検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10382 件 / 3031 ~ 3040 件目を表示

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第97回】「節税義務なるものの正体(その3)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第97回】 「節税義務なるものの正体(その3)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   Ⅲ 税理士の商法上の商人該当性 1 商人と商行為 契約関係を前提として、税理士に節税が期待されるとした場合、一般の商人を一方当事者とする性質の役務提供行為がかかる契約に包摂されているものとみるべきなのであろうか。すなわち、ここでは、税理士の商法上の商人該当性を検討してみたい。 商法4条《定義》によると、「商人」とは、固有の商人と擬制商人に分けられるが(商法4)、「固有の商人」とは、「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」であり、「擬制商人」とは、「商行為を行うことを業としないが、店舗その他これに類する設備によって物品の販売を業とする者などで商人とみなされる者」をいう。 税理士は、「物品を販売することを業とする者」には該当しないため、「固有の商人」該当性を考える必要があろう。 そこで、「商行為」の意味するところが明らかにされねばならないが、商法上の商行為には、同法501条が規定する「絶対的商行為」と同法502条が規定する「営業的商行為」、そして、同法503条が規定する「附属的商行為」がある。これらの商行為は以下のとおりである。 ここに示された商行為を業とする者を「固有の商人」という。 ここで、附属的商行為は、そもそも「商人」が行う補助的な商行為をいうとされていることから、先決事項として「商人」該当性が肯定されなければならない。そのため、附属的商行為該当性の検討は後に回すことにしよう。 解釈の手順とすれば、税理士業が「商行為」に当たるか否かについては、税理士業が「絶対的商行為」あるいは「営業的商行為」のいずれかに該当するか否かという論点がまず整理されなければならない問題となる。 この点、商法501条に規定する「絶対的商行為」とは、次のような行為であり、行為自体に営利的性質が付着していることから、継続的な行為ではなく単発の行為であったとしても、これらに該当すれば、当然に商行為とされるものをいう。 これらの行為は税理士が行う行為とはいえまい。 では、次に、商法502条にいう営業的商行為はどうであろうか。 これら13種類の営業的商行為のいずれにも、税理士業は含まれないと解されよう。そうであるとすると、税理士は「固有の商人」に該当しないことになる。前述したとおり、「擬制商人」にも該当しないと解されるため、税理士はいずれの商人にも当たらないことになる。すると、「附属的商行為」該当性も否定されるため、結論的には、税理士は「商人」ではないし、税理士業は「商行為」に該当しないことになる。 (※) ちなみに、国税庁の解釈によれば、印紙税法上の「営業者」は、商法の規定による「商人」と「商行為」を基礎に理解されている。そうであれば、税理士は、印紙税法上の「営業者」にも該当しないことになる。「商人」が営利を目的として同種の行為を反復継続する場合には「営業」に該当することになる。 2 まとめ このように、税理士は商人ではなく、税理士業は商行為でないのである。 契約関係を前提に税理士に節税が期待されていることは前記のとおりであるが、税理士が商人でないとすると、一般の商人を一方当事者とする性質の役務提供行為がかかる契約に包摂されているものとみることは妥当ではないように思われるのである。 商人に該当しないことは単に商法の規定の適用を受けないという意味にとどまりそれ以上の意味を有するものではないとの声もあろう。しかしながら、他方で、通常の営業活動の一環として期待される信認義務などとは距離を置いた契約がそこに所在すると考えるべきではなかろうか。 税理士に対し過度の節税を期待することは、税理士法1条《税理士の使命》において「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定されていることからしても限界があるというべきであり、これまでの節税義務や節税措置義務を肯定してきた裁判例では、総じて、税理士の使命論的視角が欠落してはいなかったであろうか。 議論のあるところではあるが、ともすると、本連載(その1、その2)で提示した判決の理解などを根拠に税理士にアグレッシブな節税要求がなされるとすると、本来の税理士のあるべき立ち位置までもが脅かされるように思われるのである。そのように考えると、信認義務のようなものが税理士に課されていると考えるべきではなく、単に依頼者の期待に応えるべき注意のレベルを論じたものが「節税措置義務」と称されているものというべきではなかろうか。それは、いわば、税理士に課されている「適正申告義務」の枠内での議論であると位置づけられるべきであろう。 節税義務や節税措置義務の判決がその射程に関する意識を欠いたところで一人歩きすることは、税理士のあるべき姿という点からみて、若干の不安を覚えるところである。 (了)

