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日本の企業税制 【第92回】「税務に関するコーポレートガバナンスの充実」

日本の企業税制 【第92回】 「税務に関するコーポレートガバナンスの充実」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇コーポレートガバナンス・コードの改訂 東京証券取引所は、6月11日、コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、同日より施行することを公表した。 今回の改訂の主なポイントは以下の通りである。 第1に取締役会の機能発揮に関して、①プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)、②指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)、③経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表、④他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任、が求められている。 第2に、企業の中核人材における多様性の確保に関して、①管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定、②多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表、が求められている。 第3にサステナビリティを巡る課題への取組みに関して、①プライム市場上場企業において、気候関連財務情報タスクフォース(TCFD) 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実、②サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示することが盛り込まれた。 上場会社は、遅くとも本年12月までに、この改訂コーポレートガバナンス・コードに沿ってコーポレートガバナンス報告書の提出を行うことが必要である。ただし、プライム市場上場会社のみに適用される原則等に関しては、東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となる2022年4月以降に開催される各社の株主総会の終了後遅滞なくこれらの原則等に関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書を提出するよう求められることとなる。   〇英国における税務コーポレートガバナンス コーポレートガバナンス・コードは2015年に制定されて以降、2018年の改訂に次いで今回は2回目の改訂となった。これらの改訂を経て、上場会社が考慮すべき事項は質・量ともに充実され、例えば、独立社外取締役については、制定当初は2名以上選任すべきこととされていたのが今回3分の1以上と変更された。その背景には、実際にかなりの数の上場企業がすでに3分の1以上となっているということもある。 わが国のコーポレートガバナンス・コードの制定にあたり1つの参考とされたのが英国のコーポレートガバナンス・コードであったが、英国では、税務に関するコーポレートガバナンスも早くから制度化が進められてきた。 特にその中核となっているのが税務戦略の開示義務である。この開示義務の対象には、英国企業(単体・グループ)のみならず、多国籍企業グループに属する従属英国企業も含まれている。開示すべき税務戦略の内容としては、①税務リスクの管理に関する方針、②自社の許容する税務リスク、③タックスプランニングに係る方針、④税務当局との協力、の4点について言及する必要がある。   〇わが国における税務コーポレートガバナンス わが国の国税庁においても、税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組みは2011年以来行われてきた。2016年には企業の自発的な税務コーポレートガバナンスの充実に向けた取組みを後押しするための事務運営指針等が公表され、その後、改訂も行われてきた。 その背景には、大企業の税務コンプライアンス(納税者が納税義務を自発的かつ適正に履行すること)の維持・向上には、トップマネジメント(法人の代表取締役、代表執行役のほか、法人の業務に関する意思決定を行う経営責任者等)の積極的な関与・指導の下、大企業が自ら税務に関するコーポレートガバナンスを充実させていくことが重要、かつ、効果的であるという考え方がある。 具体的な取組みとしては、国税局所管の特別国税調査官が所掌する法人(約500社)を対象に、税務調査の機会において、対象法人に「税務に関するコーポレートガバナンス確認表」の記載を依頼し、その確認及び判定を行い、また、トップマネジメントと面談を行い、調査結果の概要を説明し、その是正事項の再発防止に向けた取組みを含め、税務に関するコーポレートガバナンスについて、改善が必要な箇所に関して、効果的な取組事例を紹介しつつ、意見交換を実施している。 また、税務に関する状況が良好であり調査必要度が低いと判定された法人については、調査が行われない事業年度において、申告済の事業年度における重要度の高い取引等の処理(組織再編(合併、分割、事業譲渡等)の処理、売却損、譲渡損、除却損、評価損等の損失計上取引の処理)で、金額が多額なものを自主的に開示し、当局がその適正処理を確認すること等を条件に次回の調査時期が1年以上延長されるなどの措置も講じられている。この調査時期の延長等の対象となっている法人数は、令和元事務年度で97社となっている。 デジタル課税をはじめとする国際課税ルールが大きく変化し、また国内法でもBEPSプロジェクトを踏まえたCFC税制の見直しなどが行われる中、国際的な税務対応のボリュームは従来とは比較にならないぐらい増大し、それに伴い税務リスクも高まっていることから、今後ますます税務に関するコーポレートガバナンスの整備は企業にとって重要性を増すものと考えられよう。 (了)

