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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第45回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第45回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   16 暗号資産の損失と立証責任 暗号資産の取引に係る所得を申告に含めていなかったとして、所得税等と過少申告加算税の課税処分を受けた納税者が、取引所を介していない個人間取引や海外取引所における取引において生じた損失があると主張して処分を争った国税不服審判所令和5年6月15日裁決(裁決事例集未登載・高裁(所)令4第13号)を確認する。 (1) 事案の概要 原処分庁は、請求人(個人である納税者)が、平成29年分及び平成30年分の所得税について、暗号資産の取引に係る所得を申告に含めていなかったとして、所得税及び復興特別所得税の各更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分を行った。 これに対して、請求人は、原処分庁が算定した暗号資産取引に係る雑所得の金額に誤りがあるとして、原処分の全部の取消しを求めた。 (2) 基礎事実 (3) 争点 原処分庁が算定した各年分の暗号資産取引に係る雑所得の金額に誤りがあるか否か。 (4) 争点についての当事者の主張 請求人は、本件各年分の暗号資産に係る雑所得の金額は、国内の暗号資産取引所を介した取引(以下「国内取引所取引」という)では利益が出たが、個人間取引で多額の損失が出ており、原処分庁が算定した各年分の暗号資産取引に係る雑所得の金額に誤りがある旨を主張している。 これに対して、原処分庁は、本件各年分の暗号資産に係る雑所得の金額は、国内取引所取引に係るもののみであり、本件各更正処分の額と同額である旨主張している。 ア 国内取引所取引について イ 個人間取引について ウ 海外取引について エ 立証責任について   (了)