#No. 427(掲載号)
#酒井 克彦
2021/07/08

金融・投資商品の税務Q&A 【Q65】「平成27年以前の割引債類似の公社債の譲渡による譲渡所得に係る取扱い」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q65】 「平成27年以前の割引債類似の公社債の譲渡による譲渡所得に係る取扱い」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 平成25年の金融所得課税の一体化に係る改正前の取扱い 従前、公社債等の譲渡による所得は、経過利子を反映したものであるとして、原則として、所得税は課されないこととされていましたが、一定の割引債等については例外的に総合課税の対象とされていました。さらに、この総合課税の対象となる公社債について譲渡損失が生じた場合には、他の所得との損益通算が認められていました。 〈総合課税の対象となる割引債等〉 また、上記②の割引債類似の公社債は、下記のものが該当することとされていました。 なお、上記の取扱いは、平成25年度税制改正における金融所得課税の一体化の導入により廃止され、平成27年12月31日までの適用とされていました。   2 東京地裁の判決を受けた、平成27年12月31日以前の割引債類似の公社債の譲渡による譲渡所得に係る対応 (1) 東京地裁における判決 東京地裁において、債券の利子の利率が一定の時期における一定の基準(為替レートなど)により変動する債券について、上記1の(エ)に記載した150%基準に該当するか否かが争われ、「150%基準にいう利率の『最も高いもの』及び『最も低いもの』に当たるのは、債券の発行条件に照らし、その発行期間においてとり得るものとされている上限利率及び下限利率であり、このような上限利率を下限利率で除して計算した割合が150%以上となる場合(下限利率が0%である場合を含む。)には、その債券は、その発行時の現況に照らして150%基準を満たす現実的可能性がおよそないと認められるような特段の事情がない限り、150%基準を充足する」と判示されました(令和3年5月20日判決)。 (2) 国税庁による取扱いの公表 国税庁では、この150%基準の判定について、これまで、「発行時点において、発行条件に定められた各利払期間の利子の利率により、その公社債の各利払期間の利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が150%以上になることが必然であるもの」として取り扱っていましたが、上記(1)の判決を受けて、これを変更することを公表しました。 国税庁が公表した取扱いの変更によると、150%基準に該当するか否かについては、判決に則して、「債券の発行条件に照らし、その発行期間においてとり得るものとされている上限利率及び下限利率を基に、その発行時の現況に照らして150%基準を満たす現実的可能性がおよそないと認められるような特段の事情がない限り、150%基準を充足するか否か」により判断することとされます。 この変更は過去に遡って適用されますので、平成27年分以前の所得税の確定申告において、割引債類似の公社債に該当しないものとして取り扱った税額計算に異動が生じることにより、所得税が過大納付となっている場合には、国税通則法の規定に基づき、その申告書の提出日から5年以内に所轄の税務署長に更正の請求をすることにより、所得税の還付を受けることが可能とされています。 なお、実際に更正の請求が可能かどうかについては、個別の状況に合わせて検討が必要です。   3 金融所得課税一体化後の取扱い 金融所得課税の一体化適用後(平成28年以降)は、公社債の譲渡による所得は、株式と同様に、株式等に係る譲渡所得等の対象となります。 (了)

#No. 427(掲載号)
#西川 真由美
2021/07/08

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第37回】「離婚に伴う財産分与とその譲渡損失」-特殊関係者に対する譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第37回】 「離婚に伴う財産分与とその譲渡損失」 -特殊関係者に対する譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q X(夫)は、離婚に伴い、7年前から家族で居住の用に供してきた居住用家屋とその敷地をY(妻)に財産分与しました。 その際、Yが長女Zを養育し、Xは、Yに対しZの養育費として毎月20万円を交付することで合意しました。Yには他に収入がなく、Yは、Xから受け取る養育費によりZと共に暮らしています。 Xが分与する土地は、現在、取得価額以下に値下がりし、時価を基にして譲渡所得を計算すると譲渡損失が発生しました。 他の適用要件を満たしている場合に、Xは当該譲渡損失について「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A Xは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある親族などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 本事例の場合、財産分与による資産の譲渡は、離婚後における譲渡であることから、XからYへの譲渡は配偶者に対する譲渡(措法41の5⑦一、措令26の7③一)には該当しません。 また、Yは、Xから交付を受けるZの養育費により生計を維持していますが、離婚に伴う財産分与、損害賠償その他これらに類するものとして受ける金銭により生計を維持していることから、租税特別措置法施行令第26条の7第3項4号に掲げる者にも該当しません(措通31の3-23(「個人から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの」の意義)後段、措通41の5-18(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用)。 したがって、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます。 なお、分与者に対しては、分与した土地家屋の時価を基にして譲渡所得課税が行われ、つまり、その譲渡価額については実勢価額(通常の取引価額)に基づき計算されます。 おって、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)

#No. 427(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/07/08

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第4回】「「適格請求書発行事業者の登録申請書」の記載に関する注意点」~提出時は課税事業者であるが、インボイス制度開始時に免税事業者となる場合~

