているため、通常の税理士業務は、民法644条の規定の適用に服することになろう。 この善良なる管理者としての注意義務、すなわち善管注意義務によって、これまで述べてきた税理士の節税義務なるものを説明することが一応可能であるように思われる。 すなわち、民法644条を根拠として、税理士には、「税理士法上の義務として、法令に適合した適切な申告をすべきことは当然であるが、法令の許容する範囲内で依頼者の利益を図る義務がある」ということになりそうである。 ところで、民法644条はあくまでも、委任契約を前提とした規定であり、税理士に節税となるように選択することまでをも要求されているのか否かについては、委任者と受任者が如何なる内容の契約を締結したかに大きく依存する。すなわち、民法644条が適用される委任契約があるからといって、それだけで個々の委任契約の内容を見ずに、「有利な税務上の処理方法を選択すべき義務」が税理士に認められることになるという点には不安を覚える。 やはり、個別具体的に如何なる委任が委任者からなされたのかという点にまで踏み込まなければ、受任者たる税理士の義務は明確にはならないのではないかという疑問も同時に惹起され得る。 これまでの裁判例は、その点に踏み込まずに、税理士法1条を根拠に、一般的な税理士の義務として、「有利な税務上の処理方法を選択すべき義務」なるものを説示しているように思われる。果たして、税理士法1条のような「使命」を示す訓示規定を根拠として、一般的な税理士の義務を導き出すことが可能なのであろうか。 3 信認義務 税理士への税務の依頼については、依頼者である納税義務者等が租税に関する専門的知識を持ち合わせていないことが多いため、依頼者が税理士を信頼した上で、税理士が多くの租税法上の選択を行うというケースが少なくない。 例えば、租税法上には、期末棚卸資産の評価方法、減価償却の評価方法、青色申告か白色申告かの選択、消費税法上の本則課税か簡易課税かの選択、租税特別措置法上の特別償却か税額控除かの選択など無数に種々の選択が必要となる。そこで、かかる租税法上の各種の選択や確定申告提出時期などの事務処理等を依頼者が税理士に一任する場面が多い。 このような選択的処理を一任するケースは他の事務領域においても見られる。代表的には、例えば、証券取引などの金融取引においては、顧客が事業者を信頼し、商品の選定、数量や金額、注文の方法や時期などの事務処理等を一任する場合が少なくない(村本武志「投資取引における信認義務の機能と役割」現代法学21号31頁(2012)参照。以下、同論文によるところが大きい。)。 これは、一般的に複雑困難といわれる税務上の取扱いと同様、商品の仕組みが複雑であるか、取引情報の収集や判断が困難である場合などといった取引形態の特殊性がその背景にあるといえよう。 かような取引においては、英米法では信認義務(fiduciary duty)が認められ、その前提としては、当事者間の信頼・依存関係に信認関係(fiduciary relation)が必要とされている。 ここにいう信認義務とは、信認関係の認められる当事者間において一方当事者(fiduciary:信認者)の信頼を受けた側の当事者(principal:受認者)に課されるものであり、これは、もっぱら信認者方の利益を図るために「最高度の信義誠実を尽くして行動」すべき義務、あるいは信認者の「利益の最大化のために働く」べき義務をいうと理解されている。 信認義務は、相当な注意義務(due care)、忠実義務(duty of loyalty)、及び最大誠実義務(utmost good faith)を内容とするものであるが、前述したとおり、この義務は英米法由来の考え方であり、我が国では、信認義務の中核をなす忠実義務が信託法上等に認められるほかは、法規定中でこれを定めるものはない。 しかし、金融取引においては、金融の自由化、国際化や金融不祥事の発生を背景に、さまざまな金融サービスを提供する者の義務を統一的に把握するための概念として注目されてもいるのである。 現に、法制審議会では、民法(債権法)改正のための議論が進められたなかにあって、中間論点整理上の検討課題として、忠実義務を民法上で規定することの適否が論じられたのである。そこでは、「忠実義務に関する明文の規定を設けるという考え方の当否について、善管注意義務との関係、他の法令において規定されている忠実義務との関係、忠実義務を減免する特約の効力などに留意しながら、更に検討してはどうか。」との提案がなされていた。 (※) 信認義務は、その議論の母国であるアメリカにおいてさえ、最もわかりにくい概念であると言われているのであるから(Deborah A.DeMott,Beyond Metaphor: An Analysis of Fiduciary Obligation,1988 Duke L.J. 879,879(1988))、明確な定義付けを行うのは難しいところではある。 もっとも、信認義務たる「最高度の信義誠実を尽くして行動」すべき義務、あるいは信認義務の機能と役割者の「利益の最大化のために働く」べき義務は、今回の民法(債権法)改正(平成29年5月)においては採用されてはいない。しかしながら、これまで述べてきた税理士に対する節税義務なるものの正体は、むしろ、我が国の民法が採用しなかった最高度の信義誠実を尽くして行動する義務に接近するものなのではなかろうか。 (続く)