#No. 574(掲載号)
#泉 絢也
2024/06/20

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第48回】「日本圧着端子事件(高判平22.1.27)(その1)」~国税通則法77条1項及び2項、104条2項、租税特別措置法66条の4、同施行令39条の12~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第48回】 「日本圧着端子事件 (高判平22.1.27)(その1)」 ~国税通則法77条1項及び2項、104条2項、租税特別措置法66条の4、同施行令39条の12~   税理士 青木 幹     1 更正処分の対象事業年度・裁決及び一審の時系列 南税務署長が平成11年5月31日付けでした第一次更正処分について、納税者は不服申立期間に不服申立てをしなかった。さらに南税務署長は、平成12年6月28日付けで下記各事業年度についての第二次更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定をした。納税者はこれを不服として、平成16年7月5日付けの国税不服審判所の裁決(※1)及び大阪地方裁判所の一審判決(※2)を経て、大阪高等裁判所に控訴したものである。 (※1) TAINSコード:F0-2-228、大裁(法)平16第2号。国税不服審判所では、第一次更正処分と第二次更正処分について、国税通則法104条2項により併せて審理された。 (※2) TAINSコード:Z258-10989、大阪地方裁判所平成16年(行ウ)第152号ないし第155号 更正処分の対象となった各事業年度は以下のとおりである。   2 事案の概要 控訴人(以下「A社」という)である日本圧着端子製造株式会社は、1957年に設立され、圧着端子、圧着接続子、各種コネクタなど、多種多品目の電気回路用の圧着端子・圧着接続子及び電気回路及び電子回路用のコネクタの製造卸販売を行っている会社である。 A社は、第一次更正処分については不服申立てをしておらず、不服申立期間を徒過している。しかし、国税不服審判所で第二次更正処分に対する審判において、第一次更正処分についても併合審理(※3)が行われたため、納税者は第一次更正処分についても不服申立ての前置等(※4)の要件を満たしていると主張して争ったが、判決において当該主張は認められなかった。この点については、移転価格税制とは別の問題であり、今回は検討しない。 (※3) 国税通則法104条2項 (※4) 国税通則法115条 本題の移転価格税制に戻ると、A社のシンガポールにある100%子会社(J.S.T. COMPONENTS(S)PTE. LTD. 以下「B社」という) 及び香港にある100%子会社(J.S.T.(H.K.)CO., LTD. 以下「C社」という)とA社との取引価格について、租税特別措置法66条の4に定める移転価格税制を適用して南税務署長が行った第二次更正処分の取消しを求めた事案である。 A社は、B社及びC社(B社及びC社はいずれも商社)に、圧着端子及び圧着接続子、コネクタ類を輸出販売しているが、その価格は工場仕切価格(原価)を0.909で除した金額、すなわち、約10%の利益を加算した金額であった。課税庁は、内部コンパラブルとして、非関連者である台湾法人グループ6社(D社、E社、F社、G社、H社、I社)(※5)の取引を選定し、台湾法人グループの平均で原価基準法を適用して独立企業間価格を算定して移転価格否認の更正処分をした。 (※5) 太田洋=手塚崇史「日本圧着端子移転価格課税事件」(国際税務Vol. 29 No.10)76頁以下によると、台湾法人グループ6社は、Tokutsu Terminal Co., Ltd.(原告(A社)との取引は平成9年3月期~平成11年3月期)、Masamichi Electronics Co., Ltd.(原告との取引は、平成8年3月期、平成9年3月期、平成11年3月期)、Huei Tong Terminal Co., Ltd. (原告との取引は平成8年3月期~平成10年3月期)、Gero Chang Co., Ltd.(原告との取引は、平成8年3月期、平成9年3月期)、J.S.T. Taiwan Co., Ltd.(平成10年3月期、平成11年3月期)、Chia Soon Electronics Co., Ltd.(原告との取引は、平成8年3月期~平成11年3月期)であるとされている。   3 争点と裁判所の判断 (1) 比較対象取引 ① 比較対象取引は単独か複数をまとめたものか 納税者は、租税特別措置法施行令39条の12第7項にいう「非関連者」は単独の法人又は事業者を想定しており、複数と解してよいとの判断も法文上の根拠がない。