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第4回】 「「適格請求書発行事業者の登録申請書」の記載に関する注意点」 ~提出時は課税事業者であるが、インボイス制度開始時に免税事業者となる場合~   税理士 石川 幸恵   【Q】 令和3年10月1日に資本金1,000万円で9月決算の法人を設立しました。このため設立第1期(R3.10.1-R4.9.30)及び第2期(R4.10.1-R5.9.30)は新設法人の納税義務の免除の特例により課税事業者になります(消法12の2)。このたび、基準期間や特定期間となるこれら2期の売上を予測したところ、インボイス制度のスタートと重なる第3期(R5.10.1-R6.9.30)からは免税事業者となる見込みなのですが、主な売上先は事業者なので、インボイス制度のスタート時より適格請求書発行事業者になることを考えています。適格請求書発行事業者の登録申請書の提出期限と、申請書の書き方の注意点を教えてください。 〔ポイント〕 (1) インボイス制度スタート時までの納税義務を確認する。 (2) 令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になる場合の申請書の提出期限はいつか。 (3) 申請書の提出後に令和5年10月1日の属する課税期間が免税事業者となった場合においても、令和5年10月1日以後、納税義務の免除の規定の適用はない。 *  *  * 【A】 (1) インボイス制度スタート時までの納税義務の確認 免税事業者が令和5年10月1日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受けることとなった場合には、登録を受けた日から課税事業者となる経過措置(28年改正法附則44④、インボイスQ&A問8、インボイス通達5-1、連載【第2回】もご参照ください)があります。インボイス制度スタート時の納税義務が明らかになってからでないと、この経過措置の適用を受ける必要があるかどうかわかりませんが、申請書は、インボイス制度スタート時の納税義務が明らかになる前に提出することが可能です。 質問者の方が設立する法人の設立第1期、第2期は、新設法人の納税義務の免除の特例(消法12の2)により、課税事業者です。 インボイス制度の開始と同時にスタートする第3期の納税義務は、基準期間における課税売上高(消法9)及び特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額(消法9の2)による判定となります。 次の(2)で、第3期の納税義務判定のパターンを3つに分けて、それぞれのパターンでの申請書の提出期限と申請書の書き方について見ていきます。 (注) ここでは、第1期、第2期において、調整対象固定資産や高額特定資産の取得はしていないことを前提とします。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   (2) 適格請求書発行事業者の登録申請書の提出期限 ① パターン1(設立第1期の課税売上高が1,000万円超) 設立第1期の課税売上高が1,000万円を超えた時点で、第3期は課税事業者であることが確定します。適格請求書発行事業者の登録申請書は令和5年3月31日までに提出します。申請書の記載方法は連載の【第1回】をご参照ください。 ② パターン2(設立第1期の課税売上高が1,000万円以下で、特定期間の判定により課税事業者となる) 設立第1期の課税売上高が1,000万円以下で、特定期間(令和4年10月1日から令和5年3月31日まで)の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000万円超(※1)となった場合は、第3期は課税事業者となります(消法9の2)。 (※1) 特定期間における納税義務の判定では、課税売上高又は給与等支払額の合計額のいずれで判定するかは納税者の任意で選択することができます。したがって、課税売上高又は給与等支払額の合計額の一方が1,000万円超で、他方が1,000万円以下の場合は、免税事業者又は課税事業者いずれの判断も可能です(消法9の2)。 インボイスQ&A問7には、「特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000万円を超えたことにより課税事業者となる場合の申請書の提出期限」について言及があり、提出期限は令和5年6月30日とされています。パターン2はこれに当てはまりますので、令和5年6月30日までに申請書を提出します。 (注) インボイスQ&A問7における「特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000 万円を超えたことにより課税事業者となる場合」の判定対象の課税期間が、申請書の提出時なのか、登録時(=インボイス制度のスタート時)なのか、Q&Aからは、はっきり読み取れません。本稿では、登録時についての判定と捉えております。 申請書の記載方法はパターン1と同じですので、連載の【第1回】をご参照ください。 ③ パターン3(第3期は免税事業者) 設立第1期の課税売上高が1,000万円以下で、特定期間(令和4年10月1日から令和5年3月31日まで)の課税売上高又は給与等支払額の合計額(※2)が1,000万円以下となった場合は、第3期は免税事業者となります。 (※2) 特定期間における納税義務の判定では、課税売上高又は給与等支払額の合計額のいずれで判定するかは納税者の任意で選択することができます。したがって、課税売上高又は給与等支払額の合計額の一方が1,000万円超で、他方が1,000万円以下の場合は、免税事業者又は課税事業者いずれの判断も可能です(消法9の2)。 特定期間の課税売上高の算定には、3月中の売掛金の集計も必要となりますので、本来の提出期限である令和5年3月31日までに登録申請書を提出することは難しいかもしれません。また、インボイスQ&A問7の「特定期間の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000万円を超えたことにより課税事業者となる場合」にも当てはまりませんので、提出期限が令和5年6月30日になることもないと考えられます。 このような場合は、令和5年3月31日までに提出できなかったことにつき困難な事情がある場合に該当すると考えられます。困難な事情がある場合は、登録申請書の提出は令和5年9月30日まで可能です。申請書に困難な事情を記載する必要がありますが、その困難の度合いは問われません(インボイスQ&A問7)。   (3) パターン3の場合の申請書記載の注意点 申請書の表面の事業者区分の「課税事業者」の にレ印を付します。次葉の「免税事業者の確認」欄にチェックがなくとも経過措置が適用されることとなります。 (3) パターン3の場合の申請書記載の注意点 第3期は納税義務の判定上、免税事業者ですが、経過措置を受けて期首から課税事業者になればよいと考えられます。ここで注意していただきたいのが、適格請求書発行事業者の登録申請書の記載です。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ① 想定される誤り 適格請求書発行事業者の登録申請書の表面の事業者区分には、「この申請書を提出する時点において、該当する事業者の区分に応じ にレ印を付してください」という指示があります。パターン3の場合、申請書を提出すると考えられる令和5年9月30日までの課税期間(第2期)は課税事業者ですから、「課税事業者」にレ印を付すこととなります。 次にこの枠内の※印のまた書き以降を読むと、「また、免税事業者に該当する場合には、次葉「免税事業者の確認」欄も記載してください(詳しくは記載要領等をご確認ください。)」と指示があります。パターン3は、申請書の提出時は「免税事業者」には該当していませんので、指示だけに従うと「免税事業者の確認」欄をすり抜けてしまう恐れがあります。 なお、本稿執筆時点で記載要領等は公開されていませんので、注意喚起があるのかどうかは不明です。 ② 「免税事業者の確認」欄も漏れなく記載 「免税事業者の確認」欄に経過措置を受ける旨のチェックがあります。このパターン3の場合は、「課税事業者」にレ印を付し、かつ次葉の「免税事業者の確認」欄の「令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受け、所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第44条第4項の規定の適用を受けようとする事業者」にレ印を付す必要があると考えられます。 ③ 経過措置を受ける旨のチェックが漏れたら? パターン3のような場合も含め、経過措置の適用を希望する事業者が、経過措置を受ける旨のチェックの漏れた申請書を提出した場合、どのような取扱いになるのでしょうか。 インボイス制度は、これまで納税事務負担を考慮して納税義務が免除されていた事業者にも広く影響のある制度です。登録番号が通知され、登録日が令和5年10月1日となっていれば、登録日から課税事業者となるというような柔軟な取扱いがあるかもしれません。   (4) 適格請求書発行事業者の登録申請書の記載要領について 先般公表された「適格請求書発行事業者の登録申請書の記載要領」には、「申請書の提出後に令和5年10月1日の属する課税期間に免税事業者となった場合においても、経過措置により令和5年10月1日以後は納税義務の免除の規定の適用はない」とされています。 このことより、申請書の提出前に、令和5年10月1日の属する課税期間について判定することは求められていないものと推察されます。結果として、令和5年10月1日を含む課税期間の納税義務の有無が明らかになっていなくても、申請書の提出は可能と考えられます。 〈適格請求書発行事業者の登録申請書の記載要領〉 つまり、質問者のようにインボイス制度のスタート時より適格請求書発行事業者になりたい場合には、令和5年10月1日を含む課税期間の納税義務の有無に関わらず、令和5年3月31日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出すればよいと考えられます。 (了)