#No. 424(掲載号)
#小畑 良晴
2021/06/17

令和3年度税制改正における固定資産税の宅地の負担調整措置

令和3年度税制改正における 固定資産税の宅地の負担調整措置   税理士 菅野 真美   1 固定資産税とは 固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)に土地、家屋、償却資産を所有している者が、固定資産の価格に基づいて算定された税額を固定資産が所在する市町村(東京都特別区については東京都)に納める税金である(地法341、342①、343①、359、都税条例3③二)。 土地については、賦課期日における土地の価格が課税標準額となることが原則であるが(地法349)、宅地のうち住宅用地の場合で一般住宅用地又は小規模住宅用地の要件を満たしたときは、価格に1/3又は1/6(住宅用地特例率)を乗じた額が課税標準額となる(地法349の3の2①②)。   2 土地の価格と価格の修正 土地の価格は、原則的には、公示価格等の7割を目途として算定された価格である(固定資産評価基準第1章12節一)。評価額の基礎となる路線価も公開されている。土地や、家屋の価格については、相続税の路線価のように毎年公表され、価格が増減するようなものではなく、3年に一度の評価替えが行われ、原則的には、基準年度(地法341六)の価格が据え置かれる(地法349①②③)。基準年度の価格は、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の価格に基づいて算定される(固定資産評価基準第1章12節一)。直近の基準年度は令和3年度であり、令和3年度の価格は令和2年1月1日時点の価格に基づいて算定される。 しかし、昨今の新型コロナウイルス感染症による景気の停滞から地価が下落した地域もあり、この場合、令和3年分の価格を据え置くことが妥当でない場合においては、令和4年度、令和5年度の価格を修正することとされている(地法附則17の2)。 なお、令和4年度又は令和5年度における土地の価格に関する修正基準(以下「修正基準」という)が、令和3年7月1日付総務省告示第220号をもって告示された。 修正基準においては、令和2年1月1日時点の価格に修正率を適用することとしているが、既に下落修正を行っている宅地については、その価格にその後の地価下落率を乗じる方法によっても差し支えないとされている。   3 負担調整措置 宅地等の固定資産税の評価水準について市町村ごとにばらつきがあったことから、平成6年度に7割評価が実施された。また、平成9年度の評価替えで地域や土地によるばらつきのある負担水準(当年度の評価額に対する前年度課税標準額の割合)の均衡化を重視する負担調整措置が設けられた。これは負担水準の高い土地は税負担を引き下げ又は据え置き、負担水準の低い土地はなだらかに税負担を上昇させることで負担水準の幅を狭めるという考え方に基づくものである。 その後、その時々の状況に応じて改正を繰り返しながらも基本的な考え方は変わっていない。そのため、地価が下落しているのに税額が上がるという現象が起こる場合もある。   4 令和3年度の固定資産税の負担調整措置 令和3年度は評価替えの年で、原則的には、令和2年1月1日の固定資産税評価額に基づいて固定資産税を計算し、その価額が3年間継続されることになるが、令和3年度の税制改正で、令和3年度については、新型コロナウイルス感染症による社会経済活動の大きな変化と、納税者の負担感に配慮して下記のように取り扱うこととされた。 (1) 宅地のうち商業地等 商業地等の課税標準額は、負担水準(当年度の評価額に対する前年度課税標準額の割合)(※)が70%を超える場合は、固定資産税評価額の70%相当額に税率を乗じて計算し(地法附則18⑤)、負担水準が60%以上70%以下の場合は、前年度の課税標準額に据え置くルールが以前からあることから(地法附則18④)、令和3年度については、負担水準が60%未満の場合も、前年度の課税標準額に据え置くこととされた(地法附則18①)。 (※) 負担水準 = 前年度の課税標準額 ÷(当年度の固定資産税評価額 × 課税標準の特例率)× 100(地法附則17八イ) つまり、固定資産税の課税標準額が前年度より上がった場合は、前年度の課税標準額に据え置き、下がった場合は「当年度の固定資産税評価額 × 70%」を当年度の課税標準額とする。 (2) 宅地のうち住宅用地等 住宅用地等は、通常は固定資産税評価額に住宅用地特例率(1/3又は1/6)を乗じて課税標準額を算定するが、令和3年度については、「前年度の課税標準額 < 当年度の課税標準額」の場合は、前年度の課税標準額に据え置く(地法附則18①)。 つまり、固定資産税の課税標準額が前年度よりも上がった場合は、前年度の課税標準額に据え置き、下がった場合は当年度の固定資産税評価額に基づき当年度の課税標準額を算定する。   5 令和4年度、令和5年度の固定資産税の負担調整措置 (1) 宅地のうち商業地等 令和4年度、令和5年度の商業地等の課税標準額は、従来の負担調整措置と同じ算式で計算する。負担水準が70%を超える場合は、固定資産税評価額の70%相当額に税率を乗じて計算し(地法附則18⑤)、負担水準が60%以上70%以下の場合は、前年度の課税標準額に据え置く(地法附則18④)。そして、60%未満の場合の課税標準額は、「前年度の課税標準額 + 当年度の評価額 ×5%」を原則とする(地法附則18①)。 ただし、計算した額が当年度の評価額の60%を超える場合は評価額の60%相当額(地法附則18②)、評価額の20%に満たない場合は評価額の20%相当額が課税標準額となる(地法附則18③)。 (2) 宅地のうち住宅用地等 令和4年度、令和5年度の住宅用地等の課税標準額は、従来の負担調整措置と同じ算式で計算する。 「当年度の課税標準額(当年度の評価額 × 住宅用地特例率)」と、「前年度の課税標準額 + 当年度の課税標準額(当年度の評価額 × 住宅用地特例率)× 5%」のいずれか低い額となる(地法附則18①)。 ただし、計算した額が「当年度の評価額 × 住宅用地特例率」の20%に満たない場合は、「当年度の評価額 × 住宅用地特例率」の20%相当額が課税標準額となる(地法附則18③)。   6 条例による減額制度の延長 固定資産税の負担を緩和するための条例で定めることができる次の(1)及び(2)の制度の適用期限を3年間(令和5年度まで)延長する。 (1) 税負担急増土地に係る条例減額制度 これは、当年度の住宅用地、商業地等の固定資産税額が前年度の課税標準額に“1.1以上で条例において定める率” (※)に税率を乗じて算定した額を上回る場合は、その上回る額を減額する制度である(地法附則21の2)。 (※) 東京都23区内の住宅用地や商業地等については条例で1.1と定められている(都税条例附則15の3)。 (2) 商業地等に係る条例減額制度 これは、商業地等については、固定資産税評価額の70%を課税標準額として固定資産税を算定しているが、この上限を60%から70%の範囲で、条例で定める率まで下げて固定資産税額を算定し差額を減額する制度である(地法附則21)。 また、東京都23区内の商業地等については、上限を65%に減額するとされている(都税条例附則15の2)。 なお、都市計画税についても負担調整措置があり、令和3年度の税制改正で固定資産税と同様の改正が行われている。   (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 424(掲載号)
#菅野 真美
2021/06/17