原価基準法における比較対象取引との差異調整も、調整事項が錯綜し、混濁し、調整すべき事項の存否、内容が不明確になり、内容検討が事実上不可能になる。また、税務当局が都合の良いように取引先を組み合わせることが容易になり公平・公正な移転価格税制の適用ができなくなると主張する。 裁判所は、租税特別措置法施行令39条の12第7項にいう「非関連者」が単独法人又は事業者を想定していると解さなければならない法文上の根拠は見当たらないと判示する。独立企業間価格の算定を単独の非関連者の取引を基にするか、複数の非関連者との取引を一体として行うかは、いずれが合理的であるかの問題にすぎず、原判決が説示しているとおり、複数の非関連者をまとめて比較対象取引の相手方とすることで各法人ないし事業者に存在する差異が相殺されて利益率が平準化され、より適切に行うことが想定されるのであって、合理性があり、公平・公正な移転価格税制の趣旨にも何ら反するものではないとして、納税者の主張を退けている。 ② 販売代理店契約書と本体価格表による判定 納税者が締結した販売代理店契約は、台湾法人グループに対して販売手数料の支払を約することを定めただけのものである旨の納税者の主張に対して、裁判所は、本件販売代理店契約は台湾法人グループ各社に独占的に販売権限を付与する販売代理店契約として有効に成立しているものと認められ、納税者の主張は失当である旨判示している。 販売代理店契約は、台湾法人グループ各社を台湾における独占的な販売代理店として指定した上で、取扱商品を裸圧着端子及びその他電子コネクタ製品とし、製品合計につきその購入額を定めただけで、その取引規模や各社が商社かハーネスメーカーかにかかわらず、台湾法人グループ各社との間で、本件販売代理店契約及びこれに基づくほぼ同一内容の本体価格表に基づいて取引を行っていたことに照らすと、独立企業間価格の算定に当たって、台湾法人グループ各社間に存在する差異を重視するのは相当ではなく、むしろ台湾法人グループを一体として比較対象取引とすることが、差異が相殺されて利益率が平準化され、より適切な比較を行うことができ、合理的であり、公平・公正の原則にも反しないと裁判所は判示している。 ③ グループ化する場合の公正な第三者機関による通常の利益率の確認の必要性 納税者は、法人又は事業者をグループ化して比較対象取引とする場合には、当該グループ化が恣意的か否かの判断や当該グループ化を行っても「通常の利益率」について問題ないと認めることができるか否かの判断を課税庁と異なる公正中立な第三者機関が行う必要があるが、そのような第三者機関は存在しないから、複数の法人又は事業者をグループ化することをできない旨主張する。しかし、このような必要があるとする理由は明らかでなく、そのように解すべき根拠もないと裁判所は判示している。 ④ 圧着端子類とコネクタ類は別物であるとする主張について 納税者は、圧着端子類とコネクタ類とは、性状、構造、機能等の面からみると差異があるため、利益率が定性的に異なっているし、圧着端子類については、台湾グループ企業との取引数量とB社及びC社との取引数量とでは25.7倍から140.2倍もの開きがあり、比較対象とはなり得ないから、圧着端子類とコネクタ類とを一括りにして、これを本件国外取引と比較することは相当でないと主張する。 しかしながら、租税特別措置法施行令39条の12第7項所定の「同種又は類似の棚卸資産」は「国外関連取引に係る棚卸資産と性状、構造、機能等の面において同種又は類似である棚卸資産」と解されるところ(租税特別措置法関係通達66の4(2)-(2)(当時))、端子及びコネクタはともに電気機械、電気器具の電流の出入口や他の電気器具につなぐ箇所を接続するための製品であり、圧着端子類及びコネクタ類に属する納税者の製品は、性状、構造、機能等の面からみて「同種又は類似の棚卸資産」に該当することは明らかであると裁判所は判示している。 また、納税者とB社及びC社との取引は、製品群の区分に関係なく行われているものであるし、納税者と台湾法人グループとの取引も、本件販売代理店契約によれば、取扱商品を「裸圧着端子及びその他電子コネクタ製品」とし、台湾法人グループ各社が購入すべき最低購入数量もこのような製品合計額について定められたものであることに照らすと、取引規模の比較は、圧着端子類及びコネクタ類の取引全体で行うべきものであるとし、「圧着端子類」の取引数量のみ取り上げることは、租税特別措置法施行令39条の12第7項の「同種又は類似の棚卸資産」と規定した趣旨に沿わないものであって、相当でないと裁判所は判示している。 ⑤ 結論 以上のとおり、台湾に所在する非関連者各社をグループ化し、圧着端子類・コネクタ類を一括りにして比較対象取引とすることは相当でない旨の納税者の主張は、採用できないと裁判所は判示している。 ((その2)へ続く)