#No. 427(掲載号)
#石川 幸恵
2021/07/08

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第31回】「複数後継者、資産保有型会社等の場合の事業承継税制」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第31回】 「複数後継者、資産保有型会社等の場合の事業承継税制」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) シニアマネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一   相談内容 私は不動産賃貸業等を行うA社の代表取締役社長です。先代からA社株式の70%を相続しています。なお、30%は取締役副社長である私の弟Zが所有しています。A社の財政状態は下記の通り健全です。 なお、私には一人娘Xがおり、娘の夫Yを私の養子としています。Yは取締役として、Xも従業員としてA社を支えてくれており、将来は2人に会社を任せたいと考えています。 今年、私は70歳になるので、そろそろY及び実の娘であるXにA社株式を贈与し会社を引退したいと考えています。ただ、株式の贈与にあたり、贈与税が高いことが悩みの種です。 そんな中、事業承継税制という制度があることを知り、利用したいと考えています。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 事業承継税制の概要 従来から事業承継税制はありましたが、平成30年度税制改正において「事業承継税制の特例」が創設されました。「事業承継税制の特例」は一定の要件のもと、相続税・贈与税の納税が猶予及び免除される時限措置(2027年12月31日までの相続又は贈与が対象)です。 《「事業承継税制の特例」の概要》   [2] 複数後継者の留意点 特例措置においては最大3人までの後継者に承継が可能ですが、下記の要件を満たす必要があります。 本件では、後継者は2名(X及びY)です。Xは取締役ですが、Yは従業員であるため3年以上役員とする必要があります。また、贈与の時においてX及びYともに会社代表権を有する必要があります。 議決権割合についても注意が必要です。上述の〔同族内筆頭要件〕にてX及びYの議決権割合がZ(同族関係者)の議決権割合30%を上回る必要があります。 なお、複数の後継者が先代経営者1人から贈与を受ける場合は、同一年中に贈与を受けなければ特例制度の適用を受けることができません。   [3] 資産保有型会社及び資産運用型会社の制限 承継会社が資産保有型会社及び資産運用型会社(以下「資産保有型会社等」)の場合、原則として事業承継税制を適用できません。本件の場合、A社は資産保有型会社等に該当します。 (※1) 剰余金配当等一定の調整が必要。 (※2) 特定資産は以下のとおり。 ➤有価証券等 ➤現に自ら使用していない不動産 ➤ゴルフ会員権等 ➤絵画、貴金属等 ➤現預金その他これらに類する資産 ただし、資産保有型会社等であっても、次の全ての要件を満たす事業実態のある会社は、事業承継税制の対象となる資産保有型会社等に該当します。適用に当たってA社は以下の要件全てに該当する必要があります。またその疎明資料は下記の通りです。   [4] 退職金の支払いと相続時精算課税の適用 事業承継税制には期限確定事由があり、この事由に該当する場合、事業承継税制を適用しなかった場合に払うべきであった贈与税及び利子税の支払いが必要となります。 したがって、事業承継税制を適用する際は、当該リスクに対応するため株価対策及び相続時精算課税適用の検討が必要となります。 株価対策としては、先代経営者への退職金の支払いによる評価下げが考えられますが、事業承継税制では先代経営者(贈与者)が代表権のない役員の辞任をすることまでは求められていない一方、法人税法上、役員退職金を損金とするためには実態として先代経営者(贈与者)が退任している必要があります。 また、相続時精算課税を適用することにより、暦年贈与課税の税率が最大55%であるのに対して、相続時精算課税(※3)の税率は20%であり、贈与する株式の株価が高い場合、期限確定事由となった場合の贈与税及び利子税のリスク金額を抑えることができます。 (※3) 相続時精算課税を適用する場合は、贈与税申告書等を税務署へ提出する際「相続時精算課税選択届出書」の提出を失念しないように留意が必要です。   [5] 贈与後の手続 贈与後の手続としては、次のとおりです。 これらの届出書等は添付書類も多いため、事前に準備しておくことが必要です。   [6] 結論 「事業承継税制の特例」の概要・手続を理解した上で、この制度を利用するということであれば、おおよそ以下の手順で進めることになります。 (※4) 贈与後の手続については、上記「[5] 贈与後の手続」を参照。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 427(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2021/07/08