相続税の実務問答 【第60回】「相続開始の年に被相続人から贈与を受けた場合の贈与税の申告(相続又は遺贈により財産を取得する場合)」

相続税の実務問答 【第60回】 「相続開始の年に被相続人から贈与を受けた場合の贈与税の申告(相続又は遺贈により財産を取得する場合)」   税理士 梶野 研二   [答] 被相続人から相続開始の年に財産の贈与を受けた場合、その贈与を受けた人が、その被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その贈与により取得した財産の価額は、相続税の課税価格に加算され、贈与税の課税価格には算入されません。 したがって、今年の4月にお亡くなりになられたお父様からその遺産の2分の1を相続することとなったあなたが今年の2月にお父様から贈与を受けた現金300万円については、贈与税の申告をする必要はありません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 贈与税の申告義務と相続税における相続開始前3年以内の贈与加算の関係 贈与により財産を取得した者は、その年中に贈与により取得した価額の合計額から贈与税の基礎控除額を控除し、贈与税の税率を適用した結果贈与税が算出される場合(在外財産に対する贈与税額の控除(相法21の8)が適用される場合にはその控除後の金額)には、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に贈与税の申告書を納税地の税務署長に提出しなければなりません(相法28①)。 ところで、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該被相続人の相続開始の日前3年以内に当該被相続人から財産の贈与を受けた場合には、相続税法第19条第1項の規定により当該贈与財産の価額は、相続税の課税価格に加算されるとともに、当該財産の贈与に対して課された贈与税額は相続税額から控除することとされています。 一方、相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始の年に当該相続に係る被相続人から贈与により取得した財産の価額で相続税法第19条の規定により相続税の課税価格に加算されるものは、贈与税の課税価格に算入しないこととされています(相法21の2④)。 被相続人からの生前贈与については贈与税の課税価格に算入しない旨の上記の相続税法第21条の2第4項の規定(以下「贈与税の非課税規定」といいます)のポイントは次のとおりです。 (※) 贈与税の課税制度は、①暦年課税方式と②相続時精算課税方式の2つの制度があります。今回の設例は、そのうちの暦年課税方式を前提としたものです。相続時精算課税制度における特定贈与者であった被相続人から贈与を受けた財産(相続時精算課税が適用される財産)の価額については、相続税法第19条の規定は適用されませんが、相続税法第21条の15第1項及び同法第21条の16第1項の規定により相続税の課税対象とされます。 特定贈与者である被相続人からの贈与により相続時精算課税適用者が財産を取得した場合において、当該特定贈与者がその贈与をした年の中途において死亡したときは、その贈与により取得した財産の価額については、相続税法第21条の2第4項の規定は適用されませんが、贈与税の申告は提出する必要はありません(相法28④)。詳しくは、別の回で説明します。   2 ご質問の場合 あなたは、令和3年2月にお父様から300万円の贈与を受けましたので、この贈与について(このほかに令和3年中に贈与を受けた財産があれば、その価額も合計したところで)、令和4年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告を行い、算出された贈与税を納付しなければならないはずでした。 しかしながら、お父様が令和3年4月にお亡くなりになり、あなたはその相続によりお父様の財産を相続することとなりました。 したがって、あなたが、お父様の相続開始前3年以内の令和3年2月にお父様から贈与された300万円は、相続税法第19条第1項の規定により相続税の課税価格に加算されますが、相続開始の年である令和3年中に受けた贈与ですから、相続税法第21条の2第4項の規定により、贈与税の申告は必要ありません(もちろん、お父様からの贈与のほかに贈与税の基礎控除額を超える贈与を受けている場合には、その贈与については、贈与税の申告が必要です)。 (了)