#No. 574(掲載号)
#青木 幹
2024/06/20

〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第3回】「温室効果ガスの排出量はどのように算定するの?」

〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第3回】 「温室効果ガスの排出量はどのように算定するの?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔PNパッケージ社の登場人物〕 *  *  * 温室効果ガス排出量の算定をする前提として、温室効果ガスによって地球が温まるしくみを知っておきましょう。 地球の表面は太陽からの光によって温められ、温められた地表からは宇宙空間に向かって赤外線が放出されます。 地球の大気には、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが少し含まれています。温室効果ガスは、赤外線を吸収し、再び放出する性質を持ちます。この性質によって、地表から宇宙空間に向かう赤外線の多くが熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってくるのです。この戻ってきた赤外線が、地球の表面付近の大気を温めています。 地球が適温に保たれ、私たちが暮らせるのは、温室効果ガスのほどよい効果によるものです。地球のすぐ内側を回る金星の表面温度は、なんと約460℃(※1)。金星には厚い大気があり、その主成分は二酸化炭素であるため、温室効果が非常に強く働いていると言われています。 (※1) JAXA「あかつき特設サイト/金星の概要」 私たちの活動に伴い排出される温室効果ガスにより、地球でも温暖化が加速しているため、温室効果ガス排出量の削減が求められているのです。 *  *  * *  *  * 企業が温室効果ガス排出量を削減するためには、自社に関連した経済活動から生じる温室効果ガス排出量を算定・把握することが不可欠となります。温室効果ガス排出量を算定するしくみが、「炭素会計(カーボン・アカウンティング)」です。 経理部で扱う財務会計は、経済活動を「金額」という単位で表現するものです。一方、炭素会計は、経済活動によって生じる温室効果ガスを「二酸化炭素の重量」という単位で表現します。 *  *  * *  *  * 温室効果ガスの代表は二酸化炭素(CO2)ですが、ほかにも次のような温室効果ガスがあります(※2)。 (※2) 全国地球温暖化防止活動推進センター「温室効果ガスの特徴」 二酸化炭素と同じように温室効果を持つこれらのガスは、それぞれ温室効果の大きさが異なります。そこで、二酸化炭素に換算して統一的に表す方法がとられます。 二酸化炭素を基準にした場合に、ほかの温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力を持つかを表す数値を「地球温暖化係数」と呼び、この係数を用いることで二酸化炭素相当量に換算が可能です。そこで、「二酸化炭素換算(CO2 equivalent)」の意味で、単位として「CO2e」「CO2eq」と表記されることもあります。 *  *  * (※3) 環境省「算定・報告・公表制度における算定⽅法・排出係数⼀覧」(2023年12月12日更新)における地球温暖化係数を利用。 *  *  * GHGプロトコルは、温室効果ガス(GHG)排出量の算定・報告のルールを開発し、利用促進を図るイニシアチブです(※4)。開発されたルールそのものもGHGプロトコルと呼ばれています。GHGプロトコルは、温室効果ガス排出量の算定・報告に関する国際的なデファクト・スタンダード(事実上の標準)になっています。 (※4) 1998年にWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議:World Business Council for Sustainable Development)とWRI(世界資源研究所:World Resources Institute)により共同設立。 環境省及び経済産業省は、GHGプロトコル「Scope3基準」等と整合する国内向けのガイドラインを公表しているので(※5)、実際の算定作業の際にはこれを参照するとよいでしょう。 (※5) 環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」 *  *  * *  *  * GHGプロトコルでは、「サプライチェーン排出量」という考え方がとられています。サプライチェーン排出量は、事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量です。 *  *  * *  *  * 財務会計は、自社や自社グループの財政状態・経営成績などを適正に表示することを主な目的としています。 一方、温室効果ガス排出量を算定する大局的な目的は、社会全体での排出量を削減することにあります。自社だけの排出量を削減すればそれでよいというわけではないため、ビジネスの流れ全体から発生する排出量を広い範囲で算定するしくみが示されているのです。このしくみによって、排出量の実質的な削減が促されることにつながると考えられます。 サプライチェーン排出量は、排出源などに基づき、「Scope1」・「Scope2」・「Scope3」の3つに区分けされます。 Scope1は、燃料の使用や製品の製造などを通じて、自社が「直接」排出する温室効果ガスを指します。Scope2は、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、自社が「間接的に」排出する温室効果ガスです。 一方、Scope1・Scope2以外の間接排出は、Scope3に該当します。 *  *  * *  *  * Q 温室効果ガスの排出量はどのように算定するの? A 自社の事業活動に関連して生じる温室効果ガス排出量の算定には、単位として二酸化炭素の重量を用います。 温室効果ガス排出量の算定・報告に関する具体的なしくみとしては、事実上の国際標準であるGHGプロトコルが広く利用されています。温室効果ガスのサプライチェーン排出量は、Scope1・Scope2・Scope3に区分けして算定します。 (了)