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第3回】「再調査の請求(異議申立て)制度の基礎知識」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第3回】 「再調査の請求(異議申立て)制度の基礎知識」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 再調査の請求とは 再調査の請求は、税務署長などが行った更正・決定や差押えなどの処分に不服がある納税者が、審査請求をする前に自ら選択して、当該処分を行った税務署長などに対して、処分の取消しや変更を求めて不服を申し立てる制度である。 平成28年4月1日以後の処分に係るものが対象であり、その前日以前の処分に係るものについては「異議申立て」というが、後者よりも不服申立期間の延長など若干の権利の拡充が図られている。   2 再調査の請求書 (1) 法定様式はない 再調査の請求は、以下に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。 また、不服申立期間(処分があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内)の経過後に請求する場合には、その正当な理由も併せて記載しなければならない。 (出所) 国税庁ホームページ 再調査審理庁(原処分をした税務署・国税局)には上記の様式が備置されているが、これは法定様式ではなく、前述の記載事項が記載された書面であれば足りる(弁護士代理人が訴状を参考にして作成することもある)し、例えば、表題が「嘆願書」「異議申立書」等となっていても、内容からして実質的に再調査の請求書と認められるものであれば、再調査の請求書として取り扱われる。 しかし、上記の様式に従って記載する方が、不備による補正の可能性が減少することは言うまでもない。 (2) 原処分の対象に係るよくある補正事項 (3) 請求の趣旨に係るよくある補正事項 「⑪再調査の請求の趣旨」とは、取消しを求める範囲を特定することである。 例えば、重加算税の取消しを求める場合において、重加算税は過少申告加算税に代えて賦課される性質があるところ、過少申告加算税の取消しまでは求めていない(例えば、過少申告加算税が課されない「正当な理由」がある旨の主張をしない)ときには、「1:全部取消し」ではなく「2:一部取消し」を選択し、下部の記載欄に「過少申告加算税を超える部分の重加算税の取消し」などと記載することになる。 (4) 「再調査の請求の理由」の記載 争点が単純であれば上記の様式の行数に収まるように簡記してもよいが、詳細な事実関係等を記載したい場合には、「別紙参照」と記載して適宜の用紙を添付するのがよい。 肝要なのは、その課税される要件(又は軽減措置のような課税されない要件)である「課税等要件の充足・不充足」を意識して記載することである。 また、原処分通知書には処分の理由が(詳細の程度はともかく)記載されているはずであり、原処分庁による法令解釈や事実認定の非違を指摘することを意識して記載すべきであろう。 (5) 「計数的に説明する資料」の提出 更正処分・決定処分等の立証責任は原処分庁が負担するのが通常である。 しかし、例えば、以下の争いについては、立証責任が納税者側にあるとされている。 また、原処分庁が立証責任を負担するといっても、納税者しか知り得ない(納税者がもっとも事実に迫ることができる)事項については、納税者が積極的に主張した方が、自己に有利な判断を手繰り寄せることにつながるため、自己の主張を裏付ける資料(証拠書類又は証拠物)については積極的に提出することが望ましいし、それを提出しない(できない)となると、判断権者に「納税者はこう主張するが、後付けで話を作っているだけではないか」という心証を抱かせることにもなりかねない。   3 標準審理期間 (1) 標準審理期間は「3ヶ月」 平成26年6月に、行政不服審査法について抜本的な改正が行われるとともに、これに併せて国税通則法における国税不服申立制度についても所要の改正が行われた。 この改正を契機として、国税局長又は税務署長は、再調査の請求書が到達してから再調査の決定をするまでに通常要すべき標準的な期間である「標準審理期間」を3ヶ月と定めた。 この「3ヶ月」という標準審理期間は、再調査の請求に係る審理期間の目安として定められたものであり、標準審理期間内に再調査の決定をする義務を定めたものではない。 そうはいうものの、再調査の請求における3ヶ月以内の処理件数割合については毎年度の開示が要求されることから、余程の複雑な事案でない限り、上記期間内で処理されることになる。 (2) 最近の3ヶ月以内の処理件数割合 令和2年度における再調査の請求の3ヶ月以内の処理件数割合は99.9%であるが、これは新型コロナウイルス感染症等の影響を除外した数値であり、当該影響を含めた同割合は87.9%(令和元年度は91.1%)となっている。 ちなみに、新型コロナウイルス感染症の影響がなかった平成30年度と平成29年度の3ヶ月以内の処理件数割合はそれぞれ99.5%、96.6%であり、平成28年度以前の推移を辿っても概ね95%以上の割合で処理されている。   4 「3ヶ月」で再調査審理庁がしなければならないこと (1) 対審構造の簡易化 後の回で解説する予定の国税不服審判所長に対する審査請求における標準審理期間は「1年」であることからすると、再調査の請求の審理手続が、審査請求やその後の訴訟に比較して迅速なものであると言える。 しかし、その迅速性の犠牲として、納税者に認められた手続が限定的であるとも言える。 具体的には、納税者と原処分庁との対審構造の完成度が、訴訟、審査請求、再調査の請求の順に緩くなることを意味する。 (2) 担当者のタイトな日程管理 上記のような事情から、再調査の請求の審理期間である「3ヶ月」の間に再調査審理庁が実施することは、以下の内容で精一杯といったところであろう。 良かれ悪しかれ「組織」で動くため、その意思決定に所要の時間を費消し、窓口担当者である所轄税務署の各課税第1部門所属の不服申立担当調査官は、日程管理にやきもきすることが多い。 これに、国税通則法において納税者に認められている口頭意見陳述の申立てが入ると、更に日程が窮屈になる。   5 再調査の請求の取消し基準 【第2回】で解説したように、再調査の請求を審理する担当者は、たとえ同じ税務署所属の職員であっても、当初の税務調査を担当した調査官とは異なる職員によって行われることになり、当初の税務調査による処分を取り消すか否かの判断基準は、その処分を維持した場合に、その後工程に位置する国税不服審判所が自分達の判断に与くみしてくれるか否かの心証に懸かっている。 仮に、審査請求において処分が取り消される可能性が高いと判断すれば、審査請求の前段階に位置する再調査の請求において事前に取り消しておかねばならない(取消裁決の事績が残ることによって将来の税務調査の足枷を設けたくない)という思考が働く。 また、再調査決定において原処分を維持する場合には、その維持される処分を正当とする理由を再調査決定書において明らかにしなければならないこともあり、当初の税務調査による横車を押し通せないと判断した場合は取消しの判断に傾くことが期待できる。 (了)