#No. 423(掲載号)
#酒井 克彦
2021/06/10

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕税法や通達以外の実務知識 【第10回】「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その2)」-容積率①-

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第10回】 「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その2)」 -容積率①-   税理士 笹岡 宏保   基本的な論点 容積率とは、建築物の延床面積が当該建築物の敷地の用に供されている宅地のうちに占める割合をいいます。これを算式で示すと、次のとおりとなります。 (算式) また、上記の容積率の計算事例を示すと、次のとおりとなります。 上記で求めた容積率の割合(数値)が高いほど、当該土地について階層的な高度利用が可能とされます。 相続税等における土地評価では、この容積率が大きく影響を与えており、その習得及び理解は不可欠なものとなっています。   解決への指針 建築基準法上では、対象地に適用される容積率には、『指定容積率』(建築基準法第52条第1項に規定)と『基準容積率』(建築基準法第52条第2項に規定)の2つの概念があります。実際に適用される容積率は、これらのうち、いずれか数値の低い方(厳しい方)の容積率が適用されるものとなっています。 (1) 指定容積率(都市計画の定めにより指定される容積率(用途地域別の容積率で、建築基準法第52条(容積率)第1項の規定に基づく容積率)) 都市計画法第8条(地域地区)第1項第1号の規定では、要旨、同法に規定する都市計画区域については、都市計画において用途地域(注)を定めるものとされています。また、同法同条第2号の規定では、当該用途地域については、その地域別に都市計画において容積率を定めるものとされています。これに基づいて定められた容積率を『指定容積率』といいます。 (注) 用途地域は、次に掲げる13区分に分類されます。 指定容積率は、具体的には、次に掲げる数値のうち、当該地域に関する都市計画において定められています。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (注) 地域によっては、当該地域の独自の都市計画のなかで個別に容積率が規定されている場合がありますので、実務上においては必ず、市区町村役場等の担当部局において確認することが重要とされます。 (2) 基準容積率(前面道路の幅員制限に基づく容積率(建築基準法第52条(容積率)第2項の規定に基づく容積率)) 上記(1)に掲げる指定容積率が高く設定されている地域であっても、対象地が接道する前面道路の幅員が狭小な場合には、当該対象地に指定容積率どおりの容積率を用いて建築物を建築させることは防災等の観点から問題があるものと考えられます。 上記に掲げる問題点に対応するものとして、建築基準法第52条(容積率)第2項において、要旨、当該建築物の前面道路(前面道路が2以上あるときは、その幅員の最大のものをいいます。以下同項の規定の適用に関する部分について同じです。)の幅員が12m未満である場合における容積率の算定方法(前面道路幅員に基づく容積率の制限(この規定に基づいて計算された容積率を『基準容積率』といいます。))が定められています。 上記に掲げる基準容積率の具体的な計算方法を示すと、次のとおりとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 事例検討 (了)

#No. 423(掲載号)
#笹岡 宏保
2021/06/10
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