#No. 574(掲載号)
#石王丸 香菜子
2024/06/20

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第54回】「対象不動産の確定後に実施する様々な役所調査」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第54回】 「対象不動産の確定後に実施する様々な役所調査」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 前回は、対象不動産の「確定」と「確認」の意義について述べましたが、今回は、対象不動産を確定した後に不動産鑑定士が実施する様々な役所調査について、その概要を述べていきます。 役所調査は不動産の価格(賃料)を求める上で欠かすことのできないものであり、その主な目的は、行政上の様々な規制(秩序的な街づくりを行うための土地利用規制や建築規制等)が対象不動産の価格(賃料)に与える影響度を把握することにあります。 調査の対象は、対象不動産が都市計画法や建築基準法等の規制をどのように受けるのかという点から始まり、土壌汚染対策法や文化財保護法による規制等まで及びます。それだけでなく、自治体の条例により都市計画法や建築基準法の規制が一部緩和(あるいは強化)されたり、自治体独自の利用規制が設けられたりしているケースもあります。 不動産鑑定士が鑑定評価額を求める前に実施しているこのような調査のイメージは、鑑定評価の依頼者(又は鑑定評価書の読み手)にはなかなか伝わってきません。役所調査は鑑定評価の背後に潜んでいる地道な作業ですが、鑑定評価の基本中の基本であり、すべての原点ともいうべきものです。   2 役所調査の概要 以下、対象不動産の確定に必要な資料(登記事項証明書、公図、建物図面等)の収集は終了しているという前提で解説を進めます。 その後に実施する役所調査ですが、具体的には以下の項目に区分されます。 それぞれのイメージを要約すれば以下のとおりです。   3 市区町村役場での土地利用規制に係る調査 (1) 都市計画区域、用途地域等 最初に、対象不動産が都市計画区域内にあるか(都市部の土地はほとんどがこの区域内にあります)、都市計画区域内にある場合には市街化区域内か(都市部にあればその多くはこの区域内にあります)、市街化調整区域内か、そのどちらにも属さない区域(いわゆる非線引都市計画区域)内にあるかを確認します。 次に、対象不動産が市街化区域内に所在する場合、その場所がどのような用途地域に指定されているかを確認します(例えば、その場所が第1種低層住居専用地域に指定されていれば、そこで建築が認められる建物は戸建住宅が主体となります。また、第1種中高層住居専用地域に指定されていれば中高層の共同住宅(マンション)が主体となります)。 用途地域にはこれらのほか、第2種低層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域、田園住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域、工業専用地域があり(全部で13種類)、街づくりの観点から用途地域ごとに建築可能な建物の用途が規制されています。 このほかにも、特別用途地区、高度地区、高度利用地区、地区計画等の指定の有無も調査しますが、詳細は割愛させていただきます。 (2) 建蔽率、容積率 建蔽ぺい率とは、建築物の建築面積(大まかには1階部分の床面積)の敷地面積に対する割合を指し、容積率とは建築物の延べ面積(各階の床面積の合計)の敷地面積に対する割合を指します。 これらの割合は都市計画において用途地域ごとに指定されており、特に第1種中高層住居専用地域のようにマンションが多く立ち並ぶ地域や商業地域等では、容積率のいかんは建築可能な床面積の大小に影響を及ぼし、結果として土地価格の水準にも影響を及ぼすため、特に重要となります。 それだけでなく、前面道路の幅員のいかんにより、実際に使用可能な容積率の方が都市計画で指定された容積率よりも少なくなるケースがあるため、(後掲のとおり)道路に関する調査も不可欠とされてきます(道路幅員と容積率の関係は【第27回】で詳細な解説を行っているため割愛させていただきます)。 (3) 防火地域又は準防火地域の指定の有無 これらは都市計画で指定されますが、指定されている場合には建築基準法の規定により、(階数や規模等により)建築物の構造を耐火建築物等の延焼防止の性能を有するものとしなければならない等の制限が課されます。 (4) その他 対象地の用途(利用状況)に応じて、農地法や森林法による規制、自然公園法による規制、土地区画整理法による規制、いわゆる土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域(土砂災害特別警戒区域)の指定の有無、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律に基づく急傾斜地崩壊危険区域の指定の有無、河川法による規制、港湾法による規制、宅地造成及び特定盛土等規制法等も調査対象となってきます。 また、都道府県(政令指定都市)ごとに定められている建築安全条例や宅地開発指導要綱等の確認も必要となります。   4 対象不動産が接している道路の幅員や性格に関する調査 都市計画区域内の建築物の敷地は道路(原則:幅員4m以上)に2m以上接していなければならないとされ、この場合の道路とは建築基準法における一定の要件を満たすことが必要となります(その詳細も【第27回】で述べたため、ここでは割愛させていただきます)。   5 対象地が土壌汚染対策法に基づく区域指定を受けているか否かの調査 土壌汚染対策法に基づいて指定される区域には、「要措置区域」と「形質変更時要届出区域」とがあり、不動産鑑定士は都道府県の環境関係の窓口で指定の有無を確認しています。 なお、「要措置区域」とは、土壌汚染調査の結果、(ア)当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合せず、(イ)人の健康に係る被害が生じる等のおそれがある土地を対象として指定されるものです(この区域では土地の形質変更が禁止されます)。 また、「形質変更時要届出区域」は、上記(ア)に該当するが、(イ)には該当しない土地を対象として指定されます(この区域では、土地の形質変更に当たっては事前に(=14日前までに)都道府県知事に届出が必要となります)。   6 対象地が埋蔵文化財包蔵地の指定を受けているか否かの調査 文化財保護法では、埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地を「周知の埋蔵文化財包蔵地」と呼んでいますが、対象地がこれに指定されており、そこで土木工事等を行う場合、事前に(=60日前までに)文化庁長官に発掘届を提出しなければならないこととされています。そして、土地所有者(開発事業者)から発掘届が提出された場合、試掘や確認調査が行われますが、その結果、地中に遺構や遺物ありと判定されれば教育委員会との間で埋蔵文化財の保存についての協議が行われることとなります。 これらをはじめ、埋蔵文化財包蔵地の指定を受けている土地については利用上の制約を受けるケースがあるため、その指定の有無は欠かせない調査事項です。   7 その他 以上述べた項目のほかに、対象建物内にPCB(=ポリ塩化ビフェニル)廃棄物が保管されているか否かの調査も都道府県の環境関係の窓口にて行っています。 PCB廃棄物を保管する事業者は、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(略称:PCB特別措置法)に基づき、その保管状況について都道府県知事に届出が必要とされており、都道府県の窓口では届出がなされているものについて台帳を作成していることから、不動産鑑定士はこれを閲覧の上、確認を行っています。   8 まとめ 冒頭に述べたように、不動産鑑定士が相応の時間を費やして事前に役所調査を行っているということは依頼者の目に届かないものです。しかし、この段階で誤りがあった場合、それが鑑定評価額の誤りに直結する危険性が大きく潜んでいるため、調査には細心の注意を払っていることはいうまでもありません。 (了)