#No. 427(掲載号)
#大橋 誠一
2021/07/08

令和3年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第3回】「連結欠損金の控除上限の特例の創設」

令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第3回】 「連結欠損金の控除上限の特例の創設」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [3] 連結欠損金の控除上限の特例の創設 連結納税制度においても、コロナ禍の厳しい経営環境の中、赤字であっても果敢に前向きな投資(カーボンニュートラル、DX、事業再構築・再編等)を行う大企業の連結グループに対し、コロナ禍の影響を受けた2年間に生じた連結欠損金額について、その投資額の範囲内で、最大5年間、連結欠損金の控除限度額を最大100%とする特例を創設している。 具体的には以下の取扱いとなる(新措法68の96の2、新措令39の121の4)。   (了)

#No. 427(掲載号)
#足立 好幸
2021/07/08

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第57回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第57回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   8 法人税法22条の2第7項 法人税法22条の2第7項は次のとおり、政令への委任規定である。 この委任規定を受けて、法人税法施行令18条の2が定められている。以下では、この政令の内容を検討する。 (1) 収益認識会計基準への対応 収益認識会計基準では、契約において、顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積もる(基準50)。 変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分をいう。例えば、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や、返品権付きの販売等がこれに該当する(基準50、指針23)。 変動対価の額の見積りに当たっては、最頻値法又は期待値法のうち、企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いる(基準51)。 かように、収益認識会計基準では、値引き、リベート、返金、インセンティブの取決めがある又は返品権が付されているなど契約上の対価について変動する可能性のある部分を織り込んで取引価格を算定する。よって、契約上の対価の額と会計上の取引価格が一致しない場合がありうる。 上記に従って見積もられた変動対価の額については、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含める(基準54)。 見積もった取引価格について、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される時点まで何もしなくていいというわけではない。見積もった取引価格は、各決算日に見直す必要がある。見直しによって、取引価格が変動する場合には、収益認識会計基準74項から76項の定めを適用することになる(基準55)。 例えば、同基準74項では、取引価格の事後的な変動については、契約における取引開始日後の独立販売価格の変動を考慮せず、契約における取引開始日と同じ基礎により契約における履行義務に配分すること及び取引価格の事後的な変動のうち、既に充足した履行義務に配分された額については、取引価格が変動した期の収益の額を修正することが定められている。 かように収益認識会計基準において取引価格の事後的な変動と収益の額の事後的な修正に関する定めが用意されていることを受けてであろう、資産の販売等に係る収益の額につき修正の経理をした場合等の処理に関するルールが法人税法施行令18条の2に設けられている。 収益認識会計基準を適用すると、企業会計の処理において、変動対価を見積もった取引価格を各決算日に見直し、取引価格が変動する場合には収益の額の修正等を行うというのであるから、場合によっては、変動対価の額が確定していないにもかかわらず、その修正の経理が行われうる。 かような修正経理に関して、法人税法の観点からすると、収益計上を行った事業年度に遡及して修正処理しないのか、変動対価の額が確定するまで益金又は損金に算入しないような処理をすべきか、といった疑問が出てくる。 以下においては、この点について、法人税法はどのような態度で臨んでいるのかという視点をもつことが理解の助けとなる。   (了)

#No. 427(掲載号)
#泉 絢也
2021/07/08

収益認識会計基準を学ぶ 【第8回】「履行義務の識別③」

収益認識会計基準を学ぶ 【第8回】 「履行義務の識別③」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第6回】及び【第7回】に引き続き、「履行義務の識別」について解説する。 今回(第8回)は、「一連の別個の財又はサービス」に関する履行義務の識別について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 履行義務の識別 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する(収益認識会計基準7項、32項)。   Ⅲ 一連の別個の財又はサービス 1 概要 前述のように、収益認識会計基準では、履行義務として、「②一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)」を規定している(収益認識会計基準7項(2)、32項(2))。 「一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)」の定めは、特性が実質的に同じ複数の別個の財又はサービスを提供する場合に、当該複数の別個の財又はサービスを「単一の履行義務として識別する」ものである(収益認識会計基準128項)。 一連の別個の財又はサービスの例として、「清掃サービス契約」のように、同質のサービスが反復的に提供される契約等に適用できる場合があるとされている(収益認識会計基準128項)。 2 要件 収益認識会計基準32項における「一連の別個の財又はサービス」は、次の①及び②の要件のいずれも満たす場合には、顧客への移転のパターンが同じであるものとする(収益認識会計基準33項)。 3 収益認識会計基準38項の要件 収益認識会計基準38項は、次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配を顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識すると規定している(収益認識会計基準38項、134項~138項)。 4 収益認識会計基準41項及び42項の要件 収益認識会計基準41項及び42項は履行義務の充足に係る進捗度に関する規定である。 一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積もり、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識する(収益認識会計基準41項)。 一定の期間にわたり充足される履行義務については、単一の方法で履行義務の充足に係る進捗度を見積もり、類似の履行義務及び状況に首尾一貫した方法を適用する(収益認識会計基準42項)。 完全な履行義務の充足に向けて財又はサービスに対する支配を顧客に移転する際の企業の履行を描写する進捗度(履行義務の充足に係る進捗度)の適切な見積り(収益認識会計基準41項)には次の方法があり、財又はサービスの性質を考慮して、その方法を決定する(収益認識適用指針15項)。   (了)