#No. 424(掲載号)
#梶野 研二
2021/06/17

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第27回】「子会社を吸収合併する場合の役員報酬に関する対応」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第27回】 「子会社を吸収合併する場合の役員報酬に関する対応」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 合併における臨時改定事由の該当性 本件の事例のように、経営基盤の強化等を目的として、親会社が子会社を吸収合併するケースは多い。この場合において、親会社の役員がその担当領域における専門的知識や経験を子会社に共有すべく、子会社の役員を兼ねることは往々にしてあるため、グループ内合併においては税務上の役員給与の論点に気を払う必要がある。 この場合、特に問題となるのが臨時改定事由該当性の判断である。すなわち、上記事例において、合併が定時改定時期以外に行われ、合併後の役員報酬額を150万円とする場合に、合併法人において臨時改定事由に該当し、改定前・改定後の役員報酬額がそれぞれ定期同額給与に該当するのかという問題である。 この点、法人税法施行令69条1項1号ロでは、「臨時改定事由」を以下のように規定している。 また、下線部分の「その他これらに類するやむを得ない事情」の例示として、法人税基本通達9-2-12の3は以下のように示している。 この通達は、「合併法人と被合併法人の役員を兼任していた場合に、合併が臨時改定事由に該当するため、合併後は役員給与額を合算してよい」とダイレクトに示しているものではない。しかし、上記のような事例において、合併により子会社の事業内容が親会社に引き継がれたことを受け、当該役員が子会社で担っていた職務を引き続き担うような事情があるのであれば、臨時改定事由に該当すると判断して差し支えないと考えられる。したがって、合併を受けて役員報酬額を改定することで、改定前・改定後のそれぞれが定期同額給与に該当することとなる。 この場合、仮に、合併法人となる親会社が当該役員を対象として事前確定届出給与を支給することを予定していたとしても、合併を理由とする臨時改定事由に該当するとして、「事前確定届出給与に関する変更届出書(以下、「変更届出書」)」を提出することが可能である(法令69⑤)。さらに、被合併法人側で「事前確定届出給与に関する届出書(以下、「届出書」)」を提出し、合併法人側では提出していない場合であっても、合併後、合併法人側にて臨時改定事由に該当するとして届出書を新たに提出することも可能である(法令69④二)(※1)。 (※1) 【第17回】の解説で臨時改定事由に係る届出書提出期限を割愛したためここで触れると、多くの場合、臨時改定事由に係る届出書の提出期限は、当該臨時改定事由により事前確定届出給与に関する定めをすることを前提として、当該臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日までである(法令69④)。変更届出書についても1月という期限は同様である(法令69⑤二)。   (2) 実務上の対応 ① 日割り計算による未払計上の不可 役員報酬額については、いわゆる日割り計算は不要である。これは、役員と会社は委任関係にあり(会社法329、330)、有償の委任契約の存在により、役員が会社に報酬を求めることにある(詳細は【第10回】参照)。役員が報酬を請求するという前提に立てば、その債務が確定するのは計算期間満了時となるためであり(※2)、翻せば計算期間が満了していなければ、日割り計算が認められないこととなる。 (※2) 同旨の解説として、櫻井光照『役員の法務と税務』(大蔵財務協会、2017)291頁がある。 したがって、一方では被合併法人の7月26日~7月31日分は役員報酬を支給するべきではなく、他方では合併法人の同期間を含む計算期間の役員報酬額は増額するが同期間中の職務内容は事実上変更がないということとなる(以下②中の図表参照)。 この点、実務上、役員給与の定期同額性を保つため、被合併法人側の同期間において「支給をしない」という対応に加え、「1月分全額支給する」という便宜的な対応や解説も散見されるところである。 ② 未払計上すべき場合と留意点 上記の通り、役員報酬に日割り計算が認められない以上、日割り計算による役員報酬額の未払計上は認められない。したがって、支給日が合併の効力発生日前であるならば、最終の役員報酬として支給した後に合併を行うこととなる。翻せば、計算期間が満了し、かつ未支給である場合には、役員の手取り額を未払計上すべきである(下図)。 上記事例では給与計算締日が25日であることから、当該報酬の支給日が翌月10日である場合には計算締日までの報酬が被合併法人側で債務として確定し、損益計算書(P/L)に役員報酬として計上した上で貸借対照表(B/S)に未払計上することとなる(※3)。加えて、合併法人となる親会社は、合併により資産及び負債を受け入れるため、未払計上された被合併法人支給分の役員報酬も債務として受け入れた後に役員に支給する。すなわち、合併法人側でP/Lに計上されることはない。 (※3) 【第18回】では、資金繰りに一時的に窮した場合において未払計上する場合を取り上げている。 この場合における当該役員に8月10日に交付する給与明細は、合併法人が発行する給与明細の備考欄等に「被合併法人分」等として内訳を明記し、合併法人分と合算して支給することが一案である。被合併法人は支給日時点で法人格が消滅しており、合併法人がいわば立替払い的な支払いを行うためである。そうすることで、給与明細上は上記のように区分される一方、会計上は合併法人分のみがP/Lに役員報酬として計上され、被合併法人分はB/Sの未払勘定の取崩しとしての取扱いが明確となるため、定期同額給与への該当性について、その信憑性を担保する一助となり得るだろう。 (了)