#No. 574(掲載号)
#黒沢 泰
2024/06/20

《税理士のための》登記情報分析術 【第13回】「登記事項等に関する改正」~法人識別事項の登記事項化~

《税理士のための》 登記情報分析術 【第13回】 「登記事項等に関する改正」 ~法人識別事項の登記事項化~   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   本連載【第12回】でも解説をしたが、いわゆる所有者不明土地問題や空き家問題に対応するために行われた民法等の一部改正により、不動産登記法等も改正され、令和6年4月1日から新しい登記事項が加わるなどの改正が行われた。今回は改正内容のうち、「法人識別事項の登記事項化」について解説を行う。   1 法人識別事項の登記事項化の意義 法人が所有権を取得する登記等を行う場合に、以下の「法人識別事項」が登記事項とされた(不動産登記法73条の2)。 ※なお、所有権の登記名義人が、国や地方公共団体又は相続財産法人である場合には、法人識別事項の登記を要しないものとされている。 所有者不明土地問題や空き家問題に対応するためには、問題となっている土地や建物の所有者に対して連絡が取れる状態にすることが必要である。 会社法人等番号が登記されていれば、商号が同一あるいは類似している法人が多数存在する場合でも、所有者である会社等を特定することができる。また、会社法人等番号を有しない外国法人等であっても、設立準拠法国や設立根拠法が分かれば、詳しく調査を行ったり、対応に必要となる手続について手がかりを掴んだりできるようになるなどの効果がある。 【会社法人等番号が登記された場合の登記記録例】 【設立準拠法国が登記された場合の登記記録例】 【設立根拠法が登記された場合の登記記録例】   2 法人識別事項の申出制度 令和6年4月1日以降に所有権を取得する登記や、商号や本店の所在場所の変更登記をする法人については、会社法人等番号等の法人識別事項を登記することとされている。 令和6年4月1日時点において、すでに不動産の所有権を取得している法人については、別途「法人識別事項の申出」制度が設けられており、法務局に対して法人識別事項の申出を行うことができる。申出にあたって登録免許税は非課税となる。 令和8年4月1日以降、会社法人等番号を持つ法人については、所有する不動産の登記記録に会社法人等番号が記録されていれば、会社の商号や本店の所在場所の変更登記を行った場合、登記官が職権で所有する不動産の商号や本店の所在場所の変更登記を行ってくれることも想定されており、申出を行うメリットがあるといえる。 (了)

