〔疑問点を紐解く〕
インボイス制度Q&A
【第6回】
「インボイス発行事業者の氏名として公表できる範囲」
~旧氏や通称の登録・併記~
税理士 石川 幸恵
【Q】
私は結婚前の姓を名乗って、フリーランスとして働いています。国税庁ホームページ「適格請求書発行事業者公表サイト」で、氏名として結婚後の姓が公表されると、取引先1件1件に説明しなければならず、とても手間がかかるのですが、何か良い方法はありますか。
〔ポイント〕
(1) 「住民票に併記されている旧きゅう氏うじ(旧姓)」や「住民票に併記されている外国人の通称」を氏名として公表、又はこれらを氏名と併記して公表することができます。
(2) 旧氏(旧姓)は「住民票への旧氏併記」の手続きがされているものに限ります。
(3) 芸名や雅号、ペンネームなどは屋号として、氏名とは別途に登録することになると考えられます。
* * *
【A】
国税庁ホームページ「適格請求書発行事業者公表サイト」に適格請求書発行事業者として公表される氏名には、旧氏(旧姓)を登録することができます。
(1) 旧氏(旧姓)や通称の使用について
インボイスQ&Aの令和4年4月改訂版で、適格請求書発行事業者の氏名に関して、旧氏(旧姓)や通称を氏名として公表、又はこれらを氏名と併記する方法が明らかになりました(インボイスQ&A問2)。
旧氏(旧姓)は、結婚や再婚、養子縁組などにより1人が複数持っている可能性もありますが、適格請求書発行事業者の氏名として登録又は併記できる旧氏(旧姓)は、住民票への旧氏併記の手続きがされたものに限られます。
アーティストの芸名や雅号、ペンネームなどは、屋号として、氏名とは別途に登録・公表することになると考えられます。氏名を一切公表したくない場合は、法人を設立して登録するという方法が取り得ます。
(2) 手続き
① 登録の手続き
旧氏(旧姓)や通称を適格請求書発行事業者の氏名として公表又は併記するには「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出します。申出書には、住民票の写しの添付が必要です。ただし、e-Taxにより提出する場合は、添付を省略することができます(申出書の記載要領より)。
② 提出時期
「適格請求書発行事業者の登録申請書」と同時に「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出することが可能です。
③ 変更があった場合
イ 氏名の変更
結婚などにより氏名に変更があった場合は、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」を速やかに提出します。提出により、公表事項の変更は遅滞なく行われます(インボイスQ&A問23、新消法57の2⑧)
なお、個人事業者の氏名の変更については、「消費税異動届出書」や「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」の提出は必要とされていません(通法124、消法25)。
ロ 旧氏(旧姓)や通称の変更
公表している旧氏(旧姓)や通称を変更するときは、「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出します。
ハ 氏名の変更と同時に住民票への旧氏(旧姓)併記をした場合
登録事業者が結婚により姓を変更し、併せて住民票への旧氏併記の手続きをしたことで、結果として適格請求書発行事業者の公表事項に変更がない場合でも、イとロの手続きが必要なのかは明記されていません。
(3) 住民票への旧氏併記
① 住民票への旧氏併記とは?
住民票への旧氏併記とは、令和元年11月5日より新たに始まった制度で、住民票のほか、マイナンバーカード、運転免許証にも旧氏を併記することができます。旧氏として登録できるのは1つだけです(住民基本台帳法施行令30条の13、30条の14)。
② 旧氏併記の手続き
旧氏が記載された戸籍謄本等を用意して、現在居住している市区町村で手続きします。
【参考】
- 「住民票、マイナンバーカード等への旧氏の併記について」(総務省ホームページ)
- 「運転免許証への旧姓記載等の運用について(通達)」(警察庁ホームページ)
〔凡例〕
・消法・・・消費税法
・通法・・・国税通則法
・インボイスQ&A・・・消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(平成30年6月)(令和5年4月改訂)
・インボイス通達・・・消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達の制定について(法令解釈通達)
・28年改正法・・・所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)
・消費税転嫁対策特別措置法・・・消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法
(了)
「〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A」は、毎月第2週に掲載されます。