#No. 424(掲載号)
#中尾 隼大
2021/06/17

基礎から身につく組織再編税制 【第29回】「適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱い」

基礎から身につく組織再編税制 【第29回】 「適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱い」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについて解説します。   1 適格分社型分割を行った場合の資産の受入れ(原則) 分割法人が適格分社型分割により分割承継法人にその有する資産・負債の移転をしたときは、分割直前の帳簿価額で譲渡をしたものとされるため、分割承継法人の移転資産等の取得価額は、分割直前の帳簿価額となります(法法62の3、法令123の4)。 「帳簿価額」とは、税務上の帳簿価額をいうため、税務上否認した金額も含めて受け入れることとなります(法基通12の2-1-1)。   2 適格分社型分割により受け入れた「棚卸資産」の取扱い 棚卸資産の取得価額は、次の金額の合計額となります(法令32④)。   3 適格分社型分割により受け入れた「減価償却資産」の取扱い (1) 受入価額 税務上の帳簿価額で譲渡したこととなるため、税務上否認した金額(償却超過額)を含めた帳簿価額で受け入れます。 (2) 償却限度額の計算の基礎となる取得価額 受け入れる価額とは別に、償却限度額の計算の基礎となる取得価額は、次の金額の合計額となります(法令54①五ロ)。 (3) みなし損金経理 分割法人の償却超過額は、分割承継法人において、過年度に償却費として損金経理した金額として取り扱われます。 分割法人の帳簿価額を減額して受け入れたときも、その減額部分を分割承継法人の過年度の損金経理額とみなすこととされています(法法31④⑤)。 (4) 耐用年数 耐用年数は、中古資産の耐用年数の規定を適用することができますが(耐令3①)、分割法人が中古資産の見積耐用年数によって計算していたときは、その耐用年数によることもできます(耐令3②)。   4 適格分社型分割により受け入れた「繰延資産・一括償却資産」の取扱い (1) 取得価額 減価償却資産と同様に、税務上の帳簿価額で譲渡したこととなるため、税務上否認した金額(償却超過額)を含めた帳簿価額で受け入れます。 (2) みなし損金経理 分割法人の償却超過額は、分割承継法人において、過年度に償却費として損金経理した金額として取り扱われます(法法32④⑥、法令133の2⑨)。 分割法人の帳簿価額を減額して受け入れたときも、その減額部分は分割承継法人の過年度の損金経理額とみなすこととされています(法法32⑦、法令133の2⑩)。   5 適格分社型分割により受け入れた「貸倒引当金」の取扱い 適格分社型分割により分割承継法人が貸倒引当金を分割法人から受け入れた場合は、分割承継法人の分割事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入することとなります(法法52⑪)。   6 所有期間の通算 受取配当等の益金不算入の関連法人株式等の判定、外国子会社配当益金不算入の外国子会社の判定、所得税額控除の配当元本の所有期間の計算において、分割法人が保有していた期間は分割承継法人で保有していたものとみなされます。   7 適格分社型分割により増加する「資本金等の額」 分割承継法人において適格分社型分割により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①七)。 ① 加算項目 ② 減算項目   8 適格分社型分割により増加する「利益積立金額」 適格分社型分割において、分割承継法人の利益積立金額は増加しません。   9 具体例 〈分割法人の貸借対照表〉 〔前提〕 〔分割承継法人の受入税務仕訳〕 〇資産・負債 適格分社型分割の場合は、簿価で受け入れることとなります。 〇増加する資本金等の額 移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算して計算します。 〇増加する利益積立金額 適格分社型分割の場合には、利益積立金額は増加しません。   ◆適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いのポイント◆ 原則として資産は税務上の帳簿価額で受け入れることとなります。 分割承継法人の資本金等の額は増加しますが、利益積立金額は増加しません。   (了)

#No. 424(掲載号)
#川瀬 裕太
2021/06/17

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第34回】「株主でない会社に対する譲渡」-特殊関係者に対する譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第34回】 「株主でない会社に対する譲渡」 -特殊関係者に対する譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、従来から居住の用に供してきた家屋とその土地を、C社に売却しました。 XはC社の株主ではありませんが、Xの妻の父であるWは、C社の株式の80%を所有しています。なお、XとWとは住居も生計も別です。 他の適用要件が具備されている場合、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある法人などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 本事例の場合、Xの妻の父であるWは、Xの親族(1親等の姻族)ではありますが、両者は住居も生計も別ですので、租税特別措置法施行令第26条の7第3項各号に掲げる者ではないことから、C社は法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)第2項に掲げる当該他の会社に該当しません。つまり、C社への譲渡は特殊関係者への譲渡に該当しないことから、特例の適用を受けることができます(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡した資産の譲受者に係る同様の除外規定が定められています(措法41の5の2⑦一、措令26の7の2③、法令4②・③)。 (了)

#No. 424(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/06/17

給与計算の質問箱 【第18回】「退職又は中途入社の従業員に係る個人住民税の手続き」

給与計算の質問箱 【第18回】 「退職又は中途入社の従業員に係る個人住民税の手続き」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社の給与計算の締め日は末日、支給日は翌月25日のため、5月末締めの給料を6月25日に支給します。6月25日支給の給料から天引きする住民税から新年度の住民税になるため、5月に各市区町村から届いた住民税の特別徴収税額決定通知書を確認したところ、2021年5月31日に退職した従業員であるAとBの住民税の特別徴収の納付書がありました。Aは6月1日から別の会社で働いており、Bは失業中です。また、2021年5月1日に中途入社したCの住民税の特別徴収の納付書が無いことに気づきました。 A、B、Cの6月25日支給の給料における住民税の扱いと住民税の手続きについて教えてください。 A 6月25日支給の給料における住民税の扱いと住民税の手続きは、以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 Aの場合 6月25日支給の給料から新年度の6月分の住民税を天引きし、7月分以降の住民税を転職先で特別徴収とする。又は、6月25日支給の給料から新年度の6月分の住民税を天引きせず、新年度の住民税すべてを転職先で特別徴収とすることもできる。 会社は転職先で特別徴収を継続する旨を給与所得者異動届出書に記入し、次の勤務先、又は、A経由で次の勤務先に渡す。次の勤務先は、給与所得者異動届出書をAが2021年1月1日時点で居住していた市区町村に提出する。   2 Bの場合 6月25日支給の給料から新年度の6月分の住民税を天引きし、7月分以降の住民税を普通徴収とする。又は、6月25日支給の給料から新年度の6月分の住民税を天引きせず、新年度の住民税すべてを普通徴収とすることもできる。 会社は普通徴収(Bが自ら納付)する旨を給与所得者異動届出書に記入し、Bが2021年1月1日時点で居住していた市区町村に提出する。   3 Cの場合 6月25日支給の給料からは住民税を天引きできない。会社は普通徴収から特別徴収へ切り替えるため特別徴収切替届出書及びCの自宅へ届いた普通徴収の納付書をCが2021年1月1日時点で居住していた市区町村に提出する。後日、特別徴収の納付書が会社へ届くので、7月25日支給(又は8月25日支給)の給料から住民税を天引きする。 (了)