#No. 574(掲載号)
#北詰 健太郎
2024/06/20

《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第13回】「どんなとき役立つ? 生命保険の2つの役割」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第13回】 「どんなとき役立つ? 生命保険の2つの役割」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇保険に加入する意味 生命保険文化センターの2022年度「生活保障に関する調査」によると、日本人の約8割は生命保険に加入しているということです。この8割という数字は30歳代以降ずっと変わらず、70歳代以降においても、男性で72.5%、女性で78.8%と高い数字が維持されています。 よく日本人は保険好きと言われますが、そもそも保険とはなんのために加入するのでしょうか。おそらく多くの方は、口をそろえて「リスクに備えるためだよ」とおっしゃるでしょう。しかし、保険で備えるべきリスクとは、一体なんなのでしょうか。 保険会社のCMなどでは、「今は2人に1人ががんになる時代」といった言葉を聞くことがあります。「だから、がん保険で備えましょう」ということですが、保険に加入したからといって、がんにならないというわけではありません。「保険はお守り」などと言う方もいますが、保険で健康は守られません。 では、保険は実際にはどのような場面で役に立つのでしょうか。生命保険には、主に2つの役割があります。   〇経済的損失をカバーできる 生命保険の1つ目の役割は、経済的な損失をカバーすることです。例えば、がんの治療のために、しばらく会社を休職するとしましょう。多くの場合給与の支払いはなくなりますが、その代わり健康保険から傷病手当金が給付されます。金額は給与の3分の2で、最長1年半働けない期間をサポートします。 傷病手当金はありがたい制度ですが、それでも収入は減少します。そのうえで、医療費は高額療養費制度によって自己負担上限額があるとはいえ、一定額までの支払いが発生します。 つまり、病気になっても家族にはできるだけ普段通りの生活をさせてあげたいと思えば、収入の減額と支出の増額における経済的な損失を、保険で合理的にカバーする必要があります。これが保険の役割です。 「年を取ると病気になるリスクが高まりますよね」といって高齢者に保険を勧めるというのも、実は保険の役割から考えると合理的ではありません。なぜなら、年金生活者が病気になっても年金額は減額されませんし、医療費の自己負担割合も低いですから、支出が大幅に増えることもありません。つまり、経済的損失が小さいので、保険の必要性は低いのです。 経済的損失で考えると、子どもが小さい時に家計を支える親が亡くなるリスクはとても大きいと言えます。したがって、生命保険は万が一の時に遺族が安心して暮らせるように、大きな保険金額で契約するのが一般的です。 一方、子どもが成人し経済的に支える必要がなくなった場合、もはや生命保険の役割は終わったと言えるので、生命保険を解約する方も多いです。   〇相続対策に活用できる 生命保険の2つ目の役割は、相続対策です。生命保険を活用すれば、相続税を圧縮することや、指定した人に確実に財産を渡すことができます。 相続税には基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)がありますが、生命保険金については、基礎控除とは別に、一定額が非課税とされています。生命保険金の非課税限度額は、「500万円 × 法定相続人の数」という計算式で求めます。 生命保険金の非課税枠をうまく活用することで、相続税の負担を軽減することができます。以下の具体例で確認してみましょう。 〈相続税のかかる財産が1億円で、法定相続人が3人のケース〉 (※) 分かりやすくするため、数値を単純化しています。 当然ながら、課税対象が5,200万円になるのか、3,700万になるのかの違いは大きく、相続対策として保険は有効であることがご理解いただけると思います。 また、生命保険の保険金は、予め受取人を指定することができますから、被保険者死亡時には、その指定受取人に保険金が支払われます。これは受取人の固有の財産となりますので、スムーズにお金を渡せるというメリットがあります。 *  *  * 保険は身近な金融商品であり、経済的損失をカバーするという機能においては非常に優れた仕組みです。しかし、身近な存在だからこそ、その役割を理解せず、なんでもかんでも保険で対処しようという風潮があるのは否めません。ぜひ正しい知識を身に付け、保険を効果的に活用しましょう。 (了)

#No. 574(掲載号)
#山中 伸枝
2024/06/20

《速報解説》 「グループ監査における特別な考慮事項」の公表に伴い、会計士協会が「監査ツール(実務ガイダンス)」を見直す改正

《速報解説》 「グループ監査における特別な考慮事項」の公表に伴い、 会計士協会が「監査ツール(実務ガイダンス)」を見直す改正   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年6月13日付けで(ホームページ掲載日は2024年6月17日)、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」を公表した。 これにより、2024年3月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 これは、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 「《3.グループ監査における特別な考慮事項》」について、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」を受けた記載に改正されている。 次の様式についても大きく変更されている。 (了)