#No. 427(掲載号)
#阿部 光成
2021/07/08

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第16回】「ワクチンハラスメントに関する注意点」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第16回】 「ワクチンハラスメントに関する注意点」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社において、新型コロナウイルスのワクチンの職域接種を実施することになりましたが、ワクチンハラスメントとの関係でどのような点に注意すべきでしょうか。 【Answer】 主に、従業員に対してワクチン接種を強要しないことと、従業員のワクチン接種に関する情報を適切に管理することが重要になります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 ワクチンハラスメントとは 昨今、我が国においても新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでおり、職域接種も始まっている。そこで、本稿においては、いわゆるワクチンハラスメントに関する注意点について、職域接種の場面も踏まえつつ、論ずるものとする。 ワクチンハラスメントとは、新型コロナウイルスのワクチンの予防接種を強要されたり、接種を受けたこと・受けなかったことについて不当な取扱いや嫌がらせ等を受けたりすることを指す。 ワクチンハラスメントとの関係で、会社が法的責任を負わないために気をつけるべき主なポイントは、①従業員に対してワクチン接種を強要しないこと、及び、②従業員のワクチン接種に関する情報を適切に管理することの2点である。①については、接種を強要すること自体に問題があるうえに、接種を強要された従業員に健康問題が発生した場合等に会社の責任となり得るし、②については、従業員のワクチン接種に関する情報の管理を誤ると、従業員に対する事実上のワクチン接種の強要に繋がったり、ワクチンを接種していない従業員に対する他の従業員からのハラスメントを引き起こす可能性が生じ、それらについて会社の責任となる可能性がある。   2 ワクチン接種を強要しないための注意点 新型コロナウイルスのワクチンの予防接種には、まれにではあるが、重大な副反応(アナフィラキシー(急性のアレルギー反応)等)が現れることがあると言われており、国や会社が接種を強制できるものではない。予防接種法は新型コロナウイルスのワクチン等の「予防接種を受ける努力義務」を定めるが、「努力義務」とは目的実現のため、心身を労して努めることをもって義務を達成したことになるものであり、接種を受けるか否かはあくまで個人の判断に委ねられている(厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」等参照)。 よって、会社は従業員の同意がなければワクチンの予防接種を受けさせることはできないが、労使関係においては、労働者の同意という形をとっていても、実際は使用者の圧力により同意させられたという場合があり得ることから、労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由がなければ同意が否定される可能性があると思われる。 したがって、従業員に対して、予防接種を受けるか否かは個人の自由であること、接種を受けたことないし受けなかったことが人事評価等において不利に考慮されないことなどを説明するべきであるし、逆に、懲戒処分の対象になるとか、人事評価等において不利に考慮されるなどと示唆する場合には、仮に形式上従業員の同意を得たとしても、事実上接種を強要しているものであり、当該従業員の自由な意思に基づいてなされたと認めるに足りる合理的理由はないと評価される可能性が高い。 一方、会社は、従業員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うことから、会社としては、1人でも多くの従業員にワクチンの予防接種を受けてほしいと思うところであろう。この点、従業員に対して接種を促すことは可能だが、不当な心理的圧力を与えてその自由な意思形成を阻害する場合には、接種の強要になってしまう。どの程度の「勧奨」であれば「強要」に当たらないかについては、退職勧奨と退職強要の判断基準が参考になる。すなわち、従業員が接種を受けない意思を明示した場合であっても、接種を受ける場合のメリットとリスクを丁寧に説明して接種を促すことは不当な心理的な圧力にはならないであろう(拙稿第11回参照)。   3 ワクチン接種に関する情報管理における注意点 新型コロナウイルスのワクチンの接種を受けたか否かは個人情報に該当する。よって、その取得に際しては、原則として、利用目的を特定して公表又は通知等をする必要がある(個人情報保護法第18条第1項、第2項)。また、個人データ(個人情報を検索できる形で体系的に構成したもの)を第三者に提供するに際しては、原則として予め本人の同意が必要となる(同法第23条第1項)。ここで言う「第三者」には自社は含まれないため、個人情報保護法上、ワクチン接種の情報を社内で共有すること自体については本人の同意は不要であるが、プライバシーの観点からの配慮が必要となる。 このように、ワクチンの予防接種歴については個人情報保護法やプライバシーの観点から慎重な取扱いが求められるわけだが、加えて、上記のとおり、ワクチン予防接種に関する情報が漏洩することにより、他の従業員によるハラスメントに繋がったり、当該従業員が他の従業員からのハラスメントをおそれてワクチンを接種せざるを得ない心理状態に追い込まれ、事実上接種を強要されることに繋がりかねないという問題がある。 よって、従業員のワクチン接種に関する情報管理は極めて重要となるが、特に職域接種を実施する場合、実施や運営の方法によっては、誰が接種を受けたか(すなわち誰が受けなかったか)が他の従業員に知られてしまうとの懸念を耳にする(例えば、小規模な企業や部署単位で職域接種を実施する場合、接種会場にいるかいないかで接種を受けたか否かが知れてしまう場合がある)。就業時間中に職域接種を行う場合は、複数の接種日を設定したり、同日に行う場合は時間帯をずらすなどして、接種の有無を極力知られないようにすることが重要である。 また、イントラネット等により従業員のスケジュールを共有している会社においては、接種の予定をイントラネット等に登録させないなどの配慮を行うべきである。 なお、上記2及び3については、文部科学省・厚生労働省の令和3年6月22日付の「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種を生徒に対して集団で実施することについての考え方及び留意点等について」が参考になる。   (参考) 新型コロナウイルス感染症に係る予防接種を生徒に対して集団で実施することについての考え方及び留意点等について(抜粋) (注1) 同文書は「中学校、義務教育学校後期課程、高等学校、中等教育学校、特別支援学校の中等部及び高等部並びに専修学校高等課程の生徒がワクチン接種を受ける場合を想定したもの」である。 (注2) また、同文書は、学校集団接種について、「その実施方法によっては、保護者への説明の機会が乏しくなる、接種への個々の意向が必ずしも尊重されず同調圧力を生みがちである」等の理由により、現時点で推奨するものではないとしている。 (了)

#No. 427(掲載号)
#柳田 忍
2021/07/08
#