#No. 424(掲載号)
#上前 剛
2021/06/17

新収益認識基準適用にあたっての総復習ポイント 【後編】

新収益認識基準適用にあたっての総復習ポイント 【後編】   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   新収益認識基準は、3月決算の会社においては、進行期の期首(2021年4月1日)から適用されるため、第1四半期より適用する必要がある。そこで、今回は、新収益認識基準適用にあたっての総復習として、【前編】に引き続き、【後編】として「開示」について解説する。   4 四半期決算におけるポイント (1) 表示の総復習ポイント (2) 注記の総復習ポイント 以下では参考となる注記事例を掲げる。なお、注記における下線は筆者が追記したものである。 《会計方針の変更注記の事例》 ◎会計方針の変更〔事例①〕 ◎会計方針の変更〔事例②〕 ◎会計方針の変更〔事例③〕 ◎会計方針の変更〔事例④〕 ◎会計方針の変更〔事例⑤〕 ◎会計方針の変更〔事例⑥〕 ◎会計方針の変更〔事例⑦〕 ◎会計方針の変更〔事例⑧〕 《収益認識に関する注記の事例》 ◎収益認識に関する注記〔事例①〕 ◎収益認識に関する注記〔事例②〕 ◎収益認識に関する注記〔事例③〕 ◎収益認識に関する注記〔事例④〕 ◎収益認識に関する注記〔事例⑤〕 5 年度決算におけるポイント (1) 表示の総復習ポイント ① 計算書類 ② 有価証券報告書 (2) 注記の総復習ポイント ① 計算書類 ② 有価証券報告書 ※画像をクリックすると別ページでPDFが表示されます。 以下では参考となる注記事例を掲げる。なお、注記における下線は筆者が追記したものである。 ◎重要な会計方針注記〔事例①〕 ◎重要な会計方針及び収益認識に関する注記のうち「収益を理解するための基礎となる情報」〔事例①〕 ◎重要な会計方針及び収益認識に関する注記のうち「収益を理解するための基礎となる情報」〔事例②〕 《注記事項のまとめ》   (連載了)

#No. 424(掲載号)
#西田 友洋
2021/06/17

値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~ 【第15回】「値上げを戦略的に利用する」~私たちは何に対して支払うのか~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第15回】 (最終回) 「値上げを戦略的に利用する」 ~私たちは何に対して支払うのか~   公認会計士 石王丸 香菜子   登場人物 *  *  * 当然のことですが、利益は「売上-コスト」です。売上は「価格 × 数量」、コストは「変動費 × 数量 + 固定費」ですから、利益を変動させる要因は、①価格・②数量・③変動費と固定費の3つです。 利益を増やすために、販売部門は「販売数量を増やす」ことに注力します。調達部門や製造部門は「変動費や固定費を減らす」ことに取り組みます。 これに対し、価格という要因については、企業が取るべきアクションが明確ではありません。【第2回】などで「需要の価格弾力性」という概念を取り上げましたが、価格を上げるとたいていは販売数量が減少します。また、【第10回】で見たように、価格を変動させて販売数量が増減した結果として、変動費という要因まで変動することもあります。 つまり、価格という要因を変動させると、他の要因も変動し、複数の経路で直接的・間接的に利益に影響することが、価格設定や値上げ・値下げを難問にしています。そのため、価格という要因は、企業の戦略において半ば空白地帯化していることもありそうです。 しかし、これまでの連載でたびたび取り上げてきましたが、価格という要因は利益に大きな影響を与えます。各要因が5%変動した場合の、利益に対する単純な影響を試算してみましょう。(現実的ではありませんが)価格の変動が他の要因には影響を及ぼさないと仮定します。 現実には価格を変動させると他の要因も変動してしまうので、試算通りにはいきませんが、価格という要因が、利益を増やす強力なドライバーになる可能性を秘めているのは確かです。価格という要因を空白地帯とするのはもったいないと言えそうですね。価格変動による影響の全てを把握することは困難ですが、価格設定や値上げを戦略的に利用することで、企業の利益を増やすことが可能です。 *  *  * *  *  * 一方、顧客の立場からすると、価格は、モノやサービスの対価としてその金額を支払うという意味のほかにもいろいろな意味を持っています。価格はモノの品質を示す指標として機能する一面があるほか(【第2回】参照)、ポルシェのような高級車などの場合には、高価なモノを購入することによって誇らしさを得られたり自分のステータスを示したりすることができるという一面もあるようです(こうした一面は、「ヴェブレン効果」として知られています。経済学者ヴェブレンが著書『有閑階級の理論』の中で、有閑階級が見せびらかすために高価なモノを購入する現象に着目したことが由来です)。 こうした価格の様々な性質を考えると、価格は、顧客にとっての「価値」を意味していると言えるでしょう。顧客は、モノやサービスそのものに支払うというよりも、モノやサービスを通した「価値」に対して支払うのです(ちなみに、「価格」という言葉はラテン語では「Pretium」ですが、「Pretium」は「価値」という意味も持つそうです)。そして、価格が持つこうした不思議な性質が、企業側の価格戦略を一層難しいものにしているのですね。 *  *  * *  *  * モノやサービスの価格を、需要と供給の状況に合わせて随時変動させる仕組みを「ダイナミック・プライシング」と言います。ホテルの宿泊料金や航空機のチケットなどでは以前から行われていた方法ですが、近年ではビッグデータやAIの活用によりリアルタイムで価格を上げたり下げたりすることが可能となり、様々な分野で急速な広がりを見せています。国土交通省は、2021年3月の第2次交通政策基本計画の素案において、都市鉄道等における混雑緩和を促進するため、ダイナミック・プライシング等の効果や課題について検討することを盛り込みました。 ダイナミック・プライシングは、【第7回】や【第12回】で取り上げた「価格差別」の究極形態で、企業の利益拡大につながります。ただし、ダイナミック・プライシングの場合、価格がモノやサービスの品質を示す側面は薄れるので、顧客の納得感を得られるような工夫が必要な場合もありそうです。 *  *  * *  *  * 価格設定や値上げの在り方に唯一の最適解はありませんが、顧客にとっての価値は何かを真摯に考え、戦略的に価格設定や値上げを行うことは、企業が利益を確保するための強力なドライバーになります。その際に、管理会計の考え方は役立つツールの1つとなるはずです。 *  *  * (連載了)