#阿部 光成
2024/06/18

《速報解説》 金融庁、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表~GM課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱いを受けて規定~

《速報解説》 金融庁、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表 ~GM課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱いを受けて規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年6月14日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を受けたものである。 意見募集期間は2024年7月16日までである。   Ⅱ 主な改正内容 財務諸表等規則について次のように改正する(連結財務諸表規則も基本的に同様に改正する)。 財務諸表等規則ガイドライン及び連結財務諸表規則ガイドラインも改正する。   Ⅲ 施行日等 公布の日から施行する予定である(経過措置に注意)。 (了)

#阿部 光成
2024/06/18

《速報解説》 国税庁、令和6年分の予定納税減額申請書に関し、定額減税の追加のみを理由とする申請書の簡易的な記載方法を示す

 《速報解説》 国税庁、令和6年分の予定納税減額申請書に関し、 定額減税の追加のみを理由とする申請書の簡易的な記載方法を示す   Profession Journal 編集部   国税庁は6月11日に「令和6年分所得税及び復興特別所得税の予定納税額の7月(11月)減額申請書」及び「令和6年分所得税の予定納税における定額減税の取扱いについて」を公表した。 予定納税の対象となる事業所得者や不動産所得者等の個人事業主(予定納税基準額15万円以上)は、既報のとおり定額減税によって、令和6年分の予定納税額は、第1期分から本人分の定額減税の控除額(3万円)が差し引かれる。 また、同一生計配偶者や扶養親族1人につき3万円の定額減税の控除額を予定納税額から差し引く場合は、所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続を行う必要がある(令和6年分の合計所得金額の見積額が1,805万円以下の居住者に限る)。 この際、定額減税の追加のみを理由とする減額申請については、簡易的な記載が認められており、今回公表された国税庁リーフレット「令和6年分所得税の予定納税における定額減税の取扱いについて」では、簡易的な記載方法とした減額申請書の記載例が下記のとおり示されている。 (※) 国税庁ホームページ「令和6年分所得税の予定納税における定額減税の取扱いについて」から抜粋 なお、7月の減額申請については、基準日を令和6年6月30日とし、申請書の提出期間は同年7月1日(月)から7月31日(水)まで、11月の減額申請については、基準日を令和6年10月31日とし、申請書の提出期間は同年11月1日(金)から11月15日(金)とされている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2024/06/17

《速報解説》 令和6年能登半島地震に係る国税の申告・納付等の延長期限は一部地域を除き、令和6年7月31日

 《速報解説》 令和6年能登半島地震に係る国税の申告・納付等の延長期限は 一部地域を除き、令和6年7月31日   Profession Journal編集部   既報のとおり、国税庁は、令和6年能登半島地震の発生を受け、石川県及び富山県に納税地のある個人・法人を対象とした令和6年1月1日以降に到来する国税の申告・納付等の期限を延長する措置を公表していた。 具体的な延長期限については被災者の状況に十分配慮しつつ検討するとしていたところ、本日付の官報(令和6年6月14日(本紙第1243号))にて次に掲げる地域(指定地域のうち石川県七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋郡志賀町、鳳珠郡穴水町及び鳳珠郡能登町を除いた地域)に納税地がある個人・法人については、令和6年7月31日を期限とする旨が告示された。 ただし、令和6年能登半島地震の影響により期日までに申告・納付等ができない場合には、所轄税務署長に申請して承認を受けることにより、引き続き期限延長措置を受けることは可能とされ、また、申告は可能であっても、令和6年能登半島地震により財産に相当な損失を受けた場合や、国税を一時に納付することが困難な場合、所轄税務署長に申請することにより、原則として1年以内の範囲で、納税の猶予を受けることができるとされている。 なお、上記のとおり今回対象とならなかった地域(石川県七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋郡志賀町、鳳珠郡穴水町又は鳳珠郡能登町)に納税地がある個人・法人の申告・納付等の延長期限は、今後、被災者の状況にも十分配慮して検討するとしている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2024/06/14
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