#No. 424(掲載号)
#石王丸 香菜子
2021/06/17

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第114回】大豊建設株式会社「外部調査委員会調査報告書(開示版)(2021年3月1日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第114回】 大豊建設株式会社 「外部調査委員会調査報告書(開示版)(2021年3月1日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【大豊建設株式会社外部調査委員会の概要】   【大豊建設株式会社の概要】 大豊建設株式会社(以下「大豊建設」又は「大豊」と略称する)は、1949(昭和24)年3月31日設立。土木建築工事業を主たる事業とする。連結売上高162,811百万円、連結経常利益8,578百万円、従業員数1,646人(いずれも修正前の2020年3月期実績)。会計監査人は有限責任あずさ監査法人。東京証券取引所1部上場。本店所在地は東京都中央区。   【調査報告書の概要】 外部調査委員会による調査の結果、水増し・架空発注によって工事原価が過大に計上されていたため、修正によって、工事進行基準における工事進捗度が影響を受け、「工事売上高」が各期において増加又は減少する。全体としては、協力業者にプールしていた金額の残高が「工事原価」の過大計上となるため、大豊建設の過年度決算は上方修正されることになった。 1 外部調査委員会設置の経緯 調査報告書によれば、大豊建設は、2020年9月24日、外部の公的機関(以下「当局」という)から調査を行う旨の通知を受け、同年10月1日に開始された調査の過程において、東北支店建築部及び大阪支店建築部が、工事下請業者に対して契約金額を水増しした発注を行い、その水増し分を同業者にプールさせた上で、別工事の工事代金に充てさせる方法で工事原価の付替えを行った疑いがある等の指摘を受けた。 大豊建設は、当局からの指摘事項について事実調査を行うことが必要であると判断し、2021年1月19日に外部調査委員会を設置し、事実解明のための調査に着手した。 なお、「外部の公的機関」が何を意味するのか、調査報告書に記載はない。 2 不正の手口 調査委員会によれば、「工事原価の付替え行為」とは、「工事下請業者に対し契約金額を水増しした発注を行ってその水増し分を同業者にプールさせた上で、大豊建設が発注する別工事の工事代金に充てさせる方法により、ある工事に計上すべき原価又は費用を他の工事の原価として計上する行為」ということである。 さらに、調査委員会は、原価付替え不正の類型を、次の5つに分類している。 調査の結果、大豊建設に10ある国内支店のうち5つの支店でいずれかの類型に該当する原価付替えが行われていたことが判明しており、不正開始時期は、東北支店による㋐の類型に係る原価付替えが2016年2月頃から行われていたということである。 3 大阪支店における私的流用 外部調査委員会による調査の結果、架空又は水増し発注で作ったプール金の一部について、大阪支店において私的流用が発覚している。 調査報告書によれば、大阪支店の作業所長及びその指示を受けた係長によって、上記類型㋒の方法により、材料納入業者に対するプールが行われ、別の工事現場における材料発注の代金に補填された一方、作業所長及び係長は、補填に使用されなかったプール金を原資として、材料納入業者に対して私物(家電製品)の購入を指示し、自宅に配送させていた。私的流用した金額は662千円であった。私的流用は、2020年12月頃に材料納入業者に指示することで行われており、作業所長自身が考え自ら実行したものであった。 私的流用を指示された材料納入業者は1社であり、その担当者の認識では、これ以前には不正行為は行われておらず、2020年12月以前から行われていたことを示す徴表は確認されなかったということである。 4 外部調査委員会による原因分析(調査報告書28ページ以下) 外部調査委員会は、不正行為の発生原因を次のとおりまとめている。 外部調査委員会は、上記「ア.コンプライアンス意識の不足・欠如」の中で、原価付替えに関して、大豊建設の内部通報制度が機能していなかった理由について、次のように分析している。 また、内部監査の問題点について、外部調査委員会は次のように指摘している。 5 前回不正事案に係る再発防止策が機能しなかった理由(調査報告書31ページ以下) 大豊建設では、2014年から2016年頃にかけて、東京支店及び大阪支店の土木工事について架空発注や水増し発注等の不正行為が行われていたことが発覚し(以下「前回不正事案」という)、2017年12月から2018年2月にかけて第三者調査委員会による調査とともに、不正行為の原因分析及び再発防止策の構築が行われた。 大豊建設は、再発防止策として、(1)コンプライアンス教育の充実、(2)取引の透明性の確保、(3)内部監査部門の強化及び(4)透明性のある人事制度の策定、を4つの大きな柱として、再発防止に取り組んだとされていたが、今般の外部調査委員会による調査の結果、これらの再発防止策は機能せず、前回不正事案と同様の会計不正が再び行われていたことが判明している。 再発防止策が機能しなかった理由について、外部調査委員会は次のように分析している。 6 再発防止のための提言(調査報告書33ページ以下) こうした原因分析を踏まえて、外部調査委員会は、詳細な再発防止策のための提言を行っている。まず、その項目を見ておきたい。 まず、調査委員会が強調しているのが、「人事ローテーション」である。まずは、人事ローテーションが行われないことのリスクについて、 として、癒着のリスクを回避して不正行為の発生を防止するために、建築部長等の支店レベルのみならず、現場レベルにおいても、地域間での定期的な異動を行うなど、適時・適切な人事ローテーションを実施すべきであるとした。さらに、前回不正事案の再発防止策が機能しなかったことについて、ここでも言及している。 次いで、「管理部門の牽制機能の強化」を見ておきたい。外部調査委員会の提言は、次のとおりである。 最後に、前回不正事案から課題となっている「内部監査機能の強化」についての提言は次のとおりである。   【調査報告書の特徴】 大豊建設が外部の調査委員会を設置するのは、2017(平成29)年12月に続いて2回目となる。前回調査は、元会長・元副社長の意向のもと、元副社長の親族が経営する協力業者に対して、裏金作りのための架空・水増し発注があったという疑念を表明した社内調査の結果を、当時の第三者委員会が打ち消し、元会長らに裏金となった資金が還流した事実は認められないとして、調査を終えていた。 今回の調査結果でも、「工事原価」の過大計上が2016年3月期第1四半期から連続していたものの、金額的影響は大きなものではなく、過年度決算の修正は行われていない。 外部調査委員会は、協力業者の関係者を含む78名に対してインタビューを行い、協力業者341社に照会書を送付して全件回答を得るなど、広範な調査を行っていることが見て取れるが、2017年12月に設置された第三者委員会の調査従事者から情報を得ているのかどうかは、調査報告書には記述がない。外部調査委員会は、前回不正事案に係る再発防止策が機能しなかった理由について分析を行っているが、第三者委員会の提言した再発防止策の趣旨が会社側にきちんと伝わらなかったのか、会社側の取り組み姿勢に問題があったのかといった観点からの分析のためには、前回不正事案の調査従事者へのインタビューも必要ではないかと考える。 1 前回の第三者委員会に対する委嘱事項に関する疑問 本連載【第70回】で指摘したとおり、前回不正事案の調査を委嘱された第三者委員会の調査目的は、次のように変化していた(連載【第70回】より再掲)。「目的」から、「再発防止策の検討・提言」という文言が削除されたことが、第三者委員会調査報告書の中で、「提言の範囲を超える」「職責を超えるおそれ」といった表現が用いられていることにつながり、詳細な「再発防止策の提言」が見送られた結果、外部調査委員会が指摘したように、前回不正事案に係る再発防止策が十分に機能しなかったという帰結を招いた面もあるかもしれない。 なお、前回不正事案に係る第三者委員会は、「社内処分」という項を設けて、 を求めていたのだが、大豊建設のリリース(「不正支出問題に関する再発防止策等のお知らせ」(平成30年3月16日付))を読む限り、どのような社内処分が行われたのかは判然としない。 2 大豊建設による再発防止策 大豊建設は、3月12日付の「外部調査委員会の調査報告書受領に伴う再発防止策等および2021年3月期第3四半期報告書の提出に関するお知らせ」の中で、外部調査委員会の提言どおりの再発防止策を公表した。(1)人事ローテーション、(2)管理部門の牽制機能強化、(3)内部監査の強化について、大豊建設が示した具体策を見ておきたい。 具体策の肝となるのは、社長直轄のコンプライアンス推進委員会を設置することであろうが、委員会を構成する推進委員の人数や職責、社内に適切な人材がいるのかどうか、外部からの人材を受け入れるのかどうかなど、設置したコンプライアンス推進委員会をどのように機能させるかについては、具体的な説明はない。 再発防止策については、以下のようにまとめられている。 大豊建設の「2020年3月期有価証券報告書」によれば、内部監査担当は3名であり、監査室は代表取締役直轄であるとのことである。 3 社内処分と代表取締役の辞任 大豊建設は、3月12日付の上記リリースの中で、社内処分について、「関与者を社内規定に基づき厳正に処分」したこととともに、以下のとおり、取締役の報酬返上を公表した。 このうち、代表取締役の3氏は、前回不正事案においても、「経営責任を明確にするため」に取締役報酬を返上している。 また、同日付の「代表取締役および役員等の異動に関するお知らせ」で、代表取締役執行役員副社長の多田氏及び中杉氏は、3月12日の取締役会において辞任し、森下氏が代表取締役に就任することが発表されている。 なお、6月29日開催予定の大豊建設「第72回定時株主総会招集通知」によれば、8名の取締役のうち、大隅氏と森下氏を除く6名と3名の監査役全員が任期満了に伴い退任して、経営陣は大幅に入れ替わることになる。 (了)

#No. 424(掲載号)
#米澤 勝
2021/06/17
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